主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,2300万円及びこれに対する平成11年11月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 (4) 仮執行宣言 2 被控訴人主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は,控訴人の夫が被控訴人との間で同人を契約者・被保険者とする生命保険契約を締結した後に死亡したため,保険金受取人である控訴人が,被控訴人に対し,生命保険契約に基づき生命保険金2300万円及びこれに対する支払期日後である平成11年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。 2 争いのない事実等(1) 被控訴人は,生命保険業等の業務を行うことを目的とする相互会社である。(争いがない)(2) Aは,平成11年4月23日,被控訴人との間で,生命保険金2300万円,保険料毎月掛金4万0297円,一時払い保険料100万円,払込期日毎月26日,被保険者A,被保険者死亡の場合の保険金受取人控訴人,保険金は,請求書類が被控訴人本社に着いた日の翌日から,その日を含めて5日以内に支払うとの内容の生命保険契約(以下「本件契約」という。)を締結し,同日保険料として104万0297円を支払った。(甲2)(3) Aは,平成11年9月13日,脳内出血により死亡し,控訴人は,被控訴人に対し,本件契約に基づき,遅くとも平成11年10月31日までに生命保険金を支払うよう催告した。(争いがない) )(3) Aは,平成11年9月13日,脳内出血により死亡し,控訴人は,被控訴人に対し,本件契約に基づき,遅くとも平成11年10月31日までに生命保険金を支払うよう催告した。(争いがない)(4) 本件契約の約款には,次のような定めがある(乙1の1・2,2の1)。 ア 18条保険契約者または被保険者は,保険契約の締結または復活の際,会社が書面で告知を定めた事項について,その書面により会社に告知することを要します。ただし,会社指定の医師が質問した事項については,その医師に口頭で告知することを要します。 イ 19条① 保険契約者または被保険者が,告知の際,故意または重大な過失により事実を告げなかったかまたは事実ではないことを告げた場合には,会社は,将来に向かって保険契約を解除することができます。 ② 会社は,保険金の支払事由または保険料の払込免除事由が生じた後でも,保険契約を解除することができます。 ③ 前項の場合には,会社は,保険金を支払わずまたは保険料の払込みを免除しません。また,すでに保険金を支払いまたは保険料の払込みを免除していたときは,保険金の返還を請求しまたは保険料の払込みを免除しなかったものとして取り扱います。ただし,保険金の支払事由または保険料の払込免除事由が解除の原因となった事実によらなかったことを,保険契約者または保険金の受取人が証明したときは,この限りではありません。 ④ (省略)ウ 20条会社は,保険契約を解除する場合は,保険契約者に通知します。ただし,保険契約者またはその住所もしくは居所が明らかでないか,その他保険契約者に通知できない正当の事由があるときは,被保険者または保険金受取人に対する通知を保険契約者に対する通知とみなします。 だし,保険契約者またはその住所もしくは居所が明らかでないか,その他保険契約者に通知できない正当の事由があるときは,被保険者または保険金受取人に対する通知を保険契約者に対する通知とみなします。 エ 21条会社は,次のいずれかの場合には,保険契約を解除できません。 ① 会社が,保険契約の締結または復活の際,解除の原因となる事実を知っていたときまたは過失により知らなかったとき② (以下省略)(5) Aは,平成9年7月2日及び平成10年7月8日に受けた勤務先の健康診断において,高脂血症で要治療,肝機能障害の疑いで要精密検査,糖尿病・高血圧で要治療継続との指摘を受け,平成11年1月29日に受けた勤務先の健康診断において糖尿病と診断されたが,Aは,これらの事実を被控訴人に告知しなかった。(争いがない)(6) 被控訴人は,控訴人に対し,平成11年12月7日付通知書により,告知義務違反を理由に本件契約を解除する旨の意思表示をした。(争いがない) 3 本件の争点(1) 控訴人の保険金支払請求に対し,被控訴人は,重要な事実(高血圧症,肝機能障害,糖尿病及び高脂血症)について告知義務違反があり,控訴人及びAには告知しなかったことについて故意または重過失があり,被控訴人は,告知義務違反がなければ,契約を締結しなかったにもかかわらず,告知義務違反により契約を締結したとして,本件契約19条1項に基づく本件契約の解除を抗弁として主張している。 これに対し,控訴人は,①高脂血症は重要な事実に該当しない,②その余は重要な事実に該当するが告知義務違反は控訴人を基準とすべきであり,控訴人には故意または重過失はない旨主張して争った。 (2) 控訴人は,再抗弁として,①仮に高血圧症,肝機能障害,糖尿病について告知しなかっ に該当するが告知義務違反は控訴人を基準とすべきであり,控訴人には故意または重過失はない旨主張して争った。 (2) 控訴人は,再抗弁として,①仮に高血圧症,肝機能障害,糖尿病について告知しなかったことに故意または重過失があったとしても,被控訴人は,Aが高血圧症,肝機能障害,糖尿病に罹患し,保険契約に適さない身体状態にあることを知っていたか容易に知り得たから,本件契約21条1号により支払を拒否することはできない,②仮に高脂血症が重要な事実に該当するとしても,死亡との間に因果関係はないから,本件契約19条3項但書により保険金の支払を拒否することはできない,③被控訴人の営業職員の勧誘経緯によれば,告知義務違反を理由に解除することは信義則に反し許されない旨主張している。 これに対し,被控訴人は,いずれも否認ないし争っている。 (3) したがって,本件の争点は,①高脂血症は告知すべき重要な事実に該当するか否か(争点1),②告知義務違反は誰を基準に判断すべきか(争点2),③告知義務者が告知しなかったことに故意または重過失があるか否か(争点3),④被控訴人はAの高血圧症等に罹患し,保険契約に適さない身体状態にあることを認識しまたは容易に認識し得たか否か(争点4),⑤告知義務違反と死亡との間に因果関係があるか否か(争点5),⑥告知義務違反を理由とする解除が信義則に反するか否か(争点6),の6つである。 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(高脂血症は告知すべき重要な事実に該当するか否か)について(被控訴人)告知義務のある「重要な事実」とは,保険者の危険測定に関する重要な事実,すなわち保険事故の発生率に影響を及ぼす事実であり,その事実を保険者が知っていたならば契約を締結しなかったか又はより高額の保険料で締結したと認めら な事実」とは,保険者の危険測定に関する重要な事実,すなわち保険事故の発生率に影響を及ぼす事実であり,その事実を保険者が知っていたならば契約を締結しなかったか又はより高額の保険料で締結したと認められる事実である。 告知書の質問事項に掲げられた事実は,告知を要する「重要な事実」にあたると推定されるものであるところ,高血圧症,肝機能障害,糖尿病及び高脂血症の4つの異常は,いずれも告知書(甲7,以下「本件告知書」という。)の質問事項の「カ過去2年以内に健康診断・人間ドックをうけて,右記の臓器や検査の異常(要再検査・要精密検査・要治療を含みます)を指摘されたことがありますか心臓・肺・胃腸・腎臓・肝臓・すい臓・胆のう・子宮・乳房・血圧測定・尿検査・血液検査・眼底検査」のうちの,「肝臓」「血圧測定」「尿検査」「血液検査」に該当しており,告知を要する「重要な事実」と推定される(なお,控訴人も,高脂血症を除く3つの異常については,告知を要する「重要な事実」にあたることを自認している)。 被保険者は,会社の健康診断において,何年間も連続して4つの異常を警告されており,被保険者が4つの異常を同一の機会に指摘・警告されていること,4つの異常がそれぞれ被保険者の直接死因と密接な関連性を有していることから,健康診断で何年も続けてこれらの異常を指摘・警告されたことを考慮すると,高血圧症,肝機能障害,糖尿病及び高脂血症は,告知を要する「重要な事実」にあたるというべきである。 したがって,高脂血症は「重要な事実」に該当する。 (控訴人)告知書に書いてある内容は,告知を要する重大な事実であると推定される。特に診査医による被保険者の診査を経ない健康管理証明書扱いでは,告知を要する「重要な事実」に該当するものは,これを健康管理証明書の証明内容にすべき る内容は,告知を要する重大な事実であると推定される。特に診査医による被保険者の診査を経ない健康管理証明書扱いでは,告知を要する「重要な事実」に該当するものは,これを健康管理証明書の証明内容にすべきである。裏返せば,健康管理証明書の証明内容でない事項は,「重要な事実」ではないと言わざるを得ない。 本件契約は,診査医の診察を経ない健康管理証明書扱いの契約であるが,本件保険契約締結当時においては,健康管理証明書(甲8,以下「本件証明書」という。)の証明内容に脂質検査結果は含まれていなかった。また,その後行なわれた被控訴人審査医による血液検査の検査内容にも,高脂血症に関する検査データはなかった(甲10)。このことからすれば,高脂血症が,本件保険契約締結当時,告知を要する重要な事実ではなかったことは明らかである。 (2) 争点2(告知義務違反は誰を基準に判断すべきか)について(被控訴人)ア本件契約18条には「保険契約者または被保険者は・・」と定められ,商法644条には「(保険契約ノ当時)契約者ハ」と定められている。したがって,保険契約者または被保険者に告知義務を負担させることが余りに酷であると認められるような特段の事情がない限り,保険契約者または被保険者が告知義務を負担すると解すべきである。 本件において,被保険者は,被控訴人が特別条件の付加を求めてきたことに不満を抱き,特別条件付加の見直しを期待して被控訴人との間で血液検査の再検査をめぐるやり取りを自ら行い,検査結果書(甲10,以下「本件検査結果」という。)の提出にも応じている。 したがって,保険契約に係る申込書の作成,告知書の記入及び第1回保険料の支払など一連の手続を全て代理人の手に委ねたような場合とは異なり,本件における被保険者は,自ら積極的な対応を行っているのであ したがって,保険契約に係る申込書の作成,告知書の記入及び第1回保険料の支払など一連の手続を全て代理人の手に委ねたような場合とは異なり,本件における被保険者は,自ら積極的な対応を行っているのである。 以上によれば,被保険者は,被控訴人が被保険者の身体状態の正確な把握を強く求めており,その状態のいかんによって保険契約の締結を承諾するか否かを判断しようとしていることを明確に認識したことは明白である。このような被保険者について,告知義務を負担させても決して酷ではない。 イ次に,控訴人は,被保険者の代理人であり,被保険者になり代わって法律行為を行っている以上,被保険者と全く同じく,被保険者の身体状態を正確に告知すべき規範に直面している。 そして,控訴人は,表題部分に警告文言が明記された告知書に被保険者の身体状態を記入したものである。 その後,被保険者は,保険証券を受領したが,その際,被控訴人から告知事項の確認と訂正・追加箇所の申し出を促されたが,結果的に何らの申し出も行わなかった。 以上の事実関係の下では,被保険者の代理人である控訴人も,被保険者の身体状態を正確に把握・告知すべき規範に直面していることから,適用約款及び商法644条では義務者とされていないものの,民法101条あるいは信義則に基づき,被保険者とともに重畳的・補充的に告知義務を負担していると解すべきである。 ウしたがって,A及び控訴人の両名について告知義務違反がある。 (控訴人)被控訴人に対する告知書を作成したのは控訴人であり,告知義務違反の有無は控訴人を基準に判断すべきである。 本件契約の契約者はAであるが,被控訴人との契約手続を行ったのは同人の妻である控訴人である。控訴人が,Aの代理人として,被控訴人との本件契約手続を行ったものである。また を基準に判断すべきである。 本件契約の契約者はAであるが,被控訴人との契約手続を行ったのは同人の妻である控訴人である。控訴人が,Aの代理人として,被控訴人との本件契約手続を行ったものである。また,被控訴人に提出する告知書の質問事項の回答を記入したのも控訴人である。 本件契約の契約者であるAは,東京に単身赴任していて,控訴人とは別居中であった。本件契約の加入手続を担当した被控訴人営業職員のCも,Aと控訴人が別居していることを承知した上で,書類等の作成を保険契約者であるAに求めず,専ら控訴人との間で本件契約の手続を進めた。 したがって,本件契約の加入手続は,Aが全く関与しないまま,妻である控訴人が進めたもので,Aは,告知書も作成しておらず,被控訴人に対する告知の機会が事実上なかった。 このような本件契約の実際の加入手続や,これに関わった被控訴人営業職員の認識や言動を考慮すると,告知義務違反の有無を控訴人を基準として判断するのが相当である。このように解しても,控訴人の営業担当職員が主導的,積極的に控訴人と本件保険加入手続を進めたものであるから,控訴人に対する不利益は全くない。 したがって,告知義務違反の有無は,控訴人を基準に判断されるべきである。 (3) 争点3(告知義務者が告知しなかったことに故意または重過失があるか否か)について(被控訴人)ア Aは,自らの身体状態を正確に告知するよう求められている旨を認識し,極めて容易にこれを行うことが可能であったのに自ら行わず,代理人である控訴人をして行わしめることもなかった。 したがって,Aには,故意又は重過失が認められる。 イ控訴人は,Aの代理人として,被控訴人から被保険者の身体状態を正確に告知するよう求められている旨を認識していた。そして,控訴人は,夫であるAか がって,Aには,故意又は重過失が認められる。 イ控訴人は,Aの代理人として,被控訴人から被保険者の身体状態を正確に告知するよう求められている旨を認識していた。そして,控訴人は,夫であるAから,単身赴任先に電話で問い合わせるなどしてAの身体状態を正確に把握し,被控訴人に正しい告知を行うことをいとも容易になし得たのに,それすら行わなかった。 したがって,控訴人には,少なくとも重過失が認められる。 (控訴人)控訴人は,Aの健康診断結果を見たこともなかったし,Aが家庭において体調不良を訴えることもなかったことから,Aの身体の異常について,全く知らなかった。 控訴人は,Aが健康体であると信じていたのであり,告知義務違反はない。また,控訴人は,被控訴人の営業職員の指示に従って告知書を記入したものであり,この意味でも告知義務違反はない。 (4) 争点4(被控訴人はAが保険契約に適さない身体状態にあることを認識しまたは容易に認識し得たか否か)について(控訴人)Aが,肝機能障害,糖尿病及び高血圧症に罹患していることは,医師であれば,保険契約時に保険者である被控訴人に提出されていた本件証明書及び本件検査結果の記載から容易に認識できることである。そして,これらの検査結果から,Aの生命の危険性が高度であることも十分に判断することが可能であった。 すなわち,ア被控訴人査定医は,本件証明書から分かるAの平成11年1月29日実施の肝機能検査結果数値GOT94,GPT57,γ-GTP352につき,「やや高い」と評価し,本件検査結果から分かるAの同年4月16日実施の肝機能検査結果,GOT23,GPT33,γ-GTP390について,「GOT,GPTが正常で,GPT優位であり,γ-GTPは,依然として高値を示しており,ア 検査結果から分かるAの同年4月16日実施の肝機能検査結果,GOT23,GPT33,γ-GTP390について,「GOT,GPTが正常で,GPT優位であり,γ-GTPは,依然として高値を示しており,アルコール性肝障害と判断し,リスクは低い」と評価している(乙8)。 しかし,名古屋大学情報連携基盤センター教授(医師)B作成の意見書(甲25,以下「B意見書」という。)によれば,本件証明書から分かる肝機能検査結果数値は,「やや高い」という程度ではなく,これだけで,中等度異常の肝機能異常が分かるほどの高さである。また,B意見書によれば,本件検査結果から分かるγ-GTP値は,390とより高値になっており,相当な酒量によるアルコール性肝障害もしくは脂肪肝を疑わせる値であり,本件証明書から分かる①貧血(Hb12.9),本件検査結果から分かる,②肝硬変への初期段階を疑わせるTTT7.6という数値,③正常値内であるものの,比較的高値であることはTTTと同じく肝硬変への初期段階を疑わせる,ZTT10.5という数値等を併せ判断すれば,Aに肝硬変のおそれがあったことは,明らかである。特に,病理系免疫学出身の被控訴人査定医にとって,上記判断をすることは,極めて容易であったと思われる。 被控訴人査定医は,肝機能についての危険度について,本件証明書の肝機能検査数値から30%の危険度増との判断をし,その後に入手した本件検査結果から特段の条件を提示するほどではない,と判断している。 しかし,本件証明書の肝機能数値を,被控訴人の事務査定基準(乙15)に当てはめれば,Aのγ-GTPの値(352)は,GOT・GPTの値如何に関わらず,無条件査定医回付(γ-GTP250以上399以下)に該当する数字である。加えて,被控訴人においては,γ-GTP200以上249以下であっても, Pの値(352)は,GOT・GPTの値如何に関わらず,無条件査定医回付(γ-GTP250以上399以下)に該当する数字である。加えて,被控訴人においては,γ-GTP200以上249以下であっても,最低40%の危険度増とする基準となっている。