平成19(ワ)30603 不正競争行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年10月21日 東京地方裁判所
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判決文本文29,903 文字)

- 1 -平成23年10月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成19年(ワ)第30603号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年7月29日判決大阪市<以下略>原告株式会社ヤマガタ同訴訟代理人弁護士辛島 宏木下 肇大沼容之上津亮次同訴訟復代理人弁護士木下威英東京都台東区<以下略>被告有限会社セキショウ東京都葛飾区<以下略>被告 Y1東京都葛飾区<以下略>被告 Y2埼玉県朝霞市<以下略>被告 Y3東京都葛飾区<以下略>被告 Y4東京都葛飾区<以下略>被告 Y5東京都台東区<以下略>被告 Y6東京都板橋区<以下略> - 2 -被告 Y7東京都板橋区<以下略>被告株式会社コーヨー斉藤印刷被告ら訴訟代理人弁護士江 上 千惠子 主文 1 被告Y1は,原告に対し,268万0346円(ただし,37万6346円の限度で被告Y3と,43万9280円の限度で被告Y4と各連帯して)を支払え。 2 被告Y3は,原告に対し,42万1824円(ただし,37万6346円の限度で被告Y1と連帯して ,37万6346円の限度で被告Y3と,43万9280円の限度で被告Y4と各連帯して)を支払え。 2 被告Y3は,原告に対し,42万1824円(ただし,37万6346円の限度で被告Y1と連帯して)を支払え。 3 被告Y4は,原告に対し,75万2022円(ただし,43万9280円の限度で被告Y1と連帯して)を支払え。 4 原告の被告Y1,被告Y3及び被告Y4に対するその余の請求並びに被告有限会社セキショウ,被告Y2,被告Y5,被告Y6,被告Y7及び被告株式会社コーヨー斉藤印刷に対する請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,原告と被告Y1との間においては,これを100分し,その1を被告Y1の負担とし,その余は原告の負担とし,原告と被告Y3との間においては,これを200分し,その1を被告Y3の負担とし,その余は原告の負担とし,原告と被告Y4との間においては,これを200分し,その1を被告Y4の負担とし,その余は原告の負担とし,原告とその余の被告らとの間においては,これを全部原告の負担とする。 6 この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告らは,別紙取引先目録記載1~34の取引先と紙製品の販売,印刷請負及びこれに附帯する一切の事業をしてはならない。 - 3 - 2 被告らは,原告に対し,各自1億4784万円を支払え。 3 被告Y3は,原告に対し,144万9098円及びこれに対する平成19年7月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告Y4は,原告に対し,322万6876円及びこれに対する平成19年7月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件における原告の請求の要旨は,次のとおりである。 (1) 第1の ,322万6876円及びこれに対する平成19年7月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件における原告の請求の要旨は,次のとおりである。 (1) 第1の1の請求原告のもと従業員であった被告Y1(以下「被告Y1」という。),被告Y3(以下「被告Y3」という。),被告Y4(以下「被告Y4」という。),被告Y5(以下「被告Y5」という。)及び被告Y6(以下「被告Y6」という。)が,不正の利益を得る目的で,原告に在職中に原告から示された別紙文書等目録記載1~13の営業秘密を開示し(不正競争防止法2条1項7号),被告ら(ただし,当該営業秘密を開示した被告を除く。)が不正開示行為であることを知って上記営業秘密を取得し(同項8号),これを共同で使用して別紙取引先目録記載1~34の取引先と取引をした(同項7号,8号)として,原告が,被告らに対し,不正競争防止法3条に基づき,上記各取引先と紙製品の販売,印刷請負及びこれに附帯する一切の事業を行うことの差止めを求めている。 (2) 第1の2の請求原告は,被告らに対し,主位的には,上記(1)の不正競争による損害賠償請求(不正競争防止法4条)として,予備的には,被告Y1,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が原告に在職中の平成16年頃,その余の被告らと原告の顧客を奪取することを共謀し,これを実行に移して原告に損害を与えたことが不法行為(民法709条,719条)に該当するとして,別紙取引先目録記載1~34の取引先に対する原告の売上利益減少額の損害賠償 - 4 -金合計1億6439万4301円のうち各自1億4784万円の支払を求めている。 (3) 第1の3,4の請求原告が被告Y3及び被告Y4に支払った退職一時金(被告Y3につき144万909 4 -金合計1億6439万4301円のうち各自1億4784万円の支払を求めている。 (3) 第1の3,4の請求原告が被告Y3及び被告Y4に支払った退職一時金(被告Y3につき144万9098円,被告Y4につき322万6876円)について,同被告らには懲戒解雇事由があり,支払済みの退職一時金が不当利得になるとして,上記退職一時金額の不当利得金及びこれに対する平成19年7月8日(被告Y3及び被告Y4に対する各訴状送達後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。 2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告は,紙類及び紙製品の加工,売買等を目的として昭和26年8月21日に設立された株式会社(本店所在地は大阪市)であり,営業部の下に14支店及び2営業所を有している。(甲84,乙73,弁論の全趣旨)原告は,平成16年当時,別紙取引先目録記載1~34の取引先と取引をしていた。 イ被告Y1は,平成2年4月に原告に入社し,大阪支店に配属されたが,平成6年6月21日,東京支店の開設に伴い東京支店勤務を命じられ,以後,原告において,次のとおりの地位に就任した。(甲22,乙5,10,12~17,71,98)平成11年9月21日品川支店次長平成13年3月21日品川支店支店長代理平成14年2月21日東京支店副支店長,品川支店長平成16年2月21日品川支店長同年 9月21日営業部部付部長(東京駐在)平成18年1月21日東京支店長兼品川支店長 - 5 -被告Y1は,平成19年1月15日付けで原告を懲戒解雇(その有効性については争いがある。)され,同年2月1日,被告有限会社セキショウ(以 8年1月21日東京支店長兼品川支店長 - 5 -被告Y1は,平成19年1月15日付けで原告を懲戒解雇(その有効性については争いがある。)され,同年2月1日,被告有限会社セキショウ(以下「被告セキショウ」という。)に入社した。(乙4,71)ウ被告Y2(以下「被告Y2」という。)は,被告Y1の妻であり,被告セキショウの設立(平成17年5月23日)以後,平成20年3月31日まで,被告セキショウの代表者(唯一の取締役)であった。(乙23,92,133)エ被告Y3は,平成3年3月に原告(大阪支店)に入社し,平成8年9月21日に東京支店に異動となり,平成16年2月21日から同支店の次長(当時は支店長が空席のため,同支店の実質的責任者)の地位にあったが,同年12月20日,原告を退職した。 被告Y3は,その後,被告セキショウを設立し,被告セキショウの従業員として稼働していたが,平成21年10月頃,被告セキショウを退職した。(甲20,22,乙60,87,95,被告Y3本人)オ被告Y4は,昭和56年3月,原告(名古屋支店)に入社し,平成11年3月21日に東京支店に異動になったが,平成17年3月31日に原告を退職した。 被告Y4は,同年5月,被告セキショウに入社し,平成20年4月1日,被告セキショウの代表者(代表取締役)に就任した。(甲21,22,122,乙62,89,133)カ被告Y5は,平成9年4月,原告(東京支店)に入社し,平成16年8月21日に退職した後,平成17年5月に被告セキショウに入社したが,平成21年8月31日頃,被告セキショウを退職した。(甲22,乙61,88,96,被告Y5本人)キ被告Y6は,平成13年3月,原告(東京支店)に入社し,平成17年2月20日に原告を退職した後,被告セキショウに 1日頃,被告セキショウを退職した。