主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 押収してある交通事件原票1通(平成14年押第62号の1)の偽造部分を没収する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 氏名不詳者と共謀の上,金品を強取しようと企て,平成13年11月28日午後5時50分ころ,大阪市a区bc丁目d番e号所在の輸入バック販売「A」店内において,同店店長B(当時32歳)及び同店店員C(当時29歳)に対し,被告人において,所携の包丁を突きつけながら,「マネー,マネー」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧して,前記Bから,その管理に係る現金合計約33万2590円及び手提げバック6点(時価合計約574万円相当)を強取した第2 公安委員会の運転免許を受けないで,平成12年11月26日午前7時46分ころ,神戸市a区f町g番g号付近道路において,普通乗用自動車を運転した第3 前記第2記載の日時ころ,公安委員会が道路標識によりその最高速度を50キロメートル毎時と指定した前記第2記載の道路において,その最高速度を31キロメートル超える81キロメートル毎時の速度で前記第2記載の車両を運転して走行した第4 同日午前8時8分ころ,神戸市a区f町c番c号先歩道上において,兵庫県生田警察署勤務司法巡査Dらから道路交通法違反(速度違反)被疑事件について取調べを受けた際,運転免許を取得している知人Eの氏名を詐称して前記第2及び第3記載の道路交通法違反の刑責を免れようと企て,自己の名前をEと名乗り,運転免許証は不携帯である旨申告し,同巡査が交通事件原票(番号ANo.320159)を作成するに当たり,「私が上 前記第2及び第3記載の道路交通法違反の刑責を免れようと企て,自己の名前をEと名乗り,運転免許証は不携帯である旨申告し,同巡査が交通事件原票(番号ANo.320159)を作成するに当たり,「私が上記違反をしたことは相違ありません。」などと記載された同原票中の供述書氏名欄に,行使の目的をもって,ほしいままに,「E」と冒書した上指印し,もって偽造した他人の署名を使用して事実証明に関する私文書1通(平成14年押第62号の1の供述書部分)を偽造し,これを即時同所において,前記D巡査に対し,あたかも真正に成立したもののように装って提出して行使したものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明)第1 争点判示第1の事実につき,関係証拠によれば,その日時,場所において,判示第1のとおり少なくとも二人の犯人による本件強盗事件が発生したことは明らかであるところ,被告人は全く身に覚えがない旨主張し,弁護人は,本件各証拠によっても,被告人が判示第1の強盗犯人であると断定するには合理的な疑いが残るから無罪である旨主張する。 当裁判所は,前掲関係各証拠によれば,被告人と犯人との結びつきを含め判示第1の事実は優に認められると判断したのであるが,弁護人らの主張にかんがみ,以下,その理由を補足して説明する。 第2 判断(以下,証拠に付した数字は検察官請求証拠番号を示す。) 1 前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 平成13年11月28日午後5時50分ころ,大阪市a区bc丁目d番e号所在の輸入バック販売「A」店内において,同店店長B及び同店店員Cが勤務中,少なくとも二人の強盗犯人が同店に押し入り,サングラスをした犯人の一人(以下「包丁を持った犯人」という。」)が 丁目d番e号所在の輸入バック販売「A」店内において,同店店長B及び同店店員Cが勤務中,少なくとも二人の強盗犯人が同店に押し入り,サングラスをした犯人の一人(以下「包丁を持った犯人」という。」)が所携の包丁を突きつけながら,Cに対し,「マネー,マネー」などと申し向けて脅迫し,同女が恐怖のあまりしゃがみ込むと,Bに対し,同様に包丁を突きつけて金員を要求し,Bから,三度にわたりその管理に係る現金合計約33万2590円を強奪し,もう一人の犯人(以下「ショーケースを叩き割った犯人」という。」)は,店内のショーケースを叩き割り,展示していたエルメス製の高価なバック6個を強奪した。 (2) 平成13年12月12日午後5時ころ,被告人は,東京都h区所在の「F」において,実姉の夫であるGになりすまし,同人の国民健康保険被保険者証を示して同店に本件被害品と特徴を同じくするエルメス製バックを代金60万円で売却し,翌13日午後1時30分ころ,東京都i区所在の「H」に本件被害品であるバック2個を持ち込み,これを売却しようとして警察官から任意同行を求められ,その後私印偽造等の容疑で逮捕されたが,その際,これとは別のエルメス製のバック2個を所持していた。 (3) 被告人は,判示第1の事実につき,取調べにおいては一貫して容疑を否認し,あるいは黙秘していたところ,平成14年2月26日神戸家庭裁判所における第1回審判期日において,判示第1の犯罪事実は間違いない旨陳述するとともに,共犯者はIとJの二人であり,3人で店内に押し入り,自分が包丁で店員を脅して現金を奪ったなどと供述したが,同月28日第2回審判期日において,その自白を撤回した。 2 B及びC両名は,公判廷において,「包丁を持った犯人」は被告人である旨断言するところ,その捜査段階における供述経過 たなどと供述したが,同月28日第2回審判期日において,その自白を撤回した。 2 B及びC両名は,公判廷において,「包丁を持った犯人」は被告人である旨断言するところ,その捜査段階における供述経過を含めた同人らの犯人目撃・識別供述の要旨は,以下のとおりである。 (1) B作成の平成13年11月28日付け被害届(1)包丁を持った犯人は若く小柄で黒色のサングラスをかけていた。他の男については若い男という位しかわからない。 (2) Bの平成13年11月28日付け司法警察員に対する供述調書(5)包丁を持った犯人は,身長が170センチメートル前後,サングラスをかけ,黒の上下の服装であった。犯人は最低二人は間違いないが,他に犯人がいたかどうかはわからない。 (3) 写真面割りの経過司法警察員作成の捜査報告書添付の写真面割台帳(7。以下「B用写真面割台帳」という。)は,縦4.5センチメートル横4センチメートルの大きさの胸から上の人物カラー写真9枚が1から9まで番号を付されて一列3枚3列に配置されているもので,被告人の写真は番号4で2列目左端に位置している。司法警察員作成の捜査報告書添付の写真面割台帳(15。以下「C用写真面割台帳」という。)は,同様のもので,被告人の写真は番号6で2列目右端に位置している。 平成13年12月18日ころ,B及びCは,捜査員からこの写真の中に犯人がいるかも知れないしいないかもしれない旨説示された上,B,Cの順に,それぞれB用写真面割台帳及びC用写真面割台帳を示され,いわゆる写真面割りが実施された。 Bは番号4の被告人の写真を,Cは番号6の被告人の写真をそれぞれ「包丁を持った犯人」であるとして選択した。 (4) 面通しの経過平成13年12月19日ころ 実施された。 Bは番号4の被告人の写真を,Cは番号6の被告人の写真をそれぞれ「包丁を持った犯人」であるとして選択した。 (4) 面通しの経過平成13年12月19日ころ,B及びCは連れ立って上京し,警視庁碑文谷警察署で,C,Bの順に,ガラス(ミラー)越しに取調室内で捜査官と二人でいる被告人の姿を見分し,いずれも,被告人が「包丁を持った犯人」であると述べた。 (5) B及びC両名の公判供述両名ともに,判示「A」店内は十分な明るさがあり,数十センチメートルの間近で包丁を持った犯人の顔を見たもので,その犯人は被告人に間違いないと供述したが,その供述の概要は,以下のとおりである。 Bの供述によると,同人の視力は1.2ないし1.5であり,包丁を持った犯人は黒のナイロン上下,サングラスを着用し,帽子はかぶっておらず,髪の毛は真ん中分けで黒っぽい色の髪であり,顎の輪郭がしっかりした感じが特徴の顔であった。ショーケースを叩き割った犯人は明るめの長めの茶髪の若い男であった。 Cの供述によると,同人の視力は1.2であり,犯人は3人かも知れないが,見たのは二人であった。包丁を持った犯人は黒色ナイロン製のスポーツウェア上下,黒いサングラスを着用し,髪の毛はセンター分け,少しボサッとした感じで,耳の横の髪は半分位かぶさっていた。顔は面長,ぽちゃっとした感じであった。 なお,前記写真面割り実施後,BとCは,それぞれ選び出した「包丁を持った犯人」の写真の写真面割台帳上の配置場所が異なることに気付き,両者間で,異なる写真を選び出したのではないかとの話題も出たが,結果的には同じ写真を選んでいたということがわかったのは面通しが終わった後のことであった。 