主文 1 本件控訴及び本件附帯控訴に基づき,原判決主文第二項,第三項,第八項,第一○項,第一六項並びに第一七項の1及び2(ただし,原判決事実及び理由第一の七2記載の請求に関する部分を除く。)を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人P1,同P2,同P3,同P4,同P5,同P6,同P7,同P8,同P9,同P10,同P11及び同P12の訴えをいずれも却下する。 (2) (1)記載の被控訴人らを除く被控訴人らと控訴人との間で,シングル編成で予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中,乗務時間9時間を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことを確認する。 (3) (1)記載の被控訴人らを除く被控訴人らと控訴人との間で,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合,連続する24時間中,乗務時間8時間30分を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことを確認する。 (4) (1)記載の被控訴人らを除く被控訴人らと控訴人との間で,国内線について連続3日を超えて乗務に就く義務のないことを確認する。 (5) (1)記載の被控訴人らを除く被控訴人らと控訴人との間で,国際線については,待機(スタンバイ)に先立ち,あらかじめその対象便として指定された2つの便とその間の便でない限り,乗務する義務のないことを確認する。 (6) (1)記載の被控訴人らを除く被控訴人らの原判決事実及び理由第一の二記載の請求,後記事実及び理由第1の2(3)記載の請求及び同2(4)記載のその余の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,被控訴人P1,同P2,同P3,同P4,同P5,同P6,同P7,同P8,同P9,同P10,同P11及び同P12と控訴人との間においては,第1,2審を通じて控訴人に生じた費用の4分の1と上記被控訴人ら12名に生じた費用とを 同P3,同P4,同P5,同P6,同P7,同P8,同P9,同P10,同P11及び同P12と控訴人との間においては,第1,2審を通じて控訴人に生じた費用の4分の1と上記被控訴人ら12名に生じた費用とを上記被控訴人ら12名の負担とし,上記被控訴人ら12名を除く被控訴人ら31名と控訴人との間においては,第1,2審を通じて上記被控訴人ら12名を除く被控訴人ら31名に生じた費用と控訴人に生じたその余の費用とを5分し,その2を上記被控訴人ら12名を除く被控訴人ら31名の負担とし,その余を控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 前記(1)に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 (3) 本件附帯控訴をいずれも棄却する。 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 2 被控訴人(1) 本件控訴をいずれも棄却する。 (2) 原判決主文第二項を,次のとおり変更する。 控訴人と被控訴人らとの間で,シングル編成で予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中,乗務時間9時間を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことを確認する。 (3) 原判決主文第一〇項を取り消す。 控訴人と被控訴人らとの間で,あらかじめ乗員交替地として定められた場所であるか否かにかかわらず,宿泊を伴う休養は,少なくとも12時間を有することを確認する。 (4) 原判決主文第一七項1及び2のうち,国際線の指定便以外に乗務する義務がないことの確認請求に関する部分を,次のとおり変更する。 控訴人と被控訴人らとの間で,待機(スタンバイ)から起用の場合,国際線については,待機(スタンバイ)に先立ち,あらかじめその対象便として指定された1便又は原判決別紙28頁請求七1(路線群 変更する。 控訴人と被控訴人らとの間で,待機(スタンバイ)から起用の場合,国際線については,待機(スタンバイ)に先立ち,あらかじめその対象便として指定された1便又は原判決別紙28頁請求七1(路線群の区別)記載の区分による同一の路線群に属し,かつ,出発時刻が4時間以内に予定された2便でない限り,乗務する義務のないことを確認する。 (5) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。 第2 事案の概要定期航空運送事業者(航空会社)である控訴人は,従前,労働組合と労働協約を締結して運航乗務員の勤務基準を定めていたが,構造改革の一環として,国際コスト競争力を強化する目的で,人員効率を向上させて人的生産性を高めるという観点と,路線構成の変化や機材性能の向上に合った更に合理的な勤務基準にするという観点から勤務基準を変更する旨主張して,労働組合と交渉したが,合意に至らず,労働協約の破棄を通告し,運航乗務員の勤務基準を定める就業規則を変更して新たな勤務基準を定めるに至った。 本件は,控訴人に副操縦士又は航空機関士として勤務している被控訴人ら(一部は既に機長ないし先任航空機関士に昇格している。)を含む原審原告らが,控訴人が行った就業規則の変更は不利益な変更で合理性がないなど無効であり,従前の勤務基準の適用があると主張し,従前の勤務基準のうち,① 一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間に関する勤務基準(シングル編成による予定着陸回数が1回から4回までの各場合の運航についての乗務時間及び勤務時間に関する勤務基準並びにマルティプル編成による運航についての乗務時間及び勤務時間に関する勤務基準),② 一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する勤務基準,③ 月間及び年間の乗務時間に関する勤務基準,④ 休養時間に関する勤務基準,⑤ 国際線基地帰着後の休日に関 時間及び勤務時間に関する勤務基準),② 一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する勤務基準,③ 月間及び年間の乗務時間に関する勤務基準,④ 休養時間に関する勤務基準,⑤ 国際線基地帰着後の休日に関する勤務基準,⑥ 国内線連続乗務日数に関する勤務基準,並びに⑦ スタンバイに関する勤務基準について,従前の勤務基準を超える勤務基準に基づく勤務の義務がないことの確認を求めた事案である。 原判決は,原審原告らのうち,機長に昇格した者及び各請求に係る勤務上の義務の履行を求められる現実的な可能性が認められない者の確認の利益を否定して各請求に係る訴えを却下するとともに,被控訴人らの請求のうち,前記①に関する請求につき,同請求に係る勤務上の義務の履行を求められる現実的な可能性が認められない者の確認の利益を否定して同請求に係る訴えを却下するとともに,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合及びシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の運航についての乗務時間制限に関する変更後の新しい勤務基準を定める規定は,その内容自体の合理性を欠くので,就業規則としての効力がないとして,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中,乗務時間9時間を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務がないこと,及びシングル編成で予定着陸回数が2回の場合,連続する24時間中,乗務時間8時間30分を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務がないことをそれぞれ確認し,その余の請求を棄却し,前記②に関する請求につき,一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する変更後の新しい勤務基準を定める規定は,その内容自体の合理性を欠くので,就業規則としての効力がないとして,確認の利益を有する被控訴人らが,乗務割上の一連続の乗務に係わ 務に係わる勤務完遂の原則に関する変更後の新しい勤務基準を定める規定は,その内容自体の合理性を欠くので,就業規則としての効力がないとして,確認の利益を有する被控訴人らが,乗務割上の一連続の乗務に係わる勤務を開始後その終了前に,既に着陸回数に応じた乗務時間制限又は勤務時間制限を超える事態が発生しており,又は更に勤務を継続すればこれを超えることとなる事態が発生した場合において,機長が他の運航乗務員と協議し,運航の安全に支障がないと判断したときでない限り,上記被控訴人らがその勤務を完遂しなければならないとの義務がないことを確認し,その余の確認請求は別の確認請求と重複するとして,訴えを却下し,前記③に関する請求につき,同請求に係る勤務上の義務の履行を求められる現実的な可能性が認められない者の確認の利益を否定して同請求に係る訴えを却下するとともに,月間及び年間の乗務時間に関する勤務基準の変更には合理性があるとページ(1)して同請求を棄却し,前記④に関する請求につき,同請求に係る勤務上の義務の履行を求められる現実的な可能性が認められない者の確認の利益を否定して同請求に係る訴えを却下するとともに,宿泊を伴う場合の休養時間についての勤務基準に関する新しい就業規則の規定は不利益変更に該当せず,規定自体も合理性を欠くとはいえないとして,宿泊を伴う場合の最低休養時間に関する確認請求を棄却し,また,デッドヘッド後の休養時間についての勤務基準に関する新しい就業規則の規定は不利益変更に該当するものの規定の変更に合理性があるとして,デッドヘッド後の最低休養時間に関する確認請求を棄却し,さらに自宅スタンバイ終了後の休養時間についての勤務基準に関する新しい就業規則の規定は不利益変更に該当するものの規定の変更に合理性があるとして,自宅スタンバイ終了後の最低休養時間に関する確認請求 し,さらに自宅スタンバイ終了後の休養時間についての勤務基準に関する新しい就業規則の規定は不利益変更に該当するものの規定の変更に合理性があるとして,自宅スタンバイ終了後の最低休養時間に関する確認請求を棄却し,前記⑤に関する請求につき,同請求に係る勤務上の義務の履行を求められる現実的な可能性が認められない者の確認の利益を否定して同請求に係る訴えを却下するとともに,国際線基地帰着後の休日についての勤務基準に関する新しい就業規則の規定は不利益変更に該当するものの規定の変更に合理性があるとして同請求を棄却し,前記⑥に関する請求につき,国内線連続乗務日数を最長5日に変更した新しい勤務基準を定める規定は,その内容自体の合理性を欠くので,就業規則としての効力がないとして,同請求を認容し,前記⑦に関する請求につき,従前の勤務基準では,国際線のスタンバイ中の運航乗務員からの起用対象の内容が,予め指定していた2便とその間の便に起用対象の範囲を限定する制度であったところ,その制度を廃止した新しい勤務基準を定める規定は,その内容自体の合理性を欠くので,就業規則としての効力がないとして,国際線のスタンバイの指定便制度廃止に関する請求のうち,国際線について,スタンバイに先立ち,予めその対象便として指定された2つの便とその間の便でない限り,乗務する義務のないことを確認し,その余の請求を棄却するとともに,スタンバイから起用される業務の範囲が乗務以外の業務に広げられた新しい就業規則の規定は不利益変更に該当するとはいえないとして,スタンバイからの起用により乗務以外の勤務に就く義務がないことの確認請求を棄却した。 そこで,控訴人は,被控訴人らの本訴請求を一部認容した原判決を不服として控訴をし,また,被控訴人らも,附帯控訴をし,勤務上の義務の履行を求められる現実的な可能性が認められない の確認請求を棄却した。 そこで,控訴人は,被控訴人らの本訴請求を一部認容した原判決を不服として控訴をし,また,被控訴人らも,附帯控訴をし,勤務上の義務の履行を求められる現実的な可能性が認められない者として確認の利益を否定されて訴えを却下された被控訴人らを含め,前記第1の2(2)ないし(4)のとおり確認を求める。 したがって,当審での判断の対象は,被控訴人らの確認の利益のほか,前記①のうち,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合及びシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間及び勤務時間制限に関する勤務基準,前記②の一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する勤務基準,前記④のうち,宿泊を伴う休養時間についての勤務基準,前記⑥の国内線連続乗務日数に関する勤務基準,並びに前記⑦のうち,国際線のスタンバイ指定便制度に関する勤務基準についての変更された就業規則の規定が被控訴人らに適用されるか否かである。 第3 争いのない事実等争いのない事実等は,次のとおり補正する(なお,原判決第1分冊事実及び理由の「第六訂正」の項一でされた補正も改めて掲記する。)ほか,原判決事実及び理由第二の「一争いのない事実等」の項に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決第2分冊8頁5行目の「同法三二条の二」を「同法三二条の二(平成一〇年法律第一一二号による改正前のもの。以下同じ。)」に改める。 (2) 同11頁7行目の「と規定している。」を「と規定している(平成一一年法律第七二号による改正前のもの)。」に,同頁8行目の「また、航空法六八条は、」から同頁10行目末尾までを「また,航空法六八条(平成一一年法律第一六〇号による改正前のもの)は,航空機乗組員の乗務について以下のように規定して のもの)。」に,同頁8行目の「また、航空法六八条は、」から同頁10行目末尾までを「また,航空法六八条(平成一一年法律第一六〇号による改正前のもの)は,航空機乗組員の乗務について以下のように規定している。」にそれぞれ改める。 (3) 同12頁4行目の「同法施行規則」を「同法施行規則一五七条の三(平成一二年運輸省令第三九号による改正前のもの)」に改める。 (4) 同13頁9行目の「また、航空法一〇四条は,」から同14頁1行目までを「また,航空法一〇四条(平成一一年法律第七二号及び同第一六〇号による改正前のもの)は,運航規程等の認可について次のとおり規定している。」に改める。 (5) 同14頁9行目の「航空法施行規則では、」を「航空法施行規則二一五条(平成六年運輸省令第五三号,平成一一年運輸省令第四〇号及び平成一二年運輸省令第三九号による改正前のもの)及び同規則二一六条(平成一二年運輸省令第五三号による改正前のもの)は次のとおり規定している。」に,同頁11行目の「第二百十三条」を「第二百十五条」に,同15頁6行目の「第二百十四条」を「第二百十六条」にそれぞれ改める。 (6) 同16頁の表上欄の「ニ」部分を「ニ航空機乗組員の乗務割及び運航管理者の業務に従事する時間の制限」に改め,同表下欄3行目から同5行目にかけての「客室乗務員の乗務割は客室乗務員の職務に支障を生じないように定められているものであり、」を削る。 (7) 同17頁3行目の「と定められている。」を削り,同頁9行目の「規定されている。」を「規定されていたが,同基準は,航空局技術部運航課長作成の平成12年1月31日付け運航規程審査要領細則(空航第78号,平成12年2月1日から適用)により廃止され,乗務時間制限は同細則で規定されている(乙三〇二の一ないし三)。」に,同頁末行の「別表(別紙)」を「原 年1月31日付け運航規程審査要領細則(空航第78号,平成12年2月1日から適用)により廃止され,乗務時間制限は同細則で規定されている(乙三〇二の一ないし三)。」に,同頁末行の「別表(別紙)」を「原判決別紙「航空局技術部長通達(平成4年)別表(原判決第1分冊別紙29頁)」にそれぞれ改める。 (8) 同23頁4行目の「別紙(運航規程上乗務時間及び勤務時間の基準表)」を「原判決別紙「運航規程上乗務時間及び勤務時間の基準表」(原判決第1分冊別紙30頁)」に改める。 (9) 同31頁7行目の「(なお、」から同8行目の「参照)」までを削る。 (10) 同34頁3行目の「締桔」を「締結」に,同35頁6行目の「瑞を発した」を「端を発した」にそれぞれ改める。 (11) 同38頁末行の「支度科」を「支度料」に改める。 (12) 同40頁3行目の「平成五年年」を「平成五年」に改め,同頁5行目の「及び④」及び同頁9行目の「及び⑪、⑫」をそれぞれ削る。 (13) 同46頁6行目の「別紙「別表1」参照」を「原判決別紙「別表1」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」に改める。 (14) 同47頁5行目の「別紙「別表2」参照」を「原判決別紙「別表2」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」に,同頁8行目の「別紙「別表3」参照」を「原判決別紙「別表3」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」にそれぞれ改める。 (15) 同53頁4行目の「別紙「別表4」参照」を「原判決別紙「別表4」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」に改める。 (16) 同55頁2行目の「別紙「別表2」参照」を「原判決別紙「別表2」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」に,同頁5行目の「別紙「別表3」参照」を「原判決別紙「別表3」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」にそれぞれ改める。 (17) 同60頁3行目の「別紙「別表5」参照。」を「原 決第1分冊別紙42頁)」に,同頁5行目の「別紙「別表3」参照」を「原判決別紙「別表3」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」にそれぞれ改める。 (17) 同60頁3行目の「別紙「別表5」参照。」を「原判決別紙「別表5」参照(原判決第1分冊別紙42頁)」に改める。 (18) 同61頁3行目の「別紙「別表6」参照」を「原判決別紙「別表6」参照(原判決第1分冊別紙43頁)」ページ(2)に改める。 (19) 同62頁7行目から8行目にかけての「別紙「別表7」参照」を「原判決別紙「別表7」参照(原判決第1分冊別紙43頁)」に改める。 (20) 同62頁末行から同63頁1行目にかけての「別紙「別表8」参照」を「原判決別紙「別表8」参照(原判決第1分冊別紙43頁)」に改める。 (21) 同84頁10行目の「終了の日を持って」を「終了の当日をもって」に,同85頁9行目から10行目にかけての「別紙「別表9」参照」を「原判決別紙「別表9」参照(原判決第1分冊別紙43頁)」にそれぞれ改める。 (22) 同86頁10行目の「別紙「別表10」参照」を「原判決別紙「別表10」参照(原判決第1分冊別紙44頁)」に改める。 (23) 同87頁9行目の「二日移譲」を「2日以上」に改める。 (24) 同91頁1行目の「八六頁」を「九〇頁,九四頁」に改める。 (25) 同93頁7行目の「二八頁まで」を「二九頁」に改める。 第4 当事者の主張(法的構成及び争点) 1 請求原因(当審で追加された主張は後記第5で付加する。)(1) 被控訴人らは,控訴人に雇用され,副操縦士又は航空機関士として勤務している運航乗務員である。 (2)ア控訴人は,副操縦士及び航空機関士の労働条件の基準(勤務基準)を定める就業規則として本件就業規程を制定し,平成5年10月22日にこれを改定し,同年11月1日施行した。 イ 航乗務員である。 (2)ア控訴人は,副操縦士及び航空機関士の労働条件の基準(勤務基準)を定める就業規則として本件就業規程を制定し,平成5年10月22日にこれを改定し,同年11月1日施行した。 イこの改定後の本件就業規程は,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準(当審での審判対象は,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合及びシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間及び勤務時間に関する勤務基準),一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する勤務基準,国内線連続乗務日数に関する勤務基準,宿泊を伴う休養時間に関する勤務基準及び国際線の待機(スタンバイ)指定便制度に関する勤務基準について,前記第3で引用した原判決事実及び理由第二の一の5(原判決第2分冊42頁以下)のとおりに定めている。 ウ控訴人は,改定後の本件就業規程の規定が被控訴人らに適用されると主張している。 (3) 勤務協定及び改定前の本件就業規程は,前記(2)イの各点の勤務基準につき,原判決事実及び理由第二の一の5のとおりに定めていたので,被控訴人らの上記各点についての勤務基準は勤務協定(改定前の本件就業規程も同じ内容であった。)のとおりである。 (4)ア乗務時間制限及び勤務時間制限をはじめとする前記(2)イの各点の勤務基準は,運航の安全,運航乗務員の生命,身体の安全に係わるものである。 イしたがって,控訴人は,改定後の本件就業規程の規定中上記の各点の勤務基準を定める部分について安全性の合理的根拠を主張立証することを要する。 (5)ア本件就業規程の改定による前記(2)イの各点に関する勤務基準の変更は,従前の労働条件を不利益に変更するものである。不利益の具体的内容は,後記第5のとお 理的根拠を主張立証することを要する。 (5)ア本件就業規程の改定による前記(2)イの各点に関する勤務基準の変更は,従前の労働条件を不利益に変更するものである。不利益の具体的内容は,後記第5のとおりである。 イしたがって,控訴人は,本件就業規程の変更の必要性及び内容自体の合理性を主張立証し,被控訴人らが受ける不利益性を考慮してもなお本件就業規程の変更に合理性があるということができなければならない。 (6) よって,被控訴人らは,前記(2)イの各点に関する勤務基準について,改定後の本件就業規程が定めている勤務基準に基づく勤務上の義務の不存在確認を求めるとともに,勤務基準の内容の確認を求める。 2 請求原因に対する認否(1) 請求の原因(1)の事実のうち,被控訴人P3,同P4,同P6,同P1,同P5,同P8,同P7,同P9及び同P2(以下「被控訴人P3ら9名」という。)が副操縦士であることは否認し,また,被控訴人P10,同P11及び同P12(以下「被控訴人P10ら3名」という。)が航空機関士であることは否認し,その余の事実は認める。被控訴人P3ら9名は,原審口頭弁論終結当時副操縦士であったが,その後機長に昇格している。また,被控訴人P10ら3名は,原審口頭弁論終結当時航空機関士であったが,その後先任航空機関士に昇格している。 (2) 同(2)ア及びイの事実は認める。同(2)ウの事実のうち,控訴人が,被控訴人P3ら9名及び被控訴人P10ら3名に本件就業規程の規定が適用されると主張していることは否認し,その余の事実は認める。 (3) 同(3)の事実は認める。 (4) 同(4)の主張は争う。 (5) 同(5)アにつき,本件就業規程の変更により被控訴人らのうちに一部不利益を受ける者がいることは否定はしないが,本件就業規程の変更による勤務基準の変更内容は一様ではな ) 同(4)の主張は争う。 (5) 同(5)アにつき,本件就業規程の変更により被控訴人らのうちに一部不利益を受ける者がいることは否定はしないが,本件就業規程の変更による勤務基準の変更内容は一様ではなく,不利益の内容とその性質を的確に認識する必要がある。これらの点は,後記第5において主張する。 (6) 同(6)は争う。 3 抗弁及び控訴人の主張の骨子(1) 被控訴人らのうちには,後記第5において主張するとおり確認の利益を欠く者がいる。 (2) 控訴人は,平成3年以降,業績が悪化し,構造的な高コスト体質を改善して国際的な競争力を強化するために,抜本的な企業構造の改革を行わなければならず,本件就業規程の変更を行わなければならない差し迫った高度の必要性があった。本件就業規程の変更によって一部労働負荷の増加が生じたが,それに見合うだけのコスト削減が実現されているから,本件就業規程変更の合理性が認められる。詳細は,後記第5において主張するとおりである。 4 抗弁に対する認否後記第5において主張するとおりである。 5 争点(1) 本訴請求における確認の利益の有無ア被控訴人らのうち,本件就業規程の改定後に機長又は先任航空機関士に昇格した者は確認の利益を有するか。 イ被控訴人らのうち,本件就業規程の改定当時は運航乗務員訓練生であり,その後運航乗務員になった者は確認の利益を有するか。 (2) 本件就業規程の変更の合理性に関する判断枠組みの如何と変更後の本件就業規程の内容自体の合理性の判断の当否(3) 本件就業規程の変更の合理性の有無アシングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間制限の変更の合理性の有無(ア) 不利益変更の有無,内容及び程度(イ) 変更の必要性の有無,内容及び程度(ウ) 変更された内容自体の相当 定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間制限の変更の合理性の有無(ア) 不利益変更の有無,内容及び程度(イ) 変更の必要性の有無,内容及び程度(ウ) 変更された内容自体の相当性(エ) 代替措置の有無(オ) 労働組合等との交渉経過イシングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間制限の変更の合理性の有無ページ(3)前記アと同様の項目についてウシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間制限の変更の合理性の有無前記アと同様の項目についてエ一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する勤務基準の変更の合理性の有無前記アと同様の項目についてオ国内線連続乗務日数に関する勤務基準の変更の合理性の有無前記アと同様の項目についてカ宿泊を伴う休養における最低休養時間の保障に関する勤務基準の変更の合理性の有無前記アと同様の項目についてキ国際線のスタンバイ指定便制度に関する勤務基準の変更の合理性の有無前記アと同様の項目について第5 争点に対する当事者の主張別紙「第5 争点に対する当事者の主張」のとおり。 第6 当裁判所の判断別紙「第6 当裁判所の判断」のとおり。 第7 結論被控訴人らの本件訴えのうち,被控訴人P1外11名の本件訴えは不適法であるから,これを却下することになる。 被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する請求のうち,控訴人との間で,シングル編成による予定着陸回数が1回の場合(2名編成機も3名編成機も含む。)で,連続する24時間中,乗務時間9時間を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことの確認請求,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合,連続する24時間中,乗務時間8時間30分を超えて,又は勤 ,乗務時間9時間を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことの確認請求,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合,連続する24時間中,乗務時間8時間30分を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことの確認請求及び国内線について連続3日を超えて乗務に就く義務のないことの確認請求は,いずれも理由があるから,これを認容すべきであり,また,前記第1の2(4)記載の国際線のスタンバイ指定便制度に関する請求につき,控訴人との間で,国際線については,待機(スタンバイ)に先立ち,あらかじめその対象便として指定された2つの便とその間の便でない限り,乗務する義務のないことの確認を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余の請求は理由がないから,これを棄却すべきであり,さらに,原判決事実及び理由第一の二記載の請求及び前記第1の2(3) 記載の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却すべきである。 よって,原判決中以上の結論と異なる部分は相当でないから,本件控訴及び本件附帯控訴に基づき,原判決主文第二項,第三項,第八項,第一〇項,第一六項並びに第一七項の1及び2(ただし,原判決事実及び理由第一の七2記載の請求に関する部分を除く。)を以上のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官西田美昭裁判官大段亨裁判官伊藤正晴(別紙)第6 当裁判所の判断 1 本訴請求における確認の利益(1) 基本的な考え方本件は,被控訴人らが控訴人に対し,本件就業規程の定める勤務基準(以下「労働条件の基準」ともいう。)のうち,本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務が存在しないことの確認を求める訴訟である。確認訴訟は,紛争となっている現在の権利ない (以下「労働条件の基準」ともいう。)のうち,本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務が存在しないことの確認を求める訴訟である。確認訴訟は,紛争となっている現在の権利ないし法律関係の存否を既判力をもって確定することによって,現在の権利ないし法律関係をめぐる紛争を抜本的に解決する訴訟類型であるから,被控訴人らが本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務の不存在を主張し,控訴人がこれを争っている場合には,被控訴人らにおいて本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務が存在しないことの確認を求める利益があるというべきである。 なお,前記第3の争いのない事実等及び本件就業規程5条2項(甲4)によれば,本件就業規程の定める勤務基準は,被控訴人らの毎月の乗務等の勤務内容を定める乗務割(以下「勤務割」ともいう。)を作成する際の基準となることが認められ,この乗務割に基づいて被控訴人らの労働契約上の具体的な勤務上の義務が現実化することになる。その意味では,乗務割に基づく被控訴人らの労働契約上の具体的な勤務上の義務の不存在の確認を求めることも考え得るが,乗務割は毎月作成され,その内容が一定しているとは認められないので,乗務割に基づく被控訴人らの勤務上の義務の不存在を確認することは困難である。弁論の全趣旨によれば,本件訴訟の趣旨及び目的は,被控訴人らが,控訴人の業務命令に従わなければ,懲戒処分を受け,又は解雇されるおそれがあるので,そのような事態を防止するため,その前提である本件就業規程の定める勤務基準中,本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務を一般的に取り上げ,これを履行する義務の不存在をあらかじめ確定しておくことにあり,予防的訴訟としての実質を有すると認め 務基準中,本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務を一般的に取り上げ,これを履行する義務の不存在をあらかじめ確定しておくことにあり,予防的訴訟としての実質を有すると認められ,このような本件訴訟の趣旨及び目的に照らし,本件訴訟における確認の対象は,本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務の不存在であるとするのが相当である。 本件就業規程に基づく勤務基準が,被控訴人らにすべて適用されるか否かについて争いがあるので,以下検討する。 (2) 被控訴人らのうち,本件就業規程の改定後に機長又は先任航空機関士に昇格した者の確認の利益ア弁論の全趣旨によれば,被控訴人P1及び同P2は平成11年8月23日付けで,被控訴人P3は同年11月25日付けで,被控訴人P4は同年12月20日付けで,被控訴人P5は平成13年5月14日付けで,被控訴人P6は同年12月19日付けで,被控訴人P7は平成14年3月25日付けで,被控訴人P8は同年4月11日付けで,被控訴人P9は同年9月19日付けでそれぞれ機長に昇格し,また,被控訴人P10,同P11及び同P12は平成12年12月1日付けで先任航空機関士に昇格したこと(以上の被控訴人らを,以下「被控訴人P1外11名」という。)が認められる。 イ本件確認の訴えの主位的請求原因は,被控訴人らが控訴人に雇用され,副操縦士又は航空機関士として勤務している運航乗務員であること,被控訴人らの労働条件は旧勤務協定及び改定前の本件就業規程の定めるとおりであること,しかるに,控訴人が,被控訴人らには改定後の本件就業規程の規定が適用され,これを根拠に被控訴人らの労働条件は改定後の本件就業規程の定める勤務基準のとおりであると主張していることを内容としている(前記第4の1の請求原因)。 しかし,被控訴人 本件就業規程の規定が適用され,これを根拠に被控訴人らの労働条件は改定後の本件就業規程の定める勤務基準のとおりであると主張していることを内容としている(前記第4の1の請求原因)。 しかし,被控訴人P1外11名は,現在副操縦士でも航空機関士でもなく,機長又は先任航空機関士であり,甲第4号証によれば,本件就業規程は,運航乗務員である副操縦士又は航空機関士に適用があるが,管理職運航乗務員である機長又は先任航空機関士には適用されず,その就業条件については管理職運航乗務員就業規程が適用されることが認められる。したがって,被控訴人らの上記の主位的請求原因に基づく確認請求は,運航乗務員である被控訴人らの労働条件が旧勤務協定及び改定前の本件就業規程の定めるとおりであって,改定後の本件就業規程の効力が運航乗務員である被控訴人らに及ぶと主張する控訴人との間の法律関係に争いがあると主張し,改定後の本件就業規程の定める勤務基準に基づく勤務上の義務がないことの確認を求めているのであるから,機長又は先任航空機関士に昇格し,旧勤務協定及ページ(4)び改定前の本件就業規程の定める勤務基準の適用を受ける地位にはなく,改定後の本件就業規程の適用対象でもなくなった被控訴人P1外11名については,前記の主位的請求原因に基づく確認請求に関し,確認の利益を欠くというべきである。 もっとも,甲第4号証によれば,管理職運航乗務員就業規程は,管理職運航乗務員の就業条件につき,本件訴訟で被控訴人らが確認を求めている勤務基準に関する本件就業規程及び運航乗務員訓練・審査就業規程の定めを準用していることが認められるが,運航乗務員と管理職運航乗務員とでは適用される就業規則が異なることに照らすと,確認の利益を欠くという前記の判断を左右するものではない。 ウ(ア) 被控訴人らは,控訴人に対し,運航乗務員と 認められるが,運航乗務員と管理職運航乗務員とでは適用される就業規則が異なることに照らすと,確認の利益を欠くという前記の判断を左右するものではない。 ウ(ア) 被控訴人らは,控訴人に対し,運航乗務員として勤務する労働者として請求の趣旨記載の労働契約上の義務の不存在の確認を請求しているのであって,訴え提起当時副操縦士又は航空機関士であったという点はいわゆる補助事実であり,かつ,控訴人のいかなる規程が適用されるかは労働契約上の義務の存在を主張する控訴人が主張立証すべきであると主張する。しかしながら,前記のとおり被控訴人らが運航乗務員として確認請求をしているとしても,機長又は先任航空機関士に昇格した者は管理職運航乗務員であって,改定された後の本件就業規程の適用はなく,管理職運航乗務員就業規程が適用されることは明らかであるから,被控訴人らの上記主張は失当である。 (イ) 被控訴人らは,控訴人が運航乗務員訓練生を採用し,その後運航乗務員訓練生から副操縦士又は航空機関士に,さらに機長又は先任航空機関士に昇格して乗務をする過程に照らすと,副操縦士又は航空機関士,機長又は先任航空機関士としての新たな採用行為(採用契約)があるのではなく,これらの過程は昇格であって,控訴人から発令行為があるだけであり,この昇格過程はほぼ確定したものであるから,「運航乗務員就業規程」「運航乗務員訓練・審査就業規程」「管理職運航乗務員就業規程」が労働契約の内容になるのは,運航乗務員訓練生採用時に締結する労働契約によるのであり,運航乗務員訓練生として採用された際の労働契約の内容として,将来機長又は先任航空機関士に昇格した際の労働条件は労働契約締結の時点での管理職運航乗務員就業規程の内容によることになると主張する。 証拠(甲471,1077,1113の1)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人におい 任航空機関士に昇格した際の労働条件は労働契約締結の時点での管理職運航乗務員就業規程の内容によることになると主張する。 証拠(甲471,1077,1113の1)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人において運航乗務員訓練生として採用されると,操縦士の場合,基礎訓練及び副操縦士昇格訓練を受け,副操縦士資格試験に合格した後,控訴人の副操縦士として発令されて乗務すること,副操縦士として乗務した後,機長昇格訓練及び審査を経て,控訴人の機長として発令されること,航空機関士の場合,基礎訓練過程及び航空機関士昇格訓練を受け,航空機関士資格試験に合格した後,控訴人の航空機関士として発令されて乗務し,その後管理職として発令された者が先任航空機関士として乗務するが,操縦士の場合と異なり,管理職に昇格するための訓練や資格試験はないこと,副操縦士,航空機関士,機長及び先任航空機関士の発令に当たり,新たな採用契約は締結されていないこと,運航乗務員訓練生から副操縦士又は航空機関士に昇格できない者が少数存在するが,大半は昇格していること,副操縦士から機長に昇格できない者も少数存在するが,大多数は昇格していること,ある運航乗務員訓練生が採用された際,控訴人との間で交わされた採用確認書(甲471)では,① 「訓練期間中における運航乗務員訓練生の賃金・労働時間その他の労働条件については,控訴人の就業規則,運航乗務員訓練生就業規程,その他控訴人もしくは控訴人の指定する訓練機関に定める諸規則による(第3項)。」,② 運航乗務員訓練生が所定の資格試験に合格した後,「運航乗務員として勤務を開始した後の賃金・労働時間その他の労働条件は,控訴人の定める諸規則による。(第6項)」と規定されていたことが認められる。 以上の認定事実によれば,運航乗務員訓練生として採用される際,将来運航乗務員や管理職運航乗 金・労働時間その他の労働条件は,控訴人の定める諸規則による。(第6項)」と規定されていたことが認められる。 以上の認定事実によれば,運航乗務員訓練生として採用される際,将来運航乗務員や管理職運航乗務員になった場合には,その昇格した時点における控訴人の本件就業規程や管理職運航乗務員就業規程が適用されることが労働契約の内容になっていたということができる。したがって,機長又は先任航空機関士に昇格した際の労働条件が運航乗務員訓練生の採用時点での管理職運航乗務員就業規程の内容によることになる旨の被控訴人らの前記主張は失当である。 (ウ) 被控訴人らは,平成5年11月に本件就業規程が改定される以前に機長であった者については,勤務協定及び改定前の本件就業規程に定められていた内容がその労働条件,労働契約の内容であったことは当然であるとともに,平成5年11月時点で未だ機長に昇格していない者についても,将来機長に昇格した際の労働条件の内容が勤務協定及び改定前の本件就業規程に定められていた内容によって確定していたのであり,機長昇格者については,副操縦士であるときは当然に勤務協定に定められた範囲内で勤務する地位を有しており,将来機長に昇格した場合においても同様に勤務協定に定められた範囲と同一内容の範囲内で勤務する地位を有していたので,本件就業規程が改定された後に機長に昇格した者についても,確認の利益があると主張する。 甲第1号証によると,控訴人と運航乗員組合及び乗員組合との間で締結された勤務協定では,「Ⅰ 定義」として,「運航乗員とは会社が任命する機長,副操縦士,航空士,航空機関士及びセカンドオフィサーをいう。」と定めていたことが認められるが,機長は運航乗員組合及び乗員組合の組合員ではなかったので(弁論の全趣旨),勤務協定が機長に適用されていたということはできない。ま 機関士及びセカンドオフィサーをいう。」と定めていたことが認められるが,機長は運航乗員組合及び乗員組合の組合員ではなかったので(弁論の全趣旨),勤務協定が機長に適用されていたということはできない。また,甲第1号証(115頁)によれば,控訴人と運航乗員組合及び乗員組合との間において,昭和48年7月31日,勤務協定中,「機長に関する協定については,新管理職制度の発足に伴い,事情の変更を生じたが,会社,組合双方は従来の慣行を尊重することを合意し,覚書を交換する」旨の覚書を締結していることが認められるが,機長に勤務協定が適用されれば,このような覚書を作成する必要はないのであって,これは,機長に勤務協定が適用されないことを前提として,従前同じ乗員組合の組合員として勤務協定の適用を受けていた機長が管理職となり組合から離脱したとしても,従来の慣行を尊重するということを,控訴人が運航乗員組合及び乗員組合と確認したという趣旨のものであり,これによって,当然に勤務協定に定める勤務基準が機長と控訴人との労働契約の内容になるということはできない。さらに,勤務協定や路線別協定に定める基準に則って作成された乗務パターンが機長にもアサインされてきたということがあった(甲604)としても,同一の便に乗務する以上同じ乗務パターンにならざるを得ないのであって,このことをもって,直ちに機長について勤務協定や路線別協定が適用されていたということはできないし,その他,機長につき控訴人と乗員組合との間で締結された勤務協定等によって定められた勤務基準に即した労働条件になっていたとしても,前記のとおり機長は乗員組合の組合員ではないので,勤務協定が適用されていたということはできない。 以上によれば,平成5年11月に本件就業規程が改定される以前に機長であった者については,勤務協定及び改定前の本件 機長は乗員組合の組合員ではないので,勤務協定が適用されていたということはできない。 以上によれば,平成5年11月に本件就業規程が改定される以前に機長であった者については,勤務協定及び改定前の本件就業規程に定められていた内容がその労働条件,労働契約の内容であったということはできないし,また,平成5年11月時点で未だ機長に昇格していなかった者についても,将来機長に昇格した際の労働条件の内容が勤務協定及び改定前の本件就業規程に定められていた内容によって確定していたということもできないのであって,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,この点に関する被控訴人らの前記主張は採用することができない。 エ被控訴人らは,予備的主張として,本件就業規程の改定前には機長等に昇格していなかった者がその後機長等に昇格した場合の労働条件につき,平成5年11月に改定される前の管理職運航乗務員就業規程によることが労働契約の内容となっていたところ,控訴人は,平成5年11月に管理職運航乗務員就業規程を労働者に不利益に変更し,現在機長等に昇格している被控訴人P1外11名について,平成5年11月に改定された後の管理職運航乗務員就業規程が適用されると主張しているが,改定後の管理職運航乗務員就業規程については安全性の見地から合理性がなくその効力が認められず,また,改定後の管理職運航乗務員就業規程は改定前の管理職運航乗務員就業規程から不利益に変更されており,このような変更について,不利益に変更された就業規程の拘束力を被控訴人P1外11名に及ぼすことを是認するに足りる合理性が認められないので,現在機長等に昇格している同被控訴人らについては,改定前の管理職運航乗務員就業規程に定められた範囲を超えて勤務する義務がないと主張する。 しかしながら,被控訴人らの予備的主張に基づく確認請求は ので,現在機長等に昇格している同被控訴人らについては,改定前の管理職運航乗務員就業規程に定められた範囲を超えて勤務する義務がないと主張する。 しかしながら,被控訴人らの予備的主張に基づく確認請求は,本件就業規程改定後に機長等に昇格した被控訴人P1外11名の労働条件について,改定前の管理職運航乗務員就業規程によることが労働契約の内容となっていたので,同ページ(5)被控訴人らの労働条件は改定前の管理職運航乗務員就業規程の定めるとおりであるところ,控訴人が同被控訴人らにつき改定後の管理職運航乗務員就業規程の規定が適用され,これを根拠に同被控訴人らの勤務基準が改定後の管理職運航乗務員就業規程の定めるとおりであると主張し,機長等に昇格した同被控訴人らの勤務上の義務の内容に争いがあるので,同被控訴人らにつき,改定前の管理職運航乗務員就業規程に定める勤務基準を超えて勤務する義務がないことの確認を求めているものと解されるのであって,被控訴人らが求める裁判の内容である請求の趣旨においては,不存在の確認を求める義務の発生根拠は特定されていないものの,被控訴人らが原審以来主張する主位的請求原因によって不存在の確認を求めている義務の発生根拠は改定された本件就業規程の定める勤務基準であり,他方,被控訴人らが当審において主張するようになった予備的請求原因によって不存在の確認を求めている義務の発生根拠は改定された管理職運航乗務員就業規程の定める勤務基準であって,その発生根拠が異なるのであるから,請求の趣旨の表現は同一であっても,被控訴人らが不存在の確認を求める義務は,主位的請求原因と予備的請求原因とでは別個の訴訟物になるというべきである。そうすると,被控訴人らは,予備的請求原因に基づき勤務上の義務の不存在の確認を求める場合,訴えの変更手続をする必要があったが,この手続はさ 因と予備的請求原因とでは別個の訴訟物になるというべきである。そうすると,被控訴人らは,予備的請求原因に基づき勤務上の義務の不存在の確認を求める場合,訴えの変更手続をする必要があったが,この手続はされていない。また,仮に訴えの変更手続がされていたとしても,本件就業規程ではなく,同規程を準用しているとはいえ,それとは別の管理職運航乗務員就業規程の適用を前提とする予備的請求原因は,原審では主張されておらず,当審の第6回口頭弁論期日において抽象的に主張されていたものの,その具体的な請求原因事実は,本件就業規程の変更の合理性に関する証拠調べが終了した後の当審口頭弁論終結間際になって主張されたものであって,管理職運航乗務員就業規程の改定前後の勤務基準に基づく勤務上の義務の内容についての具体的な立証がされていないことを合わせて考慮すると,上記のような訴えの変更を許すと著しく手続を遅延させることになっていたというべきである。以上によれば,被控訴人P1外11名は,予備的主張に基づく勤務上の義務の不存在の確認を求めることはできないというべきである。 したがって,被控訴人P1外11名の確認の利益につき,平成5年11月の改定前の管理職運航乗務員就業規程によることが労働契約の内容となっていたことを前提とする被控訴人らの予備的主張は採用することができない。 オよって,被控訴人P1外11名の本件訴えは不適法であるので,これを却下することになる。 (3) 被控訴人らのうち,本件就業規程の改定後に運航乗務員訓練生から運航乗務員になった者の確認の利益ア弁論の全趣旨によれば,被控訴人P13,同P14,同P15,同P16,同P17,同P18,同P19,同P20,同P21,同P22,同P23及び同P24(以下「被控訴人P13外11名」という。)は,本件就業規程の改定当時運航乗務員訓練 3,同P14,同P15,同P16,同P17,同P18,同P19,同P20,同P21,同P22,同P23及び同P24(以下「被控訴人P13外11名」という。)は,本件就業規程の改定当時運航乗務員訓練生であり,その後に運航乗務員に発令されたものであることが認められる。 イところで,本件訴訟における確認対象は,前記(1)のとおり,本件就業規程の改定により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務の不存在であるところ,被控訴人P13外11名は,本件就業規程の改定後に運航乗務員に昇格し,控訴人との間において改定された本件就業規程の定める勤務基準の適用の有無が争いとなっているから,同勤務基準に基づく勤務上の義務の不存在の確認を求める利益があるというべきである。 もっとも,前記(2)ウ(イ)のとおり,運航乗務員訓練生として控訴人に採用される際,将来運航乗務員になった場合には,その昇格した時点における控訴人の本件就業規程が適用されることが労働契約の内容になっていたということができる。したがって,運航乗務員訓練生であった当時は運航乗務員ではなかったので,本件就業規程は直ちには運航乗務員訓練生に適用されず,これに定める勤務基準が運航乗務員訓練生の実際の労働条件になっていたということはできない。 しかし,前記(2)ウ(イ)で認定したとおり,運航乗務員訓練生として採用されると,操縦士の場合,基礎訓練及び副操縦士昇格訓練を受け,副操縦士資格試験に合格した後,控訴人の副操縦士として発令され,また,航空機関士の場合,基礎訓練過程及び航空機関士昇格訓練を受け,航空機関士資格試験に合格した後,控訴人の航空機関士として発令されるのであって,運航乗務員訓練生から副操縦士又は航空機関士に昇格できない者が少数存在するが,大半の運航乗務員訓練生が運航乗務員に昇格していることに照らすと 合格した後,控訴人の航空機関士として発令されるのであって,運航乗務員訓練生から副操縦士又は航空機関士に昇格できない者が少数存在するが,大半の運航乗務員訓練生が運航乗務員に昇格していることに照らすと,運航乗務員として新規に採用されて就業規則が適用されるという場合とは異なり,本件就業規程改定前から運航乗務員訓練生であった者は,運航乗務員ではないものの,近い将来運航乗務員に昇格すれば,改定前の本件就業規程の規定する勤務基準が労働契約の内容になることを期待し,同勤務基準が労働契約の内容になることにつき法律上の利害関係を有していたということができるから,その後同勤務基準が変更された場合,同変更後に運航乗務員訓練生から運航乗務員に昇格した者は,改定された本件就業規程の定める新たな勤務基準が不利益に変更されたと主張し,同勤務基準の効力を争うことができると解するのが相当であり,運航乗務員に昇格する前に改定前の本件就業規程が運航乗務員訓練生に適用されていなかったという一事をもって,就業規則の不利益変更の合理性を争う機会を否定すべきではない。したがって,運航乗務員訓練生から運航乗務員に昇格して現実に乗務している被控訴人P13外11名については,就業規則の不利益変更の合理性を争う方法により,本件就業規程の改定によって変更された勤務基準に基づく勤務上の義務がないことの確認を求める利益を認めるのが相当である。 ウ控訴人は,本件就業規程の改定当時運航乗務員訓練生で,その後に運航乗務員となった被控訴人らについては,その運航乗務員としての労働契約の内容は,最初から変更後の本件就業規程に定める勤務基準によって規律されるのであるから,労働契約の内容に変更は全くなく,控訴人の現行勤務基準に基づく勤務指示に従う義務がないとする根拠は存しないと主張する。 なるほど,就業規則は一定不変 に定める勤務基準によって規律されるのであるから,労働契約の内容に変更は全くなく,控訴人の現行勤務基準に基づく勤務指示に従う義務がないとする根拠は存しないと主張する。 なるほど,就業規則は一定不変のものではなく,改定されることもあり,また,運航乗務員訓練生から副操縦士又は航空機関士に昇格できない者が少数存在する。しかし,前記イのとおり,大半の運航乗務員訓練生が運航乗務員に昇格しており,その時点で控訴人との間で新たな労働契約を締結しているのではないから,運航乗務員として新規に採用されて就業規則が適用されるという場合とは異なり,運航乗務員訓練生は,運航乗務員ではないものの,近い将来運航乗務員に昇格すれば,改定前の本件就業規程の規定する勤務基準が労働契約の内容になることを期待し,同勤務基準が労働契約の内容になることにつき法律上の利害関係を有していたので,本件就業規程改定の合理性の有無,すなわち,改定された本件就業規程の定める新たな勤務基準に基づく勤務上の義務のないことの確認を求める利益があると解するのが相当である。したがって,本件就業規程の改定後に運航乗務員訓練生から運航乗務員に昇格した被控訴人P13外11名について,その運航乗務員としての労働契約の内容が,当初から変更後の本件就業規程に規定する勤務基準によって定まることを理由として確認の利益を否定する控訴人の前記主張は相当とはいい難く,これを採用することはできない。 また,控訴人は,本件確認訴訟において問題となるのはあくまで就業規則変更の合理性であるから,本件就業規程の適用を受けることが運航乗務員としての労働条件の新たな設定である場合には,変更の合理性を問題とする基盤に欠けると主張する。しかし,前記のとおり,本件就業規程の改定後に運航乗務員訓練生から運航乗務員となった被控訴人P13外11名について 労働条件の新たな設定である場合には,変更の合理性を問題とする基盤に欠けると主張する。しかし,前記のとおり,本件就業規程の改定後に運航乗務員訓練生から運航乗務員となった被控訴人P13外11名については,運航乗務員として新規に採用されて本件就業規程が適用されるという場合とは異なり,運航乗務員訓練生は,運航乗務員ではないものの,近い将来運航乗務員に昇格すれば,改定前の本件就業規程の規定する勤務基準が労働契約の内容になることを期待し,同勤務基準が労働契約の内容になることにつき法律上の利害関係を有していたということができるから,本件就業規程改定の合理性を争うことができると解するのが相当である。したがって,控訴人の上記の主張は採用することができない。 (4) その他の確認の利益ア運航乗務員の資格,所属,控訴人における乗務の実態等について(ア) 現在の航空法によれば,以下のとおり規定されている。 国土交通大臣(なお,本件就業規程改定当時は運輸大臣。以下同様)は,申請により,航空業務を行おうとする者にページ(6)ついて,定期運送用操縦士,事業用操縦士,航空機関士その他の資格別に航空従事者技能証明(以下「技能証明」という。)を行う(同法22条,24条)。技能証明は,国土交通省令(なお,本件就業規程改定当時は運輸省令。以下同様)の定めるところにより,航空機の種類についての限定がされ,さらには,航空機の等級又は型式についての限定がされることがある(同法25条1項,2項)。技能証明は,資格別及び種類別に国土交通省令で定める年齢及び飛行経歴その他の経歴を有する者でなければ受けることができない(同法26条1項)。機長として,航空運送事業の用に供する航空機であって,構造上,その操縦のために2人を要するものの操縦を行う業務を行うには,定期運送用操縦士の資格の技能証明及び 受けることができない(同法26条1項)。機長として,航空運送事業の用に供する航空機であって,構造上,その操縦のために2人を要するものの操縦を行う業務を行うには,定期運送用操縦士の資格の技能証明及び航空身体検査証明が必要であり,機長以外の操縦者として航空運送事業の用に供する航空機の操縦を行う業務を行うには,事業用操縦士の資格の技能証明及び航空身体検査証明が必要であって,かつ,技能証明につき同法25条の限定をされた航空従事者は,その限定をされた種類,等級又は型式の航空機についてでなければ,その業務を行ってはならず,航空機に乗り組んで発動機及び機体の取扱い(操縦装置の操作を除く。)