平成30(行コ)121 各シリア難民不認定処分無効確認等,訴えの追加的併合請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年10月25日 東京高等裁判所
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判決文本文13,703 文字)

平成30年10月25日判決言渡平成30年(行コ)第121号各シリア難民不認定処分無効確認等,訴えの追加的併合請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成27年(行ウ)第164号,第595号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人に関する部分を取り消す。 2 処分行政庁が平成25年2月26日付けで控訴人に対してした難民の認定をしない旨の処分を取り消す。 3 処分行政庁は,控訴人を難民と認定せよ。 第2 事案の概要1(1) 本件は,シリア・アラブ共和国の国籍を有する外国人である控訴人が,出入国管理及び難民認定法61条の2第1項に基づき難民認定の申請をしたが,処分行政庁から難民の認定をしない旨の処分を受けたため,被控訴人に対し,同処分の取消しを求めるとともに,難民認定の義務付けを求めた事案である。 (2) 原審は,控訴人が同法2条3号の2所定の難民(以下,単に「難民」という。)に該当するとは認められず,控訴人についてした難民の認定をしない処分は適法であり,難民認定の義務付けを求める訴えは不適法であると認定判断して,控訴人の処分取消請求を棄却し,控訴人の本件訴えのうち難民認定の義務付けを求める部分を却下したので,控訴人がこれを不服として控訴した。 2 関係法令の定め,前提事実は,原判決の「事実及び理由」中の第2の1及び2に摘示するとおりである。争点は,控訴人が難民に該当するか及び義務付けの訴えの適法性及びその当否であり,争点に関する当事者の主張は,次項において,「当審における控訴人の補充主張」を付加するほか,原判決の「事実及び理由」 中の第3の2及び3に摘示するとおりであるから,これを引用する(ただし,1審原告 する当事者の主張は,次項において,「当審における控訴人の補充主張」を付加するほか,原判決の「事実及び理由」 中の第3の2及び3に摘示するとおりであるから,これを引用する(ただし,1審原告Aのみに係る部分を除く。)。なお,特に断らない限り,略称は原判決の例による。 3 当審における控訴人の補充主張(1) シリア及び同国内のクルド地域(以下,単に「クルド地域」という。)の情勢や控訴人に関する個別事情を通常人の立場から見れば,控訴人には,複数のタンシキーヤに所属して反政府デモを積極的に呼び掛けていたという政治的意見を理由に,本国において逮捕,拘束,拷問等の迫害を受ける恐怖を抱くような客観的な事情があるものであり,控訴人は難民に該当する。 原判決は,シリア及びクルド地域の情勢に関する検討,控訴人の個別事情の認定,控訴人の難民該当性の判断において,事実誤認ないし検討の誤りがある。 (2) 原判決には,クルド地域において2012年(平成24年)以降シリア政府とPYDとの間で連携が行われるようになったことが反政府活動に対する弾圧の強化をもたらしたという経緯を看過した点で事実誤認がある。出身国情報に関する原判決の分析は,分析の意義を理解せず,質的基準を充足しないものとなっており,その結論も,デモ参加者に対する政府側の弾圧の実態から目を背け,一外交官の見解に偏ったものであり,UNHCRの示す保護の必要性に関する判断をあえて無視している。原判決が主に依拠する元在シリア大使国枝昌樹の著書(乙全75。以下,単に「乙全75」という。)