平成24(行ウ)279 手続却下処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年8月30日 東京地方裁判所
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判決文本文13,374 文字)

平成25年8月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(行ウ)第279号手続却下処分取消等請求事件口頭弁論終結日平成25年5月29日判決 アメリカ合衆国,ニュージャージー州<以下略>原告ビーエーエスエフ,カタリスツ,エルエルシー同特許管理人弁理士高見和明東京都千代田区<以下略>被告国 処分行政庁特許庁長官被告指定代理人中野康典同加藤誠一同佐藤一行同上田智子同河原研治主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由 第1 請求 1 特許庁長官が,原告のした国際特許出願(特願2010-545819)に係る手続について,平成23年3月15日付けで原告に対してした,平成22年8月4日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分,及び,同日付けで原告に対してした,平成22年10月8日付け提出の翻訳文に係る手続の却下の 処分を,いずれも取り消す。 2 特許庁長官が,平成23年10月26日付けで原告に対してした,平成23年5月20日付けでされた異議申立てについて,異議申立てを棄却するとの決定を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,「千九百七十年六月十九日にワシン 日付けで原告に対してした,平成23年5月20日付けでされた異議申立てについて,異議申立てを棄却するとの決定を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下以下以下以下「特許協力条約特許協力条約特許協力条約特許協力条約」というというというという。)。)。)。)に基づいて行った国際特許出願について,特許庁長官に対し,国内書面及び翻訳文提出書を提出したところ,特許庁長官から,①国内書面に係る手続の却下処分,②翻訳文提出書手続の却下処分,③各却下処分に対する異議申立ての棄却決定をされたことから,各処分の取消しを求める事案である。 1 前提となる事実(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)(1) 当事者原告は,アメリカ合衆国ニュージャージー州に本店を有する外国法人であり,特許法8条の規定による特許管理人を選任している。 (2) 本件各処分がなされた経緯ア原告は,特許協力条約に基づき,平成21年2月5日(国際出願日)に,オランダ特許庁を受理官庁とし,平成20年2月5日を優先日(特許協力条約2条(xi))として,外国語(英語)で国際出願(PCT/NL2009/050051)をし,同出願は,特許協力条約4条(1)(ⅱ)の指定国に日本国を含んでいたことから,特許法(平成23年法律第63号による改正前のもの。以下以下以下以下,単に「法」というというというという。)184条の3第1項の規定により,当該国際出願日にされた特許出願(特願2010-545819号。以下以下以下以下「本件国際特許出願本件国際特許出願本件国際特許出願本件国際特許出願」というというというという。)とみなされた。 イ原告は 特許出願(特願2010-545819号。以下以下以下以下「本件国際特許出願本件国際特許出願本件国際特許出願本件国際特許出願」というというというという。)とみなされた。 イ原告は,本件国際特許出願について,法184条の5第1項に規定された国内書面(甲1。以下以下以下以下「本件国内書面本件国内書面本件国内書面本件国内書面」というというというという。)を,法184条の 4第1項の規定による国内書面の提出期間内である平成22年8月4日に提出した。 ウ原告は,本件国際特許出願について,法184条の4第1項に規定する明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文に係る翻訳文提出書(甲3。以下以下以下以下「本件翻訳文提出書本件翻訳文提出書本件翻訳文提出書本件翻訳文提出書」というというというという。)を,法184条の4第1項ただし書きによる翻訳文提出特例期間(平成22年8月4日から同年10月4日まで)満了の4日後である平成22年10月8日に提出した。 