を行うには航空機関士の資格の技能証明及び航空身体検査証明が必要である(同法28条1項,2項,別表)。国土交通大臣は,申請者がその申請に係る資格の技能証明を有する航空従事者として航空業務に従事するのに必要な知識及び能力を有するかどうかを判定するために学科試験及び実地試験を行い,その合格した者に対して技能証明を行う(同法29条)。国土交通大臣は,同法25条2項又は3項の限定に係る技能証明につき,その技能証明に係る航空従事者の申請により,その限定を変更することができる(同法29条の2第1項)。航空従事者は,航空機に乗り組んでその航空業務を行う場合には,技能証明書の外,航空身体検査証明書を携帯しなければならない(同法67条)。航空機乗組員は,国土交通省令で定めるところにより,一定の期間内における一定の飛行経験がないときは,航空運送事業の用に供する航空機の運航に従事してはならない(同法69条)。航空運送事業の用に供する航空機の運航に従事する航空機乗組員のうち,操縦者は,操縦する日からさかのぼって90日までの間に,当該航空運送事業の用に供する航空機と同じ型式の航空機に乗り組んで離陸及び )。航空運送事業の用に供する航空機の運航に従事する航空機乗組員のうち,操縦者は,操縦する日からさかのぼって90日までの間に,当該航空運送事業の用に供する航空機と同じ型式の航空機に乗り組んで離陸及び着陸をそれぞれ3回以上行った経験を有しなければならない(同法施行規則158条1項)。当該航空運送事業の用に供する航空機と同じ型式の模擬飛行装置を国土交通大臣の指定する方式により操作した経験は,その飛行経験とみなされる(同法施行規則158条3項)。定期航空運送事業の用に供する航空機には,国土交通省令で定める当該路線における航空機の機長として必要な経験,知識及び能力を有することについて国土交通大臣の認定を受けた者でなければ,機長として乗り組んではならない(同法72条1項)。 (イ) 証拠(甲222の8及び9頁,270の1頁及び3頁,1220,乙100の15頁,原審原告P25の原審第19回本人調書17項及び18項,原審証人P26の原審第22回証人調書29項)によれば,運航乗務員が控訴人から命じられる勤務は,航空法が前記(ア)のとおり規定しているため,技能証明に係る資格(運航乗務員にとっては職種に相当する。)や航空機の種類によって異なる上,機長については路線資格によってもその勤務の内容が異なること,副操縦士については,航空法は機長のような路線資格を定めていないものの,控訴人の社内で定めた要件として,空港ごとの乗務経験を有することが必要とされ,これによる勤務の制約があること,航空機関士には路線資格又は空港ごとの乗務経験の有無による勤務の制約はないことが認められる。 (ウ) 証拠(甲589,1083)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人における現在の使用機種(機材)は,B747,B747-400,MD11,DC10,B777,B767の6機種であること(平成14年12月現 証拠(甲589,1083)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人における現在の使用機種(機材)は,B747,B747-400,MD11,DC10,B777,B767の6機種であること(平成14年12月現在。本件の係争中これに加え,B737も保有していたが,現在は子会社であるジャルエクスプレスに移管され,国内線に就航している。),上記6機種のうち,B747とDC10は機長,副操縦士及び航空機関士が乗務する3名編成機で,他の機種はいずれも機長及び副操縦士が乗務する2名編成機であること,① B747は,国内線,韓国線,中国線,東南アジア線,オセアニア線,ホノルル線,北極回り欧州線,北米線等に就航していること,② B747-400は,国内線,中国線,東南アジア線,ホノルル線,欧州線,北米線,オセアニア線等に就航していること,③ MD11は,国内線,韓国線,中国線,東南アジア線,欧州線,北米線等に就航していること,④ DC10は,国内線,韓国線,中国線,東南アジア線,ホノルル線等に就航していること,⑤ B777は,主に国内線に就航しているが,平成14年7月からは国際線にも就航しており,現在東南アジア線,中国線に就航していること,⑥ B767は,主に国内線,韓国線,中国線,東南アジア線,オセアニア線に就航していること,機種の担当路線は,主に航続距離の長さ,座席数の多さ,離着陸性能等の理由により決定されているが,使用される機種は,旅客需要の理由による変更や臨時便などにより,予め定められた機種とは別の機種で運航されることもあることが認められる。 (エ) 証拠(甲526の6枚目,589,1083,1092の1の45頁,乙115)及び弁論の全趣旨によれば,運航乗務員は,機種毎に設定された乗員部の中で,担当路線別に分けられた各路線室又はフライトエンジニア室に配属されている 目,589,1083,1092の1の45頁,乙115)及び弁論の全趣旨によれば,運航乗務員は,機種毎に設定された乗員部の中で,担当路線別に分けられた各路線室又はフライトエンジニア室に配属されていること,路線室又はフライトエンジニア室の下には,さらに主席と呼ばれる機長又は先任航空機関士をグループ長とするグループが存在すること,原判決別紙「日本航空運航本部乗員部・路線室図」(原判決第1分冊別紙58頁,甲589)について変更があり,本件の係争中にB737が子会社であるジャルエクスプレスに移管され,B737運航乗員部が廃止され,また,使用機種の増加(B767,B777)により,B767運航乗員部は第1路線室から第4路線室までに拡大され,担当路線も香港,ハノイ,サイゴン,デンパサール等の国際路線が増え,さらに,B777運航乗員部は第1路線室,第2路線室に拡大し,担当路線も香港,北京,上海,クアラルンプール等の国際路線が増えたことが認められる。 (オ) 証拠(甲253,270,592,1083,1092の1の45頁ないし47頁,1107の1,1218,1229)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 a 機長,副操縦士,航空機関士は保有する資格により乗務する機種が特定されるが,運航乗務員にとって所属する機種毎の運航乗員部,路線室は固定不変のものではない。機種の退役,新機種導入,特定機種の機材数の増減などにより,各機種を運航するのに必要な運航乗務員を確保するために運航乗務員の機種移行が行われ,機種移行により機種毎に設定されている運航乗員部を移動することになる。控訴人の運航乗務員(機長,先任航空機関士を除く。)の約半数の者が2年又は3年に1回の割合で機種移行を経験しているし,10年以上機種移行を経験しない運航乗務員は10%程度に過ぎない(甲253)。機 。控訴人の運航乗務員(機長,先任航空機関士を除く。)の約半数の者が2年又は3年に1回の割合で機種移行を経験しているし,10年以上機種移行を経験しない運航乗務員は10%程度に過ぎない(甲253)。機種移行に要する期間は,未経験の機種に移行する場合で約6か月,経験したことのある機種に移行する場合で約3か月である。なお,航空機関士は,乗務機種がB747とDC10の2機であるから,機種移行は操縦士ほど行われていないが,DC10は退役時期が近いことからDC10の航空機関士はいずれB747へ移行することが予想される。 b 運航乗務員は所属する路線室によって業務が固定されるものではなく,流動的である。ある路線室に所属しているとしても,乗務する路線や便は必ずしも限定されるものではない。例えば,「米州路線室」「欧州路線室」に所属していても,欧州,米州路線に限定されず,他の路線に乗務している。B747運航乗員部の路線室において,それぞれの路線室の所管路線には国内線も含まれるし,欧州路線室でもホノルル,サイパン,中国の路線が含まれ,アジア・オセアニア路線室でもホノルル,グアムの路線に乗務している。B747-400運航乗員部の米州路線室,欧州路線室においても同様であり,共通路線として国内線,アジア・オセアニア線,ホノルル線があり,さらにマニラ,ホーチミン,デンパサールといった路線にも乗務している。そして,米州路線室に所属する運航乗務員が欧州路線室に掲げられている路線を乗務し,逆に欧州路線室に所属する運航乗務員が米州路線室が掲げている路線を乗務することもある(甲1092の46頁,1218,1229)。季節,イベント等により定期便にも繁忙等が生じ,担当路線の機種と異なった機種が投入されて臨時便や代行便が運航されることがあり,臨時便や代行便は路線室とは関係なく投入されている ,1218,1229)。季節,イベント等により定期便にも繁忙等が生じ,担当路線の機種と異なった機種が投入されて臨時便や代行便が運航されることがあり,臨時便や代行便は路線室とは関係なく投入されている。 c 乗員部の規模の拡大や減少によって機種ごとの担当路線は変動されており,前記のとおりB777,B767の各ページ(7)運航乗員部については,規模が拡大され,担当路線が増大しているし,B777は,国内線に加えて国際線も担当し,今後は長距離国際線も担当する予定であり,B767についても同様である。 d 控訴人における運航乗務員の路線室移動の頻度は,1年以内の移動が48%,3年までの間の移動は96%であり,運航乗務員の100%近くの者が3年までの間に路線室移動を頻繁に繰り返している。 (カ) 証拠(甲1092の1の48頁,1218)及び弁論の全趣旨によれば,機種移行や航空機関士から副操縦士への移行は,訓練を受けた者につき100%に近い確率で実施されており,前記のとおり機種移行の訓練期間は3か月ないし6か月であり,また,航空機関士から副操縦士への移行訓練は1年半ないし3年であること,運航乗務員が機種移行訓練に投入された場合,審査に合格して新たな路線室に配属されるまでは,従前の路線室に所属していること,航空機関士から副操縦士へ移行訓練中の者も同様であること,機種移行を伴わない路線室移行は,新たな訓練などもなく,座学だけで即日,移動することが認められる。 (キ) 証拠(甲592,1077,1083,1107の1,1139,1218ないし1220,1229,1231,1232)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人P27,同P28,同P29,同P30,同P31,同P32及び同P33は副操縦士としてB747運航乗員部に所属し,被控訴人P34,同P14及び同P20は副操縦士 32)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人P27,同P28,同P29,同P30,同P31,同P32及び同P33は副操縦士としてB747運航乗員部に所属し,被控訴人P34,同P14及び同P20は副操縦士としてDC10運航乗員部に所属し,被控訴人P35は副操縦士としてMD11運航乗員部に所属し,被控訴人P36,同P37,同P15,同P17,同P38,同P19,同P21及び同P23は副操縦士としてB767運航乗員部に所属し,被控訴人P39,同P40,同P13,同P16,同P24及び同P22は副操縦士としてB747-400運航乗員部に所属し,被控訴人P41及び同P42は航空機関士としてB747運航乗員部に所属し,被控訴人P18及び同P43は航空機関士としてDC運航乗員部に所属し,被控訴人P44及び同P45は副操縦士として日本アジア航空乗員部に移籍して所属していることが認められる。 イ確認訴訟は,前記のとおり現在の権利ないし法律関係の存否を既判力をもって確定して現在の権利ないし法律関係をめぐる紛争を抜本的に解決する訴訟類型であるから,確認の対象は,原則として現在の権利ないし法律関係である必要があり,未だ具体化・現実化していない将来の権利ないし法律関係は,将来変動する可能性があるので,確認の利益を欠くというべきである。 これを本件における被控訴人ら(被控訴人P1外11名を除く。)についてみると,運航乗務員がどのような勤務を命じられるかについては,前記アのとおり,技能証明に係る資格,乗務する機種,副操縦士については空港ごとの乗務経験の有無等によることになるが,具体的には機種毎に設定された運航乗員部や担当路線別に分けられた路線室の所属等によって具体的に決まる。しかし,前記アで認定したとおり,所属する路線室の担当路線によって担当する業務がすべて特定されるものでは には機種毎に設定された運航乗員部や担当路線別に分けられた路線室の所属等によって具体的に決まる。しかし,前記アで認定したとおり,所属する路線室の担当路線によって担当する業務がすべて特定されるものではなく,また,運航乗務員の所属する運航乗員部や路線室は固定不変のものではなく,運航乗務員の多くが比較的短期間に路線室を移動し,さらに機種移行もかなりの頻度で行われている。このような実態に照らせば,同被控訴人らが所属する現在の運航乗員部や路線室,あるいは控訴人による乗務割の作成等の事情により,同被控訴人らによっては,控訴人から本件就業規程の改定によって新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務の履行を求められていない者がいるとしても,他の運航乗務員が控訴人から現実に新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務の履行を求められていれば同様に同被控訴人らもその義務の履行を求められる可能性があり,あるいは運航乗員部や路線室の移行により同被控訴人らも新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務の履行を求められる可能性があるから,同被控訴人らと控訴人との間に現在の権利ないし法律関係をめぐって紛争があるということができ,確認の利益を認めるのが相当である。そして,管理職運航乗務員に昇格した被控訴人P1外11名並びに日本アジア航空乗員部に移籍している被控訴人P44及び同P45(以上の2名については後に検討する。)を除く被控訴人らの現在の控訴人における所属する乗員部は前記ア(キ)のとおりであり,同被控訴人らや他の運航乗務員は,控訴人から当審で確認対象となっている勤務基準(シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合並びにシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準,一連 編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合並びにシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準,一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する勤務基準,宿泊を伴う休養時間についての勤務基準,国内線連続乗務日数に関する勤務基準,並びに国際線のスタンバイの指定便制度に関する勤務基準)に基づく勤務上の義務の履行を現実に求められており(甲第539号証,第540号証,第592号証及び弁論の全趣旨によれば,原判決第1分冊別紙46頁別表「確認の利益-2 原告らが命じられた具体的勤務」から同別紙50頁別表「確認の利益-6原告らが命じられた具体的勤務」までに記載されたとおり,同被控訴人らや他の運航乗務員に対して具体的勤務が命じられたことが認められる。),また,前記アの認定事実に照らすと,同被控訴人らは,その所属する運航乗員部や路線室を移行することにより改定された本件就業規程によって新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務の履行を求められる可能性があるといえるので,同被控訴人らと控訴人との間に現在の権利ないし法律関係をめぐって紛争があるということができ,同被控訴人らに確認の利益を認めるのが相当である。 なお,B767運航乗員部では,現在シングル編成による1回着陸で予定乗務時間が9時間を超える路線はない(弁論の全趣旨)が,被控訴人らのうち,B767運航乗員部に所属する者が近い将来機種移行し,シングル編成による1回着陸で予定乗務時間が9時間を超える路線のある運航乗員部に移行する可能性があり,同被控訴人らにつき,この点に関する勤務基準に基づく勤務上の義務がないことの確認の利益を認めるのが相当である。 ウ前記ア(キ)のとおり,被控訴人P44及び同P45は副操縦士として日本アジ 能性があり,同被控訴人らにつき,この点に関する勤務基準に基づく勤務上の義務がないことの確認の利益を認めるのが相当である。 ウ前記ア(キ)のとおり,被控訴人P44及び同P45は副操縦士として日本アジア航空乗員部に移籍して所属している。 証拠(甲1,1145,1221,1222,1224,1231,1232)及び弁論の全趣旨によれば,日本アジア航空は控訴人の子会社であり,日本と台湾を結ぶ路線を運航しているが,独自に採用・養成した運航乗務員はなく,控訴人から一時移籍(実質は在籍出向)した運航乗務員による運航がなされていること,日本アジア航空運航乗員部は,控訴人の従業員によって運営され,運航の実態に照らし,実質上は控訴人の運航乗員部のひとつであり,控訴人と日本アジア航空の運航は一体化していること,「日本アジア航空株式会社への職員の移籍に関する協定」に関する覚書(甲1の260頁)第2条によれば,控訴人は,移籍職員を原則として1年で控訴人に復籍させることとしており,実際にも1年で控訴人に復籍させていること,日本アジア航空における勤務基準につき,平成5年11月に勤務協定が解約される以前は,日本アジア航空での乗務ダイヤや乗務パターンは,控訴人と乗員組合の勤務協定に基づいて決定され,その勤務基準は日本アジア航空の運航乗務員就業規程(甲1224)に規定されていたこと,日本アジア航空の運航乗務員就業規程は,国内線に関する事項以外はすべて控訴人の本件就業規程と同じ内容であること,平成5年11月の勤務協定解約後は,改定後の本件就業規程の基準が日本アジア航空の運航乗務員就業規程の定める基準となっていること,日本アジア航空移籍中の運航乗務員が受ける給与の明細は,控訴人の発行する給与明細書となっていること(甲1224),日本アジア航空での乗務飛行経験は,機長昇格などに求めら の定める基準となっていること,日本アジア航空移籍中の運航乗務員が受ける給与の明細は,控訴人の発行する給与明細書となっていること(甲1224),日本アジア航空での乗務飛行経験は,機長昇格などに求められる控訴人の運航乗務員としての乗務時間,飛行経験年数に通算されること(甲1222)が認められる。 以上のような控訴人と日本アジア航空との関係,移籍しても原則として1年で控訴人に復職すること等の事情によれば,日本アジア航空乗員部に移籍している被控訴人P44及び同P45についても,近い将来改定後の本件就業規程による勤務基準に基づく勤務上の義務の履行を求められる可能性があり,同被控訴人らと控訴人との間に現在の権利ないし法律関係をめぐって紛争があるということができるので,改定後の本件就業規程による勤務基準に基づく勤務上の義務が存在しないことの確認の利益を認めるのが相当である。 エなお,現在,被控訴人らの中に機種移行訓練中ないし副操縦士移行訓練中の者がいると認めるに足りる証拠はないが,前記アの認定事実に照らせば,機種移行訓練中ないし副操縦士移行訓練中の者についても確認の利益を肯定するのページ(8)が相当である。 2 就業規則変更の効力に関する判断基準(1) 基本的な考え方管理職を除く運航乗務員の従前の労働契約の内容は,控訴人と乗員組合との間で締結されていた勤務協定の勤務基準によっており,同様の基準が本件就業規程に規定されていたところ,控訴人がこの勤務基準を変更するため乗員組合と交渉したが合意に至らず,勤務協定を解約し,本件就業規程を改定して新たな勤務基準を定めるに至ったことから,運航乗務員である被控訴人らが本件確認訴訟を提起し,控訴人の行った本件就業規程の改定は不利益な変更で合理性がないなど,その変更により新たに設定された勤務基準の規定の効力が被控訴人ら に至ったことから,運航乗務員である被控訴人らが本件確認訴訟を提起し,控訴人の行った本件就業規程の改定は不利益な変更で合理性がないなど,その変更により新たに設定された勤務基準の規定の効力が被控訴人らに及ばないと主張し,新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務がないことの確認を求めているものであるから,就業規則の不利益変更の効力が問題となっている。就業規則の不利益変更の効力については,最高裁判所の判例が次のとおりその要件及び判断基準を明らかにしている(最高裁判所昭和43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁,最高裁判所昭和58年11月25日第2小法廷判決・裁判集民事140号505頁,最高裁判所昭和63年2月16日第3小法廷判決・民集42巻2号60頁,最高裁判所平成4年7月13日第2小法廷判決・裁判集民事165号185頁,最高裁判所平成8年3月26日第3小法廷判決・民集50巻4号1008頁,最高裁判所平成9年2月28日第2小法廷判決・民集51巻2号705頁,最高裁判所平成12年9月7日第1小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)。すなわち,「新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは,原則として許されない。しかし,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されない。そして,上記にいう当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができ るとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。上記の合理性の有無は,具体的には,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」としている。そして,当審で判断の対象とされている勤務基準は,航空機の運航乗務員の,乗務時間又は勤務時間の制限(一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する問題もここに含まれる。),休養時間,国内線連続乗務日数,国際線のスタンバイ指定便制度に関するものであって,いずれも労働者にとって重要な権利,労働条件に関するものということができるから,改定された本件就業規程によって新たに設定された勤務基準の規定の効力が被控訴人らに及ぶか否かについても,上記の最高裁判所の判例が示す要件及び判断基準に従って判断するのが相当である。 (2) 当事者の主張に対する判断ア被控訴人らは,運航の安全性の問題はいわば「絶対性」をもっており,対立する利害の調整に際してなされるような諸事情の比較衡量,総合評価という 断するのが相当である。 (2) 当事者の主張に対する判断ア被控訴人らは,運航の安全性の問題はいわば「絶対性」をもっており,対立する利害の調整に際してなされるような諸事情の比較衡量,総合評価という手法になじむものではないのであって,変更後の規定が航空機の航行の安全を確保しえない内容の場合には,いかに使用者側に労働条件を変更する高度の必要性があろうとも,それは,航空機の航行の安全性を補完する要素とはなりえないのであり,このような場合には,比較衡量による審査をするまでもなく,労働条件の合理性が否定されなければならないので,本件で争われている労働条件の合理性審査にあたっては,まずもって安全性という観点から「変更後の規定内容自体の合理性」の審査が不可欠となり,この点が肯定されない限り,変更後の規定内容の合理性と変更の必要性との比較衡量による判断という方法は採用することができないと主張する。 なるほど,航空機の安全な運航は,乗客や乗務員のみならず,それ以外の者にとっても,当然確保,保障されなければならない。そのため,航空法は,航空機の航行の安全を図るための方法を定めることを目的の一つとし(同法1条),航空機の備えるべき要件及びその充足確保のための措置(「第3章航空機の安全性」同法10条以下),航空従事者の必要な技能及び身体的条件の確保のための措置(「第4章航空従事者」同法22条以下),航空路,飛行場及び航空保安施設の指定・整備(「第5章航空路,飛行場及び航空保安施設」同法37条以下),航空機の運航に当たって関係者が遵守すべき事項(「第6章航空機の運航」同法57条以下)について規定している。すなわち,同法は,安全運航に必要な性能を備え,十分に整備された航空機を確保し,その航空機につき十分な操縦技術を有し,運航する路線及び空港の離着陸の経路等に関する 法57条以下)について規定している。すなわち,同法は,安全運航に必要な性能を備え,十分に整備された航空機を確保し,その航空機につき十分な操縦技術を有し,運航する路線及び空港の離着陸の経路等に関する必要な知識を有し,通常,心身の良好な状態を維持し,状況に応じた適切な判断,措置を執ることのできる運航乗務員が運航業務を遂行することができるようにし,航空路,飛行場及び航空保安施設の指定・整備が適切に行われて安全運航の確保に必要かつ十分な措置が執られ,運航に当たっては,気象条件に問題がないか否かを確認し,航空機の航行に重大な支障を来さない気象条件において離着陸及び航行を行うこととし,航空機の運航に当たって関係者が遵守すべき事項を遵守することによって,航空機の航行に伴う危険性を低いものに規制することができるものと考えて所要の規定を整備しているものということができる。 また,運航乗務員が疲労のため状況に応じた適切な判断,措置を執ることができないとすれば,航空機の航行の安全を確保することができなくなるから,運航乗務員に業務遂行に支障が生ずるような疲労が蓄積しないようにする措置が必要であるところ,同法は,乗務割作成の基準を定めることにより運航乗務員の乗務時間及び乗務時間以外の労働時間を規制している。すなわち,前記第3の争いのない事実等で述べたとおり,同法68条(平成11年法律第160号による改正前のもの)は,「航空運送事業を経営する者は,運輸省令で定める基準に従って作成する乗務割によるのでなければ,航空従事者をその使用する航空機に乗り組ませて航空業務に従事させてはならない。」と規定し,同法施行規則157条の3(平成12年運輸省令第39号による改正前のもの)は,乗務割の基準につき,航空機乗組員の乗務時間制限に関し考慮すべき事項として,「当該航空機の型式,操縦者につ い。」と規定し,同法施行規則157条の3(平成12年運輸省令第39号による改正前のもの)は,乗務割の基準につき,航空機乗組員の乗務時間制限に関し考慮すべき事項として,「当該航空機の型式,操縦者については,同時に運航に従事する他の操縦者の数及び操縦者以外の航空機乗組員の有無,当該航空機が就航する路線の状況及び当該路線の使用飛行場相互間の距離,飛行の方法並びに当該航空機に適切な仮眠設備が設けられているかどうかの別」を掲げ,これらの事項を考慮して,「少なくとも24時間,1暦月,3暦月及び1暦年ごとに航空機乗組員の乗務時間が制限されていること,航空機乗組員の疲労により当該航空機の航行の安全を害さないように乗務時間及び乗務時間以外の労働時間が配分されていること」を規定している。この乗務割は,運輸大臣の認可を要する運航規程において定められることになっている(同法104条1項(平成11年法律第72号及び同第160号による改正前のもの)は,「定期航空運送事業者は,運輸省令で定める航空機の運航及び整備に関する事項について運航規程及び整備規程を定め,運輸大臣の認可を受けなければならない。」と規定し,同法104条2項(平成11年法律第160号による改正前のもの)は,「運輸大臣は,前項の運航規程又は整備規程が運輸省令で定める技術上の基準に適合していると認めるときは,同項の認可をしなければならない。」と規定し,同法施行規則216条(平成12年運輸省令第53号による改正前のもの)は,航空機乗組員の乗務割が運航規程で定められるべき事項であり,技術上の基準として航空機乗組員の乗務割が同法施行規則157条の3の基準に従うものであることを規定している。)。 以上のとおり,航空法及び同法施行規則は,航空機の航行に伴う危険性を低いものに規制するためには,運航乗務員に過度に疲労が蓄積 同法施行規則157条の3の基準に従うものであることを規定している。)。 以上のとおり,航空法及び同法施行規則は,航空機の航行に伴う危険性を低いものに規制するためには,運航乗務員に過度に疲労が蓄積しないようにすることが必要であり,そのために乗務時間制限並びに乗務時間及び乗務時間以外の労働時間の適切な配分が必要であると考え,それらを決定するに当たって考慮すべき事項を規定していると解される。 ページ(9)そして,前記第3の争いのない事実等で述べたとおり,運輸省航空局技術部長は乗務時間制限に関して基準を定め,この基準の範囲内であれば,前記航空法施行規則157条の3に定める「航空機乗務員の疲労により当該航空機の航行の安全を害さないように乗務時間及び乗務時間以外の労働時間が配分されていること」の要件を満たすことになり,控訴人は,その基準の範囲内で乗務時間制限を定めるなど,航空法及び同法施行規則に基づき,運航規程を設定して運輸大臣の認可を受け,改定された本件就業規程で定める勤務基準はこの運航規程の範囲内で定められている。また,改定された本件就業規程で定める勤務基準は,前記第3の争いのない事実等で述べたとおり,労働時間を含め,労働基準法に反するような定めはなく,関係法令を遵守している。さらに,本件確認訴訟は,改定された本件就業規程で定める勤務基準の規定の効力が運航乗務員に及ぶか否かという本来労使間の交渉によって調整が図られるべき労働条件をめぐる紛争であって,航空法令やその基準の当否が問題となっている事案ではない。そして,就業規則の不利益変更の効力に関する最高裁判所の判例が掲げる前記判断基準では,変更後の就業規則の内容自体の相当性をも考慮して就業規則の変更の合理性が判断されることになるので,内容自体の不合理性はその改定された本件就業規程で定める勤務基準の内容が 判例が掲げる前記判断基準では,変更後の就業規則の内容自体の相当性をも考慮して就業規則の変更の合理性が判断されることになるので,内容自体の不合理性はその改定された本件就業規程で定める勤務基準の内容が航空法令等に違反しているなど明らかに運航の安全性を害するものであればともかく,改定された本件就業規程で定める勤務基準は関係法令を遵守している本件においては,運航の安全性という観点から「変更後の規定内容自体の合理性」の審査を優先させるべき理由はない。そうすると,改定された本件就業規程で定める勤務基準が被控訴人P1外11名を除く被控訴人ら運航乗務員を拘束するか否かの判断は,前記就業規則変更に関する最高裁判所の判例で示されている判断基準に従って判断するのが相当である。したがって,運航の安全性という観点から「変更後の規定内容自体の合理性」の審査を優先させるべきであるとする被控訴人らの前記主張は採用することができない。 イ被控訴人らは,運航乗務員の乗務時間その他の労働条件については,航空機の運航の安全確保及び運航乗務員の疲労という観点から,運航ダイヤその他の個別具体的な実情に即して,合理的な制限を定めなければならず,そのような個別具体的事情を考慮した上で,就業規則が合理性を有するか否かを審査しなければならないと主張する。 しかし,前記アで述べたとおり,改定された本件就業規程で定める勤務基準は,航空機の運航の安全確保及び運航乗務員の疲労という観点から定められた航空法令に準拠しているのであり,また,就業規則は,職場における具体的事情を考慮して定められるとしても,本来労使関係において法的規範性を有するもので,画一的,定型的に定められる性質のものであって,個別具体的な事情は,むしろ使用者としての控訴人が労働者の安全や健康に配慮する観点から、運航規程や本件就業規程等に基づ において法的規範性を有するもので,画一的,定型的に定められる性質のものであって,個別具体的な事情は,むしろ使用者としての控訴人が労働者の安全や健康に配慮する観点から、運航規程や本件就業規程等に基づく乗務割の作成の際や個々の業務命令発令の際に考慮されるべき事項というべきである。 したがって,個別具体的事情を考慮した上で就業規則の合理性を審査すべきであるとする被控訴人らの前期主張は採用することができない。 (3) 小括したがって,以下,当審で判断の対象になっている改定された本件就業規程により新たに定められた勤務基準ごとに,当該勤務基準を定める規定が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該規定の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであるか否か,具体的には,① 本件就業規程の改定によって労働者である運航乗務員が被る不利益の内容及び程度,② 使用者である控訴人側の本件就業規程改定の必要性の内容及び程度,③ 改定後の本件就業規程が定める勤務基準の内容自体の相当性,④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,⑤ 労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,⑥ 同種事項に関する我が国や諸外国における状況等を検討し,当該勤務基準を定める規定が合理的なものであるか否かを判断する。 3 シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限を変更した規定の合理性の有無(1) 不利益の有無,内容及び程度ア(ア) 前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊47,54及び55頁,原判決第1分冊別紙42頁の別表2)によれば,勤務協定(同じ内容が改定前の本件就業規程にも定められていた。)では,シングル編成で予 ア) 前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊47,54及び55頁,原判決第1分冊別紙42頁の別表2)によれば,勤務協定(同じ内容が改定前の本件就業規程にも定められていた。)では,シングル編成で予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中乗務時間9時間,勤務時間13時間を超えて予定してはならないと定められていた。 (イ) もっとも,前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊44頁)によれば,勤務協定では,シングル編成とは,機長1名,副操縦士1名,航空士1名,及び航空機関士又はセカンド・オフィサー1名,若しくは機長1名,副操縦士1名,及び航空機関士又はセカンド・オフィサー1名による編成をいうと定義され,機長1名及び副操縦士1名による編成は予定されていなかった。 (ウ) 証拠(甲1,3,乙151の1及び2,152,153)及び弁論の全趣旨によれば,2名編成機については,昭和60年11月にB767という2名編成機を導入するに際し,控訴人は,2名編成機にも勤務協定を適用させるべく協定の改定を乗員組合に申し入れたが,乗員組合の合意が得られなかったので,同年11月1日付けをもって,改定前の本件就業規程のシングル編成の定義を,「シングル編成とは,機長1名,副操縦士1名,又は機長1名,副操縦士1名,及び航空機関士若しくはセカンド・オフィサー1名による編成をいう。」と改め,以後就業規程に基づいて業務指示をしてきたこと,もっとも,平成5年2月20日に控訴人の運航規程を改定するまでは,同規程には,2名編成機のシングル編成の場合,連続24時間中の乗務時間は8時間を超えて予定してはならないと定められており,2名編成機に関しては,就業規程にかかわりなく,運航規程に定める制限が適用されてきたこと,控訴人は,平成2年12月28日に乗員組合宛に文書(乙151の1)を出し,2名編 てはならないと定められており,2名編成機に関しては,就業規程にかかわりなく,運航規程に定める制限が適用されてきたこと,控訴人は,平成2年12月28日に乗員組合宛に文書(乙151の1)を出し,2名編成機のシングル編成の場合の乗務時間制限を8時間,勤務時間制限を13時間とする協定書の改定案を提案し,協定改定には至らなかったものの,以降その文書による取扱いに従って運用を継続していたことが認められる。 (エ) 前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊23,28頁,原判決第1分冊別紙30頁)によれば,平成5年2月20日付け改定による現行の控訴人の運航規程では,2名編成機を含め,シングル編成の乗務時間制限は8時間から12時間に,勤務時間制限は13時間から15時間に改定された。もっとも,証拠(乙154,356の1及び2,384の1の17頁)によれば,控訴人は,上記運航規程の改定にかかわらず,平成5年3月2日付け文書(乙154)により,乗員組合に,2名編成機の乗務時間制限等の運用について,同年6月までの間は現行の運用を継続する旨通知し,さらに同年7月22日付けの文書(乙356の2)をもってその取扱いを同年10月末まで継続することを通知したことが認められる。 (オ) 前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊62頁,原判決第1分冊別紙43頁の別表7)によれば,改定後の本件就業規程においては,2名編成機と3名編成機との間に差異を設けることなく,シングル編成で予定着陸回数が1回の場合,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間は,出頭時刻に応じて9時間ないし11時間,勤務時間は同じく13時間ないし15時間までを超えて予定してはならないと改定された。 イ以上によれば,勤務協定では,シングル編成で2名編成機の場合の予定着陸回数ごとの乗務時間及び勤務時間の制限に関する明確 は同じく13時間ないし15時間までを超えて予定してはならないと改定された。 イ以上によれば,勤務協定では,シングル編成で2名編成機の場合の予定着陸回数ごとの乗務時間及び勤務時間の制限に関する明確な規定はなく,昭和60年11月1日付けで本件就業規程が改定され,シングル編成の2名編成機でも3名編成機と同様に予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中乗務時間9時間,勤務時間13時間を超えて予定してはならないと定められたが,平成5年2月20日付けで改定される前の運航規程では,2名編成機のシングル編成の場合,連続24時間中の乗務時間は8時間を超えて予定してはならないと定められており,2名編成機に関しては,改定前の本件就業規程にかかわりなく,上記運航規程に定める制限が適用されて運用され,平成5年2月20日付けで運航規程が改定された後も同年10月末までは同様の運用がされていたものの,改定後の本件就業規程においては,2ページ(10)名編成機の場合,3名編成機と同様に,シングル編成で予定着陸回数が1回の場合,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間は,最大で11時間,勤務時間は最大で15時間を超えて予定してはならないと改められたのであって,これによれば,本件就業規程の改定により,乗務時間及び勤務時間ともにその制限時間が最大で2時間延長されたことになる。 また,改定前の本件就業規程では,シングル編成で予定の着陸回数が1回の場合,連続する24時間中乗務時間9時間,勤務時間13時間を超えて,もし,乗務時間11時間まで又は勤務時間15時間までの乗務を予定する場合には,前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊47,55頁,原判決第1分冊別紙42頁の別表3)によれば,マルティプル編成で運航する必要があり,この場合,ONDECKDUTYCREW以外の運航乗員に対 記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊47,55頁,原判決第1分冊別紙42頁の別表3)によれば,マルティプル編成で運航する必要があり,この場合,ONDECKDUTYCREW以外の運航乗員に対し仮眠設備を用意しなければならないとされており,乗務員席で実際に乗務に従事していない運航乗務員は仮眠設備で仰臥した休息をとることができた(甲3の改定前の本件就業規程10条2項,甲1014の6頁以下)。しかし,後記(2)で認定するとおり,控訴人は,本件就業規程を改定することによって,マルティプル編成で従来運航していた路線をシングル編成による2名編成機で運航できるようにし,路線構成の変化や機材性能の向上等運航の実情にマッチした,より合理的な内容に見直しながら,人的生産性の向上を図り,コスト競争力を強化しようとしたものであって,改定後の本件就業規程によれば,シングル編成,すなわち,機長1名と副操縦士1名の2名の運航乗務員だけで乗務時間中は休息をとることもできないまま,運航をすることが余儀なくされることになるのであるから(甲606の1),相当に労働密度が強化される結果となる。 この点につき,控訴人は,本件就業規程の改定による乗務時間及び勤務時間の制限の延長による不利益を論じる際に,オンデッキタイムを持ち出すことは的外れであり,乗務時間制限を論じる際に本件就業規程上の乗務時間の定義と無関係にオンデッキタイムを持ち出すのは誤りであると主張する。しかし,勤務協定や改定前の本件就業規程によれば,マルティプル編成でしか従来運航することのできなかった路線をシングル編成による2名編成機で運航することができるようにするため本件就業規程を改定したのであって,その結果,運航乗務員は単に乗務時間が延長されただけでなく,マルティプル編成の乗務の場合に享受することのできた休息の時間を 編成機で運航することができるようにするため本件就業規程を改定したのであって,その結果,運航乗務員は単に乗務時間が延長されただけでなく,マルティプル編成の乗務の場合に享受することのできた休息の時間を失うことになり,運航乗務員の乗務の内容も変更されたということができるのであるから,この事情も,本件就業規程の改定によるシングル編成で予定着陸回数が1回の場合の乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の変更によって運航乗務員である被控訴人らが被る不利益の内容及び程度を判断する際に考慮することができると解するのが相当である。したがって,この点に関する控訴人の前記主張は採用することができない。 以上によると,本件就業規程の改定により,乗務時間及び勤務時間ともにその制限時間が最大で2時間延長されただけでなく,マルティプル編成で運航していた路線をシングル編成で運航することが可能となり,仮眠設備で休息をとることができなくなるなど,労働密度が強化されており,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の変更は,運航乗務員にとって大幅な不利益変更というべきである。 なお,勤務協定や改定前の本件就業規程においては,「連続する24時間中」の乗務時間及び勤務時間の制限であったが,改定された本件就業規程では「一連続の乗務に係わる勤務」における乗務時間及び勤務時間の制限というようにその乗務時間及び勤務時間の制限の範囲対象が異なっているところ,この制限の範囲対象についての不利益性は直接問題となっていないので,ここでは乗務時間及び勤務時間の制限の変更についてのみ検討する。 ウ控訴人は,本件就業規程の改定により乗務時間及び勤務時間の制限が緩和され,従前に比べれば,より長時間の乗務及び勤務を命ずることができるようになったが,その変更の本 制限の変更についてのみ検討する。 ウ控訴人は,本件就業規程の改定により乗務時間及び勤務時間の制限が緩和され,従前に比べれば,より長時間の乗務及び勤務を命ずることができるようになったが,その変更の本質は,月間の所定就業時間も休日も何ら変わっていない中で,服務の態様や休日の付与の態様等に関する基準に変更が生じたというものであって,子細に見ればその不利益性はほとんど問題にならないと主張する。 しかし,月間の所定就業時間も休日も何ら変わっていないとしても,前記イのとおり,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間の制限時間が延長され,従前に比較してより長時間の乗務及び勤務を命ずることができるようになった上,その乗務中の労働密度は強化されており,これ自体不利益な労働条件の変更ということができるので,この点に関する控訴人の前記主張は採用することができない。 エ控訴人は,本件就業規程の変更によって新たに発生した勤務自体の不利益性を判断するにあたっては,発生する可能性のある勤務形態を論じるのではなく,実際に発生し運航乗務員が勤務に就いた実績のあるものを検討すべきであると主張する。 しかし,就業規則は,労使関係において法的規範性を有するもので,画一的,定型的に定められる性質のものであり,就業規則に定められた勤務基準が労働契約の内容になり,これにより使用者は就業規則に定められた勤務基準に従って労働者に対して具体的に勤務を命ずることができるのであるから,就業規則変更による不利益の有無,内容や程度は,就業規則が定める勤務基準によって実施可能な勤務内容を比較検討すべきである。そして,就業規則に定められた勤務基準に基づき具体的に運航乗務員に対しどのように乗務ないし勤務をさせるかは,使用者として,運航上の必要性のほか,労働者の安全や健康にも配慮する観点からなさ べきである。そして,就業規則に定められた勤務基準に基づき具体的に運航乗務員に対しどのように乗務ないし勤務をさせるかは,使用者として,運航上の必要性のほか,労働者の安全や健康にも配慮する観点からなされる控訴人における運用上の問題であって,実際に運航乗務員が勤務に就いた実績や控訴人が運航乗務員に対して行った配慮は,就業規則変更による不利益変更の有無や程度の判断に直接影響を及ぼさないものと解するのが相当である。したがって,就業規則変更による不利益性を判断するにあたり実際に発生し運航乗務員が勤務に就いた実績等を考慮すべきであるとする控訴人の前記主張は採用することができない。 (2) 変更の必要性の有無,内容及び程度ア本件就業規程改定に至った経緯(証拠等は,各項の末尾に記載する。)(ア) 控訴人の昭和59年度以降平成5年度までの経常損益の推移は,次のとおりであった(△は損失を示す。)。 (第3の争いのない事実等(原判決第2分冊36,37頁))昭和59年度 220億円昭和60年度 △ 16億円昭和61年度 36億円昭和62年度 324億円昭和63年度 436億円平成元年度 527億円平成2年度 248億円平成3年度 △ 60億円平成4年度 △538億円平成5年度 △261億円(イ) 控訴人の業績は,昭和59年以降平成2年ころまでは,好調な経済の情勢下で,飛躍的に需要が伸びたことや原油価格が下落したことにより順調に推移しており,第1次オイルショックによる燃油の高騰により営業費用が増加した影響を受けた昭和49年度,昭和50年度にそれぞれ266億円,98億円,羽田沖事故のあった昭和57年度に271億円,御巣鷹山事故のあった昭和60年度に16億円(ただし,営業利益は192億円の黒字)のそれぞれ経常損失を計上したことがあるほ にそれぞれ266億円,98億円,羽田沖事故のあった昭和57年度に271億円,御巣鷹山事故のあった昭和60年度に16億円(ただし,営業利益は192億円の黒字)のそれぞれ経常損失を計上したことがあるほかは,平成3年度に経常損失を計上するまで経常利益を上げていた。政府機関をはじめ各種の経済研究機関は,平成元年以降も我が国のGNPについて,毎年3ないし5%内外の伸びを想定しており,控訴人も年間6%の事業規模の拡大を計画していた。(乙7,12,19,36,438,弁論の全趣旨)ページ(11)(ウ) ところが,旧ソ連邦の崩壊や東欧諸国の政治的経済的混迷,湾岸危機による原油価格の高騰や湾岸戦争等により,平成3年ころから世界経済は低迷を深め,日本においても,個人消費と民間設備投資の減退は景気後退の度を強め,バブル経済の崩壊をもたらすこととなった。こうした経済情勢は航空需要に多大な影響を及ぼし,その結果,控訴人は,前記のとおりそれまでと一転して平成3年度から平成5年度にかけて3期連続で経常損失を計上することになり,営業損益に関しても,それぞれ129億円,481億円,293億円の営業損失を計上し,特に平成4年度は,営業損失481億円,経常損失538億円と,控訴人の創業以来最も巨額の赤字となった。また,過去に控訴人が経常損失を計上した際は売上高は若干なりとも増加していたのが,平成3年度から平成5年度にかけて,売上高も,それぞれ対前年度比0.4%,7.2%,5.0%減少した。(甲1015の2の7頁及び8頁,1024,乙12ないし16,437,439,原審証人P46の原審第7回証人調書32項ないし64項,弁論の全趣旨)(エ) 前記の世界経済の低迷が世界の航空需要に与えた影響は大きく,特に国際線における状況は,世界的に深刻であり,ICAOの発表によれば,1991年の旅客 回証人調書32項ないし64項,弁論の全趣旨)(エ) 前記の世界経済の低迷が世界の航空需要に与えた影響は大きく,特に国際線における状況は,世界的に深刻であり,ICAOの発表によれば,1991年の旅客輸送量はICAOの発足以来(第2次大戦後)初めて対前年度比マイナス4.1%を記録し,世界の主要国際線航空会社の多くは赤字になった。一方,控訴人においては,国際線旅客総需要が4%の増加を示し,控訴人も経常利益を計上していた平成2年度,既に有償旅客キロ(PPK)が3.5%低下しており,日本発着国際線の供給シェアも昭和56年(1981年)度に34%であったものが,平成2年度には24%に低落していた。しかも,控訴人の売上げの内訳は,国際線の旅客収入・貨物収入が営業収入の全体の65%を占め,国内線が25%,手荷物収入・郵便収入・付帯事業収入等が残りの10%と,国際線収入の割合が極めて高かった。ところが,世界の経済情勢,日本のバブル経済の崩壊の影響を受け,国際線ビジネス旅客と日本発着貨物の需要が大幅に落ち込み,そのため,控訴人の国際線収入は,昭和55年以降順調に増加し,昭和63年度,平成元年度では対前年度比10%前後の増加となっていたのが,平成2年度には対前年度比2.7%の増加にとどまり,平成3年度に対前年度比マイナス3.2%に転じて以降平成4年度は対前年度比マイナス11.0%,平成5年度は対前年度比マイナス7.1%と続くことになった。(乙7,12ないし14,20,21,37,435,439,原審証人P46の原審第7回証人調書81項ないし92項,弁論の全趣旨)(オ) 前記のとおり控訴人の営業収入は落ち込んでいたものの,旅客数全体でみると,必ずしも減少し続けているわけではなかった。営業収入水準が最も高かった平成2年度の旅客数と比較すると,平成5年度108%,平成6年 記のとおり控訴人の営業収入は落ち込んでいたものの,旅客数全体でみると,必ずしも減少し続けているわけではなかった。営業収入水準が最も高かった平成2年度の旅客数と比較すると,平成5年度108%,平成6年度120%と増加している。 そこで,収入を有償キロ(PPK)若しくは有償トンキロ(RTK,有償の搭載物(旅客,貨物等)の重量に大圏距離を乗じたもの)で除したイールド(単位当たり収入,旅客1人ないし貨物1トンを1キロメートル輸送した場合の収入)の推移を,控訴人の国際線旅客についてみると,昭和62年以降平成2年までは上昇を続けているが,同年をピークに以降急激に下降し,平成6年度は平成2年度と比較してマイナス28%になっている。この数字は,旅客数の増減がなかったと仮定した場合,平成6年度の売上高が平成2年度の28%減となることを意味する。 このようなイールド低下の原因は,バブル経済の崩壊以降,消費者の低価格志向が定着してきたこと,ファーストクラスやビジネスクラス等高額商品の需要が減少したこと,価格競争の激化等にあった。すなわち,平成3年以降,世界経済の低迷により航空需要が低迷し,空席を抱えることになった各航空会社は,価格政策を大きく転換させ,低価格を前面に押し出して需要の喚起とシェアの維持を図った。特に,外国航空会社は,当時進行していた円高によって一層の価格値下げ余力を獲得し,市場で激しい価格攻勢を続けた結果,市場では海外旅行の低価格化が定着し,需要の減退とともに1人当たりの運賃単価も低下することになった。また,各企業は,景気回復が遅れる中で,出張,渡航費用を大幅に削減したため,運賃単価の高額なファーストクラスやビジネスクラスの旅客は大幅に減少した。それを昭和61年度と比較すると,平成3年度は若干下回る程度であったのが,平成4年度は約2割,平成5年度は約3 幅に削減したため,運賃単価の高額なファーストクラスやビジネスクラスの旅客は大幅に減少した。それを昭和61年度と比較すると,平成3年度は若干下回る程度であったのが,平成4年度は約2割,平成5年度は約3割減となっている。そして,従来航空運賃は高く,特定の顧客が利用するものと認識されていたが,現在では完全に日常の交通手段であるとの認識が定着し,その結果,一般的な消費行動の中で航空運送も低価格が求められるようになってきたことから,このようなイールドの低下は一過性のものとは考えられなかった。(乙22ないし24,435,439ないし441,原審証人P46の原審第7回証人調書94項ないし129項,弁論の全趣旨)(カ) 控訴人における営業費用の内訳及びその推移をみると,昭和60年ころまでは営業費用全体の半分以下であった固定費(機材費,人件費,不動産賃借料,広報宣伝費等)の割合が平成2年になると変動費の割合と逆転し,変動費(燃油費,販売手数料,整備費等)が43%で,固定費が57%を占めるに至り,昭和60年以降固定費は,生産量の伸びを上回って増大している。一般的に,営業費用のうち,変動費は生産量に応じて増大するが,固定費は生産量と関連するものの,生産量に応じて増加するというのではなく,それよりも落ち着いた増勢を示し,その結果,生産量1単位当たりのコストは低減するものである。ところが,控訴人においては,1980年代後半以降,固定費の伸びが生産量(ATK,有効トンキロ,許容搭載重量×距離)の伸びを上回ってきている。それは,変動費の中で燃油費の占める割合が大幅に低下したのに対し,固定費の中の機材費,人件費の割合が高くなってきたためである。昭和60年から平成3年にかけての5年間に機材費は1.86倍になっており,機材費には運航委託費も含まれるが,機材費が増加した主たる原因は ,固定費の中の機材費,人件費の割合が高くなってきたためである。昭和60年から平成3年にかけての5年間に機材費は1.86倍になっており,機材費には運航委託費も含まれるが,機材費が増加した主たる原因は航空機の購入であった。しかし,機材費の伸びは,当時,全日空や日本エアシステムも同様であり,それぞれ1.97倍,1.98倍と高い伸びを示していた。とはいえ,固定費の増加の結果,損益分岐利用率(ブレークイーブン,収支均衡となるのに必要な利用率であり,単位当たり収入が低いほど,単位当たりコストが高いほど,ブレークイーブンは高くなる。)は,昭和62年度以降65%を超え,平成4年度には68%に近い値になった。一方,利用率(ロードファクター,全体の生産量のうち,実際に売れた量を示す指標)はバブル経済の影響による強い需要に支えられ,平成2年ころまで70%前後の高い値であったが,それもバブル経済の崩壊とともに低下し,平成4年度には65%を下回った。また,控訴人と外国他社との単位当たりコスト(費用を有効座席キロ若しくは有効トンキロで除したもの,有効座席1席若しくは許容搭載重量1トンを1キロ輸送した場合にかかる費用)を比較すると,1980年代前半は欧米他社に比べて控訴人のドル建て単位当たりコストは低かったものの,1980年代後半は急速な円高により次第に控訴人の単位当たりコストは上昇し,平成4年当時では,控訴人のコストは欧米他社より2ないし3割高くなっていた。(乙25ないし29,34,46,79,80の1,442,443,原審証人P46の原審第7回証人調書135項ないし162項及び原審第8回証人調書5項ないし30項,弁論の全趣旨)(キ) 控訴人の営業費用に占める人件費の割合は,平成2年度で26%と固定費の中で最も高率になっている。また,控訴人のATK当たり人件費(人件費をA 原審第8回証人調書5項ないし30項,弁論の全趣旨)(キ) 控訴人の営業費用に占める人件費の割合は,平成2年度で26%と固定費の中で最も高率になっている。