は,①関連性についてシリア政府の人権侵害状況を論じたものでなく,②公平な第三者ないし専門家ではなく,信頼性・バランスに疑義があり,③同人の活動範囲は基本的に安全な場所に限られ,時期も反政府運動が本格化す 連性についてシリア政府の人権侵害状況を論じたものでなく,②公平な第三者ないし専門家ではなく,信頼性・バランスに疑義があり,③同人の活動範囲は基本的に安全な場所に限られ,時期も反政府運動が本格化する前の2010年までに限られ,正確性や最新性についても問題があり,④政府側の独自の情報源に依拠するなど透明性・トレーサビリティにも問題があるものであって,出身国情報の質的基準を充たさないし,シリア政府が平和的なデモを弾圧することはなかった旨を述べているものではなく,そのような弾圧については意図的に記載され ていないものである。 (3) 「C」と称する部族(以下「本件部族」という。)を始めとするクルド民族の部族は,クルド地域において政治的・社会的に重要な影響力を有していたものであり,控訴人が本件部族の部族長の家系に属する者でありながら積極的に反政府活動に参加していたことは,マリキヤ及びその周辺のクルド地域の反政府運動において,動員力をはじめとして重要な影響力を与えていたものとみるべきである。 治安部隊が2012年(平成24年)7月15日に控訴人の自宅を訪れて控訴人の母を殴って居場所を聞いた旨の控訴人の供述は,クルド地域の情勢とよく符合するものであるし,控訴人が同年8月31日に成田空港に到着した直後から,供述内容は首尾一貫しており,十分に信用できるものである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人が難民に該当するとは認められず,控訴人についてした難民の認定をしない処分は適法であり,難民認定の義務付けを求める訴えは不適法であると判断する。その理由は,次項において「当審における控訴人の補充主張に対する判断」を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第4の2ないし6,9に説示するとおりであるから,これを引用する。 あると判断する。その理由は,次項において「当審における控訴人の補充主張に対する判断」を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第4の2ないし6,9に説示するとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断(1) シリア及びクルド地域の情勢等についてア控訴人は,前記のとおり,原判決の情報分析が不当であり,シリア及びクルド地域の情勢について原判決には事実誤認ないし検討の誤りがある旨主張する。そして,控訴人が当審で提出する控訴人作成の陳述書(甲ハ12)には,「2012年夏頃から,シリア政府(アサド政権)は,クルド地域における治安部隊を撤退させて,クルドの政党であるPYDが統治をするようになりました。」との記載部分があり,控訴人の提出するD教授の著書(甲全64)には,「クルド人が多く暮らす同地域〔シリア北東部〕では,反体制運動 に対して主に二つの対照的な姿勢が見られていた。第一に,トルコから敵視されるようになったB・アサド政権と戦略的に連携しようとする動きであり,国内で最大勢力を誇るクルド民族主義政党でPKK(クルディスタン労働者党)に近い民主連合党がこれを主導,二〇一一年一二月,西クルディスタン人民議会なる自治組織を発足させ,反体制デモの弾圧などにあたった。第二に,体制転換を通じてクルド人の権利向上をめざそうとする動きであり,シリア・クルド国民評議会がこれを推し進めた。」「民主連合党とシリア・クルド国民評議会は,反体制運動への対応をめぐって当初は真っ向から対立していたが,〔2012年〕七月,イラク・クルディスタン自治政府の仲介のもと,クルド最高委員会を結成し,共同歩調をとるようになった。」「そしてこれ以降,これらの都市におけるクルド人の自治は強化され,反体制デモは規制の対象と 七月,イラク・クルディスタン自治政府の仲介のもと,クルド最高委員会を結成し,共同歩調をとるようになった。」「そしてこれ以降,これらの都市におけるクルド人の自治は強化され,反体制デモは規制の対象となったのである。」などの記述がある(同書129頁から130頁まで)。