平成17(行ウ)68 個人タクシー値下げ請求却下処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年3月14日 大阪地方裁判所 警察関係
ファイル
hanrei-pdf-35732.txt

判決文本文82,346 文字)

- 1 -主文近畿運輸局長が平成16年2月13日付けで原告に対してした一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請を却下する旨の処分(平成16年近運自二第1077号)を取り消す。 事実 及び理由第1請求 主文と同旨 近畿運輸局長は,原告に対し,別紙第1記載のとおり一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の変更を認可する旨の処分をせよ。 第2事案の概要 事案の骨子本件は,初乗運賃を480円などとするタクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請をしたが,近畿運輸局長からその運賃等の変更は道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合しないとして上記申請を却下する旨の処分を受けた原告が,同処分には,① 理由 付記の不備又は審査基準の不作成等の手続的違法がある,②裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の実体的違法がある,などとして,上記処分の取消しを求める(処分の取消しの訴え)とともに,近畿運輸局長に対し上記申請に応じた運賃等の変更認可処分をすべき旨を命ずることを求めている(義務付けの訴え),抗告訴訟である。 法令の定め(1)行政手続法の定め行政手続法(平成17年法律第73号による改正前のもの。以下同じ。)5条1項は,行政庁は,申請(法令に基づき,行政庁の許可,認可,免許そ- 2 -の他自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。同法2条3号)により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(以下「審査基準」という。)を定 て行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。同法2条3号)により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(以下「審査基準」という。)を定めるものとする,と規定し,同条3項は,行政庁は,行政上特別の支障があるときを除き,法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない,と規定している。 行政手続法8条1項は,行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない,ただし,法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって,当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは,申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる,と規定している。同条2項は,申請により求められた許認可等を拒否する処分を書面でするときは,当該処分の理由は,書面により示さなければならない,と規定している。 (2)道路運送法の定め道路運送法2条3項は,「旅客自動車運送事業」とは,他人の需要に応じ,有償で,自動車を使用して旅客を運送する事業をいう,と規定し,同法3条は,旅客自動車運送事業の種類は,①一般旅客自動車運送事業(特定旅客自動車運送事業以外の旅客自動車運送事業),②特定旅客自動車運送事業(特定の者の需要に応じ,一定の範囲の旅客を運送する旅客自動車運送事業)とし,一般旅客自動車運送事業(上記①)の種類は,イ一般乗合旅客自動車運送事業(路線を定めて定期に運行する自動車により乗合旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ロ一般貸切旅客自動車運送事 業)とし,一般旅客自動車運送事業(上記①)の種類は,イ一般乗合旅客自動車運送事業(路線を定めて定期に運行する自動車により乗合旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ロ一般貸切旅客自動車運送事業(イ及び- 3 -ハの旅客自動車運送事業以外の一般旅客自動車運送事業),ハ一般乗用旅客自動車運送事業(1個の契約により乗車定員10人以下の自動車を貸し切って旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)とする,と規定している。 道路運送法9条の3第1項は,一般乗用旅客自動車運送事業者(一般旅客自動車運送事業を経営する者をいう。同法8条4項)は,旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。以下単に「運賃」ということがある。)を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならない,これを変更しようとするときも同様とする,と規定している。同法9条の3第2項は,国土交通大臣は,上記の認可をしようとするときは,①能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),③他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号),④運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(4号),という基準によって,上記の認可をしなければならない,と規定している。なお,上記の認可に係る国土交通大臣の権限は,道路運送法88条2項,同法施行令1条2項により,地方運輸局長に委任されている。 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実等。以下,書証番号は特に断ら は,道路運送法88条2項,同法施行令1条2項により,地方運輸局長に委任されている。 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実等。以下,書証番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)(1)当事者原告は,平成13年3月28日付けで,国土交通大臣からその権限の委任を受けた近畿運輸局長から,事業区域を下記の区域,使用する事業用自動車を1両などとして,一般乗用旅客自動車運送事業(以下「タクシー事業」ということがある。)の許可を受け,同年4月20日から,同許可に係るタク- 4 -シー事業を営んでいる者である(以下,原告の営むこのタクシー事業を「本件タクシー事業」という。)。【争いのない事実,甲1ないし3】記大阪市,豊中市,吹田市,守口市,門真市,東大阪市,八尾市,堺市,及び大阪国際空港(池田市のうち空港地域に限る。)(2)本件訴えに至る経緯ア原告は,平成14年11月26日,近畿運輸局長に対し,別紙第2記載のとおり本件タクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請をした。そして,原告は,平成15年10月1日,上記申請の内容を別紙第1記載のとおりに変更した(以下,これにより変更された後の本件タクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請を「本件認可申請」という。)。本件認可申請に係る申請書(平成14年11月26日付け変更認可申請に係る申請書)に添付された「収支見積書」には,原告の平年度(平成15年度)における収支が下記のとおり記載されていた。【争いのない事実,甲3,4】記運送収入410万7000円運送原価399万1000円(内訳)人件費192万0000円燃料油脂費38万2000円車両修繕費17万0000円車両償却費29万4000円その他運送費122万5 10万7000円運送原価399万1000円(内訳)人件費192万0000円燃料油脂費38万2000円車両修繕費17万0000円車両償却費29万4000円その他運送費122万5000円収支率(経常)102.9%イ近畿運輸局長は,平成16年2月13日付けで,原告に対し,書面で,- 5 -本件認可申請を却下する旨の処分(平成16年近運自二第1077号。以下「本件却下処分」という。)をした。本件却下処分に係る近畿運輸局長の原告あて「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の変更認可申請の却下について」と題する書面(平成16年近運自二第1077号の2)には,「平成14年11月26日及び平成15年10月1日付けをもって申請のあった一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の変更認可申請については,道路運送法第9条の3第2項第3号に適合しないので,別紙のとおり却下したから了知されたい。」と記載されていた。【争いのない事実,甲5】ウ原告は,本件却下処分を不服として,平成16年4月12日,国土交通大臣に対し,本件却下処分の取消しを求めて審査請求をした。国土交通大臣は,平成17年1月24日付けで,原告に対し,道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないとして本件認可申請を却下した近畿運輸局長の判断に誤りはない,として,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。 【争いのない事実,甲6,7】エ原告は,平成17年4月22日,当裁判所に対し,本件却下処分の取消し及び近畿運輸局長に対し本件認可申請に応じた運賃及び料金の変更認可処分をすべき旨を命ずることを求めて,本件訴えを提起した。【顕著な事実】(3)近畿運輸局長における道路運送法9条の3第2項の審査基準ア近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,道路運送法9条の3第 き旨を命ずることを求めて,本件訴えを提起した。【顕著な事実】(3)近畿運輸局長における道路運送法9条の3第2項の審査基準ア近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,道路運送法9条の3第2項に基づく審査基準として,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(平成14年近運旅二公示第11号。 以下「審査基準公示」という。)を公示した。審査基準公示の内容は,別紙第3のとおりである。【乙4,弁論の全趣旨】イ近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,審査基準公示に基づき,- 6 -「一般乗用旅客自動車運送事業の自動認可運賃について」(平成14年近運旅二公示第12号。以下「自動認可運賃公示」という。)を公示した。 自動認可運賃公示の内容は,別紙第4のとおりである。【乙5,弁論の全趣旨】 争点 (1)本件却下処分には理由付記の不備又は審査基準の不作成若しくは非公表の手続的違法があり,同処分は取り消されるべきであるか否か。 (2)近畿運輸局長が,本件却下処分をするに当たり,本件認可申請に係る旅客の運賃及び料金が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」に適合しないと判断したことについて,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか否か。 (3)近畿運輸局長に対し本件認可申請に応じた旅客の運賃及び料金の変更認可処分をすべき旨を命ずべきか否か。 第3争点に関する当事者の主張 争点(1)(本件却下処分の手続的違法の有無)について(1)原告の主張本件却下処分には理由付記の不備並びに審査基準の不作成及び非公表の手続的違法があり,同処分は取り消されるべきである。 ア理由付記の不備(ア)行政手続法は, 法の有無)について(1)原告の主張本件却下処分には理由付記の不備並びに審査基準の不作成及び非公表の手続的違法があり,同処分は取り消されるべきである。 ア理由付記の不備(ア)行政手続法は,行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について,その内容及び過程が国民にとって明らかであること)の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的としている。この目的に照らせば,同法8条1項本文,2項は,行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,拒否理由を申請者に明らかにすることによって,透明性の向上を図り,その不服申- 7 -立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。このような理由提示義務の趣旨にかんがみれば,当該拒否処分の理由は,いかなる根拠に基づきいかなる法規を適用して当該申請が拒否されたかを,申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならず,単に当該拒否処分の根拠規定を示すだけでは,理由付記の程度としては不十分というべきである。 そして,拒否処分がされた時点で当該拒否処分に理由付記の不備があれば,当該拒否処分は,実体的に正しいか否かにかかわらず,違法として取り消されるべきである(最高裁昭和60年1月22日第三小法廷判決,同平成4年12月10日第一小法廷判決等参照)。 しかるところ,近畿運輸局長は,本件却下処分に当たり,「道路運送法9条の3第2項第3号に適合しない」との理由を示すのみで,何ら具体的な理由を示していないから,本件却下決定は,行政手続法8条1項本文,2項に違反し,違法というべきである。 (イ)被告は,理由付記の程度について,当該処分の根拠規定を示すだけで当該規定の適用の基礎となった根拠をも当然に知り得るような場合には,当該処分の根拠規定を示すだけで足りる 違法というべきである。 (イ)被告は,理由付記の程度について,当該処分の根拠規定を示すだけで当該規定の適用の基礎となった根拠をも当然に知り得るような場合には,当該処分の根拠規定を示すだけで足りるとし,道路運送法9条の3第2項3号は具体的な事由を規定しているから,本件却下処分の理由として同号に該当しないことが付記されていれば,同号の適用の基礎となった根拠を知り得るのであって,本件却下処分には理由付記の不備の違法はない,などと主張する。 しかしながら,同号は抽象的,概括的な規定であり(このことは被告自身も後記2(1)において認めている。),同号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」があるものとしては,様々なものがあり得る。 また,被告が主張する本件却下処分の理由は,原告の平年度における- 8 -収支率が審査基準公示に適合しないため,本件認可申請に係る運賃の変更が同号にいう他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがあるというものである。そして,被告が本件訴訟で原告の収支について具体的に主張していることからすれば,近畿運輸局長は,本件却下処分をした時点において,このような具体的事実を理由として記載することが容易にできたはずである(乙8の6参照)。 したがって,本件却下処分の理由付記の不備は明白である。 (ウ)被告は,タクシー事業の運賃の認可については,申請者の実績年度の原価及び収入を基に審査を行い,その際に考慮すべき人件費は標準人件費の90%を基準とすることなどを定めた審査基準公示が公表されているから,原告を含む申請者は,近畿運輸局長の判断の基礎となる事実を認識し得たのであり,したがって,本件却下処分には理由付記の不備の違法はない,などと主張する。 しかし めた審査基準公示が公表されているから,原告を含む申請者は,近畿運輸局長の判断の基礎となる事実を認識し得たのであり,したがって,本件却下処分には理由付記の不備の違法はない,などと主張する。 しかしながら,タクシー事業の運賃認可に係る審査基準が作成,公表されるべきことは,行政手続法5条1項,3項の規定による当然の結果であって,基準自体を公表しても,何ら処分の理由を示したことにはならず,また,審査基準公示の存在により近畿運輸局長の判断の基準及び判断の基礎となる事実を現に認識し又は認識し得ることにはならないことは明らかである。なお,審査基準公示のうち申請者の原価及び収入の査定に当たり個人タクシーの人件費は標準人件費の90%を基準とするとの部分は,平成16年10月1日付け改正において追加され,本件認可申請時及び本件却下処分時においては存在していなかった。また,近畿運輸局長は,原告の収支率を計算した各表や原価計算対象事業者の平均人件費の資料につき,原告の開示請求に対して実質的に開示せず,上記の計算過程や根拠数値等を明らかにしなかった。 - 9 -(エ)以上のとおり,本件却下処分に付された程度の理由で十分であるとすれば,行政庁に対して処分理由の開示を義務付けている行政手続法8条の趣旨は著しく没却されることになるから,本件却下処分は,同条1項本文,2項に反し,違法というべきである。 イ審査基準の不作成及び非公表第147回国会における道路運送法改正時の衆議院及び参議院の附帯決議では,道路運送法9条の3第2項3号にいう他の事業者との間で不当競争を引き起こすおそれのある運賃についての具体的基準を定めることが求められており(乙2の3,乙3の4),また,第151回国会衆議院国土交通委員会における政府委員の答弁でも,新たな運賃認可基準の公表が約束され こすおそれのある運賃についての具体的基準を定めることが求められており(乙2の3,乙3の4),また,第151回国会衆議院国土交通委員会における政府委員の答弁でも,新たな運賃認可基準の公表が約束されている(甲12)。しかし,後記2(2)のとおり,審査基準公示というのは,申請に係るタクシー事業の運賃が原価を償うか否かを基準とするものであるから,平成12年法律第86号による改正前の道路運送法の発想に基づくものであり,同改正後の道路運送法(現行道路運送法)の趣旨とは合致しない。 そうすると,現在に至っても,他の事業者との間で不当競争を引き起こすおそれのある運賃(いわゆるダンピング運賃)についての具体的基準は作成,公表されていないというべきであり,この具体的基準の不公表は,タクシー事業の運賃の認可に係る審査基準を作成,公表することを求めている行政手続法5条1項,3項に違反するというべきである。 したがって,上記の具体的な審査基準が作成,公表されないまま近畿運輸局長によってされた本件却下処分は,同法5条1項,3項に違反し,違法というべきである。 ウ以上のとおり,本件却下処分には理由付記の不備並びに審査基準の不作成及び非公表の手続的違法があり,同処分は取り消されるべきである。 (2)被告の主張- 10 -本件却下処分には,理由付記の不備又は審査基準の不作成若しくは非公表の手続的違法はない。 ア理由付記について行政手続法8条が行政処分をする場合に理由を提示しなければならないとしているのは,処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものである。このような趣旨にかんがみると,当該処分の根拠規定を示すだけで当該規定の適用の基礎となった根拠をも当然に知り得るような ,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものである。このような趣旨にかんがみると,当該処分の根拠規定を示すだけで当該規定の適用の基礎となった根拠をも当然に知り得るような場合には,処分理由は,当該処分の根拠規定を示すだけで足りると解すべきである。 これを本件についてみると,道路運送法9条の3第2項3号は「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」という具体的な事由を規定しており,処分理由としてその条項自体が付記されていれば,同号の適用の基礎となった根拠を知り得ると考えられる。その上,後記のとおり,近畿運輸局長は審査基準公示に従って道路運送法9条の3第2項に基づく審査を行ってタクシー事業の運賃の設定又は変更の認可申請を処理しており,また,同公示は公表されているから,原告を含むタクシー事業の運賃の設定又は変更の申請者は,近畿運輸局長が同公示に従って認可申請を処理すること及び同公示の内容を知り得る。そして,同公示は,近畿運輸局長による平年度における申請者の原価及び収入の査定は,申請者の実績年度の原価及び収入を基に行うこととし(審査基準公示別紙4第3項1),個人タクシーの人件費については標準人件費の90%を基準とすることなどを明らかにしているから,申請者は,近畿運輸局長の判断の基礎となる事実を認識し得る。以上のとおり,申請者は,処分理由として道路運送法9条の3第2項3号の条項が示されれば,当該申請に係る処分の根拠を当然に知り得たというこ- 11 -とができる(甲6参照)。 なお,原告は,審査基準公示のうち個人タクシーの人件費は標準人件費の90%を基準とするとの部分は,平成16年10月1日付け改正で追加されたもので,本件認可申請時及び本件却下処分時には存在してい )。 なお,原告は,審査基準公示のうち個人タクシーの人件費は標準人件費の90%を基準とするとの部分は,平成16年10月1日付け改正で追加されたもので,本件認可申請時及び本件却下処分時には存在していなかった,などと主張する。確かに,上記改正前の審査基準公示は,上記の基準を個人タクシーの人件費の査定にも適用するとは明示していない。しかしながら,個人タクシーの人件費を適正に算定する必要が高いことは明らかであることからすれば,上記改正前の審査基準公示が,個人タクシーの人件費の査定に当たり,同別紙4第3項1の「その他の場合には標準人件費を10%下回る額で人件費を査定することとする」との基準を適用することを予定していたことは,明らかである。そして,同別紙4第4項4は,本件を含めて個人タクシー事業者が低額運賃の認可申請をする事案が多数生じてきたことを踏まえ,上記の基準が個人タクシーの人件費の査定にも適用されることを文面上明確にしたにすぎないものというべきである。また,原告は,近畿運輸局長が原告の収支率の計算に係る資料を実質的に開示せず,上記の計算過程や根拠数値等を明らかにしなかったなどと主張するが,同局長が上記資料を一部不開示としたのは,各事業者の平均給与月額等の数値が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イ(個人情報)に該当すると判断したからである。 以上のとおり,本件却下処分に付記された理由は,行政手続法8条の定める理由の提示として十分なものというべきである。 イ審査基準の作成及び公表について原告は,道路運送法9条の3第2項3号にいう他の事業者との間で不当競争を引き起こすおそれのある運賃についての具体的審査基準が作成,公表されていないから,本件却下処分は行政手続法5条1項,3項に違反し違法である,などと主張するが,後記2(1)の 事業者との間で不当競争を引き起こすおそれのある運賃についての具体的審査基準が作成,公表されていないから,本件却下処分は行政手続法5条1項,3項に違反し違法である,などと主張するが,後記2(1)のとおり,審査基準公示が上- 12 -記の具体的審査基準にほかならず,本件却下処分は審査基準公示に基づいてされたから,同処分は上記各条項に違反しないというべきである。 ウ以上のとおり,本件却下処分には,理由付記の不備又は審査基準の不作成若しくは非公表の手続的違法はない。 争点(2)(本件却下処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)について(1)被告の主張近畿運輸局長が,本件却下処分をするに当たり,本件認可申請に係る旅客の運賃及び料金が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」に適合しないと判断したことについて,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法はない。 ア本件却下処分の理由近畿運輸局長は,審査基準公示(前記前提となる事実等(3)ア,別紙第3参照)において定められている基準に従い,本件認可申請に係るタクシー事業の運賃が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」に適合しないと判断した。 (ア)審査基準公示の骨子近畿運輸局長は,多数のタクシー事業の運賃の認可申請を迅速かつ公平に処理するため,認可の具体的基準として審査基準公示を定めている。 