令和5(わ)1289 詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年7月16日 福岡地方裁判所
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判決文本文18,940 文字)

- 1 -令和7年7月16日宣告令和5年(わ)第1289号、令和6年(わ)第319号詐欺被告事件 主文 被告人は無罪。 理由 1 本件公訴事実の要旨・争点・判断の骨子(1) 本件公訴事実(ただし、令和5年12月15日付け公訴事実については変更後のもの。以下同じ。)の要旨は、以下のとおりである。 被告人は、「A」の名称で中古自動車販売業を営んでいたものであるが、ア B及びCから車両仕入代金名目で現金をだまし取ろうと考え、令和2年(以下、同年の出来事は年の表記を省略することがある。)5月18日、日本国内において、真実は、中古自動車販売オークション等で車両を入手して前記Bらに引き渡す意思がないのに、これがあるように装い、B(当時31歳)に対し、電話で、「430万円でいい車が見つかった。」「オークションで見つけた。」「入金してくれれば、早く落札することができる。」などとうそを言い、さらに、C(当時32歳)に対し、電話で、「430万円でいい車が見つかった。」「この金額ではなかなかないよ。」「会社のお金がないから一括で振り込んでもらったら落とせる。」「オークションだから急いだ方がいい。」などとうそを言い、Bらに、被告人に430万円を支払えば、前記オークションで同車を落札して引渡しを受けられるものと誤信させ、よって、Cに、同日午後2時6分頃、福岡市(住所省略)のD農業協同組合E支店において、同支店に開設されたB名義の普通貯金口座からF信用組合G支店に開設された被告人名義の普通預金口座に現金390万円を振込入金させ、さらに、同日午後2時20分頃、同市(住所省略)のH駐車場において、Cから現金40万円の交付を受け、イ株式会社I代表取締役Jから車両仕入代金名目で現金をだまし取ろうと考え、6月12日、福岡 、さらに、同日午後2時20分頃、同市(住所省略)のH駐車場において、Cから現金40万円の交付を受け、イ株式会社I代表取締役Jから車両仕入代金名目で現金をだまし取ろうと考え、6月12日、福岡県内又はその周辺において、同社従業員K(当時37歳)に対し、真実は、- 2 -中古自動車販売オークション等で車両を入手して同社に引き渡す意思がないのに、これがあるように装い、電話で、「オークションに328万円で後期モデルが出ています。」「今日の午後3時までに振り込んでもらえれば買えます。」などとうそを言った上、同人の携帯電話に、車両の写真画像を送信し、Kを介してJに、被告人に328万円を支払えば、前記オークションで同車を落札して引渡しを受けられるものと誤信させ、よって、前記Jに、同日午後2時40分頃、福岡市(住所省略)の株式会社L銀行Mにおいて、同銀行N支店に開設された株式会社I名義の普通預金口座から、株式会社O銀行P支店に開設された被告人名義の普通預金口座に現金328万円を振込入金させ、もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させたものである。 (2) 当裁判所は、被欺罔者とされるBやKの供述には看過し難い変遷が見受けられ、また虚偽供述の動機も存在することなどから信用性を肯定するには足らず、したがって、被告人が各公訴事実記載の欺罔文言を述べたと認めることはできず、また、被告人が各公訴事実記載のとおりの金銭をB及びC並びにJから得たことは認められるものの、本件審理に顕れた諸事情に照らせば詐欺の故意はなかったとする被告人の弁解を排斥することはできず、したがって、本件各公訴事実については、これを認めるに足りる証拠がないため、被告人は無罪であると判断した。 2 前提事実以下の各事実は証拠により容易に認定できる。 (1) 被告人の経歴、業務形 がって、本件各公訴事実については、これを認めるに足りる証拠がないため、被告人は無罪であると判断した。 2 前提事実以下の各事実は証拠により容易に認定できる。 (1) 被告人の経歴、業務形態等ア被告人は、21歳頃から30歳頃までの間、中古車販売会社に従業員として勤務していた。被告人は、同社を辞める二、三年前頃からは、同社での勤務とは別に、副業として中古自動車の売買にも従事していた。被告人は、その後上記会社を辞めて、令和元年10月頃には、「A」の屋号で中古自動車の売買をするようになった。 イ被告人が「A」において行っていた中古自動車の販売形態は、在庫を持たず、客からの注文があればこれに応じて業者間販売などにより中古自動車を入手して客に引き渡すというもので、仕入価格・諸費用と客から得られる売買代金の差額が被告人の利益にな- 3 -るものであった。被告人が客から中古自動車購入の注文を受けた場合には、売買の目的となる自動車を被告人が入手する前に客から代金を受領するケースが多かったが、その入手後に代金を受領するケースもあった。また、被告人は、「A」において、中古自動車の販売以外に、車検代行や自動車整備の業務にも従事していた。 ウ被告人は、「A」を経営していた当時、客に販売するための自動車を業者間販売や下取り車の方法で入手していた。被告人は中古自動車のオークションサイトの会員登録はしておらず、被告人が客に販売するための自動車を同サイト経由で入手することはなかったが、同サイトの会員登録をしている知人の名義を借りて同サイトを利用して中古自動車の相場調査を行うことはあった。 (2) 「A」の業況悪化状況新型コロナウイルス感染症拡大の影響により車検期間が延長されたことにより、被告人の車検代行の仕事やこれによる収入が減少した。 動車の相場調査を行うことはあった。 (2) 「A」の業況悪化状況新型コロナウイルス感染症拡大の影響により車検期間が延長されたことにより、被告人の車検代行の仕事やこれによる収入が減少した。また、同感染症拡大の影響により中古自動車の入手が困難な状況になった。 被告人は、前職時代から知人からの借り入れとその返済を繰り返していたが、「A」開業前後頃からその金額が多額となり、高利での借入れであったことも相まって、その返済や利息支払いに難渋するようになった。 上記の経過で被告人の資金繰りが悪化した後、被告人は、中古自動車販売の注文を受け、その代金を先に受領した場合であっても、その得た金銭を用いて注文に応じた中古自動車をただちに入手するのではなく、同金銭を借金返済原資や別の注文にかかる自動車購入費用に充て、その後、別途借金をしたり別の注文にかかる売買代金として得た金銭で先に注文があった中古自動車を入手して客に引き渡すといった、いわゆる自転車操業の状態に陥っていた。 (3) Bとの取引経過等被告人とBは幼稚園時代からの友人で、以前には同じ職場で働いたこともある間柄であった。被告人が「A」を開業した後は、二人はしばしば会って飲食を共にしたり共に誕生祝いを行うことや、Bの父・母が各1台被告人から自動車を購入することもあった。 - 4 -令和2年頃、Bは被告人からランドクルーザープラド(以下「プラド」という。)を購入することとなり、Bは被告人に希望条件を伝えて希望に沿う自動車を探してもらうことになった。当時、Bはプリウスに乗っていたところ、被告人とBは、プラドが手に入った場合にはプリウスを被告人に下取りに出すことも話し合っていた。その後、被告人からBに連絡があり、Bは、5月18日、Cに指図して、振込及び手交の方法により被告人に ころ、被告人とBは、プラドが手に入った場合にはプリウスを被告人に下取りに出すことも話し合っていた。その後、被告人からBに連絡があり、Bは、5月18日、Cに指図して、振込及び手交の方法により被告人に対し430万円を支払った。 被告人は、同月30日頃、「トヨタランドクルーザープラド」「合計金額 3,306,050」などの記載がある御見積書をBに交付した。Bは、6月5日頃、D農業協同組合E支店に対し、マイカーローン名目で330万円の借入れを申し込み、同月16日同金額を同組合から借り受けた。 被告人は、6月3日、同じ業界で働く後輩であるQに依頼して同人の勤務先のプラドの試乗車(車両番号省略)を借り受けた上、これをBに見せた上、同車をQに返却した。 被告人は、7月5日、以前からタイヤ売買等で付き合いのあるRから同人所有のプラド(車両番号省略)を借り受けた上でBにこれを引き渡したが、数日後、Bは同車を被告人に返却し、被告人は同月8日に同車をRに返却した。 被告人は、同月22日、再び同車をRから借り受けた上でBにこれを引き渡したが、同月25日、Bは同車を被告人に返却し、被告人は、同日、これをRに返却した。 同月28日、Bは被告人の父であるSと会い、Sは、SがBに対し、8月8日限りで総額660万円を支払うこと、これができない場合はSの自宅を売却してその代金から支払うことなどを約した誓約書を作成して交付した。 同月31日、Bを含む複数名の者が当時の被告人方を訪れて、Bを含む者らが被告人に暴行を加え、被告人は負傷した。 (なお、被告人とB・Cの間の細かな会話内容については争いがある。)(4) Jとの取引経過等Kは当時の勤務先であるIの費用負担によりKが使用する社用車を購入することになり、令和2年6月頃、被告人に対しヴェルファイア購入 かな会話内容については争いがある。)(4) Jとの取引経過等Kは当時の勤務先であるIの費用負担によりKが使用する社用車を購入することになり、令和2年6月頃、被告人に対しヴェルファイア購入の話を持ち掛けた。被告人とKは- 5 -条件等について話を進め、330万円の予算やその他の条件で被告人がヴェルファイアを探すこととなった。被告人は、同月12日、Kに対し、ヴェルファイアやその車内の写真データや自身の口座情報等をLINEで送付し、また、Jは、被告人に328万円を振り込んだ。被告人は、同月21日及び26日、Kに対しヴェルファイア(車両番号省略)を見せ、また、7月3日頃、地元の先輩であるTから同人のヴェルファイア(車両番号省略)を借り受けた上、同日、同車をKに引き渡したが、同月26日、被告人はKから同車を引き上げた上、これをTに返却した。 被告人は、同月29日、J、Kと会い、ヴェルファイア購入の件で話し合いをしたが、その際、Kが被告人に対して暴力を振るう出来事があった。 (なお、被告人とKの間の細かな会話内容については争いがある。)(5) Uとの取引被告人とUは、令和2年春頃、被告人を売主、Uを買主として、トヨタハリアーの売買契約を締結し、Uは、4月30日、その代金支払いとして、妻を介して被告人名義口座に430万円を振り込んだ。被告人は、6月頃、業者間販売により290万円でトヨタハリアーを購入して、引渡しを受け、また、同月19日には被告人に対する名義変更も行われた。被告人は、同引渡しを受けた後、すぐに同車をUに引き渡したが、保証期間の関係で、Uに対する名義変更は引渡しからしばらく経過した後である8月14日に行った。 3 B及びCの供述について(1) Bは、当公判廷において、要旨以下の供述をする。私は、被告人とは幼 証期間の関係で、Uに対する名義変更は引渡しからしばらく経過した後である8月14日に行った。 