また,同教授の意見書(甲ハ13)にも,「2012年7月以降,アサド政権がアフリーン市やアイン・アラブ市,アームーダー市から軍や治安当局を撤退させる一方,PYDがこれらの地域の実効的な支配を開始するようになり,反体制デモはさらに規制の対象とされるようになります」との記述がある。さらに,証拠中には,「PYDとシリア政府の間で調整が行われ,それにより両者が互いの活動を容認しているようである。シリア政府は地域における治安および行政主体のほとんどをPYDに委譲したが,国の給与は未だ支払っている。ハサカ行政地区における主要都市であるカーミシュリーでは,トルコとの国境地帯や空港や都市中心部といった治安当局が置かれている場所にはシリア政府軍が残留している。都市の残りの部分についてはPYD部隊が支配している。」(ヒューマンライツウォッチ,2014年(平成26年)6月〔甲全35〕),「報道によれば,2012年7月,シリア軍がクルド人の複数の町から撤退し,政府からPYDに支配を委譲したと報じられているが(AFP(2012年7月27日):BBC(2012年7月27日)), BBCによれば,シリア軍はPYDの支配下にある一定数の町での駐屯を維持していると報じられている(同)。これらの町からのシリア軍の撤退は,PYDと政権との合意によるものであると見なされている(同:AFP(2012年7月27日))。」(カナダ移民難民局,2012年(平成24年)8月〔甲全57〕)等の記述がある。 イ 撤退は,PYDと政権との合意によるものであると見なされている(同:AFP(2012年7月27日))。」(カナダ移民難民局,2012年(平成24年)8月〔甲全57〕)等の記述がある。 イしかし,前記D教授の意見書(甲ハ13)によっても,2012年(平成24年)7月以降に反体制デモを規制した主体はPYDであるとの見解が示されているというべきであるところ(甲ハ13の4頁9行目には「このようなPYDによる弾圧」と記されている。),前記著書(甲全64)によっても,「この大同団結〔クルド最高委員会の結成〕の真意はいまだ明確ではない。 だが,委員会結成の直後,イラクに避難していたクルド人離反兵約六〇〇人がペシュメルガ(民兵)としてシリア領内に戻ったとの情報が流れ,またB・アサド政権がアレッポ県のアフリーン市とアイン・アラブ市,ハサカ県のアームーダー市から軍・治安部隊を撤退させるという奇妙な行動に出た。」「クルド最高委員会の結成は,武装集団との戦闘と欧米諸国の制裁によって消耗し,主要大都市や北西部での実効支配維持に集中したいB・アサド政権と,いまだ体制転換後の方針を定めることができない無能な反体制勢力の対立のなかで,「漁夫の利」を得ようとするクルド民族主義政党の高度な政治判断の結果だった。彼らは,シリアの紛争のなかで第三極を形成することで,自らが「西クルディスタン」と呼ぶ地域の自治を既成事実化し,紛争後を見据えたかたちで政治的プレゼンスを獲得しようとしているのである。」等の記述があり(同書130頁),このような見解が同教授の評価・推測を含むものである可能性は否定できない。これを措くとしても,例えば「PYDはシリア政権への明確な反対と自由シリア軍の自国領土への侵入から予防の間の微妙なバランスを確立している。彼らは反体制派の調整委員会を主宰し ある可能性は否定できない。これを措くとしても,例えば「PYDはシリア政権への明確な反対と自由シリア軍の自国領土への侵入から予防の間の微妙なバランスを確立している。彼らは反体制派の調整委員会を主宰し,それに参加し,軍事作戦を調節するが,彼らはまた,シリア軍や政権の治安 部隊との衝突を避けている。一方,PYDは,政権の派閥と戦うため戦場に自分のエリアを回すか,シリアに,トルコカタールとサウジアラビアの武器を転送する経路としての領域を使用することにより自由シリア軍を維持している。」