審査基準公示のうち本件に関連する部分を要約すると,以下のとおりである。 a近畿運輸局長は,あらかじめ標準的な運賃(これを「自動認可運賃」という。以下同じ。)を設定,公示する。本件却下処分当時の自 審査基準公示のうち本件に関連する部分を要約すると,以下のとおりである。 a近畿運輸局長は,あらかじめ標準的な運賃(これを「自動認可運賃」という。以下同じ。)を設定,公示する。本件却下処分当時の自動認可運賃は,自動認可運賃公示(別紙第4)のとおりである。近畿- 13 -運輸局長は,自動認可運賃に該当する運賃の認可申請については速やかに認可を行い,自動認可運賃に該当しない運賃の認可申請については,認可要件に沿って,不当な競争を引き起こすおそれがないか否か,不当に差別的なものでないか否か,などを個別に審査する。(審査基準公示4項)b自動認可運賃に該当しない運賃の認可申請については,申請者に,実績年度の原価及び収入を基に審査基準公示別紙2第2項ないし第8項に従って算定した書類を申請書に添付して提出させ,近畿運輸局長は,この添付書類を基に,平年度(翌々年度)における申請者の原価及び収入を査定する。具体的には,申請者が,収支見積書に実績年度の実績数値並びに翌年度及び平年度の見積り数値を記載して,実績年度の実績数値(原価及び収入)が,運賃を変更することによって1年後及び2年後にどう変化するかを予想し,平年度に収支が償うか否かの見積りを示す。これに対し,近畿運輸局長が,審査基準公示別紙2第2項ないし第8項に基づき,申請者の見積もった数値が実績数値に対し合理的な算出に基づくものであるか否かを査定する。その際,個人タクシーの人件費については,原価計算対象事業者の運転者1人当たり平均給与月額の平均の額(以下「標準人件費」という。)を10%下回る額とする。本件却下処分当時の標準人件費は,30万0999円である。(審査基準公示別紙4第3項)以上の査定の結果,平年度の収支率(収入を原価で除した率)が100%に満たない場合には,申請に係る運賃は採算 る。本件却下処分当時の標準人件費は,30万0999円である。(審査基準公示別紙4第3項)以上の査定の結果,平年度の収支率(収入を原価で除した率)が100%に満たない場合には,申請に係る運賃は採算割れとなるから,近畿運輸局長は,その運賃変更を認可しない。 (イ)本件への当てはめ近畿運輸局長は,原告の本件認可申請が自動認可運賃を下回る運賃額を内容としていたため,同申請に係る申請書添付書類に基づき,平年度- 14 -における原告の原価及び収入を査定した。その要点は以下のとおりである(乙8の6。なお,被告は,本訴において,下記の査定には計算過程に結論にさしたる影響を及ぼさない若干の誤りがあるとして,aの収入につき417万8000円,bの原価につき507万2000円,b⑤のその他諸経費につき93万8000円,cの収支率につき82.37%を査定額(値)とする旨主張する。)。 a収入査定審査基準公示別紙2第5項に基づき,当時の他の低額運賃実施の個人タクシー事業者の走行距離,実車距離等をもって査定したところ,416万9000円と見積もられた。 b原価査定審査基準公示に基づき査定した結果,505万4000円と見積もられた。その内訳は以下のとおりである。 ①人件費審査基準公示別紙4第3項の1に基づき,標準人件費(30万0999円)を10%下回る額(27万0899円)の12か月分に相当する325万1000円(百の位を四捨五入)と見積もられた。 ②燃料油脂費審査基準公示別紙2第6項の2(2)に基づき,36万2000円と見積もられた。 ③車両修繕費審査基準公示別紙2第6項の2(3)に基づき,22万7000円と見積もられた。 ④車両償却費審査基準公示別紙2第6項の2(4)に基づき,29万4000円と見積もられた。 - 15 -⑤そ 費審査基準公示別紙2第6項の2(3)に基づき,22万7000円と見積もられた。 ④車両償却費審査基準公示別紙2第6項の2(4)に基づき,29万4000円と見積もられた。 - 15 -⑤その他諸経費審査基準公示別紙2第6項の2(5)に基づき,92万円と見積もられた。 c以上の査定の結果,原告の平年度における収支率は82.49%(416万9000円/505万4000円)と見積もられ,本件認可申請に係る運賃が原価を償わないため,審査基準公示の定めた基準に適合せず,本件認可申請は道路運送法9条の3第2項3号の認可基準に適合しないと認められた。 (ウ)イ以下では,上記の本件却下処分の理由が合理的であり,同処分には裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法がないことを説明する。 イタクシー事業の運賃認可制の趣旨タクシー事業は不特定多数の国民が利用することから,タクシーによる輸送の安全と旅客の利便を確保する必要がある。そのため,道路運送法は,タクシー事業について許可制を採用した(3条1号ハ,4条)。 また,タクシー事業においては,運賃が基本的に走行距離によって定まるため降車の際に初めてその額が確定し,利用者と運転者が1対1であり,利用者は事前に乗車するタクシーを選択することが困難な場合が多いことなどから,タクシー事業の運賃を利用者に分かりやすいものとし,安心してタクシーを利用することができるようにする必要がある。しかしながら,仮にタクシー事業の運賃の設定及び変更を届出制とした場合,多種多様な運賃が出現して利用者に分かりにくくなるおそれがあり,また,運賃の過度の値下げ等の不当な競争が生じるおそれもある。そのような事態を防止するため,タクシー事業の運賃の設定及び変更の内容を個別にチェックすることができるよう,道路運送法は,タクシー事業 ,また,運賃の過度の値下げ等の不当な競争が生じるおそれもある。そのような事態を防止するため,タクシー事業の運賃の設定及び変更の内容を個別にチェックすることができるよう,道路運送法は,タクシー事業の運賃の設定及び変更の認可制を採用した(9条の3第1項)。 ウ道路運送法9条の3第2項3号の立法趣旨- 16 -(ア)道路運送法9条の3第2項3号の目的タクシー事業においては,人件費がコストの大半を占めており,また,運転者の賃金(個人タクシーの場合は収入)が基本的に歩合制であることから,過度の運賃の値下げ競争が起こった場合には,過労運転が常態化し,輸送の安全の確保が困難になるおそれがある。また,タクシー事業の運賃の設定及び変更を事業者の自由にゆだねると,事業者が,その経営努力の範囲を超えて原価を著しく下回るような採算割れの運賃を継続し,競争他社が排除されるような事態も生じ得る。そこで,これらの事態を防止するため,道路運送法9条の3第2項3号は,他のタクシー事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれのある運賃の設定及び変更は認可しないこととした。 このことは,以下の道路運送法の改正経緯からも明らかである。 (イ)平成12年法律第86号による改正前の道路運送法9条による運賃規制a道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成12年法律第86号。以下「平成12年改正法」という。)による改正前の道路運送法(以下「旧道路運送法」という。)9条2項は,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)を含む一般乗合旅客自動車運送事業等の運賃変更の認可基準として,1号において「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること」と,4号において「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起 の運賃変更の認可基準として,1号において「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること」と,4号において「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」と,それぞれ規定していた。 b旧道路運送法9条2項4号が運賃の上限を規制する規定でないことは明らかである。なぜなら,ある事業者が他社より高い運賃を設定する場合は,当該事業者が競争に不利となるだけであって,そのような- 17 -運賃の設定によってはそもそも他社との間で競争を引き起こす可能性がないからである。しかるところ,同号は,その文言及び趣旨からすると,公益的な事業である一般乗合旅客自動車運送事業等の経営を維持,継続させるため,事業者が,その経営努力の範囲を超えて原価を著しく下回るような採算割れの運賃を継続し,競争他社を排除するような事態を防止することを目的とするものと考えられる。そして,同号にいう「不当な競争」とは,営業手法等を問題とするものではなく,あくまで運賃の認可基準としてのみ作用する概念である以上,採算,すなわち,原価,利潤を離れては観念し得ないものである。 そうすると,採算割れとなる運賃は,競争他社の排除をもたらし得るものとして,旧道路運送法9条2項4号による運賃の下限規制の対象となるものと解される。 c旧道路運送法9条2項1号は,その文言から明らかなとおり,運賃の下限を規制するものであるとともに,利用者の利益を保護するため,算定の根拠となる利潤等が適正なものであることを要求することによって,運賃の上限をも規制するものである。以下では,本件で問題となる運賃の下限規制について述べる。 同号は,公益的な事業である一般乗合旅客自動車運送事業等の経営を維持,継続させるため,事業者が,その経 て,運賃の上限をも規制するものである。以下では,本件で問題となる運賃の下限規制について述べる。 同号は,公益的な事業である一般乗合旅客自動車運送事業等の経営を維持,継続させるため,事業者が,その経営努力の範囲を超えて原価を著しく下回るような採算割れの運賃を継続し,競争他社を排除するような事態を防止することを目的とするものであると解される。さらに,同号は,タクシー事業においては人件費がコストの大半を占めており,また,運転者の賃金(個人タクシーの場合は収入)が基本的に歩合制であることにかんがみ,過労運転が常態化して輸送の安全を確保することができなくなるおそれを避けることをも目的とするものと考えられる。 - 18 -したがって,採算割れとなる運賃は,旧道路運送法9条2項1号による運賃の下限規制の対象となるものと解される。 d以上のとおり,旧道路運送法9条2項1号は,運賃の上限及び下限を規制するものであり,そのうち下限規制の目的は,輸送安全確保及び競争他社排除防止にあるが,同項4号も,競争他社排除防止の目的から運賃の下限を規制するものである。そして,採算割れとなる運賃は同項1号及び4号の各運賃の下限規制の対象となるから,同各号の各運賃の下限規制は重なり合っているというべきである。 (ウ)現行道路運送法9条の3における運賃規制a前記法令の定め(2)のとおり,平成12年改正法による改正後の道路運送法(現行道路運送法)は,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)の運賃変更の認可基準として,1号において「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」と,3号において「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」とそれぞれ規定している。 b現行道路 利潤を加えたものを超えないものであること」と,3号において「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」とそれぞれ規定している。 b現行道路運送法9条の3第2項1号が運賃の上限のみを規制するものであることは,文言上明らかである。他方,同項3号は,旧道路運送法9条2項4号と同一の文言となっている。 そうすると,現行道路運送法9条の3第2項3号は旧道路運送法9条2項4号と同一の趣旨の規定であって,競争他社排除防止の目的から運賃の下限を規制するにとどまり,輸送安全確保の目的から運賃の下限を規制する規定は現行法上存在しないのではないか,との疑問が生じ得る(なお,競争他社排除防止の目的に関しては,旧道路運送法は,需給調整規制の下で公益的な事業の経営を維持,継続させることを目的としていたのに対し,現行道路運送法は,需給調整規制が廃止- 19 -された中で公正な自由競争の確保を目的としており,それらは異なっている。)cしかしながら,平成12年改正法に係る国会(平成11年の衆議院運輸委員会)の審議等において,タクシー事業においては,人件費がコストの大半を占めており,また,運転者の賃金(個人タクシーの場合は収入)が基本的に歩合制であることから,運賃の過度の値下げ競争が起こった場合には,過労運転が常態化して輸送の安全の確保が困難になるおそれがあるため,運賃の下限を規制する必要があるということが,一貫して強調されている(乙1ないし3,19参照)。そのため,現行道路運送法9条の3第2項の規定は,旧道路運送法9条2項の規定を整理したものであるとみるのが,立法者の意思に合致する。 すなわち,現行道路運送法9条の3第2項3号は,文言こそ旧道路運送法9条2項4号と同一ではあるものの,運賃の下限を規制する 送法9条2項の規定を整理したものであるとみるのが,立法者の意思に合致する。 すなわち,現行道路運送法9条の3第2項3号は,文言こそ旧道路運送法9条2項4号と同一ではあるものの,運賃の下限を規制する根拠規定とされ,旧道路運送法9条2項4号を引き継いで競争他社排除防止の目的から運賃の下限を規制するだけではなく,同項1号の趣旨をも受け継いで輸送安全確保の目的からも運賃の下限を規制するもの(輸送安全確保を困難にさせる運賃の値下げ競争は「不当な」競争に該当する。)と考えるべきである。 さらに,ある事業者が採算割れとなる運賃を設定すると,過労運転が常態化して輸送の安全の確保が困難になるおそれがあるし,競争他社が不当に排除されるおそれもあることは,平成12年改正法の制定の前後を通じて変わるところはない。すなわち,同法に係る国会審議において,政府委員は,不当なダンピング運賃に該当するか否かの判断については,当該運賃が標準原価に基づいた適正な原価を著しく下回るかどうかが一つのメルクマールになる旨答弁し(乙2の2),また,同改正後の国会審議においても,政府委員は,自動認可運賃の下- 20 -限を下回る運賃の申請がされた場合には,申請者ごとに原価計算を行い,不当な競争を引き起こすおそれがある運賃か否かを判断するが,その場合,その原価計算において,申請事業者の人件費が標準の人件費と比較して適正な水準であるかどうかということの審査を行う旨答弁しており(乙20),道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の判断は適正な原価を下回るかどうかを基準とするとの答弁が政府側から一貫してされている。また,同法案を可決した衆議院運輸委員会,参議院交通・情報通信委員会の各附帯決議においても,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業) かどうかを基準とするとの答弁が政府側から一貫してされている。また,同法案を可決した衆議院運輸委員会,参議院交通・情報通信委員会の各附帯決議においても,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)の運賃認可基準には,人件費等の費用について適正な水準を反映させることを求めるとされている(乙2の3,乙3の4)。 したがって,採算割れとなる運賃は現行道路運送法9条の3第2項3号の運賃の下限規制の対象となるとするのが,立法者の意思に合致する。 d以上のとおり,現行道路運送法9条の3第2項3号は,競争他社排除防止及び輸送安全確保の目的から運賃の下限を規制する規定であり,採算割れとなる運賃は,同号の運賃の下限規制の対象となるものと解すべきである。 エタクシー運賃の認可に係る地方運輸局長の裁量権道路運送法9条の3第2項3号は,タクシー事業の運賃の設定及び変更の認可基準の1つとして「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を規定しているが,その基準は抽象的,概括的なものであり,その基準に適合するか否かについては,行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とするというべきである。よって,国土交通大臣からその権限の委任を受けた地方運輸局長は,同号該当性の判断について裁量権を有するというべきで- 21 -あり,地方運輸局長の上記判断が違法となるのは,同局長がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に限られるというべきである(なお,最高裁平成11年7月19日第一小法廷判決は,旧道路運送法9条2項1号該当性の判断について,行政庁に裁量権があることを認めている。)。 オ審査基準公示の合理性(ア)前記アのとおり,審査基準公示は,採算割れとなる運賃は認可しないことを内容と 路運送法9条2項1号該当性の判断について,行政庁に裁量権があることを認めている。)。 オ審査基準公示の合理性(ア)前記アのとおり,審査基準公示は,採算割れとなる運賃は認可しないことを内容とするものであって,過度の運賃の値下げ競争や競争他社の排除の防止という道路運送法9条の3第2項3号の趣旨に照らし,合理的なものである。 (イ)原告は,審査基準公示のうち個人タクシーの人件費は標準人件費の90%を基準とするとの部分は,平成16年10月1日付け改正で追加されたもので,本件認可申請時及び本件却下処分時には存在していなかった,などと主張する。 確かに,上記改正前の審査基準公示は,上記の基準を個人タクシーの人件費の査定にも適用するとは明示していないが,前記1(2)のとおり,上記改正前の審査基準公示が,同別紙4第3項1の「その他の場合には標準人件費を10%下回る額で人件費を査定することとする」との基準を適用することを予定していたことは,明らかである。 (ウ)審査基準公示が個人タクシーの人件費について標準人件費を10%下回る額としたのは,以下の理由による。 すなわち,タクシー事業においては,人件費がコストの大半を占めていることから,運賃の設定及び変更の認可基準の設定に当たっては,特に人件費について適正な水準を反映させることが必要である(乙2の2,3,乙3の3,4)。しかるところ,個人タクシー事業者においては,事業主(運転手)が自在に事業内容を決定することができ,人件費とい- 22 -う概念が希薄であることから,法人タクシー事業者が実施することのできない低額の運賃の設定が可能であり,個人事業者と法人事業者との競争条件が必ずしも公正なものとなっていない。そこで,法人事業者及び個人事業者のコストの平準化を図り,個人事業者の運送コストの大半を きない低額の運賃の設定が可能であり,個人事業者と法人事業者との競争条件が必ずしも公正なものとなっていない。そこで,法人事業者及び個人事業者のコストの平準化を図り,個人事業者の運送コストの大半を占める人件費を法人事業者並みにするため,法人事業者の標準人件費を基準とする必要がある。そして,自動認可運賃の上限と下限の幅が約1割であり,自動認可運賃の上限が原価計算対象事業者のコストを基に設定されていることにかんがみると,個人事業者が当該地域において法人事業者が設定していない新しい運賃を設定しようとする場合,当該個人タクシー事業の人件費が原価計算対象事業者の人件費の90%程度と計算すれば,不当な競争を引き起こすおそれがないものと考えられる。 なお,上記の「原価計算対象事業者」とは,一定の基準により標準的経営を行っているとして選定された事業者(これを「標準能率事業者」という。)の中から一定の基準により抽出したものである(審査基準公示別紙1第1項,別紙2第1項)。この点,抽出事業者数は最低10社とし,30社を超える場合は30社を限度とすることができる(審査基準公示別紙2第1項)ところ,原告がタクシー事業の許可を受けている大阪地区では,29社を原価計算対象事業者として抽出している。そうすると,標準人件費(原価計算対象事業者の運転者1人当たり平均給与月額の平均の額)には,当該地域の平均的,標準的な人件費が適正に反映されているということができる。 したがって,審査基準公示が個人タクシーの人件費について標準人件費を10%下回る額としたことは,合理的な根拠に基づくものというべきである。 (エ)以上によれば,審査基準公示の定める具体的な運賃の認可基準が,近畿運輸局長に与えられた裁量権の範囲内の合理的なものであること- 23 -は,明らかである。 カ くものというべきである。 (エ)以上によれば,審査基準公示の定める具体的な運賃の認可基準が,近畿運輸局長に与えられた裁量権の範囲内の合理的なものであること- 23 -は,明らかである。 カ原告の主張に対する反論原告は,本件却下処分当時には,既に法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者に対して中型車で初乗運賃500円の運賃が認可されていたから,原告の使用車両が小型車であることをも考慮すれば,本件認可申請どおりの運賃の変更が認可されたとしても,他の事業者との間で不当な競争が生じることを具体的に予測することはできず,したがって,本件認可申請に係る運賃が道路運送法9条の3第2項3号の認可基準を満たすことは明らかである,などと主張する。 確かに,本件却下処分当時,法人事業者及び個人事業者に対して,中型車及び小型車の初乗り500円の運賃がそれぞれ認可されていた。 しかし,それらのタクシー事業者については,原価及び収入を個別に査定したところ原価を償うと見積もられたため,初乗り500円の運賃を認可したのであり,収支率が100%に満たないと見積もられた原告とは,全く事情が異なる。また,それらの事業者について無条件に初乗り500円の運賃を認可したのではなく,運賃単価の値下げ幅が大きいため,処分後に不当な競争を引き起こすような状況が生じていないかどうかなど,事業の状況について検証すべく,運賃認可に期限を付し,同事業者に対して1か月ごとに輸送実績等を報告することを求めていた。その結果,初乗り540円以上の運賃については事業として成立すると認められたものの,初乗り500円の運賃については事業として成立することを確認するには至らなかったため,上記期限経過後も,運賃認可に当たって再度期限を付し,さらに状況の推移を検証した。したがって,本件認可申請に係る初 初乗り500円の運賃については事業として成立することを確認するには至らなかったため,上記期限経過後も,運賃認可に当たって再度期限を付し,さらに状況の推移を検証した。したがって,本件認可申請に係る初乗り480円の運賃を認可すべきことが明らかということはできない。さらに,タクシー事業の原価は各事業者の事業形態,経営努力等によって異なり,必ずしも使用車両の大小に比例するものではないから,小型車を使用- 24 -しても,直ちに中型車より安い運賃で原価を償い得ることにはならない。 したがって,他の事業者(法人事業者及び個人事業者の中型車及び小型車)につき初乗り500円の運賃が認可されていたからといって,原告に対して初乗り480円の運賃を認可すべきことにはならないのであるから,原告の上記主張は失当というべきである。 キ以上のとおり,近畿運輸局長が,本件却下処分をするに当たり,本件認可申請に係る旅客の運賃及び料金が道路運送法9条の3第2項3号に該当しないと判断したことについて,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法はない。 (2)原告の主張近畿運輸局長が,本件却下処分をするに当たり,本件認可申請に係る旅客の運賃及び料金が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」には該当しないと判断したことについて,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。 ア本件却下処分の根拠とされた審査基準公示は,道路運送法9条の3第2項3号の趣旨,目的に反する不合理なものであり,タクシー事業に係る運賃の認可基準としては採用することができない。ところで,同号の規定は,平成12年法律第86号(平成12年改正法)により旧道路運送法9条2項4号が改正されてできた 理なものであり,タクシー事業に係る運賃の認可基準としては採用することができない。ところで,同号の規定は,平成12年法律第86号(平成12年改正法)により旧道路運送法9条2項4号が改正されてできたものであるため,道路運送法9条の3第2項3号の立法趣旨及び認可基準の解釈に当たっては,その改正経過をみる必要がある。 イ平成12年改正法による道路運送法の改正に至る経緯平成10年ころを境として,我が国では,規制緩和という大きな政策転換がされた。すなわち,運輸,情報通信,金融その他の分野における経済的規制について,官主導による需給調整等を主要な規制手段とし,事業者- 25 -の予防的保護,監督と安定的な業界秩序の形成により国民の利益を結果的に擁護しようとする従来の考え方に代えて,市場メカニズムを基本とし,健全な競争を可能とする透明性の確保や適切なルール作り,製造物責任等の方策を講じつつ,消費者利益の観点に立って,非効率な既存事業者の温存を避け,活力ある新規参入者を歓迎するとの考え方に抜本的に転換した。 