平成16(ワ)2353 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成18年9月1日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文29,911 文字)

平成18年9月1日判決言渡平成16年第2353号損害賠償請求事件( )ワ判決主文 被告らは、原告に対し、連帯して金5183万5219円及びこれに対する平成14年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告らは、原告に対し、各自金1億0233万1966円及びこれに対する平成14年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要等 事案の概要本件は、被告医療法人社団Aが設置・運営するB総合病院に通院し、被告Cのもとで肝臓疾患の検査及び治療を受けていた亡Dが、肝細胞癌により死亡したことについて、被告らには、肝細胞癌早期発見のための検査の実施を怠った過失があるとして、亡Dの相続人である原告が、被告医療法人社団Aに対しては債務不履行又は不法行為に基づき、被告Cに対しては不法行為に基づき、それぞれ損害賠償の請求をした事案である。 前提となる事実(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。直前に示した 証拠のページ番号を〔〕内に示す。以下同じ。)(1)当事者等ア原告は、亡D(以下「亡D」という)の妻である。 。 亡Dは、昭和31年7月29日生の男性であり、平成14年4月18日に死亡した。亡Dは、旧氏名がD’であり、旧国籍が中国であったが、平成8年1月に日本の永住権を取得し、平成14年3月15日に帰化し、現氏名となった(甲B1。 )亡Dは、日本企業に勤務し、中国や欧米との貿易に関する業務に従事していた(甲B28〔1。 〕)イ被告医療法人社団A(以下「 を取得し、平成14年3月15日に帰化し、現氏名となった(甲B1。 )亡Dは、日本企業に勤務し、中国や欧米との貿易に関する業務に従事していた(甲B28〔1。 〕)イ被告医療法人社団A(以下「被告A」という)は、横浜市緑区所在の。 B総合病院(以下「被告病院」という)等の病院等を設置・運営する医。 療法人社団である(争いのない事実、甲B4)。 ウ被告C(以下「被告C」という)は、平成12年1月5日当時、被告。 病院に非常勤で医師として勤務しており、被告病院の肝臓病の専門外来で診察をしていた。また、被告Cは、それ以前から、自らが勤務するE病院(以下「E病院」という)及びF病院においても、亡Dを診察した(争。 いのない事実、乙A15。 )(2)診療経過等ア亡Dは、平成7年10月、E病院において被告Cの診察を受け、同年12月1日、腹腔鏡下肝生検の結果、肝硬変と診断された(争いのない事実、乙A2〔39、50。 〕)被告Cは、同月7日から、インターフェロン及びサイクロスポリンの投与を開始し、この投与は、平成9年1月までE病院及びF病院において継続された。その後は、小柴胡湯とウルソサン投与等が行われた(争いのない事実、乙A1ないし4。 )イ平成11年10月にF病院が閉院となったことから、亡Dは、同年11 月17日、被告病院を受診し、被告Cの診察を受けた。同日の超音波検査の結果は「慢性肝炎ないし肝硬変及び肝内に室間占拠性病変3コ」との、〕〕)。 所見であった(乙A5〔2ないし5、11ないし19、乙A15〔2ウ同月24日亡Dは被告病院を受診し、被告Cが不在であったため代診に当たった医師はB型肝硬変と診断した。また同医師は、次回診察時に腫瘍マーカーであるAFP及びPIVKA‐Ⅱの検査をすることを指示した(乙A5〔6。 告病院を受診し、被告Cが不在であったため代診に当たった医師はB型肝硬変と診断した。また同医師は、次回診察時に腫瘍マーカーであるAFP及びPIVKA‐Ⅱの検査をすることを指示した(乙A5〔6。 〕)エ平成12年1月5日亡Dは、E病院においてMRI検査を受けた。その結果は「MRI上,肝の辺縁は不整で,脾腫も認められ,LC(肝硬、変)のpatternと思われます。今回MRI上,AdvancedHCC(進行した肝細胞癌)の像は確認出来ません。経過観察して下さい」との所見であっ。 た。被告病院においては、その後、超音波検査、CT検査及びMRI検査。 、等の画像検査並びに腫瘍マーカー検査を行わなかった(争いのない事実乙A5〔7〕乙A7〔3ないし7、乙15〔3。 〕〕)オ亡Dは、平成12年3月1日及び同年5月17日に被告病院を受診したが、その後同年11月8日に再度被告病院を受診するまで、被告病院を受診しなかった(乙A5〔7、8、乙A15〔3。 〕〕)同年12月13日以降は、平成13年4月11日まで、亡Dは、一か月に1ないし2回の頻度で被告病院を受診し、被告Cの診察を受けていた(乙A8〔19、20、22、乙A15〔3。 〕〕)カ亡Dは、同年6月15日、激しい右季肋部痛が出現したため、G病院を受診した。CT検査の結果、肝腫大が著名で、mass像が認められたため、亡Dは、同月20日、被告病院を受診した。被告Cは、CT検査を行ったところ、手拳大の肝癌と思われる腫瘤状陰影が認められ、亡Dの病変につき、肝癌と診断した(甲B28〔3、乙A8〔10ないし16、20、〕〕乙A15〔3。 〕) キ亡Dは、同月29日、出張先の中国でH医院を受診し、同年7月3日に同院に入院した。CT検査等の結果、肝臓の右葉に腫瘍があると診断され 8〔10ないし16、20、〕〕乙A15〔3。 〕) キ亡Dは、同月29日、出張先の中国でH医院を受診し、同年7月3日に同院に入院した。CT検査等の結果、肝臓の右葉に腫瘍があると診断され、同年7月11日、部分的肝臓切除術を受けた。手術の結果、腫瘍の大きさは12×7㎝であり、肝細胞癌は右横隔膜筋にも浸潤し、肝門部リンパ節に転移していることが確認された(甲B28〔4、乙A13。 〕)ク亡D及び原告は、同年7月29日に帰国し、帰国後は、I病院(以下「I病院」という、J病院等を受診し、TAE(肺動脈塞栓療法)を受。)けるなどした(甲A4〔12、乙A14の1。 〕)ケ亡Dは、平成14年4月5日、上海で容態が悪化し、K病院に入院し、同月18日、同院にて、原発性肝癌により死亡した(甲A5の1ないし3、甲B28〔5。 〕) 争点 (1)平成12年1月5日以降、腫瘍マーカー検査及び画像検査を行って、肝細胞癌を発見すべき義務を怠った過失の有無(2)被告らの過失と死亡との因果関係(3)損害額 争点についての当事者の主張(1)争点(1)(平成12年1月5日以降、腫瘍マーカー検査及び画像検査を行って、肝細胞癌を発見すべき義務を怠った過失の有無)について(原告の主張)ア被告らは、肝疾患の専門医療機関あるいは専門医であるから、自分の患者が長期にわたり慢性肝炎・肝硬変である場合、厳重な経過観察を行い、肝細胞癌の発症を可及的早期に把握し、可及的早期に治療を実施する義務を、当然に負う。 本件患者は、平成7年から、被告Cが主治医であり、この時点で既に、慢性B型肝炎で肝硬変まで進展したハイリスク患者であった。その後、平 成8年2月までのインターフェロンによる治療により、いったんは肝機能数値は正常化したものの、本件患者が依然 り、この時点で既に、慢性B型肝炎で肝硬変まで進展したハイリスク患者であった。その後、平 成8年2月までのインターフェロンによる治療により、いったんは肝機能数値は正常化したものの、本件患者が依然として慢性B型肝炎であり肝硬変まで進展したハイリスク患者であることには変わりがなかった。 その上、平成11年11月から12月にかけて、再び本件患者の肝機能数値異常やAFP腫瘍マーカー高値が生じ、超音波・CTにより「肝硬変」と診断され、S5・S6に3個の肝内結節が確認された。平成12年1月5日には、E病院で撮影したMRI検査で、AdvancedHCC(進行した肝細胞癌)の像は確認できないが、経過観察が必要と診断された。 また、平成12年1月5日以降、毎回の外来診察日に定期的に行われていた血液検査及び生化学検査の結果からは、本件患者の肝細胞の破壊と線維化が進行していたことは明らかであった。 したがって、被告らは、遅くとも、E病院のMRI検査により肝硬変が再度確認され、肝細胞癌発症の早期発見にむけた厳重な経過観察が必要であると判断された平成12年1月5日以降、肝細胞癌発症のハイリスク患者である本件患者に対し、定期的に通院させて各種検査を行うという厳密な経過観察を行って、肝細胞癌の発症を可及的早期に発見・把握して、早期に治療を実施する注意義務を負っていた。具体的には、肝細胞癌の早期発見に必要な腫瘍マーカー検査及び超音波・CT・MRIの画像診断検査等の必要な検査を定期的に行うべきであった。 