平成27(ワ)9891 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年12月16日 東京地方裁判所
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判決文本文28,508 文字)

平成28年12月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第9891号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成28年10月28日判決原告株式会社大文字同訴訟代理人弁護士冨田秀実同松村博文同吉川愛同高井陽子同梶智史同森賢一被告株式会社広栄社被告 A上記2名訴訟代理人弁護士黒田充宏同増山晋哉同静谷豪同榎田宏子同庄司諭史被告株式会社日本歯科工業社同訴訟代理人弁護士井花久守 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,別紙被告製品目録記載の各製品を生産し,使用し,譲渡し,貸渡 し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告らは,別紙方法目録記載の方法を使用してはならない。 3 被告らは,別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。 4 被告らは,原告に対して,連帯して,6545万円及びこれに対する被告株式会社日本歯科工業社については平成27年4月29日から,被告Aについては同月30日から,被告株式 記載の各製品を廃棄せよ。 4 被告らは,原告に対して,連帯して,6545万円及びこれに対する被告株式会社日本歯科工業社については平成27年4月29日から,被告Aについては同月30日から,被告株式会社広栄社については同年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を各支払え。 5 訴訟費用は被告らの負担とする。 6 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「不織布及び不織布製造方法」とする特許権(第3674907号)の権利者である原告が,被告A(以下「被告A」という。)の商品である圧縮メラミン系樹脂発泡体(以下「被告A商品」という。)を用いて被告株式会社広栄社(以下「被告広栄社」という。)が別紙被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載の各製品をその冒頭の数字に従って,それぞれ「被告製品1」ないし「被告製品4」といい,これらを総称して「被告各製品」という。)を製造・販売し,被告株式会社日本歯科工業社(以下「被告日本歯科」といい,被告A,被告広栄社及び被告日本歯科を併せて「被告ら」という。)も被告各製品の一部を販売しているところ,被告A商品及び被告各製品の製造方法並びに被告各製品が,上記特許権に係る発明の技術範囲に属すると主張して,被告らに対し,特許法100条1項・2項に基づき,被告各製品の生産・販売等の禁止,上記特許権に係る発明である別紙方法目録記載の方法の使用の差止及び被告各製品の廃棄を求め,あわせて,民法709条及び特許法102条2項に基づき,連帯して,損害賠償金6545万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告広栄社については平成27年5月1日,被告Aについては同年4月30日,被告日本歯科については同月29日)から支払済みまで民法 所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 広栄社については平成27年5月1日,被告Aについては同年4月30日,被告日本歯科については同月29日)から支払済みまで民法 所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告原告は,セールスプロモーション等を目的とする株式会社であり,歯の清掃用具等の開発,企画及び販売を業としている。(弁論の全趣旨)イ被告広栄社被告広栄社は,つまようじをはじめとするオーラルケア商品,歯の清掃用具等の販売を業とする株式会社である。 ウ被告A被告Aは,歯の清掃用具等に関する知識を有し,新規商品を開拓することを業とする個人であり,被告広栄社からの委託を受けて被告広栄社が販売する商品の開発及びその生産を行う者である。 エ被告日本歯科被告日本歯科は,歯の清掃用具等の一般医療品の販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の有する特許権原告は,以下の特許権(請求項の数10。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1,5及び10にかかる各発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」及び「本件発明3」といい,これらを併せて「本件各発明」という。また,本件特許に係る明細書及び図面〔甲2〕を「本件明細書等」という。なお,本件特許の特許公報を末尾に添付する。)を有している。 発明の名称不織布及び不織布製造方法登録番号特許第3674907号 出願日平成12年5月1日出願公開日平成13年11月6日登録日平成17年5月13日(3) 本件各発明の構成要件本件各発明の特許請求の範囲は,それぞれ 出願日平成12年5月1日出願公開日平成13年11月6日登録日平成17年5月13日(3) 本件各発明の構成要件本件各発明の特許請求の範囲は,それぞれ,別紙「特許公報」の特許請求の範囲請求項1,5及び10記載のとおりであり,本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。 ア本件発明1(請求項1)A1 メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程によって,B1 加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し,C1 折り畳み可能な変形能を与えたD1 ことを特徴とするメラミン系樹脂発泡体の清掃用不織布イ本件発明2(請求項5)A2 メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程で,B2 加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し,C2 折り畳み可能な変形能を前記メラミン系樹脂発泡体に与えるD2 ことを特徴とする清掃用不織布の製造方法ウ本件発明3(請求項10)A3 請求項5乃至9のいずれか1項に記載の不織布製造方法により製造されたB3 折り畳み可能な清掃用品(4) 被告各製品 ア被告広栄社は,被告製品1及び2を製造・販売しており,また,被告製品3及び4を製造し,被告日本歯科に販売している。 イ被告Aは,圧縮メラミン系樹脂発泡体である被告A商品を製造し,被告広栄社に対し販売している。被告広栄社は,被告A商品を用いて被告各製品を製造している。なお,「メラミン系樹脂発泡体」はメラミンフォームともいう。 ウ被告日本歯科は,被告広栄社から被告製品3及び4を購入し,主に歯科医院に対し,同各製品を販売している。 ( 各製品を製造している。なお,「メラミン系樹脂発泡体」はメラミンフォームともいう。 ウ被告日本歯科は,被告広栄社から被告製品3及び4を購入し,主に歯科医院に対し,同各製品を販売している。 (5) 本件特許の出願日に先行する文献の存在本件特許の出願日(平成12年5月1日)の前には,以下の先行文献が存在する。 ア平成4年4月27日を出願日,平成5年11月16日を公開日とする公開特許公報(特開平5-301291。乙9。以下,同公報を「乙9公報」,同公報記載の発明を「乙9発明」という。)イ平成11年10月26日に公開された公開特許公報(特開平11-291425。丙1。以下「丙1公報」という。)ウ平成11年5月18日に公開された公開特許公報(特開平11-128137。丙2。以下「丙2公報」という。)エ平成11年10月20日に公開された登録実用新案公報(実用新案登録第3065215号。丙3。以下「丙3公報」という。)オ平成9年6月10日に公開された公開特許公報(特開平9-150463。丙4。以下「丙4公報」という。) 