平成25(ワ)12149 不正競争行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年6月23日 大阪地方裁判所
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判決文本文31,011 文字)

- 1 -平成28年6月23日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官平成25年(ワ)第12149号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成28年4月12日判決 原告株式会社日本医学臨床検査研究所 同訴訟代理人弁護士道上達也 被告株式会社サカイ生化学研究所 被告 P1上記2名訴訟代理人弁護士片岡成弘同吉田幸至同渡邉 収主文 1 被告らは,別紙「営業秘密目録」記載の各情報を使用し,又は第三者に開示してはならない。 2 被告らは,別紙「営業秘密目録」記載の各情報が記録された文書及び電磁的記録媒体を廃棄せよ。 3 被告らは,原告に対し,連帯して,788万0466円及びこれに対する平成25年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告P1は,原告に対し,434万7000円及びこれに対する平成25年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 - 2 - 6 訴訟費用は,これを100分し,その91を原告の,その余を被告らの負担とする。 7 この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 主文第1項同旨 2 被告らは,原告に対し,別紙「営業秘密目録」記載の各情報(当該各情報から生成された情報を含む)が記録された一切の文書及び電磁的記録媒体について秘密保全措置を講じた上で廃棄せよ。 3 被告らは,原告に対し,連帯 告に対し,別紙「営業秘密目録」記載の各情報(当該各情報から生成された情報を含む)が記録された一切の文書及び電磁的記録媒体について秘密保全措置を講じた上で廃棄せよ。 3 被告らは,原告に対し,連帯して,8053万1401円及びこれに対する平成25年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 主文第4項同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,臨床検査会社である原告が,原告を退職した幹部従業員であった被告P1及び同被告が就職した被告株式会社サカイ生化学研究所(以下「被告会社」という。)に対し,下記請求をした事案である。 記【被告P1に対する請求】① 被告P1が,不正の利益を得る目的又は原告に損害を加える目的で,原告から開示を受けた別紙「営業秘密目録」記載の各情報(以下「本件情報」という。)を被告会社に開示し,かつ,上記営業秘密を原告の顧客を奪取する営業活動に使用した行為が不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項7号に該当することを理由とする同法3条に基づく本件情報の使用の差止請求及び同情報の保存された媒体等の廃棄請求等② 被告P1の上記①の行為を理由とする同法4条に基づく8053万1401- 3 -円(弁護士費用相当金1800万円を含む。)及びこれに対する不法行為の日の後である訴状送達の日の翌日(平成25年11月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(後記⑥,⑦とは連帯請求)③ 被告P1が,競業会社である被告会社に就職し,かつ,上記①のとおり原告の営業秘密を被告会社に開示し,かつこれを使用したことが,原告に対する誓約書等による競業避止義務及び秘密保持義務違反となることを理由とする債務不履行又は不法行為に基づく上記②と同額の損害賠償請求( の営業秘密を被告会社に開示し,かつこれを使用したことが,原告に対する誓約書等による競業避止義務及び秘密保持義務違反となることを理由とする債務不履行又は不法行為に基づく上記②と同額の損害賠償請求(②の予備的請求,後記⑥,⑦とは連帯請求)④ 被告P1の上記①の行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当することを理由とする退職金規程に基づく退職一時金434万7000円の返還請求(附帯請求として上記訴状送達日の翌日(平成25年11月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求)【被告会社に対する請求】⑤ 被告会社が被告P1の不正開示行為が介在したことを知って,本件情報を取得し,被告P1を含む被告会社従業員をして原告の顧客を奪取する営業活動に使用した行為が不競法2条1項8号に該当することを理由とする同法3条に基づく本件情報の使用の差止請求及び同情報の保存された媒体等の廃棄請求等⑥ 上記⑤の行為を理由とする同法4条に基づく上記②と同額の損害賠償請求(上記②,③とは連帯請求)⑦ 被告P1の③の行為を承認していたなどとする不法行為(一般不法行為又は使用者責任)に基づく上記②と同額の損害賠償請求(⑥の予備的請求,上記②,③とは連帯請求) 2 争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実(1) 当事者等ア原告原告は,開業医等から委託を受けて臨床検査(生化学検査,免疫学検査,血液学- 4 -検査,微生物学検査,遺伝子検査等)を行うことを主たる業務とする会社である。 イ被告P1被告P1は,平成24年8月15日に原告を退職し,現在,被告会社で稼働している者である。被告P1は,平成21年6月1日から退職を申し出る平成24年5月30日までの間,原告の4割の売上げがある関西第二営業部の は,平成24年8月15日に原告を退職し,現在,被告会社で稼働している者である。被告P1は,平成21年6月1日から退職を申し出る平成24年5月30日までの間,原告の4割の売上げがある関西第二営業部の部長を務め,原告の営業面の責任者としては営業本部長に次ぐ立場にあった。 ウ被告会社被告会社は,開業医等から委託を受けて臨床検査を行うことを主たる業務とする会社である。 エその他の関係者(役職は平成24年5月のもの)(ア) P2は,原告の営業本部長として被告P1の上司であった者であり,被告P1ほか原告の従業員らを勧誘して原告から一斉退職しようとしたが,結局,原告に留まっている者である。 (イ) P3は,原告の大阪中央営業所営業課長として被告P1の直属の部下であった者であり,P2が原告の退職を思い留まった後も被告P1とともに原告を退職しようとしたが,結局,原告に留まっている者である。 (ウ) P4は原告の奈良営業所長,P5は原告の大阪南営業所長であった者であり,いずれもP2から勧誘されて原告の退職を相談していたが,結局,原告に留まっている者である。 (エ) P6は原告の大阪中央営業所所長,P7は原告の和歌山中央営業所長,P8は原告の大阪中央営業所係長であった者であり,いずれも被告P1に同調して平成24年9月までに原告を退職し,現在,被告会社で稼働している。 (オ) P9は,原告の大阪中央営業所主任であった者であり,平成24年10月以降に原告を退職し,同年12月30日付けで被告会社に就職した。 (2) 被告P1ほか原告従業員が原告を退職するに至る経緯等(以下,特に記載がない限り平成24年の事実である。)- 5 -ア P2による呼びかけP2は,5月9日,原告の従業員である被告P1,P6,P7,P8,P3,P4,P5のほか同 に至る経緯等(以下,特に記載がない限り平成24年の事実である。)- 5 -ア P2による呼びかけP2は,5月9日,原告の従業員である被告P1,P6,P7,P8,P3,P4,P5のほか同業他社の営業担当者1名の合計9名に呼びかけて会合を持ち,その場で原告の従業員らに対し,具体的な案を伴わないものの,原告を一斉に退職し,別組織で営業を行うことの提案をした。 イ退職願の提出被告P1とP6は5月21日,P7とP8は5月24日,P3は6月6日頃,それぞれ原告に対して退職願を提出した。なお,最初に一斉退職を呼びかけたP2は,被告P1が退職願を提出する前には,原告をすぐに退職する意思を失っており,それ以後において原告を退職した被告P1のほか上記の者らと協議をすることはなかった。 ウ和歌山会議上記イの経緯で退職願を出した被告P1,P6,P7,P8及びP3は,原告在職中の7月23日,和歌山県労働福祉会館プラザホープに集合し,予め被告P1からP3を通じて送信されていた「親密度ファイル」と題する本件情報を含んだ後記(4)の情報データが掲載されたエクセルファイルを利用して,被告会社に転職した場合に,各人が原告において担当していた,臨床検査会社に臨床検査を委託する医療機関,研究機関(以下「顧客」ともいう。)を,どの程度被告の顧客とできるかについて協議した(以下,この協議の場を「和歌山会議」という。)。 