平成14(う)201 現住建造物等放火(原審認定罪名非現住建造物等放火),詐欺被告

裁判年月日・裁判所
平成14年12月16日 名古屋高等裁判所
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判決文本文14,244 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役12年に処する。 原審における未決勾留日数中270日を刑に算入する。 原審における訴訟費用は被告人に負担させる。 理由 本件各控訴の趣意は,弁護人小栗厚紀及び検察官足立敏彦作成の各控訴趣意書記載のとおりであり,これらに対する各答弁は,検察官磯部泰一及び弁護人小栗厚紀作成の各答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。 第1 弁護人の控訴趣意について 1 論旨は,被告人は,B1に,原判示第1のパチンコ「D」(以下,「本件建物」という。)への放火(以下,「本件放火」という。)を依頼したことはないのに,被告人から本件放火を依頼されたとのB1の原審公判供述(以下,「B1の供述」という。)を信用できるとして,本件放火について被告人とB1ら共犯者らとの共謀を認めるとともに,詐欺罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。 2 本件放火がB1ほか4名の共犯者らによって実行されたことは関係証拠上明らかであるが,被告人は,B1ら共犯者らとの共謀を一貫して否認しているとともに,本件放火が被告人の依頼に基づいてB1ら共犯者らが実行したことを示す直接的証拠はB1の供述しかないから,その供述の信用性については,慎重な検討を要することは,弁護人指摘のとおりである。 しかし,原判決が,(事実認定の補足説明)(以下,単に「補足説明」という。)で,B1の供述の信用性について詳細に検討し,被告人から本件放火を依頼されたとするB1の供述は十分に信用できるのに対し,これに反する被告人の供述は信用できないとして,被告人とB1との間に本件放火についての共謀があったと認定説示するところは,全て正当として是認することができる。 3 まず,B 分に信用できるのに対し,これに反する被告人の供述は信用できないとして,被告人とB1との間に本件放火についての共謀があったと認定説示するところは,全て正当として是認することができる。 3 まず,B1の供述の信用性についてみるに,B1の供述の要旨は,原判決が補足説明の第2の1(1)で摘示するとおりであるが,原判決が指摘するように,本件放火の実行犯らのうち,B1を除く4名はB1から頼まれて本件放火に加担したものであるうえ,B1自身も,本件建物や,本件建物でパチンコ店を営業していた株式会社E(以下,「E」という。)と何らの利害関係もなく,B1ら実行犯らには自らの事情で本件建物に放火する動機があったとは考えられない。他方,被告人は,本件建物を所有するF株式会社(以下,「F」という。)の代表取締役で,同社は本件建物に高額の店舗総合保険を掛けており,火災等により損害が発生した場合には多額の保険金が支払われることになっていたが(現に,合計約1億5000万円の保険金が支払われた。),本件放火当時,被告人は同社の資金繰りに窮しており,被告人には本件放火の動機となり得る事情があったうえ,被告人とB1は,かねてからお互いを「弟」,「兄貴」と呼び合い,B1がFの資金調達に当たるなど極めて親密な関係にあったことが認められる。 これらの事実にかんがみると,被告人から依頼されたとするB1の供述は,本件放火の動機となり得る事情がある者は誰かとの観点からはもとより,B1に本件放火を依頼できる者は誰かとの観点からみても,本件関係証拠から認められる客観的状況と良く符合しており,不自然・不合理なところはない。 のみならず,B1は,被告人から本件放火を依頼されるに至った経緯,被告人から報酬として300万円を受け取ったことや,本件放火後にはB1がFに出入りしなくなっ り,不自然・不合理なところはない。 