(甲22,乙61,88,96,被告Y5本人)キ被告Y6は,平成13年3月,原告(東京支店)に入社し,平成17年2月20日に原告を退職した後,被告セキショウに入社したが,平成18 - 6 -年3月に被告セキショウを退職した。(甲22,乙63,90,弁論の全趣旨)ク被告株式会社コーヨー斉藤印刷(以下「被告コーヨー斉藤印刷」という。)は,紙製品の販売及び印刷請負を業とする株式会社であり,被告Y7(以下「被告Y7」という。)は,被告コーヨー斉藤印刷の代表取締役である。 ケ被告セキショウは,各種封筒,チラシ,伝票類等の紙製品の企画,制作,編集,発行及び製造,販売等を目的とし,被告Y7が出資(資本金300万円)して,平成17年5月23日に設立された有限会社(平成18年5月1日以降は特例有限会社)である。(甲55,乙23,133)(2)ア原告は,その事業に,別紙文書等目録記載1~13の文書等(以下「本件文書1」,「本件文書2」などと略称し,本件文書1~13を一括して「本件各文書」と総称する。)を使用している。 イ原告は,平成17年9月30日から適用される「秘密情報管理規定」において,次の①~⑥に定めるもので原告が指定したものを原告の「秘密情報」とする旨定義している。(甲14・3条1項)① 業務を遂行するに当たり,原告から提供された全ての情報② 原告の財務及び人事に関する情報③ 原告の取引先及び取引内容に関する情報④ 原告の顧客リスト等に関する情報⑤ 原告の商品・技術・サービス・ノウハウに関する事項⑥ その他,原告が特に指定する情報(3) 退職一時金の支払ア原告は,平成17年1月12日,被告Y3(平成16年12月20日に原告を退職)に対し,退職一時金として144万9 ウに関する事項⑥ その他,原告が特に指定する情報(3) 退職一時金の支払ア原告は,平成17年1月12日,被告Y3(平成16年12月20日に原告を退職)に対し,退職一時金として144万9098円を支払った。 (甲20)イ原告は,平成17年4月4日,被告Y4(平成17年3月31日に原告 - 7 -を退職)に対し,退職一時金として322万6876円を支払った。(甲21)(4) 原告の就業規則及び退職年金規約ア原告の就業規則(大阪中央労働基準監督署平成11年11月24日受付)(以下「原告就業規則」という。)64条(懲戒解雇)には,次の規定がある。(甲18)「1項次の各号の一つに該当する場合には懲戒解雇に処す。 (1),(2) 省略(3) 社金を流用又は着服若しくは,不正の金品を受けて会社に不利益を与えたとき。 (4) 故意又は重大過失により事故を発生し会社に損害又は不利益を与えたとき。 (5) 会社の秘密を他に漏らしたとき。 (6)~(9) 省略(10) 職権を利用した不正の金品その他を得たとき。 (11)~(14) 省略(15) 就業規則に定められた規則ならびに諸規定,会社の指示,命令に理由なく違反して,社内の秩序を乱したとき。 (16) その他前各号に準ずる行為をしたとき。 2項前項情状配慮の余地があるときには,業務都合解雇又は自己都合退職として取扱うことがある。」イ原告の退職年金規約12条(給付の停止)には,次の規定がある。(甲19の2,乙2)「 加入者が懲戒処分により解雇された場合には,退職年金および退職一 - 8 -時金の給付は行わない。ただし情状によって一部を支給することがある。 なお使用人兼務役員についても,これに準ずる。」 3 争点(1) 被告らによる た場合には,退職年金および退職一 - 8 -時金の給付は行わない。ただし情状によって一部を支給することがある。 なお使用人兼務役員についても,これに準ずる。」 3 争点(1) 被告らによる不正競争の存否ア本件各文書の営業秘密該当性イ被告らは本件各文書を開示,取得して使用したか(2) 被告らによる不法行為の成否(3) 原告の損害(4) 被告Y3及び被告Y4は,原告に対し,退職一時金の返還をする義務を負うか 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(被告らによる不正競争の存否)についてア本件各文書の営業秘密該当性(ア) 原告本件各文書は,以下のとおり,いずれも不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当する。 a 秘密管理性(a) 原告就業規則64条1項(5)号は,「会社の秘密を他に漏らしたとき」を懲戒解雇事由として規定しているところ,原告は,この「会社の秘密」を明確にするため,「秘密情報管理規定」(甲14)を定め,秘密情報の保管(8条)や秘密保持義務(12条)について規定している。 本件文書1(1)の営業マニュアル(甲1,24)の頭部には「極秘」,「支店長限り」,「㊙」と記載され,取扱いには十分注意するように明示されており,また,本件文書2(1)の「別注原価単価計算要領(支店長用)」は支店長宛に部外漏洩を禁じており,これらの書面 - 9 -が秘密情報であることは十分に認識することができるようになっている。 本件文書1(2)アの営業マニュアル(甲30)は,本件各文書について,「営業員が守るべき機密事項」として「就業規則第64条(懲戒解雇)(5)項における『会社の秘密』に該当するので,外部に漏らしたり,資料を持ち出したりして業務外の目的に使用してはならない」と明記して 「営業員が守るべき機密事項」として「就業規則第64条(懲戒解雇)(5)項における『会社の秘密』に該当するので,外部に漏らしたり,資料を持ち出したりして業務外の目的に使用してはならない」と明記しており,また,本件文書1(2)イの営業マニュアル(甲31)にも,「営業文書管理規定」として,秘密文書類の範囲やその管理方法について詳しい規定があり,秘密文書については,管理責任者が責任をもって管理するように定めている。 (b) 「秘密情報管理規定」(甲14)は,平成17年9月30日から適用されることになっており,それまでに原告を退職した被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6については適用されないが,就業規則上の秘密保持義務の効力がなくなるわけではない。 b 有用性原告は,封筒,名刺,葉書等の紙製品の製造,販売及び封筒類等の印刷請負を業としている。 紙製品の販売や印刷請負の受注に際し,受注価格を決定するためには,本件文書1(営業マニュアル),2(「別注原価/加工単価表」,「別注原価単価計算要領」),4(別製原価明細集計表)が必要不可欠であり,本件文書5(売掛金回収管理表),6(班別月間大口売上実績一覧表),7(得意先元帳)は得意先として取引を続けていく適否や顧客情報として欠かせないものであり,本件文書8(支店売上検証),9(支店/粗利率(%)昇順)も,得意先情報として受注の可否の判断に不可欠なものである。 また,本件文書3(別製原価計算書),10(版下〈製版用〉フィ - 10 -ルム),11(指図票)は,いずれも原告のノウハウであり,本件文書3(別製原価計算書)は受注する商品の原価計算を容易にするためのもの,本件文書10(版下〈製版用〉フィルム)は印刷請負のためのもの,本件文書11(指図票)は受注した商品や印刷のスムーズな ,本件文書3(別製原価計算書)は受注する商品の原価計算を容易にするためのもの,本件文書10(版下〈製版用〉フィルム)は印刷請負のためのもの,本件文書11(指図票)は受注した商品や印刷のスムーズな納品のためのものである。 本件文書12(月間報告・計画書),13(支店日誌入力表)は,いずれも原告全体の営業活動に必要なものである。 したがって,本件各文書は,いずれも原告の業務遂行上有用なものである。 c 非公知性本件各文書は,いずれも原告が長年の営業実績に基づいて作成したものであり,一般に開示されていない。 また,原告の営業活動を容易にするための本件文書3(別製原価計算書)や印刷請負を迅速正確にするための本件文書11(指図票)などは,原告の考案に係るノウハウの結晶であり,原告独自のものである。 したがって,本件各文書は,第三者が全く知り得ないものである。 (イ) 被告ら本件各文書は,いずれも営業秘密として保護される情報ではない。 a 秘密管理性本件各文書は,以下のとおり,営業秘密であると客観的に認識できるような状態で管理されていなかった。 すなわち,本件文書1(営業マニュアル),2(「別注原価/加工単価表」,「別注原価単価計算要領」)は,各営業社員が一部ずつ所持し,各自机の上に放置していたもので,支店長しか所持できないというのは事実と異なる。 - 11 -本件文書3(別製原価計算書)は,誰でも自由に閲覧することができたものであり,本件文書4(別注原価明細集計表),5(売掛金回収管理表),6(班別月間大口売上実績一覧表),7(得意先元帳)も,事務員の机の上にファイルが立てて置いてあり,従業員なら誰でも閲覧することができる状態にあった。 本件文書8(支店売上検証),9(支店/粗利率(%)昇順 大口売上実績一覧表),7(得意先元帳)も,事務員の机の上にファイルが立てて置いてあり,従業員なら誰でも閲覧することができる状態にあった。 