令和5(わ)3068 過失運転致死傷

裁判年月日・裁判所
令和6年9月4日 大阪地方裁判所
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判決文本文10,041 文字)

主文 被告人を禁錮3年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和5年3月20日午後1時9分頃、普通乗用自動車を運転し、大阪市(住所省略)付近道路を北から南に向かい進行してきて、同所先の信号機により交通整理の行われている交差点の対面信号機の赤色灯火信号表示に従い同交差点入口手前の停止線付近で停止するに当たり、ブレーキを的確に操作して安全に停止すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、ブレーキを的確に操作しないまま、漫然時速約29キロメートルで進行した過失により、同対面信号機が赤色灯火信号を表示しているにもかかわらず、自車を同交差点内に進入させて、折から同交差点入口に設けられた横断歩道上を信号表示に従って東から西に向かい横断してきた歩行者A(当時74歳)に自車左フェンダーミラーを衝突させ、同横断歩道上を同様に横断してきた歩行者B(当時73歳)に自車前部を衝突させて、同人を路上に転倒させた上、同交差点出口に設けられた横断歩道に併設された自転車横断帯上を信号表示に従って東から西に向かい横断してきた C(当時65歳)運転の自転車の前輪右側面部に自車前部を衝突させて、同人を運転車両もろとも路上に転倒させ、同横断歩道上を同様に横断してきた歩行者D(当時67歳)に自車前部を衝突させて、同人を路上に転倒させ(以下「第1事故」という。)、さらに、第1事故による狼狽と被告人の認知症の影響で、ブレーキペダル、シフトレバー及びアクセルペダルを的確に操作できない状態に陥り、自車を急加速させ、同日午後1時10分頃、同市(住所省略)付近道路を時速約48キロメートルで北から南に向かい進行させ、折から同所先道路の進路前方で信号表示に従い発進し始めたE(当時81歳)運転の原動 車を急加速させ、同日午後1時10分頃、同市(住所省略)付近道路を時速約48キロメートルで北から南に向かい進行させ、折から同所先道路の進路前方で信号表示に従い発進し始めたE(当時81歳)運転の原動機付自転車の左側面部に自車右側面部を衝突させて、同人を運転車両もろとも路上に転倒させ(以下「第2事故」という。)、引き続き、ブレーキペダ ル、シフトレバー及びアクセルペダルを的確に操作できない状態で、自車を後方に急発進させた上、同市(住所省略)先の交通整理の行われていない交差点を南から東に向かい時速約27キロメートルで左折後退させ、折から、その頃、同交差点を北から東に向かい左折進行していたF(当時38歳)運転の普通乗用自動車の右側面部に自車右側面部を衝突させ(以下「第3事故」という。第1事故から第3事故までを合わせて「本件事故」という。)、よって、前記Aに加療約16日間を要する右肩打撲傷等の傷害を、前記Bに急性硬膜下血腫の傷害を、前記Cに加療約11日間を要する右下腿打撲挫創の傷害を、前記Dに頭蓋骨骨折等の傷害を、前記Eに加療約2週間を要する左大腿部皮下血腫等の傷害を、前記Fに加療約9日間を要する左肘捻挫等の傷害を、前記F運転車両に同乗のG(当時15歳)に加療約9日間を要する右肩打撲傷等の傷害をそれぞれ負わせ、同日午後4時45分頃、同市内の病院において、前記Dを前記傷害に基づくびまん性脳損傷等により死亡させ、同月22日午前11時19分頃、同市内の病院において、前記Bを前記傷害に基づく脳ヘルニアにより死亡させた。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明)弁護人は、被告人は、本件事故当時、認知症の症状により、注意義務(結果回避義務)を課す前提となる能力が失われており、信号機の赤色灯火信号表示に従いH交差点入口手前の停止線付 事実認定の補足説明)弁護人は、被告人は、本件事故当時、認知症の症状により、注意義務(結果回避義務)を課す前提となる能力が失われており、信号機の赤色灯火信号表示に従いH交差点入口手前の停止線付近で停止するに当たり、ブレーキを的確に操作して安全に停止すべき自動車運転上の注意義務(以下「本件注意義務」という。)