のみならず,B1は,被告人から本件放火を依頼されるに至った経緯,被告人から報酬として300万円を受け取ったことや,本件放火後にはB1がFに出入りしなくなったこと,被告人の言動を含む本件放火後の状況等についても具体的かつ詳細に供述しているが,その供述するところは迫真性に富んでいるうえ,弁護人の反対尋問によってもゆらいでいないだけでなく,さらに,本件放火の共犯者の一人であるB2に指示して被告人から提供された300万円の報酬を取りに行かせたとする点などその重要な部分については,B2の供述やFの当時の総務部長Gの供述等の他の証拠によって裏付けられている。 加えて,B1は,本件放火についての自身の公判の途中までは犯行を否認していたが,その後,被告人の依頼で自分が中心となって本件放火を実行したことを認めるに至り,自身の裁判確定後も,被告人の原審公判廷で同じ内容の供述をしている。その供述内容をみると,被告人から本件放火を依頼されたが,具体的なことは全て任され,放火の時期,方法などは被告人に相談することなく自分で決めたことなどを率直に供述しており,被告人に責任を転嫁して自己の刑責を軽くしようとする様子はみられないし,被告人以外に本件放火の依頼者がいてこれをかばっているような様子などはもとよりうかがえない。 これらの事情に照らすと,B1の供述の信用性は極めて高いというべきである。 他方,B1との間で本件放火の共謀をしたことはなく,本件放火後にB1に本件放火の報酬を渡したこともないなどとする被告人の供述は,原判決が説示するように,軽視できない矛盾や不自然な変遷があるばかりか,他の関係者らの供述と符合しないところも多く,たやすく信用できない。 そして,B1の供述を含む関係各証拠によれば,被告人がB1に本件建 説示するように,軽視できない矛盾や不自然な変遷があるばかりか,他の関係者らの供述と符合しないところも多く,たやすく信用できない。 そして,B1の供述を含む関係各証拠によれば,被告人がB1に本件建物への放火を依頼し,これを承諾したB1との間で本件放火の共謀が成立し,さらに,B1を介して順次他の共犯者らとの間で共謀が成立したことが優に認められる。 4 さらに,これを所論に則して若干補足すると,以下のとおりである。 (1) 所論は,原判決が被告人に本件放火の動機となり得る事情がある根拠として,本件建物の喪失により被告人の得る利益がその損失よりもはるかに大きいことを挙げているが,その損益を計算すると,とうていそのように判断できず,根拠に誤りがある,という。 しかし,原判決が補足説明の第2の2で認定説示するところをみれば,原判決は,本件建物の喪失によって生じる客観的な利益と損失をとらえて,その利益が損失よりもはるかに大きいとしているのではなく,本件放火当時,被告人が,その置かれていた状況の下で,本件建物の喪失によって得る利益と損失についてどう考えていたかを問題としていることが明らかである。 すなわち,原判決は,関係各証拠によって認められる本件放火後の被告人の言動や本件放火当時のFの資金繰りの状況等を検討したうえで,本件放火当時,被告人には,本件建物が焼失した場合に,Eから前払いを受けていた本件建物の賃料等を返還する意思はもとより,返還しなければならないとの認識もなかったこと,被告人は,本件放火直後の時点では,支払われるべき保険金が現実に受け取ったものよりも多額であり,しかもこれが早期に支払われるものと予想するとともに,本件建物内のリース物件についても,保険金が下りるものと考えていたこと,本件放火当時,Fが資金繰りに窮していた に受け取ったものよりも多額であり,しかもこれが早期に支払われるものと予想するとともに,本件建物内のリース物件についても,保険金が下りるものと考えていたこと,本件放火当時,Fが資金繰りに窮していたため,被告人はすぐにでも決済資金が必要であると考えていたことなどを認定したうえで,これらの諸事情を総合して,「Fの資金繰りに窮していた被告人にとっては,本件放火によって,多額の保険金を早期に受け取ることができる利益があり,他方,本件建物はEに賃貸して前払家賃などを受け取っていたため,本件建物についての公租公課のみを払う状態であったことから,被告人には本件建物が使用不能になることについての当面の不利益はあまりなかったのであるから,当面の資金繰りをしのぐという面からすると,本件建物の喪失によって得る利益の方がその損失よりはるかに大きいことになる」旨判断して,被告人には本件放火の動機となり得る事情があるとしたものであって,関係証拠に照らすと,この原判決の認定判断は正当として是認することができる。 