また,控訴人のATK当たり人件費(人件費をATK(有効座席キロ若しくは有効トンキロ)で除したもの,有効座席1席若しくは許容搭載重量1トンを1キロ輸送した場合にかかる人件費)は,平成3年度23円,平成4年度20.3円,平成5年度19.3円であったが,平成3年度から平成5年度にかけての控訴人のATK当たり人件費を外国他社と比較すると,為替レートの取り方にもよるが,比較的高めであった。また,平成3年度及び平成4年度の運航乗務員1人当たり人件費(運航乗務員総人件費/運航乗務員数)を外国他社と比較すると,平成3年度はルフトハンザ,キャセイパシフィックに次いで控訴人が高く,平成4年度はキャセイパシフィックに次いで控訴人が高かった。しかも,控訴人は,外国他社がほとんど行っていない運航委託を行っていたため,本来は人件費となるものがサービス委託費として処理されている関係から,実質的な人件費率及び有効トンキロ(ATK)当たりの人件費は更に高くなる。(乙26,46,50,原審証人P47の原審第9回証人調書33項ないし49項及び75項ないし81項,弁論の全趣旨)(ク) 控訴人においては,その運航乗務員の総数は,平成4年度末で2480名で,20年前の約1.5倍に相当する一方,この間の総生産量(有効トンキロ)は約3.7倍に拡大しており,運航乗務員の一人当たりの物的生産性は約2.5倍に向上した。平成5年度の実績で,一人当たりの生産量について外国他社と比較すると,やや上位に位置してページ(12)いる。この物的生産性の向上は,主としてジャンボ機保有比率の拡大と国際路線の長大化に伴う1回当たりの飛行距離の伸び,さらには昭和60年 について外国他社と比較すると,やや上位に位置してページ(12)いる。この物的生産性の向上は,主としてジャンボ機保有比率の拡大と国際路線の長大化に伴う1回当たりの飛行距離の伸び,さらには昭和60年以降の大型機の積極的導入によってもたらされた。しかし,平成5年当時においては,大型機比率や平均飛行距離の拡大は限界に達し,さらなる生産性向上をいかに図るかが課題になっていた。(甲51,乙5)(ケ) 航空運送事業は,航空機の購入をはじめ巨額の設備費を必要とし,その借入金に対する支払金利が巨額の営業外損失となるという構造的体質を持っている。控訴人は,平成元年度までは毎年200億円台の巨額の営業外損失を計上しているが,その大部分は金融収支の損失であり,航空機の売却等で営業外収益を計上できる場合にその赤字幅が小さくなったり,黒字に転化したりしてきた。平成2年度,平成3年度は,受取利息及び配当金が345億円,308億円と膨れ上がっていたため,営業外損失も小幅の赤字ないし黒字になっていたが,平成4年度以降受取利息及び配当金が半減する一方,支払利息は410億円台から470億円台と急増し,金融収支は260億円台から350億円台の赤字となった。もっとも,平成4年度には所有株式の売却等により343億円の営業外収益,平成5年度には266億円の航空機材売却益をそれぞれ計上したため,営業外損益は57億円の赤字ないし31億円の黒字となった。(甲1015の2の9頁,乙12ないし15,18,34,437,原審証人P46の原審第7回証人調書65項ないし80項,弁論の全趣旨)(コ) 控訴人は,平成4年2月,「92-96年度展望と92-93年度事業計画」と題する中期展望と事業計画(乙7)を発表した。これは,平成3年度において,湾岸戦争により需要が低迷する中,控訴人の企業競争力の低下傾向が 平成4年2月,「92-96年度展望と92-93年度事業計画」と題する中期展望と事業計画(乙7)を発表した。これは,平成3年度において,湾岸戦争により需要が低迷する中,控訴人の企業競争力の低下傾向が強まり,1人当たり生産量(ATK生産性),販売量が前年比でマイナスを記録するとともに国際線旅客便の供給シェアが昭和56年度の34%から平成2年度の24%に低下したこと,この航空会社を取り巻く環境の厳しさはなお引き続くと予測されることから,ブレークイーブン(損益分岐利用率)が高い赤字体質から脱却し,コスト競争力を高めることを最重要経営課題の1つに掲げ,社長を委員長とする構造改革委員会を設置して収益の極大化,徹底したコストの削減等に取り組んで行くこととした。控訴人は,上記事業計画に従い,同年2月20日,社長を委員長とする「構造改革委員会」を設置し,構造改革委員会は検討を重ねた結果,同年6月1日,構造改革委員会報告(乙8)をまとめて発表した。その内容は,構造改革の目標を低ブレークイーブン体制の構築に置き,① 国内線の充実などの事業運営体制の再構築,② 路線の再編成などの生産構造改革,③ 人件費効率の向上などのコスト構造改革,④ イールドの向上などの販売構造改革,⑤ 業務運営体制の見直しなどの意識構造改革等,「国際コスト競争力」の強化を最重要課題とするものであった。コスト構造改革においては,投資規模の抑制を含めた投資の見直し,人件費効率の向上,コストの外貨化が主要構造改革項目と定められ,そのうち人件費効率の向上に関しては人員効率の向上と単価水準の一層の適正化を図る施策を講じるものとされた。(第3の争いのない事実等(原判決第2分冊37頁)のほか,乙7,8,33,430の1ないし54,原審証人P46の原審第7回証人調書17項ないし32項,原審第8回証人調書21項な を講じるものとされた。(第3の争いのない事実等(原判決第2分冊37頁)のほか,乙7,8,33,430の1ないし54,原審証人P46の原審第7回証人調書17項ないし32項,原審第8回証人調書21項ないし70項及び74項ないし85項,原審証人P47の原審第9回証人調書17項ないし52項,弁論の全趣旨)(サ) 控訴人は,平成4年6月以降前記施策に従い,シアトルへの乗り入れ休止等不採算路線の見直しを図る一方,パリ直行便の増便等高需要高収益路線の増強を内容とする国際線路線の再編成,為替等の国際的な経済変動の影響を受けにくく,競争環境も比較的緩やかで安定した事業分野であると同時に運航乗務員養成の場を確保できる国内線の路線拡充,需要の変動に対する柔軟な対応を可能にする運航委託など運航形態の多様化等収入増強策及びコスト競争力の強化に着手した。さらに,控訴人は,平成4年度も前年度よりも多額の赤字が確実な見通しとなったことから,平成5年1月,「93-94年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」と題する計画書(乙9)を策定し,構造改革施策の前倒しをするとともに,航空機導入の抑制,航空機調達及び運用におけるリース方式の活用,三大プロジェクト投資の圧縮,新規関連事業投資の原則凍結等により「92-96年度展望と92-93年度事業計画」に比較して,各年約1000億円の投資削減を行うことにするなどの見直しも行った。控訴人は,営業費用の削減に努力した結果,平成4年度は,前期比約4.0%減の1兆0820億円に抑制するなどしたが,損益は538億円の経常損失を計上した。 平成5年度においてもこれらの施策は更に継続して実行され,特に前記③人件費効率向上などコスト構造改革は,同年度以降の経営の最重要課題として地上職,客室乗務職及び運航乗務職など控訴人の全部門にわたって実施されることに てもこれらの施策は更に継続して実行され,特に前記③人件費効率向上などコスト構造改革は,同年度以降の経営の最重要課題として地上職,客室乗務職及び運航乗務職など控訴人の全部門にわたって実施されることになった。そして,地上職に関しては,平成4年度の定員に対し同5年度は700名の定員削減を実施したほか,整備作業等の一部を海外に展開することによりコストの外貨化を図り,これによって人件費効率の向上を実現し,さらに特別早期退職優遇措置の実施,管理職進路選択制度及び管理職転進援助休暇制度を各導入して管理職等の削減を図り,賃金等の面においては日曜祝祭日手当の定額化,シフト手当の解消,冬季手当の減額,通勤制度の見直しなどにより人件費効率の向上を図った。客室乗務職に関しても,外国人客室乗務員比率を増加させることによりコストの外貨化を図ったほか客室業務の委託化推進,前記特別早期退職優遇措置の実施による人員削減を実現し,通勤制度を見直し通勤費の削減を図り,さらに賃金面においては特別乗務手当の見直しなどを実施した。(乙4,5,9,14,38,39,原審証人P46の原審第8回証人調書71,72,88,89項,弁論の全趣旨)(シ) 勤務協定で定められていた勤務基準の見直しの検討は,人件費効率向上などコスト構造改革の1項目とされ,労務部の運航乗務職グループ長以下と運航本部運航企画部の業務グループ長以下が共同して,人件費効率向上のため運航乗務員の勤務基準改定実施に向けて検討を進め,路線構成の変化や機材性能の向上に合った,より合理的な勤務基準の作成と人的生産性の向上という観点から新しい勤務基準を立案した。すなわち,それまでの勤務基準を定める勤務協定は,いわばジェット機の黎明期(第1世代機といわれるDC8型機が導入された時代)であった昭和35年に締結されたジェット協定を原型とし,昭和 基準を立案した。すなわち,それまでの勤務基準を定める勤務協定は,いわばジェット機の黎明期(第1世代機といわれるDC8型機が導入された時代)であった昭和35年に締結されたジェット協定を原型とし,昭和41年に締結された「運航乗員の勤務に関する協定書」とほぼ同内容の勤務基準を定めるものであって,昭和48年の勤務協定締結からでも10数年以上が経過し,その間,めざましい技術革新の下に機材の性能が大幅に向上し,長距離路線の直行便化が進められる等,路線・便数も当時とは大きく変化していた。また,国内航空3社の事業分野を定めたいわゆる「45‐47体制」が,昭和60年に廃止され,さらに同年のプラザ合意に端を発した急速な円高が進行し,我が国の海外旅行市場は急激な円高とバブル経済のもとで急成長を続け,平成元年度には日本人出国者が1000万人に迫り,世界有数のマーケットとなるなど,日本市場の旺盛な需要と円高は外国航空会社にとって日本円収入の魅力を増大させた。米国航空会社は,このような運航環境の変化に対応し,太平洋路線を3名編成機のシングル編成で運航し,また,全日空も,昭和61年に運航規程を改定して3名編成機のシングル編成による乗務の制限時間を緩和する措置をとって,太平洋路線をシングル編成で運航するようになっていた。これに対し,控訴人は,昭和61年ころから,運航乗務員の勤務に関する諸外国の運航基準や運航実態等に関する調査を実施し,また,昭和62年2月の「62-65年度中期計画」と題する計画書(乙117)で,編成数を含む運航乗務員の勤務条件の総合的見直しを検討すると述べ,また,昭和63年1月の「昭和63-66年度中期計画」と題する計画書(乙106)でも同様の見直しを検討すると述べ,これを契機に運航乗務員の勤務基準の見直しの検討を始め,平成元年には運航本部の運航乗務員職制や地 63年1月の「昭和63-66年度中期計画」と題する計画書(乙106)でも同様の見直しを検討すると述べ,これを契機に運航乗務員の勤務基準の見直しの検討を始め,平成元年には運航本部の運航乗務員職制や地上職からなるアドバイザリーグループ会議が数回開催され,運航乗務員を含む現場の意見を集約しながら控訴人の勤務協定の改定案が作成されていた。しかし,この改定案がまとめられる以前に,控訴人においては事業規模の拡大から乗務員の運航維持能力の向上が急務となり,平成2年には協定の枠内での路線別了解による編成見直しが優先され,勤務基準の見直しは先送りされることになった。(第3の争いのない事実等(原判決第2分冊35頁)のほか,甲79の1ないし3,380,381,乙5,8,103,104の1ないし4,105ないし112,114,117,原審証人P48の原審第25回証人調書38項ないし55項及び第26回証人調書1項ないし24項)(ス) 控訴人は,平成5年1月29日,「人件費関連施策について」と題する文書(乙10)を乗員組合を含む全労働組合に提示し,人件費関連施策を全社的に実施していくことを理解してもらうとともにその全体像を示し,併せて各ページ(13)職種別の具体策をまとめた「人件費関連施策の具体策について」と題する文書(乙11,47ないし49)を各労働組合に提示した。その後,控訴人は,同年2月8日から乗員組合との間で団体交渉や事務折衝を多数回持ったが,協議は進行せず,控訴人は,同年7月22日付け書面(甲194)をもって,同年10月末日までに改定の合意が成立しなかったときは勤務協定を同日限り解約する旨の解約予告をし,さらに団体交渉や事務折衝を重ねたが勤務基準改定について合意に至らず,勤務協定は同年10月末日限りで失効し,同年11月1日から改定された本件就業規程に定められた 協定を同日限り解約する旨の解約予告をし,さらに団体交渉や事務折衝を重ねたが勤務基準改定について合意に至らず,勤務協定は同年10月末日限りで失効し,同年11月1日から改定された本件就業規程に定められた勤務基準を実施することとなった。(甲194,乙10,11,47ないし49,57,原審証人P47の原審第9回証人調書53項ないし73項及び124項ないし130項,原審証人P49の原審第9回証人調書21項以下)(セ) 本件就業規程改定後の控訴人の経常損益の状況は,平成6年度が28億円,平成7年度が43億円の経常利益をそれぞれ計上し,平成8年度は再び169億円の経常損失を計上したものの,平成9年度は76億円,平成10年度は325億円の経常利益をそれぞれ計上している。(甲554ないし557)(ソ) 航空審議会は,運輸大臣の諮問機関であり,委員23名,臨時委員11名で構成され,うち3名は航空会社の委員,1名は労働界の委員であり,残り30名はマスコミ,学識経験者その他の産業界からの委員である。その航空審議会に設けられた競争力向上小委員会(委員6名,臨時委員2名,専門委員7名)は,平成6年6月「我が国航空企業の競争力向上のための方策について」という答申(乙43)を行った。その答申は,「我が国航空企業を取り巻く環境が急激に変化しつつあることを受け,今や緊急の課題となっているその競争力向上のため,航空企業及び行政の双方が採るべき方策についてとりまとめたもの」とされ,「我が国航空企業の国際競争力の向上を図るための課題」の項では,「我が国航空企業の国際競争力の向上を図るためには,以下の課題に適切に対処し,低コスト体質への転換及び収益力の強化を図ることが必要である。その場合,基本的には,我が国航空企業自らがこれらの課題に積極的に取り組むことにより,国際競争力の向上を図るべき 以下の課題に適切に対処し,低コスト体質への転換及び収益力の強化を図ることが必要である。その場合,基本的には,我が国航空企業自らがこれらの課題に積極的に取り組むことにより,国際競争力の向上を図るべきことはいうまでもない。そのためには,競争意識を社内に徹底させるとともに,その意識をもってこれらの課題に取り組むことが極めて重要である。」とし,これを受けて「我が国航空企業の国際競争力の向上を図るための方策」の項では,低コスト体質への転換を図るに際しては,総費用に占める固定費の割合が他産業と比べて相対的に高いために固定費を中心にコストの削減を進めるべきであること,整備作業の海外への展開や乗務員への外国人の導入等コストの外貨化を幅広く進めるべきであること,各社が業務を共同化することによりコストを削減すべきであること等を指摘するほか,収益力の強化の方策,さらには行政による環境の整備として色々な規制の見直しを行うこと等の提言をするなど,広範な内容の答申になっている。(甲18,乙43,原審証人P46の原審第8回証人調書111項ないし116項)(タ) 定期航空運送事業は,国内経済の深刻な不況の影響を受け,平成6年8月1日から1年間,国の行う雇用安定事業の一環とする制度である雇用調整助成金の対象業種としての指定を受けた。また,世界的に見ても,英国航空以外の欧米各社は,1990年代に入ってから軒並み大赤字となった後,レイオフを含む大幅な人員削減や賃金制度の改革,サービスの外注化等の合理化策に積極的に取り組み,コスト競争力を強めた結果,平成6年度に黒字化している。 英国航空については,既に昭和55年から昭和58年にかけて1万7000名もの人員削減という大きな経営改革を実施したため,1990年代には好調な業績を上げるに至っていた。さらに,需要の低迷と収支の悪化が続く中で,日 いては,既に昭和55年から昭和58年にかけて1万7000名もの人員削減という大きな経営改革を実施したため,1990年代には好調な業績を上げるに至っていた。さらに,需要の低迷と収支の悪化が続く中で,日本では,三大プロジェクトの完成が間近に迫っていた。それに伴い,控訴人は,その事業展開や機材更新,増強などにより新たな投資と費用の拡大を余儀なくされることになると同時に,発着枠の拡大に伴う外国他社の参入などにより他社との競争の激化は必至の情勢であった。しかも,長期的にみると,世界の航空界は自由化,低価格等による競争促進の方向へ進んでおり,熾烈な競争の下に企業の淘汰が予想されるような状況であった。(乙4,6,7,9,40ないし42,証人P46の原審第8回証人調書95項ないし110項)イ控訴人の主張に対する判断控訴人は,本件就業規程の改定の必要性について,業績悪化を背景とした構造改革施策の実施の一環として,路線構成の変化や機材性能の向上等運航の実情に即したより合理的な勤務基準に見直すとともに,人件費効率の向上を図る目的であったと主張する。 (ア) 控訴人の経営状況a 前記アの認定事実によれば,控訴人は,平成3年度及び平成4年度と売上高が減少し(結果的には平成5年度も減少),経常損失及び営業損失を計上し,特に平成4年度は過去最高の経常損失を計上するなど,異例の経営状況にあったこと,控訴人の売上げの主要部分を占める国際線収入が平成3年から落ち込み,経常利益を上げていた平成2年度ころから有償旅客キロ,日本発着国際線の供給シェアの各低下の傾向があり,控訴人の国際競争力が相対的に低下していた事情がうかがえることからすれば,本件就業規程改定時には,さらなる売上げ減,経常損失及び営業損失を生じ続けることも予想されるような状況であったということができ,控訴人の経営状 力が相対的に低下していた事情がうかがえることからすれば,本件就業規程改定時には,さらなる売上げ減,経常損失及び営業損失を生じ続けることも予想されるような状況であったということができ,控訴人の経営状況は悪化していたと認められ,控訴人が危機感を抱くに十分な経営状況に陥っていたというべきである。 なお,証拠(甲1015の1の25ないし27頁,1015の2の6,8,18及び31頁,1015の3の31頁)によれば,代表的な企業の格付機関であるスタンダード&プアーズ社による格付では,控訴人は,平成2年がAA-,平成4年がA+,平成5年がA,平成7年にBBB+(連結ベースBB+),平成10年にBB+(債務履行能力が不十分となるリスクに晒されているという評価で,投資適格に問題があるとされる。),平成11年にBBになっていること,もっとも,平成5年及び平成7年のスタンダード&プアーズ社による航空会社の格付けでは,英国のBA社が控訴人と同等か上である外,控訴人より下の格付けの会社があったことが認められ,これによれば,平成5年当時,控訴人の経営が破綻するような状況にはなかったが,格付けが低下する状況にあったことに照らすと,控訴人の経営状況が悪化する傾向にあると外部から評価されつつあったということができる。 b 被控訴人らは,P50による控訴人の経営状況に関する分析(甲214,218,原審証人P50)を根拠として,企業の収益状況は,恒常的に利益を実現しているというような性格のものではなく,時期的に大きく変動するものであって,控訴人の経営状況に対する判断を行う際に単年度の会計からのみ判断することは適切でないと主張する。 確かに平成3年度まででいえば,控訴人の単会計年度の業績悪化は短期間で回復している(なお,2期連続で赤字であった昭和49,50年度を見ても昭和50年度につ らのみ判断することは適切でないと主張する。 確かに平成3年度まででいえば,控訴人の単会計年度の業績悪化は短期間で回復している(なお,2期連続で赤字であった昭和49,50年度を見ても昭和50年度については赤字額が大幅に減少しており,業績の回復は早期であったということができる。)し,また,控訴人は国際線の営業を主力としているため世界情勢の影響を受けやすいのであり,このような外部的な要因が取り除かれることで急速に業績を回復させることも考えられ,単会計年度の経常損失だけで経営状況を固定的に捉えることが適当でない場合があることは否定できず,その限りで被控訴人らの主張も理由がないわけではない。しかし,一方,単会計年度の赤字であっても,その原因及び今後の見通しによっては,重大な意味を持つこともあり,それを無視し得ない場合もあるというべきである。そして,控訴人においては,平成3年度以降3期連続で経常損失を計上した上,控訴人の営業の主力である国際線に関し,既にそれ以前から国際的競争力の相対的な低下傾向が見られていたことからすると,単会計年度の経常損失だけによる判断ということはできないと同時に,平成4年度の赤字は,控訴人にとって見過ごすことのできない問題であったというべきである。なお,被控訴人らは,単会計年度の計上損失だけで経営状況を判断するのは適切でないとする根拠として,平成6年度以降控訴人が経常利益を上げていることも主張するが,前記アのとおり,既に控訴人は,平成4年6月に構造改革施策を策定して以降,経営状況を改善するための施策を順次実施していたのであるから,その後控訴人の経営状況が好転したからといって,本件就業規程の改定当時,控訴人に経営状況の悪化という事態が生じていなかったことの根拠とはならない。そうすると,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 c 人の経営状況が好転したからといって,本件就業規程の改定当時,控訴人に経営状況の悪化という事態が生じていなかったことの根拠とはならない。そうすると,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 c 被控訴人らは,P50による控訴人の経営状況に関する分析(甲214,218,原審証人P50)によれば,資ページ(14)本利益率(1年間にわたって投下された資本額に対する利益あるいは損失)で,平成4年度の控訴人の損益をみると,経常損失でマイナス3.2%,営業損失でマイナス2.8%であり,経常損失では,昭和49年度のマイナス9.7%,昭和57年度のマイナス4.3%を下回り,営業損失では,昭和49年度のマイナス8.2%を大幅に下回り,昭和57年度のマイナス1.3%を若干上回る程度であるから,平成4年度の経常損失,営業損失を資本利益率でみると,それほど大きなものではない旨主張する。 しかし,被控訴人らが比較の対象として挙げる昭和50年(昭和49年度),昭和58年(昭和57年度)は,いずれも控訴人が完全民営化される以前のこと(控訴人は,もともとその株式を国が30%以上保有する特殊法人であったが,昭和60年12月に国の航空政策が見直され,いわゆる45-47体制が廃止され,その後完全民営化された。(原審証人P46))であるし,航空業界をめぐる状況も当時とは異なる(特に,業界全体の自由化,規制緩和の流れの中で競争が激化し,運賃の低価格化が進行している状況下では,短期間での大幅な売上げ増を期待するのは困難である一方,経営状況の変化に迅速に対応できなければ,重大な結果を招くことにもなりかねないことは容易に推測できる。 )ことからすれば,単純に比較することはできない上,平成4年度のみ赤字であったのではなく,平成3年度から年々売上高が減少し,3期連続で経常損失,営業損失を計上 にもなりかねないことは容易に推測できる。 )ことからすれば,単純に比較することはできない上,平成4年度のみ赤字であったのではなく,平成3年度から年々売上高が減少し,3期連続で経常損失,営業損失を計上し,控訴人の国際的な競争力の相対的な低下傾向が見られる状況だったことからすれば,控訴人の経営状況が悪化していたことは明らかであり,仮に平成4年度の赤字も資本利益率の観点から見て大きなものではなかったとしても,企業経営の中で通常生じうる程度の赤字で控訴人にとって深刻なものではなかったということはできない。したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 d 被控訴人らは,P50による控訴人の経営状況に関する分析(甲214,218,原審証人P50)を根拠として,企業の本当の実力(体力)を評価するには,「公表された利益」から,引当金,貸倒引当金,退職給与引当金,減価償却による「利益の費用化」,資本準備金による「利益の資本化」による「実質的な利益」の縮小化を考慮に入れなければならないとし,これを前提として控訴人の実質的資本率を経常損益のレベルで推計すれば,平成4年度はマイナス1ないし2%にすぎず,内部留保も高い水準を維持しており,控訴人には十分な企業体力がある旨主張し,現に控訴人が平成10年,資本準備金1299億円,利益準備金73億円,任意積立金144億円の取り崩しを行って,特別損失970億円,累積損失576億円を一掃したことからも明らかであるとする。 確かに,引当金,貸倒引当金,退職給与引当金,減価償却費,資本準備金を計上できないような企業であれば,それこそ単会計年度でも赤字が発生して資金繰りに窮すれば倒産に直結するのであり,その意味でいえば,控訴人が平成3年度から3期連続で赤字であったとしても,なお経営を存続していくことができるだけの,いわゆる企業 そ単会計年度でも赤字が発生して資金繰りに窮すれば倒産に直結するのであり,その意味でいえば,控訴人が平成3年度から3期連続で赤字であったとしても,なお経営を存続していくことができるだけの,いわゆる企業体力があり,直ちに倒産するという状況にはなく,その限度では,被控訴人らの主張は肯定することができる。しかし,資本準備金,利益準備金,任意積立金等を取り崩してまで損失を一掃しなければならないという状況自体,既に健全な経営状況とは到底いえず,経営者としては,直ちに何らかの対策を求められる事態であるということができる上,その後も赤字が恒常化することが予想されるとすれば,将来倒産の危機に瀕することは十分考えられるのであるから,経営者としては,そのような場合,これを放置することはできないのであって,経営上深刻な事態であるというべきである。したがって,控訴人は,本件就業規程を改定した平成5年当時かなりの企業体力を有しており,倒産の危機に瀕していたとまではいえないものの,前記アで認定した控訴人の企業体質や価格競争の激化等の取り巻く環境等を考慮すれば,経営者として危機意識を持ち,何らかの対策に取り組む必要のある経営状況にあったというべきである。 e 被控訴人らは,平成5年以降平成10年にかけて経常損益が回復し,堅調な旅客需要に支えられて営業損益も順調に回復し,また,キャッシュフロー(資金収支)情報分析によれば,平成4年度に一時的な落ち込みはあるものの損益ベースでみた以上に事業収支は堅調に推移しているのであるから,このような控訴人の損益状況や資金収支からみた控訴人の業績の堅調な推移からすれば,本件就業規程を改定した平成5年当時控訴人は,危急存亡の危機という経営状況ではなく,またそれ以後の経営状況の見通しが深刻な事態であったと評価することはできないと主張する。 しかし,前 推移からすれば,本件就業規程を改定した平成5年当時控訴人は,危急存亡の危機という経営状況ではなく,またそれ以後の経営状況の見通しが深刻な事態であったと評価することはできないと主張する。 しかし,前述のとおり,控訴人においては,平成3年度以降3期連続で経常損失を計上した上,控訴人の営業の主力である国際線に関し,既にそれ以前から国際的競争力の相対的な低下傾向が見られていたので,控訴人の企業体質や価格競争の激化等の取り巻く環境等を考慮すれば,経営者としてはこれを放置することはできず,危機意識をもって構造改革に取り組む必要のある経営状況にあったというべきである。また,平成5年度以降経常損益や営業損益が回復基調にあったが,これは,平成4年6月に構造改革施策を策定して以降,経営状況を改善するための施策を順次実施していたのであるから,この効果を無視することはできず,本件就業規程を改定した平成5年当時控訴人が危急存亡の経営危機にあったとはいえないものの,控訴人の経営状況が平成5年度以降好転したことをもって,平成5年当時控訴人に経営状況の悪化という事態は生じていなかったことの根拠とはならないというべきである。したがって,被控訴人らの前記主張はたやすく採用することができない。 f 被控訴人らは,控訴人が平成9年に変更した航空機の減価償却期間が国際水準におおよそかなうもので,これを前提に昭和59年から平成8年までの実質経常損益を試算すると,平成4年度に経常赤字を計上するにすぎず,本件就業規程の改定を必要とするような経営危機にはなかったと主張する。 証拠(甲1000,1015の2の5頁,8頁,9頁及び22頁,1015の3の8頁ないし12頁,1114の3ないし5)によれば,控訴人は,平成4年度はB747-400(国際線型機材)につき,平成5年度はB747-400(国際線 の2の5頁,8頁,9頁及び22頁,1015の3の8頁ないし12頁,1114の3ないし5)によれば,控訴人は,平成4年度はB747-400(国際線型機材)につき,平成5年度はB747-400(国際線型機材)以外の航空機につき,航空機の償却期間を税法上の耐用年数10年から,控訴人が定めた耐用年数(国際線型機材は15年,国内線型機材は13年)に改定され,その結果,損失の発生が削減され,さらに平成9年にも航空機の償却期間(機種別に13年ないし22年)が延長されたことが認められる。そして,航空機の減価償却期間が短ければ,それだけ償却される費用が大きくなるので,営業利益は少なくなるところ,減価償却期間をどのように定めるかは基本的には企業の経営方針等の自主的な判断に委ねられており,当初予定による残存耐用年数と現在以降の経済的使用可能予測期間との乖離が明らかになったときは耐用年数を変更しなければならない(甲1112の1の8頁,1126)が,控訴人においては平成4,5年度までは税法上の耐用年数に基づいて会計処理がされていたものであって(甲1112の1の8頁によれば,実際上は税法上の法定耐用年数によるものが少なくない。),その継続された会計処理において前記のとおり連続して営業損失や経常損失を計上したのであるから,危急存亡の経営危機にあったとまではいえないとしても,平成5年当時の控訴人の経営状況は何らかの対策を必要とする程度に悪化していたということができる。被控訴人らは,平成9年に変更された航空機の減価償却期間が国際水準にかなうものと主張するところ,確かに変更前の控訴人の耐用年数は,甲第1000号証によって認められる平成8,9年当時の他の航空会社の耐用年数に比べれば短いものであったが,他の航空会社の耐用年数も必ずしも一定していないのであって,何をもって国際水準という 用年数は,甲第1000号証によって認められる平成8,9年当時の他の航空会社の耐用年数に比べれば短いものであったが,他の航空会社の耐用年数も必ずしも一定していないのであって,何をもって国際水準というのか不明である。 したがって,被控訴人らの前記主張は採用しない。 g 以上によれば,本件就業規程を改定した平成5年当時控訴人の経営状況は,倒産の危機に瀕していたということはできないとしても,少なくとも控訴人が経営者として危機意識を持ち,早急に何らかの対策をとる必要のある経営状況にあったというべきである。 (イ) 本件就業規程の改定の有効性控訴人が前記のような経営状況にあったとしても,本件就業規程の改定の必要性は,直ちに肯定されるわけではない。本件就業規程の改定によっても,経営状況の改善に何らの寄与もないとすれば,人件費効率の向上を図るという目的を達する手段としては適切なものとはいえず,就業規則変更の意味はないからである。そこで,控訴人の経営状況悪化の原因や控訴人の収支構造の問題点について検討した上,本件就業規程の改定が控訴人の達成しようとした人件費効ページ(15)率の向上を図るという目的との関係で有効なものであったか否かについて検討する。 a 控訴人の営業収入の減少について控訴人においては,前記アのとおり平成3年度から平成5年度にかけて,売上高がそれぞれ対前年度比0.4%,7.2%,5.0%減少しており,これを控訴人の収入のうち,その65%を占める国際線の旅客収入・貨物収入についてみると,やはり平成3年度に対前年度比マイナス3.2%に転じ,平成4年度は対前年度比マイナス11.0%,平成5年度は対前年度比マイナス7.1%と売上高全体の減少を上回る割合で減少している。これは,前記アのとおり平成3年ころの世界経済の低迷等が大きな原因であったことは,IC 前年度比マイナス11.0%,平成5年度は対前年度比マイナス7.1%と売上高全体の減少を上回る割合で減少している。これは,前記アのとおり平成3年ころの世界経済の低迷等が大きな原因であったことは,ICAOの発表によれば,1991年の旅客輸送量が第2次大戦後はじめて対前年度比マイナス4.1%を記録し,世界の主要国際線航空会社の多くが赤字になったことからも明らかである。しかし,控訴人においては,営業収入水準の最も高かった平成2年度,国際線収入は対前年度比2.7%増加しているものの,昭和55年以降順調に推移し,昭和63年度,平成元年度では対前年度比10%前後の大幅な増加を示していたことからすると,既にそのころから国際線収入の伸びにかげりが見え,さらに控訴人においては平成2年当時国際線総需要が4%増加していたにもかかわらず,控訴人の有償旅客キロは3.5%低下し,日本発着国際線の供給シェアも昭和56年度の34%から平成2年度には24%にまで低下するという状況になっていたことからすれば,控訴人の売上高減少の原因は,世界経済の低迷等のみではなく,控訴人の国際競争力の相対的低下傾向にもあったということができる。また,前記アのとおり,旅客数でみると,必ずしも減少しているわけではなく,営業収入水準の最も高かった平成2年度と比較しても,平成5年度,平成6年度では,108%,120%と増加しているのであり,平成2年度に比較して平成6年度にはマイナス28%にもなったイールド(単位当たり収入)の低下,言い換えれば,運賃単価の低下も売上高減少の一因であったということができる。こうしたイールド低下の原因は,バブル経済崩壊後の景気回復が遅れる中で各企業が出張,渡航費用の削減に努めた結果,エコノミークラスと比較して,運賃単価が7倍から10倍以上も高額になるファーストクラスやビジネスク ールド低下の原因は,バブル経済崩壊後の景気回復が遅れる中で各企業が出張,渡航費用の削減に努めた結果,エコノミークラスと比較して,運賃単価が7倍から10倍以上も高額になるファーストクラスやビジネスクラスの旅客が大幅に減少したこともあるが,消費者の低価格志向や航空会社間の価格競争の激化にあった。そして,世界の航空界が自由化,競争促進の方向に進んでいることや航空機の利用が日常的な交通手段となって,消費者の低価格志向に変化が望めないことに照らせば,イールドの伸びは期待できないという状況にあった。以上によれば,控訴人の営業収入の減少の原因は,平成3年ころの世界経済の低迷,バブル経済崩壊のみならず,控訴人の国際競争力の相対的低下及び運賃単価,すなわちイールドの低下にもあったということができる。 なお,被控訴人らは,イールドの低下は,航空運賃の低廉化が需要を喚起し航空旅客の増加をもたらすので,イールドの低下をもって,経営悪化の要因と捉えるのは誤りであると主張する。しかし,イールドの低下が航空運賃の低廉化による旅客の増加と関係があるとしても,イールドの低下には様々の要因が考えられ,前記認定のとおり消費者の低価格志向や航空会社間の価格競争の激化という状況にあって,イールドが低下し,控訴人の国際競争力も相対的に低下したとすれば,当然営業収入が減少する結果になるので,イールドの低下も控訴人の経営悪化の要因というべきであり,控訴人としてはイールドの低下について何らかの対策をとる必要があったというべきである。したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 b 特販費(特別販売促進費)について被控訴人らは,低収入単価は巨額の特販費(特別販売促進費)の投入によって控訴人自らが作り出したものであり,巨額の特販費のわずかな部分を削減するだけで,控訴人の業績の悪化 費(特別販売促進費)について被控訴人らは,低収入単価は巨額の特販費(特別販売促進費)の投入によって控訴人自らが作り出したものであり,巨額の特販費のわずかな部分を削減するだけで,控訴人の業績の悪化は回避できるので,本件就業規程を改定する前に特販費の問題を解決すべきである旨主張する。 (a) 証拠(甲30ないし34,151,206,214,1000,1009,乙79,84)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 特販費とは,一定の販売額を達成した代理店に支払われる「販売報奨金」のことで,インセンティブ特販(スケールメリット施策)と市場価格との調整金に分けられ,実質的には券面額と実収入の差額として生じるものであり,不当廉売(ダンピング)とは異なる。会計上は,これを控除した上で売上げを計上するという「収入戻し」の会計処理が認められているため,このような会計処理をした場合には特販費の具体的な金額はどの帳簿にも記載されていないことになる。したがって,必ずしもその全貌は明らかではないが,控訴人の公表及び乗員組合が公表された代理店手数料率を用いて推計(平成6年度以降)したところによれば,次のとおりである。 昭和61年度 651億円昭和62年度 1007億円昭和63年度 1700億円平成元年度 1700億円平成2年度 2200億円平成3年度 2300億円平成4年度 2300億円平成5年度 2600億円平成6年度 2100億円平成7年度 2500億円平成8年度 2900億円平成9年度 3188億円平成10年度 3250億円以上のとおり,特販費は,年々増加傾向にあり,控訴人の経常損失が最も大きかった平成4年度についてみると,損失額538億円は売上高の5.2%であるのに対し,特販費は22.2%となっている。 控訴人 以上のとおり,特販費は,年々増加傾向にあり,控訴人の経常損失が最も大きかった平成4年度についてみると,損失額538億円は売上高の5.2%であるのに対し,特販費は22.2%となっている。 控訴人が特販費の投入を行うようになった目的は,業界における商取引上の一般的な慣行が存在する上,もともとオフ期の販売促進が目的であったが,円高メリットを利用して価格攻勢を強める外国他社への対抗策にもなった。しかし,この特販費の多寡が反映されるパック旅行の価格は控訴人を利用する場合高額に設定されているほか,平成9年6月21日付け「週刊ダイヤモンド」に掲載された旅行社1526社を対象としたアンケート結果によれば,控訴人の料金に対する評価は,主要航空会社54社中最低であった。また,同誌には,ヨーロッパ路線についての販売報奨金の記載があるが,それによれば,日系エアラインは片道正規料金43万7400円に対し4万円,欧州系中堅エアラインでは10万円を支払っている旨記載されている。 (b) 前記認定のとおり,特販費が年々増加する傾向にあり,特販費は,代理店との交渉裁量によりその額を決定することができる上,会計上控除して売上げを計上することが認められていることから,それ自体違法であるということはできないものの,帳簿に記載されないため,それが適正なものであったかどうかについて後に検証することができないもので,そうした支出の方法の当不当の問題が生じる余地はある。 しかし,低価格化は,前記アのとおり1990年代以降,世界の航空会社が価格政策を大きく転換させ,低価格を前面に押し出して需要の喚起とシェアの維持を図ろうとしてきた状況を無視して考えることはできず、円高を背景に外国航空会社が価格値下げ余力を獲得し,市場で激しい価格攻勢を続け,それが消費者の低価格志向にも合致した結果であり,控 起とシェアの維持を図ろうとしてきた状況を無視して考えることはできず、円高を背景に外国航空会社が価格値下げ余力を獲得し,市場で激しい価格攻勢を続け,それが消費者の低価格志向にも合致した結果であり,控訴人は,むしろその対抗策として特販費を増加させなければならない状況に追い込まれていたと推認することができ,控訴人が自ら低収入単価を作り出したということはできない。また,こうした特販費の投入を控訴人が行わないとすれば,外国航空会社の価格値下げに対抗することができず,さらに売上高を減少させるおそれがあったことは,消ページ(16)費者の低価格志向からしても容易に推測できることであって,被控訴人らの主張するように,単純に特販費の削減によって業績悪化を回避することができたとはいえない。すなわち,世界的な低価格化の傾向の中にあって,被控訴人らの主張するように,特販費を削減した場合,実際に控訴人が上げただけの営業収入を維持できない可能性も多分にあり,かえって営業収入が減少するおそれもあったことは否定できない。 なお,原審証人P50は,特販費が帳簿に記載されず,不明瞭な支出であることについて強く非難するものの,その必要性までは否定しておらず,原審証人P50の証言が上記判断を左右するものではない。 また,被控訴人らは,「1990年代,日本航空は広義の販売促進費,特に特販費を急増させたにもかかわらず,それに見合う集客効果も増収効果も上がっていない」というP51の意見書(甲1000)を根拠に,特販費が年々増額しているのに,事業収益に対して何らの効果も上げていないと主張するが,前記のとおり,控訴人が特販費を支出しなかった場合,実際にどれだけの営業収入を上げることができたかは明らかでなく,前記で認定した実際の特販費の性格に照らして,特販費を削減した場合,営業収入を減少させた可 のとおり,控訴人が特販費を支出しなかった場合,実際にどれだけの営業収入を上げることができたかは明らかでなく,前記で認定した実際の特販費の性格に照らして,特販費を削減した場合,営業収入を減少させた可能性も十分考えられるので,被控訴人らの前記主張はたやすく採用することができない。 さらに,被控訴人らは,川口満の著書(甲1135)を引用し,航空会社が平成6年(1994年)4月実施の新運賃制度が定着するようにといいながら,旅行業者にボリュームインセンティブである特販費という価格破壊の資金を与えているのは矛盾しており,特販費は経営を阻害する要因であり,業績悪化の要因であるから,当然これを改善するための方策が必要であると主張するところ,特販費自体の当否は別として,特販費が経営を阻害する要因であると認めるに足りる証拠はなく,被控訴人らの前記主張は直ちに採用することができない。 もっとも,控訴人が不必要なまでに特販費を投入していたというのであれば,被控訴人らの主張も根拠のないことではないが,平成9年時点でさえ,控訴人の料金に対する旅行業者の評価は世界の主要航空会社中最低であり,ヨーロッパ路線について,控訴人のキックバックが欧州系中堅エアラインの半額以下であることに照らせば,控訴人の特販費の投入が直ちに不必要,あるいは不適切というべき程度の金額に達していたと認めるに足りる証拠はない。 (c) したがって,特販費の投入が直ちに控訴人の業績悪化の原因であるということはできないので,本件就業規程を改定する前に特販費の問題を解決すべきである旨の被控訴人らの前記主張は採用することができない。 (d) なお,被控訴人らは,販売関連費用である代理店手数料につき,P51の意見書(甲1000)を根拠に,海外他社は代理店手数料を削減しているのに,控訴人は,1990年代を通じて営業費用 ができない。 (d) なお,被控訴人らは,販売関連費用である代理店手数料につき,P51の意見書(甲1000)を根拠に,海外他社は代理店手数料を削減しているのに,控訴人は,1990年代を通じて営業費用項目の中に占める代理店手数料の割合が上昇していると主張するが,代理店手数料に見合う収益が上がっていれば問題はなく,また,代理店手数料が控訴人の業績悪化の原因であると認めるに足りる証拠はないので,被控訴人らの前記主張は採用しない。 c 営業費用について(a) 前記ア(カ)のとおり,控訴人においては,昭和60年ころまでは営業費用全体の半分以下であった固定費(機材費,人件費,不動産賃借料,広報宣伝費等)の割合が平成2年度になると変動費の割合と逆転し,変動費(燃油費,販売手数料,整備費等)の43%に対し,固定費が57%を占めるに至り,固定費の伸びが生産量の伸びを上回るようになっている。控訴人において,損益分岐利用率(ブレークイーブン)をみると,昭和62年度以降65%を超え,平成4年度には68%に近い値になる一方,利用率(ロードファクター)は平成4年度には65%を下回り,営業レベルでいえば,収支が均衡しない状況となった。また,単位当たりコストを外国他社と比較すると,1980年代前半は欧米他社に比べて控訴人のドル建て単位当たりコストは低かったものの,1980年代後半は急速な円高により次第に控訴人の単位当たりコストは上昇し,平成4年当時では,控訴人のコストは欧米他社より2ないし3割高くなっていた。 以上によれば,営業損益の悪化は,単位コストの上昇,すなわちブレークイーブンの上昇とロードファクターの低下に原因があり,平成2年度以降その割合が年々増加している固定費がブレークイーブンの上昇に影響を与えたことは否定できない。 (b) この点につき,被控訴人らは,ブレークイ の上昇とロードファクターの低下に原因があり,平成2年度以降その割合が年々増加している固定費がブレークイーブンの上昇に影響を与えたことは否定できない。 (b) この点につき,被控訴人らは,ブレークイーブン,ロード・ファクターによる分析は,営業レベルのものにすぎないから,巨額の営業外収益,営業外費用の発生する控訴人においては,その収支構造を正確に示すものとはいえず,控訴人の収支構造を把握するためには損益分岐点分析が必要である旨主張する。確かに,経常損益レベルで収益構造を検討しなければならない場面では,被控訴人らの主張するように損益分岐点分析が有効であるということはできる。特に,控訴人においては,後記のとおり,営業外費用についても問題があることからすれば,損益分岐点分析は不可欠ともいえる。しかし,前記アのとおり,控訴人においては,売上高自体が減少し,平成3年度から平成5年度にかけて,129億円,481億円,293億円の営業損失を計上し,平成3年度及び平成5年度では,その額はそれぞれ60億円,261億円と経常損失を上回っている状況にあることからすれば,営業損益の悪化が無視できない問題であることは明らかである。しかも,航空業界における規制緩和が進行していく状況の中にあっては,競争が激化するのは必至であり,控訴人がその中で存続していくために,営業レベルに問題があるとすれば,もはやそれを放置することができないことも明らかであって,営業レベルでの分析に意味がないということはできない。 (c) 前記アのとおり,固定費のうち,人件費についてみると,自国通貨建ての割合が高いことから円高による影響を強く受け,平成3年度から平成5年度にかけての控訴人のATK当たり人件費(人件費/有効トンキロ)を外国他社と比較すると,為替レートの取り方にもよるが,比較的高めであり,また,平 とから円高による影響を強く受け,平成3年度から平成5年度にかけての控訴人のATK当たり人件費(人件費/有効トンキロ)を外国他社と比較すると,為替レートの取り方にもよるが,比較的高めであり,また,平成3年度及び平成4年度の運航乗務員1人当たり人件費を外国他社と比較すると,平成3年度はルフトハンザ,キャセイパシフィックに次いで控訴人が高く,平成4年度はキャセイパシフィックに次いで控訴人が高かったのである。もっとも,控訴人において,運航乗務員1人当たりの生産性は平成4年までの20年間で2.5倍に向上し,平成5年度の実績で,外国他社と比較してやや上位に位置しているということができるのであるが,それは主として,国際路線の長大化に伴う1回当たりの飛行距離の伸びと大型機の積極的な導入によってもたらされたものであり,控訴人においては,それはもはや限界状況にきており,大型機の導入が遅れている外国他社と異なり,この面で生産性を向上させることは困難な状況に来ていた。以上によれば,控訴人において人件費効率の向上を図る必要があったということできる。 なお,被控訴人らは,営業費用中の人件費の構成比は,海外他社に比べ,控訴人はかなり低いと主張する。証拠(甲978,1000)によれば,控訴人の営業費用中の人件費の構成比は,海外他社のそれに比較して低いことが窺われるが,人件費効率の問題は単に構成比だけからは判断できず,他の指標も合わせて考慮すべきであって,控訴人の営業費用中の人件費の構成比が海外他社のそれに比較して低いことが,直ちに前記判断を左右するものではない。 また,被控訴人らは,ATK当たり人件費に基づいて労働者の生産性を判断するのは相当ではない上,ATK当たり人件費の国際比較を行う場合には,購買力平価によって換算すべきであると主張する。しかし,控訴人の従業員の人件費を ,ATK当たり人件費に基づいて労働者の生産性を判断するのは相当ではない上,ATK当たり人件費の国際比較を行う場合には,購買力平価によって換算すべきであると主張する。しかし,控訴人の従業員の人件費を有効トンキロで除したATK当たり人件費は,控訴人の従業員の人件費効率を判断する一つの指標にはなりうるものであって,この使用が不適切であるとまではいえず,運航乗務員1人当たり人件費やその他の人件費に関する事情を併せ考慮して判断すれば,ATK当たり人件費を用いることが不当とはいえず,また,購買力平価によって換算することも一つの考え方ではあるが,これによらないである時点での為替レートによる換算で判断したとしても不適切とはいえないから,被控訴人らの前記主張は採用しない。 (d) 被控訴人らは,控訴人の経営状況悪化を営業費用の面でみると,その原因は,過大な設備投資及び不要な運航委託であると主張する。 証拠(各項の末尾に記載する。)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 ⅰ 控訴人は,生産性の向上のためには適切な事業規模の拡大が必要であるとの判断から,平成3年度においては,経ページ(17)営方針として供給の拡大を目指し,大量の航空機材を購入し,外国人乗務員を導入し,他社への運航委託を次々と行った。こうした拡大基調は,バブル経済崩壊後の平成6年度直前まで続けられた。なお,昭和60年度から平成2年度までの機材費の伸びについてみると,控訴人が1.86倍であるのに対し,全日空,日本エアシステムはそれぞれ1.97倍,1.98倍であり,控訴人は,旅客便総生産量(ASK,供給座席数に距離を乗じた累計)の伸びも他の2社に劣っている。(甲28,29,乙7,30,34,35,83,原審証人P46の原審第8回証人調書18項ないし30項)ⅱ 控訴人が,特に平成3年度に事業規模 座席数に距離を乗じた累計)の伸びも他の2社に劣っている。(甲28,29,乙7,30,34,35,83,原審証人P46の原審第8回証人調書18項ないし30項)ⅱ 控訴人が,特に平成3年度に事業規模の拡大が必要と判断した理由は,まず,当時の景気低迷について,政府機関をはじめとする各種の経済研究機関と同様,深刻な事態に至ることを予想しておらず,1,2年で回復に向かうものとの見通しを持っていたこと,また,アジア地区を中心として人や物の流れは拡大傾向にあり,中長期的に見た日本の海外渡航需要は順調であろうと見られていたにもかかわらず,日本発着の国際線旅客に対する控訴人の供給力は他社に比較し,相対的に弱体化していたことである。控訴人は,シェアが大きければ販売力,価格支配力が強くなること等から,成長している市場においては,シェアを維持することが重要な経営政策であると考えていた。さらに,航空事業では,路線や便数等について行政の認可を得なければ生産量の拡大はできないが,航空機や運航乗務員の手当てにはかなりの年月が必要であり,権益配分の際に適切に対応できる体制ができていなければ他社に権益を確保されてしまうという事情があるところ,当時三大プロジェクトという大きなビジネスチャンスが到来しつつある状況にあったことから,控訴人は,これに適切に対応して将来の発展につなげなければならないと考えていた。(乙7,36,原審証人P46の原審第8回証人調書48項ないし69項)ⅲ 具体的には,平成4年から平成8年の5年間の年平均投資額は3200億円で,投資総額1兆6000億円を計画した。その内訳は,年平均航空機2500億円,地上施設及びその他設備700億円であり,控訴人グループ内で55機(B747-400型機40機,MD11型機10機,B777型機5機)の機材購入が計画されたが,その投 内訳は,年平均航空機2500億円,地上施設及びその他設備700億円であり,控訴人グループ内で55機(B747-400型機40機,MD11型機10機,B777型機5機)の機材購入が計画されたが,その投資総額は,平成3年度期末までの控訴人の資産が総額1兆5802億円であるのに対し,この5年間の設備投資予定額はこれを上回るものであった。もっとも,平成5年には,平成9年までの5年間で総投資額1兆円,新規導入機材40機と,平成6年には,平成9年までの4年間で投資総額4400億円,新規導入機材28機と,投資規模を縮小する見直しがされている。縮小されたとはいえ,こうした設備投資は,控訴人の支払金利の増加だけでなく,減価償却費の増加も招いた。(甲155,214,乙7,9,13,30,原審証人P46の原審第8回証人調書72項)ⅳ 控訴人は,大型機の相次ぐ導入によってその企業規模を拡大し,旅客を対象とした航空機の営業機数では,平成2年以降大幅な増加はないものの,大型化が進んだ結果,1機当たりの座席数が増加したため,総座席数は着実に増加してきている。しかし,控訴人が導入した大型機の中で最も代表的な国際線長距離用のB747-400の1機当たりの1日24時間中の平均稼働時間をみると,平成4年度のIATAのデータによれば,世界の主要航空会社中最低の7時間33分であり,最高のルフトハンザ航空の15時間09分の半分以下という低い稼働状況にある。各社とも航空機の新規導入に当たっては,当初稼動が低い水準にある傾向はあるものの,おおよそ24時間中13ないし14時間の水準となっているが,控訴人においては導入当初の平成2年には6時間47分,その後次第に上昇したものの平成6年でも9時間38分と最低の水準となっており(なお,平成11年は,11時間に伸びている。),航空機材を有効に利用した座 人においては導入当初の平成2年には6時間47分,その後次第に上昇したものの平成6年でも9時間38分と最低の水準となっており(なお,平成11年は,11時間に伸びている。),航空機材を有効に利用した座席提供がなされていない状況にある。その原因は,控訴人の場合,B747-400を国内線に導入していたことにもあるが,座席利用率が低下していることも一つの要因であった。控訴人の座席キロと旅客人キロの推移をみると,大型機の導入により総座席数が増加するとともに提供座席数が増加し,旅客人キロも増加しているが,座席利用率(旅客人キロ/座席キロ)は,国際線,国内線ともに平成2年以降低下し,特に国内線について利用率の低下が著しい。さらに,座席利用率(旅客人キロ/座席キロ)は,平成2年に74.25%であったところ,それ以降低下し,平成5年は67.54%,平成6年は66.40%となった(なお,平成7年は68.03%,平成8年は68.94%とやや回復している。)。また,遊休化している機材もあった。(甲29,154,205,214,219,乙81)ⅴ 控訴人は,年度毎の具体的な事業計画とは別に毎年度末に翌年度から5か年度にわたる事業展望を策定しているが,平成2年度末,平成3年度末の5か年度の事業展望は,各5年間の事業拡大規模を年度平均6%としていた。その根拠は,政府機関や各種経済機関が平成3年度以降もGNPは3ないし5%の成長を続けることを予測していたことをもとに,三大プロジェクトの進展による需要の拡大を想定すれば,平成3年度から平成7年度までの間の総需要は各年国際線で9%,国内線で6%拡大すると予測されたこと,一方,控訴人のイールドの伸びは将来期待できないとの判断や円高,物価上昇を前提に収益率を維持するためには年5.5%の規模拡大が必要であったこと等である。しかし,事業規模 6%拡大すると予測されたこと,一方,控訴人のイールドの伸びは将来期待できないとの判断や円高,物価上昇を前提に収益率を維持するためには年5.5%の規模拡大が必要であったこと等である。しかし,事業規模を拡大するには,機材数と乗務員を増加させなければならないところ,乗務員の増加には相当の期間を要するため,控訴人は,運行維持能力の補完として運航委託を採用することを計画した。