平成30年2月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(行ウ)第42号欠格期間の終期を延長する処分の取消等請求事件口頭弁論終結日平成29年10月13日判決 主文 1 本件訴えのうち,以下の部分に係る訴えをいずれも却下する。 ⑴ 北海道厚生局長が,原告に対し,平成28年8月5日付けでした,健康保険法71条2項1号に規定する保険薬剤師の登録を行わないことができる期間の終期を平成32年3月17日と定める処分の取消しを求める部分⑵ 原告について,健康保険法71条2項1号に規定する保険薬剤師の登録を行 わないことができる期間の終期が平成29年3月31日であることの確認を求める部分⑶ 原告が,平成29年4月1日以降,健康保険法71条2項1号の適用を受けない地位にあることの確認を求める部分⑷ 北海道厚生局長に対し,原告について,保険薬剤師の登録の義務付けを求め る部分 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 北海道厚生局長が,原告に対し,平成28年8月5日付けでした,健康保険法71条2項1号に規定する厚生労働大臣が保険薬剤師の登録を行わないことができる期間の終期を平成32年3月17日と定める処分を取り消す。 2 原告について,健康保険法71条2項1号に規定する厚生労働大臣が保険薬剤師の登録を行わないことができる期間の終期が平成29年3月31日であるこ とを確認する。 3 原告が,平成29年4月1日以降,健康保険法71条2項1号の適用を受けない地位にあることを確認する。 4 北海道厚生局長が,原告に対し,平成29年6月7日付けでした保険薬剤師登録申請却下処分を取り消す が,平成29年4月1日以降,健康保険法71条2項1号の適用を受けない地位にあることを確認する。 4 北海道厚生局長が,原告に対し,平成29年6月7日付けでした保険薬剤師登録申請却下処分を取り消す。 5 北海道厚生局長は,原告に対し,保険薬剤師登録をせよ。 第2 事案の概要等 1 事案の概要原告は,健康保険法(以下「法」という。)64条に基づく厚生労働大臣の登録を受けた保険薬剤師であったところ,調剤報酬の不正請求等を理由として,法81条に基づき,平成24年4月1日を取消日として保険薬剤師の登録を取り消す 旨の処分(以下「平成24年処分」という。)を受けた。原告は,平成24年処分の取消しを求める行政訴訟を提起し,原告の申立てにより平成24年5月7日から平成27年4月24日までの間平成24年処分の効力は停止されていたところ,原告の請求を棄却する判決が確定した。北海道厚生局長は,原告に対し,法71条2項1号所定の欠格期間の終期については,同号所定の5年間に上記の執 行停止期間を加えた期間の末日である平成32年3月17日である旨を通知した(以下,この通知を「本件通知」という。)。また,原告は,平成29年4月3日,法71条に基づき保険薬剤師の登録を申請したところ,北海道厚生局長は,原告には同条2項1号及び4号に該当する事由があるとして,原告を保険薬剤師として登録しない旨の決定(以下「本件登録拒否処分」という。)をした。 本件は,原告が,本件通知及び本件登録拒否処分は法71条2項1号及び4号の解釈適用を誤った違法な処分であると主張して,①本件通知の取消し,②原告の欠格期間(以下「本件欠格期間」という。)の終期が平成29年3月31日であることの確認,③原告が同年4月1日以降は同項1号の適用を受けない地位にあること あると主張して,①本件通知の取消し,②原告の欠格期間(以下「本件欠格期間」という。)の終期が平成29年3月31日であることの確認,③原告が同年4月1日以降は同項1号の適用を受けない地位にあることの確認,④本件登録拒否処分の取消し,⑤原告の保険薬剤師としての登録 の義務付けを求める事案である(以下,上記各請求をその番号に従い「本件請求 ①」などという。)。 2 関係法令等⑴ 法64条は,保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は,厚生労働大臣の登録を受けた薬剤師(保険薬剤師)でなければならない旨規定している。 ⑵ 法72条1項は,保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師は厚生労働省令で定めるところにより健康保険の調剤に当たらなければならない旨規定している。上記の厚生労働省令として,「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年厚生省令第15号。