令和2(ワ)2361 損害賠償請求反訴事件

裁判年月日・裁判所
令和4年3月16日 札幌地方裁判所
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判決文本文24,753 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求反訴被告は、反訴原告に対し、4357万円及びこれに対する平成30年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要平成30年9月6日、北海道で発生した北海道胆振東部地震(以下「本件地震」という。)によって、北海道内で電気事業等を行っている脱退前被告が運転する苫東厚真火力発電所(以下「本件発電所」という。)の発電機が停止したことなどをきっかけに、北海道全域における大規模停電(以下「本件ブラックアウト」という。)が発生した。 本件は、北海道斜里郡a 町でホテルを経営している株式会社である反訴原告が、脱退前被告は、①本件地震当時、本件発電所の電力供給が北海道内の総供給量の48%を超えており、本件発電所が地震により停止した場合、ブラックアウトが発生するおそれがあったから、本件発電所の発電量を減じ、他の発電所を稼働させて発電量の分散を図るべきであったのに、これを怠った過失、②本件発電所が停止した場合に備え、本件発電所の合計出力である149.2万kW以上の負荷遮断量を設定し、ブラックアウトを回避すべきであったのに、実際に設定された負荷遮断量は146万kWに留まり、適切な負荷遮断量の設定を怠った過失により本件ブラックアウトを発生させ、加えて、③地震によるブラックアウト発生時の復旧に係る計画を立案していなかった結果、本件ブラックアウトからの復旧の手順及び見通しを誤り、本件ブラックアウトが長期化する旨の誤った復旧見通しを公表したことにより、反訴原告の経営するホテルの宿泊予約が解約されるなどの損害を受けたなどと主張して、脱退前被告から本件ブラックアウトに係る損害 賠償債務を承継した反訴被告に対 復旧見通しを公表したことにより、反訴原告の経営するホテルの宿泊予約が解約されるなどの損害を受けたなどと主張して、脱退前被告から本件ブラックアウトに係る損害 賠償債務を承継した反訴被告に対し、不法行為に基づき、宿泊予約の解約による損害及び弁護士費用等の合計4357万円並びにこれに対する本件地震が発生した日である平成30年9月6日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 反訴原告は、当初、脱退前被告を被告として、本件ブラックアウトに係る損害賠償を求めていた(当庁令和元年第1591号)が、反訴被告が本件ブラックアウトに係る損害賠償債務を承継したと主張して、反訴原告に対し同債務の不存在確認を求める訴えを提起して、同事件に承継参加(当庁令和2年第1285号)するとともに、脱退前被告は訴訟脱退を申し出た。これに対し、反訴原告は、脱退前被告の訴訟脱退の申出を承諾するとともに、反訴被告に対し、本件反訴を提起したため、反訴被告は、上記債務不存在確認請求を取り下げた。 1 前提事実(争いがない事実及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)⑴ 用語の意義等本判決で用いる電力関係の用語の意義等は、別紙1のとおりである。 ⑵ 当事者等ア反訴原告は、前記肩書地において、「Aホテル」(以下「本件ホテル」という。)を経営する株式会社である。 イ脱退前被告は、平成30年9月6日当時、北海道内において、発電事業、小売電気事業及び一般送配電事業を行っていた株式会社である。 反訴被告は、令和2年4月1日、会社の吸収分割の方法により、脱退前被告の営んでいた事業のうち、一般送配電事業、離島における発電事業及びこれらに附帯関連する事 業を行っていた株式会社である。 反訴被告は、令和2年4月1日、会社の吸収分割の方法により、脱退前被告の営んでいた事業のうち、一般送配電事業、離島における発電事業及びこれらに附帯関連する事業並びにこれらに係る権利義務を承継した株式会社である。 ⑶ 本件地震及び本件ブラックアウトの発生(乙2)ア平成30年9月6日午前3時7分(以下、同日の出来事については年月 日の記載を省略する。)、北海道胆振地方東部を震央とする最大震度7に及ぶ本件地震が発生した。 イ本件地震が発生した当時の北海道の電力網の概要は、別紙2の1の図のとおりであり、道内最大の電力消費地である道央エリアを中心に、道北方面、道東方面及び道南方面へと電力網が延伸される構造となっていた。 ウ本件地震発生直前の北海道内の発電機の運転状況は、別紙2の2の表のとおりであり、北海道内全体の電力需要量合計約308.7万kWのうち、48%余りに当たる約149.2万kWを北海道勇払郡厚真町所在の本件発電所の発電機1号機、2号機及び4号機(以下、単に「1号機」などということがある。)が供給している状況であった。 エ本件地震発生直後、2号機及び4号機がタービンの振動を検知して、自動停止したほか、1号機もボイラーの損傷や機器の動作不良等により、次第に出力を低下させ、午前3時25分、停止した。 オエと並行して、本件地震発生直後、道央エリアと道東方面エリアをつないでいた狩勝幹線2回線、新得追分線1回線及び日高幹線1回線の計4回線において、送電線の地絡事故が発生(以下「本件送電線事故」という。)し、道東方面エリアが電力系統から一時的に切り離された結果、道東方面エリア内で周波数が上昇したことにより、道東方面エリアの全ての水力発電所が停止した。 カ 生(以下「本件送電線事故」という。)し、道東方面エリアが電力系統から一時的に切り離された結果、道東方面エリア内で周波数が上昇したことにより、道東方面エリアの全ての水力発電所が停止した。 カエ及びオによる、電力供給の喪失に対し、北本連系設備からの受電、運転中の他の火力発電所の出力増加及び合計約146万kW相当の負荷遮断の実施などの対応により、周波数の維持が試みられたものの、周波数を維持できず、周波数低下による発電機保護のため、火力発電所及び道東方面エリア以外の水力発電所が停止した。 その結果、北海道エリア内の電源がなくなったことにより、北本連系設備も運転不能となって停止し、供給力が喪失したことにより、午前3時2 5分、北海道全域における大規模停電(本件ブラックアウト)が発生した。 ⑷ 本件ブラックアウトからの復旧(乙2)ア脱退前被告は、本件ブラックアウト発生直後の午前3時27分頃から、本件ブラックアウトからの復旧(ブラックスタート)を試みたが、1回目のブラックスタートは、機器の停止等により失敗した。 その後、脱退前被告は、午前6時25分頃から、2回目のブラックスタートを試み、発電機の並列や電力系統の接続を順次行い、同月8日午前0時13分、一般負荷送電を完了し、土砂崩れで立ち入ることができない一部地域等を除き、一般の需要家に対する電気の供給が復旧した。 イ脱退前被告は、本件ブラックアウトからの復旧の見通しについて、経済産業省に説明をしており、経済産業大臣は、同月7日午前10時頃までは、同説明を基に、北海道全域への供給再開に1週間程度かかるとの見通しを説明していた(甲10の2・3、弁論の全趣旨)。 