なお,所論は,保険金を当てにしなければならないほどFの資金繰りがひっぱくしていたわけではない,ともいう。 しかし,本件放火当時,Fが20億円以上の負債を負い,被告人自身も2億円以上の負債を負って資金繰りに窮していたことは,関係者らの供述や,Fの負債関係に関する捜査報告書等の関係証拠によって明らかである。 (2) さらに,所論は,被告人が,本件放火より前に本件建物に関する保険契約の保険金額を減額しているうえ,被告人自身は,本件火災に関する事故報告にも全く関与していないなど,本件保険金請求手続への被告人の関与も積極的なものではなく,これらの事情は,本件建物への放火の動機がなかったことを示している,という。 確かに,関係証拠によれば,被告人は,平成9年4月に ないなど,本件保険金請求手続への被告人の関与も積極的なものではなく,これらの事情は,本件建物への放火の動機がなかったことを示している,という。 確かに,関係証拠によれば,被告人は,平成9年4月に,Hとの間の本件建物を対象とする店舗総合保険契約につき,保険金総額を2億5895万6000円から2億5000万円に減額したことが認められる。しかし,その減額は,本件建物の賃貸に伴い,パチンコ店の営業主体がFからEに移ったため,上記店舗総合保険契約のうち商品一式に関する分(保険金額895万6000円)については契約の更新をしなかったことによるものであることが明らかである。また,被告人は,同年10月にも,Iとの間の同様の店舗総合保険契約につき,保険金総額を8000万円から3000万円に減額していることが認められるが,その減額は,保険金請求権の上に質権を有していたJ株式会社等からの融資額が減ったことに伴うものにすぎないことが,これまた明白である。 そうすると,所論指摘の保険金額の減額は,いずれも保険契約に関する事情の変更に伴ってなされたものであって,被告人に本件放火の動機がないことを示唆するような事情とはいえないことは,改めて詳論するまでもないところである。 また,保険金請求手続の事務を,被告人自身ではなく,Fの総務部長であったGや保険代理店のKが中心となって行ったことも,事務処理の在り方として,いわば当然というべきであり,被告人が保険金請求に無関心であったことを示すものとはいえない。のみならず,却って,Kの警察官調書(原審甲126号証)によれば,被告人は,平成10年6月ころには,Kに本件保険金請求手続を急ぐよう催促し,Eに休業補償金が支給されたことを耳にした同年8月ころにも重ねて催促したことが認められ,これらの事実に照らせば,被告人が保険 告人は,平成10年6月ころには,Kに本件保険金請求手続を急ぐよう催促し,Eに休業補償金が支給されたことを耳にした同年8月ころにも重ねて催促したことが認められ,これらの事実に照らせば,被告人が保険金の支払いに強い関心を寄せていたことが明らかである。 (3) 以上のとおり,所論が指摘する諸点は,いずれも被告人とB1ら共犯者らとの本件放火の共謀を認めた原判決の認定に合理的な疑いを抱かせるものではないというべきである。 その他,所論がるる主張する点にかんがみつつ子細に検討しても,本件放火について,被告人とB1ら共犯者らとの共謀を認めるとともに,本件詐欺罪の成立を認めた原判決の事実認定は正当であり,原判決には所論のような事実の誤認はない。 弁護人の論旨は理由がない。 第2 検察官の控訴趣意について 1 論旨は,(1)本件犯行当時,被告人が本件建物に人が居住しているのを認識していたことは明らかであるのに,被告人には本件建物の現住性の認識がなかったとして,非現住建造物等放火罪を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,(2)被告人を懲役10年に処した原判決の量刑が軽過ぎて不当である,というのである。 2 事実誤認の主張について(1) 原判決は,被告人が本件建物の賃貸借契約時などに,E側から本件建物に店長夫婦が住むことになる旨を知らされたことは認められるものの,本件放火当時,被告人がこのことを忘れていた可能性を否定できないとしている。 