以下「療担規則」という。)が定められているほか,保険薬局及び保険薬剤師については「保険薬局及び保険薬剤師療養担当 規則」(昭和32年厚生省令第16号。以下「薬担規則」という。)が定められている。薬担規則は,保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師は,保険医等の交付した処方せんに基づいて,患者の療養上妥当かつ適切に調剤並びに薬学的管理及び指導を行わなければならず,調剤を行う場合は,患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならないこと(8条1項,2項),保険薬剤師 は,調剤に当たっては,健康保険事業の健全な運営を損なう行為を行うことのないように努めなければならないこと(9条の2),保険薬剤師は,患者の調剤を行った場合には,遅滞なく,調剤録に当該調剤に関する必要な事項を記載しなければならないこと(10条),保険薬剤師は,その行った調剤に関する情報 ばならないこと(9条の2),保険薬剤師は,患者の調剤を行った場合には,遅滞なく,調剤録に当該調剤に関する必要な事項を記載しなければならないこと(10条),保険薬剤師は,その行った調剤に関する情報の提供等について,保険薬局が行う療養の給付に関する費用の請求が適正なも のとなるよう努めなければならないこと(10条の2)などを規定している。 ⑶ 国民健康保険法40条1項は,保険薬剤師が国民健康保険の調剤に当たる場合の準則については,法70条1項及び72条1項の規定による厚生労働省令の例による旨規定している。 ⑷ 高齢者の医療の確保に関する法律(以下「高齢者医療法」という。)65条 は,保険薬剤師は,同法71条1項の療養の給付の取扱い及び担当に関する基 準に従い,後期高齢者医療の療養の給付を取り扱い,又は担当しなければならない旨規定している。上記の基準として,高齢者医療法の規定による療養の給付等の取扱い及び担当に関する基準(昭和58年厚生省告示第14号。以下「高齢者担当基準」という。)は,保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師は,後期高齢者の心身の特性を踏まえて,保険医が交付した処方せんに基づいて, 患者の療養上妥当かつ適切に調剤並びに薬学的管理及び指導を行わなければならず,調剤を行う場合は,患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならないこと(30条1項,2項),保険薬剤師は,調剤に当たっては,後期高齢者医療制度の健全な運営を損なう行為を行うことのないように努めなければならないこと(31条の2),保険薬剤師は,患者の調剤を行った場合には, 遅滞なく,調剤録に当該調剤に関する必要な事項を記載しなければならないこと(32条),保険薬剤師は,その行った調剤に関する情報の提供等について,保険薬局が行う療養の給 調剤を行った場合には, 遅滞なく,調剤録に当該調剤に関する必要な事項を記載しなければならないこと(32条),保険薬剤師は,その行った調剤に関する情報の提供等について,保険薬局が行う療養の給付及び保険外併用療養費に係る療養に要する費用の請求が適正なものとなるよう努めなければならないこと(33条)などを規定している。 ⑸ 法81条1号は,保険薬剤師が法72条1項の規定に違反したときに,法81条3号は,法以外の医療保険各法又は高齢者医療法による診療又は調剤に関して法72条1項に相当する事由があったときに,厚生労働大臣が当該保険薬剤師に係る法64条の登録を取り消すことができる旨をそれぞれ定めている。 ⑹ 法71条2項1号は,法64条の登録を申請した者(以下「申請者」という。) が,法の規定により保険薬剤師の登録を取り消され,その取消しの日から5年を経過しない者であるときは,厚生労働大臣は,保険薬剤師の登録をしないことができる旨規定している。また,同項4号は,同項1号ないし3号に掲げる場合のほか,申請者が保険薬剤師として著しく不適当と認められる者であるときは,厚生労働大臣は,保険薬剤師の登録をしないことができる旨規定してい る。 ⑺ 平成10年7月27日付け厚生省老人保健福祉局長・厚生省保険局長通知「国民健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法令の改正について」(老発第485号・保発第101号。乙16。以下「本件局長通知」という。)