本件文書8(支店売上検証),9(支店/粗利率(%)昇順)は,品川支店を東京支店に統合する際に作成された資料であるが,パソコンで誰でも自由に閲覧することができた(閲覧するのにパスワードが必要ではあったが,パソコンの画面上に分かりやすくパスワードが明記されており,営業社員に限らず,誰でも閲覧可能であった。)。 本件文書10(版下〈製版用〉フィルム)は,原告東京支店の倉庫の入口付近に置いてあったもので,倉庫へは従業員や業者が自由に出入りすることができたから,誰でも見ることができたものである(なお,版下〈製版用〉フィルムの大部分は,原告の所有物ではなく,得意先からの預かり物である。)。 本件文書11(指図票)は,全部で6枚から成るが,このうち,①センター業務控,②工場控,③工場作業票,④コンピュター(甲11の1~4)は工場に送付されてしまい,以後,支店には存在しない。 また,⑤営業店控,⑥営業控(甲11の5,6)は控えとして残るが,⑤については,事務員が支店内に積み上げて置いたままになっており,⑥についても,各営業社員が机上のファイルに綴るだけで,誰でも閲覧することができる状態であった。 本件文書12(月間報告・計画書)は,営業社員が自己管理のために作成する資料であるが,誰でも自由に閲覧可能なもので,原告従業員のほとんどが「秘密」などという認識を有していなかった。 b 有用性 - 12 -本件文書1(営業マニュアル)は,東京における紙製品の市場価格を基準とすると,単価が高すぎて全く使えないものであったし,本件文書2(「別注原価/加工単価表」,「別注原価単価計算要領」)も,東京市 本件文書1(営業マニュアル)は,東京における紙製品の市場価格を基準とすると,単価が高すぎて全く使えないものであったし,本件文書2(「別注原価/加工単価表」,「別注原価単価計算要領」)も,東京市場における外注単価とは異なり,使い物にならなかった。 本件文書3(別製原価計算書)も有用性がないため,原告においてこれを使用する営業社員はいなかった。 本件文書4(別注原価明細集計表),5(売掛金回収管理表)は,所定事項について社長に報告した後は意味がなく,綴って倉庫に入れられてしまうものである。 本件文書6(班別月間大口売上実績一覧表)は,保存期間の定めがなく,「用済後廃棄」とされているとおり,営業マンが各自廃棄することがほとんどであった。 本件文書8(支店売上検証),9(支店/粗利率(%)昇順),12(月間報告・計画書)は,いずれも報告資料であり,被告らが利用するメリットのない書類である。 本件文書13(支店日誌入力表)は,一方通行の報告書であり,日記程度の記載のものも多く,利用価値がない。 c 非公知性取引においては,得意先から見積りの提出を要請されるのが通常であり,その際,加工明細を提出するように求められるので,業界関係者であれば,かなりの程度原価計算が可能である。 また,本件文書3(別製原価計算書),11(指図票)は,業界関係者には常識であり,原告のノウハウなどといえるものではない。 イ被告らは本件各文書を開示,取得して使用したか(ア) 原告被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が,原告の顧客から注文 - 13 -を受けるために本件営業秘密を被告Y1から開示されたであろうことは想像に難くない。そして,被告Y1,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,原告の顧客からの注文を被告セキショウ - 13 -を受けるために本件営業秘密を被告Y1から開示されたであろうことは想像に難くない。そして,被告Y1,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,原告の顧客からの注文を被告セキショウに受けさせるため,本件営業秘密を他の被告らに開示し(不正競争防止法2条1項7号),その余の被告らは,不正開示行為であることを知って上記営業秘密を取得し(同項8号),これを被告らが共同で使用して(同項7号,8号),原告の顧客(別紙取引先目録記載1~34の取引先)から注文を受けて,被告セキショウの事業(紙製品の販売,印刷請負及びこれに附帯する一切の事業)を営んだ。 (イ) 被告ら否認する。 被告らが本件各文書を開示したり,これを取得して使用したりした事実はない。 (2) 争点(2)(被告らによる不法行為の成否)についてア原告被告らは,新会社(被告セキショウ)を設立して原告の顧客を奪取するため,被告Y7が新会社設立の資金を提供し,被告Y2が新会社の代表者に就任し,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6がそれぞれ原告を退職し,新会社に就職して営業活動を行い,原告に残留する被告Y1と密かに連携して原告の秘密情報を流出させ,これを利用して原告の顧客を奪取するとともに,被告コーヨー斉藤印刷が原告から奪取した顧客の注文を請け負うことを計画し,平成16年8月以降,これを実行に移して,原告の顧客(別紙取引先目録記載1~34の取引先)を奪取した。 被告Y1は,原告に対し,被告らによる顧客奪取の事実を隠蔽するため,当該顧客について「倒産,廃業」,「他社の一括受注」,「在庫調整」等,虚偽の説明をするとともに(甲17,47),隠蔽した事実の発覚を防ぐ - 14 -ため,原告東京支店長の地位を利用して,同支店営業担当者に対し,奪取した顧 ,「他社の一括受注」,「在庫調整」等,虚偽の説明をするとともに(甲17,47),隠蔽した事実の発覚を防ぐ - 14 -ため,原告東京支店長の地位を利用して,同支店営業担当者に対し,奪取した顧客への営業活動は行わないように指示して,妨害工作を行った。 被告らの上記行為は,全体として,共謀による原告の顧客奪取の(共同)不法行為(民法709条,719条)を構成する。 イ被告ら(ア) 不法行為の成立は否認する。被告らは,原告の顧客を奪取したことはなく,そのための共謀も行ったことがない。 従業員が在職中にごく一般的に知ることができて習得した知識,ノウハウ等は営業秘密に当たらないし,これを利用しても競業避止義務違反にはならない。 被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が原告に在職中,原告の就業規則に競業避止義務の規定はなく(原告の就業規則に競業避止義務が規定されたのは,平成18年6月30日である。),同被告らが被告セキショウで行った営業活動は,それまで顧客との間で培ってきた信頼関係に基づき,顧客の自由な判断により注文を獲得したにすぎないもので,自由競争の範囲内のものとして全く問題がない。また,被告Y1は,原告に対し,部下からの報告をそのまま報告しただけで,虚偽の報告をしたことはないし,原告の営業担当者に対して顧客訪問を行わないように指示したこともない。 そもそも労働者は職業選択の自由を有しており,重要な秘密の漏洩や顧客の大量奪取等,特に悪質な競業行為について,例外的に不法行為の成立が認められることがあるとしても,本件において,被告らはこのような悪質な行為をしておらず,不法行為の成立は認められない。 (イ) 別紙取引先目録記載1~34の取引先(以下,「本件取引先1」,「本件取引先2」などと略称する。)と被告セキショウと 被告らはこのような悪質な行為をしておらず,不法行為の成立は認められない。 (イ) 別紙取引先目録記載1~34の取引先(以下,「本件取引先1」,「本件取引先2」などと略称する。)と被告セキショウとの関係は,次のとおりである。 - 15 -① 本件取引先1について被告Y5は,原告を退職(平成16年8月21日)した後,被告セキショウの担当者として,挨拶を兼ねて本件取引先1に営業訪問したところ,たまたま本件取引先1は原告との取引を同業他社(株式会社山櫻〈以下「山櫻」という。〉,ハート株式会社〈以下「ハート」という。〉等)に変えようとしている最中であり,被告Y5の熱心な営業努力により被告セキショウが獲得したものである。 ② 本件取引先2について原告にも本件取引先2に対する売上げがあり,被告セキショウが奪取したものではないことが明らかである。 また,本件取引先2については,被告セキショウの担当者である被告Y3の営業努力により,被告セキショウの売上げが上がったもので,自由競争の範囲内の営業活動の結果である。 ③ 本件取引先3について原告は,本件取引先3との間で納期トラブルを起こし,その信用を失った結果,平成17年4月から売上げがなくなったもので,被告セキショウとは関係がない。 被告セキショウは,営業チャンスを生かし,被告セキショウの担当者である被告Y5の営業努力,既製封筒に印刷という付加価値を付け,本件取引先3の各拠点に配送納品するという顧客サービス等をした結果,本件取引先3からの注文を受けることになったものである。 被告Y1が原告の営業担当者に対し,本件取引先3を訪問しなくてもよいなどという指示を出したことはない。 ④ 本件取引先4について被告Y4が原告を退職(平成17年3月31日)した後,挨拶を兼 被告Y1が原告の営業担当者に対し,本件取引先3を訪問しなくてもよいなどという指示を出したことはない。 ④ 本件取引先4について被告Y4が原告を退職(平成17年3月31日)した後,挨拶を兼ねて本件取引先4を訪問し,少しずつ注文を取ったものである。 - 16 -本件取引先4の注文はメーカーでは対応できない案件が多く,引き継いだ原告担当者が新入社員で商品知識に欠けていたことが,原告の売上げ減少の原因である。 ⑤ 本件取引先5について被告Y5は,原告在籍当時,本件取引先5の担当者と面識があり,原告を退職後に本件取引先5に営業活動を行ったところ,別製封筒の注文が入ったことから,原告に迷惑が掛からないように,「C印刷」という名称で受注した。 本件取引先5は,平成21年に倒産したため,それ以後,被告セキショウとの取引はない。 ⑥ 本件取引先6について本件取引先6から被告Y5に電話があり,被告Y5が訪問して,平成17年3月中に受注に成功したもので,被告セキショウが独自の営業努力で得たものである。 本件取引先6に販売した商品は,別製セロ窓封筒とカレンダー(甲157の3)のみであり,既製品封筒メーカーである原告に作成できるものではなかった。 ⑦ 本件取引先7について本件取引先7の被告セキショウに対する最初の発注は,同社が箱崎から汐留に移転する際のダイレクトメール(DM)の作成であり,これは,原告では受注できないもので,原告の売上げ減少とは全く関係がない。 その後,被告Y5が営業を続けた結果,原告が作成していた封筒とは全く異なる種類の封筒の注文を受けることになったが,一時的なものにすぎなかった。すなわち,ソフトバンクグループ内では,その後,インターネットによる入札が行われるようになり,被告セキショウの 封筒とは全く異なる種類の封筒の注文を受けることになったが,一時的なものにすぎなかった。すなわち,ソフトバンクグループ内では,その後,インターネットによる入札が行われるようになり,被告セキショウの - 17 -営業努力では安値競争には勝てず,他社が落札している。 ⑧ 本件取引先8について本件取引先8は,もともと原告だけでなく,他の封筒メーカー(数社),印刷業者などと取引しており,被告セキショウは,複数ある取引業者の一つに加わったにすぎず,数社競合の中で,担当者の被告Y3が営業努力を積み重ねて成果を得たものである。 原告は,売上げは減少しているものの,本件取引先8との取引は継続しており,原告の売上げ減少は,営業方針の誤り,営業努力の不足等により,同業他社との競合に対応できなかったことが原因である。 ⑨ 本件取引先9について被告Y3が原告に在籍していた当時の本件取引先9に対する販売内容は,封筒・名刺用紙であり,その大部分は製薬会社用であった。ところが,被告Y3が原告を退職(平成16年12月20日)した後,本件取引先9と製薬会社の都合で定期的な大口封筒の取扱いがなくなり,名刺用紙・小口印刷物のみの取引となって,本件取引先9の封筒類取扱い数自体が減少した。 被告セキショウは,小口別注封筒の受注をしていたが,名刺用紙などは受注しておらず,平成18年度の被告セキショウの本件取引先9に対する年間売上げは約29万円にすぎない。また,本件取引先9は,原告と取引する以前から,別の封筒メーカー(山櫻)と取引しており,原告と山櫻は競合していた。原告が主張する売上げ減少は,山櫻などの同業他社との競合に対応できなかったこと,すなわち,原告の営業方針の誤り,営業努力不足が原因である。 ⑩ 本件取引先10について被告Y3が原告を退 た。原告が主張する売上げ減少は,山櫻などの同業他社との競合に対応できなかったこと,すなわち,原告の営業方針の誤り,営業努力不足が原因である。 ⑩ 本件取引先10について被告Y3が原告を退職(平成16年12月20日)した後,被告セキショウの営業努力の結果,本件取引先10が被告セキショウを選ん - 18 -だもので,自由競争の範囲内での営業活動の結果であり,奪取ではない。 本件取引先10は,イベント企画,ホームページ作成など広告企画会社であり,被告セキショウは,印刷物のみならず「DM封入作業,デザイン,データ作成」などの印刷物以外のサービス(原告が提供していないサービス)も取り扱い,注文を獲得したもので,明らかに自由競争の結果である。 ⑪ 本件取引先11について本件取引先11は,原告と取引する以前から,別の封筒メーカー(山櫻)と取引しており,原告と山櫻は競合していた。原告が主張する売上げ減少は,山櫻などの同業他社との競合に対応できなかったこと(営業方針の誤り,営業努力不足)が原因である。 本件取引先11は,主に製薬会社の封筒を取り扱っていたが,製薬会社の合併に伴い,定期的な大口封筒の取扱いがなくなり,小口印刷物のみの取引となっため,封筒類の取扱い数自体が激減している。 ⑫ 本件取引先12について本件取引先12は,ゴルフダイジェストを主な取引先とし,封筒のほかに,チラシ,パンフレット,冊子,ノベルティグッズなどを幅広く取り扱っている。 原告では封筒の受注がほとんどであるのに対し,被告セキショウでは,別注封筒のほかに,「チラシ,DM封入・封緘・投函作業,デザイン,データ作成」などの印刷物以外のサービス(原告が提供していないサービス)も取り扱った結果,本件取引先12がサービスで優れる被告セキショウを選択 ほかに,「チラシ,DM封入・封緘・投函作業,デザイン,データ作成」などの印刷物以外のサービス(原告が提供していないサービス)も取り扱った結果,本件取引先12がサービスで優れる被告セキショウを選択したもので,自由競争の範囲内である。 ⑬ 本件取引先13について本件取引先13は,被告Y4が原告の従業員当時に獲得した得意先 - 19 -である。販売主要商品は封筒の既製品であり,原告の同業他社である山櫻やハートから入荷する比率が増加しただけで,原告の売上げ減少は,営業努力不足が主因である。 原告は,平成18年度の最終月まで本件取引先13に対する売上げがある。 ⑭ 本件取引先14について本件取引先14は,原告のほかに山櫻やハートという同業封筒メーカーの口座があり,販売競争相手は被告セキショウだけではなかった。 被告セキショウの担当者(被告Y4)が丁寧な営業努力をして本件取引先14からの注文を得たもので,自由競争の範囲内における営業活動の結果である。 ⑮ 本件取引先15について本件取引先15は,もともと原告の同業他社に当たる他の封筒メーカーと取引しており,担当者のミスが原因で,一時,原告と取引をしたが,その後,他のメーカー(同業他社)との取引が再開し,原告との取引がなくなったもので,被告セキショウが奪取したためではない。 被告セキショウと本件取引先15との取引量も少なく,大部分の取引は,他の封筒メーカーとの間のものである。 ⑯ 本件取引先16~18について被告セキショウは,これらの取引先と取引した実績がない。 ⑰ 本件取引先19について本件取引先19は,もともと売上高の少ない得意先であるが,原告は,平成18年にも売上げを計上しており,原告も被告セキショウも自由競争の範囲内で営業活動をしているにすぎ ⑰ 本件取引先19について本件取引先19は,もともと売上高の少ない得意先であるが,原告は,平成18年にも売上げを計上しており,原告も被告セキショウも自由競争の範囲内で営業活動をしているにすぎない。 ⑱ 本件取引先20について本件取引先20は,製版業を主とした会社であり,封筒を扱うこと - 20 -は少なく,原告の業務内容では取引できる案件がほとんどない。 これに対し,被告セキショウの受注内容は,「別製便箋」,「別製カード」などであり,既製品は販売していない。 ⑲ 本件取引先21について被告セキショウは,本件取引先21と取引した実績がない。 ⑳ 本件取引先22について被告セキショウは,本件取引先22から数点の注文を受けたが,その後,原告による業務妨害的な風説の流布により,被告セキショウとの取引は中止となり,現在,本件取引先22は,山櫻と取引している。 以上の経過をみても,自由競争の範囲内での営業活動の結果であることが明らかである。 ○ 21 本件取引先23について本件取引先23は,被告セキショウの担当者(被告Y4)の営業努力により獲得した得意先であり,自由競争の範囲内である。 ○ 22 本件取引先24について本件取引先24は,被告Y4の営業努力により獲得した得意先であり,自由競争の範囲内である。 本件取引先24に対する原告の販売品は,オリジナル商品がほとんどであり,被告セキショウにおいて販売することができないものである。他方,被告セキショウは,本件取引先24から,印刷・デザインなど付加価値を付けた案件を受注していたのであって,原告とは受注商品が異なる。 ○ 23 本件取引先25,26について被告セキショウは,これらの取引先と取引した実績がない。 ○ 24 本件取引先27に 付けた案件を受注していたのであって,原告とは受注商品が異なる。 ○ 23 本件取引先25,26について被告セキショウは,これらの取引先と取引した実績がない。 ○ 24 本件取引先27について本件取引先27は,被告Y5がソフトバンク広報部の社員から紹介 - 21 -してもらい,営業活動を始めたところ,新しいロゴに対応できる業者を探していたことから,被告セキショウが得意とする分野の商品として,受注することができたものである。 これは,原告が販売している商品とは異なる商品であり,奪取には当たらない。 ○本件取引先28について本件取引先28は小口の得意先であり,「小口を切る」という原告の営業方針が,原告の売上げ減少の原因である。 ○ 26 本件取引先29について被告セキショウは,本件取引先29から,「C印刷」こと被告Y5を経由して一時的に受注したことがあるが,それ以後は,原告が受注している。 ○ 27 本件取引先30について本件取引先30は,被告Y4の営業努力により,被告セキショウが受注したもので(なお,本件取引先30は,印刷業者ではなく,一般企業なので,受注は非常に少ない。),自由競争の範囲内である。 ○ 28 本件取引先31について本件取引先31は,封筒類の取扱いが少ないが,被告セキショウでは,「チラシ,DM封入・封緘・投函作業,デザイン,データ作成」など,封筒以外を取り扱っているので,本件取引先31は,原告には依頼することができなかった案件についても,被告セキショウに発注することができるようになり,異なる業種として取引ができるようになったものである。 被告セキショウは,メーカーから封筒などを仕入れて印刷・加工するため,取引先からすれば,原告のようなメーカーから直接 ことができるようになり,異なる業種として取引ができるようになったものである。 被告セキショウは,メーカーから封筒などを仕入れて印刷・加工するため,取引先からすれば,原告のようなメーカーから直接仕入れる場合より価格が高くなるが,それにもかかわらず被告セキショウが受 - 22 -注できるのは,営業努力とデザインやデータ作成等のサービスの付加があるからである。 ○ 29 本件取引先32,33についてこれらの取引先は,被告Y4の営業努力により,被告セキショウが受注したもので,自由競争の範囲内での営業活動である。 ○本件取引先34について原告は,平成18年度においても,本件取引先34に対し,毎月コンスタントに売上げがあり,被告セキショウが本件取引先34を奪取した事実がないことは明らかである。 (3) 争点(3)(原告の損害)についてア原告別紙取引先目録記載1~34の取引先に対する原告の平成16年度(平成16年3月21日~平成17年3月20日)の売上げは,合計1億1358万2842円であったが,被告らが原告の顧客を奪取した結果,上記取引先に対する原告の平成17年度以降の売上げは,次のとおり減少した。 平成17年度 4474万8559円平成18年度 3802万2158円平成19年度 1686万5601円平成20年度 1129万3239円平成21年度 1129万3239円平成22年度 1129万3239円上記取引先について,平成16年度の原告の売上高(1億1358万2842円)を基準とすると,平成17年度~平成22年度までの原告の売上げの減少額は5億4798万1017円であり,また,原告の売上総利益率は30%以上であるから,原告の損害額は,上記売上減少額に30% 42円)を基準とすると,平成17年度~平成22年度までの原告の売上げの減少額は5億4798万1017円であり,また,原告の売上総利益率は30%以上であるから,原告の損害額は,上記売上減少額に30%を乗じた1億6439万4305円である。 - 23 -イ被告ら原告は,別紙取引先目録記載1~34の取引先に対する平成16年度の売上額を基準として,上記取引先に対する平成17年度以降の売上げの減少が全て被告らの行為に起因すると主張しているが,原告の営業努力の不足や封筒業界全体の売上げ減少要因(景気低迷による企業の経費節減のため,あるいはインターネットや携帯電話の普及のため,封筒の利用が大きく減少してきている等の事情)を無視したものである。 原告は,経営判断の誤り等,被告らとは全く関係のない理由による売上げ減少を全て被告らの責任に転嫁しているにすぎない。 (4) 争点(4)(被告Y3及び被告Y4は,原告に対し,退職一時金の返還をする義務を負うか)についてア原告被告Y3及び被告Y4が他の被告らと共謀して原告の顧客を奪取した行為(共同不法行為)は,不正競争防止法違反罪や刑法の背任罪に該当する犯罪行為であり,原告の就業規則64条1項(3)~(5),(10),(15),(16)号に定める懲戒解雇事由に該当する。 原告は,被告Y3及び被告Y4の非違行為を知らず,同被告らに退職一時金を支給したが,原告が同被告らの非違行為を事前に知っていれば,同被告らは,いずれも上記非違行為により懲戒解雇され,退職一時金の支給を受けられなかったことは明らかである。 被告Y3及び被告Y4は,上記非違行為を隠匿して原告を退職し,退職一時金の支給を受ける地位にないにもかかわらず,それぞれ退職一時金の支給を受け,原告に退職一時金相当額の損失を与え 明らかである。 被告Y3及び被告Y4は,上記非違行為を隠匿して原告を退職し,退職一時金の支給を受ける地位にないにもかかわらず,それぞれ退職一時金の支給を受け,原告に退職一時金相当額の損失を与え,これを不当に利得したものといわざるを得ない。 よって,被告Y3及び被告Y4は,原告に対し,不当利得として,その受領した退職一時金を返還する義務を負う。 - 24 -イ被告Y3及び被告Y4被告Y3及び被告Y4に懲戒解雇事由はなく,被告Y3及び被告Y4が受給した退職一時金を原告に返還する義務はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被告らによる不正競争の存否)について(1) 本件文書10(版下〈製版用〉フィルム)本件文書10(甲10)は,印刷のために作成された版下(製版用)フィルムであり,原告が,下請業者である定谷紙業株式会社(以下「定谷紙業」という。)やアベ紙工産業株式会社に預けていたものであるが,これら下請業者との間で版下(製版用)フィルムについて秘密保持契約が締結されていたわけではなく,そもそも版下(製版用)フィルムは封筒の印刷に用いる版下であり,その記載内容(文字,デザイン等)は,これを使用して印刷された封筒面上にそのまま表示され,印刷された封筒自体は封筒として使用されるものである。したがって,封筒を使用した者及びこれを受領した者等は,誰でもその記載内容を認識できるのであるから,本件文書10が非公知の情報であるということはできず,これを営業秘密と認めることはできない。 したがって,本件文書10に係る不正競争を理由とする請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないことが明らかである。 (2) 本件文書1~9,11~13原告は,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が,原告の顧客 理由とする請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないことが明らかである。 (2) 本件文書1~9,11~13原告は,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が,原告の顧客から注文を受けるために本件営業秘密を被告Y1から開示されたであろうことは想像に難くないと主張するが,被告Y1が,いつ,どのようにしてこれらの文書を他の被告らに開示したのかについて何ら主張,立証せず,かつ,被告らが本件文書1~9,11~13を原告の営業以外に使用したことをうかがわせる証拠も全くない。 したがって,被告らに,本件文書1~9,11~13について,不正開示 - 25 -行為,不正取得行為,不正使用行為のいずれも認めることができず,上記各文書に係る不正競争を理由とする請求も,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 (3) 上記(1),(2)のとおり,本件各文書に係る不正競争を理由とする原告の請求は,いずれも理由がない。 2 争点(2)(被告らによる不法行為の成否)について(1) 証拠(甲18,22,甲41の2,甲55,62,70,98,112,138,乙4,23,60~63,71,87~92,94~96,98,119,乙127の1~3,乙128の1~3,乙129の1~3,乙132,乙135の1,2,乙137,調査嘱託の結果,原告代表者,被告Y1本人,被告Y3本人,被告Y5本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ア被告Y3は,平成16年2月21日から原告東京支店次長の地位(当時は支店長の地位が空席であったため,実質的に同支店の最高責任者)にあったが,原告の経営方針に疑問を持つようになったことから,同年10月中旬頃,退職願(退職日は同年12月20日)を提出し,同年11月8日から有給休暇 空席であったため,実質的に同支店の最高責任者)にあったが,原告の経営方針に疑問を持つようになったことから,同年10月中旬頃,退職願(退職日は同年12月20日)を提出し,同年11月8日から有給休暇を取得した上,その頃,十数年来の付き合いがある被告Y1(当時,原告営業部部付部長)に対し,今後,印刷全般の仕事をしていこうと考えていることなど,退職後の身の振り方について相談した。 