平成23年9月27日判決言渡平成23年(ネ)第593号未払退職金請求控訴事件 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は,控訴人に対し,134万9050円及びこれに対する平成21年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その4を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 5 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,237万4130円及びこれに対する平成21年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要1(1) 本件は,被控訴人を平成21年3月31日に定年退職した控訴人が,①平成18年10月1日付けで被控訴人により改正された給与規程及び退職金規程は不合理な不利益変更であり無効である,② 仮に給与規程の改正が有効であるとしても,被控訴人による控訴人の職階認定は人事権の逸脱・濫用であり無効であるなどと主張し,改正前の退職金規程及び給与規程に基づく退職金算定額と実際の支給額との差である237万4130円が 未払であるとして,被控訴人に対し,上記未払金及びこれに対する未払金の支払を請求した書面が被控訴人に到達した平成21年6月5日を起算日とした場合の上記未払金支払期限の翌日である同月21日から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 (2) 原審は,控訴人の請求を全部棄却した。 (3) 控訴人は,これを不服として控訴した。 1日から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 (2) 原審は,控訴人の請求を全部棄却した。 (3) 控訴人は,これを不服として控訴した。 2 前提事実(争いのない事実)(1)ア控訴人は,昭和44年10月16日からA商工会に勤務し,平成16年3月31日に同会を退職し翌4月1日に被控訴人との間で雇用契約を締結し,同21年3月31日に被控訴人を退職したものである。 イ被控訴人は,昭和36年10月9日に,大分県下の商工会の健全な発達を図り,商工業の振興に寄与するため設立された団体であり,大分県下の単位商工会をとりまとめている。 (2) 平成16年4月1日以降は,控訴人を含む大分県内の商工会の職員は,大分県商工会連合会と雇用契約を締結し,各単位商工会に出向することとなり,同日以降は,被控訴人の人事管理委員会の勧告に基づき,被控訴人職員の給与,昇給を決定していたが,その前後において,給与金額等に変更はない。 (3)ア平成18年10月1日に,被控訴人により変更された退職金規程及び給与規程が施行された(以下「本件変更」という。)。 イ本件変更に伴い,控訴人の変更前の基本給は,平成18年9月30日までが28万6100円,同21年3月31日までが28万9100円であったものが,本件変更後は,平成18年度は26万2900円,同19年度は26万4300円,同20年度が26万6900円,同21年度が26万9500円となった。 ウ本件変更前の退職金額の計算方法は,(職員退職時の最終基本給)×(勤続年数に見合う支給率)であり,控訴人の支給率は52.3であった。 一方,本件変更後の退職金額の計算方法は,(職員退職時の最終基本給)×(退職理由別・勤続年数別支給率)+退職給与金 本給)×(勤続年数に見合う支給率)であり,控訴人の支給率は52.3であった。 一方,本件変更後の退職金額の計算方法は,(職員退職時の最終基本給)×(退職理由別・勤続年数別支給率)+退職給与金調整額であるところ,控訴人の退職時の最終基本給は26万9500円であり,支給率は44.4,退職給与調整額は78万円であるので,上記計算方法に基づく控訴人の退職金額は1274万5800円である。 エ本件変更当時,被控訴人には,重大な経営危機等により退職金を支払うことが不可能であったとの事情はなかった。 (4) 平成21年4月24日に,被控訴人は,控訴人に対し,退職金として上記1274万5800円を支払った。 (5) 同年6月4日に,控訴人代理人は,被控訴人に対し,上記変更前の給与規程及び退職金規程に基づく退職金額1543万3730円と上記支払金額との差額である268万7930円の支払を求める通知書を送付したところ,同通知は同月5日に被控訴人に到達した。 3 争点(就業規則の不利益変更における合理性の有無並びにそれを前提とした控訴人の給与及び退職金の金額)(1) 給与規程変更の合理性及び人事権濫用の有無(控訴人の主張)ア被控訴人は,退職金制度崩壊の危険を理由として退職金規程を変更したが,そのとおりであれば,充足率を高めるように退職金規程を変更すれば足りるところ,控訴人を含む職員の基本給を減額する必要性は乏しい。 