エ特許庁長官は,原告に対し,平成22年12月20日付けで,本件翻訳文提出書の提出に係る手続については,翻訳文提出特例期間経過後の提出であり,不適法なものであることから却下となる旨の却下理由通知書(甲2。以下以下以下以下「本件翻訳文提出書却下理由通知書本件翻訳文提出書却下理由通知書本件翻訳文提出書却下理由通知書本件翻訳文提出書却下理由通知書」というというというという。)を,本件国内書面の提出に係る手続については,本件国際特許出願は,翻訳文が提出されなかったことにより,取り下げられたものとみなされており,本件国内書面は不要な書類となるため却下となる旨の却下理由通知書(甲4。以下「本件国内書面却下理由通知書本件国内書面却下理由 訳文が提出されなかったことにより,取り下げられたものとみなされており,本件国内書面は不要な書類となるため却下となる旨の却下理由通知書(甲4。以下「本件国内書面却下理由通知書本件国内書面却下理由通知書本件国内書面却下理由通知書本件国内書面却下理由通知書」というというというという。)を,それぞれ通知した。 オ原告は,特許庁長官に対し,平成23年2月4日付けで本件翻訳文提出書に係る手続について,同月7日付けで本件国内書面に係る手続について,それぞれ弁明書(甲5,7)を提出した。 カ特許庁長官は,平成23年3月15日付けで,本件翻訳文提出書の提出に係る手続について,本件翻訳文提出書却下理由通知書に記載した理由により却下する処分(甲6。以下以下以下以下「本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分」といといといという。)をし,本件国内書面の提出に係る手続についても,本件国内書面却下理由通知書に記載した理由により却下する処分(甲8。以下以下以下以下「本件本件本件本件国内書面却下処分国内書面却下処分国内書面却下処分国内書面却下処分」といいといいといいといい,本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分と併せてせてせてせて「本件本件本件本件各却下処分各却下処分各却下処分各却下処分」というというというという。)をした。 キ原告は,平成23年5月20日付けで,本件各却下処分の取消しを求め て,特許庁長官に対して異議申立て(甲9。以下以下以下以下「本件異議申立本件異議申立本件異議申立本件異議申立て」といういういういう。)を行った。 ク特許庁長官は,平 しを求め て,特許庁長官に対して異議申立て(甲9。以下以下以下以下「本件異議申立本件異議申立本件異議申立本件異議申立て」といういういういう。)を行った。 ク特許庁長官は,平成23年10月26日付けで,本件異議申立てを棄却する旨の決定(甲10の1。以下以下以下以下「本件異議決定本件異議決定本件異議決定本件異議決定」というというというという。)を行い,同決定書は,同月27日に原告に送達された(乙1)。 ケ原告は,平成24年4月26日付けで,本件各却下処分及び本件異議決定の各取消しを求めて,本件訴訟を提起した。 2 争点及び争点に対する当事者の主張(争点)原告に対して補正を命ずることなく行われた本件各却下処分及び本件異議決定が違法か否か。 (原告の主張)(1) 原告の特許管理人の所属する特許事務所においては,期限管理担当弁理士責任者(正)を置き,期限管理担当弁理士責任者(正)と期限管理担当責任者(副)によるダブルチェック体制を取っている。 本件事案に関しては,平成22年8月4日に本件国内書面を提出し,併せてデータシートを作成し,その際,次回期限(翻訳文提出期限)を同年10月8日と記載した。期限管理担当弁理士責任者(正)であり,本件事案処理担当責任者である弁理士Aが平成22年10月1日から同月15日まで入院するという非常事態になり,さらに,期限管理担当責任者(副)が,妻の病気,入院そして逝去(10月5日),通夜(10月7日),告別式(10月8日)というさらなる非常事態が発生し,今回の事態を招くことになったのである。 本件事案については,期限管理担当弁理士責任者(正)が本件事案の包袋(ファイル)を自宅に置いたまま入院することになり,期限日について,現物包袋(ファイル)との照 を招くことになったのである。 本件事案については,期限管理担当弁理士責任者(正)が本件事案の包袋(ファイル)を自宅に置いたまま入院することになり,期限日について,現物包袋(ファイル)との照合対応チェックができず,期限日は10月8日と して期限管理を含む全ての事務処理が進行し,10月6日には特許管理人事務所職員がA宅を訪問し,翻訳文を入手,10月8日に特許庁に本件翻訳文提出書の提出となった。 特許管理人事務所においては,本件を含め事案全体の処理に権利の回復の主観的要件である「全ての相当な注意」を払うところの注意義務基準を確立した上で,日頃の業務の遂行に当たっている。 