- 1 -平成18年10月4日判決言渡平成16年(ワ)第24927号損害賠償請求事件判決主文 被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,5203万1559円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告(昭和18年2月21日生)が,爪の疾患により被告が管理・運営するA病院の皮膚科を受診し,平成15年12月12日から抗生剤であるミノマイシンの投与を受けていたが,その後呼吸困難を訴えて,平成16年2月10日,A病院の内科に入院したところ,担当医師が,原告に対し,ミノマイシンの投与を中止せずにかえって増量投与したことにより,原告が薬剤性間質性肺炎を原因とする呼吸器機能障害等の後遺障害を負ったと主張して,被告に対し,診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき,損害賠償及びこれに対する平成16年3月1日(A病院の退院日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 - 2 - 前提となる事実(証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いがない)。 (1)当事者ア原告は,本件に関し,平成15年10月17日から平成16年3月1日までの間,A病院に入通院して診療を受けていた者である。 イ被告は,A病院を管理・運営する共済組合である。 (2)A病院における診療経過原告のA病院における診療経過は,別紙診療経過一覧表(略)記載のとおりである(同 通院して診療を受けていた者である。 イ被告は,A病院を管理・運営する共済組合である。 (2)A病院における診療経過原告のA病院における診療経過は,別紙診療経過一覧表(略)記載のとおりである(同一覧表中の証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いがない。 。)後に摘示する当事者の主張に関係する限りにおいてその大要を摘示すると,次のとおりである。 原告は,平成15年10月17日,爪の疾患によりA病院の皮膚科を受診し,同年12月12日からミノマイシン(商品名。一般名は塩酸ミノサイクリン)の投与を受けていた。その後,原告は,呼吸困難を訴えて平成16年2月3日及び9日,A病院の内科(呼吸器内科)を受診し,翌10日,同科に入院した。 担当医師であるB医師は,同日から同月16日までの間,原告に対し,皮膚科で処方されていたミノマイシンを1日50mgから200mg(100mg×2回)に増量して,合計13回(1300mg)点滴投与した。 原告は,同年3月1日,医師である子Cが当時勤務していたD病院に転院したいとして,A病院を退院した。 原告は,上記A病院における診療経過において,ミノマイシンによる薬剤性間質性肺炎に罹患した。 (3)その後の経過原告は,平成16年3月2日,上記D病院を受診し,その紹介で,勤務先に近いE病院で診療を受けることにして,翌3日からE病院において薬剤性間質性肺炎の診療を受けるようになった(甲A5ないし7,証人C。 )- 3 - 争点 本件の主たる争点は,次の2点である。 (1)ミノマイシンの投与に関する過失の有無(争点1)(2)損害の有無及びその額(争点2) 争点に関する当事者の主張(1)争点1(ミノマイシンの投与に関する過失の有無)について(原告の主張)以下の点にかんがみれば,担当医師であるB医師には,平成16 損害の有無及びその額(争点2) 争点に関する当事者の主張(1)争点1(ミノマイシンの投与に関する過失の有無)について(原告の主張)以下の点にかんがみれば,担当医師であるB医師には,平成16年2月10日(A病院入院日)以降,原告に対し,ミノマイシンの投与を中止すべき注意義務があったにもかかわらず,これを中止せずにかえって増量して投与し続けた点において,過失がある。 アミノマイシンの副作用の内容ミノマイシンの添付文書には,重大な副作用として「呼吸困難,間質性肺炎,PIE症候群(好酸球増加を伴う肺疾患」及び「重篤な肝機能障)害」が挙げられており「発熱,咳嗽,労作時息切れ,呼吸困難等の異常,が認められた場合には速やかに胸部X線検査等を実施し,間質性肺炎,PIE症候群が疑われる場合には投与を中止し,副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと」と記載されている。この副作用は,有名かつ常識的なものであり,文献や成書にも多数報告されているものである。 イ原告の症状等B医師は,平成16年2月9日の時点で,原告がA病院の皮膚科から,長期間ミノマイシンの処方を受けていることを認識していた。 そして,原告には,その副作用と符合する症状が出現していた。すなわち,同年2月3日に撮影された胸部レントゲン画像上,スリガラス陰影が見られ,同日の血液検査データ上も顕著な肝機能障害を示す所見が認められ(ALP897,GOT112,GPT107,γ-GTP298,)- 4 -同月9日に撮影された胸部CT画像では中・下肺野にスリガラス状の陰影が認められていた。さらに,翌10日には,長引く咳嗽のほか,肝機能障害の悪化(ALP971,GOT57,GPT66)が認められた。 ウ被告の主張に対する反論被告は,マイコプラズマ肺炎を疑っていた旨主張する。 し た。さらに,翌10日には,長引く咳嗽のほか,肝機能障害の悪化(ALP971,GOT57,GPT66)が認められた。 ウ被告の主張に対する反論被告は,マイコプラズマ肺炎を疑っていた旨主張する。 