- 1 - 主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人吉永満夫の上告理由及び上告受理申立て理由について 1 本件は、千葉県議会議員の定数及び選挙区等に関する条例(昭和49年千葉県条例第55号。以下「本件条例」という。)に基づいて令和5年4月9日に行われた千葉県議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)について、船橋市選挙区(以下「本件選挙区」という。)の選挙人である上告人が、本件条例のうち各選挙区において選挙すべき議員の数を定める規定(以下「本件定数配分規定」という。)が公職選挙法15条8項及び憲法14条1項に違反し無効であるから、これに基づいて行われた本件選挙の本件選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ 都道府県議会の議員の定数については、地方自治法において、条例で定めるものとされている(90条1項)。 また、都道府県議会の議員の選挙区については、公職選挙法において、一の市の区域、一の市の区域と隣接する町村の区域を合わせた区域又は隣接する町村の区域を合わせた区域のいずれかによることを基本とし、条例で定めるものとされ(15条1項)、選挙区は、その人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をもって除して得た数(以下「議員1人当たりの人口」という。)の半数以上になるようにしなければならず、一の市の区域の人口が議員1人当たりの人口の半数に達しないときは、隣接する他の市町村の区域と合わせて1選挙区を設けなけれ令和5年(行ツ)第404号、同年(行ヒ)第448号選挙無効請求事件令和7年1月2 区域の人口が議員1人当たりの人口の半数に達しないときは、隣接する他の市町村の区域と合わせて1選挙区を設けなけれ令和5年(行ツ)第404号、同年(行ヒ)第448号選挙無効請求事件令和7年1月28日第三小法廷判決- 2 -ばならず(同条2項)、一の市の区域の人口が議員1人当たりの人口の半数以上であっても議員1人当たりの人口に達しないときは、隣接する他の市町村の区域と合わせて1選挙区を設けることができるものとされている(同条3項)。 上記各規定等により定められた各選挙区において選挙すべき議員の数については、公職選挙法において、人口に比例して、条例で定めなければならないが(15条8項本文)、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるものとされている(同項ただし書)。 ⑵ア本件定数配分規定は、その制定後数次の改正を経た後、平成29年千葉県条例第18号による改正がされ、その結果、42選挙区に94人の定数が配分され、この定数配分の下で、平成31年に千葉県議会議員一般選挙が行われた。 イ令和2年の国勢調査の結果、その当時の本件定数配分規定によれば、選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下「選挙区間の人口の最大較差」という。)は1対3.06(以下、較差に関する数値は概算である。)となり、人口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の定数より少ないいわゆる逆転現象は3通りであった。 ウその後、本件条例については、令和4年千葉県条例第33号により、定数1人の二つの選挙区(勝浦市・夷隅郡選挙区及びいすみ市選挙区)を合わせて定数2人の選挙区(勝浦市・いすみ市・夷隅郡選挙区)とするほか、一つの選挙区(流山市選挙区)の定数を1人増やす改正がされた(以下「本件改正」という。)。 エ本件選 区及びいすみ市選挙区)を合わせて定数2人の選挙区(勝浦市・いすみ市・夷隅郡選挙区)とするほか、一つの選挙区(流山市選挙区)の定数を1人増やす改正がされた(以下「本件改正」という。)。 エ本件選挙当時、本件条例の定める選挙区及び各選挙区における議員の数は、原判決別紙「定数及び選挙区に係る一票の較差等について」の「選挙区」欄及び「定数b」欄記載のとおりであり、41選挙区に95人の定数が配分されている。 オ上記エの定数配分においては、各選挙区の人口を議員1人当たりの人口で除して得た数に応じて公職選挙法15条8項本文の人口比例の原則を適用した場合に各選挙区に配分されることとなる定数(以下「人口比定数」という。)と対比すると、41選挙区中14選挙区において差異がみられ(人口比定数より1人多いのが- 3 -8選挙区、3人少ないのが1選挙区、1人少ないのが5選挙区であった。)、人口比定数による選挙区間の人口の最大較差は1対2.67であったのに対し、選挙区間の人口の最大較差は1対2.69であり、いわゆる逆転現象はなかった。 