を履行することができなかったのであるから、注意義務(結果回避義務)違反は認められず、したがって、過失は認められないから無罪である旨主張する。 しかし、判示のとおり、被告人には、本件注意義務の履行可能性があり、同注意義務違反があると認定したので、以下、その理由を補足して説明する。 第1 前提事実 当公判廷で取調べ済みの関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。 1 被告人のこれまでの運転状況被告人は、これまで30年以上タクシー運転手として稼働し、本件事故当時は、個人タクシー業を営んでいた。 被告人は、令和4年12月頃、個人タクシー業に係る営業用車両としてオートマチックトランスミッション車(いわゆる「AT車」)である普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)を購入し、本件事故当時まで本件車両を運転していた。 なお、被告人は、本件車両を運転する際には、左足でブレーキペダルを、右足でアクセルペダルをそれぞれ踏んで操作していた。また、信号待ちなどで本件車両を一時停止させる際には、左足でブレーキペダルを踏み、本件車両が停止するとギアをニュートラルに入れるなどの操作をしていたほか、ギアをニュートラルに入れてから左足でブレーキペダルを踏んで停止するなどの運転操作をすることもあった。 2 前日の事故状況被告人は、本件事故の前日である令和5年3月19日、赤色灯火信号表示に従って停止させていた本件車両を発進させ、 レーキペダルを踏んで停止するなどの運転操作をすることもあった。 2 前日の事故状況被告人は、本件事故の前日である令和5年3月19日、赤色灯火信号表示に従って停止させていた本件車両を発進させ、ハンドルを右に切って左前方に停車中の自動車を追い越そうとした際、同自動車に接触させる事故を起こした。 なお、同日は当該事故以外に特段の事故はなかった。 3 自宅から第1事故発生現場までの走行状況被告人は、令和5年3月20日(以下、特段の指定がない限り年月日は省略する。)午前10時過ぎ頃、本件車両を運転して大阪府門真市内の自宅を出発し、午前10時22分頃、大阪府守口市内のI工業所に到着した。 被告人は、午前10時33分頃、I工業所を出発して、(住所省略)にある個人タクシー組合に向かった。 被告人は、I工業所を出発した後、土地鑑のなさから道に迷い、府道(番号 省略)、国道(番号省略)、国道(番号省略)を経由して、大阪市(住所省略)及び(住所省略)周辺を走行した。 その後、被告人は、午前11時57分頃、J店の駐車場で本件車両から降車し、その約3分後である午後0時頃、運転を再開して、府道(番号省略)を南北に往復した。 被告人は、府道(番号省略)を南下する際、K交差点、L交差点の各交差点において、その信号機の赤色灯火信号表示に従って本件車両を停止させたほか、午後1時6分頃、M交差点の信号機の赤色灯火信号表示に従って本件車両を停止させた。 被告人は、M交差点から本件車両を発進させた後、N交差点において、同交差点の信号機が赤色灯火信号の表示であるにもかかわらず、直進通過した。 なお、被告人は、自宅を出発してから第1事故発生現場まで、上記のI工業所、コンビニエンスストアで降車したほかは継続して運転しており、自宅から第1事故発生現場までの総走 もかかわらず、直進通過した。 なお、被告人は、自宅を出発してから第1事故発生現場まで、上記のI工業所、コンビニエンスストアで降車したほかは継続して運転しており、自宅から第1事故発生現場までの総走行距離は約45.26キロメートル、総走行時間は約2時間50分であり、その間、上記赤信号無視を除いて特段の交通違反はうかがえず、また、運転操作についても異常な挙動はなかった。 