しかしながら,マイコプラズマ肺炎の好発年齢は10ないし30歳代とされるところ,原告は当時60歳である上,それまで皮膚科でミノマイシンの長期投与を受けていたことをも考え併せると,マイコプラズマ肺炎を発症している可能性は低かった。また,薬剤性肺炎もマイコプラズマ肺炎も,画像所見は多彩であることから,それだけで薬剤性肺炎を否定し,マイコプラズマ肺炎の確定診断をすることはできない。さらに,平成16年2月10日,原告に対して実施されたマイコプラズマ抗体検査(翌11日結果報告)の結果は陰性であり,少なくとも同月11日以後,マイコプラズマ肺炎を疑うことには理由がない。 なお,マイコプラズマ肺炎に対する抗生剤としては,ミノマイシン以外にもクラリスロマイシン,アジスロマイシン等の有効かつ副作用の可能性がないものがいくらでもあるのであるから,あえてミノマイシンを使用する必要はなかった。 (被告の主張)以下の点からすれば,B医師が,平成16年2月10日,原告に対し,ミノマイシンを増量して投与したことに過失はない。 アマイコプラズマ肺炎が疑われたことB医師は,以下の点にかんがみ,原告がマイコプラズマ肺炎に罹患していることを疑い,これに対して有効であるミノマイシンを投与した。 すなわち,平成16年2月9日撮影の胸部CT画像では,経気道的に肺門から放射状に広がるスリガラス陰影が認められるところ,これは呼吸不- 5 -全に進展する重症マイコプラズマ肺炎の特徴的な画像である。また,原告には入院時に長引く咳嗽があったこと,同月3日撮影の胸部レントゲン画像上スリガラス陰影が 認められるところ,これは呼吸不- 5 -全に進展する重症マイコプラズマ肺炎の特徴的な画像である。また,原告には入院時に長引く咳嗽があったこと,同月3日撮影の胸部レントゲン画像上スリガラス陰影が認められたこと,同日及び同月10日の血液検査データ上肝機能障害が認められたこと(GOT及びGPT等の上昇)並びに同月10日の血液検査データ上白血球増多が認められないことは,いずれもマイコプラズマ肺炎を疑わせる所見である。そして,マイコプラズマ肺炎は,非細菌性肺炎の中でも最も頻度が高いとされるから,これを疑うことは合理的である。 なお,原告は,同日実施されたマイコプラズマ抗体検査(翌11日結果報告)が陰性であったことから,少なくとも同月11日以後マイコプラズマ肺炎を疑うことには理由がない旨主張する。しかしながら,B医師は,同月13日の回診時に上記検査報告書を見た記憶がない(同報告書がA病院の病棟に到着したのは同月12日午後以降であったと推測されるが,B医師がこれを上記回診時に見なかった理由は不明である。仮に,。)B医師が,同月13日の回診時に,マイコプラズマ抗体検査の結果が陰性であることを認識していれば,ミノマイシンの投与を中止した可能性は否定できない。しかし,上記のとおり,原告についてはミノマイシンによる薬剤性肺炎を疑うべき要素がなく,同月16日にはその投与を中止しているのであるから,B医師が上記抗体検査の結果を見落としたとしても過失を構成するものではない。 イ抗生剤の早期点滴投与が不可欠であること肺炎は,日本における死因の第4位を占める致死率の高い疾患であるから,致死性の肺炎への移行を防ぐため,早期に抗生剤を投与(入院管理下で静脈に点滴投与)することが不可欠である。現に,原告は,A病院入院時,既に労作時の呼吸困難を訴えており,急激 率の高い疾患であるから,致死性の肺炎への移行を防ぐため,早期に抗生剤を投与(入院管理下で静脈に点滴投与)することが不可欠である。現に,原告は,A病院入院時,既に労作時の呼吸困難を訴えており,急激な呼吸不全への進展が懸念された。したがって,入院管理下におけるミノマイシンの点滴投与が妥当- 6 -と考えられたものである。 原告は,マイコプラズマ肺炎に対しては,他に有効な抗生剤が存在するから,あえてミノマイシンを使用する必要はなかった旨主張する。しかしながら,クラリスロマイシンやアジスロマイシンは経口薬であって点滴製剤はなく,点滴治療を行うためにはミノマイシンによることが妥当であった(ミノマイシンは,点滴治療薬として推奨されており,原告の爪の疾患に対しても有効であった。 。)ウミノマイシンによる副作用は考えにくかったこと肝機能障害や間質性肺炎の発症は,他の抗生剤の添付文書でも記載されており,ミノマイシンに特異的な副作用ではないから,このような症状が見られたとしてもミノマイシンによる薬剤性肺炎を積極的に疑うことはできない。 また,ミノマイシンによる薬剤性肺炎の場合は,通常,慢性好酸球性肺炎のパターンを呈するが,平成16年2月9日撮影の胸部CT画像はこれとは異なり,検査データ上も末梢血好酸球増多がなかった。 このような事実のほか,ミノマイシンによる薬剤性肺炎の発症頻度は不明であることも考え併せると,ミノマイシンによる副作用を積極的に疑うべき画像所見等が得られない限り,これを疑うことはできなかったというべきである。 (2)争点2(損害の有無及びその額)について(原告の主張)ア逸失利益3330万1418円原告は,5分間の平地歩行で息切れがする状態となっており,身体障害者(呼吸器機能障害)4級に該当する見込みである。また,特発性間 びその額)について(原告の主張)ア逸失利益3330万1418円原告は,5分間の平地歩行で息切れがする状態となっており,身体障害者(呼吸器機能障害)4級に該当する見込みである。また,特発性間質性肺炎の5年後の生存率が30ないし80%とされていることからすれば,原告の後遺障害は「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,特に軽易な,- 7 -労務以外の労務に服することができない」ものとして,後遺障害等級5級に該当する。 