主文 被告人を懲役15年に処する。 未決勾留日数中850日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、正当な理由がないのに、平成13年2月6日午前11時30分頃から同日午後0時58分頃までの間に、広島県福山市AB丁目C番地(現在の住所は広島県福山市AB丁目Ⅾ番E号)F方に玄関から立ち入って侵入し、G(当時35歳。 以下、単に「被害者」という。)に対し、殺意をもって、その腹部を果物ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)で突き刺すなどし、よって、その頃、同所において、被害者を心臓損傷等に基づく失血により死亡させた。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1 争点罪となるべき事実記載の住居侵入、殺人が何者かにより行われたことには争いがない。本件の争点は、住居侵入、殺人を行った犯人が被告人であると合理的な疑いを差し挟む余地がなく認められるかである。 犯行後、犯行現場から発見された物等に付着していた複数の血液が被告人のものかが主な問題である。当裁判所は、犯行現場から発見された物等に付着していた複数の血液は被告人のものといえ、被告人が犯人であると合理的な疑いを差し挟む余地がなく認められると判断したので、その理由を説明する。 第2 当裁判所の判断 1 犯行現場から発見された血液について被害者の遺体は、被害者方階段の下から6段目に腰を下ろしている状態で発見された。①遺体が左足に着用していたソックス(以下「左足ソックス」という。)に 付着した血液(検査部位1及び3)、②被害者方1階六畳間から犯行当日に発見された、前記ソックスと対になるソックスの一部(以下「右足ソックス片」という。)に付着した血液(検査部位1ないし5)、③被害者方階段の下から5段目に付着した血液 被害者方1階六畳間から犯行当日に発見された、前記ソックスと対になるソックスの一部(以下「右足ソックス片」という。)に付着した血液(検査部位1ないし5)、③被害者方階段の下から5段目に付着した血液及び④被害者方1階台所の流し台から犯行当日に発見されたヘアスプレー缶に付着した血液について、平成17年(犯行の4年後)にDNA型鑑定(プロファイラーキットによるもの)が実施された。その結果、いずれについても、STR型9座位とアメロゲニン型1座位の全てが被告人のDNA型と一致した。その出現頻度は、約1100万人に一人である。 また、左足ソックスの検査部位3(①の一部)について、平成19年(犯行の6年後)にもDNA型鑑定(アイデンティファイラーキットによるもの)が実施された。その結果、STR型15座位とアメロゲニン型1座位の全てが被告人のDNA型と一致した。その出現頻度は、約4兆7千億人に一人である。 さらに、DNA型鑑定の専門的知見を有する法医学者の証言によると、右足ソックス片の検査部位2(②の一部)について、令和6年(犯行の23年後)に実施されたDNA型鑑定(グローバルファイラーキットによるもの)を前提に詳細に検討すると、同部位から採取された資料には被告人と同型のDNAが含まれていると考えられる。同証言の要旨は、同部位から採取された資料は非常に劣化しているが、主たる提供者のDNAが約95パーセントを占める混合資料であり、被告人と同型のDNAが主たる提供者のものであると考えて矛盾せず、さらに、尤度比を用いて検討すると、同資料に被告人と同型のDNAが含まれている場合の方が、被告人と同型のDNAが含まれていない場合より約4穣(4×100兆×100兆)倍以上、同部位から採取された資料の検査結果となりやすいというものである。その内容は、専門的知見に基 れている場合の方が、被告人と同型のDNAが含まれていない場合より約4穣(4×100兆×100兆)倍以上、同部位から採取された資料の検査結果となりやすいというものである。その内容は、専門的知見に基づく合理的なものといえ、信用できる。 弁護人は、証人が検討過程でスタターと判断して排除したアリルの中にスタターでないものが含まれている可能性を指摘するが、排除した理由は専門的知見に基づいて合理的に説明されている。また、弁護人は、証人が解析に用いたソフトウェア を信用すべき根拠が示されていないとも主張するが、国際的専門誌に論文として発表され、ソフトウェアが公開されて、誰もが使用可能な状態となって数年経過する中で問題点等の指摘はないというのであるから、ソフトウェアの信用性に疑いはない。 これらの事実によると、①ないし④の血液がいずれも被告人のものであることが強く推認される。 もっとも、左足ソックスの検査部位3(①の一部)、右足ソックス片の検査部位1ないし5(②の全て)について、令和2年(犯行の19年後)と令和6年(犯行の23年後)に実施されたDNA型鑑定(グローバルファイラーキットによるもの)では、一部の座位で、被告人と同一のアリルが検出されなかったり、被告人とは異なるアリルが検出されたりしたほか、1回目と2回目の検出結果が一致しなかったりしている。