被告Y1は,上記のとおり,その当時,原告営業部部付部長(東京駐在)の立場にあり,表立ったことはできなかったことから,被告Y3に対し,個人的に親しくしていた被告Y7(原告の下請業者である被告コーヨー斉藤印刷の代表取締役)を紹介した。被告Y3は,被告Y7と相談した結果,被告Y7の資金援助を受け,「セキショウ」(「<省略>」を音読みしたものと認められる。)の屋号で印刷業を始めることとした。 また,被告Y5は,平成16年8月20日に原告を退職した後,同年9 - 26 -月から別の印刷会社(トータルプリント豊工業株式会社)で稼働していたが,同年11月には同社も退職したことから,その頃,被告Y3及び被告Y7と相談の上,被告Y3とともに「セキショウ」の事業に加わることになった。 なお,原告においては,平成18年6月30日に就業規則が改正されるまで,退職した従業員に対し,原告との競業を禁止する旨の規定はなかった。 イ被告Y3は,「セキショウ」の事業を展開するに当たって金融機関に取引口座を開設する必要に迫られたが,いまだ法人格を取得していない「セキショウ」名義での口座を作ることができず,また,被告Y3個人も消費者金融業者からの借入れがあり,自己の名義で口座を開設することができなかった。 そこで,被告Y3は,「セキショウ <省略>」名義の口座を開設することとし ることができず,また,被告Y3個人も消費者金融業者からの借入れがあり,自己の名義で口座を開設することができなかった。 そこで,被告Y3は,「セキショウ <省略>」名義の口座を開設することとし,平成16年11月中旬頃,被告Y1にその旨の依頼をしたところ,被告Y1は,これを了承した。 被告Y1は,平成16年11月29日,被告Y3と共に東京東信用金庫入谷支店に赴き,「セキショウ <省略>」名義の普通預金口座(口座番号<省略>)を開設し,被告Y5が用立てた現金100万円を上記口座に入金した。 ウこの間,「セキショウ」は,原告の既存の取引先を含む顧客に営業活動を行い,遅くとも平成16年11月22日までに,一部の顧客から印刷請負等の注文を受けた。 エ被告Y6は,平成17年2月20日,原告を退職したが,その後,被告Y3や被告Y5が「セキショウ」の屋号で印刷請負業を営んでいることを知り,被告Y3や被告Y5とともに「セキショウ」の事業に加わった。 また,被告Y4も,平成17年3月31日に原告を退職した後,被告Y - 27 -3から「セキショウ」の事業に参加することを誘われ,「セキショウ」の事業に加わった。 オその後,被告Y3,被告Y5は,「セキショウ」を法人化することにし,被告Y7が資本金300万円の全額を出資して,平成17年5月23日に被告セキショウが設立された。 その際,被告Y3は,被告Y7からの要望を受けて,代表者(唯一の取締役)を被告Y2(被告Y1の妻)としたが,被告Y2は,その後も被告セキショウの経営には全く関与せず(役員報酬等の支払も受けていない。),被告Y3が実質的な経営者として,被告セキショウの事業運営に当たった。 カ被告セキショウは,従前の「セキショウ」の事業を引き継ぎ,原告の取引先を含む顧客に営業活 員報酬等の支払も受けていない。),被告Y3が実質的な経営者として,被告セキショウの事業運営に当たった。 カ被告セキショウは,従前の「セキショウ」の事業を引き継ぎ,原告の取引先を含む顧客に営業活動を行い,受注した仕事については,必要に応じて,被告コーヨー斉藤印刷等に下請に出すなどした。 被告セキショウの平成17年度から平成19年度までの売上高及び経常利益は,次のとおりである。 平成17年度(平成17年5月23日~平成18年4月30日)売上高 8430万4186円経常利益 501万6278円平成18年度(平成18年5月1日~平成19年4月30日)売上高 8655万6097円経常利益 ▲167万8635円平成19年度(平成19年5月1日~平成20年4月30日)売上高 8076万4831円経常利益 ▲1344万2110円キ原告は,平成16年当時,本件取引先1~34と取引をしていたが,平成17年以降,本件取引先1~34に対する売上高は減少し,又は,取引そのものが中止となった。 - 28 -ク被告Y1は,平成18年12月22日まで原告(東京支店)に出勤したが,平成19年1月15日付けで原告を懲戒解雇(その有効性については争いがある。)され,同年2月1日,被告セキショウに入社した。 (2) 上記認定事実によれば,被告らは,被告Y7が出資して被告セキショウを設立し,被告Y2がその代表者に就任すること,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が被告セキショウのために営業活動を行い,受注した仕事の内容上,必要があれば,被告コーヨー斉藤印刷に下請に出すことなどについて,共通の認識を有していたことが認められる。 原告は,これに加え,被告らにおいて,原告の顧客を奪取するための共謀を た仕事の内容上,必要があれば,被告コーヨー斉藤印刷に下請に出すことなどについて,共通の認識を有していたことが認められる。 原告は,これに加え,被告らにおいて,原告の顧客を奪取するための共謀をしていたと主張するが,被告セキショウが営業活動を行ったのは原告の顧客に限られず,むしろ,被告セキショウが獲得した取引先のうち,原告の顧客であったものの割合は半分にも満たないこと(乙95,96),被告らは競合会社の商号に「セキショウ」,取引口座の名義に「セキショウ <省略>」という名称を用いているほか,上記のとおり,被告セキショウの代表者に被告Y1の妻(被告Y2)を就任させるなど,被告Y1の関与を隠匿するような挙動には出ていないことなどの事情を併せ考慮すれば,被告らが上記の認識を超えて,原告の顧客を奪取することを共謀していた事実まで認めることは困難であり,原告の上記主張は採用し難い。 そして,一般に従業員は,その在職中,就業規則等の規定ないし信義則上の義務に基づき,雇用主に対する競業避止義務を負うことは当然であるが,その退職後においては当然に競業避止義務を負うものではなく,他面において職業選択の自由(憲法22条1項)を有するのであるから,従前の取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用するなどして競業行為をしただけでは,従前の雇用主に対する関係で不法行為を構成するものではなく,これが不法行為に該当するのは,更に進んで,従前の雇用主の営業秘密に係る情報を用いるとか,その信用をおとしめる等の不当な方法で営業活動 - 29 -を行うなど,それが社会通念上自由競争の範囲を逸脱するような行為態様により従前の顧客等を奪取したとみられるような場合に限られるものと解するのが相当である(最高裁平成22年3月25日第一小法廷判決・民集64巻2号 れが社会通念上自由競争の範囲を逸脱するような行為態様により従前の顧客等を奪取したとみられるような場合に限られるものと解するのが相当である(最高裁平成22年3月25日第一小法廷判決・民集64巻2号562頁参照)。 したがって,本件においても,「セキショウ」ないし被告セキショウ(被告セキショウは会社設立以前の「セキショウ」の事業をそのまま引き継いでいることから,以下,会社設立前の「セキショウ」と被告セキショウを特に区別せずに「被告セキショウ」ということがある。)が原告の顧客と取引を行ったからといって,それが直ちに原告に対する関係で不法行為を構成するものではなく,被告らの行った競業行為が不法行為に該当するか否かは,被告セキショウと本件取引先1~34(原告の既存の取引先)との取引について,個別に検討する必要がある。 (3) そこで,以下,被告セキショウと本件取引先1~34(原告の既存の取引先)との間の取引の存否,態様等について検討する。 ア本件取引先16,17,23,25,26については,被告セキショウとの取引実績がなく(調査嘱託の結果),被告セキショウがこれらの取引先を違法に奪取したということはできない。 また,本件取引先21についても,本件全証拠を検討しても被告セキショウと取引をしていた事実を認めることができない。 