本件証明書からγ-GTP352,GOT94,GPT57であることが分かるAの肝機能について,30%の危険度増という被控訴人査定医の評価は,被控訴人の事務査定基準に照らしても,不当に低いものと言わざるを得ない。 また,本件検査結果のγ-GTPの値(390)は,無条件査定医回付と謝絶体との境界値400に極めて近い数値である。にもかかわらず,被控訴人査定医は,肝機能については,特段の条件を提示するほどではない,すなわち危険度ゼロと判断しているのである。 イ被控訴人査定医は,本件証明書の尿糖±という検査結果から,事務査定基準に従い10%の危険度増と判断し,本件検査結果の入手後も,対糖能(対糖能異常=糖尿病)について評価を変える必要はないと判断している。 しかし,B意見書によれば,本件検査結果からは,空腹時の血糖値であれば糖尿病であることを示す血糖値142という数値と,1か月程度の期間の平均血糖値を示し軽症の糖尿病の存在を意味するヘモグロビンA1c6.7という数値が明らかになっている。 本件検査結果の入手により,Aが,明らかに糖尿病に罹患していることが確定的に判明したにもかかわらず,対糖能について評価を全く変えなかった被控訴人査定医の査定は,明らかに不当なものである。 ウ B意見書によれば,本件告知書,本件証明書及び本件検査結果からは,Aの身体状態について,肝硬変の疑いがあること,糖尿病に罹患していること,軽度高血圧であること,正球性貧血があること,56歳という年齢,喫煙の習慣があること及び ,本件証明書及び本件検査結果からは,Aの身体状態について,肝硬変の疑いがあること,糖尿病に罹患していること,軽度高血圧であること,正球性貧血があること,56歳という年齢,喫煙の習慣があること及びアルコール多飲の習慣があること等が明らかになっている。 特に,Aは,心血管系の疾患の危険因子である糖尿病及び高血圧,並びに脳血管疾患の危険因子である,中高年,高血圧,糖尿病,喫煙及び飲酒というリスク要因を,明らかに有している。 以上のとおり,本件告知書,本件証明書及び本件検査結果の入手により,Aに通常の人の危険度とは比べものにならない高いリスクがあることは,被控訴人査定医において明らかであった。 したがって,被控訴人は,Aの上記症状を認識していたか,または容易に認識することができたはずであるから,本件契約21条1号により,被控訴人は解除をすることができない。 (被控訴人)被控訴人を初めとする生命保険会社の医的査定は,被保険者の側から提供を受けたデータと善意性を基礎とする告知の内容だけに基づいて行われている。そして,被控訴人は,医的査定の公平と効率化などの見地から,ある程度形式的・定型的に保険リスクを判定できる異常については予め事務査定基準を設け(乙13ないし15),長年来生命保険業界でその合理性・妥当性が承認されてきた数字査定法(乙12)に基本的に依拠しつつ,形式的・定型的な判定が困難な領域については,査定医の専門的な知識・経験で補充することによって医的査定を行っている。 被保険者における高血圧症,糖尿病及び肝機能障害の異常については,上記のように,基本的には事務査定基準に基づく数字査定法に依りながら,将来の回復可能性という高度な判断が要求される領域については,ごく限られたデータしか利用できない状況の下で,査定医が「 ついては,上記のように,基本的には事務査定基準に基づく数字査定法に依りながら,将来の回復可能性という高度な判断が要求される領域については,ごく限られたデータしか利用できない状況の下で,査定医が「中間的な判断」の手法で行ったものであって,ここに事務査定基準の無視や読み取りミス,数字査定法の運用ミスあるいは裁量権の逸脱などは全く認められない。 したがって,被控訴人の査定医には,事務査定基準の適用過誤や査定医が持つ裁量権の明らかな逸脱は認められず,解除の原因となるほどの4つの異常があることを知らなかったことについて何ら過失はない。 (5) 争点5(告知義務違反と死亡との間に因果関係があるか否か)について(控訴人)Aの脂質代謝異常とAの死亡には因果関係はなく,被控訴人は,保険金の支払を拒むことはできない。 すなわち,Aの死因は,脳内出血であって,脳内出血は,低栄養と高血圧と寒さから起きやすいところ,B意見書によれば,Aは,アルコール性肝障害,低栄養,軽度の糖尿病と高中性脂肪血症,軽度の高血圧により,脳血管がもろくなっていたと考えられ,脳内出血により死亡したものと推測できるということである。 そして,上記に列挙したAの身体状態のうち,中性脂肪高値が脳内出血に関与した可能性は薄いから,Aないし原告が告知しなかったAに軽度の高中性脂肪血症という脂質代謝異常があった事実と,Aが脳出血により死亡したことの間に,因果関係はない。 よって,被控訴人は,本件契約19条3項但書により,保険金の支払を拒むことはできない。 (被控訴人)Aの高脂血症と死亡との間には因果関係の存在が認められ,因果関係の不存在をいう控訴人の主張は理由がない。 すなわち,B意見書は,高中性脂肪血症が被保険者の脳内出血をもたらした直接の要因であるこ Aの高脂血症と死亡との間には因果関係の存在が認められ,因果関係の不存在をいう控訴人の主張は理由がない。 すなわち,B意見書は,高中性脂肪血症が被保険者の脳内出血をもたらした直接の要因であることに疑問を呈してはいるものの,高中性脂肪血症がアルコール性肝障害,高血圧症及び糖尿病と複合的に作用して脳血管をもろくし,被保険者の直接死因である脳内出血をもたらしたことを正面から積極的に認めている。 したがって,B意見書は,被保険者の高脂血症と死亡との間の因果関係を肯定したものと見るべきである。 (6) 争点6(告知義務違反を理由とする解除が信義則に反するか否か)について(控訴人)被控訴人の営業職員は,成約高を基準とした歩合給が支給されることから,その関心は専ら保険契約の成立にあり,保険契約が無事成約できるように行動する。被控訴人の営業職員であるCも,告知書の作成に際して,控訴人に「いいえ」「なし」欄にマルを打つようにアドバイスをし,保険契約の成立を妨げるような事実が記載されないようにしている。