それは,競争市場における各企業の経営努力を重視し,官民の役割分担の見直しを図るものであった。 このような規制緩和政策の一環として,タクシー事業における参入規制,価格規制についても見直しが提言された。すなわち,平成9年12月12日付けで行政改革委員会が内閣総理大臣に答申した「最終意見」(甲11)によれば,タクシー事業の参入規制については,需給調整基準を段階的に緩和するとともに,安全の確保,消費者保護等の措置を講じた上,遅くとも平成13年度までに需給調整規制を廃止することとし,その前倒しに努めること,また,価格規制については,上限価格制を検討の上,遅くとも平成13年度までに措置することとし,その前倒しに努めることとされた。 この答申を受けて,平 規制を廃止することとし,その前倒しに努めること,また,価格規制については,上限価格制を検討の上,遅くとも平成13年度までに措置することとし,その前倒しに努めることとされた。 この答申を受けて,平成12年改正法が制定され,道路運送法が改正された。 ウ平成12年改正法の概要平成12年改正法は,第147回国会衆議院運輸委員会(第10号ないし第12号)及び同参議院交通・情報通信委員会(第16号ないし第18号)における審議を経て,同国会で可決成立した。 その提案理由は,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)は,ドア・ツー・ドアの機動的,個別的公共交通機関として重要な役割を果たしてきているが,経済構造の転換や国民生活の向上を背景とした輸送ニーズの高度化,多様化に適切に対処していく必要性が高まっていることから,- 26 -需給調整規制を廃止し,事業者間の競争を促進することにより,事業者の創意工夫を生かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図ることが求められていること,であった。もっとも,その一方で,輸送の安全及び利用者利便の確保は,需給調整規制廃止後においても旅客自動車運送事業にとって重要な課題であり,これらについて十分な措置を講じていく必要がある,とされた(甲16,17)。 上記の趣旨を実現するためのタクシー事業に係る道路運送法の改正点は,下記のとおりである。 記①事業参入について,免許制を許可制とし,輸送の安全,事業の適切性等を確保する観点から定めた一定の基準に適合している場合に参入を認める。その事業の開始によって,事業の供給輸送力が輸送需要等に対し不均衡とならないか否かなどについての審査(いわゆる需給調整規制)を廃止する。 ②特定の地域において供給輸送力が輸送需要量に対して著しく過剰となり,当該地域における輸送の安 送力が輸送需要等に対し不均衡とならないか否かなどについての審査(いわゆる需給調整規制)を廃止する。 ②特定の地域において供給輸送力が輸送需要量に対して著しく過剰となり,当該地域における輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認められるときは,期間を定めて新規参入及び増車を認めないこととする緊急調整措置を講じることができる。 ③運賃及び料金の設定及び変更について,利用者の利便等を確保するため,引き続き認可制とし,上限価格その他の認可基準を設ける。 ④輸送の安全を確保するため,運行管理者の資格試験制度を導入する。 ⑤タクシー事業において引き続き運転者の質の確保及び事業の適正化を図るため,タクシー業務適正化臨時措置法をタクシー業務適正化特別措置法として恒常化する。 - 27 -エ平成12年改正法による改正後の道路運送法(現行道路運送法)9条の3第2項3号の趣旨(ア)輸送の安全の確保の手段前記ウのとおり,道路運送法改正法案の当初の概要説明から,運賃及び料金の設定及び変更について引き続き認可制を残した理由は,主として,利用者の利便の確保であることが明らかである。しかるところ,立法者は,改正後の道路運送法の下で輸送安全の確保のため,運行管理体制や事後チェックなど他の複数の方策を準備しているのであるから,それらの方策が適宜単独で又は組み合わせて行使されることにより,輸送の安全が確保されるべきである。 (イ)原価による一律の下限価格設定について平成12年5月11日の参議院交通・情報通信委員会(第18号)の審議における質疑からは,原価による下限運賃と不当なダンピング運賃とは異なるものであることが前提になっていることが明らかであるところ,国務大臣は,タクシー事業においては,運転者の賃金が基本的に歩合制である ける質疑からは,原価による下限運賃と不当なダンピング運賃とは異なるものであることが前提になっていることが明らかであるところ,国務大臣は,タクシー事業においては,運転者の賃金が基本的に歩合制であることから,運賃のダンピング競争が起こった場合,過労運転が常態化し,輸送の安全確保が困難となるおそれがあるため,引き続き運賃を認可制とすることにし,不当な競争を引き起こすようなダンピング運賃については認可をしない方針である旨答弁している(甲17)。 したがって,平成12年改正法による改正後の道路運送法(現行道路運送法)の下では,原価による下限運賃の設定をしないことは明らかである。 (ウ)価格競争の奨励平成12年4月26日の衆議院運輸委員会(第12号)の審議において,政府参考人は,タクシー運賃の認可基準について,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないということ- 28 -で,上限については基準を設けているが,他方,不当な競争を意図するダンピング運賃については,認可制の下であらかじめ排除したいが,不当な競争を呼ぶダンピング運賃でないという範囲で,個別のサービスの内容に応じた創意工夫を生かしたサービスを提供するための機動的,弾力的な運賃設定,価格設定を事業者において実施してもらいたい旨答弁している(甲16)。よって,立法者は,タクシー事業者の創意工夫により,ダンピング運賃にならない範囲で,運賃の価格競争がされることを奨励しているのである。 (エ)ダンピング運賃の認定要素平成12年4月26日の衆議院運輸委員会(第12号)の審議において,政府参考人は,当該地域においてタクシー事業を行った場合における事業者の輸送コスト,すなわち標準原価に基づいた輸送コストを審査した上で,適正な原価を著しく下回るかどうかを一つのメルク 審議において,政府参考人は,当該地域においてタクシー事業を行った場合における事業者の輸送コスト,すなわち標準原価に基づいた輸送コストを審査した上で,適正な原価を著しく下回るかどうかを一つのメルクマールとし,それとともに,市場の中での当該事業者の位置付け,意図等の総合的な判断が必要である旨答弁している(甲16)。そうすると,立法者が予定する不当なダンピング運賃の基準は,処分庁により算出された適正な原価を著しく下回るかどうかということだけでなく,市場の中でのその事業者の位置付け,意図等の総合的な判断が必要とされることは明らかである。 オ現行道路運送法9条の3第2項3号の認可基準の解釈(ア)現行道路運送法9条の3第2項1号,3号の認可基準前記イないしエの道路運送法の改正に至る経緯及び平成12年改正法の趣旨等からすれば,タクシー事業における輸送安全の確保及び利用者利益の保護の手段は,事前規制である需給調整及び運賃下限規制という方法から,主として事後的規制手段(指導,取締り,緊急調整措置等)及び市場競争を通じた各事業者の経営努力等にゆだねるという方法に転- 29 -換したことが明らかである。このことは,道路運送法1条に定められた目的の変化からも明らかである。すなわち,旧道路運送法1条は,「道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに,道路運送に関する秩序を確立することにより,道路運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進すること」を同法の目的としていたが,現行道路運送法1条は,「道路運送事業の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,道路運送の利用者の利益を保護するとともに,道路運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進すること」を同法の目的としている。 したがって,現行道路運送法9条の3第2項1号及び3 ることにより,道路運送の利用者の利益を保護するとともに,道路運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進すること」を同法の目的としている。 したがって,現行道路運送法9条の3第2項1号及び3号は,上記の道路運送法の改正の趣旨及び現行道路運送法の目的等に適合するよう,以下のとおりに解釈されるべきである。 まず,同項1号の運賃の設定及び変更の認可基準は,運賃の上限として適正原価に適正利潤を加えたものを超えないことを要求することにより,独占的地位にある企業による不当な超過利潤を抑制し,もって利用者の不利益を防止しようとするものと解すべきである。そして,同号が運賃の下限について何ら言及していないことや,前記の平成12年改正法による道路運送法の改正の趣旨等にもかんがみると,申請に係る運賃が適正原価,適正利潤を償うものでなければならないという旧道路運送法9条2項1号の認可基準は,過剰な事前規制として廃止されたものと解すべきである。 他方,同項3号は,旧道路運送法9条2項4号とその文言において全く変わりがなく,専ら不当な運賃を設定して競合する他社を排除することにより競争制限を図る行為を規制し,ひいては利用者の不利益を防止するための規定であるから,同号の運賃の設定及び変更の認可基準は,事業者ごとに異なる複数の運賃が生じ得ることを前提に,競争関係にあ- 30 -る他の事業者への影響を考慮して,他の認可基準に適合する複数の競争的な運賃について一定の調整を加えるものと解すべきである。そうすると,同号にいう「不当な競争」とは,例えば,経済的に優位に立つ事業者が,正当な理由がないのに,他の事業者と競合する地域についてのみ著しく安い運賃を設定し,他の事業者の能力の向上など正常な企業活動を困難にするような競争をいうものと解すべきである。 (イ)現行道 者が,正当な理由がないのに,他の事業者と競合する地域についてのみ著しく安い運賃を設定し,他の事業者の能力の向上など正常な企業活動を困難にするような競争をいうものと解すべきである。 (イ)現行道路運送法9条の3第2項3号該当性判断に係る裁量権の範囲確かに,国土交通大臣からその権限の委任を受けた地方運輸局長が,道路運送法9条の3に基づいてタクシー事業者に対する運賃の認可を行うに当たっては,高度の専門技術的な知識経験と公益上の判断が要求される場合もあるから,その判断に当たり地方運輸局長に一定の範囲で裁量権が認められることは,否定することができない。 しかしながら,前記のとおり,かつての通達行政等の不明確な裁量権行使による行政が厳しく批判され,官民の役割分担の見直しという観点から規制緩和政策が開始されたことにかんがみれば,現在において広範な行政庁の裁量を認めることは妥当ではない。すなわち,規制緩和政策に基づき道路運送法が改正されたにもかかわらず,従前と同様の下限運賃規制を可能とする行政庁の広範な裁量権が認められるとすれば,事業者の経営の合理化を通じて消費者の利益を保護しようとした平成12年改正法による改正後の道路運送法(現行道路運送法)の趣旨が没却されかねないのである。 したがって,現行道路運送法の下では,地方運輸局長の裁量権行使について,裁判所による介入,是正がより強く要請されているというべきである。このことは,これまでの裁判例において合理性の基準,比例原則,代替案の検討等といった行政裁量に関する司法審査基準が確立し,これらの基準を行政事件訴訟法に明文化する方向での検討が行われてい- 31 -ることからも,明らかである。 なお,本件却下処分は,旧道路運送法9条2項4号の認可基準によっても,近畿運輸局長がその裁量権の範囲を逸脱し,又は 訟法に明文化する方向での検討が行われてい- 31 -ることからも,明らかである。 なお,本件却下処分は,旧道路運送法9条2項4号の認可基準によっても,近畿運輸局長がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があると疑われる事案である。すなわち,①実際に本件認可申請に係る運賃が原価割れしている事実はないこと,②近畿運輸局長が不当な競争を引き起こすこととなるおそれの有無の判断に当たり,当該運賃が原価割れすることのみを根拠とし他の要素を全く考慮しないで本件却下処分をしていること,③本件却下処分は他のタクシー事業者に対してされた処分内容に比して不公平であること,からすれば,本件却下処分は,同号の認可基準に照らしても,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用があるものというべきである。 (ウ)したがって,現行道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」に適合するか否かを審査するに当たっては,申請に係る運賃が原価を著しく下回っていることは認定の一要素にすぎず,その事業者の市場における地位,競争他社排除の意図等の要素を総合的に判断する必要があるというべきである。そして,国土交通大臣(及びその権限の委任を受けた地方運輸局長)が,上記の総合的判断をすることなく,申請に係る運賃が原価を償わないことのみを理由として同号の要件に適合しないと判断することは,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある場合に該当するというべきである。 カ審査基準公示の不合理性(ア)審査基準公示は,原価を下回るタクシー事業に係る運賃を一律に認可しないという基準を設けているが,これが,平成12年改正法による改正後の道路運送法(現行道路運送法)の趣旨,目的に反することは,- 32 - 準公示は,原価を下回るタクシー事業に係る運賃を一律に認可しないという基準を設けているが,これが,平成12年改正法による改正後の道路運送法(現行道路運送法)の趣旨,目的に反することは,- 32 -前記のとおりである。 (イ)審査基準公示(平成16年10月1日付け改正後のもの)は,申請に係る運賃の原価の算出に当たり,個人タクシー事業者の人件費について,標準人件費(法人タクシー事業者を標準事業者として算出した人件費)を10%下回る額としている(この基準を原告に適用したことが,原告の収支率を左右する最大の要因となっている。)。 しかしながら,上記の審査基準公示のような一律の基準によりタクシー事業者の人件費を平準化することが,事業者間の自由な運賃競争を制限することにつながり,道路運送法の目的である利用者の利益保護に反していることは明らかである。 また,上記のように法人事業者の数値を流用して運賃の設定及び変更の審査を行うことは,個別審査を前提とする運賃認可制度として妥当性を欠いているというべきである。このことは,タクシー事業以外の運賃認可において,上記のような審査方法が実施されている例がないことからも明らかである。そして,その審査基準に従えば,申請者自身の数値では運賃が原価を償わない場合にも申請が認められるという不合理な結果を招くことになる。 さらに,法人事業者は,大手企業との提携による運賃の大口割引や長距離割引,運転手の交代による長時間営業や独自の無線配車など,そのスケール・メリットを利用して個人事業者が行うことのできない数々のサービスを実施することが可能であるから,法人事業者と個人事業者の間には規模,事業形態等の面において無視することのできない相違がある。そうすると,個人事業者が法人事業者に対抗するためには,初乗運賃を下げるしか選択肢 ことが可能であるから,法人事業者と個人事業者の間には規模,事業形態等の面において無視することのできない相違がある。そうすると,個人事業者が法人事業者に対抗するためには,初乗運賃を下げるしか選択肢がないのが現実であり,行政裁量によりこれが一律に制限されることとなれば,個人事業者は競争上著しく不利な立場に置かれることになる。よって,審査基準公示は,上記のタクシー事業の- 33 -競争実態に適合せず,個人事業者に対して不平等な結果を招くというべきである。 (ウ)以上のとおり,審査基準公示は不合理であって,道路運送法9条の3第2項3号の運賃認可基準として採用することはできないというべきである。 キ本件認可申請に係る運賃の不当競争の惹起可能性(ア)前記前提となる事実等(2)アのとおり,原告の平年度の収支率は102.9%(収入410万7000円/費用399万1000円)であり,本件認可申請に係る運賃は,原価を償っている。 (イ)本件認可申請は,小型車で初乗運賃480円,じ後406mごとに80円,時間距離併用運賃2分05秒ごとに80円,遠距離運賃5000円超5割引,というものである。 ところで,本件却下処分当時には,既に法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者に対して,中型車で初乗運賃500円,じ後225mごとに50円,時間距離併用運賃1分25秒ごとに50円,遠距離運賃500円超5割引という認可がされ,平成17年当時においては,法人事業者7社で約370台,個人事業者で約300台の車両が初乗運賃500円で稼働していた。さらに,同年末においては,大型車についても初乗運賃500円が多数認可されていた。また,大阪以外の地域では,個人事業者の初乗運賃が法人事業者の同型車の初乗運賃よりも10円程度低く認可されている例も少なくなく,それらの地域にお 型車についても初乗運賃500円が多数認可されていた。また,大阪以外の地域では,個人事業者の初乗運賃が法人事業者の同型車の初乗運賃よりも10円程度低く認可されている例も少なくなく,それらの地域において不当な競争が生じている状況はない。 そうすると,本件認可申請に係る運賃の値下げ幅は小さく,本件認可申請どおりの運賃の変更が認可されたとしても,他の事業者との間で不当な競争が生じることを具体的に予測することはできないというべきである。 - 34 -(ウ)原告は個人タクシー事業者であり,その保有車両も1両のみであるところ,個人事業者の市場に占める割合は全車両数のわずか21%にすぎず,しかも,原告が占めるシェアはわずかであることからすれば,不当な競争が生じる可能性はないというべきである。 この点,被告の懸念は,原告の本件認可申請に係る運賃を認可すれば,他の個人事業者も同様の申請をすることが予想され,その結果,法人事業者との間で不当な競争を引き起こすおそれがある,というものであると推測される。しかしながら,個人事業者は個々に経済的事情が異なっており,各自で自在にその事業内容を決定することができるのであるから,本件認可申請に係る運賃が認可されたとしても,他の個人事業者がそれに追随するという必然性はないというべきである。現に,大阪市域の個人事業者約4000者のうち,初乗運賃500円が認可されている中型車の個人事業者は104者,小型車の個人事業者は156者しかなく,それらの個人事業者は初乗運賃660円や650円の個人事業者と共存している。そして,前記のとおり,国土交通大臣(近畿運輸局長)はダンピング運賃に該当するもののみを不認可とすれば足り,しかも,運賃値下げ競争による混乱は事後的な手段を通じて防ぐことができる。 したがって,上記の論理には飛躍が おり,国土交通大臣(近畿運輸局長)はダンピング運賃に該当するもののみを不認可とすれば足り,しかも,運賃値下げ競争による混乱は事後的な手段を通じて防ぐことができる。 したがって,上記の論理には飛躍があるというべきである。 (エ)国土交通大臣(地方運輸局長)が,自動認可運賃を下回る申請に係る運賃について,利用者に著しい混乱が生じているか否か,不当な競争を引き起こすような状況にないか否かなど,事業の状況について検討する必要があると判断する場合には,期限を付して運賃の設定又は変更の認可をすることも可能であり,実際にそのような条件を付した認可を受けた法人タクシー事業者もある。そうすると,原告のような個人タクシー事業者から自動認可運賃を下回る運賃の変更の申請がされた場合においても,上記と同様に期限付きの認可をすることができない理由はない。 - 35 -(オ)原告は,法人タクシー事業者による無秩序な事業活動に対して,行政による健全な秩序形成への期待を寄せることができず,厳しい競争に生き残るために,やむにやまれず本件認可申請を行ったから,原告に競合他社の排除の目的がないことは明白である。 (カ)以上を総合すれば,本件認可申請に係る運賃は,道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」との認可基準を満たすことは明らかである。 ク被告の主張に対する反論(ア)被告は,審査基準公示別紙4第3項1に基づいて,本件認可申請の審査における個人タクシー事業者である原告の人件費を,標準人件費を10%下回る額と算出している。 しかしながら,前記1(1)のとおり,審査基準公示のうち申請者の原価及び収入の査定に当たり個人タクシーの人件費は標準人件費の90%を基準とするとの部分は,平成16年10月1日付け改正において いる。 しかしながら,前記1(1)のとおり,審査基準公示のうち申請者の原価及び収入の査定に当たり個人タクシーの人件費は標準人件費の90%を基準とするとの部分は,平成16年10月1日付け改正において追加され,本件認可申請時及び本件却下処分時においては存在していなかったから,そもそも,本件認可申請の審査に当たって上記基準を適用することは不当である。 (イ)被告は,原価を償うことができるタクシー事業の運賃の下限を設定することにより,過労運転や白タクなどの違法行為を防止することができ,それが利用者の利益につながるなどと主張する。 しかしながら,ダンピング運賃規制の目的の一つとして輸送安全の確保が含まれているとしても,それは不当競争によって過労運転が常態化し利用者の安全が脅かされているなどの極限的な状況を防止するものであり,輸送安全の確保を強調して原価に基づく下限運賃規制を維持するのは,行き過ぎた事前規制というべきである。ダンピングに至らない程度の運賃の値下げ競争は,むしろ利用者の利益となるのであって,前記- 36 -のとおり,道路運送法はそのことを当然に許容しているというべきである。また,人件費を観念することができない個人タクシー事業者に対して,法人タクシー事業者の人件費を適用することは,極めて不合理である。 (ウ)被告は,旧道路運送法9条2項4号(及び現行道路運送法9条の3第2項3号)は,申請事業者の採算(原価,利潤)を離れては観念し得ないと主張する。 しかし,同各号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」との文言からは,タクシー事業の運賃の認可基準を申請事業者の採算のみに限定する必然性はないというべきである。国会の審議において,政府参考人も,ダンピング運賃の認定は,原価を下回ることだけでは それ」との文言からは,タクシー事業の運賃の認可基準を申請事業者の採算のみに限定する必然性はないというべきである。国会の審議において,政府参考人も,ダンピング運賃の認定は,原価を下回ることだけではなく,市場の中での当該事業者の位置付けや意図をしんしゃくして総合的に判断すべき旨答弁している(乙2の2)。 さらに,運賃の下限規制において原価を考慮することは,利用者の利益保護の観点からすると,むしろデメリットが多いというべきである。 すなわち,各タクシー事業者の経営の実際からすれば,運賃は,原価に利潤を加えて決定されるものではなく,市場の需給状況や競争他社の価格動向をみながら決定されるものであって,その後にどれだけコストを削減して利潤を確保するかが,事業者の経営手腕を問われる場面なのである。処分庁が算出した原価を下回っているからといって,直ちに輸送の危険に結びつくわけではないから,一律に原価を下回る運賃を認可しないとすることは,各事業者によるコスト削減へのインセンティブを失わせ,かえって利用者の利益を損う結果になるというべきである。 (エ)被告は,旧道路運送法9条2項1号及び4号の各運賃の下限規制は重なり合っていると主張する。 - 37 -しかし,このような解釈を前提とすると,同項4号は全く無用な規定ということになり,妥当でない。むしろ,同号は,前記のとおり,タクシー事業者ごとに異なる複数の運賃が生じ得ることを前提に,競争関係がある他の事業者への影響を考慮して,同項1号ないし3号の各認可基準に適合する複数の競合的な運賃について,一定の調整を加えることを意図した別個の認可基準であると理解すべきである。 ケ以上のとおり,申請に係るタクシー事業の運賃が道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」に該当するか否 ことを意図した別個の認可基準であると理解すべきである。 