イ本件取引先1,2,4,6~11,13~15,18~20,24,27,30~34については,被告セキショウとの取引があったことが認められるが(甲98,99,調査嘱託の結果,弁論の全趣旨),このうち,本件取引先2,4,6,8~11,13~15,24,30~34については,被告セキショウとの取引を開始するに当たり,原告の利益を害するような事実がなかったという趣旨の調査結果(乙31,35~37,41~43,45~4 ,8~11,13~15,24,30~34については,被告セキショウとの取引を開始するに当たり,原告の利益を害するような事実がなかったという趣旨の調査結果(乙31,35~37,41~43,45~48,53~57,乙100の1)が得られている上,そ - 30 -の他の取引先についても,被告セキショウの営業担当者が原告の営業秘密情報を用いるとか,原告の信用をおとしめる等の不当な方法で営業活動を行うなど,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するような行為態様による営業活動を行ったことを認めるに足りる証拠はない(本件取引先18について,被告Y1が原告に紹介された顧客を被告セキショウに奪取させた可能性を指摘する,同取引先担当者作成に係る電子メール〈甲130〉が存在するが,文字どおり「可能性」を述べたもので,推測の域を出ず,結局のところ詳細は分からないということであるから,上記の結論を左右するものではない。)。 したがって,被告セキショウが上記各取引先と取引をしたことについて,原告に対する関係で不法行為を認めることはできない。 ウ本件取引先3について,証拠(甲66の1,2,甲70,98,101)によれば,被告セキショウは,平成17年3月頃から本件取引先3と取引を開始しているところ,その際の担当者に被告Y5のほか被告Y1(当時,原告営業部部付部長)も含まれていること,被告セキショウは,同年9月頃には,本件取引先3から印刷,製袋等を請け負い,同年9月12日,原告の取引先(下請)でもある定谷紙業に下請に出しているところ,定谷紙業に対する作業加工伝票には「Y1」の印鑑が押捺されていること,定谷紙業が下請をするに際し,もともと原告から預かっていた版下(製版用)フィルムが被告セキショウのために流用されていること,以上の事実が認められる。 これに加 Y1」の印鑑が押捺されていること,定谷紙業が下請をするに際し,もともと原告から預かっていた版下(製版用)フィルムが被告セキショウのために流用されていること,以上の事実が認められる。 これに加え,被告Y1は,原告における本件取引先3の担当者に対し,本件取引先3に対する営業は不要である旨の指示を出していたこと(甲69)も併せ考慮すると,被告Y1は,原告の従業員として負う競業避止義務に違反して,被告セキショウに本件取引先3との取引をさせたもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであるから,原告に - 31 -対する不法行為を構成する。 エ本件取引先5について,証拠(甲44の1,2)によれば,被告Y4は,原告に在職中の平成17年3月28日,それまで本件取引先5から直接取引を受注していたにもかかわらず,その中間に「C印刷」こと被告Y5が介在するように取引形態を変更させたこと,被告Y1は,原告営業部部付部長(東京駐在)として,この取引を承認したこと,以上の事実が認められる。 被告Y4及び被告Y1による上記行為は,原告が得るべき利益の一部を「C印刷」こと被告Y5に取得させるものであり,原告に不利益を与えたもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであるから,原告に対する(共同)不法行為を構成する。 オ本件取引先12について,証拠(甲38,甲39の1,2,甲40,甲41の2,甲54,70,98,112)によれば,被告セキショウは,平成16年11月頃から本件取引先12と取引をしており,同月22日には,被告Y1の要請により,定谷紙業に下請に出されていること,定谷紙業においては,その下請に際し,もともと原告から預かっていた版下(製版用)フィルムが流用されていること,被告Y3は,原告に在職中の平成16年1 の要請により,定谷紙業に下請に出されていること,定谷紙業においては,その下請に際し,もともと原告から預かっていた版下(製版用)フィルムが流用されていること,被告Y3は,原告に在職中の平成16年12月8日,被告セキショウのために,本件取引先12から角2封筒1万枚を受注し,これを定谷紙業に下請に出したこと,被告Y1は,原告における本件取引先12の担当者に対し,本件取引先12に対する営業は不要である旨の指示を出していたこと,以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば,被告Y1及び被告Y3の上記行為は,いずれも原告に在職中にされたものであるから,原告の従業員として負う競業避止義務に違反するもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであり,原告に対する(共同)不法行為を構成する。 カ本件取引先22について,証拠(甲36,37,98)によれば,被告 - 32 -Y4は,原告に在職中の平成17年3月頃,被告セキショウのために,本件取引先22から「別製長3窓付封筒 3色刷・アドヘヤ加工」2000枚の受注をしたことが認められる。 これは,原告の従業員である被告Y4が,原告に帰すべき利益を被告セキショウに取得させたもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであるから,原告に対する不法行為を構成する。 キ本件取引先28について,証拠(甲98,甲144の2,調査嘱託の結果)によれば,被告Y3は,原告に在職中の平成16年12月17日,被告セキショウのために本件取引先28と取引をしたことが認められる。 これは,原告の従業員である被告Y3が,原告に帰すべき利益を被告セキショウに取得させたもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであるから,原告に対する不法行為を構成する。 ク本件取引先29につい 業員である被告Y3が,原告に帰すべき利益を被告セキショウに取得させたもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであるから,原告に対する不法行為を構成する。 ク本件取引先29について,証拠(甲98,112)によれば,被告Y1は,原告に在職中の平成17年4月11日,それまで本件取引先29から直接商品を受注していたにもかかわらず,その中間に「C印刷」こと被告Y5を介在させるように取引形態を変更させたこと,その結果,本件取引先29との取引により原告が取得すべき利益を減少させたこと,以上の事実が認められる。 これは,原告の従業員(当時,原告営業部部付部長)である被告Y1が,原告が得るべき利益の一部を「C印刷」こと被告Y5に取得させたものであり,原告に不利益を与えたもので,社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものというべきであるから,原告に対する不法行為を構成する。 (4) 小括上記(3)のとおり,①被告セキショウと本件取引先3との取引については被告Y1が,②被告セキショウと本件取引先5との取引については被告Y1及び被告Y4が,③被告セキショウと本件取引先12との取引については被告 - 33 -Y1及び被告Y3が,④被告セキショウと本件取引先22との取引については被告Y4が,⑤被告セキショウと本件取引先28との取引については被告Y3が,⑥被告セキショウと本件取引先29との取引については被告Y1が,それぞれ原告に対し,不法行為責任を負う。 3 争点(3)(原告の損害)について(1) 上記2のとおり,本件取引先3,5,12,22,28,29は,もともと原告の取引先であったにもかかわらず,原告はこれを違法に奪われたことになるところ,証拠(甲151,甲154の1~7,甲156の1~12,甲164の1~12,甲173の1 22,28,29は,もともと原告の取引先であったにもかかわらず,原告はこれを違法に奪われたことになるところ,証拠(甲151,甲154の1~7,甲156の1~12,甲164の1~12,甲173の1~12,甲180の1~5,甲181の1~12,甲221,226,233,258,甲262の1~12,甲273の1~12)によれば,上記各取引先に対する原告の平成16年度(原告が上記各取引先を奪取される前)及び平成17年度(原告が上記各取引先を奪取された後)の売上高は,次のとおりであると認められる。 