平成20年2月14日判決言渡〔甲事件〕平成18年(行ウ)第4号療養補償給付等不支給処分取消請求事件〔乙事件〕平成19年(行ウ)第12号障害補償給付不支給処分取消請求事件主文 処分行政庁が,平成14年6月10日に原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の支給をしないとした決定を取り消す。 処分行政庁が,平成18年11月7日に原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく障害補償給付の支給をしないとした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文同旨第2事案の概要本件は,工場労働者である原告が,正月に一人で夜勤を命じられていた同僚(原告の弟でもある。)が社屋のセキュリティシステムを解除することができず,社屋に立ち入ることができないため,自己の非番の日に出社して同システムを解除した後,同僚の夜食を買いに出掛けた際(以下「本件買出行為」という。),交通事故に遭い,後遺障害を負ったことが業務災害にあたるとして,処分行政庁に対し,①療養補償給付及び休業補償給付を求める請求(甲事件に係る請求),並びに③障害補償給付を求める請求(乙事件に係る請求。これらの請求を合わせて,以下「本件各給付請求」という。)をしたところ,処分行政庁は,本件買出行為は,私的行為であり,原告の業務とは認められないとの理由で,これらの給付をいずれも支給しないとの決定(以下「本件各不支給決定」という。)をしたため,原告が,本件各不支給決定は違法であるとして,被告に対し,これらの決定の取消しを求めた事案である。 前提事実(争いのない事実のほかは,各項に掲記の各証拠により認める。)(1)当事者等アA株式会社は,岐阜市に本店を置き,主に自動車部品用金型,生活用プラスチッ 消しを求めた事案である。 前提事実(争いのない事実のほかは,各項に掲記の各証拠により認める。)(1)当事者等アA株式会社は,岐阜市に本店を置き,主に自動車部品用金型,生活用プラスチック製品の金型を製造する会社で,従業員数は約120名である(甲4,13)。 イ原告は,平成6年4月4日,A株式会社に入社し,平成14年1月当時,岐阜市ab番cに所在するA株式会社の工場で,機械課放電班(以下「放電班」という。)に所属し,金型加工工程のうち,放電加工の作業に従事していた者である(乙13)。 ウ原告の弟であるBも,平成2年3月26日に同社に入社し,原告と同じく放電班に所属していた(甲10,11,乙12,14)。 (2)平成14年1月2日の勤務体制等Bは,平成14年1月2日午後7時から翌朝午前8時までの夜勤を命じられていた。同日の夜勤者は,Bだけであった。 (3)原告の出社と交通事故の発生アA株式会社の工場では建物の3か所にセキュリティシステムによる自動扉が設置され,指紋認証による解錠が必要であったところ,更衣室や食堂があり,タイムカードが設置された建物(管理棟)の同システムには,何らかの理由でBの指紋が登録されておらず,Bが管理棟の同システムを解除することはできなかった。 イそこで,Bは,原告に平成14年1月2日の出勤時に一緒に出社して管理棟の扉を開けてくれるよう依頼して,2人で出社し,原告が,管理棟セキュリティシステムを解除して,両名は,社内に入った。 ウ原告とBは,そのころ,当日のBの夜食が手配されていないことに気づき,原告がBの夜食を買ってくることになった(本件買出行為)。 そこで,原告は,自転車でコンビニエンスストアに行き,Bの弁当を買い, A株式会社に戻る途中,積雪のため自転車の充分な制御をすることができず, がBの夜食を買ってくることになった(本件買出行為)。 そこで,原告は,自転車でコンビニエンスストアに行き,Bの弁当を買い, A株式会社に戻る途中,積雪のため自転車の充分な制御をすることができず,前方から走行してきた高校生が運転する自転車と衝突し,転倒する事故を起こした(以下「本件事故」という。)。 (4)原告の休業及び後遺症原告は,本件事故により,頸髄損傷,全身打撲,意識障害,胸部打撲等の傷害(以下「本件傷病」という。)を負い,本件事故発生日である平成14年1月2日から同年4月8日まで,C病院に入院し,同日,D病院に転院して,同年7月15日ころまで入院し,同日以後,C病院に治療,リハビリのため,通院した。 原告の症状は,ある程度,回復したものの,完治することはなく,平成18年4月22日をもって症状が固定したとの診断を受けた。