2 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 本件発電所に発電量を一極集中させた過失等 基に、北海道全域への供給再開に1週間程度かかるとの見通しを説明していた(甲10の2・3、弁論の全趣旨)。 2 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 本件発電所に発電量を一極集中させた過失等の有無(反訴原告の主張)脱退前被告には、本件発電所に近接した地域で大規模な地震が発生した場合に、ブラックアウトが発生することを防止するため、本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発電所及び水力発電所による発電により賄い、あるいは、本件発電所の発電機の停止に備え、揚水発電所である京極水力発電所を稼働させておくべきであったのに、これを怠った過失がある。 その根拠は次のとおりである。 アブラックアウトの発生を防止するための対策をとることは電力会社である脱退前被告の義務であること脱退前被告は、北海道全域に電気を供給する電力会社として、電力を安 定的に供給する責務を負っている。ブラックアウトは、北海道経済全体に極めて重大な影響を及ぼすことから、電気の需給バランスが崩れることによる周波数変化によりブラックアウトが発生することを防ぐために、あらかじめ十分な検討と対応措置をとる義務を負っていた。 イ本件発電所に近接した地域で大規模な地震が発生した場合に、ブラックアウトが発生し得ることを予見できたこと 本件発電所は、石狩低地東縁断層帯南部に極めて近接しており、地震の発生リスクが高い状況にあったことからすれば、本件発電所に近接した地域で大規模な地震が発生する可能性は容易に認識することができた。 また、東北地方太平洋沖地震、十勝沖地震などの過去の地震において、発電所単位で全ての発電機が停止した例が多数あったこと、地震動による発電機損傷の可 可能性は容易に認識することができた。 また、東北地方太平洋沖地震、十勝沖地震などの過去の地震において、発電所単位で全ての発電機が停止した例が多数あったこと、地震動による発電機損傷の可能性に加え、本件発電所の2号機及び4号機には、強い地震動を感知した際、タービン保護のため自動的に停止するシステムが備えられていたことからすれば、本件発電所に近接した地域で大規模な地震が発生した場合に、本件発電所の全ての発電機が停止する可能性があることは、容易に認識することができたといえる。 これに加え、本件地震当時、本件発電所の発電量は、北海道全体の48%を超えていたところ、北海道は、電力系統の孤立性が高く、他の地域から電力の融通を受けづらい環境にあり、また、電力系統の規模が小さく、周波数の変動を生じやすいという脆弱性を抱えている。これに加え、電力網が道央エリアを中心として、道北、道東及び道南の各エリアに放射状に延伸される構造となっており、道央エリアと道北等の各エリアとの接続が分断されると、各エリアが孤立した電力系統となることをも考慮すると、1号機、2号機及び4号機の同時停止により、ブラックアウトを生じる大きな周波数低下が起きることを想定することができたといえる。 さらに、本件発電所の近傍には、送電線が集中しており、大規模な地震が発生した場合には、発電機の停止のみならず、鉄塔の倒壊や地絡事故の発生などにより、送電システムの障害が発生し得ることも予見することができたといえる。 以上によれば、本件発電所に近接した地域で大規模な地震が発生した場合に、ブラックアウトが発生し得ることを予見できたというべきである。 ウ本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発 に近接した地域で大規模な地震が発生した場合に、ブラックアウトが発生し得ることを予見できたというべきである。 ウ本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発電所及び水力発電所による発電により賄うことで、ブラックアウトの発生を防ぐべき義務があったこと 一般に、周波数が50Hzから45Hzまで低下するとブラックアウトの危険が生じ、また、供給電力量が6%変動すると1Hzの周波数の変動が生じるとされる。 北海道全体の消費電力量(≒供給電力量)は、少ない時間帯で300万kW程度であるから、ブラックアウトを生じさせないために、一度に失われることが許容される供給電力量は、90万kW(300万kW×6%×5)となる。 したがって、本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発電所及び水力発電所による発電により賄うことでブラックアウトの発生を防ぐことができるのであるから、脱退前被告は、ブラックアウトの発生を防ぐために、かかる対策をとる義務があったのに、これを怠った。 エ本件発電所の発電機の停止に備え、揚水発電所である京極水力発電所を稼働させておくことでブラックアウトの発生を防ぐべき義務があったこと本件地震当時、京極水力発電所は運転停止中であったが、同発電所は、 揚水発電所であり、急激な電力の需給バランスの変動の対応に用いることができるのであるから、脱退前被告は、仮に、本件発電所に発電量を集中させるのであれば、本件発電所の発電機が全て停止した場合の急激な需給バランスの変動に対応することができるよう、京極水力発電所を稼働させておくことで、ブラックアウトの発生を防ぐべき義務があったのに、これを怠った。 オ小括 電機が全て停止した場合の急激な需給バランスの変動に対応することができるよう、京極水力発電所を稼働させておくことで、ブラックアウトの発生を防ぐべき義務があったのに、これを怠った。 オ小括以上によれば、脱退前被告には、本件発電所に近接した地域で大規模な地震が発生した場合に、ブラックアウトが発生することを防止するため、本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発電所及び水力発電所による発電により賄い、あるいは、本件発電所の発電機の停止に備え、揚水発電所である京極水力発電所を稼働させておくべきであったのに、これを怠った過失があるというべきである。 (反訴被告の主張)本件ブラックアウトの発生について、脱退前被告に、原告の主張に係る過失は存在しない。以下、その理由を述べる。 ア本件ブラックアウトの発生を予見することはできなかったこと 本件ブラックアウトは、本件地震により、本件発電所の1号機、2号機及び4号機が全て脱落したことに加え、計4回線における本件送電線事故が発生したことに伴う水力発電所の停止が複合的要因となって発生したものである。 本件ブラックアウトの発生を予見するためには、地震により本件発電所の発電機3機が停止するという事態と、道東方面エリアに連系する複数の経路全てに故障を生じさせ、道東方面の水力発電所を全て停止させるような基幹系送電線において、しかも、相互に離れた異なるルートに設置された基幹系送電線で、ジャンパー線の動揺による地絡事故が同時 多発的に発生するという事態が同時に発生することを予見できなければならないが、本件地震の当時において、そのような同時多発的な故障の発生を予見することはおよそ困難であった。 