- 1 -令和6年(ネ)第345号国家賠償請求控訴事件令和6年12月20日名古屋高等裁判所民事第1部判決(原審・名古屋地方裁判所令和4年(ワ)第2974号) 主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は一審原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 一審被告は、一審原告各自に対し、770万円及びこれに対する平成30年1月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下、略語は原判決の例による。) 1 本件生徒(平成16年6月生まれ)は、平成29年9月1日に本件学校に転入し、本件学校に在籍していたところ、同年11月後半頃から同年12月前半頃までの間、本件学校の部活動において、特定の生徒に練習相手を頼んだにもかかわらず手伝ってもらえず無視されたことがあり、また同じ頃、本件学校の部活動において、他の複数の生徒から、練習を手伝ってもらえないことがあっ た(本件いじめ)。本件生徒は、平成30年1月5日に自死した(本件事故)。 2 本件は、本件生徒の父母(相続人)である一審原告らが、本件学校を設置する一審被告に対し、①本件学校の教員が本件生徒に対する安全配慮義務に違反したことにより、本件生徒に対するいじめを防ぐことができず、本件生徒は自死に至るほどの精神的苦痛を被った、②名古屋市教育委員会及び本件学校が本 件生徒の自死についての調査報告義務に違反した、③卒業式等において一審原告らを殊更に傷つける対応をしたと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金1540万円(一審原告各自に770万円)及びこれに対する本件 - 2 -事故の日である平成30年1月5日から支払済みまで民法(平 る対応をしたと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金1540万円(一審原告各自に770万円)及びこれに対する本件 - 2 -事故の日である平成30年1月5日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 3 原審は、一審原告らの請求をいずれも棄却したところ、一審原告らがこれを不服として控訴した。 4 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は、下記第3に当審における一審原告らの主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中第2、1から3までに記載のとおりであるからこれを引用する。 第3 当審における一審原告らの主張 1 安全配慮義務違反 ⑴ いじめ予防義務についてア原判決は、平成29年10月当時、本件いじめを具体的に予見することができたとはいえないから、本件生徒に丁寧な面接をしたり、養護教諭に引き合わせたり、一審原告らに十分な説明をしたり、教員同士で十分な情報共有をしたりすべき義務を負っていたとはいえないとしている。しかし、 具体的に予見できなければ予防義務が発生しないというのは、あり得ない論理である。具体的にいじめを予見できない場合でも、日頃から、いじめが発生しないように、生徒を指導したり、教師間の情報共有体制をとったり、過去の事例を学習するなどを行っていなければならない。 イ本件生徒のハイパーQUの結果は、最悪の状態である「要支援群」では なく「学校生活不満足群」に属してはいるが、承認得点と被侵害得点の2つのメルクマールのうち、被侵害得点は「要支援」の範囲にあり、その点数はむしろ「要支援」とされた生徒よりも高かった。本件生徒は、「学級生活不満足群」であっても、いじめを「将来受ける可能性」 得点の2つのメルクマールのうち、被侵害得点は「要支援」の範囲にあり、その点数はむしろ「要支援」とされた生徒よりも高かった。本件生徒は、「学級生活不満足群」であっても、いじめを「将来受ける可能性」ではなく、いじめを「現に受けている可能性」が高いといえる状況にあった。 いじめを受けている可能性が具体的にテストの結果により裏付けられて - 3 -いるのであるから、本件学校は、丁寧な面接をしたり、養護教諭と相談したり、情報を共有するなどして、いじめ発生防止及びいじめ発見に努めるべきであった。心理テストの結果を漫然と見過ごした点につき、本件は、安全配慮義務違反が認められた裁判例(福岡高裁令和2年7月14日判決、福岡地裁令和3年1月22日判決)の事案と同じである。 ウ再調査報告書に記載されているとおり、本件学校では、ハイパーQUの結果を共有するための会議が開かれたことはなく、同種事案に関する平成26年報告書及び平成28年報告書が報告されていたが共有され実践されている状況にはなく、いじめ等対策委員会を兼ねる主任会においてもいじめがあるかもしれないとの視点で会議がもたれていなかったし、生徒指導 連絡等の会議においても部活動における生徒間のトラブルやいじめについて取り上げていなかった。