P3は,同会議終了後,その検討結果を上記「親密度ファイル」に反映させて「KM売上計画2012」という名称を付したエクセルファイルを作成し,同日,上記会議参加者に送信した(甲25の4)。なお,「親密度ファイル」及び「KM売上計画2012」には,いずれも本件情報が含まれていた。 エ被告P1ら転職者の退職等被告P1及びP6は,8月15 ,上記会議参加者に送信した(甲25の4)。なお,「親密度ファイル」及び「KM売上計画2012」には,いずれも本件情報が含まれていた。 エ被告P1ら転職者の退職等被告P1及びP6は,8月15日,P7及びP8は,同月31日,原告を退職し,同年9月以降,いずれも被告会社に就職した(以下,被告P1を含む転職者4名を- 6 -「被告P1ら転職者」という。)。 (3) 被告P1ら転職者の被告会社における競業行為被告P1ら転職者は,被告会社に就職後,主として原告の顧客に対し,取引誘引活動を開始した。なお,被告会社の営業社員は,被告P1らが就職する前は3名であったが,被告P1ら転職者の就職により合計7名となり,11月には和歌山営業所が開設された。 (4) 原告の被告P1に対する営業情報の開示ア被告P1は,3月17日,関西第二営業部長の職務権限に基づき,営業企画部のP10課長から,2012年(平成24年)2月の顧客別のG区分(多数の臨床検査項目を16分野(G1~G16)に分類した区分)別の売上一覧表である「201202G別売上 G1-G16」と題するエクセルファイルをメール添付により送信を受けた(甲25の1)。同ファイルには,原告の全顧客の名称及び顧客ごとのG区分別の同月の確定売上げ(数値データ)が含まれていた(甲6の1の1及び2)。 イ被告P1は,P11主任から,3月22日及び4月27日に,それぞれ,「201202G別売上(関西第二)」,「201202G別売上(和歌山営業所)」と題するエクセルファイル(以下二つのファイルを併せて「G別売上ファイル」という。)をメール添付により送信を受けた(甲25の2)。これらのファイルには,次の情報が含まれていた。 ① 顧客毎の売上管理担当者名(文字情報)② 検査区分(分野)別番号とそれ 売上ファイル」という。)をメール添付により送信を受けた(甲25の2)。これらのファイルには,次の情報が含まれていた。 ① 顧客毎の売上管理担当者名(文字情報)② 検査区分(分野)別番号とそれに対応した検査内容(文字情報)③ 顧客ごとの平成24年2月の売上額④ 顧客ごとの臨床検査(分野)区分(G区分)別の同月の売上額⑤ 顧客ごとの同月の積算定価(診療報酬額)⑥ 顧客ごとの臨床検査(分野)区分(G区分)別の同月の積算定価(診療報酬額)- 7 -⑦ 顧客ごとの平均販売価率(グロス,%)⑧ 顧客ごとの臨床検査(分野)区分(G区分)別の販売価率(%)このうち,顧客別の⑧「臨床検査(分野)区分(G区分)別販売価率」(以下「G区分別販売価率」という。)は,原告が臨床検査(検体検査)の積算定価(診療報酬額)の何%で各検査分野の臨床検査(検体検査)を受託しているかを示す数値であり,⑦「平均販売価率(グロス)」は,診療報酬総額に対しての受託料総額の割合,すなわち,原告が平均して診療報酬の何%で顧客から臨床検査を受託しているか,を示す数値である。 (5) 被告P1に対する退職金の支給原告は,9月10日,被告P1に対し,退職一時金434万7000円を支給した。 (6) 原告の就業規則等ア原告の退職金規程には,下記の定めがある(甲12)。 記(退職一時金の支給方法)第10条退職一時金の支給方法は,退職日から1ヶ月以内に支給する。 (退職一時金の支給制限)第10条の2 次の各号に該当した場合,退職金は支給しない。ただし,該当事由の情状等を考慮して減額支給することがある。 1.懲戒解雇に該当する事由があったが,情状等を考慮して諭旨退職または普通退職の処分にしたとき2.退職後において,在職中 い。ただし,該当事由の情状等を考慮して減額支給することがある。 1.懲戒解雇に該当する事由があったが,情状等を考慮して諭旨退職または普通退職の処分にしたとき2.退職後において,在職中の行為で懲戒解雇に相当する事実が発覚したとき,または退職後に懲戒解雇に相当する行為を行ったとき(退職一時金の返還請求)第10条の3 退職一時金を支給した後において,在職中の行為で懲戒解雇に相当する事実が判明したとき,または退職後に懲戒解雇に相当する行為を行ったとき- 8 -は,退職一時金の返還を請求することができる。 イ原告の就業規則の懲戒事由を定める同第57条は,次のとおりである(甲11)。 (懲戒事由2)第57条次の各号の一に該当する時は懲戒解雇に処す。ただし,情状により諭旨退職,または役位剥奪もしくは出勤停止等にすることがある。 (3) 故意または過失により業務上重要な秘密,取引先等の秘密および職務上の個人情報を漏らし,または漏らそうとしたとき(16) 前各項に該当し,その情状が重いとき(17) その他前各号に該当する不都合の行為があったとき(7) 被告P1の秘密保持契約被告P1は,平成17年3月28日,原告に対し,下記の記載のある秘密保持誓約書に署名押印の上,を提出した(甲9の1)。 記第1条私は株式会社日本医学臨床検査研究所(以下「会社」という。)の課長以上の職または営業所長としての職務遂行にあたり,従事する職務の重大さを十分に自覚し,在任中に知り得た下記の会社の秘密情報(電子情報も含む)を会社外部の第三者に対してはもちろん,社内でも職務上必要な場合以外,口外,開示,紙・磁気媒体への記録をせず,また,不正に利用,使用しないことを約束します。 以上のことは私が会社を退職した後も同様 を会社外部の第三者に対してはもちろん,社内でも職務上必要な場合以外,口外,開示,紙・磁気媒体への記録をせず,また,不正に利用,使用しないことを約束します。 以上のことは私が会社を退職した後も同様とします。 ① 顧客情報,顧客の個人情報等の顧客に関する資料の全て② 取扱商品,検査試薬等に関する価格情報(仕入れ価格などの原価情報)④ 取扱商品,検査試薬等の仕入先,販売先に関する情報(販売価格等の情報)⑤ 会社が重大な秘密として管理している経営・財務・経理・人事情報⑧ その他前各号に準ずる秘密情報第5条私は,退職した後,会社の業務と競合する会社への就職,または自ら独立- 9 -して業を営むなどの競合行為を行うときは,退職前に会社と十分に協議して行うことを約束します。 3 争点(1) 本件情報は不競法上の営業秘密か(争点1)(2) 被告P1に不競法2条1項7号の不正競争が認められるか(争点2)(3) 被告会社に不競法2条1項8号の不正競争が認められるか(争点3)(4) 被告P1の行為が,原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するか(上記(2)の予備的請求原因),また,被告会社が被告P1の行為につき不法行為責任を負うか(上記(3)の予備的請求原因)(争点4)(5) 不正競争行為に基づく差止請求等の成否(争点5)(6) 原告の損害額(争点6)(7) 被告P1に,在職中の行為で就業規則所定の懲戒解雇事由に相当する事実が認められ,退職一時金の返還義務を負うか(争点7)第3 争点についての当事者の主張 1 争点1(本件情報は不競法上の営業秘密か)について(原告の主張)(1) 秘密管理性原告は,内部保護規定を設けて原告内の情報種別ごとに,又は部門単位・役職別に内部情報の閲覧可能範囲を決めている。 (本件情報は不競法上の営業秘密か)について(原告の主張)(1) 秘密管理性原告は,内部保護規定を設けて原告内の情報種別ごとに,又は部門単位・役職別に内部情報の閲覧可能範囲を決めている。 被告P1が持ち出した本件情報を含む原告の顧客に関するデータは,通常,原告本社営業企画部が管理する同部所在のサーバーに管理されている。従業員は,これらデータを原告社内ネットである「nips」にてログインして顧客ごとに閲覧できるが,ログインするに当たってパスワードが必要であるほか,例えば,営業部員は,自己が担当する営業先部分のみ閲覧可能であるというように,役職に応じた閲覧範囲の制限がある。また,従業員は,秘密保持誓約書を提出させられている。 このように原告においては,本件情報にアクセスできる者を制限し,アクセスし- 10 -た者に本件情報が営業秘密であることを認識できるようにしている。 したがって,本件情報は秘密管理性の要件を充足しているというべきである。 (2) 有用性臨床検査会社が,競合する臨床検査会社の顧客別の売上情報又は平均販売価率(グロス)を知ることができれば,売上げの大きい顧客を営業対象にすることができ,また,診療報酬と検査料との差益による利得を重視する医療機関に対しては,競合先より低い販売価率を提案することで臨床検査会社の変更に応じてもらう可能性が高くなる。しかも,その場合,原告の検査料より低額の提示をするにしても,その差額を最小限とする見積価格の提示を行うことができるから,確実に利益を極大化することができる。 したがって,本件情報が有用であることは明らかである。 (3) 非公知性本件情報は,原告本社営業企画部所在のサーバー内で管理し,第三者への開示を禁止しており,原告社内においても一定の制限のもとでだけ開示される 情報が有用であることは明らかである。 (3) 非公知性本件情報は,原告本社営業企画部所在のサーバー内で管理し,第三者への開示を禁止しており,原告社内においても一定の制限のもとでだけ開示される営業資料であり,公然と知られているものではない。 したがって,本件情報は非公知の情報である。 (4) 結論以上のとおり,本件情報は,秘密管理性,有用性及び非公知性を備えており,不競法上の営業秘密である。 (被告らの主張)本件情報が営業秘密であることについては,争う。 (1) 秘密管理性不競法上の営業秘密と認められるためには,少なくとも,これに接したものが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実態があることが必要であるが,以下のとおり,本件においてはそのような実態はない。 原告の主張する内部情報保護規程は一応作成されていたようではあるが,十分な- 11 -周知はなされていない。特に,同規程別表内部情報参照権限一覧表についてはいつ作成されたものかも不明でほとんど周知されず,社内運用システムnipsが運用された平成15年当初から一般職員が上司のパスワードを用いてデータを参照することが常態化していた。同規程には原告が有する情報に機密のレベルを付与する(第4条),パスワードは少なくとも2か月に1度変更する(第6条)等の定めがあるが,そのような運用もなされていない。 原告の主張する秘密保持誓約書も,一応作成されていたというだけであり,対象となる情報は包括的で全く特定されていない。また,原告の主張する原告の顧客に関するデータはいずれも被告P1に対してメールの添付ファイルとして送付されたものであるが,これらを取得するに際し企業秘密である旨を告知されたこともなく,特別なパスワードが設定されていた事実もない。 関するデータはいずれも被告P1に対してメールの添付ファイルとして送付されたものであるが,これらを取得するに際し企業秘密である旨を告知されたこともなく,特別なパスワードが設定されていた事実もない。 被告P1が部長を務めていた関西第二営業部においては,平成23年4月以降,部内の従業員全員が,売上げや訪問状況,債権回収状況等の顧客管理状況を共有できるようにするため,上記データの一部を加工して「第二営業部共有ファイル」を設けており,そのことは原告の社長からも称賛されていた。 被告P1は,原告を退職するに当たり,それ以前に取得していたデータを削除等するよう原告から求められたことはない。 以上からすれば,原告主張の本件情報を含む原告の顧客に関するデータに接した者がこれを営業秘密として認識し得る程度に秘密として管理されていた実態があるとはいえない。 (2) 有用性否認または争う。 顧客ごとの販売価率を具体的な取引勧誘段階で顧客から入手することはできないが,被告P1ら転職者は各人が原告において担当していた顧客に係る販売価率をほぼ覚えており,このような情報を原告のいう「201202G別売上(関西第二)」等に基づいて作成された資料から入手したものではない。また,より正確を期すた- 12 -め,顧客から請求書と独自セット表(当該顧客がどの検査項目をセットとして発注しているか分かる一覧表)をもらうなどもできていたから,本件情報に有用性はない。 (3) 非公知性否認または争う。また,顧客は,原告に対して守秘義務を負うものではないから,本件情報は非公知とはいえない。 2 争点2(被告P1に不競法2条1項7号の不正競争が認められるか)について(原告の主張)(1) 被告P1は,上記第2の2(4)の経緯で原告から本件情報を示されていたが 公知とはいえない。 2 争点2(被告P1に不競法2条1項7号の不正競争が認められるか)について(原告の主張)(1) 被告P1は,上記第2の2(4)の経緯で原告から本件情報を示されていたが,平成24年4月下旬,被告会社への集団転職を企てて業務上の必要性がないにもかかわらず,本件情報を含むG別売上ファイルから加工して,「親密度ファイル」を作成した。そして,その後の同年7月23日に開催した和歌山会議で,他の転職予定者とともに,「親密度ファイル」を用いて被告会社転職後の原告顧客奪取計画を検討し,それによって「KM売上計画2012」を作成した。 (2) そして被告P1ら転職者は,被告会社に転職した同年9月以降,被告会社の営業社員として,原告在職中に担当した少なくも161件以上の原告の顧客に対して営業活動を行ったというのであるが,原告の和歌山中央営業所営業エリアの顧客(259件)については,顧客の喪失又は条件降下順が売上げ又は平均販売価率(グロス)の大きさと一定の相関関係にあること,被告P1ら転職者による原告顧客の喪失又は条件降下があった最初の10件の内,7件が取引額又は平均販売価率(グロス)がそれら原告の顧客47件の内の各々10位以内の顧客であったことや,エクセルファイル「KM売上計画2012」の備考欄に記載された参入障壁の高い特性情報がある顧客に対しては営業活動自体を行なっていないことなどからすると,被告P1ら転職者が,本件情報を用いて作成された「KM売上計画2012」を使用して営業活動をしたことは明らかである。 - 13 -したがって,被告P1は,原告から示された本件情報を図利加害の目的で被告会社に開示し,その余の転職者らともに共同して使用したものといえる。 (被告らの主張)(1) 被告P1は,本件情報を含むG別売上フ って,被告P1は,原告から示された本件情報を図利加害の目的で被告会社に開示し,その余の転職者らともに共同して使用したものといえる。 (被告らの主張)(1) 被告P1は,本件情報を含むG別売上ファイルを原告から示されたが,原告を退職するに当たり,原告社内で使用していたパソコンを,平成24年6月23日の最終出勤日までに後任のために初期化し,また,退職日である同年8月15日までに,自己所有パソコン及びUSBから,「親密度ファイル」,「KM売上計画2012」のほか,原告在職中に保有していた情報を全て削除しており,現在保有していない。 (2) 被告P1は,前記のとおり同年8月15日までに「KM売上計画2012」を含む原告のデータを全て消去しているし(ただし,各人の責任で行うことと思っていたから,他の転職者に対して消去を指示してはいない。),被告P1ら転職者は,被告会社入社後の営業活動において,原告の顧客から原告発行の請求書,セット表を受領し,それを参考に営業活動をしたことはあるが,原告が本件情報と主張するデータを使用したことはない。 (3) 被告P1ら転職者が,原告会社において担当していた顧客に営業をかけて被告会社の顧客として獲得できているのは,当該委託先と被告P1ら転職者との人的関係に基づく結果であり,原告が主張するような本件情報を使用した事実はない。 3 争点3(被告会社に不競法2条1項8号の不正競争が認められるか)について(原告の主張)被告会社は,図利加害目的をもって本件情報を保有する被告P1ら転職者を雇用し,営業権限を与えて被告会社の営業活動に従事させたのであるから,被告P1ら転職者によって図利加害目的をもって被告会社に開示された本件情報を取得し,これを使用したものといえる。 (被告会社の主張)- 14 -被告P 社の営業活動に従事させたのであるから,被告P1ら転職者によって図利加害目的をもって被告会社に開示された本件情報を取得し,これを使用したものといえる。 (被告会社の主張)- 14 -被告P1ら転職者が被告会社入社後の営業活動において,原告会社において担当していた顧客に営業をかけて被告会社の顧客として獲得しており,被告会社もこれを認識しているが,そもそも被告P1ら転職者が,原告が主張するように図利加害目的をもって本件情報を使用したことはない。 4 争点4(被告P1の行為が,原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するか,また,被告会社が被告P1の行為につき不法行為責任を負うか)について(原告の主張)(1) 秘密保持義務違反被告P1は,原告に対して秘密保持誓約書を提出し,顧客情報,価格情報等の秘密情報(電子情報を含む。)を会社外部の第三者に対してはもちろんのこと,社内においても職務上必要ない場合以外は使用しないこと,これを適切に管理し,退職するときはこれらを返還し,これらに違反した場合損害賠償責任を負担すること,退職後競合する会社に就職するときは退職前に原告と協議することも含めて約している。また,労働法上の誠実義務の一環として,法的保護に値する原告の営業上の利益について秘密保持義務を負担している。 しかるに,被告P1は,これらに反し,本件情報を持ち出し,秘密保持義務に違反して原告に損害を与えたものであるから,債務不履行として同損害についての賠償責任を負う。 (2) 競業避止義務違反及び雇用契約上の誠実義務違反被告P1は,原告との雇用契約終了後においても,契約関係によって得た営業秘密をもって従前の雇用者の営業上の地位を脅かすような競業を避けるべき信義則上の義務があり,また,転職勧誘については,原告の正当な利益を害し 原告との雇用契約終了後においても,契約関係によって得た営業秘密をもって従前の雇用者の営業上の地位を脅かすような競業を避けるべき信義則上の義務があり,また,転職勧誘については,原告の正当な利益を害しないように配慮すべき雇用契約上の誠実義務があるが,これらの義務にも反して原告に損害を与えたものであるから,債務不履行として同損害についての賠償責任を負う。 (3) 被告らの不法行為責任被告P1は,秘密保持義務・競業避止義務・雇用契約上の誠実義務に反する行為- 15 -をして原告に損害を与えたものであるから,同行為は不法行為を構成する。 被告会社は,被告P1ら転職者の受け入れ経緯等から遅くとも平成24年7月23日に作成した原告顧客の奪取計画を承認していたものであるから,原告に対する不法行為責任があり,仮に被告P1の意図を知らなかったとしても,被告P1を雇用し,被告会社の営業権限をもって被告P1が原告に営業上の損害を与えたものであるから,被告P1の不法行為について使用者責任を負う。 (被告らの主張)(1) 秘密保持義務違反について被告P1が原告在職中に秘密保持誓約書を提出したことは認めるが,その余は,否認ないし争う。 上記誓約書においては対象となる秘密についてほとんど特定されておらず,何らの代替措置や期間の限定もないまま退職後の競業他社への就業を制限しており,そもそも有効性に疑問がある。また,仮に本件情報が同誓約書の対象となるとしても,被告P1が秘密保持義務に違反した事実はない。 (2) 競業避止義務違反及び雇用契約上の誠実義務について否認ないしは争う。 (3) 被告らの不法行為責任について否認ないしは争う。 (4) 被告P1ら転職者が退職した経緯原告が主張する,被告P1の雇用契約上の義務違反等を理由 について否認ないしは争う。 (3) 被告らの不法行為責任について否認ないしは争う。 (4) 被告P1ら転職者が退職した経緯原告が主張する,被告P1の雇用契約上の義務違反等を理由とする債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求は,結果的に労働者の職業選択の自由を制限することとなる側面を有することを考慮すべきであり,社会的相当性を逸脱した態様で行われた場合等社会通念上自由競争の範囲を逸脱すると評価できる場合に限り違法性が認められるべきである。 本件においては,原告社内の人事運営等に対する管理職クラスの従業員の不満が募り,営業本部長が主導した組織的退職計画が契機となって被告P1ら転職者が集- 16 -団で退職することとなったもので,転職先として問合せを受けた被告会社がこれを受け入れ,転職後に顧客との人的関係を中心とした営業活動をしてきたにすぎない。 また被告P1ら転職者が被告会社に転職して競業することを原告は承知していたのであるから,社会通念上自由競争の範囲を逸脱すると評価できる場合には該当せず,したがって原告の被告P1に対する上記主張は失当であり,また被告P1の不法行為を前提とする被告会社に対する不法行為を理由とする主張も失当である。 5 争点5(不正競争行為に基づく差止請求等の成否)について(原告の主張)被告P1ら転職者は,被告会社の従業員として,本件情報を使用して原告顧客を被告会社へと奪取していく営業活動を継続している。 したがって,不競法3条に基づき,本件情報を使用した原告顧客への取引誘引活動の禁止及び本件情報(本件情報から生成された情報を含む。)が記録された一切の文書及び電磁的記録媒体について十分な秘密保全措置を講じた上で破棄することを求める。 (被告らの主張)否認ないし争う。被告 び本件情報(本件情報から生成された情報を含む。)が記録された一切の文書及び電磁的記録媒体について十分な秘密保全措置を講じた上で破棄することを求める。 (被告らの主張)否認ないし争う。被告らは,原告主張のデータを使用した取引誘引活動はそもそもしておらず,データが記録された文書や電磁的記録媒体は保有していない。 6 争点6(原告の損害額)について(原告の主張)(1) 被告P1ら転職者による被告会社の不正競争によって,少なくとも原告は,平成25年9月30日までに,以下のとおり関西第二営業部及び和歌山営業所の営業エリアにおいて顧客を喪失し,また,顧客維持のための条件降下(顧客から取引維持の交換条件として被告会社の見積価格に対抗して検査料の減額を余議なくされた。)による損害を受けたものである。 ア被告P1ら転職者による(被告会社の)営業活動による原告の顧客喪失数(売上喪失額)は以下のとおりである。 - 17 -① 関西第二営業部エリア27件(2909万4916円)② 和歌山営業所エリア20件(4036万8329円)イ被告P1ら転職者による(被告会社の)営業行為によって取引の一部を喪失した原告の顧客数(売上喪失額)は以下のとおりである。 ① 関西第二営業部エリア1件(22万8666円)② 和歌山営業所エリア4件(1092万3197円)ウ被告P1ら転職者による(被告会社の)営業行為によって原告が条件降下(検査料減額)で対応せざるを得なかった原告の顧客数(売上減少額合計3961万2526円)は以下のとおりである。 ① 関西第二営業部エリア40件(3694万6800円)② 和歌山営業所エリア(2) 原告が被告らの不正競争によって平成25年9月30日 961万2526円)は以下のとおりである。 ① 関西第二営業部エリア40件(3694万6800円)② 和歌山営業所エリア(2) 原告が被告らの不正競争によって平成25年9月30日まで,累計で8061万5108円の売上げを喪失(前記(1)ア及びイの合計額)し,さらに,被告らの不正競争により余儀なくされた条件降下(検査料減額)による売上減少額は累計で3961万2526円に達する。 (3) 原告の営業損失額についてア売上の喪失金8061万5108円については,原告の損害はその粗利率(売上総利益率)28.43%を乗じた2291万8875円である。なお,損害額の計算において使用した粗利率28.43%は,原告の前々期(本件事案の影響を受ける前の期)のものであり,粗利率を使用したのは原告において営業経費の軽減がないためである。 - 18 -イ条件降下(検査料減額)対応による売上減少額については,そのまま粗利の喪失となるので,値引額3961万2526円が損害額である。 ウ以上から,原告は平成25年9月末において累計で6253万1401円の損害を受けたことになる。 エ弁護士費用原告は訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起せざるを得ず,その弁護士費用は,1800万円を下らない。 オ合計額以上から,原告の被告らの不法行為に基づく損害額は6253万1401円及び弁護士費用相当額1800万円の合計8053万1401円である。 (被告らの主張)(1) 否認ないし争う。 (2) 顧客は,その意思により自由に原告との委託契約を解約することができるもので,原告が抱いていた委託契約継続の期待は不安定なものである。条件についても競業他社から顧客に有利な条件提示があれば取引継続のため事実上それに対応せざるを得ないとい 託契約を解約することができるもので,原告が抱いていた委託契約継続の期待は不安定なものである。条件についても競業他社から顧客に有利な条件提示があれば取引継続のため事実上それに対応せざるを得ないという意味で,委託契約における条件継続の期待はより不安定なものであった。 したがって,そもそも原告の主張する顧客移動による売上喪失,条件降下による売上減少については,いずれも社会通念上,自由競争として許される営業活動の結果によって生じたものである。 (3) 仮に,社会通念上自由競争の範囲内と評価できない部分があったとしても,原告が主張する損害額は,過大である。 ア顧客移動による売上喪失について原告が主張する損害額は,平成24年3月31日決算における売上総利益率を乗じて算定しているが,被告P1ら転職者が退職したことに伴う支出の減少を全く考慮していない。 - 19 -そもそも企業は継続的に事業を営む組織体としての性格を有するから,特定の個人の生み出す将来の利益を前提に逸失利益を算定するのは適当ではないところ。本件において原告は被告P1ら転職者が従前担当していた顧客については退職前に後任の担当者をあらかじめ配置し必要な引継ぎも行い,実際にも後任者が営業活動を行っていたのであるから,損害を認めることはできない。 イ条件降下による売上減少についてそもそも原告が抱いていた委託契約の条件継続への期待は極めて不安定なものであった上,本件においては,原告において被告P1ら転職者の営業活動に対抗して自ら必要以上に条件を降下させたりしていることが明らかであり,損害とは認められない。 7 争点7(被告P1に,在職中の行為で就業規則所定の懲戒解雇事由に相当する事実が認められ,退職一時金の返還義務を負うか)について(原告の主張)被告 であり,損害とは認められない。 7 争点7(被告P1に,在職中の行為で就業規則所定の懲戒解雇事由に相当する事実が認められ,退職一時金の返還義務を負うか)について(原告の主張)被告P1が,在職中本件情報を取得し,社外へ持ち出して原告顧客奪取しようとした行為は,原告就業規則57条(懲戒事由2)3号及び16号に該当し,退職金規程10条の2及び同条の3の「在職中の行為で懲戒解雇に相当する事実が判明したとき」に該当する。 したがって,被告P1は,原告に対し,退職金規程10条の3により,平成24年9月10日に支給した退職金一時金434万7000円の返還義務を負う。 (被告らの主張)就業規則及び退職金規程があることは認めるが,その余は否認ないし争う。 就業規則57条にいう「業務上重要な秘密」や「取引先等の秘密」は,懲戒事由として定められているもので,原告はこれを懲戒解雇の事由として主張する以上,厳格に判断されるべきであり,不競法上の営業秘密の要件と同等の秘密管理性が認められることが必要であるが,本件情報にはそのような実体はない。また,仮に本件情報が57条にいう「秘密」に該当するとしても,「漏らし,又は漏らそうとし- 20 -た」事実もない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件情報は不競法上の営業秘密か)について(1) 上記第2の2の事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告における情報管理の状況(ア) 原告においては,本件情報を含む情報データは,本社営業企画部にあるサーバーに保存されており,各顧客の基本情報,顧客ごとの売上情報,検査の種類(独自セット),契約単価,取引条件等の顧客取引条件の情報等は,社内ネットであるnipsにより従業員が閲覧可能な状態にあった ーバーに保存されており,各顧客の基本情報,顧客ごとの売上情報,検査の種類(独自セット),契約単価,取引条件等の顧客取引条件の情報等は,社内ネットであるnipsにより従業員が閲覧可能な状態にあった。ただし,nipsにログインするためには,従業員に割り当てられたIDと,各自のパスワードを入力する必要があり,また,nipsにより閲覧することのできる情報については,部署や役職に応じた閲覧制限の範囲を設けた内部情報保護規程が定められ,nipsに掲載されて従業員に周知されていた。具体的には,顧客基本情報及び顧客取引条件情報について,所長・所長代理・係長は当該営業所の全ての業務・顧客についての情報を閲覧することができたが,部長・次長については当該営業部限りで全ての情報を,一般従業員は各担当業務・顧客情報の限りの情報で閲覧できるだけであった(甲7の1ないし6,甲8の1及び2,甲15,甲16,甲39)。 (イ) 営業部員については,営業情報保護手順書が定められており,営業部員においては,基本姿勢として,業務上知り得た医療機関の情報等については漏えいしてはならないなどとされ,管理体制として,部門ごとの管理責任者指示の下に適正に管理するものとされていた(甲18)。そして,原告は,従業員には秘密保持誓約書を提出させ,顧客情報,顧客の個人情報等顧客に関する資料の全てについて,会社外部の第三者に対し,口外,開示,紙・磁気媒体への記録をせず,また不正に利用,使用しないことを,これらの情報を原告の許可なくして外部に持ち出さないことを誓約させていた(甲9の1及び2)。 - 21 -(ウ) 本件情報における平均販売価率(グロス)は,臨床検査の検査項目ごとに各顧客との間の値段の設定が異なり,また,顧客における検査項目ごとの出検数も一定ではないため,原告が顧客管理の 21 -(ウ) 本件情報における平均販売価率(グロス)は,臨床検査の検査項目ごとに各顧客との間の値段の設定が異なり,また,顧客における検査項目ごとの出検数も一定ではないため,原告が顧客管理のために全体的な売上額の診療報酬額に対する比率として算出している数値であり,顧客自体はこれを認識しているものではない(証人P12)。 イ臨床検査会社における営業(ア) 臨床検査会社は,医療機関や研究機関という限られた顧客を営業対象とするものであり,さらに原告及び被告会社はそのなかでも開業医を主たる顧客としているところ,本件情報の対象である関西第二営業所及び和歌山営業所の営業エリアにおいては,原告及び被告会社と同じく大規模病院ではなく開業医等を顧客とする臨床検査会社は原告と被告会社を含み7社あり,各臨床検査会社は,その営業エリア内の限られた顧客を巡って顧客獲得のための営業競争を行っていた(証人P12)。 (イ) 医療機関は,患者に対して保険診療として臨床検査をした場合,定められた診療報酬(検体検査実施料)につき,保険基金から支払を受けることになるから,臨床検査会社が,上記診療報酬を下回る金額で臨床検査を受託した場合,診療報酬の額と臨床検査会社に支払う検査料の差額が,医療機関の利得となる。 そのため,医療機関にとって,その利得の多寡は臨床検査会社選択の理由となり得るが,臨床検査会社ごとに,検査結果データの報告書の体裁,検査依頼の方法や集荷時間,緊急に対応できる検査の項目等が異なるため,一旦委託関係となった臨床検査会社を変更するには相当の手間等の負担があり,さらに,当該医療機関において採用している電子カルテ等のシステムに臨床検査会社が対応できるものか等,他の要素も問題となるので,医療機関が臨床検査会社の変更を検討する場合,保険診療報酬との差額 あり,さらに,当該医療機関において採用している電子カルテ等のシステムに臨床検査会社が対応できるものか等,他の要素も問題となるので,医療機関が臨床検査会社の変更を検討する場合,保険診療報酬との差額による利得の多寡だけを考慮するわけにはいかないことになる(甲3,証人P12,証人P3)。 (2) 検討ア秘密管理性- 22 -(ア) 前記(1)アの事実によれば,本件情報,すなわち顧客別の売上情報及び顧客別の平均販売価率情報は,従業員しか閲覧することのできない社内ネットで管理されており,閲覧できる範囲についても従業員の所属部署,地位に応じて定められていて,従業員においてもそのような情報保護の規程があることを認識することができた状況にあったといえるから,上記情報は,従業員においても,秘密と認識できるような取り扱いを行っていたといえる。そして,営業部員については,特に営業情報保護手順書が定められており,業務上知り得た医療機関の情報等について漏えいしてはならないなどとされていたことからすれば,従業員において,本件情報が秘密であることを十分認識できたものといえる。 したがって,本件情報は,秘密として管理されていたものといえる。 (イ) これに対し,被告らは,実際には,閲覧可能な部長や所長の権限で各部署の従業員が自由に閲覧することが認められていたこと,本件情報が被告P1に対してメール添付で送付されたもので,しかも,売上げ,回収状況等の顧客情報については関西第二営業部内部で共有されていたことを指摘し,そのような状況において,従業員が同情報を秘密と認識することができたとはいえないと主張する。 確かに,閲覧権限を有しない従業員にも営業に必要な範囲で閲覧を許していたことや,顧客情報について営業部内で共有されていた事実もあったことが認められるが 認識することができたとはいえないと主張する。 確かに,閲覧権限を有しない従業員にも営業に必要な範囲で閲覧を許していたことや,顧客情報について営業部内で共有されていた事実もあったことが認められるが(被告P1,証人P3),前記のとおり,内部情報保護規程による定めが従業員には周知されている状況にあり,管理職が秘密情報の管理についての研修も行い(証人P3),本件情報が,営業活動上,重要な情報であることを十分に認識できたものと認められるのであるから,営業活動のために必要な本件情報を,営業に必要な範囲で権限のない従業員に閲覧させ,あるいは情報共有していたとしても,そのことを理由に直ちに本件情報を含む顧客情報等が秘密管理されていなかったということはできない。被告の上記主張は採用できない。 イ有用性・非公知性前記(1)イの事実によれば,本件情報は,新たに営業先を開拓する場合において,- 23 -売上げの大きい顧客や,現在,診療報酬との差額が小さくても臨床検査会社に委託している顧客を探し出し,自らの利益を確保しながら既存委託先の臨床検査会社に対抗できる低額の検査料を提示することを可能にするなど,臨床検査受託のための営業において有用性が認められる。 また,このような情報は前記のとおり社内において秘密管理されており,営業部員においても第三者に閲覧させるなどすることは許されていないことからすれば,非公知の情報であったといえる。 なお,顧客である各医療機関は,当然のことながら自らに対する売上げ等についての情報を有しており,これらの情報について原告に対して守秘義務を負っているものではないが,検査対象患者のプライバシー情報等を含む臨床検査に関する情報を公にしているものでないことは一般的に明らかであるから,本件情報は非公知であるといえる。また,これら 守秘義務を負っているものではないが,検査対象患者のプライバシー情報等を含む臨床検査に関する情報を公にしているものでないことは一般的に明らかであるから,本件情報は非公知であるといえる。また,これらの情報を仮に被告らが各医療機関から個別に取得できたとしても,多数の医療機関の情報を一体として取得できるわけではないから,営業先を選択するに当たり,取引条件が有利な医療機関を選択しながら営業活動を展開できるという本件情報の有用性が否定されるものではない。 ウ以上によれば,本件情報は,不競法上の営業秘密であるといえる。 2 争点2(被告P1に,不競法2条1項7号の不正競争が認められるか)について(1) 上記第2の1の事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実を総合すると,以下のとおりである。 