原告は,本件訴訟提起時61歳であったことから,基礎収入を545万9121円(平成15年の賃金センサスの大卒者の60歳から64歳の賃金720万7900円の一部であり,平成14年及び平成15年の原告の年収の平均と同額,労働能力喪失率を79%,就労可能年数を10年)(平均余命の2分の1)として,上記後遺障害に伴う逸失利益の現価をライプニッツ方式(その係数は7.7217)により算定すると,次のとおり,3330万1418円となる。 545万9121円×0.79×7.7217=3330万1418円イ慰謝料1400万円以下の事情を考慮すれば,A病院のB医師の過失により約1か月の入院とその後の通院を余儀なくされたことに伴う入通院慰謝料として100万円,上記後遺障害に伴う慰謝料として1300万円をもって相当とする。 すなわち,原告は,A病院の皮膚科で,ミノマイシンを長期間にわたって漫然と投与されたことによって,薬剤性間質性肺炎を惹起されたのみならず,内科入院後も,B医師からミノマイシンを増量投与され,また,ステロイドパルス療法を実施すべきであるとの意向を無視されるなどした結果,上記のとおりの後遺障害を残された。また,A病院の医師は,その後も,呼吸不全に陥っている原告に外出(単身での京都への出張)を認めたほか,薬剤性間質性肺炎 べきであるとの意向を無視されるなどした結果,上記のとおりの後遺障害を残された。また,A病院の医師は,その後も,呼吸不全に陥っている原告に外出(単身での京都への出張)を認めたほか,薬剤性間質性肺炎であることが明らかであるにもかかわらず,その原因は不明である旨の虚偽の説明を行うなど,その診療は極めて悪質である。 ウ弁護士費用473万0141円エなお,原告は,現在,うつ病を発症し,平成17年10月24日以降,F病院で治療を受けている。これは,上記A病院のB医師の過失により増- 8 -悪した薬剤性間質性肺炎に対し,ステロイド剤(プレドニゾロン)の長期投与を余儀なくされたことによるものである(ステロイド剤の副作用として「精神変調,うつ状態」が挙げられている。 。)そこで,原告は,うつ病の発症による精神的負担から労働意欲を失い,現在も就労できない状態にあることをも考慮して,上記各損害額を主張するものである。 (被告の主張)ア後遺障害の有無について以下の事実などからすれば,現在,原告に明確な肺機能障害があるとは考えられない。すなわち,E病院の外来カルテ(甲A7)によれば,原告の肺は平成16年12月の時点で陰影が左上葉,左下葉S6を中心にわずかに見られる程度にまで改善していること,同月2日の肺呼吸機能検査はいずれも正常値であること,同月9日にはHugh-jonesの呼吸困難度分類がⅠ度(同年代の健常者と同様の生活・仕事ができ,階段も健康者並にのぼれる)とされること,原告の主訴の面からしてもそれ以前の。 段階から常に「good「息切れない」となっていることが明らかで」,ある。また,原告は元来ヘビースモーカーであり,これのみでも肺拡散機能が低下することが多く,現に,平成15年12月15日の人間ドックで実施された肺呼吸機能検査の結 」となっていることが明らかで」,ある。また,原告は元来ヘビースモーカーであり,これのみでも肺拡散機能が低下することが多く,現に,平成15年12月15日の人間ドックで実施された肺呼吸機能検査の結果は,上記平成16年12月の数値よりも低かった。 イ慰謝料について原告の肺機能障害が当初から薬剤性のものであると疑われ,治療が開始されたとしても,ある程度の入院加療は必要であったはずであるから,原告の入院期間(平成16年2月10日から3月1日まで)のすべてを慰謝料の対象とすることは相当でない。 ウうつ病について- 9 -原告は,現在,うつ病に罹患している旨主張する。しかしながら,ステロイド剤の投与による精神症状は,これを大量に投与した場合(50ないし60mg以上)に,投与を継続している間見られることがある程度であって,本件の投与量(30mg)で,かつ,投与が終了した後になってうつ病を発症することはあり得ない。 第3争点に対する判断 原告の診療経過前記前提となる事実及び証拠(甲A1ないし12,甲B24,甲C3,乙A1ないし6,証人B及び証人C)によれば,次の事実を認めることができる。 (1)A病院における診療経過原告のA病院における平成15年10月17日から平成16年3月1日までの診療経過の概要は以下のとおりであり,その詳細は別紙診療経過一覧表記載のとおりである。 アA病院入院に至る経緯原告は,平成15年10月17日,爪の疾患によりA病院の皮膚科を受診し,後記イのとおり,同年12月12日から抗生剤であるミノマイシンの投与を受けていた。 原告は,平成16年1月30日,脳梗塞の診療のために通院していたA病院の内科(神経内科)において「かぜをひいた。咳き込んだ後10,分くらい苦しい」旨訴えたところ,医師から「呼吸苦が強い場合には 。 原告は,平成16年1月30日,脳梗塞の診療のために通院していたA病院の内科(神経内科)において「かぜをひいた。咳き込んだ後10,分くらい苦しい」旨訴えたところ,医師から「呼吸苦が強い場合には来。 院するように」との指示を受けた。そこで,原告は,同年2月3日及び。 同月9日,A病院の内科(呼吸器内科)でB医師の診療を受けたところ,同月3日に行われた生化学検査の結果,ALP897IU/L,GOT112IU/L,GPT107IU/L,LDH435IU/L,CRP2. 4mg/dl(以下,これらの検査結果の単位の記載を省略する)とい。 ずれも高値を示し,同月9日に撮影された胸部CT画像上,スリガラス陰- 10 -影が両肺に認められたことから,精査・治療を目的として,同月10日,A病院の内科(呼吸器内科)に入院した。 