平成14(わ)29 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年4月24日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,143 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,昭和40年11月,大手航空会社の操縦士をしていたV(本件被害当時62歳)と婚姻し,1男1女をもうけたが,かねて同人からの家庭内暴力や同人の女性問題等に悩まされていたところ,平成10年9月ころ,同人から離婚給付契約公正証書の作成を強いられた上,平成11年6月には,同人からの強い求めに応じ離婚届を提出することを余儀なくされた。しかし,その後も,被告人とVは,同居を続けていたが,平成12年6月には,被告人は,Vの暴力により腰の骨を折る傷害を負い,平成13年5月には,急性薬物中毒,幻覚妄想状態などで数日間入院するなどし,更に,同年6月ころ,被告人は,Vと別居し,次いで,同人に対し民事訴訟を提起したが,程なくこれを取り下げ,同年8月下旬ころからは,兵庫県川西市Aa丁目b番地のc所在の自宅で,Vとの同居生活に戻ったが,その後も,同人の女性関係等を巡って疑惑を募らせる一方,表面的には同人に服従する生活を続けていた。被告人は,平成13年12月30日午前11時10分ころ,不機嫌な態度で上記自宅2階12畳洋室に上がったVの様子を見に行った際,いきなり同人から洋式ナイフで切り付けられたり,黒色コードで首を絞められるなどの暴行を受け,もみ合いの末,そのナイフを取り上げ,同人の背部等を同ナイフで数回突き刺して階下へ逃がれたものの,同日午前11時40分ころになって,再度上記2階12畳洋室の様子を見に行ったところ,無抵抗の状態で倒れ込んでいた同人を認めるや,これまで同人から受けてきた仕打ちを思い起こし,同人への憤まんを晴らすのはこの機会しかないなどと考え,同人を殺害し 12畳洋室の様子を見に行ったところ,無抵抗の状態で倒れ込んでいた同人を認めるや,これまで同人から受けてきた仕打ちを思い起こし,同人への憤まんを晴らすのはこの機会しかないなどと考え,同人を殺害しようと決意し,すぐに,その場で,同室にあったピンク色電気コードを同人の頸部に巻いて強く締め付け,よって,そのころ,同所において,同人を窒息により死亡させた。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,①被告人は,被害者に対する殺意を有しておらず,傷害致死罪が成立するにとどまる,②仮に被告人が殺意を有していたとしても,被告人は被害者から殺害を依頼されたため殺害したもので,嘱託殺人罪が成立する,③本件では正当防衛が成立する旨主張するので,以下,検討する。 2 本件は,被告人と被害者しかいない被告人宅で発生したもので,被害者が死亡していることから,本件の犯行状況を認定するに当たっては,被告人の供述によらざるを得ないところ,被告人の供述中には,現場の客観的な状況等とそぐわないことから,記憶が混乱し,あるいは誇張しているとみられる部分も少なくなく,その信用性の判断は,慎重になされるべきものであるが,被告人の捜査段階の供述中,①被告人が,自宅2階12畳洋室において,被害者に洋式ナイフで切り付けられたり,黒色コードで首を絞められるなどの暴行を受けた点については,犯行現場に洋式ナイフが存し,被告人が右手に切創を負っていることや,犯行現場に黒色コードが存し,被告人の首に絞められた痕があることによって裏付けられており,②被告人が,そのナイフを取り上げ,被害者の背部等を同ナイフで数回突き刺した点については,同人の背部等に複数の刺切創が存することによって裏付けられており,③被告人が,その後,1階に逃れ約30分ほど1階にいた点については,その約30分ほ 害者の背部等を同ナイフで数回突き刺した点については,同人の背部等に複数の刺切創が存することによって裏付けられており,③被告人が,その後,1階に逃れ約30分ほど1階にいた点については,その約30分ほどの間に当たる午前11時30分ころ,被告人方を訪ねた女性が,被告人が応対に出,その際,被告人の衣服に血がついているのを見ていることによって裏付けられており,④被告人が,その後,2階12畳洋室の様子を見に行き,無抵抗の状態で倒れ込んでいた被害者に対し,同室にあったピンク色電気コードをその頸部に巻いて強く絞め付け,同人を窒息により死亡させた点については,犯行現場の状況や鑑定による被害者の死因等によって裏付けられていることからすると,被告人の捜査段階の供述は,少なくとも判示事実に沿う範囲においては,十分に信用することができる。 そして,被告人の捜査段階の供述を含む前掲各証拠を総合すると,判示事実はこれを優に認めることができる。 3(1) これに対し,弁護人は,被告人には,本件犯行に及んだ記憶はないから,被告人には殺意がない旨主張し,被告人も,公判廷においてこれに沿う供述をする。 しかしながら,本件は,被告人が被害者の頸部に電気コードを巻き付けて,強く絞め付けることによって,被害者を窒息死させたものであって,こうした行為態様自体から被告人が被害者に対して殺意を有していたことは優に推認できる。そして,殺意を認める被告人の捜査段階の供述は,こうした推認に沿う自然なものであって,十分に信用することができる。弁護人の主張は,被告人が犯行時においても自己の行為を認識していなかったとする趣旨であるなら,およそ不自然というほかなく,被告人が現在記憶を有していないとする趣旨なら,犯行当時の殺意を否定するものではないから,いずれにせよ,弁護人のこの主張は の行為を認識していなかったとする趣旨であるなら,およそ不自然というほかなく,被告人が現在記憶を有していないとする趣旨なら,犯行当時の殺意を否定するものではないから,いずれにせよ,弁護人のこの主張は採用することができない。 (2) 次に,弁護人は,被告人は,被害者から「もうちょっとでお迎えが来る。助けてくれ。」と言われたので,この殺害の嘱託に応じて同人を殺害したもので,被告人には嘱託殺人罪が成立する旨主張し,被告人も公判廷においてこれに沿う供述をする。 