平成27年1月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成25年(ワ)第33993号特許権侵害差止等請求事件(口頭弁論の終結の日平成26年12月2日)判決 主文 原告の請求を棄却する。 理由 1 本件は、原告日産化学工業株式会社(以下「原告」という。)が、被告ダイト株式会社(以下「被告1」という。)及び被告持田製薬株式会社(以下「被告2」という。)に対し、特許権侵害差止等請求を行った事案である。 2 原告は、特許第339993号(以下「本件特許」という。)に基づき、被告1及び被告2が製造・販売する製品が本件特許の請求項に記載された発明に該当すると主張し、被告らに対し、製品の製造・販売の差止めを求めている。 事実 原告は、平成25年に本件特許を取得し、被告らがその特許権を侵害していると主張している。 争点 本件特許の請求項に記載された発明が被告らの製品に該当するか否か。 判断 本件特許の請求項に記載された発明は、被告らの製品には該当しない。よって、原告の請求は棄却される。 上記5名訴訟代理人弁護士小池豊 同櫻井彰人 同補佐人弁理士草間攻 福井県あわら市〈以下略〉被告小林化工株式会社 東京都中央区〈以下略〉被告MeijiSeikaファルマ株式会社 上記両名訴訟代理人弁護士飯田秀郷 同栗宇一樹 同大友良浩 同隈部泰正 同和氣満美子 同森山航洋 同奥津啓太 同清水紘武 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とす る。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告ダイト株式会社(以下「被告ダイト」という。)は,別紙物件目録記載1のピタバスタチンカルシウム原薬(以下「被告原薬」という。)を製造し,使用し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告小林化工株式会社(以下「被告小林化工」という。),被告Meiji Seikaファルマ株式会社(以下「被告Meiji」といい,被告小林化工と併せて「被告小林化工ら」という。),被告東和薬品株式会社(以下「被告東和薬品」という。)及び被告鶴原製薬株式会社(以下「被告鶴原製薬」という。)は,被告原薬を使用してはならない。 3 被告ダイトは,同目録記載2及び3のピタバスタチンカルシウム製剤(以- 3 -下,それぞれを「被告製剤2」及び「被告製剤3」といい,同目録中のその余の製剤も同様に略称する。また,被告製剤2~7を併せて「被告製剤」といい,被告製剤と被告原薬を併せて「被告原薬等」という。なお,被告製剤3(2)を「モチダ錠」ということがある。)を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 4 被告科研製薬株式会社(以下「被告科研製薬」という。)は,被告製剤2を販売し,又は販売の申出をしてはならない。 5 被告持田製薬株式会社(以下「被告持田製薬」といい,被告ダイト,被告東和薬品,被告鶴原製薬及び被告科研製薬と併せて「被告ダイトら」という。),被告小林化工,被 又は販売の申出をしてはならない。 5 被告持田製薬株式会社(以下「被告持田製薬」といい,被告ダイト,被告東和薬品,被告鶴原製薬及び被告科研製薬と併せて「被告ダイトら」という。),被告小林化工,被告Meiji,被告東和薬品及び被告鶴原製薬は,それぞれ被告製剤3,4,5,6及び7を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 第2 事案の概要本件は,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶及びその保存方法に関する2件の特許権を有する原告が,被告らによる原薬及び製剤の製造・販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項に基づきその差止めを求める事案である。 1 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実を含む。なお,特に断らない限り,証拠の枝番号の記載は省略する。以下同じ。)(1) 当事者原告は,基礎化学品,医薬品の製造・販売等を業とする株式会社である。 被告ダイトは,医薬品製剤の原薬,医薬品の製造・販売等を業とする株式会社であり,その余の被告らは,いずれも医薬品の製造・販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件結晶特許権」といい,その特許出願- 4 -の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)を有している。 特許番号特許第5186108号発明の名称ピタバスタチンカルシウム塩の結晶出願日平成16年12月17日(特願2006-520594)優先日平成15年12月26日(特願2003-431788)登録日平成25年1月25日イ本件結晶特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,当 平成15年12月26日(特願2003-431788)登録日平成25年1月25日イ本件結晶特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,当該発明を「本件結晶発明1」という。)。 「 式(1)【化1】で表される化合物であり,7~13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9. 08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13. 96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。」