イ原告に対するミノマイシンの投与A病院の医師らは,平成15年12月12日から平成16年3月1日までの間,原告に対し,以下のとおりミノマイシンを処方又は投与した。 (ア)平成15年12月12日(皮膚科)100mg/日14日分処方(イ)同月26日(皮膚科)100mg/日14日分処方(ウ)平成16年1月9日(皮膚科)50mg/日14日分処方(エ)同月23日(皮膚科)50mg/日14日分処方(オ)同年2月6日(皮膚科)50mg/日14日分処方(カ)同月9日(内科外来)50mg/日2日分処方(キ)同月10日(内科入院時)100mg×1回点滴投与(ク)同月11日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(ケ)同月12日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(コ)同月13日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(サ)同月14日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(シ) 滴投与(ケ)同月12日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(コ)同月13日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(サ)同月14日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(シ)同月15日(内科入院時)100mg×2回点滴投与(ス)同月16日(内科入院時)100mg×2回点滴投与ウA病院入院後の診療経過平成16年2月10日撮影の胸部レントゲン画像上,原告の両側中・下肺野に淡いスリガラス陰影が認められた。同日行われた生化学検査では,ALP971,GOT57,GPT66,LDH322,CRP2.8,一般血液検査では,白血球数6500,血清検査では,寒冷凝集反応(マイコプラズマ肺炎の診断等に用いられる)が4倍希釈(基準値の範囲。 ),内)との結果が出た(いずれも同月12日結果報告。また,同月10日原告に対し,マイコプラズマ抗体検査が行われ,翌11日,基準値の範囲- 11 -内である旨の結果報告がされた。 同月16日撮影の胸部レントゲン画像上,両肺門を中心とした淡い陰影が,同月10日撮影時と比べより増悪・増強していた。同月16日に行われた生化学検査では,ALP1009,GOT47,GPT95,LDH349,CRP1.9,一般血液検査では,白血球数11600との結果が出た。 同月17日,B医師は,同月16日撮影の胸部レントゲン画像上上記のとおり陰影の悪化が認められたことから,薬剤性肺障害を疑い,ミノマイシンの投与を中止するとともに,ミノマイシンに対する血液DLST(薬剤リンパ球刺激試験)を実施した(同月25日,陰性の結果報告。同月)17日に行われた生化学検査では,ALP1014,LDH364,CRP1.9との結果が出た。そこで,原告に対し,ステロイド剤であるプレドニゾロンが,同月20日から同年3月1日 性の結果報告。同月)17日に行われた生化学検査では,ALP1014,LDH364,CRP1.9との結果が出た。そこで,原告に対し,ステロイド剤であるプレドニゾロンが,同月20日から同年3月1日にかけて,同年2月20日30mg(5mg×6錠),21日及び22日各20mg(5mg×4錠),23日ないし25日各10mg(5mg×2錠,26日ないし同)年3月1日各30mg(5mg×6錠)ずつ投与された。 原告は,同年3月1日,医師である子Cが当時勤務していたD病院に転院したいとして,A病院を退院した。なお,退院処方として,プレドニゾロン30mg(5mg×6錠)7日分が処方された。 (2)D病院における診療原告は,平成16年3月2日,上記D病院を受診した。同日撮影された胸部CT画像上は,同年2月23日撮影の胸部CT画像上の所見(びまん性陰影は改善しているように見える部分もあるが,間質影は増強し,肺繊維化が進んでいる)と比べ若干改善していた。 。 薬剤性肺障害等に関する医学的な知見証拠(甲B1,2,4ないし9,11,13ないし17,24ないし26,- 12 -28ないし30,乙A5,乙B1ないし5,7,8,証人B及び証人C)によれば,次の事実を認めることができる。 (1)ミノマイシンの副作用ミノマイシンは,マイコプラズマ肺炎等の治療に有効な抗生剤である。重大な副作用として「呼吸困難,間質性肺炎,PIE症候群」及び「重篤な肝機能障害」が挙げられており,添付文書(平成14年3月版)上「発熱,,咳嗽,労作時息切れ,呼吸困難等の異常が認められた場合には速やかに胸部X線検査等を実施し,間質性肺炎,PIE症候群が疑われる場合には投与を中止し,副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと」と記載されている。 また,平成16年当時,ミノマ 場合には速やかに胸部X線検査等を実施し,間質性肺炎,PIE症候群が疑われる場合には投与を中止し,副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと」と記載されている。 また,平成16年当時,ミノマイシンによって薬剤性肺障害を発症した旨比較的多数の症例報告がされるなど,ミノマイシンが薬剤性肺障害を惹起する薬剤の1つであると一般的に考えられていた。 (2)薬剤性肺障害の症状,これに対する診断等一般に,薬剤性肺障害の臨床症状・検査所見は非特異的であるとされるが,発熱,乾性咳,労作時呼吸困難が認められるほか,白血球増加,CRP上昇,赤沈の亢進,GOT,GPT,LDH,IgE(アレルギー抗体)の上昇が認められることがある。