(英国内務省のシリア出身国情報レポート,2012年(平成24年)8月〔甲全1,64頁〕)等の記載を併せ考慮すると,PYDは,当時においても,シリア政府とは異なる独立した組織とみられるのであって,PYDによってクルド人を含む反体制デモの関係者に対する抑圧というべき行為等がされるとしても,クルド民族主義政党でありクルド人の政党であるPYDによる行為がシリア政府による行為と同視されるというべき事情があったとは認められないし,そのようなPYDの行為自体をシリア政府が積極的に利用する方針であったという事情を認めるに足りる証拠もない(D教授の前記著書も,前記のとおり,クルド民族主義政党の政治判断であるとされ,「第三極」「クルド人の自治」といった記述がされているし,同著書の記述自体も,アサド政権による軍・治安部隊の撤退の事実と,反体制デモが規制の対象となった事実との関係性の断定は慎重に避けられている。なお,前記ヒューマンライツウォッチの情報(甲全35)には,「〔シリア政府は〕2012年には,カーミシュリーおよびその周辺の戦略的に重要な地域を例外として,アフリン,アイン・アル・アラブ,ジャジラから数か月をかけて治安部隊を撤退させており,クルド民族と敵対行為を開始するこ 2年には,カーミシュリーおよびその周辺の戦略的に重要な地域を例外として,アフリン,アイン・アル・アラブ,ジャジラから数か月をかけて治安部隊を撤退させており,クルド民族と敵対行為を開始することを望まないことが明らかであった。」等の記載もある。)。また,控訴人の陳述書の前記記載部分は,他の証拠を超える根拠を有する陳述であるとは認められない。 ウ控訴人は,いわゆる出身国情報のあるべき分析方法を主張し,乙全75に対する原判決の分析評価を不当とするところ,出身国情報の調査研修マニュアル2013年版(甲全77,85。「国際的保護の必要性に関する判断は,情報源の政治的およびイデオロギー的文脈およびその任務,レポート方法や動機を検討した上で,信頼性のある情報源からのCOIに基づいて行われる べきである。」〔43頁〕,「COI調査においては,情報源が特定の問題について報告することの全体的な目的について認識することが重要である。」「人権に関する報告は,単に情報を知らせる目的のみで行われることもあれば,情報源に他の動機がある場合もある。このような動機は,ある政府を支持すること,或いは逆にある政府を害すること,人権侵害の阻止または被害者保護のためにとられた措置を擁護すること,ある特定の政府または資金提供者に対して資金の割り当てを求めること,一般的な意識を高めること,または決定権者に情報を提供すること等,多様なものがありうる。」「その情報源が一般市民,政府,政策決定者,資金提供者,人権活動家,国連委員会,裁判所,決定権者,その他のターゲットグループのいずれのために報告しているのかを見極めよう。」〔91頁〕等の記載がある。),前記D教授の著書(甲全64。「このような事実確認を欠いた「垂れ流し」報道が意図的に行われていたかどうかは検証を ループのいずれのために報告しているのかを見極めよう。」〔91頁〕等の記載がある。),前記D教授の著書(甲全64。「このような事実確認を欠いた「垂れ流し」報道が意図的に行われていたかどうかは検証を要するが,「アラブの春」を報道する衛星テレビ放送局のスタッフには,「政権を交代させるという明確な意図をもって報道した」,「放送の中立を守ることも大事であるが,それよりも人々が望むことを放送することがジャーナリストの責務である」という,ジャーナリズムを逸脱した姿勢を持つ者がいたことは知られているところである」「こうした過剰報道に乗じて,「調整」〔タンシキーヤ〕とB・アサド政権は「メディア戦争」などと呼ばれる情報合戦を繰り広げた。」〔85頁〕等の記載がある。),同教授のウェブサイト記事(甲全66。「ダマスカス県では,複数の反体制活動家によると,治安部隊がカフルスーサー地区に対して迫撃砲で「初めて」攻撃を加えた。ロイター(7月12日付)が伝えた。迫撃砲による攻撃が「初めて」だとすると,これまで砲撃を受けてきたとの反体制活動家の発言がウソだったことになる。」等の記載がある。)等の指摘を参照するまでもなく,シリア国内の紛争等の状況に関する情報の評価・採否に際しては,その事柄の性質上,訴訟手続においても,情報内容の具体性・迫真性等はもとより,情 報の取得・記銘,保持,表現,伝聞性等の観点から,また,情報発信者の利害関係の有無・内容,立場・方針,情報合戦という面からの歪みのおそれ等の観点から,極めて慎重な検討を要するものというべきである。