平成14(ワ)6375 学納金返還請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年12月26日 大阪地方裁判所
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判決文本文29,821 文字)

主文 1 被告は,甲事件原告らに対し,それぞれ55万5000円及びこれに対する平成14年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,乙事件原告らに対し,それぞれ55万5000円及びこれに対する平成14年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 甲事件原告ら及び乙事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 丙事件原告ら及び丁事件原告の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,甲事件原告らに生じた費用の3分の1及び被告に生じた費用の10分の1を甲事件原告らの負担とし,乙事件原告らに生じた費用の3分の1及び被告に生じた費用の10分の1を乙事件原告らの負担とし,丙事件原告らに生じた費用及び被告に生じた費用の10分の3を丙事件原告らの負担とし,丁事件原告らに生じた費用及び被告に生じた費用の10分の1を丁事件原告らの負担とし,甲事件原告ら及び乙事件原告らに生じたその余の各費用並びに被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。 6 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,別紙請求金額・入学手続等一覧表「原告」欄記載の各原告に対し,同表「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の設置する私立大学の実施した入学試験に合格して,被告との間で在学契約を締結し,入学金等を納付したが,その後,入学を辞退して,同契約を解除したと主張する甲・乙・丙・丁事件原告ら(以下,これらの事件を総称して「全事件」といい,同事件の原告らを総称して「原告ら」という。)が,被告に対し,入学金等を一切返還しない旨の合意は無効であるとして,不当利得返還請求権に基づ 事件原告ら(以下,これらの事件を総称して「全事件」といい,同事件の原告らを総称して「原告ら」という。)が,被告に対し,入学金等を一切返還しない旨の合意は無効であるとして,不当利得返還請求権に基づき,入学金等の返還及びこれに対する本件各訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 第3 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。) 1 当事者被告は,教育基本法及び学校教育法に従い,学校教育を行うことを目的として設立された学校法人であり,四天王寺国際仏教大学(以下「被告大学」という。)を設置している。 2 事実経過等原告らは,別紙請求金額・入学手続等一覧表「入学試験の種別」欄記載の被告大学の入学試験を同表「試験日」欄記載の日に受験し,同表「合格日」欄記載の日に,合格との判定を受け,同表「入学手続及び辞退手続」欄記載のとおり,同表「納入した金額及び種別」欄記載の金銭を納入し(以下,原告らが,被告大学の入学手続において納付した入学金等を「学納金」といい,学納金から入学金を除いたものを「授業料等」という。),入学手続を完了したが,その後,同表「入学手続及び辞退手続」欄記載のとおり,被告に対して,入学辞退の意思表示(以下「本件入学辞退」という。)をした。 3 被告大学の入学試験要項被告の平成14年度入学試験要項(推薦入学試験〔公募制〕及び一般入学試験用,乙4〔36頁〕),平成13年度入学試験要項(一般入学試験用,乙8〔36頁〕),平成9年度入学試験要項(推薦入学試験〔公募制〕及び一般入学試験用,乙11〔16頁〕)及び平成6年度入学試験要項(推薦入学試験〔公募制〕及び一般入学試験用,乙14〔9頁〕)には,推薦入学試験(公募制)及び一般入学試験に関し,表現に若干の違いはある 一般入学試験用,乙11〔16頁〕)及び平成6年度入学試験要項(推薦入学試験〔公募制〕及び一般入学試験用,乙14〔9頁〕)には,推薦入学試験(公募制)及び一般入学試験に関し,表現に若干の違いはあるものの,「3 納入された学費等はいかなる理由があっても返還いたしません。」「4 入学辞退について(一般入学試験のみ該当) 入学手続者が所定の入学辞退期間内に入学を辞退する場合には,入学金を除くすべての納付金を返還いたします。」という規定がそれぞれにある。 また,被告の平成14年度入学試験要項(編入学試験用,乙3〔6頁〕)及び同(社会人入学試験等用,乙5〔11頁〕)には,編入学試験及び社会人入学試験に関し,「3 納入された学費等はいかなる理由があっても返還いたしません。」という規定がそれぞれにある。 4 被告大学の学則被告の平成14年度の学則(乙15)には,「第48条既納の入学検定料,入学金及び授業料等は事由の如何にかかわらず返還しない。」という規定があり,それ以前の年度においても同様であった(乙16,弁論の全趣旨)。 5 学納金の不返還特約の成立原告らと被告との間で在学契約が成立した際,その後,原告らが入学を辞退しても,被告は,原告らが納入した学納金を返還しないとの合意(以下「本件特約」という。)が成立した。 6 被告大学の入学者数等被告大学における平成10年度から同14年度の入学定員,志願者数,受験者数,合格者数,入学者数(当該年度の5月1日現在),収容定員,在籍学生数(当該年度の10月31日現在)は,以下のとおりである(乙1,7,15)。 │年度 │平成10年度│平成11年度│平成1 │年度 │平成10年度│平成11年度│平成12年度│平成13年度│平成14年度││入学定員 │625人 │625人 │604人 │583人 │563人 ││志願者数 │7,128人 │5,580人 │4,674人 │3,997人 │3,922人 ││受験者数 │6,966人 │5,470人 │4,531人 │3,934人 │3,868人 ││合格者数 │1,523人 │1,464人 │1,386人 │1,232人 │1,204人 ││入学者数 │747人 │760人 │763人 │732人 │710人 ││収容定員 │2,200人 │2,410人 │2,599人 │2,657人 │2,635人 ││在籍学生数│2,773人 │2846人 │3,016人 │3,011人 │2,965人 │第4 争点 1 (全事件)原告らは,本件入学辞退により,被告に対し,学納金の返還請求権を取得できるか(在学契約の法的性質及び成立時期,学納金の法的性格,本件入学辞退の法的効果)。 2 (甲・乙事件)本件特約は,消費者契約法(以下「法」という。)9条1号により無効となるか。 3 (甲・乙事件)本件特約は,法10条により無効となるか。 4 (全事件)本件特約は,民法90条により無効となるか。 5 (全事件)被告が本件特約を援用して原告らに学納金を返還しないことが信義則に反するか。 第5 争点に対する当事者の主張 1 争点1(在学契約の )本件特約は,民法90条により無効となるか。 5 (全事件)被告が本件特約を援用して原告らに学納金を返還しないことが信義則に反するか。 第5 争点に対する当事者の主張 1 争点1(在学契約の法的性質及び成立時期,学納金の法的性格,本件入学辞退の法的効果)について(原告らの主張)(1) 在学契約の法的性質私立大学と学生との間の法律関係は,大学を設置する学校法人(契約の当事者は学校法人であるが,以下,便宜上,契約の当事者を指す場合も「大学」ともいう。)と学生との契約であり,大学において教育役務を提供し,学生はその役務提供の対価として学納金を支払う義務を負うことにその契約関係の根幹があるから,その法的性質は準委任契約である。もっとも,在学契約は,その準委任の事務の内容が教育役務の提供であるので,学生の教育を受ける権利の保障と公教育行政の必要から,教育基本法等に基づく公法上の規制や監督官庁である文部科学省による行政指導を受けることになり,かかる観点から,民法上の準委任という私法上の典型契約に対し,その私法的関係の調整,修正がなされているものである。しかし,かかる調整,修正によっても,私法上の準委任という在学契約の基本的性格が変更するものではない。 (2) 在学契約の成立時期被告大学を含む私立大学の入学手続は,①生徒募集(大学),②入学願書提出(受験生),③合格発表通知(大学),④入学金・授業料の学納金納付義務の履行(受験生),⑤教育役務の提供(大学)からなるところ,被告の学則28条ないし30条によれば,上記①は申込みの誘引,上記②は在学契約の申込み,上記③は同契約の承諾であるから,この時点で在学契約は成立したというべきである。