は,法71条2項1号所定の5年の欠格期間が経過していなくとも再登録ができる場合について,登録取消しから2年以上5年未満の保険薬剤師につ いては,関与した不正請求の金額又はその金額及び件数の割合が軽微であると認められるという要件を満たした場合に限り,保険薬剤師の再 きる場合について,登録取消しから2年以上5年未満の保険薬剤師につ いては,関与した不正請求の金額又はその金額及び件数の割合が軽微であると認められるという要件を満たした場合に限り,保険薬剤師の再登録を認めることができるとしている。そして,上記要件の運用基準について定めた「指定等の取消後5年を経過しない医療機関等の再指定等に係る運用基準」(平成15年9月3日保医発第0903001号。乙20。以下「本件運用基準」という。) では,組織的に不正行為を行った薬剤師は再登録の対象から除外するものとされている。 ⑻ 法205条1項は,法に規定する厚生労働大臣の権限は,厚生労働省令で定めるところにより,地方厚生局長に委任することができる旨規定しており,健康保険法施行規則159条1項5号の2は,保険薬剤師の登録及びその取消し の権限を地方厚生局長に委任する旨規定している。 3 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。 ⑴ 平成24年処分 ア原告は,昭和56年8月25日に保険薬剤師の登録を受け,平成20年4月から保険調剤薬局であるA薬局B調剤センター(以下「本件薬局」という。)に勤務していた。株式会社A薬局は本件薬局の開設者であり,Xが代表者を務めていた。(甲1,13)イ北海道厚生局長は,平成24年3月23日付けで,①原告が,患者が介在 していない調剤について,調剤を行った場合に調剤録に必要な事項を記載せ ず,また,患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認せずに調剤を行い,本件薬局に調剤報酬を不正に請求させていた行為,②原告が,実際に行っていない保険調剤を付け増しして,本件薬局に調剤報酬を不正に請求させていた行為(以下,併せて「本件不 服用歴を確認せずに調剤を行い,本件薬局に調剤報酬を不正に請求させていた行為,②原告が,実際に行っていない保険調剤を付け増しして,本件薬局に調剤報酬を不正に請求させていた行為(以下,併せて「本件不正行為」という。)が,薬担規則8条,9条の2,10条及び10条の2に違反し,保険薬剤師の責務等を定めた法72条1項及 び国民健康保険法40条1項に違反するとともに,高齢者担当基準30条,31条の2,32条及び33条に違反し,保険薬剤師の責務等を定めた高齢者医療法65条に違反するとして,取消日を同年4月1日として原告についての保険薬剤師の登録を取り消す処分をした(平成24年処分)。(甲1)⑵ 平成24年処分に係る訴訟と執行停止 ア原告は,平成24年処分に先立ち,平成23年8月,保険薬剤師の登録取消処分の差止めを求める訴え(札幌地裁平成23年(行ウ)第31号保険薬局指定取消処分差止等請求事件。以下「前訴」という。)を提起していたが,平成24年処分がされたことから,上記訴えを平成24年処分の取消しを求める訴えに変更するとともに,平成24年処分の執行停止の申立て(札幌地 裁平成24年(行ク)第4号執行停止の申立事件)をした。札幌地方裁判所は,平成24年5月7日,前訴の第1審判決の言渡しがあるまで平成24年処分の効力を停止する旨の決定をした(以下「本件執行停止」という。)。(甲2,3)イ札幌地方裁判所は,平成27年4月24日,前訴について,原告の請求を 棄却する旨の判決を言い渡した。原告は,同判決を不服として控訴したが,札幌高等裁判所は,平成28年7月15日,原告の控訴を棄却し,上記判決は確定した。(甲3,4)⑶ 本件通知これを受けて,北海道厚生局長は,平成28年8月5日付けで,法71条2 項1号所定 高等裁判所は,平成28年7月15日,原告の控訴を棄却し,上記判決は確定した。(甲3,4)⑶ 本件通知これを受けて,北海道厚生局長は,平成28年8月5日付けで,法71条2 項1号所定の欠格期間の終期については,保険薬剤師の登録取消日からの5年 間に本件執行停止の期間を加えた期間の末日である平成32年3月17日である旨を通知した(本件通知)。(甲5)⑷ 本件訴訟に至る経緯ア原告は,平成28年9月13日付けで,厚生労働大臣に対し,本件通知の取消しを求める審査請求をした。(甲7) 厚生労働大臣は,平成29年1月24日,本件通知は行政不服審査法2条に規定する「行政庁の処分」には該当しないとして,上記審査請求を却下する旨の裁決をした。(甲11)イ原告は,平成28年12月28日,本件訴えを提起し,本件請求①ないし③及び保険薬剤師登録申請却下処分の禁止を求めた。 ⑸ 本件登録拒否処分ア原告は,平成29年4月3日,北海道厚生局長に対し,法71条1項に基づき,保険薬剤師の登録を申請した。(甲14)イ北海道厚生局医療課は,平成29年4月11日付けで,原告に対し,法71条2項1号ないし3号の該当事由を登録申請書に追記するよう求め,同申 請書を原告に返戻したが,原告は,同月19日付けで,本件欠格期間は同年3月末日で終了しており,同申請書の記載に誤りはないとして,同申請書を訂正せずに北海道厚生局に再送付した。(甲15,16)ウ北海道厚生局長は,平成29年5月9日,法83条に基づき,原告に対し,弁明通知書を送付して弁明の機会の付与を通知した。これに対し,原告は, 同月22日,北海道厚生局長に対し,本件欠格期間は同年3月末日で終了していること及び本件不正行為は法71条2項4号が想定する 明通知書を送付して弁明の機会の付与を通知した。これに対し,原告は, 同月22日,北海道厚生局長に対し,本件欠格期間は同年3月末日で終了していること及び本件不正行為は法71条2項4号が想定する程度の悪質性を有するものではないことを主張する弁明書を提出した。(甲17,18)エ北海道厚生局長は,平成29年5月26日,北海道地方社会保険医療協議会会長に対し,法71条2項1号及び4号の規定により原告の保険薬剤師の 登録をしないことについて,同協議会の議決を求めた。同協議会は,原告の 保険薬剤師の登録をしないことを認めると議決し,同協議会会長は,同年6月6日,北海道厚生局長に対し,その旨を報告した。(乙15の1,2)オ北海道厚生局長は,原告には法71条2項1号及び4号に該当する事由があるとして,原告を保険薬剤師として登録しないとの決定(本件登録拒否処分)をし,平成29年6月7日付けでその旨を原告に通知した。(甲19) カ原告は,本件登録拒否処分を受けて,平成29年6月23日付け訴え変更申立書によって,保険薬剤師登録申請却下処分の禁止請求に代えて本件請求④及び⑤をする旨訴えの変更をした。(顕著な事実) 4 争点⑴ 本件通知の処分性の有無 ⑵ 本件請求②及び③に係る確認の利益の有無⑶ 執行停止の期間中,法71条2項1号所定の欠格期間の進行が停止するか否か⑷ 原告が,法71条2項4号にいう「保険薬剤師として著しく不適当と認められる者」に当たるか否か 5 当事者の主張⑴ 争点⑴(本件通知の処分性の有無)について(原告の主張)ア行政庁の優越的な意思の発動を内包し,かつ,対外的に影響力を持つ完結的な意思表示であれば,特定人の特定の権利を直接的に侵害し又はこれに具 体的な義務 性の有無)について(原告の主張)ア行政庁の優越的な意思の発動を内包し,かつ,対外的に影響力を持つ完結的な意思表示であれば,特定人の特定の権利を直接的に侵害し又はこれに具 体的な義務を課するいわゆる固有の意味の行政処分でなくても,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項にいう「処分」に当たると解される。 本件欠格期間の終期は,本来であれば平成29年3月31日であり,原告は同年4月1日から保険薬剤師の登録を受けられる法的地位にあった。ところが,本件通知は,北海道厚生局長の意思により,本件欠格期間の終期を平 成32年3月17日に変更するものであり,原告の法的地位に直接変動を与 えるものといえるから,行訴法3条2項にいう「処分」に当たる。 イ仮に,本件通知が原告の法的地位に直接変動を与えるものとまではいえないとしても,北海道厚生局長は,法の文言とあえて異なる内容の通知をしたのであるから,本件通知は,北海道厚生局長の意思により本件欠格期間を定め,かつ平成32年3月17日以前の登録申請は却下する旨を宣言すること により,保険薬剤師の登録の申請を原告に思い止まらせようとするものであるから,優越的な意思の発動であり,かつ対外的に影響力を持つ意思表示である。したがって,本件通知は,行訴法3条2項にいう「処分」に当たる。 (被告の主張)ア行訴法3条2項にいう「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が 法令の規定に基づき行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。 法71条2項1号に規定する5年間の欠格期間を経過しているか否かは客観的・機械的に定まるものであり,北海道厚生局長が決めることのできる性質のものではない。したがって 法律上認められているものをいう。 