多発的に発生するという事態が同時に発生することを予見できなければならないが、本件地震の当時において、そのような同時多発的な故障の発生を予見することはおよそ困難であった。 したがって、脱退前被告は、本件ブラックアウトの発生を予見することができなかったから、本件ブラックアウトの発生を回避する義務を負わない。 イ脱退前被告の設備形成及びその信頼度は十分なものであり、反訴原告主張の方法により本件ブラックアウトの発生を回避する義務を負わないこと 電力系統の運用に当たっては、地震等の自然現象等に対する安定運用とかかる安定運用を維持することの経済的合理性とのバランスをとる必要があり、国内外の電力会社では、かかるバランスを図るための指標として、信頼度基準が定められている。 信頼度基準においては、電力系統の安定運用を損なうような事象の発生頻度を考慮し、設備故障の数を基準とした「N-1」(機器、装置の単一設備故障)、「N-2」(2箇所故障)などの「想定故障」を前提として、「停電が発生しない」、「電力系統の安定運用ができる」など電力系統がどのようにあるべきかを定め、これに従って設備形成及び系統運用を行うことによって信頼度と経済性のバランスを保っている。 具体的には、N-1をもって通常考慮すべきリスクとし、これにより供給支障を発生させないように設備形成すべきものとする一方、N-2以上については稀頻度リスクとし、設備形成ではなく、一部の供給支障又は発電支障を許容しつつ、運用によって連鎖的な事故にならないように対策を講じるべきものとする考え方をとっている。 脱退前被告は、かかる考え方に基づき、本件発電所の発電機1機が停止(N-1)しても、他の発電所の出力の上昇や北本連系 事故にならないように対策を講じるべきものとする考え方をとっている。 脱退前被告は、かかる考え方に基づき、本件発電所の発電機1機が停止(N-1)しても、他の発電所の出力の上昇や北本連系設備による本 州からの電力融通により原則として供給支障が生じない対策を行っており、また、仮に発電機が2機停止(N-2)しても、これらに加えUFRによる負荷遮断により連鎖的な停電を防止することが可能な状態にあった。 本件地震によって、脱退前被告の電気設備に生じた事態は、本件発電所の発電機3機の脱落(N-3)と送電線4回線の事故(N-4)が競合する(N-7)という超稀頻度リスクが現実となったものであり、仮に、このようなリスクを回避しようとすれば、ありとあらゆる震源地・地震規模・地震動に伴って生じ得る様々な系統事故を想定し、発電所及び送電線の設置及び運用上の全てのリスクに備えた対応を事前に講じておかなければならない結果となるが、そのような対応はそもそも不可能である上、無制限な設備投資を要求することとなり、電力価格の著しい増加を招き、需要家にとっても不利益であるから、このような対応は、電力事業として著しく不合理なものといわざるを得ない。 他方、大規模かつ長時間の停電は、需要家に様々な不利益をもたらすものであるが、特に医療機関や金融機関、ホテル、酪農経営、公共施設などにおいては、自家発電設備の設置による合理的な対策も可能である。 以上によれば、被告には、本件ブラックアウトを回避する義務はなかったことが明らかである。 ⑵ 適切な負荷遮断量の設定を怠った過失の有無(反訴原告の主張)ア本件地震当時、脱退前被告が設定していた負荷遮断量は、146万kWであり、本件地震当時の本件発電所の1号 る。 ⑵ 適切な負荷遮断量の設定を怠った過失の有無(反訴原告の主張)ア本件地震当時、脱退前被告が設定していた負荷遮断量は、146万kWであり、本件地震当時の本件発電所の1号機、2号機及び4号機の発電量の合計である149.2万kWに満たないものであった。 イ上記⑴で述べたとおり、本件地震当時、脱退前被告は、地震の発生により本件発電所の発電機3機が全て停止する可能性があること、それに加え、 北海道の電力系統の脆弱性などの要因により、ブラックアウトが生じ得ることを予見できたことからすれば、北本連系設備から60万kWの電力供給を受けることができることを考慮しても、負荷遮断量の設定が不十分であったというほかない。 ウそして、東北地方太平洋沖地震等により、地震による発電所単位の発電停止リスクが認識されたことからすれば、脱退前被告は、負荷遮断量の設定が十分であるのか見直す義務があったというべきである。 したがって、脱退前被告には、適切な負荷遮断量の設定を怠った過失がある。 (反訴被告の主張)ア一般に、UFRによる負荷遮断は、対象となったエリアにおける停電を伴うことから、他の発電所の出力の上昇や北本連系設備による本州からの電力融通などを行った上で行う最終手段である。 また、負荷遮断によって、電力需要が小さくなると供給力の増減による周波数の変動が大きくなることから、際限なく負荷遮断を設定し、電力需要を小さくすることは、かえって電力系統を不安定にするだけでなく、ブラックスタートを遅らせることもあることから、安定化対策全体を評価した上で、負荷遮断量を設定する必要がある。 イ本件についてみると、本件地震当時の本件発電所の1号機、2号機及び4号機の発電量の合計 タートを遅らせることもあることから、安定化対策全体を評価した上で、負荷遮断量を設定する必要がある。 イ本件についてみると、本件地震当時の本件発電所の1号機、2号機及び4号機の発電量の合計は149.2万kWであったところ、本件地震当時の負荷遮断量の設定は146万kWであり、北本連系設備に設定されたマージンによる52万kWの受電に加え、他の発電所の出力の上昇による対応を考慮すると、本件発電所の発電機3機の発電量149.2万kWが全て失われたとしても、ブラックアウトを回避することが十分に可能な負荷遮断量が設定されていたのであり、脱退前被告の負荷遮断量の設定に過失はない。 ウ反訴原告は、ブラックアウトが生じることを予見できたことを前提に、脱退前被告が設定した負荷遮断量が不十分であったと主張するが、上記⑴で述べたとおり、脱退前被告が本件ブラックアウトの発生を予見することはできなかったし、本件発電所の発電機3機の停止以上の事故が同時的に多発する可能性までを踏まえて負荷遮断量の設定をする義務はないから、原告の主張には理由がない。 ⑶ ブラックアウトからの復旧に係る過失の有無(反訴原告の主張)ア脱退前被告による本件ブラックアウトからの復旧は、本件ブラックアウトの発生から約2日後である平成30年9月8日午前0時13分に完了したが、脱退前被告は、当初、本件ブラックアウトからの復旧には1週間を要すると考えたことから、経済産業大臣にその旨説明し、同月7日午前10時頃の時点ではなお、本件ブラックアウトからの復旧に1週間を要するという見通しが発表された。 イ脱退前被告が、上記のとおり、本件ブラックアウトからの復旧に実際に要した期間と異なり、1週間もの期間を要するとの不正確な判断に至ったのは、地震 1週間を要するという見通しが発表された。 イ脱退前被告が、上記のとおり、本件ブラックアウトからの復旧に実際に要した期間と異なり、1週間もの期間を要するとの不正確な判断に至ったのは、地震による大規模な電源脱落に備えてブラックスタートの備えをしていなかったことによるものと考えられる。 したがって、脱退前被告には、地震を想定したブラックスタートの計画を立案していなかったという過失がある。 (反訴被告の主張)ア脱退前被告は、ブラックスタートのマニュアルを本件地震以前に作成しており、本件ブラックアウトからの復旧は、当該マニュアルに記載された復旧方針及び手順等に従って行われた。 イ反訴原告は、脱退前被告が本件ブラックアウトからの復旧に1週間を要すると判断したことを論難するが、ブラックスタートの手順は、その性質 上、過去に経験のない事象を想定して、シミュレーション検討により作成したものであり、実際のブラックスタートにおいては、不安定な系統状態の中で、予期せぬ事象の発生や設備障害等の不確定要素への対応が生じる可能性が大きく、慎重な対応が必要であり、停電の復旧を期待している多くの需要家に対し、供給力の回復について安易な見通しを公表することは困難である。 また、本件地震発生直後は、地震発生前のピーク需要380万kWに対応するため、本件発電所の最低でも1機の復旧が必要であり、そのためには1週間以上を要するものと見込まれたことから上記判断となったが、その後、他社からの受電や自家発電設備を有する需要家の協力、国からの節電要請による需要の削減等のような事前の復旧計画の策定段階において予測できない偶然の要素によって復旧が早まる結果となったのであって、脱退前被告の上記判断に問題はない。 家の協力、国からの節電要請による需要の削減等のような事前の復旧計画の策定段階において予測できない偶然の要素によって復旧が早まる結果となったのであって、脱退前被告の上記判断に問題はない。 ウしたがって、反訴原告の主張する過失は認められない。 ⑷ 損害(反訴原告の主張)反訴被告の上記過失により、本件ブラックアウトが発生し、また、本件ブラックアウトからの復旧について不正確な見通しが公表されたことにより、反訴原告は、本件ホテルの宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、以下の損害を被った。 ア宿泊料の損害 3458万円本件ホテルの本件地震後から平成30年9月30日までのキャンセル総額5528万円から、本件ブラックアウトと無関係に生じたと考えられるキャンセル料391万円(前年同期実績に基づく)及び推定キャンセル延べ人数3332人に宿泊客一人当たりの変動コスト5040円を乗じた金額1679万円(1万円未満切捨て)を控除した残額3458万円の宿 泊料の損害が発生した。 イ付帯売上減少の損害 503万円本件ホテルの過去3年間の9月における売店、スナック等の宿泊料金以外の付帯売上に係る一人当たりの粗利益の平均は1512円であることから、これに推定キャンセル延べ人数3332人を乗じた金額である503万円(1万円未満切捨て)の付帯売上減少の損害が発生した。 ウ弁護士費用 396万円反訴原告は、本件訴訟のために反訴原告代理人に訴訟手続を委任することを余儀なくされた。かかる弁護士費用としては、上記ア及びイの損害合計3961万円の約1割に相当する396万円が相当である。 エ合計 4357万円(反訴被告の主張)反訴原告の主張は争う。 第 かる弁護士費用としては、上記ア及びイの損害合計3961万円の約1割に相当する396万円が相当である。 エ合計 4357万円(反訴被告の主張)反訴原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 本件ブラックアウトの発生機序(乙2、弁論の全趣旨)ア本件地震発生直前の電力系統の状況本件地震発生直前の北海道内の発電機の運転状況は、別紙2の2の表のとおりであり、北海道内全体の電力需要量合計約308.7万kWのうち、48%余りに当たる約149.2万kWを本件発電所の発電機1号機、2号機及び4号機が供給している状況であった(前提事実⑶ウ)。 イ本件地震発生直後(3時8分から3時9分まで)の状況 本件発電所の2号機及び4号機が本件地震の地震動によるタービンの振動を検知して自動停止したことにより、約116万kWの供給力が失 われ、周波数の低下が生じた。 上記の周波数低下を検知したことにより、北本連系設備からの緊急受電やUFRによる負荷遮断(約130万kWの需要減)が行われた他、風力発電が停止し、約17万kWの供給力が失われた。 上記及びとほぼ同時に、本件送電線事故が発生し、道東方面エリアが電力系統から切り離された結果、道東方面エリアが停電し、約13万kWの需要減となるとともに、水力発電所が停止し、約37万kWの供給力が失われた(その他送電線事故等を含め北海道全体で約43万kW)。 その結果、北海道全体の電力供給量が約176万kW減、電力需要量が約143万kW減となり、供給が需要を下回ったところ、その差分に相当する電力を北本連系設備か を含め北海道全体で約43万kW)。 その結果、北海道全体の電力供給量が約176万kW減、電力需要量が約143万kW減となり、供給が需要を下回ったところ、その差分に相当する電力を北本連系設備から受電したことにより、周波数は一時的に50Hzに回復した。 ウ 3時9分から3時20分頃までの状況 本件送電線事故後、4回線が自動的に復旧したことにより、道東方面エリアが電力系統に再度接続された。この時点で、道東方面エリアの水力発電所が全て停止していたことから、電力系統全体では道東方面エリアの需要量約13万kWが純粋な需要増として働いた。 上記に加え、本件地震後、需要家が電灯やテレビをつけるなどしたことや、電圧が上昇したことなどによって需要が増加した結果、周波数が徐々に低下した。 これに対し、脱退前被告が中央給電指令所から伊達2号機などの火力発電所への出力増加を指令したことにより、周波数は回復傾向となった。 エ 3時20分から3時24分頃までの状況 本件発電所の1号機の出力がボイラー管の損傷や機器の動作不良によるドラム水位の激減により、徐々に低下し、最終的に約20万kWの供 給力が失われ、周波数の低下が生じた。 周波数が低下したことにより、UFRが作動し、約16万kW相当の負荷遮断が行われ、周波数は、49.5Hz程度まで上昇した。 オ本件ブラックアウトの発生 3時25分、本件発電所の1号機がドラム水位の低下により停止し、約10万kWの供給力が失われた。 1回目のUFR動作による負荷遮断後に、誤って再送電された負荷があり、1号機の停止による周波数の低下に伴い、再度負荷遮断(約6万kW)が行われたが、周波数を回復するには至 が失われた。 1回目のUFR動作による負荷遮断後に、誤って再送電された負荷があり、1号機の停止による周波数の低下に伴い、再度負荷遮断(約6万kW)が行われたが、周波数を回復するには至らなかった。 上記の負荷遮断を経ても、周波数が十分に回復しなかったことから、周波数低下による発電機保護のため、他の火力発電所及び水力発電所が自動的に停止した。 上記により、北海道エリア内の電源が無くなったことから、北本連系設備も運転不能となって停止し、本州から融通される電力も喪失したことにより、供給力が喪失し、本件ブラックアウトが発生した。 ⑵ 本件ブラックアウトからの復旧に係る経過アブラックスタートの経過(乙2、弁論の全趣旨) 脱退前被告は、本件ブラックアウト発生直後の午前3時27分頃から、本件ブラックアウトからの復旧(ブラックスタート)を試みたが、1回目のブラックスタートは、機器の停止等により、午前6時21分頃、失敗した。 