3 B及びCの供述について(1) Bは、当公判廷において、要旨以下の供述をする。私は、被告人とは幼稚園時代からの友人であり、また、以前には職場の同僚でもあった。被告人が「A」を開業した後、私の両親が各1 台被告人から自動車を購入し、その流れで私も被告人から自動車を購入することとなった。私は、被告人に対しプラドの購入希望をその他種々の条件と共に伝えた。当時私はプリウスに乗っていたので、プラド購入の期限は特に定めず、また、プラド購入時にはプリウスは被告人に下取りに出す予定だった。被告人に上記希望を伝えた約二、三週間後、被告人からいい車が見つかった旨の連絡があり、プラドの写真も見せられた。5月15か16日頃、被告人から「こういった車がある」といった話があり、5月1- 6 -8日には、「オークションでいい車、条件が見つかったよ。」「落とす。」「オークションで。」「430万円」「今日振り込めるか」といった話、前の持ち主はコロナで早く売りたがっている旨の話、今日お金を振り込んだら早く落札ができるといった話があり、私は被告人が述べる430万円は車両代金だけでなく諸費用・手続費用・被告人の利益込みの金額と認識しており、これを振り込めばプラドを入手できると認識した。私は、被告人の仕入価格は認識していなかった。私は、金銭管理をしている妻であるCに連絡して、被告人口座への振込入金を依頼し、Cは振込入金や手交により被告人に430万円を支払った。その一、二日後くらいに被告人からオークションで落札できたとの連絡があった。 6月3日、被告人から落札したプラドを見せてもらったが、その日は登録等の準備のために被告人が持って帰った。その後、被告人から準備が整ったとの連絡 告人からオークションで落札できたとの連絡があった。 6月3日、被告人から落札したプラドを見せてもらったが、その日は登録等の準備のために被告人が持って帰った。その後、被告人から準備が整ったとの連絡があり、7月5日、被告人からプラドを受け取ったが、希望ナンバーやルーフレールの条件は整っていないものだった。また、このときプリウスを被告人に下取りに出した。その三、四日後、プラドに傷が入ったことを理由に被告人がプラドを引き上げることがあったが、7月中下旬頃、またプラドが私のところに戻ってきた。ただし、希望ナンバーの条件は整っていなかった。7月25日、被告人がプラドを持って行った。 被告人から騙されたと分かった後、被告人の父親と交渉して誓約書を作成してもらい、また、7月末頃、被告人に暴力を振るったことはあるが、これはプラドとは別件で被告人に対してかっとなったからだ。騙されたと分かった後、被告人に下取りに出したプリウスは被告人から取り戻した。 (2) Cは、当公判廷において、要旨以下の供述をする。私は、Bからプラドを被告人から購入する話や条件、金額などを聞いていた。5月18日、Bから「いい車が見つかったらしい。」「430万円。」と聞き、また、被告人からの連絡を待つようにとの話もあった。その後、被告人から連絡があり、「430万円ぐらいでBが希望しているようないい車が見つかった。」「安いほうだ。」「振り込んでもらえれば。」「今日中に一括で振り込むように。」「一括で払ったら車は手に入る。」「オークションで見つけたので今日振り込まないと手に入らないかもしれないので今日お金が必要だ。」「会社のほうにお金が- 7 -ないから。」などと聞いた。私は被告人が述べる430万円は車両代金以外の全てが入った金額で、これを支払えばプラドを入手できると思い、振込入 いので今日お金が必要だ。」「会社のほうにお金が- 7 -ないから。」などと聞いた。私は被告人が述べる430万円は車両代金以外の全てが入った金額で、これを支払えばプラドを入手できると思い、振込入金や手交により被告人に430万円を支払った。 (3) B・Cの供述を踏まえた欺罔行為についての検討アまず、公訴事実においては、被告人が車両仕入代金名目で現金をだまし取ろうとしたと主張されているが、B・C・被告人のいずれも、被告人・B間で授受のあった430万円が車両仕入代金名目であった旨は述べておらず、むしろ、これは被告人側の購入代金・諸費用・利益を含めた被告人・B間の売買代金であるとしか述べられておらず(その供述は信用できる)、この点で検察官の主張は採れない。 イ次に、公訴事実においては、被告人は、Bに対し、「430万円でいい車がみつかった。」「オークションで見つけた。」「入金してくれれば、早く落札することができる。」と述べたとされているところ、これらの欺罔文言は、その文字通りの日本語としての言葉の意味に加え、公訴事実中の車両仕入代金名目で現金をだまし取ろうとしたとされている点も併せると、「オークションに430万円で出品されている良い車が見つかったので、Bが被告人に入金してくれれば、被告人において早く落札できる」との言葉と理解するのが自然である。しかし、Bは、被告人から申し向けられた言葉は「いい車が見つかったよ」「430万円払っていただければすぐ落札できるよ。」であり、オークションに出品されている金額が430万円であるとは申し向けられていない旨述べており、公訴事実と同一あるいは実質的に同趣旨の言葉を被告人が述べたことをBの公判供述からは認定できない。 他方、Cの公判供述中には、被告人から「430万ぐらいでBが希望してるようないい 旨述べており、公訴事実と同一あるいは実質的に同趣旨の言葉を被告人が述べたことをBの公判供述からは認定できない。 