- 5 -ウ本件結晶発明1は,以下の構成要件に分説される(なお,式(1)の構造式【化1】は記載を省略する。以下同じ。)。 A 式(1)で表される化合物であり,B 7~13%の水分を含み,CCuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするD ピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95 68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするD ピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 エ本件結晶特許権に係る特許請求の範囲の請求項2の記載は,次のとおりである(以下,当該発明を「本件結晶発明2」といい,これと本件結晶発明1を併せて「本件結晶発明」という。また,その特許を「本件結晶特許」という。)。 「 請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とする医薬組成物。」オ本件結晶発明2は,以下の構成要件に分説される。 F 請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とするG 医薬組成物。 カ原告は,次の特許権(以下「本件保存方法特許権」といい,本件結晶特許権と併せて「本件各特許権」という。また,本件保存方法特許権の特許出願の願書に添付された明細書と本件明細書とを併せて「本件各明細書」- 6 -ということがある。)を有している。 特許番号特許第5267643号発明の名称ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法出願日平成23年11月29日(特願2011-260984(特願2006-520594の分割))原出願日平成16年12月17日優先日平成15年12月26日(特願2003-43178 。 以下,上記アの優先日と併せて「本件優先日」という。) 登録日平成25年5月17日キ本件保存方法特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである( という。) 登録日平成25年5月17日キ本件保存方法特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,当該発明を「本件保存方法発明」といい,その特許を「本件保存方法特許」という。また,これらと本件結晶発明又は本件結晶特許とを併せて「本件各発明」又は「本件各特許」という。)。 「 CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21. 52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ7重量%~13重量%の水分を含む,式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。」ク本件保存方法発明は,以下の構成要件に分説される(本件結晶発明と本件保存方法発明において同一の符号を付された各構成要件は,厳密には記載が一致しないものも含まれているが,内容的には同一であること- 7 -から,以下,各発明を区別することなく,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。 C’ CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4. 96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13. 20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30. 16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつB 7重量% ,13. 20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30. 16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつB 7重量%~13重量%の水分を含む,A 式(1)で表されるD ピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,H その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とするI ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 ケ原告は,本件結晶特許につき訴外沢井製薬株式会社が請求した無効審判の手続において,平成26年8月22日付けで訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。本件訂正請求に係る特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件訂正発明」という。)は次の構成要件に分説される(訂正箇所に下線を付した。)。 A 式(1)で表される化合物であり,B 7~13%の水分を含み,CCuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,2- 8 -0.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有し,X 7~13%の水分量において医薬品の原薬として安定性を保持することを特徴とするD’ 粉砕されたピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 (3) 被告らの行為ア被告ダイトは被告原薬を製造し ことを特徴とするD’ 粉砕されたピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 (3) 被告らの行為ア被告ダイトは被告原薬を製造している。