3 争点(1) 被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するかア構成要件A1及びA2の「単一の工程」の充足性イ構成要件B1及びB2の「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」 の充足性ウ構成要件B1及びB2の「賦形」の充足性エ構成要件D1,D2及びB3の「清掃用」の充足性オ構成要件D1,D2及びA3の「不織布」の充足性(2) 本件特許権は特許無効審判により無効にされるべきものかア乙9発明による新規性欠如イ特許法17条の2第3項違反の有無(3) 損害発生の有無及びその額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(構成要件A1及び されるべきものかア乙9発明による新規性欠如イ特許法17条の2第3項違反の有無(3) 損害発生の有無及びその額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(構成要件A1及びA2の「単一の工程」の充足性)について〔原告の主張〕(1) 本件各発明における「単一の工程」とは,圧縮工程の圧縮圧力を解放した後に加熱工程を行なったり,加熱工程が終了した後に圧縮工程を行なったりする複数の工程ではなく,メラミン系樹脂発泡体を「圧縮した状態で加熱する」工程,すなわち,メラミン系樹脂発泡体が圧縮されている状態を維持しつつ同時並行で加熱をする工程を意味する。 このことは,本件特許の審査過程において,原告が特許庁に提出した平成17年3月30日付意見書(乙6・2頁)に「本願発明によれば,メラミン系樹脂発泡体の単体が,圧縮した状態で加熱される。メラミン系樹脂発泡体は,この単一の熱改質工程によって柔軟化し,折り畳み可能な変形能を発揮する。」(下線は原告による。)と記載されていることからも明らかである。 (2) 被告らの主張に対する反論被告らは,被告各製品に用いている圧縮メラミン系樹脂発泡体は,複数の工程により製造されているから,本件各発明の「単一の工程」を充足しないと主張する。 しかし,被告広栄社及び被告Aの圧縮メラミン系樹脂発泡体の製造方法 (以下「被告製造方法」という。)では,第一工程として,「アルカリ性及び酸性水水溶液に浸し置きメラミン樹脂発泡体内部に含浸させることにより弾性反発力を軽減した後,脱水乾燥する工程」(乙12)及び(又は)「硬化剤として投入される酸性物質から発生したカルボン酸塩等の酸性蒸発残留物を,炭酸ナトリウム等のPH調整剤を溶解した水溶液に漬し置き中和処理した後,比重差を利用し鉛等の重 」(乙12)及び(又は)「硬化剤として投入される酸性物質から発生したカルボン酸塩等の酸性蒸発残留物を,炭酸ナトリウム等のPH調整剤を溶解した水溶液に漬し置き中和処理した後,比重差を利用し鉛等の重金属を,フェノール,ホルムアルデヒド等を水溶性及び揮発性を利用し水を媒体として除去する工程」(乙13)を経た後,第二工程として「メラミン系樹脂発泡体」を圧縮・加熱しているのであるから,「メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程」を経て被告各製品を製造しているというべきである。 よって,被告各製品は構成要件A1を,被告製造方法は構成要件A2をそれぞれ充足することは明らかである。 〔被告らの主張〕(1) 被告製造方法は,みなし取下げとなった被告広栄社の特許出願に係る発明に相当するもので,同公開特許公報(特開2013-192924。乙12)の請求項3に「請求項1~2の歯面清掃具であって,アルカリ性及び酸性水溶液に浸し置きメラミン樹脂発泡体内部に含浸させることにより弾性反発力を軽減した後,脱水乾燥する第一工程と加熱・圧縮する第二工程からなることを特徴とする歯面清掃具。」と記載されているように,第一工程及び第二工程という複数の製造工程による製造方法である。 そして,被告広栄社は,上記第一工程について,特許を取得している(特開2014-069056。乙13)。同特許の公開特許公報の請求項1に記載のとおり,第一工程において中和剤を投入することにより,人体有害物質であるホルムアルデヒド等を除去するという効果を得ることができる。また,被告製造方法においては,第一工程を経ることによって,加工面の焼けによる着色の防止及び圧縮の均一化を図ることができ,また,圧縮時間の短 縮及び圧縮率の向上が達成できる。 (2) た,被告製造方法においては,第一工程を経ることによって,加工面の焼けによる着色の防止及び圧縮の均一化を図ることができ,また,圧縮時間の短 縮及び圧縮率の向上が達成できる。 (2) したがって,被告製造方法は上記効果を有する第一工程を経たうえで第二工程として圧縮・加熱するという複数工程からなるものであり,「単一の工程」によるものではない。 よって,被告各製品は構成要件A1を,被告製造方法は構成要件A2をそれぞれ充足しない。 2 争点(1)イ(構成要件B1及びB2の「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」の充足性)について〔原告の主張〕(1) 被告各製品に用いられているメラミン系樹脂発泡体は,圧縮・加熱処理を含む被告製造方法により加工されるが,圧縮・加熱処理後のメラミン系樹脂発泡体は,圧縮・加熱処理前よりも柔軟で,かつ,折り畳み可能な布状物である。 したがって,被告各製品は構成要件B1を,被告製造方法は構成要件B2をそれぞれ充足する。 (2) 被告らの主張に対する反論ア被告らは,「本件特許の技術的範囲には,圧縮前に折り畳み可能な変形能を有しているメラミン系樹脂発泡体を含まない」との主張に反する主張は,禁反言の原則により許されないと主張する。 しかし,本件各発明は,「メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程によって,加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し,折り畳み可能な変形能を与えた」「メラミン系樹脂発泡体の清掃用不織布」に関するものであることからすれば,そもそも,「圧縮・加熱前」の状態であって,「メラミン系樹脂発泡体の本来の性質(研磨効果,網状組織,吸水性能,肌触り又は手触り等)を損なわず」,「折り畳み可能な変形能を るものであることからすれば,そもそも,「圧縮・加熱前」の状態であって,「メラミン系樹脂発泡体の本来の性質(研磨効果,網状組織,吸水性能,肌触り又は手触り等)を損なわず」,「折り畳み可能な変形能を有するメ ラミン系樹脂発泡体」の「清掃用不織布」は,本件特許の出願前に存在していなかったことが明らかである。 そうであるとすれば,原告が,本件特許の出願過程において,本件特許の技術的範囲から「圧縮前に折り畳み可能な変形能を有しているメラミン系樹脂発泡体」を意識的に除外することなどあり得ないから,意見書等においてこれを除外するような主張をするはずがない。 したがって,禁反言の原則を理由とする被告らの主張は,失当である。 イ被告らの提出した一般財団法人化学物質評価研究機構(以下「化学物質評価研究機構」という。)大阪事業所による平成24年7月17日付け試験報告書(乙11。以下,「乙11報告書」といい,乙11報告書記載の試験を「乙11試験」という。)は,本件訴訟のために行われた試験の結果を示すものではなく,被告らの主張の裏付けとはならない。 (3) 「柔軟性」の意義についてア 「柔軟性向上」には,①材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めることと,②材料を曲げ易くして柔軟性に富むようにすることという二つの意味があり,前者は,柔軟性の有無に係るものであるが,後者は,柔軟性の程度に係るものである。 そして,本件明細書等の「柔軟に変形可能な靱性」(段落【0006】,【0010】)を向上するという記載により明らかなとおり,本件各発明は,本質的には,前者(材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めること。柔軟性の有無。)を意図したものである。 イここで,「靱性」について説明すると,「靱性」の「靱」は,しなやかで強いという意 は,本質的には,前者(材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めること。柔軟性の有無。)を意図したものである。 イここで,「靱性」について説明すると,「靱性」の「靱」は,しなやかで強いという意味であり,「靱性」とは,「材料のねばり強さ,すなわち外力に抗して破壊しにくい性質。これが大きいためには,亀裂の進展が遅く,高い極限強さとともに塑性,延性がなければならない。」(甲30)という物性であり,「靱性」の向上とは,「材料の強さ(引張強さや降伏点) と延性が共に大きい」ようにすることを意味する(甲31)。また,「延性」とは,素材が破断せずに柔軟に変形する限界を意味する(甲46,47)。 ウところで,圧縮・加熱により,メラミン系樹脂発泡体の強度が増大し,また,加熱により延性(素材が破断せずに柔軟に変形する限界)が増大することは,株式会社イノアックコーポレーションによる平成28年3月4日付け試験報告書(甲32。