脱退前被告は、1回目のブラックスタートと並行して、本件発電所の現地確認を行い、1号機及び2号機が起動できないことを確認するとともに、4号機の起動を試みたが、タービン軸付近で発火したため、4号機の復旧を中止した。 脱退前被告は、午前6時25分頃から、2回目のブラックスタートを 試み、発電機の並列や電力系統の接続を順次行い、同月8日午前0時13分、一般負荷送電を完了し、土砂崩れで立ち入ることができない一部地域等を除き、一般の需要家に対する電気の供給が復旧した。 上記ブラックスタートは、おおむね脱退前被告が事前に作成していた復旧手順書のとおりに進められ、一部手順書と異なる部分があったが、これは、1回目のブラックスター る電気の供給が復旧した。 上記ブラックスタートは、おおむね脱退前被告が事前に作成していた復旧手順書のとおりに進められ、一部手順書と異なる部分があったが、これは、1回目のブラックスタート失敗時の事故機器を回避するなどしたものであった。 イ復旧に係る見通しの説明等(甲10の1~5、弁論の全趣旨) 脱退前被告は、本件地震発生後、9月6日午前8時頃の時点において、経済産業省に対し、水力発電所を再稼働させ、その電力を用いて本件発電所の発電機を再稼働させようとしていること、復旧に要する時間の目途は明確にできないが、本件発電所が再稼働できれば、順次停電が解消していくとの見通しを説明し、経済産業大臣は、記者会見において、これと同旨の内容を説明した。 脱退前被告は、同日正午頃の時点において、経済産業省に対し、本件発電所の1号機、2号機及び4号機が損傷等しており、本件発電所の復旧には少なくとも1週間以上を要する見通しであること、他の火力発電所や水力発電所の再稼働及び北本連系設備からの受電により、同月7日中には約290万kWの供給力を確保できる見通しであるが、北海道の本件地震前日のピーク電力需要は380万kWであるため、北海道全域が完全に復旧するまでには少なくとも1週間以上かかる見通しとなることを説明し、経済産業大臣は、記者会見において、これと同旨の内容を説明した。 その後、脱退前被告は、同月7日午前10時頃の時点において、経済産業省に対し、なお復旧には1週間程度を要する見込みである旨説明し、経済産業大臣は、記者会見において、これと同旨の説明をするとともに、 北海道の住民に対する節電を要請した。 脱退前被告は、同日午後7時頃の時点において、同月8日中に北海道のほぼ全域 業大臣は、記者会見において、これと同旨の説明をするとともに、 北海道の住民に対する節電を要請した。 脱退前被告は、同日午後7時頃の時点において、同月8日中に北海道のほぼ全域について電力供給が再開できる見通しが立ったこと、稼働させている発電所には老朽化したものがあり、当該発電所の脱落等により、大規模な停電が発生するリスクもあり、週明けから平常時よりも1割程度の節電が必須であること等を経済産業省に対し説明し、経済産業大臣は、記者会見において、同旨の説明をした。 その後、脱退前被告は、同月8日午後6時頃の時点において、土砂崩れなどによって立ち入りが困難な一部の地域を除いて、北海道のほぼ全域について同日中に停電を解消する予定である旨、経済産業省に対し説明し、経済産業大臣は、記者会見において、同旨の説明をするとともに、万一の場合に備えて計画停電の準備を進め、電力の需給バランスが崩れ、大規模な停電が発生するといった事態を回避するためにやむを得ない場合には計画停電を実施する旨説明した。 2 争点⑴(本件発電所に発電量を一極集中させた過失の有無)について⑴ はじめにア一般に、電力は現代社会における基礎的なインフラであり、電力の安定供給が損なわれ、電力の供給が途絶することは、電力需要家の生命、身体や財産上の利益等に対し、重大な被害を及ぼす危険性を有するものであるといえる。 また、地震等により、発電機が停止するなどして、電力の需給バランスが崩れ、周波数の低下が生じる事態となると、ブラックアウトが発生する可能性があること自体は、電力会社において、一般に認識されていた(争いがない。)。 これらの事実に鑑みると、本件地震当時、北海道全域における発電事業及び一般送配電事業等を担う電気事業者であった脱 可能性があること自体は、電力会社において、一般に認識されていた(争いがない。)。 これらの事実に鑑みると、本件地震当時、北海道全域における発電事業及び一般送配電事業等を担う電気事業者であった脱退前被告は、電力の安 定供給を確保し、上記のような原因によってブラックアウトが生じることを極力防ぐよう、発電及び一般送配電等の設備を形成、運用する責務を負っていたというべきである。 イ他方、電力系統を構成する発電所、送電・変電設備等の多くは地震をはじめ様々な自然環境上の要因による電気的な故障を生じる危険を抱えており、これら全ての故障に対し、電力系統の安定運用を維持し、停電を回避しようとすれば、発電及び電力輸送能力の極めて高い設備形成を図った上で、十分な余裕をもって電力系統を運用する必要が生じ、経済的合理性が損なわれる結果となるため、電力系統の安定運用と経済的合理性とのバランスを図る必要がある(乙3)。 ウこのような観点から、国内外の電力会社では、電力系統の安定運用と経済的合理性のバランスを図るための指標として信頼度基準を定めており、一般的な信頼度基準においては、電力系統の安定運用を損なうような事象の発生頻度を考慮し、機器・装置の単一設備故障を「N-1」、2箇所故障を「N-2」などと表した上で、N-1について、原則として供給支障を発生させないように設備形成すべきものとする一方、N-2については、停電規模などの社会的影響や設備増強あるいは運用制約が経済的合理性に与える影響などを多面的に考慮して、個別の評価を行い、その評価の結果として一部の供給支障あるいは発電支障を許容する場合が多いとされている(乙3)。 エまた、上記信頼度基準の考え方は、電気事業法28条の40第3号及び28条の45の規定に基づき、電力広域 果として一部の供給支障あるいは発電支障を許容する場合が多いとされている(乙3)。 エまた、上記信頼度基準の考え方は、電気事業法28条の40第3号及び28条の45の規定に基づき、電力広域的運営推進機関が、一般送配電事業者及び送電事業者が行う託送供給の業務その他の変電、送電及び配電に係る業務の実施に関する基本的な事項等を定め、その適正かつ円滑な運用を図ることを目的として定める「送配電等業務指針」(乙4)においても採用されており、N-1については、おおむね供給支障が発生しない又は 供給支障の社会的影響が限定的であること、発電支障が発生しない又は発電支障による電力系統の電圧安定性、同期安定性及び周波数に対する影響が限定的であること等が求められ、N-2については、当該故障に伴う供給支障及び発電支障の規模や電力系統の安定性に対する影響を考慮し、社会的影響が大きいと懸念される場合には、これを軽減するための対策の実施について検討するものとされている。 オこの点、信頼度基準の考え方は、電力会社が電力の安定供給の確保について電力需要家に対して負う不法行為法上の注意義務そのものを形成するものではないが、信頼度基準の考え方が、電力事業に関する専門的な知見を前提として、電力系統の安定運用と経済的合理性とのバランスを図るものとして形成されていると解されることに鑑みると、脱退前被告の過失(注意義務違反)の有無を検討するに当たっては、信頼度基準の考え方をも参酌しつつ、発電を集中させることのメリットや、それによりブラックアウトが生じるリスクの程度等を総合的に考慮すべきものと解される。 