本件,当該期間を遵守できなかった理由として,法112条の2,121条2項,173条2項に規定されている趣旨,及び近く批准される特許法条約(PLT)12条の趣旨に照らして,「責めに帰することができない理由」として本件翻訳文提出書の提出については権利の回復がなされてしかるべきものである。 (2) 特許庁長官は,本件国内書面について,法184条の5第2項1号の規定により,原告に補正の機会を与えなければならなかった。 しかしながら,特許庁長官は,法184条の5第2項,法184条の4第3項の解釈・適用を誤り,原告に補正を命じなかったものであるから,その結果された本件各却下処分(及びそれを追認した本件異議決定)は違法であり,取消しを免れない。 法184条の5第2項は,補正を命ずるか否かを特許庁長官の自由な裁量に委ねたものではなく,第三者の利益を害する等の特段の事情がない限り,補正を命ずべき義務を特許庁長官に課したものである。 (3) 法184条の5第2項は,特許庁長官に補正を命ずる義務を課したものであるから,翻訳文未提出の外国語特許出願については,同項 情がない限り,補正を命ずべき義務を特許庁長官に課したものである。 (3) 法184条の5第2項は,特許庁長官に補正を命ずる義務を課したものであるから,翻訳文未提出の外国語特許出願については,同項と法184条の4第3項とが対立・矛盾する関係にあり,そのいずれが優先するかは,特許協力条約の要請や,国内書面及び明細書等の翻訳文の意義を検討することによって判断すべきである。 ア法184条の4第3項は,特許協力条約22条,24条(1)(ⅲ)等に 由来するものであるが,条約は締約国に対し,翻訳文未提出による国際特許出願の取下擬制等を強く求めているのではない。むしろ,22条(3),24条(2),特許協力条約に基づく規則(以下以下以下以下「条約規則条約規則条約規則条約規則」というというというという。)。)。)。)49.6に象徴されるように,翻訳文の提出期間を緩和して国際特許出願をなるべく維持することを要請しているのである。したがって,条約の要請を踏まえてみると,法184条の4第3項は,優先日から2年6月以内に翻訳文の提出がなかった外国特許出願について取下擬制することを至上命題とするものではなく,これと対立・矛盾する規定よりもその適用において劣後することもあり得るといえるのである。 イ国内書面と翻訳文の意義について考えると,国内書面は,国内出願の束である国際出願について日本への移行を正式に表明するものであって,願書としての役割も担うものである。出願人がどの締約国で特許権を取得しようとしているのかについて国際出願段階では明らかでなく,国内書面こそが日本での特許権取得の意思を表示するものとして重要である。法184条の4第3項を法184条の5第2項に優先して適用すると,法が提出時期の厳格性を減殺して尊重していたはずの国内書 なく,国内書面こそが日本での特許権取得の意思を表示するものとして重要である。法184条の4第3項を法184条の5第2項に優先して適用すると,法が提出時期の厳格性を減殺して尊重していたはずの国内書面の提出の機会が,従たる翻訳文の未提出により意味もなく妨げられることになり,条約の要請にも法の要請にも沿わない本末転倒な結果を招来する。 ウこれらを検討すれば,翻訳文未提出の外国語特許出願に係る国内書面提出手続については,法184条の5第2項を優先して適用すべきであり,その限りにおいては,法184条の4第3項は劣後すると解釈すべきである。 (被告の主張)(1) 本件翻訳文提出書却下処分が適法であること本件国際特許出願については,原告から,特許庁長官に対し,平成22年8月4日付けで,本件国内書面が提出されたことから,その翻訳文の提出期 間については,法184条の4第1項に規定する翻訳文提出特例期間が適用されるため,本件国内書面の提出の日から2か月以内の同年10月4日までであったところ,本件翻訳文提出書は,翻訳文提出特例期間を経過した後の平成22年10月8日付けで提出されたものである。 したがって,本件翻訳文提出書の提出に係る手続は,翻訳文提出特例期間経過後になされた不適法なものであって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2の規定による却下処分を免れない。 (2) 本件国内書面却下処分が適法であること本件国際特許出願については,翻訳文提出書を提出すべき期間である平成22年10月4日までにその提出がされなかったのであるから,法184条の4第3項の規定により,取り下げられたものとみなされる。 