法71条2項1号に規定する5年間の欠格期間を経過しているか否かは客観的・機械的に定まるものであり,北海道厚生局長が決めることのできる性質のものではない。したがって,本件通知の有無にかかわらず,本件欠格期 間の終期は平成32年3月17日であり,北海道厚生局長が,本件通知によって本件欠格期間の終期を変動させたものではない。また,北海道厚生局長が本件通知を発することに関し,その根拠となる法令や通達は存在せず,本件通知は,単なる北海道厚生局長の運用上の対応の一つにとどまる。以上によれば,本件通知は,行訴法3条2項にいう「処分」には当たらない。 イ仮に,行政庁の優越的な意思の発動を内包し,かつ,対外的に影響力を持つ完結的な意思表示に当たるか否かによって行訴法3条2項にいう「処分」の該当性を判断するとしても,本件通知は,本件欠格期間の終期に関する北海道厚生局長の認識を明らかにする運用上の対応にすぎないものであり,特に意思を発動したものではない。また,本件通知は,原告の法律上の地位に 変動をもたらさず,対外的に影響を及ぼす表示行為でもない。したがって, 本件通知は,行訴法3条2項にいう「処分」には当たらない。 ⑵ 争点⑵(本件請求②及び③に係る確認の利益の有無)について(原告の主張)取消訴訟や差止訴訟によっては早期に保険薬剤師として稼働するという原告の目的を達成できず,この目的を達成するためには確認の訴えによることが 有効かつ適切であるから,本件請求②及び③は確認の利益がある。 (被告の主張)本件登録拒否処分の取消訴訟によって原告の目的は達成できるから,本件請求②及び③は確認の利益を欠く。 ⑶ 争点⑶(執行停止の期間中,法71条2項1号所定の欠格期間の進行が停止 (被告の主張)本件登録拒否処分の取消訴訟によって原告の目的は達成できるから,本件請求②及び③は確認の利益を欠く。 ⑶ 争点⑶(執行停止の期間中,法71条2項1号所定の欠格期間の進行が停止 するか否か)について(原告の主張)ア保険薬剤師としての登録を拒否されることは,薬剤師にとって非常に経済的打撃の大きいことであるから,登録拒否処分は安易にされるべきものではなく,法71条2項に規定する登録拒否要件の解釈は厳格にしなければなら ないものであって,解釈による緩和は厳に慎まなければならない。 法71条2項1号は,その文言上,明確に登録取消日を欠格期間の起算日と定め,その5年後を欠格期間の終期と定めている。そうであるにもかかわらず,執行停止の期間を欠格期間に加算することは,何らの法律上の根拠もなく,同号の欠格期間を伸長することとなり,許されない。 イまた,行訴法25条による執行停止の裁判は,本案訴訟について一応の理由があるとみえるときにされるものであるにもかかわらず,同裁判がされることによって欠格期間が伸長されるとの解釈をすると,執行停止決定をし得ない事案に比べ,かえって被処分者にとって不利な結果を招来することとなり,法解釈として明らかに不合理である。 ウ廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)上の 許可取消処分の事案に関する裁判例(仙台高裁昭和58年2月28日判決・行裁集34巻2号324頁。以下「本件高裁判決」という。)においても,行訴法25条による執行停止の裁判により欠格期間の進行が停止されると解すべき法律上の根拠はないことが明確に判示されている。 (被告の主張) ア法71条2項の文言からは,欠格期間の進行の停止が認められないと一義的に決まるもの り欠格期間の進行が停止されると解すべき法律上の根拠はないことが明確に判示されている。 (被告の主張) ア法71条2項の文言からは,欠格期間の進行の停止が認められないと一義的に決まるものではない。 法が,保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師若しくは歯科医師又は保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師について登録制(法64条)を採用している趣旨は,保険医療機関等において健康保険の 診療又は調剤が行われるときに療担規則等において定められている診療方針等に従って行われることの実効性を確保し,保険料の拠出と国庫の負担を給付の財源とする医療保険制度の適正な運用に資することにある。こうした登録制度の中でも,再登録の申請を拒否することができる場合について規定する法71条2項は,保険薬剤師等への指導監督を実効あるものにするため の重要な規定である。 