イ腫瘍マーカー検査については、一か月に1度、あるいはどんなに間隔があいても2か月に1度の定期で検査されなければならない。しかし、本件においては、平成11年11月29日の実施を最後に、平成13年6月20日まで、1年7か月もの間、腫瘍マーカー検査は行われなかった。 また ても2か月に1度の定期で検査されなければならない。しかし、本件においては、平成11年11月29日の実施を最後に、平成13年6月20日まで、1年7か月もの間、腫瘍マーカー検査は行われなかった。 また、画像検査については、肝硬変患者には、3か月に一度の超音波検査が必須であり、超音波検査の結果に応じて、あるいは結果にかかわらず、半年ないし1年に1回の頻度で、CT検査またはMRI検査を実施しなけ ればならない。しかし、本件では、平成12年1月5日にMRI検査を実施した以降、平成13年6月20日まで、1年5か月以上も何ら画像検査は実施されなかった。 (被告の主張)ア本件患者は平成7年の時点でB型肝硬変と診断されていたところ、肝硬変に対するインターフェロン投与は当時有効性が認められていたが、保険が適用されていなかった。そこで、被告Cは、本件患者に対して経済的負担なくインターフェロン及びサイクロスポリンを投与するため、本件患者の肝硬変に合併した活動性肝炎を重視して、病名を活動性肝炎として、平成7年12月から平成9年1月7日までの間、インターフェロン投与の治療を繰り返し行った。 その後F病院にて経過観察を行い、平成10年1月24日の時点では、本件患者の肝機能は、血小板数の若干の低下を除けば慢性肝炎といえるほど回復した。 このように保険適用の問題から病名を肝炎としたこと、原告の肝機能が慢性肝炎といえるほど回復したこと等から、被告C医師は、上記平成7年12月から平成10年1月の期間の中で原告の病名を慢性肝炎であると記憶違いするに至った。 亡Dは、平成11年11月17日に、被告病院を受診したが、そのとき本件患者が自分の病名を慢性B型肝炎と申告したこと、本件患者の肝機能予備能が十分保たれていたこと、当時の超音波検査の結果も「慢性肝炎ないし肝硬変及び肝 11月17日に、被告病院を受診したが、そのとき本件患者が自分の病名を慢性B型肝炎と申告したこと、本件患者の肝機能予備能が十分保たれていたこと、当時の超音波検査の結果も「慢性肝炎ないし肝硬変及び肝内に室間占拠性病変3コ」との診断で肝硬変とは判断できなかったこと、さらに、被告病院での診察時にE病院の診療記録を見ることができないこともあって、被告C医師は本件患者の病名についての記憶違いを改める機会を逸した。 平成11年11月24日にはCT検査を実施したが、その画像をもって 肝硬変であると鑑別することはできなかった。 さらに、平成12年1月5日にはE病院にてMRI検査を実施し、画像上は「肝硬変のパターンと思われる」との結果であったが、肝硬変と慢性肝炎との鑑別は画像のみから行うべきものではない。被告C医師はこのときのMRI検査の結果や本件患者の肝機能の状態等の総合判断から本件患者の病名について慢性肝炎との認識を変えるに至らなかった。また、このときのMRI検査では肝癌が確認できなかった。 平成12年1月6日以降平成13年6月19日までの間、本件患者は合計10回来院したが、この間被告C医師は本件患者の病名について慢性肝炎と認識していた。この誤認は前述の経緯及び本件患者の肝機能予備能が十分保たれていた事実等に照らせばやむを得ないことである。また慢性B型肝炎は、肝細胞癌発生について、必ずしもハイリスクグループとはされていない。 これらのことから、本件患者について慢性B型肝炎との認識のもとで、少なくとも平成12年5月17日までの間に、腫瘍マーカー検査や画像検査を実施しなかったことについては、やむを得ないというべきである。 イ本件患者は、平成12年5月17日の受診から約半年来院しなかったのであるから、被告らは検査を実施する機会はなかった。また、再度来院 査を実施しなかったことについては、やむを得ないというべきである。 イ本件患者は、平成12年5月17日の受診から約半年来院しなかったのであるから、被告らは検査を実施する機会はなかった。また、再度来院した平成12年11月8日も被告C医師は本件患者が慢性B型肝炎であると認識しており、この認識の下、被告C医師は本件患者のウイルス増殖を抑制するため、同年10月に健康保険適用が認められたゼフィックス(抗ウイルス剤)投与及びステロイド中断療法を早急に実施することとした。 肝癌発生についてリスクの低い慢性肝炎との認識の下では、検査より投薬治療を優先させたこの判断は不当ではない。 ウ以上のとおり、インターフェロンの保険適用のため病名を肝炎とせざるを得なかった事実、本件患者の肝機能予備能が慢性肝炎といえるほど改善 した事実、通院先の病院が度々変更になり被告C医師が従前のカルテを確認できなかった事実、通院期間の間隔が長く本件患者が自身自分の病名を慢性肝炎と申告していた事実等に照らし、被告C医師が本件患者をB型慢性肝炎と誤認し、平成12年1月5日以降腫瘍マーカー検査・画像診断検査等を実施せず投薬治療を優先させたことは、避け難いことであった。 (2)争点(2)(被告らの過失と死亡との因果関係)について(原告の主張)肝細胞癌の早期発見義務違反と死亡との因果関係の認定については「医、師が注意義務を尽くして診療行為を行っており、肝細胞癌の早期発見義務違反が存在しなければ、患者がその死亡日においてなお生存していたこと」について、統計を中心とした生命予後の医学的知見を中心に、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る高度の蓋然性が認定できるのであれば、被告らの過失と死亡との因果関係が存することとなる。 わが国において最も信頼されている大規模スタディで 心に、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る高度の蓋然性が認定できるのであれば、被告らの過失と死亡との因果関係が存することとなる。 わが国において最も信頼されている大規模スタディである第15回全国原発性肝癌追跡調査報告(甲B7)では、肝細胞癌の累積生存率は、最大腫瘍径が小さいほど高い。 また、その後に発表された第16回全国原発性肝癌追跡調査報告(甲B27)の統計でも、同様である。 本件では、原告は、平成12年1月5日のMRI検査以降の肝細胞癌の早期発見・治療義務違反を主張しているところ、同日から平成14年4月18日までの期間は、約2年数か月である。被告らが、平成12年1月5日以降も、肝細胞癌の早期発見義務を尽くしていれば、2cm以下の早期がんを発見することが可能であり、その場合の2年生存率が上記の報告によれば約90%であることからすると「医師が注意義務を尽くして診療行為を行って、おり、肝細胞癌の早期発見義務違反が存在しなければ、患者がその死亡日においてなお生存していたこと」について、通常人が疑いを差し挟まない程度 に真実性の確信を持ち得る高度の蓋然性があることは、明白である。 被告らは、本件患者のウイルス量が多いことを指摘して、因果関係を否定するが、被告らの主張は、限られた医療機関における研究であり、単なる医学的な仮説としての可能性の1つを指摘したものにすぎないから、法的因果関係は否定されない。 したがって、本件因果関係は肯定され、被告らが、前記注意義務を尽くして、肝細胞癌を早期に発見し、肝切除術、肝動脈塞栓(TEA)及び腫瘍内アルコール注入(PEI)等の肝細胞癌に対する治療を早期に実施していれば、本件患者が平成14年4月18日に死亡することは避けられたものである。 (被告の主張)アB型肝炎ウィルス関連の肝細胞 瘍内アルコール注入(PEI)等の肝細胞癌に対する治療を早期に実施していれば、本件患者が平成14年4月18日に死亡することは避けられたものである。 (被告の主張)アB型肝炎ウィルス関連の肝細胞癌においては、ウィルス量が重要な予後因子である。 長崎大学の報告(乙A11)によれば、B型肝炎ウイルスe抗原陰性で、、かつ、B型肝炎ウイルスDNA値が3.7LGE/ml以上の患者については肝細胞癌診断後2年生存率は55%程度、同3年生存率は38%程度であるが、B型肝炎ウィルスe抗原陽性の患者の肝細胞癌診断後1年生存率は40%程度、2年生存率は12%程度、3年生存率は10%以下である。 本件患者は、B型肝炎ウイルスe抗原は陰性であったものの、平成12年から同13年にかけてB型肝炎ウイルスDNA値は6.0~7.0LGE/mlであった。これは、同DNA値高値と判断する基準である3.7LGE/mlの2倍近い数値である。このようにB型肝炎ウイルスDNA値が6. 0~7.0LGE/mlと高値である場合、生存率の観点においては、B型肝炎ウイルスe抗原陽性の患者と同視できる。 