平成20(行ケ)7 裁決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成21年6月17日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文11,939 文字)

- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求の趣旨 高等海難審判庁が,同庁平成▲年第二審第▲号漁船AモーターボートB衝突,,。 事件につき平成▲年▲月▲日原告に対して言い渡した懲戒裁決を取り消す 訴訟費用は,被告の負担とする。 第2事案の概要 本件は,α湖と外洋とを結ぶ唯一の水路であるα港βにおいて,しらす漁の漁場に向かうため水路を出港中の漁船Aと,竿釣りを行う目的で水路で漂泊中のモーターボートBとが衝突(本件衝突)し,Bの船長であるCがAの船体に挟撃され,○,○の傷害を負ったという事案である。 高等海難審判庁は,本件衝突は,Aが,動静監視不十分で,漂泊中のBを避けなかったことによって発生したが,Bにおいても,動静監視不十分で,有効な音響による信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすとして,Aの船長(小型船舶操縦士)である原告とBの船長であるCのそれぞれを戒告する旨の裁決(以下「本件裁決」という)をしたところ,。 原告が,被告に対し,原告が戒告に付されたことを不服として,本件裁決の取消しを求めた。 本件裁決は,要旨,次のとおり判断し,平成20年法律第26号による改正前の海難審判法4条2項の規定により,同法5条1項3号を適用して原告を戒告した。 α港には港則法が適用されるが,同法35条では「船舶交通の妨となる虞,のある港内の場所においては,みだりに漁ろうをしてはならない」の規定が。 。 「」,「」ある港則法の漁ろうの定義は海上衝突予防法3条に規定する漁ろう- 2 -と異なり,広く水産動植物の採補行為をも含むものと解され,βは港内でも特に船舶交通の輻輳する場所であり,同水路ではみだりに漁ろうをすることが の定義は海上衝突予防法3条に規定する漁ろう- 2 -と異なり,広く水産動植物の採補行為をも含むものと解され,βは港内でも特に船舶交通の輻輳する場所であり,同水路ではみだりに漁ろうをすることができないと判断するのが相当であるβ付近はレジャー船釣り自粛協定水域自。 ,(粛協定水域)が設けられているが,D漁業協同組合の認めた遊漁船等は,釣りをするときに監視船を配置するなどの特定の条件を定めた上,遊漁を行うことができた。これに準じて遊漁を行っている船舶は,みだりに漁ろうを行っているとはみなされない。自粛協定水域の漁ろう制限は,特定の遊漁船などに釣りを行わせていることから,実態としては,プレジャーボートもこれらに混じり釣りを行っており,この制限が遵守されていないのが常態で,結果的に港則法35条の規定に反し,多くのプレジャーボートが釣り(港則法でいうところの漁ろう)を行っている。βにおけるA,Bの二船間の衝突を避けるための航法は,港則法にも,自粛協定水域を定めた「ルールとマナー」にも具体的な定めがなく,海上衝突予防法にも航法の定めがないから,対水速力をもって進行中の船舶が,漂泊中の船舶を避けるという船員の常務によって衝突を回避するのが相当である。Aは,Bが港則法35条及び自粛協定水域の漁ろう制限に抵触しているからといって,漂泊中の船舶を避ける義務を免れることはない。原告は,α港内を船首に死角がある状態で,βに沿って左転中にBを認め,南下する態勢で定針した際に,同船を認めなくなった場合,船首死角に入ったままの同船に接近するおそれがあったから,衝突のおそれの有無を判断できるよう,船首を振って死角を補う見張りを継続するなどの同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,原告は,Bを初認した際に港口西導流堤南端付近に見えた 突のおそれの有無を判断できるよう,船首を振って死角を補う見張りを継続するなどの同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,原告は,Bを初認した際に港口西導流堤南端付近に見えたので,その後,同船が同堤の陰に移動して見えなくなったものと思い,魚群の探索に就いていた僚船との無線電話交信に専心していて同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が自船の死角に入り,これに向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気づかず,同船を避けずに進行して衝突を招き,Aの船首に擦過傷を- 3 -生じさせ,Bの左舷中央部から右舷船尾部にかけて圧壊させ,Cに○及び○を負わせた。 