なお,上記④,⑤及び学長の入学許可は,同契約成立後の各当事者の義務の履行と位置づけられる。 (3 は在学契約の申込み,上記③は同契約の承諾であるから,この時点で在学契約は成立したというべきである。なお,上記④,⑤及び学長の入学許可は,同契約成立後の各当事者の義務の履行と位置づけられる。 (3) 学納金の法的性格入学金と授業料等は,学納金と総称される教育役務の対価について,大学側がその費目を区分しているにすぎず,その法的性格は同一である。 ア 授業料等授業料等は,「授業料」,「運営維持費」及び「施設拡充費」という名称,入学した学生が次年度以降も毎年支払うべき金員であるという性格,支払金額の大きさ等からして,被告大学が学生から教育役務の対価として受領する金員であることは明らかである。 イ 入学金入学金は,経理上も「手数料」としてではなく,授業料と区別されずに「学生納付金」として位置づけられており(学校法人会計基準〔昭和46年4月1日文部省令第18号〕参照),その使途も,授業料と区別されることなく,人件費その他の大学運営の経費一般に充てられている。そして,被告の主張においても,学費や入学金といった費目や名称によって法的性格を区別しておらず,被告としても,授業料と入学金との間に本質的な違いはないと認識しているものと推断される。仮に,大学が学納金について一方的に定める区分によって,その法的性格に相違が生じ,さらにそれによって入学辞退時の返還の扱いが異なる結果となるとすれば,大学側は恣意的に授業料との比率において入学金の額を過大にすることによってその返還を免れるという不当な結果を招来することも考えられる。 したがって,入学金は,入学手続を行うための事務費用という性格よりも,むしろ基本的には授業料と同じ教育役務の対価として位置づけられる。 (4) 本件入学辞退の法的効果前述したとおり,在学契約の法的性格は準委任契約である。仮に 続を行うための事務費用という性格よりも,むしろ基本的には授業料と同じ教育役務の対価として位置づけられる。 (4) 本件入学辞退の法的効果前述したとおり,在学契約の法的性格は準委任契約である。仮に同契約が,被告の主張するように単なる私法上の準委任契約でなかったとしても,上記の役務提供契約という本質に照らし,委任に関する規定を準用ないし類推適用すべきである。 したがって,原告らは,被告大学への入学を取り止め,在学契約を解除することができる。そして,その結果,在学契約は将来に向かって解消されたというべきであるから,被告は,原告らに対し,受任者の前払費用ないし前払報酬である学納金を,不当利得として返還すべき義務を負うことになる。また,仮に,在学契約が委任契約に該当しないとしても,有償契約の等価性の見地から,教育役務の提供なしに,対価として,授業料その他の学納金を受領することは許されない。 (被告の主張)(1) 在学契約の法的性質在学契約は,通常の取引契約とは異なり,受験生側にとっては,大学に参加して教育を受けることができる身分を取得して,学生として大学教育を受けることを中心とし,大学側にとっては,教職員や教室など人的・物的設備を有する組織体として,多数の学生集団を指導,教育するということを中心とするものであるから,同契約は,学園という場における長期にわたる全人格の触れ合いを伴う強い信頼関係を基礎にした包括的継続的な契約という特質を有するものである。このような大学と学生との関係は,法的には,大学が学生にその教育施設を提供し,雇用する教員に所定の講義や必要な事務を行わせるなどの方法で教育を実施する義務を負い,学生は大学の包括的な指導に従って講義を履修したり,研究施設や図書館などの教育施設を利用し,さらに自発的に学習活動をすることによって大 義や必要な事務を行わせるなどの方法で教育を実施する義務を負い,学生は大学の包括的な指導に従って講義を履修したり,研究施設や図書館などの教育施設を利用し,さらに自発的に学習活動をすることによって大学教育を受け,授業料等を納付する義務を負うことを内容とする私法上の契約である。この関係は,教育施設等の利用については賃貸借の,教育内容の実行については事実行為の履行という点で無形の仕事の請負とか事実行為の準委任の性質が含まれているが,学生も「学生」という身分を取得して,大学という特別の社会集団に参加し,これを構成するという要素も包含しているのである。 また,大学における在学契約は,教育基本法並びに学校教育法及びその付属法令に基づく教育の実施をその目的とするものであって,その内容をなす教育過程は,大学設置基準で定められ,その設置や学科増設の場合に教員の資格審査があり,学生の卒業には所定単位の修得が必要とされ,被告大学において学生を退学処分するには,文部科学大臣に届け出た学則に定められた事由に該当し,その手続については教授会の議を経てなすこととされるなど,公の秩序に関する法令に規制されている。 このように,在学契約は,公の秩序に関する法令に規制され,学則に則った教育を行うという多様な内容を包含する契約である。しかも,在学契約の内容は,大学が多数の教職員や学生を擁する教育の場としての社会的存在であることから,学則その他の諸規則によって定型的に定められており,個別の承諾の有無にかかわらず学生などを包括的かつ画一的に拘束し得るものであるから,在学契約の法的性質は,準委任など民法上の典型契約のいずれかに該当するものではなく,強度の人的信頼関係に基づき,財産権的関係だけでなく,身分権的関係も包含する継続的な私法上の無名契約であると解すべきである。 (2) ,準委任など民法上の典型契約のいずれかに該当するものではなく,強度の人的信頼関係に基づき,財産権的関係だけでなく,身分権的関係も包含する継続的な私法上の無名契約であると解すべきである。 (2) 在学契約の成立時期私立大学の学生募集行為は,在学契約の申込みの誘因であるが,在学契約においては,学生としての身分取得が重要な要素をなすことから,入学試験の合格という申込資格を取得することが必要になる。その一方で,入学試験に合格した受験生は,在学契約の申込資格を取得したに過ぎないから,自らの自由な意思に基づいて申し込むか否かの判断をすることができる。そして,大学は,合格者が所定の期間内に学納金納付などの入学手続を履践して,入学申込みをすればその入学を拒否することはできず,当該合格者のために,人的・物的設備を確保・維持しなければならないが,その一方で,合格者は,入学手続を履践することによって当該大学への入学資格を保持できる。 したがって,在学契約は,入学試験を受験し,その合格の判定を受けて,在学契約の申込資格を取得した合格者が,学納金の納付などの所定の入学手続によって申込みをし,大学がこれを受けて入学手続を完了することによって承諾して,成立するというべきである。 これに対し,原告らは,受験が在学契約の申込みで,合格発表がその承諾であり,在学契約は合格発表によって成立すると主張するが,そのように解するならば,大学は,合格者全員に在学契約による債権を取得することになるなど,現実的でない。 (3) 学納金の法的性格学納金は,合格者の入学資格取得と大学の人的・物的設備の確保・維持体制構築の対価というべきであり,その納付は,在学契約成立後の義務の履行ではなく,契約成立の要件である。 (4) 本件入学辞退の法的効果ア 在学契約の法的性質は,前述した 的・物的設備の確保・維持体制構築の対価というべきであり,その納付は,在学契約成立後の義務の履行ではなく,契約成立の要件である。 (4) 本件入学辞退の法的効果ア 在学契約の法的性質は,前述したとおりであるが,本来,契約は守らなければならないはずであって,締結された契約はそのまま継続するのが原則であり,一方当事者の意思のみで解消できるのは,その当事者に解除権がある場合に限られる。 ところで,前述したとおり,学納金の納付は,在学契約成立の要件であり,原則として大学で4年間(編入学の場合は2年間)修学することによって所定の単位を取得し,卒業できる権利を確保するために契約に先立って納付されるものである。 そして,大学において,学納金納付等入学手続を履践した合格者のために,人的・物的設備を確保・維持する体制を構築することで,在学契約の義務の履行は完了しているというべきである。 そうすると,入学辞退をしても,納付した学納金が返還されないことは当然のことであり,入学試験要項や入学手続案内等の学納金不返還についての記載は,当然のことを注意的に記載しているに過ぎない。 