そして,控訴人が運航委託に投じた具体的な費用は以下のとおりであった。(甲33,35の2,126,129,乙7,原審証人P46の原審第8回証人調書48項ないし52項及び原審第10回証人調書20項ないし72項,弁論の全趣旨)運航委託先平成4年度平成5年度エバーグリーン 185億円 120億円カンタス航空 99億円 90億円JUST 11億円 21億円JAZ 28億円 28億円(合計) 323億円 259億円ⅵ しかし,平成3年度から平成8年度までの実際の事業規模の拡大は,景気低迷が長期化したこともあり,実際には3ないし5%程度に止まった。また,上記の運航委託のうち,平成6年3月31日,エバーグリーン,カンタス航空の運航委託契約の期限が到来し,契約は更新されなかった。(甲127の2,乙30,弁論の全趣旨)前記ⅰないしⅵの認定事実によれば,控訴人の設備投資には航空機の購入も含まれており,平成4年から平成8年までの5年間に55機という計画は,平成5年,6年と相次いで縮小されたものの,これら設備投資による減価償却費や運航委託費が控訴人の固定費を上昇させることになった。また,設備投資には多額の資金を必要とし,多額の借入れを行うことになるが,それは支払利息の増加を招くことになり,こ これら設備投資による減価償却費や運航委託費が控訴人の固定費を上昇させることになった。また,設備投資には多額の資金を必要とし,多額の借入れを行うことになるが,それは支払利息の増加を招くことになり,これが営業外収支の悪化を招き,ひいては経常損益に悪影響を及ぼすことも否定できない。 もっとも,前記アのとおり,航空運送事業は,航空機の購入をはじめ巨額の設備費を必要とし,その借入金に対する支払金利が巨額の営業損失となるという構造的体質を持っていること,昭和60年度から平成2年度について控訴人の機材費の伸びが1.86倍であるのに対し,全日空,日本エアシステムの機材費の伸びがそれぞれ1.97,1.98倍であること,控訴人は,旅客便総生産(ASK)の伸びについても他の2社に劣っていることに加え,古い機材を新しい機材に更新することは不可欠であるし,大型機の導入は,運航乗務員1人当たりの生産性を高めることになり,単純に不必要であったということはできないことなどからすると,直ちに過大投資であったとは言い難い面はある。 しかし,控訴人においては,主要な大型機B747-400の稼働時間が平成2年は6時間47分,平成4年は7時間33分,平成6年は9時間38分で,主要航空会社中最高のルフトハンザのそれぞれ14時間54分,15時間09分,15時間50分と比較すると(甲214),極めて短く,前記認定のとおり,座席利用率も平成元年度の74.25%から平成5年度の66.40%に低下しているほか,遊休化している機材もある。 このような事実に照らすと,控訴人において,B747-400が国内線にも多く使用されていたことを考慮してもなお,控訴人の設備投資に需要を超える面があったことは否定できない。 ページ(18)また,平成6年3月31日にエバーグリーン及びカンタス航空に対する運航委託契 にも多く使用されていたことを考慮してもなお,控訴人の設備投資に需要を超える面があったことは否定できない。 ページ(18)また,平成6年3月31日にエバーグリーン及びカンタス航空に対する運航委託契約の更新をしなかったことからすると,実際には,運航委託に一部不要なものがあったことも否定できない。 ところで,設備投資及び運航委託は,平成2年度末,平成3年度末の5か年度の事業展望において,各5年間の事業拡大規模を年度平均6%としたことを前提に行われたものであるところ,この間の実際の事業規模の拡大が3ないし5%に止まったため,結果として,設備投資が需要を超えることになり,運航委託に一部不要なものがあったということになったのであるが,政府機関や各種経済機関が平成3年度以降もGNPについて3ないし5%の成長を続けることを予測していたこと,中長期的には日本の海外渡航需要は順調であろうと予測されたにもかかわらず,日本発着の国際旅客に対する供給シェアが低下していたところ,そのシェアの維持は極めて重要であったこと,三大プロジェクトの進展による需要の拡大が予想されたこと,一方,イールドの伸びは将来的に期待できなかったこと,三大プロジェクトに備え,機材の準備や運航乗務員の確保は短期間に行えるものではないことなどの事情に基づき,設備投資及び運航委託が行われた。 これらの事情からすれば,設備投資及び運航委託に関する控訴人の経営判断が直ちに誤りで非難されるべきものであるとはいえない面はあるが,結果として,設備投資が需要を超え,運航委託の一部に不要なものがあったのは前述のとおりで,それが控訴人の経営状況の悪化の一因となっていることは否定できない。 (e) なお,被控訴人らは,損益分岐重量利用率の分析によれば,控訴人の単位原価は低いので,実収単価ないし収益に問題があったと主張 ,それが控訴人の経営状況の悪化の一因となっていることは否定できない。 (e) なお,被控訴人らは,損益分岐重量利用率の分析によれば,控訴人の単位原価は低いので,実収単価ないし収益に問題があったと主張するが,前記のとおり,収益の面でも営業費用の面でも,改善すべき問題があったというべきである。 d 営業外収支について(a) 前記ア(ケ)のとおり,航空運送事業は,航空機の購入をはじめ,巨額の設備費を必要とし,その借入金に対する支払金利が巨額の営業外損失になるという構造的体質を持っているとしても,控訴人においては,平成元年度までは毎年200億円台の営業外損失を計上し,また,平成2年度,平成3年度は営業外損失を巨額な受取利息及び配当金で補い,営業外収支も小幅な赤字ないし黒字になっていたが,平成4年度以降は受取利息及び配当金が半減する一方,支払利息は400億円以上と急増し,多額な営業外損失を計上することになっている。 (b) 既に営業費用において述べたように,控訴人は,経済成長を予想するとともに,三大プロジェクトの進展による需要の拡大を想定して事業規模の拡大が必要であるとして,積極的に設備投資を行ったが,予想に反して経済成長が現実のものとはならず,設備投資が需要を超え,それが結果として支払利息を増大させたということができる。したがって,この面でも,需要を超えた設備投資が控訴人の経営状況悪化の一因であったことは否定できない。 e ドル先物予約について(a) 証拠(甲35の1,38,39の1及び2,43,96,132,133の1ないし3,134,135,207,214,576,579,乙25,原審証人P46の原審第10回証人調書107項ないし195項)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 控訴人は,昭和60年8月から翌年3月にかけて最長10年にわたる 576,579,乙25,原審証人P46の原審第10回証人調書107項ないし195項)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 控訴人は,昭和60年8月から翌年3月にかけて最長10年にわたる長期の為替買入予約を行った。控訴人が行った先物予約は11年間で平均1ドル=184円で,合計約36億6000万ドルとなっている。ところが,ドル相場は控訴人の行った予約開始から約2か月後の昭和60年9月22日のプラザ合意を機に長期の円高に転じたため,結局は,為替差損が発生した。各年度に発生した為替差損の推計額は次のとおりであり,決済が終わって確定した平成6年度分までの実損の総額は約1763億円で,その後の平成7年度,平成8年度の損失見込み推計額(確定していると思われるが,その確定額は証拠上不明。)を加えると,損失は約2200億円に達する。 予約年度ドル予約額レート実勢レート為替損益推計(百万ドル)(円) (円) (億円,未満4捨5入)昭和60 3 184 221.68 /// 61 287 195 159.88 101 62 323 191 138.45 170 63 331 192 128.27 211平成元 331 192 142.82 163 2 332 191 141.52 164 3 326 186 133.31 172 4 331 186 124.73 203 5 393 184 107.79 300 6 347 179 98.59 279 7 488 171 ////// 439 8 168 155 ////// 見込み額控訴人が為替予約をしたのは,変動相場制の下で,外貨取引の非常に多い企業 .59 279 7 488 171 ////// 439 8 168 155 ////// 見込み額控訴人が為替予約をしたのは,変動相場制の下で,外貨取引の非常に多い企業では常に為替リスクにさらされるため,為替の変動によって被りかねない損失に備え,リスクヘッジのために一般的に為替予約を行っているところ,控訴人も航空機の購入等により恒常的に大量のドルを必要としているので,リスクヘッジのためであった。そこで,控訴人は,将来必要とされるドル需要の3分の1については為替予約を行った。将来必要とされるドル需要の3分の1について為替予約を行ったのは,為替相場が予約条件に照らし不利な方向に進んでもそれは3分の1に止まり,残り3分の2は逆に有利になるからである。しかし,10年間もの長期予約であることについては,監査役が「極めて危険」と警告していた。 ところで,控訴人では,昭和56年度にドル建て・マルク建てで長期為替予約を行い,これにより54億円の差益を得たことがあり,同年度は羽田沖事故による需要減退があったため経常利益が2億円しかなかったにも関わらず,ドル建て・マルク建て長期為替予約差益が54億円生じたため,配当が可能となった。 なお,昭和61年度から為替予約したドルは,航空機購入の支払に充てられ,帳簿上は差損が表面化せず,実損額も決算報告されていないが,円換算では1機当たり他社より約80億円高い航空機を購入したことになっただけでなく,平成2年度で約60億円程度減価償却費が増加することとなった。それを平成2年度についてみると,固定費6183億円の1%程度に相当する。 以上の事実が認められる。 (b) 前記認定のとおり,控訴人は,昭和60年8月から翌年3月にかけて最長10年にわたる長期の為替買入予約を行ったが,ドル相場が控訴人の行っ 億円の1%程度に相当する。 以上の事実が認められる。 (b) 前記認定のとおり,控訴人は,昭和60年8月から翌年3月にかけて最長10年にわたる長期の為替買入予約を行ったが,ドル相場が控訴人の行った予約開始から約2か月後のプラザ合意を機に長期の円高に転じたため,巨額の為替差損が生じ,昭和60年度から平成8度まで(ただし,平成7年度,平成8年度は損失見込み推計額)の累計で約2200億円に達するものであった。平成3年度から平成5年度にかけては,それぞれ推計172億円,203億円,300億円の為替差損となっている。ただ,控訴人は,為替予約したドルを航空機購入の支払に充てたため,帳簿上は差損を生じていない。しかし,円高により,円換算すると,一機当たり他社より約80億円高い航空機を購入したことになり,営業費用のうち,機材費(固定費)を増加させる結果となっており,平成2年度の営業費用のうち,固定費の減価償却費を約60億円増加させているが,これは,固定費全体からみると,1%程度に相当するものであって,営業費用に影響を与えなかったということはできない。 ところで,控訴人のように,航空機の購入など,外貨取引の非常に多い企業は,常に為替リスクにさらされているたページ(19)め,将来の為替変動によって被りかねない損失に備え,リスクヘッジとして為替予約を行うのが一般的であり,控訴人もリスクヘッジの目的で為替予約を行ったのであって,監査役の警告にもかかわらず,長期間の為替予約を行った点については,当不当の問題が生じる余地があるにしても,監査役の警告に従わないことが直ちに経営判断の誤りということもできない。また,期間が長いことや過去に控訴人が為替差益を上げたという事実だけから,控訴人の行ったドル先物予約が投機目的であったと結論付けることはできない。さらに,控訴人のように 断の誤りということもできない。また,期間が長いことや過去に控訴人が為替差益を上げたという事実だけから,控訴人の行ったドル先物予約が投機目的であったと結論付けることはできない。さらに,控訴人のように外貨取引の多い企業の場合,為替予約自体は有効である(原審証人P50)。以上の事情に照らせば,結果としての為替予約の失敗について,直ちに控訴人の責任を云々することはできないというべきである。 被控訴人らは,最長11年という長期のヘッジを為替予約で行ったことを非難し,予約締結時の判断としては,ドル高を予想して長期のヘッジをするなら,ドル高,ドル安どちらにも柔軟に対応できる通貨オプション(ドルコールオプション)を利用するのが通常であると主張するところ,前記のとおり,長期の為替予約を行ったことには当不当の問題が生じる余地があるとしても,これが不当であると認めるに足りる証拠はなく,また,通貨オプションを選択することが可能であったか否か,可能とした場合,その選択の当否について判断するに足りるだけの証拠がないので,直ちに被控訴人らの主張を採用することはできない。また,被控訴人らは,P51の意見書(甲1000)や同人の証言調書(甲1112の1)をもって,為替予約を行った相場判断の時期を問題にするところ,プラザ合意以後ドル安円高の流れに変わったことは現時点では自明であるが,為替相場は様々な要因によって変動することもまた自明なことであり,将来のこれらの要因をすべて判断することは通常困難であることに照らせば,控訴人が為替予約を行った当時において,ドル安円高の流れが決定的で,長期の為替予約を行ったことが誤りであったと認めるに足りる証拠はない。さらに,被控訴人らは,P51の意見書(甲1000)や同人の証言調書(甲1112の1)をもって,事後の損失回避の方法として,昭和シェル石 為替予約を行ったことが誤りであったと認めるに足りる証拠はない。さらに,被控訴人らは,P51の意見書(甲1000)や同人の証言調書(甲1112の1)をもって,事後の損失回避の方法として,昭和シェル石油株式会社が行ったキャッピングという措置をとらなかったことを非難するが,果たして昭和シェル石油株式会社の場合と同様に論ずることができるか否か,また,果たしてキャッピングという措置をとることができたか否かについても,なお検討を要する問題であって,控訴人が事後の損失回避の方法をとらなかったことをもって,直ちに控訴人の責任を認めることはできない。(本件訴訟は,控訴人の取締役等の経営責任を問う訴訟ではないので,ドル先物予約に関する取締役等の責任を検討するに足りる十分な証拠はない。)(c) 以上によれば,為替予約の失敗に関する控訴人の責任はともかく,為替予約によって差損が生じ,これが営業費用を増加させる結果となっているというべきである。 f 関連事業に対する投資について被控訴人らは,控訴人の経営状況の悪化は,子会社や関連会社に対する無謀な投資が原因であると主張する。 (a) 証拠(各項の末尾に記載する。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ① 日本ユニバーサル航空(国内航空貨物輸送会社で,以下「JUST社」という。)JUST社は,早朝や深夜の旅客便に搭載されない,いわゆる「オーバーフロー貨物」の摘み取り,宅配貨物の航空輸送を見込んで,平成3年1月11日に控訴人,日本通運,ヤマト運輸の合意に基づき設立された(同年12月時点での控訴人の出資率は69.3%,出資額は7億0500万円)。そして,同年10月16日から専用貨物機を羽田-札幌線に就航させ,運航を開始したが,新千歳空港の24時間運用化の遅れにより,当初計画していた早朝や深夜の1日2便往復体制が, 資額は7億0500万円)。そして,同年10月16日から専用貨物機を羽田-札幌線に就航させ,運航を開始したが,新千歳空港の24時間運用化の遅れにより,当初計画していた早朝や深夜の1日2便往復体制が,1日1便往復での運航になったのに加え,貨物需要が当初の見込みを大幅に下回ったことから計画どおりの運航ができず,平成4年9月に日本通運とヤマト運輸から,同年10月からの積み荷保証の打ち切り通告を受け,運航開始から1年後の平成4年10月1日に運航休止となった。この運航休止に至る間に生み出された赤字補填のため,控訴人は,JUST社に対し約8億円の追加投資を行った。また,JUST社設立に当たり貨物用航空機が必要となったため,控訴人は,急遽,海外他社から中古旅客機を購入し,貨物機への改造を行い機材を仕立てたが,予定を大幅に上回る改造費を要することになり,新品を購入するよりも高額の200億円をかけることになった。それにもかかわらず,当該改造貨物機は,JUST社の不振からJUST社に購入させることができず,4機(ただし,そのうち1機は平成5年3月から使用されている。)が遊休機材として米国に保管されることとなり,その保管費用は1機年間3000万円であった。また,JUST社の乗務員はほとんど外国人運航乗務員に頼っていたため,運休になった後も,免許維持のために,飛ばない外国人運航乗務員に賃金の支払を続けた。その後免許も失効し,運航不可能な状況で会社だけが存続していたが,平成9年度決算では,16億9800万円の損失を計上し,資産価値は5億3200万円まで下落し,平成11年3月解散に至った。 なお,JUST社の累積損失は約24億円に達するが,控訴人は,平成10年3月期にJUST社の株式の評価替えを実施し,それに伴う特別損失約17億円を計上した。 (甲27の1及び2,36,37 至った。 なお,JUST社の累積損失は約24億円に達するが,控訴人は,平成10年3月期にJUST社の株式の評価替えを実施し,それに伴う特別損失約17億円を計上した。 (甲27の1及び2,36,37,130の1及び2,132,575,576,原審証人P46の原審第10回証人調書73項ないし89項,弁論の全趣旨)② シティ・エアリンク株式会社(以下「CAC社」という。)CAC社は,都市間の新しい高速公共交通機関として,本業とのネットワーク効果を考慮して開始された事業であり,主として,羽田-成田空港間のヘリコプターによる旅客輸送を行う目的で,昭和62年6月3日に設立されたが,就航率,ヘリポートの設置,空港内のアクセス・発着枠・運用時間帯などの事業を左右する技術上の諸問題の解決や諸規制の緩和がなされず,累積損失を重ねた上,収支の改善は困難と判断されて,平成3年11月運休となった。そして,控訴人は,平成7年度にCAC社を解散して清算し,約13億1100万円の損失が出た。 なお,CAC社については,当初から運行関係者から技術的な問題点を指摘されており,平成4年時点で,その経営状況に関し,乗員組合から問題点を指摘されていた。 (甲130の1及び2,131,甲576,原審証人P46の原審第10回証人調書90項ないし100項,弁論の全趣旨)③ エセックスハウスホテルに代表される日本航空開発(JDC)の事業展開日本航空開発は,資本金120億円,控訴人が67.1%の株式を有する子会社であり,エセックスハウス(ニューヨーク),日航サンフランシスコ,日航シカゴ,日航香港などのホテルの営業を所有直営方式で展開してきた。そのうち,エセックスハウスホテルは,ニューヨーク・マンハッタン地区の「四つ星」ホテルにランクされており,昭和60年,日本航空開発がマリオット社から1 などのホテルの営業を所有直営方式で展開してきた。そのうち,エセックスハウスホテルは,ニューヨーク・マンハッタン地区の「四つ星」ホテルにランクされており,昭和60年,日本航空開発がマリオット社から1億7500万ドル(当時の為替レート1ドル=240円で換算すると,420億円)で購入したものである。その際,日本航空開発は,自ら不動産鑑定機関の正式鑑定書を取得することなく,ファースト・ボストン社の略式鑑定で,マリオット社の言い値で購入した。それは,高級ビルでも1㎡当たり3200ないし5400ドル(五番街のティファニーでも6500ドル)が相場と言われる中で,1㎡当たり1万8000ドルとかなり高額であった。また,その購入資金は,日本生命その他から合計1億7500万ドル(80%に当たる1億4500万ドルを日本生命から平均年利12%で借り入れる。)の借入れによって賄った。 昭和62年3月20日付けの「JDC監査の報告」には,日本航空開発について,同時並行的な急激なホテル展開により,早晩,財務的に破綻に瀕するほどの経営状況にあり,日本航空開発の招く経営破綻は,その規模からいっても,単に一子会社の問題にとどまらず,親会社の大きな負担となり,その経営にも重大な影響を及ぼすおそれが多分にあるもので,事業運営の意義は全くない旨指摘されている。さらに,この監査報告書では,エセックスハウスホテルの問題解決なくしては,日本航空開発の経営の建て直しはあり得ず,同ホテルについては,経営のメドが立たない場合には,たとえ,現在,損失を被ることがあっても,エセックスハウスホテルを売却し撤退を行ってでも,今後被る莫大な損失を防止すべきである旨指摘されている。 ページ(20)しかし,日本航空開発は,平成元年には,5400万ドルの見積もりで同ホテルの改修工事を行い,超過分として更に1億4 ってでも,今後被る莫大な損失を防止すべきである旨指摘されている。 ページ(20)しかし,日本航空開発は,平成元年には,5400万ドルの見積もりで同ホテルの改修工事を行い,超過分として更に1億4100万ドルの費用をかけており,その総コストは購入価格の倍以上にも上った。 また,控訴人は,平成元年,米国におけるホテル事業の投資会社としてPWC社(PACIFICWORLDCORPORATION)を,米国に設立し,当時約191億円の投資を行い,平成4年には更に約62億円もの投資を行った。この62億円の投資の目的は,主にエセックスハウスホテルの改装資金等に充てるというものであった。 このように,控訴人がエセックスハウスホテルヘの投資を続けたのは,元来ホテル事業は装置産業であり,収益を上げるようになるまでに長期間を要するものと考えたからであった。 しかし,その後エセックスハウスホテルは赤字を出し続け,控訴人は,平成9年6月27日,日本航空開発に対し,なおも319億円に上る財務支援を行い,その他修理,運営維持費用を合わせて900億円以上の費用をかけたが,結局,平成11年1月24日に米ホテル運営会社に2億5000万ドル(286億円)で売却することを発表した。また,控訴人ないし日本航空開発は,その他の日航サンフランシスコ,日航シカゴ,日航香港のいずれからも撤退した。 (甲40,41,42の1及び2,43,132,210,390の1及び2,576,577の1及び2,578,1017の2,原審証人P46の原審第10回証人調書197項ないし244項,弁論の全趣旨)④ 常電導磁気浮上式鉄道(HIGHSPEEDSURFACETRANSPORT(以下「HSST」という。))控訴人は,昭和47年から都心-成田空港間のアクセスとして,HSSTを開発してきたが,昭和 電導磁気浮上式鉄道(HIGHSPEEDSURFACETRANSPORT(以下「HSST」という。))控訴人は,昭和47年から都心-成田空港間のアクセスとして,HSSTを開発してきたが,昭和60年に,それまで約52億円を投下していたHSSTの一切の技術等を,1億2000万円で株式会社エイチ・エス・エス・ティに譲渡した。しかし,同社は事業化のメドがたたず,しかも開発資金の大半を借入金に頼っていたために,負債は平成4年9月ころの時点で約90億円に上り,その経営は行き詰まった。その結果,平成5年1月,同社の負債を整理し,同社の営業権・特許権を引き継ぐ新会社エイチ・エス・エス・ティ開発株式会社(以下「エイチ・エス・エス・ティ開発」という。)が大手企業49社の出資を受けて設立された。エイチ・エス・エス・ティ開発の設立に当たって,控訴人は,25億8000万円を出資し,株式会社エイチ・エス・エス・ティが抱えていた債務のうち,約8億4000万円の債権を放棄した。 上記投資について,控訴人は,「新会社エイチ・エス・エス・ティ開発株式会社は,愛知県東部・横浜ドリームランド線などの大型誘致案件を中心に,受注・建設を推進し,実現性の高い国内プロジェクトへの技術販売・建設請負による収入を前提とし,平成8年度には単年度黒字化,2000年には累損一掃,さらに2001年には5%程度の配当を開始する計画である」旨の説明をしている。しかし,HSSTそのものの技術については運輸省(国土交通省)からの事業認可という形での承認は得ているものの,実際に運行させるとなると,軌道の設置等について建設省(国土交通省)や自治体の承認が必要となることから,そのまま事業化するには多くの問題を解決しなければならず,この事業が控訴人に貢献し利益をもたらすような事業体になるまでに長期間を要すること いて建設省(国土交通省)や自治体の承認が必要となることから,そのまま事業化するには多くの問題を解決しなければならず,この事業が控訴人に貢献し利益をもたらすような事業体になるまでに長期間を要することが予想されていた。 なお,国内誘致の案件について,控訴人は,平成4年,HSSTについて「新技術の優位性はすでに多くの関係者から高く評価されており,(愛知県東部丘陵線と横浜ドリームランド線については)HSSTの採用をすでに正式に決定しています」と文書で説明しているが,東部丘陵線について,愛知県は,「現在機種選定委員会でHSST,新交通システム,モノレールの三機種で選定作業を行っている。夏頃決定される予定」(企画部交通対策課平成11年4月時点)と説明している。 また,ドリームランド線について,横浜市は,「数年前にドリーム開発からドリームランド線(以前はモノレールが走っていた。)をHSSTに施設変更したいという申請があった。しかし,ドリーム開発の親会社のダイエーは経営が厳しく新規投資ができない状態で,計画は足踏み状態」(都市計画企画調査課)としていたが,平成14年2月,横浜ドリームランドは閉園し,HSSTは実現しなかった。 そして,平成9年度決算では,エイチ・エス・エス・ティ開発は,20億5000万円の損失を計上し,その資産価値は5億3000万円まで低下し,平成13年には清算された。 (甲43ないし46,甲132,556,576,1017の2,1024,原審証人P46の原審第11回証人調書1項ないし31項,弁論の全趣旨)⑤ PPH(PANPACIFICHOTELIERSINC)控訴人は,米国ハワイ州オアフ島西海岸のコオリナ・リゾートの開発・経営を目的として,昭和53年4月18日に設立されたPPHを昭和63年3月に買収し,同社を控訴人の子会社にした ELIERSINC)控訴人は,米国ハワイ州オアフ島西海岸のコオリナ・リゾートの開発・経営を目的として,昭和53年4月18日に設立されたPPHを昭和63年3月に買収し,同社を控訴人の子会社にした(これらのために平成2年度に35億円,平成3年度に95億円を投資している。)。控訴人がコオリナ・リゾートの開発を計画したのは,ハワイの旅行商品価値を高める目的であった。しかし,コオリナ・リゾートについては,コオリナ・ゴルフ場(平成2年)とイヒラニ・リゾート&スパホテル(平成5年)のみ完成したものの,ショッピングセンターについては着工未定となっている。そして,PPHは,平成9年度決算で,210億3400万円の損失を計上した。(甲132,甲576,1017の2,弁論の全趣旨)(b) 控訴人の子会社や関連会社への投資及びその損失については,前記(a)で認定したとおりであり,被控訴人らの主張する前記控訴人の子会社や関連会社(平成9年度有価証券報告書(甲556)によれば,控訴人の子会社や関連会社は合計約200社が存在する。)の収支状況は悪く,控訴人の投資が控訴人にとって利益とならなかったものといわざるをえない。しかも,子会社や関連会社の損失は,平成9年度有価証券報告書の中で関連事業費評価損として掲げられ,その額は合計607億円余りに上っており(甲556,弁論の全趣旨),また,平成9年度に控訴人がホテル・リゾート等の関連事業損失970億円を特別損失として計上し,資本準備金等を取り崩して一掃しており(甲556,弁論の全趣旨),そのことからしても,控訴人の子会社や関連会社への投資が多額の損失を招き,控訴人の財務内容を悪化させる結果になったことは否定できない。 しかし,一方,控訴人の経常収支の悪化の観点からみると,本件就業規程が改定された平成5年当時において,これら の投資が多額の損失を招き,控訴人の財務内容を悪化させる結果になったことは否定できない。 しかし,一方,控訴人の経常収支の悪化の観点からみると,本件就業規程が改定された平成5年当時において,これらの子会社や関連会社の投資とその失敗がどの程度の影響を及ぼしたかについては,必ずしも明らかでない面もある。 例えば,JUST社については,機材の購入を控訴人が行っているので,機材費,借入金及び減価償却費の増加という形で控訴人の経常収支に影響を与えた可能性はある。その他について,控訴人は,平成9年度に控訴人がホテル・リゾート等の関連事業損失を特別損失として計上しており,控訴人の財務内容に影響を及ぼしたことは否定できないとしても,平成5年当時においていかなる範囲で経常収支に影響を及ぼしていたかは必ずしも明らかではない。また,結果的に失敗した事業に対する投資がすべて損失であり,控訴人の責任といえるかについてはなお検討すべき余地があり,この点につき検討するに十分な証拠はない。もっとも,控訴人は,構造改革施策の事業運営体制の再構築のうち,関連事業戦略としての新規事業投資の見直し・効率化(投資規模の大幅削減,投資基準の見直し)を掲げていたこと(乙8)からすると,前記(a)のような不採算と思われる関連事業につき,どのような検討をして投資を行ったのかについては,別件での証人P52の証人調書(甲1015の1の72頁ないし77頁)に照らすと,疑問の残るところである。 g 控訴人の経営状況悪化の原因のまとめ以上によれば,控訴人の経営状況悪化の原因は,営業収支の面では,イールドの低下,円高による人件費の高騰,需要を超えた設備投資,減価償却費,運航委託費などであり,営業外収支の面では,設備投資に伴う支払利息の増加などであり,控訴人の健全な企業体質を阻害する要因として子会社や関連会社 高による人件費の高騰,需要を超えた設備投資,減価償却費,運航委託費などであり,営業外収支の面では,設備投資に伴う支払利息の増加などであり,控訴人の健全な企業体質を阻害する要因として子会社や関連会社への投資及びその経営の悪化を挙げざるを得ない。このようにみると,控訴人の経営状況の悪化の原因は,営業費用中の固定費増加のほか,種々の事情が関連しているということができる。 ページ(21)h 控訴人の実施した施策控訴人は,経営状況の悪化により平成4年6月に構造改革施策を策定して以降,その施策を実施しているが,その実施内容が控訴人の経営悪化の前記原因を放置し,本件就業規程改定による勤務基準の変更という,いわば労働者のみにしわ寄せをすることは,人件費効率の向上を図って経営状況の改善を図ろうとする目的から有効といえないばかりか,相当ともいえず,その必要性を肯定することはできないので,控訴人が実施していた施策の内容を以下検討する。 なお,被控訴人らが主張するように,経営状況の悪化が控訴人の経営者の責任であるとしても,そのことから直ちに本件就業規程改定の必要性が否定されるということにはならない。確かに,既に業績が悪化した状況下において,緊急性,必要性に劣る投資を漫然と行い続けるなどの事情があれば,その妥当性を問われることは当然のことであるし,経営責任があるとすれば,別途それが追及されることになることも,また当然である。しかし,現に客観的に経営状況が悪化しているのに,その責任が経営者にあるからという理由で,経営者がその対策として就業規則の変更が極めて有効であるにもかかわらず,それができないとすれば,経営状況の悪化を徒らに放置することになり,更に重大な結果を招くことにもなりかねず,経営者としてはそのようなことが許されるはずもないからである。 控訴人の取った対策, わらず,それができないとすれば,経営状況の悪化を徒らに放置することになり,更に重大な結果を招くことにもなりかねず,経営者としてはそのようなことが許されるはずもないからである。 控訴人の取った対策,すなわち,構造改革施策は,前記ア(コ)(サ)の認定事実及び証拠(乙8,430の1ないし54)によれば,① 事業運営体制の再構築,② 生産構造改革,③ コスト構造改革,④ 販売構造改革,⑤ 意識構造改革を柱とし,具体的には,①については,国内線の拡充,関連事業の戦略(新規事業投資の見直し・効率化等),②については,不採算路線を廃止し,高需要高収益路線の増強を内容とする国際線路線の再編成,機材の利用効率向上,需要の変動に対応できるような運航委託,航空機のリース化を図ること,③については,航空機投資及び設備投資の削減,人員削減や諸手当の見直し等の人件費効率の向上,コストの外貨化,④については,イールドの向上,流通戦略,⑤については,新しい労使関係の構築,業務運営体制の見直し等を行うものであって,ブレークイーブンの高い体質から脱却し,国際コスト競争力の強化を最重要課題として,その具体的な施策の内容は,控訴人の経営全般にわたるものである。また,「93-94年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」(乙9)では,収支改善を最優先し,平成5年度「収支均衡」,平成6年度「黒字化」の実現,平成7年度以降は安定的な黒字化を目指すことを目的とし,① 国内線重点展開の推進,② 抜本的な費用並びに投資の見直し及び効率化の推進によるコスト競争力の再構築,③ マーケット構造の変化に対応した販売・流通戦略の再構築,④ 平成7年度以降は環境の変化に即応しうる事業計画上の「柔軟性」確保を重点施策とするもので,構造改革施策を前倒しし,深化させた内容である。 これらを具体的に経営状況悪化 した販売・流通戦略の再構築,④ 平成7年度以降は環境の変化に即応しうる事業計画上の「柔軟性」確保を重点施策とするもので,構造改革施策を前倒しし,深化させた内容である。 これらを具体的に経営状況悪化の原因との関係でみると,国内線の拡充,サービス強化,国際線路線の再編成,マイレージ制度の導入,増大する個人旅行への対応,自社系流通の育成(乙8,9)などは,売上高の増加を図るものであり,人員削減,人件費の直接的な削減,航空機投資及び設備投資の削減,運航委託や航空機のリース化,客室乗務職及び運航乗務職への外国人の導入,コストの外貨化,国際線路線の再編成などは,営業費用の削減,イールドの向上を図り,航空機及び設備への需要を超えた投資を是正すると同時に,支払利息の削減を図るものである。特に投資削減については,航空機,三大プロジェクト等の投資の抑制だけでなく,新規関連事業投資の原則凍結なども含め,「93-94年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」(乙9)は,「92-96年度展望と92-93年度事業計画」(乙7)に比較して,さらに平成5年度以降各年1000億円の投資削減を図っており(乙9),これは子会社・関連会社への投資を含むもので,控訴人の財務内容の健全化をめざすものである。投資の削減については,その後の「94-95年度サバイバルプランと98年度までの中期計画」(乙30)において,前計画の投資総額を半減し,4400億円に削減することとされていた。 構造改革施策の実行に着手された後の控訴人の経常損益は,平成6年度が28億円,平成7年度が43億円とそれぞれ経常利益を上げ,平成8年度には169億円の経常損失を計上したものの,平成9年度は76億円,平成10年度は325億円とそれぞれ経常利益を上げており(甲125,甲555ないし557,乙16),営業損益も平成7 益を上げ,平成8年度には169億円の経常損失を計上したものの,平成9年度は76億円,平成10年度は325億円とそれぞれ経常利益を上げており(甲125,甲555ないし557,乙16),営業損益も平成7年度には黒字に転じている(甲123)など,控訴人の経常収支は改善しており,実際に経費や投資の削減も実行され,人員削減等も開始された(乙30,乙38,乙39)。以上によれば,控訴人の構造改革施策が一定の効果を上げていたことが認められる。 以上によれば,控訴人は,国際コスト競争力の強化を最重要課題とし,本件就業規程改定による勤務基準の変更を除いても,同時並行的に経営状況悪化の原因に対応した,経営状況を改善するための全般的な構造改革施策の実行に順次着手し,構造改革施策が一定の効果を上げていたと認められる。その意味で,平成5年当時経済状況が悪化していた控訴人において構造改革施策を実施する必要性はあったということができる。 ⅰ 本件就業規程改定による人件費効率の向上という効果の有無及び程度について問題は,本件就業規程改定による勤務基準の変更によって人件費効率の向上という効果があったかである。 (a) 控訴人は,本件就業規程改定による勤務基準の変更内容が多岐にわたり,そのすべてが人的生産性の向上を直接意図したものというわけではなく,運航の実情に合う合理的内容への見直しを意図した改定内容も少なからずあり,運航の実情から乖離した勤務基準を運航の実情に合致した,より合理的な内容に見直すことは,大局的に見れば当然人員効率の向上につながるものであるから,構造改革施策の一環として行われる意味があるとし,そのような運航の実情に合致した合理的な内容への見直しと人的生産性の向上とは,相互に関連し合い,はっきり区別できるものではないが,編成の見直しを可能にしたり,これまで1泊2日の われる意味があるとし,そのような運航の実情に合致した合理的な内容への見直しと人的生産性の向上とは,相互に関連し合い,はっきり区別できるものではないが,編成の見直しを可能にしたり,これまで1泊2日の勤務としていた路線について日帰りの運航を可能にする等の効果を有する乗務時間及び勤務時間制限の緩和が人的生産性の向上のための見直しの中心となっていることは明らかであり,その現実の主たる効果はマンニング削減効果(本件就業規程の改定前後の必要人員の差)として計数で示すことができると主張する。 (b)ⅰ ところで,本件就業規程の改定の効果として,本件において論議されているところを大まかに整理すると,次のとおりになると考えられる。 (ⅰ) 運航乗務員の人数自体に関する効果① 路線や便数の事業規模が一定であると仮定して,勤務基準の改定により,必要な運航乗務員を減少させることができ,これにより人員を直接的に削減し,人件費を減少させる効果② 路線や便数の事業規模が一定であると仮定して,勤務基準の改定により,必要な運航乗務員を減少させることができ,これにより,機長の大量退職の時期が到来しても,運航を維持することができる効果,あるいは運航を維持するために導入する外国人乗務員を減少させる効果③ 本件就業規程改定前よりも路線や便数の事業規模が拡大することを想定し,その改定前の勤務基準のままでは運航乗務員を増員しなければ増大した運航の維持が不可能であるのに対し,勤務基準の改定により,運航乗務員を増員しなくても増大した運航の維持が可能となる,あるいは増員の程度が少なくても増大した運航の維持が可能となり,人件費の増大を抑制する効果(ⅱ) 運航乗務員の勤務に伴う経費(運航乗務員の滞在地でのホテル代,旅費,交通費等)の削減に関する効果(ⅲ) 運航の実情から乖離した勤務基準を運航の事 維持が可能となり,人件費の増大を抑制する効果(ⅱ) 運航乗務員の勤務に伴う経費(運航乗務員の滞在地でのホテル代,旅費,交通費等)の削減に関する効果(ⅲ) 運航の実情から乖離した勤務基準を運航の事情に合致させて,より合理的な内容に見直す効果ⅱ 前記ⅰ(ⅰ)の①ないし③の効果は,要するに一定の路線や便数の運航を維持するために必要な運航乗務員の数を,勤務基準の改定により減少させることができる効果と1つにまとめて考えることもでき,また,実際にも①ないし③は併存し得るものであり,これらを合わせて,控訴人はマンニング削減効果と主張しているものと認められる(乙354)。 (c) 本件就業規程改定の効果について判断するためには,以上の整理を踏まえて,控訴人が本件就業規程改定の目ページ(22)的としたのは何かについて検討する必要がある。 控訴人が設置した構造改革委員会が平成4年6月1日に発表した構造改革委員会報告(前記ア(コ),乙8)では,コスト構造改革の項目の1つとして人件費効率の向上が上げられ,その細目として,運航乗務職の勤務基準見直しの検討が上げられていた。また,地上職についての細目では各部門,複数の手法による人員の削減が明記され,客室乗務職についての細目でも委託化が明記されているが,運航乗務職については人員の削減の記載はない。 証拠(甲208,209,1021,乙354,363,原審証人P46の原審第8回証人調書69項)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人においては,機長の退職者が平成6年ころまでは年間20名程度であったものが,平成7年から50ないし60名程度になり,平成17年以降はさらに大量になると認識していたこと,また,控訴人の運航乗務員養成制度では,機長になるまで最短でも10数年を要するなど,乗務員の養成には時間がかかることが認められる。 そして になり,平成17年以降はさらに大量になると認識していたこと,また,控訴人の運航乗務員養成制度では,機長になるまで最短でも10数年を要するなど,乗務員の養成には時間がかかることが認められる。 そして,平成4年2月付けの「92-96年度展望と92-93年度事業計画」と題する計画書(乙7)では,今後の企業環境に関し,構造上の問題点として,運航維持能力につき,「新機種の導入,乗員養成に必要な国際線路線が少ないこと,機長の大量退役等により,関係部門のあらゆる努力にもかかわらず,乗員養成には限界があります。」と記載されているものの,これに対する施策として,日本人乗員養成に最大限務めるが,運航維持能力の不足が想定されることから,外国人乗務員の導入を継続すると述べるのみで,運航乗務員の勤務基準の見直しには言及していない。また,前記構造改革委員会報告(乙8)には,運航乗務員の勤務基準の見直しは,コスト構造改革の人件費効率の向上に位置付けられ,マクロの参考指標として,ATK当たりの人件費を,平成3年度の23円程度から,平成8年度において20円以下まで改善することを目標とするとされているが,機長の大量退職あるいは事業規模拡大に伴う運航維持能力の方法としては言及されていない。さらに,平成5年1月14日付け「93-94年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」と題する計画書(乙9)でも,勤務基準の見直しは,運航乗務員の勤務協定の改定による生産性向上として,平成5年度に約1000億円強の費用削減を目的とする費用効率化施策の人員効率化施策に位置付けられており,生産体制についての乗員計画(運航維持能力)においては,勤務基準の見直しについての言及はない。そして,当審証人P53の証言(特に当審第8回証人調書5,6頁)によれば,平成4年12月下旬から平成5年1月下旬にかけて控訴 乗員計画(運航維持能力)においては,勤務基準の見直しについての言及はない。そして,当審証人P53の証言(特に当審第8回証人調書5,6頁)によれば,平成4年12月下旬から平成5年1月下旬にかけて控訴人の運航企画部は,5名の運航乗員部長から勤務基準の見直しについて意見を聴取した際,同運航乗員部長らに対し,勤務基準の見直しによってコスト削減になるとの説明をしたものの,どの程度のコスト削減になるのか,また,マンニングがどれだけ削減されるのか,さらには勤務基準の見直しの目的が機長の大量退職ないし路線や便数の拡大等に伴うマンニング削減にあるのか否か等について具体的な説明をしていないことが認められる。 また,控訴人は,乗員組合に対し,本件就業規程改定による費用削減効果につき,特定経費(乗務員の滞在地でのホテル代,旅費,交通費等)は年間3億円程度削減されると説明していたものの(甲47,48,原審証人P46の原審第10回証人調書1ないし7項,弁論の全趣旨),それ以上に控訴人が乗員組合に対し,特定経費削減の算定根拠や勤務基準の見直しの目的が機長の大量退職ないし路線及び便数の拡大等に伴うマンニング削減効果にあることについて具体的な説明をしたと認めるに足りる証拠はない。 以上のような経過をみると,本件就業規程改定による勤務基準の見直しは,構造改革施策上,徹底したコストの削減,低ブレークイーブン体制の構築による控訴人の経営状況の改善という大まかな効果を目標としていたものと推認され,運航乗務員の直接的削減は目標ではなかったということができる。また,機長の大量退職等により問題となる運航維持能力は,日本人乗員養成に努めながら,外国人乗務員の導入を実施すると説明し,勤務基準の見直しによるマンニング削減と結びつけて説明していなかったのであって,控訴人が構造改革において,将来の機長 運航維持能力は,日本人乗員養成に努めながら,外国人乗務員の導入を実施すると説明し,勤務基準の見直しによるマンニング削減と結びつけて説明していなかったのであって,控訴人が構造改革において,将来の機長の大量退職に備えて本件就業規程改定による勤務基準の見直しを検討していたとしても,本件就業規程改定に際して機長の大量退職を前提としてマンニング削減効果をどの程度具体的に検討していたかは不明といわざるを得ないから,機長の大量退職に備えてマンニング削減効果を得ることが本件就業規程改定による勤務基準の見直しの主たる目的であったとすることには疑問がある。 また,路線や便数が拡大されれば必然的に運航乗務員の必要数が増大するところ,本件就業規程改定による勤務基準の変更によって編成に必要とする人員数を減少させればマンニング削減効果によって,増員することなしに拡大された路線や便数についての運航維持能力が増大する関係になり,構造改革施策が検討実施されていた当時三大プロジェクトも進展していて需要の増加が見込まれ,路線や便数の拡大が予想されていたといえるが,前記のとおり控訴人は,5名の運航乗員部長や乗員組合に対し,本件就業規程改定による勤務基準見直しによる効果として,マンニング削減効果と路線や便数の拡大を結びつけて具体的な説明をしていないことに照らせば,控訴人において,構造改革施策上,路線や便数の拡大を意図していたとしても,その拡大を前提とするマンニング削減効果を主たる目的として本件就業規程の改定を行ったと直ちに認めることもできない。 そして,本件就業規程改定についての運航乗員部長からの意見聴取の際の説明や乗員組合に対する説明の中ではもとより,本件訴訟で本件就業規程改定の目的や効果が争われても,控訴人において,コスト削減による経営改善を目標とした本件就業規程の改定を検討す 長からの意見聴取の際の説明や乗員組合に対する説明の中ではもとより,本件訴訟で本件就業規程改定の目的や効果が争われても,控訴人において,コスト削減による経営改善を目標とした本件就業規程の改定を検討する過程で,この改定によって,どの程度人員効率を向上させ,コストを削減することができるのか,また,ATK当たりの人件費を平成3年度の23円程度から平成8年度において20円以下にまで改善するという目標の何円分程度を本件就業規程の改定によって達成することができるのか,より従前の勤務基準に近い改定案あるいはより変更の程度の大きい改定案では,同様のことはどうなるのか,を具体的に試算し,比較検討したことを示す証拠が提出されていないことによれば,本件就業規程の改定を企画,決定する過程では,そのような試算,比較検討はされなかったものと推認するほかはない。 もっとも,甲第48号証の1枚目の「サバイバルプランの実施状況」と題する書面(平成5年11月付け)では,「勤務基準」の11月欄に「新取扱実施(マンニング効果,FY93 約30組,FY94 約50組)」の記載があり,同号証の2枚目の「勤務基準改訂の概要」と題する書面の枠外右下に「≪勤務基準改訂の効果≫ CAP約30マンニング,F/O約60マンニング,F/E約20マンニングの削減効果が見込まれる。」との記載があるが,これらの記載はきわめて簡略な記載で,誰がどのような手法で試算したのかも具体的な算定根拠も示されておらず,これらの記載をもって,控訴人内部で具体的な試算,比較検討が行われたということはできない。 そうすると,本件就業規程の改定による勤務基準の見直しは,それによる運航乗務員の直接的削減,機長の大量退職により問題となる運航維持能力対策,路線や便数の拡大があっても増員することなしの運航維持能力対策等,具体的な課題の達 程の改定による勤務基準の見直しは,それによる運航乗務員の直接的削減,機長の大量退職により問題となる運航維持能力対策,路線や便数の拡大があっても増員することなしの運航維持能力対策等,具体的な課題の達成を目標とするものではなく,控訴人の経営状態の改善という大まかな効果を目標とし,本件就業規程の改定によって,具体的にどの程度人員効率を向上させ,コストを削減することができるのか,ATK当たりの人件費の削減の具体的数値目標にどの程度寄与するのか,を試算し,他の改定案と比較検討することなく,大づかみに定められたものとみるほかない。 (d) 乗務時間及び勤務時間制限の緩和によるマンニング削減効果ⅰ 証拠(乙353,354)によれば,平成5年度冬期の路線,便数をもとに控訴人が計算すると,本件就業規程の改定により機長37名,副操縦士39.7名,航空機関士27.2名,計103.9名のマンニング削減効果が得られたとされていることが認められる。 ⅱ 証拠(乙353,354)によれば,平成6年度夏期の路線,便数をもとに控訴人が計算すると,本件就業規程の改定により機長55.9名,副操縦士59.7名,航空機関士32.9名,計148.5名のマンニング削減効果が得られたとされていることが認められる。 ⅲ① 証拠(乙354,355)によれば,平成10年度冬期の路線,便数をもとに控訴人が計算すると,本件就業規ページ(23)程の改定により機長88.6名,副操縦士107.0名,航空機関士51.1名,計246.7名のマンニング削減効果が得られたとされていることが認められる。 ② 証拠(甲1032,1033)によれば,乗員組合の計算では,同時期について,機長60.2名,副操縦士21.9名,航空機関士40.0名,計122.1名のマンニング削減効果が得られたとされていることが認められる。 ⅳ な ,1033)によれば,乗員組合の計算では,同時期について,機長60.2名,副操縦士21.9名,航空機関士40.0名,計122.1名のマンニング削減効果が得られたとされていることが認められる。 ⅳ なお,原審証人P47の証言(原審第12回証人調書173項以下)によれば,平成6年4月時点では約180名の削減効果があると計算されることが認められる。また,乙第114号証のP48の陳述書及び原審証人P48の証言によれば,平成5年下期で100名の削減効果が見込まれ,平成6年4月時点では150名,平成11年1月時点では250名の削減効果が生ずると計算されることが認められる。さらに,乙第150号証のP54の陳述書によれば,平成11年1月時点では250名の削減効果が生ずると計算されることが認められる。これに対し,被控訴人P34作成の甲第476号証の2の検証一覧表によれば,平成10年冬期のマンニング削減数は110名になると計算されることが認められる。 ⅴ 以上のとおり,控訴人と被控訴人らとの間で,マンニング削減数に差があるが,これは,本件就業規程改定前の勤務協定下の勤務基準による運航に必要な乗員数の算定方法や改定後の勤務基準による運航に必要な乗員数の算定方法についての理解の相違等に基づくものと認められる(甲1018,1033,乙354)。そして,控訴人と被控訴人らの計算のいずれが正当であるかを充分に見極める的確な証拠はない。 ⅵ 以上のとおり,控訴人と被控訴入らとの間で,マンニング削減効果の数値が異なるものの,いずれにしても乗務時間及び勤務時間の制限の緩和により一定のマンニング削減効果,すなわち,本件就業規程改定により変更された勤務基準によって運航乗務員の必要数を削減することができる効果があったことが認められる。 しかし,上記のマンニング削減効果により,具体的にいくら グ削減効果,すなわち,本件就業規程改定により変更された勤務基準によって運航乗務員の必要数を削減することができる効果があったことが認められる。 しかし,上記のマンニング削減効果により,具体的にいくらコストを削減することができ,それにより,ATK当たりの人件費削減の数値目標の達成のためにどの程度寄与したのか,しなかったのかを認めるに足りる的確な証拠はなく,それらの効果の程度や内容は明らかではない。 (e) 次に,本件就業規程の改定による運航乗務員の勤務に伴う特定経費(乗務員の滞在地でのホテル代,旅費,交通費等)の削減に関する効果について検討する。 控訴人が,乗員組合に対し,本件就業規程の改定による費用削減効果につき,特定経費は年間3億円程度削減されると説明していたことは,前記(c)に認定したとおりであり,前記甲第48号証の1枚目の「サバイバルプランの実施状況」と題する書面(平成5年11月付け)の「手当関連」の11月欄に「新取扱実施 (効果約0.5億円/年)」,「海外PDM」の11月欄に「新取扱実施 (効果約3億円/年)」の記載があるけれども,その年間3億円,年間0.5億円の削減という数値は,誰がどのような算定根拠によって算出したものかを認定するに足りる証拠はない。このことに,前記(c)で認定したことを合わせ考えると,本件就業規程の改定による勤務基準の見直しは,コスト削減による控訴人の経営状況の改善という大まかな効果を目標とし,改定によって特定経費を削減することをも目指したものということできるが,それによって削減することができる特定経費の算定根拠は明らかでなく,大づかみに定められた目標というほかはない。 そして,一般論的に考えて,本件就業規程の改定による勤務基準の変更により特定経費等の削減効果はあると考えられるが,控訴人においてその算定根拠を示し なく,大づかみに定められた目標というほかはない。 そして,一般論的に考えて,本件就業規程の改定による勤務基準の変更により特定経費等の削減効果はあると考えられるが,控訴人においてその算定根拠を示していない以上,その具体的な効果の内容や程度は不明といわざるを得ない。 (f) 以上によれば,控訴人は,構造改革施策上,人件費効率の向上という観点から,運航乗務員に関する費用を削減するため,本件就業規程改定による勤務基準見直しを行い,一定の効果はあったということができるものの,それによる費用削減効果の内容や程度は必ずしも明らかでないので,その効果が大きいものであると評価することはできない。 j まとめそうすると,本件就業規程改定によって人件費効率の向上という効果があったと一応いうことができるが,その効果の内容や程度は必ずしも明らかではないので,人件費効率の向上を図るという目的との関係で,本件就業規程改定が有効であったとしても,その効果が大きいものであったということはできない。したがって,本件就業規程改定の必要性があったとしても,その程度は高度であったということはできない。 (ウ) 路線構成の変化や機材性能の向上等の運航の実情に即した合理的な勤務基準に見直すことの必要性控訴人は,本件就業規程の改定の必要性について,業績悪化を背景とした構造改革施策の実施の一環として,路線構成の変化や機材性能の向上等の運航の実情に即したより合理的な勤務基準に見直す必要があったとも主張するので,この点について検討する。 前記ア(シ)で認定したとおり,本件就業規程の改定以前に運航乗務員の勤務基準を定めていた勤務協定は,いわばジェット機の黎明期(第1世代機といわれるDC8型機が導入された時代)であった昭和35年に締結されたジェット協定を原型とするもので,協定締結後20年以上を 務員の勤務基準を定めていた勤務協定は,いわばジェット機の黎明期(第1世代機といわれるDC8型機が導入された時代)であった昭和35年に締結されたジェット協定を原型とするもので,協定締結後20年以上を経過し,その間,めざましい技術革新の下に機材の性能が大幅に向上し,長距離路線の直行便化が進められる等,路線や便数も当時とは大きく変化していたこと,米国の航空会社は,このような運航環境の変化に対応し,太平洋線を3名編成機のシングル編成で運航し,また,全日空も,昭和61年に運航規程を変更して3名編成機のシングル編成による乗務の制限時間を緩和する措置をとって,太平洋線をシングル編成で運航するようになっていたこと,そこで,控訴人は,昭和61年ころから,運航乗務員の勤務に関する諸外国の運航基準や運航実態等に関する調査を実施し,昭和62年ころから運航乗務員の勤務基準の見直しの検討を始め,運航乗務員を含む現場の意見を集約しながら控訴人の勤務協定の改定案を作成していたが,この改定案をまとめる以前に控訴人における事業規模の拡大から乗務員の運航維持能力の向上が急務となり,平成2年には協定の枠内で路線別了解による編成見直しが優先され,勤務基準の見直しは先送りされたこと,その後,前記アのとおり,控訴人は,平成3年以降経営状況が悪化し,平成4年には多額の経常損失を計上したため,構造改革施策を策定し,この中にコスト構造改革のうち人件費効率の向上の施策として勤務基準の見直しが盛り込まれが,乗員組合との間で新しい勤務基準を内容とする勤務協定の改定合意に至らず,本件就業規程を改定の上,平成5年11月から実施されたものである。