4 第1事故の状況被告人は、引き続き府道(番号省略)を南下し、H交差点に差し掛かった際、前方に先行車両が信号待ちのために停止している状況で、左車線に車線変更した。その後、被告人は、左手でシフトレバーを「N」や「R」、「P」に順次切り替えるなどした上、ブレーキペダル及びアクセルペダルを踏みこみ(なお、本件車両に特段の速度の変化はなかったため、ブレーキペダルの踏み込みは十分ではなかったと見られる。)、そのまま赤色灯火信号表示のH交差点内に進入し、本件運転車両を被害者A、被害者B、被害者C、被害者Dに順次衝突させて当該交差点を通過した。 5 第2事故及び第3事故の状況 被告人は、H交差点を通過した後、アクセルペダルを踏み続け、その状態で本件車両のシフトレバーを「N」から「D」にしたため本件車両を急加速させたほか、その後も、ブレーキペダルを多少踏むことはあったものの、アクセルペダルを踏み続け、本件車両を被害者E運転の原動機付自転車に衝突させた後、直近の歩道柵に衝突させて停止した(第2事故)。 さらに、被告人は、アクセルペダルを踏みこんだままシフトレバーを「R」に変更し、ハンドルを左に切って本件車両を後退急発進させて、被害者Fが運転する普通乗用自動車に衝突させた上(第3事故)、前方に急発進させ、植え込みに本件車両を衝突させて停止した。 第2 O鑑定の内容起訴 ハンドルを左に切って本件車両を後退急発進させて、被害者Fが運転する普通乗用自動車に衝突させた上(第3事故)、前方に急発進させ、植え込みに本件車両を衝突させて停止した。 第2 O鑑定の内容起訴前に精神鑑定を実施したO医師の鑑定結果(書証番号省略)の要旨は、以下のとおりである。 1 被告人の精神障害の有無被告人は、複雑性注意、実行(遂行)機能、学習及び記憶、言語、社会的認知の各領域で明らかな障害が認められる。複雑性注意に関しては、一定時間の注意を維持する持続的注意はある程度保たれている状態であるが、必要ではない刺激を抑制して特定の刺激を選択する選択性注意と、同時に2つ以上の刺激に注意を払い他の情報を意識しながら別の情報を処理する分配性注意が大きく障害されている状態であった。実行機能障害については、簡単な遂行機能課題も実行できておらず、フィードバック/エラーの訂正応答や心的柔軟性が大幅に低下し、作業記憶も保たれていない場合がある状態であった。これらの障害は、本件事故前数年の間に表面化し、その後緩やかに進行してきたと考えられる状態にあった。また、上記の各障害のほか、不注意を起こす確率が高まっていた。 これらの障害の存在や、被告人にその他の精神疾患を示唆する所見もないことなどから、被告人は、認知症にり患していたと診断される。 そして、その他被告人の入院中の各言動等も併せれば、前頭側頭型認知症の診断が妥当である。 2 被告人の精神障害の程度被告人は、入院時の言動等に照らせば、入院時の認知症の重症度は中等度と推察できる。 そして、本件事故時と入院時の重症度は、おおむね同程度か、若干の進行が見られる程度と推察される。 3 前頭側頭型認知症の症状の変動認知症の症状の進行自体は、数か月から数年単位で起こるものであ そして、本件事故時と入院時の重症度は、おおむね同程度か、若干の進行が見られる程度と推察される。 3 前頭側頭型認知症の症状の変動認知症の症状の進行自体は、数か月から数年単位で起こるものである。また、認知症の影響によっても、1日の中で比較的短時間のうちに意識レベル(注意力や記憶力)が変動するということもない。他方で、認知症によって環境変化に脆弱になるため、本人にとって慣れた環境であるか、予想外の刺激が加えられたかどうかといったその場その場の条件に応じて、症状が変動することは一般的に見られる。また、外部的環境によっては、前頭側頭型認知症の症状の一つである不注意を起こす頻度が高くなる可能性がある。 