- 1 - 主文 1 控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人A1、控訴人A2、控訴人A3、控訴人A4、控訴人A5、控訴人A6、控訴人A7、控訴人A8、控訴人A9、控訴人A10、控訴人A11、控訴人A12、控訴人A13、控訴人A14、控訴人A15、控訴人A16、控訴人A17、控訴人A18、控訴人A19、控訴人A20、控訴 人A21、控訴人A22、控訴人A23、控訴人A24、控訴人A25及び控訴人A26に対し、各10万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人A27及び控訴人A28に対し、各2万5000円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員 を支払え。 4 被控訴人は、控訴人A29に対し、3万3334円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は、差戻前の第1、2審及び差戻後の第1、2審を通じて、被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は、控訴人らが、①内閣が平成26年7月1日に「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する基本方針を閣議決定したこと、②内閣が平成27年5月14日に「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」 (平成27年法律第76号)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実 - 2 -施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関す の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」 (平成27年法律第76号)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実 - 2 -施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(平成27年法律第77号。以下、両法律を併せて「平和安全法制関連2法」という。)に係る法律案を閣議決定したこと、③内閣が平成27年5月15日に平和安全法制関連2法に係る法律案を国会に提出したこと、④国会が当該法律案を可決したこと(以下、これらの行為を併せて「本件立法等行為」という。)によって、 ⓐ平和的生存権、ⓑ人格権又は人格的利益、ⓒ憲法改正・決定権を侵害され、精神的苦痛を被ったと主張して、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料各10万円(ただし、亡Bの訴訟承継人である控訴人A27及び控訴人A28については各2万5000円、亡Cの訴訟承継人である控訴人A29については3万3334円)及びこれに対する平和安全法制関連2法の成立 日である平成27年9月19日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが、自身の敗訴部分を不服としてそれぞれ控訴した(第一審原告らのうちD並びに亡B訴訟承 継人E及び同Fは控訴をしなかったから、原判決中、同人らに関する部分は確定した。また、亡Cは控訴提起後に死亡したが、同人の訴訟承継人のうちG及びHは控訴を取り下げた。)。なお、原審は差戻後の第一審であるところ、差戻前の第一審から原審までの経緯は、差戻前第一審が、差戻前第一審原告らが主張する権利又は利益の侵害は認められないとして、差戻前第一審原告らの請 求をいずれも棄却したため、差戻前第一審原告ら 差戻前の第一審から原審までの経緯は、差戻前第一審が、差戻前第一審原告らが主張する権利又は利益の侵害は認められないとして、差戻前第一審原告らの請 求をいずれも棄却したため、差戻前第一審原告らのうち3名を除く者が控訴したところ、差戻前控訴審が、差戻前第一審の判決の手続が法律に違反したとして(民訴法306条)、差戻前第一審判決を取り消した上で、原審に差し戻したというものである。 2 前提事実、争点及び当事者の主張は、後記3のとおり当審における控訴人ら の主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」 - 3 -の1から3までに記載のとおりであるから、これを引用する。 3 当審における控訴人らの主張⑴ 本件は裁判所による積極的な憲法判断が必要な事案であること国の一連の行為の出発点となる憲法解釈の変更に明白な違憲性が認められ、その結果、一旦政府が具体的な行為をとるならば控訴人らを含む多くの国民 に膨大で甚大かつ不可逆的な被害が発生する危険性がある場合には、そうした結果の発生を確実に予測し得ない場合であっても、予防=事前配慮原則に則り、国家賠償法1条1項における違法性を認定すべき十分な理由がある。 本件においては、平成26年における政府の憲法解釈変更の結果として、政府がいかなる場合に自衛権行使を行うかが曖昧模糊とした不確実性を帯び るものとなった。自衛権行使の発動基準全体が漠然性の瑕疵を帯びるに至ったために結果発生が不確実となった場合には、予防=事前配慮原則に則して、具体的危険性の発生を待つことなく、出発点となる発動基準の違憲性を正面から問題とし、新安保法制法のうち当該発動基準を取り込んでいる部分の違憲性を指摘することで、数多くの国民の生命・財産が深刻な危険にさらされ るリスク となく、出発点となる発動基準の違憲性を正面から問題とし、新安保法制法のうち当該発動基準を取り込んでいる部分の違憲性を指摘することで、数多くの国民の生命・財産が深刻な危険にさらされ るリスクを根源から除去し、政治権力の恣意的な運用を阻止するという最低限の意味での立憲主義を回復することが司法には求められている。 ⑵ 平和的生存権について日本国憲法制定に至る歴史的経緯、憲法前文第1段の内容、そしてこれを受けてあえて第3章に先行する第2章に9条を配置した憲法の規定構造を全 て考え合わせれば、日本国憲法における「平和」の意味は明らかであり、かかる意味の「平和」的に生存する権利は、当然に個人の人格的生存に不可欠である。このように幸福追求権の一内容として捉えられる平和的生存権についてその具体的権利性を否定する余地などない。 ⑶ 人格権又は人格的利益について 控訴人らの主張する人格権又は人格的利益、すなわち、①戦後約70年も - 4 -の間、憲法9条の下で平和国家として存立してきた我が国の国民であることの名誉や尊厳、②我が国が戦争の当事者となる危険性あるいは我が国が他国からの武力攻撃やテロ行為の標的となる危険性に対する不安や恐怖を抱くことなく平穏な生活を送ること、③控訴人らのうち法研究や法教育を職業とする者の研究者又は教育者としての憲法の原理や解釈に対する理念は、いずれ も控訴人らの人格的生存に不可欠なものであり、全国各地で本件と同様の集団訴訟が多数提起されたことからも明らかなとおり、我が国の国民の普遍的な価値観に基づくものであるから、人格権又は人格的利益として法的保護を受けるべきものである。 ⑷ 憲法改正・決定権について 憲法改正・決定権は、憲法改正時に、改正に関する意見を表明した上で、国民投票で投 ものであるから、人格権又は人格的利益として法的保護を受けるべきものである。 ⑷ 憲法改正・決定権について 憲法改正・決定権は、憲法改正時に、改正に関する意見を表明した上で、国民投票で投票する権利として、国民の1人1人に個別に保障されている具体的権利である。この憲法改正・決定権は、憲法の条文自体が変更される場合だけでなく、「実質的な憲法改正」がされる場合、すなわち、政府の解釈変更により憲法規範の明白な変更がなされ、かかる変更が重大である場合に も、具体的権利として認められる。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原審と同様に、本件立法等行為によって、国家賠償法1条1項の請求を基礎付ける控訴人らの権利又は法律上保護される利益が侵害されたとは認められないから、控訴人らの請求はいずれも理由がなく棄却するのが相当 と判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、後記2のとおり当審における控訴人らの主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決25頁12行目から26頁3行目までを削る。 ⑵ 原判決26頁18行目から19行目までの「危険性という不確かな概念を - 5 -対象として」を「危険性がどれほど具体的なものであるかとは無関係に」に改める。 ⑶ 原判決26頁24行目の「また、」から27頁3行目の末尾までを削る。 ⑷ 原判決27頁12行目の「平和安全法制関連2法」から20行目の「措くとしても、」までを削り、22行目の「概念であるほか、」を「概念であ る。」に改め、23行目から28頁6行目までを削る。 2 当審における控訴人らの主張に対する判断⑴ 憲法判断の必要性について控訴人らは 削り、22行目の「概念であるほか、」を「概念であ る。」に改め、23行目から28頁6行目までを削る。 2 当審における控訴人らの主張に対する判断⑴ 憲法判断の必要性について控訴人らは、国の一連の行為の出発点となる憲法解釈の変更に明白な違憲性が認められる結果、一旦政府が具体的な行為をとるならば控訴人らを含む 多くの国民に膨大で甚大かつ不可逆的な被害が発生する危険性がある場合には、そうした結果の発生を確実に予測し得ない場合であっても、予防=事前配慮原則に則り、国家賠償法1条1項における違法性を認定すべき十分な理由があると主張し、その上で、本件は、平成26年における政府の憲法解釈変更の結果として自衛権行使の発動基準全体が漠然性の瑕疵を帯びるに至っ たために結果発生が不確実となった場合であるから、予防=事前配慮原則に則して、具体的危険性の発生を待つことなく、出発点となる発動基準の違憲性を正面から問題とし、新安保法制法のうち当該発動基準を取り込んでいる部分の違憲性を指摘することで、数多くの国民の生命・財産が深刻な危険にさらされるリスクを根源から除去し、政治権力の恣意的な運用を阻止すると いう最低限の意味での立憲主義を回復することが司法には求められている旨主張する。 しかし、本件は、控訴人ら各人が、それぞれ本件立法等行為により自身が被った精神的損害に対する金銭賠償を求めている事案である。控訴人ら各人に被害が発生することを確実には予測することができず、控訴人ら各人に被 害が発生する具体的危険性も存在しないにもかかわらず、本件立法等行為に - 6 -よる控訴人ら各人の精神的損害の発生を認定して、控訴人ら各人に対する金銭賠償を認める理由はない。 本件立法等行為について、控訴人ら各人との関係で国家賠償法1条 ず、本件立法等行為に - 6 -よる控訴人ら各人の精神的損害の発生を認定して、控訴人ら各人に対する金銭賠償を認める理由はない。 本件立法等行為について、控訴人ら各人との関係で国家賠償法1条1項の違法性を認めることはできない。控訴人らの主張は採用することができない。 ⑵ 平和的生存権について 控訴人らは、日本国憲法制定に至る歴史的経緯、憲法前文第1段の内容、そしてこれを受けてあえて第3章に先行する第2章に9条を配置した憲法の規定構造を全て考え合わせれば、日本国憲法における「平和」の意味は明らかであり、かかる意味の「平和」的に生存する権利は、当然に個人の人格的生存に不可欠であるから、幸福追求権の一内容として捉えられる平和的生存 権についてその具体的権利性を否定する余地などない旨主張する。 しかし、引用した原判決第3の1⑵のとおり、憲法前文は憲法の基本的精神及び理念を表明したものであり、憲法9条も国家の統治機構ないし統治活動についての規範を定めたものであるから、いずれも国民の具体的権利の直接の根拠となるものとは解されない。また、憲法13条は、憲法上明示的に 列挙していない利益を具体的な権利又は法的利益として保障する根拠となり得る一般的包括的規定であるが、「平和」の概念自体が抽象的であり、それを達成する手段や方法も一義的に定まるものではないことに照らせば、同条を根拠に、個々の国民に対して平和的生存権という具体的権利が保障されていると解することはできない。 そうすると、憲法前文、9条及び13条を併せて考慮したとしても、平和的生存権の具体的な内容を特定することは困難であるから、控訴人らの主張する平和的生存権が個々の国民に対して具体的権利又は法律上保護される利益として保障されていると解することはできないし、本 も、平和的生存権の具体的な内容を特定することは困難であるから、控訴人らの主張する平和的生存権が個々の国民に対して具体的権利又は法律上保護される利益として保障されていると解することはできないし、本件立法等行為により控訴人らに損害賠償の対象となり得るような法的利益の具体的な侵害があっ たということもできない。控訴人らの主張は採用することができない。 - 7 -⑶ 人格権又は人格的利益について控訴人らは、①戦後約70年もの間、憲法9条の下で平和国家として存立してきた我が国の国民であることの名誉や尊厳、②我が国が戦争の当事者となる危険性あるいは我が国が他国からの武力攻撃やテロ行為の標的となる危険性に対する不安や恐怖を抱くことなく平穏な生活を送ること、③控訴人ら のうち法研究や法教育を職業とする者の研究者又は教育者としての憲法の原理や解釈に対する理念は、いずれも控訴人らの人格的生存に不可欠なものであり、全国各地で本件と同様の集団訴訟が多数提起されたことからも明らかなとおり、我が国の国民の普遍的な価値観に基づくものであるから、人格権又は人格的利益として法的保護を受けるべきものである旨主張する。 しかし、補正の上引用した原判決第3の1⑶のとおり、控訴人らの主張する上記①ないし③の人格権又は人格的利益は、いずれも理念や目的としての抽象的概念であって、個々人の思想や信条、政治的見解、世界観等の主観的な価値観によりその内容は大きく異なり、その具体的な内容が一義的に定まるものではないから、具体的権利又は法律上保護される利益として保障され ていると解することはできないし、本件立法等行為により控訴人らに損害賠償の対象となり得るような法的利益の具体的な侵害があったということもできない。控訴人らの主張は採用することができない され ていると解することはできないし、本件立法等行為により控訴人らに損害賠償の対象となり得るような法的利益の具体的な侵害があったということもできない。控訴人らの主張は採用することができない。 ⑷ 憲法改正・決定権についてア控訴人らは、憲法改正・決定権は、憲法改正時に、改正に関する意見を 表明した上で、国民投票で投票する権利として、国民の1人1人に個別に保障されている具体的権利である旨、この憲法改正・決定権は、憲法の条文自体が変更される場合だけでなく、「実質的な憲法改正」がされる場合、すなわち、政府の解釈変更により憲法規範の明白な変更がなされ、かかる変更が重大である場合にも、具体的権利として認められる旨主張する。 しかし、憲法96条1項は、憲法の改正は国民の承認を経なければなら - 8 -ないこと、この承認には特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において国民の過半数の賛成を必要とすること等の手続的事項を定める規定であり、控訴人らの主張する憲法改正・決定権という具体的権利を保障する規定と解することはできない。そもそも、国民の承認を経ない憲法改正は公布することができず(憲法96条2項)、公布しても憲法改 正の効力は生じないのであるから、上記のように解しても、憲法の改正を最終的に決定する権限が国民に属することとは矛盾しない。 また、憲法の公権的解釈を最終的に決定する権限は司法に属し(憲法81条)、政府の解釈変更により客観的な憲法規範が変更されることはない。 したがって、政府の解釈変更により憲法規範の明白な変更がなされたこと を前提に憲法96条1項の適用を論じる控訴人らの主張は、その前提を欠いている。 控訴人らの主張はいずれも採用することができない。 イなお、上記アの司法に属する憲 明白な変更がなされたことを前提に憲法96条1項の適用を論じる控訴人らの主張は、その前提を欠いている。控訴人らの主張はいずれも採用することができない。 イなお、上記アの司法に属する憲法解釈の最終的決定権は、具体的事件の解決に必要な限度においてのみ行使することができるが、上記⑴から⑷アまでに説示のとおり、控訴人らには具体的権利ないし法的利益を認めることができず、本件立法等行為が憲法に適合するかしないかの判断は、控訴人らの請求の当否の判断に必要であるとはいえない。 3 以上のとおり、控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。 よって、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 高松高等裁判所第2部 裁判長裁判官 阿多麻子 裁判官 下山誠 裁判官 金洪周
▼ クリックして全文を表示