原告には,日常生活(食事や用便等)に介護を必要とし,外出時等には車いすが必要となるなど体幹機能障害等による身体障害者1級の後遺障害(以下「本件後遺症」という。)が残存し,原告は現在もA株式会社に在籍しているものの,実際に労働することはできない状態にある。 (甲9,11,乙32,33)(5)本件各給付請求,本件各不支給決定及び訴訟に至る経緯ア療養補償給付及び休業補償給付の請求について(ア)療養補償給付及び休業補償給付の請求原告は,本件傷病が業務上の災害によるものであると主張して,平成14年2月18日,処分行政庁に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき,療養補償給付および休業補償給付を請求した。 しかし,処分行政庁は,同年6月10日,「同僚労働者の夜食を購入するための買い物は私的行為であり,業務とは認められない。」として,労災保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付を支給しな した。 しかし,処分行政庁は,同年6月10日,「同僚労働者の夜食を購入するための買い物は私的行為であり,業務とは認められない。」として,労災保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付を支給しない旨の決定 をした(以下「本件不支給決定1」という。)。 (イ)審査請求原告は,本件不支給決定1を不服として,平成14年7月11日,岐阜労働者災害補償保険審査官に対し,同決定の取消しを求める審査請求をした。 しかし,同審査官は,同年12月25日,原告の審査請求を棄却する旨の決定をした。 (ウ)再審査請求原告は,同審査官の決定を不服として,平成15年2月5日,労働保険審査会に対し,再審査請求をした。 しかし,同審査会は,平成17年12月16日,原告の再審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (エ)甲事件の提起原告は,平成18年3月24日,本件不支給決定1の取消しを求める甲事件を提起した。 イ障害補償給付の請求について(ア)障害補償給付の請求原告は,本件後遺症が業務上の災害によるものであると主張して,平成18年5月19日,処分行政庁に対し,労災保険法に基づき,障害補償給付を請求した。 しかし,処分行政庁は,同年11月7日,本件不支給決定1同様,「同僚労働者の夜食を購入するための買い物は私的行為であり,業務とは認められない。」として,労災保険法に基づく障害補償給付を支給しない旨の決定をした(以下「本件不支給決定2」という。)。 (イ)審査請求原告は,本件不支給決定2を不服として,平成18年12月28日,岐 阜労働者災害補償保険審査官に対し,同決定の取消しを求める審査請求をした。 しかし,同審査官は,平成19年2月28日,原告の上記審査請求を棄却する旨の決定をした。 (ウ)再審査請求原告は,同審査官の決定を不服として,平成19年 ,同決定の取消しを求める審査請求をした。 しかし,同審査官は,平成19年2月28日,原告の上記審査請求を棄却する旨の決定をした。 (ウ)再審査請求原告は,同審査官の決定を不服として,平成19年3月9日,労働保険審査会に対し,再審査請求をした。 しかし,同日から3か月を経過しても,同審査会による裁決はされていなかった。 (エ)乙事件の提起原告は,平成19年6月16日,本件不支給決定2の取消しを求める乙事件を提起した。 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は,本件各不支給決定の違法性であり,具体的には,本件事故により発生した本件傷病及び本件後遺症が,業務災害に当たるか否かである。 (被告の主張)原告の本件買出行為には,以下のとおり,業務遂行性はないから,本件傷病及び本件後遺症は,業務災害には当たらず,本件各不支給決定は,いずれも違法ではない。 (1)本件買出行為が,原告の本来の担当業務又はこれに付随する行為ではなく,特別な業務命令によるものではないことも明らかである。 (2)また,以下のような事情からすると,本件買出行為は,業務としての緊急性,必要性及び合理性がないことは明らかである。 アBは,それまでの夜勤においても夜食をカップめんで済ませたことがあり,自分でコンビニエンスストア等に夜食を買いに行ったことはなかった。 イBは,平成14年1月2日も,出勤前に自宅でおせち料理を食べ,当初か らカップめんで夜食を済ませるつもりで出勤した。 