そこで,これらの点に焦点を当てつつ,本件放火当時における被告人の現住性の認識の有無について,検討を進めることとする。 (2) 原判決は,被告人が,E側から,本件建物の2階に店長夫婦が住むことになる旨を知らされていたか否かの認定判断に先立って,Dの店長C1,Eの常務 認識の有無について,検討を進めることとする。 (2) 原判決は,被告人が,E側から,本件建物の2階に店長夫婦が住むことになる旨を知らされていたか否かの認定判断に先立って,Dの店長C1,Eの常務取締役L,同社の代表取締役Mの原審公判廷における各供述の信用性を詳細に検討し,C1やLの各供述は信用でき,Mの供述もLの供述に符合する限度で信用できる旨説示しているが,その説示するところは,弁護人が上記C1ら3名の各供述は信用できないとしてるる指摘する点を考慮しつつ検討しても,正当として是認することができる。 これに対し,被告人は,本件建物の2階を改装して人を住まわせるとの話は聞いていないと述べているが,この被告人の供述が信用できないことも原判決の説示するとおりである。 そして,上記C1ら3名の各供述によれば,平成8年6月30日及び被告人とEとの間で本件建物の賃貸借契約が締結された同年7月17日には,Mが被告人に対し,本件建物2階の食堂部分を居住用に改装して従業員を住まわせたい旨申し入れ,被告人はその申入れを了承したこと,同年8月中旬ころ,本件建物1階の改装現場において,Lが被告人にC1を店長であるとして紹介し,被告人とC1があいさつを交わし,さらに,Lから,2階の改装工事の着工が遅れており,着工が9月になることや,そのため当時,C1はビジネスホテルに住んでいることなどが説明されたこと,同年9月中旬ころにも,LがC1ともども被告人を改装中の本件建物2階に案内し,改装工事が終わり次第,C1夫婦がそこで住むことになる旨を重ねて伝えたことが認められる。 被告人がE側から本件建物の2階に店長夫婦が住むことになる旨を知らされていたとの原判決の認定は,正当である。 (3) 前記(2)において認定したとおり,E側から被告人に対し,本件建物の められる。 被告人がE側から本件建物の2階に店長夫婦が住むことになる旨を知らされていたとの原判決の認定は,正当である。 (3) 前記(2)において認定したとおり,E側から被告人に対し,本件建物の賃貸借契約締結時とその前後にわたって合計4回も本件建物の2階に人が居住することになる旨が伝えられているが,その回数もさることながら,最後の時は,居住用に改装工事が現に進められているその現場で,しかも居住予定者である当のC1本人も同席している場で,改装工事が終わり次第,夫婦でそこに住むことになる旨伝えられていること等にかんがみると,被告人は,本件建物の2階が居住用に改装され,そこにC1夫婦が住むことをかなり強く印象付けられ,脳裏に刻まれていて当然というべきである。 のみならず,本件建物は,被告人が代表取締役を務めるFの所有物件であることに加え,関係証拠によれば,同社事務所と本件建物は約80メートルしか離れておらず,同事務所のあるビルの南側を東西に通じる道路上からは,本件建物2階のC1夫婦の居住部分の窓側が正面に見え,同道路を東進する場合には,その居住部分の様子をかなり詳しく見てとることができること(原審甲22号証),被告人は左目を失明しているとはいえ,本件放火当時,日常生活に格別の支障はなかったばかりか,事実上車の運転もしていて,しばしば自動車で同社事務所前から同道路を東進し,本件建物付近を通行しており,被告人が至近距離から本件建物の2階部分の状況を知る機会も少なからずあったとみられること,C1夫婦は本件建物の2階部分に1年半以上住んでおり,C1の妻は,居住部分の窓側に昼間布団や洗濯物を干すなどしていたこと,C1は本件建物の近くで被告人と出会い,会釈を交わしたことがあったこと等の事実が認められ,これらの事実に照らすと,被告人が本件建 C1の妻は,居住部分の窓側に昼間布団や洗濯物を干すなどしていたこと,C1は本件建物の近くで被告人と出会い,会釈を交わしたことがあったこと等の事実が認められ,これらの事実に照らすと,被告人が本件建物2階の居住部分を目にした時やC1と出会った折りなどに,本件建物2階にC1夫婦が居住していることの記憶を新たにし,本件放火当時も,その記憶を保持していたものと優に推認することができ,本件放火当時には,被告人がその記憶を失っていたとはとうてい考えられない。 