また、大阪市立大学医学部の平成11年の報告(乙A12)によれば、肝細胞癌に対する完治的切除手術が実施された40名の患者のうち、B型 肝炎ウイルスDNA値も高値の22名については、術後1年で50%弱に再発が認められ、術後2年で50%以上に再発が認められ、術後2年半後には70%に再発が認められている。 以上のような、B型肝炎ウイルスDNA量と予後の考察に照らすと、本件患者の生存率については、たとえ、早期に肝細胞癌の切除手術を実施したとしても、肝細胞癌診断後2年の生存率が12%程度といえる。 本件患者について、肝細胞癌が発見し得た期間は、MRIにて肝細胞癌が確認されなかった平成12年1月5 え、早期に肝細胞癌の切除手術を実施したとしても、肝細胞癌診断後2年の生存率が12%程度といえる。 本件患者について、肝細胞癌が発見し得た期間は、MRIにて肝細胞癌が確認されなかった平成12年1月5日から、G病院にて肝腫瘤を発見される前の最後の被告病院受診日である平成13年4月11日までの約1年3か月の間である。この間に、肝細胞癌を発見して手術を実施していたとしても、本件患者が、本件患者死亡日である平成14年4月18日時点でなお生存していた可能性については、ウイルス量高値患者の生存率に関する報告に照らしてみれば、12~40%程度(B型肝炎ウイルスe抗原陽性患者の診断後2年~1年の生存率相当)と解される。 これに対し、本件患者の死亡と被告Cの不作為との因果関係が肯定されるためには、本件患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されることが必要である。 このような高ウイルス量患者の生存率に照らしてみれば、本件患者について、仮に平成12年1月5日以降のより早い時期に肝細胞癌を発見して手術を実施していたとしても、本件患者が平成14年4月まで生存していたという高度の蓋然性は認められない。 よって、本件において、因果関係は否定されるべきである。 イ本件患者は、平成13年7月11日にH医院において肝癌摘出手術を受けているところ、その際のCT画像によると、その腫瘍は、中肝静脈を越えることはないが、肝右葉前後2区域に存在し、腫瘍径12センチメートル肝内門脈第2~3枝浸潤(+)限局性腹水(+)であり、肝機能データ からは日本肝癌研究会原発性肝癌取扱い規約による肝障害度:CChild-Pugh分類:B(Score7)点である。 CT画像からは少なくとも肝右葉切除(肝の60%切除)が必要であるが、肝障害度:CCh らは日本肝癌研究会原発性肝癌取扱い規約による肝障害度:CChild-Pugh分類:B(Score7)点である。 CT画像からは少なくとも肝右葉切除(肝の60%切除)が必要であるが、肝障害度:CChild-Pugh分類:B(Score7点)の本症例においては、右葉切除は不可能であり最高に見積もっても亜区域切除(15%)が限界と考えられる。したがって、本症例に右葉切除を行ったのは、減量切除(癌の量を減らす治療)だと考えられるが、この場合には、その後にTAEやTAIなどの追加治療を行わないと直ちに再発するので意味がない。 本件では、手術をしてかえって肝予備能を落とし、患者の状態を悪化させたと考えられる。 事実、その後、I病院では胸水の治療を強いられている。 本例においては、腫瘍径12センチであることから考えてTAEが最適治療である。 よって、本件では、不適切な肝切除を行うより、TAEを施行した方が長期生存ができたと考えられる。 本件患者が平成14年4月14日に死亡したのは、不適切な肝癌摘出手術によるものであったと考えられ、肝癌発見の遅れと平成14年4月14日の本件死亡との間に因果関係はない。 (3)争点(3)(損害額)について(原告の主張)ア本件患者の損害金8964万9906円(ア)死亡慰謝料金2800万円本件患者は、本来防止し得た医療過誤により、肝細胞癌が発見されたときには既に手遅れであって、肝細胞癌であることを知らされてから1年も経たないうちに、45歳の若さで死亡するに至ったのであるから、本件患者の無念さは、想像するに余りある。その上、被告Cの経歴及び 地位に照らすと、同被告の過失は重大であり、かつ訴訟前後を通じての事後対応は不誠実であると言わざるを得ず、これらは慰謝料の増額事由として考慮すべきである。 このような被害は 、被告Cの経歴及び 地位に照らすと、同被告の過失は重大であり、かつ訴訟前後を通じての事後対応は不誠実であると言わざるを得ず、これらは慰謝料の増額事由として考慮すべきである。 このような被害は、金銭で贖えるものではなく、容易に金銭評価することはできないが、民法の金銭賠償の原則に従い、あえて金銭評価を行なうとすると、少なくとも金2800万円を下ることはない。 (イ)死亡による逸失利益金6164万9906円医学的な統計資料において、癌の早期治療のケースで、治療不実施ケースに比して累積5年生存率や10年生存率が良好とされている場合には、患者が早期治療を受けたとしても、就労可能期間の終期まで生存できないことが確実と言えない限り、原則として、本件患者が就労可能期間の終期まで生存して就労し得ることを前提に、逸失利益を算定すべきである。 肝細胞癌に対する肝切除症例の5年生存率ないし10年生存率は、それぞれ最大腫瘍径2cm以下では67.4%・33.9%、肉眼的進行度Iでは72.6%・42.2%、進行度Ⅱでは59.9%・32.6%である。すなわち、早期に診断され治療を受ければ、5年後は10名のうち6ないし7名が生存しており、10年後は10名のうち3名は生存しているのである。これらの統計資料からすれば、本件患者が早期に診断され治療を受けたとしても、5年後ないし10年後には死亡していることが確実と言うことはできない。 肝細胞癌における15年生存率や20年生存率といった統計資料は存在しない。しかし、癌治療においては、5年生存率や10年生存率が治癒の指標とされている。したがって、5年生存率や10年生存率の統計資料から、5年後ないし10年後には死亡していることが確実と言えない限り、その後は少なくとも就労可能期間の終期まで生存することを前 提として れている。したがって、5年生存率や10年生存率の統計資料から、5年後ないし10年後には死亡していることが確実と言えない限り、その後は少なくとも就労可能期間の終期まで生存することを前 提として、逸失利益を算定すべきである。 本件患者は、昭和31年7月29日生であり、死亡時である平成14年4月18日には約45歳9か月であった。本件患者の平成13年の基礎収入額は、賃金センサス平成13年第1巻第1表・男性労働者学歴計45~49歳の年収額によると、金686万9300円である。 上記基礎収入額を基礎とし、就労可能年数を67歳までの21年間、ライプニッツ式計算方法により年5パーセントの割合で中間利息を控除(ライプニッツ係数12.821、生活費控除率を30パーセントと)して計算すると、本件患者の死亡による逸失利益は、以下のとおりとなる。 金686万9300円×(1-0.3)×12.821=金6164万9906円(ウ)相続本件患者の損害全額について、遺産分割により原告が相続した。 イ原告固有の慰謝料金200万円原告は、医療過誤により、かけがえのない夫を失ったことで、甚大な精神的損害を負い、その残念さ・無念さは筆舌に尽くし難い。このような事情を考慮すると、原告は、本件患者の死亡慰謝料とは別途、固有の損害として、少なくとも金200万円の慰謝料請求権を有している。 ウ葬儀関係費用金120万円原告は、本件患者の死亡により、葬儀関係費用として金120万円の出捐を余儀なくされた。 エ証拠保全費用金18万2060円医療過誤による損害賠償請求訴訟を提起する場合においては、医療機関が所持するカルテを証拠保全することは、当然に必要であると解されているから、証拠保全の際のカルテ等の謄写に要する費用は、本件医療過誤と 相当因果関係のある損害である する場合においては、医療機関が所持するカルテを証拠保全することは、当然に必要であると解されているから、証拠保全の際のカルテ等の謄写に要する費用は、本件医療過誤と 相当因果関係のある損害である。 本件の証拠保全において謄写業者に対して支払った費用は、金18万2060円である。 なお、上記証拠保全費用のうち一部は、E病院に対する証拠保全の費用であるが、本件患者がE病院において診察を受けたのは、被告病院の担当医・被告C医師の指示に基づくものであるから、これについても、当然、被告らが負担すべきである。 オ弁護士費用金930万円本件に要する弁護士費用のうち、少なくとも上記損害額金9303万1966円の約1割に相当する金930万円は、本件医療過誤と相当因果関係のある損害である。 カ合計額金1億233万1966円したがって、原告は、被告ら各人に対し、金1億233万1966円の損害賠償請求権を有する。 (被告の主張)争う。 仮に、本件患者の死亡と被告らの行為との因果関係が肯定されたとしても、B型肝炎ウィルスDNAが高値である患者の予後は不良であることからすると、本件患者の逸失利益算定の基礎となる労働能力喪失期間は、1~2年程度である。 第3当裁判所の判断 事実関係証拠によれば、本件の診療経過等に関し、以下のとおり認められる。 (1)亡Dは、昭和60年頃、上海の病院において、慢性B型肝炎と診断された。平成元年頃、全身倦怠感が生じたことから、L病院に通院し、漢方薬の〕、処方を受けたが、通院を中止し、その後放置していた(乙A1〔4、42 乙A2〔34。 〕)亡Dは、平成7年10月11日、全身倦怠感が増強し、M病院(以下「M病院」という)を受診した。M病院においては、肝硬変(B型)との診断。 がされ、同年11月9日、同院に入 乙A2〔34。 〕)亡Dは、平成7年10月11日、全身倦怠感が増強し、M病院(以下「M病院」という)を受診した。M病院においては、肝硬変(B型)との診断。 がされ、同年11月9日、同院に入院の上、強力ミノファーゲンによる治療が開始されたが、亡Dは、インターフェロンの投与を希望し、知人から重症の肝炎治療の専門家として被告Cを紹介され、治療費に関する便宜をも期待して、同月21日、E病院を受診し、被告Cの診察を受け、同月29日、E病院に転院した(甲A6〔3ないし4、甲B28〔2、乙A1〔4、4〕〕2、乙A2〔5、34、乙A15〔1。 〕〕〕)(2)E病院では、同年12月1日、腹腔鏡下肝生検を行い、肝硬変と診断された。また、今回の急性増悪の後も、さらに活動性を持続し、再燃する可能性もあると診断された(乙A2〔39、50。 〕)被告Cは、同月7日から、インターフェロン及びサイクロスポリンの投与を開始した。この投与に当たっては、被告Cは、健康保険の適用とすることにより、亡Dの経済的負担を軽減するため、保険病名をB型肝炎とし、また、サイクロスポリンにかかる費用は、被告Cの研究費で負担した(乙A2〔94、乙A15〔1、原告〔11。 〕〕〕)(3)亡Dは、同月12日、E病院を退院し、F病院に転院した。F病院においても、被告Cが亡Dを診察し、インターフェロン又はイントロン及びサイクロスポリンの投与を継続した。平成8年1月20日、亡Dは、F病院を退院した(乙A2〔41、乙A3〔17ないし22、乙A15〔1、2。 〕〕〕)亡Dは、F病院退院後はE病院に通院し、同年2月6日まで、同様の処方を受けた。その後、平成8年11月13日から、平成9年1月7日まで、F病院において、インターフェロン及びサイクロスポリンの処方が継続され は、F病院退院後はE病院に通院し、同年2月6日まで、同様の処方を受けた。その後、平成8年11月13日から、平成9年1月7日まで、F病院において、インターフェロン及びサイクロスポリンの処方が継続された(乙A1〔8ないし10、乙A4〔3、12、13、22ないし24、3〕3、34、43ないし47、56、57、59、60、69ないし73、〕 乙A15〔2。 〕)亡Dは、その後もF病院への通院を継続していたが、被告Cは、B型肝炎ウィルスの激しい増殖が見られ、インターフェロンが有効性を示さなくなったことから、同月8日以後は小柴胡湯とウルソサン投与を行いながら経過観察をする方針として、平成10年5月16日まで同様の処方を継続した(乙A4〔73ないし173、乙A15〔2。 〕〕)同月20日、抗ウィルス剤であり、当時はHIVにのみ認可されていたラミブジン(商品名エピビル)が入手可能になったため、被告Cは、亡Dに対し、同薬を処方し同年8月5日まで投与を継続したが、効果が明らかではなかったため、以後投与を中止した。以後は、引き続きウルソサンを投与したのに加えて、強力ミノファーゲンCを投与したが、後者については、同年12月以降、亡Dの希望により、近医であるN診療所に投与を依頼した(乙A4〔189ないし192、209、210、233ないし235、247、248、257ないし259、278、279、303ないし304、乙〕A15〔2。 〕)(4)平成11年10月、F病院が閉院となったことから、亡Dは、同年11月17日、被告病院を受診し、問診票にはそれまでに肝臓病と診断されたことがあると記載して、被告Cの診察を受けた。同被告は、平成7年末以降長期間にわたって、保険病名を慢性肝炎として診療を継続してきたことから、亡Dが肝硬変に罹患したまま はそれまでに肝臓病と診断されたことがあると記載して、被告Cの診察を受けた。同被告は、平成7年末以降長期間にわたって、保険病名を慢性肝炎として診療を継続してきたことから、亡Dが肝硬変に罹患したままそれが治っていない状況にあることを失念し、診療録に傷病名をB型慢性肝炎と記載して、超音波検査を行ったところ、その結果は「慢性肝炎ないし肝硬変及び肝内に室間占拠性病変3コ」との所、見であったが、これを見ても亡Dが肝硬変に罹患していることを思い出せなかった(甲A6〔5ないし7、乙A5〔2ないし5、11ないし21、乙〕〕A15〔2。 〕)(5)同月24日、亡Dは被告病院を受診した。被告Cが不在であったため、 代診に当たった医師が、腹部CT検査及び超音波検査を行った。CT検査においては造影される病変は認められなかったが、超音波検査では高エコー塊が認められ、診察に当たった医師は、B型肝硬変と診断した。また、同日行った腫瘍マーカー検査においては、α‐フェトプロテインCLIAが44. 9ng/mlと高値を示しており、同医師は、次回に腫瘍マーカーであるAFP及びPIVKA‐Ⅱの検査をすることを指示した(乙A5〔6、乙A6〕〔5。 〕)(6)同年12月8日の被告病院での診察時に、被告Cが亡Dに対しE病院でのMRI撮影を指示したため、同月10日、亡DはE病院を受診し、平成12年1月5日MRI検査が行われた。その結果は「MRI上,肝の辺縁は不整で,脾腫も認められ,LC(肝硬変)のpatternと思われます。今回MRI上,AdvancedHCC(進行した肝細胞癌)の像は確認出来ません。経過観察して下さい」との所見であった。被告病院においては、その後、超音波検。 査、CT検査及びMRI検査等の画像検査並びに腫瘍マーカー検査を行わなかった(争い した肝細胞癌)の像は確認出来ません。経過観察して下さい」との所見であった。被告病院においては、その後、超音波検。 査、CT検査及びMRI検査等の画像検査並びに腫瘍マーカー検査を行わなかった(争いのない事実、乙A5〔6ないし7、乙A7〔3ないし7、。 〕〕乙15〔3。 〕)なお、亡Dは、平成11年12月10日のE病院における内科質問表において、自己の病名について、慢性肝炎と申告した(乙A7〔2。 〕)(7)亡Dは、平成12年3月1日及び同年5月17日に被告病院を受診したが、その後同年11月8日に再度被告病院を受診するまで、被告病院を受診しなかった(乙A5〔7、8、乙A9〔1、乙A15〔3。 〕〕〕)同年の10月から、B型慢性肝炎に対してラミブジン(商品名ゼフィックス)が健康保険の適用になったことから、同年12月13日から、ラミブジンとステロイド中断療法による慢性肝炎の治療が開始された。その後平成13年4月11日まで、亡Dは一か月に1ないし2回の頻度で被告病院を受診〕、し、被告Cの診察を受けていた(乙A8〔19、20、22、乙A9〔1 2、乙A15〔3。 〕〕)(8)亡Dは、同年6月15日、激しい右季肋部痛が出現したため、G病院を受診した。CT検査の結果、肝腫大が著名で、mass像が認められた(乙A8〔10。 〕)亡Dは、同月20日、G病院の紹介状及びCT画像を持参して、原告とともに、被告病院を受診した。被告Cは、CT検査を行ったところ、手拳大の肝癌と思われる腫瘤状陰影が認められ、亡Dの病変につき、肝癌と診断したが、そのことを亡Dにも原告にも告げず、亡Dから中国への出張の予定があると告げられたのに対し、特にその期間を確かめず、次の診察日も決めないまま、短期間の出張であろうとの理解の下にこれを許可し、 したが、そのことを亡Dにも原告にも告げず、亡Dから中国への出張の予定があると告げられたのに対し、特にその期間を確かめず、次の診察日も決めないまま、短期間の出張であろうとの理解の下にこれを許可し、帰国後直ちに入院するようにと告げた(甲A6〔25ないし28、甲B28〔3、乙A8〕〕〔12ないし16、20、乙A15〔3。 〕〕)被告Cは、同日、G病院担当医師宛ての紹介患者経過報告書に「遠隔地、の患者でキメ細かいfollowができず、また、それほど進行していないBということで、HCC(肝細胞癌)の増大を見てしまいました。緊急に入院して頂き治療を開始します」と記載した(乙A8〔12。 。 〕)、(9)亡Dは、同年6月下旬から、香港、北京及び上海への出張に出かけたが同月29日、体調不良を感じたことから、H医院を受診し、同年7月3日に同院に入院した。