以上の経過からすると,控訴人においては,構造改革施策により本件就業規程を改定する以前から,国内外の航空他社と競争する上で,コスト競争力を強化するためには,路線構成の 11月から実施されたものである。以上の経過からすると,控訴人においては,構造改革施策により本件就業規程を改定する以前から,国内外の航空他社と競争する上で,コスト競争力を強化するためには,路線構成の変化や機材性能の向上等運航の実情に即したより合理的な勤務基準に見直し,運航乗務員の効率化を図る必要性があるとされていたことは否定できない。 しかし,そこでいわれる運航の実情に即したより合理的な勤務基準に見直し,運航乗務員の効率化を図る必要性が,前記(イ)において検討した,控訴人の主張するマンニング削減効果と同じものを指すのであれば,その効果,必要性の程度は前記(イ)に判断したとおりであり,マンニング削減効果と別のことを指すのであれば,それが具体的にどのような効果であり,それがなぜコスト競争力の強化につながるのか,その効果の内容や程度はどのようなものであるかを明らかにする的確な証拠はないものというほかはない。そうすると,路線構成の変化や機材性能の向上等運航の実情に即したより合理的な勤務基準に見直すために,本件就業規程改定による勤務基準の見直しを行う高度の必要性は認められないというべきである。 ウ小括以上によれば,本件就業規程改定による勤務基準の見直し,特に,ここでは乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の変更について,その必要性は認められるとしても,運航乗務員に大幅な不利益を与えてまでその勤務基準を変更する高度の必要性があったということはできない。 ページ(24)(3) 変更された就業規則の内容自体の相当性ア関係法令等への適合について前記2で述べたとおり,控訴人は,運輸省航空局技術部長が定めた乗務時間制限に関する基準の範囲内で乗務時間制限を定めるなど,航空法及び同法施行規則に基づき,運航規程を定めて運輸大臣の認可を受け,改定された本件就業 べたとおり,控訴人は,運輸省航空局技術部長が定めた乗務時間制限に関する基準の範囲内で乗務時間制限を定めるなど,航空法及び同法施行規則に基づき,運航規程を定めて運輸大臣の認可を受け,改定された本件就業規程で定める勤務基準は,この運航規程の範囲内で定められているのであり,また,同勤務基準は,労働時間を含め,労働基準法に反するような定めはなく,関係法令に適合しているのである。 被控訴人らは,運輸省航空局技術部長が定めた乗務時間制限に関する基準が安全性を保障するものではなく,その基準の根拠になった社団法人日本航空機操縦士協会(JAPA)報告は実証的調査に基づくものではないなど問題があり,さらに,その基準の範囲内で定め,運輸大臣の認可を受けた控訴人の運航規程は安全を保障するものではない旨主張する。 (ア) 証拠(各項の末尾に記載する。)によれば,次の事実が認められる。 a 運輸省航空局は,平成2年8月に我が国においてB747-400が太平洋路線に就航することを契機に,同年5月,我が国の定期航空運送事業者(航空会社)の航空機乗組員の長距離運航における乗務時間制限及び編成の基準を制定することとし,社団法人日本航空機操縦士協会(JAPA,以下「日本航空機操縦士協会」ともいう。)にその内容の検討を依頼した。日本航空機操縦士協会は,「航空技術の向上をはかり,航空の安全確保につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を行い,もって我が国民間航空の健全な発展を促進すること」を目的として設立された社団法人であるが,その依頼を受けて,「長距離運航に係わる乗員編成についての検討委員会」(以下「検討委員会」という。)を設立した。検討委員会は,日本航空機操縦士協会顧問(報告書作成当時の地位。以下同じ。)のP55を委員長とし,日本航空機操縦士協会副会長P56,早稲田大学人間科学部教授P5 下「検討委員会」という。)を設立した。検討委員会は,日本航空機操縦士協会顧問(報告書作成当時の地位。以下同じ。)のP55を委員長とし,日本航空機操縦士協会副会長P56,早稲田大学人間科学部教授P57,財団法人航空医学研究センター研究所長P58,社団法人日本航空機開発協会市場調査部長P59,航空宇宙技術研究所人間工学研究室長P60,控訴人の産業医P61,全日空の産業医P62,その他日本航空機操縦士協会の顧問2名及び会員8名(いずれも機長)を委員(委員合計18名)とするものであった。検討委員会は,連続する24時間における乗務時間制限及びそれに関連する編成の基準を中心に検討を行い,同年6月25日,「定期航空運送事業者が行う国際線の運航に従事する航空機乗組員の乗務時間制限及び編成基準(案)について」と題する中間報告(以下「中間報告」という。)を取りまとめた。中間報告は,定期航空事業者が,運航規程に「国際運航に従事する航空機乗組員の連続する24時間内の乗務時間制限及びその編成」を定めるに当たって,国が示す基準を作成することを目的とし,安全運航の実績が積み重ねられてきていた欧米諸国の基準,具体的には米国連邦航空法の基準を参考に基準を定めることとし,2名編成機のシングル編成の乗務予定時間の制限を8時間以下,また,3名編成機のシングル編成の乗務予定時間の制限を12時間以下等とした上で,なお,2名編成機の時間制限は暫定的なものとし,引き続き検討することになった(甲75,乙171,172の1,287の21頁ないし23頁,339の1,当審証人P53の当審第7回証人調書40頁ないし44頁)b 運輸省航空局技術部長は,平成2年6月26日(検討委員会の中間報告の行われた翌日),空航第577号「定期航空運送事業者の行う国際運航に従事する航空機乗組員の連続24時間以内の乗務時 ないし44頁)b 運輸省航空局技術部長は,平成2年6月26日(検討委員会の中間報告の行われた翌日),空航第577号「定期航空運送事業者の行う国際運航に従事する航空機乗組員の連続24時間以内の乗務時間制限及び編成に関する基準」(以下「技術部長通達」ともいう。)を発した。技術部長通達は,定期航空運送事業者の有償の国際線運航に従事する航空機乗組員の連続24時間以内の乗務時間制限及び編成に関する基準を定めることを目的とし,乗務時間制限については,検討委員会の中間報告と同様の内容の基準を定め,定期航空運送事業者は,基準に定める時間を超えて,航空機乗組員の乗務予定時間(時刻表の運航予定時間に基づき算定される当該便の出発予定時刻から到着時刻まで)を設定してはならないこと等を定めた。(乙87,原判決第1分冊別紙30頁参照。)c 控訴人は,平成2年8月1日付けで,控訴人の運航規程中,国際線シングル編成の場合の乗務時間及び勤務時間の制限を,着陸回数に関係なく,次のとおり変更した。 乗務時間制限勤務時間制限(改正前)3名編成機 10時間 15時間2名編成機 8時間 13時間(改正後)3名編成機 12時間 15時間2名編成機 8時間 13時間ただし,控訴人は,運航規程の変更に際し,同年7月26日付で,「1990年8月1日付OM改訂に関する暫定的措置について」と題する運航本部長レター(OGZ-Y-010)(甲1の140頁)を発して「3名編成機をシングル編成で国際線を乗務する際の連続する24時間中の乗務時間制限について,当面,従来どおり10時間で運用する」とすることを運航乗務員に通知し,運航規程の変更後も,3名編成機でシングル編成の国際線運航乗務員の乗務時間及び勤務時間の制限については同レターに沿った運用を行 て,当面,従来どおり10時間で運用する」とすることを運航乗務員に通知し,運航規程の変更後も,3名編成機でシングル編成の国際線運航乗務員の乗務時間及び勤務時間の制限については同レターに沿った運用を行い,この運用は本件就業規程の改定が行われるまで続けられた。(甲1,弁論の全趣旨)d 検討委員会は,平成3年6月から,中間報告による2名編成機の乗務時間制限の基準の再検討に着手したが,検討委員会の行った再検討の基本的な視点については,乗務時間制限が航空機乗組員の疲労による航行の安全の阻害を防止する観点から定められており,乗務時間制限を定める上で考慮すべき最大の要素は航空機乗組員の疲労であり,仕事量と疲労との定量的関係は確立されていないが,仕事量のレベルは疲労に大きな影響を与えるものと考えられることから,B747-400と在来型B747を代表例として,新世代2名編成機と在来型3名編成機との疲労度及び仕事量についての比較を行い,2名編成機の乗務時間制限値を延長することが可能かどうか,可能であるとすれば延長はどの程度かについて検討すべきであるというものであった。検討委員会は,このような視点から検討を行い,ボーイング社におけるB747-400の仕事量の評価の調査等をもとに検討を行って,新世代2名編成機の仕事量は在来型3名編成機と同等以下との考えに至ったが,さらに,平成4年2月から7月にかけて,控訴人及び全日空の協力の下に,成田-ニューヨーク線に運航するB747-400の運航乗務員及び成田-ワシントン線に運航する在来型B747型機の運航乗務員(編成はどちらもダブル編成)の疲労度及び仕事量等について生理学及び心理学の両面からの測定,解析を行った上で,平成4年12月に運輸省航空局に対して最終報告書(乙172の1及び2)を提出した。その結論は,国際線長距離運航を行う新 の疲労度及び仕事量等について生理学及び心理学の両面からの測定,解析を行った上で,平成4年12月に運輸省航空局に対して最終報告書(乙172の1及び2)を提出した。その結論は,国際線長距離運航を行う新世代2名編成機に乗務する航空機乗組員の乗務時間制限及び編成基準は,3名編成機に乗務する航空機乗組員に適用される乗務時間制限及び編成基準と同一とすることが適当であるというものであった。(甲75,乙172の1及び2,287の23頁及び24頁,339の2及び3,当審証人P53の当審第7回証人調書44頁ないし48頁)e 運輸省航空局技術部長は,検討委員会の最終報告を受け,平成4年12月21日に技術部長通達を一部改正する通達を発出した(空航第985号)。改正点は,2名編成機についてシングル編成(1名の機長及び1名の副操縦士)の乗務予定時間を12時間以下とすることであった。この改正により,2名編成機の乗務時間制限及び編成に関する基準は,3名編成機の基準と同様とされたことになった。(乙88,原判決第1分冊別紙29頁参照)f 控訴人は,技術部長通達が平成4年12月21日に改正されたことを受け,平成5年2月20日,運航規程を改定し,乗務割の基準について2名編成機と3名編成機との区別を廃止し,2名編成機及び3名編成機とも,国際線についての連続する24時間中のシングル編成の場合の乗務時間制限を12時間,勤務時間制限を15時間とした。(乙85の2)ページ(25)(イ) 以上のとおり,JAPA報告の作成提出,技術部長通達の発出による国の基準の設定,控訴人の運航規程の改定の経緯を認定したが,これによると,JAPAの検討委員会が2名編成機の乗務時間制限等に関する最終報告書を作成にするにあたって行った調査検討過程に工夫の余地が仮にあったとしても,その最終報告書に問題があり,これに 定したが,これによると,JAPAの検討委員会が2名編成機の乗務時間制限等に関する最終報告書を作成にするにあたって行った調査検討過程に工夫の余地が仮にあったとしても,その最終報告書に問題があり,これに基づいて定められた技術部長通達の国の基準につき安全性を欠くと認めるに足りる証拠はない。 後記オで述べるとおり,科学的研究の中には,JAPAの調査方法を批判するものや技術部長通達が定める国の基準を下回る乗務時間又は勤務時間の制限を提言ないし勧告するものがあり,これを無視することはできないが,後記のとおり,実際にはこれらの科学的研究の成果が広く受け入れられているとまでは認められず,この訴訟に提出された限られた科学的研究に関する証拠から,技術部長通達が定める国の基準の安全性を否定することはできない。しかも,本件確認訴訟は,改定された本件就業規程で定める勤務基準に関する規定の効力が被控訴人ら運航乗務員に及ぶか否かが争点であって,本来労使間の交渉によって調整が図られるべき労働条件をめぐる紛争であり,航空法令に基づく国の基準自体の当否が問題となっている事案ではない。その意味において,運輸省航空局技術部長が定める乗務時間制限に関する基準の当否やその前提になったJAPA報告の当否を判断するに足りる十分な証拠はなく,その基準を決定し,あるいはJAPA報告の作成に関与した関係者も当事者等として本件訴訟に関与していないこと等を考慮すると,本件訴訟において,運輸省航空局技術部長が定めた基準の当否やJAPA報告の当否を判断するのは相当でない。 したがって,技術部長通達が定める基準の安全性の欠如やJAPA報告の問題点等を指摘する被控訴人らの主張は採用することができない。 イ関係法令への適合以外の相当性の判断に関する事項前記のとおり,本件確認訴訟は,本来労使間の交渉によって調 全性の欠如やJAPA報告の問題点等を指摘する被控訴人らの主張は採用することができない。 イ関係法令への適合以外の相当性の判断に関する事項前記のとおり,本件確認訴訟は,本来労使間の交渉によって調整が図られるべき労働条件をめぐる紛争であって,労働条件は,科学的,専門技術的研究の成果のみによって決定されるものではなく,時代とともに変化する企業がおかれた経済状況や企業の施策,労働者の意見,労働市場の状況,労働者の健康状態,稼働(運航)実績,他の企業の労働条件,事故やその原因,その国の法的規制や政治状況,国際関係,その他さまざまな要素を考慮し,労使が交渉の上で決すべき事項であり,本件の紛争もそのような事案であるということができる。そして,改定された本件就業規程が定める勤務基準の内容の相当性の判断は,乗務時間及び勤務時間の制限等についての勤務基準の内容が主に国際線における労働条件に関するものであるから,諸外国政府の定める基準や他の国内外の航空会社の基準,主に労使の協議の結果として実施されていて合理性があると考えられる他の航空会社の勤務基準と比較して検討するのが相当である。なお,長距離運航による運航乗務員の疲労や仮眠等に関するこれまでの科学的研究の成果は貴重であって,これを軽視することができるものではなく,十分に考慮に値するものと考えられるが,他方,これから検討するように,各国政府や各航空会社の基準には様々の基準が存在し,科学的研究の成果が,そのまま広く受け入れられているとまでは認められず,その意味で本件訴訟に提出された限られた科学的研究の成果のみに基づいて直ちに勤務基準の相当性を判断することには躊躇を感ずるし,疑問がある。したがって,科学的研究の成果は,そのような位置付けのものとして検討することとする。 ウ諸外国政府の基準との比較検討国の基準は, に勤務基準の相当性を判断することには躊躇を感ずるし,疑問がある。したがって,科学的研究の成果は,そのような位置付けのものとして検討することとする。 ウ諸外国政府の基準との比較検討国の基準は,一般に主に運航の安全という観点から,労働者の疲労や健康等への影響に関する科学的研究の成果のみならず,その国が置かれた経済状況や国土,地理的条件,国内企業の成熟度,国際関係等の諸要素の考慮の上で決せられるものと考えられ,定められた基準の前提条件が同一ではなく,また,労働条件そのものではないので,比較することが必ずしも有用であるとまではいえないが,後記の航空各社の基準を理解する上で参考になるとともに,改定された本件就業規程が定める勤務基準の内容の相当性を判断する上で一応参考になるので,以下検討する。 (ア) シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の各国の基準は,次のとおりである。なお,本件では,改定された本件就業規程が定める勤務基準に関する規定の効力が問題となっているので,本件就業規程が改定された平成5年11月当時の基準をもって比較するのが相当であるが,当時の基準が不明なものについては,適宜それ以降の基準も含め比較することにした。また,比較しやすくするため,細部の条件を捨象し,乗務時間及び及び勤務時間(我が国の勤務時間と諸外国の飛行勤務時間とは算定の方法が異なり,必ずしも同一とはいえない(甲1151)が,ここでは同一のものとして比較する。)の制限の長短だけで比較することにした。以下,同様である。 ① 日本乗務予定時間制限は12時間以下で,勤務時間制限はない。(乙88,運輸省航空局技術部長通達)② 米国米国連邦航空規則第121章の規定する国際線定期航空運送事業者に適用される連続する24時間の乗務(飛行)時間についての計画段階での制限値は, 限はない。(乙88,運輸省航空局技術部長通達)② 米国米国連邦航空規則第121章の規定する国際線定期航空運送事業者に適用される連続する24時間の乗務(飛行)時間についての計画段階での制限値は,2名編成機についてはシングル編成が8時間までであり,勤務時間の制限は定めていない。(甲734,乙159,168,185,186の2)③ 英国英国航空局通達371号は,24時間以内の飛行勤務時間(航空機乗組員の出頭時刻から最後の飛行の到着時までをいう。)の計画段階での制限を定めている。飛行前の休養状態,勤務の開始時刻,離着陸の回数及び航空機乗組員の編成,時差等に応じて制限値が定められているが,2名編成機については,飛行時間が9時間を超え11時間以下の場合において,離着陸が1回のときは,時差順応した最大飛行勤務時間制限は12時間30分であり,時差順応していない最大飛行勤務時間制限は10時間45分である。(甲753,1151,乙168,185,190の2,303の2,310)④ カナダ飛行勤務時間制限14時間。2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙168,185,187の2)⑤ ドイツ無条件の飛行勤務時間制限は10時間で,条件により最大飛行勤務時間制限は14時間。飛行勤務時間制限は勤務時間帯,着陸回数によって制限が異なる。2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙159,168,185,191の2の(二))⑥ フランス乗務時間制限は10時間,飛行勤務時間制限は14時間。2名編成機と3名編成機で区別なし。(乙168,185,192の2)⑦ スイス飛行勤務時間制限14時間。2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙168,185,191の5の(二))⑧ オーストリア最大飛行勤務時間制限は14時間で,飛行勤 2の2)⑦ スイス飛行勤務時間制限14時間。2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙168,185,191の5の(二))⑧ オーストリア最大飛行勤務時間制限は14時間で,飛行勤務時間制限は出頭時刻,着陸回数によって制限が異なる。(乙168,185,193の2)⑨ オランダ最大飛行勤務時間制限は14時間30分で,2名編成機と3名編成機で区別なし。飛行勤務時間制限は出頭時刻,着陸回数によって制限が異なる。(乙168,185)⑩ デンマークポイント制を採用しているが,最大飛行勤務時間制限は14時間10分である。(甲1151,乙168,185,ページ(26)191の4の(二))⑪ 香港乗務時間制限は9時間(夜間で8時間)で,飛行勤務時間制限は出頭時刻,着陸回数,時差順応の可否より9時間から14時間。時差6時間以上の路線ではシングル編成での飛行はできない。ただし,本件就業規程改定後のもの。(甲559,1151,乙168,185,188の2)⑫ オーストラリア乗務時間制限は8時間で,飛行勤務時間制限は11時間。ただし,1時間ずつ延長が可能。2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙159,168,185,189の2)(イ) 以上によれば,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の最大乗務時間制限11時間は,米国やオーストラリアの乗務時間制限8時間より3時間,香港の乗務時間制限9時間よりも2時間,フランスの乗務時間制限10時間よりも1時間,いずれも緩やかである。また,改定された本件就業規程が定める勤務時間制限15時間については,他のどの国よりも緩やかである。なお,控訴人は,2002年9月3日に欧州議会で採択された欧州統一基準(乙414の1及び2)をも比較の対象として れた本件就業規程が定める勤務時間制限15時間については,他のどの国よりも緩やかである。なお,控訴人は,2002年9月3日に欧州議会で採択された欧州統一基準(乙414の1及び2)をも比較の対象として主張するが,その基準が現時点でEU各国の航空会社に効力が及ぶか否か明らかでないことに照らし,これを比較検討の対象としない。他の争点についても,以下同様である。 エ他の航空会社との比較(ア) シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の他の航空会社の基準は,次のとおりである。なお,本件では,改定された本件就業規程の効力が問題となっているので,本件就業規程が改定された平成5年11月当時の基準をもって比較するのが相当であるが,当時の基準が不明なものについては,適宜それ以降の基準も含め比較することにした。また,各航空会社の基準も,その各国の法的規制や企業の経済状態,労働者との交渉,地理的状況,保有する機材その他様々な要素によって決定されるものと推測され,また,乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務条件も,他の様々な条件と組み合わされて定められているものと考えられ,直ちに乗務時間及び勤務時間の制限の長短だけで比較することは必ずしも相当でないとしても,これらの条件を均一にして比較検討することは困難であるので,比較しやすいように乗務時間及び勤務時間の制限の長短だけで比較検討することにする。以下,同様である。 ① 米国のユナイテッド航空,アメリカン航空,ノースウエスト航空,デルタ航空等の各基準は,乗務時間制限が8時間であり,勤務時間制限は12時間30分から13時間である。(乙194,195の1,198の2,199の2,200の2)② カナダのエアカナダやカナディアン航空の各基準は,飛行勤務時間制限が12時間で,乗務時間に換算すると,10時間30分相当に 間である。(乙194,195の1,198の2,199の2,200の2)② カナダのエアカナダやカナディアン航空の各基準は,飛行勤務時間制限が12時間で,乗務時間に換算すると,10時間30分相当になる。(乙194,195の1,202の2)。 ③ 英国航空の基準は,出頭時間帯によって乗務時間の制限が異なるが,最大乗務時間制限は9時間15分で,勤務時間制限は,出頭時間帯,着陸回数により制限が異なるが,最大勤務時間制限は12時間30分である。(甲57,乙194,195の1,206の2)④ ルフトハンザ航空の基準は,2名編成機では4200マイル制限があり,また,条件による最大飛行勤務時間制限は14時間である。(甲687の2,乙104の2,194,195の1,209の2)⑤ エールフランスの基準は,最大乗務時間制限が9時間30分,最大飛行勤務時間制限が14時間である。(乙194,195の1)⑥ スイス航空の基準は,最大飛行勤務時間制限が12時間30分で,乗務時間制限に換算すると,10時間45分相当になる。(乙194,195の1)。 ⑦ オーストリア航空の基準は,最大乗務時間制限が11時間で,最大勤務時間制限が13時間である。(乙194,195の1)⑧ KLMオランダ航空の基準は,乗務時間制限が9時間で,修正飛行勤務時間制限は12時間30分である。(乙194,195の1,227の2,307,348)⑨ キャセイ航空の基準は,乗務時間制限が9時間で,最大飛行勤務時間制限が14時間である。(乙194,195の1,232の4)⑩ シンガポール航空の基準は,乗務時間制限が9時間で,最大勤務時間制限が12時間30分である。(乙194,195の1)⑪ カンタス航空の基準は,乗務時間制限が8時間30分で,勤務時間制限は11時間である。(乙194,195の1,23 制限が9時間で,最大勤務時間制限が12時間30分である。(乙194,195の1)⑪ カンタス航空の基準は,乗務時間制限が8時間30分で,勤務時間制限は11時間である。(乙194,195の1,234の2,348)⑫ 全日空の基準は,乗務時間制限が11時間で,最大勤務時間制限が14時間である。(乙195の1)⑬ その他,欧州地域では,最大乗務時間制限につき,ラウダ航空(オーストリア)が14時間相当,エア・ユーロップ(イタリア)が13時間,コンドル航空(ドイツ),LTU国際航空(ドイツ)が12時間30分相当,ブリタニア航空(ドイツ)が12時間15分相当,カーゴルクス(ルクセンブルク)が12時間,バルエアー(スイス)が11時間45分相当,ルフトハンザ貨物航空が11時間,スパンエアー(スペイン),ブリタニア航空(英),エアー2000(英)が11時間相当である。(乙194,195の1,207の2,208の2,210ないし212の各2,228の2)(イ) 以上によれば,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の最大乗務時間制限11時間,最大勤務時間制限15時間は,全日空と最大乗務時間制限11時間は同じであるが,最大勤務時間制限は全日空より1時間長い(なお,証拠(甲387,564,1106の2)によれば,全日空は,運航乗務員の労働組合との間で労働協定を締結してこの基準が定められている。)。また,欧州地域には,控訴人の乗務時間制限を越え,あるいは同等の航空会社が存在するが,勤務時間制限の点においては,これらの会社も,ラウダ航空,エア・ユーロップ及びブリタニア航空を除いて,勤務時間制限は14時間以下となり(前記(ア)⑬に記載の証拠),控訴人の勤務時間制限よりも短い。欧州地域でも,英国航空やエールフランスは乗務時間制限 航空,エア・ユーロップ及びブリタニア航空を除いて,勤務時間制限は14時間以下となり(前記(ア)⑬に記載の証拠),控訴人の勤務時間制限よりも短い。欧州地域でも,英国航空やエールフランスは乗務時間制限がいずれも9時間15分又は9時間30分と控訴人のそれよりは短い。さらに,太平洋路線で競合すると考えられる米国の乗務時間制限は8時間と3時間も短く,カナダの各航空会社の乗務時間制限は10時間30分相当であるが,勤務時間制限は12時間と短い。そして,アジア・オセアニア地域のキャセイ航空やシンガポール航空の各乗務時間制限が9時間,カンタス航空は乗務時間制限8時間30分といずれも控訴人のそれよりもかなり短い。そうすると,控訴人の乗務時間及び勤務時間の制限を越え,あるいは同等の航空会社が数社存在するが,多くの航空会社は,控訴人の乗務時間及び勤務時間の制限を下回っており,控訴人のそれはかなり緩やかな基準ということができる。 なお,証拠(甲599,600の1ないし3,乙163,169の2,196の2,287の9頁,当審証人P53の当審第7回証人調書16頁)によれば,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合について,本件就業規程改定当時も,現在も他の航空会社において乗務時間制限が9時間を越える長距離運航の実績があると認められるが,本件では安全性の問題というよりも,労働条件の問題であるから,その運航実績が上記の基準比較の判断に直接影響を与えるものではない。 オ科学的研究の成果(ア) 本件就業規程が改定される前の科学的研究a 本件就業規程が改定される以前の科学的研究については,原判決第3分冊157頁8行目冒頭から同183頁4行ページ(27)目末尾までのとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決第3分冊163頁8行目の「睡眠題の」を「睡眠問題の」 的研究については,原判決第3分冊157頁8行目冒頭から同183頁4行ページ(27)目末尾までのとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決第3分冊163頁8行目の「睡眠題の」を「睡眠問題の」に,同169頁1行目の「工場」を「工業」に,同171頁末行の「甲第八九号証」を「甲第八九号証(甲第七五二号証の一及び二がICAOジャーナルに掲載された同研究の記事であり,甲第七三〇号証の一及び二が同研究論文である。)」に改める。 b これらの研究は,飛行機の運航乗務員の運航における疲労や睡眠,国際線運航乗務員の睡眠と覚醒等に関するものであったが,直ちに運航乗務員の乗務時間及び勤務時間の制限自体について提言ないし勧告を行うという内容のものではなかった。したがって,これらの研究成果が,直接に改定された本件就業規程が定める勤務基準の内容自体の安全性や相当性の判断に影響を与えるものとはいえない。もっとも,外国の公的機関に所属する研究者が行った実証的科学的な研究の結果として,改定された本件就業規程が定める勤務基準に関連する疲労や睡眠等について指摘がされていることは無視すべきではない。 (イ) 本件就業規程が改定される前後又はそれ以後の科学的研究aDLR航空宇宙医学研究所による「長大路線の運航―最近の研究のまとめ」と題する研究論文(平成5年(1993年)5月発表)(a) 同研究論文の発表された内容については,原判決第3分冊184頁1行目冒頭から同191頁末行末尾までのとおりであるから,これを引用する。 (b) 同研究論文では,JAPAの検討委員会が行った調査方法についての問題点を指摘して報告書の結論を批判する内容となっており,また,結論として,2名編成機のシングル編成での通常の乗務時間は10時間を超えてはならないとの提言をしている。 bDLR航空宇宙医学研究所 の問題点を指摘して報告書の結論を批判する内容となっており,また,結論として,2名編成機のシングル編成での通常の乗務時間は10時間を超えてはならないとの提言をしている。 bDLR航空宇宙医学研究所の欧州連合委員会運輸担当長官宛の「長距離夜間飛行中のストレスおよび疲労」と題する報告書(平成6年(1994年)3月,乙166の1及び2)同報告書では,研究の目的が,「2夜連続の飛行かつ飛行と飛行の間の時間が短時間である勤務割の2名編成による長距離運航を調査することにあった」とし,また,「この調査は,欧州共同航空局(JAA)が現在審議中の飛行時間制限と休養要件に関しての必要な情報を提供することが意図されていた。」とし,その結論として,「最小必要乗員数が2名の場合と3名の場合について運航上の要件に関する本質的な差異はない。したがって,最小必要乗員数が2名で承認されたコックピットに対して特別な規定は提案されない」とし,また,「夜間帯(出頭時間18時00分から03時59分まで)の飛行勤務時間制限に関する現行の規定を更に12時間以下に短縮することについて,再検討されるべきである」とする。 cDLR航空宇宙医学研究所の「長距離運航における運航乗務員の疲労」と題する研究論文(平成9年(1997年)発表,乙167の1及び2)この論文は,前記aの論文と同じ調査に基づき作成されたもので,その結論として,「2名乗員編成の勤務時間は,昼間帯の運航で12時間,夜間帯の運航で10時間に制限されるべきである」とする。 d 米国航空宇宙局(NASA)のテクニカルメモランダム「民間航空における運航乗務員の勤務と休養のスケジュール作成・運用についての原則とガイドライン」と題する文書(以下「NASAガイドライン」という。平成7年(1995年)のもの(甲102)が予稿版で,平成8年(1 おける運航乗務員の勤務と休養のスケジュール作成・運用についての原則とガイドライン」と題する文書(以下「NASAガイドライン」という。平成7年(1995年)のもの(甲102)が予稿版で,平成8年(1996年)5月のもの(乙165の2)が確定版)NASAガイドラインは,「民間航空における運航乗務員の勤務と休養のスケジュール作成の問題について,科学的情報を提供することを目的としている。」とし,その結論として,24時間中の累計勤務時間は14時間を超えないこと,24時間中の累計飛行勤務時間が10時間を超えないこと,飛行勤務時間を最大2時間まで延長が可能であること等を勧告している。もっとも,確定版(乙165の2)の序文では,「基準制定のための方針を作成する意図はなかった。」と記載されており,NASAガイドラインの執筆者の一人であるローズカインド博士も同様の宣誓供述をする(乙236の2)。 (ウ) DLR航空宇宙医学研究所の調査研究(以下,前記aないしcをまとめて「DLR研究」という。)は,欧州連合及びドイツ運輸省の要請を受けて行われたものであるが,欧州連合は,運航乗務員の勤務時間についての統一ルール策定のための特別委員会を設置し,いくつかの安全基準提案の草案を公表しているが,DLR研究の結論がそのまま反映されておらず,2002年欧州議会で採択された基準では,「1日の最大基本飛行勤務時間を13時間とし,最大飛行勤務時間は1時間まで延長可能」とされている(乙164の2,414の2)。また,前記のとおりドイツの基準も,DLR研究の結論が反映されているとはいえないし,米国も,NASAガイドラインに沿った基準を未だ採用していない(1995年12月,米国連邦航空局は連邦航空規則改定案を発表したが,未だ法的な基準としては実施されていない(弁論の全趣旨)。)。 以上の 国も,NASAガイドラインに沿った基準を未だ採用していない(1995年12月,米国連邦航空局は連邦航空規則改定案を発表したが,未だ法的な基準としては実施されていない(弁論の全趣旨)。)。 以上のように飛行時間等の制限の基準策定にあたっては,科学的研究の成果のみが根拠となるのではなく,前記イ及びウで述べたとおり,国や航空会社が基準を作成するにあたっては様々な要素が考慮されることになるのであって(NASAガイドラインの序文でも,ガイドラインを実施するには,他に考慮しなければならないこと(経済面,法律面,コストと効果の比較等)があることを認めているし(甲102の6頁,乙165の2の5頁),NASAガイドラインの執筆者のひとりでもあるグレーバー博士は,「執筆を行った科学者の間では,科学的知識と運航実績との間には依然として隔たりがあるという基本認識がある」と述べ(乙164の2の宣誓供述の4頁,乙244の2の1頁),DLR研究の研究者のひとりで,NASAガイドラインの執筆者のひとりでもあるザメル博士も,これを肯定している(甲1036の2の2頁)。),改定された本件就業規程の定める勤務基準がDLR研究やNASAガイドラインの勧告を超える基準を定めていたとしても,これから直ちに安全性に欠けるとか,相当性に欠けるということはできない。 なお,被控訴人らは,他にバテル報告書(1998年1月,甲668の1及び2),英国国防省がスポンサーになっている「国防調査研究局DERA」が作成した報告書(2000年1月。甲712の1及び2。この報告書は,インドネシアのソロシティー又はウジュンパンダンからサウジアラビアのジェッダまでのブリタニア航空の運航の際の乗員についての実証的な調査に基づく勧告事項の1つとして,2名編成機につき,時差の影響を受けた後で,現地滞在時間が24時間に ジュンパンダンからサウジアラビアのジェッダまでのブリタニア航空の運航の際の乗員についての実証的な調査に基づく勧告事項の1つとして,2名編成機につき,時差の影響を受けた後で,現地滞在時間が24時間に近いケースでは,十分に睡眠をとることが困難であることを考慮して交代要員なしでの最大飛行勤務時間は,勤務開始時刻にかかわりなく,10時間までとすべきであることを挙げている。)等の科学的研究に関する証拠を提出するが,いずれも上記と同様な理由で,これをもって,直ちに改定された本件就業規程の定める勤務基準が安全性に欠けるとか,相当性に欠けるということもできない。 しかしながら,飛行時間等の制限の基準策定にあたっては,科学的研究の成果が重要な考慮要素の1つであることは決して否定できないことであり,外国の公的機関に所属する研究者及び政府や欧州委員会の委嘱を受けた研究者が行った実証的科学的な研究の結果として,改定された本件就業規程の定める勤務基準を下回る乗務時間や飛行勤務時間の提言ないし検討の必要性を公表していること自体は無視することはできないというべきであり,改定された本件就業規程の定める勤務基準が科学的な検討から,何らの問題もないとされているものとは到底言えないこともまた事実である。 カまとめ以上を総合すると,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の最大乗務時間11時間,最大勤務時間15時間の基準内容は,関係法令や国の定める技術部長通達に適合するものであるが,最大乗務時間及び最大勤務時間いずれにおいてもかなり長く,米国,オーストラリア,香港,フランス等の政府が定める乗務時間より緩やかであり,また,前記ウで検討したどの国の勤務時間制限より緩やかであり,さらに,前記エで検討した航空会社の多くは,控訴人の乗務時間及び勤 オーストラリア,香港,フランス等の政府が定める乗務時間より緩やかであり,また,前記ウで検討したどの国の勤務時間制限より緩やかであり,さらに,前記エで検討した航空会社の多くは,控訴人の乗務時間及び勤務時間の制限を下回る勤務基準を定めていて,控訴人の勤務ページ(28)基準はかなり緩やかなものといえること,前記オで検討したように,実証的科学的研究の結果からは,改定された本件就業規程の定める勤務基準が,直ちに安全性に欠けるとか相当性に欠けるということはできないが,その勤務基準に関連する疲労や睡眠等について指摘する研究結果,当該勤務基準を下回る乗務時間ないし勤務時間の提言,あるいは検討の必要性を公表する研究結果が存在すること自体は無視することができないことであり,当該勤務基準が,科学的な検討の結果から,何らの問題もないとされているものとは到底言えないことを考慮すると,当該勤務基準が不相当であると認めることはできないものの,労働条件としてその内容の相当性には疑問が残るというべきである。 (4) 代替措置の有無及び内容ア控訴人は,改定された本件就業規程の勤務基準により,休養・休日に関し,滞在地では乗務時間の長さや出発時間帯での深夜部分を考慮して12時間の基本休養時間に6ないし12時間,または深夜時間帯の相当時間が加算されたり,あるいは基地帰着後には離基地日数に応じた休日に加えて最大時差や労働密度を考慮した休日が付与されているなど,規定上の対応策がとられていると主張する。 前記第3の争いのない事実等で引用した原判決第2分冊72頁以下のとおり,休養時間の点について,改定された本件就業規程は,一連続の乗務に係わる勤務の前には連続12時間の休養を予定し,予定乗務時間が9時間を超えて10時間以内の場合は12時間の休養時間に6時間の休養時間を加算し,予定乗務時間が1 改定された本件就業規程は,一連続の乗務に係わる勤務の前には連続12時間の休養を予定し,予定乗務時間が9時間を超えて10時間以内の場合は12時間の休養時間に6時間の休養時間を加算し,予定乗務時間が10時間を超えて11時間以内の場合には12時間の休養時間に9時間の休養時間を加算し,予定乗務時間が11時間を超える場合は12時間の休養時間に12時間の休養時間を加算し,予定乗務が出発地の時間で22時から5時に当たる場合はその時間を加算することとしているから,乗務時間制限を従前の9時間から最大11時間にまで延長したことに伴う不利益を一応緩和する措置がとられているといえなくもない。しかし,本件就業規程は,航空機の遅延等やむを得ない事態が発生して休養時間が次の一連続の乗務に係わる勤務の前に確保できない場合は,少なくとも10時間の休養を与えることとし,また,休養時間が予定した時間の12分の10に満たなかった場合には,所定の休日に加えて一日の休日を基地帰着後に与えることとしているが,この例外規定に照らすと,航空機の遅延等の事態により実際の到着時刻が相当遅延したときには,予定乗務時間が9時間を超える場合に長時間の乗務に見合った休養時間が必ずしも保障されるとは限らず,その遅延により休養時間が減少することになるので,本件就業規程改定による休養時間の制度が乗務時間制限を最大11時間にまで変更したことによる不利益を緩和する措置として十分であるとはいえないというべきである。 また,前記第3の争いのない事実等で引用した原判決第2分冊83頁以下のとおり,国際線基地帰着後の休日について,勤務協定や改定前の本件就業規程では,次のとおり基地を離れた日数に応じて連続休日を与える旨を規定していた。 基地を離れた日数連続休日数1日又は2日 1日3日から5日 2日 勤務協定や改定前の本件就業規程では,次のとおり基地を離れた日数に応じて連続休日を与える旨を規定していた。 基地を離れた日数連続休日数1日又は2日 1日3日から5日 2日6日から8日 3日9日から11日 4日12日から14日 5日そして,改定された本件就業規程では,次のとおり規定している。 2日 1日3日から4日 2日5日から9日 3日10日から14日 4日以上によれば,基地を離れた日数が4日まで,6日から8日まで,10日及び11日は従来と同じで,5日は休日が1日増えているが,逆に9日,12日から14日までは休日が1日減っており,国際線で基地を長く離れることがあることを考慮すると,必ずしも休日が増えたということではないので,本件就業規程改定による国際線基地帰着後の休日の制度が乗務時間制限を最大11時間にまで変更したことによる不利益を緩和する措置として十分であるとはいえない。 イなお,証拠(甲1018の35頁,乙5の37頁)によると,控訴人においては,本件就業規程が改定される前は,シングル編成1回着陸で実乗務時間が9時間を超えた場合には,「特別乗務手当」が支払われていたところ,本件就業規程の改定にあわせて「長時間乗務手当」に再編されたが,その手当の支給基準は「特別乗務手当」のそれを大幅に下回っていることが認められ,長時間乗務に伴う手当等の財産的代替措置がされたとも認められない。 ウしたがって,改定された本件就業規程による乗務時間及び勤務時間の変更に伴う代替措置は十分なものとはいえないというべきである。 (5) 労働組合等との交渉経過ア前記第3の争いのない事実等(特に原判決第2分冊3頁ないし7頁,38頁ないし42頁)及び前記(2)アで認定 伴う代替措置は十分なものとはいえないというべきである。 (5) 労働組合等との交渉経過ア前記第3の争いのない事実等(特に原判決第2分冊3頁ないし7頁,38頁ないし42頁)及び前記(2)アで認定した事実(特に(2)ア(シ)(ス))のほか,証拠(各項末尾に記載する。)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 (ア) 勤務協定で定められていた勤務基準の見直しの検討は,人件費効率向上などコスト構造改革の1項目とされ,平成4年7月ころから労務部の運航乗務職グループ長以下と運航本部運航企画部の業務グループ長以下が共同して,人件費効率向上のため運航乗務員の勤務基準改定実施に向けて検討を進め,路線構成の変化や機材性能の向上に合った,より合理的な勤務基準の作成と人的生産性の向上という観点から新しい勤務基準の立案作業を進めたが,平成元年の見直し検討の際には,運航本部の運航乗務員職制や地上職からなるアドバイザリーグループ会議を開催し,運航乗務員を含む現場の意見を聴取したものの,平成4年から平成5年にかけての見直し作業では,平成4年12月下旬から平成5年1月下旬にかけて数回開かれた5名の乗員部長会の意見を聴取したのみで,特に現場の運航乗務員から直接意見を聴取する手続がとられたことはなく,勤務基準案が策定された。(乙287の7頁以下,原審証人P48の原審第25回証人調書56,57項,当審証人P53の当審第7回証人調書12頁以下)(イ) 控訴人は,平成5年1月29日,「人件費関連施策について」と題する文書(乙10)を乗員組合を含む全労働組合に提示し,人件費関連施策を全社的に実施していくことを理解してもらうとともにその全体像を示し,併せて各職種別の具体策をまとめた「人件費関連施策の具体策について」と題する文書(乙11,47ないし49)を各労働組合に提示した。乗員 社的に実施していくことを理解してもらうとともにその全体像を示し,併せて各職種別の具体策をまとめた「人件費関連施策の具体策について」と題する文書(乙11,47ないし49)を各労働組合に提示した。乗員組合に示された「人件費関連施策の具体策について」と題する文書(乙11)には,「『運航乗員の勤務に関する協定書』改定概要」と題する文書が添付され,改定された本件就業規程に定められた勤務基準の概要が示された。また,控訴人は,乗員組合に対し,同年2月26日,見直しの勤務基準を盛り込んだ勤務協定案(乙60)を提示し,同年7月1日からの実施を求めた。控訴人は,乗員組合に対し,当時控訴人が置かれていた悪化した経営の状況と企業構造の見直しによる人件費効率向上の必要性等を説明した上,乗員組合との間で締結されていた勤務協定をはじめとする多数の協定の改定を申し入れ,同年2月8日から同年10月31日までの間,乗員組合との間で26回の団体交渉と18回の事務折衝を持ったが,その間春闘要求や夏季手当要求等についての交渉もされ,必ずしも全ての回で勤務協定改定の交渉が行われていたわけではなかった(乙57)。控訴人と乗員組合との交渉は,乗員組合が,部分的な提案を行うこともあったが,基本的には控訴人の経営状況悪化の原因は控訴人経営者の失敗にあるとして経営者の責任を主張し,勤務基準の切り下げに応じられないという姿勢で臨み,これに対し,控訴人は,新しく策定した勤務基準案の実施を強く求め,具体的に勤務協定案の内容を協議するまでに至らず,交渉はほとんど進展しなかった。控訴人ページ(29)は,同年7月からの新しい勤務基準案の実施は困難と考え,同年6月22日付けの書面(乙61,356の1)をもって,従来の扱いを継続することを通知し,さらに,交渉が進展しないならば,運航ダイヤが変更になる平成5年11月 らの新しい勤務基準案の実施は困難と考え,同年6月22日付けの書面(乙61,356の1)をもって,従来の扱いを継続することを通知し,さらに,交渉が進展しないならば,運航ダイヤが変更になる平成5年11月1日から新しい勤務基準案を実施することを考え,同年7月22日付け書面(甲194,乙62,356の2)をもって,同年10月末日までに改定の合意が成立しなかったときは勤務協定を同日限り解約する旨の解約予告をし,さらに双方で団体交渉や事務折衝を重ね,勤務基準案の内容につき,乗員組合と控訴人との間で質疑等を行うこともあり,また,控訴人が勤務基準案の本質に係わらない部分について修正を加えた勤務協定案(乙63)を示したりしたが,勤務協定改定の合意に至らず,勤務協定は同年10月末日限りで失効し,同年11月1日より改定された本件就業規程に定められた勤務基準を実施することとなった。(甲56,194,196,978の21頁,1014の38ないし43頁,乙10,11,47ないし49,57,60ないし63,356の1及び2,378,原審証人P49の原審第9回証人調書21項以下,原審原告P63の原審第13回本人調書216項ないし230項)(ウ) 控訴人は,他の労働組合とも交渉を行い,地上職員と客室乗務員の多数(平成5年4月当時の控訴人の総従業員数は約2万1500名で,地上職員約9000名中8316名及び客室乗務員約6300名中4372名が加入し,控訴人の総従業員数の過半数を占める。)をもって組織されている全日航労組との間では,人件費関連施策に関する控訴人の提案の全項目について協定が締結された。また,地上職員の一部(地上職員329名の加入)をもって組織されている日本航空労働組合(日航労組)との間では,フレックスタイム制についてのみ協定が締結された。しかし,他の労働組合との間では 結された。また,地上職員の一部(地上職員329名の加入)をもって組織されている日本航空労働組合(日航労組)との間では,フレックスタイム制についてのみ協定が締結された。しかし,他の労働組合との間では,新たな協定は締結されておらず,客乗組合との間の従来の勤務協定は解約された。さらに,控訴人は,機長組合に対し,平成5年2月26日に勤務協定の改定案を提示して協議を申し入れたが,双方間で実質的な議論はされなかった。(甲1045の2,1059の16頁,乙53ないし56,原審証人P47の原審第9回証人調書163項ないし223項,原審原告P63の原審第13回本人調書231項ないし233項,当審証人P64の第13回証人調書36頁ないし40頁)(エ) 本件就業規程改定による勤務基準の変更については,運航乗務員のほぼ全員が加入している乗員組合が反対しているほか,管理職と扱われている機長の約9割が加入する機長組合や管理職と扱われている先任航空機関士の約9割が加入する先任組合も上記変更に同意せず,異議を述べ,また,客乗組合や日航労組も本件勤務基準の改定に反対し,さらに,全日航労組は,運航乗務員を組織していないこともあって,上記変更については意見を差し控えている。(争いのない事実等,甲87,163,605,原審証人P47の原審第12回証人調書15項ないし33項)イ以上の認定事実によると,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について,控訴人と被控訴人らが加入する乗員組合との間では実質的な協議がされたとはいえず,その原因は,乗員組合が部分的な提案を行うこともあったが,基本的には控訴人の経営状況悪化の原因は控訴人経営者の失敗にあるとして経営者の責任を主張し,勤務基準の切り下げに応じられないという姿勢で臨み,これに対し,控訴人は,経営状況の悪化を乗り切るために新しい勤務基 には控訴人の経営状況悪化の原因は控訴人経営者の失敗にあるとして経営者の責任を主張し,勤務基準の切り下げに応じられないという姿勢で臨み,これに対し,控訴人は,経営状況の悪化を乗り切るために新しい勤務基準案の実施を強行しようとしたことにあったということができるところ,この事実に前記(2)で述べた,控訴人が乗員組合に対し,本件就業規程改定による費用削減効果の根拠や具体的な内容を説明していなかったという事実を合わせ考慮すると,控訴人と乗員組合との間で実質的な協議がされなかった原因は控訴人にもあるということができる。 ウ上記のように控訴人と乗員組合との間で,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について実質的な協議が十分されていない。そして,同勤務基準については,運航乗務員の大半が加入する乗員組合,機長組合及び先任組合が反対し,また,控訴人の従業員の過半数である地上職員や客室乗務員で組織する全日航労組も,運航乗務員が加入していないこともあって,同勤務基準に意見を述べないなど,同勤務基準に同意する労働組合はなく,多数の労働者は本件就業規程改定後の勤務基準に同意しているのに一部の労働者が反対しているという状況ではない。労働者及びその組織する労働組合は,自らの労働条件について,重大な関心を持つとともに,企業の実情を認識できる立場にあるから,特定の労働条件の変更により自らの受ける健康や財産上の利害,会社の経営状況,就労の機会の確保や失業の回避等の様々な要因を総合的に考慮して,特定の労働条件の変更の提案に対し,合理的な判断・行動をすることが期待されるものであるから,大半の労働者が使用者との間で特定の労働条件の変更について合意すれば,当該労働条件は,その企業や労働者の置かれた具体的な状況の下では合理的なものと事実上推定することができるところ,改定された本件就業規 半の労働者が使用者との間で特定の労働条件の変更について合意すれば,当該労働条件は,その企業や労働者の置かれた具体的な状況の下では合理的なものと事実上推定することができるところ,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないのであるから,労働者の同意の面から同勤務基準の内容を合理的なものと推定することはできない。 (6) 変更の合理性の総合的判断そうすると,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航について,本件就業規程改定によって乗務時間及び勤務時間の制限を変更して延長したことは,運航乗務員にとって大幅な不利益変更であり,控訴人の経営改善の観点からこの変更の必要性はあったといえるが,高度の必要性は認められず,変更された内容自体も不相当とまではいえないものの,相当性には疑問が残り,その変更に伴う代替措置も十分なものとはいえず,変更について控訴人の管理職を含め運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないことを総合考慮すれば,上記乗務時間及び勤務時間の制限を変更した本件就業規程は,控訴人と被控訴人P1外11名を除く被控訴人らとの間において法的規範性を是認することができるだけの合理性を有すると認めることはできない。したがって,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らについては,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定の効力は及ばず,なお改定前の本件就業規程が定めていた乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定が適用されるものということになる。 以上によれば,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する,控訴人との間で,シングル編成による2 めていた乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定が適用されるものということになる。 以上によれば,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する,控訴人との間で,シングル編成による2名編成機で予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中,乗務時間9時間を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことの確認請求は,理由があるというべきである。 4 シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限を変更した規定の合理性の有無(1) 不利益の有無,内容及び程度ア(ア) 前記3(1)アで述べたとおり,勤務協定及び改定前の本件就業規程では,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中乗務時間9時間,勤務時間13時間を超えて予定してはならないと定められていた。 (イ) 前記3(1)アで述べたとおり,改定後の本件就業規程においては,2名編成機と3名編成機との間に差異を設けることなく,シングル編成で予定着陸回数が1回の場合,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間は,出頭時刻に応じて9時間ないし11時間,勤務時間は同じく13時間ないし15時間を超えて予定してはならないと改定された。 イ以上によれば,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合,本件就業規程の改定により,乗務時間及び勤務時間ともにその制限時間が最大で2時間延長されたことになる。また,前記3(1)イで述べたとおり,マルティプル編成で運航していた路線をシングル編成で運航することが可能となり,シングル編成による3名編成機でも機長1名,副操縦士1名及び航空機関士1名の3名の運航乗務員だけで乗務時間中は休息をとることもできないまま,運航をすることが余儀なくされることになるのであり 能となり,シングル編成による3名編成機でも機長1名,副操縦士1名及び航空機関士1名の3名の運航乗務員だけで乗務時間中は休息をとることもできないまま,運航をすることが余儀なくされることになるのであり,相当に労働密度が強化される結果となった。