また,仮に,在学契約の法的性質が準委任の性質を有するとしても,無償委任を前提とする民法651条の規定を適用ないし準用することは,有償の契約である在学契約について,当事者の一方にだけ,何らの理由もなく,不利な時期の解除の場合の損害賠償しか認められないような解除権が存在することになるから,許されないというべきである。 したがって,甲・乙事件原告らに解除権が認められるわけではないが,在学契約を締結したからといっても,大学教育の性質上,入学意思を喪失した学生に入学を強制することはできないから,大学側としては入学を歓迎しているものの,学生側が入学できる権利を放棄することを認めざるを得ないというに たからといっても,大学教育の性質上,入学意思を喪失した学生に入学を強制することはできないから,大学側としては入学を歓迎しているものの,学生側が入学できる権利を放棄することを認めざるを得ないというに過ぎない。そうすると,入学手続を履践した合格者による入学の辞退は,在学契約による権利を放棄したに過ぎないというべきである。 本件特約は,このことを念のため定めたものであって,学納金の不返還がこの約定によって根拠づけられるものではない。 イ これに対し,原告らは,受験生が大学との間で締結する在学契約の法律的性質は準委任契約であると解し,入学辞退により在学契約を解除したと主張して学納金の返還請求をする。 しかし,特約がない限り報酬を支払う義務がなく(民法648条1項),報酬を支払う場合には履行後に払うとされる(同条2項)委任契約の規定は,およそ在学契約に適用できるものではなく,その他の民法の委任に関する条項も在学契約に適用することが相当でないものがほとんどである。さらに,在学契約が民法の準委任契約であるならば,契約の各当事者はいつでも理由なく,これを解除できることになるが,大学教育における学生と大学の関係は,全人格の触れ合いを伴う長期的な関係であって,当事者の一方である被告から自由に解除することが許されないことは明らかである。 したがって,在学契約が準委任契約であることを前提とする甲・乙事件原告らの主張は,誤りである。 2 争点2(本件特約は法9条1号により無効となるか)について(甲・乙事件原告らの主張)在学契約は,法2条3項に規定された消費者契約に該当するから,本件特約は,法9条1号によって無効である。 (1) 甲・乙事件原告らは,法2条1項に規定された「消費者」に,法人である被告は,同条2項に規定された「事業者」にそれぞれ該当するから, に該当するから,本件特約は,法9条1号によって無効である。 (1) 甲・乙事件原告らは,法2条1項に規定された「消費者」に,法人である被告は,同条2項に規定された「事業者」にそれぞれ該当するから,上記原告らと被告との間で締結された在学契約は,同条3項に規定された「消費者契約」に該当する。このことは,法が,消費者と事業者との間で締結される契約を幅広く対象としてその適正化を図るために制定されたという立法経緯及び法12条が適用除外を労働契約に限定していることの反対解釈からも,明らかである。 (2) 在学契約上の役務提供の対価たる性質を有する学納金を返還しない旨の本件特約は,以下の理由により,法9条1号の「契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」(以下「損害賠償予定条項」という。)に該当する。 損害賠償予定条項に該当するかどうかは,法が包括的な消費者保護の基本法として制定されたという立法経緯や,法9条が,消費者契約の解除に当たって事業者が消費者に対し高額な損害賠償の予定あるいは違約金を課すなど不当な金銭的負担を強いる場合があるので,このような不当な出捐を消費者が強いられることのないよう平均的損害を超える部分を無効とすることで,その保護を図った規定であること等からして,契約上使用されている具体的な文言にとらわれるのではなく,その条項の意図する実質に着目して判断されなければならない。 そして,争点1で主張したとおり,学納金は,準委任契約における前払費用ないし前払報酬であって,契約が解消された時点で返還するのが民法上の委任の原則であるし,仮に在学契約が準委任契約に該当しないとしても,有償契約の等価性の見地から,教育役務の提供なしに,対価として学納金を受領することができないのは当然であるところ,本件特約は,その返還を拒むために るし,仮に在学契約が準委任契約に該当しないとしても,有償契約の等価性の見地から,教育役務の提供なしに,対価として学納金を受領することができないのは当然であるところ,本件特約は,その返還を拒むために,被告が学則・募集要項に記載したものである。また,法9条1号の趣旨は,前述したとおり,契約解消時に事業者が実損害を上回るような不当な利得を消費者から得ることを認めないことにあるから,違約罰,解約料,キャンセル料といった名目のいかんを問わず,実損害を上回るような不当な利得を事業者が得ることになり実質的に違約金,損害賠償額の予定と解される約定はすべて本号の対象となり,本件特約も当然含まれる。 なお,本件特約が損害賠償額の予定であるか,違約金であるかは,法9条1号の適用にあたっては法的意義を有しないと考えるが,あえていずれかとすれば損害賠償額の予定と考える。 (3) そして,本件特約は,法9条1号の「当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」契約条項に該当する。 まず,同条号の「当該事業者に生ずべき平均的損害の額」(以下「平均的損害」という。)とは,契約類型,解除の事由,解除の時期のほか,当該契約の特殊性,契約の代替の可能性などといった諸事情を個別具体的に考察の上,損害額算定に合理性があり,かつ,社会常識にも合致した通常の損害額の存否及び程度という見地から算定されるものである。 そして,平均的損害は,法が消費者を保護することを目的とする法律であること,消費者側からは事業者にどのような損害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと,損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らし,損害賠償予定条項の有効性を主張する側,すなわ と,消費者側からは事業者にどのような損害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと,損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らし,損害賠償予定条項の有効性を主張する側,すなわち事業者側にその立証責任があると解すべきである。 在学契約の契約類型からすると,教育役務の対価及び費用である学納金は,本来教育役務を受ける在学契約の相手方,すなわち,当該私立大学に実際に入学した学生から徴収されるべき金員であるし,一般的に,私立大学が入学試験に合格せしめる学生数は,もともと毎年生じる一定割合の入学辞退者の発生を織り込んだ人数であり,これらの学生が例年の割合で入学辞退をしても,私立大学は,当初予定した入学定員の学生を確保できる制度となっており,現に被告大学においても,平成10年度から同14年度までの5年間にわたって,入学定員に対する入学者数は大幅に上回っていることからすれば,入学辞退によって被告ら私立大学には何ら経済的損害など発生していないというべきであるから,被告には,平均的損害は発生していないといえる。 また,特定商取引法49条においては,在学契約と同じ教育役務供給契約である学習塾や語学学校と消費者との特定継続的役務提供契約が解除された場合の「損害賠償額の予定又は違約金の定め」を制限しているところ,同法施行令16条は,役務提供開始前の中途解約の場合に事業者が消費者に支払を求めうる損害金の上限について,「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」,具体的には,語学教室なら1万5000円,学習塾なら1万1000円と定めている。したがって,在学契約においても,役務提供前の入学辞退に伴って被告大学に生ずべき損害額としては,せいぜい特定商取引法施行令16条に定める金額程度であって,これを超えるものではないと考えられるところ,こ がって,在学契約においても,役務提供前の入学辞退に伴って被告大学に生ずべき損害額としては,せいぜい特定商取引法施行令16条に定める金額程度であって,これを超えるものではないと考えられるところ,これは,被告の主張立証を待つべき問題である。 したがって,本件においては,平均的損害は立証されなかったものとして,学納金全額につき返還請求が認められるべきである。 (被告の主張)(1) 法は,続発する悪徳商法を規制するには,個別的な立法では対策に限界があるところから,包括的な一般ルールとして制定されたもので,その適用範囲は非常に広く,消費者契約の概念は,労働契約を除き(法12条)形式的には無限定に近いものとなっているが,法律の解釈・適用は実質的になされなければならず,消費者と事業者の関係には,違法性の高いものから,何らの違法性もない通常の取引まで様々なものが存在するのであり,法が適用される消費者契約であるか否かは,「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」とする法の目的(法1条)に照らして慎重に解釈される必要がある。 被告大学は,一定水準以上の学生定員を確保するために,受験生に対して,教員や教育・研究内容はもとより,キャンパスライフ,クラブ活動,就職情報に至るまで,受験生が関心を持つであろう情報を詳しく提供する広報活動を行っている。また,学納金の取扱いについても,入試ガイド,大学案内,入試要項などで説明している。一方,受験生側は,各大学の広報活動を通じるのみならず,高等学校の指導,予備校などからも情報を収集し,大学間の各種条件を比較して,受験すべき大学を選択できるのであるから,被告と甲・乙事件原告ら受験生との間で情報格差が存在するとはいえない。 また,大学入試事務のように短期間に多数の受験生の選考をし,選ばれた合格 件を比較して,受験すべき大学を選択できるのであるから,被告と甲・乙事件原告ら受験生との間で情報格差が存在するとはいえない。 また,大学入試事務のように短期間に多数の受験生の選考をし,選ばれた合格者を平等に扱う入学手続を行うためには,予め公表した入試要項等に基づく画一的な処理をすることが合理的な方法であり,同種大量で,均一な取扱いを要求される契約においては広く普遍的に行われているものであり,個別的な交渉がなされていないことは何ら問題とならないし,特に,私立大学における在学契約の内容は,法令に基づく設置基準等により規制され,それに基づいて行政指導を受けているのであり,これらによって学生側の利益も十分擁護されているというべきであって,在学契約をめぐって受験生側の交渉力が問題になる余地はない。 また,労働契約について法が適用されない(法12条)のは,労働契約については,その特殊性にかんがみ,労働関係の法律,行政指導によってその契約締結過程及び契約条項について消費者である労働者の利益にも配慮して規制がされているから,それ以上に法の対象にする理由がないことにあるとされており,このような状況は,私立大学の入学関係においても同様であるから,法12条を例示的規定と解することにより,在学契約を適用除外とすることには十分な合理的理由がある。 以上のとおり,法制定の背景・目的及び私立大学の公益性,公共性を併せ考えれば,在学契約については,法を適用すべき実質的根拠がないから,その対象とならない。 (2) 甲・乙事件原告らは,争点1で主張したとおり,学納金を納付して入学資格保持という対価を取得したというだけのことであって,それにより,その大学に入学する義務を負うものではなく,入学辞退が入学義務の不履行となるものではないから,本件特約は,損害賠償予定条項に該当 学資格保持という対価を取得したというだけのことであって,それにより,その大学に入学する義務を負うものではなく,入学辞退が入学義務の不履行となるものではないから,本件特約は,損害賠償予定条項に該当しない。 (3) 本件における学納金の金額が平均的損害を超えることについては,甲・乙事件原告らが主張立証責任を負うべき事項であるところ,その点について何ら主張立証がない。すなわち,法9条1号は,民法420条1項を修正した条項であるが,当事者間で損害賠償の額を予定すること自体には一定の合理性があることを前提にしているところ,法9条1号による修正は,消費者にとっては,自己の債務不履行によって事業者に生じた「具体的損害」の額を主張立証することが困難であるから,平均的損害を主張立証すれば足りるとしてその限度まで主張立証責任を軽減したものにすぎず,主張立証責任を事業者に転換したものではない。 さらに,学納金は,実際の役務あるいは施設利用の対価として金額を定めているのではなく,学校法人の財政状況,社会的・経済的状況,他大学の学費,競争力等を総合的に勘案して設定していること,私立大学は,大学設置基準に基づいて教員を確保し,施設・設備を準備しており,それらに要する諸経費は,在学契約を締結した学生が入学辞退してもそれに応じて軽減されるものではないこと,私立大学は,私立学校振興助成法によって,学則の定めた収容定員を超える数の学生を在学させても(同法5条2号),在学生の数が学則の定めた収容定員に満たなくても(同条3号),補助金を減額されるので,収容定員を基準として学生の入学者数を決定しなければならないこと及び補欠・追加募集は,公法的規制や学生の質の水準を維持する上で極めて困難であり,被告はこれを行っていないことからすれば,甲・乙事件原告らが在学契約を締結した後に 者数を決定しなければならないこと及び補欠・追加募集は,公法的規制や学生の質の水準を維持する上で極めて困難であり,被告はこれを行っていないことからすれば,甲・乙事件原告らが在学契約を締結した後に入学を辞退したことにより,被告が被る平均的損害は,学生となるべき甲・乙事件原告らが4年間(又は2年間)の在学したであろう期間中に納付すべき学納金であり,在学契約締結時に納付した学納金を返還しないことによって被告が取得する額には平均的損害を超える部分は存在しない。 以上によれば,被告が被った平均的損害は,学生が通常在学したであろう期間中に納付すべき学納金相当額ということになる。 3 争点3(本件特約は法10条により無効となるか)について(甲・乙事件原告らの主張)本件特約は,準委任契約の解除に基づく消費者の前払報酬及び前払費用の返還請求権を排除する内容の契約条項であり,かかる契約条項は法10条によって無効である。 すなわち,本件特約は,民法上準委任契約の解除時に認められる消費者の前払報酬及び前払費用の返還請求権を排除する内容であるから,同条前段に規定された「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に該当し,かつ,本件特約は,準委任契約の解除による事業者の役務提供義務の消滅を前提としつつ,本来事業者による役務の提供に伴うはずの報酬ないし費用に関する消費者の返還請求権を排除しており,同条後段に規定された「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する」契約条項に該当する。 したがって,本件特約は,法10条の規定からも無効である。 (被告の主張)そもそも,学納金は,争点1で主張したとおり,大学への入学資格保持等の対価であって, 一方的に害する」契約条項に該当する。 したがって,本件特約は,法10条の規定からも無効である。 (被告の主張)そもそも,学納金は,争点1で主張したとおり,大学への入学資格保持等の対価であって,甲・乙事件原告らが準委任契約であるとする在学契約の前払報酬及び前払費用にはあたらないし,大学が学納金納付等入学手続を履践した合格者のために人的・物的設備を確保することによって,この合格者は入学資格を保持できるのであるから,学納金を返還しないことは消費者の利益を一方的に害するものでもなく,学納金不返還の取扱いは民法1条2項の信義則に反しないから,本件特約が,法10条の要件に該当することはない。 4 争点4(本件特約は民法90条により無効となるか)について(原告らの主張)本件特約は,被告が入学希望者の特殊かつ不安定な立場を利用して,甚だしく高額な学納金を不当に利得する暴利行為に該当し,公序良俗に違反する無効な特約である。 (1) 民法上暴利行為として無効とされる要件は,①他人の無思慮・窮迫に乗じること,②甚だしく不相当な財産的給付を約させることの2点である(大判昭和9年5月1日・民集13巻875頁)ところ,ここでいう不相当とは,経済的対価性が著しく欠けて,その法的効力を維持することが妥当でないものである。 (2) 要件①について被告は,学納金の納入期限を他大学の合格発表前に設定し,原告らは,国立大学等の希望する他大学の合否が未定の段階で,被告大学に入学するか否かの決断をせざるを得ない立場に立たされていた。しかも,本件特約は被告大学から出される一方的な条件で,受験生にはその変更の余地はないのである。仮に,原告らが学納金を納入せず,他大学にも不合格であるとすると,原告らは,大学入学準備のため,さらに1年間準備をするか,場合によっては大学進学自体 な条件で,受験生にはその変更の余地はないのである。仮に,原告らが学納金を納入せず,他大学にも不合格であるとすると,原告らは,大学入学準備のため,さらに1年間準備をするか,場合によっては大学進学自体を断念しなければならないが,かかる精神的・経済的負担は多大であり,受験生の自己決定権や大学選択の自由を制約するものである。 以上のように原告らは,被告が一方的に定めた本件特約によって事実上学納金を納入せざるを得ないのであるから,学納金の納入は,原告らの窮迫に乗じたものとしか言いようがない。 (3) 要件②について準委任契約が解除された場合,学納金として支払われた前払費用及び前払報酬は,対価としての委任事務の履行ないし教育役務の提供がなされていない以上,経済的対価性が全く認められない。にもかかわらず,被告は,原告らのみならず,多数の受験生から,過去長期間にわたってこのような不当な方法で暴利を得て大学を運営してきている。 (4) 以上のとおり,本件特約により消費者である受験生が被っている不利益の内容及び程度は甚大であるから,本件特約が有効であるためには,本件特約がなかった場合の大学の不利益も甚大なものでなければならない。 しかるに,争点2で主張したとおり,我が国の私立大学においては,合格者数は,もともと一定の入学辞退者数を織り込んだ人数であるから,入学予定者が例年どおり入学辞退しても,当初の予定どおりの入学者数を確保することができるのであり,実際,被告大学においても,過去5年間にわたって,入学者が収容定員を下回ったことはないから,経済的損害などは発生しておらず,定員割れを回避するという本件特約の目的にも合理性は認められない。 (被告の主張)本件特約は,以下のとおり,公序良俗に反するものではない。 (1) 原告らは,被告大学の入学試験の受 発生しておらず,定員割れを回避するという本件特約の目的にも合理性は認められない。 (被告の主張)本件特約は,以下のとおり,公序良俗に反するものではない。 (1) 原告らは,被告大学の入学試験の受験に際しては,それぞれ被告大学の入学試験要項等の記載内容を十分検討,認識して受験し,合格後は熟慮の上学納金を納付しているというべきであって,原告らが無思慮によってこれを納付したとはいえない。 また,原告らは,被告大学の入学試験を受験して合格し,自らの判断で被告大学に入学できる権利を確保することを選択して学納金を納付したものであって,その学納金の納付が窮迫に乗じてなされたとはいえない。確かに,大学受験にあたって,受験生が相当なストレスを感じているであろうことは容易に理解できるが,これは公正で自由な競争を前提とする社会においては避けられないものであって,被告大学への入学とは関係なく,これをもって原告らが窮迫していたということはできない。 そして,合格した受験生が入学手続として納付した学納金不返還の取扱いは,長く教育界に行われてきている慣行であり,それ相当の理由があるもので,これ自体公序をなしているともいえ,受験生もこれを熟知しているものである。 (2) また,受験生が複数の大学を受験するのは,いくつかの大学の入学資格を確保した上,最終的に最も希望に添った大学を選択することにあるところ,原告らは,いずれも学納金納付等による入学手続をして被告大学への入学の権利を確保しつつ他大学の入学試験に臨み,優先する希望大学に合格できたことから被告大学に入学できる権利を放棄したものであり,学納金額が甚だしく不相応な財産的給付であるとはいえない。 5 争点5(被告が本件特約を援用して原告らに学納金を返還しないことが信義則に反するか)について(原告らの主張)上 放棄したものであり,学納金額が甚だしく不相応な財産的給付であるとはいえない。 5 争点5(被告が本件特約を援用して原告らに学納金を返還しないことが信義則に反するか)について(原告らの主張)上記4(原告らの主張)のとおりの理由により,被告が本件特約を援用して学納金の返還を拒むことは信義則に反する。 (被告の主張)上記4(被告の主張)のとおりの理由により,被告が本件特約を援用して学納金の返還を拒むことは信義則に反しない。 第6 当裁判所の判断 1 争点1(在学契約の法的性質及び成立時期,学納金の法的性格,本件入学辞退の法的効果)について(1) 在学契約の法的性質について大学は,学術の中心として,広く知識を授けると共に,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とするところ(学校教育法52条),私立大学と学生の法律関係は,大学が,上記目的のために,学生に対して,教育研究に必要な教育施設等を利用させるとともに,雇用する教職員等によって授業その他教育遂行上必要な事務を行わせるなどして教育を実施する義務を負い(以下「教育役務等」という。),これに対し,学生は,大学に自己の教育を託すとともに,大学の実施する教育に対する対価として,授業料等を納付する義務を負うことを中核とする契約関係である。 以上によれば,確かに,在学契約は,準委任契約に類似した側面を有するといい得るけれども,後述するとおり,学生の側からは,いかなる時期においても在学契約を解除することができると解されるのに対し,大学の側からは合理的な理由もないのに一方的に在学契約を解除することはできないことなど民法の委任の規定をそのまま適用することが相当でない関係にもある上,学生は,大学という一つの社会に加入することによって,「学生」という身分地位 いのに一方的に在学契約を解除することはできないことなど民法の委任の規定をそのまま適用することが相当でない関係にもある上,学生は,大学という一つの社会に加入することによって,「学生」という身分地位を取得し,さらには,大学の定める学則や大学の指導に服するという側面(かかる側面においては,大学は,教育基本法及び学生教育法等の公法上の様々な規制を受ける。)も有しているというべきであるから,結局,在学契約は,学校教育の特質に基づく特殊な契約関係にあり,継続的な有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。 (2) 在学契約の成立時期について現行の大学受験制度,大学への入学手続の実態等にかんがみると,在学契約は,大学の実施する入学試験を受験して合格の判定を受けた者が,入学試験要項等の定める日時までに,大学に対して,学納金の納付等の入学手続を履践することによって申込みの意思表示をし,これに対し,大学が,学納金を受領する等の入学手続を完了して承諾の意思表示を行うことにより成立すると解するのが相当である。 そうすると,本件においては,原告らと被告との間において,別紙請求金額・入学手続等一覧表「入学手続及び辞退手続」欄に記載された入学手続が完了した時点において,在学契約が成立したものと認められるが,被告大学の学校年度は,4月1日から翌年3月31日までとされているから(被告大学学則8条,乙15),在学契約の始期は,当該年度の4月1日であると解される。 これに対して,原告らは,大学に対する入学願書の提出が在学契約の申込みであり,大学からの合格発表通知が同契約の承諾であるから,この時点で在学契約が成立すると主張する。 しかしながら,受験生が,当該大学に入学する意思がなくとも,腕試し等の目的で入学試験を受験することや,入学試験受 らの合格発表通知が同契約の承諾であるから,この時点で在学契約が成立すると主張する。 しかしながら,受験生が,当該大学に入学する意思がなくとも,腕試し等の目的で入学試験を受験することや,入学試験受験後,合格の判定を受けるまでの間に,志望順位の高い大学に合格した結果,合格の判定を受けた大学への入学手続をとらないことも考えられるから,入学願書の提出をもって在学契約の申込みとみることは,受験生の意思と必ずしも合致しないというべきである。また,大学側の意思としても,合格発表通知を同契約の承諾の意思表示であると位置づけているとは考え難い(例えば,被告大学の学則30条では,学長は,入学手続を完了した者に対し,入学を許可すると規定されている〔乙15〕。)。したがって,原告らの上記主張は採用できない。 (3) 本件入学辞退の法的効果について前記在学契約の目的ないし内容は,学生と大学の間の信頼関係を前提として,学生が,大学の提供する教育機会を活用して広く知識を習得するとともに,専門の学芸を研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開することにあるというべきであるが,学生が当該大学で教育を受ける意思を喪失した場合には,契約の目的を達成することができないことは明らかであり,教育を受ける権利を保障した憲法26条1項等の趣旨をも併せ考えると,いかなる場所でどのような教育を受けるのかということについては,学生の意思が最大限に尊重されるべきである。したがって,在学契約の性質上,学生の側から,任意解除権の行使としていつでも在学契約を解消することができ,かかる任意解除権が行使された場合には,在学契約は,将来に向かってその効力を失うと解するのが相当である。 そうすると,原告らが行った本件入学辞退は,上記任意解除権の行使というべきであるから,別紙請求金額・入学手続等一覧 れた場合には,在学契約は,将来に向かってその効力を失うと解するのが相当である。 