控訴人は,営業職員の指示に従い,言われるままに告知書を作成して提出させられているのである。 告知義務違反の場合の不利益を十分に説明せず,形式的な書面の交付で説明を尽くしたというのは,あまりに契約者側の保護にかけると言わざるを得ない。 また,このような告知義務違反を事実上勧奨する被控訴人側の営業職員の行動により,契約者側が不利益を受けることになるのは,信義に反し公平にもとるものである。 したがって,被控訴人の解除は信義則に反するものであるから,解除を主張することは許されない。 (被控訴人)営業職員が,控訴人に対して不告知教唆を行ったことはない(乙7)。仮にこの事実が認められたとしても,被保険者には異常がないとの認識の下 ,解除を主張することは許されない。 (被控訴人)営業職員が,控訴人に対して不告知教唆を行ったことはない(乙7)。仮にこの事実が認められたとしても,被保険者には異常がないとの認識の下でのやり取りであり,控訴人に対する正確な告知の必要があることには何ら変わりがない。 信義則違反をいう控訴人の主張は,自ら犯した告知義務違反の責任を被控訴人に転嫁しようとするものであり,極めて不当である。 第3 当裁判所の判断 1 本件の経緯上記争いのない事実等及び証拠(甲3,17,乙1の1・2,4の1・2,5の1~3,6の1・2,原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) Aは,昭和18年3月26日生まれで,本件契約当時三和シャッター工業株式会社に勤務し,平成10年10月から東京に単身赴任し,営業に従事していた。 (2) Aは,平成9年7月2日に受けた人間ドックで,高脂血症の疑い(中性脂肪1019mg/dl)で要医療,肝機能障害の疑いで要精密検査,糖尿病及び高血圧につき要治療継続と診断された。 (3) Aは,平成10年7月8日に受けた人間ドックで,眼底所見につき要経過観察,高脂血症(中性脂肪828mg/dl)につき要治療,肝機能障害の疑いで要精密検査,高血圧及び糖尿病については,要継続治療と診断された。 (4) Aは,平成11年1月29日に受けた人間ドックで,判定E(二次検査として精査を必要とする項目)として,血圧,脂質(総コレステロール239mg/dl(基準値は130~219),中性脂肪466mg/dl(基準値は149以下)),肝膵機能の精査の要あり等の指摘を受け,糖尿病と診断された。 (5) 平成11年2月ころ,控訴人は知人から紹介された被控訴人守山営業所所属のCから,Aを被保 6mg/dl(基準値は149以下)),肝膵機能の精査の要あり等の指摘を受け,糖尿病と診断された。 (5) 平成11年2月ころ,控訴人は知人から紹介された被控訴人守山営業所所属のCから,Aを被保険者とする生命保険契約の締結を勧誘され,Aと相談しないまま,保険契約者及び被保険者をAとする生命保険契約を締結することを決意した。 (6) 平成11年3月24日,控訴人は署名代理による方法でAを代理して本件契約の契約書を作成し,同時に各質問事項に答える形で本件告知書を作成した。 本件告知書の告知事項の4・カには,「過去2年以内に健康診断・人間ドックをうけて,右記の臓器や検査の異常(要再検査,要精密検査,要治療を含みます)を指摘されたことがありますか」との記載があり,右記の項目には「心臓・肺・胃腸・肝臓・腎臓・すい臓・胆のう・子宮・乳房・血圧測定・尿検査・血液検査・眼底検査」が記載されていた。 また,本件告知書の「詳細記入欄」には,「病気やけがの名前検査結果」「診察・検査・治療・投薬をうけた年月または期間」などの項目について記載するようになっていた。 控訴人は,Aに確認することもなく,「指摘なし」の欄に丸印をし,他の質問事項すべてに「いいえ」の欄に丸印をした。 なお,控訴人は,Aが上記異常の指摘を受けていたことは知らなかった。 (7) 被控訴人は,本件告知書裏面に印刷されていた健康管理証明書に記載がなかったため,その交付を要求したところ,三和保険サービス株式会社作成の同年1月29日の検査結果である本件証明書の交付を受けた。 (8) 被控訴人の査定医であるD医師(以下「D医師」という。)は,本件証明書の検査結果のうち,尿糖が偽陽性(±)であり,血圧の検査値が最大150mmHg,最小96mmHg,肝機能の検査値がGTO94IU/l(基 人の査定医であるD医師(以下「D医師」という。)は,本件証明書の検査結果のうち,尿糖が偽陽性(±)であり,血圧の検査値が最大150mmHg,最小96mmHg,肝機能の検査値がGTO94IU/l(基準値は10~40),GPT57IU/l(基準値は5~45),γ-GTP352IU/l(基準値は50以下)と高めであったため,約款中の特別条件特約2条による特別条件(乙3)により,保険料を増額させる必要があると判断した。 (9) Cは,控訴人に対し,特別条件が付加され保険料が増額になることを伝えたが,控訴人は保険料の増額に難色を示したため,CはAに対し,再検査を受け,その結果によっては,特別条件の付加につき再検討される余地があることを伝えたところ,Aは再検査を受けることを承諾した。 (10) 平成11年4月16日,Aは京王プラザ30階クリニックで検査を受け,その後,本件検査結果が被控訴人に送付されてきた。 D医師は,本件検査結果中のGOT23IU/l,GPT33IU/l,γ-GTP390IU/lの数値から,本件証明書中の検査結果は慢性肝炎ではなく,アルコール性肝機能障害によるものであり,特別条件を付するほどの異常ではないと判断した。 (11) 被控訴人は,Aとの契約には特別条件を付さないこととし,同年5月1日,被控訴人はAの申込を承諾して本件契約が成立した。 (12) 平成11年5月12日,被控訴人は保険証券を作成し,保険証券(乙1の1・2)及び「契約のご確認についてお願い」と題する郵便書簡(乙6の1・2)を,契約書記載の契約者の住所(控訴人の住所と同じ)に送付した。 