以下「甲32報告書」といい,甲32報告書記載の試験を「甲32試験」という。)記載の試験結果から明らかである。甲32報告書によれば,同一の厚さのメラミン系樹脂発泡体を比較した場合,加熱後のメラミン系樹脂発泡体は,加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも,曲げ強度(割れた時の曲げ強度)が大きく,加熱により,「柔軟に変形可能な靱性」を向上する物性変化(改質)が生じたことがわかる。ここで,甲32試験における加熱後の曲げ強度の増加には圧縮の効果も寄与しているという反論が想定されるが,加熱せずにメラミン系樹脂発泡体を圧縮した場合には圧縮状態が維持されないから,メラミン系樹脂発泡体が圧縮状態を維持していること自体が加熱の効果であるといえる。 エまた,圧縮・加熱後のメラミン系樹脂発泡体のほうが圧縮・加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも が維持されないから,メラミン系樹脂発泡体が圧縮状態を維持していること自体が加熱の効果であるといえる。 エまた,圧縮・加熱後のメラミン系樹脂発泡体のほうが圧縮・加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも曲がり易いことは,化学物質評価研究機構東京事業所による平成28年6月20日付け試験報告書(甲45。以下「甲45報告書」といい,甲45報告書記載の試験を「甲45試験」という。)記載の試験結果からも明らかである。これは,圧縮・加熱時の物性変化により弾性率が変化(ヤング率が増大)して曲がり難くなる現象が生じたとしても,厚さの低減(断面二次モーメントの低減)に伴う曲げ易さ向上の作用が,それを打ち消し且つそれを上回るので,圧縮後のメラミン系樹脂発泡体のほうが圧縮前のメラミン系樹脂発泡体よりも曲げ易くなったことを意味する。もっとも,これは,あくまで,柔軟性の程度(曲げ易さの程 度)に関する説明である。柔軟性は,「メラミン系樹脂発泡体を熱で改質」して「柔軟に変形可能な靱性」を確保することを前提として得られるものであるが,厚さ等は,より小さい力でも曲がるか否かといった柔軟性の程度に関する因子であり,その意味において,厚さの低下又は制御や,形状の制御は,本質的な事項ではなく,本発明の二次的又は副次的効果にすぎない。そのため,本件各発明の発明者らは,本件特許出願に対する拒絶理由通知書に対して特許庁に提出した平成16年1月22日付け意見書(乙3。以下「乙3意見書」という。)において,「本発明においては,本質的には,メラミン系樹脂発泡体を熱で改質して柔軟にすれば良く,厚さの低下又は制御や,形状の制御は,本質的な事項ではない。」と記載したが,続いて,「しかし,熱改質後のメラミン系樹脂発泡体は,内部組織の変化により,多かれ少なかれ復元力を喪失し,結果的 れば良く,厚さの低下又は制御や,形状の制御は,本質的な事項ではない。」と記載したが,続いて,「しかし,熱改質後のメラミン系樹脂発泡体は,内部組織の変化により,多かれ少なかれ復元力を喪失し,結果的に,『初期板厚さTへの復元力を喪失する』(本願明細書,段落[0017])。このため,圧力解放後の時間経過とともに厚さを復元する発泡体は,初期厚に復元する前に復元を停止し,この結果,製品の厚さは,初期の厚さT(図1)よりも小さく,圧縮時の厚さt(図1)よりも大きい。例えば,20mmの厚さのメラミン系樹脂発泡体を3mmの厚さに圧縮して加熱し,柔軟性を与えた場合,圧力解放後の時間経過につれてメラミン系樹脂発泡体は厚さを復元し,例えば,約5ないし6mmの厚さとなって初めて安定する。復元の程度は,温度及び加熱時間に関係する。」と記載した。これは,メラミン系樹脂発泡体を圧縮状態で加熱して熱改質する(熱処理する)ことにより,「柔軟に変形可能な靱性」をメラミン系樹脂発泡体に与えようとすると,甲32報告書に示される物性変化(破壊靱性の向上)により本件各発明の目的を達成し得るだけではなく,圧縮状態で加熱した結果として,メラミン系樹脂発泡体の厚さが低減し,甲45報告書に示される柔軟性の程度(すなわち,曲げ易さ)が向上するという副次的効果が得られたことを説 明するものである。 〔被告らの主張〕(1) メラミン系樹脂発泡体は発泡性熱硬化樹脂であるから,圧縮・加熱することで硬化し,強度が増し耐久性が向上する。 被告広栄社が,本件各製品に使用しているメラミン系樹脂発泡体は,圧縮後の方が,圧縮前よりも硬度が高い(乙11)。すなわち,被告広栄社は,被告製造方法において,圧縮・加熱前に折り畳み可能な変形能を有するメラミン系樹脂発泡体を使用しており, ラミン系樹脂発泡体は,圧縮後の方が,圧縮前よりも硬度が高い(乙11)。すなわち,被告広栄社は,被告製造方法において,圧縮・加熱前に折り畳み可能な変形能を有するメラミン系樹脂発泡体を使用しており,圧縮・加熱後に「加熱前よりも柔軟」となっているものではない。 したがって,被告各製品は「加熱前よりも柔軟な」メラミン系樹脂発泡体を用いていないし,被告製造方法において,メラミン系樹脂発泡体は「加熱前よりも柔軟」となっていないから,被告各製品は構成要件B1を充足せず,及び被告製造方法は構成要件B2を充足しない。 (2) 原告は,特許庁から,平成15年11月25日付拒絶理由通知書(乙2)において,本件発明1及び2に係る特許は乙9公報により新規性を欠く旨の指摘を受け,乙3意見書を提出し,本件特許発明と乙9発明との違いを「本願発明の本質は,『柔軟に変型可能な靱性を備えるとともに,布雑巾のような利便性を備えた柔軟性を発揮する』(本願明細書,段落【0008】)ようにメラミン系樹脂発泡体を熱で改質する点にある」が,「メラミン系樹脂発泡体を柔軟化することは各引用例には,開示も示唆もされていない」と主張し,また,手続補正書(乙4)を提出して請求項1を補正した。 このように,圧縮・加熱前のメラミン系樹脂発泡体の概念に,折り畳み可能な変形能を有するメラミン系樹脂発泡体は含まれず,圧縮・加熱によって,メラミン系樹脂発泡体に折り畳み可能な変形能を与えたとの原告の主張が認められて,本件特許が登録査定されている。 したがって,本件各発明において,圧縮・加熱前のメラミン系樹脂発泡体 の概念に,折り畳み可能な変形能を有するメラミン系樹脂発泡体は含まれない。また,原告のこれに反する主張は禁反言の原則により許されない。 よって,本件各発明の技術 ミン系樹脂発泡体 の概念に,折り畳み可能な変形能を有するメラミン系樹脂発泡体は含まれない。また,原告のこれに反する主張は禁反言の原則により許されない。 よって,本件各発明の技術的範囲は,圧縮・加熱前のメラミン系樹脂発泡体が折り畳み可能な変形能を有するメラミン系樹脂発泡体であるものには及ばない。 (3) 原告は,平成28年8月8日付け第8準備書面により,本件各発明は柔軟性の有無に係るものであり,柔軟性の程度にかかわる部分は副次的効果にすぎず本質的部分ではないとの主張(前記〔原告の主張〕(3))を提出した。しかし,同主張は,「より柔軟」とは曲げやすさの問題であるという趣旨の従前の原告の主張とは異なるものであるところ,原告の故意又は重大な過失によって時機に後れて提出されたものであって,かつ,被告らの反論を要する主張であって訴訟の完結を遅延させるものであるから,却下すべきである。 (4) ところで,本件各発明に係る請求項の記載をみても,「より柔軟」の語が「柔軟性の有無」を問題としたものであると読みとることはできない。また,仮に柔軟性の有無の問題であるとしても,被告製造方法においては,圧縮・加熱による熱改質に基づく靱性の向上は生じていない。理由は以下のとおりである。 ア本件発明1及び2に係る請求項には「加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し」と記載されているところ,本件明細書等には「よりも柔軟」の定義は記載されていないから,通常の意味により解釈するものとすべきである。そして,「よりも柔軟」という文言からは,「柔軟性それ自体を向上させる」という意味しか読み取ることができない。 イメラミン系樹脂発泡体の熱分解温度は350℃以上であるが(乙25),本件各発明の工程における りも柔軟」という文言からは,「柔軟性それ自体を向上させる」という意味しか読み取ることができない。 イメラミン系樹脂発泡体の熱分解温度は350℃以上であるが(乙25),本件各発明の工程における加熱温度は200℃ないし245℃であると考えられるから,メラミン系樹脂発泡体の化学的性質には変化が生じない。 