ア被告P1は,平成24年3月から4月にかけて,本件情報を含むG別売上ファイルをメール添付の方法により送信を受け,これを保存していた。 イ原告から退職することを検討していたP2は,同年5月9日,原告の営業方針に不満を持っていた被告P1,P6,P7,P8,P3,P4,P5のほか同業他社の営業担当者1名の合計9名に呼びかけて会合を持ち,その場で原告の従業員らに対し,具体的な案を伴わないものの,原告を一斉に退職し,別組織で営業を行- 24 -うことの提案をした。 一斉退職を呼びかけたP2は,その後,原告を退職する意思を失っていたが,被告P1とP6は同年5月21日,P7とP8は同月24日,P3は同年6月6日頃,それぞれ原告に対して退職願を提出した。 ウ被告P1は,同年7月13日,自身の私用アドレスから,G別売上ファイルを基に作成した「親密度ファイル」と題するエクセルファイルをP3に送信した(甲25の3,29)。「親密度ファイル」は した。 ウ被告P1は,同年7月13日,自身の私用アドレスから,G別売上ファイルを基に作成した「親密度ファイル」と題するエクセルファイルをP3に送信した(甲25の3,29)。「親密度ファイル」は,本件情報を含んでいるものであり,具体的には平成24年2月分の「顧客名称」に医療機関名,「担当者」に担当している原告営業部員名,「請求総計」及び「グロス」(平均販売価率)の欄にそれぞれ数値の記載があり,「新密度」(親密度)の欄は二つ設けられ,当該医療機関と担当者との関係が親密なものから「○」,「△」,「×」とされる親密度について,一つの欄には○印が対象の医療機関に付され,もう一つの欄には△印が対象の医療機関に付されていた(甲29,被告P1)。 エ被告P1ら転職者及びP3は,原告在職中である同年7月23日,和歌山県労働福祉会館プラザホープに集合し,予め被告P1からP3を通じて送信されていた「親密度ファイル」を利用して,被告会社に転職した場合に,各人が原告において担当していた顧客をどの程度被告の顧客とできるかについて協議した。そしてP3において,後日,これを整理して「KM売上計画2012」との名称のエクセルファイルとしてまとめ,これを和歌山会議参加者に送信した(甲25の4,証人P3)。 オ 「KM売上計画2012」には本件情報を含む「親密度ファイル」と同様の記載に加え,「備考」として,電子カルテの導入の有無や院内検査システムの導入の有無等,「取引開始日」として被告P1ら転職者が見込みで決めた取引開始月が記載され,「取引備考」として「病理のみ」,「便のみ」などの検査対象,さらに,これまでの「請求総計」の額を参考にした概算の1月当たりの売上額が,「取引開始日」として記載された月以降記載されており,平成25年3月までの「今期計」- 25 - のみ」などの検査対象,さらに,これまでの「請求総計」の額を参考にした概算の1月当たりの売上額が,「取引開始日」として記載された月以降記載されており,平成25年3月までの「今期計」- 25 -と平成26年3月までの「来期計」の概算売上額の月数分である売上予想額が記載されていた(甲29,甲30の1及び2,甲40,証人P3,被告P1)。 カ被告P1及びP6は,同年8月15日,P7及びP8は,同月31日,原告を退職し,同年9月以降,いずれも被告会社に就職した。被告P1ら転職者が被告会社に転職した後,被告会社における営業社員は3名から7名となり,同年11月には和歌山営業所が開設された。また,同年12月末に原告から転職してきたP9を含めて8名となった(証人P13)。 キ被告P1ら転職者は,被告転職後,被告会社の従業員として,臨床検査の受託先となる医療機関に対して営業活動を開始したが,同人らの営業によって新たに被告会社に臨床検査を委託するようになった医療機関のうち,約9割は原告の顧客であった医療機関であり,それ以外の臨床検査会社に委託していた医療機関は数件程度であった(証人P13)。 なお,被告P1ら転職者が被告会社従業員として営業活動を行った原告の顧客は,被告P1ら転職者が,原告会社在職中に担当していた先もあったが,必ずしもそれだけではなかった(甲30,被告P1)。また被告P1ら転職者は,営業活動を行うに当たり,医療機関に対し,当該医療機関が従前から原告において行っていた検査項目について,被告会社に委託先を変更した場合と対比できるよう,具体的な金額を記載した見積書を当該医療機関への営業活動開始後直ちに提示するなどしていた(甲31,甲32,甲35の1及び2,甲36)。 ク(ア) 被告P1ら転職者の転職時,原告の関西第2営業所の営業エリア 金額を記載した見積書を当該医療機関への営業活動開始後直ちに提示するなどしていた(甲31,甲32,甲35の1及び2,甲36)。 ク(ア) 被告P1ら転職者の転職時,原告の関西第2営業所の営業エリアにおける原告の顧客である医療機関は約580件,同じく和歌山営業所の営業エリアにおいては約259件であったが,被告P1ら転職者の転職後である平成24年9月から平成25年9月末までの間,原告の顧客が委託先を被告会社に変更した数は関西第二営業部では26件,和歌山営業所では21件であり,原告の顧客のうち委託する臨床検査科目の一部を被告会社に変更した数は関西第二営業部では1件,和歌山営業所では4件であり,原告において条件変更(検査料の減額)をした数は関西第二- 26 -営業部では37件,和歌山営業所では21件であった(なお,医療機関が委託先を変更した日は,別紙原告主張売上減少額記載の関西第二営業部及び同和歌山営業所の各喪失日欄記載のとおりであり,一部診療検査科目を変更した日は同別紙の各一部変更日欄記載のとおりであり,条件変更をした日は同別紙の各条件変更日欄記載のとおりである。)(甲44の1ないし3)。 (イ) 原告において,平成24年の上半期に委託関係を失った顧客の数は17件あったが,その中に,臨床検査会社を被告会社に移したところはなかった。しかし,被告P1ら転職者が被告会社で営業活動を始めた後については,平成24年下半期で総喪失数24件中11件が被告会社に移り,平成25年上半期で49件中31件,同年下半期で28件中8件,平成26年上半期で34件中11件,同年下半期で21件中6件,平成27年上半期で11件中2件,平成28年下半期で8件中4件が,それぞれ被告会社に移った(甲42)。 原告において,営業社員が,その営業活動により,競業他社の顧客を原告 同年下半期で21件中6件,平成27年上半期で11件中2件,平成28年下半期で8件中4件が,それぞれ被告会社に移った(甲42)。 原告において,営業社員が,その営業活動により,競業他社の顧客を原告の顧客へ変更することができる数は,平均して一人年1.7件程度であった(証人P12)。 (ウ) 前記(ア)のとおり,平成24年9月から平成25年9月末までの間に原告から被告会社に臨床検査の委託先を変更した医療機関は関西第二営業部エリアで26件,和歌山営業所エリアで21件であるが,そのうち関西第二営業部エリアでは9件,和歌山営業所エリアでは15件が「KM売上計画2012」において,「取引開始日」が見込まれていた医療機関であった(甲30の1及び2)。 被告P1ら転職者による被告会社における営業は,原告の顧客のうち,販売価率が高い,あるいは販売規模の大きい顧客を優先して営業活動の対象とする営業活動を行っていた。 (2) 検討ア上記認定の事実によれば,被告P1は,原告から営業秘密である本件情報を含む情報の開示を受けた者であるが,これを利用して作成された「親密度ファイル」を用いて,同時期に原告から被告会社に転職する予定の者らと被告会社転職後の原- 27 -告顧客に対する営業活動について協議し,その結果を「KM売上計画2012」にまとめ,そこには新たに臨床検査の委託を受ける際の諸条件のみならず原告との関係における売上実績が記載されていたものである。そして,被告P1ら転職者は,被告会社転職後,原告の顧客を主たる対象として営業活動をしていたものであるが,医療機関に対する営業開始後直ちに見積書を当該医療機関に提示した場合もあるのであり,通常割合以上に原告から被告会社に対して臨床検査の委託先を変更した顧客があり,その顧客の多くは被告P1ら転職者が「KM 療機関に対する営業開始後直ちに見積書を当該医療機関に提示した場合もあるのであり,通常割合以上に原告から被告会社に対して臨床検査の委託先を変更した顧客があり,その顧客の多くは被告P1ら転職者が「KM売上計画2012」において被告会社との取引を,取引開始月まで見込んでいた医療機関であることからすると,上記1(2)で検討した本件情報の有用性も併せ考えれば,原告顧客に対する営業活動をするに当たり,被告P1は,その余の転職者らとともに「親密度ファイル」又は「KM売上計画2012」を媒介にして本件情報を使用していた,すなわち,被告会社転職後にその余の転職者らとともに本件情報を被告会社に開示し,使用したと推認する方が自然であり,また合理的である。また,そのような原告との競業のための被告会社に対する開示,使用である以上,これが不正の利益を得,あるいは保有者である原告を害する目的でなされたことも容易に認定できるところである。 