CT検査等の結果、肝臓の右葉に腫瘍があると診断され、同年7月11日、肝Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ部の部分的肝臓切除術を受けた。手術の結果、腫瘍の大きさは12×7㎝であり、肝細胞癌は右横隔膜筋にも浸潤し、肝門部リンパ節に転移していることが確認された(甲B28〔4、乙A13。 〕)(10)亡D及び原告は、同年7月29日に帰国し、同年8月7日、I病院を外来受診し、同月17日、同病院に入院した。同日、TAEが施行され、また胸水の貯留が認められたため、入院中に合計3回、穿刺吸引が行われ、同月25日、退院した(甲A4〔1、2、乙A14の1。 〕) 亡Dは、同月27日、I病院の紹介により、TAE施行目的で、J病院に入院したが、I病院でのTAEの効果により肝臓癌が認められなかったため、TAEは施行されず、同月29日に退院したが、同年9月28日には再び胸水による呼吸困難を訴えて同病院に入院し、その時点で左 院に入院したが、I病院でのTAEの効果により肝臓癌が認められなかったため、TAEは施行されず、同月29日に退院したが、同年9月28日には再び胸水による呼吸困難を訴えて同病院に入院し、その時点で左冠動脈に28mmにわたる腫瘍栓が認められた上、同年10月11日の造影検査により、肝両葉に多数の腫瘤染色がみられ、肝臓病の進行度は、最高度を示すStageⅣ‐Bと診断され、TAEの施行により小康を得たため、同年11月26日に退院した(乙A14の2、乙A14の4。 )その後、亡Dは、平成14年4月4日まで、I病院等への入通院をしたが、症状の好転がないまま、同日、原告とともに上海に帰省した(甲B28。 〔4、5)〕(11)亡Dは、同月5日、上海で容態が悪化し、K医院に入院し、同月18日、同院にて、原発性肝癌により死亡した(甲A5の1ないし3、甲B28〔5。 〕) 医学的知見証拠によれば、本件に関する医学的知見については、以下のとおり認められる。 (1)慢性肝炎ないし肝硬変と肝細胞癌との関係ア肝細胞癌は、そのほとんどが慢性肝炎ないし肝硬変等の慢性肝疾患の基盤の上に発生する。特に、肝硬変に進展したものでは発癌率は高いとされている(甲B11〔156、甲B17〔74。 〕〕)第15回全国原発性肝癌追跡調査報告においては、肝細胞癌では慢性肝炎の既往がある症例は74.1%、肝硬変の既往がある症例は63.3%とされている。肝細胞癌の剖検例では、肝硬変は69.9%に見られている。また、第16回の同調査報告においても、細胞癌では慢性肝炎の既往がある症例は77.4%、肝硬変の既往がある症例は62.6%とされて いる。肝細胞癌の剖検例では、肝硬変は80.7%に見られたとされ、同〕〕)。 様の結果となっている(甲B7〔11、13、甲B27〔 症例は77.4%、肝硬変の既往がある症例は62.6%とされて いる。肝細胞癌の剖検例では、肝硬変は80.7%に見られたとされ、同〕〕)。 様の結果となっている(甲B7〔11、13、甲B27〔11、13イこのように、慢性肝炎ないし肝硬変等の慢性肝疾患は、肝細胞癌のハイリスクグループであることから、慢性肝炎ないし肝硬変の患者に対しては、厳重な経過観察が必要とされており、以下のような検査を行うものとされている。 (2)肝細胞癌発見のための検査方法ア血液検査・肝機能検査GOT(AST、GPT(ALT)のトランスアミナーゼは逸脱酵素)と呼ばれ、これらの上昇は肝細胞の変性・壊死を反映するため慢性肝炎の診断、肝炎活動性の評価、治療効果判定などに必須である。GOTの正常値は、各機関によって若干異なるが(以下同じ、5~35U/l、GPTの)正常値は6~37U/l程度である(甲B18〔5、甲B22〔122。 〕〕)γ‐GTPは、肝細胞の異変により上昇する検査項目であり、正常値は0~40U/l程度である(甲B22〔123、124。 〕)ZTT(硫酸亜鉛混濁試験)及びTTT(チモール混濁試験)は、血清中のタンパク質を調べることにより肝機能を検査する試験であり、ZTTの正常値は4~12U、TTTの正常値は0~5.5U程度である(甲B22〔126、127。 〕)Ch‐E(コリンエステラーゼ)とは、体内にあるアセチルコリンをコリンと酢酸に分解する働きがある。正常値は、135~413U/l程度とされている(甲B22〔128、129。 〕)Alb(アルブミン)は血液蛋白の一部であり、その正常値は、3.6~4.8g/dlとされている(甲B13〔5、乙A1〔52。 〕〕)血小板(PLT)の低下は、肝臓での繊維化の進展を反映するとされ、 lb(アルブミン)は血液蛋白の一部であり、その正常値は、3.6~4.8g/dlとされている(甲B13〔5、乙A1〔52。 〕〕)血小板(PLT)の低下は、肝臓での繊維化の進展を反映するとされ、正常値は15万以上であり、10万以下になると肝硬変を疑うことができ るとされる(甲B13〔5、甲B19〔11。 〕〕)イ腫瘍マーカー検査肝硬変患者の経過観察のためには、血液検査では肝機能検査とともに腫瘍マーカーであるAFPやPIVKA-Ⅱを1~2か月に1回測定する必要があるとされる。AFPが200ng/ml以上の時は、肝細胞癌を疑う必要があるとされ、400ng/mlであれば、肝細胞癌を強く疑うとする見解がある(甲B16〔376、甲B17〔75。 〕〕)ウ画像検査肝癌の早期発見のスクリーニング的画像診断としてまず挙げられるのが、腹部超音波検査であり、外来において小さな肝細胞癌を発見する検査として極めて有用であるとされる。この超音波検査は、非侵襲的で簡便であり、ミリサイズの肝癌の描出も可能であるとされる(甲B8〔202、甲B〕10〔238。 〕)CT検査については、ヘリカルCTを用いることにより、小肝細胞癌の発見が可能であるとされる。また、MRIは、その物理的特性から、組織の性状を見るのに有用であるとされている(甲B8〔204。 〕)慢性肝炎症例は、6か月に1回の超音波検査、肝硬変症例においては、3か月に1回の超音波検査の施行が必要であり、異常所見が認められた場。 、合に、CTないしMRIを行うべきとする見解が多い(甲B9〔188189、甲B12〔142、甲B13〔7、甲B14〔69、甲B1〕〕〕〕6〔376。 〕)エ肝生検上記の画像診断で確定診断が得られない場合は、超音波下生検を行って肝細胞癌の 〔188189、甲B12〔142、甲B13〔7、甲B14〔69、甲B1〕〕〕〕6〔376。 〕)エ肝生検上記の画像診断で確定診断が得られない場合は、超音波下生検を行って肝細胞癌の診断を確定する。B型肝炎では血液検査のみで肝病変の進展度を知り得ないことがあり、肝生検の必要性は高いとされる(甲B12。 〔142、甲B16〔376、甲B18〔11。 〕〕〕) オ以上の検査を組み合わせて、肝疾患の経過観察を行っていくことになるが、早期の診断のためには、慢性肝炎症例は3か月に1回の腫瘍マーカーの測定と6月に1回の超音波検査、肝硬変症例は1か月に1回の腫瘍マーカー検査と3か月に1回の超音波検査を施行し、超音波検査で異常所見を描出した場合、CTないしMRIで確認、精査を行い、必要に応じて血管造影検査を施行する必要があるとされる。以上の画像検査で確定診断が得られない場合は超音波下生検を行って診断を下すこととされ、このような診断体系に基づいてハイリスク症例を経過観察していけば、早期に肝細胞癌を発見することが可能であるとされる(甲B9〔188、189、甲〕B12〔142、甲B16〔376、甲B17〔74、75。 〕〕〕)(3)肝細胞癌の治療方法肝細胞癌に対する治療法には、肝切除、肝動脈塞栓療法(TAE、エタ)ノール注入療法(PEI)等の方法がある(甲B12〔142。 〕)ア外科的切除肝切除の適応は、肝機能の程度、癌の進行程度及び病変の径の大きさ等によって決定される。肝予備能が良好で、肝臓癌が1区域内に限局していれば第1選択の治療法であるとされるが、2㎝以下の小肝細胞癌については、内科的治療の成績が生存期間の延長という点で外科的治療と全く変わらないとされており、最大径4㎝以上の場合に手術を初回治療とするの れば第1選択の治療法であるとされるが、2㎝以下の小肝細胞癌については、内科的治療の成績が生存期間の延長という点で外科的治療と全く変わらないとされており、最大径4㎝以上の場合に手術を初回治療とするのがよいとする見解もある(甲B11〔160、甲B12〔143、甲B1〕〕7〔78。 〕)イ肝動脈塞栓療法(TAE)肝動脈塞栓療法(TAE)とは、腫瘍に栄養を供給する血管に選択的にカテーテルを挿入し塞栓することにより、腫瘍の壊死を図る方法である。 非癌部肝組織が主として門脈支配であるのに対して、肝癌が動脈支配であることを利用した治療法である。切除不能である比較的大きな腫瘍や多発 した腫瘍が、主として適応になる(甲B8〔218。 