ケ以上のとおり,申請に係るタクシー事業の運賃が道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」に該当するか否かを審査するに当たっては,市場の中での当該事業者の位置付け,意図等の要因を総合的に判断しなければならず,申請に係る運賃が処分庁により算出された原価を下回っているか否かを唯一の基準とすることは明白な誤りである。したがって,近畿運輸局長が,申請に係る運賃が原価を下回っているか否かを唯一の基準とする審査基準公示に従って,本件認可申請に係る運賃が同号の認可基準に該当しないと判断し,本件却下処分をしたことについて,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があることは明白である。そして,上記の総合判断をすれば,本件認可申請に係る運賃が,同号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」との認可基準を満たすことは明らかである。 争点(3)(義務付けの訴えの認容要件の有無)について(1)原告の主張近畿運輸局長が原告に対して本件認可申請に応じた運賃及び料金の変更認可処分をすべきことは道路運送法9条の3から一義的に明白であるから,近畿運輸局長に対し同処分をすべき旨を命ずべきである。 ア道路運送法9条の3第2項は,国土交通大臣は,タクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の設定又は変更の認可をしようとするときは,同項各号に掲げる基準によって「しなければならない」と規定していることからす- 38 -れば,国土交通大臣(及びその権限の委任を受けた地方運輸局長)は,タクシー事業者の申請に係る運賃が同項各号に規定する認可基準に該当するときは,当該申請に係る運賃の認可をしなければならないことは明らかである。 イ本件認可申請に係る運賃の道 けた地方運輸局長)は,タクシー事業者の申請に係る運賃が同項各号に規定する認可基準に該当するときは,当該申請に係る運賃の認可をしなければならないことは明らかである。 イ本件認可申請に係る運賃の道路運送法9条の3第2項3号該当性前記2(2)のとおり,国土交通大臣(地方運輸局長)が道路運送法9条の3第2項3号の認可基準に基づきタクシー事業に係る旅客の運賃の設定又は変更の認可申請の却下処分をすることができるのは,申請に係る運賃が原価を著しく下回っていることのほか,その事業者の市場における地位,競争他社排除の意図等の要素を総合的に判断して,当該申請に係る運賃が利用者の不利益となるような不当な競争を引き起こすおそれがあることが具体的に予測される場合でなければならず,他方,国土交通大臣(地方運輸局長)は,そのような場合に該当しない限り,当該申請に係る運賃の設定又は変更を認可しなければならない。 しかるところ,前記2(2)キで述べたとおり,原告がした本件認可申請に係る運賃は,道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」との認可基準を満たすことは明らかである。 ウ以上のとおり,原告の本件認可申請に係る運賃は,道路運送法9条の3第2項3号の認可基準を満たし,かつ,同号以外の認可基準のいずれも満たすことは明らかであるから,近畿運輸局長が本件認可申請に応じた運賃及び料金の変更認可処分をすべきことは,同条から一義的に明白である。 よって,近畿運輸局長に対し同処分をすべき旨を命ずべきである。 (2)被告の主張前記1(2),2(1)のとおり,本件却下処分は適法というべきである。しかるところ,行政事件訴訟法37条の3第1項2号によれば,義務付けの訴え- 39 -に併合提起された訴えに係る本件却下処分が取り 記1(2),2(1)のとおり,本件却下処分は適法というべきである。しかるところ,行政事件訴訟法37条の3第1項2号によれば,義務付けの訴え- 39 -に併合提起された訴えに係る本件却下処分が取り消されるべきものに該当しない以上,近畿運輸局長に対し本件認可申請に応じて運賃及び料金の変更認可処分をすべき旨を命ずる義務付けの訴えは,訴訟要件を欠く不適法なものとして却下されるべきである。 第4当裁判所の判断 本件却下処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無について(1)道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義ア道路運送法9条の3の規定は,平成12年法律第86号(平成12年改正法)による道路運送法の改正により,同改正前の道路運送法(旧道路運送法)9条が改正されて設けられた条項である。そして,平成12年改正法による道路運送法の改正により,道路運送法の目的及び基本理念,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)の参入規制及び運賃規制の在り方ないし内容等がそれぞれ変更されることとなったことから,(現行)道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義を解釈するに当たっては,上記の改正に係る経過をみることが必要である。 そこで,以下,平成12年改正法による道路運送法の改正に係る経過を検討し,その内容を踏まえて,(現行)道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義を検討することとする。 イ平成12年改正法による道路運送法の改正経過(ア)旧道路運送法の規定平成12年改正法による改正前の道路運送法(旧道路運送法)は,「貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)と相まって,道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確 正経過(ア)旧道路運送法の規定平成12年改正法による改正前の道路運送法(旧道路運送法)は,「貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)と相まって,道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに,道路運送に関- 40 -する秩序を確立することにより,道路運送の総合的な発展を図り,もって公共の福祉を増進すること」を目的とする(同法1条)。 一般乗用旅客自動車運送事業(旧道路運送法においては,同事業と一般乗合旅客自動車運送事業とを併せて「一般乗合旅客自動車運送事業等」とされていた。)を経営しようとする者は,運輸大臣(平成11年法律第160号(平成13年1月6日施行)による改正後は国土交通大臣。以下同じ。)の免許を受けなければならず(旧道路運送法4条1項),一般乗用旅客自動車運送事業の免許は,運送の需要者,運送する旅客その他業務の範囲を限定して行うことができ(同条3項),一時的な需要のための一般乗用旅客自動車運送事業の免許は,期間を限定して行うことができ(同条4項),一般乗用旅客自動車運送事業の免許を受けようとする者は,氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては,その代表者の氏名,経営しようとする事業が一般乗用旅客自動車運送事業であること,予定する事業区域,運輸省令(平成11年法律第160号による改正後は国土交通省令。以下同じ。)で定める事業計画,当該事業の経営が運輸上必要である理由,を記載した申請書等を運輸大臣に提出しなければならない(同法5条)。運輸大臣は,一般乗用旅客自動車運送事業の免許をしようとするときは,①当該事業の開始が輸送需要に対し適切なものであること,②当該事業の開始によって当該事業区域に係る供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないものであること,③当該事業の遂行上適切な計画を有するものであるこ 始が輸送需要に対し適切なものであること,②当該事業の開始によって当該事業区域に係る供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないものであること,③当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること,④当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること,⑤その他当該事業の開始が公益上必要であり,かつ,適切なものであること,の基準に適合するかどうかを審査して,これをしなければならず(同法6条1項),運輸大臣は,免許を受けようとする者又はその役員につき一定の欠格事由がある場合には,一般乗用旅客自動車運送事業の免許を- 41 -してはならない(同法7条)。そして,一般乗用旅客自動車運送事業の免許を受けた者は,やむを得ない事由のない限り,運輸大臣の指定する期日又は期間内に運輸を開始しなければならない(同法8条)。 一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(一般乗用旅客自動車運送事業者)は,旅客の運賃その他運輸に関する料金を定め,又はこれを変更しようとするときは,運輸大臣の認可を受けなければならず(旧道路運送法9条1項),運輸大臣は,上記の認可をしようとするときは,①能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),③旅客の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであること(3号),④他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(4号),⑤運賃及び料金が対距離制による場合であって,運輸大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(5号),という基準によって,これをしなければならず(同条2項 と(4号),⑤運賃及び料金が対距離制による場合であって,運輸大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(5号),という基準によって,これをしなければならず(同条2項),一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金は,確定額をもって定められなければならない(同条5項)。 一般乗用旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務を行わせるため,運輸省令で定める営業所ごとに,年齢,事業用自動車の運行の管理又は運転の経歴その他について運輸省令で定める一定の要件を備える者のうちから,運行管理者を選任しなければならず(旧道路運送法23条1項),運行管理者は,誠実にその業務を行わなければならず(同法23条の2第1項),一般乗用旅客自動車運送事業者は,運行管理者がその業務として行う助言を尊重しなければならず,事業用自動車の運転者その他の従業員は,運行管理者がその業務と- 42 -して行う指導に従わなければならない(同条3項)。 運輸大臣は,一般乗用旅客自動車運送事業者の事業について公共の福祉を阻害している事実があると認めるときは,一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,事業計画を変更すること,運賃,料金又は運送約款を変更すること,自動車その他の輸送施設を改善すること,旅客の円滑な輸送を確保するための措置を講ずること,旅客の運送に関し支払うことあるべき損害賠償のため保険契約を締結すること,を命ずることができる(旧道路運送法31条)。 なお,上記の各運輸大臣(平成11年法律第160号による改正後は国土交通大臣)の権限は,旧道路運送法88条2項,道路運送法施行令1条2項により,地方運輸局長に委任されている。 (イ)現行道路運送法の規定平成12年改正法は,平成12年政令第532号により,平成14年2月1日から は,旧道路運送法88条2項,道路運送法施行令1条2項により,地方運輸局長に委任されている。 (イ)現行道路運送法の規定平成12年改正法は,平成12年政令第532号により,平成14年2月1日から施行された。 平成12年改正法による改正後の道路運送法(現行道路運送法)は,「貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)と相まって,道路運送事業の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,道路運送の利用者の利益を保護するとともに,道路運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進すること」を目的とする(同法1条)。 一般乗用旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,国土交通大臣の許可を受けなければならず(道路運送法4条1項),一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受けようとする者は,氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては,その代表者の氏名,経営しようとする事業が一般乗用旅客自動車運送事業であること,営業区域,営業所の名称及び位置,営業所ごとに配置する事業用自動車の数その他の国土交通省令で定める事項に関する事業計画,を記載した申請書等を国土交通大臣に提出しな- 43 -ければならない(同法5条)。国土交通大臣は,一般乗用旅客自動車運送事業の許可をしようとするときは,①当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであること,②①に掲げるもののほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること,③当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること,の基準に適合するかどうかを審査して,これをしなければならず(同法6条),国土交通大臣は,許可を受けようとする者又はその役員につき一定の欠格事由がある場合には,一般乗用旅客自動車運送事業の許可をしてはならない(同法7条)。 国土交通大臣は,特定の地域において一般乗用旅客自動 通大臣は,許可を受けようとする者又はその役員につき一定の欠格事由がある場合には,一般乗用旅客自動車運送事業の許可をしてはならない(同法7条)。 国土交通大臣は,特定の地域において一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって,当該供給輸送力が更に増加することにより,輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは,当該特定の地域を,期間を定めて緊急調整地域として指定することができ(道路運送法8条1項),国土交通大臣は,上記の緊急調整地域の指定をした場合には,一般旅客自動車運送事業の許可の申請が一般乗用旅客自動車運送事業に係るもので,かつ,当該申請に係る営業区域が当該緊急調整区域の全部又は一部を含むものであるときは,当該許可をしてはならず(同条3項),また,一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(一般乗用旅客自動車運送事業者)は,上記の緊急調整地域の指定がされた場合には,当該緊急調整地域における供給輸送力を増加させるものとして国土交通省令で定める事業計画の変更をすることができない(同条4項)。 一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を定め,又はこれを変更しようとするときは,国土交通大臣の認- 44 -可を受けなければならず(道路運送法9条の3第1項),国土交通大臣は,上記の認可をしようとするときは,①能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),③他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号) であること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),③他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号),④運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(4号),という基準によって,これをしなければならない(同条2項)。 一般乗用旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務を行わせるため,国土交通省令で定める営業所ごとに,運行管理者資格者証の交付を受けている者のうちから,運行管理者を選任しなければならず(道路運送法23条1項),国土交通大臣は,運行管理者試験に合格した者又は事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務について国土交通省令で定める一定の実務の経験その他の要件を備える者に対し,運行管理者資格者証を交付し(同法23条の2第1項),国土交通大臣は,運行管理者資格者証の交付を受けている者が道路運送法若しくは同法に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは,その運行管理者資格者証の返納を命ずることができ(同法23条の3),運行管理者試験は,運行管理者の業務に関し必要な知識及び能力について国土交通大臣が行い(同法23条の4第1項),運行管理者試験は,国土交通省令で定める実務の経験を有する者でなければ,受けることができず(同条2項),運行管理者は,誠実にその業務を行わなければならず(同法23条の5第1項),一般乗用旅客自動車運送事業者は,運行管理者がその業務として行う助言を尊重しなければならず,事業用自動車の運転者その他の従業員は,運行管理者がその業務として行う指導- 45 -に従わなければならない(同条3項)。 国土交通大臣は,一般乗 者がその業務として行う助言を尊重しなければならず,事業用自動車の運転者その他の従業員は,運行管理者がその業務として行う指導- 45 -に従わなければならない(同条3項)。 国土交通大臣は,一般乗用旅客自動車運送事業者の事業について旅客の利便その他公共の福祉を阻害している事実があると認めるときは,一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,事業計画を変更すること,運賃等の上限を変更すること,運賃又は料金を変更すること,運送約款を変更すること,自動車その他の輸送施設を改善すること,旅客の円滑な輸送を確保するための措置を講ずること,旅客の運送に関し支払うことあるべき損害賠償のため保険契約を締結すること,を命ずることができる(道路運送法31条)。 なお,上記の各国土交通大臣の権限(ただし,道路運送法8条1項の規定による緊急調整区域の指定を除く。)は,同法88条2項,同法施行令1条2項により,地方運輸局長に委任されている。 (ウ)平成12年改正法の趣旨以上の(ア),(イ)でみてきたところによれば,平成12年改正法のうち一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)に関する部分の要点は,次のとおりにいうことができる。 すなわち,①「道路運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進すること」という道路運送法の究極の目的は維持しつつ,同法の直接の目的を,「道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに,道路運送に関する秩序を確立する」ことから,「道路運送事業の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,道路運送の利用者の利益を保護する」ことに変更し,②事業参入を免許制から許可制として,輸送の安全,事業の適切性等を確保する観点から定めた一定の基準に適合している場合に参入を認めることとし,その事業の開始によって事業の供給輸送力が輸送需要量に ,②事業参入を免許制から許可制として,輸送の安全,事業の適切性等を確保する観点から定めた一定の基準に適合している場合に参入を認めることとし,その事業の開始によって事業の供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないものであるか否か等についての審査(いわゆる需給調整規定)を廃止し,③特定の- 46 -地域において供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となり,当該地域における輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認められるときは,期間を定めて新規参入及び増車を認めないこととする緊急調整措置を講ずることができることとし,④旅客の運賃及び料金の設定及び変更について,能率的な経営の下における適正な原価を償うか否かという認可基準,並びに,旅客の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ旅客が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであるか否かという認可基準をそれぞれ廃止し,⑤運行管理者の資格試験制度を導入する,というものである。 以上のような平成12年改正法による改正内容,殊に目的規定及び需給調整規制に関する規定の改正内容等にかんがみると,一般乗用旅客自動車運送事業に係る平成12年改正法による道路運送法の改正は,タクシーが個別の利用者の需要に対応したきめ細かな運送サービスを提供することができる機動的でかつ個別的な公共輸送機関であるとの認識の下に,需給調整規制によって過当競争を防止し需要に見合った供給力を設定することにより,秩序ある安定的なサービスの提供を確保し,もって一般乗用旅客自動車運送事業の発展を図るという,旧道路運送法の立法政策から,需給調整規制を廃止して,事業者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利 旧道路運送法の立法政策から,需給調整規制を廃止して,事業者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向上を図るという,利用者保護に重点を置いた立法政策に転換するとともに,タクシー事業においては,増車に伴う固定費が小さいことや,歩合制賃金の下で増車を行えば事業者の収入も増加するということから,事業者の増車意欲が極めて強く,供給過剰になりやすい特性を有しているところ,著しい供給過剰となった場合には,過労運転による事故が起きやすくなったり,運賃の不正収受,利用者とのトラブルといった問題- 47 -が広範に生じる可能性があるなど,輸送の安全,旅客の利便を損なうことになるおそれがあることから,そのような具体的なおそれがある場合に,輸送の安全及び利用者の利便を確保する観点から,新規参入及び増車を停止し,事態の更なる悪化を防止するための緊急調整措置を設けることとしたものであるということができる。そして,その背景には,需給調整規制は,供給輸送量,車両数が輸送需要を下回っている場合に新規参入や増車等を認める制度として,経済成長が続く中で輸送需要が右肩上がりに増加していた状況の下においては,安定的なサービスの提供の確保に一定の役割を果たしていたのに対し,近年の輸送需要の低迷の中で,需給調整規制により,事業の遂行の能力と意欲のある事業者の参入,事業拡大が制限を受け,事業全体の活性化を阻害し,輸送サービスの改善を図ることが困難な状況にあるという認識が存したものと認められる。 ウ現行道路運送法9条の3第2項3号の趣旨前記イにおいて説示したところに加えて平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する規定の改正内容等に が存したものと認められる。 