さらに,本件放火後の被告人の言動をみても,本件放火当時,被告人が本件建物の2階にC1夫婦が居住していることを承知していたことが明らかである。 すなわち,関係証拠によると,本件放火後,Eから本件建物の修繕ないし原状回復を求められたFは,その対応を顧問弁護士であったN弁護士に依頼したところ,N弁護士は,受領済みの前払賃料の返還を免れるために賃貸借契約を維持するとともに,多額に上ると予想される修繕費用をできるだけ多くEに負担させるべく,交渉の中で,E側の落ち度を指摘していく方針を採ることとし,その旨を被告人に説明して了承を得たうえ,その方針に基づいて,Eとの交渉を進めたことが認められる。 この事実にかんがみると,仮に,被告人の知らない間に,本件建物の2階にC1夫婦が居住していたというのであれば,重大な契約違反であり,これをE側の落ち度と指摘し,Eとの交渉材料とするのが当然と考えられる(ちなみに,関係証拠によると,被告人は,本件建物の駐車場をEが無断で他に転貸した旨の虚偽の事実をN弁護士に告げ,このような虚偽の事実までもEとの交渉材料として利用させていることが認められる。)。ところが,N弁護士が供述するところによれば,被告人からその旨の指摘を受けたことはない,というのであり, 士に告げ,このような虚偽の事実までもEとの交渉材料として利用させていることが認められる。)。ところが,N弁護士が供述するところによれば,被告人からその旨の指摘を受けたことはない,というのであり,さらに,本件全証拠を子細に検討しても,FとEとの一連の交渉の過程で,C1夫婦居住の事実がE側の契約違反ないし落ち度としてF側から指摘・主張されたことをうかがわせるものも一切見当たらない。 そうすると,被告人は,本件建物に関して,本件放火後に生じたEとの紛争の解決を自ら依頼した当のN弁護士に対してすら,Eが無断でC1夫婦を本件建物の2階に居住させていたとは告げていないと認められるが,このことは,本件建物の2階にC1夫婦が居住していることを被告人が承知していただけにとどまらず,これを容認していたことを強くうかがわせるというべきである。 以上の次第であるから,本件放火当時,被告人が本件建物の2階にC1夫婦が居住していたことを認識していたことは,関係証拠に照らし明らかである。 (4) ところが,原判決は,被告人が本件建物の2階にC1夫婦が居住していたことを忘れていた可能性があることを否定できないとしている。そこで,原判決が掲げるその理由の主要な点について,念のため,付言しておくこととする。 ア原判決は,被告人が本件放火以前にB1に対し本件建物に人は住んでいない旨告げたことを挙げ,仮に,被告人が本件建物の2階に人が住んでいるものと認識していたのであれば,放火の実行犯がその者に目撃されたり,逮捕されたりすると,被告人の身も危なくなるから,B1に対し人が住んでいる旨をあらかじめ告げて,注意を促すのが自然であり,B1に対し,人は住んでいないと述べた被告人の言動は,被告人の認識をそのままB1に伝えたと考える方が合理的である,という。 ,B1に対し人が住んでいる旨をあらかじめ告げて,注意を促すのが自然であり,B1に対し,人は住んでいないと述べた被告人の言動は,被告人の認識をそのままB1に伝えたと考える方が合理的である,という。 なるほど,B1の供述によれば,平成10年4月下旬ころに,B1が居住者の有無や延焼の危険性等について尋ねたのに対し,被告人は,人は住んでいない旨答えるとともに,「隣りとか周り近所に建物がないから,その点についても心配するな。」などと答えたことが認められる。ところが,関係証拠によると,本件建物の南側は,マンションと接しており,西側には道路を隔てて民家があるなど,周辺はかなり住宅が密集した地域であり,しかも被告人は周辺の状況を良く承知していたのであるから,被告人は,B1に周囲の状況について虚偽の事実をあえて告げたことが明らかである。