3⑴ 前記2⑴の各規定に照らせば、都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分に当たり公職選挙法15条8項ただし書を適用して人口比例の原則に修正を加えるかどうか及びどの程度の修正を加えるかについては、当該都道府県議会にその決定に係る裁量権が与えられていると解される。しかるところ、都道府県議会の議員の選挙に関し、当該都道府県の住民が、その選挙権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは憲法の要求するところであり、また、同項は、憲法の上記要請を受け、都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているも あり、また、同項は、憲法の上記要請を受け、都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解されることからすると、条例の定める定数配分が同項の規定に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが、前記のような選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきものと解される。 そして、公職選挙法15条8項ただし書を適用してされた条例の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に較差が生じている場合において、その較差が都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しており、これを正当化すべき特段の理由が示されないとき、あるいは、その較差は上記の程度に達していないが、上記の制定時若しくは改正時において同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており、又はその後の選挙時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたときは、当該定数配分は、裁量権の合理的な行使とはいえないものというべきである(最高裁平成26年(行ツ)第103号、同年(行ヒ)第108号同27年1月15日第一小法廷判決・裁判集民事249号1頁参- 4 -照)。 ⑵ 前記2⑵の事実関係等によれば、本件定数配分規定は、各市町村の実情に応じた当該地域に特有の事情を考慮し、公職選挙法15条8項(平成6年法律第2号による改正前は同条7項)ただし書にいう特別の事情があるとの評価を前提として、選挙制度の安定性の要請をも勘案しつつ改正されてきたものと解される。そ 情を考慮し、公職選挙法15条8項(平成6年法律第2号による改正前は同条7項)ただし書にいう特別の事情があるとの評価を前提として、選挙制度の安定性の要請をも勘案しつつ改正されてきたものと解される。そして、本件選挙当時においては、複数の選挙区の定数に人口比定数との差異はみられるものの、本件改正前の本件定数配分規定によれば、選挙区間の人口の最大較差は1対3.06であり、いわゆる逆転現象が3通りであったところ、本件改正が行われ、選挙区間の人口の最大較差は1対2.69となって、人口比定数による選挙区間の人口の最大較差である1対2.67との差異はわずかなものとなり、逆転現象もみられないこととなった。 そうすると、前記2⑴の各規定の定める選挙制度の下においては、本件選挙当時における投票価値の不平等は、千葉県議会において地域間の均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、また、本件改正時において、公職選挙法15条8項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いていたとも、本件選挙当時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたともいい難いから、上記不平等の改善に向けた一層の努力及び工夫がされることが望ましいとはいえるものの、本件選挙が行われる前に本件定数配分規定を改正しなかったことが同議会の合理的裁量の限界を超えるものということはできない。 したがって、本件選挙当時における本件定数配分規定は、公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえず、適法というべきである。 4 所論は、さらに、本件定数配分規定が憲法14条1項に違反する旨をいう。 しかしながら、本件選挙当時、本件条例による各選挙区に対する定数の配分が千葉県議会の のとはいえず、適法というべきである。 4 所論は、さらに、本件定数配分規定が憲法14条1項に違反する旨をいう。 