3 B及びCの「包丁を持った犯人」は被告人である旨のいわ なる写真を選び出したのではないかとの話題も出たが,結果的には同じ写真を選んでいたということがわかったのは面通しが終わった後のことであった。 3 B及びCの「包丁を持った犯人」は被告人である旨のいわゆる犯人識別供述は,一貫した相互に符合する供述であるところ,前記2認定のとおり,視力に問題のない両名が十分な明るさの店内でいずれも犯人の顔を至近距離から相当時間目撃したものであって,その観察条件は良好であったこと,目撃の約20日後に行われた前記2認定の写真面割りは,BとCには被告人の写真の配置位置等を変えて別個に作成した写真面割台帳を示すなど,両者が記憶のままに写真を選別できるよう配慮されており,捜査官による誘導ないし暗示等の影響や,両名相互間の話し合い等による判断の誤りは考えられないこと,写真面割りの翌日に行われた面通しの経過等に照らし,その信用性は十分である。弁護人は,B及びC両名は恐怖のため犯人像についてはほとんど記憶がなかった,両名の写真面割台帳を見せられるまでの犯人の人相や髪型等に関する供述内容は極めて貧困であるのに,写真面割台帳を見せられた後には雄弁になっているなどとして,両名の供述の信用性を争うところ,一般に容貌等について言語で説明することは簡単なことではなく,犯人の容貌等について明確な記憶がある場合であっても,これを言葉で表現することは難しいのであり,その意味では,弁護人主張のとおりB及びC両名の供述に,写真を選び出した後に容貌等についてその写真をもとにこれを言語で表現しえた部分がないとはいえないけれども,両名の犯人識別供述は記憶に基づく具体的で十分に詳細な供述と認められる。弁護人は,犯行日ころの被告人の髪は短く紛れもない茶髪でセンター分けしていなかったとして,これに反するB及びCの供述は明白な虚偽供述であるというが,両名 基づく具体的で十分に詳細な供述と認められる。弁護人は,犯行日ころの被告人の髪は短く紛れもない茶髪でセンター分けしていなかったとして,これに反するB及びCの供述は明白な虚偽供述であるというが,両名の供述には,写真面割台帳の被告人の写真の髪型等に影響を受け,これにやや引きずられた部分がないとはいえないけれども,両名の証言後証拠調べされた平成13年12月13日及び同月14日(犯行の約2週間後)に撮影された被告人の写真(写真撮影報告書(84)及び写真入手経緯報告書(85)各添付のもの)と比較しても,両名の犯人識別供述の信用性は揺るがないから,弁護人の主張は理由がない。 4 前記1(2)認定のとおり,被告人は犯行の約2週間後東京都内のブランド品の買取店で他人になりすまして本件被害品と特徴を同じくするバックを売却し,翌日東京都内の別の店に本件被害品であるバック2個を持ち込み,これを売却しようとしたほか,これとは別のエルメス製のバック2個を所持していたことが認められるところ,パチンコ店で知り合ったJなる人物からバックを売ってくれと頼まれたなどとする,その入手経緯や売却に至る経緯に関する被告人の供述が全く信用できない本件にあっては,前記売り捌きの事実は被告人の犯人性を補強する有力な間接事実というべきである。 5 さらに,前記1(3)認定のとおり,被告人は家庭裁判所における審判時に判示第1の事実につき自白しているところ,被告人は家庭裁判所調査官から判示第1の犯罪事実を認定の上調査するといわれて混乱,困惑して自白するに至ったというが,信用できず,その審判期日における供述によれば,当時少年であった被告人が刑事裁判ではなく少年審判を受けたいとの動機で突如自白するに至ったものと窺われ,その具体的な犯行状況に関する供述内容やその2日後の審判期日にその 審判期日における供述によれば,当時少年であった被告人が刑事裁判ではなく少年審判を受けたいとの動機で突如自白するに至ったものと窺われ,その具体的な犯行状況に関する供述内容やその2日後の審判期日にその自白を撤回していること等を勘案すると,その信用性は必ずしも高くはないが,具体的な犯行状況はともかく,自らが「包丁を持った犯人」であることを承認した点には,前記B及びCの犯人識別供述を補強する証拠価値が認められるというべきである。 