イ(ア) 被告らは,医療機関に対する営業に当たり,原告が主張する本件情報にいう平均販売価率は重要ではなく,営業担当者と顧客との人的関係により被告会社との委託契約締結に至ることが十分にできたもので本件情報を使用していない旨主張し,被告P1本人もこれに沿う供述をする。 しかし,後記検討するとおり,原告在職時の担当者として築いた人的関係が被告会社転職後にも活用できたであろうことを全面的に否定できないとしても,原告から被告会社に臨床検査の委託先を変更した顧客の中には,被告P1ら転職者が担当していなかったところもあるというのであるから,人的関係が貢献する場面があったとしても,それだけでは被告P1ら転職者が保有する本件情報が使用されたとの上記認定を全面的に覆すには足りないというべきである。 - 28 -(イ) また被告P1ら転職者が, 貢献する場面があったとしても,それだけでは被告P1ら転職者が保有する本件情報が使用されたとの上記認定を全面的に覆すには足りないというべきである。 - 28 -(イ) また被告P1ら転職者が,原告の顧客である医療機関に提示した見積書(甲32,甲35の1及び2,甲36)については,担当であった転職者の記憶で作成したものや,医療機関から入手した請求書一覧等により作成したもので,本件情報を用いたものでない旨指摘するところ,確かに,請求書一覧(乙1)から見積書(甲36)が作成できないというものではなく(甲31,証人P12),担当者において担当医療機関につき一定程度の記憶はあることは否定できない(証人P3)。 しかし,医療機関から請求書等を入手するまでにはある程度の信頼関係構築等のため時間が要るのが通常であり(証人P12),多数の検査項目における細かい単価について記憶していることは通常考えられないことからすれば,やはり本件情報を退職後も保有していたと認められる被告P1ら転職者が,そのすべての場合でないとしても,本件情報をあえて全く使用しなかったとは考え難く,したがって本件情報を使用したとの上記認定は覆らないというべきである。 (ウ) なお被告らは,本件情報並びに本件情報から作成した「親密度ファイル」及び「KM売上計画2012」等原告から得た情報は退職時に削除済みである旨主張し,被告P1において,その旨供述する。 しかし,被告P1ら転職者が,本件情報を使用したと推認させる事情は上記アのとおりである上,上記情報を取り扱っていたのは被告会社転職後に原告と競業するためであり,またP3が一斉退職するという行動から離脱しなければ,被告P1ら転職者による上記情報を使用した協議内容が原告に判明することはなかったはずであることからすると,これを削除したとす 競業するためであり,またP3が一斉退職するという行動から離脱しなければ,被告P1ら転職者による上記情報を使用した協議内容が原告に判明することはなかったはずであることからすると,これを削除したとする被告P1の供述は信用し難い。 (3) 以上によれば,被告P1は,原告から示された営業秘密である本件情報を,図利加害目的で被告会社に開示し,使用したと認められるから,上記行為は不正競争防止法2条1項7号に該当する不正競争であるとういうべきである。 3 争点3(被告会社に不競法2条1項8号の不正競争が認められるか)について上記2(1)認定の事実によれば,被告P1のみならず,その余の原告からの転職者- 29 -も被告会社において,本件情報を使用して営業をしていたものと認められるから,被告P1ら転職者が被告会社従業員としてした原告顧客に対する営業活動により,被告会社は,図利加害目的で開示された営業秘密であることを知って本件情報を取得して使用していたものということになり,この行為は不競法2条1項8号の不正競争に該当するというべきである。 4 争点5(不正競争行為に基づく差止請求等の成否)について本件情報は平成24年2月当時の情報であり,その有用性は時間の経過とともに漸減していくことは否定できないが,本件情報が営業秘密であることを完全に否定できるわけではない以上,これを使用した被告らの営業活動は不正競争に該当するというべきであり,したがって,不競法3条に基づく,原告の被告らに対する本件情報の使用及び第三者への開示の差止め,並びに本件情報が記載された文書及び電磁的記録媒体の廃棄請求にはいずれも理由がある(ただし,本件情報と社会的同一性のある範囲を超えて,外延が無限定となりかねない本件情報から「生成された情報」についての廃棄請求は,侵害の予 た文書及び電磁的記録媒体の廃棄請求にはいずれも理由がある(ただし,本件情報と社会的同一性のある範囲を超えて,外延が無限定となりかねない本件情報から「生成された情報」についての廃棄請求は,侵害の予防に必要な行為としても認めることはできない。なお,無形の情報である本件情報の廃棄である以上,その廃棄は,本件情報が記載された文書及び電磁的記録媒体廃棄が第三者による使用が全く許されない形でされるべきことはいうまでもない。)。 5 争点6(原告の損害額)についてア被告P1ら転職者が被告会社で営業を開始した以降の原告に対する競業の状況は,上記2(1)キ,クで認定したおとりであり,また,関西第二営業部及び和歌山営業所において,委託先を変更された医療機関に対する前年同月の売上額は,それぞれの別紙原告主張売上減少額の<全喪失>における各月欄記載の金額であり,委託診療検査科目を一部変更された医療機関に対する前年同月の売上額との差額は,<一部喪失>の各月欄各記載の金額であり,検査料を減額した医療機関に対する前年同月の売上額との差額は,各月欄記載の金額のとおりと認められる。 イ原告は,前年同月と同額の臨床検査の委託があることを前提に,①原告の顧- 30 -客であった医療機関が臨床検査委託先を被告に変更した場合は,当該医療機関に対する前年同月の売上額総額(別紙原告主張売上減少額の〈全喪失〉記載の各金額の合計),②原告の顧客である医療機関が委託する臨床検査科目を減じた場合は,当該医療機関に対する前年同月との差額(同〈一部喪失〉記載の各金額の合計),③原告が被告会社に対抗するために医療機関に対する検査料を減額した場合は,当該医療機関に対する前年同月との差額(同〈条件降下〉記載の各金額の合計)につき,①及び②については,いずれも原告の売上総利益率を乗じた 告会社に対抗するために医療機関に対する検査料を減額した場合は,当該医療機関に対する前年同月との差額(同〈条件降下〉記載の各金額の合計)につき,①及び②については,いずれも原告の売上総利益率を乗じた金額が,③についてはその全額が,被告らの不正競争と因果関係のある逸失利益としての損害である旨主張している。 ウ(ア) 確かに,被告P1ら転職者においてした本件情報を使用した営業活動は不正競争であるし,また原告主張に係る上記売上減少は,被告らの営業活動がなければ生じなかったはずのものといえる。また原告が指摘するように,本件情報を使用することにより,被告らは,より利益の得られる顧客を取捨選択して,これを中心に営業活動を行い,他方で営業活動をしても奪取が難しいと思われる顧客に対しては営業活動を予め控えて全体として効率の良い形で原告と競業したこともできたであろうことは否定できない。 (イ) しかし,臨床検査会社間の競争によって医療機関が委託臨床検査会社を変更することは,日常的に一定割合で起きているのであるから,被告P1ら転職者が,原告退職後に,原告の顧客を対象として営業をすることが禁じられているわけではない中(競業自体を債務不履行ないし不法行為とする原告の主張に理由がないことは後記キのとおりである。),原告自身は,被告P1ら転職者の一斉退職により営業力が減じられ,その一方,被告会社は,被告P1ら転職者を受け入れて営業力を増していたという状況にあった以上,本件情報の使用如何にかかわらず,原告は被告会社との競業により売上減少は避けられなかったといえるはずである。 そうすると,そのような競業の中で本件情報を使用できることにより被告会社が効率のよい営業をすることで原告に損害を与えたとするのなら,それは,競業の結- 31 -果,いずれ原告から被告会社に 。 そうすると,そのような競業の中で本件情報を使用できることにより被告会社が効率のよい営業をすることで原告に損害を与えたとするのなら,それは,競業の結- 31 -果,いずれ原告から被告会社に委託先を変更する顧客に対し,被告会社が速やかに営業活動を開始することで,その変更が本来起き得る時期よりも早く実現し,もって,その時期的な差の期間分,原告の売上げが減少させたことで現れる限度というべきである。そして,そのように営業開始着手時期を優先すべき有利な顧客に対する営業は順次実行されていったはずであるから,本件情報の価値は,経時的に減少していくことも考慮する必要があるといえる。 (ウ) また,本件情報が競業上有利な地位をもたらすとしても,医療機関が臨床検査会社を変更するためには,上記1(1)イ(イ)のとおりの各種の負担が生じるのであり,原告よりも低額の検査料の提示を受けながら営業社員が転職に伴い情報を持っていくようでは情報漏えいの危険があり信用できないとして,被告会社に移っていない例もある(甲31,41)というのであるから,医療機関には,検査料の単純な高低だけで臨床検査会社を選択しているわけではないことがうかがえ,臨床検査会社担当者と医療機関の医師ないし担当者との個人的関係で委託関係が維持されたり変更されたりする可能性も否定できないから,原告と被告会社の競業において,顧客が原告から被告会社に移動した理由には,被告らが主張するような,被告P1ら転職者と顧客となる医療機関の医師あるいは担当者との人間関係が貢献したことも考慮される必要がある。 (エ) 加えて本件情報についての原告の主張は,被告P1ら転職者は,「親密度ファイル」,「KM売上計画2012」のようなファイルとしてまとめられた情報を通してしか,本件情報を使用できなかったはずであること 加えて本件情報についての原告の主張は,被告P1ら転職者は,「親密度ファイル」,「KM売上計画2012」のようなファイルとしてまとめられた情報を通してしか,本件情報を使用できなかったはずであることを前提にしているが,同人らは,原告在職時において担当する顧客の委託内容及び検査料を,詳細にわたらなくとも概略は記憶していたはずであるし,そうでなくとも被告会社に転職後,顧客との信頼関係に基づいて,検査項目ごとの単価,請求額等の本件情報に相当する情報を顧客から得ることは可能であるといえるし,新規の顧客であっても現に得ている場合も認められるから(乙1,甲31,32,35の1及び2,36,証人P12,被告P1),被告会社転職後に原告在職時の顧客に対して営業活動をするに- 32 -当たり,本件情報によることのない営業も行ったはずであって,その点でも,原告主張に係る損害すべてが本件情報の使用に起因すると見ることはできないというべきである。 エ以上のような事情を総合考慮すると,被告らが不正競争を理由として原告に負うべき損害賠償責任は,本件情報の価値が経時的に減少していくことを踏まえて不正競争開始後1年の期間に限って認定するのが相当であり,これをまとめると,本件情報の使用による不正競争を理由として被告らが負うべき損害賠償の額は,委託関係を喪失した医療機関との関係では,前年実績額から算定される損害額を基礎に被告会社の競業開始当初の4か月間についてその3割,次の4か月に2割,さらに次の4か月に1割の限度で算出したもののうち,原告の利益率0.28(甲45)を乗じて認定するのが相当である。また,条件を変更したことによる売上減少についても同様である(ただし,条件変更による減額は,利益が減少しただけであるから利益率を乗じる必要はない。)。しかし,一部臨床検査科 て認定するのが相当である。また,条件を変更したことによる売上減少についても同様である(ただし,条件変更による減額は,利益が減少しただけであるから利益率を乗じる必要はない。)。しかし,一部臨床検査科目だけの変更があったとする医療機関に対する関係では,一部の検査科目のみを他の検査会社に委託することは手続が一層煩雑となると考えられることから,これが単純に臨床検査料だけの問題で変更が判断されたとは認め難く,この部分の損害発生については,そもそも被告らによる不正競争との因果関係を認めることはできないというべきである。 オそこで,以上を踏まえて計算すると,別紙損害算定表記載のとおり,関西第二営業部における損害として,顧客喪失によるものとして99万8900円及び条件降下によるものとして398万4317円の合計498万3217円,和歌山営業所における損害として,顧客喪失によるものとして126万9068円及び条件降下によるものとして32万8181円の合計159万7249円となるから,原告の損害は,合計658万0466円と認めるのが相当である。 カ弁護士費用本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると,退職一時金の返還請求を除く本件と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は,130万円と認定するのが相当である。 - 33 -キまとめ以上によれば,不競法違反を理由とする原告の被告らに対する損害賠償請求は,788万0466円及びこれに対する不法行為の日の後である訴状送達の日の翌日(平成25年11月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 原告は,予備的に前記第3の4の争点4のとおり被告P1の債務不履行又は一般不法行為,並びに同行為を前提とする被告会社の不法行為に基づく損害 金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 原告は,予備的に前記第3の4の争点4のとおり被告P1の債務不履行又は一般不法行為,並びに同行為を前提とする被告会社の不法行為に基づく損害賠償も請求しているが,営業秘密を不正目的において使用する被告P1ら転職者の行為が違法とされるべきであるとしても,これを超えて抽象的に同人らの競業行為が競業避止義務違反になるなどの理由で違法とされるべき理由は認められない(被告P1の原告に対する秘密保持誓約書(甲9の1)第1条における合意が有効であるとしても不競法に反しないという限度のものと解される。)から,これに基づき認められ得る損害額は,結局,営業秘密の使用に起因する損害と同じことになって,その額は上記認定額を超えることはない。 なお,被告P1は,秘密保持誓約書5条(甲9の1)により,競合会社へ就職する場合には事前に原告と十分協議する債務を負っていたというべきところ,そのような協議がされた事実はないが,原告の幹部社員であるP2において被告P1が競業他社へ就職することを認識していたのに(被告P1),原告において被告P1の退職時に何らかの協議を求めた事実は認められないし,またその点をおいても,協議しなかったことを債務不履行の問題としても,その債務不履行が具体的損害発生に結びつくわけではないから,結局,その損害額は,上記認定額を超えることはない。 6 争点7(被告P1に,在職中の行為で就業規則所定の懲戒解雇事由に相当する事実が認められ,退職一時金の返還義務を負うか)について(1) 被告P1は,前記認定のとおり,原告在職中に,原告従業員らと一斉退職を企て,不競法上の営業秘密である本件情報を含む「親密度ファイル」を用いて転職- 34 -予定者の原告従業員らと和歌山会議において協議し,さらにそ 定のとおり,原告在職中に,原告従業員らと一斉退職を企て,不競法上の営業秘密である本件情報を含む「親密度ファイル」を用いて転職- 34 -予定者の原告従業員らと和歌山会議において協議し,さらにその結果を反映させた「KM売上計画2012」を,P3をして作成させ,これを転職予定者らにP3をして送信させことが認められる。 本件情報は,就業規則57条(3)に定める「業務上重要な秘密」に該当するし,また上記の本件情報を含む「KM売上計画2012」を他の転職予定者らに転送させるという行為は,その当時,これら転職予定者が被告会社へ転職することが確定的に予定され,現に転職後に本件情報を使用した行為が認められることからすると,「KM売上計画2012」を転職後の被告会社における営業に用いようとしていたことが推認できるから,結局,被告P1は,原告在職中に,就業規則57条(3)に定める「業務上重要な秘密」である本件情報を故意に「漏らそうとした」ということができる。 そして,被告P1は,退職時は関西第二営業部主幹ではあったが,原告退職が確定する直前には関西第二営業部長という営業の重職に就いていたもので,そのような地位にあった者が上記行為に及んだのは,自らが主導的役割を果たしている原告従業員らの一斉退職後,原告在職中の担当営業エリア内の顧客に関する本件情報を使用した競業行為に企てたというのであるから,これらの行為は,就業規則第57条(16)の「前各項に該当し,その情状が重いとき」に該当し,これは懲戒解雇に相当する事実であるといえる。 そうすると,被告P1は,退職一時金の支給を受けたが,その後に在職中の行為で懲戒解雇に相当する事実が判明したといえるから,そのことを理由とする,原告の被告P1に対する退職金規程10条の3の規定に基づく退職一時金434万70 一時金の支給を受けたが,その後に在職中の行為で懲戒解雇に相当する事実が判明したといえるから,そのことを理由とする,原告の被告P1に対する退職金規程10条の3の規定に基づく退職一時金434万7000円の返還請求及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年11月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求には理由がある。 7 結論よって,原告の被告らに対する請求は,上記理由のある限度で認容することとし,その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し,訴訟費用の負担につき民- 35 -事訴訟法64条本文,61条,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官森崎英二 裁判官田原美奈子 裁判官大川潤子- 36 -(別紙) 営業秘密目録 原告の別紙顧客目録記載の原告顧客に関する下記1及び2の情報記 1 顧客別の売上情報(平成24年2月分) 2 顧客別の販売価率情報(平成24年2月分)

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