しかしながら,被害者が言った前記文言自体,殺してくれるように依頼する趣旨のものであるとは解されず,かえって被告人に対し,救命を求める趣旨のものと解される上,関係証拠によると,被害者は,職場の健康診断でも特に健康に問題はなく,パイロットの仕事に日々従事していたもので,被害者が自殺を考えるような事情も見出せないから,被害者が前記文言をもって,被告人に殺害を嘱託したものとは到底認められない。そうすると,弁護人のこの主張も採用することができない。 (3) さらに,弁護人は,被告人は被害者から判示の暴行を受け,これから逃れるため,被害者の背部等を洋式ナイフで数回突き刺したが,その後に1階に一度降りた事実はなく,被告人は,引き続き,ピンク色電気コードを被害者の頸部に巻いて強く絞め付けて同人を殺害したものであって,こうした事実関係を前提とすると,本件では正当防衛が成立する旨主張する。そして,被告人の絞頸行為が引き続き行われたと考える根拠として,被告人が被害者の背部等を突き刺してから,被告人が被害者を絞殺するまでの間,判示のように30分も時間があったのなら,大量の出血があってしかるべきであるのに,現場にそれだけの出血がなく,被害者の死因が出血死でもないのは,被害者が出血が始まってから 被害者を絞殺するまでの間,判示のように30分も時間があったのなら,大量の出血があってしかるべきであるのに,現場にそれだけの出血がなく,被害者の死因が出血死でもないのは,被害者が出血が始まってからそれほど時間的間隔を置かずに首を絞められ死亡したことを示していることを挙げ,また,1階に一度降りたとする被告人の捜査段階の供述は,検察官が,被告人に対し,本件で正当防衛の主張がなされないようにするため,恣意的な誘導をしたものであるとする。 しかしながら,被害者が背部等に負った刺切創は,単独あるいは複数で死因になるほどの重傷度なものではない(鑑定書,検察官請求証拠番号131)ことからすると,現場に大量の出血がなく,被害者の死因が出血死でないからといって,被害者が出血が始まってからそれほど時間的間隔を置かずに死亡した根拠にはならない。また,被告人は,捜査段階の供述調書において,自己の記憶に従って極めて細かい点にまで訂正を申し立てているのであって,検察官が被告人に対し記憶に反する恣意的な誘導をした形跡もなく,さらに,そもそも被告人自身,公判廷でも,1階に降りることなく引き続き被害者の首を絞め付けたなどという供述を一切していない。そうすると,弁護人の正当防衛の主張は,前提とする事実関係が認められず,ほかに,急迫不正の侵害をうかがわせるような事情は存しないから,採用することができない。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中330日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,離婚後も内縁関係を継続し同居していた 勾留日数中330日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,離婚後も内縁関係を継続し同居していた元夫を電気コードで絞殺したという殺人の事案である。 被告人は,犯行前に被害者から洋式ナイフで突如切り付けられたり,首を絞められるなどの暴行を受けたことに端を発するとはいえ,身動きがとれず,倒れ込んだまま被告人に救命を求める無抵抗の被害者に対して,119番通報をするなど何らの救命措置を講ずることなく,かえってその頸部に電気コードを巻き付け,相当時間にわたり強く締め付けたものであって,被害者の凄惨な遺体の状況から同人の苦痛の程がうかがえることからも,犯行態様は悪質である。 そして,被害者は,これまでパイロットとして永年航空会社に勤めて家計を支え,本件犯行がなければ,間もなく退職して,悠々自適の生活を送ることができたはずであったのに,本件犯行によって突然,自らの生命のみならず,将来の生活への希望などもすべて奪われたのであって,被害者の苦痛,無念は相当大きかったことが容易に推測でき,本件犯行の結果はまことに重大である。 加えて,被告人と被害者の長女,長男及び被害者の兄弟姉妹の遺族感情には厳しいものがある。 このような事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 しかしながら,他方,被告人も,前記のとおり被害者からいきなりナイフで切り付けられた上,コードで首を絞められるなどの強度の暴行を受け,全治10日間を必要とする傷害を負ったことが認められ,このことが本件犯行の決定的な契機となっていることは否定できない。また,被告人は,被害者から家庭内で暴力を振るわれ,腰椎骨折等の重傷を負わされたことや,女性関係を巡る疑惑等もあり,被害者 が認められ,このことが本件犯行の決定的な契機となっていることは否定できない。また,被告人は,被害者から家庭内で暴力を振るわれ,腰椎骨折等の重傷を負わされたことや,女性関係を巡る疑惑等もあり,被害者との関係で苦悩してきた事情がうかがわれ,責任能力に疑問を生じる程ではないとはいえ,相当不安定な精神状態にあったことが推認でき,この点が,本件犯行に影響を及ぼした可能性も考えられる。加えて,被告人の供述には不自然な点が見受けられるものの,被告人には真摯に供述しようとする態度が一応うかがわれること,1年を超える未決勾留の期間中,面会に来た僧侶から仏教の教えを学んだり,心理カウンセラーと面談したりすることを通じて,日を追うごとに反省の情を深めていることが認められること,被告人は,本件犯行に至るまでの35年余りの間,専業主婦として被害者らとの家族生活を支え,犯罪とは無縁のまっとうな社会生活を送ってきたもので,前科,前歴が一切ないことなど,被告人にとって有利な事情も多く認められる。 そこで,以上諸般の事情を総合して考慮し,被告人に対して,主文の刑を科することとした。 (求刑・懲役6年)平成15年4月24日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸

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