ウ原告が夜食を買って来ることになった経緯は,Bが原告に対し,要請したものではなく,「何か食べ物買ってこようか。」「頼むわ。」といった程度のやりとりに基づくものであった。 エBは,原告が夜食を持って戻って来なかったにも関わらず,夜食がどうなっているか催促も確認もせず,原告は自宅で見た 食べ物買ってこようか。」「頼むわ。」といった程度のやりとりに基づくものであった。 エBは,原告が夜食を持って戻って来なかったにも関わらず,夜食がどうなっているか催促も確認もせず,原告は自宅で見たいテレビを見ているうちに会社に戻るのをやめてしまったなどと考えて,カップめんで夜食を済ませて,そのまま業務を続けた。 (3)夜食手配に関する労使慣行の主張についてア労使慣行が成立しているといえるためには,①ある事実上の取扱いや制度と思われるものが,長期間にわたり,反復継続して行われ,特別なことがなければ,それによるという形で労使間に定着していること(慣行的事実),②その取扱いや制度が,一部だけではなく,多数の当事者間において行われていて,一般的従業員が認識又は認識し得る状態になっていたこと(普遍性),③就業規則の制定変更権限のある使用者がその取扱いを明示又は黙示的に承認しており,労使間においてそれに従った処理・処遇がなされており,事実上ルール化していたこと(規範意識)という実態の形成が必要であると考えられる。 イそして,本件で労使慣行の有無が問題となるのは,夜食の手配方法のうち,放電班のリーダーであるE(以下「Eリーダー」という。)が直接近隣の飲食店に電話注文したり,コンビニエンスストアで弁当を買ってきて食堂の冷蔵庫の中に入れておく方法により夜食を手配するという方法である。 そこで,かかる夜食の手配方法について検討すると,①Eリーダーが,平成11年から本件事故が発生するまでの間で,班員の夜食としてコンビニエンスストアの弁当を買って届けたことはわずか3回にすぎず,労使慣 行として定着していたと認めるに足りるほどに長期間,反復継続していたとはいえず(慣行的事実の不存在),②約120人のA株式会社の従業員のうち,放電班に所属す たことはわずか3回にすぎず,労使慣 行として定着していたと認めるに足りるほどに長期間,反復継続していたとはいえず(慣行的事実の不存在),②約120人のA株式会社の従業員のうち,放電班に所属するものは6人にすぎないことやEリーダーが業務としてコンビニエンスストアの弁当を買って届けていたのであれば手当等が支給されてしかるべきであるのにこれが行われていないことから,多数の当事者間において,かかる方法で,夜食の手配がされていたとはいえず(普遍性の不存在),③仮に,使用者側が,上記のような夜食の手配方法について,規範意識を有していたとすれば,端的にリーダーに対し,出勤命令等をしていたはずであるが,そのような事実はなく,使用者側が,上記のような夜食の手配を会社の義務と認識してしていたとは考えがたい(規範意識の不存在)。 ウよって,上記のような夜食の手配方法に労使慣行が成立しているとは認められない。 (原告の主張)(1)A株式会社における夜食支給制度アA株式会社では,相当数の従業員が,夜勤,準夜勤に従事している。 イ夜勤者及び準夜勤者は,午後8時又は午後10時ころになると,夜食を食べるが,この費用は,上限1000円の範囲で会社が負担することとなっていた。 具体的には,夜勤及び準夜勤予定者が,昼の間に総務担当者に,寿司,定食,中華料理等の希望を伝え,A株式会社が契約している近隣の飲食店から出前してもらう方法と自分で近所のコンビニエンスストア等で弁当を買って,後日,精算してもらう方法があった。 また,従業員は,社内の食堂に会社の費用で備え置かれたカップめんを食べることもできた。ただし,カップめんは,あくまで補助食,非常食として常備していたものであり,夜食の趣旨で常備されていたものではない。 ウ放電班では,業務が多忙で,常時,夜勤者 たカップめんを食べることもできた。ただし,カップめんは,あくまで補助食,非常食として常備していたものであり,夜食の趣旨で常備されていたものではない。 ウ放電班では,業務が多忙で,常時,夜勤者がいるため,以下のとおり,上記アの夜食供給方法は変容されていた。 (ア)Eリーダーが,班員の夜食1週間分をまとめて総務に注文しておく。 (イ)日曜日等に緊急の夜勤が発生し,総務に予め夜食の注文をすることができない場合,Eリーダーが自分で夜勤者のための弁当をコンビニエンスストアで買って,食堂の冷蔵庫に入れておく。 