仮に加熱温度が熱分解温度に達していたとしても,原告が本件特許に係る2度目の拒絶理由通知書に対して提出した意見書(乙6)において,本件各発明により圧縮・加熱したメラミン系樹脂発泡体がその本来の性質,研磨効果,網状組織,給水性能,肌触り又は手触りを損なわない旨記載していることからも,圧縮・加熱により上記メラミン系樹脂発泡体には化学変化が生じていないことは明らかである。 ウ乙11報告書及び化学物質評価研究機構大阪事業所による平成28年7月26日付け試験報告書(乙34。以下,「乙34報告書」といい,乙34報告書記載の試験を「乙34試験」という。)によれば,圧縮・加熱の前後でメラミン系樹脂発泡体の10mmたわみ時の荷重には変化がないことが明らかである。一方で,圧縮・加熱によりデュロメーター値や曲げ弾性率が向上しているが,これは,圧縮のために密度が上昇した影響によるものである。 エ原告は,圧縮・加熱によりメラミン系樹脂発泡体の靱性が向上したと主張する。 しかし,メラミン系樹脂発泡体は,エントロピー弾性という靱性が適用されるエネルギー弾性とは異なる弾性を有し,また,靱性の要素である降伏点が存在しないため,メラミン系樹脂発泡体に靱性という性質は該当しない。 また,圧縮・加熱によりメラミン系樹脂発泡体の密度が上昇し,これに伴いデュロメーター値と曲げ弾性率が向上するが,強度が増大するものではない。 オ甲32報 体に靱性という性質は該当しない。 また,圧縮・加熱によりメラミン系樹脂発泡体の密度が上昇し,これに伴いデュロメーター値と曲げ弾性率が向上するが,強度が増大するものではない。 オ甲32報告書の内容は原告の主張を裏付けるものではない。 まず,圧縮・加熱によるメラミン系樹脂発泡体の熱改質の有無を論じるのであれば,単純に圧縮前のメラミン系樹脂発泡体と圧縮後のメラミン系樹脂発泡体を比較しなければならないが,甲32試験ではそのような試料 の選択をしていない。そして,甲32報告書は,圧縮・加熱によりメラミン系樹脂発泡体の延性が向上したことを示すものではなく,単に質量の比による結果の変化を示したものにすぎない。圧縮・加熱前と圧縮・加熱後とで,質量比が曲げ強度の比と同一であるから,むしろ,メラミン系樹脂発泡体の性質に変化が生じていないことを示すものといえる。 3 争点(1)ウ(構成要件B1及びB2の「賦形」の充足性)について〔原告の主張〕「賦形」(付形)とは,本件特許の審査過程において原告が特許庁に提出した乙3意見書に記載したとおり,「形物;付形物,造形品人為的手段でプラスチック材料に形を付与したもの(形物),但し圧縮成形品,トランスファー成形品,・・・は除くのが普通であ」り(甲11・プラスチック工業辞典883頁「shape」の項参照),本件各発明においては,相対的に厚い板状メラミン系樹脂発泡体に対し,相対的に薄いシート状の形を付与することを意味する。 そして,被告各製品及び被告製造方法においては,加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に賦形されているから,構成要件B1及びB2の「賦形」を充足する。 〔被告らの主張〕被告製造方法は,メラミンを圧縮成型するというものであり,「賦形」 ミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に賦形されているから,構成要件B1及びB2の「賦形」を充足する。 〔被告らの主張〕被告製造方法は,メラミンを圧縮成型するというものであり,「賦形」したものではないから,「賦形」を充足しない。なお,「賦形」から圧縮成型品が除かれるのは,原告の主張のとおりである。 4 争点(1)エ(構成要件D1,D2及びB3の「清掃用」の充足性)について〔原告の主張〕(1) 被告各製品は「清掃用品」であり,構成要件D1,D2及びB3を充足する。 (2) 被告らの主張に対する反論被告らは,本件特許は,口腔または歯科衛生のための用具または方法とい う技術分類(A61C)を想定していないものであるから,口腔内での利用を目的とする被告各製品は本件特許の技術的範囲に属さないと主張する。 しかし,技術分類は,特許の審査のために特許庁の責任において付与されるものであって,特許出願人の裁量で決定できるものではない。また,特許出願人が技術分類を願書に記載することはほとんどないし,仮に記載したとしても特許庁はこれに拘束されない。なお,原告は,本件特許を出願するにあたり,願書に技術分類を記載していない。 そして,特許発明の技術的範囲は,「願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならない」(特許法70条1項)とされていることからも,技術分類が特許発明の技術的範囲を制限するものでないことは明らかである。 したがって,被告らの上記主張は失当である。 〔被告らの主張〕(1) 本件特許の技術的範囲は口腔内に利用する用途には及ばないところ,被告各製品はいずれも口腔内での利用を目的としているから,本件特許の技術的範囲に属さない。 (2) 本件特許の技術範囲が口腔内に利用する用途に の技術的範囲は口腔内に利用する用途には及ばないところ,被告各製品はいずれも口腔内での利用を目的としているから,本件特許の技術的範囲に属さない。 (2) 本件特許の技術範囲が口腔内に利用する用途には及ばないことは,次のことから明らかである。 ア本件明細書等をみると,従来の技術では「多くの場合,乾燥状態の清掃具によっては,清掃対象面の塵埃等を簡易に拭き取ることはできたとしても,清掃対象面の微細な凹部又は木質系繊維の隙間等の塵埃,或いは,頑固に付着した汚れ等は,十分に除去し難」いところ(段落【0003】),「清掃対象物の面積及び形態は多種多様であり,清掃具は,布製雑巾の如く,十分な幅及び長さ,折り畳み可能な変形能,更には,清掃対象面の形態に応じて変形可能な柔軟性等を備えることが望ましい」(段落【0005】),「かくして,メラミン系樹脂発泡体の清掃具は,折り畳んで収納又 は携帯したり,水又は洗浄液に漬けた後に捩じり又は絞ったり,或いは,手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な使い勝手には適応し得ない」(段落【0007】),「本発明は,かかる事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,柔軟に変形可能な靱性を備えるとともに,布雑巾のような利便性を備えたメラミン系樹脂発泡体の不織布を提供することにある」(段落【0008】)との記載がある。 そして,本件明細書等には,布雑巾のような実施例,ハンドクリーナー型清掃用具の実施例,ハンディワイパー型清掃用具の実施例,グラスワイパー型清掃用具の実施例,ハンディモップ型清掃用具の実施例,三角形態やその他の形態の清掃用具の実施例が紹介されており(段落【0021】,【0022】,【0026】,【0028】,【0029】,【0031】及び【0034 ,ハンディモップ型清掃用具の実施例,三角形態やその他の形態の清掃用具の実施例が紹介されており(段落【0021】,【0022】,【0026】,【0028】,【0029】,【0031】及び【0034】),これらの実施例は,いずれも請求項1を敷衍した清掃用具であるが,口腔内での利用に係る実施例は一切紹介されていない。 イ次に,乙3意見書をみると,「本発明は『柔軟に変形可能な靭性を備えるとともに,布雑巾のような利便性を備えたメラミン系樹脂発泡体の不織布を提供する』」(5頁)といった記載があり,原告は,本件特許は清掃という点で乙9発明とは異なり,また,掃除用具に関する引用文献(丙2公報及び丙3公報)記載の各発明と比べて,圧縮・加熱により柔軟性がある「布雑巾のような利便性を備えている」点が異なると主張している。 すなわち,本件特許が技術分類A47L(家庭の洗浄または清浄)において出願されたことからもわかるように,原告は,審査過程において,口腔または歯科衛生のための用具または方法という技術分類(A61C)を想定していなかった。 したがって,原告が,口腔内での利用についても本件特許の技術的範囲に属すると主張することは禁反言により許されない。 5 争点(1)オ(構成要件D1,D2及びA3の「不織布」の充足性)について〔原告の主張〕(1) 布状物は「織布」と「不織布」に大別されるが,「不織布」は,一般に「製織しないで各種の方法によって」作られた「シート状の構成物」である(JIS工業用語辞典第四版。甲12)。また,不織布の原料は繊維に限定されない。 そして,被告各製品は「製織しないで」作られた「シート状の構造物」であるから,その原料であるメラミン系樹脂発泡体が繊維に当たるか否かにかかわらず,「不織布」に該当し 料は繊維に限定されない。 そして,被告各製品は「製織しないで」作られた「シート状の構造物」であるから,その原料であるメラミン系樹脂発泡体が繊維に当たるか否かにかかわらず,「不織布」に該当し,また,被告製造方法は「清掃用不織布の製造方法」に当たる。 (2) 仮に不織布の原料が繊維に限定されると解したとしても,次のとおり,メラミン系樹脂発泡体は繊維である。 アメラミン系樹脂発泡体(メラミンフォーム)は,一般的に,微細な「繊維」の集合体と理解されている。 イ被告各製品の原材料とされている「ドイツ国BASF社製メラミンフォームバソテクトⓇW」(以下「バソテクトW」という。)は,繊維製品として販売されており,同製品のカタログ(甲36)には,「Basotect®は熱硬化性樹脂,メラミン樹脂を素材とした柔軟な連続気泡のフォームです。 繊細な繊維状に構成された三次元網目状構造を特長としています。」と記載されており,コンシューマー用途として「衣類,繊維」と繊維製品として使用することが記載されている。さらに,バソテクトWは「エコテックス企画100」という繊維の全加工段階に適用される検査・認証システムの認証を取得している。 ウメラミン系樹脂発泡体は,一般に「スポンジ」としても認識されているが,スポンジとは「海綿を繊維状の骨格だけとしたもの」(甲37,38)であるし,メラミンスポンジは「繊維で構成されているもの」と理解され ている(甲39,40)。 エ被告らも,被告広栄社のホームページ(甲18)において,被告各製品について「特殊加工メラミン系樹脂発泡体を使用しており,繊維の先端が2~3ミクロンと大変小さく」と記載しており,被告各製品が繊維で構成されているものであることを認めている。 〔被告らの主張〕(1) 不織布 加工メラミン系樹脂発泡体を使用しており,繊維の先端が2~3ミクロンと大変小さく」と記載しており,被告各製品が繊維で構成されているものであることを認めている。 〔被告らの主張〕(1) 不織布とは,天然繊維,合成繊維などを,織り機を使わずに,機械的科学的に繊維を相互に接着させて作ったものである。 ところが,被告各製品はメラミンフォームからできており,メラミンフォームは発泡体であって繊維ではない。 したがって,被告各製品は「不織布」ではなく,また,被告製造方法は「不織布」の製造方法に当たらない。 (2) 原告は,不織布とは織物以外の物であれば足り,繊維で構成されているか否かは問題ではないと主張する。 アしかし,本件明細書等には「不織布」の定義がされていないから,本件各発明において「不織布」は通常の意味で使用されていると解すべきところ,日本工業規格によれば「不織布」とは,「繊維シート,ウェブ又はバットで,繊維が一方向又はランダムに配向しており,交絡,及び/又は融着,及び/又は接着によって繊維間が結合されたもの。ただし,紙,織物,編物,タフト及び縮じゅう(絨)フェルトを除く」ものとされている(乙19)。したがって,「不織布」が繊維で構成されているものをいうことは明らかである。 イそして,「繊維」とは,「糸,織物などの構成単位で,太さに比べて十分の長さをもつ,細くてたわみやすいもの」または,「厚さ又は直径に対する長さの比が高いことを特徴とする比較的短い長さの材料の構成単位」であり(乙20),糸状のものをいう。 一方で「発泡体」は,合成樹脂中にガスを細かく分散させ膨らませた状態で固形化したものであるから,蜂の巣状に全てつながった構造をしており,糸状となる部分は存在しないから,「発泡体」であることと「繊 一方で「発泡体」は,合成樹脂中にガスを細かく分散させ膨らませた状態で固形化したものであるから,蜂の巣状に全てつながった構造をしており,糸状となる部分は存在しないから,「発泡体」であることと「繊維」であることは両立しない。 (3) 原告は,メラミン系樹脂発泡体は「繊維」であるなどと主張するが,上記(2)イのとおりメラミン系樹脂発泡体は繊維ではないから失当である。 被告広栄社のホームページにおいて,「繊維」という表現をしているのは,メラミン構成壁が剥離破壊により微細粒子となり,サンドペーパーのように着色汚れを除去するという原理を大衆に分かりやすく表現したものにすぎず,メラミン系樹脂発泡体が繊維であることを意味するものではない。 また,エコテックス規格100は,繊維製品のみを対象としたものではないから,被告各製品の原材料であるバソテクトWがエコテックス規格100の認証を得ていることは,被告各製品が繊維製品であることを意味しない。 6 争点(2)ア(乙9発明による新規性欠如)について〔被告らの主張〕(1) 乙9発明について乙9公報の特許請求の範囲請求項1には,「・・・メラミンフォーム等の断熱材を載置する工程と,間に熱可塑性樹脂を介在させた基材と表皮及び断熱材を熱プレス機にセットして断熱材側から加熱するとともに全体を加圧する工程と,」(下線は被告らによる。)と記載されており,乙9公報には,断熱材であるメラミン系樹脂発泡体と基材とを加熱するとともに加圧(圧縮)する技術が開示されている。 また,乙9公報には「このような物性を持つメラミンフォームを熱圧縮成型することにより,使用前に薄くしておくと(10mmの厚みを3mmの厚みに圧縮する),へたりが減少し,断熱性能も変わらなかった。」(下線は被告らによる。)と記載されてお つメラミンフォームを熱圧縮成型することにより,使用前に薄くしておくと(10mmの厚みを3mmの厚みに圧縮する),へたりが減少し,断熱性能も変わらなかった。」(下線は被告らによる。)と記載されており,使用前(処理前)にメラミン系樹 脂発泡体を予め単体で熱圧縮成型することが開示されている。 したがって,乙9公報には,メラミン系樹脂発泡体の単体を単一の工程で熱圧縮する構成,すなわち構成要件A1が開示されている。 (2) 本件発明1の新規性欠如について本件明細書等をみると,メラミン系樹脂発泡体を予め単体で熱圧縮する構成以上の具体的な技術的特徴は開示されてない。したがって,構成要件A1は,乙9発明に対する貢献を明示する技術的な特徴ではないから,本件発明1に係る発明は,新規な技術を有するものではない。 また,本件発明1のその余の構成要件は,構成要件A1という工程により導かれる物の特性,性質を示しており,発明の効果そのものが記載されているものであって,本件各発明の具体的な技術的特徴を含むものではない。なお,発泡性樹脂をシート状物に賦形する技術(構成要件B1)は,丙1公報に記載されており,当業者なら容易になし得る周知な技術である。 したがって,構成要件A1に新規性がない以上,その余の構成要件にも新規性はない。 (3) 本件発明2及び3の新規性欠如について本件発明2は,物の発明である本件発明1の技術的特徴を全て含む方法の発明である。本件発明3は,本件発明2の方法により生産された発明を清掃用品として用いる用途発明であるが,不織布を清掃用品として用いることは丙2公報及び丙3公報にも記載されており,本件特許の出願日時点において周知な技術である。 したがって,本件発明2及び3は,本件発明1と同等又は本件発明1に当業者にとって容易想 品として用いることは丙2公報及び丙3公報にも記載されており,本件特許の出願日時点において周知な技術である。 したがって,本件発明2及び3は,本件発明1と同等又は本件発明1に当業者にとって容易想到な技術を付加したものにすぎないから,本件発明1が新規性を欠く場合には,本件発明2及び3も新規性を欠く。 〔原告の主張〕(1) 乙9発明について 乙9発明において熱プレス機5で圧縮・加熱される材料は,基材1,表皮2,熱可塑性樹脂3及び断熱材(メラミン系樹脂発泡体)4であり,本件発明1のように「メラミン系樹脂発泡体の単体」ではない。 また,乙9公報の段落【0009】の記載は,熱可塑性樹脂であるメラミン系樹脂発泡体の熱硬化性を利用して,メラミン系樹脂発泡体を熱圧縮成型で熱硬化させ,その弾性変形能を喪失させるという技術思想を開示しているのに対し,本件発明1は,熱で柔軟化し,これにより,メラミン系樹脂発泡体に「折り畳み可能な変形能を与え」るというものであるから,乙9発明と本件発明1の技術思想は全く異なる。 (2) 本件発明1 の新規性欠如について上記(1)から,本件発明1に,乙9発明に基づく新規性欠如の無効理由がないことは明らかである。 なお,被告らは,本件発明1について,構成要件A1以外の構成要件には技術的特徴が含まれていないなどと主張するが,構成要件B1及びC1は,構成要件A1における圧縮・加熱に関し,その作用及び態様を特定することにより,構成要件A1における圧縮・加熱の技術的意図又は技術的意義を明瞭にするとともに構成要件A1の構成を技術的に特定するものであって,本件発明1の技術的特徴に当たる。 (3) 本件発明2及び本件発明3の新規性欠如について被告らは,本件発明2は本件発明1と同等である とともに構成要件A1の構成を技術的に特定するものであって,本件発明1の技術的特徴に当たる。 (3) 本件発明2及び本件発明3の新規性欠如について被告らは,本件発明2は本件発明1と同等であると主張するが,本件発明1及び2は発明のカテゴリーが異なるものであって同等ではないから失当である。 