上記保険証券の「健康状態の告知について」欄には,「告知事項の全項目について『なし』の告知をいただきました」「告知にもれがあったり相違している場合は返信用封書で折返しお の住所と同じ)に送付した。 上記保険証券の「健康状態の告知について」欄には,「告知事項の全項目について『なし』の告知をいただきました」「告知にもれがあったり相違している場合は返信用封書で折返しお知らせください」との記載があり,返信用封筒である上記郵便書簡には,告知内容について内容を確認し,内容に相違があったり告知もれがあった場合には該当欄に正しい内容を記載すべきこと,告知の内容が事実と相違したり告知漏れがあった場合には契約を解除することがあるので,必ず確認すべきことなどが記載されていたが,控訴人あるいはAから告知事項の訂正ないし追加の申出はなかった。 (13) 平成11年9月13日,Aは単身赴任先の住所である東京都中野区で死亡し,解剖の結果,直接死因は脳内出血であり,Aには脳内出血による吐物吸引のほか,著しい冠状動脈硬化(前下行枝95パーセント,回旋枝85パーセント,右冠動脈75パーセントの狭窄),アルコール性肝硬変,腹部大動脈瘤があった。 2 争点1(高脂血症は告知すべき重要な事実に該当するか否か)について(1) 商法678条1項は,「保険契約ノ当時保険契約者又ハ被保険者カ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ重要ナル事実ヲ告ケス又ハ重要ナル事項ニ付キ不実ノ事実ヲ告ケタルトキハ保険者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得」と定めているところ,本件契約19条1項の規定は上記商法の条文を約款に明記したものと認められる。 上記の告知を要する「重要な事実」とは,保険事故発生の危険率の測定に関する重要な事実,すなわち,保険者がその事実を知ったならば,保険契約の締結を拒絶したかまたは少なくとも同一条件(特に同一保険料)では契約を締結しなかったであろうと客観的に考えられるような事情をいうと解するのが相当である。 そして,ある事実が重要な事実に該当するか否かは を拒絶したかまたは少なくとも同一条件(特に同一保険料)では契約を締結しなかったであろうと客観的に考えられるような事情をいうと解するのが相当である。 そして,ある事実が重要な事実に該当するか否かは,具体的なケースについて,個別的に,保険の種類,契約条件(その事実の有無により保険料が変わることを保険者が明示している事実も含む。),当事者の契約意図などを総合して判断するのが相当である。 本件契約の場合,上記第2,2,(4)のとおり本件契約18条において,「保険契約者または被保険者は,保険契約の締結または復活の際,会社が書面で告知を求めた事項について,その書面により会社に告知することを要します。ただし,会社指定の医師が質問した事項については,その医師に口頭で告知することを要します。」との記載があり,本件告知書は,上記規定に基づく書面であると認められる。 そして,証拠(乙8~10,12~16)によれば,本件告知書に記載された事項は,その事実の有無により保険事故が発生する危険率を測定し,保険料の決定,保険契約の締結の諾否を決するために記載されたものと認められるから,本件告知書に記載された事項はすべて重要な事実であると推定される反面,本件告知書に記載されていない事項は重要な事実でないと推定するのが相当である。 (2) 高脂血症は,冠動脈疾患等の動脈硬化性疾患の最も大きな要因と考えられている症状であり,高脂血症の診断基準としては,血液検査の結果により得られた総コレステロール値が220mg/dl以上とされていた(平成11年当時)ところ,本件告知書には,上記のとおり「高脂血症」という文字そのものの記載はない。 しかし,上記のとおり,本件告知書の4・カは,「過去2年以内に健康診断・人間ドックをうけて,右記の臓器や検査の異常(要再検査,要精密検査, ,上記のとおり「高脂血症」という文字そのものの記載はない。 しかし,上記のとおり,本件告知書の4・カは,「過去2年以内に健康診断・人間ドックをうけて,右記の臓器や検査の異常(要再検査,要精密検査,要治療を含みます)を指摘されたことがありますか」との記載があり,右記の項目には「血液検査」が記載されているから,血液検査の異常(要再検査,要治療を含む。)について指摘を受けたことは重要な事実に該当すると推定される。 そうすると,上記のとおり,Aが本件告知書作成から2年以内である平成10年7月8日に受けた人間ドックで高脂血症につき要治療との診断を受けたこと,及び平成11年1月29日に受けた人間ドックで脂質について二次検査との診断を受けたことは,いずれも血液検査の異常について指摘を受けたことに該当するから,同項目について丸印を付けた上,詳細記入欄に「高脂血症」等との検査結果を記載することは,告知を要する「重要な事実」に該当すると推定される。 (3) 控訴人は,本件証明書の証明内容には,脂質検査結果は含まれていないし,本件検査結果にも高脂血症に関する検査データはなかったことからすると,高脂血症は,本件契約締結当時,告知を要する重要な事実ではなかった旨主張する。 確かに,本件証明書には脂質検査結果は含まれてなく,また,本件検査結果にはコレステロールや中性脂肪に関する欄はあるものの検査データの記載はない。 しかし,日本動脈硬化学会では平成9年に高脂血症診療ガイドラインを設定し,高コレステロール血症に対する診断基準,薬物療法適応基準,治療目標値を提言していること(甲24),平成10年労令26号による改正前の労働安全衛生規則においても,血清総コレステロール及び血清トリグリセライドの量の検査は,雇入時の健康診断の検査項目となっていたこと(甲18),本件 ること(甲24),平成10年労令26号による改正前の労働安全衛生規則においても,血清総コレステロール及び血清トリグリセライドの量の検査は,雇入時の健康診断の検査項目となっていたこと(甲18),本件証明書の対象は,本件告知書の告知事項の一部に関連するものであって,本件証明書の対象事項のみが重要な事実に該当するとは解しがたいこと,本件検査結果においてコレステロールや中性脂肪の検査データがないのは,A側から高脂血症についての告知がなく,専ら肝機能検査を対象に行われたものであると認められることを考慮すると,本件証明書には脂質検査結果は含まれてなく,また,本件検査結果にはコレステロールや中性脂肪に関する欄はあるものの検査データの記載はないことをもって,高脂血症が告知を要する重要な事実ではないということはできない。 