ウ現行道路運送法9条の3第2項3号の趣旨前記イにおいて説示したところに加えて平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する規定の改正内容等にかんがみると,平成12年改正法は,需給調整規制を廃止して,事業者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向上を図るという立法政策の下において,価格の設定が事業経営上の最も基本的な事項であって,できる限り経営者の自主性や創意工夫が尊重されるべきであることから,利用者の需要に対応して創意工夫を活かしたサービスを提供するための機動的,弾力的な運賃等の設定を可能にするとともに,他方で,利用者に対する分かりやすさの確保に加えて,タクシー事業においては人件費が経費の約8割を占めており,また,運転者の賃金が基本的に歩合制であることから,運賃等について不当な値下げ- 48 -競争(いわゆるダンピング競争)が起こった場合には,過労運転の常態化,輸送の安全の確保の困難に結びつくおそれがあり,利用者の利便を損なうことになることにかんがみ,引き続き一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定及び変更についての認可制を維持し,運賃等の上限についての基準を設けるとともに,不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等の設定の防止を図ったものであるということができる。 エ道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義(ア)前記のとおり,旧道路運送法は,需給調整規制によって過当競争を防止し需要に見合った供給力を設定することにより,秩序ある安定的なサービスの提供を確保し,もって一般乗用旅客自動車運送事業の発展を ア)前記のとおり,旧道路運送法は,需給調整規制によって過当競争を防止し需要に見合った供給力を設定することにより,秩序ある安定的なサービスの提供を確保し,もって一般乗用旅客自動車運送事業の発展を図るという立法政策の下に,一般乗用旅客自動車運送事業を含む一般旅客運送事業の旅客の運賃その他運輸に関する料金の設定及び変更について,運輸大臣の認可制を定め,9条2項において,認可の基準として,能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること(1号),特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),旅客の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ,旅客が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであること(3号),他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(4号),運賃及び料金が対距離制による場合であって,運輸大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(5号),と規定していた。 この運賃等の認可制度は,昭和26年法律第183号による道路運送法の制定により自動車運送事業者の旅客又は貨物の運賃その他運輸に関する料金の設定及び変更について導入されたもので,同法制定前におい- 49 -て,自動車運送事業に係る旅客又は貨物の運賃等が物価統制令(昭和21年勅令第118号)の適用を受け,統制額として最高額のみが定められ,その限度において事業者が自由にこれを設定又は変更することができるとされていたのを改めたものである。その趣旨については,運賃等を利用者にはっきりと公示し,利用者の個々に対する不当な差別的取扱いと事業者間の不当な競争を防止することにあるとされており,事業者間の不当な競争を防止するという点については,事業者がサービス 運賃等を利用者にはっきりと公示し,利用者の個々に対する不当な差別的取扱いと事業者間の不当な競争を防止することにあるとされており,事業者間の不当な競争を防止するという点については,事業者がサービスを競うあまり互いに運賃を下げてダンピングに出るということは,事業の経営の根底を動揺させ,事業の確立を図ることができなくなるのみならず,利用者に不測の損害を及ぼすことになるので,事業者相互の公正な競争のために,定額制を採ることが必要であるとされたものであると説明されている。そして,運輸大臣は,各事業者ごとに申請について個別に認可基準に従って審査し認可,不認可の判断をすることが予定され,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,且つ,適正な利潤を含むものであること」(制定当時の道路運送法8条2項1号)の基準についても,事業者ごとに個別にその該当性を審査するものとされ,その結果として,個々の事業者ごとに異なった額の運賃等が認可されることも当然に予定されており,このように事業者間に運賃等の差が生じることをもって直ちに「他の自動車運送事業者との間に不当な競争をひきおこすこととなるおそれ」があるとするものではないが,事業者間に運賃等に関して無理な競争が起こるといった事態を防止するため,「他の自動車運送事業者との間に不当な競争をひきおこすこととなるおそれがないものであること」(制定当時の道路運送法8条2項4号)の認可基準でもって調整するものとすると考えられていたことが,国会における法律案の審議経過からもうかがわれるところである。また,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,且つ,適正な利潤を含むものであること」- 50 -(制定当時の道路運送法8条2項1号)の基準については,物価統制令の下において利潤は事業者の一層の企業努力によって生み出すも ける適正な原価を償い,且つ,適正な利潤を含むものであること」- 50 -(制定当時の道路運送法8条2項1号)の基準については,物価統制令の下において利潤は事業者の一層の企業努力によって生み出すものであるとの前提の下に利潤を考慮せず原価だけで統制額を計算していたのを改め,個々の事業者ごとに原価の内容が異なることを前提に,当該事業者がその事業を運営するに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合になお必要な原価を適正な原価とみて,これに当該事業の種類や地域の実情に合致した適正な利潤を加えた額をもって同号の基準を満たすものと考えていたことも,国会における法律案の審議経過からうかがわれるところである。 以上検討したところからすれば,旧道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業を含む一般旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する規制は,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること」を認可基準とすることにより,運賃及び料金の下限を規制することによって需給調整規制と相まって事業者による秩序ある安定的なサービスの提供を確保するとともに,一定の競争制限を行うことによって特に割高な運賃や適切でない運賃が収受されることのないようにその上限を規制し,また,上記認可基準に従って個々の事業者ごとに異なった額の運賃等が認可される結果として事業者間に運賃等の差が生じ得ることにかんがみ,「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を認可基準として規定し,もって,事業者間に運賃等に関して不当な値下げ競争(いわゆるダンピング競争)が起こるといった事態を防止する趣旨に出たものであるということができる。 これに対し,前記ウで説示したとおり,平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運 て不当な値下げ競争(いわゆるダンピング競争)が起こるといった事態を防止する趣旨に出たものであるということができる。 これに対し,前記ウで説示したとおり,平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する規定の改正は,需給調整規制を廃止して,事業者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活か- 51 -した多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向上を図るという立法政策の下において,利用者の需要に対応して創意工夫を活かしたサービスを提供するための機動的,弾力的な運賃等の設定を可能にするとともに,他方で,利用者に対する分かりやすさの確保に加えて,運賃等について不当な値下げ競争(いわゆるダンピング競争)が起こった場合には,過労運転の常態化,輸送の安全の確保の困難に結びつくおそれがあり,利用者の利便を損なうことになることにかんがみ,引き続き運賃及び料金の設定及び変更についての認可制を維持し,運賃等の上限についての基準を設けるとともに,不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等の設定の防止を図ったものであるということができる。 以上のような旧道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業を含む一般旅客運送事業の旅客の運賃及び料金に関する規定の趣旨,目的,平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する規定の改正の趣旨に加えて,平成12年改正法が旧道路運送法9条2項1号の「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること」の基準を現行道路運送法9条の3第2項1号の「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」の基準に改めた上,旧道路運送法9条2項4号の「他の一般旅 あること」の基準を現行道路運送法9条の3第2項1号の「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」の基準に改めた上,旧道路運送法9条2項4号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準を現行道路運送法9条の3第2項3号として存置したことを併せ考えると,現行道路運送法9条の3第2項は,利用者保護の観点から同項1号において運賃及び料金の上限に関する規制の基準のみを定め,旧道路運送法が運賃及び料金の下限に関する規制の基準としても規定していた「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること」の基- 52 -準を,運賃及び料金の上限に関する規制の基準としての「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」に改めることにより,当該上限の範囲内で,一般乗用旅客自動車運送事業者に利用者の需要に対応して創意工夫を活かしたサービスを提供するための機動的,弾力的な運賃等を設定することを可能にし,もって,利用者の利便の確保,向上を図るとともに,当該運賃及び料金の下限については,原則として事業者の経営努力及び労使間の交渉等にゆだねることとし,ただし,運賃等について不当な値下げ競争(いわゆるダンピング競争)が起こった場合には,過労運転の常態化,輸送の安全の確保の困難に結びつくおそれがあり,利用者の利便を損なうこととなることにかんがみ,利用者保護の観点から,引き続き「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準を同項3号として存置することにより,不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等の設定の防止を図る趣旨の規定と解さ との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準を同項3号として存置することにより,不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等の設定の防止を図る趣旨の規定と解される。そして,このような同項の趣旨及び改正経過からすれば,同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきである。 (イ)被告は,旧道路運送法が一般旅客自動車運送事業の旅客の運賃及び料金の下限に関する規制の基準として規定していた同法9条2項1号の- 53 -「能率的な経営の下における適正な原価を償い」の基準は,輸送の安全確保及び競争他社排除の防止を目的とする規制であり,同項4号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準は,競争他社排除の防止の目的から運賃等の下限を規制するものであって,同各号の各運賃等の下限規制は重なり合っており,採算割れとなる運賃等は,競争他社の排除をもたらし得るものとして,同項4号による規制の対象となるものであったところ,平成12年改正法は,旧道路運送法9条2項の規定を整理したものであり,現行道路運送法9条の3第2項3号は,旧道路運送法9条2項4号を引き継いで競争他社排除の防止 規制の対象となるものであったところ,平成12年改正法は,旧道路運送法9条2項の規定を整理したものであり,現行道路運送法9条の3第2項3号は,旧道路運送法9条2項4号を引き継いで競争他社排除の防止の目的から運賃等の下限を規制するだけではなく,同項1号の趣旨をも受け継いで,輸送の安全確保の目的からも運賃の下限を規制するための基準として規定されたものであるから,タクシー事業に係る採算割れの運賃(能率的な経営の下における適正な原価を償わない運賃)はすべて道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」のある運賃である旨主張する。 確かに,前記のとおり,設定又は変更に係る一般乗用旅客自動車運送事業者の運賃及び料金が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かは,同号にいう「不当な競争」,すなわち,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを判断するに当たっての一つの考慮要素になるものと解される。 しかしながら,前記イ(ウ)において説示したとおり,平成12年改正法による道路運送法の改正により,一般乗用旅客自動車運送事業についても,需給調整規制によって過当競争を防止し需要に見合った供給力を- 54 -設定することにより,秩序ある安定的なサービスの提供を確保し,もって一般乗用旅客自動車運送事業の発展を図るという立法政策から,需給調整規制を廃止して,事業者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向上を図るという,利用者保護に重点を置いた立法政策への転換が行われた 意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向上を図るという,利用者保護に重点を置いた立法政策への転換が行われたことは,関係規定の改正内容及び改正経過に照らして明らかであり,平成12年改正法による改正後の道路運送法が規定する一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の認可制度についても,このような文脈の中に位置付けてその意味内容を理解すべきである。このような観点からすれば,前記(ア)において説示したとおり,旧道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業を含む一般旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の認可制度は,運賃及び料金の下限を規制することにより需給調整規制と相まって事業者による秩序ある安定的なサービスの提供を確保するとともに,一定の競争制限を行うことによって特に割高な運賃や適切でない運賃が収受されることのないようにその上限を規制し,併せて,事業者間に運賃等に関して不当な値下げ競争(いわゆるダンピング競争)が起こるといった事態を防止する趣旨のものであったのに対し,現行道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の認可制度は,利用者保護の観点から運賃及び料金の上限に関する規制の基準のみを定め,旧道路運送法が運賃及び料金の下限に関する規制の基準として規定していた「能率的な経営の下における適正な原価を償い」の基準を認可基準から削除することにより,一般乗用旅客自動車運送事業者に利用者の需要に対応して創意工夫を活かしたサービスを提供するための機動的,弾力的な運賃等を設定することを可能にし,もって,利用者の利便の確保,向上を図るとともに,当該運賃及び料金の下限に- 55 -ついては,原則として事業者の経営努力及び労使間の交渉等に ための機動的,弾力的な運賃等を設定することを可能にし,もって,利用者の利便の確保,向上を図るとともに,当該運賃及び料金の下限に- 55 -ついては,原則として事業者の経営努力及び労使間の交渉等にゆだねることとし,ただし,運賃等について不当な値下げ競争(いわゆるダンピング競争)が起こった場合には,過労運転の常態化,輸送の安全の確保の困難に結びつくおそれがあり,利用者の利便を損なうこととなることにかんがみ,利用者保護の観点から,引き続き旧道路運送法9条2項4号の基準を現行道路運送法9条の3第2項3号として存置することにより,不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等の設定の防止を図る趣旨のものであると解するのが,素直な解釈というべきである。 また,被告の主張するように旧道路運送法9条2項1号による運賃等の下限に関する規制と同項4号による規制とが重なり合うものであったとしても,旧道路運送法9条2項4号の基準がそのままの文言で現行道路運送法9条の3第2項3号として存置されたことからすれば,平成12年改正法による道路運送法の改正により当該基準の意味内容が被告の主張するように変化したと解するのは,文理上も困難というべきであり,平成12年改正法に係る国会審議の内容及び経過等(甲15ないし17,乙1,乙2の1ないし3,乙3の1ないし4)を精査しても,平成12年改正法による改正後の現行道路運送法9条の3第2項の規定が旧道路運送法9条2項の規定を被告の主張するような方向で整理したものであるとの趣旨を読み取ることは困難である。 そして,以上説示したような現行道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の認可制度の趣旨,目的,平成12年改正法による改正経過等からすれば,現行道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車 な現行道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の認可制度の趣旨,目的,平成12年改正法による改正経過等からすれば,現行道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうも- 56 -のと解するのが素直な解釈というべきであり,被告の主張するように,「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」のある運賃及び料金とは能率的な経営の下における適正な原価を償わない運賃及び料金(いわゆる採算割れの運賃等)をいうものと解することはできないというべきである。 また,前記(ア)において説示したところからすれば,旧道路運送法9条2項1号にいう「能率的な経営の下における適正な原価」とは,個々の一般旅客事業者運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価をいうものと解すべきであるが,このような意味における「能率的な経営の下における適正な原価」を償わない運賃及び料金がそれのみで直ちに他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあると経験則上推認することはできず,逆に,上記のような意味における「能率的な経営の下における適正な原価」を償う運賃及び料金であれば他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なお ける適正な原価」を償う運賃及び料金であれば他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれはないと経験則上推認することもできないというべきである(このことは,前記(ア)において説示した旧道路運送法9条2項4号の規定の立法趣旨からも裏付けられるところである。)。 以上のとおりであるから,被告の前記主張は,採用することができない。 (ウ)以上によれば,(現行)道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運- 57 -転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきであるところ,このような判断は,専門的,技術的な知識経験及び公益上の判断を必要とするものであるから,同号の基準に適合するか否かの判断については,国土交通大臣及びその権限の委任を受けた地方運輸局長にある程度の裁量権が認められるものと解される。 オ以上のとおり,国土交通大臣(地方運輸局長)は,一般乗用旅客自動車運送事業の旅客の運賃及び料金の設定及び変更の認可に当たり,当該申請が道 方運輸局長にある程度の裁量権が認められるものと解される。 オ以上のとおり,国土交通大臣(地方運輸局長)は,一般乗用旅客自動車運送事業の旅客の運賃及び料金の設定及び変更の認可に当たり,当該申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合するか否かの判断について,ある程度の裁量権が認められるから,近畿運輸局長が本件却下処分をするに当たり本件認可申請が同号の基準に適合しないとした判断が,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるか否かを検討すべきである。 ところで,前記前提となる事実等(3)のとおり,近畿運輸局長は,同項に基づく審査基準として,別紙第3のとおり,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(平成14年近運旅二公示第11号。審査基準公示)を定め,これに従って一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)に係る旅客の運賃及び料金の設定及び変更の認可を行う運用をしているものと認められる。そこで,まず,審査基準公示が道路運送法9条の3第2項各号の基準に適合するか否かを判断するた- 58 -めの基準として合理的なものであるか否かについて検討することとする。 (2)審査基準公示の合理性ア審査基準公示の概要審査基準公示に基づく近畿運輸局長におけるタクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の設定及び変更の認可申請の処理手続は,概要,以下のとおりである。 (ア)自動認可運賃の設定近畿運輸局長は,後記(イ)の要領で自動認可運賃を設定し,これを事前に公示する(審査基準公示4項,同別紙4第1項)。これに基づき,平成14年1月18日付けで,「一般乗用旅客自動車運送事業の自動認可運賃について」(平成14年近運旅二公示第12号。自動認可運賃公示)が公示されている。 (イ)自動認可運賃の設定方法a原価計算対象 14年1月18日付けで,「一般乗用旅客自動車運送事業の自動認可運賃について」(平成14年近運旅二公示第12号。自動認可運賃公示)が公示されている。 (イ)自動認可運賃の設定方法a原価計算対象事業者の選定近畿運輸局長は,運賃適用地域(需要構造,原価水準等を勘案して運賃改定手続をまとめて取り扱うことが合理的であると認められる地域として近畿運輸局長が定める一定の地域)内において,改定申請事業者の中から標準的経営を行っている事業者を標準能率事業者として選定するが,その選定に当たっては,①原価標準基準(1人1者制個人タクシー事業者及び小規模個人経営者(5両以下),3年以上存続していない事業者,料金について標準的なものと大幅に異なるものを設定している事業者等),②サービス標準基準(事業用自動車の平均車齢が,当該運賃適用地域の全事業者の平均値に比較して,特に高いと認められる事業者,タクシーサービスの著しく不良な事業者等),又は③効率性基準(運賃適用地域の事業者のうち年間平均実働率又は生産性(従業員1人当たりの営業収入)の水準が,当該地域- 59 -内の全事業者の上位からおおむね80%の順位にある水準以下の事業者等),に該当する者を除いた者とする(審査基準公示別紙1第1)。 近畿運輸局長は,標準能率事業者の中から,①車両規模別にそれぞれ50%を抽出する,②その抽出に当たっては,各運賃額別,車両数規模別に申請事業者全体に対する車両数比率を算出し,その比率をもって事業者を抽出する,③抽出事業者数の最低は10社とし,30社を超える場合は30社を限度とすることができるものとする,④抽出事業者の実績加重平均収支率が標準能率事業者の実績加重平均収支率を下回らないように抽出するものとする,との基準により,原価計算対象事業者を抽出する(審 社を限度とすることができるものとする,④抽出事業者の実績加重平均収支率が標準能率事業者の実績加重平均収支率を下回らないように抽出するものとする,との基準により,原価計算対象事業者を抽出する(審査基準公示別紙2第1項)。 