イ本件変更当時,被控訴人には,経営が破綻し給与を支払えなくなるといった事情はなかったから,給与規程変更について高度の必要性はなか った。 ウ給与規程の変更により,控訴人の基本給は減給となり,賞与やその他の手当が増額することはなかった。また,本件変更は,若手の職員については引き下げを行わず,中高年層につい 必要性はなか った。 ウ給与規程の変更により,控訴人の基本給は減給となり,賞与やその他の手当が増額することはなかった。また,本件変更は,若手の職員については引き下げを行わず,中高年層について引き下げを行うものであるが,これは,中高年層の犠牲により若手の給与を確保するに等しい。 よって,本件変更は相当性を欠く。 エ(ア) 給与規程の変更については,その1週間前に内容を周知されたものであり,これでは,控訴人ら職員は,本件変更が適切な案であるか検討することが事実上不可能であるところ,被控訴人は,職員からの意見聴取の機会を全く設けず,一方的に上記変更を決定したものである。 よって,給与規程の変更は適切な交渉経過を経たものとは認められない。 (イ) 被控訴人が職員の利益代表である旨主張する者は,職員の過半数による投票・挙手等により選任された者ではない。 オ退職時の控訴人の職階は2級52号(係長級)であったが,同人が主幹に任命されるのに必要な年齢及び条件を具備しており,かつ当時の職員の中で最も勤続年数が長く,経験豊富であり,数々の表彰を受けていることからすれば,上記職階ではなく3級(課長補佐級)として認定されるべきであり,これと異なる被控訴人による職階認定は,人事権の逸脱・濫用であり無効である。 (被控訴人の主張)ア本件変更に伴う給与規程の変更は,人事院及び大分県人事委員会の勧告に準ずる内容として行ったものであるから,上記変更の内容の相当性は担保されている。 イ給与規程変更後も現給保障がなされており,実質的な給与の減額はな い。 ウ(ア) 被控訴人は,これまでも給与等の改正は国の人事院勧告及び大分県の人事委員会勧告に準じて改正してきているところ,国及び大分県は,平成18年4月1日,年功的な給与上昇の抑制と職務 い。 ウ(ア) 被控訴人は,これまでも給与等の改正は国の人事院勧告及び大分県の人事委員会勧告に準じて改正してきているところ,国及び大分県は,平成18年4月1日,年功的な給与上昇の抑制と職務・職責に応じた俸給制度へ転換する方針の下,抜本的な俸給表改正を行った。 (イ) 被控訴人の財政は,被控訴人の特別認可法人としての性質上,他の商工会連合会と同様に都道府県から交付される補助金でその大部分が賄われているところ,大分県の定めた小規模事業経営支援事業費補助金交付要綱では,11条において大分県補助金等交付規則に基づく補助金交付条件を定め,その12号では,補助事業の実施に当たっては,規則及びこの要綱並びに知事が別に定める補助金の運用に関する通知に従わなければならないと定められている。そして,「小規模事業経営支援事業費補助金の運用について」では,被控訴人が行う経営改善普及事業等の実施方針については,経営改善普及事業等の実施方針に従わなければならないとされ,同方針では,被控訴人の職員に関する規程等の整備について,地方公務員に準じた程度の条件とすることが定められている。 被控訴人が,これまで人事院等の勧告に準じて給与規程の改正を行ってきた根拠は,指導・監督・監査権限を有する国や県が,正に被控訴人の存立の基礎となっており,これに従わないことが直ちに被控訴人の財政基盤を脅かすおそれがあったからに他ならないのであるから,本件での給与規程変更には合理性がある。 エ被控訴人は,人事院及び大分県人事委員会が発した勧告に準じた給与規程の変更を行ったものであるが,上記勧告それ自体に合理性があるのであるから,上記変更についても相当性が認められる。 オ被控訴人は,給与規程の変更に伴い,給料が下がる職員に対して等し く現給保障の措置を執っている。 であるが,上記勧告それ自体に合理性があるのであるから,上記変更についても相当性が認められる。 オ被控訴人は,給与規程の変更に伴い,給料が下がる職員に対して等し く現給保障の措置を執っている。 カ被控訴人は,国及び大分県が示した抜本的な俸給表改正を受け,人事管理委員会において給与制度の見直しを検討し,同委員会は,平成18年9月25日に被控訴人に対し同年10月1日から新給与規程を実施することを勧告し,その前日である同年9月30日に,被控訴人は全職員を対象とした説明会を開催した。 キ被控訴人による恣意的な人事評価がなされていたとの事情はない。 (2) 退職金規程変更の合理性の有無(控訴人の主張)ア本件変更により,控訴人の退職金は237万4130円の減額となる。 上記算定に当たっては,本件変更における給与規程及び退職金規程の変更はいずれも無効であるから,本件変更前の給与規程及び退職金規程に従い算定すべきである。 