被告原薬はピタバスタチンカルシウム塩を含有しており,被告製剤はいずれも被告原薬を使用して製造されている。 イ被告ダイトは被告製剤2の製造承認を受けて製造の準備を進め,被告科研製薬においてその販売の準備を進めている。被告持田製薬は被告製剤3の製造承認を受け,被告ダイトにその製造を委託し,販売の準備を進めている。被告小林化工,被告Meiji,被告東和薬品及び被告鶴原製薬は,それぞれ被告製剤4,5,6及び7の製造承認を受け,その製造・販売の準備を進めている。 ウ原告は,モチダ錠の結晶形態の回折角パターンを測定するため,次の5回の測定(以下「原告測定」と総称し,それぞれの測定をその項目番号に従い「原告測定(ア)」などという。)を行った。 (ア) 原告は,平成25年11月19日,公益財団法人科学技術交流財団のあいちシンクロトロン光センターのAichiSRのビームラインBL5S2を使用して,モチダ錠の結晶形態の分析を行った。その結果は,別紙原告測定結果の(ア)欄のとおりである。(甲5,45)。 (イ) 原告は,同年12月7日,公益財団法人高輝度光科学研究センターのSPring-8の産業利用ビームラインBL19B2を使用して,モチダ錠の結晶形態の分析を行った。その結果は,同別紙(イ)欄のとお- 9 -りである。(甲5,45)(ウ) 原告は,平成26年2月21日,粉末X線回折測定装置を使用して,モチダ錠の結晶形態の分析を行った。その結果は,同別紙(ウ)欄のとおりである。(甲27)(エ) 原告は,同年3月6日,上記(ア)のAich ,平成26年2月21日,粉末X線回折測定装置を使用して,モチダ錠の結晶形態の分析を行った。その結果は,同別紙(ウ)欄のとおりである。(甲27)(エ) 原告は,同年3月6日,上記(ア)のAichiSRのビームラインBL5S2を使用して,モチダ錠の結晶形態の分析を行った。その結果は,同別紙(エ)欄のとおりである。(甲27)(オ) 原告は,同年7月19日,上記(イ)の産業利用ビームラインBL19B2を使用して,モチダ錠からの回収残渣の結晶形態の分析を行った。 その方法は,ピタバスタチンカルシウム塩の飽和水溶液にモチダ錠を粉末化して溶解し,溶けずに残った残渣を回収して分析の試料とするものであり,その測定結果は,同別紙(オ)欄のとおりである。なお,被告原薬を特定する別紙物件目録記載1の回折角の数値はこの測定結果によるものである。(甲55)エ別紙原告測定結果のとおり,原告測定のいずれにおいても,モチダ錠について,構成要件C・C’の15本の回折角の数値(理論的にこれと同視できるとする同別紙中の②欄記載の数値を含む。)の全てが小数点第2位まで一致する結果は得られず,一致する数値の個数が最も多い原告測定(オ)でもその個数は15個中6個にとどまるものであった。 2 争点被告らは,被告原薬等の構成要件Bの含有水分量,同C・C’の回折角,同Cの相対強度,同Eの示差走査熱量測定による融点,同H・Iの含有水分量及び保存方法の各充足性を争うほか(その余の各構成要件の充足性は争っていない。),進歩性欠如,補正要件違反等による特許無効を主張する(なお,下記(2)及び(3)の無効主張のうち,(2)イ(本件結晶特許関係)及び(3)イは被告らの,(2)イ(本件保存方法特許関係)は被告小林化工らの,その余- 10 -は被告ダイトらの各主張する無効理由で (2)及び(3)の無効主張のうち,(2)イ(本件結晶特許関係)及び(3)イは被告らの,(2)イ(本件保存方法特許関係)は被告小林化工らの,その余- 10 -は被告ダイトらの各主張する無効理由であるが,以下では特に区別することなく被告らの主張として摘示する。)。 したがって,本件の争点は,次のように整理することができる。 (1) 充足論ア構成要件Bの含有水分量の充足性イ構成要件C・C’の回折角の充足性ウ構成要件Cの相対強度の充足性エ構成要件Eの示差走査熱量測定による融点の充足性オ構成要件H・Iの含有水分量及び保存方法の充足性(2) 本件各特許の無効論ア公然実施に基づく進歩性欠如イ丙1文献又は丙2文献に基づく進歩性欠如(3) 本件保存方法特許の無効論ア補正要件違反等イ実施可能要件違反等(4) 差止請求の当否 3 争点に関する当事者の主張(1) 充足論(原告の主張)ア構成要件Bの含有水分量の充足性被告ダイトを除く被告らが公表しているインタビューフォームにおいて,被告製剤の含有水分量が9.0~13.0%であることが明らかにされているから,被告原薬等は構成要件Bの含有水分量を充足する。 イ構成要件C・C’の回折角の充足性(ア) 本件発明の対象は,本件明細書の段落【0008】に記載された「結晶形態A」(本件明細書において「結晶性形態A」と記載される- 11 -こともある。以下同じ。)である。構成要件C・C’の15本の回折角の数値は,結晶形態Aとの同一性を判断するための数値にすぎず,あるピタバスタチンカルシウム塩の結晶が結晶形態Aといえるためには,当該結晶の粉末X線回折測定で得られたチャートにおいて上記同一性を判断するのに十分な数のピークが確認されれば足りる の数値にすぎず,あるピタバスタチンカルシウム塩の結晶が結晶形態Aといえるためには,当該結晶の粉末X線回折測定で得られたチャートにおいて上記同一性を判断するのに十分な数のピークが確認されれば足りる。 (イ) 『第十六改正日本薬局方』(甲22)には,「同一結晶形の試料と基準となる物質との間の2θ回折角は,0.2°以内で一致する。 ……一般的には,単一相試料の粉末X線回折データベースに収載されている,10本以上の強度の大きな反射を測定すれば十分である。」との記載がある。また,『日本薬局方技術情報2011』(甲23)には,「回折角度は,装置の測定バラツキ,試料の充てんのバラツキ(試料面高さのバラツキ)の影響を受けることから,結晶形同定の規定として,回折角2θ値は±0.2°以内で一致と定められている。