〕)ウエタノール注入療法(PEI)エタノール注入療法(PEI)とは、肝細胞癌に対し、腹部エコー下に経皮的にエタノールを注入することにより腫瘍部分を脱水させ凝固壊死を起こさせる治療法である。一般的な適応は3㎝以下かつ3個以下とされるが、それよりも適応を拡大する見解もある(甲B8〔216、甲B11〕〔160。 〕)(4)肝細胞癌の予後ア第15回全国原発性肝癌追跡調査報告によれば、肝細胞癌に対する肝切除が行われた全症例2万1711例の1年生存率は87.4%、2年生存率は77.8%、3年生存率は69.0%、4年生存率は60.3%、5年生存率は52.3%、6年生存率は45.2%、7年生存率は38.6%、8年生存率は33.7%、9年生存率は29.8%、10年生存率は27.3%である。 次に、同調査報告における、肝細胞癌に対する肝切除が行われた症例のうち、腫瘍の個数が1個で腫瘍径2㎝以下であり、臨床病期Ⅰすなわち肝機能が良好なケース2233例における1年生存率は97.3%、2年生存率が94.2%、3年生 肝細胞癌に対する肝切除が行われた症例のうち、腫瘍の個数が1個で腫瘍径2㎝以下であり、臨床病期Ⅰすなわち肝機能が良好なケース2233例における1年生存率は97.3%、2年生存率が94.2%、3年生存率が89.7%、4年生存率は82.5%、5年生存率は75.5%、6年生存率は68.5%、7年生存率は61. 2%、8年生存率は54.7%、9年生存率は47.1%、10年生存率は40.4%である。 また、肝細胞癌に対するエタノール注入療法が単独で行われた全症例5736例の1年生存率は92.3%、2年生存率は81.2%、3年生存率は69.9%、4年生存率は59.2%、5年生存率は48.8%、6年生存率は41.2%、7年生存率は36.0%、8年生存率は31.4%、9年生存率は31.4%、10年生存率は31.4%である。 さらに、同様の条件で肝細胞癌に対するエタノール注入療法が単独で行われた症例のうち、腫瘍の個数が1個で腫瘍径2㎝以下であり、臨床病期Ⅰすなわち肝機能が良好なケース1357例における1年生存率は97. 9%、2年生存率は93.7%、3年生存率が86.1%、4年生存率は79.6%、5年生存率は67.1%、6年生存率は57.5%、7年生存率は50.4%、8年生存率は41.8%、9年生存率は41.8%、10年生存率は41.8%である(以上甲B7Table171,172,174 。 )イ肝細胞癌の515例を対象に行われた調査報告では、肝細胞癌の予後不良因子として、病因にHBV(B型肝炎ウィルス)が関与すること、臨床病期がⅢ期であること、腫瘍が多発していること、腫瘍径が5㎝を超えること、AFPが100ng/ml以上であること、門脈腫瘍塞栓が存在すること、の6因子が挙げられている(甲B24〔1368。 〕) 争点(1)(平成12年1月5 していること、腫瘍径が5㎝を超えること、AFPが100ng/ml以上であること、門脈腫瘍塞栓が存在すること、の6因子が挙げられている(甲B24〔1368。 〕) 争点(1)(平成12年1月5日以降、腫瘍マーカー検査及び画像検査を行って、肝細胞癌を発見すべき義務を怠った過失の有無)について(1)ア亡Dが平成7年以降肝硬変に罹患しており、それが治癒しないままの状態であったことは被告Cも認めているところ(甲A6〔6、上記1〕)(1)ないし(4)で認定した事実によると、同被告がより適切な医療をより安価に提供できるよう亡Dに便宜を図るために、同人の保険病名を慢性肝炎として、長期間診療を継続したことから、同被告及び亡Dはともに平成11年11月ころまでには亡Dの疾患が肝硬変であることを失念し、それが慢性肝炎であると思い込むに至っていたと認められる。 しかし、このように患者の疾患が何であったかを失念し、他の疾患であると誤解すること自体が、医師としての初歩的かつ重大な義務違反に当たると言わざるを得ないし、次のとおり、その後の診療過程において、その誤解を解く機会が十分にあったと認められる。 すなわち、第1に、上記1(4)認定のとおり、平成11年11月17日 の超音波検査の結果は「慢性肝炎ないし肝硬変及び肝内に室間占拠性病、変3コ」との所見であり、肝硬変の可能性が示唆されていた。第2に、上記1(5)認定のとおり、同月24日に診察に当たった被告病院医師は、亡Dの疾患について肝硬変と診断し、その旨及び腫瘍マーカーを追加すべきことをカルテに記載したことが認められ、次回以降も同じカルテを使用していることからすれば、このカルテの記載については、当然に被告Cも確認したと認められる。第3に、上記1(6)認定のとおり、被告病院での診察時における被告Cの が認められ、次回以降も同じカルテを使用していることからすれば、このカルテの記載については、当然に被告Cも確認したと認められる。第3に、上記1(6)認定のとおり、被告病院での診察時における被告Cの指示により、平成12年1月5日に行われたE病院、,でのMRI検査の結果「MRI上,肝の辺縁は不整で,脾腫も認められLC(肝硬変)のpatternと思われます。今回MRI上,AdvancedHCC(進行した肝細胞癌)の像は確認出来ません。経過観察して下さい」と。 の所見であった。 以上の事実からすれば、被告Cは、平成12年1月5日に行われたE病院でのMRI検査の結果を確認した以降は、亡Dの疾患が肝硬変であったことを思い出し、それに対応した経過観察措置をとるべきであったというべきである。 イ他方、上記2(2)イ、ウ及びオのとおり、一般に肝硬変患者の経過観察のためには、腫瘍マーカーであるAFPやPIVKA-Ⅱを1~2か月に1回測定する必要があるとされていること、慢性肝炎症例は、6か月に1回の超音波検査、肝硬変症例においては、3か月に1回の超音波検査の施行が必要とされていることが認められる。 亡Dについては、前記認定のとおり、平成7年から肝硬変となっていた上、平成11年11月の超音波検査で肝内に占拠性病変が3個発見され、腫瘍マーカー値にも異常値があらわれ、平成12年1月5日に実施したMRI検査においても、進行した肝細胞癌は発見されなかったものの、経過観察の必要性が指摘されていたことからすると、一般の肝硬変患者以上に 厳密な経過観察の必要性が生じていたと認められ、被告Cは、同日以降、少なくとも一般の肝硬変患者の経過観察措置として要求されている腫瘍マーカーであるAFPやPIVKA-Ⅱを1~2か月に1回測定すべき義務及び3か月に1回の超音波検 いたと認められ、被告Cは、同日以降、少なくとも一般の肝硬変患者の経過観察措置として要求されている腫瘍マーカーであるAFPやPIVKA-Ⅱを1~2か月に1回測定すべき義務及び3か月に1回の超音波検査を施行し、異常所見が認められた場合には、さらにCT検査ないしMRI検査を行うべき義務があったと認められる。 しかしながら、被告Cは、平成12年1月5日以降なんら画像検査を行っておらず、また、腫瘍マーカー検査も行っていない。 ウしたがって、被告Cには、平成12年1月5日以降腫瘍マーカー検査や画像検査を怠った過失があるというべきである。 そして、亡Dの肝臓癌は、上記のとおり平成12年1月時点ではいまだ確認できなかったところ、平成13年6月に発見された際の大きさなどからすると、平成12年中には2㎝以内の大きさにとどまっていたものと認められるから(甲A6〔31、32、亡Dが約半年間の受診中断の後に〕)受診を再開した平成12年11月8日及びその次の受診時である同年12月13日に上記各検査を行えば、同月27日の受診日にはそれらの結果に基づき、2㎝以内の大きさの肝細胞癌の存在を診断でき、すみやかにそれに対する措置がとれたと認められる。 (2)アこれに対し、被告は、インターフェロンの処方に当たり、健康保険の適用において原告に有利な扱いをするために病名を肝炎としたのを契機に、真実の病名が肝硬変であることを失念したものであり、かかる誤認の下では、平成12年1月5日以降に腫瘍マーカー検査及び画像診断検査を実施しなかったこともやむを得ず、過失はないと主張する。 確かに、被告Cが亡Dの便宜を図っていたことについては、医師としてそれなりに評価されるべき行為ではあるが、そのような行為に起因するとしても、患者の疾患を失念又は誤解することは、前記のとおり医師として初歩 、被告Cが亡Dの便宜を図っていたことについては、医師としてそれなりに評価されるべき行為ではあるが、そのような行為に起因するとしても、患者の疾患を失念又は誤解することは、前記のとおり医師として初歩的かつ重大な義務違反と言わざるを得ないのであり、しかも、上記の ように、平成11年11月及び平成12年1月5日の諸検査の結果等から、肝硬変の可能性が指摘されているのであるから、原告の疾患が肝硬変であったことを想起し、又は、再検討することは容易であったと認められる。 