しかし,乙全75は,その記述内容が相当程度に具体的であるほか,平成18年に在シリア特命全権大使に就任した著者が,氏名を明らかにした上で公刊したものであり,その経歴等に照らしても,記述対象を直接に見聞し,又は記述対 は,その記述内容が相当程度に具体的であるほか,平成18年に在シリア特命全権大使に就任した著者が,氏名を明らかにした上で公刊したものであり,その経歴等に照らしても,記述対象を直接に見聞し,又は記述対象に係る情報源と相当に近い立場にあったものとうかがわれること,記述内容自体からも自らの立場を明らかにしつつ客観性を維持しようとする姿勢が見られること等の諸事情が認められるところであり,原判決がこれを判断の一資料に供したことにつき不当な点は見当たらず,その検討は是認することができる。 他方で,シリアないしクルド地域の情勢に関して控訴人が当審において提出した証拠(甲全66,68ないし76,84)は,記述対象が抽象的であり,又は信用性等を判断するための資料等にも乏しく,このような紛争地域の正確な情報の収集には困難が伴うことなどを考慮しても,また,原審において取り調べられた証拠と総合しても,控訴人がシリアを出国した当時ないし前後のシリア及びクルド地域の情勢において,反政府デモないし抗議活動に参加していた者又はクルド人である者が,そのことのみを理由に,政治的意見等を理由とする迫害を受けるおそれのあるものとして,難民に該当すると認めるべき状況にあるとはいえず,依然として,控訴人の難民該当性は,控訴人に係る個別の具体的事情をも検討した上で総合的に判断しなければならないというべきであり,これと同旨である原判決の判示は是認することができる。この点に関する控訴人の主張は採用することができない。 (2) 控訴人に係る個別事情ないし控訴人の供述についてア控訴人は,原審本人尋問において,概要,以下のような供述をする(内容が間違いないと供述する陳述書〔甲ハ2〕の記載を含む。)。 控訴人は,有名な血縁集団である本件部族の長 ア控訴人は,原審本人尋問において,概要,以下のような供述をする(内容が間違いないと供述する陳述書〔甲ハ2〕の記載を含む。)。 控訴人は,有名な血縁集団である本件部族の長の家系であるところ,2012年(平成24年)1月1日ころからマリキヤ周辺でのデモに週2回位参加するようになり,民主的な国家や自由を求め,現政権の打倒や新政府樹立を訴え,同年5月ころにカーミシュリーのデモにおいてシリア体制側の治安部隊が発砲し,2歳位の少女を連れた両親が死亡する場面を見て,複数のタンシキーヤのメンバーとなって積極的に反政府デモに参加するようになった。控訴人は,人々をデモに勧誘して連れて行ったり,デモのガイドをしたり,ビラを撒くなどの特別な役割を果たしており,本件部族の部族長の家系であるため,知人も多く,多くの人を効果的にデモに動員した。控訴人が反政府デモに参加していたため,同年7月15日ころ,治安部隊が控訴人の自宅に来て,控訴人の母を殴り,控訴人の居場所を尋ねた。控訴人は,その時,自宅におらず,買い物の後に自宅に戻る途中であり,パン屋の客である知人(以下,単に「知人」という。)から,治安部隊が来ているから帰らない方がよい旨忠告を受けた。控訴人は,治安部隊に捕まると,デモに二度と参加しないように拷問を受けたり,殺されたりすると聞いており,自宅に治安部隊が来たということは逮捕状が出たということであると思い,捕まれば殺されてしまうと思ったので,その後一度も自宅に戻らず,イギリスに向けて出国した。 イまた,控訴人が当審で提出する控訴人の陳述書(甲ハ12)には,知人の情報によれば控訴人の自宅を訪問した治安部隊は私服を着用していたとのことであるので,警察と諜報機関の両方の性格を併せ持った政治犯罪を担当する機関(公安警察に似たも 人の陳述書(甲ハ12)には,知人の情報によれば控訴人の自宅を訪問した治安部隊は私服を着用していたとのことであるので,警察と諜報機関の両方の性格を併せ持った政治犯罪を担当する機関(公安警察に似たもの)であったと考えられること,マリキヤにPYDが入ってきたのは控訴人が逃げた2012年(平成24年)7月15日の後のことであるから,自宅を訪問してきた者はシリア政府の者に間違いないことなどの記載部分がある。 