したがって,本件国内書面は,取り下げられたものとみなされた既に特許庁に係属していない国際特許出願につい かったのであるから,法184条の4第3項の規定により,取り下げられたものとみなされる。 したがって,本件国内書面は,取り下げられたものとみなされた既に特許庁に係属していない国際特許出願について提出された不要な書類であり,本件国内書面の提出に係る手続は,不適法なものであって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2の規定による却下処分を免れない。 (3) 本件異議決定に違法性がないこと法は裁決主義を採用していないから,本件は,本件異議申立てに係る処分(本件各却下処分)の取消しと本件異議決定の取消しの訴えとを提起することができる場合に当たる。 処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができないとされており(行政事件訴訟法10条2項),裁決中の実体的判断部分を違法事由として主張することは禁止されていることから,本件異議決定の取消原因となり得る違法事由は,裁決固有の瑕疵に限られるものとなる。 原告は,本件各却下処分についての違法事由を主張するのみで,本件異議決定を取り消すべき事由,すなわち,本件異議決定の固有の瑕疵を何ら主張しておらず,主張自体失当である。 (4) 原告の主張についてア原告は,法に翻訳文提出書の提出期限不遵守の救済規定が存在しないのは事実であるが,法の趣旨に照らせば、特許庁長官の運用において救済されるべきものであるというもののようである。 しかし,法184条の4第3項は,国内書面提出期間(翻訳文提出特例期間を含む。)内に明細書等の日本語による翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなす旨を明確に規定して しかし,法184条の4第3項は,国内書面提出期間(翻訳文提出特例期間を含む。)内に明細書等の日本語による翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなす旨を明確に規定している。このように法が明確にその効果として「取り下げられたものとみなす」と規定している出願について,特許庁長官が,法文上の根拠なくその裁量により,法的効果を左右できるものでないことはいうまでもない。 すなわち,既に取り下げられたものとみなされ,特許庁に係属していない本件国際特許出願について提出された本件翻訳文提出書について,特許庁長官が,却下以外の何らかの処分を行うこと自体,違法な行政手続・行政行為であって,許されないことは明らかであるから,原告の主張は,失当である。 イ我が国においても,国際出願制度の国際調和の観点から,平成23年法律第63号による特許法等の一部改正により,特許法184条の4第4項等の規定を改正し,翻訳文提出期間を徒過した場合の救済制度を導入しつつ,改正附則2条が経過措置を設けているところ,同条25項において,外国特許出願の翻訳文提出期間を徒過した場合の救済に係る規定(改正後の特許法184条の4第4項等)は,同改正の施行日である平成24年4月1日前に翻訳文提出期間が満了し,取り下げられたものとみなされた国際特許出願については適用しないとしているところである。これは,上記 救済制度は,翻訳文の未提出により,みなし取下げとなった特許出願を回復するものであり,同改正が施行される前に既にみなし取下げとなっている特許出願についてまで回復を認めることは,法的安定性を害し適当ではないとの考えに基づいている。 このように,翻訳文提出期間を徒過した場合の救済に係る規定がおかれた改正法の附則において,法的安定性を害することは適 で回復を認めることは,法的安定性を害し適当ではないとの考えに基づいている。 このように,翻訳文提出期間を徒過した場合の救済に係る規定がおかれた改正法の附則において,法的安定性を害することは適当でないとして,その救済規定を遡って適用することはできないとされているのであって,救済規定がおかれていない改正前特許法の下で、特許庁長官がその運用において救済を図ることを法が許容していたなどとはおよそ解し得ない。 ウまた,原告は,翻訳文未提出の外国語特許出願については,法184条の5第2項と法184条の4第3項とが矛盾する関係にあると主張するが,そもそも,法184条の5第2項と184条の4第3項とが矛盾する関係などない。 すなわち,2つの条文が矛盾するなどとする原告の主張は,翻訳文が提出されなかったため,法184条の4第3項の規定により,取り下げられたものとみなされた外国語特許出願であっても,法184条の5第1項に規定する書面(国内書面)が提出されなかったものについては,同条2項1号が,特許庁長官が出願人に対しその提出を命ずるべきことを定めているとの解釈を前提にしていると解される。 