また,平成10年法律第109号による法改正により,それまで2年間であった保険薬剤師の登録を取り消された者の欠格期間が5年間に伸長されたが,その趣旨は,医療保険制度改革を進める上で,保険医療機関等の適正な診療報酬請求を確保することが重要となってきている一方で,2年間とい う欠格期間では十分な施策目的が達成されていないとの認識があり,その期間を伸長することにより,不利益を大きなものとして抑止効果を強化し,一層の保険診療請求の適正化を図ることにある。 仮に,執行停止の期間中,法71条2項1号所定の欠格期間の進行が停止されなければ,当該取消訴訟の請求が棄却されたとしても,健康保険の調剤 に従事できない期間が5年に満たなくても保険薬剤師の登録ができること となり,執行停止決定を得て保険調剤活動を継続する者への抑止効果が著しく低減することとなってしま 健康保険の調剤 に従事できない期間が5年に満たなくても保険薬剤師の登録ができること となり,執行停止決定を得て保険調剤活動を継続する者への抑止効果が著しく低減することとなってしまい,法71条2項の趣旨に反する結果となる。 イ執行停止期間中は欠格期間の進行が停止するとしても,執行停止期間中は保険薬剤師としての業務が可能であるから,保険薬剤師としての業務が制限されている期間が長くなるものではない。したがって,執行停止決定をし得 ない事案に比べて被処分者が不利益な立場に置かれるという評価は当たらない。 ウ本件高裁判決は,法ではなく,廃棄物処理法の条項の解釈が問題となった事案であるから,法の解釈に何ら影響を及ぼすものではない。また,本件高裁判決の廃棄物処理法の条項の解釈を判示した部分は,傍論にすぎない。 ⑷ 争点⑷(原告が,法71条2項4号にいう「保険薬剤師として著しく不適当と認められる者」に当たるか否か)について(原告の主張)法71条2項4号は,保険薬剤師等の取消処分が行われる前に保険薬剤師等の登録を辞退して処分を逃れ,その後しばらくして保険薬剤師等の登録申請を してきたような脱法的なケースや,不正行為で複数回登録取消しとなった者など,通常の登録取消者等を想定した法規範では対応できない者への適用を想定した規定である。 本件不正行為は,患者と面談をせずに調剤をしたというものであり,不正な行為ではあるものの,他の保険薬局にもみられる不正行為であり,しかも個別 指導で済んでいるケースが多々みられる類型の不正行為である。原告が,調剤自体を行っていないとか,架空診療を行う保険医療機関と共謀していたといった事実は存在しない。 したがって,本件不正行為は法71条2項4号が想定しているような悪 る類型の不正行為である。原告が,調剤自体を行っていないとか,架空診療を行う保険医療機関と共謀していたといった事実は存在しない。 したがって,本件不正行為は法71条2項4号が想定しているような悪質性を有するものではないから,原告は,「保険薬剤師として著しく不適当と認め られる者」には当たらない。 仮に法71条2項4号の適用に当たって行政庁の裁量が認められるとしても,本件登録拒否処分は,本件訴訟の敗訴回避と時間稼ぎの観点から,同号を処分理由としたものであって,裁量権の濫用である。 (被告の主張)法71条2項4号は,同項1号ないし3号が想定する保険薬剤師等の登録を しない典型的な事例には該当しないとしても,なお健康保険制度の目的や基本理念に反する場合等,保険薬剤師等の登録をすることが相当でない場合を包括的に取り込む趣旨である。それゆえ,同項4号にいう「保険薬剤師として著しく不適当と認められる者」に当たるか否かは,申請者に関する事情を総合的に考慮して判断すべきであり,その判断に当たっては,北海道厚生局長の裁量が 認められる。 本件不正行為の内容は,前訴第1審判決及び控訴審判決で判示されているとおりであり,重大かつ悪質な不正行為であるから,原告は,「保険薬剤師として著しく不適当と認められる者」に当たる。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件通知の処分性の有無)について⑴ 行訴法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判 決・民集18巻8号1809頁)。 の行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判 決・民集18巻8号1809頁)。 ⑵ 法71条2項1号所定の欠格期間に行訴法25条による執行停止の期間が含まれるか否かは,下記3で後述する法71条2項1号の法解釈の問題であり,北海道厚生局長が決定できるものではない。そして,本件通知は,本件欠格期間の終期に関する北海道厚生局長の見解を事実上の運用として通知したもの にすぎず,法令上の根拠に基づくものではないから,原告の権利義務に影響を 及ぼすものとはいえない。 