したがって,本件就業規程の改定により,乗務時間及び勤務時間ともにその制限時間が最大で2時間延長されただけでなく,マルティプル編成で運航していた路線をシングル編成で運航することが可能となり,仮眠設備で休息をとることができなくなるなど,労働密度が強化されており,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時ページ(30)間及び勤務時間の変更は,運航乗務員にとって大幅な不利益変更というべきである。 ウ控訴人は,本件就業規程によって新たに発生した勤務自体の不利益性を判断するにあたっては,発生する可能性のある勤務形態を論じるのではなく,実際に発生し運航乗務員が勤務に就いた実績のあるものを検討すべきであると主張する。 しかし,前記3(1)エで述べたとおり,就業規則は,労使関係において法的規範性を有するもので,画一的,定型的に定められる性質のものであり,就業規則に定められた勤務基準が労働契約の内容になり,これにより使用者は就業規則に定められた勤務基準に従って労働者に対して具体的に勤務を命ずることができるのであるから,就業規則変更による不利益の有無,内容や程度は,就業規則が定める勤務基準によって実施可能な勤務内容を比較検討すべきである。 したがって,就業規則変更による不利益性を判断するにあたり実際に発生し運航乗務員が勤務に就いた実績を考慮すべきであるとする控訴人の前記主張は採用することができない。 (2) 変更の必要性の有無,内容及び程度前記3(2)のとおり,乗務時間及び勤務時間の制限に関する し運航乗務員が勤務に就いた実績を考慮すべきであるとする控訴人の前記主張は採用することができない。 (2) 変更の必要性の有無,内容及び程度前記3(2)のとおり,乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の変更について,その必要性は認められるものの,高度の必要性があったということはできない。 (3) 変更された就業規則の内容自体の相当性ア改定された本件就業規程の定めるシングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限は,運輸省航空局技術部長の定めた乗務時間の基準内にあり,関係法令に適合していることは明らかである。 次に,上記制限の相当性について,2名編成機と同様に諸外国政府の定める基準や他の国内外の航空会社の基準と比較して検討する。 イ諸外国政府の基準との比較検討(ア) シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の各国政府の定める基準は,次のとおりである。 なお,3名編成機でも,2名編成機と同様に,改定された本件就業規程の効力が問題となっているので,本件就業規程が改定された平成5年11月当時の基準をもって比較するのが相当であるが,当時の基準が不明なものについては,適宜それ以降の基準も含め比較することにした。また,比較しやすくするため,細部の条件を捨象した。 ① 日本乗務予定時間制限は12時間以下で,勤務時間制限はない。(乙88,運輸省航空局技術部長通達)② 米国米国連邦航空規則第121章の規定する国際線定期航空運送事業者に適用される連続する24時間の乗務(飛行)時間についての計画段階での制限値は,3名編成機についてはシングル編成が12時間までであり,勤務時間の制限は定めていない。(甲734,乙159,168,185,186の2)③ 英国英国航空局通達371号は,24時間以 での制限値は,3名編成機についてはシングル編成が12時間までであり,勤務時間の制限は定めていない。(甲734,乙159,168,185,186の2)③ 英国英国航空局通達371号は,24時間以内の飛行勤務時間の計画段階での制限を定め,飛行前の休養状態,勤務の開始時刻,離着陸の回数及び航空機乗組員の編成,時差等に応じて制限値が定められているが,3名編成機については,離着陸が1回のときは,時差順応した最大飛行勤務時間制限は14時間で,時差順応していない最大飛行勤務時間制限は13時間である。(甲753,1151,乙168,185,190の2)④ カナダ飛行勤務時間制限は14時間で,2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙168,185,187の2)⑤ ドイツ無条件の飛行勤務時間制限は10時間で,条件により最大飛行勤務時間制限は14時間である。飛行勤務時間は勤務時間帯,着陸回数によって制限が異なる。2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙159,168,185,191の2の(二))⑥ フランス乗務時間制限は10時間で,飛行勤務時間制限は14時間。2名編成機と3名編成機で区別なし。(乙168,185,192の2)⑦ スイス最大飛行勤務時間制限は14時間で,2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙168,185,191の5の(二))⑧ オランダ最大飛行勤務時間制限は14時間30分。2名編成機と3名編成機で区別なし。飛行勤務時間制限は出頭時刻,着陸回数によって制限が異なる。(乙168)⑨ デンマークポイント制を採用しているが,最大飛行勤務時間制限は14時間10分である。(甲1151,乙168,185,191の4の(二))⑩ 香港最大飛行勤務時間制限は14時間。ただし,本件就業規程改定後のも イント制を採用しているが,最大飛行勤務時間制限は14時間10分である。(甲1151,乙168,185,191の4の(二))⑩ 香港最大飛行勤務時間制限は14時間。ただし,本件就業規程改定後のもの。(甲559,1151,乙168,185,188の2)⑪ オーストラリア乗務時間制限は8時間で,飛行勤務時間制限は11時間。ただし,1時間ずつ延長が可能。2名編成機と3名編成機で区別なし。(甲1151,乙159,168,185,189の2)(イ) 以上によれば,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の最大乗務時間制限11時間,最大勤務時間制限15時間は,米国の乗務時間制限12時間よりは短いが,オーストラリアの8時間,フランスの10時間よりも長い。また,勤務時間制限15時間については,他のどの国よりも緩やかである。 ウ他の航空会社との比較検討(ア) シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の他の航空会社の基準は,次のとおりである。なお,2名編成機と同様に,本件就業規程が改定された平成5年11月当時の基準をもって比較するのが相当であるが,当時の基準が不明なものについては,適宜それ以降の基準も含め比較することにし,また,比較しやすいように乗務時間及び勤務時間の制限の長短だけで比較検討することにする。 ① 米国のユナイテッド航空の基準は,乗務時間制限は12時間で,最大飛行勤務時間制限は13時間(ただし,太平洋路線・大西洋路線は13時間30分)であるが,8時間を超えて運航する3名編成機は現在存在しない。アメリカン航空の基準は,乗務時間制限は10時間で,飛行勤務時間制限は12時間30分,ノースウエスト航空の基準は,飛行勤務時間制限は13時間で,換算乗務時間制限は11時間30分相当,デルタ航空の基 。アメリカン航空の基準は,乗務時間制限は10時間で,飛行勤務時間制限は12時間30分,ノースウエスト航空の基準は,飛行勤務時間制限は13時間で,換算乗務時間制限は11時間30分相当,デルタ航空の基準は,乗務時間制限は12時間であり,飛行勤務時間制限は14時間である。(乙194,195の1,198の2,199の2,200の2,283の2)② カナダのエアカナダの基準は,勤務時間制限は12時間で,換算乗務時間制限は10時間30分相当,カナディアページ(31)ン航空の基準は,勤務時間制限は14時間で,換算乗務時間制限は12時間30分相当である。ただし,いずれも現在は3名編成機は退役をしている。(乙194,195の1,202の2)③ 英国航空の基準は,飛行勤務時間制限は12時間30分で,換算乗務時間制限は10時間30分相当である。(乙194,195の1,206の2)④ ルフトハンザ航空の基準は,最大飛行勤務時間制限は14時間で,換算乗務時間制限は12時間相当である。(甲687の2,乙104の2,194,195の1,209の2)⑤ エールフランスの基準は,最大乗務時間制限は10時間で,最大飛行勤務時間制限は14時間である。(乙194,195の1)⑥ スイス航空の基準は,最大飛行勤務時間制限は14時間で,乗務時間制限に換算すると,12時間30分相当になる。ただし,現在は3名編成機は退役している。(乙195の1)⑦ KLMオランダ航空の基準は,乗務時間制限は9時間で,修正飛行勤務時間制限は12時間30分である。(乙194,195の1,227の2,307)⑧ キャセイ航空の基準は,最大飛行勤務時間制限は14時間で,最大換算乗務時間制限13時間相当である。(乙194,195の1,232の4)⑨ シンガポール航空の基準は,最大飛行勤務時間制限は14時間 ⑧ キャセイ航空の基準は,最大飛行勤務時間制限は14時間で,最大換算乗務時間制限13時間相当である。(乙194,195の1,232の4)⑨ シンガポール航空の基準は,最大飛行勤務時間制限は14時間で,最大換算乗務時間制限は12時間30分相当である。(乙194,195の1)⑩ カンタス航空の基準は,乗務時間制限は8時間で,勤務時間制限は11時間である。(乙194,195の1,234の2)⑪ 全日空の基準は,乗務時間制限は11時間で,最大勤務時間制限は14時間である。(乙195の1)(イ) 以上によれば,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の最大乗務時間制限11時間,最大勤務時間制限15時間は,最大乗務時間制限11時間とする全日空と同じであるが,最大勤務時間制限は全日空より1時間長い(なお,前記のとおり全日空は,運航乗務員の労働組合との間で労働協定を締結してこの基準が定められている。)。また,乗務時間制限では,米国の航空会社で控訴人よりも長いものがあり,最大換算乗務時間制限でも欧州やアジアの航空会社で控訴人よりも長いものがあり,乗務時間制限では,控訴人の乗務時間制限が特に長いとまではいえない。しかし,勤務時間制限については,比較した各航空会社の中では最も長いものになっている。 この勤務時間制限が長いことにつき,控訴人は,実際の乗務時間及び勤務時間は制限枠ぎりぎりまでの勤務が設定されているわけではないと主張するが,ここでは勤務における使用者の具体的配慮の問題ではなく,労働条件の基準としてどこまで勤務を命ずることができるかが問題となっているのであるから,最大勤務時間制限15時間は他の航空会社からは突出しているといわざるを得ず,控訴人の主張は失当である。 なお,証拠(乙169の1,196の1,287の ることができるかが問題となっているのであるから,最大勤務時間制限15時間は他の航空会社からは突出しているといわざるを得ず,控訴人の主張は失当である。 なお,証拠(乙169の1,196の1,287の9頁,371,当審証人P53の当審第7回証人調書16頁)によれば,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合については,最近3名編成機が退役により減少する傾向にあるが,本件就業規程改定当時も,現在も他の航空会社において乗務時間制限が9時間を越える長距離運航の実績があると認められる。もっとも,本件では安全性の問題というよりも,労働条件の問題であるから,この運航実績をもって,上記の他の航空会社の基準との比較検討の判断に直ちに影響を与えるものではない。 エ科学的研究の成果科学的研究の成果については,前記3(3)オで述べたとおりである。ただし,シングル編成による2名編成機のみに関する部分,すなわち,同3(3)オ(イ)a,c及び(ウ)のうち国防調査研究局DERAが作成した報告書についての部分を除く。 オ以上を総合すると,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の最大乗務時間11時間,最大勤務時間15時間の基準内容は,国の定める技術部長通達や関係法令には適合するものであるが,外国政府の定める基準と比べると,乗務時間については,米国よりは短く,オーストラリア,フランスよりは長く,また,勤務時間制限で見ると,どの国よりも緩やかであり,他の航空会社の勤務基準と比べると,乗務時間では,控訴人の乗務時間が特に長いとまではいえないが,勤務時間については,比較した各航空会社の中では最も長いものになっていること,実証的科学的研究の結果からは,改定された本件就業規程が定める勤務基準が直ちに安全性に欠けるとか相当性に欠ける いえないが,勤務時間については,比較した各航空会社の中では最も長いものになっていること,実証的科学的研究の結果からは,改定された本件就業規程が定める勤務基準が直ちに安全性に欠けるとか相当性に欠けるということはできないが,上記勤務基準に関連する疲労や睡眠等について指摘する研究結果,上記勤務基準を下回る乗務時間ないし勤務時間の提言あるいは検討の必要性を公表する研究結果が存在すること自体は無視することができないことであり,上記勤務基準が,科学的な検討の結果から,何らの問題もないとされているものとは到底言えないことを考慮すると,上記勤務基準が不相当であると認めることはできないものの,労働条件としてその内容の相当性にはやや疑問があるというべきである。 (4) 代替措置の有無及び内容前記3(4)で述べたとおり,改定された本件就業規程による乗務時間及び勤務時間の変更に伴う代替措置は十分なものとはいえないというべきである。 (5) 労働組合等との交渉経過前記3(5)で述べたとおり,控訴人と乗員組合との間で,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について実質的な協議が十分されておらず,同勤務基準に同意する労働組合はなく,同勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないのであるから,労働者の同意の面から同勤務基準の内容を合理的なものと推認することはできない。 (6) 変更の合理性の総合判断そうすると,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航について,本件就業規程改定によって乗務時間及び勤務時間の制限を変更して延長したことは,運航乗務員にとって大幅な不利益変更であり,控訴人の経営改善の観点から,この変更の必要性はあったといえるが,高度の必要性は認められず,変更された内容自体も不相当とまではいえないも して延長したことは,運航乗務員にとって大幅な不利益変更であり,控訴人の経営改善の観点から,この変更の必要性はあったといえるが,高度の必要性は認められず,変更された内容自体も不相当とまではいえないものの,相当性についてやや疑問があり,その変更に伴う代替措置も十分なものとはいえず,変更について控訴人の管理職を含め運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないことを総合考慮すれば,上記乗務時間及び勤務時間の制限を変更した本件就業規程は,控訴人と被控訴人P1外11名を除く被控訴人らとの間において法的規範性を是認することができるだけの合理性を有すると認めることはできない。したがって,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らについては,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定の効力は及ばず,なお改定前の本件就業規程が定めていた乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定が適用されるものということになる。 以上によれば,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する,控訴人との間で,シングル編成による3名編成機で予定着陸回数が1回の場合,連続する24時間中,乗務時間9時間を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことの確認請求は,理由があるというべきである。 5 シングル編成で予定着陸回数が2回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限を変更した規定の合理性の有無(1) 変更の有無,内容及び程度ページ(32)ア(ア) 前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊47,54,55頁,原判決第1分冊別紙42頁の別表2)によれば,勤務協定(同じ内容が改定前の本件就業規程にも定められていた。)では,シングル 2)ア(ア) 前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊47,54,55頁,原判決第1分冊別紙42頁の別表2)によれば,勤務協定(同じ内容が改定前の本件就業規程にも定められていた。)では,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合,連続する24時間中乗務時間8時間30分,勤務時間13時間を超えて予定してはならないと定められていた。もっとも,前記3(1)アで述べたとおり,勤務協定では,シングル編成の定義として,2名編成機の規定はなく,昭和60年11月1日付けをもって改定前の本件就業規程のシングル編成の定義を改め,2名編成機をシングル編成に含ませた。 (イ) 前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊62頁,原判決第1分冊別紙43頁の別表7)によれば,改定後の本件就業規程においては,2名編成機と3名編成機との間に差異を設けることなく,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間は,出頭時刻に応じて8時間30分ないし9時間30分,勤務時間は,出頭時刻に応じて13時間ないし14時間を超えて予定してはならないと改定された。 イ以上によれば,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合,本件就業規程の改定により,従来の乗務時間制限8時間30分を最大9時間30分に,従来の勤務時間制限13時間を最大14時間に延長し,乗務時間及び勤務時間ともにその制限時間が最大で1時間延長されたことになった。 また,最大で1時間延長したことにより,従来は現地で1泊滞在し,2日に分けて乗務していた2回の離着陸を1日で実施することが可能となり,これは,運航乗務員にとってみれば,2日間で実施していた勤務を1日で実施することになるのであるから,従来と比較して1日の労働内容を加重したということができる。そして,証拠(当審証人P53の当審第7回証人調書20,21 にとってみれば,2日間で実施していた勤務を1日で実施することになるのであるから,従来と比較して1日の労働内容を加重したということができる。そして,証拠(当審証人P53の当審第7回証人調書20,21頁)によれば,控訴人が本件就業規程の改定によりシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間及び勤務時間の制限を最大で1時間延長した意図は,従来は現地で1泊滞在し,2日に分けて乗務していた2回の離着陸を1日で実施することを可能にするためにあったと認められる。したがって,本件就業規程の改定により,乗務時間及び勤務時間ともにその制限時間が最大で1時間延長されただけでなく,従前においては2日間で実施していた勤務を1日で実施することが可能になったのであるから,従来と比較して1日の労働内容を加重したシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限の変更は,運航乗務員にとってかなりの不利益変更というべきである。 ウ控訴人は,シングル編成で予定着陸回数が2回の乗務時間が勤務協定の下の基準を超える勤務としては,成田から香港,成田からマニラをそれぞれ1日で往復するものに代表されるが,その乗務時間は勤務協定の下の乗務時間制限8時間30分を5分から25分超える程度であって,本件就業規程の改定が行なわれる前の勤務協定の下にあっても,これに近い日帰り乗務パターンが存在していたので,香港線,マニラ線の日帰り往復を具体例として論じられている乗務時間8時間30分を超える勤務基準の変更が従前に比べて不利益性が極めて高いという指摘は全く当たらないと主張する。 しかし,本件就業規程の改定により可能となった具体的事例として,成田から香港,成田からマニラをそれぞれ日帰りで往復する乗務が勤務協定又は改定前の本件就業規程による乗務時間制限をわずかに越える場合であ しかし,本件就業規程の改定により可能となった具体的事例として,成田から香港,成田からマニラをそれぞれ日帰りで往復する乗務が勤務協定又は改定前の本件就業規程による乗務時間制限をわずかに越える場合であるとしても,控訴人は,なお本件就業規程の改定によって変更された乗務時間制限9時間30分に近い乗務パターンを運航乗務員に命じることが可能であるから,上記の具体的事例のように従来の乗務時間制限をわずかに越える場合があったとしても,本件就業規程の改定による不利益性を左右するものではないというべきである。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。 エ控訴人は,本件就業規程によって新たに発生した勤務自体の不利益性を判断するにあたっては,発生する可能性のある勤務形態を論じるのではなく,実際に発生し運航乗務員が勤務に就いた実績のあるものを検討すべきであると主張する。 しかし,前記3(1)エで述べたとおり,就業規則は,労使関係において法的規範性を有するもので,画一的,定型的に定められる性質のものであり,就業規則に定められた勤務基準が労働契約の内容になり,これにより使用者は就業規則に定められた勤務基準に従って労働者に対して具体的に勤務を命ずることができるのであるから,就業規則変更による不利益の有無,内容や程度は,就業規則が定める勤務基準によって実施可能な勤務内容を比較検討すべきである。 したがって,就業規則変更による不利益性を判断するにあたり実際に発生し運航乗務員が勤務に就いた実績を考慮すべきであるとする控訴人の前記主張は採用することができない。 (2) 変更の必要性の有無,内容及び程度前記3(2)のとおり,乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の変更について,その必要性は認められるものの,高度の必要性があったということはできない。 (3) 変更され 要性の有無,内容及び程度前記3(2)のとおり,乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の変更について,その必要性は認められるものの,高度の必要性があったということはできない。 (3) 変更された就業規則の内容自体の相当性ア改定された本件就業規程の定めるシングル編成による予定着陸回数が2回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限は,運輸省航空局技術部長の定めた乗務時間の基準内にあり,関係法令に適合していることは明らかである。 次に,上記制限の相当性について,1回着陸の場合と同様に,諸外国政府の定める基準や他の国内外の航空会社の基準と比較して検討する。 イ諸外国政府の基準との比較検討(ア) シングル編成による予定着陸回数が2回の場合の各国政府の定める基準は,次のとおりである。なお,予定着陸回数が2回の場合も,1回の場合と同様に,改定された本件就業規程の効力が問題となっているので,本件就業規程が改定された平成5年11月当時の基準をもって比較するのが相当であるが,当時の基準が不明なものについては,適宜それ以降の基準を含めて比較することにし,また,比較しやすくするため,細部の条件を捨象し,乗務時間制限や勤務時間制限の長短によって比較検討することとする。 ① 日本着陸回数1回と2回で区別なく,2名編成機も3名編成機も,乗務予定時間制限12時間以下で,勤務時間制限はない。(乙88,運輸省航空局技術部長通達)② 米国着陸回数1回と2回で区別なく,前記のとおり,乗務時間制限は2名編成機で8時間,3名編成機で12時間である。(甲734,乙159,168,185,186の2)③ 英国シングル1回着陸と同様に,基準は飛行前の休養状態,勤務の開始時刻,離着陸の回数及び航空機乗組員の編成,時差等に応じて制限値が定められているが,2名編成機に ,168,185,186の2)③ 英国シングル1回着陸と同様に,基準は飛行前の休養状態,勤務の開始時刻,離着陸の回数及び航空機乗組員の編成,時差等に応じて制限値が定められているが,2名編成機については,飛行時間が9時間を超え11時間以下の場合において,離着陸が2回のときは,時差順応した最大飛行勤務時間制限は12時間30分であり,時差順応していない最大飛行勤務時間制限は10時間45分である。また,3名編成機については,時差順応した最大飛行勤務時間制限は13時間15分であり,時差順応していない最大飛行勤務時間制限は12時間30分である。(甲753,乙168,185,190の2)④ カナダ着陸回数1回と2回で区別なく,前記のとおり,2名編成機も3名編成機も飛行勤務時間制限は14時間である。(甲1151,乙168,185,187の2)⑤ ドイツページ(33)着陸回数1回と2回で区別なく,前記のとおり,2名編成機も3名編成機も,無条件の飛行勤務時間制限は10時間で,最大飛行勤務時間制限は14時間である。(甲1151,乙159,168,185,191の2の(二))⑥ フランス着陸回数1回と2回で区別なく,前記のとおり,2名編成機も3名編成機も乗務(飛行)時間制限は10時間,飛行勤務時間制限は14時間である。(乙168,185,192の2)⑦ スイス着陸回数1回と2回で区別なく,前記のとおり,2名編成機も3名編成機も飛行勤務時間制限は14時間である。(甲1151,乙168,185,191の5の(二)⑧ オーストリア着陸回数1回と2回で区別なく,2名編成機の場合,最大飛行勤務時間制限は14時間であり,3名編成機の場合は不明である。(乙168)⑨ オランダ着陸回数1回と2回で区別なく,2名編成機も3名編成機も,最大飛行勤務時間制 別なく,2名編成機の場合,最大飛行勤務時間制限は14時間であり,3名編成機の場合は不明である。(乙168)⑨ オランダ着陸回数1回と2回で区別なく,2名編成機も3名編成機も,最大飛行勤務時間制限は14時間30分である。(甲1151,乙168)⑩ デンマーク着陸回数1回と2回で区別なく,2名編成機も3名編成機も,最大飛行勤務時間制限は13時間20分である。(乙168,185,191の4の(二))⑪ 香港2名編成機も3名編成機も,時差順応した最大飛行勤務時間制限は13時間15分で,時差順応していない最大飛行勤務時間制限は12時間15分であるが,2名編成機の1区間の乗務(飛行)時間は9時間(深夜は8時間)に制限される。(甲559,1151,乙168,185,188の2)⑫ オーストラリア着陸回数1回と2回で区別なく,2名編成機も3名編成機も,乗務(飛行)時間制限は8時間,飛行勤務時間制限は11時間である。(甲1151,乙168,185,189の2)(イ) 以上のとおり,着陸回数1回と2回で区別しないところが多く,また,2名編成機も3名編成機も,予定着陸回数が1回の場合のそれぞれの箇所で述べたことがここでも当てはまり,2名編成機では,控訴人の乗務時間制限は長い方であり,勤務時間制限は特に長い。また,3名編成機では,控訴人の乗務時間制限は特に長いとまではいえないが,勤務時間制限は最も長いといえる。 ウ他の航空会社との比較検討(ア) シングル編成による予定着陸回数が2回の場合の他の航空会社の基準は,次のとおりである。なお,予定着陸回数が1回の場合と同様に,本件就業規程が改定された平成5年11月当時の基準をもって比較するのが相当であるが,当時の基準が不明なものについては,適宜それ以降の基準も含めて比較することにし,また,比較しやすいよう の場合と同様に,本件就業規程が改定された平成5年11月当時の基準をもって比較するのが相当であるが,当時の基準が不明なものについては,適宜それ以降の基準も含めて比較することにし,また,比較しやすいように乗務時間及び勤務時間の制限の長短だけで比較検討することにする。 ① 米国のユナイテッド航空の基準は,2名編成機では乗務時間制限が8時間で,最大飛行勤務時間制限は13時間,3名編成機では乗務時間制限が12時間で,最大飛行勤務時間制限は13時間(ただし,本土とハワイ間は14時間)である。アメリカン航空の基準は,2名編成機では乗務時間制限が8時間で,飛行勤務時間制限は12時間30分,3名編成機では乗務時間制限が10時間で,飛行勤務時間制限は12時間30分である。ノースウエスト航空の基準は,2名編成機では乗務時間制限が8時間で,飛行勤務時間制限は13時間,3名編成機では飛行勤務時間制限は13時間である。デルタ航空の基準は,2名編成機では乗務時間制限が8時間で,飛行勤務時間制限は13時間,3名編成機では乗務時間制限が12時間で,飛行勤務時間制限は14時間である。(乙194,195の2,198の2,199の2,200の2)② カナダのエアカナダの基準は,2名編成機では出発と到着が基地と同一時差内であれば飛行勤務時間制限は14時間で,時差が4時間を超えるときは飛行勤務時間制限は12時間であり,現在は退役しているが,3名編成機では出発と到着が基地と同一時差内であれば飛行勤務時間制限は14時間である。また,カナディアン航空の基準は,2名編成機の飛行勤務時間制限は12時間であり,3名編成機は飛行勤務時間制限は14時間である。(乙194,195の2,202の2)③ 英国航空の基準は,2名編成機の国際線では乗務時間制限が9時間15分,1飛行区間は7時間以下であり,欧州域 り,3名編成機は飛行勤務時間制限は14時間である。(乙194,195の2,202の2)③ 英国航空の基準は,2名編成機の国際線では乗務時間制限が9時間15分,1飛行区間は7時間以下であり,欧州域内及び国内線では最大飛行勤務時間制限は12時間であり,3名編成機(国際線)では最大飛行勤務時間制限は12時間30分である。(乙194,195の2,206の2)④ ルフトハンザ航空の基準は,2名編成機と3名編成機で区別はなく,最大飛行勤務時間制限は13時間30分である。(甲687の2,乙104の2,195の2,209の2)⑤ エールフランスの基準は,2名編成機も3名編成機も,最大飛行勤務時間制限は14時間である。(乙195の2)⑥ スイス航空の基準は,2名編成機では最大飛行勤務時間制限が12時間15分で,3名編成機は現在では退役しているが,最大飛行勤務時間制限は14時間である。(乙194,195の2)。 ⑦ KLMオランダ航空の基準は,2名編成機では乗務時間制限が9時間で,修正飛行勤務時間制限は12時間であり,3名編成機では乗務時間制限が9時間で,修正飛行勤務時間制限は12時間30分である。(乙195の2)⑧ キャセイ航空の基準は,2名編成機も3名編成機も,最大飛行勤務時間制限は13時間15分である。(乙195の2,232の4)⑨ シンガポール航空の基準は,2名編成機では最大乗務時間制限が9時間で,最大飛行勤務時間制限は12時間30分であり,3名編成機では最大飛行勤務時間制限は13時間15分である。(乙195の2)⑩ カンタス航空の基準は,2名編成機で長距離の場合,乗務時間制限が8時間30分で,勤務時間制限が11時間であり,3名編成機で長距離の場合,乗務時間制限が8時間で,勤務時間制限が11時間である。(乙195の2,234の2)⑪ 全日空の基準は の場合,乗務時間制限が8時間30分で,勤務時間制限が11時間であり,3名編成機で長距離の場合,乗務時間制限が8時間で,勤務時間制限が11時間である。(乙195の2,234の2)⑪ 全日空の基準は,2名編成機も3名編成機も,乗務時間制限が8時間30分で,最大勤務時間制限が13時間である。(乙195の2)(イ) 以上によれば,改定された本件就業規程が定めるシングル編成による予定着陸回数が2回の場合の最大乗務時間制限9時間30分,最大勤務時間制限14時間は,全日空の最大乗務時間制限及び最大勤務時間制限よりいずれも1時間長い(なお,前記のとおり全日空は,運航乗務員の労働組合との間で労働協定を締結してこの基準が定められている。)。また,他の航空会社の勤務基準と比較して,2名編成機では,控訴人の乗務時間制限は長く,勤務時間制限も長い。3名編成機では,控訴人の乗務時間制限は長いとまではいえないが,勤務時間制限は長い。 なお,証拠(乙169の3,196の3)によれば,シングル編成による予定着陸回数が2回の場合について,他の航空会社において乗務時間制限が8時間30分を越える長距離運航の実績があると認められる。もっとも,本件では安全性の問題というよりも,労働条件の問題であるから,これをもって,上記の他の航空会社の基準との比較検討の判断に直ちに影響を与えるものではない。 エ科学的研究の成果ページ(34)科学的研究の成果は,前記3(3)オで述べたとおりである。 オ以上を総合すると,改定された本件就業規程が定めるシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の最大乗務時間9時間30分,最大勤務時間14時間の基準内容は,諸外国の政府の定める基準及び他の航空会社の勤務基準と比較して,2名編成機では,控訴人の乗務時間及び勤務時間の制限は長く,また,3名編成機では,控訴人の乗 時間30分,最大勤務時間14時間の基準内容は,諸外国の政府の定める基準及び他の航空会社の勤務基準と比較して,2名編成機では,控訴人の乗務時間及び勤務時間の制限は長く,また,3名編成機では,控訴人の乗務時間は長いとまではいえないが,勤務時間は長いこと,実証的科学的研究の結果からは,前記3(3)カの関係部分で述べたとおり,改定された本件就業規程が定めるシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の勤務基準が,直ちに安全性に欠けるとか相当性に欠けるということはできないが,何らの問題もないとされているものとはいえないことを考慮すると,当該勤務基準が不相当であると認めることができないものの,労働条件としての相当性には疑問が残るというべきである。 (4) 代替措置の有無及び内容前記3(4)で述べたとおり,休養時間につき,予定乗務時間が9時間を超えて10時間以内の場合は12時間の休養時間に6時間の休養時間が加算されることになるが,航空機の遅延等の事態により実際の到着時刻が相当遅延したときには,予定乗務時間が9時間を超える場合に長時間の乗務に見合った休養時間が必ずしも保障されるとは限らず,その遅延により休養時間が減少することになるので,本件就業規程改定による休養時間の制度がシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間制限を最大9時間30分にまで変更したことによる不利益を緩和する措置として十分であるとはいえない。また,本件就業規程改定による国際線基地帰着後の休日の制度が乗務時間制限を最大9時間30分にまで変更したことによる不利益を緩和する措置として十分であるとはいえない。さらに,長時間乗務に伴う手当等の財産的代替措置がされたとも認められない。したがって,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間及び勤務時間の制限の変更に伴う代替措置は十分なものとはいえない 。さらに,長時間乗務に伴う手当等の財産的代替措置がされたとも認められない。したがって,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合の乗務時間及び勤務時間の制限の変更に伴う代替措置は十分なものとはいえないというべきである。 (5) 労働組合等との交渉経過前記3(5)で述べたとおり,控訴人と乗員組合との間で,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について実質的な協議が十分されておらず,同勤務基準に同意する労働組合はなく,同勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないのであるから,労働者の同意の面から同勤務基準の内容を合理的なものと推認することはできない。 (6) 変更の合理性の総合的判断そうすると,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合の運航について,本件就業規程改定によって乗務時間制限及び勤務時間制限を変更して延長したことは,運航乗務員にとってかなりの不利益変更であり,控訴人の経営改善の観点からこの変更の必要性はあったといえるが,高度の必要性は認められず,変更された内容自体も不相当とまではいえないものの,相当性には疑問が残り,その変更に伴う代替措置も十分なものとはいえず,変更について控訴人の管理職を含め運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないことを総合考慮すれば,上記乗務時間及び勤務時間の制限を変更した本件就業規程は,控訴人と被控訴人P1外11名を除く被控訴人らとの間において法的規範性を是認することができるだけの合理性を有すると認めることはできない。したがって,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らについては,改定された本件就業規程が定めるシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定の効力は及ばず,なお改定前の本件就業規程が定めてい 人らについては,改定された本件就業規程が定めるシングル編成で予定着陸回数が2回の場合の運航についての乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定の効力は及ばず,なお改定前の本件就業規程が定めていた乗務時間及び勤務時間の制限に関する勤務基準の規定が適用されるものということになる。 以上によれば,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する,控訴人との間で,シングル編成で予定着陸回数が2回の場合,連続する24時間中,乗務時間8時間30分を超えて,又は勤務時間13時間を超えて予定された勤務に就く義務のないことの確認請求は,理由があるというべきである。 6 一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する勤務基準を変更した規定の合理性の有無(1) 不利益変更の有無,内容及び程度ア前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊64頁ないし66頁)によれば,一連続の乗務に係わる勤務完遂について,(ア) 勤務協定では,次のとおり定めていた(甲1の84頁)。 12.乗務時間及び勤務時間の延長(1) 乗務割の一連の乗務の実施中における乗務時間,勤務時間,又は着陸回数の延長及び中断は他の乗員と協議し,機長の決定による。 (2) 本協定「適用」第9項(1)及び(2)の乗務時間,勤務時間及び着陸回数の制限を超えた場合は,少なくとも12時間の休養をとらなければならない。 (イ) 改定前の本件就業規程では,次のとおり定めていた(甲3の26頁)。 (勤務時間及び乗務時間の延長)第12条乗務割の一連の乗務の実施中における乗務時間,勤務時間又は着陸回数の延長及び中断は,機長が他の乗務員と協議し決定する。 2.第10条の乗務時間,勤務時間および着陸回数の制限を超えた場合は,少なくとも12時間の休養を与える。 (ウ) 改定後の本件就業規程では,次のとおり定められている(甲4の25頁) 員と協議し決定する。 2.第10条の乗務時間,勤務時間および着陸回数の制限を超えた場合は,少なくとも12時間の休養を与える。 (ウ) 改定後の本件就業規程では,次のとおり定められている(甲4の25頁)。 (一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則)第12条乗務割上の一連続の乗務に係わる勤務は,開始後完遂することを原則とする。但し,他の乗員と協議し,運航状況,乗員の疲労度その他の状況を考慮して運航の安全に支障があると機長が判断した時は中断しなければならない。 2.第10条の乗務時間,勤務時間および着陸回数の制限を超えた場合は,次の12時間以上の休養を予定する地点で少なくとも15時間の休養を与える。 イ被控訴人らは,勤務協定及び改定前の本件就業規程によれば,乗務開始後何らかのイレギュラーが生じ,乗務時間を延長して乗務時間制限を超える乗務を行わなければ,予定された乗務が完了しない場合でも,乗務時間及び勤務時間の制限を遵守し,それ以上勤務を継続しないのが原則であり,機長は,当該運航乗務員の疲労を考慮し,勤務協定上の乗務時間及び勤務時間の制限を基に延長又は中断の判断を行い,延長の判断がされるのは例外的であったが,本件就業規程の改定によりこの原則と例外が逆転し,勤務完遂が原則となって中断が例外となり,改定後の本件就業規程の乗務時間及び勤務時間の制限にかかわらず,控訴人の実際の運用も,交替乗員の手配や休養の準備を行わず,当該乗務員の疲労度を確認することなく,目的地までの継続乗務を原則とした対応を行っており,機長の判断も,乗務時間制限等の遵守の方がむしろ例外的となったのであって,従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程が定めていた乗務時間及び勤務時間の延長に関する規定を不利益に変更したと主張する。 (ア) 前記第3の争いのない事実等(特に原判決第2分冊4頁ないし7頁)の って,従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程が定めていた乗務時間及び勤務時間の延長に関する規定を不利益に変更したと主張する。 (ア) 前記第3の争いのない事実等(特に原判決第2分冊4頁ないし7頁)のほか,証拠(各項の末尾に記載する。 )及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 a 昭和35年,控訴人と乗員組合が協定を締結し,勤務時間制限は,機長と運航管理者の協議・合意により延長が可能であるとし,また,昭和38年には,控訴人と乗員組合が協定を締結し,機長判断による,乗務時間,勤務時間制限を超えて乗務することができる限度(国内線20分,国際線4時間)を明文化した。(甲380)b 乗員組合から分裂した運航乗員組合は,控訴人との間で,昭和41年10月25日,協定(以下「41年協定」という。)を締結してその効力が生じたが,その協定では,乗務時間及び勤務時間の延長及び中断につき,次のように規ページ(35)定された。(乙2)10.乗務時間及び勤務時間の延長及び中断(1) 乗務割の一連の乗務の実施中における乗務時間,勤務時間又は着陸回数の延長及び中断は,他の乗員と協議し機長の決定による。 (2) 前記7―(1)―イ及びロの乗務時間,勤務時間及び着陸回数のの制限を超えた場合は少くとも12時間の休養をとらなければならない。 (3) 略c 41年協定については,控訴人と運航乗員組合双方で勤務協定委員会を組織し,協定締結までに至る委員会における討議の経緯を洗い出し,昭和42年3月20日,解説書を作成して関係者に配布したが,その解説書21,22頁では,前記乗務時間及び勤務時間の延長及び中断に関する規定につき,「従来の協定では,国内線・国際線別に延長の限度が定められていたが運用上弾力性に欠けていた面もあったので,今回の協定では,予定された乗務は運航の安全性に支障 勤務時間の延長及び中断に関する規定につき,「従来の協定では,国内線・国際線別に延長の限度が定められていたが運用上弾力性に欠けていた面もあったので,今回の協定では,予定された乗務は運航の安全性に支障なき限り完遂することを原則とした。この場合完遂の可否に際しては他乗員と協議の上機長の最終判断により決定される。他方,乗務時間,勤務時間の制限内でも安全上支障ありと機長が判断する場合は乗務の中止もあり得ることは勿論である。」と記載されている。(乙2)d その後,昭和48年7月31日,控訴人は,運航乗員組合及び乗員組合との間で,勤務協定を締結したが,その協定には,前記ア(ア)のとおり,乗務時間及び勤務時間の延長に関する条項が盛り込まれており,この条項の文言は,前記bの41年協定の乗務時間及び勤務時間の延長及び中断に関する条項とほぼ同じ文言であった。なお,この勤務協定を締結するにあたり,運航乗員組合は,「41年協定には乗務割完遂の原則等が盛り込まれ,「しりぬけ」協定といわれるように控訴人がいいように使い得る側面の多い協定になっていた」(乙401)という認識のもとに勤務条件の改善を求め(乙400),また,控訴人は,当時の運航規程において「乗務割完遂の原則」が規定されていたこともあり,運航乗員組合と乗員組合に対し,乗務割完遂の原則を明確にした条項を入れることを提案したが,運航乗員組合側は,「原則はTIMELIMITで表示すべきである。完遂の原則を乗務の勤務協定にうたうことは乗員の社会的責任にもとる。状況判断して飛行を継続出来るのだから運用上は充分である。」(甲757)と述べるなど,両組合がこれに反対し,結局は,41年協定と同様な文言の規定が盛り込まれた。このように勤務協定が締結された後の控訴人と乗員組合との間の団体交渉において,控訴人は,勤務協定の締結にあたり と述べるなど,両組合がこれに反対し,結局は,41年協定と同様な文言の規定が盛り込まれた。このように勤務協定が締結された後の控訴人と乗員組合との間の団体交渉において,控訴人は,勤務協定の締結にあたり,「一連の乗務割を完遂する」ということが主旨であり,確認しているはずであると主張したが,乗員組合は,これを否定し,乗務完遂の主旨は含まれておらず,確認もしていないと回答した(甲759,乙280)。なお,乗員組合と運航乗員組合は,勤務協定締結後の昭和48年11月22日に合併し,現在の乗員組合となった。(甲1,756ないし761,1059の32頁,1086の3,1094ないし1096,乙280,281,400,401,当審証人P64の当審第13回証人調書32頁ないし35頁)(イ) 前記アの事実によると,勤務協定及び改定前の本件就業規程が定めていた乗務時間及び勤務時間の延長に関する各規定と改定後の本件就業規程が規定する一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する規定とは,明らかに文言が異なり,また,控訴人の運航企画部が本件就業規程の改定に際し,各部門に配布した「運航乗務員就業規程対比表」(甲77の8頁)をみると,一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する規定について,その「備考欄」に「この項,大幅改訂。」と記載しており,その文言を変更したことは明らかである。 また,41年協定に勤務完遂の原則が盛り込まれていたか否かについては,その文言自体からは明らかでないが,控訴人と運航乗員組合双方で組織された勤務協定委員会が作成した41年解説書では勤務完遂の原則を規定した旨の記載があり,また,運航乗員組合の情宣紙(乙400,401)では,41年協定に乗務割完遂の原則が盛り込まれたことを前提とする記載があるので,これらの事情によれば,41年協定では文言自体からは明らかでない があり,また,運航乗員組合の情宣紙(乙400,401)では,41年協定に乗務割完遂の原則が盛り込まれたことを前提とする記載があるので,これらの事情によれば,41年協定では文言自体からは明らかでないが,乗務割完遂の原則の趣旨が含まれることを控訴人と運航乗員組合との間で確認されていたと認められる。しかし,昭和48年の勤務協定の締結の際には,乗員組合及び運航乗員組合は乗務割完遂の規定を盛り込むことに反対し,控訴人は,昭和41年協定の解説書を示すなどして,昭和41年協定に乗務割完遂の原則が盛り込まれていると説明したとの証拠はないこと等に照らし,昭和41年協定と同じような文言をもって昭和48年の勤務協定が規定されたとしても,これをもって,直ちに控訴人と乗員組合及び運航乗員組合との間で,乗務割完遂の原則が盛り込まれていることを確認したと認めることはできない。 もっとも,被控訴人らは,従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程によれば,乗務開始後何らかのイレギュラーが生じ,乗務時間を延長して乗務時間制限を超える乗務を行わなければ,予定された乗務が完了しない場合でも,乗務時間及び勤務時間の制限等を遵守してそれ以上勤務を継続しないのが原則であり,機長は,当該乗員の疲労を考慮し,勤務協定上の乗務時間及び勤務時間の制限に基づき延長又は中断の判断を行い,延長の判断がされるのは例外的であったと主張する。 しかし,従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程が定める乗務時間及び勤務時間の延長に関する各規定の文言をみても,乗務時間及び勤務時間の制限等を超えて勤務を継続しないのが原則であるとは定めておらず,乗務時間及び勤務時間等の延長及び中断は他の乗員と協議し,機長の決定によるとしており,乗務時間及び勤務時間の制限等を超えて勤務しないのが原則であったとはいえず,乗務時間及び勤務時間 とは定めておらず,乗務時間及び勤務時間等の延長及び中断は他の乗員と協議し,機長の決定によるとしており,乗務時間及び勤務時間の制限等を超えて勤務しないのが原則であったとはいえず,乗務時間及び勤務時間の制限等を超えた場合に当然に乗務や勤務が打ち切られるものではなく,その場合には乗務や勤務を延長するか中断するかは専ら機長の判断に委ねられ,機長が中断を決定しない以上乗務や勤務は継続することになっていたということができる。(なお,被控訴人らも,「乗員の乗務時間・勤務時間は着陸回数ごとに制限されているが,これはあくまで乗務割り作成の段階での制約であり勤務が開始された後はこれらの時間制限は機能することなく,後は機長の判断によることになる。」と主張しており(被控訴人らの原審最終準備書面150頁),乗務時間及び勤務時間の制限が勤務開始後の基準にならないことを認めている。)他方,改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定は,乗務時間及び勤務時間の制限等と切り離し,勤務を完遂することを明確にし,これを原則としており,その意味ではイレギュラーが発生して実際の運航が乗務時間及び勤務時間の制限等を超える事態になっても,予定された乗務を継続することになるが,改定された本件就業規程は,ただし書において,「他の乗員と協議し,運航状況,乗員の疲労度その他の状況を考慮して運航の安全に支障があると機長が判断した時は中断しなければならない」と規定し,乗務時間及び勤務時間の制限等と関係なく,運航の安全に支障があると機長が判断した時は中断を義務づけており,勤務完遂の原則が本文に規定され,ただし書に中断の定めがあることをもって,直ちに中断が例外であると解することにはならないというべきである。 このように勤務協定及び改定前の本件就業規程が定める乗務時間及び勤務時間 則が本文に規定され,ただし書に中断の定めがあることをもって,直ちに中断が例外であると解することにはならないというべきである。 このように勤務協定及び改定前の本件就業規程が定める乗務時間及び勤務時間の延長に関する各規定と改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則の規定とを対比すると,両規定は文言上変更されているものの,乗務が開始された後何らかのイレギュラーが発生して予定された乗務を継続するか中断するかの判断は,機長が他の乗務員と協議して決定するという実質的な趣旨は変更されていないと認められ,改定された本件就業規程の規定により運航乗務員にとって不利益に変更されたとまではいえない。 なお,前記「運航乗務員就業規程対比表」(甲77の8頁)の「備考欄」の「この項,大幅改訂。」の意味は,文言を大幅に改定して趣旨を明確にしたという意味に理解することができる。 この点について,被控訴人らは,本件就業規程が改定された以後,控訴人の実際の運用も,交替乗員の手配や休養の準備を行わず,当該乗務員の疲労度を確認することなく,目的地までの継続乗務を原則とした対応を行っているとして,それに沿う証拠(甲519,607等)を提出する。しかし,本件就業規程が改定される前の運用の状況は証拠上ページ(36)必ずしも明らかではないので,実際に本件就業規程の改定前後において控訴人の実際の運用に変更があったのか否か不明であるが,仮に,被控訴人らが主張するように,控訴人の実際の運用において変更があったとしても,勤務協定及び改定前の本件就業規程の下においても,控訴人がある時点で機長による継続か中断かの判断を支援するような運用をしないという変更をしていたならば同様な問題が生じたはずであり,これは本件就業規程改定の有無とは直接関連しない控訴人の具体的な安全配慮における運用 で機長による継続か中断かの判断を支援するような運用をしないという変更をしていたならば同様な問題が生じたはずであり,これは本件就業規程改定の有無とは直接関連しない控訴人の具体的な安全配慮における運用の問題であり,上記のとおり本件就業規程の改定前後において,規定の実質的な趣旨は変更されておらず,控訴人の実際の運用をもって,従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程が定めていた乗務時間及び勤務時間の延長に関する規定を不利益に変更したということはできない(勤務完遂の原則が明確になったからといって,実際の運用にあたり地上職員の機長等に対する運航の安全が確保されるための支援を行わなくてもよいということにならないのは当然である。)。 (ウ) したがって,本件就業規程の改定により不利益変更があったとする被控訴人らの主張はたやすく採用することができない。 ウ前記イのとおり,改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定は,従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程が定める乗務時間及び勤務時間の延長に関する各規定と対比して,文言上の変更はあるものの,不利益に変更したということはできない。 なお,念のため,勤務完遂に関する規定の文言を変更しているので,その必要性や変更された規定内容の相当性等についても,以下判断することとする。 (2) 変更の必要性の有無及び内容ア前記3(2)のとおり,本件就業規程改定による勤務基準の見直しは,控訴人の業績悪化を背景とした構造改革施策の実施の一環として,コスト削減による人件費効率向上という目的のために行われたものであるが,改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定は,直ちに費用削減の効果があるとはいえず,控訴人の経営状況の悪化を改善させるための施策として必要性があったとまではいえない。 改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定は,直ちに費用削減の効果があるとはいえず,控訴人の経営状況の悪化を改善させるための施策として必要性があったとまではいえない。 イしかし,前記(1)イで認定したとおり,昭和48年の勤務協定の締結にあたり,乗務割完遂の原則を盛り込むか否かで,控訴人と乗員組合及び運航乗員組合との間で対立し,結局,乗務割完遂の原則を明確に規定することはできず,その後も,控訴人と乗員組合との間で,昭和48年の勤務協定の中に乗務割完遂の原則が盛り込まれていることを相互に確認したと認めることはできない状況にあった上,証拠(乙280ないし282)によれば,その後も勤務完遂の考え方をめぐって控訴人と乗員組合との間で対立し,現場が混乱することもあったことが認められる。 