他方、Cの公判供述中には、被告人から「430万ぐらいでBが希望してるようないい車が見つかったよ」「安い方だ」という言葉や被告人にお金がないこと、午後3時までに振り込めば車は手に入ることなど、公訴事実と実質的に同一の言葉を申し向けられたとの供述部分があり、これが信用できるならば、Cに対する欺罔行為は認定できることとなる。 ウところで、Bは、上述のとおり、「いい車が見つかったよ」「430万円払って- 8 -いただければすぐ落札できるよ。」と申し向けられたこと、430万円はオークションの出品価格ではなく、被告人側の購入代金・諸費用・利益込みの売買代金額であった旨の供述をしている。 しかし、捜査段階において、Bは、落札代金として430万円を支払った旨を述べてその旨の検察官調書が作成されていたことが強く窺われ、だからこそ、本件では上記のとおりの公訴事実記載となったものと推察される。この点、被告人から申し向けられた430万円という金額がオークションの出品額か、そうではなく被告人側の取得金額・諸費用・利益込みの売買金額であるかは欺罔行為の核心部分として重要な事柄であり、真実、被告人から申し向けられた言葉であったならば、捜査・公判の間での供述変遷は基本的には考えにくい。Bは、捜査段階においても、検察官に対し公判供述と同様の供述をした旨述べるが、上記のとおり欺罔行為の核心部分の供述であることに照らせば検察官において誤った調書を作成したとは考えられず、Bの上記説明は信用できない。また、Bが勘違い等で捜査・公判の間で違う供述をしていると窺わせる事情もなく、Bの供述の核心部分に変遷が存在するのは不審というほかなく、この点において、Bの上 考えられず、Bの上記説明は信用できない。また、Bが勘違い等で捜査・公判の間で違う供述をしていると窺わせる事情もなく、Bの供述の核心部分に変遷が存在するのは不審というほかなく、この点において、Bの上記公判供述には疑問がある。 エ B及びCの立場についてもみるに、両名は利害関係を共通にする同居の夫婦であることを前提に、Bらは実際に出捐をしたにもかかわらずプラドを入手できなかったことによる被告人に対する不満の気持ちがあるだけではなく、Bが被告人に暴力を振るったこと、SにBが被告人に支払った金額を大幅に上回る暴利ともいえる誓約書を作成させたことなどの負い目から、Bらの立場を取り繕うために虚偽供述をする動機があるといえ、これらの者の供述の信用性は慎重に吟味する必要がある。 オ以上までの検討によれば、B及びCの供述の信用性については、これをただちに信用することはできず、これを信用できるかは被告人の弁解の信用性いかんによることとなる。 4 K及びJの供述について(1) Kは、当公判廷において、要旨以下の供述をする。私は、当時の雇用主であるJの- 9 -了承の下、私が使用するための社用車を購入することとなり、知人の紹介で知り合った被告人からヴェルファイアを購入する商談を進めていた。私は元々は同車の後期モデルが欲しかったが、予算不足のため同車の前期モデルの中で他の条件も伝えた上で被告人に条件に合う自動車を探してもらっていた。被告人からは、オークションで同車を入手する旨を聞いていた。私は当初は300万円の予算を被告人に伝えていたが、被告人から30万円程予算を上げると条件に合う自動車がある旨の申し出があったので、Jの了承を得て、予算を330万円に増額した。 6月12日、被告人から連絡があり、「今日だと後期モデルが安く出ている。」「32 0万円程予算を上げると条件に合う自動車がある旨の申し出があったので、Jの了承を得て、予算を330万円に増額した。 6月12日、被告人から連絡があり、「今日だと後期モデルが安く出ている。」「328万円。」「その代金を午後3時までに払うと買える。」旨を聞くとともにヴェルファイアの写真の送付を受けた。当初は前期モデルの写真が送られてきたが、私から誤りを指摘された後、被告人は後期モデルの写真を送ってきた。私は、328万円は諸費用や被告人の利益込みの金額であり、被告人に328万円を支払えばヴェルファイアを購入できると思い、Jに説明して払ってもらった。支払い後である同日午後3時頃、被告人から電話で「おめでとうございます。」「車買えました。」との連絡を受けた。 約1か月後に被告人からヴェルファイアの納車があったが、被告人が登録処理をする必要があると言い、その日は乗って帰れなかった。その後被告人から連絡があり「A」の駐車場でヴェルファイアの引渡しを受けたが、最初に納車を受けたヴェルファイアと異なる点が各所にあり、被告人に前の車かと尋ねたこともあった。このときは、ヴェルファイアに乗って帰ることができたが、1か月後に被告人が登録を理由にヴェルファイアに乗って行き、傷の修理を理由に返してもらえないままだった。 被告人から騙されたと分かった後、ファミリーレストランの駐車場において、私・K・被告人・その父と兄の5人で話し合いをしたが、その際被告人に暴力を振るった。 (2) Jは、当公判廷において、要旨以下の供述をする。私は、株式会社Iを経営しており、令和2年当時従業員であったKが使用するための社用車を購入することになった。当初は私が自分で車を探していたが、Kの申し出によりKの探してきた被告人から購入することとなった。Kと被告人が条件や予算について話をしてお 業員であったKが使用するための社用車を購入することになった。当初は私が自分で車を探していたが、Kの申し出によりKの探してきた被告人から購入することとなった。Kと被告人が条件や予算について話をしており、ヴェルファイアを330- 10 -万円で購入することになった。Kからは、オークションで購入するとも聞いている。6月12日の朝、Kから328万円をその日に振り込めば車を購入できる旨聞いた。