したがって,本件通知は,行訴法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」には当たらないから,本件通知が処分性を有することを前提とする本件請求①に係る訴えは,不適法なものとして却下を免れない。 2 争点⑵(本件請求②及び③に係る確認の利益の有無)について 原告は,本件訴訟において,本件登録拒否処分の取消し及び保険薬剤師の登録の義務付けの請求をしているところ(本件請求④及び⑤),これらの請求により,原告が有する権利又は法的地位についての紛争を有効かつ適切に解決することができる。 したがって,本件請求②及び③は,確認の利益を欠くから,上記各請求に係る 訴えは,いずれも不適法なものとして却下を免れない。 3 争点⑶(執行停止の期間中,法71条2項1号所定の欠格期間の進行が停止するか否か)について⑴ 法は,疾病,負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする(1条)とともに, 基本的理念として,医療保険の運営の効率化,給付の内容及び費用の負担の適正化並びに 出産に関して保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする(1条)とともに, 基本的理念として,医療保険の運営の効率化,給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ,健康保険制度を実施すべきであると定めている(2条)。そして,法は,これらの目的及び理念を実現するために,保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師について,保険調剤の質的向上及び適正化を目的とした厚生労働大臣による指導(73条1 項)及び監査(78条1項)だけではなく,厚生労働大臣の登録を受けた薬剤師でなければならない(64条)とする登録制を採用している。 法が保険薬剤師について登録制を採用した趣旨は,薬担規則を遵守することを自ら承諾して登録を受けた者(71条1項,72条1項)のみが保険薬局において調剤に従事することができることとし(64条),他方で,薬担規則を遵 守しなかった場合等には登録を取り消して,調剤等に従事することができない ようにすることにより(81条各号),保険薬剤師が薬担規則に従った適切な調剤等をすることの実効性を確保し,保険料の拠出と国庫の負担を給付の財源とする医療保険制度の適正な運用に資することにあると解される。 そして,上記の登録制の趣旨からすれば,法71条2項1号が,保険薬剤師の登録を取り消された者からの再登録の申請につき5年間の欠格期間を定め ているのは,不正行為等に及んだ者に対して不利益を課すことをあらかじめ規定することにより,その抑止的効果をもって調剤報酬の不正請求等の防止を図ることを目的としたものと解される。平成10年法律第109号による法改正により,従前は2年間とされていた上記欠格期間が5年間に伸長されたのは,上記不利益をより大きなも 調剤報酬の不正請求等の防止を図ることを目的としたものと解される。平成10年法律第109号による法改正により,従前は2年間とされていた上記欠格期間が5年間に伸長されたのは,上記不利益をより大きなものとすることにより,抑止的効果を強化したものと 解される(乙6~12,16)。 このように,法71条2項1号の趣旨は,登録取消し後5年間は再登録を認めないという不利益を課す旨をあらかじめ規定することにより,その抑止的効果をもって法の目的及び理念である健康保険制度の適正な運用を図ろうとすることにあると解されることからすれば,同号の欠格期間中は保険薬剤師とし ての業務を行うことができないという不利益を現実に課さなければ,規定の実効性が著しく減殺され,その趣旨に反する結果となることは明らかである。しかるに,行訴法25条による執行停止の期間中,法71条2項1号所定の欠格期間の進行が停止されないと解すると,一旦執行停止の裁判を得た者は,たとえ取消訴訟において敗訴したとしても,保険薬剤師としての業務を行うことが できない期間が実際には5年未満であるにもかかわらず,保険薬剤師としての再登録を受け得ることとなるが,これでは同号の趣旨が没却されてしまうこととなり,相当でないというべきである。 以上によれば,法71条2項1号所定の欠格期間は,保険薬剤師に係る登録の取消処分が行訴法25条により効力を停止されている間は,その進行を停止 すると解するのが相当である。 