以上の事実のほか,前記(1)のとおり改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定が従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程が定める乗務時間及び勤務時間の延長に関する各規定を実質的に不利益に変更したとまではいえず,後記(3)のとおり,運輸大臣の認可を受けた控訴人の運航規程では勤務完遂の原則が定められ,本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂の原則に関する規定内容も相当であることに照らせば,控訴人において,運航の現場における混乱を避けるため,勤務完遂の趣旨を明確にする必要性があったということができる。 したがって,費用削減による人件費効率向上という観点からすると,本件就業規程を改定して一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定を設ける必要性はなかったものの,控訴人の運航の現場における混乱を避けるために勤務完遂の趣旨を明確にする必要性があった。 (3) 一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定の内容自体の相当性ア前記 定を設ける必要性はなかったものの,控訴人の運航の現場における混乱を避けるために勤務完遂の趣旨を明確にする必要性があった。 (3) 一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定の内容自体の相当性ア前記第3の争いのない事実等(特に原判決第2分冊19頁ないし26頁)のほか,証拠(乙85の2,86の2)によると,次の事実が認められる。 (ア) 運輸大臣の認可を受けた控訴人の運航規程では,「乗務割の運用」の中の「4.乗務の中止」において,「運航乗務員は,その乗務割に従って乗務を完了する。ただし,不測の事態(IRREGULARITY)により(前記の)乗務割の基準をこえる場合,機長(PIC)が運航状況,運航乗務員の疲労度その他の状況を十分考慮して安全上支障があると判断したときには,その乗務を中止しなければならない。」と規定している。 (イ) 運航規程の下部規程である控訴人のOM(オペレーション・マニュアル)の「乗務割の運用」の中の「4.乗務の中止」において,「運航乗務員は,その乗務割に従って乗務を完了する。ただし,不測の事態(Irregularity)により(前記の)乗務割の基準を超える場合,PICが運航状況,運航乗務員の疲労度その他の状況を十分考慮して安全上支障があると判断したときには,その乗務を中止しなければならない。」と規定している。 イ外国政府や国内外の航空会社の基準(ア) 全日空a 全日空のOMの「乗務員の勤務および休養」に関する「③乗務割の運用」の「(1)乗務の中止」では次のように規定されている。(乙422)「運航乗務員は,予定された乗務割に従って乗務を完了するものとする。ただし,不測の事態により上記②に定める乗務割の基準を超える場合,機長が運航状況,運航乗務員の疲労度,その他の状況を十分考慮して,安全上支障があると判断した時は,その乗務を中止し 完了するものとする。ただし,不測の事態により上記②に定める乗務割の基準を超える場合,機長が運航状況,運航乗務員の疲労度,その他の状況を十分考慮して,安全上支障があると判断した時は,その乗務を中止しなければならない。」b 全日空と全日空乗員組合との労働協約(1995年8月1日付け「組合と会社との取り決め」(甲564))では,国内線の勤務(割)の基準の中の「(9) 乗務時間・勤務時間及び着陸回数の延長等」という項目では,「①予定された乗務は完遂するものとする。但し,イレギュラーが発生した後の勤務の継続,並びにエマージェンシーランディングを行った以降の乗務については,機長は運航状況,疲労度等を勘案の上,他の運航乗務員と協議し決定する。 尚,予定された勤務の継続については,着陸回数においては5回,乗務時間においては7時間,勤務時間においては12時間を判断要素として決定する。上記着陸回数については,テイクオフリターンも含むものとする。又,上記機長の決定について,会社はこれに言及しないものとする。」と規定している。(2002年8月1日付け「組合と会社との取り決め」(甲1106の2)の勤務(割)の基準の中の「(10) 乗務時間・勤務時間及び着陸回数の延長等」という項目でも同様の規定となっている。)また,国際線についての「勤務の延長」については,「予定された勤務は完遂するものとする。但し,イレギュラーが発生した後の勤務の継続・中断,並びにエマージェンシーランディングを行った以降の乗務については,機長は運航状況,疲労度等を勘案の上,他の運航乗務員と協議し決定する。なお,予定された勤務の継続については,第5項にいう勤務の予定の制限の表に着陸回数において1回を加えた回数,乗務時間においては2時間を加えた時間,勤務時間においては3時間を加えた時間を判断要素として決 お,予定された勤務の継続については,第5項にいう勤務の予定の制限の表に着陸回数において1回を加えた回数,乗務時間においては2時間を加えた時間,勤務時間においては3時間を加えた時間を判断要素として決定する。上記着陸回数については,テイクオフリターンも含むものとする。また,上記機長の決定について,会社はこれに言及しないものとする。」と規定している。(2002年8月1日付け「組合と会社との取り決め」(甲1106の2))(イ) 日本エアシステムa 日本エアシステムの運航業務実施規程では,次のとおり規定されている(乙421)。 (a) 「乗務割の運用」の冒頭に,「勤務は,運航乗務員が予定された勤務割(乗務割を含む)に従って勤務,または乗務に就き,完了することを原則とする。」と規定する。 (b) 「乗務割の運用」の中の「(4)乗務の中止」において,「勤務中,不測の事態が発生し,乗務時間,勤務時間および着陸回数が前記1.に規定する基準を超えることが予想される場合,PICは,運航状況,疲労度,その他を考慮して,安全上,支障があると判断した場合は,乗務を中止しなければならない。」と規定している。 ページ(37)b 日本エアシステムと日本エアシステム乗員組合との間の平成2年2月3日付け国際線勤務協定の「第4条勤務の基準」の「2.勤務の継続」では,次のとおり規定されている。(甲1106の3,乙420)「予定された勤務はこれを完遂するものとする。但し,乗務の実施中において前項(1)号に定める着陸回数(2回)・飛行時間(8.5時間)・勤務時間(13時間)を超え,又は超えると予測される場合は,機長は運航状況,疲労度などを勘案のうえ,予定された勤務の継続の可否を決定するものとする。なお,機長の決定に際しては,着陸回数3回,飛行時間9.5時間,勤務時間15時間を判断の要素と 測される場合は,機長は運航状況,疲労度などを勘案のうえ,予定された勤務の継続の可否を決定するものとする。なお,機長の決定に際しては,着陸回数3回,飛行時間9.5時間,勤務時間15時間を判断の要素とする。機長の決定に対し,会社は言及しないものとする。 」なお,日本エアシステムと日本エアシステム乗員組合との間の国内線に関する協定では,勤務完遂の規定は存在しない。(甲1106の3)(ウ) 英国航空の基準は,機長が安全な運航を保障できる場合,勤務時間制限を延長してもよいが,緊急の場合を除き,通常の勤務時間制限を超えて延長できるのは最大限3時間までとする。(乙104の3)(エ) 米国では,連邦航空規則により,イレギュラーが発生した場合でも,運航乗務員は16時間を超えて勤務することができないとされている。(甲1073の2)(オ) ユナイテッド航空では,1時間30分を限度としてパイロットの同意なしに延長を命ずることができ,パイロットが同意した場合でも合計勤務時間14時間30分を超えて延長することはできないことを原則としており,太平洋路線の3名編成機のシングル編成の場合,実勤務時間は14時間に制限されるが,最大13時間30分の勤務時間が予定されていた場合,条件付きではあるが最大実勤務時間15時間30分まで2時間の延長ができるとされている。(甲334)(カ) ノースウェスト航空では,協定により実際の勤務時間は,最大でも15時間までとされている。(甲691の1及び2)(キ) ルフトハンザ航空では,勤務協定ではすべて機長の判断に委ねられているが,ドイツの法的規制により延長は2時間までと定められているので,この制約を受ける。(甲340の1)(ク) カナダでは,イレギュラーが発生した場合,飛行勤務時間・飛行時間について,一定の条件の下,3時間を限度に延長を許し り延長は2時間までと定められているので,この制約を受ける。(甲340の1)(ク) カナダでは,イレギュラーが発生した場合,飛行勤務時間・飛行時間について,一定の条件の下,3時間を限度に延長を許している。(甲679の1,2)ウ外国政府や外国の航空会社において勤務完遂の原則を規定していると認めるに足りる証拠はないが,以上のとおり,全日空や日本エアシステムは,労働協約で勤務完遂の原則を定めている(ただし,日本エアシステムでは国内線にはない。)。そして,乗務時間や勤務時間を延長する場合,外国や国内外の航空会社では,乗務時間,勤務時間及び着陸回数の上限ないし上限の目安を定めているところがあるということができる。 エところで,被控訴人らは,改定された本件就業規程が「勤務完遂」を原則とする一方,勤務延長の上限も,機長が勤務中断を判断する基準も定めず,全く機長1人の主観的判断に委ねるばかりであって,他社規定との対比において,群を抜いて劣悪な勤務基準であると主張する。 改定された本件就業規程が乗務時間,勤務時間及び着陸回数等について延長の上限の定めや上限の目安を設定していないことは,前記(1)のとおりであり,また,国内の全日空や日本エアシステムは乗務時間,勤務時間及び着陸回数の上限の目安を設定し,また,外国政府や外国の航空会社では上限規制をしているところもある。 しかし,乗務時間,勤務時間及び着陸回数等について延長の上限を定めないことが航空法令や労働関係法令に違反するものではなく,その上限を設けるか否かは,労使間の交渉によって調整を図られるべき労働条件というべきであり,前記(1)イのとおり,昭和38年には控訴人と乗員組合は協定を締結し,乗務時間及び勤務時間の延長の上限を設けていたところ,乗員組合から分裂した運航乗員組合は,控訴人との間で41年協定を締結して あり,前記(1)イのとおり,昭和38年には控訴人と乗員組合は協定を締結し,乗務時間及び勤務時間の延長の上限を設けていたところ,乗員組合から分裂した運航乗員組合は,控訴人との間で41年協定を締結してその上限の定めを撤廃したのであり,昭和48年の勤務協定についても,乗員組合は,乗務時間及び勤務時間等の延長の上限を設けることなく,その締結に応じたものであって,従来の勤務協定にも上限の定めがなかったことを問題とせず,改定された本件就業規程に上限の定めがないことを批判するのは相当でない。そして,前記(1)イのとおり,乗務時間及び勤務時間等の制限は乗務割作成の段階での制約であって,この制限を超えて勤務を継続しないのが原則であったとはいえず,乗員組合が控訴人との間で,勤務を中断するか否かは機長の判断に委ねるという方法を選択して勤務協定を締結したのであるから,乗務時間及び勤務時間等の延長の上限を設けず,勤務を中止するか否かの判断を機長に委ねる規定は合理的なものと推定されるというべきである。したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 オ被控訴人らは,機長が勤務中断を判断する基準を定めず,全く機長1人の主観的判断に委ねるばかりで,その安全性に関する科学的,専門技術的見地からすれば,自らの疲労状態を正確に認識することは難しく,長時間運航乗務に従事して疲れ切った運航乗務員が,疲労についての正確な「自己評価」をすることは不可能であり,長時間の運航乗務による疲労が蓄積している状況のもとで,さらに航空会社相互の競争圧力,控訴人自身の生産性向上,効率向上の政策・圧力が加ったとき,例外としての乗務中断についての明確な基準,あるいは上限などの客観的な基準となる規制のないところでは,本件就業規程改定後の勤務完遂の原則の勤務基準が,乗務継続・勤務完遂へと流され,航空機 が加ったとき,例外としての乗務中断についての明確な基準,あるいは上限などの客観的な基準となる規制のないところでは,本件就業規程改定後の勤務完遂の原則の勤務基準が,乗務継続・勤務完遂へと流され,航空機の航行の安全を損なう危険のある規定として機能していくものになるとも主張する。 確かに,被控訴人らが引用する証拠(甲73,769,785の3)に照らせば,自らの疲労状態を正確に認識することは難しいということ自体否定することはできないし,また,機長が様々な状況において勤務を中断するか否かを判断することに相当のプレッシャーがあることも否定されるものではない(当審証人P53の当審第7回証人調書22頁)。しかし,前記のとおり勤務を中断するか否かを機長の判断に委ねると規定したのは,改定された本件就業規程が初めてではなく,従来の勤務協定も同様の定めをしており,これによれば,勤務協定を締結した控訴人や乗員組合は,乗務員の疲労を含め,様々な状況を考慮して勤務を中断するか否かを判断するに必要な能力,経験及び責任等を有する機長にその判断を委ねるのが合理的であると考えたものということができる。したがって,被控訴人らが引用する前記証拠をもって,勤務完遂に関する勤務基準を定める改定された本件就業規程が航空機の航行の安全を損なう危険のあるものということはできないというべきである。したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 カ以上によれば,改定された本件就業規程が勤務完遂の原則を定める一方,乗務時間,勤務時間及び着陸回数等について延長の上限を定めず,また,勤務中断の判断を機長に委ねている勤務基準の内容自体は相当なものというべきである。 (4) 代替措置等代替措置といえるか否かはともかくとして,前記(1)アのとおり,従来の勤務協定や改定前の本件就業規程では,乗務時 長に委ねている勤務基準の内容自体は相当なものというべきである。 (4) 代替措置等代替措置といえるか否かはともかくとして,前記(1)アのとおり,従来の勤務協定や改定前の本件就業規程では,乗務時間,勤務時間及び着陸回数の制限を超えた場合は,少なくとも12時間の休養をとらなければならないとされていたが,改定された本件就業規程では,乗務時間,勤務時間及び着陸回数の制限を超えた場合は,次の12時間以上の休養を予定する地点で少なくとも15時間の休養を与えるとしており,休養時間が延長されている。 (5) 労働組合等との交渉経過労働組合等との交渉経過については,前記3(5)のとおりであり,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていない。しかし,前記(1)のとおり,改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定は,従来の勤務協定が規定していた乗務時間及び勤務時間の延長に関する規定から実質的に変更されていないので,改定された本件就業規程が規定する勤務完遂の原則や勤務中断に関する規定につき,運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないとしても,その内容の合理性は否定されないというべきである。 ページ(38)(6) 変更の合理性の総合的判断そうすると,改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定は,従前の勤務協定及び改定前の本件就業規程が定める乗務時間及び勤務時間の延長に関する各規定と対比して,文言上の変更はあるものの,従前の勤務基準を不利益に変更したということはできない。そして,勤務完遂に関する規定が変更されたとしても,その変更について勤務完遂の趣旨を明確にする必要性は認められ,その規定の内容自体も相当ということができる上,乗 不利益に変更したということはできない。そして,勤務完遂に関する規定が変更されたとしても,その変更について勤務完遂の趣旨を明確にする必要性は認められ,その規定の内容自体も相当ということができる上,乗務時間,勤務時間及び着陸回数の制限を超えた場合の休養時間も3時間延長され,その規定の内容は,従来の勤務協定が規定していた乗務時間及び勤務時間の延長に関する規定から実質的に変更されていないから,改定された本件就業規程が定める一連続の乗務に係わる勤務完遂に関する規定につき,運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないとしても,その内容の合理性は否定されないことなどの事情を考慮すると,変更後の勤務完遂に関する規定は法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するというべきである。 したがって,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する,控訴人との間で,乗務割上の一連続の乗務に係わる勤務を開始後その終了前に,既に着陸回数に応じた乗務時間制限又は勤務時間制限を超える事態が発生しており,又は更に勤務を継続すればこれを超えることとなる事態が発生した場合において,機長が他の運航乗務員と協議し,運航の安全に支障がないと判断したときでない限り,その勤務を完遂しなければならないとの義務がないことの確認請求は,理由がないというべきである。 7 国内線の連続乗務日数に関する勤務基準を変更した規定の合理性の有無(1) 不利益変更の有無,内容及び程度ア前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊88頁ないし90頁)によれば,国内線の連続乗務日数について,(ア) 勤務協定では,次のとおり定めていた(甲1の86頁)。 Ⅱ 適用16.休日及び休養(3) 基地に於ける休養イ国内線(ジェット機)国内線の乗務は連続3日を限度とし,休日は次のとおりとする。 ) 勤務協定では,次のとおり定めていた(甲1の86頁)。 Ⅱ 適用16.休日及び休養(3) 基地に於ける休養イ国内線(ジェット機)国内線の乗務は連続3日を限度とし,休日は次のとおりとする。 (イ) 連続2日の乗務をおこなった後は,少なくとも1日の休日(ロ) 連続3日の乗務をおこなった後は,少なくとも2日の休日(イ) 改定前の本件就業規程は,次のとおり定めていた(甲3の27,28頁)。 (休日及び休養)第16条3.基地における休養(1) 国内線(ジェット機)国内線の乗務は連続3日を限度とし,休日は次のとおりとする。 a 連続2日の乗務を行った後は,少なくとも1日の休日b 連続3日の乗務を行った後は,少なくとも2日の休日(ウ) 改定後の本件就業規程は,次のとおり定めている(甲4の26頁)。 (乗務に関する日数制限)第15条国内線の乗務は連続5日を限度とする。 イ以上によれば,国内線の連続乗務日数について,従来3日を限度としていたものを5日まで連続乗務ができるようにしたものであり,月間の休日数(10日)や月間の所定就業時間数(175時間)に変更はないものの,控訴人は従前に比較してより長い日数の連続乗務を命ずることが可能になったのであって,この連続乗務の制限日数が3日から5日に延長されれば,連続乗務によって運航乗務員の心身に与える負荷は増大し,それに応じて疲労の程度は本件就業規程の改定前に比較して当然に重くなるというべきであるから,この変更自体が労働条件の大幅な不利益変更というべきである。 ウ控訴人は,一連続の乗務日数に一日当たりの最大予定着陸回数を乗じた回数の乗務を命ずるという運用をするわけではなく,定められた枠内で乗員の疲労や運航環境を考慮して適切な運用を行っており,改定後の本件就業規程の下で5日間の連続乗務において最大20回 定着陸回数を乗じた回数の乗務を命ずるという運用をするわけではなく,定められた枠内で乗員の疲労や運航環境を考慮して適切な運用を行っており,改定後の本件就業規程の下で5日間の連続乗務において最大20回の着陸を予定することは可能であっても,控訴人がその限度いっぱいの業務命令を行うことはないし,また,実際の5日ないし4日連続乗務パターンの頻度も多くはないのであって,不利益性の判断にあたっては,本件就業規程の改定に基づく実際の運用がどのように行われているかも考慮すべきであるところ,以上のような事情を考慮すれば,従来に比較して何らかの不利益性があるとしても,その不利益性はほとんど問題にならないと主張する。 しかし,前記3(1)エで述べたとおり,就業規則変更による不利益の有無,内容や程度は,就業規則が定める勤務基準によって実施可能な勤務内容を比較検討すべきであり,就業規則に定められた勤務基準に基づき具体的に運航乗務員にどのように乗務ないし勤務させるかは,使用者として,運航上の必要性のほか,労働者の安全や健康に配慮する観点からなされる控訴人における運用上の問題であって,実際に運航乗務員が勤務に就いた実績や控訴人が運航乗務員に対して行った配慮は,就業規則変更による不利益変更の有無や程度の判断に直接影響を及ぼさないものというべきである。したがって,就業規則変更による不利益性を判断するにあたり実際の運用を考慮すべきであるとする控訴人の前記主張は採用することができない。 エなお,被控訴人らは,国内線と国際線(韓国線又は国際線の国内区間を除く。)とで構成される内際混合パターンにより国内線の連続乗務が過酷なものになっているという趣旨の主張をするが,内際混合パターンの当否は別として,本件就業規程3条3項によれば,内際混合パターンについては国際線の規定が準用されることになる により国内線の連続乗務が過酷なものになっているという趣旨の主張をするが,内際混合パターンの当否は別として,本件就業規程3条3項によれば,内際混合パターンについては国際線の規定が準用されることになるので,少なくとも国内線の連続乗務日数に関する勤務基準の変更の合理性の有無に直接関連するとは認められず,この点に関する被控訴人らの主張は採用することができない。 (2) 変更の必要性の有無,内容及び程度ア前記3(2)のとおり,本件就業規程改定による勤務基準の見直しは,控訴人の業績悪化を背景とした構造改革施策の実施の一環として,費用削減による人件費効率向上という目的のために行われたものである。 イこの点について,控訴人は,本件就業規程の改定による国内線連続乗務日数制限の緩和は,地方発着路線が拡大され,乗務の前あるいは後にデッドヘッドが多くなっていたという状況下で,弾力的かつ効率的な運用を可能にすることを目的としたもので,マンニング削減効果を生むものであると主張する。もっとも,控訴人は,国内線の場合ほぼ毎月ダイヤが変更されるという実態もあって,削減効果の定量化は困難であるとも主張し,具体的なマンニング削減効果についてこれを認めるに足りる証拠はないので,マンニング削減効果の有無やその内容は不明といわざるを得ない。また,控訴人は,本件就業規程の改定による勤務基準の見直しにあたり,国内線の連続乗務日数制限の緩和による費用削減効果があるのか否か,あるとすれば,どの程度の効果があるのかを事前に具体的に検討したと認めるに足りる証拠もない。以上によれば,本件就業規程の改定による国内線の連続乗務日数制限を緩和することにより,控訴人において,デッドヘッドを少なくして運航乗務員を弾力的かつ効率的に運用をすることができるようになったという点では意味があり,その限りでは控訴人に る国内線の連続乗務日数制限を緩和することにより,控訴人において,デッドヘッドを少なくして運航乗務員を弾力的かつ効率的に運用をすることができるようになったという点では意味があり,その限りでは控訴人に必要性があったといえなくもないが,費用削減に直ちに結びつくとは認められず,また,緊急に本件就業規程を改定することによって国内線の連続乗務日数制限を緩和する必要性があったとはいえず,運航乗ページ(39)務員に不利益を与えてまで本件就業規程改定により国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準を変更する高度の必要性は認められないというべきである。したがって,控訴人の必要性に関する前記主張は採用することができない。 ウ控訴人は,国内線の連続乗務日数制限を緩和したのは,「集中勤務・集中レスト」という考え方を導入したものであり,運航乗務員の間にこの考え方を望む声があったと主張し,これに沿う証拠(甲380の16頁,乙114の13頁,287の13頁,原審証人P48の原審第25回証人調書83項ないし86項,当審証人P53の当審第7回証人調書26頁)が存在する。 しかし,甲第380号証の記載は,国内線の連続乗務日数制限の緩和を前提とした記載であるか否かは不明であること,原審証人P48の証言や同人の陳述書(乙114)の陳述の内容は抽象的である上,国内線の連続乗務日数制限の緩和を前提とした意見であるか否か不明であること,さらに,当審証人P53は,B767運航乗員部長から同乗員部の多くの乗員から3日連続の休日が欲しいという要望が出ているという説明があったと証言し,また,同様の陳述(乙287)をするが,国内線の連続乗務日数制限の緩和を前提とした要望であるか否か不明である上,控訴人において,それ以上に乗員に対し,連続乗務日数の制限を緩和しても連続休日の日数を増やすことを望むかどうか 287)をするが,国内線の連続乗務日数制限の緩和を前提とした要望であるか否か不明である上,控訴人において,それ以上に乗員に対し,連続乗務日数の制限を緩和しても連続休日の日数を増やすことを望むかどうかの調査を行い,その賛否の割合を把握したことを認めるに足りる証拠はなく,前記3(5)のとおり,本件就業規程の改定について,控訴人の管理職を含め運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないことを考慮すれば,仮に「集中勤務・集中レスト」という考え方に賛成する運航乗務員がいたとしても,国内線の連続乗務日数制限を緩和した上でその考え方に同意する運航乗務員が多数であるとまでは認められないというべきであって,以上の事情によれば,前記の証拠によっては,国内線の連続乗務日数制限を緩和することを前提にして「集中勤務・集中レスト」というの考え方の導入を望む声が運航乗務員にあったとまでは認められない。したがって,この点に関する控訴人の主張は採用することができない。 エそうすると,本件就業規程の改定により国内線の連続乗務日数制限を緩和する高度の必要性があったとはいうことはできない。 (3) 変更された勤務基準の内容自体の相当性ア平成5年11月当時,我が国において,国内線の連続乗務日数制限について特に国としての基準は定められていなかったし,現在も定められていない(弁論の全趣旨,なお,平成12年2月1日から運輸省航空局の運航規程審査要領細則(乙302の2)に「連続する7日間のうち1暦日(外国においては連続する24時間)以上の休養を与えること」という基準が定められた。)。 また,乙第85号証の2及び弁論の全趣旨によれば,運輸大臣の認可を受けた控訴人の運航規程では,連続する24時間中で乗務時間は8時間,勤務時間は13時間,着陸回数は6回を限度とし,これを超えて予定 。 また,乙第85号証の2及び弁論の全趣旨によれば,運輸大臣の認可を受けた控訴人の運航規程では,連続する24時間中で乗務時間は8時間,勤務時間は13時間,着陸回数は6回を限度とし,これを超えて予定してはならないこと,連続する7暦日のうち少なくとも1暦日(外国においては連続24時間)の休養を与える旨が定められていることが認められ,改定された本件就業規程の規定内容は,この運航規程の定めの範囲内にあるので,国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準を定める改定された本件就業規程は航空法令を遵守し,同勤務基準は,労働時間を含め,労働基準法に反するような定めはなく,関係法令を遵守しているといえる。 なお,被控訴人らは,NASAガイドライン(乙165の2)やバテル報告書(甲668の2)等の科学的研究の成果に基づいて,改定された本件就業規程が定める国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準自体の安全性ないし合理性を否定する旨の主張をするが,これら科学的研究の成果は,直接,国内線の連続乗務日数制限について提言や勧告をするものではないので,これによって,直ちに国内線の連続乗務日数制限に関する上記勤務基準自体の安全性ないし合理性が否定されることにはならない。 イ本件確認訴訟は,前記2のとおり,本来労使間の交渉によって調整が図られるべき労働条件をめぐる紛争であって,労働条件は,さまざまな要素を考慮し,労使が交渉の上で決すべき事項であり,本件の紛争もそのような事案であるから,改定された本件就業規程が定める国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準の内容の相当性の判断は,国内線に関する労働条件であることに照らし,労使の協議によって定められていると認められる国内の他の航空会社である全日空や日本エアシステムの勤務基準(甲1106の2及び3)と比較検討してその相当性を判断するのが 関する労働条件であることに照らし,労使の協議によって定められていると認められる国内の他の航空会社である全日空や日本エアシステムの勤務基準(甲1106の2及び3)と比較検討してその相当性を判断するのが相当である。 なお,控訴人は,外国政府の定める基準や外国の航空会社の勤務基準との比較検討を主張するが,前記3ないし5で検討した乗務時間及び勤務時間制限に関する勤務基準は国際線に関するものであったので,主に外国政府の定める基準や外国の航空会社の勤務基準との比較検討を行ったが,ここで問題となっているのは国内線に関する労働条件であり,我が国と諸外国とでは国土の広さや地理的条件等が異なるので,同じ国内線といっても前提条件が異なるものを比較するのは相当でないこと,また,控訴人は,欧州域内の短距離運航(ショートホール)の基準も含めて検討しようとするが,それは,控訴人の勤務基準では近距離国際線に該当するものであるから,国際線の基準が適用されること(本件就業規程3条3項,甲4)などの事情に照らすと,外国政府の定める基準や外国の航空会社の勤務基準と比較検討することは必ずしも相当とはいえない。したがって,ここでは,前記のとおり全日空や日本エアシステムの勤務基準と比較検討をすることにする。 ウ全日空や日本エアシステムの基準との比較(ア) 全日空は,全日空乗員組合との間で,労働協約を締結し,同協約によれば,国内線勤務の「2.勤務(割)の基準(乗務及び地上勤務)」として,「(2)乗務にかかわる勤務(スタンバイを含む)は連続4日を超えて予定してはならない。」「(3)乗務以外の勤務は連続6日を超えて予定しないこととし,極力連続5日以内で予定する。」「(4)乗務と乗務以外の勤務の日が連続する場合,前(3)項に準ずる。この場合,乗務は連続5日および6日目に予定してはならない。」「 連続6日を超えて予定しないこととし,極力連続5日以内で予定する。」「(4)乗務と乗務以外の勤務の日が連続する場合,前(3)項に準ずる。この場合,乗務は連続5日および6日目に予定してはならない。」「(6)乗務に係わる勤務(スタンバイを含む)において連続8時間を超える勤務は連続して3日を超えて予定してはならない。」と定めている。(甲564,1106の2)(イ) 日本エアシステムは,日本エアシステム乗員組合との間で,勤務に関する協定を締結し,同協定によれば,「第4条勤務の基準」の「4.乗務」において「乗務の場合の勤務は,スタンバイ・便乗を含み連続4日を超えて予定しないものとする。但し,イレギュラー時等の特に事情がある場合は連続5日目の便乗となる場合がある。乗務の場合の勤務において8時間を超える勤務を連続して3日を超えて予定しない。」と定め,また,「5.乗務以外の勤務」において「乗務以外の勤務は,極力連続5日以内で予定する。なお,5日目には乗務を予定しない。」と定められている。(甲1106の3)(ウ) 以上によれば,全日空や日本エアシステムでは,乗務に係わる勤務はスタンバイを含め連続4日を超えて予定しないとされており,連続5日乗務を認めない点で,控訴人の改定された本件就業規程が定める勤務基準が1日長いことになる。また,改定された本件就業規程では,スタンバイの連続日数は「4暦日を限度とする」(19条1項3号)とするのみで,スタンバイや乗務以外の勤務を含めて連続乗務日数を規制しておらず,また,乗務の場合の勤務において8時間を超える勤務を連続して3日を超えて予定しないという規制もない。これらの点からすれば,控訴人の改定された本件就業規程が定める国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準の内容は,労働条件として全日空や日本エアシステムの基準に比較してやや緩や しないという規制もない。これらの点からすれば,控訴人の改定された本件就業規程が定める国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準の内容は,労働条件として全日空や日本エアシステムの基準に比較してやや緩やかな内容になっている。もっとも,全日空や日本エアシステムでは,本件就業規程には存在する連続休日を付与する旨の規定はない(甲564,1106の2及び3)ものの,休日日数の関係で連続休日をとることができる内容になっており,連続休日を付与する旨の規定がないことは前記判断を直ちに左右するものではない。 エ控訴人は,国内外の他の航空会社の運航実績(乙196の4,389,390)をみると,他社では控訴人の勤務ページ(40)基準を上回る運航実績があると主張するが,外国の運航実績は前記イで述べたとおり,前提事実が異なるので比較検討するのは相当でなく,また,国内各社の例は4日連続乗務のパターンのものである上,そもそも本件では安全性の問題というよりも,労働条件の問題であるから,運航実績をもって,前記ウの基準比較の判断に影響を与えるものではない。 また,控訴人は,本件就業規程を改定する前に運航乗員部長会で検討にあたった当審証人P53が,本件就業規程の改定に関する運航乗員部長会における検討内容として,4日目までの連続乗務については全日空や日本エアシステムで実施されていることから問題はないこと,5日目の連続乗務についても,国内線では時差もなく,深夜フライトもないから,特段安全上の問題等の不都合は起こらない,という判断になった旨を証言していると主張し,当審証人P53は,そのとおり証言している(当審第7回証人調書25頁以下)ものの,これによれば,安全上の問題はないとしても,労働条件の基準として相当であるとまでは認められないので,控訴人の上記主張は失当である。 オ以上によれば, 言している(当審第7回証人調書25頁以下)ものの,これによれば,安全上の問題はないとしても,労働条件の基準として相当であるとまでは認められないので,控訴人の上記主張は失当である。 オ以上によれば,改定された本件就業規程が定める国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準の内容は,労働条件としてその内容が相当であるというにはやや疑問があるというべきである。 (4) 代替措置の有無ア前記(1)のとおり,勤務協定及び改定前の本件就業規程によれば,国内線の乗務は連続3日を限度とし,休日は,連続2日の乗務を行った後は少なくとも1日の休日が,連続3日の乗務を行った後は少なくとも2日の休日が与えられていた。これに対し,改定された本件就業規程では,連続乗務日数4日の場合は,連続日数3日の場合と同様,2連続の休日を,連続乗務日数5日の場合は,3連続の休日が与えられることになった(甲4の本件就業規程第17条2.(1))。 イ控訴人は,従来の勤務協定を超える国内線の連続乗務日数5日の制限を定めるにあたり,連続乗務日数4日の場合は3日の場合と同様,2連続の休日を付与し,連続乗務日数5日の場合,集中勤務・集中レストを希望する現場の声を採り入れて3連続の休日を付与するという代償措置を定めたと主張する。 全日空や日本エアシステムでは,このような連続休日を付与する旨の規定がないことは前述のとおりである(甲564,1106の2及び3)。また,従前の勤務協定や改定前の本件就業規程では,国際線で基地を離れた日数が3ないし5日のときに付与される連続休日日数は2日であった(甲3)が,改定された本件就業規程では,基地を離れた日数が3ないし4日のときに付与される連続休日日数を2日,基地を離れた日数が5日のときに付与される連続休日日数を3日とし,これに合わせて前記のとおり国内線における連続乗 本件就業規程では,基地を離れた日数が3ないし4日のときに付与される連続休日日数を2日,基地を離れた日数が5日のときに付与される連続休日日数を3日とし,これに合わせて前記のとおり国内線における連続乗務日数に応じた連続休日日数も定められたということができる。その意味では,国際線において基地を離れた日数が5日のときに付与される連続休日日数は1日増えたといえる。しかし,勤務協定及び改定前の本件就業規程の下では国内線における連続乗務日数が4日ないし5日は制限されて存在せず,したがって,連続休日の定めもなかったのであって,国際線と国内線とでは勤務の内容が異なることに照らすと,両者を同様に論ずることは直ちにできないことを合わせて考慮すると,改定された本件就業規程によって定められた4日ないし5日の連続乗務についての連続休日の定めが果たして不利益変更の代替措置といえるかについてはなお疑問がある。また,控訴人は,集中勤務・集中レストを希望する現場の声を採り入れたと主張するが,前記(2)のとおり,国内線の連続乗務日数制限を緩和することを前提にして「集中勤務・集中レスト」という考え方の導入を望む声が運航乗務員にあったとまでは認められないし,月間の休日は何ら増えず,10日に変更はなく,ただ連続する休日が増えることのみが運航乗務員にとって利益であるといえるかについてはなお検討を要するというべきである。そして,代替措置の有無の問題は,規定された勤務基準の内容の相当性の問題ではなく,従来の勤務基準を不利益に変更したことに対する代替措置の問題であるから,他社の基準が直ちに代替措置の判断に影響を及ぼすものではない。したがって,控訴人の代替措置に関する前記主張は採用することができない。 ウ以上によると,連続乗務による連続休日の付与が代替措置ということはできず,他に国内線の連続乗務日 に影響を及ぼすものではない。したがって,控訴人の代替措置に関する前記主張は採用することができない。 ウ以上によると,連続乗務による連続休日の付与が代替措置ということはできず,他に国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準の変更に伴う代替措置の存在を認めるに足りる証拠はないので,代替措置はないということになる。 (5) 労働組合等との交渉経過前記3(5)で述べたとおり,控訴人と乗員組合との間で,国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準を含め,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について実質的な協議が十分されておらず,同勤務基準に同意する労働組合はなく,同勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないのであるから,労働者の同意の面から同勤務基準の内容を合理的なものと推認することはできない。 (6) 変更の合理性の総合的判断そうすると,国内線の連続乗務日数制限について,本件就業規程改定によって3日から5日に延長したことは,運航乗務員にとって大幅な不利益変更であり,この変更に高度の必要性は認められず,変更された内容自体の相当性にもやや疑問がある上,その変更に伴う代替措置もなく,変更について控訴人の管理職を含め運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないことを総合考慮すれば,上記国内線の連続乗務日数制限を変更した本件就業規程は,控訴人と被控訴人P1外11名を除く被控訴人らとの間において法的規範性を是認することができるだけの合理性を有すると認めることはできない。したがって,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らについては,改定された本件就業規程が定める国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準の規定の効力は及ばず,なお改定前の本件就業規程が定めていた「国内線の乗務は連続3日を限度」とするという勤務基準 人らについては,改定された本件就業規程が定める国内線の連続乗務日数制限に関する勤務基準の規定の効力は及ばず,なお改定前の本件就業規程が定めていた「国内線の乗務は連続3日を限度」とするという勤務基準の規定が適用されるものということになる。 以上によれば,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する,控訴人との間で,国内線の乗務は連続3日を超えて乗務に就く義務のないことの確認請求は,理由があるというべきである。 8 宿泊を伴う休養における最低休養時間の保障に関する勤務基準の変更(1) 不利益変更の有無,内容及び程度ア前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊66頁ないし74頁)によれば,休養について,(ア) 勤務協定では,次のとおり定めていた(甲1の78,86頁)。 Ⅰ 定義 5 宿泊地宿泊地とはあらかじめ乗員交替地として定められた場所をいう。 Ⅱ 適用16.休日及び休養(2) 宿泊地に於ける休養宿泊地に於ける休養は,少なくとも12時間とする。但し,イ本協定「適用」第9項に示す連続する24時間中の乗務及び勤務時間の制限を超えない場合は,宿泊地に於て12時間の休養をとらず飛行することができる。 ロマルティプル編成の場合,運航乗員が運航状況,疲労度等について判断し,機長が充分これを配慮して8時間とすることができる。 (イ) 改定前の本件就業規程では,次のとおり定めていた(甲3の21,22及び27頁)。 第2条この規程において用いる主な用語の定義は,次のとおりとする。 (16) 「宿泊地」とは,あらかじめ乗務員交替地として定められた場所をいう。 第16条2.宿泊地における休養ページ(41)宿泊地における休養は,少なくとも12時間とする。ただし,(1) 第10条の連続する24時間中の乗務および勤務時間の制限を超えない場合は,宿泊 う。 第16条2.宿泊地における休養ページ(41)宿泊地における休養は,少なくとも12時間とする。ただし,(1) 第10条の連続する24時間中の乗務および勤務時間の制限を超えない場合は,宿泊地において12時間の休養をとらずに飛行することができる。 (2) マルティプル編成又はダブル編成の場合,運航乗務員が運航状況,疲労度等について判断し,機長が充分これを配慮して8時間とすることがある。 (ウ) 改定後の本件就業規程では,次のとおり定めている(甲4の26,27頁)。 改定後の本件就業規程では,宿泊地という概念がなくなり,代わりに「一連続の乗務に係わる勤務」という概念が規定され,それを前提として,休養について以下のような規定がある。 (休養)第16条一連続の乗務に係わる勤務の前には連続12時間の休養を予定する。 また,休養に先立ち予定する乗務が以下に該当する時は,12時間の休養時間にそれぞれの時間を加算した休養時間を予定する。 (1) 予定乗務時間が9時間を超え10時間以内の場合は6時間(2) 予定乗務時間が10時間を超え11時間以内の場合は9時間(3) 予定乗務時間が11時間を超える場合は12時間(4) 予定乗務が出発地の時間で22:00~05:00に当たる場合はその時間2.前項の定めにかかわらず,航空機の遅延等やむを得ない事態が発生し前項で予定した休養時間が次の一連続の乗務に係わる勤務の前に確保出来ない場合は,少なくとも10時間の休養を与える。 なお,休養時間が前項で定める予定した時間の10/12に満たなかった場合には,第17条に定める休日に加えて1日の休日を基地帰着後に与える。ただし,この休日は第17条第2項第(2)号cによる休日に包含される。 3.第1項ないし第2項の定めにかかわらず,休養の前後の乗務時間および勤務時間の合計が,第 に加えて1日の休日を基地帰着後に与える。ただし,この休日は第17条第2項第(2)号cによる休日に包含される。 3.第1項ないし第2項の定めにかかわらず,休養の前後の乗務時間および勤務時間の合計が,第10条に定める制限時間内であれば,10時間の休養をとらず乗務を継続させることができる。 イ前記アの事実によれば,改定後の本件就業規程では,宿泊地という概念がなくなり,代わりに「一連続の乗務に係わる勤務」という概念が規定されたが,これは,従来から勤務規定上の「宿泊地での休養」について控訴人と乗員組合との間で解釈上の議論があった上,一連続の乗務の前と後ろに12時間の休養を設定したため,特に「宿泊地での休養」という規定を設ける必要がなくなったことによるものである(乙114の16頁ないし21頁,乙118,原審証人P48の原審第25回証人調書105項ないし118項)。 ウ証拠(各事実の末尾に記載する。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 控訴人においては,昭和57年2月9日,羽田沖事故が発生し,これを受けて,運輸大臣は,同年3月9日,控訴人に対し,「安全運航確保のための業務改善について」と題する文書(甲17)で勧告し,この勧告の中で,「乗務スケジュールの中に,宿泊地における休養時間が十分とはいえない事例が見受けられる。従つて乗務割の基準中に,宿泊地における休養時間に関する規定を定め,その確実な実施を図る必要がある。」という所見を述べた。同年4月9日の参議院特別委員会において,控訴人の羽田沖事故が取り上げられ,当時の控訴人代表取締役及び専務取締役が参考人として出席したが,その際,同委員会に運輸大臣の前記勧告に対する「安全運航確保のための業務改善策について」と題する報告書(甲643)を提出した。この文書には,「運航乗務員の国内線宿泊地における休 考人として出席したが,その際,同委員会に運輸大臣の前記勧告に対する「安全運航確保のための業務改善策について」と題する報告書(甲643)を提出した。この文書には,「運航乗務員の国内線宿泊地における休養時間につきましては,ご指摘の趣旨をふまえできる限り早急に労使間協定の改訂を行い規定化し,確実な実施をはかってまいる所存であります。なお,当面は国内線宿泊地における休養時間が不足することのないようスケジュールの作成及び運用に充分配慮いたします。」と記載されており(甲9の10頁),当時の控訴人専務取締役は,同委員会において,「本日以後は組合との協定が成り立つまでの間,ホテルにおける時間が10時間を割らないように配分をするということで実行してまいります。」と述べた。(甲9,17,643)(イ) 控訴人は,同年4月10日,乗員組合に対し,国内線について,あらかじめ乗員交替地として定められた場所であるか否かを問わずに,勤務終了後に原則として12時間の休養を与える旨の提案をし,協定締結を求めたが,協定締結には至らなかった。しかし,控訴人は,前記(ア)のような経緯を踏まえて,国内線における宿泊を伴う休養に限り,原則としてホテルにおける時間が10時間を割ることがないように乗務割を作成する運用をしていたが,国際線については,旧勤務協定に基づき乗務割を作成し,休養時間が12時間に満たない事例が存在した。(甲378,乙114の20及び21頁,乙118,乙141の1及び2,原審証人P48の原審第26回証人調書323項ないし334項,弁論の全趣旨)エ前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊61,62頁)によれば,改定された本件就業規程10条1項は,一連続の乗務に係わる勤務とは,連続する12時間以上の休養を予定する地点における,乗務のための所定の場所への出頭から,次の連 原判決第2分冊61,62頁)によれば,改定された本件就業規程10条1項は,一連続の乗務に係わる勤務とは,連続する12時間以上の休養を予定する地点における,乗務のための所定の場所への出頭から,次の連続する12時間以上の休養を予定する地点における業務終了までとされており,これに前記アの事実を合わせ考えれば,改定された本件就業規程16条1項では,原則として連続12時間の休養を予定するものとしているので(条件によって休養時間の加算が規定されている。),同条2項のイレギュラーの場合を除き,一連続の乗務に係わる勤務と次の一連続の乗務に係わる勤務との間では,原則として12時間以上の休養が予定されることになる。ただ,同条3項では,休養の前後の乗務時間及び勤務時間の合計が一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間の制限時間内という短いものであれば,同条1項及び2項にかかわらず,10時間の休養をとらずに乗務を継続させることができるとしており,この休養で宿泊が予定されている場合には,宿泊を伴う休養に関して最低休養時間の保障はないことになる。 そして,被控訴人らは,本件確認請求が,改定された本件就業規程16条の規定する一連続の乗務に係わる勤務と次の一連続の乗務に係わる勤務との間に予定された宿泊を伴う休養に関する休養時間を保障せよとの請求ではなく,一連続の乗務に係わる勤務が継続する間に宿泊を伴う休養が予定される場合の休養時間に関する保障の請求であると主張するところ,前記のとおり一連続の乗務に係わる勤務は12時間以上の休養によって区切られると定義されているので,本訴における被控訴人らの12時間以上の休養保障の確認請求が,一連続の乗務に係わる勤務が継続する間における宿泊を伴う休養が予定される場合の休養時間についての確認請求ということになれば,12時間以上の休養が入 おける被控訴人らの12時間以上の休養保障の確認請求が,一連続の乗務に係わる勤務が継続する間における宿泊を伴う休養が予定される場合の休養時間についての確認請求ということになれば,12時間以上の休養が入ることによって一連続の乗務に係わる勤務が2つの一連続の乗務に係わる勤務に分断され,一連続の乗務に係わる勤務という概念と矛盾することになり,本件確認請求の趣旨が不明となるが,なお不利益変更の有無を以下検討することにする。 オ勤務協定及び改定前の本件就業規程において,「宿泊地」とは,あらかじめ乗員交替地として定められた場所をいうと定義された上,「宿泊地」における休養は,少なくとも12時間とするとされていたものの,「宿泊地」でない滞在場所での宿泊については特に規定がなかったので,「宿泊地」以外の場所での休養について,勤務協定及び改定前の本件就業規程には最低休養時間を保障する定めは存在しなかった。 この点について,被控訴人らは,あらかじめ乗員交替地として定められた場所か否かにかかわらず,宿泊を伴う休養地は宿泊地であり,12時間の休養時間が確保されるべきであると主張するが,勤務協定及び改定前の本件就業規程上は,前記のとおり明確に「宿泊地」が定義されており,あらかじめ乗員交替地として定められた場所に該当しない場所での休養については,勤務協定及び改定前の本件就業規程が定めていた「宿泊地」における休養に関する規定は適用されなかったというべきであるから,被控訴人らの前記は主張は失当である。 また,被控訴人らは,羽田沖事故及びこれを端緒とする運輸大臣の勧告を受けた後,控訴人は,国内線においてはそれが勤務協定の定める「宿泊地」(乗員交替予定地)であるか否かを問わずに,勤務終了後に原則として12時間の休ページ(42)養を与えることにしたので,勤務協定の解釈をめぐる労使間の 国内線においてはそれが勤務協定の定める「宿泊地」(乗員交替予定地)であるか否かを問わずに,勤務終了後に原則として12時間の休ページ(42)養を与えることにしたので,勤務協定の解釈をめぐる労使間の見解は一致したとも主張する。しかし,前記ウのとおり,控訴人は,国内線における宿泊を伴う休養に限り,原則としてホテルにおける時間が10時間を割ることがないように乗務割を作成する運用をしていたものの,この点について乗員組合との間で協定は締結されず,また,控訴人が「宿泊地」の定義を変更したとは認められない上,12時間の休養を与える運用をしていたものでもないので,被控訴人らの前記主張も失当である。 カ被控訴人らは,勤務協定のⅡ-16(2)において,「宿泊地における休養は,少なくとも12時間とする」と規定し,ただし書「イ」は,「…連続する24時間中の乗務及び勤務時間の制限を超えない場合は,宿泊地において12時間の休養をとらず飛行することができる」と規定していたところ,このただし書の規定は,スケジュールを組む段階での例外規定ではなく,スケジュールを組む段階では12時間の休養を予定すべきであるが,実際の運航においてイレギュラーが発生する等して,予定した12時間以上の休養時間が確保できなくなったときにおける対応を規定したものであるから,勤務協定のⅡ-16(2)本文は,「宿泊地」における休養について最低休養時間12時間を保障していたと主張する。しかし,勤務協定のⅡ-16(2)イのただし書では,イレギュラーについては何ら触れられていないので,改定後の本件就業規程16条2項の規定とは異なる趣旨の規定であり,むしろ,24時間中の乗務及び勤務時間の制限を超えない場合は,宿泊地において12時間の休養をとらず飛行することができると規定しており,これは,前記エで述べた改定後の本件就 とは異なる趣旨の規定であり,むしろ,24時間中の乗務及び勤務時間の制限を超えない場合は,宿泊地において12時間の休養をとらず飛行することができると規定しており,これは,前記エで述べた改定後の本件就業規程16条3項の規定と同趣旨の規定であるというべきであって,勤務協定のⅡ-16(2)の本文とただし書を合わせ読めば,「宿泊地における休養」について24時間中の乗務時間及び勤務時間の制限を超えない場合にも例外なく最低休養12時間を保障していたということはできない。 この点について,被控訴人らは,P48作成の陳述書(乙114)の18頁の(ニ)の説明をもって,上記主張が裏付けられると主張する。しかし,その説明部分は,「航空機の遅延等やむをえない事態が発生した場合で,予定した休養を与えることができないときでも,休養の前後の乗務時間および勤務時間の合計が一連続の乗務に係わる時間制限内であれば,これをもって一連続の勤務とみなすことができるわけです。」と述べ,その後で,「もっとも,これは特に新しい取扱いを定めたというものではなく,旧協定下において,連続する24時間の制限を超えない場合には12時間の休養をとらずに飛行することが出来るとされたものと同趣旨であります。」と述べており,これは,改定後の本件就業規程16条3項が,同条1項及び2項(2項がイレギュラーの場合の規定)の定めにかかわらず,乗務時間及び勤務時間の合計が一連続の乗務に係わる時間制限内であれば,10時間の休養をとらず,乗務を継続させることができると規定していることの説明であり,イレギュラーの場合に関する改定後の本件就業規程16条2項の説明をしているのではない。 したがって,旧勤務協定が「宿泊地」における休養について前記の例外なく最低休養時間として12時間を保障していたとする被控訴人らの主張は採用すること 件就業規程16条2項の説明をしているのではない。 したがって,旧勤務協定が「宿泊地」における休養について前記の例外なく最低休養時間として12時間を保障していたとする被控訴人らの主張は採用することができない。 キ以上によれば,勤務協定及び改定前の本件就業規程においても,前記の例外なく最低休養時間を保障する旨の規定は存在しなかったということができ,本件就業規程の改定により不利益な変更をしたということはできない。 ク被控訴人らは,仮に,従来の勤務協定上の「少なくとも12時間」を保証する「宿泊地における休養」の規定が,乗員交替地での宿泊の場合に限る趣旨であったとしても,また「乗務時間及び勤務時間の制限を超えない場合」を除外する趣旨であったとしても,昭和57年2月の羽田沖事故以来,あらかじめ乗員交替地として定められた場所であるか否かにかかわらず,「乗務時間及び勤務時間の制限を超え」るか否かにかかわらず「宿泊を伴う休養は少なくとも12時間とする」との労使慣行(規範)が存在してきたと主張する。 