このときKからはオークションでまだ落札できていない前提で説明を受けており、また、この328万円は、オークションでの入札金額ではなく、その金額を支払えば納車される売買代金額と認識していた。そこで、この日の午後被告人の口座に328万円を振り込んだ。この日の夕方、Kから落札できたと聞いた。被告人から購入したと思っていたヴェルファイアは納車があったときに見たが、その後傷が入ったとの理由で被告人が持って帰ってからは見ていない。7月下旬頃ファミリーレストランの駐車場でK・被告人・その父と兄で会うことがあった。その際、Kが被告人に対して暴力を加えていた。 (3) K・Jの供述を踏まえた欺罔行為についての検討アまず、公訴事実においては、被告人が車両仕入代金名目で現金をだまし取ろうとしたと主張されているが、K・J・被告人のいずれも、被告人・J間で授受のあった328万円が車両仕入代金名目であった旨は述べておらず、むしろ、これは被告人側の購入代金・諸費用・利益を含めた被告人・J間の売買代金額である旨しか述べられておらず(その供述は信用できる)、この点で検察官の主張は採れない。 イ次に、公訴事実においては、被告人は、Kに対し、「オークションに328万円で後期モデルがでています。」「今日の午後3時までに振り込んでもらえれば買えます。」と述べたとされているところ、これらの イ次に、公訴事実においては、被告人は、Kに対し、「オークションに328万円で後期モデルがでています。」「今日の午後3時までに振り込んでもらえれば買えます。」と述べたとされているところ、これらの欺罔文言は、その文字通りの日本語としての言葉の意味に加え、公訴事実中の車両仕入代金名目で現金をだまし取ろうとしたとされている点も併せると、「オークションに328万円で出品されている後期モデルの車が見つかったので、Jが被告人に入金してくれれば購入できる」との言葉と理解するのが自然である。しかし、Kは、被告人から申し向けられた言葉は「今日だと後期モデルが安く出てる」「328万円」とは聞いたが、328万円は被告人側の購入代金・諸費用・利益込みの売買代金額であり、これを支払えば納車されると思っていた旨述べており、公訴事実と同一あるいは実質的に同趣旨の言葉を被告人が述べたことをKの公判供述からは認定できない。 - 11 -ウところで、Kは、上述のとおり、「今日だと後期モデルが安く出てる」「328万円」と申し向けられたこと、328万円はオークションの出品価格ではなく、被告人側の購入代金・諸費用・利益込みの金額であった旨の供述をしている。 しかし、K供述についても、捜査・公判の間で変遷が生じていることを指摘せざるを得ない。すなわち、Kは、捜査段階で作成された供述調書では、被告人にオークションでの入札を依頼した約20分後に、被告人から「予定どおり328万円で落札できました」「今日の15時までにお金を支払わなければ札が流れてしまいます」「この機会を逃せば、このクラスの車を328万円で落札できることはもう無いと思いますよ」などと、328万円がオークションでの落札価格である趣旨の供述や落札の連絡があってから入金をしたことを被告人の語った具体的な言葉やKの驚き ラスの車を328万円で落札できることはもう無いと思いますよ」などと、328万円がオークションでの落札価格である趣旨の供述や落札の連絡があってから入金をしたことを被告人の語った具体的な言葉やKの驚きの感情を述べていた。しかし、Kは公判廷においては、328万円はオークションの落札金額ではなく売買金額である旨や、Jが入金した後に被告人と連絡を取り合った際に被告人から車を買えたことを知らされた旨などを述べている。328万円で落札できたと知らされて入金を依頼され、これを信じてJに依頼して328万円を支払ったのか、まだ落札されていないことを前提に328万円払えば買えると言われ、これを信じてJに依頼して328万円を支払ったのかは、勘違いや微妙なニュアンスの言い違い等では説明できない違う趣旨の供述であると指摘せざるを得ない。しかも、警察官調書での供述が、被告人・Kが発したとされる具体的な言葉やKの感情などにも言及されたものであることも踏まえると、警察官において調書作成を誤ったことも考えられず、Kは、捜査・公判の間で被告人から申し向けられた内容やこれに対するKの対応について実質的に異なる供述をしているといえる。この点に関し、検察官は、被告人から申し向けらた欺罔文言に関するK供述に捜査・公判間で相反供述が存在することがK供述の信用性に影響する程度は極めて乏しいなどと主張するが、たしかに、詐欺被害に遭った者が、理解の乏しさ等からうっかり誤った供述をしたり、複数の機会で揺れのある供述をしたりすることはあり得る事態であって、この限りでは検察官の指摘も賛同できるが、しかし、後述のとおりKが記憶違いや勘違いにより誤った供述をしていないかとの観点のみならず、弁護人が指摘するようにKが故意に誤った供述をしていないかと- 12 -の観点からもK供述の信用性を吟味する必 、後述のとおりKが記憶違いや勘違いにより誤った供述をしていないかとの観点のみならず、弁護人が指摘するようにKが故意に誤った供述をしていないかと- 12 -の観点からもK供述の信用性を吟味する必要がある本件では、特に後者の観点では、相反供述の存在がK供述の信用性判断に及ぼす影響は小さいものではない。 エ Kの公判供述は、6月12日にした被告人とのLINEでのやりとりや送付された写真を踏まえながらのものであり、弁護人の指摘を踏まえても、Kの公判供述とLINEで送付された写真は整合するものといえ、この点はK供述の信用性を支えるものといえる。 