また,呼吸機能検査では,主として拘束性障害(肺活量の低下)及び拡散障害(肺拡散能力の低下)が認められる。聴診上は,捻髪音(finecrackles)が聴かれる。なお,薬剤性肺障害の画像所見は極めて多彩であり,特徴的所見はないとされるが,最も多く見られるものとしては,両側性の斑状又はびまん性浸潤影やスリガラス陰影であるとされる。 薬剤性肺障害の診断は,疑わしい薬剤の再投与試験(チャレンジテスト)を行うことが確実であるが,重症化等の危険があるため必ずしも推奨されていない。そのため,薬剤性肺障害の診断に当たっては,これを疑って鑑別診断の対象に加えることが必要であり,その上で上記臨床症状・検査所見のほ- 13 -か,服薬歴,肺障害の発症時期と薬剤投与時期との時間的関連性,感染症等の他疾患の除外診断等を総合的に考慮して診断される。 薬剤性肺障害の治療としては,原因と考えられる薬剤の投与をできるだけ早く中止することが最も重要であるとされ,どうしても中止できない場合などには化学構造の違う別の薬剤を慎重に投与する。薬剤の投与中止のみで軽 障害の治療としては,原因と考えられる薬剤の投与をできるだけ早く中止することが最も重要であるとされ,どうしても中止できない場合などには化学構造の違う別の薬剤を慎重に投与する。薬剤の投与中止のみで軽快することが多いが,併せてステロイド剤の投与を行うことも一般的である。 ミノマイシンによる薬剤性肺障害の場合の臨床症状,検査所見,診断・治療方法は,上記薬剤性肺障害一般の場合とほぼ同様である。ミノマイシンによる薬剤性肺障害は,投与開始後,おおむね1ないし2週間前後で発症することが多いとされ,その病理組織パターンは好酸球性肺炎のパターンを呈することが比較的多いとされるが,一様ではない。 (3)マイコプラズマ肺炎についてマイコプラズマ肺炎は,マイコプラズマ(Mycoplasmapneumoniae)という微生物がヒトに感染することにより引き起こされる急性の呼吸器疾患であり,しばしば薬剤性肺障害との鑑別が問題となる。 一般的な特徴としては,好発年齢は10ないし30歳代であり,この年齢層でマイコプラズマ肺炎全体の70%程度に達している。臨床症状・検査所見としては,強い咳嗽(乾性,連続性,発熱(38℃以上が多い,頭痛,)。)白血球数が正常又は軽度増加,赤沈亢進,CRP上昇が認められるほか,GOT,GPT,LDHの上昇が約50%,寒冷凝集反応の陽性化が約75%で認められる。胸部画像所見としては,肺門から放射状に広がるスリガラス陰影や網状結節性陰影などのびまん性間質性病変を示すことがあるとされるが,多彩であり,特異的所見はないとされる。 争点1(ミノマイシンの投与に関する過失の有無)について(1)前記前提となる事実(第2の1)並びに上記1及び2で認定した事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,B医師は,平成16年2月9- 14 -日 シンの投与に関する過失の有無)について(1)前記前提となる事実(第2の1)並びに上記1及び2で認定した事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,B医師は,平成16年2月9- 14 -日の時点で,原告が既にA病院の皮膚科からミノマイシン(1日50mg)の処方を受けていることを認識していた(その旨をB医師がカルテに記載し),ている。乙A2。また,ミノマイシンによる薬剤性肺障害は,投与開始後おおむね1ないし2週間前後で発症することが多いとされるところ,原告は,平成15年12月12日からミノマイシンの処方を受け,遅くとも平成16年1月30日には呼吸困難を訴えていたのであって,肺障害の発症時期と薬剤投与時期との時間的関連性があり(上記1(1)及び2(2) ,B医師は容)易にそれを知り得る立場にあった。さらに,原告は,A病院入院時,長引く咳嗽,労作時呼吸困難があったほか,CRP,GOT,GPT,LDHがいずれも高値を示し,同年2月9日に撮影された胸部CT画像上スリガラス陰影が認められ,翌10日に撮影された胸部レントゲン画像上も両側中・下肺野に淡いスリガラス陰影が認められるなど,ミノマイシンによる薬剤性肺障),害の所見に適合する臨床症状・検査所見が認められていた(同前。そしてミノマイシンは,少量経口投与であってもマイコプラズマ肺炎を予防する可能性が示唆されている(乙B8)ところ,原告には,平成15年12月12日以降2か月近くにわたりミノマイシンが投与されていたのであるから,相対的にマイコプラズマ以外の原因による肺炎を疑うべき状況にあった。また,平成16年2月10日に行われたマイコプラズマ抗体検査(翌11日結果報告)及び寒冷凝集反応検査(同月12日結果報告)は,いずれも基準値の範囲内であり,遅くとも同月12日にはマイコプラズマ た。また,平成16年2月10日に行われたマイコプラズマ抗体検査(翌11日結果報告)及び寒冷凝集反応検査(同月12日結果報告)は,いずれも基準値の範囲内であり,遅くとも同月12日にはマイコプラズマ肺炎以外の原因をより強く疑うべき状況にあった(上記1(1)及び2(3) 。 )このような事実のほか,薬剤性肺障害の治療としては,原因と考えられる薬剤の投与をできるだけ早く中止することが最も重要であるとされていること(上記2(2))を総合的に考察すると,B医師には,同月10日の時点で,原告に対し,ミノマイシンを増量投与することなく,また,遅くとも同月12日にはその投与を中止すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠- 15 -った点において過失があったものと認められる。 (2)ところで,被告は,この点について次のア及びイの主張をしているので,以下検討する。 アまず,被告は,画像所見等から原告がマイコプラズマ肺炎に罹患していることが疑われたため,これに対して有効なミノマイシンを投与した旨主張し,証人Bは,これに沿う供述をし,同人作成に係る陳述書(乙A5)中にも,これに沿う記載がある。 しかしながら,マイコプラズマ肺炎は,小児から若年成人に発症する(10ないし30歳代が好発年齢)のが一般的特徴であるとされるところ(上記2(3) ,原告は,A病院入院時,60歳であった(乙A3。ま))た,マイコプラズマ肺炎の画像所見は多彩であり,画像所見からその発症を積極的に疑うことはできない。さらに,平成16年2月10日に行われたマイコプラズマ抗体検査(翌11日結果報告)及び寒冷凝集反応検査(同月12日結果報告)は,いずれも基準値の範囲内であった。 こうしたことに加え,原告は,平成15年12月12日以降,A病院の皮膚科からミノマイシンが処方されており, 日結果報告)及び寒冷凝集反応検査(同月12日結果報告)は,いずれも基準値の範囲内であった。 こうしたことに加え,原告は,平成15年12月12日以降,A病院の皮膚科からミノマイシンが処方されており,マイコプラズマ肺炎の発症が予防される可能性がある旨指摘されていること(乙B8)をも考え併せると,被告の上記主張は,採用できない。 なお,B医師は,マイコプラズマ抗体検査の結果を平成16年2月16日に初めて知った旨供述している。しかし,上記説示のとおり,同月10日の段階でマイコプラズマ以外の原因による肺炎をも疑うべき状況にあったことに徴すると,B医師は,上記検査結果を速やかに把握すべく努めるべきであったといえる。そうすると,B医師の上記供述は,以上の判断を左右するものではない。 イまた,被告は,致死性の肺炎への移行を防ぐため,早期に抗生剤を点滴投与する必要があったところ,アジスロマイシン等は経口用剤であったた- 16 -め,点滴治療薬として推奨されていたミノマイシンを投与した旨主張し,証人Bは,これに沿う供述をし,同人作成に係る陳述書(乙A5)中にも,これに沿う記載がある。 しかしながら,肺炎に対する抗生剤の投与方法については,本件全証拠によっても,点滴治療によるべきことが必ずしも推奨されているとまでは認められない(特に,ミノマイシンの添付文書(甲B5)上,点滴静脈内注射は「経口投与不能の患者及び救急の場合に行い,経口投与が可能に,なれば経口用剤に切り替える」旨の記載があり,点滴静脈内注射は補充。 的なものとして位置づけられている。 。)したがって,被告の上記ア及びイの主張は,いずれも採用できない。 争点2(損害の額)について(1)E病院における診療経過証拠(甲A5ないし9,11,証人C)によれば,次の事実を認めることができる がって,被告の上記ア及びイの主張は,いずれも採用できない。 争点2(損害の額)について(1)E病院における診療経過証拠(甲A5ないし9,11,証人C)によれば,次の事実を認めることができる。 ア原告は,勤務先に近いE病院での診療を希望し,D病院の医師の紹介を受けて,平成16年3月3日から上記E病院において診療を受けるようになった。 平成16年3月5日,原告に対して行われた呼吸機能検査の結果は,肺活量(VC)2.79ℓ(予測値の78.8%,一秒量(FEV1. )0)2.46ℓ(予測値の89.8%,肺拡散能力(DLCO)10mℓ)/min/mmHg(予測値の50.6%)であった。 同月24日,原告に対し胸部レントゲン検査が行われ,同月3日の胸部レントゲン検査の結果と比べ改善が見られた。 同年4月7日,原告の主訴は良好であり,同日撮影された胸部CT画像は同年3月2日撮影のものよりも改善していた。 同年4月21日,原告の主訴は,良好だが動くと多少苦しい感がある- 17 -(階段に登ると少し息切れ)というものであった。同日行われた胸部レントゲン検査の所見は「改善している」とされた。 ,。 同年5月17日,原告の主訴は良好であり,同日行われた呼吸機能検査の結果は,肺活量(VC)3.61ℓ(予測値の102%,一秒量)(FEV1.0)2.97ℓ(予測値の108.4%,肺拡散能力)(DLCO)16.10mℓ/min/mmHg(予測値の81.5%)であり,改善しているとされた。同日行われた胸部CT検査では,両下肺に淡いスリガラス陰影が残っていることが認められた。 同年6月17日,原告の主訴は良好であり,息切れもないとされた。同日行われた胸部レントゲン検査の所見は「ほぼOK」とされた。 ,同年7月15日,原告の主訴は良好であり,同日行われた とが認められた。 同年6月17日,原告の主訴は良好であり,息切れもないとされた。同日行われた胸部レントゲン検査の所見は「ほぼOK」とされた。 ,同年7月15日,原告の主訴は良好であり,同日行われた胸部レントゲン検査の所見は「ほぼクリアー」とされた。 ,同年8月12日,原告の主訴は良好であり,同日行われた胸部レントゲン検査の所見は「OK」とされた。 ,同年9月13日及び同年10月14日,原告の主訴は良好であり,両日行われた胸部レントゲン検査の所見は,いずれも「異常なし」とされた。 同年12月2日,同日行われた胸部CT検査では「左上葉,左下葉,S6を中心にわずかな浸潤影を認めますが,前回2004/5/17と比較すると浸潤影は軽快しています」とされた。また,同日行われた呼吸。 機能検査の結果は,肺活量(VC)3.78ℓ(予測値の106.8%,)一秒量(FEV1.0)3.05ℓ(予測値の111.3%,肺拡散能)力(DLCO)16.27mℓ/min/mmHg(予測値の82.3%)であり,更に改善していた。 同年12月9日,原告の主訴は息切れなしであり,Hugh-Jonesの呼吸困難度分類は,Ⅰ度(同年齢の健常者と同様の労作がで。 