4 本件事故に関する精神疾患の影響運転は、認知・判断・予測・操作の4段階に分けられるところ、第1事故の発生現場における運転動作においては、赤信号であることや歩行者が渡っていることを認知し、車を停止すべきであるという判断をし、ブレーキを踏めば停止すると予測し、ブレーキを踏むという操作をする、という手順の中で問題が生じたと考えられる。 被告人の運転の異常は、第1事故発生現場手前のN交差点を赤信号無視で直進通過したことに始まるところ、認知の段階では、歩行者や信号機などの刺激に対して、適切に注意を向けることが困難になっていたとすれば、複雑性注意の障害が影響していた可能性は否定できない。判断・予測の段階では、特定の刺激に対して車を停止すべきという知識自体は保たれており、停止し なければ歩行者に衝突すること、ブレーキやシフトレバーの操作で車が停止することを予想できる程度の知識・思考力は保持されていたが、速やかな反応・思考の遅れが関与していた可能性は否定できず、認知症による情報処理速度の遅延が影響していた可能性がうかがわれる。操作に が停止することを予想できる程度の知識・思考力は保持されていたが、速やかな反応・思考の遅れが関与していた可能性は否定できず、認知症による情報処理速度の遅延が影響していた可能性がうかがわれる。操作に関しては、アクセルからブレーキへの踏み換えがスムーズにできなかったこと、シフトレバーを操作しようとしてNやDやRに入れ替えていたことが推定されているところ、このような緊急事態時の誤操作は、視覚情報を運動に変換する過程において、エラーの訂正応答や心的柔軟性などを含む遂行機能が障害されていることが影響していると考えられる。ブレーキを踏んだ後もアクセルから足を離せなかったという点に関しては、概念や一つの心構えからの転換が困難となる前頭葉症状である「高次の保続」が影響を及ぼしていた可能性が高い。 まとめると、認知の段階において複雑性注意の障害、判断・予測の段階においては情報処理速度の遅延、操作の段階において遂行機能障害と保続が、第1事故に関わる認知症の症状として挙げられる。 また、本件事故は前記第1の2の事故の翌日であり、慣れていない道で1時間程度迷っている途中であったという外部的環境を考えると、通常の運転時に比して、上記のような症状が強く出現していた可能性が高い。 ただ、本件事故の前日である令和5年3月19日まで、タクシー運転手として、トラブルは有りつつも以前とほぼ変わらない業務成績で営業を続けていた点や、同月9日に2時間以上道に迷っていたことがあったにもかかわらず同様の事故は生じていなかった点を考慮すると、本件事故における不注意を完全に認知症に起因するものとは断定し難い。 以上より、第1事故について、当時被告人がり患していた認知症の運転操作への影響は否定できない。 第3 注意義務の履行可能性の検討 1 判断枠組み 一般に過 するものとは断定し難い。 以上より、第1事故について、当時被告人がり患していた認知症の運転操作への影響は否定できない。 第3 注意義務の履行可能性の検討 1 判断枠組み 一般に過失犯において、被告人に結果発生の回避措置を講ずるべき注意義務(結果回避義務)が認められるためには、その注意義務が現実的に被告人において履行可能なものであること(注意義務の現実性)が必要である。 そして、この履行可能性の有無の判断に当たっては、精神障害の有無やその影響といった行為者の事情も考慮に入れる必要がある。 なお、O医師の鑑定には採用し得ない合理的な事情は見当たらないので、これを前提に検討する。 2 履行可能性の有無上記のとおり、被告人は、本件事故当時、前頭側頭型認知症にり患しており、当該認知症によって、複雑性注意、実行機能、学習及び記憶、言語、社会的認知の各領域で明らかな障害があり、健常者に比べて不注意を起こす頻度も高まっていた。さらに、これらの障害や不注意については、外部的環境や心理状態に応じて表面化する程度が変動する状態にあった。 第1事故についても、歩行者や信号機などの刺激に対して適切に注意を向けられていないことについては複雑性注意の障害が、適切なブレーキ操作ができていないことについては情報処理の遅延、遂行機能障害が影響していた可能性は否定できない。