イ被控訴人は,退職金規程を変更したのは,退職金制度の充足率を100%とすることが目的であるとするところ,充足率とは,職員全員が退職したときに支払わなければならない退職金額を退職金基金で除したものであるが,全員が同時に退職するという特殊な事情がない限り,上記充足率を100%とする必要はない。 ウ(ア) 本件変更後の退職金支給率は,他県の商工会よりも低率であり,被控訴人職員に必要以上の不利益を強いるものであった。 (イ) 本件変更後の退職金規程による退職金支給は,大分県の基準を下回るものであり,平成18年から向こう10年の間に退職する職員にのみその負担を強いるものである。 エ(ア) 被控訴人は,職員の退職金を減額したことに対する代償措置として,職員の再雇用制度の確立を職員に対し約束したにもかかわらず,実際 0年の間に退職する職員にのみその負担を強いるものである。 エ(ア) 被控訴人は,職員の退職金を減額したことに対する代償措置として,職員の再雇用制度の確立を職員に対し約束したにもかかわらず,実際には定員等の関係により再雇用の余地はなく,控訴人は被控訴人 から再雇用を断られた。 被控訴人の再雇用制度は,その規程に鑑み,希望者全員が再雇用される制度ではない。 (イ) 事務局長登用は,各単位商工会の合併により事務局長から支所長に変更となった人員が,再度事務局長に登用されたに過ぎず,代償措置として機能していない。 (ウ) 昇給停止の廃止は,大分県の給与規程の変更に伴い施行されたに過ぎず,代償措置として定められたものではない。 (エ) 人事評価制度は,その目的等に鑑み,本件変更とは関連性がない。 (オ) 職階制は,その導入により被控訴人による恣意的な人事評価が可能となっただけに過ぎず,代償措置として機能しておらず,本件変更とは関連性がない。 オ(ア) 被控訴人は,被控訴人の職員団体である大分県商工会職員協議会(以下「職員協議会」という。)が本件変更について検討するため組織したプロジェクトチームに対し必要なデータを提供せず,これにより職員らは,本件変更内容の検討及び対案提出の機会を奪われたから,本件変更について被控訴人と職員との間で十分な協議を経たとはいえない。 (イ) 被控訴人は,職員協議会会長のBとの間で確認書(乙5)を作成しているが,Bは,上記確認書について職員に報告せず,控訴人を含む職員は,本件変更に伴い被控訴人とBらとの間でどのような交渉が行われたかについて説明を受けていない。 (ウ) 職員協議会は,職員間相互の交流を目的とした親睦団体として発足したものであり,その発足後,労働条件について被控訴人との間で交渉等を行っ ような交渉が行われたかについて説明を受けていない。 (ウ) 職員協議会は,職員間相互の交流を目的とした親睦団体として発足したものであり,その発足後,労働条件について被控訴人との間で交渉等を行ったものではないから,同会が労働組合と同様の機能を果たしていたものとはいえない。 また,Bは,退職金規程の変更について,職員が全員参加しうる投票又は挙手の方法により選出された者ではないから,Bから意見を聴取したことにより労働者の過半数を代表する者の意見を聴いたことにはならない。 (エ) 職員協議会のプロジェクトチームが作成した要望書及びこれに対する被控訴人からの回答については,いずれも職員協議会全体からの意見聴取及び取りまとめを行っておらず,本件変更について職員間での議論が尽くされているとはいえない。 (被控訴人の主張)ア本件変更のうち,給与規程の変更は有効になされているから,控訴人の退職金算定における基本給の額は26万9500円であり,これに本件変更前の支給率52.3を乗じた金額は1409万4850円である一方,本件変更後の退職金規程に基づき控訴人に支給された退職金は1274万5800円であるから,本件変更により,控訴人の退職金額は134万9050円の減額となった。 イ本件変更前の退職金規程によれば,被控訴人の退職金充足率は年々減少することが見込まれ,そのまま放置すれば退職金制度が崩壊することが見込まれたことから,被控訴人には,早急に退職金規程を変更する高度の必要性があった。 ウ被控訴人は,本件変更から10年後に退職金制度の充足率を100%とすることを目標として,本件変更を行った。上記目標は,退職金制度改革の必要性と職員に与える負担とを勘案し,基準としてわかりやすいものであることを理由として設定されたものであり,見直 足率を100%とすることを目標として,本件変更を行った。上記目標は,退職金制度改革の必要性と職員に与える負担とを勘案し,基準としてわかりやすいものであることを理由として設定されたものであり,見直しの制度も設けられていることから,合理性を有するものである。 エ(ア) 退職金規程の変更に伴い,再雇用制度の導入,事務局長登用制度の導入,昇給停止の廃止,人事評価制度の導入及び職階制の導入とい う代償措置を講じている。 (イ) 再雇用制度について,控訴人の主張は,被控訴人に再雇用の義務を課そうとするものであるが,被控訴人には採用の自由があるから,上記主張は認められない。 (ウ) 昇給停止の廃止により,控訴人基本給については,平成19年度については月当たり2600円,同20年度については月当たり5200円の増額となる。 (エ) 人事評価制度の導入により,昇給だけではなく職位の昇格もあり得ることが制度上明らかにされ,職階制の導入により勤務状況や勤務評定に応じた昇給幅の拡大がなされている。 オ(ア) 被控訴人は,人事管理委員会に対し,退職金改正案を議題として提案したところ,同委員のうち職員代表がこれを検討したいとし,被控訴人の職員団体である職員協議会は,上記改正案を協議し,被控訴人に対し,全職員との意見交換会をもつように要請した。 被控訴人は,平成18年2月1日から同月6日にかけて,県内6地区で,上記改正案について職員に対する説明会(意見交換会)を開催した。また,職員協議会は,職員全員を対象として退職金規程変更に関するアンケートを実施した。 同月28日,職員協議会から被控訴人に対し,① 退職金規程改正の実施時期について平成18年10月1日を目処とすること,② この間に職員で構成するプロジェクトチームによる検討を行うので,同チーム 同月28日,職員協議会から被控訴人に対し,① 退職金規程改正の実施時期について平成18年10月1日を目処とすること,② この間に職員で構成するプロジェクトチームによる検討を行うので,同チーム運営のための支援をして欲しいとの申し出があり,被控訴人は同年3月6日の人事委員会においてこれを了承し,担当職員の出席やデータの提供などを行った。 職員協議会は,翌7日に検討機関として同会内にプロジェクトチームを設置することとし,同会会員(職員全員)に参加を呼びかけ,同 月29日から同年8月11日にかけて,5回のプロジェクトチームによる会合を開催し,同年8月17日,職員協議会より人事管理委員会宛に要望書(乙3)が提出された。 人事管理委員会は,上記要望書を検討し,同年9月14日付けで職員協議会に回答をし(乙4),電子掲示板により全職員に周知した。 同月20日に,人事管理委員会は,改正すべき給与規程と退職金規程を同年10月1日から実施することについての勧告内容を決定し,同年9月25日に被控訴人に勧告した。 被控訴人は,同月29日に臨時総会を開催し,退職金規程の改正について承認を受け,被控訴人及び職員協議会は,同月30日に,改正された給与規程及び退職金規程の内容等について,全職員を対象とした説明会を開催した。 以上のとおり,退職金規程の変更は,控訴人を含む全職員に対し十分な情報提供が行われた上で,職員の意向を反映させて行ったものである。 (イ) 職員協議会は労働組合ではないが,その活動内容等に鑑みれば,職員協議会の会長は職員の過半数を代表する者であり,同会が企業における労働組合の役割を担うと評価できることも明らかである。 (3) 控訴人退職金の未払額(控訴人の主張)ア控訴人の退職時の基本給は,本件変更における給 を代表する者であり,同会が企業における労働組合の役割を担うと評価できることも明らかである。 (3) 控訴人退職金の未払額(控訴人の主張)ア控訴人の退職時の基本給は,本件変更における給与規程の変更は無効であるから,本件変更前の給与規程によると28万9100円となる。 イすると,本件変更前の退職金規程に基づき被控訴人から控訴人に対し支払われるべき退職金は,1511万9930円であるから,これから既払額1274万5800円を差し引くと237万4130円となり,これが被控訴人の控訴人に対する未払額である。 (被控訴人の主張)控訴人の退職時の基本給は26万9500円であり,これを前提として本件変更後の退職金規程により算出した退職金1274万5800円について,被控訴人は控訴人に対し全額支払済みである。 第3 当裁判所の判断 1 総論新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは,原則として許されないが,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されない。 そして,当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者 けの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。