しかしながら、本件選挙当時、本件条例による各選挙区に対する定数の配分が千葉県議会の合理的裁量の限界を超えるものとはいえないことは、前記3⑵において- 5 -説示したとおりであり、本件定数配分規定が憲法14条1項に違反していたものとはいえないことは、当裁判所大法廷判決(最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁等)の趣旨に徴して明らかというべきである。 その余の上告理由は、違憲をいうが、その前提を欠くものであって、民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。 5 以上の次第であるから、本件請求を棄却した原審の判断は、是認することができる。論旨は、いずれも採用することができない。 よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官渡辺惠理子の補足意見がある。 裁判官渡辺惠理子の補足意見は、次のとおりである。 1 私は、結論および理由について多数意見に賛同するものであり、本件選挙を全体としてみると、本件選挙における議員定数配分が千葉県議会の裁量を逸脱するものとして直ちに違憲又は違法であるということはできないと考えるものであるが、本件選挙区の定数が人口比定数から3人不足する状態であることについて懸念を有することを付言しておきたい。 2 多数意見も言及するとおり、投票価値の平等は、都道府県議会選挙についても憲法の要求するところであり、また、公職選挙法15条8項が人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求していると解されることはいうまでもないが、選挙区割りと議員定数配分は表 ろであり、また、公職選挙法15条8項が人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求していると解されることはいうまでもないが、選挙区割りと議員定数配分は表裏一体の関係にあるところ、都道府県議会選挙についてみれば、選挙区割りが、地理的・歴史的経緯からなる社会経済の構成単位としての市町村を基礎とする以上、本件条例のように合区を設けることによって調整を試みてもなお、人口のみを基礎として機械的に割り振ることができないことも当然に想定され、また、都道府県議会選挙については、公職選挙法15条1項ないし4項および8項ただし書が、地方自治、地域間の均衡といった政策的配慮の観点から選挙区間の議員1人当たりの人口にあ- 6 -る程度の較差が生じることは許容していると考えられる。 3 一方、本件選挙についてみると、多数意見の摘示する理由のほか、①41選挙区の中で人口比定数よりも2人以上の定数が不足する選挙区は本件選挙区のみであること、②一件記録によれば、本件選挙区の定数が人口比定数より3人不足することとなったのは本件選挙からであり、さらに、③本件選挙区の配当基数(当該選挙区の人口を議員1人当たりの人口で除して得た数)は9.718であって、いわゆる最大剰余方式により定まる人口比定数が10人となるか9人となるかは、他の選挙区の配当基数との関係によって決せられるところ、本件においては、結果として人口比定数が10人となったこと等に鑑みると、本件選挙での本件選挙区の定数が人口比定数より3人不足することをもって本件選挙が全体として直ちに違憲・違法の状態であるとまではいい難いと考えられる。 4 しかしながら、議員1人当たりの人口の較差や、定数配分規定による定数と人口比定数が不一致の選挙区の数のみならず、定数が人口比定数より2 ちに違憲・違法の状態であるとまではいい難いと考えられる。 4 しかしながら、議員1人当たりの人口の較差や、定数配分規定による定数と人口比定数が不一致の選挙区の数のみならず、定数が人口比定数より2人以上不足する選挙区の数もまた無視できない判断要素である(最高裁平成2年(行ツ)第64号同3年4月23日第三小法廷判決・民集45巻4号554頁参照)。そして、一件記録によれば、本件選挙区の定数配分規定による定数は、昭和50年に行われた選挙から本件選挙に至るまで、その人口増にもかかわらず、7人である状態が続いている。また、本件選挙においては、定数配分規定によれば、本件選挙区と議員1人当たりの人口が最も少ない選挙区との議員1人当たりの人口の較差は2.69である一方、人口比定数によるその較差は1.83であるから、定数配分規定による定数が人口比定数より3人不足することによって本件選挙区における投票価値に少なからぬ影響があったことは明らかであるところ、本件選挙区の人口は、現在でも増加傾向にあることに鑑みると、このまま放置すれば、今後さらに人口比定数からのかい離が拡大するおそれがあることは否定できない。さらに、現在、定数配分規定による定数が人口比定数から1人不足する選挙区の全てにおいて人口の増加傾向がみられ、このまま放置すれば定数配分規定による定数が人口比定数より2人以- 7 -上不足する選挙区の数が拡大する可能性も否定できない。 