これに対し,原告は,上記の解釈によれば,行政処分の取消訴訟について一応の理由があるとみえるとして執行停止の裁判を得た被処分者にとって,かえって不利な結果を招来することとなり,法解釈として不合理である旨主張する。 しかしながら,法71条2項1号所定 ついて一応の理由があるとみえるとして執行停止の裁判を得た被処分者にとって,かえって不利な結果を招来することとなり,法解釈として不合理である旨主張する。 しかしながら,法71条2項1号所定 に解しても,被処分者は,執行停止期間中は保険薬剤師としての業務を行うことができるから,執行停止の裁判を得たものの取消訴訟において敗訴した場合であっても,保険薬剤師としての業務が制限される期間が,執行停止の裁判を得なかった場合と比べて長期化するものではなく,被処分者に不合理な不利益が生じるものとはいえない。 したがって,原告の上記主張は,理由がない。 イまた,原告は,本件高裁判決においては,執行停止の裁判により欠格期間の進行が停止されると解すべき法律上の根拠はないと判示されている旨主張する。 しかしながら,本件高裁判決は,廃棄物処理法上の欠格期間に関する解釈 について判示したものであるから,事案を異にし,本件に適切でない。 したがって,原告の上記主張は,理由がない。 以上によれば,本件欠格期間の終期は,原告が保険薬剤師の登録を取り消された平成24年4月1日からの5年間に,本件執行停止の期間(平成24年5月7日~平成27年4月24日)の日数である1081日を加えた期間の末日 である平成32年3月17日である。 ⑸ なお,前記第2の2⑺のとおり,本件局長通知によれば,法71条2項1号所定の欠格期間が経過していなくとも,登録取消しから2年以上5年未満であって,不正請求の金額等が軽微であると認められる場合には,保険薬剤師の再登録が認められるとされている。平成24年処分の効力は,平成24年5月7 日から平成27年4月24日までの1081日間にわたり停止されていたと ころ,本件登録拒否処分がされ 剤師の再登録が認められるとされている。平成24年処分の効力は,平成24年5月7 日から平成27年4月24日までの1081日間にわたり停止されていたと ころ,本件登録拒否処分がされた時点では,再登録が認められない期間が通算で2年を超えていたものであるから,本件不正行為が「軽微」であるといえれば,原告の再登録を認める余地があるようにも思われる。 しかしながら,証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,Xとともに本件不正行為を行い,本件薬局に調剤報酬の不正請求をさせていたので あって,組織的に不正行為を行ったといえる。そうすると,本件運用基準によれば,本件不正行為が「軽微」であるとはいえず,北海道厚生局長が,本件欠格期間が経過していない原告について保険薬剤師の再登録を拒否したことは相当であったといえる。 ⑹ 以上によれば,本件登録拒否処分は適法であると認められるから,本件請求 ④は,理由がない。 4 原告の保険薬剤師としての登録の義務付けを求める訴えについて(本件請求⑤)原告の保険薬剤師としての登録の義務付けを求める訴えは,行訴法3条6項2号に基づく義務付けの訴えであるところ,当該訴えは,法令に基づく申請を却下し,又は棄却する旨の処分がされた場合において,当該処分が取り消されるべき ものであり,又は無効若しくは不存在であるときに限り提起することができるとされている(行訴法37条の3第1項2号)。 しかしながら,上記3のとおり,本件登録拒否処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるということはできないから,本件請求⑤に係る訴えは,行訴法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠き,不適法なもの として却下を免れない。 第4 結論以上によれば,本件訴えのうち本件請求① ということはできないから,本件請求⑤に係る訴えは,行訴法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠き,不適法なものとして却下を免れない。 第4 結論以上によれば,本件訴えのうち本件請求①ないし③及び⑤に係る訴えは不適法であるからいずれも却下し,本件請求④は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官武藤貴明 裁判官都野道紀 裁判官岩竹遼
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