そうすると,原告らが行った本件入学辞退は,上記任意解除権の行使というべきであるから,別紙請求金額・入学手続等一覧表「入学手続及び辞退手続」欄に記載された入学辞退の申入れをした時点において,原告らと被告との間の在学契約は,それぞれ将来に向かってその効力を失ったものというべきである。 これに対して,被告は,本件入学辞退の法的な効果は,学生が大学に入学できる権利を放棄したにすぎないと主張するが,前述したとおり,学生の意思が最大限に尊重されるべきであることに加え,在学契約の解消が認められないとなると,契約から生じる権利義務関係がそのまま継続するということにもなって,不合理であるといわざるを得ないから,かかる主張は採用できない。 (4) 学納金の法的性格についてア 入学金について(ア) 前記のとおり,受験生は,学納金を納入して当該大学と在学契約を締結することにより,大学側から合理的な理由もないのに在学契約を解除されないという強固な契約上の地位を取得することになるとみることができる。そして,現在の大学入試の実態をみると,受験生の中には,同一年度に複数の大学に入学出願する者が少なくないところ,かかる場合においては,志望順位の高い大学の合否が不明な時点で,合格が明らかとなった志望順位の低い大学に入学手続を行い(いわゆる滑り止め),その後,志望順位の高い大学の合否を待って,最終的に入学すべき大学を決定することも,広く行われているところである。このような実態は,学生からみると,志望順位の低い大学であったとしても,かかる大学に入学し得る地位を取得しておくことは,志望順位の高い大学に不合格となった場合に,再度志望順位の高い大学への入学を目指して浪人するもしくは大学への進 ,志望順位の低い大学であったとしても,かかる大学に入学し得る地位を取得しておくことは,志望順位の高い大学に不合格となった場合に,再度志望順位の高い大学への入学を目指して浪人するもしくは大学への進学を断念するか,それらを回避して志望順位の低い大学に入学するかを選択する余地を残しておける利益を学生が得ていると評価することができる。 そして,入学金は,その名称のとおり,合格者が入学手続時にのみ納付することを義務づけられており(乙3ないし5,8,11,14),在学契約を締結して学生の身分地位を取得した後に納付することはない。さらに,「私立大学の入学手続時における学生納付金の取扱いについて」(昭和50年9月1日文管振第251号文部省管理局長・同省大学局長から文部大臣所轄各学校法人理事長あて通知,甲2の1)及び「平成15年度大学入学者選抜実施要項について」(平成14年5月17日文科高第170号文部科学省高等教育局長通知,甲2の2)において,「少なくとも入学料以外の学生納付金については,合格発表後,短期間内に納入させるような取扱いは避ける等の配慮をすることが適当と考える」旨通知されており,文部科学省において,入学金とそれ以外の学生納付金については,異なった取扱いをするのが相当であるとの見解を有していると認められるところ,多数の大学において,入学金と授業料等で,納入期限や納入後の返還の有無等において区別して取り扱われており(弁論の全趣旨),被告大学においても,入試形態によっては,入学金と授業料の納入期限を区別し(乙3,4,8,11,14),一般入試においては,所定の入学辞退期間内に入学を辞退する場合には,入学金以外の授業料等を返還する(前記基礎となる事実)等,入学金と授業料等を区別して取り扱っていることが認められる。 そうすると,学納金のうち いては,所定の入学辞退期間内に入学を辞退する場合には,入学金以外の授業料等を返還する(前記基礎となる事実)等,入学金と授業料等を区別して取り扱っていることが認められる。 そうすると,学納金のうち入学金については,合格者が,当該大学と在学契約を締結することそのものの対価,換言すれば,大学に入学し得る地位の対価としての性格(いわゆる権利金としての性格)を有しているものとみることができる。 (イ) さらに,大学は,学納金を納付して大学と在学契約を締結した合格者(以下「入学予定者」という。)に対して,在学契約の始期である4月1日以降,教育役務等を提供するために必要な事務手続及び受入準備作業(以下「入学準備行為」という。)を行う必要があると認められるが,入学金のうち相当部分は,これに要する経費として充てられるものとみられる(弁論の全趣旨)から,入学金は,大学が入学予定者を受け入れるために必要な入学準備行為の対価としての性格をも併有しているものというべきである。 (ウ) 以上によれば,本件において,原告らが,入学を辞退し,在学契約を解除したとしても,在学契約を締結した時点で,被告大学に入学し得る地位を得ていることは明らかというべきであるし,その時点では,被告大学が既に原告らを受け入れる具体的な準備を行っているとみられるから,被告大学は,原告らに対して,入学金の返還を要しないというべきである。 もっとも,入学金の全部あるいはその一部が,当該大学への入学準備行為及び当該大学に入学し得る地位の対価としての性格以外の性格を有する金員であると認められる特段の事情があれば,入学金の全部又は一部の返還が認められる場合もあると考えられるが,本件において上記特段の事情を窺わせる事実は認められず,原告らが納入した入学金30万円は,上記の性格を有する入学金として 事情があれば,入学金の全部又は一部の返還が認められる場合もあると考えられるが,本件において上記特段の事情を窺わせる事実は認められず,原告らが納入した入学金30万円は,上記の性格を有する入学金として社会通念上合理的な金額といえるから,原告らは,被告に対して,入学金の返還を請求することはできないというべきである。 (エ) これに対し,原告らは,入学金は,経理上授業料と区別されることなく「学生納付金」として位置づけられており,その使途も授業料と区別されることなく大学運営の経費一般に充てられていることなどを理由に,入学金も教育役務等の対価と位置づけられると主張する。 しかし,入学金の法的性格については,前述したとおりの理由により,大学に入学し得る地位の対価と入学準備行為の対価としての性格を併有しているものと解されるのであり,入学金が経理上あるいはその使途において授業料等と区別されていないことを考慮しても,未だ上記判断を左右するものではない。また,大学が学納金について一方的に定める区分によって,その法的性格に相違が生じ,さらにそれによって入学辞退時の返還の扱いが異なる結果となるとすれば,大学側は恣意的に授業料との比率において入学金の額を過大にすることによってその返還を免れるという不当な結果を招来するという指摘については,前述したとおり,特段の事情があれば,入学金の全部又は一部の返還が認められる場合もあると考えられるから,必ずしも原告らの主張の根拠にはならない。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 イ 授業料等について(ア) 学納金のうち授業料等は,授業料,運営維持費及び施設拡充費というその名目,学生が,入学後,学期ごとに支払うべき学費の種別,金額と一致していること(乙3ないし5,8,11,14等)からすれば,これらはいずれも入学 授業料等は,授業料,運営維持費及び施設拡充費というその名目,学生が,入学後,学期ごとに支払うべき学費の種別,金額と一致していること(乙3ないし5,8,11,14等)からすれば,これらはいずれも入学後に,被告が,学生に対して,教育役務等を提供することの対価としての性格を有するものというべきであり,入学時での納入はその前払であると認められる。 したがって,入学予定者が,学校年度が開始する4月1日以前に,入学辞退することによって,在学契約を解除した場合には,大学から教育役務等の提供を受けていないことは明らかであって,その対価たる授業料等を被告に保持させておく根拠,すなわち法律上の原因はないというべきであるから,大学は,入学予定者に対して,授業料等を返還すべきであると解するのが相当である。 そして,本件において,丁事件原告を除く原告らは,4月1日以前に,入学辞退をしたと認められるから,被告は,同原告らに対して,原則として授業料等を返還する義務を負うというべきである。なお,前記基礎となる事実によれば,丁事件原告が入学辞退の申入れを行ったのは,学校年度が開始した後の4月1日以降であるところ,かかる場合においても,授業料等の返還を請求することができるかどうかについては検討の余地があるが,丁事件原告の請求は,後記4で判示するとおりの理由により認められないというべきであるから,この点については判断しない。 (イ) これに対し,被告は,授業料等を含めた学納金の納付が在学契約の成立要件であり,原則として大学で4年間(編入学の場合は2年間)修学することによって所定の単位を取得し,卒業できる権利を確保するために契約に先立って納付されるものであるところ,大学は,学納金納付等入学手続を履践した合格者のために,人的・物的設備を確保・維持する体制を構築することで,在学 単位を取得し,卒業できる権利を確保するために契約に先立って納付されるものであるところ,大学は,学納金納付等入学手続を履践した合格者のために,人的・物的設備を確保・維持する体制を構築することで,在学契約の義務の履行は完了しているから,学納金全額について返還の余地はないと主張する。 確かに,被告大学においては,学則(乙15)30条において,「前条の合格者は,指定期日までに本学所定の誓約書,保証書を提出するとともに入学金及び授業料等の一部を納入しなければならない。」「2 学長は,第1項の入学手続を完了した者に対し,入学を許可する。」とされており,授業料等を含む学納金を納付しなければ,入学を許可されないことになっているが,前記(ア)で述べたとおりの理由に加え,前記の文部科学省の見解や被告大学を含む多数の大学が入学金と授業料等の取扱いを区別していること等を考え合わせれば,授業料等は教育役務等を提供することの対価であると解するほかないから,実際に学生に教育役務等を提供しない以上,義務の履行が完了しているとはいえないというべきである。 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 (ウ) 以上によれば,被告は,原告らに対し,不当利得返還請求権に基づき,授業料等を返還すべき義務があるが(ただし,丁事件原告については,検討の余地があることは前述したとおりである。),原告らと被告との間には,本件特約が成立しており,同特約によれば,被告は上記返還義務を免れることになるので,争点2以下において,同特約の効力について検討することとする。 2 争点2(本件特約は法9条1号により無効となるか)について(1) 在学契約が消費者契約に当たるか否かについて甲・乙事件原告らが個人であること及び被告が法人であることは争いがなく,弁論の全趣旨によれば,甲・乙事件原告 9条1号により無効となるか)について(1) 在学契約が消費者契約に当たるか否かについて甲・乙事件原告らが個人であること及び被告が法人であることは争いがなく,弁論の全趣旨によれば,甲・乙事件原告らが「事業として又は事業のために」在学契約を締結していないことは明らかである。 そうすると,甲・乙事件原告らは法2条1項所定の「消費者」に,被告は同条2項所定の「事業者」にそれぞれ該当すると認められるから,甲・乙事件原告らと被告との間で締結された在学契約は,同条3項所定の「消費者契約」に該当するというべきである。 これに対し,被告は,法律の解釈・適用は実質的になされなければならないところ,法制定の背景・目的及び被告大学の公共性などからすれば,在学契約について,法を適用すべき実質的根拠がないと主張する。 しかしながら,法は,あらゆる取引分野における消費者契約について幅広く適用される民事ルールとして定められたものであり,「消費者」と「事業者」を区別する上で,契約の締結,取引に関する「情報・交渉力の格差」(法1条)を考慮することがあるとしても,法2条で規定されている「消費者」と「事業者」に該当すると判断されれば,両者の間で締結される契約は,法12条で適用除外されている労働契約以外はすべて法2条3項所定の「消費者契約」に該当するというのが法の趣旨であると解される。以上のような法の趣旨,規定からすれば,被告が主張するように,契約の性質等を実質的に考慮して消費者契約に該当するか否かを判断する趣旨ではないと解されるから,被告の上記主張は採用できない。 (2) 本件特約が損害賠償予定条項に該当するか否かについて法9条1号は,消費者契約において,事業者が,消費者契約の解除等に伴い高額な損害賠償等を請求することを予定し,消費者に不当な金銭的負担を強いる場合が 件特約が損害賠償予定条項に該当するか否かについて法9条1号は,消費者契約において,事業者が,消費者契約の解除等に伴い高額な損害賠償等を請求することを予定し,消費者に不当な金銭的負担を強いる場合があることから,消費者が,不当な出捐を強いられることのないように設けられた規定であるところ,その趣旨に照らすと,損害賠償予定条項に該当するか否かについては,当該条項の文言のみならず,その条項の実質的な効果から判断すべきであると解するのが相当である。 これを本件についてみるに,争点1で判示したとおり,本来,被告は,甲・乙事件原告らに対して,授業料等を返還しなければならないところ,本件特約は,その返還義務を免れさせるものであるから,その実質的な効果からすると,損害賠償予定条項に該当するというべきである。 (3) 法9条1号所定の平均的損害の主張立証責任について一般に,一旦当事者間で成立した合意に関しては,かかる合意の効力を争う者において,効力が発生することを障害する事実の主張立証責任を負うのが原則であるところ,法9条1号は,損害賠償予定条項に合意していることを前提としつつ,平均的損害を超える部分については無効とする条文の構造となっていることからすれば,消費者において,損害賠償予定条項において定められた額が平均的損害の額を超えることを主張立証しなければならないと解するのが相当である。 これに対して,甲・乙事件原告らは,法の立法趣旨は,消費者保護にあること,消費者側からは事業者にどのような損害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと,損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどを理由に,平均的損害の主張立証責任は,事業者にあると主張するが,法の立法趣旨が消費者保護にあることのみでは,上記条文の構造等から導かれる解釈とは異なり,事業者 消極的事実の立証は困難であることなどを理由に,平均的損害の主張立証責任は,事業者にあると主張するが,法の立法趣旨が消費者保護にあることのみでは,上記条文の構造等から導かれる解釈とは異なり,事業者に主張立証責任があると解することの根拠としては不十分であるし,立証の困難等は,事実上の推定等の活用によって立証の程度を実質的に軽減することなどにより解決できる問題というべきである。 よって,甲・乙事件原告らの主張を採用することはできない。 (4) 本件における平均的損害についてア 法9条1号所定の平均的損害とは,同一事業者が締結する多数の同種契約事案について,類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額をいい,具体的には,解除事由,解除時期等により同一の区分に分類される複数の同種契約の解除に伴い,当該事業者に生じる損害額の平均値をいうと解するのが相当である。 イ そこで検討するに,争点1で判示したとおり,在学契約においては,学生の就学意思を最大限尊重すべきであり,実際上も,同一年度に複数の大学に入学出願し,志望順位の低い大学にいわゆる滑り止めとして入学手続をしたものの,その後,志望順位の高い大学に合格した結果,志望順位の低い大学の入学を辞退するということが広く行われ,かつ,社会通念上も是認されてきたことからすると,在学契約は,その契約の性質上,学生からの入学辞退によって解除されることが想定されており,各私立大学は,このことを認識したうえで,その対策を講じているものと推認される。そして,被告においても,このような認識の下,入学予定者が一定程度の割合で入学辞退することを前提として人的・物的教育施設の整備を行うなど,入学予定者の入学辞退によって生ずる損害を回避するための措置を講じていると推認されるところであって,実際,前記基礎となる事実によ 合で入学辞退することを前提として人的・物的教育施設の整備を行うなど,入学予定者の入学辞退によって生ずる損害を回避するための措置を講じていると推認されるところであって,実際,前記基礎となる事実によれば,被告大学においては,平成10年度から同14年度までの5年間において,合格者のうち,相当数が入学辞退をしていると認められる一方で,入学者数はほぼ一定であり,かつ,入学定員を上回っていると認められる(入学定員の約1.19倍から約1.26倍の間)から,合格者のうちの相当数が入学辞退をすることを予想した上で合格者を決定しているものと考えられる。 以上のような私立大学一般及び被告大学における入学予定者の入学辞退によって生ずる損害回避の実態からすれば,被告において,反証として甲・乙事件原告らの入学辞退に伴い具体的な損害が生じていることを立証しない限り,被告には,甲・乙事件原告らの入学辞退による平均的損害は生じていないと推定するのが相当である。 ウ これに対し,被告は,私立大学は収容定員を超える数の学生を在学させても,あるいは収容定員に満たなくても,私立学校振興助成法による補助金を減額されること及び補欠・追加募集は公法的規制や学生の質の水準を維持する上で極めて困難であること等からすれば,平均的損害の額は,学生となるべき甲・乙事件原告らが4年間(又は2年間)在学したであろう期間中に納付すべき学納金であると主張する。 