これらの事実を踏まえれば、本件学校がいじめ予防義務を怠っていることは明白であり、これらの事実について判断しなかった原判決は、判断遺脱、理由不備といわざるを得ない。 ⑵ いじめ発見義務について 原判決は、平成29年10月当時いじめを具体的に予見することはできなかったとしているが、同年12月後半には、それまで丁寧な字できちんと生活ノートを書いていた本件生徒が「寒いです」という言葉のみを殴り書きし、それを3日間も続けている。このことに 予見することはできなかったとしているが、同年12月後半には、それまで丁寧な字できちんと生活ノートを書いていた本件生徒が「寒いです」という言葉のみを殴り書きし、それを3日間も続けている。このことに、本件生徒の心理テストの結果や、本件生徒が転校生で他の生徒の中に入り込みにくい状況にあったことを併せ 考えれば、少なくとも同年12月後半には、いじめを発見すべき義務があったといえる。 本件学校がいじめ予防義務を履行していれば、いじめは発見できたと思われる。本件においては、当然果たすべきいじめ予防義務を果たしていなかったのであるから、いじめを具体的に認識できなかったのは当然であって、こ れをもって本件学校がいじめ発見義務を履行していたとはいえない。 - 4 - 2 調査報告義務違反について学校が親から子どもを預かっている以上、親に代わって子どもの生命、身体の保護に努めなければならないのは条理上(信義則上)の義務であり、その義務がある以上、子どもに重大事故が発生した場合に、学校の管理下において、事故に関連すると思われる事実を調査し、調査の結果を親や遺族に知らせるべ きは条理上当然である。調査報告義務の根拠を強いて実体法に求めるのであれば、いじめ防止対策基本法28条1項、2項を挙げることができる。原判決は、再調査委員会の調査報告書が提出されていることをもって、調査報告義務を十分果たしていると判断しているように思われる。しかし、上記調査報告書は、一審被告や名古屋市教育委員会とは独立した第三者委員会による調査報告書に すぎない。また、一審被告は、①重大事態認定の遅れ、②保護者会開催の遅れ、③アンケート実施についての抵抗、④ヒアリングの不適切、⑤ファイルの提出拒否など、上記調査報告書でも指摘されているとおり、調査 すぎない。また、一審被告は、①重大事態認定の遅れ、②保護者会開催の遅れ、③アンケート実施についての抵抗、④ヒアリングの不適切、⑤ファイルの提出拒否など、上記調査報告書でも指摘されているとおり、調査に対して極めて消極的であり、第三者委員会の調査に非協力的であった。原審がこれらの点を全く検討していないのは審理不尽であり理由不備である。 3 一審原告らを殊更に傷つける本件学校の対応について⑴ 卒業式への出席文部科学省作成の「子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引き」には、遺族の意向を丁寧に確認しながら、学校の対応を進めるべきことが記載され、「学校事故対応に関する指針」にも、保護者の意向を確認し、卒業式 への参列等も検討すべきことが記載されている。一審原告らは、卒業式の日に、他の生徒同様に参加したいと思い、本件学校に強く要望した。本件学校では、卒業式の予行演習の際に、一人一人の生徒が壇上に上がり、校長から卒業証書を受け取り、その場面が写真撮影されたが、本件学校は、一審原告らに対し、卒業式当日には写真撮影をせず、学年全体での卒業証 書授与をしないことを知らせなかったため、一審原告らは、予行演習を欠 - 5 -席し、卒業式の日に他の卒業生や保護者がいない体育館で本件生徒の卒業証書を受け取ることになった。本件学校は、予行演習で写真撮影をし、卒業式には学年全体での卒業証書授与をせず写真撮影もしないことが決まった時点ですぐに一審原告らに連絡すべき義務があった。仮に、一審被告が主張するとおり、上記の決定が令和2年2月27日夜10時にされたとし ても、その時点で一審原告らに連絡することはできたはずである。 ⑵ 校長の不適切発言本件事故直後、本件学校の校長は、「(本件生徒は)だれも来ないので、あれおかしい 7日夜10時にされたとし ても、その時点で一審原告らに連絡することはできたはずである。 ⑵ 校長の不適切発言本件事故直後、本件学校の校長は、「(本件生徒は)だれも来ないので、あれおかしいなということで一旦家まで戻って(中略)あれどこかなと思って結局9階まで上がって皆の集合の場所かなと思って無防備にあそこから見 (て落ちた)のかなと僕は思っていたんですよ」と発言した。