ウそこで,控訴人の主張を踏まえ,改めて検討するに,控訴人は,本件部族 が,イラクとシリアでは有名な部族であり,土地を所有し,裕福で,かつてはイラク・シリアの一部を支配していたこともあって,部族長は地域の指導者的役割を果たしており,紛争を解決することもあるなどと供述し(甲ハ2),本件部族の家系図(甲ハ4)を提出し,シリアに関する文献(平成23年12月25日発行のもの。甲ハ8)には「反体制運動の担い手たちは,部族に対しては動員力に期待して扇動を行う一方,部族の政治力が顕在化することを嫌う,という二律背反的態度をとっている」といった記述部分がある。しかし,同文献には,「一方,クルド諸部族については,現時点ではクルド問題や,クルド民族主義政党の活動で部族的背景を前面に出している活動家や団体は見当たらない。」「2011年にシリアで反体制運動が勃発して以降も,B.アサド政権と部族との関係や,部族政党のような集団が生まれる可能性については大きな変化があるようには思われない。」等の記述もあり,前記の動員力に係る部族の中にクルド諸部族を含む文脈・趣旨であるかは不明確であるし,仮にこれを含む趣旨であるとしても,実際に部族にどの程度の動員力があるというのかは全く判然としない。本件各証拠を精査・検討しても,本件部族が平成24年当時にどのよう ・趣旨であるかは不明確であるし,仮にこれを含む趣旨であるとしても,実際に部族にどの程度の動員力があるというのかは全く判然としない。本件各証拠を精査・検討しても,本件部族が平成24年当時にどのような内容の,どの程度の影響力を有していたのかは明らかでなく,本件部族の部族長が有していた影響力の存否・内容も明らかでないし,部族長の甥であるという控訴人が影響力を有していたのかどうか,またその影響力の内容・程度についても不明であるというほかない(例えば,乙ハ19によれば,控訴人が参加したデモには控訴人のいとこも参加していたというのであるが,その供述によっても,控訴人がいとこに参加を呼び掛けたとか,動員を図ったといった経緯は全くうかがわれない。)。また,控訴人は,原審本人尋問において,本件部族がシリア政府と対立の関係にある旨供述し,当審において提出する陳述書(甲ハ12)には,2011年(平成23年)以降,アサド政権が各地の部族長をダマスカスに集めて今後の対応を協議したことがあったが,本件部族の部族長は呼び掛け に応じず,協議に出席しなかったため,これが契機となって,本件部族とアサド政権との関係が悪化した旨の記載部分があるが,その供述内容によっても,関係の対立・悪化を示す具体的事情はなく,いかなる具体的事実をもって関係が悪化したと評価するのかが全く明らかでない上,控訴人は,平成25年1月11日には難民調査官に対して本件部族とシリア政府とが対立関係にない旨述べていたことが認められるところであり(乙ハ15),この点に関する控訴人の供述を採用することはできない。控訴人は,原審本人尋問において,祖父が当局に拘束されたことがあるし,それ以前にも本件部族に属する人々が投獄されて殺害されたこともある旨供述するが(原審本人尋問,乙ハ15),その時期, はできない。控訴人は,原審本人尋問において,祖父が当局に拘束されたことがあるし,それ以前にも本件部族に属する人々が投獄されて殺害されたこともある旨供述するが(原審本人尋問,乙ハ15),その時期,身柄拘束の理由や経緯,殺害されたという経緯や態様等は全く具体性がなく,シリア政府が本件部族の構成員であることを理由として攻撃・抑圧等の行為をしていたといった事情を認めるには足りない。 エ控訴人は,前記のとおり,複数のタンシキーヤに所属して特別な役割を果たしていた旨供述するが,その供述によっても,タンシキーヤに所属するに際して何らかの具体的な手続・行為等をしたのではないといい,控訴人がそのメンバーであることの資料はなく,担っていた役割は,デモへの呼び掛けや参加者の案内をするほか,マリキヤの人々がデモに参加するために金を提供してバスを借りる程度というのであり,特に重要な役割を果たしていたとか,第三者には重要な役割を果たしているようにみえる行為等をしていたとは認め難い。