主文 1 原判決中,原判決別紙物件目録記載3及び4の各土地について建築基準法42条2項に基づく控訴人の指定が不存在であることの確認を求める請求に関する部分を取り消す。 2 前項の部分に関する被控訴人の訴えを却下する。 3 控訴人のその余の控訴を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 本案前の答弁被控訴人の訴えを却下する。 (3) 本案の答弁被控訴人の請求を棄却する。 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人本件控訴を棄却する。 第2 事案の概要等 1 事案の概要被控訴人が居住する建物の敷地北側に隣接する道路部分(原判決別紙物件目録記載1及び2の土地。以下「本件北側道」という。)及び同敷地に直接接しないが西側近傍にある道路部分(同目録記載3及び4の土地。以下「本件西側道」という。)について,控訴人は,告示をもって包括的に指定する方式(以下「包括指定方式」という。)により建築基準法(以下「法」という。)42条2項所定の道路としての指定(以下「本件指定」という。)がされていると主張している。 本件は,被控訴人が,法の施行日である昭和25年11月23日の時点(以下「基準時」という。)において,現在の本件北側道及び本件西側道付近には法42条2項所定の要件を満たす土地は存在していなかったと主張して,控訴人に対し,本件指定という行政処分が存在しないことの確認を求めた事案である。これに対し,控訴人は,被控訴人の原告適格を争うとともに,基準時において上記要件を満たす土地が存在したとして,本件指定は存在すると主張した。 原審は,被控訴人の しないことの確認を求めた事案である。これに対し,控訴人は,被控訴人の原告適格を争うとともに,基準時において上記要件を満たす土地が存在したとして,本件指定は存在すると主張した。 原審は,被控訴人の原告適格を認めるなど本件訴えが適法であるとした上で,本件指定は存在しないとして,被控訴人の請求を認容した。そこで,控訴人がこれを不服として控訴をした。 2 争いのない事実等当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定することができる事実は,原判決事実及び理由の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実及び証拠(文末に掲記のもの)により容易に認定できる事実」欄記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決書2頁11行目の「その幅員は」の次に「1.8メートル以上あるが」を加え,同3頁9行目及び10行目の各「当庁」をいずれも「甲府地方裁判所」に改める。 3 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は,被控訴人の原告適格に関する部分(原判決書6頁2行目から17行目まで)を次のとおり改めるほか,原判決事実及び理由の「第2 事案の概要」の「2 争点」欄記載のとおりであるから,これを引用する。 「(2) 被控訴人は,本件訴えの原告適格を有するか。 (控訴人の本案前の主張)ア建築確認は,当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であり,これを受けなければ建築工事をすることが許されないと定められているところ,そこで問題とされる建築関係規定における建ぺい率,容積率等の基準はかなり詳細で具体的なものである。他方,道路に関する指定(法42条1項)は,基準としての具体性に欠け,1号から5号まで様々な性格の道路を定め得るとしており,その性格に共通するものがない。このような規定に照らし,法が,道路の指定に関し,個人の個別具体 定(法42条1項)は,基準としての具体性に欠け,1号から5号まで様々な性格の道路を定め得るとしており,その性格に共通するものがない。このような規定に照らし,法が,道路の指定に関し,個人の個別具体的な利益を保護していると見ることは困難である。 また,法42条2項の指定の要件は,同条1項に基づく道路指定に比して更に抽象的といえる。同条2項は,単に道路として用いられている現状を追認,容認するにとどまるものであるから,十分な安全性がなくともみなし道路として指定することができるものであって,同条1項のように十分な避難の安全性という利益を周辺住民に付与するものではないから,この点からも,同条2項は周辺住民の個別具体的な利益を保護する趣旨とは到底いえない。 