また,本件発明3に関して,丙2公報及び丙3公報にはメラミン系樹脂発泡体を掃除具として用いることは記載されているものの,本件発明2の製造方法により製造された折り畳み可能な変形能を有するメラミン系樹脂発泡体のシートを掃除具として用いるということは記載されていないから,本件発 明3が新規性を有することは明らかである。 7 争点(2)イ(特許法17条の2第3項違反の有無)について〔被告らの主張〕(1) 原告は,本件特許出願に対する2度目の拒絶理由通知に対する応答として,平成17年3月30日付けの手続補正書(乙7。以下,同手続補正書による補正を「本件補正」という。)を提出し,本件発明1に係る請求項1に「柔軟性を有するシート状物」とあった記載を「加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物」とする補正を行った。 (2) しかし,本件補正により追加された「加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物」との記載は,本件特許の出願当初の明細書(乙1。 以下「当初明細書等」という。)に記載されていない。 原告が補正の根拠として指摘する当初明細書等の段落【0006】及び【0040】は,発明の課題と効果を説明したものにすぎず,メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程により,加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物にする旨の記載はないし,また,当初明細書等には,メラミン系樹脂発泡体を熱圧縮す ラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程により,加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物にする旨の記載はないし,また,当初明細書等には,メラミン系樹脂発泡体を熱圧縮することで,加熱前と比較して柔軟となったメラミン系樹脂発泡体の具体的な物性データは開示されていない。 (3) したがって,本件補正は,当初明細書等の範囲を超え,新規事項を追加する補正に当たるから,特許法17条の2第3項に違反する。また,本件発明2に係る請求項5ついても同一の補正を行っているが,この補正も同項に違反し,本件発明3に係る請求項10は請求項5に従属するから,やはり同項に違反する。 〔原告の主張〕(1) 被告らは,本件補正が新規事項の追加に当たると主張するが,次のとおり理由がない。 (2) 「柔軟性を有するシート状物」を「柔軟なシート状物」とする訂正は,単なる日本語表現の訂正であって,新規事項の追加には当たらない。 (3) 「加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも」の部分に係る補正は,当初明細書等の記載により自明な事項に基づくものである。すなわち,当初明細書等の記載によれば,本件各発明は,「メラミン系樹脂発泡体を圧縮し且つ加熱して」,「柔軟に変形可能な靱性を備えるとともに,布雑巾のような利便性を備えたメラミン系樹脂発泡体の不織布を提供」するものであるから(当初明細書等の段落【0008】及び【0009】),メラミン系樹脂発泡体が圧縮・加熱され,加熱前よりも柔軟なメラミン系樹脂発泡体が不織布を構成することが明らかである。 したがって,「柔軟性を有するシート状物」という記載を「加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物」に訂正する補正は,当初明細書等に事実上記載された事項に基づき,請求項1の記載を明瞭 したがって,「柔軟性を有するシート状物」という記載を「加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物」に訂正する補正は,当初明細書等に事実上記載された事項に基づき,請求項1の記載を明瞭化するためのものであり,新規事項の追加には当たらない。 8 争点(3)(損害発生の有無及びその額)について〔原告の主張〕(1) 被告らの得た利益相当額の損害(特許法102条2項)ア被告らは,平成22年2月6日以降,被告製造方法を使用して,被告各製品を生産し,販売している。そして,同日から平成27年4月5日までの被告各製品の売上高は,1億1900万円である。 イ上記アの売上に対する被告らの利益率は,50%を下らない。 ウしたがって,原告には,被告らによる本件特許権の侵害行為により,少なくとも5950万円の損害が生じた。 (2) 弁護士費用 595万円(3) 合計額 6545万円〔被告らの主張〕 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の意義(1) 本件明細書等には,次の記載がある。 ・「【発明の属する技術分野】本発明は,不織布及び不織布製造方法に関するものであり,より詳細には,原材料としてメラミン系樹脂発泡体を用いた不織布及びその製造方法に関するものである。」(段落【0001】)・「【従来の技術】戸棚,テーブル又は机等の家具類や,OA機器等を清掃する清掃具として,布雑巾や,使捨て可能な紙製品などが一般に使用されており,陶器製又は金属製の食器類,浴槽や洗面器等の入浴用品等を清掃する清掃具として,発泡ウレタン樹脂製のスポンジ等が広く実用に供されている。」(段落【0002】)・「多くの場合,乾燥状態の清掃具によっては,清掃対象面の塵埃等を簡易に拭き取ることはでき を清掃する清掃具として,発泡ウレタン樹脂製のスポンジ等が広く実用に供されている。」(段落【0002】)・「多くの場合,乾燥状態の清掃具によっては,清掃対象面の塵埃等を簡易に拭き取ることはできたとしても,清掃対象面の微細な凹部又は木質系繊維の隙間等の塵埃,或いは,頑固に付着した汚れ等は,十分に除去し難く,無理に汚れを除去しようとすると,清掃対象面に擦過傷等を生じさせる可能性がある。」(段落【0003】)・「このような欠点を解消可能な清掃具として,メラミン系樹脂発泡体からなる清掃具が,特開平11-128137号において提案されている。」(段落【0004】)・「【発明が解決しようとする課題】ここに,清掃対象物の面積及び形態は多種多様であり,清掃具は,布製雑巾の如く,十分な幅及び長さ,折り畳み可能な変形能,更には,清掃対象面の形態に応じて変形可能な柔軟性等を備えることが望ましい。」 (段落【0005】)・「しかしながら,上記メラミン系樹脂発泡体の清掃具は,亀裂が生じ易い比較的脆弱且つ硬質の材料であり,少なくとも15~20mm程度の厚みを有する比較的小寸法の板体(例えば,食器洗浄用スポンジ等のような直方体形状) に成形せざるを得ず,しかも,メラミン系樹脂発泡体は,柔軟に変形可能な靱性を備えていない。このため,メラミン系樹脂発泡体の清掃具においては,折り畳み可能な清掃具の変形能や,清掃対象面の形態に応じて変形可能な清掃具の柔軟性等を所望の如く確保し難い事情がある。」(段落【0006】)・「かくして,メラミン系樹脂発泡体の清掃具は,折り畳んで収納又は携帯したり,水又は洗浄液に漬けた後に捩じり又は絞ったり,或いは,手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な使い勝手には適応し得ない。 発泡体の清掃具は,折り畳んで収納又は携帯したり,水又は洗浄液に漬けた後に捩じり又は絞ったり,或いは,手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な使い勝手には適応し得ない。」(段落【0007】)・「本発明は,かかる事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,柔軟に変形可能な靱性を備えるとともに,布雑巾のような利便性を備えたメラミン系樹脂発泡体の不織布を提供することにある。」(段落【0008】)・「【課題を解決するための手段及び作用】上記目的を達成すべく,本発明は,メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程によって,加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し,折り畳み可能な変形能を与えたことを特徴とするメラミン系樹脂発泡体の清掃用不織布を提供する。」(段落【0009】)・「本発明の上記構成によれば,比較的厚い板体として成形されたメラミン系樹脂発泡体は,プレス成形機等によって圧縮状態で加熱され,柔軟性を有する比較的厚手のシート状製品となる。圧縮時に加熱されたメラミ ン系樹脂発泡体は,初期板厚さTへの復元力を喪失する。このような加熱作用を受けたメラミン系樹脂発泡体のシート状物は,柔軟に変形可能な靱性を発揮し且つ布雑巾のような利便性を備えた不織布を構成する。」