また、本件事故の前日に接触事故を起こしていることや、土地鑑がないため道に迷っていたことなどという外部的環境に照らせば、通常の運転時に比して、上記のような認知症の症状が強く出現していた可能性も否定できない。 しかし、本件注意義務を履行するには、赤色灯火信号表示を認識してブレーキペダルを踏むという操作を行えば足り、それ以上の複雑な操作を要するものでない。そして、当該操作は自動車運 性も否定できない。 しかし、本件注意義務を履行するには、赤色灯火信号表示を認識してブレーキペダルを踏むという操作を行えば足り、それ以上の複雑な操作を要するものでない。そして、当該操作は自動車運転上の最も基本的な運転操作のうちの一つというべきである。 被告人は、自宅から第1事故まで、I工業所及びコンビニエンスストアの2か所で降車した以外は継続して運転しているところ、その間において、第1事 故に先立つN交差点における赤信号無視を除けば、特段の交通違反や異常な運転操作も見られないことからすれば、本件事故当日においても、基本的な運転操作を行うべき能力は備わっていたことがうかがわれる。また、N交差点における赤信号無視は、信号が赤になった直後のものと見られ、運転操作に支障を来していたことをうかがわせるものとはいえない。 むしろ、認知症の症状の進行が数か月から数年単位で起こるものであることや、1日の中で注意力や記憶力などの意識レベルが大きく変動することはなく、また、被告人が本件事故の前日の接触事故においても赤色灯火信号表示に従ってブレーキペダルを踏んで本件車両を停止できていること、本件事故当日も第1事故直前の複数箇所の交差点において、赤色灯火信号表示に従って本件車両を停止できていることなどにも照らせば、被告人が、第1事故当時においても、前日及び第1事故直前と同程度の能力、すなわち、ブレーキペダルを踏んで停止するという基本的な運転操作を行うべき能力を有していたことがうかがわれる。 第1事故の状況についても検討すると、H交差点に至るまでの道路は見通しも良く、前方には赤色灯火信号表示に従って停止中の自動車もあったことからすれば、前方に信号機が存在し、それが赤色灯火信号を表示していることを容易に認識できる状況にあったといえる。そして、被告 見通しも良く、前方には赤色灯火信号表示に従って停止中の自動車もあったことからすれば、前方に信号機が存在し、それが赤色灯火信号を表示していることを容易に認識できる状況にあったといえる。そして、被告人は、H交差点に差し掛かるに際して左車線に車線変更しているところ、当該車線変更自体は複雑な運転操作ではなく、また、当該車線変更地点からH交差点までの距離が極端に短いというわけでもない。そうすると、H交差点で停止するにあたって、通常の運転時に比してより瞬時の判断・操作が必要となるような状況にあったとはいえない。以上のような第1事故の状況に照らせば、認知症による各障害や不注意を特に助長するような事情はないというべきであって、本件事故前日の接触事故や本件事故当日道に迷っていたことなどによって、通常時よりも認知症の症状が強く出現する可能性があったことが否定できないことを踏まえても、ブ レーキペダルを踏んで停止するという基本的な運転操作を行うべき能力すらないことをうかがわせる事情は見当たらないというべきである。 なお、被告人は、普段から、左右の足でブレーキペダルとアクセルペダルを操作し、また停止させる際にはギアをニュートラルに入れるというやや特異な運転操作をしており、本件事故当日もそのような運転操作をしていた。しかし、被告人は、本件事故当日、そのような運転操作によっても複数の交差点で赤色灯火信号表示に従ってブレーキペダルを踏んで停止できていたのであって、上記のような第1事故直前の環境も併せれば、第1事故当時、上記のような運転方法によって、ブレーキペダルを踏んで停止するという基本的な運転操作能力に対する具体的影響があったとは考え難い。 