イ仮に,法42条2項が接道義務を充足しない建築物に火災が発生した場合に当該建築物の類焼により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域の住民の生命,身体等の安全を個々人の個別的利益として保護しているとしても,本件においては,被控訴人所有建物の東側に幅員12メートルの県道(α通り)が接しているのであるから,被控訴人及びその家族の避難の点で本件北側道及び本件西側道の幅員は無関係である。また,類焼の危険性については、被控訴人所有建物と西隣の本件建築物との間に本件北側道又は本件西側道が存在するものではないから,本件指定の存否とは無関係である。さらに,消火活動の点においても,上記α通りを利用した放水が可能であるから,本件指定の存否とは無関係である。 したがって,本件北側道又は本件西側道のみを接道道路とする建物に火災が発生した場合について,本件指定の存否は,被控訴人所有建物への類焼の危険性と具体的に関連しないのであるから,被控訴人には,本件北側道及び本件西側道のいずれについても,本件指定の不存在確 建物に火災が発生した場合について,本件指定の存否は,被控訴人所有建物への類焼の危険性と具体的に関連しないのであるから,被控訴人には,本件北側道及び本件西側道のいずれについても,本件指定の不存在確認を求める訴えの原告適格を有しない。 (被控訴人の反論)ア本件指定が存在しないのに存在するものと取り扱われれば,被控訴人は,接道要件を満たさない違法な本件建築物に火災等が発生した場合,本件北側道及び本件西側道が狭隘であるため,消火活動に支障がある結果,被控訴人が所有し居住する建物に延焼し,被控訴人の生命,身体及び財産に被害が生ずるおそれがある。これは,本件北側道のみならず本件西側道についてもいえることであり,本件西側道と被控訴人所有建物の敷地との間が離れていることは問題とならない。 また,仮に検査済証の交付により建築確認処分取消訴訟の訴えの利益が消滅するものとすれば,被控訴人は,A所有土地上の建築物に係る違法な建築確認処分及び検査済証交付処分によって受けるおそれがある損害について,ほとんど常に救済の道を閉ざされるから,将来の同土地上への建築に備え,その建築物に係る建築確認処分等を未然に防止する必要がある。 イ B所有土地は,被控訴人の母であるC名義になっているが,被控訴人は,同土地のうち2361番7の土地上に建物を所有して家族とともに居住しており,B所有土地全体を使用貸借により使用しているのであって,実質的には,被控訴人が所有している。 法42条2項による道路の指定により,指定された土地及びこれに隣接する土地の使用権が制限されるのであるから,B所有土地に隣接する本件北側道については,この点においても,被控訴人の本件指定不存在確認の訴えの原告適格が認められる。」第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件指定の処分性)について法42条2項 土地に隣接する本件北側道については,この点においても,被控訴人の本件指定不存在確認の訴えの原告適格が認められる。」第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件指定の処分性)について法42条2項は,包括指定方式による特定行政庁の指定も許容しているものと解することができるところ,本件告示は,幅員4メートル未満1.8メートル以上の道を一括して2項道路として指定するものであるが,これによって,法第3章の規定が適用されるに至った時点において現に建築物が建ち並んでいる幅員4メートル未満の道のうち,本件告示の定める都市計画区域内にあり幅1.8メートル以上の条件に合致するものすべてについて2項道路としての指定がされたこととなり,当該道につき指定の効果が生ずるものと解される。 そして,本件告示によって2項道路の指定の効果が生ずるものと解する以上,このような指定の効果が及ぶ個々の道は2項道路とされ,その敷地所有者は具体的な私権の制限を受けることになる(法44条,45条等)。そうすると,特定行政庁による2項道路の指定は,それが包括指定方式でされた場合であっても,個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり,個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。 したがって,本件告示のような包括指定方式による2項道路の指定である本件指定も,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解すべきである(以上につき,最高裁判所平成14年1月17日第一小法廷判決・民集56巻1号1頁)。 これに反する控訴人の主張は,採用することができない。 2 争点(2)(被控訴人の原告適格)について(1) 本件西側道に係る本件指定不存在確認の訴えの原告適格についてア被控訴人は,本件西側道について,本件指定が存在しないのに存在するものと取り い。 