その上、被告らは、平成12年1月5日のMRI検査の結果や本件患者の肝機能の状態等の総合判断から、亡Dの病名について慢性肝炎であるとの認識を変えるに至らなかったと主張するが、慢性肝炎との認識を継続していたとしても、上記2(2)オの医学的知見からすると、肝癌のスクリーニングのための措置をとらなかった被告Cの判断が合理的であるとは認められない。 したがって、いずれにしても、被告のこの点についての主張には理由がない。 イさらに、被告らは、亡Dの通院先の病院が度々変更になり、被告Cが従前のカルテを確認できなかったこと及び通院期間の間隔が長く本件患者が自分自身の病名を慢性肝炎と申告していたことからも、被告Cが亡Dの疾患をB型慢性肝炎と誤認したことはやむを得ず、過失はないと主張する。 しかしながら、上記の誤認が主治医としての緊張感を欠いていたことによるものであることは、被告C自身が認めるところであり(甲A6〔21ないし23、さらにその原因が亡Dの便宜のために転院させたことなど〕)にあるとしても、医師としての義務違反は否定できないし、従前のカルテを確認できなかったとの点についても、上記のとおり平成11年11月の超音波検査及び平成12年1月5日の検査の結果等を含む被告病院における記録から、 医師としての義務違反は否定できないし、従前のカルテを確認できなかったとの点についても、上記のとおり平成11年11月の超音波検査及び平成12年1月5日の検査の結果等を含む被告病院における記録から、原告の疾患が肝硬変であると想起することが容易であったというべきである。 また、患者である亡D自身が慢性肝炎と申告したとしても、専門家たる医師としては、そのような訴えを参考にしつつも、最終的には診察時までに得られた各所見を精査したうえ、自己の専門的知見をもって患者の疾患 につき判断すべきものであって、患者の申告の内容は、被告Cの責任を逃れさせるものではないというべきであり、被告らのこの点についての主張にも理由がない。 争点(2)(被告らの過失と死亡との因果関係)について(1)本件では、被告Cが、平成12年1月5日以降に腫瘍マーカー検査及び画像診断検査を実施しなかったという不作為による過失が問題になっているが、医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の判断においては、経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、医師の当該不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと、換言すると、医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の当該不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解される。 したがって、本件では、被告Cが、平成12年1月5日以降に腫瘍マーカー検査及び画像診断検査を実施していれば、平成14年4月18日の死亡が避けられたかにつき検討することになるところ、上記3(1)ウのとおり、亡Dについては、上記各検査を実施することにより、平 瘍マーカー検査及び画像診断検査を実施していれば、平成14年4月18日の死亡が避けられたかにつき検討することになるところ、上記3(1)ウのとおり、亡Dについては、上記各検査を実施することにより、平成12年末の時点で腫瘍径2㎝以内の肝臓癌を発見できたものと認められる。 そして、上記2(3)アのとおり、肝癌の切除術の適応は、肝機能の程度、癌の進行程度及び病変の径の大きさ等によって決定されるところ、開腹時においても腫瘍は1個であったことからすると、この時点においても腫瘍は1個であったと認められる。また、肝機能についても、平成11年11月17日の被告病院受診時のデータについてであるが、肝機能が十分保たれていることは被告らも認めており、その後も肝機能が大きく悪化したとも認められない。 したがって、平成12年末に亡Dに腫瘍が発見されたとすると、外科的切除の適応はあったと認められるし、上記2(3)ウのとおり、腫瘍径3㎝以下及び個数3個以下の場合にエタノール注入療法の適応があるとされるところ、上記の亡Dの状態からすれば、エタノール注入療法についても適応があったと認められる。 他方、この平成12年末から亡Dの現実の死亡時までは約1年4月が経過しているところ、上記2(4)のとおり、第15回全国原発性肝癌追跡調査報告によれば、肝細胞癌に対する肝切除が行われた症例において、腫瘍の個数が1個で腫瘍径2㎝以下であり、臨床病期Ⅰすなわち肝機能が良好なケースにおける2年生存率が94.2%、5年生存率が75.5%である。また、同様の条件で肝細胞癌に対するエタノール注入療法が単独で行われた症例においての2年生存率は93.7%、5年生存率が67.1%である。 以上のデータからすれば、亡Dに対し、平成12年1月5日以降に肝切除またはエタノール注入療法を行っていれば、亡 法が単独で行われた症例においての2年生存率は93.7%、5年生存率が67.1%である。 以上のデータからすれば、亡Dに対し、平成12年1月5日以降に肝切除またはエタノール注入療法を行っていれば、亡Dの現実の死亡時である平成14年4月18日において亡Dが生存していた高度の蓋然性が認められるというべきである。 したがって、被告Cの過失と亡Dの死亡との因果関係は認められる。 (2)ア平成12年3月以降の亡DのHBVウィルス値は、1回の計測時を除き、いずれも6.3LGE/mlから7.7LGE/mlであったことについては、当事者間に争いがないところ、被告らは、B型肝炎ウィルス関連の肝細胞癌においては、ウィルス量が重要な予後因子であり、亡Dの上記ウィルス値からすると、亡Dの予後は極めて不良であり、肝切除を行ったとしても、本件患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性は認められないと主張する。 確かに、長崎大学病院におけるB型肝炎ウィルス関連の肝細胞癌患者74名を対象に行った調査では、B型肝炎ウイルスDNA値は、腫瘍の大き さと並び、独立した予後不良因子であったとの結果が報告されている。この調査では、e抗原陰性でB型肝炎ウイルスDNA値が3.7LGE/ml未満の患者は3.7LGE/ml以上の患者よりも明らかに生存率が高かったとしている(乙A11。 )また、大阪市立大学病院におけるB型肝炎ウィルスDNA陽性で肝細胞癌切除を行った患者48名を対象として行った調査でも、ウィルス量が、患者の予後についての危険因子であるとしており(乙A12、このよう)な報告からすると、B型肝炎のウィルス量が肝細胞癌の予後に有意な影響を与えていることは否定できない。 しかし、これらの調査報告は、いずれも前記2(4)アの全国的な調査 しており(乙A12、このよう)な報告からすると、B型肝炎のウィルス量が肝細胞癌の予後に有意な影響を与えていることは否定できない。 しかし、これらの調査報告は、いずれも前記2(4)アの全国的な調査報告に比べると、基礎となる症例が極めて少ないことから、ウィルス量の多いことが具体的にどの程度予後に影響するかを明らかにするものではないといわざるを得ない。その上、亡Dについては、上記のとおり、腫瘍径、腫瘍数及び肝機能の点において予後良好な因子が存在するところ、長崎大学の報告においては、このような予後良好因子を有し、かつウィルス量の高い者の予後がどのようなものかというきめ細かな報告がされていないため、同報告は亡Dの予後を予測する資料として不十分といわざるを得ないし、対象者74名中、ウィルス量高値の患者が53名とかなりの割合を占めているにもかかわらず、腫瘍径2㎝未満の患者の中央生存期間は4.9年とされており(乙A11の1〔2666TableⅠ、ウィルス量の多い〕)患者を含めても、腫瘍径の小さい患者については、5年程度の余命が期待できることを示している。 また、大阪市立大学の報告についても、予後良好因子を有しかつウィルス量の高い患者の予後について具体的に明らかにされていないし、同報告は全例が手術後の予後に関するものであるところ、前記2(3)及び(4)のとおり、腫瘍径の小さい患者については、手術を行わないまま内科的療法を 行うとの選択もあり得るところであるから、亡Dがそのような治療を受けた場合の予後については、同報告は参考にならないといわざるを得ない。 このように、被告の依拠する調査報告が必ずしも亡Dの予後予測に適切でないことに加え、上記のようにウィルス量の多寡にかかわりなく行われた全国的な調査報告において、亡Dのように予後良好な因子を有す い。 