また,控訴人は,控訴人が所属するタンシキーヤのリーダーであったEという人物が拘束され,又は行方不明になったことを聞き,控訴人が我が国に来てからは,同人物が殺害されたと聞いた旨供述するが,その殺された理由や態様については,本人尋問において重ねて質問されているにもかかわらず,「いろんな人からいろんなことを聞きました。最も大きな理由は,デモに参加したということだと思います。」といった程度の説明であるから,真に同人物がデモに参加したことを理由としてシリア政府に恣意的に 身柄を拘束されて殺害されたとの事実を認定することはできない。 オ控訴人は,自分がシリア政府から指名手配されていると供述し,その根拠として,Fという名のブローカー(以下,単に「ブローカー」という。)が されて殺害されたとの事実を認定することはできない。 オ控訴人は,自分がシリア政府から指名手配されていると供述し,その根拠として,Fという名のブローカー(以下,単に「ブローカー」という。)が,控訴人と行動を共にしていた人々に対して控訴人が指名手配されている旨を話し,その人々が控訴人の兄弟に伝え,控訴人は兄弟からその旨を聞いた旨供述する。しかし,控訴人の供述によっても,控訴人が指名手配されているとの事実は伝聞を重ねている点で相当に不確実であり,ブローカーが誰からどのような情報を得たのか,その情報源にはどの程度の信頼性があるのか等は全く明らかでないし,ブローカーが,控訴人に対して,指名手配されているから政府に対して賄賂を払うことが必要である旨言い,控訴人がブローカーに対して5000米ドルを渡したというのであり,また,そのブローカーは控訴人をイギリスに連れていくと説明して控訴人の旅券と航空券を預かったのに,控訴人に対して旅券等を返すことなく行方をくらまして控訴人を騙したというのであって(乙ハ5,13等),ブローカーが金銭を取得するためにシリア政府による指名手配との虚構の事実の旨を述べたという疑いを払拭できず,以上のような控訴人供述によっては控訴人がシリア政府から指名手配されていたとの事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。 カ控訴人は,前記のとおり,2012年(平成24年)7月15日ころに治安部隊が控訴人の自宅に来て,控訴人の母を殴り,控訴人の居場所を尋ねた旨,これは控訴人の逮捕状が発付されたことによるものと考えられる旨供述する。しかし,同年当時のシリア及びクルド地域の情勢に関する控訴人の主張は,前記のとおり,必ずしもこれを前提とすることができないし,本件部族に関する控訴人の影響力の存否,タンシキー 考えられる旨供述する。しかし,同年当時のシリア及びクルド地域の情勢に関する控訴人の主張は,前記のとおり,必ずしもこれを前提とすることができないし,本件部族に関する控訴人の影響力の存否,タンシキーヤにおける役割,控訴人が指名手配されているとの事実等については,控訴人の主張供述をにわかに採用することができないことも前述のとおりである。また,控訴人の母が治安部 隊に殴られたという点は,控訴人が直接に見聞したのではなく,知人から伝え聞いたというのであるところ,知人が具体的にどのような状況を見聞したというのであるのかは判然とせず,知人からも治安部隊が自宅に来た理由等を聞いていないというのであるし,本件各証拠中の控訴人の供述(入国審査官や難民調査官等による調査段階における供述を含む。)においても,控訴人の母から直接に聞いた説明内容は見当たらず,控訴人の母自身の供述は伝聞供述を含めて見当たらない(控訴人は,我が国に上陸した後も,家族とは電話により頻繁に連絡を取り合っていたことがうかがわれる。〔乙ハ19〕)。 