……通例,結晶形の同定及び判定では,結晶形に特徴的な複数のピークを選択し上記規定により行うが,本質的にはX線回折の全体的なパターンの一致が重要である。」との記載がある。これらによれば,X線粉末回折法を用いた結晶形態の同一性の判断に当たっては,±0.2°以内の誤差で一致するピークが10本以上確認されれば十分であり,場合によっては,それより少ないピーク数であっても,同一の結晶と判断できることもある。 (ウ) モチダ錠についての原告測定によれば,別紙原告測定結果のとおり,±0.2°以内の誤差で回折角の数値の一致するピークが10本以上(原告測定(ウ)につき11本,同(エ)につき10本,同(オ)につき15本)又は十分な数(同(ア)及び(イ)につき各7本)確認されたのであるから,モチダ錠及びこれに使用された被告原薬は構成要件C・C’の回折角を充足する。モチダ錠以外の被告製剤は,いずれも被告- 12 -原薬を使用して製造されたものであるから,構成要件 れたのであるから,モチダ錠及びこれに使用された被告原薬は構成要件C・C’の回折角を充足する。モチダ錠以外の被告製剤は,いずれも被告- 12 -原薬を使用して製造されたものであるから,構成要件C・C’の回折角を充足する。 ウ構成要件Cの相対強度の充足性結晶形態Aの単結晶構造から理論的に算定したピークの相対強度が25.3%であることから,結晶形態Aを使用した被告原薬等は構成要件Cの相対強度を充足する。 エ構成要件Eの示差走査熱量測定による融点の充足性原告補助参加人の販売するリバロ錠(原告製造のピタバスタチンカルシウム原薬が使用されている本件各特許の先発医薬品。以下同じ。)は,構成要件Eの「示差走査熱量測定による融点95℃を有するもの」に当たらない。被告製剤は,各インタビューフォームにおいて融点(分解点)の該当資料なしとされているから,リバロ錠の上記物性と異なるものではないと推認され,被告原薬等は構成要件Eの示差走査熱量測定による融点を充足する。 オ構成要件H・Iの含有水分量及び保存方法の充足性被告原薬が結晶形態Aである以上,被告らは,これを製剤の製造に使用するまでの間及び被告製剤を製造後販売するまでの間において,構成要件H・Iの水分量を4~15重量%に維持する保存方法を使用してピタバスタチンカルシウム塩を保存していると推認されるから,その保存方法は構成要件H・Iの含有水分量及び保存方法を充足する。 (被告らの主張)ア構成要件C・C’の回折角の充足性原告の主張イ(ア)は,発明の対象を本件各発明の構成要件に記載のない結晶形態Aを媒介として特定しようとするものであり,主張自体失当である。 同(イ)については,原告自身が本件各発明の対象を構成要件C・C’- 13 -の回折角をもって特定した以上 記載のない結晶形態Aを媒介として特定しようとするものであり,主張自体失当である。 同(イ)については,原告自身が本件各発明の対象を構成要件C・C’- 13 -の回折角をもって特定した以上,被告原薬等についても15個の回折角の数値が小数点第2位まで一致することを立証すべきである。日本薬局方等の記載は,医薬品の結晶多形の同一性を評価するための基準であり,特許権の及ぶ範囲を判定するための記載ではない。仮に原告の主張が正しいとすると,本件各発明の構成要件C・C’の回折角は,原告自身が本件優先日前に出願した別の特許文献(甲9)に記載されたピタバスタチンカルシウムの結晶質形態(甲9において結晶多形Eとされているもの)の回折角と全て一致するという不合理な結果となる。 同(ウ)については,①原告測定においては回折角の測定値が構成要件C・C’に記載された15本の数値と全てと一致する結果は得られなかったこと,②原告測定(ア),(イ),(エ)及び(オ)には,構成要件C・C’に記載されたCuKα放射線とは異なる放射光(シンクロトロン光)が使用されていること,③原告測定(オ)の方法は,モチダ錠を粉砕する過程で被告原薬の結晶構造が変化する可能性,モチダ錠の粉末の懸濁時に飽和水溶液中のピタバスタチンカルシウムが析出する可能性が看過されているなど,不合理な実験であること,④原告が別紙原告測定結果において指摘するピークには,単なるノイズを恣意的にピークと判定したものが含まれていることから,失当である。 イ構成要件Cの相対強度の充足性原告の主張ウは争う。原告測定においては,構成要件Cの相対強度が測定されていない。また,本件保存方法特許は本件結晶特許の出願から分割出願されたものであるから,本件保存方法発明についても構成要件Cの相対強度の要件を充足 原告測定においては,構成要件Cの相対強度が測定されていない。また,本件保存方法特許は本件結晶特許の出願から分割出願されたものであるから,本件保存方法発明についても構成要件Cの相対強度の要件を充足する必要があると解すべきである。 ウその余の各構成要件の充足性原告の主張はいずれも争う。 (2) 本件各特許の無効論- 14 -(被告らの主張)ア公然実施に基づく進歩性欠如本件優先日においてはリバロ錠が原告補助参加人により販売されていたところ,その有効成分であるピタバスタチンカルシウム塩の保存安定性は結晶形態Aと同じものであるから,本件各発明は,上記ピタバスタチンカルシウム塩に基づき当業者が容易に発明し得たものであり,進歩性を欠如する。 イ丙1文献又は丙2文献に基づく進歩性欠如本件優先日前に頒布された刊行物であるWO2003/064392号公報(以下「丙1文献」という。なお,特表2005-520814号公報(丙1の2,乙8)はその国内出願に係る公報である。)には,①本件結晶発明はX線粉末回折パターンで特定された結晶であるのに対し,その特定がされてない,②本件結晶発明からは融点が95℃のものが除かれているのに対し,この点が明記されていないという相違点があるほかは本件結晶発明と同一の発明が開示されていた。 また,本件優先日前に頒布された刊行物である特開平5-148237号公報(以下「丙2文献」という。