以上のとおり、憲法および公職選挙法15条8項が各選挙人の投票価値の平等を基本とすることを踏まえると、本件選挙区の定数が人口比定数から3人不足する状態について、漫然とこれを許容してよいというものではない。したがって、本件選挙区の定数が人口比定数から3人不足することについて、投票価値の平等を尊重してもなお合理的であるといえるの ら3人不足する状態について、漫然とこれを許容してよいというものではない。したがって、本件選挙区の定数が人口比定数から3人不足することについて、投票価値の平等を尊重してもなお合理的であるといえるのか、地域の代表の必要性と地域間格差の是正の具体的意味と他の選挙区との比較を踏まえて本件選挙区の定数についても検証すべきものと思料する。 裁判官宇賀克也の反対意見は、次のとおりである。 私は、多数意見と見解を異にするので、以下、その理由について述べる。 1 現行憲法上(14条1項、15条1項、93条2項)、有権者には、単に形式的に同じ票数の投票権が付与されているにとどまらず、等価値の投票権が付与されていると考えられる。すなわち、1票の価値が同等であることがデフォルトであり、これを公共の福祉により制約するためには、それが正当であることについて、立法者が説明責任を負う。そして、憲法92条が定める地方自治の本旨の根幹をなす住民自治も、投票価値の平等を要請すると考えられるから、住民自治の原理から、地方選挙においては、国政選挙と比較して、人口比例原則を緩和して、地域代表の性格をより強く反映させてよいということには当然にはならない。したがって、選挙無効確認訴訟においては、本来同等である1票の価値を制約することの合理性についての主張立証責任を被告である選挙管理委員会が負うべきことは、国政選挙でも地方選挙でも変わりはない。 公職選挙法15条8項本文の人口比例原則は、1票の価値が同等であることがデフォルトであることを確認したものであり、同項ただし書は、それが公共の福祉により制約に服することを確認したものといえる。そこで、以下、憲法14条1項違反を理由とする上告理由と、公職選挙法15条8項違反を理由とする上告受理申立て理由を一括して検討することとする。 福祉により制約に服することを確認したものといえる。そこで、以下、憲法14条1項違反を理由とする上告理由と、公職選挙法15条8項違反を理由とする上告受理申立て理由を一括して検討することとする。 - 8 -2⑴ 本件選挙区は、人口比定数によれば定数は10であるにもかかわらず、本件定数配分規定の下で配分された定数は7にとどまり、定数差が3も生じている。 この定数差は異例に大きく、これは選挙権に対する大きな制約といえる。本件において、本件選挙区の選挙人の選挙権の価値に上記のような重大な不利益を与えることについて、それを正当化する公共の福祉の必要性ないし公職選挙法15条8項ただし書の「特別の事情」が被告により立証されているかについて、以下検討する。 ⑵ 「千葉県議会議員の選挙区及び定数の現状等について」(甲第19号証)、「千葉県議会議員の定数及び選挙区等に関する報告書」(甲第20号証)においても、本件選挙区の人口は、国勢調査によれば、昭和45年から令和2年までの間の50年間に約2倍になったにもかかわらず、本件選挙区の議員定数は、昭和45年の国勢調査に基づく昭和50年選挙当時から7人に据え置かれたままになっている理由についての説明はなされていない。他方において、千葉県議会議員選挙区のうち、人口比定数よりも議員定数が1人多く配分されている8選挙区については、その説明は一応なされている。しかし、これらの議論が、本件改正について議論した千葉県議会議員定数等検討委員会で行われていたわけではなく、また、各地方公共団体のウェブサイトや観光ガイドブックにみられる程度の記述にとどまり、以下のように、全体の整合性に欠ける。たとえば、行政の中核として重要な地域であることを議員定数配分の上乗せの理由とする点については、政令で指定された中核市である船橋市及び柏市の 度の記述にとどまり、以下のように、全体の整合性に欠ける。たとえば、行政の中核として重要な地域であることを議員定数配分の上乗せの理由とする点については、政令で指定された中核市である船橋市及び柏市の各選挙区の議員定数が、むしろ人口比定数よりも少ない議員定数とされていることと矛盾する。また、観光都市として重要な地域であることを上記上乗せの理由とする点については、千葉県最大の観光都市である浦安市の選挙区の議員定数が人口比定数よりも少ないこととされていることの説明が付かない。 広大な区域であることを上記上乗せの理由とする点も、四街道市のような狭小の市についての選挙区も議員定数配分の上乗せがなされているので、説得力に乏しい。 