b所要増収率の算定近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の実績年度(最近の実績年度1年間)における実績値及びそれに基づいて算定した翌年度(実績年度の翌年度)の算定値等を基に,平年度(実績年度の翌々年度)の一般乗用旅客自動車運送事業の営業費(人件費,燃料油脂費,車両修繕費,車両償却費,その他運送費及び一般管理費),営業外費用及び適正利潤を合計した額,すなわち運賃原価を算定し,また,「実績年度の車キロ当たり収入×査定実車走行キロ」の式により同事業者の運送収入を算定する(審査基準公示別紙2第2ないし第7)。そして,「{運賃原価-(実績年度運送雑収+実績年度営業外収益)}/運送収入-1」の式により,所要増収率を算定する(同別紙2第7,第8)。なお,人件費は給与,退職金,厚生費の合計額とし,「平均給与月額×支給延人員×(1+退職金支給率+厚生費支給率)」の式により算定する。また,平均給与月額は,基準賃金,基準外賃金及び賞与(一時金を含む。)の年間総額の12分の1の額とする(同別紙2第6の2(1))。 - 60 -c自動認可運賃の算定近畿運輸局長は,改定前の上限初乗運賃額に所要増収率を乗じた額(端数は10円単位に四捨五入した額)を上限初乗運賃額とし,この額と,この額から所定の式(例えば,距離制運賃の下限運賃の初乗運賃額は,上限初乗運賃額に小型・免税事業者の下限初乗運賃額を中型・課税事業者の上限初乗運賃額で除したものを乗じた額(端数は10円単位に切上げする。)とされ,時間性運賃の下限運賃の初乗運賃額は,時間性上限運賃の 初乗運賃額に小型・免税事業者の下限初乗運賃額を中型・課税事業者の上限初乗運賃額で除したものを乗じた額(端数は10円単位に切上げする。)とされ,時間性運賃の下限運賃の初乗運賃額は,時間性上限運賃の初乗運賃額に距離制下限初乗運賃額を距離制上限初乗運賃額で除したものを乗じた額とされる。)により算出される下限初乗運賃額(端数は10円単位に切上げした額)の範囲内において,10円単位で初乗運賃額を設定し,さらに,当該初乗運賃額に対応した加算距離及び加算運賃額を所定の式により算定して,それらを自動認可運賃として設定する(審査基準公示3項(2),4項,同別紙2別添2,同別紙3,同別紙4第1項)。 (ウ)自動認可運賃に該当する運賃の認可申請の処理手続近畿運輸局長は,自動認可運賃の認可申請については,速やかに認可を行うものとする(審査基準公示4項,同別紙4第2項)。 (エ)自動認可運賃に該当しない運賃の認可申請の処理手続近畿運輸局長は,申請に係る運賃が当該運賃適用地域の自動認可運賃に該当せず,かつ,運賃改定(運賃適用地域において普通車の最も高額の運賃よりも高い運賃を設定すること)を伴わない運賃に係る申請については,認可要件に沿って,不当な競争を引き起こすおそれがないかどうかや不当に差別的なものでないか等を個別に審査,判断するものとし,次のとおり処理する(審査基準公示4項,同別紙4第3項)。 a原価及び収入の算定近畿運輸局長は,申請者において実績年度の原価及び収入を基に,- 61 -審査基準公示別紙2第2項から第8項(同第6項中適正利潤は運賃原価から除外する。)により算定した(これによらない場合は,合理的な理由を付した上でこれに準じた形で算定した)書類を作成の上申請書に添付して提出することを求めることとする。近畿運輸局長においては,この添付書 外する。)により算定した(これによらない場合は,合理的な理由を付した上でこれに準じた形で算定した)書類を作成の上申請書に添付して提出することを求めることとする。近畿運輸局長においては,この添付書類を基に,平年度における申請者の原価及び収入を査定することとする。ただし,人件費については,申請者の運転者1人当たり平均給与月額(福利厚生費を含む。以下同じ。)が原価計算対象事業者の運転者1人当たり平均給与月額の平均の額(標準人件費)の10%を超えて下回っているときは,(1)労使間で当該申請について了解がある場合,又は(2)過去2年間に労働基準法違反及び自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7号)違反が認定されていない場合は,申請者の実績値を用い,その他の場合には標準人件費を10%下回る額で人件費を査定することとする。 b運賃査定額の算定近畿運輸局長は,上記aによる査定を行った上で,平年度における収支率が100%となる変更後の運賃額(運賃査定額)を算定することとする。ただし,運賃査定額が自動認可運賃となる場合にあっては申請額に最も近い自動認可運賃額をもって運賃査定額とすることとする。 c申請に対する処分近畿運輸局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額以上である場合は申請額で認可することとする。 また,同局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額に満たない場合は運賃査定額を申請者に通知し,通知後2週間以内に申請額を運賃査定額に変更することができることとする。同局長は,変更申請がない- 62 -場合は,当該申請による運賃を設定することによる労働条件への影響等についても審査の上,その適否を判断することとする。 イ審査基準公示の裁量基準としての合理性以上の審査基準公示で定められた運賃認可基準によれば,自動認可運賃 賃を設定することによる労働条件への影響等についても審査の上,その適否を判断することとする。 イ審査基準公示の裁量基準としての合理性以上の審査基準公示で定められた運賃認可基準によれば,自動認可運賃に該当するタクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の設定及び変更の申請は速やかに認可されることとなるが,自動認可運賃は,運賃適用地域内において標準的経営を行っている事業者(標準能率事業者)の中から抽出した原価計算対象事業者の実績値等に基づき適正な利潤を加えて算定された運賃原価を基礎にして上限運賃及び下限運賃がそれぞれ算定されたものであって,原価計算対象事業者の抽出方法及びその下限運賃の算出方法にもかんがみると,申請に係る運賃等の額が自動認可運賃の範囲内にとどまる限り,当該地域内において当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こすような事態はにわかに考え難いから,当該申請に係る運賃等が自動認可運賃に該当する限り,それ以上の個別審査を要することなく,道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般乗用旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を始め同項各号の基準に適合するものとして取り扱うことは,国土交通大臣(近畿運輸局長)の裁量権の行使の在り方として合理性を有しているということができる。 他方,審査基準公示によれば,自動認可運賃に該当せず,かつ,運賃の値上げである運賃改定を伴わない運賃及び料金に係る申請がされた場合には,実績年度の申請者の原価及び収入を基に平年度における申請者の原価及び収入を査定し,それを基に平年度における収支率が100%となる変更後の運賃額(運賃査定額)を算定 び料金に係る申請がされた場合には,実績年度の申請者の原価及び収入を基に平年度における申請者の原価及び収入を査定し,それを基に平年度における収支率が100%となる変更後の運賃額(運賃査定額)を算定して,当該申請に係る運賃等の額が運- 63 -賃査定額以上である場合は,それ以上の個別の審査をすることなく,その額で運賃等の設定又は変更の認可をするものとされており,上記の運賃査定額の算定における原価の算定に当たっては,申請者の実績年度の原価を基に,審査基準公示別紙2第6の適正利潤を除外して算定するものとし,人件費については,申請者の運転者1人当たり平均給与月額が原価計算対象事業者のそれの平均額(標準人件費)の10%を超えて下回っているときは,労使間で当該申請について了解がある場合,又は過去2年間に労働基準法違反及び自動車運転者の労働時間等の改善のための基準違反が認定されていない場合を除き,標準人件費を10%下回る額で査定することとされている。このように,運賃査定額,すなわち,平年度における収支率が100%となる変更後の運賃額の算定においては,前記のとおりタクシー事業においてその経費の約8割を占めているとされる人件費について,原則として原価計算対象事業者の運転者1人当たり平均給与月額の平均の額(標準人件費)を10%下回る額をもって査定するものとし,労使間で当該申請について了解がある場合,又は過去2年間に労働基準法違反及び自動車運転者の労働時間等の改善のための基準違反が認定されていない場合にのみ,その例外として,その運転者1人当たり平均給与月額が標準人件費の10%を超えて下回っている申請者の実績値を用いて査定することとされていて,運転者の給与へのしわ寄せないし過労運転の常態化への配慮がされており,前記認定の原価計算対象事業者の抽出方法をも 準人件費の10%を超えて下回っている申請者の実績値を用いて査定することとされていて,運転者の給与へのしわ寄せないし過労運転の常態化への配慮がされており,前記認定の原価計算対象事業者の抽出方法をも併せ考えると,申請に係る運賃等の額が運賃査定額以上である場合には,当該地域内において当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こすような事態が生ずる可能性は低いと考えられる。そうであるとすれば,当該申請に係る運賃等が運賃査定額を下回らない限り,それ以上の個別審査を要することなく,- 64 -道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を始め同項各号の基準に適合するものとして取り扱うことは,特段の事情がない限り,国土交通大臣(近畿運輸局長)の裁量権の行使の在り方としてその合理性を肯定することができる(もっとも,当該申請に係る運賃等が運賃査定額を上回る場合であっても,当該申請者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定等した意図等に照らして,当該地域内において当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれが認められる特段の事情がある場合は,同項3号の基準に適合しないものとして,当該申請を認可することは許されないものというべきである。)。 さらに,審査基準公示によれば,申請に係る運賃及び料金の額が運賃査定額に満たない場合は,運賃査定額を申請者に通知し,当該申請者から2週間以内に当該申請額を運賃査定額に ないものというべきである。)。 さらに,審査基準公示によれば,申請に係る運賃及び料金の額が運賃査定額に満たない場合は,運賃査定額を申請者に通知し,当該申請者から2週間以内に当該申請額を運賃査定額に変更する旨の申請がない場合は,当該申請による運賃等を設定することによる労働条件への影響等についても審査の上,その適否を判断することとされている。前記のとおり,運賃査定額は,実績年度の申請者の原価及び収入を基に平年度における申請者の原価及び収入を査定し,それを基に平年度における収支率が100%となるよう算定した額であり,原価の算定に当たっては,申請者の実績年度の原価を基に適正利潤を除外して算定するものとされ,人件費については,原則として原価計算対象事業者の運転者1人当たり平均給与月額の平均の額(標準人件費)を10%下回る額をもって査定するものとし,労使間で当該申請について了解がある場合,又は過去2年間に労働基準法違反及び自動車運転者の労働時間等の改善のための基準違反が認定されていない場合にのみ,その例外として,その運転者1人当たり平均給与月額が標準人- 65 -件費の10%を超えて下回っている申請者の実績値を用いて査定することとされており,このようにして算定された運賃査定額を下回る額の運賃等は,通常は,審査基準公示別紙2により算定される原価計算対象事業者に係る運賃原価(ただし,適正利潤を含むもの。)を相当程度下回る低額なものになると考えられるのであって,前記のとおり,タクシー事業においては人件費が経費の約8割を占めているとされる上,運転者の賃金が基本的に歩合制とされていることにもかんがみると,このような運賃等が設定等されることにより当該地域内において他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なう 本的に歩合制とされていることにもかんがみると,このような運賃等が設定等されることにより当該地域内において他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがないと一般的に推認することはできないと考えられる。申請に係る運賃の額が運賃査定額に満たない場合に係る審査基準公示の上記定めは,このような申請について,道路運送法9条の3第2項3号の基準を始め同項各号の基準に適合するものであるか否かを個別具体的に審査,判断すべきことを定めるとともに,当該審査に当たっては,運転者の給与へのしわ寄せひいては過労運転の常態化につながらないよう,当該申請による運賃等を設定等することによる労働条件への影響等についても審査すべきことを定めたものということができ,その限りにおいて,同項の規定の趣旨に沿うものということができる。 なお,原告は,審査基準公示は,申請に係るタクシー事業の運賃の原価の算出に当たり,個人タクシーの人件費についても標準人件費を10%下回る額とし,しかも,その原価を下回る運賃を一律に認可しないという基準を設けているが,これは道路運送法の趣旨,目的に反する,などといった趣旨の主張をする。しかしながら,前記のとおり,審査基準公示は,当該申請に係る運賃及び料金の額が運賃査定額に満たない場合であって,当該申請者が所定の期間内に当該申請額を運賃査定額に変更しないときに,- 66 -当該申請に係る運賃及び料金の設定及び変更を一律に認可しないという形式的,画一的な取扱いを定める趣旨のものではなく,このような申請についても,近畿運輸局長において,当該申請による運賃等を設定することによる労働条件への影響等をも含めて,当該申請が道路運送法9条の3第2 ,画一的な取扱いを定める趣旨のものではなく,このような申請についても,近畿運輸局長において,当該申請による運賃等を設定することによる労働条件への影響等をも含めて,当該申請が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を始め同項各号の基準に適合するものであるか否かを個別具体的に審査,判断すべきことを定める趣旨のものと解されるのであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,失当というべきである。 以上のとおり,審査基準公示それ自体は,道路運送法9条の3第2項各号の基準に適合するか否かを判断するための基準(審査基準)として合理的なものということができる。 ウ審査基準公示の定める運賃査定額に満たない運賃等の設定等が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合するか否かの判断基準前記のとおり,審査基準公示によれば,申請に係る旅客の運賃及び料金の額が運賃査定額に満たない場合であって,当該申請者が所定の期間内に当該申請額を運賃査定額に変更しないときは,近畿運輸局長は,当該申請による運賃等を設定することによる労働条件への影響等についても審査の上,その適否を判断することとされており,その趣旨については,近畿運輸局長において,当該申請による運賃等を設定することによる労働条件への影響等をも含めて,当該申請が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を始め同項各号の基準に適合するものであるか否かを個別具体的に審査,判断すべきことを定めたものと解される。 ところで,前記(1)エで説示したとおり,道路運送法9条の3第2項3- 67 -号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者 ものであるか否かを個別具体的に審査,判断すべきことを定めたものと解される。 ところで,前記(1)エで説示したとおり,道路運送法9条の3第2項3- 67 -号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきである。 しかるところ,前記のとおり,運賃査定額は,実績年度の申請者の原価及び収入を基に平年度における申請者の原価及び収入を査定し,それを基に平年度における収支率が100%となるよう算定した額であり,原価の算定に当たっては,申請者の実績年度の原価を基に適正利潤を除外して算定するものとされ,人件費については,原則として原価計算対象事業者の運転者1人当たり平均給与月額の平均の額(標準人件費)を10%下回る額をもって査定するものとし,労使間で当該申請について了解がある場合,又は過去2年間に労働基準法違反及び自動車運転者の労働時間等の改善のための基準違反が認定されていない場合にのみ,その例外として,その運転者1人当たり平均給与月額が標準人件費の10%を超えて下回っている申請者の実績値を用いて査定することとされており,このようにして ための基準違反が認定されていない場合にのみ,その例外として,その運転者1人当たり平均給与月額が標準人件費の10%を超えて下回っている申請者の実績値を用いて査定することとされており,このようにして算定された運賃査定額を下回る額の運賃等は,通常は,審査基準公示別紙2により算定される原価計算対象事業者に係る運賃原価(ただし,適正利潤を含むもの。)を相当程度下回る低額なものになると考えられるから,もはやこのような運賃等が設定等されることにより当該地域内において他の一- 68 -般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがないと一般的に推認することはできないと考えられる。 しかしながら,運賃査定額を下回る額の運賃等であれば,当該運賃適用地域の特性,当該事業者の企業規模や当該地域市場の中での位置付け等のいかんにかかわらず,直ちに当該地域内において他の一般旅客自動車運送事業者との間に過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあると経験則上推認することもできないことは明らかというべきであり,そうであるからこそ,審査基準公示は,このような運賃等の申請については,当該申請による運賃等を設定することによる労働条件への影響等をも含めて,当該申請が道路運送法9条の3第2項3号を始め同項各号の基準に適合するものであるか否かを個別具体的に審査,判断すべきことを定めていると解されるのである。そして,以上説示したところからすれば,このような運賃等の申請が同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合する る。そして,以上説示したところからすれば,このような運賃等の申請が同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合するか否かについては,当該申請に係る運賃等の額の運賃査定額からのかい離の程度,当該申請に係る運賃等が当該申請者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価(能率的な経営の下における適正な原価)を下回るものであるか否か,下回るものであるとすればその程度(上記の意味における適正な原価を著しく下回るものである場合には,当該申請者について不当な競争により他の一般旅客自動車運送事業者を排除する意図,すなわち,いわゆるダンピングの意図の存在が推認される場合もあろう。),当該申請に係る当該申請者の運転者1人当たり平均給与月額(添付書類に基づく- 69 -もの)と標準人件費(原価計算対象事業者の運転者1人当たりの平均給与月額の平均の額)とのかい離の程度に加えて,当該運賃適用地域の立地条件,規模(都市部か地方部か,人口密集地域か否か,当該地域における他の公共交通機関の事業展開の内容,態様等),当該運賃適用地域における市場の構造,特性等(タクシー事業者の構成(大規模法人による寡占状態か中小規模の事業者を中心とする構造か等),タクシー事業の営業形態(流し営業が中心か車庫待ち営業が中心か等),利用者の利用の実態(近距離利用か遠距離利用か,配車利用か否か等),当該地域において設定されている運賃及び料金の内容,態様等),当該申請者の種別(いわゆる法人タクシーか個人タクシーか等),企業規模,営業形態,運転者の賃金構造等,当該地域における需給事情(供給過剰地域か否か,供給過剰の程度等),運転者の賃金水準,さらには一般的な経 者の種別(いわゆる法人タクシーか個人タクシーか等),企業規模,営業形態,運転者の賃金構造等,当該地域における需給事情(供給過剰地域か否か,供給過剰の程度等),運転者の賃金水準,さらには一般的な経済情勢等を総合勘案した上,当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。 (3)本件却下処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無ア前記(2)で説示したとおり,審査基準公示は,当該申請に係る旅客の運賃及び料金の額が運賃査定額に満たない場合であって,当該申請者が所定の期間内に当該申請額を運賃査定額に変更しないときは,近畿運輸局長は,当該運賃等を設定することによる労働条件への影響等をも含めて,当該申請が道路運送法9条の3第2項3号を始め同項各号の基準に適合するものであるか否かを個別具体的に審査,判断すべきことを定めたものであり,その限りにおいて,同項の規定の趣旨に沿うものということができる。 イしかるところ,前記前提となる事実等に加えて,証拠(甲3,14,18,乙6,8,16ないし18,21)及び弁論の全趣旨によれば,次の- 70 -事実が認められる。 (ア)本件認可申請に係る申請書(平成14年11月26日付け変更認可申請に係る申請書)に添付された「収支見積書」には,原告の実績年度(平成13年度),翌年度(平成14年度)及び平年度(平成15年度)における収支が下記のとおり記載されていた。 記①実績年度(平成13年度)運送収入311万2000円運送原価303万円(内訳)人件費144万円燃料油脂費22万8000円車両修 度)における収支が下記のとおり記載されていた。 記①実績年度(平成13年度)運送収入311万2000円運送原価303万円(内訳)人件費144万円燃料油脂費22万8000円車両修繕費13万8000円車両償却費20万4000円その他運送費93万円収支率102.7%②翌年度(平成14年度)運送収入384万5000円運送原価375万2000円(内訳)人件費168万円燃料油脂費28万2000円車両修繕費16万1000円車両償却費29万4000円その他運送費133万5000円収支率102.5%- 71 -③平年度(平成15年度)運送収入410万7000円運送原価399万1000円(内訳)人件費192万円燃料油脂費38万2000円車両修繕費17万円車両償却費29万4000円その他運送費122万5000円収支率102.9%(イ)近畿運輸局長は,本件認可申請に係る前記申請書の添付書類に基づき,審査基準公示に従って,原告の平年度における収支について下記のとおり査定し,原告の平年度における収支率を82.49%と見積もった上,初乗り540円以下の運賃については,実績等を踏まえた査定上は事業として成立し得ると予想されるものの,実績上は,まだ事業として成立し得ることが確認できていないため,1年間の期限を付して推移を監視することにしたところであるから,現在検証中である運賃水準(最低は初乗り500円)を更に下回るものを現時点で認可するのは適切ではないこと,平成12年改正法による道路運送法の改正に際し運賃認可制が維持された理由及び個人タクシー制度の意義を踏まえると,運賃制度の根幹となる要素(初乗り額等)について,法人タクシー運賃で存在しない範囲の運賃を設定することは慎 る道路運送法の改正に際し運賃認可制が維持された理由及び個人タクシー制度の意義を踏まえると,運賃制度の根幹となる要素(初乗り額等)について,法人タクシー運賃で存在しない範囲の運賃を設定することは慎重に考えるべきものと思料されること,を理由に,同法9条の3第2項3号の基準に適合しないと認められるとして,本件却下処分をすることとしたものである。 なお,近畿運輸局長は,上記査定において,人件費について,原価計算対象事業者29社(乙21。