オ Kの立場についてもみるに、被告人が述べているキックバックの点は真偽不明といわざるを得ないが、この点を除いても社用車を入手できなかったことにより勤務先に対して立場を失った原因を生じさせた被告人に対する不満があるだけではなく、Kも被告人に暴力を振るったとの事情が存在し、その立場を取り繕うために虚偽供述をする動機があるといえる。加えて、Kは、証人採用されていることや召喚されている期日を把握しながら期日不出頭を繰り返しているところ、その一部については疾病を原因として説明がつくものの、理由のつかない不出頭も見られ、特にKが被告人に対して恐怖心を抱くような事情も窺われないことも併せると、Kの証言拒絶の姿勢も不審といえる。これらによれば、Kについてもその供述の信用性は慎重に吟味する必要がある。 カ付随的にJ供述の信用性についても検討するに、Jは本件詐欺の被害者ではあるが、本件で被告人がした欺罔行為を直接見聞きした立場ではなく、これを申し向けられたとするK供述の信用性の支えとなる供述をする立場といえる。Jが公判で述べた、6月12日の朝にKから聞いた内容は同日朝に被告人から申し向けられたものとしてKが公判で 立場ではなく、これを申し向けられたとするK供述の信用性の支えとなる供述をする立場といえる。Jが公判で述べた、6月12日の朝にKから聞いた内容は同日朝に被告人から申し向けられたものとしてKが公判で述べている内容と整合しており、Kのこの点に関する公判供述の信用性を高めるとの見方もできそうではある。しかし、Jは、捜査段階においては、Kから、ヴェルファイアがネットオークションで落札できたこと、車両代金は328万円であること、いいグレードの車が手に入ったこと、お金は今日の午後3時までに入金しないと札が流れることなどを聞いたと述べており、6月12日朝にKから聞いた内容が、すでに落札されたのか、これから落札をするのかの点において、Jの供述は捜査・公判の間で変遷が存在している。かかる変遷の存在に加え、警察官調書におけるJの供述部分が、「ネットオークションとい- 13 -うシステム上、代金の支払いには時間のリミットがあるんだな」といったKとの会話の際に抱いた心情を交えながら述べられた真に迫るものであることをも踏まえると、6月12日朝にKから聞いた内容に関するJの公判供述は信用できず、このようなJの公判供述によりKの公判供述の信用性が支えられているということはできない。 キ検察官は、6月16日に、Kと被告人との間で、シートカバーのメーカー名についてのやり取りが存在することを指摘して、これはこのやりとりがあった時点までに売買の対象が特定のヴェルファイアに決定されていたことを示すものであり、K供述と整合するものである旨主張する。たしかに、検察官が指摘するようにK供述の信用性を高めるやりとりであるとみることもあり得る可能性の一つには含まれるが、しかし、K・被告人からは上記のやり取りの文脈について何らの公判供述も得られておらず、検察官が指摘するような理解が 供述の信用性を高めるやりとりであるとみることもあり得る可能性の一つには含まれるが、しかし、K・被告人からは上記のやり取りの文脈について何らの公判供述も得られておらず、検察官が指摘するような理解が正しいとは即断できない。また、被告人の供述を前提としても遅くとも328万円が支払われた6月12日の時点でJ・被告人間の売買契約は成立し、被告人は契約で定められた条件の範囲の車をJに引き渡す債務を負担していたところ、6月16日のやり取りはその条件を確認し合うもので、被告人の弁解と矛盾なく整合して理解する余地もあり、そうすると、上記やり取りの存在が欺罔行為に関するK供述の信用性を支える力は必ずしも強いものではない。 ク検察官は、6月18日に、Kと被告人との間で必要書類についてのやり取りがなされていること、御見積書が交付されていることを指摘して、これはこのやりとりがあった時点までに売買の対象が特定のヴェルファイアに決定されていたことを示すものであり、K供述と整合するものである旨主張する。たしかに、K・被告人間のやり取りの中で被告人が述べている書類は被告人・J間の自動車の引渡しに必要な書類であり、引渡しの前提として、被告人が自動車を既に入手していることを前提とするやり取りと見ることができる。また、御見積書についても翌月に登録することを前提する記載や陸送する距離に応じて変動すると思われる陸送費用について確定金額が記載されるなど、被告人が自動車を既に入手していることを前提とする記載が存在する。これらは、欺罔文言を申し向けられたとするK供述とよく整合し、その信用性を支えるものといえる。 - 14 -ケ以上までの検討によれば、Kの供述の信用性については、これをただちに信用することはできず、これを信用できるかは被告人の弁解の信用性いかんによることとなる。 を支えるものといえる。 - 14 -ケ以上までの検討によれば、Kの供述の信用性については、これをただちに信用することはできず、これを信用できるかは被告人の弁解の信用性いかんによることとなる。 5 被告人供述について(1) 被告人は、Bとの取引について、概要、以下の供述をする。すなわち、令和2年3月か4月頃、Bから、プラドを購入したいとの話が出た。私は、オークションサイト等で調べた上、Bに対し「四百数十万円ぐらいでこんな感じのが何台かあるよ」というぼかした言い方をして伝えたが、特定のオークションで特定の金額で出品されていたといった具体的な伝え方はしていない。私は、Bに対し、Bが当時乗っていたプリウスを下取りでもらえるのであれば、430万円くらいで納車できるのではないかと伝えた。