エ以上のとおり,A株式会社では,労使慣行として,夜勤者に対し,会社の費用で夜食を注文していたものであり,特に放電班では,Eリーダーが夜勤の班員の1週間分の夜食をまとめて総務に注文し,それが間に合わない場合には,Eが自分でコンビニエンスストア等で食品を調達し,食堂の冷蔵庫に入れておく労使慣行があった。 (2)平成14年1月2日の夜食について前記(1)の夜食支給の労使慣行に照らすと,A株式会社は,平成14年1月2日の夜勤者であるBに対し,夜食を手配する雇用契約上の責任があったというべきである。 ところが,同日は正月であるため,近隣の飲食店はすべて閉店しており,さらに,Eリーダーが同日の夜食の手配を失念し,A株式会社は夜食を用意していなかったため,A株式会社は,Bに対し,債務不履行の状態にあった。 (3)本件買出行為の業務遂行性以上のように,原告の本件買出行為は,Bのために夜食を手配しておくべき雇用契約上の債務を履行していなかったA株式会社のために行った行為であるから,業務上の行為である。 したがって,本件傷病及び本件後遺症は業務災害で当たるから,これと異なる判断に立つ本件各不支給決定は違法である。 第3当裁判所の判断 認定事実 ために行った行為であるから,業務上の行為である。 したがって,本件傷病及び本件後遺症は業務災害で当たるから,これと異なる判断に立つ本件各不支給決定は違法である。 第3当裁判所の判断 認定事実 前記前提事実及び証拠(認定事実の末尾に括弧書きで掲げたもの)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1)A株式会社における勤務体制会社の勤務時間は,原則として,午前8時から午後4時50分まであった。 ただし,工場作業員については,納期の関係上,午後8時から翌日午前7時までの夜勤があった。 また,休日は,毎週日曜日,4週に3回の割合の土曜日のほか,5月の連休,夏季,年末年始等の年間カレンダーによって定められており,平成13年12月30日から平成14年1月4日は休日であった。ただし,工場作業員については,納期の関係上,休日出勤することがあった。 (乙13,15,16)(2)放電班についてア本件事故当時,放電班は,6名で構成されていた。そのうちの2人が,原告とBである(甲7,Eリーダー3頁)。 イEリーダーは,平成11年10月から同班のリーダーを務めていた(甲7,Eリーダー1頁)。 ウ金型の製造工程のうち,放電班が受け持つ放電工程が最も時間を要するため,放電班では,月曜日から土曜日まで24時間機械を稼働させていた。 さらに,納期等の都合で,日曜日も稼働させることがあった(なお,本件事故直前の3か月間で日曜勤務があったのは,3回であった。)。 そして,月曜日から土曜日までの勤務者の割付けは,Eリーダーが1週間ないし10日前くらいまでに行っていたが,日曜日の勤務の有無及び勤務者の割付けは,工程の遅れや急ぎの仕事の飛び込みなどに応じて,前日あるいは当日に行われることもあった。 (甲7,8,Eリーダー3頁)(3)A株式 らいまでに行っていたが,日曜日の勤務の有無及び勤務者の割付けは,工程の遅れや急ぎの仕事の飛び込みなどに応じて,前日あるいは当日に行われることもあった。 (甲7,8,Eリーダー3頁)(3)A株式会社全体における夜食支給制度 アA株式会社では,夜勤者及び残業者に対し,原則として総務課が手配した夜食を現物支給する制度を設けており,また労働者が自ら夜食を購入した場合には1000円を限度として夜食代を負担することとしていた(なお,昼食代については,労働者が300円実費負担していた。)。 イそして,月曜日から金曜日までについては,当日の夕方ころまでに各班から総務に電話で人数を知らせ,総務では各班ごとに残業者と夜勤者の人数を取りまとめて,近隣の飲食店(定食屋,寿司店及び中華料理店)に注文し,残業者の夜食については午後8時に,夜勤者の夜食については午後10時に配達してもらっていた。 ウ土曜日及び日曜日の夜勤者等の夜食については,予め総務に連絡があった場合は,その前日に総務が予約の注文を行っていたが,特に申し出がなかった場合や総務に頼むことができなかった場合は,夜勤者等が自ら上記3店舗に会社の付けで注文したり,コンビニエンスストア等で弁当を購入して(仕事の合間に購入に行くことも容認されていた。),後日,夜勤者が支払った夜食代金をレシートと交換する形で総務が精算していた。 エまた,A株式会社では,管理棟内の休憩室に常時,カップめんを置き,従業員が自由に食べてよいこととされていた。 オ夜勤者のほぼ全員が,夜食支給制度を利用していた。 (甲6,乙13)(4)放電班における夜食支給の実態ア放電班においては,前記のとおり,月曜日から土曜日の勤務者は,予め決まっているため,Eリーダーが,毎週月曜日に,1週間分の夜勤者の注文を取りまとめ,総務を (4)放電班における夜食支給の実態ア放電班においては,前記のとおり,月曜日から土曜日の勤務者は,予め決まっているため,Eリーダーが,毎週月曜日に,1週間分の夜勤者の注文を取りまとめ,総務を通して,前記飲食店に出前を注文していた(甲6ないし8,10,Eリーダー4頁)。 飲食店に注文した夜食は,午後10時ころ,配達され,夜勤者は,基本的に午前零時から午前1時ころに夜食を食べていた(甲6,甲10,Eリ ーダー5頁)。 イしかし,急きょ,日曜日等に夜勤が入り,総務を通して,飲食店に出前を注文することができない場合には,Eリーダーが自ら飲食店に出前を注文することがあった。 さらに,飲食店への注文ができない場合,Eリーダーが,自分でコンビニエンスストアで弁当を買ってきて,食堂の冷蔵庫に入れて,夜勤者の夜食を用意することもあった。このような場合,Eリーダーは,後日,立て替えた弁当代等を総務で精算してもらっていた。 上記のように総務を介さない方法により,Eリーダーが,自分で夜食の手配を行うことは1か月に1回程度の割合であった。 このうち,Eリーダーは,自分の休日に,夜勤者の弁当を買って,出社したことは,3回程度であり,このような場合には夜勤者と打ち合わせをしたり,工程の進み具合を確認したりするため,出勤として扱われていた。 (甲7,8,10,Eリーダー5,6,8,18,26頁)ウなお,Eリーダーは,これまで1,2回,夜食の手配を失念したことがあった。また,Bは,自分でコンビニエンスストアなどで夜食を購入したことはなく,食堂に常備されているカップめんで夜食を済ませたことが1,2回あったが,このような場合には,事前に夜食を手配できないことを知らされていた(甲10,Eリーダー26頁,B4頁)。 エこうした放電班における夜食の手配の取扱いが始ま んで夜食を済ませたことが1,2回あったが,このような場合には,事前に夜食を手配できないことを知らされていた(甲10,Eリーダー26頁,B4頁)。 エこうした放電班における夜食の手配の取扱いが始まった経緯や時期は明らかではないものの,少なくとも平成11年10月にEリーダーが放電班のリーダーになる以前から行われており,他班でも同様の取扱いがなされているところもあった(Eリーダー14,18頁)。 オEリーダーは,年末の作業の段取りを整えることに忙殺され,平成14年1月2日のBの夜勤時の夜食の手配をすることを忘れていた(Eリーダー10,11頁)。 (5)本件事故当日の原告とBの行動(本項において,日付の記載のない時刻は,平成14年1月2日午後若しくは同月3日午前の時刻を表わす。)ア原告(昭和45年10月2日生)は,弟であるBと共に両親宅に同居していた。 イBは,平成13年12月27日ころ,平成14年1月2日の夜勤を命じられた。しかし,同日は他に出勤者がおらず,Bが夜勤に就業するためには,管理棟のセキュリティシステムを解除する必要があったが,Eリーダーは,この当時,Bは,管理棟の指紋認証によるセキュリティシステムを解除することができないことを知らなかった(甲10,乙14,Eリーダー9,15,16頁,B5頁)。 ウBは,平成14年1月2日午後5時ころ起床し,午後6時ころ,米飯とおせち料理などを食べた(甲10,乙14,B6,12頁)。 エBは,自分では解除することのできない管理棟のセキュリティシステムを解除してもらうため,原告を伴い,午後6時40分ころ,A株式会社に出社した。Bは,いつも弁当等が用意されていたので,自分で弁当を買っていくと無駄になってしまうかもしれないと考えて自分で弁当を用意せずに出社した(甲10,11,乙19, 6時40分ころ,A株式会社に出社した。Bは,いつも弁当等が用意されていたので,自分で弁当を買っていくと無駄になってしまうかもしれないと考えて自分で弁当を用意せずに出社した(甲10,11,乙19,B6,7頁,原告3頁)。 オ両名は,出社後,原告が翌朝,Bから引き継いでの日勤であったことから,作業内容等について簡単な打ち合わせを行った。 そのうち,両名の会話は,自然と夜食の話に及び,食堂内の冷蔵庫を確認したところ,夜食が用意されていないことが判明した。 そこで,Bは,原告に夜食を買って持ってくるよう依頼し,原告は,これを了承した(ただし,原告が,何を買って,いつごろ夜食を持ってくるかについては特に話し合わなかった。