。 き,歩行・階段の昇降も健常者なみにできる)である旨の診断がされた- 18 -このようなことから,担当医師であるG医師は,同日,原告に対するプレドニゾロンの処方を中止した。 平成17年2月3日,原告の主訴は良好であったが,肺雑音(細かい断続性ラ音を聴取)の所見があった。G医師は,同日,胸部レントゲン撮影及び採血を指示した上,カルテに「これで終了?」との記載をした。 同年4月27日,原告の主訴は良好であり,胸部肺雑音なしの所見であったが,原告は,その後も数か月に1回程度E病院を受診し,経過を観察してもらってい 示した上,カルテに「これで終了?」との記載をした。 同年4月27日,原告の主訴は良好であり,胸部肺雑音なしの所見であったが,原告は,その後も数か月に1回程度E病院を受診し,経過を観察してもらっている。 イ原告に対するプレドニゾロンの処方原告の担当医師であるG医師は,原告に対し,以下のとおり,プレドニゾロンを処方した(以下の日はいずれも平成16年である。 。)(ア)3月3日から同月23日まで30mg(5mg×6錠)(イ)3月24日から4月20日まで25mg(5mg×5錠)(ウ)4月21日から5月16日まで20mg(5mg×4錠)(エ)5月17日から6月16日まで15mg(5mg×3錠)(オ)6月17日から7月14日まで10mg(5mg×2錠)(カ)7月15日から8月11日まで7mg(キ)8月12日から9月12日まで5mg(ク)9月13日から10月13日まで5mg(隔日)(ケ)10月14日から12月8日まで3mg(隔日)(2)逸失利益についてア原告は,現在,呼吸器機能の後遺障害(後遺障害等級5級相当)を負っており,特に軽易な労務以外の労務に服することは困難である旨主張し,証人Cはこれに沿う供述をし,同人作成の陳述書(甲A11)及び意見書(甲B24)中にも,これに沿う記載がある。 イ上記(1)認定のE病院における診療経過及び以下に摘示した証拠によれ- 19 -ば,原告の症状について,次のことが明らかである。 平成16年12月2日に実施された原告の呼吸機能検査の結果によれば,肺活量(VC)3.78ℓ(予測値の106.8%,一秒量(FEV1. )0)3.05ℓ(予測値の111.3%,肺拡散能力(DLCO)16. )27mℓ/min/mmHg(予測値の82.3%)となっており,これ),らは (予測値の106.8%,一秒量(FEV1. )0)3.05ℓ(予測値の111.3%,肺拡散能力(DLCO)16. )27mℓ/min/mmHg(予測値の82.3%)となっており,これ),らはいずれも正常値の範囲内である(甲A9,乙B8及び証人B。また同日の胸部CT検査の所見は「左上葉,左下葉S6を中心にわずかな浸潤影を認めますが,前回2004/5/17と比較すると浸潤影は軽快しています」とされ,G医師は,その意見書(甲A9)中で,平成17年4。 月の「胸部CT像ではなお淡いスリガラス状陰影が残存しており,これはすでに不可逆的変化をきたした線維化病巣である可能性がある」として。 いるものの,同月27日の胸部レントゲン検査の所見としては「OK」としており,画像所見上,原告の肺の異常陰影はほぼ改善しているものと判断される。さらに,原告の主訴の面でも,少なくとも平成16年5月17日から平成17年4月27日までの間については,良好であり,息切れの訴えもされていなかった。そして,G医師は,平成16年12月9日,原告の呼吸困難度について,Hugh-Jonesの呼吸困難度分類でⅠ度(同年齢の健常者と同様の労作ができ,歩行・階段の昇降も健常者なみにできる)との診断をしている。 。 以上の事実を総合的に考察すると,G医師が同月9日に診断したように,現在,原告の呼吸機能に労働能力の喪失をきたすような後遺障害が存在しているとまでは認めることができないというべきである。 ウところで,G医師は,上記意見書(甲A9)中で,上記記載の上で,「すでに後遺症として肺に不可逆的線維化病巣が残ってしまっている可能性があり,特に軽易な労務以外の労務に服することは困難となると思われる。このような場合には,これが進行してさらに悪化したり,ときに致死- 20 -的な急性 可逆的線維化病巣が残ってしまっている可能性があり,特に軽易な労務以外の労務に服することは困難となると思われる。このような場合には,これが進行してさらに悪化したり,ときに致死- 20 -的な急性増悪をきたすような場合がありうる」旨記載している。 。 しかしながら,上記G医師の意見は,原告の肺に後遺症として不可逆的線維化病巣が残ってしまっている可能性を指摘し,また,そのような後遺症が残っている場合について「特に軽易な労務以外の労務に服すること,は困難となる」可能性を指摘するものであることが明らかである。しかも,もともと,原告は,A病院受診以前から1日30ないし40本のタバコを吸っており,平成15年12月15日(A病院の皮膚科でミノマイシンの処方が開始された3日後)に実施された人間ドックでの呼吸機能検査の結果は,肺活量は予測値の91%,一秒量は予測値の80.49%(乙A6)と,上記平成16年12月2日の同検査結果よりもむしろ低値を示していたのである。 以上の認定説示に照らすと,上記アの証人Cの供述並びに同人作成の陳述書(甲A11)及び意見書(甲B24)中の記載についてはたやすく採用できない。そして,他に,客観的な証拠がない本件においては,現在,原告の呼吸機能に労働能力の喪失をきたすような後遺障害が存在していると認めることはできないといわざるを得ない。 エまた,原告は,B医師の過失により,ステロイド剤の長期投与を余儀なくされた結果,うつ病を発症し,これによる精神的負担から労働意欲を失い,現在,就労できない状態にある旨主張し,証人Cはこれに沿う供述をし,同人作成の陳述書(甲A11)及び意見書(甲B24)中にも,これに沿う記載がある。 