控訴人は,逮捕状が発付されていると考える根拠として,自宅に治安部隊が来たことや(本人尋問),シリアの政治制度に反対する平和的デモに参加したこと(乙ハ11),自分が本件部族の一員であること(乙ハ19)を挙げるが,本件各証拠を精査しても,控訴人に対する逮捕状を見た者は見当たらず,控訴人の供述によっても,自宅に来た人物の所属や立場は推測を重ねた結果にすぎないといわざるを得ない。さらに,逮捕状が発付されたという具体的な理由(被疑事実等)については,これを推測させる事情はないというべきであり,逮捕状の発付に相応の理由があるのかどうか,恣意的な発付であるのかについても全く明らかでない。 キ以上の諸検討のほか,控訴人は平成24年1月ころ これを推測させる事情はないというべきであり,逮捕状の発付に相応の理由があるのかどうか,恣意的な発付であるのかについても全く明らかでない。 キ以上の諸検討のほか,控訴人は平成24年1月ころから反政府デモに参加していたというのであるが,同年8月のシリア出国までの間に一度も身柄を拘束され,又は事情聴取を受けたことがないと認められること(乙ハ11),シリア国内において控訴人の家族が治安部隊等から事情聴取を受けた等の事情も見当たらず(乙ハ15参照),控訴人の妻子は平成25年7月にシリア政府から有効な旅券の発給を受けていること(乙ハ21ないし23),控訴人は,平成24年10月に作成・提出した難民認定申請書(乙ハ11)には,シリアに帰国すれば直ちに絞首刑になるであろう,なぜならシリア政府により控訴人を絞首刑にする命令が発せられているからである旨記載し,そ の後,原審本人尋問においては,控訴人を懲役刑に処する旨の判決書が自宅のポストに投函されていたとし,その判決書は控訴人の手元に有していると供述しながら,当審口頭弁論終結までの間に当該判決書の提出がなく,控訴人の供述する不提出の理由は不自然不合理であるといわざるを得ず,控訴人が,その主観的な思いとは別に,客観的事実をありのままに述べようとするものであるかには疑問があること等の諸事情をも併せ考慮すると,控訴人の個別事情に係る控訴人の供述のうち主要な部分について信用性を肯定することはできず,これを採用することはできない。 なお,控訴人は,控訴人がシリア革命の旗とクルドの旗を両袖に付けて反政府デモに参加していた状況がタンシキーヤのSNSを通じて公表されていたと主張し,これに関する証拠(甲ハ10)を提出するが,提出に係る画像は,短時間,多数の群衆を撮影したものであり,控訴人で けて反政府デモに参加していた状況がタンシキーヤのSNSを通じて公表されていたと主張し,これに関する証拠(甲ハ10)を提出するが,提出に係る画像は,短時間,多数の群衆を撮影したものであり,控訴人であるとされる人物が控訴人本人であると特定することすら困難なものであり,当該人物の氏名等も明らかとなっていないものであって,当該動画等の公表により,シリア政府が控訴人を迫害等の対象とするものとも認め難く,上記認定判断を左右するものではない。 (3) 難民該当性について以上のシリア及びクルド地域の情勢の検討及び控訴人の個別事情に係る検討のほか,原審の説示する諸事情を総合すると,控訴人について,人種,特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するというべき客観的事情があるとは認められず,難民に該当すると認めることはできない。 これと同旨の原判決は是認することができ,控訴人の主張は採用することができない。 第4 結論以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却 することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第24民事部 裁判長裁判官村田渉 裁判官一木文智 裁判官清藤健一は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官村田渉(別紙省略) 申し訳ありませんが、整形するテキストが提供されていないようです。もう一度テキストを送信してください。

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