カ以下、上記の観点を踏まえて、脱退前被告の過失の有無について検討する。 ⑵ 本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分 程度等を総合的に考慮すべきものと解される。 カ以下、上記の観点を踏まえて、脱退前被告の過失の有無について検討する。 ⑵ 本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発電所及び水力発電所による発電により賄う義務に係る過失の有無ア反訴原告は、脱退前被告には、地震等により、本件発電所の発電機3機が全て脱落してもブラックアウトが生じることのないよう、本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発電所及び水力発電所による発電により賄うべき注意義務があった旨主張する。 イ脱退前被告は、本件地震発生当時、北海道全体の電力供給量約308. 7万kWの48%余りに相当する約149.2万kWを本件発電所の1号機、2号機及び4号機により供給していた(前提事実⑶ウ)ところ、脱退前被告がこのように発電を本件発電所に集中していたのは、メリットオー ダーの考え方に基づき、電力需要の小さくなる深夜帯において、相対的に発電コストの低い本件発電所の発電機に発電を集中させることで、全体としての発電コストを低下させ、電気料金の低廉化等の効率性を向上させるためであったと認められる(乙6、弁論の全趣旨)。 そして、平成25年4月2日に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」において、電気料金を最大限抑制するため、燃料コストが安い電源から順に使うこと(メリットオーダー)の徹底が掲げられていたこと(乙11)、脱退前被告が平成26年11月に実施した電気料金改定(値上げ)に係る申請に対し、経済産業省の査定においては、火力燃料費の算定にあたって、需給運用に係る制約を考慮した上で燃料単価の低い発電所から順に運転することを基本に燃料計画を策定しているかどうかが確認の対象とされ 請に対し、経済産業省の査定においては、火力燃料費の算定にあたって、需給運用に係る制約を考慮した上で燃料単価の低い発電所から順に運転することを基本に燃料計画を策定しているかどうかが確認の対象とされていたこと(乙12、弁論の全趣旨)に照らすと、メリットオーダーに基づき発電を実施することは、国の政策的な要請として電力会社に求められていたものと認められる上、メリットオーダーにより、発電コストを低下させることは、電気料金の低廉化等の形で、電力需要家である北海道民の生活や北海道経済に利益をもたらすものであると認められる。 ウ他方で、メリットオーダーによって、発電を一つの発電所の発電機に集中することは、一般的に、地震等の要因により、発電機が同時に脱落し、周波数の低下等が生じることにより、ブラックアウトが発生するリスクを高めるものといえる。 この点、本件発電所は石狩低地東縁断層帯南部に近接していることから、大規模な地震が発生する可能性は想定し得たこと、本件発電所の2号機及び4号機には、地震動によるタービンの振動を検知して自動的に停止する機能が備えられていたこと(認定事実⑴イ)を考慮すると、脱退前被告において、大規模な地震が発生した場合に、本件発電所の1 号機が損傷し、2号機及び4号機が自動停止するなどして、3機が同時に脱落する事態が生じる可能性があることは、具体的に想定することができたといえる。 しかしながら、証拠(乙2、13)によれば、本件地震当時の条件下において、本件発電所の1号機、2号機及び4号機が3機同時に停止に至ったとしても、本件送電線事故が発生しなかった場合には、①本件地震当時、UFRの作動によって146万kW相当の負荷遮断が可能な設定となっていたことから、地震発生後の北海道全体の需要は約162. 至ったとしても、本件送電線事故が発生しなかった場合には、①本件地震当時、UFRの作動によって146万kW相当の負荷遮断が可能な設定となっていたことから、地震発生後の北海道全体の需要は約162. 7万kW(308.7万kW-146万kW)となったと想定されること、②本件送電線事故が発生しなかったとすると、道東方面エリアが電力系統から切り離されたことによって生じた水力発電所の停止は発生しないことから、本件発電所の1号機、2号機及び4号機停止後も、残存電源及び北本連系設備からの受電を併せ、少なくとも約171.4万kWの供給力があったこと、③①及び②より、供給力が需要を下回らないことから、周波数の低下は起こらず、ブラックアウトに至ることはなかったことが認められる。 そして、本件地震以前に、脱退前被告において、本件送電線事故のような3箇所4回線に及ぶ地絡事故が同時に発生し、道東方面エリアが電力系統から切り離される事態が生じたことがあったことは認められないことからすると、かかる事態が発生し、その結果、道東方面エリアの水力発電所が全て停止するという事態が発生することを具体的に想定することは困難であったといわざるを得ない。 そうすると、本件地震以前の時点において、本件発電所の発電機3機が同時に脱落し、それとほぼ同時に本件送電線事故のような事故が発生し、道東方面エリアが電力系統から切り離され、その結果、道東方面エリアの水力発電所がすべて停止するという事態が生じるリスクは、抽象 的なリスクを超えた、対策を講じるべき具体的なリスクであったということはできない。 そもそも、本件発電所の発電機3機の同時脱落と同時に発生し得る、ブラックアウトの発生に結び付き得る事象は、本件送電線事故のような事故に限られないのであって、こ ということはできない。 そもそも、本件発電所の発電機3機の同時脱落と同時に発生し得る、ブラックアウトの発生に結び付き得る事象は、本件送電線事故のような事故に限られないのであって、このような抽象的なリスク全てについて、事前に網羅的な対策を講じることはほとんど不可能であり、仮に、そのような対策を講じるとすれば、極めて多額の費用を要し、その結果、電気料金が上昇するという形で、電力需要家の利益を大幅に損なうことは容易に想像することができる。 そして、上記⑴に記載したとおり、発送電等の電気事業を行うに当たっては、電力系統の安定運用と経済的合理性とのバランスをとる必要があるのであって、脱退前被告に対し、上記のように対策を講じるべき具体的なリスクと評価するに至らない程度の抽象的なリスクについても事前に対策を講じることを求め、そのような対策が講じられない限り、本件発電所の発電機に発電量を集中させることが認められないとすることは、実質的にメリットオーダーによる経済的合理性の実現を不可能とするものであり、電力系統の安定運用の要請があることを踏まえても、上記バランスを欠くものといわざるを得ない。 したがって、脱退前被告において、本件送電線事故のような事故が発生し得ることを念頭において、本件発電所の発電機の発電量を90万kW以下に抑えるべき義務があったということはできない。 カ以上によれば、脱退前被告に、本件発電所における発電量を90万kW以下に抑えて運転し、不足分を他の火力発電所及び水力発電所による発電により賄うべき注意義務があったとはいえず、この点についての反訴原告の主張は採用できない。 ⑶ 本件発電所の発電機の停止に備え、揚水発電所である京極水力発電所を稼 働させておくべき義務に係る うべき注意義務があったとはいえず、この点についての反訴原告の主張は採用できない。 ⑶ 本件発電所の発電機の停止に備え、揚水発電所である京極水力発電所を稼 働させておくべき義務に係る過失の有無ア反訴原告は、脱退前被告には、本件発電所に発電量を集中させるのであれば、本件発電所の発電機が全て停止した場合の急激な需給バランスの変動に対応することができるよう、京極水力発電所を稼働させておくことで、ブラックアウトの発生を防ぐべき義務があった旨主張する。 イしかし、脱退前被告において、本件発電所の発電機3機の同時脱落のみでは、ブラックアウトが発生しないような設備の形成、運用を行っていたこと、本件送電事故を含む本件発電所の発電機3機の同時脱落と同時に生じ得る事故について、対策を講じるべき具体的リスクに至らないことは、上記⑵に記載したとおりである。 ウこれに加え、一般に、京極水力発電所のような揚水発電所は、揚水運転により、調整池に水が貯留されている状態でなければ、発電を行うことができないこと、揚水発電所は、通常、一日のうち電力需要が最も小さくなる夜間に、発電コストの低い発電機によって発電した余剰電力を使用して揚水運転を行って調整池に水を貯留し、電力需要が増大する時間帯に、貯留した水を利用して発電を行うことで、発電コストの高い発電機の稼働を減らし、全体としての発電コストを低下させるように運用されることが認められる(弁論の全趣旨)。 そうすると、仮に、京極水力発電所を稼働させていたとしても、北海道全体の需要量に占める本件発電所の発電量の割合が最も高くなる(すなわち本件発電所の発電機の脱落によるブラックアウトが発生しやすくなる)時間帯である深夜において、調整池に十分に水が貯留されていない可能性があるなど、本件 本件発電所の発電量の割合が最も高くなる(すなわち本件発電所の発電機の脱落によるブラックアウトが発生しやすくなる)時間帯である深夜において、調整池に十分に水が貯留されていない可能性があるなど、本件発電所の発電機による供給が喪失した際、京極水力発電所が発電可能な状況でない可能性がある。 以上に鑑みると、京極水力発電所を稼働させておくことは、本件発電所の発電機による供給が喪失する事態への対策としては確実性に乏しいも のといわざるを得ない。 エ以上によれば、脱退前被告に、本件発電所の発電機が全て停止した場合の急激な需給バランスの変動に対応することができるよう、京極水力発電所を稼働させておくことで、ブラックアウトの発生を防ぐべき注意義務があったとは認められず、この点についての反訴原告の主張は採用できない。 3 争点⑵(適切な負荷遮断量の設定を怠った過失の有無)について⑴ 反訴原告は、本件地震当時、本件発電所の1号機、2号機及び4号機の発電量の合計が約149.2万kWに及んでいたにもかかわらず、UFRによる負荷遮断量が最大146万kW相当と設定されていたことは、北本連系設備からの受電を踏まえても、負荷遮断量が不足しており、脱退前被告には、適切な負荷遮断量の設定を怠った過失がある旨主張する。 ⑵ この点について、一般に、UFRによる負荷遮断は、必然的に負荷遮断の対象となったエリアにおける停電の発生を伴うこと、際限なく負荷遮断を設定することは、かえって系統を不安定にするだけでなく、ブラックスタートを遅らせるおそれもあるとされていること(乙2)に照らすと、UFRによる負荷遮断量の設定の適否については、北本連系設備からの受電による供給力の確保等の負荷遮断以外の方法による対策の存在を踏まえて検討すべきものと解される。 れていること(乙2)に照らすと、UFRによる負荷遮断量の設定の適否については、北本連系設備からの受電による供給力の確保等の負荷遮断以外の方法による対策の存在を踏まえて検討すべきものと解される。 ⑶ 本件地震当時、本件発電所の1号機、2号機及び4号機の発電量の合計が約149.2万kWであったのに対し、負荷遮断量は最大146万kW相当に設定されており、本件発電所の発電機3機が同時に脱落した場合、UFRによる負荷遮断のみでは、約3.2万kWの供給力が不足することとなる。 しかし、本件地震当時、脱退前被告においては、周波数の低下を検知した場合、北本連系設備から最大60万kWの電力を受電することができることとなっており、UFRによる負荷遮断に先んじて、かかる緊急受電が行われることを考慮すると、少なくとも、本件発電所の発電機3機の同時脱落が生 じたのみであれば、北本連系設備からの60万kWの受電により供給力を補いつつ、不足する約90万kW(約149.2万kW-60万kW)に相当する負荷遮断を行うことで、ブラックアウトの発生を防ぐことができる設定となっていたと認められる。 ⑷ そして、上記2に記載したとおり、本件地震当時、本件発電所の発電機3機の同時脱落と同時に発生し、ブラックアウトの発生に結び付き得る事象は、抽象的なリスクにとどまるものであること、北本連系設備からの受電と負荷遮断を組み合わせた場合、本件発電所の発電機3機の同時脱落に加えて、さらに50万kW程度の供給力の喪失に対応することが可能であったことに鑑みると、本件地震当時、脱退前被告において、UFRによる負荷遮断量を最大146万kW相当と設定していたことが不適切であったとはいえない。 ⑸ 以上によれば、この点についての反訴原告の主張を採用することはできな 震当時、脱退前被告において、UFRによる負荷遮断量を最大146万kW相当と設定していたことが不適切であったとはいえない。 ⑸ 以上によれば、この点についての反訴原告の主張を採用することはできない。 4 争点⑶(ブラックアウトからの復旧に係る過失の有無)について⑴ 反訴原告は、本件地震以前、脱退前被告において、地震による大規模な電源喪失を想定したブラックスタートの計画を策定していなかったがために、復旧に1週間を要するという、実際と異なる不正確な判断をすることとなったとして、脱退前被告に過失がある旨主張する。 ⑵ しかし、前記第3の1⑵アのとおり、①脱退前被告によるブラックスタートは、脱退前被告において事前に策定していたブラックスタートの手順書におおむね従って行われたこと、②同手順書と異なる手順によって行われた部分については、1回目のブラックスタートで事故を起こした機器を回避する形で行われたことからすると、脱退前被告が、地震による大規模な電源喪失を想定したブラックスタートの計画を策定していなかったという事実自体認めることはできない。 ⑶ また、復旧に1週間を要するという判断をしていた点について、当時、脱 退前被告は、北海道全域を停電から復旧させるには、本件地震が発生した時期の北海道全体のピーク電力需要量である380万kWの供給力を確保する必要があり、かかる供給力を確保するために本件発電所の発電機の復旧が必要であると考えたことから、上記判断をしたものと認められる(甲10の2、弁論の全趣旨)。 