上記合理性の有無は,具体的には,① 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,② 使用者側の変更の必要性の内容・程度,③ 変更後の就業規則の内容自体の相当性,④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,⑤ 労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,⑥ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁,最高裁昭和60年 (オ)第104号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁,最高裁平成5年(オ)第650号同8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号1008頁,最高裁平成4年(オ)第2122号同9年2月28日第二小法廷判決・民集51巻2号705頁,最高裁平成8年(オ)第1677号同12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)。 そこで,本件変更の合理性の有無については,上記①ないし⑥の項目について必要な範囲で検討する。 2 給与規程変更の合理性及び人事権濫用の有無について(1) 不利益の程度本件変更により,基本給の金額は減額されており,これにより基本給を基礎として算定される退職金について影響を及ぼすことになるものの,月当たりの収入については,現給保障の措置(甲6(職員給与規程)の附則4項)が講じら 基本給の金額は減額されており,これにより基本給を基礎として算定される退職金について影響を及ぼすことになるものの,月当たりの収入については,現給保障の措置(甲6(職員給与規程)の附則4項)が講じられたことにより,本件変更前の基本給相当額が支払われることとされた。そのため,月当たりの基本給相当額については本件変更前後において変更はない。 (2) 使用者側の変更の必要性の内容・程度ア被控訴人の収入のうち,その6割は大分県からの補助金により賄われていたところ(証人C174項),被控訴人が属する大分県においては,小規模事業経営支援事業費補助金交付要綱(乙6)が定められ,補助条件として「補助事業の実施に当たっては,規則及びこの要綱並びに知事が別に定める補助金の運用に関する通知に従うこと。」とされ(11条(12),上記要綱の6頁。),同号証中の「小規模事業経営支援事業費補助金の運用について」と題する書面(85頁)には「補助対象職員の俸給の支給に当たっては,商工会等及び県連合会の支給規程に基づき,又は県職員の支給規程に準じて行うものとする。」と定められていた。 また,上記以外にも,交付要綱等に基づく規制について詳細な定めがな されていた。 イ基本給の減額及び上記現給保障のための加算措置等を内容とする人事院勧告等がなされたこと(乙16,28の2)により,これらに合わせて被控訴人の給与規程の変更がなされた(甲4の2,甲6,7,乙28の2ないし30,証人C6ないし9項)。 (3) 変更後の就業規則の内容自体の相当性上記(2)イのとおり,本件変更後の給与規程は,人事院勧告等に沿った内容であり,相当性がある。 (4) 代償措置上記(1)のとおり,現給保障のための加算措置が執られており,本件変更前の基本給相当額の収入は確 ,本件変更後の給与規程は,人事院勧告等に沿った内容であり,相当性がある。 (4) 代償措置上記(1)のとおり,現給保障のための加算措置が執られており,本件変更前の基本給相当額の収入は確保されている。 (5) 労働組合等との交渉の経緯給与規程の変更は,平成18年9月20日に被控訴人が人事管理委員会から勧告を受け,当該内容を同月25日に電子掲示板に掲載し,同月30日に職員に対する説明会が実施され,翌10月1日より変更後の給与規程が施行された。(乙27,弁論の全趣旨)上記経過によれば,給与規程の変更について,職員に対する周知がなされたに止まり,職員らに検討の機会を与え,職員らの意見を聴取した上での検討が行われていない。 被控訴人は,人事管理委員会に職員の利益代表3名が加わっており,上記勧告がなされた段階では職員の意見が反映されたものとなっている旨主張するが,上記のとおり検討の機会等が与えられたものとは認められない。 (6) 検討上記によれば,本件変更により,主に退職金について不利益が生じ,改正に伴う手続について労働者からの意見聴取が不十分であることが認められる。 しかしながら,現給保障のための加算措置が執られており本件変更前の基本給相当額の収入は確保されていること,被控訴人がその資金の大半を大分県からの補助金により賄っており,補助金の使途及び被控訴人の運営等については同県による詳細な定めがおかれており,その中に被控訴人職員の待遇については大分県職員に準じた待遇とする旨の規定があることからすれば,本件変更が合理性を欠くものとは認められない。 (7) 人事権の濫用の有無について控訴人は,同人について適切な職階認定がなされていない旨主張する。 しかしながら,甲14の1ないし7及び控訴人本 件変更が合理性を欠くものとは認められない。 (7) 人事権の濫用の有無について控訴人は,同人について適切な職階認定がなされていない旨主張する。 