(段落【0010】)・ 「かくして,上記構成の不織布によれば,収納又は携帯時の利便性を備え,しかも,水又は洗浄液に漬けた後に捩じり又は絞ったり,或いは,手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な用法で使用可能な清掃具を大量生産することが可能となる。」(段落【0011】)・「他の観点より,本発明は,上記構成の不織布をシート状基材 に応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な用法で使用可能な清掃具を大量生産することが可能となる。」(段落【0011】)・「他の観点より,本発明は,上記構成の不織布をシート状基材の片面又は両面に積層したことを特徴とする不織布積層体を提供する。 更に他の観点より,本発明は,メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程で,加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し,折り畳み可能な変形能を前記メラミン系樹脂発泡体に与えることを特徴とする清掃用不織布の製造方法を提供する。」(段落【0012】)・「【発明の効果】以上説明した如く,本発明の上記構成によれば,柔軟に変形可能な靱性を備えるとともに,布雑巾のような利便性を備えたメラミン系樹脂発泡体の不織布を提供することが可能となる。」(段落【0040】)(2) 上記各記載によれば,本件各発明は,原材料としてメラミン系樹脂発泡体を用いた不織布及びその製造方法に関するものであり,従前の布雑巾や紙製品,発泡ウレタン樹脂製のスポンジ等の清掃具における欠点を解消できる清掃具として,メラミン系樹脂発泡体からなる清掃具が提案されていたところであるが,メラミン系樹脂発泡体からなる清掃具については,折り畳み可能な変形能や,清掃対象面の形態に応じて変形可能な掃除具の柔軟性等を所望 の如く確保することが困難であるため,折り畳んで収納又は携帯したり,水又は洗浄液に漬けた後に捩じり又は絞ったり,あるいは,手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な使い勝手には適応し得ないという課題があったことから,メラミン系樹脂発泡体の単体を,圧縮した状態で加熱するという単一の工程によって,加熱前の前記メラミ 様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な使い勝手には適応し得ないという課題があったことから,メラミン系樹脂発泡体の単体を,圧縮した状態で加熱するという単一の工程によって,加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形することにより,折り畳み可能な変形能を与えたことを特徴とするメラミン系樹脂発泡体の清掃用不織布を提供して,上記課題を解決することを目的とする発明であり,本件発明1は上記清掃用不織布に係る発明,本件発明2は上記製造方法に係る発明,本件発明3は,本件発明2により製造された折り畳み可能な清掃用品に係る発明であると認められる。 2 争点(1)イ(構成要件B1及びB2の「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」の充足性)について事案に鑑み,争点(1)イについて判断する。 (1) 「柔軟な」の意義についてア 「柔軟な」という用語の意味について検討するに,JIS工業用語大辞典第4版(甲27)によれば,「容易に手で折りたたまれ,ねじ(捻)られかつ湾曲させられること」をいうものとされている。そして,前記1(2)のとおり,本件各発明は,メラミン系樹脂発泡体からなる掃除具における「折り畳み可能な変形能や,清掃対象面の形態に応じて変形可能な掃除具の柔軟性等」が乏しいという課題を解決することを目的とするものであることから,本件各発明における圧縮・加熱の工程を経たメラミン系樹脂発泡体が「より柔軟」になったということは,圧縮・加熱前よりも,容易に折り畳みが可能で,清掃対象面の形態に応じて変形することができるようになったことを意味すると考えられる。 したがって,本件各発明における「柔軟な」とは,容易に折り畳んだり 変形させたりできることを意味するものと認めることが相当である。 できるようになったことを意味すると考えられる。 したがって,本件各発明における「柔軟な」とは,容易に折り畳んだり 変形させたりできることを意味するものと認めることが相当である。 イ原告の主張に対する判断この点に関して原告は,「柔軟性を向上する」という文言の意味には,①柔軟性の有無に関するものと②柔軟性の程度に関するものがあり,本件各発明において「より柔軟な」という場合には,①柔軟性の有無に関するもの,すなわち,材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めることを意味するなどと主張する(なお,同主張が時機後れにより却下すべきとは認められないことは,後記(4)のとおりである。)。 しかし,本件明細書等には,「柔軟な」という用語の定義はされていないところ,「柔軟性を向上する」という言葉の意味が,もっぱら「材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めること」の意味で用いられていることをうかがわせる記載はない。原告は,本件明細書等における「柔軟に変形可能な靱性」を向上するという記載から,「柔軟性を向上する」とは「材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めること」の意味であることが明らかであるなどと主張し,理化学大辞典第5版(甲30)及び工業材料大辞典(甲31)によれば,「靱性」とは,一般に,「材料のねばり強さ,外力に抗して破壊し難い性質」を意味することが認められるものの,本件明細書等には,「柔軟性の向上」がもっぱら「靱性の向上」を意味するものである旨の記載はない。むしろ,「清掃対象面の形態に応じて変形可能な清掃具の柔軟性」(段落【0006】)を確保しがたいというメラミン系樹脂発泡体からなる掃除具の課題を解決して,「手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な用法で使用可能な」ものを提供する(段 落【0006】)を確保しがたいというメラミン系樹脂発泡体からなる掃除具の課題を解決して,「手指の動きに応じて多様な清掃対象物の汚れを拭き取るといった布雑巾的な用法で使用可能な」ものを提供する(段落【0011】)という本件各発明の効果からすれば,本件明細書等において,「柔軟性」という文言が「容易に変形する」という意味で用いられていることが認められるから,本件明細書等において,「柔軟性を向上する」という場合には,「容易に変形しやすいものと なること」を意味するものと解するのが自然である。 また,原告は,本件特許の審査過程で提出した乙3意見書において,「『柔軟』は『やわらかなこと。しなやかなこと。』(広辞苑)を意味し,『柔軟性』は,やわらかな性質又はしなやかな性質を意味する。」と述べており,「柔軟性」が「やわらかい性質」を意味するものと認識していたことが認められる。そして,「やわらかいもの」は,一般に,変形しやすいと考えられるから,「柔軟性を向上する」の意味が「容易に変形しやすいものとなること」を意味するとの解釈とも矛盾しない。 したがって,本件各発明において,「より柔軟な」という文言の意味が,「より靱性が高い(破壊し難い)」ことを意味すると認めることはできないから,原告の上記主張は採用することができない。 (2) 被告各製品についてア被告各製品に用いられているメラミン系樹脂発泡体が,被告製造方法における圧縮・加熱の工程を経て,「より柔軟」になったといえるか検討する。 イ被告各製品の原料として用いているメラミン系樹脂発泡体であるバソテクトWを用いた実験の結果として,原告からは甲32報告書及び甲45報告書が,被告らからは乙11報告書及び乙34報告書が,それぞれ提出されているので,以下,上記各報告書について 樹脂発泡体であるバソテクトWを用いた実験の結果として,原告からは甲32報告書及び甲45報告書が,被告らからは乙11報告書及び乙34報告書が,それぞれ提出されているので,以下,上記各報告書について検討する。 (ア) 甲32報告書によれば,圧縮前後のメラミン系樹脂発泡体について,同じ厚さ(20mm)の試料を準備して比較したところ,曲げ強度の平均値〔サンプル数3〕は,圧縮前が22.8kPa,圧縮後が41.9kPaであり,圧縮後の方が曲げ強度が大きい。 (イ) 甲45報告書によれば,「10mmたわみ時曲げ強さ(N)」の結果は,圧縮前のメラミン系樹脂発泡体(厚さ10mm)について平均2. 