原判決は、上記発言は違法ではないと判断しているが、娘を失って悲しみのどん底にいる両親の前で、事実関係が明らかでないのに、本件生徒は自らの過失で命を落としたのであって学校に責任はないという趣旨の発言をしたものであり、不見識で思いやりがなく、文部科学省作成の「いじめ重大事態の調査に関する ガイドライン」にも反する。 4 本件学校及び教育委員会の安全配慮義務違反等の行為と損害との因果関係について一審被告は、本件いじめの程度は軽く、本件生徒の精神的苦痛は比較的少なかった、あるいは本件生徒がその特別な性格から、殊更苦痛を強く感じたと主 張するようである。しかし、現在のいじめの実態として、激しい暴力を伴うものでなくても、「仲間はずれ」などのいじめは、同調圧力の強い現在の子どもたちには激烈な精神的負担になる。本件生徒が特にストレスに弱いのではなく、現在のふつうの子は本件生徒が置かれたのと同じ状況に置かれれば本件生徒と同様に感じるのである。本件生徒が本件いじめによって絶望に陥り、死を選ん でしまったのは十分推測し得るのであって、少なくとも死を選ぶほど苦しむこ - 6 -とがあり得ることを、本件学校は推測しなければならない。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原判決と同様、一審原告らの請求はいずれも棄却すべきと判断する。その理由は、下記2の - 6 -とがあり得ることを、本件学校は推測しなければならない。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原判決と同様、一審原告らの請求はいずれも棄却すべきと判断する。その理由は、下記2のとおり、当審における一審原告らの主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中第3に記載のとおり であるからこれを引用する。 2 当審における一審原告らの主張に対する判断⑴ 安全配慮義務違反についてアいじめ予防義務違反について一審原告らは、前記第3、1⑴のとおり、本件学校がいじめ予防義務を 怠ったことは明らかであると主張する。確かに、本件生徒は、平成29年10月時点では、転入後間もない時期であり、同月11日に実施したこころのSOSアンケートで「言われて悲しかった言葉」を複数記載し、同月19日に実施されたハイパーQUでは「学級生活不満足群」に該当するとの結果が出ていたことからすると、本件学校での学校生活や他の生徒との 関係等について特に配慮を要する状態であったといえる。しかし、そうした一般的な配慮を超えて、現実に発生した本件いじめとの関係で、これを予防すべき義務があったといえるためには、いじめの発生についての具体的な予見可能性があったことが必要であると解される。本件いじめの発生時期は、平成29年11月後半から12月前半であることからすると、そ れよりも前に行われたハイパーQUやこころのSOSアンケートの結果は、本件いじめの存在を示唆したものとはいえない。また、本件生徒は、こころのSOSアンケートにおいて「言われてうれしかった言葉」を複数挙げていたほか、生活ノートにも文字の乱れや記載内容の変化等、いじめをうかがわせるような記載はなく、平成29年10月当時は本件いじめのあっ たソフト において「言われてうれしかった言葉」を複数挙げていたほか、生活ノートにも文字の乱れや記載内容の変化等、いじめをうかがわせるような記載はなく、平成29年10月当時は本件いじめのあっ たソフトテニス部にも正式には入部していなかったことを踏まえると、平 - 7 -成29年10月当時、本件いじめを具体的に予見することができたとはいえない。そうすると、本件学校の教員が、同月の時点で、本件生徒との面接、養護教諭との引き合わせ、一審原告らへの説明、教員間での情報共有をする義務を負っていたとはいえない。 イいじめ発見義務について 一審原告らは、前記第3、1⑵のとおり、本件学校の教員は、少なくとも平成29年12月後半には、いじめを具体的に予見すべきであったと主張している。確かに、本件生徒は、同月18日から同月20日までの間、3日連続で生活ノートに「寒いです。」とのみ記載している。しかしながら他方で、本件生徒は、本件学校が同年11月17日に実施した教育相談アンケートで は、本件いじめの存在をうかがわせるような事情を記載しておらず、むしろ学校生活は「どちらかといえば楽しい」との回答を選択し、その理由として「友達ができてきて、部活も始めたから。」と記載している。また、同年12月13日に実施された三者面談では、教員からの「不安なことや気になっていることはないか」との質問に対し「特にない」と答えている。これらの 事情を考慮すると、同年10月以降のハイパーUQ及びこころのSOSアンケートの結果や、同年12月後半の生活ノートの記載等を総合しても、同月の時点で、本件学校の教員が本件いじめを具体的に認識することが可能であったとは認められないというべきである。 ⑵ 調査報告義務違反について 合しても、同月の時点で、本件学校の教員が本件いじめを具体的に認識することが可能であったとは認められないというべきである。 ⑵ 調査報告義務違反について 一審原告らは、前記第3、2のとおり、再調査委員会の調査報告書は、一審被告や名古屋市教育委員会とは独立した第三者委員会による調査報告書にすぎず、上記調査報告書の提出をもって、一審被告が調査報告義務を果たしたとはいえないと主張する。しかしながら、証拠(甲2)によれば、再調査委員会は一審被告の長の諮問により調査をし、その結果が調査報告書として 提出されているのであるから、仮に本件学校及び名古屋市教育委員会が一審 - 8 -原告らに対し調査報告義務を負うとの前提に立つとしても、同義務に違反したとは認められない。 また、本件学校及び名古屋市教育委員会は、本件事故後、全校生徒に対するアンケート、生徒との面談、教職員への聞き取りなどを実施し、その調査結果をもとに報告書(乙26)を作成し一審原告らにも交付している(甲2、 8、乙26~28)ほか、名古屋市教育委員会の附属機関として設置された名古屋市いじめ対策検討会議は、本件事故を調査し、平成31年4月にその結果を答申している。一審原告らは、本件学校及び名古屋市教育委員会の対応について、①重大事態認定の遅れ、②保護者会開催の遅れ、③アンケート実施への抵抗、④ヒアリングの不適切、⑤ファイルの提出拒否などといった 問題があったと指摘している。これらの点は、再調査委員会の調査報告書(甲2)でも指摘されているところであるが、上記の経緯や各証拠を総合すると、再調査委員会の調査報告書が提出されるまでの本件学校及び名古屋市教育委員会の対応について、国家賠償法上の違法性があるということはでき も指摘されているところであるが、上記の経緯や各証拠を総合すると、再調査委員会の調査報告書が提出されるまでの本件学校及び名古屋市教育委員会の対応について、国家賠償法上の違法性があるということはできない。 ⑶ 一審原告らを殊更に傷付ける本件学校の対応についてア一審原告らは、前記第3、3⑴のとおり、卒業式への参加について本件学校が一審原告らを殊更に傷つける対応をしたと主張する。確かに、一審原告らは、他の卒業生とともに卒業式に出席し卒業証書の授与を受けることを希望し、遅くとも令和元年11月頃からその旨を本件学校に伝 え、本件学校も令和2年2月25日頃の時点で正式にこれに応じる方針を伝えていたが(甲15~21)、同年3月3日に開催された卒業式は各教室で行われ、卒業証書の授与も各教室で担任から授与され、一審原告父のみ体育館で卒業証書を受け取りその様子を校内放送で各教室に上映する方法がとられる結果となった。他方で、同年2月28日に開催さ れた予行演習では、卒業生は一人ずつ壇上で卒業証書を受け取り、写真 - 9 -撮影をしたが、一審原告らはこれに参加していなかった。このような経緯は、早い段階から本件学校に伝えていた一審原告らの希望に沿わず、その期待を裏切る結果になったことは否定できない。しかしながら、前記1で引用した原判決「事実及び理由」中第3、3⑴アで認定した経緯によれば、卒業式直前の令和2年2月27、28日頃は、新型コロナウ ィルスの感染拡大を受けて、卒業式の開催の可否や方法が容易には定まらず流動的であった時期であり、本件学校が、予行演習で写真撮影をすることを決めたのは同月27日、卒業式を縮小して開催し学年全体での卒業証書授与や写真撮影を行わないことに決定したのは同月28日の予行演習開始後であっ た時期であり、本件学校が、予行演習で写真撮影をすることを決めたのは同月27日、卒業式を縮小して開催し学年全体での卒業証書授与や写真撮影を行わないことに決定したのは同月28日の予行演習開始後であったと認められる。予行演習の前日である同月27日 の時点では、卒業式で学年全体での卒業証書授与や写真撮影を行わないことを決定していたとは認められないから、本件学校が、予行演習での写真撮影をすることを決めた同月27日の時点で、直ちにその旨を一審原告らに伝える義務があったとは認められない。一審原告らのその他の主張を踏まえても、卒業式への参加に関する本件学校の対応が国家賠償 法上違法であったとは認められない。 イ一審原告らは、本件学校の校長による発言につき、前記第3、3⑵のとおり主張する。前記1で引用した原判決「事実及び理由」中第3、3⑶のとおり、上記発言が遺族に対する配慮を欠いたものであることは否定できないが、そのことをもって直ちに、国家賠償法上違法であるとはい えない。 3 一審原告らのその他の主張を考慮しても、前記1の判断は左右されない。 第5 結論よって、一審原告らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判 決する。 - 10 -名古屋高等裁判所民事第1部 裁判長裁判官 吉田彩 裁判官 吉田彩 裁判官 加藤員祥 裁判官 石川真紀子
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