乙7と同一文献。)には,上記①の相違点に加え,①本件結晶発明の含有水分量が7~13%であるのに対し,その特定がされていない,②本件結晶発明では融点の測定に当たり示差走査熱量測定がされているのに対し,融点測定に用いられた方法が不明であるという相違点があるほかは本件結晶発明と同一の発明が開示されていた。 上記 いない,②本件結晶発明では融点の測定に当たり示差走査熱量測定がされているのに対し,融点測定に用いられた方法が不明であるという相違点があるほかは本件結晶発明と同一の発明が開示されていた。 上記の各相違点に係る構成は,いずれも当業者が通常行う範囲の試行錯誤によって得ることができる程度のものであり,その作用効果も格別顕著なものではないから,本件結晶発明は進歩性を欠如し,同様に本件保存方法発明も進歩性を欠如する。 - 15 -なお,原告による本件訂正請求(前記前提事実(2)ケ)のうち,「ピークを有することを特徴とする」とあるのを「ピークを有し,7~13%の水分量において医薬品の原薬として安定性を保持することを特徴とする」と訂正する部分は,特許請求の範囲を減縮するものではない。また,「ピタバスタチンカルシウム塩」とあるのを「粉砕されたピタバスタチンカルシウム塩」と訂正する部分は,本件明細書(段落【0016】)に記載された粉末X線回折パターンが粉砕品のデータとはいえないことから,特許請求の範囲を変更するものである。したがって,本件訂正請求は不適法というべきであって,これにより上記の進歩性欠如の無効理由が解消されることはない。 (原告の主張)ア公然実施に基づく進歩性欠如リバロ錠からは本件各発明の対象である結晶形態Aの使用を確認できないから,公然実施は成立せず,被告らの主張は失当である。 イ丙1文献又は丙2文献に基づく進歩性欠如丙1文献に開示された結晶性粉末を結晶と同視できる根拠はなく,また,丙2文献の実施例の生成物はアモルファスであって結晶形態Aの回折ピークを有していないから,相違点の認定に関する被告らの主張は誤りである。また,結晶形態Aは常温でも減圧乾燥で容易に水分を失い無定形化するという物性を有しており,当業 ファスであって結晶形態Aの回折ピークを有していないから,相違点の認定に関する被告らの主張は誤りである。また,結晶形態Aは常温でも減圧乾燥で容易に水分を失い無定形化するという物性を有しており,当業者がこれを得るためにはその物性を知った上で水分量を厳密にコントロールする必要がある上,結晶形態Aには顕著な保存安定性がある。したがって,本件各発明が丙1文献又は丙2文献に基づき進歩性を欠如するとはいえない。 なお,原告はこの趣旨を明確化するため,本件結晶発明を減縮する本件訂正請求をしたから,この点からも本件結晶発明の進歩性は否定されない。 - 16 -(3) 本件保存方法特許の無効論(被告らの主張)ア補正要件違反等本件保存方法特許の原出願である本件結晶特許の当初明細書及び分割出願時の明細書には,特許請求の範囲に構成要件Cの相対強度の記載があったが,平成24年9月27日付け手続補正書(乙1の2)による補正(以下「本件補正」という。)の際にその記載が削除された。これにより,補正後の発明は出願時の特許請求の範囲を超えるものとなったから,本件補正は特許法17条の2第3項に違反する。また,補正後の出願は特許法44条1項の分割要件を満たさないものとなり,分割出願の新規性の判断時は分割出願時となるところ,同時点においては原出願についての公表特許公報(乙5)が存在していたから,本件保存方法発明は新規性を欠如する。さらに,本件保存方法発明は,本件補正により補正前後の発明との同一性を確認できなくなったから,特許法36条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件を満たさないものとなった。したがって,本件保存方法特許には無効理由がある。 イ実施可能要件違反等本件保存方法発明は,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶の含有水分を4~1 同項2号の明確性要件を満たさないものとなった。したがって,本件保存方法特許には無効理由がある。 イ実施可能要件違反等本件保存方法発明は,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶の含有水分を4~15重量%に維持することに向けた何らかの手段が必須であるところ,明細書にはこの点について具体的な記載がないから,特許法36条4項1号の実施可能要件及び同条6項2号の明確性要件を満たしていない。 (原告の主張)いずれも争う。被告らの主張アについては,試料の結晶形の特定のためには強度の大きい10本以上のピークの同一性が確認されれば十分であり,相対強度の確認までは不要というのが技術常識である。また,同イについ- 17 -ては,本件保存方法発明の本質的部分は含有水分を4~15重量%の範囲に維持してピタバスタチンカルシウム塩の結晶を保存するところにあり,その手段を問うものではない。 (4) 差止請求の当否(原告の主張)以上のとおり,被告らによる被告原薬等の製造・使用・販売等及び被告原薬の保存方法の使用はいずれも本件各発明の技術的範囲に属するから,被告らの行為は本件特許権の侵害に当たる。よって,原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づき,その差止めを求める。 (被告らの主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)イ(構成要件C・C’の回折角の充足性)についてまず,争点(1)イについて判断する。 (1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア本件各明細書の発明の詳細な説明の欄には,次の趣旨の記載がある(甲2の1及び2。なお,以下に認定する記載は本件各明細書に共通するので,以下では本件明細書の段落番号のみを摘示する。)