しかしながら,甲14の1ないし7及び控訴人本人尋問の結果によれば,控訴人が良好な勤務成績であったことは認められるものの,控訴人と同程度の勤務成績であった者が控訴人の主張する職階に認定されていたなどの被控訴人の人事権の濫用を具体的に推認させる事実を認めるに足る証拠はない。 よって,上記主張は採用できず,給与規程の変更は有効であるから,控訴人の退職金算定における基本給の額は,被控訴人主張のとおり26万9500円となる。 3 退職金規程変更の合理性の有無について(1) 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度上記のとおり,給与規程の変更は有効であるので,退職金算定の前提となる控訴人の基本給の額は26万9500円となり,本件変更前の退職金規程によった場合の支給額は1409万4850円(=26万9500円×52.3),本件変更後の退職金規程に基づく支給額は1274万5800円(以上,上記前提事実(3)ウ。)であるので,改正前と改正後の退職金の差額は134万9050円となる。 (2) 使用者側の変更の必要性の内容・程度本件変更を全くしなかった場合,平成26年度には被控訴人の退職金資 金の充足率は36.4%にまで減少し,退職金制度が破綻するおそれがあったものと認められる。(甲2の3の3頁)しかしながら,上記充足率は被控訴人全職員が一斉に退職した場合を前提とした数字であるところ,実際にはそのような事態はあり得ないものと考えられることからすれば,退職金支払に必要な金額について,予定される定年退職者数に,一定割合の自己都合退職者数を見込んで検討するなどすれば 字であるところ,実際にはそのような事態はあり得ないものと考えられることからすれば,退職金支払に必要な金額について,予定される定年退職者数に,一定割合の自己都合退職者数を見込んで検討するなどすれば,不利益変更の程度を縮小することが可能と推認される。 これに対し,被控訴人は,10年間で充足率100%を達成するとした理由について,退職金制度改革の必要性と職員に与える負担とを勘案し,基準としてわかりやすいものであることを理由として設定されたなどと主張するが,当該主張及び証人Cの証言(129ないし132項,197ないし203項)からは,上記理由の具体的根拠は不明である。 (3) 変更後の就業規則の内容自体の相当性他の商工連合会との比較(乙8)によれば,本件変更後の平成20年の時点で,被控訴人における退職金の充足率70%は比較的高い数字であるが,定年退職金支給率は,勤続年数30年の者について,他が概ね40以上であるのに対し,被控訴人は38であり,低率であった。 (4) 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況本件変更に伴う不利益が専ら経済的利益に関わるものであることからすれば,これに対する代償措置は,上記経済的不利益を相当程度緩和するものである必要がある。 すると,被控訴人が挙げる代償措置のうち,昇級停止廃止による控訴人の年度差額は,平成19年度が月当たり2600円,年額で3万1200円,同20年度が月当たり5200円,年額で6万2400円に過ぎず(弁論の全趣旨(被控訴人同21年12月14日付け準備書面5頁)),上記(1)の差額を補うには到底足らないものである。 人事評価制度の導入,職階制の導入についても,人事制度の改善は本件不利益変更とは無関係に行うべき事項である上に,これらが控訴人に対しどの程度の経済 の差額を補うには到底足らないものである。 人事評価制度の導入,職階制の導入についても,人事制度の改善は本件不利益変更とは無関係に行うべき事項である上に,これらが控訴人に対しどの程度の経済的利益をもたらすものであるかについて,本件証拠からは不明である。 さらに,再雇用制度及び事務局長登用制度の導入についても,既出の証拠の範囲では,希望者に対し,どの程度の採用,登用がなされるのか不明であり,むしろ,控訴人を含めた当時の定年退職者6名のうち3名の採用にとどまり,控訴人を含む2名については再雇用を希望したにもかかわらず退職となっていること(甲11,控訴人本人58ないし68項,弁論の全趣旨(被控訴人平成21年12月14日付け準備書面2,3頁)),他にも再雇用を希望したにもかかわらず再雇用されない者がいること(証人D61ないし63項)からすれば,希望者全員が再雇用される制度ではないことが認められ,これが上記不利益を緩和するに足るものとは認められない。 (5) 労働組合等との交渉の経緯ア被控訴人において平成17年7月から平成18年1月にかけて退職給与拠出金の充足率改善についての検討を行い,平成18年1月19日に人事管理委員会に議題として提案され,その後,職員協議会において,職員に対する説明会を同年2月1日から同月6日にかけて行ったり,職員に対するアンケートの実施やプロジェクトチームにおける検討を行い(以上乙27,28,33ないし37,証人B,証人C),同年8月11日付けで職員協議会から被控訴人に対し要望書(乙3)が提出され,同年9月14日付けで被控訴人からの回答がなされた(乙4)。 