しかし,外国語特許出願にあっては,国内書面提出期間(翻訳文提出特例期間を含む。)内に,明細書等の日本語による翻訳文の提出がなかったときは,その外国語特許出願は,法184条の4第3項の規定により,取り下げられたものとみなされることから,外国語特許出願の場合は,所定の期間内に翻訳文が提出されていることが,法184条の5第2項1号の補正命令の対象となるための前提であって,翻訳文未提出の外国語特許出願について,同号の規定が適用されることはない(東京地方裁判所平成2 1年(行ウ)第590号・平成22年7月16日判決・乙3,知的財産高等裁判所平成22年( であって,翻訳文未提出の外国語特許出願について,同号の規定が適用されることはない(東京地方裁判所平成2 1年(行ウ)第590号・平成22年7月16日判決・乙3,知的財産高等裁判所平成22年(行コ)第10003号・平成22年11月30日判決・乙4)。 したがって,原告の主張は,法184条の5第2項の解釈を全く正解しない独自の見解に基づくものであり,失当である。 第3 当裁判所の判断 1 本件異議決定の違法性について(1) 処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない(行政事件訴訟法10条2項)。 (2) しかるに,原告は,本件異議決定の取消請求において,原処分である本件各却下処分の違法のみを主張し,本件異議決定の手続的違法などの裁決固有の瑕疵を主張しないから,本件各却下処分に違法があるか否かにかかわらず,本件異議決定の取消請求は主張自体失当である。 2 本件翻訳文提出書却下処分の違法性について(1) 法184条の4第1項は,外国語特許出願の出願人は,優先日から2年6か月の国内書面提出期間内に,明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならないと規定し,同項ただし書において,国内書面提出期間満了の2か月前から満了の日までの間に,法184条の5第1項に規定する国内書面を提出した外国語特許出願については,国内書面の提出の日から2か月の翻訳文提出特例期間以内に,当該翻訳文を提出することができると規定している。そして,法184条の4第3項は,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(明細書等 訳文提出特例期間以内に,当該翻訳文を提出することができると規定している。そして,法184条の4第3項は,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(明細書等の翻訳文)の提出がないときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなすと規定している。 法184条の5第2項は,同条1項の規定する国内書面(1号)のほかにも,法184条の4第1項の規定により提出すべき翻訳文のうち,要約の翻訳文(4号)については,国内書面提出期間の徒過を補正命令の対象としているが,明細書等の翻訳文を含むその他の翻訳文については,補正命令の対象としていない。 このような法184条の5と法184条の4の規定を併せて読めば,外国語特許出願につき明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,その国際特許出願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみなされることになり,事件が特許庁に係属しないこととなるから,当該国際特許出願について,法184条の5第2項の規定による補正命令が問題となる余地がないことは,明らかである。 (2) これを本件についてみると,前提となる事実のとおり,国内書面の提出後2か月の翻訳文提出特例期間内に,翻訳文の提出はなかったのであるから,法184条の4第3項の規定により,本件国際特許出願は,取り下げられたものとみなされることになる。そのため,本件国際特許出願は,事件が特許庁に係属しないこととなり,法184条の5第2項の規定による補正命令だけでなく,手続の補正が問題となる余地はないから,特許庁長官が本件国内書面や本件翻訳文の提出を求めるなどの手続の補正を認める余地はないというべきである。 したがって,翻訳文提出特例期間後に提出された本件翻訳文提出書は,取り下げ いから,特許庁長官が本件国内書面や本件翻訳文の提出を求めるなどの手続の補正を認める余地はないというべきである。 