。 本発明は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有 がある(甲2の1及び2。なお,以下に認定する記載は本件各明細書に共通するので,以下では本件明細書の段落番号のみを摘示する。)。 本発明は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用な結晶性形態のピタバスタチンカルシウム塩等に関するものである(段落【0001】)。医薬品の原薬としては,高品質で保存上安定的な結晶性形態を有することが望ましく,更に大規模な製造にも耐えられることが要求されるが,従来のピタバスタチンカルシウムの製造法においては,水分値や結晶形に関する記載がなかった(段落【0008】)。 本発明者らは,原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることで,ピタバスタチンカルシウムの安定性が格段に向上することを見- 18 -いだし,さらに,水分量が同等で結晶形が異なる形態を3種類見いだし(結晶形態A~C),その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴付けられる結晶(結晶形態A)が,医薬品の原薬として最も好ましいことを見いだし,本発明を完成させた(段落【0010】)。 結晶形態B及びCは,いずれも結晶形態Aに特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在しない結晶多形であるが,ろ過性が悪く,厳密な乾燥条件が必要であるなど欠点が多く,医薬品の原薬としては結晶形態Aが最も優れている(段落【0014】)。 結晶形態Aのピタバスタチンカルシウムは,その粉末X線回折パターン(構成要件C・C’の回折角等)によって特徴付けることができる(段落【0016】)。実施例により得られたピタバスタチンカルシウムの白色結晶は,その粉末X線回折を測定することで結晶形態Aであることが確認された(段落【0033】)。 イ本件結晶特許の出願経過は,次のとおりである。(甲9,乙5,丙2 タバスタチンカルシウムの白色結晶は,その粉末X線回折を測定することで結晶形態Aであることが確認された(段落【0033】)。 イ本件結晶特許の出願経過は,次のとおりである。(甲9,乙5,丙2 0)本件結晶特許の出願当初の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「式(1)で表される化合物であり,5~15%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,30.16°の回折角(2θ)に,相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とする結晶(結晶性形態A)。」というものであった。 これに対し,出願に係る発明は特願2006-501997号(特表2006-518354。原告を出願人とし,後に特許第5192147号として特許登録されたもの。その優先日は平成15年2月12日)の当初明細書(以下「チバ特許明細書」という。これには,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶多形A~Fが記載されている。)等により特許法29条1- 19 -項,2項又は29条の2に違反する旨の拒絶理由通知がされた。そこで,原告は,平成23年11月29日付けの手続補正書で,特許請求の範囲に15本のピークの回折角の数値(構成要件Cの数値)を記載するなどの補正をし,同日付けの意見書において,上記補正は限定的減縮に当たり,もはや1点のみのピークにより特定しているとの認定には該当しない旨主張した。なお,上記意見書において,上記回折角の数値について一定の誤差が許容されること,上記15本中の一部のピークのみの対比によって発明が特定されることをうかがわせる記載は見当たらない。 ウピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態は,本件明細書の結晶形態A~C及びチバ特許明細書の結晶多形A~F以外にも存在し得る( の対比によって発明が特定されることをうかがわせる記載は見当たらない。 ウピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態は,本件明細書の結晶形態A~C及びチバ特許明細書の結晶多形A~F以外にも存在し得る(弁論の全趣旨)。 エ粉末X線回折測定の回折角の数値により結晶形態を特定した医薬化合物の発明の特許出願には,ピークの回折角に±0.1°~0.2°の許容誤差を設けるものが多数存在し,一つの発明中で許容誤差を低角領域では±0.2~0.3°とし高角領域では±0.4°~0.5°とするものも存在する。また,結晶形態を特定するピークの本数も,数本~十数本のピークで特定するものなど多様である。(丙22~47)(2) 前記前提事実及び上記認定事実に基づき,構成要件C・C’の回折角について検討する。 ア本件各発明の構成要件C・C’においては,発明の構成が15本のピークの小数点以下2桁の回折角により特定されており,その数値に一定の誤差が許容される旨の記載や,15本中の一部のピークのみの対比によって特定される旨の記載はない。 また,上記認定の発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,ピタバスタチンカルシウム原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上すること,及び,結晶形態A- 20 -~Cの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好ましいことを見いだしたというものである。