しかし,前記ウで認定したとおり,控訴人は,羽田沖事故による運輸大臣の業務改善に関する勧告を受け,運航乗務員の国内線宿泊地における休養時間につき,指摘された趣旨をふまえできる限り早急に労使間協定の改訂を行って規定化し,確実な実施をはかる所存であり,当面は国内線宿泊地における休養時間が不足することのないようスケジュールの作成及び運用に充分配慮する旨の改善策を記載した文書を提出した上,参議院特別委員会において,当時の控訴人専務取締役が「本日以後は組合との協定が成り立つまでの間,ホテルにおける時間が十時間を割らないように配分をするということで実行してまいります。」と述べた。その後,控訴人は,乗員組合に対し,国内線について,あらかじめ乗員交替地として定められた場所であるか否 ホテルにおける時間が十時間を割らないように配分をするということで実行してまいります。」と述べた。その後,控訴人は,乗員組合に対し,国内線について,あらかじめ乗員交替地として定められた場所であるか否かを問わずに,勤務終了後に原則として12時間の休養を与える旨の提案をし,協定締結を求めたところ,協定締結には至らなかったが,控訴人は,上記経緯を踏まえて,国内線における宿泊を伴う休養に限り,原則としてホテルにおける時間が10時間を割ることがないように乗務割を作成する運用をしていた。国際線については,旧勤務協定に基づき乗務割を作成し,休養時間が12時間に満たない事例が存在した。 以上によれば,たとえ,控訴人が国内線における宿泊を伴う休養につき,ホテルにおける時間が10時間を割ることがないように乗務割を作成する運用をしていたとしても,これは,乗員組合との間で協定が成立しなかったので,運輸大臣の勧告に対して改善策を提出したことや国会での答弁を踏まえ,自主的な判断で運用をしていたものであって,運航乗務員との間で,双方が規範意識をもってこれを運用していたとはいえず,そのような労使慣行が形成されていたとまでは認められない。なお,控訴人が前記のような乗務割を作成する運用をするにあたり,控訴人が内規を定めていたとしても,これは,運航乗員部の内部における乗務割作成の基準で,被控訴人ら運航乗務員には示されていなかったものであるから(弁論の全趣旨),この内規をもって労使間の規範ということはできない。 また,旧勤務協定の下で国際線について休養時間が12時間に満たない事例が多く存在したとまでは認められないが,存在したことは事実であり,旧勤務協定においては,宿泊地の休養は原則として少なくとも12時間とするとしていたところ,弁論の全趣旨によれば,国際線において宿泊地でない場所で宿泊 とまでは認められないが,存在したことは事実であり,旧勤務協定においては,宿泊地の休養は原則として少なくとも12時間とするとしていたところ,弁論の全趣旨によれば,国際線において宿泊地でない場所で宿泊をするという乗務パターンが少なかった上,宿泊地以外の場所でもできるだけ控訴人において12時間以上の休養がとれるように配慮していた結果,休養時間が12時間を満たす事例が多くなっていたものと推認されるのであって,国際線について休養時間が12時間に満たない事例が存在したことは,宿泊を伴う休養は少なくとも12時間とするとの労使慣行(規範)がなかったことをうかがわせる。そして,羽田沖事故以後,控訴人がホテルにおける時間が10時間を割ることがないように乗務割を作成する運用をしていたのは国内線であったことに照らせば,国際線について,羽田沖事故以後,宿泊を伴う休養は少なくとも12時間とするとの労使慣行(規範)が存在していたということはできない。 なお,被控訴人らは,国内線と国際線を区分する合理性がないと主張するが,前記の運用はあくまで国内線に関するものであるから,被控訴人らの主張は失当である。 したがって,労使慣行に基づく被控訴人らの予備的主張も採用することができない。 ケそうすると,本件就業規程改定前において,勤務協定及び改定前の本件就業規程には,あらかじめ乗員交替地として定められた場所であるか否かを問わず,宿泊を伴う場合に勤務終了後に前記の例外なく12時間の最低休養時間が与えられることが定められたことはなく,また,そのような労使慣行(規範)があったということもできないので,本件就業規程の改定により不利益に勤務基準を変更したということはできない。 (2) 被控訴人らの主張に対する判断被控訴人らは,改定された本件就業規程において,宿泊を伴う休養について最低休養時間 で,本件就業規程の改定により不利益に勤務基準を変更したということはできない。 (2) 被控訴人らの主張に対する判断被控訴人らは,改定された本件就業規程において,宿泊を伴う休養について最低休養時間を保障する規定を設けていないことにつき,本件就業規程の定める勤務基準自体の不合理性を問題とするので,以下検討する。 ア前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊19頁ないし26頁)によれば,運輸大臣の認可を受けた控訴人の運航規程(乙85の2)では,「乗務割の基準」として,「休養時間」につき,「乗務のための勤務終了後,基地以外の休養地で少なくとも連続12時間の休養を与える。ただし,直前の休養以降の総乗務時間及び直後の休養までの総乗務時間のいずれもが8時間以下の場合は連続10時間とすることができる。」とし,また,「乗務割の運用」として,ページ(43)「休養」では,「(1)運航乗務員は,乗務を中止した場合には適当な休養をとらなければならない。(2)運航乗務員は,勤務時間又は乗務時間若しくは着陸回数の基準を超えて乗務した場合には,少なくとも12時間の休養をとらなければならない。(3)不測の事態(IRREGULARITY)により,前記の乗務割の基準に定めた休養時間を確保できない場合は,連続10時間とすることができる。ただし,休養時間の短縮は連続して適用してはならない。」と規定されている。そして,改定された本件就業規程16条1項と2項は,上記運航規程の内容に適合し,また,本件就業規程16条3項は,最低の休養時間の定めをしていないものの,当該休養の前後の乗務時間及び勤務時間の合計が一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間の制限内にあるという短い乗務時間及び勤務時間の間にある休養に限って,例外的に10時間の休養をとらずに乗務の継続を認めるものであって,そ 間の合計が一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間の制限内にあるという短い乗務時間及び勤務時間の間にある休養に限って,例外的に10時間の休養をとらずに乗務の継続を認めるものであって,その条項は,上記運航規程の趣旨に反するとまではいえず,後記イのとおり我が国には休養時間の最低保障の基準はなく,また,控訴人と乗員組合との間の従来の勤務協定では,前記(1)のとおり最低休養時間が保障されていたわけではなかったことに照らすと,直ちに本件就業規程16条の定め自体が不合理で,その効力を否定すべきであるということはできない。 イ各国政府及び他の国内外の航空会社の基準(ア) 各国政府の定める基準① 本件就業規程が改定された当時,我が国においては,最低休養時間を保障する国の具体的な基準はなく,また,現在でも,「止むを得ない事由により乗務時間が制限時間を超えた場合には,勤務終了後,乗務時間を勘案した適切な休養を与えること。」との定めがあるのみである。(甲1151,乙88,302の1ないし3,弁論の全趣旨)② 英国の基準につき,「次の乗務前に確保する休養時間は,先の勤務時間か,12時間のどちらか長い方」とされ,「12時間の休養を予定し,かつ,適当な休養施設が準備されていた場合は,休養時間を11時間とすることができる。」とされている(甲753,1151)。もっとも,機長の判断により,一定の条件の下,休養時間を10時間まで短縮することが許容されている(甲753,乙347の16頁)。 ③ ドイツの基準では,連続する24時間における最低休養時間は10時間とされ,休養時間を削減する際の最低休養時間も10時間と規定されている。(甲1149の2,1151,乙432の3の2)④ 米国の基準では,国内線については,一定の条件の下に休養時間を短縮する場合の最低休養時間を8時 を削減する際の最低休養時間も10時間と規定されている。(甲1149の2,1151,乙432の3の2)④ 米国の基準では,国内線については,一定の条件の下に休養時間を短縮する場合の最低休養時間を8時間(場合によっては9時間)と規定している(甲734,1151,乙432の1の2)。なお,国際線については定めはない。 (甲1151,弁論の全趣旨)⑤ 香港の基準では,時差6時間未満の場合,「次の乗務前に確保する休養時間は,先の勤務時間か,12時間のどちらか長い方」とされ,「12時間の休養を予定し,かつ適当な休養施設が準備されていた場合は,休養期間を11時間とすることができる。」とされている。また,時差6時間以上で,勤務開始後72時間以内の場合,「休養時間は,先の勤務時間か,個々の乗員の基地の時刻で22時ないし8時の間に最低8時間の十分な睡眠を確保する時間,又は14時間のうち,もっとも長い時間」とされている。もっとも,休養施設で10時間の休養が確保される限り,機長は他の乗員と状況を勘案し,休養を短縮してもよい。この判断は例外的なもので,引き続く休養を短縮してはならない。」とされている。(甲559,1151)⑥ オーストラリアの基準では,勤務又はリザーブの前に,少なくとも,現地時刻の午後10時から午前6時を含む連続する9時間,又は連続する10時間の休養を与えることになっている。(甲1148,1151)⑦ スイスの基準では,休養の前後の勤務のうち長い方の勤務を基礎に休養時間を決めるとし,勤務時間が12時間までは最低休養時間8時間,勤務時間が12ないし14時間は最低休養時間10時間,勤務時間が14時間以上は最低休養時間12時間とされている。(甲1149の5,1151)(イ) 国内外の航空会社の基準① 全日空では,「運航宿泊地」における「インターバル」(休養 休養時間10時間,勤務時間が14時間以上は最低休養時間12時間とされている。(甲1149の5,1151)(イ) 国内外の航空会社の基準① 全日空では,「運航宿泊地」における「インターバル」(休養,休日に相当する。)という概念で規定され,国際線勤務における運航宿泊地のインターバル(休養)時間は,① 日本出発前の国際線勤務開始までのインターバルは,国際線の乗務を含む勤務を行う場合は,15時間以上を予定し,最低14時間とし,また,② 海外の運航宿泊地(あらかじめ乗員交替地として定められた場所)及び日本帰着後の運航宿泊の場合,「運航宿泊地までの1回の勤務における乗務時間の2倍又は14時間のいずれか多い方をインターバルとして予定する」と規定しており,イレギュラーの場合を含め,これを下回ることを許容する規定は存在しない(甲1106の2,B-4-B-5「9」「10」「11」)。また,国内線については,運航宿泊地におけるインターバルは,14時間以上を予定し,最低12時間とするとされている(甲1106の2,B-4-A-4「13②」)。 ② 日本エアシステムでは,国際線勤務における運航宿泊の場合,「運航宿泊地における休養時間は,12時間以上とする。」と規定され,これを下回ることを許容する規定は存在しない(甲1106の3,勤務14頁「第4条6(1)」)。また,国内線勤務における運航宿泊の場合,格別の休養時間に関する規定はなく,所属基地での宿泊か,所属基地以外での宿泊(運航宿泊)かの区別なく,「勤務終了後の休養時間は,最低10時間,オリジナルスケジュールにおいては,12時間以上を予定する。」との規定があり,これを下回ることを許容する規定は存在しない(甲1106の3,勤務3頁「第4条8(1)」)。 ③ 英国航空では,休養時間は,12時間を下回らないこととされ,ただ,PI 以上を予定する。」との規定があり,これを下回ることを許容する規定は存在しない(甲1106の3,勤務3頁「第4条8(1)」)。 ③ 英国航空では,休養時間は,12時間を下回らないこととされ,ただ,PICは,やむを得ない場合は,休養時間を短縮することができるが,休養施設で最低10時間を確保することが必要である。(乙104の3)④ ルフトハンザ航空では「基地外での休養時間は,長距離運航の後で機長判断により10時間まで削減できる」とされている。(乙308の2,348)⑤ KLMオランダ航空では,不測の事態の場合は,オランダの航空局のルールが適用され,休養は機長判断により短縮され,それは,休養に先立つ実際の飛行勤務時間,次の便の現地時間での出頭時刻や次の便の飛行勤務時間と関連づけられるところ,短縮された休養は,7時間30分を下回ることはできないとされている。(乙306の2)。 (ウ) 以上によれば,各国の基準では,最低休養時間を定める国もあれば,定めない国もあり,最低休養時間を定める国でも12時間が保障されているわけではない。また,国内の全日空や日本エアシステムでは,最低休養時間が勤務協定で定められているが,控訴人と乗員組合との間の勤務協定では,元々前記(1)のとおり例外のない最低休養時間が保障されていなかった。さらに,外国の航空会社で最低休養時間を定めるところもあるが,必ずしも12時間の休養が保障されているわけではない。以上の事情によれば,控訴人の改定後の本件就業規程のように,休養時間を原則として12時間以上とし,やむを得ない事態が発生しその休養時間が確保できない場合でも少なくとも10時間の休養を与えるものとしながら,休養の前後の乗務時間及び勤務時間の合計が,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間の制限時間内であれば,10時間の休養をとらず い場合でも少なくとも10時間の休養を与えるものとしながら,休養の前後の乗務時間及び勤務時間の合計が,一連続の乗務に係わる勤務における乗務時間及び勤務時間の制限時間内であれば,10時間の休養をとらず乗務を継続させることができるとして,12時間の休養時間を保障していないこと(この場合,休養時間が比較的短時間となるが,前記(1)ア(ア)によれば,旧勤務協定のⅡ-16(2)但し書イには同様な規定があり,乗員組合も協定の条項としてこのような勤務が生ずることに同意していたということができ,また,当該休養の前後の乗務時間及び勤務時間が比較的短く制限されることに照らせば,このような休養に関する規定が合理性を欠くとはいえない。),あるいは必ずしも休養時間を最低保障していないこと自体が直ちに労働条件として不合理であるということはできない。 ウ被控訴人らは,羽田沖事故における運輸大臣の業務改善の勧告やこれに対する控訴人の運輸大臣や国会に対する約束及び運用,あるいはNASAガイドライン,ローズカインドの宣誓供述書等の科学的,専門技術的見地によれば,最低8時間の睡眠の機会を確保することが必要であり,そのために余裕時間を含めて,最低でも(イレギュラーが発生し休養時間が確保しにくい状況でも)10時間,予定休養時間としては最低12時間が必要となるのであって,このことページ(44)は,乗員交替予定地であるか否か,国内線の勤務か国際線の勤務か,一連続の乗務に係わる勤務の継続中か否か,これらの事情にかかわらず妥当するのであって,最低休養時間を保障する規定を欠く改定された本件就業規程の不合理性は明らかであると主張する。 前記(1)ウで認定したとおり,羽田沖事故後,運輸大臣が控訴人のスケジュールの中には,宿泊地における休養時間が十分とはいえない事例が見受けられるので,乗務割の基準中 理性は明らかであると主張する。 前記(1)ウで認定したとおり,羽田沖事故後,運輸大臣が控訴人のスケジュールの中には,宿泊地における休養時間が十分とはいえない事例が見受けられるので,乗務割の基準中に,宿泊地における休養時間に関する規定を定め,その確実な実施を図る必要があると業務改善の勧告をしたのに対し,控訴人は,運航乗務員の国内線宿泊地における休養時間について,労使間協定の改定を行い,確実な実施を図っていくが,当面は国内線宿泊地における休養時間が不足することがないようにスケジュールの作成及び運用に充分配慮すると回答し,また,参議院特別委員会で,組合との協定が成立するまでの間,ホテルにおける時間が10時間を割らないように配分すると回答していることに照らすと,控訴人は,乗員組合との間で勤務協定を改定するか,あるいは本件就業規程を改定するかして,早期に国内線については最低10時間の休養時間を保障するような措置が必要であったといえるが,運輸大臣は,勧告で最低休養時間として12時間を求めておらず,控訴人も最低12時間の休養時間の保障を約束していたわけではないこと,前記(1)エで述べたとおり,改定された本件就業規程16条1項では,原則として連続12時間の休養を予定するものとし,同条2項では,イレギュラーの場合は原則として10時間の休養を与えるものとし,ただ,同条3項で例外的に10時間の休養をとらないで乗務を継続させることができる場合を規定した結果,最低休養時間を必ずしも保障しないというものになっていること,その他前記イの外国政府の定める基準や国内外の航空会社の休養に関する勤務基準の状況,旧勤務基準が最低休養時間を保障していなかったこと等の事情に照らせば,改定された本件就業規程16条の規定自体が不合理で,その効力がないということはできない。 また,NASA に関する勤務基準の状況,旧勤務基準が最低休養時間を保障していなかったこと等の事情に照らせば,改定された本件就業規程16条の規定自体が不合理で,その効力がないということはできない。 また,NASAガイドラインやローズカインドの宣誓供述書等の科学的研究の成果については,これを考慮すべきであるが,労働条件である勤務基準が科学的研究の成果のみによって決定されるものでないことは前記3(3)イで述べたとおりである(なお,NASAガイドライン(乙165の2の11頁)では,休養時間は,最小で24時間中の連続した10時間とすべきであるとするが,この休養時間には,「休養を取る宿舎との行き帰りの移動」が含まれている上(控訴人においては,空港と休養施設間の移動のための地上輸送時間(往復で合計1時間)とされる。),「2.4. 1 休養時間の短縮(例外規定)」では,「運航上の柔軟性を確保するために,航空会社が制御できない環境に起因する場合,必要により休養時間を9時間まで短縮することが認められる。」としている。)。そして,前記イで検討したとおり各国政府の定める基準や外国の航空会社の休養に関する勤務基準の状況に照らせば,科学的研究による勧告や提言が広く採用されているわけではないので,改定された本件就業規程16条が予定休養時間として最低12時間を保障していないからといってその規定自体が不合理で,その効力がないということはできない。 したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 エ以上によると,改定された本件就業規程の定める休養に関する勤務基準自体が不合理であるということはできない。 (3) 変更の合理性の総合的判断そうすると,改定された本件就業規程によって宿泊を伴う休養における最低休養時間の保障についての勤務基準が不利益に変更されたということはできず,また,改 できない。 (3) 変更の合理性の総合的判断そうすると,改定された本件就業規程によって宿泊を伴う休養における最低休養時間の保障についての勤務基準が不利益に変更されたということはできず,また,改定された本件就業規程が定める休養に関する勤務基準自体が不合理であるということもできないから,その勤務基準に関する規定は,法的規範性を是認することができるだけの合理性を有し,その勤務基準に関する規定の効力は被控訴人P1外11名を除く被控訴人らに及ぶというべきである。仮に,改定された本件就業規程の効力が否定されたとしても,勤務協定又は改定前の本件就業規程は,被控訴人らに対し,宿泊を伴う休養の場合に少なくとも12時間の休養時間を保障していたとも認められず,被控訴人らが12時間の最低休養時間の確認を求める根拠は存在しない。 したがって,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する,控訴人との間で,あらかじめ乗員交替地として定められた場所であるか否かにかかわらず,宿泊を伴う休養は,少なくとも12時間を有することの確認請求は,理由がないというべきである。 9 国際線の待機(スタンバイ)の指定便制度に関する勤務基準を変更した規定の合理性の有無(1) 不利益変更の有無,内容及び程度ア前記第3の争いのない事実等(原判決第2分冊90頁ないし98頁)によれば,スタンバイについて,(ア) 勤務協定では,次のとおり定めていた(甲1の90頁)。 21.STANDBY(1) 国際線イ STANDBYは,指定された便についておこなうものとする。 ロ STANDBYは,連続24時間中は12時間を限度とし,STANDBYすべき最初の便の出発予定時刻の4時間前より始まり,最後の便の出発時刻の4時間後に終了する。 ハ STANDBY終了後12時間の休養を得なければ次の乗 24時間中は12時間を限度とし,STANDBYすべき最初の便の出発予定時刻の4時間前より始まり,最後の便の出発時刻の4時間後に終了する。 ハ STANDBY終了後12時間の休養を得なければ次の乗務についてはならない。 (2) 国内線イ自宅STANDBY(イ) 自宅STANDBYは18時間を限度とする。 (ロ) 自宅STANDBY終了後6時間の休養を得なければ,次の乗務についてはならない。 ロ出社STANDBY(イ) 出社STANDBYは指定休養施設に出頭すべき時刻に始まり,12時間を限度とする。但し,出社STANDBY開始後8時間以内に乗務すべき便を指定しなければならない。 (ロ) 出社STANDBYで乗務を伴わない場合は,出社STANDBY終了後12時間の休養を得なければ次の乗務についてはならない。 (ハ) STANDBY中に連絡を受けた時は,STANDBYすべき便に遅延が生じた場合においても乗務するものとする。 (イ) 改定前の本件就業規程では,次のとおり定めていた(甲3の29,30頁)。 第21条 1.国際線(1) STANDBYは,指定された便について行うものとする。 (2) STANDBYは,連続24時間中は12時間を限度とし,STANDBYすべき最初の便の出発予定時刻の4時間前より始まり,最後の便の出発時刻の4時間後に終了する。 ただし,4時間後の時間が24時(日本標準時)を超える場合は24時に終了するものとする。 (3) STANDBY終了後12時間の休養を得なければ,次の乗務につけない。 2.国内線(1) 自宅STANDBYa 自宅STANDBYは18時間を限度とする。 b 自宅STANDBY終了後6時間の休養を得なければ,次の乗務につけない。 (2) 出社STANDBYa 出社STAND 自宅STANDBYa 自宅STANDBYは18時間を限度とする。 b 自宅STANDBY終了後6時間の休養を得なければ,次の乗務につけない。 (2) 出社STANDBYa 出社STANDBYは指定休養施設に出頭すべき時刻に始まり,12時間を限度とする。ただし,出社STANページ(45)DBY開始後8時間以内に乗務すべき便を指定する。 b 出社STANDBYで乗務を伴わない場合は,出社STANDBY終了後12時間の休養を得なければ次の勤務につけない。 cSTANDBY中に連絡を受けたときは,STANDBYすべき便に遅延が生じた場合においても乗務するものとする。 (ウ) 改定後の本件就業規程では,次のとおり定めている(甲4の29頁)。 (STANDBY)第19条自宅STANDBYは連続8時間を限度とし,指定された時刻に始まり指定された時刻に終了する。 なお,第16条に定める一連続の乗務に係わる勤務の前の連続12時間の休養に包含することができる。 また,連続して予定する場合は4暦日を限度とする。 2 出社STANDBY指定休養施設におけるSTANDBYをいい,連続8時間を限度とし,指定された時刻に所定の場所に出頭することにより始まり指定された時刻に終了する。 なお,起用にあっては,第16条に定める一連続の乗務に係わる勤務の前の連続12時間の休養をとらずに勤務に就かせることができる。また,起用されなかった場合は,終了後12時間の休養を得た後でなければ次の勤務に就かせることはできない。 3 起用対象STANDBY開始時刻以降,当該日の24時までに開始する勤務とする。 なお,当該日の勤務を指定された時点で当該日のSTANDBYは終了する。 イ前記アの事実のほか,証拠(各事実の末尾に記載する。)及び弁論の全趣旨に 刻以降,当該日の24時までに開始する勤務とする。 なお,当該日の勤務を指定された時点で当該日のSTANDBYは終了する。 イ前記アの事実のほか,証拠(各事実の末尾に記載する。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 勤務協定では,国際線については,最大限12時間のスタンバイ拘束時間であったが,スタンバイ中の運航乗務員からの起用は指定された便について行うこととされており,また,スタンバイすべき最初の便の出発予定時刻の4時間前から始まることとされていたので,待機する運航乗務員にとってどの便に乗務することになるのか予測可能性があり,これに備えて準備することが容易であった。国内線については自宅スタンバイ拘束時間が最大限18時間であり,起用対象は限定されていなかった。これは,勤務協定が締結された当時,控訴人は,国内線としては羽田,千歳,大阪(伊丹),福岡,沖縄を結ぶ幹線のみの運航で,国内線スタンバイから起用されてもこれらの路線以外の乗務に起用されることはなかったので,便を指定する必要性は国際線に比べ少なかったことによるものである。もっとも,その後国内の路線が増えても,乗員組合が控訴人に対して指定便制を要求したことはなかった。(甲1の90頁,220の45頁,358の35頁,原審原告P25の原審第20回本人調書94項)(イ) 控訴人は,勤務協定の下で,当初は特定の1便を指定していたが,昭和60年3月以降,勤務協定上は複数の便を指定することも予定していると考え,乗員組合と交渉することなく,一方的に2便を特定して指定するようになった。また,控訴人は,指定した2便の間の当該運航乗務員が乗務資格を有するすべての便を指定できるという見解であったが,運用上は,スタンバイからの起用の対象となる便はあらかじめ指定便として表示されていた運航乗務員から起用し 指定した2便の間の当該運航乗務員が乗務資格を有するすべての便を指定できるという見解であったが,運用上は,スタンバイからの起用の対象となる便はあらかじめ指定便として表示されていた運航乗務員から起用し,指定されていた2便の間の便に該当する場合には,当該運航乗務員に対する業務依頼の要素があると説明し,当該運航乗務員の協力を得て乗務に就いてもらう扱いであった。そして,控訴人は,乗務割により予定されている次の乗務と時間帯,行き先が同一ないしこれに準ずる2便を指定されることが多かったものの,必ずしも同一の路線群が指定されるという運用がされていたとまではいえなかった。(甲1の91頁,220の45頁,358の35頁及び36頁,983,985,乙114の14頁,120,376の1ないし3,原審証人P48の原審第25回証人調書131項,被控訴人P34の原審第27回本人調書162項及び163項,同第28回本人調書371項及び372項)(ウ) 改定された本件就業規程は,国際線,国内線を問わず,スタンバイの拘束時間を8時間に短縮したが,スタンバイ中の運航乗務員からの起用対象をスタンバイ開始時刻以降,当該日の24時までに開始する勤務とすることを規定し,国際線についてスタンバイ中の運航乗務員からの起用対象について,あらかじめ指定していた2便とその間の便に起用対象の範囲を限定する制度を廃止するとともに,あらかじめ指定していた特定の便への起用を優先させる運用を取り止めた。(甲4の29頁,弁論の全趣旨)ウ前記ア及びイの認定事実によれば,本件就業規程の改定により,1回当たりのスタンバイ中の運航乗務員の拘束時間が,国際線のスタンバイにつき最大12時間から8時間に,国内線の自宅スタンバイにつき最大18時間から8時間にそれぞれ大幅に短縮されたことは,スタンバイから起用されないままにスタ の運航乗務員の拘束時間が,国際線のスタンバイにつき最大12時間から8時間に,国内線の自宅スタンバイにつき最大18時間から8時間にそれぞれ大幅に短縮されたことは,スタンバイから起用されないままにスタンバイが終了する場合を考えれば,運航乗務員にとって負担が軽減されたということができる(もっとも,起用の頻度が増えれば,負担は重くなるが,それは運用の問題であり,ここでは考慮しない。)。他方,スタンバイ中の運航乗務員からの起用対象の便の範囲について,勤務協定における国際線のスタンバイでは,あらかじめ指定されていた2便とその間(勤務協定21.(1)ロの規定によれば,最大で4時間の範囲になると解される(原審証人P48の原審第25回証人調書127項))の便に限定されていたが,本件就業規程の改定によりこの指定便制度が廃止され,スタンバイ開始時刻以降当該日の24時までに開始する勤務とされ(例えば,スタンバイが午前4時に開始されると,対象範囲は20時間となる。),国際線のスタンバイと国内線のスタンバイの区別も廃止されたので,その起用対象範囲が大幅に拡大された。また,当審での審判の対象にはなっていないものの,自宅スタンバイ終了後の最低休養時間の保障が廃止されている。これらスタンバイ制度全体の変更をみた場合,一方で,スタンバイ中の運航乗務員の拘束時間が大幅に短縮されて負担は軽減されているものの,他方で,スタンバイ中の運航乗務員からの起用対象の便の範囲は,時間の面でも国際線,国内線の区別の面でも大幅に拡大され,従来に比較して起用対象便の予測可能性は低下して事前準備の対象が拡大するのみか,予測される起用便に応じた体調管理も困難になっている上,スタンバイから起用される場合には,スタンバイ開始から8時間の直前に,スタンバイの開始から15時間あるいは最大20時間後に勤務が開始し, のみか,予測される起用便に応じた体調管理も困難になっている上,スタンバイから起用される場合には,スタンバイ開始から8時間の直前に,スタンバイの開始から15時間あるいは最大20時間後に勤務が開始し,乗務の開始は更にその後になる便が指定されることも可能となって,その場合の当該運航乗務員の負担は極めて重く,また,本来自宅スタンバイといえども,休養ではなく,控訴人の指揮命令下に置かれて労務を提供しているものであって,性質上はいわば手待時間で労働時間に該当するものであり,これについての最低休養時間の保障が廃止されたことは運航乗務員にとって不利益であるというべきであり,これらを総合すると,本件就業規程の改定によりスタンバイ制度が運航乗務員にとって必ずしも改善されたとはいえず,むしろ,労働条件として勤務基準を見た場合,従来に比較して低下したとも評価できる。そして,ここで対象となっている国際線のスタンバイ中の運航乗務員からの起用対象の便の範囲は,上記のとおり大幅に拡大され,従来に比較して起用対象便の予測可能性は低下して事前準備の対象が拡大するのみか,予測される起用便に応じた体調管理も困難となり,スタンバイから起用される場合に,スタンバイ開始からの時間の面で負担の極めて重い便が指定されることも可能になったといえるので,不利益変更があったというべきである。 エ次に,不利益の程度を検討するに,控訴人は,実際に行われている現実の運用を前提にすべきであると主張する。 しかし,これまで繰り返し述べてきたが,前記3(1)エのとおり,就業規則変更による不利益の有無,内容や程度は,就業規則が定める勤務基準によって実施可能な勤務内容を比較検討すべきであり,就業規則に定められた勤務基準に基づき具体的に運航乗務員にどのように乗務ないし勤務をさせるかは,使用者として,運航上の必要性のほか 規則が定める勤務基準によって実施可能な勤務内容を比較検討すべきであり,就業規則に定められた勤務基準に基づき具体的に運航乗務員にどのように乗務ないし勤務をさせるかは,使用者として,運航上の必要性のほか,労働者の安全や健康に配慮する観点からなされる控訴人における運用上の問題であって,実際に運航乗務員が勤務に就いた実績や控訴人が運航乗務員に対して行った配慮は,就業規則変更による不利益変更の有無や程度の判断に直接影響を及ぼさないものというべきである。 ページ(46)また,控訴人は,本件就業規程改定前の勤務基準では,運航乗務員の起用対象はあらかじめ指定されていた2便とその間の便に限定されていたものが,本件就業規程改定後の勤務基準では,スタンバイ開始時刻以降当日の24時までに開始する勤務となり,起用対象便がかなり拡大したかのような印象を受けるが,ある便に乗務する場合は,その便の機種の乗務資格が必要であり,機長の場合には路線資格(平成12年2月からは空港要件等)を必要とし,副操縦士の場合には空港経験(平成12年2月からは空港要件等)を必要とし,加えて,居住地から出頭を指示される空港への移動時間等を考慮すると,改定された本件就業規程の下においても,起用される便の範囲は限定されるので,本件就業規程改定前後において指示される便の予測可能性が大きく変更したということはできないと主張する。しかし,勤務協定ないし改定前の本件就業規程の下では,あらかじめ指定されていた2便とその間(前記のとおり最大で4時間)の便に限定されており,ある程度事前に予測可能であった(甲220)のに対し,改定後の本件就業規程の下では,運航乗務員が乗務する場合に機種の乗務資格や路線資格又は空港経験等が必要で,それにより起用対象便をある程度予想することができるとしても(もっとも,乗務資格や路線資格等 ,改定後の本件就業規程の下では,運航乗務員が乗務する場合に機種の乗務資格や路線資格又は空港経験等が必要で,それにより起用対象便をある程度予想することができるとしても(もっとも,乗務資格や路線資格等との関係で起用対象便が限られる点は旧勤務協定当時も,指定された2便の間の便について同様であった。),副操縦士の有する空港経験は決して少数とはいえない上,早朝からスタンバイする者を考慮すると,従来に比較して起用対象便は増加していると認められ(甲220,813,835,986,1014の23頁等),起用を指示される便の予測可能性は大きく変更されたというべきである。したがって,控訴人の前記主張は採用することができない。 そして,スタンバイは,天候や機材の故障,予定されていた運航乗務員の急病等の不測の事態が発生した場合に,定期航空運送事業者が,公共交通機関の使命を果たすべく,運航を確保し,定時制を維持することができるようにするために必要不可欠な制度であって,労使双方ともこの点の認識では一致しており(被控訴人P34の原審第27回本人調書161項),また,定期航空運送事業者に勤務する運航乗務員として日頃から,運航に必要不可欠な事前準備をなすべきことは当然である(当審証人P53の当審第7回証人調書30頁)が,以上の事情を考慮したとしても,本件就業規程改定により起用対象便の予測可能性が低下することにより,程度の差こそあれ,従来に比較して乗務に必要な事前準備や体調の維持管理が十分できなくなるおそれがあると認められ(甲358,978,1014等),この点の不利益性も無視できないというべきである。 オ以上によると,本件就業規程改定による国際線のスタンバイの指定便制度の廃止は運航乗務員にとって不利益な変更であり,これによって運航乗務員に与える不利益の程度は決して小さいものと というべきである。 オ以上によると,本件就業規程改定による国際線のスタンバイの指定便制度の廃止は運航乗務員にとって不利益な変更であり,これによって運航乗務員に与える不利益の程度は決して小さいものということはできない。 (2) 変更の必要性の有無,内容及び程度ア前記3(2)のとおり,本件就業規程改定による勤務基準の見直しは,控訴人の業績悪化を背景とした構造改革施策の実施の一環として,費用削減による人件費効率向上という目的のために行われたものである。 イこの点について,控訴人は,本件就業規程改定による国際線のスタンバイ指定便制度の廃止は,従来のスタンバイ制度について,運航乗務員から拘束時間が長いことに対する不満の声が出されていたので,これを解消するとともに,勤務協定が締結された昭和48年と比較して路線や便数がともに大幅に拡張・増大したことにより,控訴人にとって国際線のスタンバイ指定便制度の制約が多く弾力的・効率的な運用を妨げる面もあったので,合理的な内容に見直そうとしたものであり,拘束時間を短縮しただけでは,スタンバイのための必要人員増となるため,必要人員数を増やすことなく拘束時間を短縮するためにも,国際線・国内線の区別を止め,国際線の指定便制度を廃止してスタンバイからの起用に柔軟性を持たせ,スタンバイ制度の円滑で効率的な運用を可能にする必要があったのであり,効率的なスタンバイからの起用が円滑に行えるようになるということは,大局的にみれば,人員効率の向上にもつながるものということができると主張する。 証拠(乙114の14頁,乙287の14頁,乙413の29頁,原審証人P48の原審第25回証人調書89項)及び弁論の全趣旨によれば,運航乗務員から従来のスタンバイの拘束時間が長いことに対する不満の声があり,乗員組合から短縮の要求がされていたこと,また 29頁,原審証人P48の原審第25回証人調書89項)及び弁論の全趣旨によれば,運航乗務員から従来のスタンバイの拘束時間が長いことに対する不満の声があり,乗員組合から短縮の要求がされていたこと,また,勤務協定が締結された昭和48年と比較して路線や便数が大幅に拡張・増大したため,控訴人にとって国際線のスタンバイの指定便制度による制約が多く,弾力的・効率的な運用を妨げる面があったので,このような運航乗務員の不満を解消するために,拘束時間を短縮し,これによって必要となるスタンバイの人員増に対処するために,国際線・国内線の区別を止め,国際線のスタンバイ指定便制度を廃止してスタンバイからの起用に柔軟性を持たせようとしたものと認められ,その意味で控訴人の経営にとって必要性があったといえなくもない。しかし,以上のようなスタンバイ制度の変更は,控訴人の悪化した業績を回復するための構造改革施策の一環として積極的な費用削減に結びつくと認めるに足りる証拠はなく,国際線のスタンバイ指定便制度の廃止によるマンニング削減効果も不明であり,また,控訴人は,本件就業規程改定による勤務基準の見直しにあたり,国際線のスタンバイ指定便制度の廃止による費用削減効果ないしマンニング削減効果があるのか否か,あるとすれば,どの程度の効果があるのかを事前に具体的に検討したと認めるに足りる証拠もない(当審証人P53の当審第9回証人調書23,24頁)。 以上によれば,本件就業規程の改定による国際線のスタンバイ指定便制度の廃止により,控訴人において,スタンバイからの起用を弾力的かつ効率的に行うことができるようになったという点では意味があり,その限りでは控訴人にとって必要性があったといえなくもないが,費用削減に直ちに結びつくとは認められず,悪化した控訴人の業績を回復するため緊急に本件就業規程を改定する うになったという点では意味があり,その限りでは控訴人にとって必要性があったといえなくもないが,費用削減に直ちに結びつくとは認められず,悪化した控訴人の業績を回復するため緊急に本件就業規程を改定することにより国際線のスタンバイ指定便制度を廃止する必要性があったとはいえず,運航乗務員に決して小さくはない不利益を与えてまで本件就業規程を改定する高度の必要性は認められないというべきである。したがって,控訴人の必要性に関する前記主張は採用することができない。 ウそうすると,本件就業規程改定による国際線のスタンバイ指定便制度を廃止する必要性があったとしても,その高度な必要性があったということはできない。 (3) 変更された勤務基準の内容自体の相当性ア他の航空会社のスタンバイ制度に関する勤務基準(乙377)によれば,国内外の航空会社25社中,指定便スタンバイ制を採用している航空会社はインド航空1社しかないことが認められる。また,IFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)の労働委員会が定める労働関係マニュアル(通称「Iマニュアル」)のスタンバイの項において「指定便スタンバイ」の記載はない(甲976の2の15頁,16頁)。 イ被控訴人らは,労働基準法32条の2及び89条1号によれば,1か月単位の変形労働時間制を採用している控訴人においては,変形期間内の毎労働日の労働時間を始業・終業時刻とともに就業規則において特定しなければならないところ,前月25日までに配布される勤務割により当該日のスタンバイ自体の始業・終業時刻は特定されているが,スタンバイから起用される勤務の開始時刻は,当該スタンバイの最中,起用の連絡があるまで全く特定されていないし,ひとたび乗務に起用された場合,国内線であれば1日から最大5日連続の勤務を行うことになり,国際線の勤務であれば最大14日連 始時刻は,当該スタンバイの最中,起用の連絡があるまで全く特定されていないし,ひとたび乗務に起用された場合,国内線であれば1日から最大5日連続の勤務を行うことになり,国際線の勤務であれば最大14日連続の勤務を行うことになり,終業時刻も特定されておらず,労働時間が特定されていないので,労働基準法に違反するものであると主張する。 改定された本件就業規程(甲4の21頁,22頁)によると,控訴人は,同規程5条1項で労働基準法32条の2による1か月単位の変形労働時間制を採用し,同規程5条3項(2)号では,スタンバイの場合の始業時刻をスタンバイを開始すべき時刻とし,これを別途指示するとし,終業時刻は,始業時刻から8時間後の時刻とし,ただし,その時刻が24時(日本標準時)を超える場合は24時とし,スタンバイから起用された場合は,その時点で,起用された勤務(乗務のための勤務又は地上勤務)に応じ,それぞれの勤務によって定められた時刻が終業時刻になるとされている。 具体的には,同規程5条2項により,各運航乗務員に原則として前月25日までに配布される勤務割に,スタンバイ勤務の始業時刻が表示され,その時点では8時間後が終業時刻(24時を超える場合は24時)として特定される。まページ(47)た,スタンバイから起用された場合は,その時点で,起用された勤務に応じた終業時刻が特定されることになり,乗務のための勤務であれば,同規程5条3項(1)号bにより,最後の乗務又はDEADHEADの航空機のブロック・イン予定時刻に同規程21条(3)号に定める時間を加えた時刻が終業時刻となる。そして,スタンバイ勤務は,定期航空運送事業者が公共交通機関の使命を果たすべく,運航を確保して定時制を維持するため,「乗務割の不時の変更に備えて,休養施設で乗務等に就き得る状態を維持する」(同規程2条(5 ,スタンバイ勤務は,定期航空運送事業者が公共交通機関の使命を果たすべく,運航を確保して定時制を維持するため,「乗務割の不時の変更に備えて,休養施設で乗務等に就き得る状態を維持する」(同規程2条(5)号)という特殊な勤務形態であるので,スタンバイから勤務に起用された場合の始業時刻や終業時刻を確定時刻でもって表示することはできないが,スタンバイの拘束時間内において開始すること,及び開始すれば,起用された勤務に応じて終業時刻が定まる関係にあるので,直ちに始業時刻や終業時刻が不特定で,予測ができず,労働者の生活設計を損なうとまではいえないというべきである。 したがって,改定された本件就業規程が定めるスタンバイ制度が労働基準法に違反するという被控訴人らの主張は採用することができない。 ウ被控訴人らは,改定された本件就業規程が定めるスタンバイのように,当該労働日において,控訴人が任意に労働時間の始業・終業時刻を設定するような制度,特に,勤務開始後に終業時刻を控訴人が任意に変更する制度は,変形労働時間制において労働時間の特定を要求した趣旨や労働時間の始業・終業時刻の特定を要求した趣旨に反し許されないと主張する。 労働基準法32条の2は,「その定めにより,特定された週において同項(同法32条1項)の労働時間又は特定された日において同条第2項の労働時間を超えて,労働させることができる。」と規定しており,その趣旨は,1か月単位の変形労働時間制においては,使用者が日又は週につき法定労働時間を超えて労働させることが可能になるため,労働時間の過密な集中を招くおそれがあり,労働者の生活に与える影響が通常の労働時間制の場合に比して大きいことから,各日及び各週の労働時間をできる限り具体的に特定させることによって,労働者の生活設計に与える不利益を最小限に止める必要があるという 者の生活に与える影響が通常の労働時間制の場合に比して大きいことから,各日及び各週の労働時間をできる限り具体的に特定させることによって,労働者の生活設計に与える不利益を最小限に止める必要があるというものであると解される。したがって,法定労働時間を超える日又は週がいつであるか,その日又は週にどの程度労働をさせるかについて,できる限り具体的に特定することができるものでなければならないというべきである。そして,労働基準法32条の2が特定を要求する趣旨が前記のようなものであるとすれば,就業規則上,労働者の生活に対して大きな不利益を及ぼすことのないような内容の変更条項を定めることは,同条が特定を要求する趣旨に反しないものというべきであり,また,就業規則に具体的変更事由を記載した変更条項を置き,当該変更条項に基づいて労働時間を変更するのは,就業規則の「定め」によって労働時間を特定することを求める同条の文理にも反しないものというべきである。 これを本件についてみると,控訴人は,定期航空運送事業者で,天候,機材の故障,運航乗務員の急病,その他の緊急な不測の要因によって定時運航等に支障が生ずる場合があり,このような職場に勤務する運航乗務員の勤務の態様から,変形労働時間制において勤務の変更を指示する可能性がある実態を考慮し,本件就業規程5条4項において「第2項および前項により指示する勤務割および始業時刻,終業時刻,休憩時間は運航スケジュール(航空機の早遅発着を含む),機材の変更,乗務員の欠勤・休暇取得等による欠員補充,およびその他やむを得ない業務上の理由により変更することがある」というように勤務割,始業時刻,終業時刻及び休憩時間の変更に関する事由を具体的に定めており,また,運航を確保して定時制を維持するためスタンバイ制度を設け,スタンバイから起用する場合の終業時刻は がある」というように勤務割,始業時刻,終業時刻及び休憩時間の変更に関する事由を具体的に定めており,また,運航を確保して定時制を維持するためスタンバイ制度を設け,スタンバイから起用する場合の終業時刻は,本件就業規程5条3項(2)b.で「起用する勤務に応じ」て定まる時刻とされているのであって,勤務が乗務の場合には終業時刻が明確に確定しているとはいえないものの,起用される乗務の勤務時間によってある程度の予測は可能である上,スタンバイ制度の趣旨を合わせ考慮するならば,スタンバイからの起用によって予定された勤務の労働時間が変更されるとしても,全く予測ができないものに変更されるというわけではないので(指定便制度の廃止によって予測可能性は低下するものの,全く予測が不可能になるとはいえない。),控訴人のスタンバイ制度ないしスタンバイからの起用をもって,控訴人が任意に労働時間の始業・終業時刻を変更するものということはできず,労働時間の特定性を要求する労働基準法32条の2の趣旨に直ちに反するものということはできない。 したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 エ被控訴人らは,米国連邦航空局航空立法諮問委員会(ARAC)の航空法改定案の科学的根拠とされた資料(甲701,なお,甲第738号証によれば,この資料は,同航空立法諮問委員会(ARAC)のリザーブ・レストに関するワーキング・グループにおいて,78,000名の航空会社のパイロットの代表がリザーブ・レストの規則に関する見解を表明した際の科学的根拠とされた資料である。)のほか,NASAガイドライン(乙165の2),バテル報告書(甲668の1及び2,甲第738号証によれば,この報告書は,上記パイロットの代表がリザーブ・レストの規則に関する見解を表明した際の科学的根拠の一つとされたものである。)等の科学 の2),バテル報告書(甲668の1及び2,甲第738号証によれば,この報告書は,上記パイロットの代表がリザーブ・レストの規則に関する見解を表明した際の科学的根拠の一つとされたものである。)等の科学的研究の成果によれば,勤務時間は「保護時間帯」の終了の時点から16時間以内に完了しなければならないが,改定された本件就業規程によるスタンバイ後の休養時間の削除とスタンバイにおける起用対象の範囲が当該日の24時までに開始される乗務にまで拡大されたことは,保護時間帯の終了から16時間という制限を完全に無視するものであって,実質的な休養時間(睡眠)の終了から長時間,目が覚めた状態でいるまま継続的な業務に就かされることは,業務遂行能力の低下につながり,安全性の低下を招来することになる上,起用対象の範囲が当該日の24時までに拡大されたことにより乗務の事前準備が十分にできず,体調の維持・調整も困難になり,安全性に脅威となる運航が行われているなど,起用対象便を何ら限定しない改定された本件就業規程の内容は,それ自体合理性を欠いていると主張する。 しかしながら,未だ米国の航空法改定案は立法化されておらず(弁論の全趣旨),上記の各証拠により認定できる前記主張のとおりの科学的研究の成果は考慮すべきものであるとしても,提出された証拠のみによって改定された本件就業規程によるスタンバイについての勤務基準が安全性の低下を招来するものと直ちに判断することはできない。もっとも,起用対象の範囲がスタンバイの開始時刻にかかわりなく,当該日の24時までに開始する勤務にまで拡大していることは,科学的研究の成果に照らし,何らの問題もないとも即断し難く,疑問が残ることは否定できない。また,スタンバイ指定便制度の廃止により予測可能性が低下し,従前に比較して事前準備や体調管理が難しくなったといえるが, 研究の成果に照らし,何らの問題もないとも即断し難く,疑問が残ることは否定できない。また,スタンバイ指定便制度の廃止により予測可能性が低下し,従前に比較して事前準備や体調管理が難しくなったといえるが,それ以上に安全性に悪影響を及ぼす運航が行われていると認めるに足りる証拠はない。したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。 オ以上によれば,国際線のスタンバイ指定便制度を廃止した本件就業規程の勤務基準の内容自体は,労働条件として疑問の残る点もあるが概ね相当というべきである。 (4) 代替措置について前記(1)ウで述べたとおり,控訴人は,本件就業規程を改定し,スタンバイの拘束時間を大幅に短縮し,他方で,国際線のスタンバイ指定便制度を廃止した上,自宅スタンバイ終了後の最低休養時間の保障を廃止したものであって,スタンバイの拘束時間の短縮は,国際線のスタンバイ指定便制度の廃止の代替措置といえなくもないが,これらを全体として総合すると,本件就業規程の改定によりスタンバイ制度が運航乗務員にとって必ずしも改善されたとはいえないので,スタンバイの拘束時間の短縮が国際線のスタンバイ指定便制度の廃止についての十分な代替措置というには疑問がある。 他に,国際線のスタンバイ指定便制度の廃止に伴う代替措置の存在を認めるに足りる証拠はない。 (5) 労働組合等との交渉経過前記3(5)で述べたとおり,控訴人と乗員組合との間で,国際線のスタンバイ指定便制度の廃止に関する勤務基準を含め,改定された本件就業規程による勤務基準の内容について実質的な協議が十分されておらず,同勤務基準に同意する労働組合はなく,同勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないのページ(48)であるから,労働者の同意の面から同勤務基準の内容を合理的なもの 務基準に同意する労働組合はなく,同勤務基準の内容について運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないのページ(48)であるから,労働者の同意の面から同勤務基準の内容を合理的なものと推認することはできない。 (6) 変更の合理性の総合的判断そうすると,本件就業規程の改定による国際線のスタンバイ指定便制度の廃止については,変更された内容自体は疑問は残るとはいえ概ね相当であるが,運航乗務員にとって少なからず不利益な変更であり,運航乗務員に不利益を与えてまで本件就業規程を改定する高度の必要性は認められず,この変更に伴う代替措置が十分というには疑問がある上,変更について控訴人の管理職を含め運航乗務員の大半が反対し,他の従業員も同意するに至っていないことを総合考慮すれば,国際線のスタンバイ指定便制度の廃止についての本件就業規程改定による勤務基準の変更は合理的なものと認めることはできない。 なお,被控訴人らは,旧勤務協定の下で,国際線指定便スタンバイは,① 指定できる便数最大2便までで,その間の便は乗務義務がないこと,② 指定できる2便は同一路線群に属すること,③ 指定できる2便の出発予定時刻は最大4時間以内という指定便の基準があると解釈され,控訴人も規範意識をもって運用してきたので,控訴人と被控訴人らとの間で,待機(スタンバイ)から起用の場合,国際線については,待機(スタンバイ)に先立ち,あらかじめその対象便として指定された1便又は原判決別紙28頁請求七1(路線群の区別)記載の区分による同一の路線群に属し,かつ,出発時刻が4時間以内に予定された2便でない限り,乗務する義務のないことの確認を求めている。 しかし,旧勤務協定のスタンバイに関する規定によれば,指定された2便の間の便についても乗務を義務付けることが可能な定めになっていたことは た2便でない限り,乗務する義務のないことの確認を求めている。 しかし,旧勤務協定のスタンバイに関する規定によれば,指定された2便の間の便についても乗務を義務付けることが可能な定めになっていたことは明白である。そして,前記(1)イのとおり,旧勤務協定の下での国際線のスタンバイからの起用の運用は,指定された2便については,指定便として表示されていた運航乗務員から起用し,指定されていた2便の間の便については,当該運航乗務員に対する業務依頼として当該運航乗務員の協力を得て乗務に就いてもらうという取扱いをし,また,控訴人は,乗務割により予定されている次の乗務と時間帯,行き先が同一ないしこれに準ずる2便を指定することが多かったものの,必ずしも同一の路線群の便を指定するという取扱いをしていたとまではいえなかったのであって,規範意識をもって,同一の路線群の便を指定するという運用をしていたとまではいえず,これが控訴人と被控訴人らを拘束するような勤務基準になっていたと認めるに足りる証拠はない。そして,勤務協定の下での国際線のスタンバイ指定便制度が被控訴人らの確認を求めるような内容であったと認めるに足りる証拠もなく,旧勤務協定及び改定前の本件就業規程が定める勤務基準は,あらかじめ指定されていた2便とその間の便に限定する制度であったというべきである。 したがって,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らについては,国際線のスタンバイ指定便制度を廃止した改定された本件就業規程の効力は及ばず,なお改定前の本件就業規程が定めていた国際線のスタンバイ指定便制度に関する勤務基準の規定が適用されるものということになる。なお,本件訴訟では確認の対象になっていないが,スタンバイの時間につき,改定前の本件就業規程が定めていた国際線のスタンバイ指定便制度に関する勤務基準の規定が適用されると 用されるものということになる。なお,本件訴訟では確認の対象になっていないが,スタンバイの時間につき,改定前の本件就業規程が定めていた国際線のスタンバイ指定便制度に関する勤務基準の規定が適用されるとすれば,前記(1)ア(イ)によれば,国際線のスタンバイは,連続24時間中は12時間を限度とし,スタンバイすべき最初の便の出発予定時刻の4時間前より始まり,最後の便の出発時刻の4時間後に終了することになると解される。 以上によれば,被控訴人P1外11名を除く被控訴人らの控訴人に対する国際線のスタンバイ指定便制度に関する確認請求は,控訴人との間で,国際線については,待機(スタンバイ)に先立ち,あらかじめその対象便として指定された2つの便とその間の便でない限り,乗務する義務のないことの確認を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がないというべきである。 ページ(49)
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