したがって,翻訳文提出特例期間後に提出された本件翻訳文提出書は,取り下げられたものとみなされる本件国際特許出願について提出された不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2第1項の規定により,その手続を却下すべきものである。 よって,原告に補正の機会を与えずに特許庁長官がした本件翻訳文提出書却下処分は,適法である。 (3) 原告の主張について ア法184条の5第2項及び法184条の4第3項の解釈について原告は,法184条の5第2項が特許庁長官に補正を義務付けるものであるとの解釈を前提に,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾があり,特許庁長官は,法184条の5第2項を優先して適用し,補正を命ずべきであったと主張する。 しかし,法184条の5第2項は,「手続の補正をすべきことを命ずることができる。」と規定しており,その文言に照らして,手続の補正をすべきことを命ずることを特許庁長官に義務付けたものでないことは明らかである。 そして,前記(1)で述べたとおり,法184条の5第2項は,国内書面(1号)や要約の翻訳文(4号)の提出期間徒過については補正命令の対象としているのに対して,明細書等の翻訳文の提出期間徒過については補正命令の対象としておらず,法は,明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,法184条の4第3項により,当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされ,補正の余地がないことを前提に,法184条の5第2項の補正命令の対象となる範囲を定めているものと解される。 したが 84条の4第3項により,当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされ,補正の余地がないことを前提に,法184条の5第2項の補正命令の対象となる範囲を定めているものと解される。 したがって,法184条の5第2項1号は,法184条の4第1項に規定する翻訳文のうち,明細書等の翻訳文が同項に規定する提出期間内に提出されていない場合には,適用されないと解するのが相当であって,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾はないと解され,本件において,法184条の5第2項を適用する余地はないから,原告の前記主張は,採用することができない。 イ特許協力条約の要請について(ア) 原告は,特許協力条約は,同条約22条(3),24条(2),条約規則49.6に象徴されるように,翻訳文提出期間を緩和し,国際出 願を維持することを要請していることから,法184条の4第3項は,同項と矛盾する規定よりも,その適用において劣後すると主張する。 (イ) しかしながら,特許協力条約は,出願人は,優先日から30か月以内に国際出願の写しと所定の翻訳文を提出することとし(22条(1)),当該期間内にこれらを提出しなかった場合には,国際出願の効果は,当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅する(24条(1)(ⅲ))と規定しているから,法184条の4第3項は,何ら特許協力条約の規定に違反するものではない。 そして,特許協力条約22条(3)は,締約国の裁量として,翻訳文等の提出期間の満了日を特許協力条約の定めよりも遅くするように国内法令で定めることができるとするものであって,国内法令においてこのような措置を講ずることを締約国に義務付けていないことは,その文言に照らして,明らかである。 許協力条約の定めよりも遅くするように国内法令で定めることができるとするものであって,国内法令においてこのような措置を講ずることを締約国に義務付けていないことは,その文言に照らして,明らかである。 また,同条約24条(2)も,同条(1)の規定(国際出願の効果が,国内出願の取下げと同一の効果をもって消滅すること)にかかわらず,指定官庁が,国際出願の効果を維持することができるとするものであって,指定官庁が当該効果を維持することを義務付けるものではないことも,また,明らかである。 したがって,特許協力条約は,同条約で定める範囲以上に,翻訳文の提出期間を緩和して,国際出願の効果を維持するものとして取り扱うか否かは,各締約国及び指定官庁の判断に委ねていると解されることから,これらの特許協力条約の規定をもって,この判断の結果である法の規定の範囲を超えて,国際出願の効果を維持するように法の規定を解釈すべき理由はない。 (ウ) 平成23年法律第63号による改正後の特許法184条の4第4項は,「前項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願 の出願人は,国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるときは,その理由がなくなった日から2月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内に限り,明細書等翻訳文並びに第1項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。」と規定し,同改正後の同条5項は,「前項の規定により提出された翻訳文は、国内書面提出期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。」と規定して,翻訳文提出についても救済制度が設けられている。 しかし,同改正は,改正附則2条25項により,同改正の施行日である平成2 満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。」と規定して,翻訳文提出についても救済制度が設けられている。 しかし,同改正は,改正附則2条25項により,同改正の施行日である平成24年4月1日前に翻訳文提出期間が満了し,取り下げられたものとみなされた国際特許出願については適用しないとされているから,本件においては同改正の適用はない。 また,同改正は,改正前の規定やそれに基づく運用が,特許協力条約の規定や趣旨に反していたことを示すものではない。特許協力条約は,同条約で定める範囲以上に,翻訳文の提出期間を緩和するか否かは,各締約国及び指定官庁の判断に委ねていると解されることは前記のとおりである。 (エ) 以上のことから,特許協力条約22条(3),24条(2),条約規則49.6(a)ないし(e)に象徴される特許協力条約の要請を考慮して,法184条の4第3項の規定の適用を劣後させるべきであるとの原告の主張は,理由がない。 ウ国内書面と明細書等の翻訳文の意義について原告は,国内書面は願書としての役割を担うもので,重要であり,これについては補正が認められているのに対し,明細書等の翻訳文は,国内書面に対して従たるものにすぎないとして,従たる書面である明細書等の翻訳文の未提出により,国内書面の提出の機会が妨げられるのは,本末転倒 であると主張する。 しかしながら,国際特許出願において願書としての性質を有するのは,国際特許出願に係る願書であって,国内書面ではない(法184条の3第1項,184条の6第1項)。また,明細書等の翻訳文は,特許協力条約上,その提出を義務付けられている書面である(同条約22条(1))のに対し,国内書面は,同条約上,その提出を義務付けられている書面では ,184条の6第1項)。また,明細書等の翻訳文は,特許協力条約上,その提出を義務付けられている書面である(同条約22条(1))のに対し,国内書面は,同条約上,その提出を義務付けられている書面ではない(同条約22条(1)後段,27条(1)参照)。このような同条約の規定や法の規定に照らして,明細書等の翻訳文が国内書面の従たる書面であると認めることはできない。 したがって,原告の前記主張は,理由がない。 エ以上のとおり,特許協力条約の規定や国内書面及び明細書等の翻訳文の意義に照らしても,法184条の5第2項が特許庁長官に補正を義務付けたものであって,明細書等の翻訳文が未提出の外国語特許出願については,同項と法184条の4第3項とが対立・矛盾する関係にあるとして,法184条の5第2項を優先して適用すると解すべき理由はないから,原告の主張は,採用することができない。 3 本件国内書面却下処分の違法性について上記のとおり,翻訳文提出特例期間内に翻訳文が提出されなかったことにより本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされるから,本件国内書面は,取り下げられたものとみなされた国際特許出願について提出された不要な書類であり,本件国内書面の提出に係る手続は,不適法なものであって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2第1項の規定により,その手続を却下すべきものである。 よって,特許庁長官がした本件国内書面却下処分は,適法である。 4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 おり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋 裁判官 小川雅敏 裁判官 西村康夫

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