そして,他に上記推測を覆すに足りる証拠はない。 (4) したがって,高脂血症は,告知を要する「重要な事実」に該当すると認められる。 3 争点2(告知義務違反は誰を基準に判断すべきか)について上記第2,2,(4)のとおり,本件契約19条1項は,「保険契約者または被保険者が,告知の際,故意または重大な過失により事実を告げなかったかまたは事実でないことを告げた場合には」と規定されているから,告知義務者は,保険契約者及び被保険者であるというべきである。 なお,控訴人は,被控訴人に対する告知書を作成したのはAの代理人である控訴人であるから,告知義務違反の有無は控訴人を基準に判断すべきである旨主張するが,本件契約19条1項の規定によれば,告知義務違反は,保険契約者及び被保険者を基準に判断するべきである。 したがって,控訴人の主張は理由がない。 4 争点3(告知義務者が告知しなかったことに故意または重過失があるか否か)について 知義務違反は,保険契約者及び被保険者を基準に判断するべきである。 したがって,控訴人の主張は理由がない。 4 争点3(告知義務者が告知しなかったことに故意または重過失があるか否か)について(1) 上記認定のとおり,Aは,平成10年7月8日に受けた人間ドックで,眼底所見につき要経過観察,高脂血症につき要治療,肝機能障害の疑いで要精密検査,高血圧症及び糖尿病については,要治療継続と診断され,また,平成11年1月29日に受けた人間ドックで,二次検査として精査を要する項目として,血圧,脂質,肝膵機能等の指摘を受け,糖尿病と診断されたものであり,Aもそのことを認識していたものと認められる。 したがって,Aには,本件告知書の告知事項の4・カの「過去2年以内に健康診断・人間ドックをうけて,右記の臓器や検査の異常(要再検査・要精密検査・要治療を含みます)を指摘されたことがありますか」という項目について,「指摘あり」に丸印をした上,詳細記入欄に検査結果等を記載して,告知すべき義務があったことになる。 (2) 告知の方法としては,保険契約者または被保険者自身が告知する方法の他に,代理人または履行補助者を利用する方法によることもできるが,後者の場合も告知義務者はあくまでも保険契約者または被保険者自身であり,代理人等の不適切な行為によって告知義務を履行することができなかった場合には,保険契約者等がその責を負うべきである。 本件の場合,上記認定のとおり,本件告知書には上記重要な事実が記載されていないが,これは,控訴人が,Aに対し人間ドックの結果を容易に確認することができたにもかかわらず,Aは健康体であると安易に考え,それを確認しなかったためである。 控訴人が,Aに対し人間ドックの結果を確認さえしていれば,Aは上記重要な事実に該当する事実につ 確認することができたにもかかわらず,Aは健康体であると安易に考え,それを確認しなかったためである。 控訴人が,Aに対し人間ドックの結果を確認さえしていれば,Aは上記重要な事実に該当する事実については十分認識していたから,同事実について直接または控訴人を介して,容易に告知義務を履行することができたものである。 したがって,上記告知義務違反は,保険契約者または被保険者であるA側の事情により生じたものであるから,同違反は,保険契約者または被保険者であるAの重過失によるものであると認めるのが相当である。 (3) なお,控訴人は,被控訴人の営業職員の指示に従って告知書を記入したものであるから,告知義務違反はない旨主張し,控訴人本人の原審における供述及び同人作成の陳述書(甲17)には,本件告知書の質問事項に回答する際に,Aは風邪をひいたことがあるくらいで,入院や手術をしたこともないと述べたところ,被控訴人の担当者であるCからすべて「いいえ」に丸印をつけるよう指示され,これに従ったものである旨の部分がある。 しかし,仮に上記の事実があったとしても,控訴人はAに健康診断の結果等を確認することなく,Aは健康であると考えていたものであり,Cの指示は,Aに異常がないことを前提としたものであったと解されるから,上記判断を左右するものではない。 5 争点4(被控訴人はAが保険契約に適さない身体状態にあることを認識しまたは容易に認識し得たか否か)について(1) 商法678条1項本文は,保険契約者又は被保険者に告知義務違反があった場合,保険者は契約を解除できるとした上,但書において「保険者カ其事実ヲ知リ又ハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス」と定めているところ,本件契約21条1号の規定は,商法の上記規定を約款に明記したものと認められる。 るとした上,但書において「保険者カ其事実ヲ知リ又ハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス」と定めているところ,本件契約21条1号の規定は,商法の上記規定を約款に明記したものと認められる。 上記但書の趣旨は,保険契約者側に告知義務違反という不誠実な行為があるものの,取引上における衡平の観点からみて保険契約者を保護することが相当でない場合にまで保険契約の解除を認める必要はないというものであると解されるから,「過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキ」とは,告知がなくとも容易に重要な事実を発見できるのが通常であるにもかかわらず,不注意により重要な事実を発見しなかった場合をいうと解するのが相当である。 (2) 控訴人は,本件告知書,本件証明書及び本件検査結果から,被控訴人の査定医は,Aが肝機能障害,糖尿病及び高血圧症に罹患し,生命の危険性が高度であることを十分に判断することが可能であった旨主張するものの,高脂血症については,被控訴人が認識しまたは容易に認識し得た旨の主張をしない。 そして,証拠(乙8~10)によれば,被控訴人が,本件告知書,本件証明書及び本件検査結果によって,Aが高度の高脂血症に罹患していたことを認識することは容易であったとはいえないこと,Aの高脂血症は,基準値を上回るものであり,被控訴人が,Aの高脂血症の症状について認識していれば,本件契約を締結しなかったことが認められる。 したがって,仮に控訴人の主張が認められたとしても,それは肝機能障害,高血圧及び糖尿病の告知義務違反を理由とする解除をすることができないだけであって,被控訴人としては,なお高脂血症についての告知義務違反を理由とする解除をすることができる以上,争点4に関する控訴人の主張の当否を判断するまでもなく,本件契約21条1号を理由に本件契約の解除ができないとする控訴 しては,なお高脂血症についての告知義務違反を理由とする解除をすることができる以上,争点4に関する控訴人の主張の当否を判断するまでもなく,本件契約21条1号を理由に本件契約の解除ができないとする控訴人の主張は理由がない。 6 争点5(告知義務違反と死亡との間に因果関係があるか否か)について(1) 損害保険に関する商法645条2項但書は,告知義務違反を理由に保険契約を解除できる場合であっても,「保険契約者ニ於テ危険ノ発生カ其告ケ又ハ告ケサリシ事実ニ基ツカサルコトヲ証明シタルトキハ此ノ限リニ在ラス」と定め,生命保険についても同条が準用されている(商法678条2項)。そして,本件契約19条3項但書の規定も商法の上記規定を約款で明記したものと解される。 上記商法645条2項但書の趣旨は,告知義務違反という不誠実な行為があるものの,保険事故が告知義務違反とは何ら関係なしに発生した場合には,保険者は結果的にみて告知義務違反により事実上なんら不利益を受けなかったことになるから,告知義務が契約当事者間の利害の公正な調整を目的とするものであることに鑑み,このような場合にまで契約の解除を認める必要はないというものであると解される。 したがって,商法645条2項但書の場合には,告知義務違反の事実と保険事故との間に因果関係がないことが必要であり,告知義務違反の事実を保険者の側において認識又は容易に認識し得るものであったか否かは,上記但書の適用において考慮する必要はないと解するのが相当である。 (2) 上記のとおり,本件において解除の原因となった告知義務違反は,肝機能障害,高血圧,糖尿病及び高脂血症であるから,本件契約19条3項但書の適用があるためには,これらのいずれもが死亡との間に因果関係がない場合であることを要するというべきである。 そうすると ,肝機能障害,高血圧,糖尿病及び高脂血症であるから,本件契約19条3項但書の適用があるためには,これらのいずれもが死亡との間に因果関係がない場合であることを要するというべきである。 そうすると,B意見書によっても,肝機能障害,高血圧,糖尿病及び高脂血症という告知義務違反の事実とAの死亡との間に因果関係がないと認めることはできず,他に告知義務違反とAとの間に因果関係がないと認めるに足りる証拠はない。 なお,B意見書には,「本件被保険者の死亡については,告知しなかった中性脂肪高値や軽度の高コレステロール血症が関与した可能性は薄く,むしろ被保険者の死因である脳出血には,低コレステロール血症が関与するとされている。」との記載がある。 しかし,同意見書には,「被保険者の場合は,…アルコール性肝障害,低栄養,軽度の糖尿病と高中性脂肪血症,軽度の高血圧により,脳血管がもろくなっており」との記載もあることを考慮すると,Aの高脂血症が脳出血の大きな要因となっていたとまではいえないものの,死亡との間に因果関係がないとまでは認めることはできない。 (3) したがって,控訴人の主張は理由がない。 7 争点6(告知義務違反を理由とする解除が信義則に反するか否か)について控訴人は,被控訴人の営業職員であるCは,告知書の作成に際して,控訴人に「いいえ」「なし」欄にマルを打つようにアドバイスをし,保険契約の成立を妨げるような事実が記載されないようにし,控訴人は,営業職員の指示に従い,言われるままに告知書を作成して提出させられたから,告知義務違反を理由とする被控訴人の解除は信義則に反する旨主張する。 上記のとおり,控訴人本人の原審における供述及び同人作成の陳述書(甲17)には,本件告知書の質問事項に回答する際に,Aは風邪をひいたことがあるくらいで, 控訴人の解除は信義則に反する旨主張する。 上記のとおり,控訴人本人の原審における供述及び同人作成の陳述書(甲17)には,本件告知書の質問事項に回答する際に,Aは風邪をひいたことがあるくらいで,入院や手術をしたこともないと述べたところ,Cからすべて「いいえ」に丸印をつけるよう指示され,これに従ったものである旨の部分がある。 しかし,仮に上記の事実があったとしても,Cの指示は,Aに異常がないことを前提としたものであったと解され,異常があることを知りながら異常がないとの虚偽の告知を勧めたものではないし,本件告知書の表題部分には,告知義務違反があった場合には保険金の支払を受けられないことがある旨の記載があるところ,Cがことさらこの記載を隠したと認めるに足りる証拠はない。 したがって,控訴人が告知義務違反を理由に本件契約を解除することが信義則に反するとまではいえない。 よって,控訴人の主張は理由がない。 第4 結論よって,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫裁判官藤田敏裁判官田邊浩典
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