令和6年(わ)第230号主文 被告人を懲役14年に処する。 未決勾留日数中250日をその刑に算入する。 理由 (第1の犯行のいきさつ)被告人は、令和6年1月当時(以下、年を特定しない記載は全て令和6年のことである。)、茨城県稲敷郡阿見町(住所省略)にあるA方(以下「A方」という。また、阿見町については「茨城県稲敷郡」の記載を省略する。)で、伯父であるA(以下「A」という。)と同居していた。被告人は、ある病院に通院していたところ、その病院に入院すると一生退院できなくなるという話を聞いたことがあったことから、以前からその病院には入院したくないと考えていた。 被告人は、1月12日、Aの携帯電話機を無断で持ち出して玄関の外に出たところ、Aがこれを取り戻しに来たので取り返されるのを防ぐため、また、Aから「病院に電話するしかない。」などと言われ、このままでは病院に入院させられることになると考えて、以下の犯行に及んだ。 (罪となるべき事実)第1 被告人は、1月12日午後11時28分頃、A方で、A(当時73歳)に対し、顔を足で蹴るなどの暴行を加え、よって、Aに加療約6か月間を要する左前頭骨骨折等の傷害を負わせた。 (第2及び第3の犯行のいきさつ)被告人は、1月13日、弟のB(以下「B」という。)から、被告人がAにけがを負わせる事件を起こした以上、Aとは別居するべきであり、そのことを生活保護の担当者に相談するつもりであると言われた。被告人は、同月14日、Bが生活保護の担当者に電話をすると病院に入院させられると考え、Bに対し、生活保護の担当者に電話しないように求めたが、聞き入れてもらえなかった。 被告人は、このままでは病院に入院させられる、入院させられるくらいなら死んだ方がよい 入院させられると考え、Bに対し、生活保護の担当者に電話しないように求めたが、聞き入れてもらえなかった。 被告人は、このままでは病院に入院させられる、入院させられるくらいなら死んだ方がよいと考えたが、自殺もできなかったため、人を殺して死刑になろうと考え、以下の犯行に及んだ。 (罪となるべき事実)第2 被告人は、1月14日午後10時16分頃、阿見町(住所省略)にあるコンビニエンスストアCで、D(当時49歳)に対し、殺意をもって、背中を包丁(刃体の長さ約16.8センチメートル。以下「本件包丁」という。)で突き刺すなどしたが、Dに全治まで約27日間を要する背部刺創等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 第3 被告人は、上記第2の犯行において人を殺害することができなかったことから、別の人、特に弱い女性を狙って殺害しようと考え、1月14日午後10時26分頃、阿見町(住所省略)にあるドラッグストアEで、F(当時34歳)に対し、殺意をもって、右の脇腹を本件包丁で突き刺すなどしたが、Fに全治まで約6か月間を要する右前腕刺創及び右側腹部刺創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 第4 被告人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、上記第3の日時場所において、本件包丁1本を携帯した。 (量刑の理由) 1 この事件は、傷害1件、殺人未遂2件及び銃砲刀剣類所持等取締法違反1件の事件である。このうち量刑の中心となるのは殺人未遂2件の事件であり、これについては無差別に行われたことが最も特徴的である。そこで、単独で、通り魔的に、又は無差別に犯行に及んだ殺人未遂(複数件のものも含む)の事件の量刑傾向を踏まえて、殺人未遂2件の事件の犯情を検討してこの事件の重みを考え、更に、その他の事件の犯情や一般情状を検討する 通り魔的に、又は無差別に犯行に及んだ殺人未遂(複数件のものも含む)の事件の量刑傾向を踏まえて、殺人未遂2件の事件の犯情を検討してこの事件の重みを考え、更に、その他の事件の犯情や一般情状を検討する。 2 まず、殺人未遂事件2件の犯情について検討する。 ⑴ 犯行のいきさつや理由について見る。 犯行のいきさつや理由は、身勝手で浅はかである。また、被告人の犯行前後の行動を見ても、人を殺そうとする気持ちが強かったことがうかがわれる。 被告人は軽度知的障害を持っており、弁護人は、これが被告人の浅はかな犯行の理由に影響している可能性があると主張する。確かに、被告人が殺人未遂事件に及んだ理由は突飛ではあるが、軽度知的障害がなければ説明できないほど突飛であるとは考えられない上、軽度知的障害は直接的に犯行に影響を与えていないという精神科医の見解もあるから、軽度知的障害の点を量刑に当たり大きく考えることはできない。 犯行のいきさつや理由は同情できないところ、人を殺そうとする気持ちが強く、第3の犯行で弱い女性を狙ったことなどからすると、同種の事件と比べてもより同情できないものである。 ⑵ 犯行のやり方について見る。 被告人は、いずれの殺人未遂事件についても、店内で作業をしている被害者らに背後から近づいて包丁で刺し、被害者から抵抗されると、更に何度も包丁を刺そうとして、数十秒又は数分間にわたり犯行を続けた。 被告人の犯行は、包丁で背後から被害者らの背中や腹などを刺すという危険極まりないものである上、相当な時間にわたって何度も包丁を刺そうとしていて執拗である。 犯行のやり方は、同種の事件の中でも悪いものといえる。 ⑶ 犯行の結果について見る。 この事件では2名の生命が脅かされているから、1名の場合より当然重い評価がされるものである。 拗である。 犯行のやり方は、同種の事件の中でも悪いものといえる。 ⑶ 犯行の結果について見る。 この事件では2名の生命が脅かされているから、1名の場合より当然重い評価がされるものである。 その上、2名の被害者はそれぞれ重い傷害を負っており、特に第3の犯行の被害者には後遺症が残るとされている。また、被害者らは、突然背後から襲われ、数十秒又は数分間にわたって更に刺されそうになったもので、被害者の一人は妊婦であったことも考えると、被害者らの感じた恐怖は計り知れない。事 件後の被害者らの日常生活には、身体的にも精神的にも悪影響が生じており、被害者らが強い処罰感情を抱くことは当然である。 犯行の結果は、同種の事件の中でもかなり重い方である。 ⑷ 以上の犯情を総合すると、殺人未遂事件2件の犯情は、同種の事件の中でも中程度より重い部類に属する。 3 次に、傷害事件の犯情について見る。 犯行のいきさつや理由に同情できる点はない。また、日頃世話になっている高齢の伯父に対し、格闘技経験者である被告人が顔を蹴る暴行などを加えており、悪質なやり方である。そして、被害者が負った傷害もかなり重い。そうすると、傷害事件の重さも、被告人に対する刑の重さに反映させる必要がある。 4 一般情状について見ると、被告人は、反省や謝罪の言葉を述べていて、それらの気持ちが十分に伝わってこないという面もないではないが、反省や謝罪の言葉が全くない者もいる中で、被告人なりの言葉で気持ちを表したことは評価すべきである。 5 以上を踏まえて、被告人に対する具体的な刑を検討する。同種の事件の量刑傾向は、懲役3年から23年までに分布し、中間値は懲役10年というものである。 上記のとおり、殺人未遂事件2件の犯情は同種の事件の中でも中程度より重いものである。その上で、傷害事件 。同種の事件の量刑傾向は、懲役3年から23年までに分布し、中間値は懲役10年というものである。 上記のとおり、殺人未遂事件2件の犯情は同種の事件の中でも中程度より重いものである。その上で、傷害事件の犯情と第4の犯行があることを踏まえると、一般情状を考えても、主文の程度の懲役刑はやむを得ない。 (求刑-懲役16年)令和7年4月25日水戸地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官山﨑 威 裁判官亀井健斗 裁判官植木佑記
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