すべて株式会社)の運転者1人当たり平- 72 -均給与月額の平均の額(標準人件費)30万0999円を10%下回る額である27万0899円の12か月分である325万1000円と査定した(なお,被告は,本訴において,下記の査定には計算過程に結論にさしたる影響を及ぼさない若干の誤りがあるとして,下記の各項目のうち運送収入を417万8000円,原価を507万2000円,その他運送費を93万8000円,収支率を82.37%と査定する旨主張している。)。 記①運送収入416万9000円②運送原価505万4000円(内訳)人件費325万1000円燃料油脂費36万2000円車両修繕費22万7000円車両償却費29万4000円その他運送費92万円③収支率82.49%(ウ)平成12年改正法の施行後,平成14年7月4日付けで運賃適用区域を大阪府とし中型車ないし小型車の距離制運賃の初乗運賃を500円とする一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定の認可がされて以降,平成16年2月13日付け本件却下処分当時までに,いわゆる法人タクシー及び個人タクシーを含めて営業区域を大阪府内とし中型車ないし小型車の距離制運賃の初乗運賃を500円とする一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可又は変 処分当時までに,いわゆる法人タクシー及び個人タクシーを含めて営業区域を大阪府内とし中型車ないし小型車の距離制運賃の初乗運賃を500円とする一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可又は変更認可がされていた(上記認可を受けた法人タクシー事業者の1社は5000円を超える金額について3割引の遠距離割引運賃を設定していた(乙18の2の3)。)- 73 -が,これらの認可については,利用者に著しい混乱が生じているかどうか,不当な競争を引き起こすような状況にないかどうか等事業の状況について検証する必要があるとして,当該運賃の実施期間を6か月間ないし1年間とするとともに,当該期間中輸送実績等を暦月ごとにとりまとめ道路運送法94条1項に基づく報告として近畿運輸局長に提出することが条件として付されていた(乙16ないし18)。 (エ)原告は,本件認可申請に当たり,平成15年2月3日受付で,近畿運輸局に対し,本件認可申請の趣旨について,申請人は,同一地域同一運賃に立ち戻り,その中で適正運賃を模索するとともに,運賃以外の部分で競争することが最善であると考えるが,時代の要請として運賃の低額化をするのであれば,まずすべての客に恩恵が行き届く初乗り,爾後の低額運賃を採用したいと考えた,もはや筋や理想を通す環境になく,現実の環境に即し経営維持を考えざるを得ず,そのためには運賃競争に参加し,勝ち残るしかみちがない,申請人としては,あくまで5000円超5割引を批判し反対するが,運賃競争が収束し正常化するまでの過渡的手段として,両方を採用することとした,個人タクシーは社屋や被乗務員など余分なお荷物を抱えていないので,ここで底力を見せ,法人がついて来れないところまですることによって,必ずや勝利とともにその向こうに正常化があると確信する,安売り競争に参加する ーは社屋や被乗務員など余分なお荷物を抱えていないので,ここで底力を見せ,法人がついて来れないところまですることによって,必ずや勝利とともにその向こうに正常化があると確信する,安売り競争に参加するなら,法人の追随を許さない設定が必要であると考えた,個人を本気で怒らせたら法人はついて来れないよというところまでやって,願わくば不毛の争いに終止符を打ちたい,などと記載した陳述書を提出した。 (オ)平成16年2月13日当時,大阪府域における自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃等の認可を受けた法人タクシー事業者は11社でその車両数は656両であり,そのうち初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた事業者は3社でその車両数は173両(初乗運賃500円- 74 -以外の車両も含む。)であった。また,同月末当時,大阪市域における自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃等の認可を受けた個人タクシー事業者は326者であり,そのうち初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた事業者は261者(うち大型車につき1者,中型車につき104者,小型車につき156者)であった。 平成17年12月19日当時,大阪府域における自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃等の認可を受けた法人タクシー事業者は24社でその車両数は1222両であり,そのうち初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた事業者は12社(その中には大型車について初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた事業者も含まれていた。)でその車両数は559両(初乗運賃500円以外の車両も含む。)であった。 同年11月末日当時,大阪市域における自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃等の認可を受けた個人タクシー事業者は426者であり,そのうち初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた事業者は376者(うち大型車につき6者, 大阪市域における自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃等の認可を受けた個人タクシー事業者は426者であり,そのうち初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた事業者は376者(うち大型車につき6者,中型車につき165者,小型車につき205者)であった。 なお,平成17年12月末当時,大阪市域における個人タクシー事業者数は4454者で,その全車両数に占める割合は約21%であった(甲18)。 (カ)平成17年11月1日付けA新聞の記事によれば,大阪府域は,平成12年改正法の施行前からタクシー事業者の競争の激しい地域であったが,施行後は競争は一段と激化したこと,同年9月末時点で大阪府内の全車両のうち初乗運賃500円の車両は約4%の858台であり,また,大阪府内の全車両のうち約8割弱が5000円超5割引の遠距離割引を導入していること,大阪府内の法人タクシーの運送収入はこの10年間で約3割減少したこと,各社は増車を続けており,実車率は10年- 75 -間で10ポイント低下し,39.5%となったこと,1日1車当たりの運送収入は2004年(平成16年)で2万8178円と東京都内の平均4万7454円を大きく下回り,10年前の約7割の水準にあること,大阪府内のタクシー運転手の2004年(平成16年)の月間平均賃金は22万7900円と全産業の男性平均の3分の2程度であること,増車が続けばサービス低下を招きかねないという指摘があること,以上のような指摘がされている。 ウ前記イにおいて認定した事実等によれば,近畿運輸局長は,本件認可申請につき,申請書添付書類に基づき審査基準公示に従って原価及び収入を査定したところ,原告の申請に係る運賃額では平年度における収支率が82.49%となったことに加えて,初乗り500円の運賃を含めて,初乗り540円以下の運賃に 基づき審査基準公示に従って原価及び収入を査定したところ,原告の申請に係る運賃額では平年度における収支率が82.49%となったことに加えて,初乗り500円の運賃を含めて,初乗り540円以下の運賃については,実績上はまだ事業として成立し得ることが確認できていないため,1年間の期限を付して推移を監視する運用をしていること,初乗り500円を下回る運賃は法人タクシー運賃では存在しないことにかんがみて,道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないと判断し,本件却下処分をしたものと認められる。そして,原告の申請に係る運賃の収支率が上記のとおり82.49%(前記のとおり被告は本訴において当該収支率を82.37%と査定すべきものと主張している。)と100%を大きく下回るものとなったのは,原価の主要部分を構成する人件費について,審査基準公示に基づき,法人タクシー事業者から抽出された原価計算対象事業者の標準人件費を10%下回る額で査定したことによるものであることが明らかである。 確かに,前記認定事実によれば,本件認可申請に係る運賃額は,人件費を原価計算対象事業者の標準人件費(運転者1人当たり平均給与月額の平均の額)を10%下回る額で査定し,かつ,適正利潤を除外して算定された原価(運賃査定額)を18%弱も下回る低額なものであったところ,本- 76 -件却下処分当時においては,いわゆる法人タクシー及び個人タクシーを含めて,500円を下回る額の初乗運賃(距離制運賃)が認可された事例はなく,距離制運賃の初乗運賃額を500円とする運賃等の認可がされた法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者は存在していたものの,いずれも,その認可には,利用者に著しい混乱が生じているかどうか,不当な競争を引き起こすような状況にないかどうか等事業の状況について検証する必要がある 者及び個人タクシー事業者は存在していたものの,いずれも,その認可には,利用者に著しい混乱が生じているかどうか,不当な競争を引き起こすような状況にないかどうか等事業の状況について検証する必要があるとして,当該運賃の実施期間を6か月間ないし1年間とするとともに,当該期間中輸送実績等を暦月ごとにとりまとめ道路運送法94条1項に基づく報告として近畿運輸局長に提出することが条件として付されていたというのであり,上記当時,近畿運輸局長において,距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃の設定が同法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合するものであることについての確証が得られていない状況にあったということができる。 しかしながら,前記のとおり,同号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきである。 しかるところ,前記認定事実等によれば,原告に係る運賃適用地域であ- 77 -る大阪府域においては,既に本件却下処分の約1年半前からいわゆる法人タ した意図等を総合的に勘案して判断すべきである。 しかるところ,前記認定事実等によれば,原告に係る運賃適用地域であ- 77 -る大阪府域においては,既に本件却下処分の約1年半前からいわゆる法人タクシー事業者について距離制運賃の初乗運賃につき本件認可申請に係る運賃額をわずか20円上回るにすぎない500円とする運賃の設定認可がされていたが,本件却下処分時である平成16年2月13日当時において,大阪府域における初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた法人タクシー事業者は3社でその車両数は173両であり,また,同月末当時において,大阪市域における初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた個人タクシー事業者は261者であったというのであり,これらからすれば,平成12年改正法の施行後,大阪府域においては,5000円を超える金額について5割引とする遠距離割引の運賃については多数のタクシー事業者が追随した様子がうかがわれるものの(前記イ(カ)参照),距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃については,法人タクシーのみならず,法人タクシーに比べて人件費等の関係から柔軟な運賃設定が可能とされる(乙8の6)個人タクシーにおいても,直ちに多数の事業者が追随するような状況にはなかったということができる。また,前記のとおり,これらの初乗運賃を500円とする運賃等の認可については,利用者に著しい混乱が生じているかどうか,不当な競争を引き起こすような状況にないかどうか等事業の状況について検証する必要があるとして,当該運賃の実施期間を6か月間ないし1年間とするとともに,当該期間中輸送実績等を暦月ごとにとりまとめ道路運送法94条1項に基づく報告として近畿運輸局長に提出することが条件として付されていたが,そのような事態が生じていることをうかがわせるような報告が に,当該期間中輸送実績等を暦月ごとにとりまとめ道路運送法94条1項に基づく報告として近畿運輸局長に提出することが条件として付されていたが,そのような事態が生じていることをうかがわせるような報告がされた形跡はなく,当該運賃の実施期間を更新する取扱いがされてきた様子がうかがわれる。また,前記認定事実等によれば,本件認可申請につき平年度における人件費を申告書添付書類どおり192万円(1か月当たり16万円)とした上,審査基準公示に従って原価及び収入を査定した場合,本訴における被告の主張を前- 78 -提にしても,平年度における収入は417万8000円,原価は374万1000円(人件費192万円,燃料油脂費36万2000円,車両修繕費22万7000円,車両償却費29万4000円,その他諸経費93万8000円)となって,その収支率は111.68%となるのであり,本件却下処分当時距離制初乗運賃を500円とし5000円を超える金額について3割引の遠距離割引運賃とする運賃につき認可を受けていた法人タクシー事業者も存在していたことや,大阪府内のタクシー運転手の平成16年の月間平均賃金は22万7900円と報じられていることを併せ考えると,本件認可申請に係る運賃が「能率的な経営の下における適正な原価」,すなわち,個々の一般乗用旅客事業者運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を償わないものであると即断することはできない。 これらに加えて,前記認定のとおり平成17年12月末当時大阪市域における個人タクシー事業者数は4454者でその全車両数に占める割合は約21%であり,本件却下処分がされた平成16年2月末当時大阪市域における初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた個人タクシー事業者は26 クシー事業者数は4454者でその全車両数に占める割合は約21%であり,本件却下処分がされた平成16年2月末当時大阪市域における初乗運賃を500円とする運賃等の認可を受けた個人タクシー事業者は261者にすぎなかったこと,他方で,甲14,乙6の2によれば,本件却下処分当時既に大阪府域において5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃につき認可を受けていたタクシー事業者も少なからず存在していた様子がうかがわれることをも併せ考えると,前記認定のとおり,本件認可申請に係る営業区域である大阪府域がタクシー事業者の競争の激しい地域であって,平成12年改正法の施行後は競争は一段と激化し,大阪府内の法人タクシーの運送収入はこの10年間で約3割減少し,各社が増車を続ける中,実車率は10年間で10ポイント(10%)低下して39.5%となり,1日1車当たりの運送収入は東京都内の平均値を大きく下回って10年前の約7割の水準にあり,大阪府内- 79 -のタクシー運転手の月間平均賃金は22万7900円と全産業の男性平均の3分の2程度であるなどと報じられていることや,前記イ(エ)の陳述書の記載等からうかがわれる原告の本件認可申請の意図等をしんしゃくしてもなお,距離制運賃の初乗運賃を480円とし,5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とすることを骨子とする本件認可申請に係る運賃の設定が,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあると直ちに推認することはできないものというべきである。そして,前記(2)において説示したところからすれば,本件認可申請に係る運賃の設定が上記の具体的なおそれがあると認められる す具体的なおそれがあると直ちに推認することはできないものというべきである。そして,前記(2)において説示したところからすれば,本件認可申請に係る運賃の設定が上記の具体的なおそれがあると認められるか否かについては,以上説示した諸事情のほか,原告の営業区域である大阪府域におけるタクシー事業者の構成(個人タクシー事業者の車両数に占める割合及び売上高に占める割合等),法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者の各営業形態,利用者の利用の実態,運賃及び料金の内容,態様等に加えて,距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運賃の認可を受けた事業者のその後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利用者の利用状況,当該運賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当該認可が当該区域の市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等をも総合勘案した上,本件認可申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。 しかるに,前記認定のとおり,近畿運輸局長は,本件認可申請につき,これらの事情をしんしゃくせず,審査基準公示に従って査定した本件認可- 80 -申請に係る運賃額の平年度における収支率が82.49%と運賃査定額を下回るものとなったことから,初乗り500円の運賃を含め初乗り540円以下の運賃について1年間の期限を付して推移を監視する運用をしていることや,初乗り500円を下回る運賃は法人タクシー運賃では存在していないことにもかんがみて,道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないと判断し,本件 間の期限を付して推移を監視する運用をしていることや,初乗り500円を下回る運賃は法人タクシー運賃では存在していないことにもかんがみて,道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないと判断し,本件却下処分をしたものであるから,近畿運輸局長の上記判断は,同号の基準適合性に係る判断の専門性,技術性及び公益性にかんがみてもなお,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものというほかないというべきである。 (4) 結論 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件却下処分は,違法であって,取消しを免れないものというべきである。 理由付記について前記前提となる事実等(2)イによれば,本件認可申請を却下する旨の本件却下処分に付記された理由は,本件認可申請が道路運送法9条の3第2項3号に適合しないというものであったことが認められる。 行政手続法8条1項本文は,行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない,と規定している。これは,申請を拒否する理由の有無についての行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,拒否の理由を申請者に知らせることによって,その不服申立てに便宜を与え,これにより行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資する(同法1条参照)趣旨に出たものと解される。このような同法8条1項本文の趣旨にかんがみれば,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に提示(記載)すべき理由としては,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該申請が拒否されたかを,申請者におい- 81 -てその記載自体から了知し得るものでなければならず,単に当該処分の根拠規定を示すだけでは,同項ただし書に る事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該申請が拒否されたかを,申請者におい- 81 -てその記載自体から了知し得るものでなければならず,単に当該処分の根拠規定を示すだけでは,同項ただし書に該当する場合を除き,同項本文の要求する理由の提示として十分でないといわなければならない。 これを本件についてみると,道路運送法9条の3第2項3号は「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」という概括的,抽象的な規定であり,その意義について前記のとおり当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがないものであるとの趣旨に解するとしても,一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定又は変更の認可申請を却下する旨の処分の通知書に同号の基準に適合しない旨記載されただけでは,申請者において認可拒否の基因となった事実関係をその記載自体から知ることはできないから,行政手続法8条1項ただし書にいう「法令に定められた許認可等の要件…が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって,当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるとき」に該当しないことは明らかというべきである。 また,前記1(2)のとおり,道路運送法9条の3第2項各号の基準に適合するか否かの審査基準として審査基準公示が定められ,公にされている(なお,原告は,同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の有無についての具体的基準が作成,公表されておらず,このことは行政手続法5条1項 ている(なお,原告は,同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の有無についての具体的基準が作成,公表されておらず,このことは行政手続法5条1項,3項に違反すると主張するが,審査基準公示が道路運送法9条の3第2項3号の基準適合性の判断に当たっての行政手続法5条1項にいう審査基準に該当することは既に説示したところから明らかであるから,原告の上記主張は採用することができない。)が,審査基準公示によれば,自動認可運賃に該当せず,かつ,運賃改定を伴わない運賃- 82 -に係る申請がされた場合には,申請書の添付書類を基に審査基準公示に従って平年度における申請者の原価及び収入を査定した上で運賃査定額を算定し,申請額が運賃査定額に満たない場合は運賃査定額を申請者に通知し,通知後所定の期間内に申請額を運賃査定額に変更する旨の変更申請がない場合は,当該申請による運賃を設定することによる労働条件への影響等についても審査の上,その適否を判断することとするものとされている。自動認可運賃を下回る運賃に係る認可申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないことを理由に却下された場合,審査基準公示と併せ考えると,申請者は,申請に係る運賃が近畿運輸局長において審査基準公示に従って算定した運賃査定額に満たないものである事実を知ることはできるものの,上記のとおり,そのような場合であっても,審査基準公示は,近畿運輸局長において,当該運賃を設定することによる労働条件への影響等についても審査の上,その適否を個別具体的に審査,判断することを規定しているところ,その具体的な判断基準は審査基準公示において定められておらず,公示等の手段により公にもされていないのである(なお,その判断要素のすべてをあらかじめ審査基準において ,判断することを規定しているところ,その具体的な判断基準は審査基準公示において定められておらず,公示等の手段により公にもされていないのである(なお,その判断要素のすべてをあらかじめ審査基準において明確に定めるのは事柄の性質上困難であるといわざるを得ないから,上記の判断要素が審査基準公示において定められていないこと自体は,行政手続法5条1項,2項に反しないものというべきである。)から,申請者において近畿運輸局長が具体的にいかなる理由で運賃査定額に満たない額の運賃に係る申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないと判断したのかを知ることはできないのである。