2 争点(2)(被控訴人の原告適格)について(1) 本件西側道に係る本件指定不存在確認の訴えの原告適格についてア被控訴人は,本件西側道について,本件指定が存在しないのに存在するものと取り扱われれば,接道要件を満たさない違法な本件建築物に火災等が発生した場合,本件西側道が狭隘であるため,消火活動に支障がある結果,被控訴人が所有し居住する建物に延焼し,被控訴人の生命・身体及び財産に被害が生ずるおそれがあり,本件西側道と被控訴人所有建物の敷地との間が離れていることは問題とならないと主張する。 イ行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条にいう当該処分の取済しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁判所平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,同平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁,同平成14年1月22日第三小法廷判決・民集 慮して判断すべきである(最高裁判所平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,同平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁,同平成14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号46頁参照)。 この理は,処分等の無効等確認の訴えの原告適格を定めた同法36条にいう無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」の解釈においても,異なるものではない。 ウ法は,第3章の42条1項において,同章の規定における「道路」とは幅員4メートル(場合により6メートル)以上のものをいうとした上,建築物の敷地は原則として道路(一定のものを除く。)に2メートル以上接しなければならない(43条1項),建築物は原則として道路内に又は道路に突き出して建築してはならない(44条1項)など,建築物又はその敷地と道路との関係についての規定を設けている。 その一方で,法は,42条2項において,「この章の規定が適用されるに至った際現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で,特定行政庁の指定したもの」は,同条1項の規定にかかわらず同項の道路とみなし,その中心線からの水平距離が2メートル(場合により3メートル)の線をその道路の境界線とみなすものとしている。そして,この道の幅員が1.8メートル以上である場合(同条6項参照)には,2項道路の指定の要件について他に何らの規定も置かれていない。 そうすると,法は,本来,都市計画区域内の道路については幅員4メートル(場合により6メートル)の道路が確保されることが必要であるとしつつ,直ちにこれを全面的に適用した場合の不都合を考慮し,経過措置として,幅員4メートル未満の道であっても,42条2項の要件に該当する場合には,これを直ちに道路とみなすことを許容したものということができ,この限りで,幅員4メー 用した場合の不都合を考慮し,経過措置として,幅員4メートル未満の道であっても,42条2項の要件に該当する場合には,これを直ちに道路とみなすことを許容したものということができ,この限りで,幅員4メートル(場合により6メートル)の道路を確保することによる他の利益の保護を制限したものといえる。 したがって,法42条2項は,基準時において現に存在する建築物の所有者等の財産を一定の限度で保護することを目的とするものというべきであり,これを超えて,2項道路の指定がされた道路に接することにより法43条1項の要件を充足する敷地上の建築物の周辺住民の生命,身体の安全,延焼防止といったものまでが同項により保護されているということはできない。 エ上記イ及びウによれば,本件建築物に火災等が発生した場合,被控訴人所有建物に延焼するおそれがあることを理由に,本件西側道について本件指定が存在しないことの確認を求める法律上の利益があるとする被控訴人の上記アの主張は,採用することができない。 また,被控訴人は,仮に検査済証の交付により建築確認処分取消訴訟の訴えの利益が消滅するものとすれば,被控訴人は,A所有土地上の建築物に係る違法な建築確認処分及び検査済証交付処分によって受けるおそれがある損害について,ほとんど常に救済の道を閉ざされるから,将来の同土地上への建築に備え,その建築物に係る建築確認処分等を未然に防止する必要があると主張する。 