昭和48(あ)722 傷害

裁判年月日・裁判所
昭和50年4月3日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 仙台高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決及び第一審判決を破棄する。      被告人は無罪。          理    由  弁護人石川克二郎の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、原判決は所論引用の 判例(昭

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判決文本文2,558 文字)

主    文      原判決及び第一審判決を破棄する。      被告人は無罪。          理    由  弁護人石川克二郎の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、原判決は所論引用の 判例(昭和二二年(れ)第三九号同二四年五月一八日大法廷判決・裁判集刑事一〇 号二三一頁)と相反する判断を示したものとは認められないから、理由がなく、同 第二点ないし第四点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いずれも適法 な上告理由にあたらない。しかしながら、所論に鑑み職権で判断するに、被告人の 行為は、現行犯人の逮捕のためにした許される限度内のものというべきであり、罪 とならないものであるから、原判決及び第一審判決は、いずれも破棄を免れない。 すなわち、  (一) 原判決が是認する第一審判決の認定によると、被告人は、漁船A丸の船 員であるが、昭和四五年八月一〇日午前零時四〇分頃、宮古市a付近の海上におい て、あわびの密漁船と認めて追跡し捕捉しようとしていた漁船B丸と接触した際、 A丸の船上から、B丸を操舵中のCの手足を竹竿で叩き突くなどし、同人に対し全 治約一週間を要する右足背部刺創の傷害を負わせた、というのである。  (二) ところで、原判決の認定によると、右の事件が発生するまでの経過は次 のとおりである。すなわち、前日の九日午後八時三〇分頃、Dの漁業監視船しおか ぜ丸は、岩手県下閉伊郡b町c北側約一海里の海上において、cの南側にあるdの 北側約二〇〇メートルにB丸を発見し、約五〇メートルまで近付いてハンドライト で同船を照らしたところ、船中に潜水服を着た者がいたので、あわびの密漁にきた 船であると判断した。そして、同船が、ハンドライトに照らされると、灯火を消し、 錨をロープとともに切り捨てて逃走を始めたので、これを追跡したが、船足が遅く - 1 - 追跡が困難であつたため、 漁にきた 船であると判断した。そして、同船が、ハンドライトに照らされると、灯火を消し、 錨をロープとともに切り捨てて逃走を始めたので、これを追跡したが、船足が遅く - 1 - 追跡が困難であつたため、午後九時頃、付近にいたA丸に事情を告げて追跡を依頼 した。A丸は、約三時間B丸を追跡し、同船と併航するようになつたので、停船す るよう呼びかけたが、同船は、これに応じないばかりでなく、三回にわたりA丸の 船腹に突込んで衝突させたり、ロープを流し同船のスクリユーにからませて追跡を 妨害しょうとしたので、A丸の乗組員は、B丸に対し瓶やボルトを投げつけるなど して逃走を防止しようとし、被告人も、三回目に衝突した後さらに逃走しようとす るB丸に対し、逃走を防止するため、鮫突用の銛を投げつけたりしたうえ、前記の 行為に及んだ。その後、B丸は、A丸に追突されて停船したが、呼びかけに応じて A丸の船長がB丸に乗り移ろうとした際、またも突然全速力で逃走しようとした。 しかし、折から海上保安庁の巡視船富士が付近に到着していたため、逃走を断念し た。  (三) 原判決及びその是認する第一審判決の各認定によると、Cを含むB丸の 乗組員は、逃走を始めるまであわびの採捕をしていたものであるが、その場所にお けるあわびの採捕は、漁業法六五条一項に基づく岩手県漁業調整規則三五条により、 三月から一〇月までの間は禁止されており、Cらの行為は同条に違反し、同法六五 条二項、三項に基づく同規則六二条一号の犯罪を構成し、六か月以下の懲役、一万 円以下の罰金又はその併科刑が科されるものであることは明らかである。そして、前 記の経過によると、漁業監視船しおかぜ丸は、B丸の乗組員を現に右の罪を犯した 現行犯人と認めて現行犯逮捕をするため追跡し、A丸も、しおかぜ丸の依頼に応じ、 これらの者を現行犯逮捕するため追跡を継続した 記の経過によると、漁業監視船しおかぜ丸は、B丸の乗組員を現に右の罪を犯した 現行犯人と認めて現行犯逮捕をするため追跡し、A丸も、しおかぜ丸の依頼に応じ、 これらの者を現行犯逮捕するため追跡を継続したものであるから、いずれも刑訴法 二一三条に基づく適法な現行犯逮捕の行為であると認めることができる。  (四) 右のように現行犯逮捕をしょうとする場合において、現行犯人から抵抗 を受けたときは、逮捕をしょうとする者は、警察官であると私人であるとをとわず、 その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限 - 2 - 度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れるこ とがあるとしても、刑法三五条により罰せられないものと解すべきである。これを本 件についてみるに、前記の経過によると、被告人は、Cらを現行犯逮捕しようとし、 同人らから抵抗を受けたため、これを排除しようとして前記の行為に及んだことが 明らかであり、かつ、右の行為は、社会通念上逮捕をするために必要かつ相当な限 度内にとどまるものと認められるから、被告人の行為は、刑法三五条により罰せら れないものというべきである。それゆえ、原判決及び第一審判決は、いずれも法令 に違反し、これを破棄しなければ著しく正義に反するものというほかはない。  よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条に より、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。  検察官松本卓矣 公判出席   昭和五〇年四月三日      最高裁判所第一小法廷          裁判長裁判官    下   田   武   三             裁判官    藤   林   益   三             裁判官    岸       盛   一             裁判官      下   田   武   三             裁判官    藤   林   益   三             裁判官    岸       盛   一             裁判官    岸   上   康   夫             裁判官    団   藤   重   光 - 3 -

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