そうであるとすれば,本件却下処分に係る前記の理由付記については,行政手続法8条1項ただし書にいう「公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって,当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるとき」に該当するということはできないといわざるを得ない。 以上のとおり,本件却下処分に係る理由の提示は,行政手続法8条1項本文- 83 -の要求する理由の提示として十分でないというべきであり,したがって,本件却下処分は,理由付記の点からも違法なものといわざるを得ない。 本件義務付けの訴えについて(1)行政事件訴訟法37条の3第5項の要件該当性についてア近畿運輸局長に対し本件認可申請に応じた旅客の運賃及び料金の変更認可処分をすべき旨を命ずることを求める訴え(請求第2項に係る訴え。以下「本件義務付けの訴え」という。)は,行政事件訴訟法3条6項2号に基づく義務付けの訴えとして提起されたものであることは明らかである。 そして,同訴えに併合して提起された本件却下処分の取消しの訴え(請求第1項に係る訴え)は, いう。)は,行政事件訴訟法3条6項2号に基づく義務付けの訴えとして提起されたものであることは明らかである。 そして,同訴えに併合して提起された本件却下処分の取消しの訴え(請求第1項に係る訴え)は,前記のとおり,その請求に理由があると認められる。 そこで,本件義務付けの訴えを認容すべきか否かを検討する。 イ本件義務付けの訴えは,近畿運輸局長に対し道路運送法9条の3の規定に基づく一般乗用旅客自動車運送事業の旅客の運賃及び料金の変更の認可をすべき旨を命ずることを求めるものであり,前記のとおり,本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項ないし第3項までに規定する要件に該当し,かつ,同条1項2号に定める訴えである本件却下処分の取消訴訟に係る請求に理由があると認められるから,同条5項の規定により本件義務付けの訴えに係る処分である道路運送法9条の3の規定に基づく認可処分につき,近畿運輸局長が本件認可申請に対する認可処分をすべきであることが当該処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は近畿運輸局長が当該処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは,本件認可申請に対する認可処分をすべき旨を命ずる判決をすることになる。行政事件訴訟法37条の3第5項にいう「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認めら- 84 -れ」る場合とは,当該義務付けの訴えによって求められている処分又は裁決について行政庁の裁量の余地がないため,当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定に事実関係をあてはめることによって明白かつ当然に当該処分又は裁決をすべきであると認められる場合をいうと解されるところ,前記のとおり,道路運送法9条の3の規定に基づく国土交通 の根拠となる法令の規定に事実関係をあてはめることによって明白かつ当然に当該処分又は裁決をすべきであると認められる場合をいうと解されるところ,前記のとおり,道路運送法9条の3の規定に基づく国土交通大臣ないしその権限の委任を受けた地方運輸局長は,一般乗用旅客自動車運送事業の旅客の運賃及び料金の設定又は変更の認可申請が少なくとも同条2項3号の基準に適合するか否かの判断について,専門的,技術的な知識経験と公益上の判断を要するものとして,ある程度の裁量権が認められるから,本件認可申請に対する認可処分をすべき旨を命ずる判決をするためには,近畿運輸局長が当該認可処分をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることが要件となるというべきである。 ところで,法令に基づく申請に対し当該処分をするか否かの判断(当該処分の要件を満たすか否かの判断を含む。以下同じ。)について当該処分の根拠となる法令の規定により行政庁に裁量権が認められている場合において,当該申請を却下し又は棄却する旨の処分をした行政庁の判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときであっても,そのことから直ちに,当該申請に対し行政庁が当該処分をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるものではなく,行政事件訴訟法37条の3第5項に基づき当該処分をすべき旨を命ずる判決をするためには,少なくとも事実審の口頭弁論終結時において,当該申請に対し行政庁が当該処分をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることが必要である。 前記のとおり,本件認可申請に対する本件却下処分は,その処分手続に行政手続法8条の規定する理由の提示義務違反(理由付記不備)の違法があるほか,近畿運輸局長において本件認可申請が道路運送法9条の3第2- とおり,本件認可申請に対する本件却下処分は,その処分手続に行政手続法8条の規定する理由の提示義務違反(理由付記不備)の違法があるほか,近畿運輸局長において本件認可申請が道路運送法9条の3第2- 85 -項3号の基準に適合しないと判断した点において,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものと認められる。しかしながら,前記1(3)において認定説示したところによれば,本件認可申請は,道路運送法9条の3第2項1号及び2号の各基準に適合すると認められるものの,同項3号の基準に適合するか否かについては,本件認可申請に係る運賃が「能率的な経営の下における適正な原価」,すなわち,個々の一般乗用旅客事業運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を償うものであるか否か,原告が本件認可申請に係る運賃を設定する意図等に加えて,原告の営業区域である大阪府域におけるタクシー事業者の構成,法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者の各営業形態,利用者の利用の実態,運賃及び料金の内容,態様等並びに距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運賃の認可を受けた事業者のその後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利用者の利用状況,当該運賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当該認可が当該区域の市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等をも総合勘案した上,本件認可申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かという観点から社会通念に従って判断すべきであるところ,本訴 労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かという観点から社会通念に従って判断すべきであるところ,本訴の口頭弁論終結時における証拠関係から認められる事実に照らすと,前記のとおり,近畿運輸局長において,上記の諸事情をしんしゃくせず,審査基準公示に従って査定した本件認可申請に係る運賃額の平年度における収支率が82.49%と運賃査定額を下回るものとなったことから,初乗り500円の運賃を含め初乗り540円以下の運賃について1年間の期限を付して推移を監視する運用をしていることや,- 86 -初乗り500円を下回る運賃は法人タクシー運賃では存在していないことにもかんがみて,同号の基準に適合しないとした判断については,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものと認められるものの,本件認可申請が同号の基準に適合するか否かを判断するために必要な上記の諸事情に係る事実関係を認定するために必要かつ十分な主張,立証は尽くされていないから,本件認可申請に対し近畿運輸局長が認可処分をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認めることはできない。 したがって,現在の主張,立証状態に基づく限り,本件義務付けの訴えに係る請求は,行政事件訴訟法37条の3第5項にいう「行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」の要件を満たさないものというべきである。 (2)行政事件訴訟法37条の3第6項前段該当性について平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正により,行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令の規定に基づく申請又は審査請求がされた場合において,当該行政庁がその処分又は裁決をすべきである 平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正により,行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令の規定に基づく申請又は審査請求がされた場合において,当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないときに,当該処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴えないし当該処分又は裁決に係る申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認訴訟に加えて,新たに行政庁に対し当該処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えが定められた趣旨は,法令に基づく申請等を却下し又は棄却する旨の処分等に係る取消訴訟等の判決によって当該却下処分等の取消し等がされた場合であっても,当該行政庁は,当該判決の趣旨に反しない限りにおいて,改めて当該申請等を却下し又は棄却する処分をすることが妨げられないことなどから,必ずしも十分な救済が得られない場合があることにかんがみ,一定の要件の下で行政庁に対し当該処分等をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えを抗告訴訟の新たな訴訟類型として定め,その活用を図ることにより- 87 -国民の権利利益の救済の実効性を高めることにあるものと解される。そして,上記改正後の行政事件訴訟法が,3条6項2号の義務付けの訴えについて,当該義務付けの訴えによって求められている処分又は裁決について行政庁の裁量の余地がない場合にとどまらず,当該義務付けの訴えによって求められている処分又は裁決について行政庁に裁量権が認められている場合についても,行政庁がその処分又は裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときは,裁判所は,その義務付けの訴えに係る処分又は裁決をすべき旨を命ずる判決をするものと規定している(37条の3第5項)趣旨からすれば,当該義務付けの訴えに 囲を超え又はその濫用となると認められるときは,裁判所は,その義務付けの訴えに係る処分又は裁決をすべき旨を命ずる判決をするものと規定している(37条の3第5項)趣旨からすれば,当該義務付けの訴えによって求められている処分等の根拠となる法令の規定が当該処分等について行政庁に裁量権を認めている趣旨が当該処分等に係る判断の高度の専門性,技術性ないし公益性にあるような場合であっても,上記改正後の行政事件訴訟法は,当該処分等に係る申請等を却下し又は棄却する旨の処分等に係る取消訴訟等の請求に理由があると認められるときは,更に進んで,行政庁がその義務付けの訴えに係る処分等をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるか否かについて審理を尽くした上,当該義務付けの訴えに係る請求に理由があるか否かについて判断することを予定しているものというべきである。 その結果,当該義務付けの訴えに係る請求に理由がないと認められるときは,裁判所は,当該処分等に係る申請等を却下し又は棄却する旨の処分等を取り消し又は当該処分等の無効等を確認する旨の判決をするとともに,当該義務付けの訴えに係る請求を棄却することになるが,その場合においても,行政庁は,当該処分等に係る申請等を却下し又は棄却する旨の処分等を取り消し又はその無効等を確認した判決の趣旨に従い,当該申請等に対する処分等をしなければならず,当該判決の趣旨に抵触せず,かつ,裁量権の範囲を超え又はその濫用とならない限り,当該申請等に対し当該義務付けの訴えによって求められていた処分等をすることもできるところである。また,上記の場- 88 -合において,行政庁は,当該判決の趣旨に抵触せず,かつ,裁量権の範囲を超え又はその濫用とならない限り,再度当該申請等を却下し又は棄却する旨の処分等をすることもできると 。また,上記の場- 88 -合において,行政庁は,当該判決の趣旨に抵触せず,かつ,裁量権の範囲を超え又はその濫用とならない限り,再度当該申請等を却下し又は棄却する旨の処分等をすることもできるところであり,このような処分等がされた場合,行政事件訴訟法37条の3の規定により,改めて当該申請等により求める処分等をすべき旨を行政庁に命ずる旨の義務付けの訴えを再度当該申請等を却下し又は棄却する旨の処分等に係る取消訴訟等と併合して提起することもできるものというべきである。 もっとも,当該義務付けの訴えによって求められている処分等について行政庁に裁量権が認められている場合においても,当該処分等に係る申請等を却下し又は棄却する旨の処分等が理由の提示等の手続要件を欠くことを理由に違法とされることや,当該申請却下処分等が行政庁において考慮すべき事項を考慮せずにされたものであるため裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとされるようなこともあり得るところである。前記改正後の行政事件訴訟法は,このような場合についても,裁判所において当該義務付けの訴えに係る請求の理由の有無,すなわち,行政庁がその義務付けの訴えに係る処分等をしないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるか否かについての審理,判断をすることを予定しているものということができるが,行政庁が当該申請の却下処分等をするに当たり当該義務付けの訴えによって求められている処分等の要件について必要かつ十分な調査,判断をしていないと考えられるから,当該処分等に係る判断がその性質上高度の専門性,技術性を有するような場合などは,当該義務付けの訴えに係る請求に理由があるか否かについての審理に時間を要し,また,事柄の性質上当該訴訟手続において判断に必要な主張,立証が尽くされることを期待するこ 技術性を有するような場合などは,当該義務付けの訴えに係る請求に理由があるか否かについての審理に時間を要し,また,事柄の性質上当該訴訟手続において判断に必要な主張,立証が尽くされることを期待することができないことも少なくないと考えられるところである。 この点,行政事件訴訟法37条の3第6項は,裁判所は,審理の状況その他の事情を考慮して,同条3項各号に定める訴え(申請却下処分等の取消訴- 89 -訟等)についてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは,当該訴えについてのみ終局判決をすることができる旨規定している。この規定の趣旨は,申請却下処分等の取消訴訟等が判決をするのに熟しているにもかかわらず義務付けの訴えに係る請求に理由があるか否かについての審理を続けた場合,当該義務付けの訴えに係る処分等の内容の専門性,技術性等のため審理が遅延し迅速かつ適切な救済が得られない場合が考えられることから,同条4項の規定の例外として,取消訴訟等についてのみ終局判決をすることができるとしたものであると解される。 前記(1)イにおいて説示したとおり,本件義務付けの訴えに併合して提起された本件却下処分の取消訴訟は,その処分手続に行政手続法8条の規定する理由の提示義務違反(理由付記不備)の違法があるほか,近畿運輸局長において,本件認可申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないと判断した点において,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものと認められる。しかしながら,本件認可申請が同号の基準に適合するか否かについては,本件認可申請に係る運賃が「能率的な経営の下における適正な原価」,すなわち,個々の一般乗用旅客事業運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を償うも 係る運賃が「能率的な経営の下における適正な原価」,すなわち,個々の一般乗用旅客事業運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を償うものであるか否か,原告が本件認可申請に係る運賃を設定する意図等に加えて,原告の営業区域である大阪府域におけるタクシー事業者の構成,法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者の各営業形態,利用者の利用の実態,運賃及び料金の内容,態様等並びに距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運賃の認可を受けた事業者のその後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利用者の利用状況,当該運賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当該認可が当該区域の市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等をも総合勘案した上,本件認可申請を認可するこ- 90 -とにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かという観点から社会通念に従って判断すべきであるところ,近畿運輸局長は,上記の諸事情をしんしゃくせず,審査基準公示に従って査定した原告の申請に係る運賃額の平年度における収支率が82.49%と運賃査定額を下回るものとなったことから,初乗り500円の運賃を含め初乗り540円以下の運賃について1年間の期限を付して推移を監視する運用をしていることや,初乗り500円を下回る運賃は法人タクシー運賃では存在していないことにもかんがみて,同号の基準に適合しないと判断したものであり,近畿運輸局長において本件義務付けの訴えに係る認可処分の要件(同項各号の基準適合性とりわけ同項 は法人タクシー運賃では存在していないことにもかんがみて,同号の基準に適合しないと判断したものであり,近畿運輸局長において本件義務付けの訴えに係る認可処分の要件(同項各号の基準適合性とりわけ同項3号の基準適合性)について必要かつ十分な調査,判断がされていないということができる。しかるところ,上記のような諸事情を総合勘案した上で本件認可申請が同項3号の基準に適合するか否かという判断は,その性質上,専門的,技術的な知識経験と公益上の判断を要するものである。また,前記のとおり,本件認可申請が同号の基準に適合するか否かを判断するために必要な上記の諸事情に係る事実関係を認定するために必要かつ十分な主張,立証が尽くされていないところ,本件義務付けの訴えに係る請求に理由があるか否かについての審理を続けたとしても,事案の内容,性質や当事者の主張,立証経過等にかんがみると,当該請求に理由があるか否かについての判断に必要かつ十分な主張,立証が尽くされることを直ちに期待することも困難というべきである。 以上検討したところからすれば,本件義務付けの訴えと併合提起された本件却下処分の取消訴訟は判決をするのに熟していると認められるものの,本件義務付けの訴えについては,当該訴えに係る請求に理由があるか否かについての判断に必要かつ十分な主張,立証が尽くされていないところ,本件義- 91 -務付けの訴えについて審理を続けた場合,本件認可申請に対する判断の専門性,技術性等や立証の困難等のためその審理が遅延し,迅速かつ適切な救済が得られないおそれがあると考えられる。また,現在の主張,立証状態に基づいて本件義務付けの訴えに係る請求を棄却する旨の判決をするのが本件却下処分に関する紛争の迅速かつ適切な解決に資するということもできない。 他方で,国土交通大臣ないしその権限の委任 主張,立証状態に基づいて本件義務付けの訴えに係る請求を棄却する旨の判決をするのが本件却下処分に関する紛争の迅速かつ適切な解決に資するということもできない。 他方で,国土交通大臣ないしその権限の委任を受けた近畿運輸局長は,道路運送法9条の3の規定に基づく一般乗用旅客自動車運送事業の旅客の運賃及び料金の設定又は変更に係る認可権限を有する者として,専門的,技術的な知識経験を有し,判断の基礎となる事情に精通しているものと考えられる。 そうであるとすれば,本件については,行政事件訴訟法37条の3第6項前段の規定により,本件却下処分の取消訴訟についてのみ請求認容の終局判決をし,近畿運輸局長において当該判決の趣旨に従って本件認可申請が道路運送法9条の3第2項各号とりわけ同項3号の基準に適合するか否かについて審理,判断することとした方が,より迅速な争訟の解決に資するものと認められる。 (3) 結論 以上のとおりであるから,本件訴えについては,行政事件訴訟法37条の3第6項前段の規定により,本件却下処分の取消訴訟についてのみ本件却下処分を取り消す旨の終局判決をするのが相当である(なお,本件義務付けの訴えについては,少なくとも本件却下処分の取消訴訟に係る訴訟手続が完結するまでの間,その審理を進めるのは適当ではないが,当該取消訴訟に係る訴訟手続が完結した後においても,近畿運輸局長により本件認可申請に対する再度の処分がされるまでの間,本件義務付けの訴えの審理を進めない方法も考えられる。そして,本件認可申請に対する再度の却下処分がされた場合には,本件義務付けの訴えに当該再度の却下処分の取消訴訟を併合提起することにより,その審理を進めることも考えられるところである。)。 - 92 -第5 結論 以上によれば,本件却下処分の取消しを求める原告の請求は,理由があるか 該再度の却下処分の取消訴訟を併合提起することにより,その審理を進めることも考えられるところである。)。 - 92 -第5 結論 以上によれば,本件却下処分の取消しを求める原告の請求は,理由があるから,これを認容すべきである。そして,行政事件訴訟法37条の3第6項前段に基づき,本件却下処分の取消しを求める訴えについてのみ終局判決をするのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部裁判長裁判官西川知一郎裁判官岡田幸人裁判官和久一彦- 93 -(別紙第1)1.適用する営業区域大阪府(ただし,現に許可を受けている区域に限る。)2.距離制運賃(1)初乗運賃小型車2.0㎞まで480円(2)加算運賃小型車406mまでごとに80円(3)時間距離併用運賃小型車時速10㎞以下の運行時間について2分05秒間までごとに80円(4)運賃の割増及び割引深夜及び早朝割引2割増身体障害者割引1割引知的障害者割引1割引遠距離割引(5,000円を超える金額について)5割引3.迎車回送料金迎車のための回送距離について2㎞を限度として実車扱いとし,初乗運賃額を限度とする。 4.時間制運賃(1)運賃小型車30分間までごとに1,860円(2)運賃の割引身体障害者割引1割引知的障害者割引1割引- 94 -(別紙第2)1.適用する営業区域大阪府(ただし,現に許可を受けている区域に限る。)2.距離制運賃(1)初乗運賃小型車2.0㎞まで480円(2)加算運賃小型車390mまでごとに80円(3)時間距離併用運賃小型車時速10㎞以下の運行時間について2分05秒間までごとに80円(4)運賃の割増及び割引深夜及び早朝割引2割増 加算運賃小型車390mまでごとに80円(3)時間距離併用運賃小型車時速10㎞以下の運行時間について2分05秒間までごとに80円(4)運賃の割増及び割引深夜及び早朝割引2割増身体障害者割引1割引知的障害者割引1割引遠距離割引(5,000円を超える金額について)5割引3.迎車回送料金迎車のための回送距離について2㎞を限度として実車扱いとし,初乗運賃額を限度とする。 4.時間制運賃(1)運賃小型車30分間までごとに1,860円(2)運賃の割引身体障害者割引1割引知的障害者割引1割引

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る