被告人は、第1事故当時、アクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違えたことがうかがわれるが、もとよりこのよう ダルを踏んで停止するという基本的な運転操作能力に対する具体的影響があったとは考え難い。 被告人は、第1事故当時、アクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違えたことがうかがわれるが、もとよりこのような運転操作のミスは認知症その他の精神障害がない者でも十分にあり得るものであり、被告人の認知症の症状によってのみ説明できるものとはいえない。 以上のような本件事故の前日及び当日の運転状況、第1事故の状況等に照らせば、被告人が前頭側頭型認知症にり患していたこと、第1事故当時の運転に当該認知症による障害の影響があったことを十分に踏まえても、第1事故当時、被告人の運転操作を行う能力が一定程度低下していたとしても、その能力が失われていたとはいえない。 なお、検察官は、第2事故以降の結果は、第1事故における過失や第1事故による狼狽によって引き起こされたものであり、第2事故以降について、第1事故における過失とは別の独立した過失を主張しないとしている。この点、被告人が、第2事故、第3事故の時点で、自車を制御できたのであれば、その時点における過失を問題にすべきと考えられるが、本件においては、第1事故以降、被告人は、第1事故による狼狽と認知症の影響により、自車を制御することができない状態に陥っていたと認められる。そして、それを前提とすると、 第1事故における過失と第2事故及び第3事故の結果発生との間には、相当因果関係があり、被告人にその点も含めた過失責任を問うことが可能であると解される。 よって、被告人には、本件注意義務の履行可能性があり、同注意義務違反があると認められる。 (法令の適用)(省略)(量刑の理由)被告人は、赤色灯火信号に従って停止線付近で停止するにあたり、ブレーキを的確に操作して安全に停止するという自動車運転において最 あると認められる。 (法令の適用)(省略)(量刑の理由)被告人は、赤色灯火信号に従って停止線付近で停止するにあたり、ブレーキを的確に操作して安全に停止するという自動車運転において最も基本的かつ重要な注意義務に違反したものであり、一般の運転者を基準としたときの過失の程度としては重大といえる。ただ、被告人が認知症にり患しており、これが本件事故に小さくない影響を及ぼしたといえることから、被告人の過失責任についても一定程度減殺されるというべきである。なお、被告人自身は、認知症の進行により運転を差し控えるべき状態に至っているとの自覚を有していなかったとうかがえるが、それも認知症の影響によるところが大きく、一人暮らしであったことや個人タクシーであったことも、不幸にして運転を続ける要因になったと考えられる。 本件事故によって、青色灯火信号に従って横断歩道を横断していた何ら落ち度のない、2名の被害者の尊い生命が失われ、5名の被害者が傷害を負うという結果は誠に重大である。突如として人生を絶たれた被害者2名の無念さは察するに余りある。最愛の家族を失った被害者の遺族らの心痛は計り知れず、遺族らの処罰感情は非常に厳しい。 これらの事情に加えて、傷害被害者らとの関係で、被告人運転車両に付された任意保険により保険金が支払われて示談が成立したほか、死亡被害者遺族との関係においても今後保険金が支払われる予定であること、被告人には量刑上考慮すべき前科がないことなどの事情もある。 そこで、以上の諸事情を総合考慮し、被告人に対しては主文の禁錮刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑禁錮5年)令和6年9月4日大阪地方裁判所第12刑事部 裁判長裁判官渡部市郎 裁判官青 るのが相当であると判断した。(求刑禁錮5年) 令和6年9月4日 大阪地方裁判所第12刑事部 裁判長 裁判官 渡部市郎 裁判官 青木勇人 裁判官 村田幸生

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