そして,その当時,B1が放火の実行をためらい,被告人の依頼に対し明確な承諾を与えていなかったこと等をも併せ考えると,被告人がこのような虚偽の事実をB1に告げたのは,B1の心理的抵抗を取り除き,B1に本件放火の実行を決断させるためであったとみるのがはるかに合理的であり,そうすると,被告人は,本件建物の居住者の有無についても,これと同様の趣旨から,あえて虚偽の事実を告げたにすぎないというべきである。被告人の認識をそのままB1に伝えたと考える方が合理的であるとする原判決の評価はとうてい首肯することができない。被告人がB1に,人は住んでいない旨告げたことをもって,人が居住していることを被告人が忘れていた可能性があるとすることはできないというべきである。 イまた,原判決は,被告人がMから2階に人が居住するという話を聞いたのは本件放火の2年近くも前であったこと,また,LからC1を紹介されてC1夫婦が住むと言われ とはできないというべきである。 イまた,原判決は,被告人がMから2階に人が居住するという話を聞いたのは本件放火の2年近くも前であったこと,また,LからC1を紹介されてC1夫婦が住むと言われたのも1年半以上前のことであったことを挙げて,C1夫婦が居住していることを被告人が忘れていた可能性がある,という。 しかしながら,前記のとおり,被告人は,本件建物の2階にC1夫婦が居住することをかなり強く印象付けられ,脳裏に刻まれていて当然というべきであるばかりか,その後も記憶を新たにする機会が少なからずあったことからすると,本件建物に人が住むと聞かされてから1年半から2年近くの時が経過したからといって,被告人がその記憶を全く失い,B1から尋ねられた時にも思い出さなかったなどということはたやすく考えられないところである。 ウあるいは,原判決は,E側から,本件建物の2階にC1夫婦が居住することになる旨告げられた際には,被告人はこれに関心を持っていない様子であったとし,この点をも,C1夫婦が居住していることを被告人が忘れていた可能性があることの根拠の1つとして挙げている。原判決がいかなる根拠に基づいてこのような認定判断をしたのか,必ずしも判然としないが,補足説明の第3の1(1)においてC1の供述を要約している中に,「C1が2階に居住することについて被告人は関心を持っていないようであった」とあるところにかんがみると,C1の供述する趣旨を要約のとおりに理解し,これに基づき認定判断したものと考えられる。 しかし,C1の供述を子細に検討すると,C1の供述中には原判決が要約するとおりの部分は見当たらず,これに関連すると思われる部分は,要するに,改装中の2階で被告人はLと言葉を交わしていたものの,被告人がC1に対し,特に尋ねたりし すると,C1の供述中には原判決が要約するとおりの部分は見当たらず,これに関連すると思われる部分は,要するに,改装中の2階で被告人はLと言葉を交わしていたものの,被告人がC1に対し,特に尋ねたりしたことはなかったように思う,という趣旨のものにすぎず,このようなC1の供述を原判決が要約するような趣旨に理解することは相当でないといわざるを得ない。さらに,全証拠を子細に検討しても,C1が本件建物の2階に居住することに被告人が無関心であったことをうかがわせるに足りる証拠は見出すことができない。却って,信用に値するLの供述によれば,被告人は,本件建物の2階部分の改装について,「大がかりにやったな。」などと感想を述べたことが認められ,この一事に照らしても,C1夫婦が本件建物に居住することに被告人が無関心であったとは考え難いといわざるを得ない。 エさらに,原判決は,被告人が本件建物で以前経営していたパチンコ店では,2階に人を居住させていなかったのであり,この点も被告人がパチンコ店に人が住まないと思い込みかねない要素であったとみられる,という。 しかし,関係証拠によると,パチンコ店の建物の2階等に従業員の宿舎が設けられているのが大半であり,被告人もその旨の認識を持っていたことが認められるうえ,被告人は,前述のとおり,本件建物の2階に店長夫婦を住まわせたいとの申入れを受けて了承しているのであるから,被告人が以前本件建物でパチンコ店を経営していた時には従業員を居住させていなかったからといって,これをもって被告人がパチンコ店の2階に人が居住していないと思い込みかねない要素とはなり得ないというべきである。 (5) 以上のとおり,原判決が,本件当時,被告人が本件建物に人が住んでいることを忘れていた可能性があるとして挙げる事情は,いずれも いないと思い込みかねない要素とはなり得ないというべきである。 (5) 以上のとおり,原判決が,本件当時,被告人が本件建物に人が住んでいることを忘れていた可能性があるとして挙げる事情は,いずれも被告人に現住性の認識があったと推認することに合理的な疑いを生じさせるものとはいえず,被告人が,本件放火当時,本件建物の2階に人が居住していることを認識していたことの証明は十分であるから,その認識がなかったとの合理的な疑いが残るとして,現住建造物等放火罪の成立を否定し,非現住建造物等放火罪を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,といわなければならない。 検察官の論旨は理由がある。 3 結論そうすると,検察官の量刑不当の論旨に対する判断を待つまでもなく,原判決はその全部の破棄を免れない。よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に判決する。 (犯罪事実)第1 被告人は,B1,B2,B3ほか氏名不詳の2名と共謀のうえ,平成10年5月6日午前4時15分ころ,被告人が代表取締役を務めるF株式会社が所有し,同社から株式会社Eが賃借して,1階をパチンコ店,2階の一部を同店店長C1とその妻C2が住居として使用していた名古屋市a区bc番地所在のパチンコ「D」(鉄骨造陸屋根2階建遊技場・車庫,延床面積約1042.30平方メートル)において,B3らが同建物1階店舗内にガソリン等を入れた多数のポリエチレン製袋を運び込み,これに点火して放火し,よって,上記C1とその妻が現に住居に使用し,かつ,同人らが現在していた同建物1階店舗部分約425.83平方メートルを焼損させた。 第2 被告人は,第1記載のとおり,前記建物で発生した火災は被告人らが放火したものであり,上記建物等に掛けてい ,かつ,同人らが現在していた同建物1階店舗部分約425.83平方メートルを焼損させた。 第2 被告人は,第1記載のとおり,前記建物で発生した火災は被告人らが放火したものであり,上記建物等に掛けていた火災保険金を請求する資格がないのにこれを秘し,あたかも正当な保険金請求であるように装って保険会社から保険金支払名下に金銭を騙し取ろうと企て, 1 同年9月9日ころ,同区bd番地所在のF株式会社事務所において,同市e区fg丁目h番i号jビルH保険株式会社O損害調査部P課担当係長H1に対し,前記F株式会社を保険契約者,H保険株式会社を保険者とし,上記建物を対象とする保険金総額2億5000万円の店舗総合保険契約につき,同年5月6日に原因不明の火災により上記建物が焼損したことを理由とする保険金請求書等の関係書類を交付し,同人を介して,東京都千代田区kl丁目m番n号所在のH保険株式会社に提出して上記店舗総合保険による保険金の支払いを請求し,上記H1及び支払決定権者である同社取締役H2らをして,上記請求が正当な保険金請求である旨誤信させ,よって,同年9月29日,同社から名古屋市e区op丁目q番r号sビル株式会社Q銀行R支店のF株式会社代表取締役A名義の当座預金口座に1億1476万6394円を振込入金させ, 2 同月22日ころ,同市e区ft丁目u番v号I保険株式会社S損害調査部Tサービスセンター所長I1に対し,前記F株式会社を保険契約者,I保険株式会社を保険者とし,前記建物を対象とする保険金額3000万円の店舗総合保険契約につき,前同様の理由により上記建物が焼損したとして火災・新種保険金請求書等の関係書類を郵送し,そのころ,上記Tサービスセンター所長代理I2を介して,同社S損害調査部に対して保険金の支払いを請求し,上記I2及び支払決定権者である同調査 損したとして火災・新種保険金請求書等の関係書類を郵送し,そのころ,上記Tサービスセンター所長代理I2を介して,同社S損害調査部に対して保険金の支払いを請求し,上記I2及び支払決定権者である同調査部長I3らをして,上記請求が正当な保険金請求である旨誤信させ,よって,同月30日,同社から前記Q銀行R支店のF株式会社名義の当座預金口座に474万1946円を,同区ft丁目w番x号株式会社U銀行R支店の上記保険金請求権の上に質権を有するJ株式会社(代表取締役J1)の同社R支店名義の普通預金口座に3000万円を各振込入金させた。 (証拠の標目)(省略)(法令の適用)被告人の判示第1の行為は刑法60条,108条に,判示第2の1及び2の各行為はそれぞれ同法246条1項に該当するところ,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,最も重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役12年に処し,同法21条を適用して,原審における未決勾留日数中270日をその刑に算入し,原審における訴訟費用については,刑訴法181条1項本文により全部被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,自己が代表取締役を務める会社の所有物件で他社にパチンコ店として賃貸し,2階に同店の店長夫婦が住んでいた建物に放火して,同建物を対象とする店舗総合保険の保険金を騙し取ることを企て,共犯者の一人に放火を依頼し,その者が他の共犯者らとともに,店内にガソリンを入れたポリ袋多数を持ち込んで放火を実行し,同建物の1階部分約425平方メートルを焼損させ(判示第1),さらに,被告人が,保険会社2社に対し,放火した被告人には保険金請求権がないのに,正当な請求であ れたポリ袋多数を持ち込んで放火を実行し,同建物の1階部分約425平方メートルを焼損させ(判示第1),さらに,被告人が,保険会社2社に対し,放火した被告人には保険金請求権がないのに,正当な請求であるかのように装って,保険金の支払いを請求し,合計1億4000万円余りを騙し取った(同第2の1及び2),という事案である。 本件放火は,建物が密集する住宅地域において,人の多くが就寝中とみられる未明に多量のガソリンを使用して行われたもので,甚だ危険な犯行であり,現実に焼損した面積も大きく,2階に居住していた店長夫婦の生命等に危険を生じさせたばかりか,他の建物等への延焼の危険も高かったもので,付近住民に多大の不安を与えている。また,本件建物を賃借してパチンコ店を営業していた会社にも,店内にあった物品の焼損等や営業ができなくなったことによる損害等,多額の財産的損害を与えている。さらに,本件詐欺は保険制度を悪用した犯行で,騙し取った保険金は極めて高額である。被害にあった会社の関係者らの被害感情はいずれも厳しく,厳罰を求めている。被告人は,会社の資金繰りに窮した末,自ら積極的に本件一連の犯行を計画したものであって,一連の犯行の動機に酌量の余地は全くない。犯行態様をみても,本件建物に居住者がいることを知りながら,共犯者に誰も住んでいないなどと嘘を言って,ちゅうちょする共犯者を放火の実行に踏み切らせるなど,甚だ卑劣かつ悪質である。しかも,被告人は,保険金請求権の上に質権を有していた証券会社に直接支払われた3000万円を除く保険金のほとんどを自己の経営する会社の負債の返済等に充てるなどして費消している。しかるに,被告人は,犯行を全面的に否認し,被害弁償はおろか,反省の態度すらも示していない。 なお,放火の手段としてガソリンを使用することは共犯者が独自に考えたも の返済等に充てるなどして費消している。しかるに,被告人は,犯行を全面的に否認し,被害弁償はおろか,反省の態度すらも示していない。 なお,放火の手段としてガソリンを使用することは共犯者が独自に考えたものであるが,被告人は放火の具体的方法については全て共犯者に任せていたのであるから,被告人がガソリンの使用を指示しなかったことを,被告人に有利な事情として考慮することはできないというべきである。 そうすると,被告人の刑事責任は重大であり,被告人には古い罰金前科3犯があるにすぎないことや,その年齢,家族状況等被告人のためにしん酌すべき事情を十分に考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。 平成14年12月16日名古屋高等裁判所刑事第2部裁判長裁判官川原誠裁判官村田健二裁判官堀内満

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