上記の職員協議会における検討に際し,上記要望書の内容についてプロジェクトチーム以外の職員に対して意見を募ることは行われず(証人B162な 9月14日付けで被控訴人からの回答がなされた(乙4)。 上記の職員協議会における検討に際し,上記要望書の内容についてプロジェクトチーム以外の職員に対して意見を募ることは行われず(証人B162ないし169項),上記被控訴人からの回答についても同様で あった(同196ないし215項)。 また,上記要望書においては,職員側から「10年で100%が理想であるが,急激な改正は職員の勤労意欲等に多な影響を及ぼし,大幅なカットは甚大な不利益を職員に与え,職場の活力低下等を惹起するので,ソフトランディングによる見直しを願いたい。」との要望がなされたのに対し,被控訴人の回答は10年で充足率100%を目指すという,従前の方針を維持することを確認するにとどまるものであった。(乙3,4)イ職員協議会は労働組合とは異なるものであり(争いのない事実),規約(乙18の1の4頁以下)には,労働条件の協議に関する記載はなされていない。 また,労働基準法90条1項所定の手続(就業規則変更について,労働者の過半数で組織する労働組合あるいは労働者の過半数を代表する者からの意見聴取)について,被控訴人には労働組合が存在せず,職員協議会の正副会長は人事管理委員会の委員であるものの,同人らは,労働基準法施行規則6条の2第1項2号の「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票,挙手等の方法による手続により選出された者であること。」の要件を充足した者ではなかった。 (証人D27ないし32項,証人B82ないし84項,控訴人本人71項)ウ平成18年9月20日の人事管理委員会において,上記正副会長らは退職金規程の変更に反対したが賛成多数で可決された。(証人B131ないし133項)(6) 同種事項に関する我が国社会における一般的状 18年9月20日の人事管理委員会において,上記正副会長らは退職金規程の変更に反対したが賛成多数で可決された。(証人B131ないし133項)(6) 同種事項に関する我が国社会における一般的状況上記(3)のとおり,改正後の平成20年における被控訴人の退職金支給率は,他の商工連合会と比べ,勤続年数5ないし20年の職員に対する支給 率では特段の差異は認められないが,勤続30年の定年退職職員に対する支給率は,他の連合会が概ね40以上なのに対し,被控訴人の場合は38と低いものであった。(乙8)また,他の商工連合会においても,被控訴人と同様の退職金規程の改定がなされたかについては,証拠からは明らかではない。 (7) 検討以上によれば,① 不利益の程度は134万9050円の減収であり看過できる金額ではないこと,② 変更の必要性それ自体は認められるとしても,減額の幅が相当であるかは疑問であること,③ 変更後の就業規則の内容自体の相当性については,充足率の改善にはつながったものの,永年勤続の定年退職者について他の商工連合会に比べ低い支給率となっていること,④ 被控訴人の主張する代償措置は上記減額に対応するものとはなっていないこと,⑤ 労働者との交渉の経緯について,各労働者の意見の集約を怠り,労働者側の反対を押し切って改正されていることが認められ,これらによれば,本件変更に合理性があるものと認めることはできない。 よって,本件変更のうち退職金規程の変更は無効である。 4 控訴人退職金の未払額について上記前提事実(4)及び当裁判所の判断3(1)により,未払額は134万9050円となる。 また,遅延損害金の起算日については,控訴人の未払退職金支払請求が被控訴人に到達したのは平成21年6月5日であり(上記前 4)及び当裁判所の判断3(1)により,未払額は134万9050円となる。 また,遅延損害金の起算日については,控訴人の未払退職金支払請求が被控訴人に到達したのは平成21年6月5日であり(上記前提事実(5)),被控訴人は同日から15日以内に支払をする義務があるから(甲5(被控訴人の退職金規程)の12条),同月21日となる。 5 結語よって,控訴人の請求は,未払退職金134万9050円及びこれに対する 支払期限の翌日である平成21年6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があり,その余は理由がないから,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官古賀寛 裁判官武野康代 裁判官常盤紀之
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