この点について、実際の本件ブラックアウトからの北海道ほぼ全域の復旧は、本件地震の約2日後の同月8日午前0時13分に達成されているところ、かかる復旧が当初の予測よりも短期間で実現した要因としては、国から北海 ついて、実際の本件ブラックアウトからの北海道ほぼ全域の復旧は、本件地震の約2日後の同月8日午前0時13分に達成されているところ、かかる復旧が当初の予測よりも短期間で実現した要因としては、国から北海道の住民に対し節電要請がされたこと(前記第3の1⑵イ)、他の電力会社や自家発電設備を所有する事業者から電力の供給を受けたこと(乙15)が挙げられるのであり、このような要因を事前の復旧計画や復旧に要する期間の予測に織り込むことは困難というべきであるから、実際のブラックアウトからの復旧に1週間を要さなかったことをもって、当初の予測が不合理であったということはできない。 ⑷ 以上によれば、この点についての反訴原告の主張には理由がなく、採用することができない。 第4 結論よって、その余の点について判断するまでもなく、反訴原告の請求には理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官右田晃一 裁判官林由希子 裁判官川野裕矢 別紙1 1 電力系統一定のエリア内で、各発電所で生産された電気が送電線、変電所等を経て需要家に至るまで一体的に運用される電力システムの全体(電力網)をいう。 電気は、大量に貯蔵することができず、また、生産とほぼ同時に需要家に配達されるため、電力系統内で発電される量(供給)と消費される量(需要)が同程度となるように運用される。 2 周波数⑴ 交流電気において、1 秒間に電気の流れる向きが入れ替わる回数を周波数といい、単位はヘルツ(Hz)で表される。 発電所に 消費される量(需要)が同程度となるように運用される。 2 周波数⑴ 交流電気において、1 秒間に電気の流れる向きが入れ替わる回数を周波数といい、単位はヘルツ(Hz)で表される。 発電所においては、蒸気、水等の力でタービンや水車を回転させることでそれらに接続された磁石を回転させ、電磁誘導を起こさせることにより電気を発生させている。磁石が回転してN極とS極が変わるときに電気の向きが変わるため、発電機の中で磁石が1秒間に回転する回数と発電される電気の周波数は等しくなる。 北海道を含む東日本の発電機は、1 秒間に50回磁石が回転しており、周波数は50Hzに保たれている。 ⑵ 周波数は、電力系統内での電気の需要と供給とのバランスをとることで維持されており、需要が供給を上回ると周波数は低下し、反対に供給が需要を上回ると周波数は上昇する関係にある。 発電機は、電力系統内の周波数が一定の範囲を超えて変動すると、タービンが損傷するおそれがあることから、自らの機器保護のために自動的に電力系統から切り離されるようになっており、発電機の一つが停止すると、供給力が失われ、更に複数の発電機が停止すると、状況によっては連鎖的に周波数の低下が起こり、広範囲の停電(いわゆるブラックアウト)となることがある。 そのため、電力会社は、時々刻々と変化する需要の変動に合わせて、発電所の出力(供給)を調整している。 3 負荷遮断電力系統内の電力の需要が供給を上回り、周波数の低下が生じた場合に、電力系統内の一部のエリアについて強制的に電力の供給を遮断することにより、残存部分の電力系統内の需要と供給を均衡させることをいう。 負荷遮断は、周波数低下量とその継続時間を予め設定し、動作条件に従い自動的に負荷(電力系統につながる電灯及び電 の供給を遮断することにより、残存部分の電力系統内の需要と供給を均衡させることをいう。 負荷遮断は、周波数低下量とその継続時間を予め設定し、動作条件に従い自動的に負荷(電力系統につながる電灯及び電気機器が消費する電力)や発電機を電力系統から遮断する装置である周波数低下リレー(以下「UFR」という。)が作動することによって行われる。 負荷遮断を行うと、負荷遮断の対象となったエリアにおいて強制的に停電が発生するため、需給を均衡させる方法としては、最も優先度が低いものとされている。 4 北海道本州間連系設備(以下「北本連系設備」という。)発電所のトラブルによる電圧・周波数の不安定化などの緊急時に備えて、北海道と本州との間で相互に電力を融通することができるように設置された連系設備のことをいう。 北海道内において、電気の供給力が不足し、周波数が低下した場合には、北本連系設備のAFC(自動周波数制御機能)により自動的に受電量を増やし、周波数を維持する仕組みとなっている。 北本連系設備では、電力系統の異常時若しくは需給逼迫時等の対応として連系線を介して他の供給エリアから電気を受給するため、又は電力系統を安定に保つために、運用容量の一部を通常時は使用しないで緊急時用に確保しており、これを「マージン」という。本件地震時のマージン量は、52万kWと設定されていた。 5 メリットオーダー 発電機の運転に当たって、燃料費の安い電源から順番に稼働することにより電源全体の発電コストを最小化する方法のことをいう。 政府の方針として、平成25年4月2日に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」において、電気料金を最大限抑制するため、メリットオーダーを徹底することが掲げられている(乙11)。 6 揚水発電所水 て、平成25年4月2日に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」において、電気料金を最大限抑制するため、メリットオーダーを徹底することが掲げられている(乙11)。 6 揚水発電所水力発電所のうち、他の発電所で発電された電力を用いて調整池に揚水して貯留した水を落水させることにより発電を行うものをいう。 電力消費量に余裕がある時間帯に、低コストで稼働できる発電所の電力を利用して揚水しておき、電力消費量の多い時間帯に揚水した水を利用して発電を行うことで、発電コストの高い発電設備の稼働を減らすことができ、全体としての発電コストを低下させることができるほか、揚水した状態であれば、急激な電力需給バランスの変動に対応することができる利点がある。 別紙2 1 本件地震当時の北海道の電力網の概要 …………………変電所…………………揚水式発電所…………………水力発電所(除揚水式)…………………火力・ガス・原子力発電所…………………開閉所…………………交直変換所凡例※ 斜体文字は送電線名M北海道エリアの総需要308.7 万kW(発電端)赤:送電している状態(運転中及び充電中)黒:停止中 2 本件地震発生直前の発電機の運転状況供給力定格(千kW)出力(千kW)運転状況等火 力砂川3号機石炭 11:00 並列予定4号機 14:00 並列予定奈井江1号機石炭 運転中2号機 05:30 並列予定苫小牧1号機重原油天然ガス 作業停止苫小牧共 並列予定奈井江1号機石炭 運転中2号機 並列予定苫小牧1号機重原油天然ガス 作業停止苫小牧共同3号機重油 作業停止伊達1号機重油 バランス停止中2号機 運転中苫東厚真(本件発電所)1号機石炭 運転中2号機 運転中4号機 運転中知内1号機重油 運転中2号機 作業停止音別1、2号機軽油 バランス停止中水 力新冠1、2号機、高見1号機糠平1号機、足寄1、2号機 運転中京極1、2号機、高見2号機糠平2号機 作業停止その他- 運転中主な風力 運転中その他- 運転中 北本連系設備(北海道側受電最大) 運転中需要-3087以上

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