判決平成14年1月30日神戸地方裁判所平成12年(わ)第1504号,平成13年(わ)第42号傷害,道路交通法違反,犯人隠避教唆被告事件 主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.5ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,平成12年8月9日午後7時50分ころ,兵庫県西宮市a町b番付近路上において,普通乗用自動車を運転した第2 前記第1の事実が罰金以上の罪に当たることを知りながら,自己の刑事責任を免れる目的で,同日午後8時ころ,前同所において,前記車両に同乗していたA(当時19歳)及びB(当時18歳)に対し,「A君が運転しとったことにしてくれへんか。」などとそれぞれ申し向けて,自己の身代わりに前記Aが車両を運転していた旨警察に虚偽の申し立てをするよう依頼し,同人らをしてその旨決意させた上,同日午後8時15分ころ,同所において,臨場した兵庫県C警察署地域課所属の司法巡査Dに対し,車両を運転していたのは前記Aである旨それぞれ虚偽の供述をさせ,もって犯人隠避を教唆した第3 前記第1の普通乗用自動車の酒気帯び運転に際して,同車両をガードレールに衝突させる自損事故を起こしたが,同日午後8時ころ,前同所において,事故後の交通整理に当たっていた警備員のE(当時22歳)に対し,同人らの交通整理の不手際で前記自損事故を起こしたなどと因縁を付け,同人の頭髪を掴んで振り回し,その左顔面を右手拳で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に対し,加療約5日間を要する顔面打撲傷,口腔内挫創の傷害を負わせた第4 自損事故を起こしたなどと因縁を付け,同人の頭髪を掴んで振り回し,その左顔面を右手拳で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に対し,加療約5日間を要する顔面打撲傷,口腔内挫創の傷害を負わせた第4 同年11月6日ころから同月10日ころまでの間,犯意を継続して,数回にわたり,神戸市c区d町e丁目f番g号Fh号室G方及び軽4輪乗用自動車内等において,H(当時22歳)に対し,その頭部,顔面,身体等を手拳等で多数回殴打し,多数回足蹴にするなどの暴行を加え,よって,同女に対し,加療約40日間を要する外傷性くも膜下出血,脳挫傷,頭部・顔面・頚部・両肩・腰部・下腿打撲等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明及び弁護人の主張に対する判断) 1 判示第1及び第2の各事実認定についての補足説明(1) 弁護人は,判示第1の事実について,被告人は,普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を運転していなかったし,また,被告人に対する飲酒検知はうがいをさせないでしたものであって,その結果は信用できない旨主張し,判示第2の事実について,被告人は,判示第1の事実の犯人ではなく,AやBに対し,Aが運転していたことにするよう依頼したような事実もない旨主張するので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下補足して説明する.。 (2) まず,関係各証拠によれば,① 被告人及びAは,平成12年8月9日,C球場で行われていた高校野球を大量のビールを飲みながら観戦し,途中からは当時被告人と交際していたBも加わって観戦後,3人で本件自動車に乗車して,同日午後7時50分ころ,兵庫県西宮市a町b番付近路上にさしかかったが,本件自動車は,交通整理をしていたガードマンを避けようとしてガードレールに衝突した。 ② 兵庫県C 本件自動車に乗車して,同日午後7時50分ころ,兵庫県西宮市a町b番付近路上にさしかかったが,本件自動車は,交通整理をしていたガードマンを避けようとしてガードレールに衝突した。 ② 兵庫県C警察署地域課所属の司法巡査Dは,同日午後8時15分ころ,同所において,B及びAに対し,本件自動車を運転していたのは誰かを尋ね,両名からAである旨の供述を得,飲酒検知の結果,呼気1リットルにつき0.35ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったことから,Aを酒気帯び運転の現行犯人として逮捕した。 ③ 被告人は,判示第3の事実のとおり,Eに暴行を加えたことから,同日午後8時25分ころ,暴行の現行犯人として逮捕され,同日午後9時15分ころ,飲酒検知を受けて,呼気1リットルにつき0.5ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったとの結果が出た。 以上の事実が間違いがないものとして認められる。 (3) 証人Aの当公判廷における供述(以下「A証言」という。)は,概略,① 被告人が本件自動車を運転し,Bが助手席に座り,自分が後部座席の真中に座って駐車場を出たが,被告人は,助手席のBの方を見ながら運転していて,交通整理をしていたガードマンに気が付かなかったことから,自分が「ガードマン」と叫び,被告人は,急ハンドルを切って,道路右側のガードレールに衝突した。 ② 被告人は,本件自動車から降車して,集まってきたガードマンに何で道路の真中に立っていたのかなどと因縁をつけていたが,その後,自分の所にやってきて,「A君,君が運転してたことにしてくれへんか。」「物損やから大丈夫や。修理代とかお金は全部俺が払うから。」と言ってきた。 ③ 被告人からは,暴力団と関係があると聞かされていたし,以前には,態度か返事の仕方が悪い たことにしてくれへんか。」「物損やから大丈夫や。修理代とかお金は全部俺が払うから。」と言ってきた。 ③ 被告人からは,暴力団と関係があると聞かされていたし,以前には,態度か返事の仕方が悪いといって殴られた上,仰向けに倒れている上に乗りかかられ,顔のすぐ横に包丁を突き立てて,「殺すぞ。」などと言って脅されるなどしたことがあったため,逆らうと怖いと思い承諾し,被告人が少し前にオービスで速度違反の写真撮影をされ,運転免許の点数があまりないのを知っていてたことから,自分の方から,「Iさん,今,やばいですもんね。」と口にし,その後やって来た警察官に誰が運転していたかを聞かれた際には,自分である旨答え,酒気帯び運転の現行犯人として逮捕された。 ④ 平成12年11月ころには,被告人とはかかわりたくないと思い,連絡を取らないようにしていたが,被告人が逮捕されたのを知り,本当のことを言ってももう仕返しをされないだろうと思い,警察の事情聴取を受けた際に,被告人に頼まれて,本当は被告人が運転していたのに,自分が運転していたと嘘を言ったことを話した。 旨いうのである。 また,証人Bの当公判廷における供述(以下「B証言」という。)は,概略,① 被告人が本件自動車を運転し,自分が助手席に座り,Aが後部座席の中央辺に座って駐車場を出て進行していたが,道路上にガードマンを見かけて,誰かが「危ない。」と叫び,被告人は,右に急ハンドルを切って,道路右側のガードレールに衝突した。 ② 被告人は,本件自動車から降車して,ガードマンのところに行き,何かもめていたが,その後,Aに対し,「運転してたのはA君ということにしといてくれ。」「今度捕まったらやばい。」「修理代とかは後で自分が払う。」などと言い,Aがそれに対して,「はい,分 ころに行き,何かもめていたが,その後,Aに対し,「運転してたのはA君ということにしといてくれ。」「今度捕まったらやばい。」「修理代とかは後で自分が払う。」などと言い,Aがそれに対して,「はい,分かりました。」と返事をしていた。 ③ 被告人は,その後,自分の所にやってきて,「運転していたのはA君にしといてくれ。」と頼んできたが,すでにAがそれを承諾するのを聞いていたので,自分も「分かりました。」と答え,その後やって来た警察官に誰が運転していたかを聞かれた際,Aである旨答えた。 ④ その後数か月して,警察から,Aが本当に運転していたのは被告人であると言っていると聞き,Aがもう本当のことを言っているのなら,それまでずっと嘘をついているという気持ちがあったが,自分ももう本当のことを言っていいし,言わないとだめだと思い,本当は被告人が運転していたことを供述した。 旨いうのである。 A証言とB証言は,これを対比すれば,互いによく符合していることが明らかであるだけでなく,被告人,A及びBが本件自動車に乗り込んだ座席,被告人が本件自動車を運転して衝突事故を起こした状況,被告人がAやBに対してAが運転していたことにするよう依頼した状況,AやBがその依頼を承諾した理由,その後本当は被告人が運転していたことを供述するようになった理由等についていうところが,具体的であるとともに自然かつ合理的なものであるから,十分信用に値するというべきである。 弁護人は,A証言が被告人から一旦本件自動車のキーを渡されたという場所がAの検察官調書と食い違っていること,A証言がガードマンを発見したときの本件自動車の速度やその際のガードマンとの距離としていうところからすれば,ガードマンとの衝突を回避することはできないこと,A証言もB証言も本件 と食い違っていること,A証言がガードマンを発見したときの本件自動車の速度やその際のガードマンとの距離としていうところからすれば,ガードマンとの衝突を回避することはできないこと,A証言もB証言も本件自動車が駐車場から車道に出るときに段差を通過したときの上下動について記憶がないというのは不自然であることなどを挙げ,A証言及びB証言は信用できないというのである。なるほど,弁護人の指摘するような点がA証言やB証言にあることはそのとおりであるけれども,A証言がガードマンを発見したときの本件自動車の速度やその際のガードマンとの距離としていうところは,一瞬の経験についてのものであって,もとより正確に認識できるはずのない事柄であり,また,A証言が被告人から一旦本件自動車のキーを渡されたという場所がAの検察官調書のいうところとやや食い違っているものの,そこに大きな食い違いはなく,その程度の食い違いは時間の経過による記憶の変容ないし曖昧化として了解可能なものであるし,本件自動車が駐車場から車道に出る際に段差を通過して上下動が生じたのかどうかについて,AやBが11か月ないし1年1か月後にまで記憶していなかったとしても,なんら不自然ではないのであるから,弁護人の指摘するような点をもって,前記のA証言やB証言の中心的部分の信用性を疑う根拠とはなしえない。 (4) そして,被告人の検察官調書(乙19)及び警察官調書(乙14ないし17)は,被告人が本件自動車を酒気帯び運転してガードレールに衝突する交通事故を起こし,AやBに対して,Aが運転していたことにしてほしい旨を依頼し,その承諾を得たことについて,明確にこれを認めるとともに,犯行の状況や動機等を具体的かつ詳細に述べるものであって,A証言やB証言とも大筋においてよく符合しているのであるから,被告人が本件自動車 し,その承諾を得たことについて,明確にこれを認めるとともに,犯行の状況や動機等を具体的かつ詳細に述べるものであって,A証言やB証言とも大筋においてよく符合しているのであるから,被告人が本件自動車を酒気帯び運転した上,AやBに対して犯人隠避教唆をしたことを認める部分の信用性は十分というべきである。 弁護人は,被告人の上記の検察官調書及び警察官調書について,被告人が投げやりになり,警察官のいうがままに調書の作成に応じてできたものであるとして,その信用性を争うけれども,被告人の警察官調書(乙13),警察官による弁解録取書(乙24),検察官による弁解録取書(乙25)及び裁判官による勾留質問調書(乙26)によれば,被告人は,判示第1及び第2の各事実で再逮捕された当日から,自らの酒気帯び運転と犯人隠避教唆の事実を認め,警察官の面前のみならず,検察官や裁判官の面前でもこれを認めていたことが明らかであるだけでなく,被告人の上記の検察官調書及び警察官調書が,A及びBが本件自動車に乗り込んだ座席についていうところや,一旦Aに運転させようと思ったものの,やはり自分で運転することにした状況についていうところは,A証言やB証言がいうところと必ずしも同じではなく違いが認められ,被告人が自己の記憶に基づいて供述していることが窺われるのであるから,被告人の上記の検察官調書及び警察官調書について,被告人が警察官のいうがままに虚偽の自白をしたなどという疑いを容れるには至らない。 (5) さらに,被告人が本件当日の午後9時15分ころ,飲酒検知を受けて,呼気1リットルにつき0.5ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったとの結果が出たことは,前記認定のとおりであるところ,証人Jの当公判廷における供述(以下「J証言」という。)は,飲酒検知に際しては水でう につき0.5ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったとの結果が出たことは,前記認定のとおりであるところ,証人Jの当公判廷における供述(以下「J証言」という。)は,飲酒検知に際しては水でうがいをさせることになっており,本件においても被告人をトイレに連れて行き水でうがいをさせた旨明確に述べるものである上,警察官作成の捜査復命書(甲61)によれば,被告人に対する上記の飲酒検知の際に使用された飲酒検知管送付用封筒には「うがいをさせた」との記載があるから,被告人に飲酒検知の前に水でうがいをさせたことは間違いがないと認めるのが相当であるだけでなく,被告人自身,C球場で高校野球を観戦しながら,相当に大量のビールを飲酒したことを認めているのであって,そのいう飲酒量からすれば,前記のような飲酒検知の結果が出ることに何の不思議もないのであるから,その飲酒検知結果の信用性に疑いを容れるべき理由は存しない。 (6) 被告人の当公判廷における供述(以下「被告人の公判供述」という。)は,本件自動車には後部座席に乗った記憶があるから,自分は運転していなかった,AやBに対して,Aが運転していたことにしてくれと頼んだことはない,逮捕された後,飲酒検知はされたが,その前にトイレでうがいをしたことはないなどというものであるが,検察官作成の捜査報告書(甲77)及び被告人の警察官調書(乙17)によれば,被告人自身がG(以下「G」という。)に対し,本件酒気帯び運転をしながらAに身代わりを依頼して犯人隠避教唆の罪を犯したことを話していたところ,Gが判示第4の事実に関して警察官から事情を聞かれた際にそのことをも話したことから,警察官がAから改めて事情を聴取するなどの捜査が行われるに至ったことが認められるのであるから,上記の被告人の公判供述は,上記のA証言やB証言あるい から事情を聞かれた際にそのことをも話したことから,警察官がAから改めて事情を聴取するなどの捜査が行われるに至ったことが認められるのであるから,上記の被告人の公判供述は,上記のA証言やB証言あるいは被告人の検察官調書及び警察官調書,更にはJ証言に比して,その信用性が乏しく,自らの刑責を免れあるいは軽減するための虚偽のものであると断ぜざるを得ない。 (7) 以上のとおりであるから,判示第1及び第2の各事実は優にこれを認めることができる。 2 判示第3の事実についての弁護人の主張に対する判断(1) 弁護人は,判示第3の事実について,検察官が一旦起訴猶予の裁定をしていたこと,検察官は,被告人が判示第1及び第2の各事実を犯していることが判明したため,改めて処分を検討する必要性が生じたとしているが,被告人が判示第1及び第2の各事実を犯したわけではないこと,被告人が判示第3の事実で現行犯逮捕された際に警察官から暴行を受けるなどの違法行為が存在したことなどを理由として,本件公訴提起は公訴権を濫用したものであるから,公訴を棄却すべきである旨主張する。 (2) しかしながら,検察官が一旦起訴猶予の裁定をしていたとしても,それによって公訴権が失われるわけではなく,新たな事情が生じたり判明したりなどして,検察官が公訴提起するのが相当であると判断した場合には公訴を提起できるものと解せられるところ,検察官作成の捜査報告書(甲77)によれば,検察官は,判示第3の事実について,当初は,被告人が判示第1及び第2の各事実を犯したことが判明していなかったことから,被告人がAの自損事故の原因を被害者のガードマンにあると思い込んで暴行を加え傷害を負わせた事案であるとの認識に基づき,被告人が逮捕の翌日には自白をしたことや被害者の傷害の程度が軽微であったこと,被害者 人がAの自損事故の原因を被害者のガードマンにあると思い込んで暴行を加え傷害を負わせた事案であるとの認識に基づき,被告人が逮捕の翌日には自白をしたことや被害者の傷害の程度が軽微であったこと,被害者との間に示談が成立し,被害者からの嘆願書も提出されたことなどを考慮して,被告人を起訴猶予処分にしていたが,その後,判示第1及び第2の各事実が明るみに出て,被告人自身が,酒気帯び運転の罪を犯し,自損事故を起こしながら,Aを身代わりにする一方,事故の原因を被害者のガードマンにあると一方的に決め付けて暴行を加え傷害を負わせた事案であることが判明したことから,必要な捜査を遂げた上,本件公訴提起に至ったものであることが認められ,前示のとおり,被告人が判示第1及び第2の各事実を犯したことは優に認定できるところであるから,検察官が判示第3の事実について公訴を提起したことが,その合理的な裁量の範囲内にあることは明らかである。また,被告人が警察官に現行犯逮捕された際に暴行を受けるなどしたことが仮に事実であったとしても,それによって検察官の公訴権が制約を受けるべきいわれは存しない。 してみると,判示第3の事実について,本件公訴提起が公訴権を濫用してなされたものということはできず,弁護人の上記主張は理由がない。 3 判示第4の事実認定についての補足説明(1) 弁護人は,判示第4の事実について,被告人が,平成12年11月6日午前5時半か6時ころ,判示第4のG方において,H(以下「被害者」という。)の膝付近を2回,頭を1回平手ではたき,同月9日夜,被害者の軽4輪乗用自動車内及びその車外において,被害者の髪の毛を引っ張り,顔を平手で3回くらい叩き,太股あたりを1回蹴る暴行を加えたことはあるけれども,被害者に対しそれ以上の暴行を加えたことはなく,判示の傷害は被 自動車内及びその車外において,被害者の髪の毛を引っ張り,顔を平手で3回くらい叩き,太股あたりを1回蹴る暴行を加えたことはあるけれども,被害者に対しそれ以上の暴行を加えたことはなく,判示の傷害は被告人の暴行によって生じたものではない旨主張するので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,補足して説明する。 (2) まず,関係各証拠によれば,被害者は,平成12年11月6日午前3時ころ,被告人の居住していた判示第4のG方に赴き,同月10日ころまでの間に,判示の傷害を負い,同日ころから同月21日までの間,G方において,身動きができず,下半身の感覚が失われ,オムツをした状態で放置され,同月21日になって,被害者の父親に見つけられ,救出され病院に搬送されたこと,被害者の軽4輪乗用自動車は被害者の父親によって発見されたが,ワイパーレバーが根元から折れ,オーディオのデジタル表示画面がめり込み,エアコンの調節レバーが破損しており,フロントガラス,助手席,助手席足元のマット,助手席側シートベルト,助手席側後部座席,車両前部のダッシュボード,助手席側ドア,助手席側後部ドア等に血痕付着ないし血痕付着反応が存したことなどが間違いのない事実として認められる。 (3) 証人Gの当公判廷における供述(以下「G証言」という。)は,概略,① 被告人は,平成12年11月6日午前2時か3時ころから同日午前7時ころまで,G方において,被害者を怒鳴りながら問い詰め,その間,被害者の体を3,40回くらい殴ったり蹴ったりした。 ② 被告人は,同日午後11時ころから,G方において,被害者を問い詰め,その間,被害者の体に同様に暴行を加え,同月7日夜も同様に暴行を加えていたかもしれないが,今はもう記憶がはっきりしない。 ③ 被告人と被害者は,同月10日 ら,G方において,被害者を問い詰め,その間,被害者の体に同様に暴行を加え,同月7日夜も同様に暴行を加えていたかもしれないが,今はもう記憶がはっきりしない。 ③ 被告人と被害者は,同月10日午前3時ころ,G方に戻ってきたが,その際,被害者の両目のまぶたが腫れ,唇が切れて血が出ており,Gの問いに対し,被告人が「殺す勢いでやってやった。」と言っていた。 ④ 被告人から被害者の軽4輪乗用自動車を掃除するよう頼まれて見たところ,助手席のシートに血がべっとりと付き,助手席の窓ガラスとフロントガラスに血が飛び散り,足元には髪の毛がたくさん落ちていて,ワイパーのスイッチやCDコンポが壊れていた。 ⑤ 被告人は,同日夜遅くから,被害者の背中,腹,顔等を10回から15回くらい蹴って,被害者の後頭部付近が窓枠にぶつかり,被害者が動かなくなった後,間もなく気づいたものの,両手両足がしびれて動かないと言い,失禁するようになった。 ⑥ 自分は,被告人に対し救急車を呼ぼうと言ったが,被告人は,今,救急車を呼べば捕まるから,被害者の打撲傷が引いた後に,被害者が階段から落ちたことにして救急車を呼ぼうと言っており,自分は,被告人からそれまでに何度か殴られたり蹴られたりの暴行を受けたことがあって,被告人が怖く逆らえなかった。 旨いうのである。 また,証人Hの当公判廷における供述(以下「被害者証言」という。)は,概略,① 被告人は,平成12年11月6日午前3時すぎころからGが出かける前少し前ころまで,G方において,被害者を問い詰め,その間,被害者の腹,背中等を蹴ったり,殴ったりを繰り返した。 ② 被告人は,同日夜,G方において,被害者を問い詰め,その間,被害者の体に2,30回同様な暴行を加え,同月7日夜も暴行を加 め,その間,被害者の腹,背中等を蹴ったり,殴ったりを繰り返した。 ② 被告人は,同日夜,G方において,被害者を問い詰め,その間,被害者の体に2,30回同様な暴行を加え,同月7日夜も暴行を加えたかどうか,今はもう記憶がはっきりしない。 ③ 被告人は,同月9日夜,被害者の軽4輪乗用自動車内において,自動車のワイパーのノブやカーステレオのあたりを蹴り,被害者の髪の毛を引っ張って顔を持ち上げたり,手拳や平手で顔を殴ったり,蹴ったりするなどの暴行を2,30回くらい加えたため,被害者は鼻血を出したり,口が切れて血が出たり,フロントガラスで顔を打ったりした,被害者が自分でダッシュボードや窓ガラスに頭や顔をぶつけたようなことはない。 ④ 被害者は,その後どのようにしてG方に戻ったか,G方でまた被告人から暴行を受けたかどうか覚えておらず,気づいたときには,G方で寝かされていて,足が思うように動かせないし,手にも力が入らず,オムツをされていた。 ⑤ 被告人からは,医者に連れて行くとか,救急車を呼ぼうとかの話はなく,被告人から救急車を呼ぼうと言われたのに,自分が断ったということはない,自分の方からは,被告人が自分を病院に連れて行きたくないのだと思い,救急車を呼んでほしいなどとは怖くて言えなかった。 旨いうのである。 G証言と被害者証言は,これを対比すれば,互いによく符合していることが明らかであるだけでなく,被害者の受傷状況,被害者の軽4輪乗用自動車内の損傷や血痕・血液反応の付着状況等の客観的事実とよく合致し,被害者が重篤な傷害を負いながら,医師の治療を受けないまま約10日間も放置されていたことをも合理的に説明するものであるから,十分信用に値するというべきである。 (4) 被告人の公判供述並びに被告人の検察官調 な傷害を負いながら,医師の治療を受けないまま約10日間も放置されていたことをも合理的に説明するものであるから,十分信用に値するというべきである。 (4) 被告人の公判供述並びに被告人の検察官調書(乙5ないし7)及び警察官調書(乙4)は,被告人が,平成12年11月6日午前5時半か6時ころ,G方において,被害者が寝ているので起こそうとしてその膝付近を2回,頭を1回平手ではたき,同月9日夜,被害者の軽4輪乗用自動車内において,被害者が足をバタバタさせて蹴ったりダッシュボードに頭をぶつけたりしたので,やめさせるためその髪の毛を引っ張って,顔を平手で3回くらい叩き,また,被害者が車外に飛び出して,被告人と別れるのが嫌だから死ぬと言って自動車に飛び込もうとするので,ちょっと待てと被害者の太股あたりを1回蹴る暴行を加えたことはあるけれども,被害者に対しそれ以上の暴行を加えたことはなく,判示の傷害は被告人の暴行によって生じたものではない,被害者の軽4輪乗用自動車のワイパーレバーは被害者自身が壊し,カーステレオは被害者と自分で壊した,同月10日夜に被害者が階段の下で倒れていて階段から落ちたようだった,同月11日朝から,被害者が体が動かないと言い出したので,毎日のように病院に行こうと言ったが,被害者は,こんな体で病院に行ったら被告人に迷惑がかかるし,被告人と離れたくないと言って,病院に行くのを拒んでいたなどというのである。 しかしながら,被告人のいうような状況では,被害者の軽4輪乗用自動車内の損傷や血痕・血液反応の付着が生じたり,被害者の顔面特に眼瞼の打撲傷や結膜の負傷が生じたりするとは思われないこと,被害者が自らダッシュボードに頭をぶつけたり,自分の自動車のワイパーレバー等を自分で壊すというのも不自然かつ不可解であること,被告人は,被害者 の打撲傷や結膜の負傷が生じたりするとは思われないこと,被害者が自らダッシュボードに頭をぶつけたり,自分の自動車のワイパーレバー等を自分で壊すというのも不自然かつ不可解であること,被告人は,被害者が自分と別れたり離れたりするのを嫌がっていたというのであるが,被害者は,携帯電話の番号を変えても被告人に教えず,被告人から自宅にかかってきた電話にも出ないようにするなど,被告人から被害者への連絡がなかなか取れないような状況があったことなどからすれば,被害者が被告人と別れたり離れたりするのを嫌がっていたとは考え難いこと,若い女性である被害者が,足や手に障害が生じ,失禁してオムツを当てているような状態になっていながら,病院に行くことや救急車を呼ぶことを拒むとは考えられないし,被告人のこの点に関する説明は到底納得できるものではないこと,被害者が本当に階段から落ちて受傷したのであれば,病院に連れて行ったり救急車を呼んだりすることに躊躇する理由はないにもかかわらず,被告人がそれをしなかったのは,G証言のいうように,被告人が被害者に加えた暴行による打撲傷が引くのを待つためであると考えるのが自然であることなどからすれば,上記の被告人の公判供述等は全く信用できず,もちろん被害者が階段から落ちた事実などなかったと認めるのが相当である。 (5) 以上のとおりであるから,判示第4の事実は優にこれを認めることができる。 (法令の適用)罰条判示第1の行為道路交通法119条1項7号の2,65条1項,同法施行令44条の3判示第2の行為各人につき刑法103条,61条1項判示第3の行為刑法204条判示第4の行為包括して刑法204条刑種の選択判示各罪についていずれも懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,47 条,61条1項判示第3の行為刑法204条判示第4の行為包括して刑法204条刑種の選択判示各罪についていずれも懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重)宣告刑懲役5年未決勾留日数の算入刑法21条(240日)訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は,被告人が,酒気帯び運転をして(判示第1),その責任を同乗者に押し付けるため犯人隠避を教唆し(判示第2),また,その際物損事故を起こした原因を交通整理をしていたガードマンにあるとして暴行を加えて判示の傷害を負わせ(判示第3),更には交際していた女性に対し,約5日の間に数回にわたり,暴行を加えて判示の傷害を負わせた(判示第4)という事案である。 