しかしながら,前述したとおり,被告大学は,甲・乙事件原告らを含む一定数の入学予定者が入学辞退をし,同人らから在学中の学納金を取得できないことも織り込んで,合格者数を決定しているものと考えられ,実際上も,平成10年度から同14年度までの間において,補助金を減額されない程度に入学定員を上回る入学者を確保しているのである(在学している学生の 織り込んで,合格者数を決定しているものと考えられ,実際上も,平成10年度から同14年度までの間において,補助金を減額されない程度に入学定員を上回る入学者を確保しているのである(在学している学生の数が学則に定められた収容定員数を基準とした一定の数値を超えたときにも,私立学校振興助成法による補助金の減額事由となる〔同法5条2号。甲6,乙18〕)。 よって,被告の上記主張は採用できない。 エ 以上によれば,被告には,甲・乙事件原告らの入学辞退に伴う平均的損害は生じていないと認められる。 したがって,本件特約の対象となる学納金のうち,授業料等については,その全額が平均的損害を超えるものと認められるから,本件特約のうち授業料等を返還しないという部分は,法9条により全部無効というべきである。 (5) 結論以上の次第で,甲・乙事件原告らは,被告に対して,授業料等の返還を請求することができる。 3 争点3(本件特約は法10条により無効となるか)について前述したところからすれば,本件において,法10条の適用が問題となるのは,本件特約中,甲・乙事件原告らが被告に納付した入学金を返還しないとの合意であると考えられるが,入学金については,争点1で判示したとおりの理由により,本件特約が法10条により無効かどうかを判断するまでもなく,甲・乙事件原告らの返還請求権は認められないというべきである。 4 争点4(本件特約は民法90条により無効となるか)について(1) 原告らは,本件特約は,被告が一方的に定めたものである上,これにより,原告らは,事実上学納金を納入せざるを得ない状態に追い込まれるから,原告らの窮迫に乗じるものであり,かつ,準委任契約が解除された場合,学納金として支払われた前払費用及び前払報酬は,対価としての委任事務の履行ないし教育役務の提供がな を得ない状態に追い込まれるから,原告らの窮迫に乗じるものであり,かつ,準委任契約が解除された場合,学納金として支払われた前払費用及び前払報酬は,対価としての委任事務の履行ないし教育役務の提供がなされていない以上,経済的対価性が全く認められないから,暴利行為に該当し,公序良俗に違反する無効な合意であると主張する。 (2) そこで検討するに,原告らは,入学試験要綱,入試ガイド等により各大学における学納金の金額,納付期限,その取扱い等についての情報を入手し,被告大学についても本件特約の存在を認識した上で受験しているものと推認できるが,本件特約に従って学納金を納付すれば,被告大学に入学し得る地位を取得し,先述したような浪人生活等を回避する効果があるということも認識していたものと推認される。そして,原告らとしては,本件特約の存在する被告大学を受験するかどうか,被告大学を含めた複数の大学を受験するかどうか,被告大学に合格した場合に学納金を納付するか否かといったことは,予め十分検討した上で自由に選択できるのであって,原告らは,上記のような学納金の趣旨,目的を理解した上で,経済的出捐と,浪人生活等を回避するために被告大学に入学し得る地位を取得すること等を比較考量し,自らの判断に基づいて,被告大学に学納金を納付することを選択したものというべきである。 したがって,本件特約が,受験生の自己決定権や大学選択の自由を制約するとは評価できず,経済的出捐を伴うことから,原告らに,やむを得ず,学納金を支払うという心理が働くことは否定できないとしても,原告らの窮迫に乗じて学納金を納付させたということはできない。 (3) 弁論の全趣旨によれば,大学は,学則において,収容定員を定めなければならないとされており(学校教育法施行規則4条5号参照),大学においては,かかる 学納金を納付させたということはできない。 (3) 弁論の全趣旨によれば,大学は,学則において,収容定員を定めなければならないとされており(学校教育法施行規則4条5号参照),大学においては,かかる収容定員に応じて,大学設置基準所定の人的・物的教育施設を整える義務があることから,各年度ごとに教育役務等を提供するための事業計画及びそれに伴う予算等が策定されていること,私立大学にとっては,学納金は,国からの財政援助とともに,重要な収入源となっていること,在学している学生の数が学則に定められた収容定員数を満たさないときには,私立学校振興助成法による補助金の減額事由となること(私立学校振興助成法5条3号参照),以上の各事実が認められる。 以上認定の事実によれば,入学予定者が入学辞退することにより定員割れが生じた場合には,学納金収入が減少するだけでなく,補助金収入も減少することになるが,その一方で,定員割れに応じて,大学側において,4月1日以降,人的・物的教育施設の削減等をすることは事実上困難である。そこで,定員割れを回避するために,補欠合格により補充しようとしても,その時期は限られるから,入学式の直前等入学辞退の時期によっては,補充の機会を逸することにもなりかねず,そうなると,4月1日以前の一定の時期以降に定員割れが生じた場合には,4年間欠員が生じることになる(被告大学では,3年次編入学もあるが,その定員は1年次入学とは別枠で定められている。)。また,入学辞退者を見越して,合格者数を大幅に増やすことも考えられるが,そうなると,本来,合格水準に達していない者も数多く入学してくることになり,大学における教育・研究という面で問題が生じることが考えられる。 そうすると,被告大学において,一定水準以上の入学者を確保するとともに,定員割れによる損失 ていない者も数多く入学してくることになり,大学における教育・研究という面で問題が生じることが考えられる。 そうすると,被告大学において,一定水準以上の入学者を確保するとともに,定員割れによる損失を回避するために,在学契約の拘束力を強める効果があると考えられる本件特約を設けることには,一定の合理性があるというべきである。 なお,原告らが主張するとおり,被告大学においては,平成10年度から同14年度までの間において,定員割れが生じたことはないが,それは,本件特約があるからともいえるのであって,本件特約が存在しなければ,入学辞退者が増加することが予想され,前述したとおり,入学式直前に大量に入学辞退されれば,定員割れが生じる可能性を否定することはできない。また,本件特約が存在しないと入学辞退者の見込みを予測することが難しくなり,大量の合格者を出した結果,逆に入学者が収容定員数を超えることも想定されるが,在学している学生の数が学則に定められた収容定員数を基準とした一定の数値を超えたときにも,私立学校振興助成法による補助金の減額事由となる(同法5条2号。甲6,乙18)から,補助金が減額されたり,教育水準の低下を招くことになるおそれもある。 (4) もっとも,前述したとおり,授業料等については,教育役務等の提供がない以上,本来返還すべきものであるから,経済的対価性の点で問題がないとはいえないが,本件特約の目的に一定の合理性があり,その合意が原告らの窮迫に乗じたとはいえないことや授業料等の金額が許容できない程に著しく高額とまではいえないこと等を考慮すると,本件特約が公序良俗に反し,無効であると解することはできない。 5 争点5(被告が本件特約を援用して学納金の返還を拒むことは信義則に違反するか)について前記4で判示したとおりの事情を考慮すると, 本件特約が公序良俗に反し,無効であると解することはできない。 5 争点5(被告が本件特約を援用して学納金の返還を拒むことは信義則に違反するか)について前記4で判示したとおりの事情を考慮すると,被告が本件特約を援用して学納金の返還を拒んだとしても,信義則に反するとはいえない。 第7 結語以上によれば,原告らの本件請求は,甲・乙事件原告らにおいて,それぞれ55万5000円及びこれらに対する本件各訴状送達の翌日である甲事件原告らについては平成14年8月14日から,乙事件原告らについては同年10月6日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,甲・乙事件原告らのその余の請求及び丙・丁事件原告らの請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第19民事部裁判長裁判官角隆博裁判官井上直哉裁判官長田雅之

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