しかし、前記の証言等によると、それらの結果は、DNAが長期間の経過により劣化したことや被告人以外の者のDNAが微量混入していたことなどによるものと理解可能であり、前記推認と矛盾しない。 以上によると、①ないし④の血液は、いずれも被告人のものであると認められる。 2 被告人の犯人性についてこれらの血液は、被害者による異常発報を受理した警備会社の通報を受けて臨場した警察官により、乾燥してい と、①ないし④の血液は、いずれも被告人のものであると認められる。 2 被告人の犯人性についてこれらの血液は、被害者による異常発報を受理した警備会社の通報を受けて臨場した警察官により、乾燥していない状態で発見されたことなどから、犯人が犯行時に残していったものであると認められる。 そうすると、これらの血液が被告人のものであることは、被告人が犯行時に被害者方にいたことを示している。加えて、犯行現場が被告人と面識のない被害者方であり、そこに残された足跡が一種類であったことも考慮すると、被告人が犯人であることが強く推認される。 なお、被害者のソックスから採取された資料に被告人以外の者のDNAが微量混入しているとしても、前記の足跡等といった犯行現場の痕跡に照らすと、被告人以外の第三者が犯行時に犯行現場にいたとは考え難い。 その他、犯人が持参して被害者の遺体に残していった凶器と同種の果物ナイフを含む器具数点が欠けた状態の調理器具セットが、被告人が犯行当時頃まで住んでいた居宅から令和3年(犯行の20年後)に発見されたことは、被告人が犯人であることと整合している。また、犯人の足跡は28センチメートルの運動靴によりつけられたものであるが、被告人方から令和3年に27ないし28センチメートルの靴が発見されたことは、被告人が犯人であることと矛盾しない。 他方、被告人は、被害者方に行ったことはなく、犯行があった日時には釣り場の下見に行くなどしていた旨供述する。しかし、その供述は、DNA型鑑定の結果から認められる事実に明らかに反する上、極めて重要な犯行時のアリバイであるにもかかわらず、公判で初めてしたというのであり、全く信用できない。 これらによると、被告人が犯人であるという推認に反する事情は証拠上ないといえ、被告人が犯人であることに合理的な疑い アリバイであるにもかかわらず、公判で初めてしたというのであり、全く信用できない。 これらによると、被告人が犯人であるという推認に反する事情は証拠上ないといえ、被告人が犯人であることに合理的な疑いを差し挟む余地はない。 よって、被告人が犯人であると認められる。 第3 結論以上により、被告人が罪となるべき事実記載の住居侵入、殺人に及んだことが認められる。 (法令の適用)罰条住居侵入の点刑法130条前段殺人の点平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(有期懲役刑の長期は同改正前の刑法12条1項)(刑法6条、10条により軽い行為時法の刑による)科刑上一罪の処理刑法54条1項後段、10条(住居侵入と殺人とは手段結果の関係。一罪として重い殺人罪の刑で処断) 刑種の選択有期懲役刑未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人は、面識のない被害者方に昼間玄関から侵入し、口や両手首に粘着テープを巻き、果物ナイフで被害者の腹部を心臓及び肝臓を損傷するほど深く強く突き刺して殺害しており、全く落ち度のない被害者に対する危険で残忍な犯行である。また、被告人は、事前に果物ナイフや粘着テープを用意していたとはいえ、被害者方に侵入した理由は証拠上不明というほかなく、あらかじめ被害者の殺害を計画していたとまでは認められないが、果物ナイフによる深く強い刺突だけでなく、置物による被害者の頭部への攻撃も行っており、殺意は強固なものといえ、意思決定への非難は大きい。被害者は、自宅で突如被告人に襲われ、抵抗のかいなく、幼い二人の子供を残したまま、その命を奪われたのであって、その無念と衝撃の大きさは計り知れない。実母は、心情意見陳述において、被害 非難は大きい。被害者は、自宅で突如被告人に襲われ、抵抗のかいなく、幼い二人の子供を残したまま、その命を奪われたのであって、その無念と衝撃の大きさは計り知れない。実母は、心情意見陳述において、被害者を失ってから24年間に及ぶ遺族らに生じた影響の大きさと悲痛な思いを述べており、それを受けて被害者参加弁護士が厳しい科刑意見を述べるのも当然といえる。 以上を踏まえ、平成16年刑法改正前の殺人罪や動機不明の殺人罪の量刑等も参照すると、本件は、死刑や無期懲役刑を選択すべき事案とまではいえないものの、有期懲役刑の中では上限付近に位置付けるべき相当に重い事案である。その上で、被告人に有利に考慮すべき一般情状が特段見当たらないことも考慮し、主文の刑が相当と判断した。 (求刑-懲役15年被害者参加弁護士の科刑意見-死刑)令和7年2月14日広島地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官後藤有己 裁判官櫻井真理子 裁判官金井千夏
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