6 また,弁護人は被告人にはアリバイがあると主張し,被告人は,犯行時刻である平成13年11月28日午後5時50分ころには神戸方面に戻る電車に乗車していたというが,携帯電話記録(司法警察員作成の捜査復命書31)から客観的に確定できる事実は,被告人が,犯行当日である同日午後2時54分ころには兵庫県内に,同日午後5時19分ころには大阪府内に,翌29日午前零時1分ころには兵庫県内に所在したことのみであって,被告人の前記供述は採用できないから,弁護人の主張は理由がない。 7 以上のとおり,前記被害品であるバックを被告人において売り捌いた事実や前記被告人の自白を併せ考慮すると,前記B及びCの犯人識別供述の信用性は十分であり,B及びCの犯人識別供述を含む前掲関係各証拠によれば,判示第1の事実は合理的な疑いの余地なく認定できる。 (法令の適用)罰条第1 刑法60条,236条1項第2 平成13年法律51号による改正前の道路交通法118条1項1号,64条第3 同法118条1項2号,22条1項,4条1項,同法施行令1条の2第1項第4の所為中,有印私文書偽造の点刑法159条1項同行使の点同法161条1項, 項,4条1項,同法施行令1条の2第1項第4の所為中,有印私文書偽造の点刑法159条1項同行使の点同法161条1項,159条1項科刑上一罪刑法54条1項後段,10条(第4につき,一罪として犯情の重い偽造有印私文書行使罪の刑で処断)刑種の選択懲役刑を各選択(第2,第3につき)併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重)宣告刑懲役5年未決勾留刑法21条(300日算入)没収同法19条1項1号,2項本文(押収してある交通事件原票1枚(平成14年押第62号の1)の偽造部分は,判示第4の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないものである。)訴訟費用刑事訴訟法181条1項本文(全部負担させる。)(事案の概要並びに量刑の理由)本件は,被告人が,氏名不詳の共犯者と共謀の上,店舗内から現金やバックを強奪した強盗の事案(第1),普通乗用自動車を無免許運転し,その際指定速度違反をした道路交通法違反の各事案(第2,第3)及びその際警察官の取調べを受けるや,無免許運転等の発覚を免れるため,免許を有している友人の名前をかたって交通事件原票の供述書を偽造して行使した有印私文書偽造,同行使の事案(第4)である。 第1の犯行は,営業中の高級バック販売店に押し入り,被告人において包丁を店員に突き付け現金約33万円を強奪し,共犯者においてショーケースを叩き割って時価合計約574万円のバック6点を強奪したもので,もとよりその動機に斟酌すべき事情は認められない上,犯行は危険かつ無法極まりなく,被害額も多額であり,被害者2名が被った恐怖感は甚大であって, って時価合計約574万円のバック6点を強奪したもので,もとよりその動機に斟酌すべき事情は認められない上,犯行は危険かつ無法極まりなく,被害額も多額であり,被害者2名が被った恐怖感は甚大であって,そのため被害店舗は約2週間の閉店を,その後も男性客のみの立ち入りは断るという不正常な営業を余儀なくされており,その結果は重大で,犯情は極めて良くない。しかも,被告人は,家庭裁判所の審判期日でいったん罪を認めたものの,2日後にはこれを撤回し,捜査段階からほぼ一貫して事実無根であると主張して止まず,公判においては,不自然不合理な弁解に終始したこと,無軌道な態様による強盗事件としてその社会的影響も軽視できないことを併せ考慮すると,その刑事責任は重いというほかはない。また,第2ないし第4の各犯行も被告人の規範意識の乏しさのあらわれともいうべき犯行であって,厳しい非難に値するから,その刑事責任も重い。 そうすると,被告人は犯行当時少年であって,いまだ若年であること,第1の被害品の一部が被害者に還付されるであろうこと,第2ないし第4の犯行については反省服罪の態度を示していること等被告人のために斟酌すべき情状を十分に考慮しても,なお,酌量減軽すべき事情は認められないものと思料し,主文のとおり量定した次第である。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年4月23日神戸地方裁判所第11刑事係甲裁判官杉森研二
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