そして,結晶形態B及びCは,水分量が結晶形態Aと同等で,単に,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図で結晶形態Aに特徴的な3本のピークの回折角が存在しないことによって結晶形態Aと区別される結晶多形というのであるから,構成要件C・C’の小数点以下2桁の数値で表される15本のピーク中3本のみ相違することが,技術的範囲の属否を判別する根拠 角が存在しないことによって結晶形態Aと区別される結晶多形というのであるから,構成要件C・C’の小数点以下2桁の数値で表される15本のピーク中3本のみ相違することが,技術的範囲の属否を判別する根拠とされていることになる。 さらに,本件明細書のその余の記載をみても,結晶形態Aは構成要件C・C’の回折角等の粉末X線回折パターンによって特徴付けられるという以上の特定がされておらず(段落【0008】,【0010】,【0016】,【0033】参照。本件保存方法特許の明細書についても同様である。甲2の1及び2),回折角に一定の誤差が許容されることなどをうかがわせる記載も見当たらない。 そうすると,本件各発明の技術的範囲に属するというためには構成要件C・C’の回折角の数値が15本全てのピークについて小数点第2位まで一致することを要するというべきである。 イ上記アの解釈は,前記(1)イ~エの事実からも裏付けられる。 すなわち,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態には,本件明細書の結晶形態A~C及びチバ特許明細書の結晶多形A~F以外にも未知の結晶多形が存在し得るところ,粉末X線回折測定の回折角の数値により結晶形態を特定した医薬化合物の発明の特許出願には,ピークの回折角に±0. 1°~0.2°の許容誤差を設けるものが多数存在し,結晶形態を特定するピークの本数も数本~十数本で特定するものなど多様であって,その技術的範囲が一定の許容誤差ないし一定のピーク本数によって判断されるとの技術常識は存在しないことがうかがわれるから,構成要件C・C’に記- 21 -載された15本の数値のうち一部のみが一致し,又は一定の誤差の範囲で一致するにとどまる結晶がこれに含まれると解する場合には,本件各発明の技術的範囲への属否が一義的には定まらないこととなる。また -載された15本の数値のうち一部のみが一致し,又は一定の誤差の範囲で一致するにとどまる結晶がこれに含まれると解する場合には,本件各発明の技術的範囲への属否が一義的には定まらないこととなる。また,上記のように解すると,原告自身が本件各発明の技術的範囲に属しないことを認めている結晶形態までもがこれに属する結果になるなど(例えば,チバ特許明細書に記載の結晶形態Eは,構成要件C・C’に記載の15本のピークが全て±0.2°以内で一致する回折角を含んでいる。),不合理な結果となる。さらに,原告は,本件結晶特許の出願当初は1本のピークの回折角(許容誤差のない小数点以下2桁の数値)及び相対強度をもって発明を特定していたが,拒絶理由通知を受けて構成要件Cの回折角に係る補正をし,この補正が限定的減縮に当たる旨の意見を表明したのであるから,上記補正により,発明の技術的範囲を字義どおり小数点以下2桁の回折角の数値が15個全て一致する結晶に限定したとみるほかなく,このように解釈することが補正の趣旨に沿うものというべきである。 ウ以上によれば,本件各発明の構成要件C・C’を充足するためには,15本のピークの全ての回折角の数値が小数点第2位まで一致することを要し,その全部又は一部が一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶又はその保存方法はその技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である。 (3) これを被告原薬等についてみると,別紙原告測定結果の記載に被告らの主張するような問題点がある(甲5,27,55等によっても,原告がピークに当たると主張する角度の測定値がノイズではなくピークと判別される根拠が必ずしも明らかではない部分がある。)ことをおいても,原告測定においては,15本全てのピークについて回折角の数値が小数点第2位まで一致す 主張する角度の測定値がノイズではなくピークと判別される根拠が必ずしも明らかではない部分がある。)ことをおいても,原告測定においては,15本全てのピークについて回折角の数値が小数点第2位まで一致するような測定結果は得られなかったというのである(前記前提事実(3)エ)。そして,原告が被告原薬等に含まれるとするピタバスタチン- 22 -カルシウム塩における15本のピークの回折角は別紙物件目録記載1のとおりであり,うち9本は構成要件C・C’と相違している。そうすると,同目録記載の回折角自体から,被告原薬等は構成要件C・C’を充足しないと判断すべきことになる。 (4) 以上の認定判断に対し,原告は,①本件発明の対象は本件明細書記載の結晶形態Aであり,その充足性は当該ピタバスタチンカルシウム塩の結晶の粉末X線回折測定で得られたチャートにおいて結晶形態Aとの同一性を判断するのに十分な数のピークが確認されれば足りる,②上記の同一性の判断は,日本薬局方等の記載によれば,X線粉末回折法において±0.2°以内の誤差で一致するピークが10本以上確認されるなどすれば十分である,③別紙原告測定結果によればモチダ錠及びこれに用いられた被告原薬は構成要件C・C’の回折角を充足すると主張する。 しかしながら,本件各発明の特許請求の範囲に結晶形態Aという記載はなく,また,前記発明の詳細な説明によっても,結晶形態Aとの同一性は構成要件C・C’の回折角の数値が全て一致するか否かにより判定すべきものと解されるから,構成要件C・C’の回折角の充足性は,端的に,当該結晶がその数値を全て充足するか否かにより判断すべきものであって,上記①の主張は失当である。 