また,原告とBのどちらが夜食を買ってくるという話を持ち出したのかは明らかではない。)。 (甲10,11,乙12,14,B6,9,10,17,18頁,原告4 頁)カ原告は,その後すぐに,自転車で,A株式会社から約1.1キロメートル離れた,原告が普段から利用しているコンビニエンスストア「F」に出掛け,午後6時56分ころ,Bの夜食を購入した。そして,原告は,午後7時ころ,A株式会社に戻る途中,同店から約30メートルの地点で,本件事故を起こし,救急隊により病院へ搬送された。(甲10,12,乙12,14,20,26ないし28,原告6ないし8,10頁)キBは,原告が夜食を届けに来なかったものの,見たいテレビ番組を見てから届けに来るのではないかと考えたり,積雪で危険なため届けることを諦めたのではないかと考え,原告の消息を確かめることなく,作業を続けた。 その後,Bは,午前0時ころから午前2時ころまでの間に休憩をとり,食堂に常備されていたカップめんで夜食をすませた。 Bは,翌朝,原告らの母親からの連絡を受けて,本件事故を知った。 (甲 業を続けた。 その後,Bは,午前0時ころから午前2時ころまでの間に休憩をとり,食堂に常備されていたカップめんで夜食をすませた。 Bは,翌朝,原告らの母親からの連絡を受けて,本件事故を知った。 (甲10,乙14,B11,12,18,19,22,24頁) 業務遂行性の有無について(1)はじめにア労災保険法1条は,労働者災害補償保険は,業務上の事由等による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等(以下「業務災害」という。)に対して,迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行う旨定めている。 そして,同法は,労働者の業務上の負傷等に関する保険給付を定め(同法7条1項1号),具体的な保険給付の種類として,療養補償給付(同法12条の8第1項1号),休業補償給付(同項2号),障害補償給付(同項3号)などを設けている。 イすなわち,これらの各保険給付の対象は,業務災害であり,業務災害といえるためには,労働者が労働契約に従って使用者の指揮命令ないし支配 下にあること(いわゆる「業務遂行性」)が必要であると解される。 ウそして,負傷等の原因となった行為が,当該労働者の本来の担当業務や特別の業務命令に基づくものである場合に業務遂行性が認められることは当然であるが,このような場合でなくとも,通常の業務運営上予定されていないような突発的な事態が発生した場合に,特別な業務命令なく行った,自己の担当外の行為であっても,当該行為が,当該事業者の業務運営上,緊急性,必要性があり,同事業者と労働契約を結んだ労働者として行うことが期待されるものであれば,業務遂行性があるものと解するべきである。 エこれを前提に,本件買出行為に業務遂行性が認められるか否かを以下検討する。 (2)A株式会社の夜食手配についてア原告は,本件買出行為に業務遂行性があることの根拠と るものと解するべきである。 エこれを前提に,本件買出行為に業務遂行性が認められるか否かを以下検討する。 (2)A株式会社の夜食手配についてア原告は,本件買出行為に業務遂行性があることの根拠として,放電班では,総務への注文が間に合わない場合,Eリーダーが,自らコンビニエンスストア等で食品を調達し,食堂の冷蔵庫に入れておく労使慣行があった旨主張するので以下検討する。 イA株式会社全体の夜食支給制度前記認定事実によれば,A株式会社全体では,夜勤者に対し,1000円の範囲内で,現物支給(総務を通じた出前の注文)又は後日精算の方式で,夜勤者に対し,夜食代の補助を行う制度を設けており,夜勤者の多くがこの制度を利用していたことが認められる。 A株式会社がこのような制度を実施していたのは,同社が日勤を原則としつつも,現実には納期を厳守する必要上,夜勤の形態が半ば恒常化していたため,そのような夜食支給制度をとることが,経営政策として合理性を有すると判断されていたからであると考えられる。 ウ放電班における夜食手配の実情と意義前記認定事実によれば,総務への注文ができない場合にリーダー自らが 夜食を手配するという放電班独自の方法は,Eリーダーが放電班のリーダーとなった平成11年10月以前から行われていたことが認められ,かかる方法は,本件事故発生時まで少なくとも2年3か月以上行われていたことになる。 また,前記認定事実によれば,Eリーダーが,自ら夜食の手配をしたのは,月1回程度あり,Eリーダーが夜食を手配しなかったのは,失念した場合などの数回だけであることが認められる。 