このように、被告の依拠する調査報告が必ずしも亡Dの予後予測に適切でないことに加え、上記のようにウィルス量の多寡にかかわりなく行われた全国的な調査報告において、亡Dのように予後良好な因子を有する者の5年生存率が7割前後と非常に高水準であり、被告の依拠する長崎大学の調査においても、ウィルス量高値の者の割合が高いにもかかわらず、腫瘍径の小さい者は5年程度の余命が期待できることが報告されていることからすると、ウィルス量が亡Dの予後に何らかの影響を与えたとしても、なお、適切な検査及び治療を行っていれば、亡Dは、平成12年末から5年程度の余命が期待できた、すなわち、平成12年末から平成17年末までの5年間生存していた高度の蓋然性が認められるのであって、平成14年4月18日時点で亡Dが生存していた高度の蓋然性は認められるというべきである。 したがって、この点についての被告の主張には理由がない。 イさらに、被告は、本件患者が平成14年4月18日に死亡したのは上海における不適切な肝癌摘出手術によるものであり、肝癌発見の遅れと平成14年4月18日の亡Dの死亡との間に因果関係はないと主張する。 この主張は、被告の過失とは無関係な行為に端を発する因果の流れによって亡Dの死亡時期が早まったという趣旨と理解できるが、上記1(8)及び(9)のとおり、被告Cは、亡Dから中国への出張予定を告げられたのに対し、その期間を確かめず次回診療日も決めないまま、これを許可していること、平成13年7月11日に上海において亡Dが肝切除を受けるに至ったのは、肝細胞癌が進行し、その時点で緊急な措置が必要な状態となったことによるものと認められ、中国においては肝切除の適応が特に問題とされた形跡もないことからすると、被告Cが亡Dの出張を許可した時点に おいて、その後の一連の事態 で緊急な措置が必要な状態となったことによるものと認められ、中国においては肝切除の適応が特に問題とされた形跡もないことからすると、被告Cが亡Dの出張を許可した時点に おいて、その後の一連の事態の発生は既に予測可能な状態にあり、被告Cは、上記許可をすることにより、亡Dを被告主張の上記因果の流れに投じたものと認められるから、当該因果の流れによって生じた結果についても責めを免れない。 また、上記主張が採用されるためには、被告主張の上記因果の流れが生じなければ、亡Dが平成14年4月18日には死亡しなかったことが証拠によって認定される必要があるところ、これを認めるに足りる証拠は見当たらないし、むしろ被告らが依拠する上記調査結果(乙A11、12)からすると、その時点の亡Dの病状ではもはや余命は1年を下回っていたと認めるのが相当であり、仮に上海での手術が不適切なものであったとしても、それによって亡Dの死期が早まったとまでは認められない。 よって、この点についての被告の主張にも理由がない。 争点(3)(損害額)について(1)死亡慰謝料及び原告固有の慰謝料亡Dは、被告Cが肝癌の発見のための検査を怠った過失により、進行した肝癌により死亡するに至っているところ、その過失は前記のとおり医師として初歩的かつ重大なものであって、その発端が被告Cの好意による便宜供与にあることを考慮しても、その責任はあまりにも重大であるといわざるを得ない。その上、被告Cは、大学の消化器内科教授として日本肝臓学会においても指導的役割を果たしている医師であり(甲B2、3、このよううな専)門家を信頼して治療を委ねていた亡D及び原告としては、そのあまりにも初歩的かつ重大な過失によって信頼を裏切られた精神的苦痛は極めて大きく、本件提起後も被告Cが自己の便宜供与のみを強調して過失 専)門家を信頼して治療を委ねていた亡D及び原告としては、そのあまりにも初歩的かつ重大な過失によって信頼を裏切られた精神的苦痛は極めて大きく、本件提起後も被告Cが自己の便宜供与のみを強調して過失を認めないとの態度を維持していることにより、その苦痛はますます増大しているものと認められる。このことのほか、本件に現れた一切の事情を考慮すると、亡D及び原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては、この種事案で通常参考とされる 交通事故の損害賠償責任における慰謝料算定基準にかかわらず、合計3000万円と評価するのが相当であり、その内訳は、原告主張のとおり、亡Dの死亡慰謝料2800万円、原告固有の慰謝料200万円とするのが相当である。 (2)死亡による逸失利益ア生存可能期間について前記4で認定説示したところによれば、亡Dは、適時適切な検査が行われれば、平成12年末に癌が発見され、適切な治療が行われれば、それから5年間、平成17年末まで生存した高度の蓋然性が認められる。 そして、亡Dの現実の死亡時が平成14年4月18日であることからすると、逸失利益の基礎となる生存期間は3年8か月となる。 イ基礎収入について亡Dの死亡直前の年度についての年収については証拠上明らかではないものの、亡Dの最終学歴は大学院卒業であり、平成12年6月から有限会社エフ・ティ・ピー企画に勤務し、語学力を生かして貿易に関する業務に従事していたことが認められ、別の会社に勤務していた平成10年度については、763万7105円の収入を得ていることが認められる(甲C2、乙A8〔3。 〕)これらのことからすれば、亡Dは、少なくとも賃金センサスにおける男性労働者学歴計の賃金以上の賃金を得ていたことが認められる。 したがって、逸失利益を算定するにあたっての基礎収入は、上記賃金セン 〕)これらのことからすれば、亡Dは、少なくとも賃金センサスにおける男性労働者学歴計の賃金以上の賃金を得ていたことが認められる。 したがって、逸失利益を算定するにあたっての基礎収入は、上記賃金センサスの金額を基準に考えるべきである。 そして、亡Dは昭和31年7月29日生であり、死亡時である平成14年4月18日には約45歳9か月であったところ、賃金センサス平成13年第1巻第1表・男性労働者学歴計45~49歳の年収額は金686万9300円であることが認められる(顕著な事実。 ) ウ以上より、ライプニッツ式計算方法により年5パーセントの割合で1年8か月(44か月)に相当する中間利息を控除し、生活費控除率を30%として計算すると、ライプニッツ係数は、={1-1/(1+0.05)}÷0.0544/12=3.2761(以下切り捨て)であり、686万9300円×(1-0.3)×3.2761=1575万3159円(1円未満切り捨て)となるから、亡Dの逸失利益としては、1575万3159円を認めるのが相当である。 (3)葬儀関係費用原告は、亡Dの死亡により、葬儀関係費用として120万円の支出をしたと主張し、これを直接に証明する証拠はないものの、この程度の費用を要するのは通常のことと考えられるから、同主張の金額をもって本件と相当因果関係のある損害と認められる。 (4)証拠保全費用医療事件について訴訟提起をするに当たっては、特段の事情がない限り、カルテを対象とする証拠保全をする必要があったと認められ、特に、本件において証拠保全が行われた平成14年当時においては、医療機関が診療録等の記録を開示するとの対応が一般的でなかったことに照らすと、原告が、証拠保全に係る費用として支出した18万2060円(甲C1の1ないし2)は、本件と相当因果 14年当時においては、医療機関が診療録等の記録を開示するとの対応が一般的でなかったことに照らすと、原告が、証拠保全に係る費用として支出した18万2060円(甲C1の1ないし2)は、本件と相当因果関係のある損害と認められる。 (5)相続原告は、遺産分割協議により、本件についての損害賠償請求債権につき、全額を取得したことが認められる(甲B1、弁論の全趣旨。 ) (6)弁護士費用弁論の全趣旨によれば、原告と同訴訟代理人間の本件訴訟に関する委任契約の存在を認めることができるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額、その他の事情からすると、被告の過失と相当因果関係にある弁護士費用としては、470万円を認めるのが相当である。 (7)合計以上(1)ないし(6)によれば、原告の損害額の合計は、5183万5219円となる。 以上によれば、不法行為に基づく原告Oの請求は、被告らに対し(被告Aは、被告Cの使用者であり、使用者として被告Cと同様の責任を負い、両者は不真正連帯債務を負うと解すべきである、連帯して5183万5219円及び平。)成14年4月19日からから支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、原告のその余の請求は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官藤山雅行 裁判官大嶋洋志裁判官岡田安世

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