確かに,F病院のH医師作成の診断書(甲A10)によれば,原告は,うつ病と診断され,平成17年10月24日 述をし,同人作成の陳述書(甲A11)及び意見書(甲B24)中にも,これに沿う記載がある。 確かに,F病院のH医師作成の診断書(甲A10)によれば,原告は,うつ病と診断され,平成17年10月24日から同病院に通院加療中であることが認められる。 しかしながら,一般に,ステロイド剤の副作用により精神症状が生じるのは,大量に投与した場合であることが多く,これが生じた場合であって- 21 -も減量・中止することによって軽快するとされる(乙B8)ところ,上記1(1)ウ及び4(1)イ認定のとおり,原告は,30mgを超えてステロイド剤であるプレドニゾロンの投与を受けたことはなく,また,平成16年10月14日を最後にその処方は中止されている。 このような事実のほか,プレドニゾロンの添付文書上,その用量として,「通常,成人にはプレドニゾロンとして1日5~60mg」を投与すべきことが,また,その重大な副作用として,精神変調やうつ状態が掲げられているが,そうした副作用が生じる頻度は不明であるとされていること(甲B13)にも徴すると,他に客観的な証拠がない本件においては,現在,原告がうつ病に罹患しているとしても,B医師の上記過失との間に相当因果関係があるものと認めることはできない。 オ以上の次第であるから,原告が,現在,呼吸器機能の後遺障害(後遺障害等級5級相当)を負っていることを前提とする逸失利益に関する損害賠償請求は,理由がないことに帰する。 (3)慰謝料についてア上記(2)認定説示のとおり,現在,原告の呼吸機能に労働能力の喪失をきたすような後遺障害が存在しているとまでは認めることができない。 もっとも,上記(2)認定説示のとおり,平成16年12月2日の胸部CT検査の所見は「左上葉,左下葉S6を中心にわずかな浸潤影を認めますが,前回2004/5/ 在しているとまでは認めることができない。 もっとも,上記(2)認定説示のとおり,平成16年12月2日の胸部CT検査の所見は「左上葉,左下葉S6を中心にわずかな浸潤影を認めますが,前回2004/5/17と比較すると浸潤影は軽快しています」。 とされ,G医師は,その意見書中で,平成17年4月の「胸部CT像ではなお淡いスリガラス状陰影が残存しており,これはすでに不可逆的変化をきたした線維化病巣である可能性がある」としている。そして,証拠。 (甲A9,B25,29及び乙B8)によれば,上記意見書が指摘するような不可逆的変化をきたした線維化病巣が現に存在する場合の予後については,新たな薬剤性肺障害や感染の温床となる,致死的肺障害のリスクフ- 22 -ァクターになる,その後に発症する呼吸器感染症の難治化・遷延化に関係する可能性がある旨を指摘する見解もみられるところである。 そして,原告は,平成16年2月10日のA病院内科入院以降もミノマイシンの投与が中止されなかったばかりか,かえって増量投与されたことにより,薬剤性肺障害が増悪し,左肺に不可逆的変化をきたした線維化病巣が残された可能性があることに伴い,現在,自らの予後について,言葉では言い表せない不安を抱えて生活しているのである(甲C3。 )そうすると,原告の呼吸機能に労働能力を喪失させるような後遺障害が存在しているとまで認めることはできないけれども,原告が現在抱えている上記精神的不安は,その内容が深刻なものであって,社会通念上甘受すべき限度を超えるものといえるので,前記3の過失と相当因果関係のある損害として評価することが相当である。 イまた,原告は,平成16年3月1日まで約1か月間,A病院での入院加療を要したほか,同月2日D病院を受診し,翌3日からE病院に通院するようになった(E病院への実 害として評価することが相当である。 イまた,原告は,平成16年3月1日まで約1か月間,A病院での入院加療を要したほか,同月2日D病院を受診し,翌3日からE病院に通院するようになった(E病院への実通院回数は,平成17年4月27日までの間についてみても17回に及んでいる)のであるから,このような入通院。 に伴う精神的苦痛についても,本件損害と認めるのが相当である。 もっとも,原告は,A病院入院当初既に上記3(1)認定のとおりの症状を呈していたことからすれば,同時点で既に薬剤性肺障害に罹患していたものと推認されるので,慰謝料額を算定するに当たっては,この点についても考慮するのが相当である。 ウ以上ア及びイの認定説示のほか,本件における被告医師の過失の態様,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,前記3の過失により原告が被った上記ア及びイ認定の精神的な損害を慰謝するには,200万円をもって相当と判断する。 エ弁護士費用20万円- 23 -弁護士費用に関する損害については,本件事案の性質・難易,訴訟の経過,認容額などを考慮して,20万円をもって相当と認める。 結論 以上によれば,不法行為に基づく原告の請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し(債務不履行による場合には,認容すべき損害額は異ならないが,遅延損害金の起算日が遅くなる,その余は失当として棄却することとし。)て,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第35部裁判長裁判官金井康雄裁判官三井大有裁判官小津亮太
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