Bからは、妻であるCを説得して欲しいとの要望があったので、私からCに対し、プラドについての話をしたこともあった。 その後Bから上記金額であれば振り込む旨の連絡があったのでこれを教えるとすぐに入金があった。私は入金があった際、二、三か月程度でプラドを入手してこれをBに引き渡そうと思っていたが、上記430万円は他の仕入れ費用等に充てたと思う。 Qから借用したプラドを運転してB夫妻に会いにいったことがあるが、これはCが大きい車に乗るのは初めてなので試乗したいとの要望があったためであり、試乗させたプラドもBから購入するプラドの条件として示されていたエアロパーツ等は取り付けられていない標準装備車両だった。 私とBは上記入金の後も頻繁に会っていた。Bは当初はプラドの納車を急かしていなかったが、その後Bからプラドの納車について急かされたり問合せを受けたりするのが増え出した。私は、Bからプラドの購入をキャンセルされて返金を求められるのは避けたいとの思いから、B 納車を急かしていなかったが、その後Bからプラドの納車について急かされたり問合せを受けたりするのが増え出した。私は、Bからプラドの購入をキャンセルされて返金を求められるのは避けたいとの思いから、Bに対してプラドは落札して陸送待ちであるなどと嘘をつき、オークション代行業者を用いるなどしてプラドの入手を試みたが、結局入手できなかった。私は、上記嘘をついておりプラドをBに納車できないとおかしいことから、Rから借用したプラドをBに引渡して納車を装った。 - 15 -結局、Bに対してプラドの納車ができなかったことから、Bから厳しい取り立てを受け、また、7月31日にはBやその同行者から暴力を振るわれて負傷した。 (2) 被告人は、Jとの取引について、概要、以下の供述をする。すなわち、私は、知人の紹介で知り合ったKから、ヴェルファイアを購入したいこと、購入するのは勤務先のIであることなどの商談があり、Kと予算を上げるやり取りをし、また、いい車が市場に出たときにすぐに仕入れられるよう代金先払いを求めたりした。Kからは、社長であるJに示す資料が欲しいとの要望があったため、中古車販売サイトで見つけた写真をKに送った。最初は前期モデルの写真を送ったが、Kから予算が上がったから後期モデルを購入できないかとの話があったので、同モデルの写真も送った。Kから10万円程度のキックバックの申し出があり、これを受けることにした。6月12日、Kからの求めに応じて振込先を教示し、同日328万円の振込を得た。私は、Kに対し、オークションに出ている分を落札するとか、もう落札できたといった説明はしていない。 入金からしばらくした後、Kから催促の連絡が頻繁に来るようになり、私は、ヴェルファイアの購入をキャンセルされて返金を求められるのは避けたいとの思いから、Bに対してした といった説明はしていない。 入金からしばらくした後、Kから催促の連絡が頻繁に来るようになり、私は、ヴェルファイアの購入をキャンセルされて返金を求められるのは避けたいとの思いから、Bに対してしたのと同様に嘘をつき、また、Tから借用したベルファイアをKに引渡して納車を装った。 (3) 被告人は当時従事していた営業に関し、概要、以下の供述をする。すなわち、私は、業者間販売で他店から購入すると正直な説明をすると、客が「A」を介さず直接他店で購入してしまい商機を逃してしまうことから、客に対しては基本的にはオークションで自動車を仕入れるとの説明をしていた。オークションや中古車販売サイトで自動車の相場を調べることはあったが、オークションでの出品価格を客に告げてしまうと客に被告人側の利益額が明らかになってしまうので、オークションでの出品金額は客に告げていない。 資金繰りに余裕がないことは基本的には客に告げており、売買代金を前払いすれば、早く車を入手して納車できる旨の説明を客にしていた。資金繰りに余裕がない関係で納車を二、三カ月等先延ばしにしたかったため、入金すればすぐに納車できるとの説明を客にはしていない。 - 16 -(4) 被告人供述についての検討被告人が、当時の営業内容について述べた内容(前記(3))は、筋が通ったものであり、基本的には信用できる。また、被告人が当時自転車操業状態であったものの、Uとの取引では注文のあった車を納車できており、Uから得た代金430万円と被告人の購入代金290万円の差額140万円から諸費用を控除したものを利益として得るなどと営業は細々と維持できていた(前記2(5))。このような供述内容や営業の状態からは、B・Jとの取引について他の客とは違い騙す言葉を述べてまでして金を得ようという動機があったとまではいえな 得るなどと営業は細々と維持できていた(前記2(5))。このような供述内容や営業の状態からは、B・Jとの取引について他の客とは違い騙す言葉を述べてまでして金を得ようという動機があったとまではいえない。 また、被告人は、取調時に「検察官の方から、こう言ったみたいよとか、こう言われるとそうだったのか、って言って、ちょっと証言しちゃってるとことかは幾つかあるかもしれない」などと捜査段階において公判供述とは異なる供述をした箇所があることを示唆する供述はするが、具体的な供述変遷部分は公判審理には顕出されておらず、本件審理において、被告人が述べたとされる欺罔文言に関するB・J・Kらの供述に変遷が顕れていることの対比において、被告人の弁解にはその信用性判断に影響を及ぼすような揺らぎがない。 