また,日本薬局方は,厚生労働大臣が医薬品の性状及び品質の適正を図るため,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安 数値を全て充足するか否かにより判断すべきものであって,上記①の主張は失当である。 また,日本薬局方は,厚生労働大臣が医薬品の性状及び品質の適正を図るため,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律41条(平成25年法律第84号による廃止前の薬事法41条も同趣旨)に基づき定める医薬品の規格基準書であり,原告の挙げる各文献中の記載も,上記法律の目的とする保健衛生の向上という公益的見地から医薬品の同一性等を判断する基準として記載されたものと解される。これに対し,医薬品等に係る特許発明の技術的範囲は,明細書の記載及び図面を考慮し当該発明に係る特許請求の範囲の記載に基づいて定めるべきものであ- 23 -るから(特許法70条1項,2項),日本薬局方の記載と常に一致しなければならないものではない。したがって,上記②の主張も理由がない。 さらに,上記③の主張は,原告の主張する回折角の解釈を前提とするものであるから,明らかに失当である。 (5) なお,本件結晶特許については本件訂正請求がされているが,構成要件C・C’の回折角は訂正の対象となっていないから,訂正の許否は本件の結論に影響するものではない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 裁判官清野正彦 裁判官植 田 裕紀久 - 24 -(別紙)物件目録 裁判官植 田 裕紀久 - 24 -(別紙)物件目録 1 放射光粉末回折法(0.75Å放射線使用)において,下記回折角(括弧内にCuKα放射線における粉末回折法の場合の対応する回折角を示す。)にピークの認められるピタバスタチンカルシウム原薬2.44°( 5.02°)3.30°( 6.79°)4.41°( 9.07°)5.09°(10.47°)5.29°(10.89°)6.41°(13.20°)6.63°(13.65°)6.82°(14.05°)8.88°(18.31°)10.02°(20.68°)10.45°(21.58°)11.44°(23.65°)11.65°(24.08°)13.03°(26.98°)14.59°(30.26°) 2 次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「科研」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「科研」 - 25 - 3 次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンカルシウム錠1mg「モチダ」(2) ピタバスタチンカルシウム錠2mg「モチダ」 4 次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「MEEK」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「MEEK」(3) ピタバスタチンCa錠4mg「MEEK」 5 次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「明治」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「明治」(3) ピタバスタチンCa錠4mg「明 EEK」 5 次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「明治」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「明治」(3) ピタバスタチンCa錠4mg「明治」 6 次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「トーワ」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「トーワ」(3) ピタバスタチンCa錠4mg「トーワ」(4) ピタバスタチンCa・OD錠1mg「トーワ」(5) ピタバスタチンCa・OD錠2mg「トーワ」 7 次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「ツルハラ」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「ツルハラ」 - 26 -(別紙)原告測定結果 原告が原告測定においてモチダ錠から本件各発明の構成要件C・C’に記載された回折角に対応する回折角が観察されたと主張するピーク及び回折角の測定値は,下記の表の(ア)~(オ)欄のとおりである((ア)欄~(オ)欄の各記載がそれぞれ原告測定(ア)~(オ)に対応する。なお,「-」とあるピークは,対応する回折角のピークが観察されなかったか測定しなかったとするものを示す。)。 ピーク①②(ア)(イ)(ウ)(エ)(オ) 4.962.412.41 ○2.42 ×4.96 ○2.45 ×2.44 × 6.723.273.27 ○3.30 ×6.75 ×3.31 ×3.30 × 9.084.414.41 ○4.43 ×9.05 ×4.43 ×4.41 ○ 主文 理由 事実 争点 判断 2.98 ×13.03 × 30.1614.54- - 30.20 ×14.47 ×14.59 ×(単位:°)(注)・ ①欄の数値は,構成要件C・C’の回折角の数値を示す。 ・ ②欄の数値は,①欄の回折角(波長1.54Å)を波長0.75Åの回折角に換算した数値を示す。 ・ (ア)~(オ)欄の各右欄の○又は×は,それぞれ①欄((ウ))又は②欄((ア),(イ),(エ)及び(オ))の数値と一致するもの(○)又は一致しないもの(×)を示す。
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