判示第1の犯行は,被告人が,Cでの高校野球の観戦中に多量のビールを飲みながら,普通乗用自動車の酒気帯び運転に及んだというものであって,酒気帯び運転の動機にもとより酌むべきものはなく,酒気帯びの程度も高く,運転開始後間もなく物損事故を起こす実害をも生じていること,判示第2の犯行は,被告人が,判示第1の犯行についての自らの刑事責任を免れるため,未成年の同乗者が運転していたことにするよう,同乗者らに依頼したというものであって,その行為は卑劣であるだけでなく,実際に誤った刑事処分を招く危険も小さくなかったこと,判示第3の犯行は,被告人が,物損事故を起こした原因を交通整理をしていたガードマンにあると一方的に決め付けて暴行を加え傷害を負わせたというものであって,犯行の動機原因は自己中心的で理不尽というほかないこと,判示第4の犯行は,被告人が,交際していた女性に対し,約5日の間に数回にわたり,その頭 的に決め付けて暴行を加え傷害を負わせたというものであって,犯行の動機原因は自己中心的で理不尽というほかないこと,判示第4の犯行は,被告人が,交際していた女性に対し,約5日の間に数回にわたり,その頭部,顔面,身体等を手拳等で多数回殴打し,多数回足蹴にするなどの暴行を加え傷害を負わせたというものであって,暴行の程度は高く,その態様はまことに執拗であること,その結果,被害女性に対し,加療約40日間を要する外傷性くも膜下出血,脳挫傷,頭部・顔面・頚部・両肩・腰部・下腿打撲等の傷害を負わせたものであって,傷害の程度も相当に重いものであること,被告人は,受傷後,足や手に障害が生じ,失禁してオムツを当てているような状態にある被害女性を病院に連れて行ったり救急車を呼んだりすることなく,約10日間も放置していたものであって,犯行後の態度も非常に悪質であること,被害女性には,両下肢麻痺(特に左足)の機能障害が残存しており,痙性麻痺が完全に消失することはなく,単独で社会生活を営めるようになるにも数年が必要であるなど,深刻な後遺症が残っていること,現在に至るも,被告人の側から被害女性に対する損害賠償等の措置は何ら取られておらず,被害女性側の被害感情には非常に厳しいものがあること,被告人は,判示第3の犯行以外の犯行については,不自然不合理な弁解を重ねて自己の責任を免れようとしていて,真摯な反省悔悟の情は窺えないことなどを考え併せると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 また,被告人には,平成9年6月に傷害(同棲中の女性の異性関係を疑い,その女性に殴る蹴るなどの暴行を加え傷害を負わせたもの)の罪で懲役1年6月,3年間刑執行猶予の判決を受けた前科があることや,被告人には相手が自己の意に沿わない言動をしたときなどに安易に暴力を振るう傾向が窺える 殴る蹴るなどの暴行を加え傷害を負わせたもの)の罪で懲役1年6月,3年間刑執行猶予の判決を受けた前科があることや,被告人には相手が自己の意に沿わない言動をしたときなどに安易に暴力を振るう傾向が窺えることも,量刑上看過するわけにはいかない。 してみると,判示第3の犯行による傷害の程度は比較的軽微であること,被告人もこの犯行については事実を認め,被害者に金10万円を支払って示談を成立させ,被害者から被告人に対する寛大な処分を求める旨の嘆願書を得て,一旦は不起訴処分になっていたこと,被告人の父親が被告人の更生への協力を約束していること,前記の執行猶予は取り消されることなく,その期間が満了していること,被告人が本件で1年余りの間身柄拘束を受けていることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役6年)よって,主文のとおり判決する。 平成14年1月30日神戸地方裁判所第12刑事係甲裁判官森岡安廣・
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