平成19(許)18 文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件

裁判年月日・裁判所
平成19年8月23日 最高裁判所第二小法廷 決定 破棄自判 福岡高等裁判所 平成19(ラ)23
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判決文本文3,081 文字)

- 1 -主文原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。 抗告手続の総費用は相手方の負担とする。 理由 抗告代理人松尾紀男,抗告復代理人河野智幸の抗告理由について 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。 (1)本件の本案訴訟(佐賀地方裁判所唐津支部平成17年(ワ)第2号損害賠償請求事件)は,抗告人が,相手方の代表者であるAを被告として,同人は抗告人の取締役であったのに,競業避止義務に違反して,相手方を設立して抗告人の営む事業と同じ介護サービス事業を開始し,抗告人の従業員を違法に引き抜くとともに,抗告人の顧客名簿を利用し,抗告人に関する虚偽の風説を流布するなどして不正に顧客を奪ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。 本件は,抗告人が,奪われた顧客の特定及び損害額の確定のために必要があるとして,相手方が所持する下記の文書について,文書提出命令を申し立てた事案であり,相手方は,同文書は民訴法220条4号ハ又はニ所定の文書に当たる旨主張した。 記相手方の作成に係る平成16年3月から同年12月までの間の原々決定別紙3記載の顧客103名に関する「サービス種類別利用チェックリスト」(下記(2)参照)(2)相手方は,指定居宅サービス事業者として,介護給付費等を審査支払機関に請求するについて,審査支払機関のコンピューターと電気通信回路で接続された- 2 -コンピューターを使用して,厚生労働大臣が定める事項をその定める方式によって伝送する方式(介護給付費及び公費負担医療等に関する費用の請求に関する省令2条1項参照)を採用している。相手方がこの請求事務に使用している市販のコンピューターソフトウェアにおいては,介護給付費等を請求するために必要な情報を入力すると,原々決定別紙2のとおりの形式,体裁の「サービス種 )を採用している。相手方がこの請求事務に使用している市販のコンピューターソフトウェアにおいては,介護給付費等を請求するために必要な情報を入力すると,原々決定別紙2のとおりの形式,体裁の「サービス種類別利用チェックリスト」(以下「本件リスト」という。)が作成される。本件文書提出命令の申立ての対象はこの文書である。 本件リストには,介護サービス事業者が特定の1か月間に提供した特定の種類の介護サービスについて,①利用者名,②当該利用者の要介護状態区分又は要支援状態区分,③当該利用者が受けた個別的なサービス内容及びその回数,④各利用者ごとの当該月分の介護保険請求額,利用者請求額等が,一覧表の形式にまとめられて記載されている。その記載されている情報は,介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送する情報から,利用者の生年月日,性別等の個人情報を除いたものである。 2(1)原々審は,本件リストは,審査支払機関に提出することが予定されている介護給付費請求書(いわゆるレセプト)と実質的に同一の文書といえるから民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当しないとした上,同号ハ該当性も否定して,上記申立てに係る顧客103名中相手方が本件リストを保有していると認めることのできない7名を除いた96名の顧客に関する本件リストにつき,相手方に対して提出を命じた(以下,この命令の対象となった本件リストを「本件対象文書」という。)。 (2)これに対し,相手方が抗告したところ,原審は,本件リストは,相手方が- 3 -指定居宅サービスの利用者について介護給付費等の請求内容を確認,記録するために作成しているものであり,その作成目的,記載内容,作成経緯等に照らし,専ら相手方内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示することが予定されてい について介護給付費等の請求内容を確認,記録するために作成しているものであり,その作成目的,記載内容,作成経緯等に照らし,専ら相手方内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示することが予定されていない文書であって,外部に開示されると個人のプライバシーが侵害され,相手方と利用者及びその家族との信頼関係が損なわれ,相手方の事業の遂行に重大な支障を来すおそれがあるなどとして,本件対象文書の文書提出命令の申立てを却下した。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である(最高裁平成11年(許)第2号同年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁参照)。 これを本件についてみると,前記のとおり,本件リストは,相手方が指定居宅サービス事業者として介護給付費等を審査支払機関に請求するために必要な情報をコンピューターに入力することに伴って,自動的に作成されるものであり,その内容も,介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送される情報から利用者の生年月日,性別等の個人情報を除いたものにすぎず,審査支払機関に伝送された情報と- 4 -は別の新たな情報が付加されているものではなく,介護給付費等の ために審査支払機関に伝送される情報から利用者の生年月日,性別等の個人情報を除いたものにすぎず,審査支払機関に伝送された情報と- 4 -は別の新たな情報が付加されているものではなく,介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送した情報の請求者側の控えというべき性質のものにほかならない。そうすると,本件リストに記載された内容は第三者への開示が予定されていたものということができ,本件リストは,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないというべきである。 なお,相手方は,本件対象文書は同法197条1項3号所定の「職業の秘密」に関する事項が記載されているものであって同法220条4号ハに該当するとも主張しているが,本件対象文書は本案訴訟において取調べの必要性の高い証拠であると解される一方,本件対象文書に係る上記96名の顧客はいずれも抗告人において介護サービスの利用者として現に認識されている者であり,本件対象文書を提出させた場合に相手方の業務に与える影響はさほど大きなものとはいえないと解されること等を考えると,相手方の上記主張を採用することはできない。 以上によれば,本件対象文書の文書提出命令の申立てを却下した原審の判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,相手方に対し本件対象文書の提出を命じた原々決定は正当であるから,原々決定に対する抗告を棄却することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官今井功裁判官津野修裁判官中川了滋裁判官古田佑紀) 判長裁判官今井功裁判官津野修裁判官中川了滋裁判官古田佑紀)

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