そして、当該8選挙区がそれぞれ重要であるという説明と同様のこの程度の説明は、人口比定数と一致した議員定数が配分されている選挙区についても、本件選挙- 9 -区を含めて人口比定数よりも少ない議員定数が配分された選挙区についてもそれぞれ可能であり、当該8選挙区においてのみ人口比定数よりも議員定数を多く配分することの十分な理由にはなっていない。また、当該8選挙区において人口比定数よりも議員定数を多く配分する必要性についての説明は、本件選挙区において、上記のとおり人口がほぼ倍増したにもかかわらず、議員定数が7名に据え置かれていることの合理性の説明には何らなっていない。同様に、5選挙区において、人口比定数よりも1人少なく議員定数が配分されていることの合理性の説明にもなっていない(これらの人口比定数よりも少なく議員定数が配分されている選挙区の人口の合計は、千葉県の人口の約4割を占める。)。とりわけ、平成23年法律第35号による地方自治法改正により、地方議会の議員定数の上限規制は廃止され、現在では、人口比定数よりも議員定数を多く配分する必 の合計は、千葉県の人口の約4割を占める。)。とりわけ、平成23年法律第35号による地方自治法改正により、地方議会の議員定数の上限規制は廃止され、現在では、人口比定数よりも議員定数を多く配分する必要性がある選挙区があったとしても、その議員定数の増加分を他の選挙区における議員定数を人口比定数より減少させることにより埋め合わせなければならないという関係にはないのであるから、上記8選挙区の増加分を他の選挙区の議員定数を人口比定数よりも減少させなければならないという関係にはないのである。千葉県議会議員選挙区全体における議員定数を増加させることについて、住民の理解を得ることが必ずしも容易でないとしても、本件選挙区の議員定数が、上記のとおりの人口増にもかかわらず、議員定数が据え置かれた結果、最もその価値が高い選挙区の投票価値を1とした場合、本件選挙区の投票価値が約0.37しかない状態にあることを住民に説明して理解を広め、その上で、本件選挙区の議員定数を増加させることについても検討すべきであろう。 ⑶ 以上の検討によれば、本件定数配分規定については、公職選挙法15条8項ただし書の「特別の事情」があることについての合理的説明がなされておらず、同項の規定に違反すると同時に、憲法14条1項の規定にも違反しているといわざるを得ない。 3⑴ 次に、本件定数配分規定は、当審の判例の基準に照らしても、議会の裁量- 10 -権の逸脱・濫用があり、違法であることについて論ずることとしたい。 ⑵ 当審の判例は、(ⅰ)公職選挙法15条8項の規定を適用してされた条例の制定又はその後の改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に較差が生じ、あるいはその後の人口の変動によりその較差が拡大した場合において、上記の較差が都道府県議会において地 又はその後の改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に較差が生じ、あるいはその後の人口の変動によりその較差が拡大した場合において、上記の較差が都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しており、これを正当化すべき特段の理由が示されていないとき、あるいは(ⅱ)上記の較差は上記の程度に達していないが、上記の制定時若しくは改正時において同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており、又はその後の選挙時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたときは、当該定数配分は、裁量権の合理的な行使とはいえないという基準を設けている(前掲最高裁平成27年1月15日第一小法廷判決、最高裁平成28年(行ツ)第115号、同年(行ヒ)第118号同年10月18日第三小法廷判決・裁判集民事第254号1頁、最高裁平成30年(行ツ)第92号、同年(行ヒ)第108号同31年2月5日第三小法廷判決・裁判集民事第261号17頁、最高裁令和4年(行ツ)第78号、同年(行ヒ)第79号同年10月31日第二小法廷判決・裁判集民事第269号37頁)。 ⑶ 上記(ⅰ)の基準に照らしてみると、本件定数配分規定の下で生じた選挙区間の人口の最大較差は1対2.69であり、これは、実質的に複数投票制を認めるに等しいものであり、これを是認する結果となる選挙区間の人口の最大較差が2以上となることが許容されるためには、それを正当化するための公共の福祉の要請が説得力を持って示されなければならないが、本件では、そのような合理的な理由は示されていないことは、すでに述べたとおりである。とりわけ、本件選挙区における議員定数が、人口比定数より3人も 福祉の要請が説得力を持って示されなければならないが、本件では、そのような合理的な理由は示されていないことは、すでに述べたとおりである。