平成16年平成17年減少額本件取引先3\3,738,210\0\3,738,210本件取引先5\1,757,122\0\1,757,122本件取引先12\3,128,976\1,623,591\1,505,385本件取引先22\1,250,970\0\1,250,970本件取引先28\181,912\0\181,912本件取引先29\4,734,240\1,013,565\3,720,675合計\14,791,430\2,637,156\12,154,274 (2) 原告は,上記各取引先に対する平成18年度以降の売上げの減少についても原告の損害であると主張するが,被告Y1,被告Y3及び被告Y4の不法行為に該当する行為は,前記2(3)のとおり同被告らが原告在職中の行為であり,原告の従業員である立場を利用したものであるが,被告Y3は平成16 - 34 -年12月20日に,被告Y4は平成17年3月31日に原告を退職しており,また,被告Y1の行為はいずれも平成16年から平成17年の取引に関するものであること,被告らの上記行為の内容に照らすと原告の営業に与える影響が長期にわたるも 成17年3月31日に原告を退職しており,また,被告Y1の行為はいずれも平成16年から平成17年の取引に関するものであること,被告らの上記行為の内容に照らすと原告の営業に与える影響が長期にわたるものとは認め難いこと等を考慮すれば,平成18年度以降の原告の売上げの減少については,同被告らの上記不法行為との相当因果関係を認めることは困難である。したがって,損害の公平な分配という観点からすれば,上記2で認定した不法行為と相当因果関係の認められる損害は,平成17年度(1年間)における売上げの減少に限られるというべきである。 そして,証拠(乙71,113)によれば,原告の利益率は約25%と認められるから,原告の損害は,上記売上減少額の25%として,本件取引先3については93万4552円,本件取引先5については43万9280円,本件取引先12については37万6346円,本件取引先22については31万2742円,本件取引先28については4万5478円,本件取引先29については93万0168円と認められる。 4 争点(4)(被告Y3及び被告Y4は,原告に対し,退職一時金の返還をする義務を負うか)について(1) 前記第2の2(4)のとおり,原告の退職年金規約12条は「加入者が懲戒処分により解雇された場合には,退職年金および退職一時金の給付は行わない。 ただし情状によって一部を支給することがある。なお使用人兼務役員についても,これに準ずる。」と定めている。したがって,労働者が自己都合退職後に在職中の懲戒解雇事由が存在したことが判明した場合,退職前に当該懲戒解雇事由が判明していれば,その事由を考慮して退職金が減額され,又は不支給とされたはずであるから,これと比較して過払いとなっている退職金額については,これが不当利得となる場合があると解される。しかし 解雇事由が判明していれば,その事由を考慮して退職金が減額され,又は不支給とされたはずであるから,これと比較して過払いとなっている退職金額については,これが不当利得となる場合があると解される。しかしながら,懲戒解雇事由が存在する場合であっても,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らし,当該懲戒が合理的な理由を欠き,社会通 - 35 -念上相当と認められない場合は,懲戒権の濫用として,当該懲戒は無効になるものと解される(労働契約法15条参照)から,懲戒解雇事由が退職後に判明した場合において,当該事由が在職中に判明したとしてもこれを理由とする懲戒解雇が懲戒権の濫用として許されないような場合には,受領した退職金が不当利得となることはないものと解される。 そこで,上記の観点から,被告Y3及び被告Y4が受領した退職一時金が不当利得となるか否かについて検討する。 (2) 上記2のとおり,被告Y3は,原告に在職中であるにもかかわらず,原告の取引先(本件取引先12,28)を被告セキショウに取得させたものであり,原告の就業規則(甲18)64条1項(4)号(故意又は重大過失により事故を発生し会社に損害又は不利益を与えたとき)所定の懲戒解雇事由が存在するものと認められる。 しかしながら,被告Y3の上記2(3)オ,キの行為は,いずれも被告Y3が原告に対する退職届を提出後,有給休暇を取得中に行われたもので(乙135の1,2),前記3のとおり,これにより原告に与えた損害も大きなものではなかったのであるから,被告Y3に対し上記事由を理由として懲戒解雇処分をすることは,社会通念上相当とは認められず,懲戒権の濫用として許されないものというべきである。 したがって,被告Y3について,退職年金規約12条所定の退職金不支給事由が存在すると 懲戒解雇処分をすることは,社会通念上相当とは認められず,懲戒権の濫用として許されないものというべきである。 したがって,被告Y3について,退職年金規約12条所定の退職金不支給事由が存在するとは認められないから,被告Y3が受領した退職一時金が原告に対する不当利得になるということはできず,被告Y3は,これを原告に返還する義務を負わない。 (3) 被告Y4についても,上記2(3)エ,カのとおり,原告に在職中に原告から本件取引先5,22を失わせたものであり,就業規則(甲18)64条1項(4)号所定の懲戒解雇事由が存在するものと認められる。 しかしながら,これらが行われた時期は,被告Y4が原告を退職する直前 - 36 -であったこと,これによる原告の損害も前記3のとおり大きなものではなかったことなどの事情も併せ考慮すれば,被告Y4に対し上記事由を理由として懲戒解雇処分をすることは,社会通念上相当とは認められず,懲戒権の濫用として許されないものというべきである。 したがって,被告Y4についても,退職年金規約12条所定の退職金不支給事由が存在するとは認められないから,被告Y4が受領した退職一時金が原告に対する不当利得になるということはできず,被告Y4は,これを原告に返還する義務を負わない。 5 結論以上検討したところによれば,原告の請求は,予備的請求である不法行為による損害賠償として,被告Y1に対し268万0346円(ただし,37万6346円の限度で被告Y3と,43万9280円の限度で被告Y4と各連帯して)の支払を,被告Y3に対し42万1824円(ただし,37万6346円の限度で被告Y1と連帯して)の支払を,被告Y4に対し75万2022円(ただし,43万9280円の限度で被告Y1と連帯して)の支払を求める限度で理由があるか 2万1824円(ただし,37万6346円の限度で被告Y1と連帯して)の支払を,被告Y4に対し75万2022円(ただし,43万9280円の限度で被告Y1と連帯して)の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容するが,その余はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 主文 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 鈴木和典 裁判官 寺田利彦 別紙取引先目録 1 株式会社アイ・イーグループ 2 株式会社プレスト・プリント 3 東日本建設業保証株式会社 4 有限会社オフィス・スズキ 5 株式会社ジェーアイピー 6 ライフサポートクリニックことA 7 ソフトバンクBB株式会社 8 サンワフォーム印刷株式会社 9 株式会社インパック 10 株式会社新和プランニング 11 祥美印刷株式会社 12 ラウンドプリント社ことB 13 株式会社ミック 14 株式会社マインドデザインコネクション(旧商号株式会社エム・ディ・シー) 15 株式会社千代田巧芸社 16 株式会社田企画 17 明治安田損害保険株式会社(合併前の商号安田ライフ損害保険株式会社) 18 株式会社エイチ・アイ・エス 19 有限会社ワイズワークス 20 株式会社賢工製版 21 株式会社ドリームキッズ 22 株式会社アイピージャパン 23 株式会社エーゼット 24 株式会社印刷彩館 25 株式会社小西印刷所 26 株式会社フォーサイト 27 ソフトバンクフレームワークス株式会社 28 株式会社ディスコ 29 有限会社アン・ジュ 株式会社印刷彩館 株式会社小西印刷所 株式会社フォーサイト ソフトバンクフレームワークス株式会社 株式会社ディスコ 有限会社アン・ジュール がらすらんど株式会社 有限会社ウィローフィールド 株式会社渋谷リサーチ 株式会社井田企画 有限会社アド・日刊 別紙文書等目録 1 営業マニュアル(1) 支店長用のうちア平成10年8月27日制定のもの(甲24)イ平成18年9月13日制定のもの(甲1)(2) 支店長以外の従業員用のうちア営業員が守るべき機密事項(甲30)イ営業文書管理規定(甲31) 2(1) 別注原価単価計算要領(支店長用)(甲25)(2) 別注原価/加工単価表(一般用)(甲2) 3 別製原価計算書(甲3) 4 別注原価明細集計表(甲4) 5 売掛金回収管理表(甲5) 6 班別月間大口売上実績一覧表(甲6) 7 得意先元帳(甲7) 8 支店売上検証(甲8) 9 支店/粗利率(%)昇順(甲9) 10 版下(製版用)フィルム(甲10) 11 指図票(甲11の1~6) 12 月間報告・計画書(甲12) 13 支店日誌入力表(甲13)

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