90N(サンプル数5),これを圧縮した後のメラミン系樹脂発泡体(厚 さ4mm)について平均0.600N(サンプル数5)であったことが認められ,このことからすると,圧縮後のものの方が,より弱い力(約5分の1の力)で10mmたわんだといえる。 なお,甲45試験においては,曲げ弾性率(甲32試験の「曲げ強度」と同じ。)は,圧縮前のものが平均0.285MPa,圧縮後のものが平均0.229MPaである。 (ウ) 乙11報告書によれば,「10mmたわみ時の荷重(N)」(甲45試験の「10mmたわみ時曲げ強さ(N)」と同じ。)をみると,圧縮前のメラミン系樹脂発泡体(厚さ7mm)について平均0.47N(サンプル数5),これを圧縮した後のメラミン系樹脂発泡体(厚さ4mm)について平均0.41N(サンプル数5)であったことが認められ,このことからすると,圧縮後のものの方が,より弱い力(約8分の7の力)でたわんだといえる。 (エ) 乙34報告書によれば,厚さ10mmのメラミン系樹脂発泡体を5mmに圧縮した場合,「10mmたわみ時の荷重(N)」は,圧縮前(厚 のの方が,より弱い力(約8分の7の力)でたわんだといえる。 (エ) 乙34報告書によれば,厚さ10mmのメラミン系樹脂発泡体を5mmに圧縮した場合,「10mmたわみ時の荷重(N)」は,圧縮前(厚さ10mm)では平均0.65N(サンプル数5),圧縮後(厚さ5mm)は平均0.62N(サンプル数5)であったことが認められる。 ウ上記イ(イ)ないし(エ)記載の各試験結果によれば,圧縮前と圧縮後のメラミン系樹脂発泡体が10mmたわむために要した荷重の差は,それぞれの試験結果によって大きく異なるところ,圧縮の程度の差を考慮したとしても,これらの差を合理的に理解することはおよそ困難であるといわざるを得ない。そして,甲45報告書,乙11報告書及び乙34報告書は,いずれも化学物質評価研究機構が作成したものであって,いずれかが信用性が明らかに劣ると評価することはできない。 そうすると,原告は甲45報告書を根拠として圧縮後の方が曲がりやすいと主張しているものの,甲45試験の結果が,乙11試験及び乙34試 験の結果よりも信用性が高いと認めるべき事情は何らうかがえないのであるから,甲45報告書をもって,被告各製品及び被告製造方法において,圧縮後のメラミン系樹脂発泡体の方が圧縮前よりも,より容易に10mmたわんだと認めることはできない。 なお,乙11試験及び乙34試験においても,平均すると圧縮後の方がやや弱い力で10mmたわんでいるという結果が出ているものの,いずれも,試料による誤差が大きく,圧縮後のものをみると(いずれもサンプル数5),乙11試験では0.329Nから0.521Nまでの値,乙34試験では0.502Nから0.833Nまでの値をとっていることからして,乙11試験における0.06Nの差,乙34試験における0.03Nの差が有 1試験では0.329Nから0.521Nまでの値,乙34試験では0.502Nから0.833Nまでの値をとっていることからして,乙11試験における0.06Nの差,乙34試験における0.03Nの差が有意の差であると認めることは相当ではない。 以上からすると,被告各製品及び被告製造方法において,メラミン系樹脂発泡体が,圧縮・加熱後に,「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」ものとなっていると認めるに足りる証拠がないというほかない。 エところで,甲32試験によれば,圧縮前のサンプルの厚さを圧縮後のものと同じ厚さとなるようにした場合,圧縮後のものの方が曲げ強度が高いという結果が得られているものの,甲45試験によれば,圧縮前のサンプルの厚さを圧縮後のものと同じ厚さとなるようにはしない場合には,圧縮前のものの方が曲げ強度が高い。 そして,本件各発明では「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物」に賦形するのであるから,加熱後のメラミン系樹脂発泡体について,厚さが加熱前と同じになるように切除するなどして調整することなく,加熱前後のメラミン系樹脂発泡体をそのまま比較することが相当であると考えられるところ,原告が主張するように「曲げ強度が高い」ことが「靱性が高い」ことを意味すると解したとしても,上記各試験の結果によれば,加熱後の方が曲げ強度が高いと認めることができないから,圧縮・ 加熱により,加熱後の方が「靱性が高い」ものとなったということはできない。 そうすると,仮に,「より柔軟な」という文言が原告の主張するように「より靱性が高い(破壊し難い)」という意味を有していたとしても,被告各製品について,圧縮・加熱後の方が「より靱性が高い(破壊し難い)」ことについてはそれを認めるに足りる証拠はないといわざるを得な 「より靱性が高い(破壊し難い)」という意味を有していたとしても,被告各製品について,圧縮・加熱後の方が「より靱性が高い(破壊し難い)」ことについてはそれを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。 (3) したがって,被告各製品は構成要件B1を充足せず,被告製造方法は構成要件B2を充足しない。そして,構成要件B2を充足しない被告製造方法により製造された被告各製品は,構成要件A3を充足しない。 (4) 被告らによる時期に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについてなお,被告らは,前記(1)イの原告の主張について時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を申立てているところ,原告の上記主張は,本訴において当初より審理されていた構成要件B1及びB2における「加熱前のメラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」の充足性に係る争点に関し,「(加熱前)よりも柔軟な」という文言の解釈を主張するものであるところ,被告らは,従前より,同文言は「曲げやすさ」を意味するものであることを前提とする主張をしており,上記文言の解釈に係る被告らの主張をしていたということができるし,また,原告が上記主張を陳述した平成28年8月22日の弁論準備手続期日の次回期日に当たる同年10月3日の弁論準備手続期日において,被告らは上記主張に対する反論を記載した準備書面を陳述しているから,原告が上記主張を提出したことによって本件訴訟の終結が遅延したということはできない。 したがって,上記被告らの主張には理由がないから,被告らの上記申立ては却下する。 3 結論以上によれば,被告各製品は本件発明1及び3の技術的範囲に属さず,被告 製造方法は本件発明2の技術的範囲に属さない。 したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することと 明1及び3の技術的範囲に属さず,被告製造方法は本件発明2の技術的範囲に属さない。したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 主文 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 瀬孝 裁判官 勝又来未子 別紙被告製品目録 製品名 歯のピーリングスポンジ JANコード4972379040511 製造・販売会社被告株式会社広栄社 製品名 ステインクリーナー(付け替え式スペア30個入り) JANコード4972379040757 製造・販売会社被告株式会社広栄社 製品名 ステインクリーナーキュ★キュ JANコード4548185002304 製造会社 被告株式会社広栄社 販売会社 被告日本歯科工業社 製品名 ステインクリーナーキュ★キュ院内指導用 JANコード458185002311 製造会社 被告株式会社広栄社 販売会社 被告日本歯科工業社 別紙方法目録 メラミン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程で,加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し,折り畳み可能な変形能を前記メラミン系樹脂発泡体に与 ン系樹脂発泡体の単体を圧縮した状態で加熱する単一の工程で,加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟なシート状物に該メラミン系樹脂発泡体を賦形し,折り畳み可能な変形能を前記メラミン系樹脂発泡体に与えることを特徴とするメラミン系樹脂発泡体の清掃用不織布の製造方法 別紙「特許公報」は省略

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