とりわけ、本件選挙区における議員定数が、人口比定数より3人も少ないという状態は異常であり、約50年間に本件選挙区の人口がほぼ倍増したにもかかわらず、この間、議員定数が据え置かれたままになっていることも異常である。他方、本件改正により逆転現象は解消さ- 11 -れているが、そのことは、重視すべき事情ではない。なぜならば、たとえば、選挙区人口5万人で議員定数5の選挙区と選挙区人口4万9000人で議員定数6の選挙区があれば逆転現象があることになるが、選挙区人口5万人で議員定数5の選挙区と選挙区人口4万9000人で議員定数2の選挙区の間には逆転現象はないところ、投票価値の不均衡は後者の方が大きいといえるからである。 ⑷ 本件選挙区における人口比定数と議員定数の大きな差の解消は、本件改正に当たり、最優先されるべき課題であったが、そのことは考慮事項から抜け落ちたか、視野にあったとしても著しく軽視された。公職選挙法15条8項ただし書は、昭和44年法律第2号による同法改正の際に設けられたところ、その改正理由は、常住する住民の数と地方公共団体の行政需要とが必ずしも対応する形とならない事例が相当程度生じてきたこと、特に都道府県行政の役割が補完行政、広域行政の推進にあることを考えると、従来どおり各選挙区間の定数配分を機械的に人口に比例して行ったのでは必ずしも都道府県行政の円滑な推進が期せられない場合も生じ得ることによるとされている。公職選挙法16条が、都道府県議会の議員は、行政区画その他の区域の変更によりその選挙区に異動があっても、その職を失うことはないと定めているように、都道府県議会の議員は、当該都道府県の住民全体を代 る。公職選挙法16条が、都道府県議会の議員は、行政区画その他の区域の変更によりその選挙区に異動があっても、その職を失うことはないと定めているように、都道府県議会の議員は、当該都道府県の住民全体を代表するのであり、選挙区の市町村のみを代表するものではないが、当該市町村の事情に通暁した議員を選出することができるようにすることは、公共の福祉の観点からある程度は正当化できるので、公職選挙法15条8項ただし書の規定の導入時の政府委員による上記改正理由は、複数の市町村が一つの選挙区を構成している場合に、各市町村を地盤とする議員を選出できるように議員定数を定めるケースでは、ある程度理解できる。しかし、単一の市町村が選挙区となっている場合に、当該選挙区に配分されている議員定数を人口比定数に上乗せすることを正当化する十分な理由にはなり難いように思われる。本件定数配分規定の下で、議員定数を人口比定数に上乗せされた選挙区の中には、単一の市が選挙区になっているものが複数存在し、それらについては、市町村の代表を千葉県議会に確保する必要という説明では不十- 12 -分であるが、それを補う説明はされていない。したがって、当審判例の(ⅰ)の判断基準に照らせば、較差が都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しており、これを正当化すべき特段の理由が示されていないときに当たり、裁量権の逸脱濫用として違法となる。 4⑴ 以上述べたように、本件定数配分規定は、憲法14条1項、公職選挙法15条8項に違反する。そして、違憲状態に達してからそれを是正するために要する合理的期間の経過の有無は、国家賠償請求における過失判断においては意味を持ち検討する必要があるが、本件定数配分規定の違憲・無効 条8項に違反する。そして、違憲状態に達してからそれを是正するために要する合理的期間の経過の有無は、国家賠償請求における過失判断においては意味を持ち検討する必要があるが、本件定数配分規定の違憲・無効の確認を求める訴訟においては、違憲状態であれば、即違憲と解してよいと考える(その理由については、最高裁令和4年(行ツ)第130号同5年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁における個別意見で説明しているので、ここでは繰り返さない。)。したがって、本件定数配分規定が違憲・違法であることを宣言すべきである。 ⑵ しかし、過去の最高裁判決に照らして、千葉県議会が、本件改正に当たり、選挙区間の人口の最大較差が3以内であれば違憲・違法とならないと考えたとしても無理はないし、本件定数配分規定が違憲・違法であることを宣言すれば、本件定数配分規定を改正して、選挙区間の人口の最大較差を少なくとも2未満にすることが期待される。以上に鑑み、事情判決の法理により、違憲・違法を宣言するにとどめ、無効であるとまではしないことが適当であると考える。 (裁判長裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官石兼公博裁判官平木正洋)
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