また,前記認定事実によれば,Eリーダーが,自身の休日に弁当を届ける場合には,夜勤者と打合せなどを兼ねることもあり,Eリーダーがタイムカードを打刻すれば,出勤として扱われていたこ ことが認められる。 また,前記認定事実によれば,Eリーダーが,自身の休日に弁当を届ける場合には,夜勤者と打合せなどを兼ねることもあり,Eリーダーがタイムカードを打刻すれば,出勤として扱われていたことが認められる。 前記認定のとおり,少なくとも平成11年10月以降,Eリーダーが,失念しない限り,放電班においては,いずれかの方法により,夜勤者に現物が支給されるという取扱いがされていたのであるから,放電班の班員は,特段の指示がない限り,夜勤の際,当然に夜食は用意されているものと考え,かかる取扱いを期待していたものと推認される。 一方,A株式会社における夜食支給制度を取りまとめていた総務担当者は,もちろんのこと,A株式会社代表者Gは,納期を厳守しなければならない業態であるA株式会社の経営者として,夜勤者への夜食の供与が労働者の健康及び士気の両面に及ぼす影響を理解した上で,放電班における夜食手配の実態について認識し,これを容認若しくは積極的に是認していたものと推認される。 したがって,放電班においては,A株式会社全体での夜食手配制度に加え,Eリーダーが自分で飲食店に出前を注文するか,あるいはコンビニエンスストア等で食品を調達し,食堂の冷蔵庫に入れておき,夜食を準備することが,労使双方の了解事項とされていたと認められ,これを労使慣行と呼ぶかどうかは別として,労働者及び経営者双方から期待された事柄で あったと認められる。 (3)業務遂行性の有無についての判断ア前記認定判断のとおり,放電班においては,できるだけ現物で夜食を支給するとの了解事項があったから,A株式会社は,Bに対し,平成14年1月2日の夜食を手配しておくべきであった。ところが,Eリーダーがその手配を失念していたため,A株式会社は,同日,Bが出勤した時点で,夜勤者が期待する夜食の から,A株式会社は,Bに対し,平成14年1月2日の夜食を手配しておくべきであった。ところが,Eリーダーがその手配を失念していたため,A株式会社は,同日,Bが出勤した時点で,夜勤者が期待する夜食の手配を怠っていたことになる。そうすると,原告の本件買出行為は,客観的に見て,A株式会社(Eリーダー)が怠った夜食の手配を肩代わりしたという見方ができる。 もっとも,放電班の夜勤者の夜食を手配することは,原告の担当業務でなく,本件買出行為は,特別な業務命令に基づく行為でないことも明らかであるから,本件買出行為に業務遂行性が認められるためには,A株式会社の業務運営上,かかる行為に緊急性,必要性があり,同社の従業員として期待される行為であることが必要であると考えられる。以下このような緊急性,必要性があったかを検討する。 イ(ア)前記認定事実によれば,A株式会社においては,従業員が,休憩中に,夜食を買いに出掛けることは禁止されていなかったことが認められるものの,証人Eの証言(12頁)及び同Bの証言(8,9頁)によれば,本件当日唯一の夜勤者であったBが工場外に夜食を買いに出掛けることは困難であったことが認められる。 そうすると,Bは,平成14年1月2日,第三者に夜食の購入を依頼する以外に,夜食の支給を受けることは事実上不可能であったといわざるを得ない。 換言すれば,Bが同日出勤した後の時点では,B以外の従業員(基本的には,普段夜食の手配業務を行っているEリーダー)が,A株式会社のBに対する上記債務を履行するため,通常夜勤者が夜食を食べる午前 零時ころまでにBの夜食を手配する業務上の緊急の必要性があったものと解される。 (イ)ところで,前記認定事実によれば,Bは,自分で管理棟のセキュリティシステムを解除することができないため,同僚であり,兄でもあ にBの夜食を手配する業務上の緊急の必要性があったものと解される。 (イ)ところで,前記認定事実によれば,Bは,自分で管理棟のセキュリティシステムを解除することができないため,同僚であり,兄でもある原告に依頼して,出勤時に同行し,同システムを解除してもらったことが認められる。 そして,管理棟自体は,Bの作業場所ではないが,タイムカードの打刻や着替えなど業務に付随する行為が行われる場所であることからすると,Bが,平成14年1月2日に夜勤に従事するためには,誰かに管理棟のセキュリティシステムを解除してもらう業務上の必要性があったものと認められ,Bと同居する同僚である原告がBの依頼を受けて同システムを解除したことは合理的な行動であり,原告のかかる行動には,業務遂行性があったものと認められる。 