しかし,検査済証が交付されればその建築物に係る建築確認処分の取消しを求める訴えの利益は消滅すると解されるが,そうであるからといって,その建築物により隣地居住者等の生命,身体,財産等の私法上の権利が侵害されるおそれがあるという場合には,その救済の道が全く閉ざされるものとはいえず,被控訴人の上記主張は,その前提を欠き,採用することが 建築物により隣地居住者等の生命,身体,財産等の私法上の権利が侵害されるおそれがあるという場合には,その救済の道が全く閉ざされるものとはいえず,被控訴人の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。 オ以上によれば,被控訴人は,本件西側道に係る本件指定の不存在確認を求める法律上の利益を有しないものであり,この点に関する被控訴人の訴えは,不適法として却下すべきものである。 (2) 本件北側道に係る本件指定不存在確認の訴えの原告適格についてア上記第2の2の事実に加え,証拠(甲2の5から7まで,14,33の1及び2)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。 (ア) B所有土地のうち,甲府市β2361番5の土地上には,被控訴人の母であるC所有の別紙建物目録記載2の建物が存在し,同番7の土地上には,被控訴人が5分の3の持分を有する同目録記載1の建物が存在している。 被控訴人は,これらの建物を,Cを含む家族とともに一体として使用しており,その敷地であるB所有土地全体についても,被控訴人所有建物の敷地等としてCから使用借権の設定を受けるなどして一体として使用している。 (イ) 本件北側道のうち,原判決別紙物件目録記載1の土地(2360番2)は2361番1の土地に接し,同目録記載2の土地(2362番4)の土地は,2361番1及び同番7の各土地に接している。 イ法42条2項によれば,2項道路の指定がされることにより,同条1項の道路とみなされ,原則としてその中心線からの水平距離2メートルの線がその道路の境界線とみなされる。 したがって,本件北側道について本件指定が存在するとすれば,その中心線から水平距離2メートルの範囲について法44条の建築制限が及ぶほか,法45条の私道の変更又は廃止の制限等,法による種々の制限が及ぶこととな て,本件北側道について本件指定が存在するとすれば,その中心線から水平距離2メートルの範囲について法44条の建築制限が及ぶほか,法45条の私道の変更又は廃止の制限等,法による種々の制限が及ぶこととなる。 そうであれば,上記認定の事実関係の下においては,本件北側道に係る本件指定の存否は,被控訴人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができ,その不存在の確認を求める法律上の利益を有するといえるから,被控訴人は,本件北側道に係る本件指定の不存在確認の訴えの原告適格を有するといえるともに,同訴えは,行政事件訴訟法36条の要件を満たすものということができる。 よって,被控訴人の本件北側道に係る本件指定の不存在確認の訴えは,適法である。 3 争点(3)(本件指定の存否)について当裁判所は,本件北側道に係る本件指定は存在しないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決事実及び理由の「第3 争点に対する判断」の「3 争点(3)について」欄記載のとおり(ただし,本件西側道に関する部分を除く。)であるから,これを引用する。 (1) 原判決書12頁22行目及び13頁8行目の各「○○」をいずれも「○○」に改める(2) 同14頁12行目から13行目にかけての「都市計画指定地域に指定されていた」を「都市計画区域に指定されていた」に改める。 (3) 同15頁9行目の「昭和34年5月測図の地図」を「昭和33年12月撮影航空写真,昭和34年5月現地調査に基づきパシフィック航空測量株式会社が調整した甲府市作成の地図」に改める。 4 以上によれば,被控訴人の訴えのうち,本件西側道に係る本件指定の不存在確認を求める部分は不適法であり却下すべきであるが,本件北側道に係る本件指定の不存在確認を求める部分は適法であり,その請求は理由がある。 よって,原 人の訴えのうち,本件西側道に係る本件指定の不存在確認を求める部分は不適法であり却下すべきであるが,本件北側道に係る本件指定の不存在確認を求める部分は適法であり,その請求は理由がある。 よって,原判決中本件西側道に係る本件指定の不存在確認請求を認容した部分は失当であるから,同部分を取り消し,この部分に関する被控訴人の訴えを却下することとし,控訴人のその余の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官西田美昭裁判官森高重久裁判官伊藤正晴
▼ クリックして全文を表示