他方、被告人が、B・J両名との取引につき、事後に被告人が所有権を取得していない自動車をあたかも所有権を取得した自動車であるかのように装って引き渡して納車を装ったり、Jとの取引に関しては、すぐに納車ができることを前提とするともとれるやり取りをKとしたり、同前提ととれる内容の御見積書を作成して交付したりするなど、嘘をついたといえる言動をしていることは認められる。これらはBやJから支払いを受けた後の事情ではあるが、上記各言動から遡って、その支払いの時点から継続して嘘をついていたと見ても相応に自然といえる文脈において、被告人の弁解が虚偽であり、BやKが述べたとおりの欺罔文言を被告人が述べたこととよく整合する事情といえる。もっとも、被告人はこれらの事後の嘘について、B・Kから納車の催促を受けたことからこれを免れるためについた嘘であると弁解している。しかし、納車すべき自動車を取得していないのに、これを取得したと嘘をついたとて、嘘に嘘を重ねなければB・Kからの催促を免れること の催促を受けたことからこれを免れるためについた嘘であると弁解している。しかし、納車すべき自動車を取得していないのに、これを取得したと嘘をついたとて、嘘に嘘を重ねなければB・Kからの催促を免れることはで- 17 -きないことは見やすい道理であるから、そのように早晩破綻するはずの嘘をついて催促を免れようとしたという被告人の弁解は、キャンセルによる返金を避けたいとの説明があることを踏まえても、若干の不自然さは否めない。とはいえ、引き渡すべき自動車は入手できていないが、そのことを正直に告げると返金を余儀なくされるという進退窮まる状況下で不合理な行動に出ることはあり得ることである上、Kからの催促に関しては、同人が被告人に対する責任追及の場で被告人に暴力を振るうという行動に及んでいると認められるという本件での特異な事情も併せると、Kから怒った口調で催促を受けたとする被告人の弁解には相応の真実味もまた感じられ、一応の合理性はあるといえる。 欺罔文言を述べていないとする被告人の弁解は、Kに送付した写真はKから会社内での説明資料として求められたから送ったものであるなど関係証拠についても、一応の説明がなされている。御見積書の交付もB供述と整合するものではあるが、代金受領から二、三カ月で納車できると思っていた旨の被告人の弁解とも整合するものであり、対立するBと被告人供述の信用性判断の決め手になる性質のものではない。 被告人の弁解供述は動かし難い客観証拠に支えられているようなものではないが、明確な変遷はなく、一応の合理性はあるなど、これをただちに虚偽を述べたものとまでは断じ難い。 (5) 被告人の弁解を踏まえて、欺罔行為に関する各証人の供述が信用できるかについて検討するに、B・Kいずれについても被告人から騙す言葉を申し向けられた場面について、公判供述と までは断じ難い。 (5) 被告人の弁解を踏まえて、欺罔行為に関する各証人の供述が信用できるかについて検討するに、B・Kいずれについても被告人から騙す言葉を申し向けられた場面について、公判供述と実質的に異なる供述をしていることは大きく、その他の事情も併せると、被告人が極めて信憑性に乏しい弁解をしているなどの事情がない限り、その供述を信用することは困難といえる。そうであるところ、金銭を受領した後の被告人の言動は嘘を重ねる不誠実な点が各所に見られるものの、金銭受領までの言動に関する被告人の弁解は、荒唐無稽な内容を述べたものではなく一応の合理性はあり、B・Kと異なる内容を述べている程度でしか証拠との齟齬はない。このような証拠関係の下では、B・Kの公判供述について、被告人供述を排斥できるまでの信用性を肯定できず、合理的疑いが差し挟まれているといわざるを得ない。C供述については固有の疑問点は見られないものの、B供述が信- 18 -用できないことは上述のとおりであるところ、同じ事柄についてのB供述に合理的疑いが差し挟まれていることや両者の関係性からは、C供述についても合理的疑いが差し挟まれているというべきである。以上によれば、被告人が述べたとされる欺罔文言についての各証人の公判供述は信用できず、被告人が公訴事実記載の欺罔行為を行ったと認めるには足りない。 (6) 最後に故意の点についても念のため付言するに、自転車操業状態ではあったものの同時期のUとの取引については納車まで至っていること、Bが購入しようとしたプラドについてもJがKのために購入しようとしたヴェルファイアについても、BやKが被告人と会話をしている際にいつまでに納車されるかについて明確な話し合いは証拠上はなされておらず、むしろB・Jのいずれについても納車を急いでいなかった旨の供述をし たヴェルファイアについても、BやKが被告人と会話をしている際にいつまでに納車されるかについて明確な話し合いは証拠上はなされておらず、むしろB・Jのいずれについても納車を急いでいなかった旨の供述をしていることなども併せると、金銭授受の時点ではそれぞれ注文に応じた自動車を数か月内に入手して納車するつもりがあり、同時点では騙すつもりはなかった旨の被告人の弁解は相応に合理的なもので、虚偽として排斥はできない。 7 結論以上のとおり、被告人が各公訴事実記載の詐欺をしたと認めるには足らず、本件公訴事実についてはいずれも犯罪の証明がないから、刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをすることとする。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑懲役3年6月)令和7年7月16日 福岡地方裁判所第3刑事部 裁判官岡本康博

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