すなわち,原告は,他の業務(セキュリティシステムの解除)のため出勤し,その業務を終えたところで,Bの夜食が手配されておらず,これを手配する緊急の必要がある事態に遭遇し,本件買出行為に及んだことになる。 (ウ)そして,コンビニエンスストア等で弁当を購入するという行為は,単純な作業で,誰でもこれを行うことが可能なものであり,原告又はBが,普段夜食を手配しているEリーダーにその旨知らせ,夜食を届けてもらうより,前記のとおり業務のため出勤し,その業務を終えた原告が弁当を購入しに出掛ける方が簡易,迅速であり,人件費等の面で会社にとっても有利であるから,原告が,Bから依頼を受けて,Eリーダーに代わって,夜食の手配業務を行うことには,緊急性,必要性があり,A株式会社の労働者として合理的に期待された行為であったと認められる。 ウしたがって,本件買出行為には,業務遂行性はあるものと認められる。 (4)被告の主張についてア被告は,本件買出行為に緊急性,必要 労働者として合理的に期待された行為であったと認められる。 ウしたがって,本件買出行為には,業務遂行性はあるものと認められる。 (4)被告の主張についてア被告は,本件買出行為に緊急性,必要性がないことの根拠として,Bが,平成14年1月2日以前にもカップめんで夜食を済ませたことがあることを主張するところ,前記認定事実によれば,Bは,同日以前にカップめんで夜食をすませたことが1,2回あることが認められる。 しかし,カップめんと飲食店の出前やコンビニエンスストアの弁当では,その価格や栄養価の面で差があるものであり,これらを同等の食事であるということはできず,また,A株式会社として,夜勤者にカップめんで夜食を済ませるよう要請していたとは認められないから,管理棟にカップめんが備えられていたことをもって,A株式会社で通常予定していた夜食手配がされたとは到底いえない。 よって,被告主張の上記事情の存在は,本件買出行為の緊急性,必要性を否定する事情とはいえない。 イさらに,被告は,本件買出行為に緊急性,必要性がないことの根拠として,原告が夜食を買いに行くことになったBとの会話の内容やBが,夜食を買いに出掛けたまま戻らない原告の動向等を確認することなく,カップめんで夜食をすませたことも主張するところ,前記認定事実によれば,Bは,原告がいつどのような夜食を届けるかといった詳細な打ち合わせをすることなく,原告に夜食の購入を依頼し,その後,原告が戻ってこないことについて,Bは,後から届けに来るのではないかと考えたり,積雪で危険なため届けるのを諦めたのではないかと考え,結局,カップめんで夜食を済ませたことが認められる。 しかしながら,こうした事実が,原告が本件買出行為を行った理由のひとつとして,同僚若しくは弟であるBに対する同情や情誼があることをう いかと考え,結局,カップめんで夜食を済ませたことが認められる。 しかしながら,こうした事実が,原告が本件買出行為を行った理由のひとつとして,同僚若しくは弟であるBに対する同情や情誼があることをうかがわせる事情であるということはできるとしても,本件買出行為をA株式会社との関係で見た場合には,その緊急性,必要性を否定する事情には ならないものと解される。 ウ被告の主張は,要するに原告が本件買出行為をすることが強く要請されたものでなく,原告に対する行動の拘束性も弱かったことを指摘するものと思われる。 しかしながら,A株式会社においては,夜勤者への夜食支給を総務課の業務の中に取り入れて行う姿勢を有していたのであるから(すなわち,正月に1人で夜勤をする従業員に対し,夜食をカップめんで済まさせようという姿勢ではなかった。),そのような企業の経営方針に沿った原告の本件買出行為は,被告の上記のような指摘によって業務性を否定されるものではないと解するのが相当である。 よって,被告の主張は採用することができない。 本件各不支給決定の違法性前記2の認定判断のとおり,本件買出行為には業務遂行性が認められるから,本件買出行為に業務遂行性がないとして,本件各給付申請に対し,各給付を支給しないとした本件各不支給決定は,違法であると認められる。 結論 以上の次第で,原告の請求はいずれも理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第1部裁判長裁判官野村高弘裁判官岩井直幸 裁判官木博巳髙
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