なお,国土交通省設置法の一部を改正する法律(平成20年法律第26号)により,海難審判庁がした認可,指定その他の処分又は通知その他の行為は,海難審判所がした認可,指定その他の処分又は通知その他の行為とみなすこととされた(国土交通省設置法の一部を改正する法律(平成20年法律第26号付則2条。 ) 前提事実(甲1,乙1ないし32及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)事件発生の年月日時刻及び場所(1)平成▲年▲月▲日午前▲時▲分静岡県α港港口(北緯××度××分東経××度××分)( )船舶の要目等(甲1,乙1,乙5ないし7) ア要目船種船名漁船AモーターボートB船籍港静岡県浜名郡γ主たる根拠地静岡県浜松市船舶所有者原告C総トン数8.89トン全長18.38m5.61m幅3.09m1.64m深さ0.96m0.65m機関の種類ディーゼル機関電気点火機関出力22kw漁船法馬力数 船舶番号××-××○○- 4 -漁船登録番号××-××イ設備及び性能 4m深さ0.96m0.65m機関の種類ディーゼル機関電気点火機関出力22kw漁船法馬力数 船舶番号××-××○○- 4 -漁船登録番号××-××イ設備及び性能等①AAは,昭和57年5月に進水したFRP製漁船で,船体中央やや後方,,に操舵室を設け漁具は操舵室の後方にしらす漁用のネットホーラーを航海計器類は湿式磁気コンパス,プロッター付きGPS,魚群探知機等を,操舵装置は油圧駆動による手動操舵設備を,音響設備は電気ホーンをそれぞれ備え,専ら2そう船びき網漁業を共同で行う同名船(僚船)とともにしらす漁に従事していた(甲1,乙1,2。 ),,速力は全速力前進に相当する機関回転数毎分2100で18ノット半速力前進に相当する同回転数毎分1200のとき12ノットばかりであった(甲1,乙2。 )操舵室からの見通しについては,前方の視界を遮る構造物は甲板上に特別なかったが,速力が半速力前進くらいで船首が浮上すると,船首方の水平線が隠れ,水揚げの際に船内から岸壁に渡るために設けた今は使用されていない遣り出し甲板により,更にこの範囲が大きくなり,船首死角を生じていた(甲1,乙2。 )②BBは,平成16年3月Cが購入したE株式会社製和船型の○○と称する船体に,トランサム型船尾の外側中央に船外機を装備したFRP製モーターボートで,航海計器類は魚群探知機と兼用のGPS装置を備え,救命胴衣付属の笛があるのみで有効な音響による信号手段を装備せず,Cが土曜日,日曜日その他休日に友人などと竿釣りを行うために供されていた(甲1,乙5,6。 )( )原告の経歴等 原告は,16歳ころから家業の船びき網漁業及びのり養殖業に従事し,昭- 5 -和50年7月一級小型船舶操縦士免許を取得,平成16年一級・特殊小型船 た(甲1,乙5,6。 )( )原告の経歴等 原告は,16歳ころから家業の船びき網漁業及びのり養殖業に従事し,昭- 5 -和50年7月一級小型船舶操縦士免許を取得,平成16年一級・特殊小型船舶操縦士及び特定操縦免許に更新し,例年3月から翌年1月までのしらす漁を行うときはβを通航し,土曜日の休漁日を除きほぼ毎日1ないし2回係留地とδとの間を往復していた(甲1,乙1,2。 )( )α港及びβ α港は,ε駅(北緯××度××分××秒東経××度××分××秒)を中心とする半径2000mの円内の海面並びに湖西市とγとの境界湖岸(北緯××度××分××秒東経××度××分××秒)から90度に引いた線,ζ橋及び陸岸により囲まれたα湖水面からなり,航洋船など大型船の出入航はなかったが,小型漁船やプレジャーボートなどの係留設備が多数存在し,これら船舶の出入航は多かった。 βは,α港内にある可航幅(船舶が航行可能な水路の幅)約150mの,α湖と外洋を接続する唯一の水路で,同水路の西側には南北に延びる港口西導流堤が,同堤南端付近西方に東西に延びるη離岸堤が,東側には港口西導流堤と平行で同堤より更に南方に突き出た形の港口東導流堤が,また,その南端から約30mの切り通しを隔てて更に南南西方に延びる港口離岸導流堤がそれぞれ設けられており,η離岸堤を除くこれら離岸堤により,同水路の形状は「リ」の字形を呈し,南北の長さは約600mで,同水路の潮流は最速4ノットに達した(甲1,乙2,乙15。 )( )レジャー船釣り自粛協定水域 βは可航幅が狭く,漁船やプレジャーボートなどの小型船舶が輻輳する水,,,,域となっておりD漁業協同組合α湖周辺の7市町西部地区の貨船組合遊漁者団体,F協同組合などで構成される西部地区遊漁協議会は,海難防止の目的で,βの北 ートなどの小型船舶が輻輳する水,,,,域となっておりD漁業協同組合α湖周辺の7市町西部地区の貨船組合遊漁者団体,F協同組合などで構成される西部地区遊漁協議会は,海難防止の目的で,βの北側にある港口中導流堤の両翼延長線と南方の陸岸で囲まれる水域,β及びα港口離岸導流堤灯台(港口灯台)から東方へ1400m,西方へ700m,南方へ800mの範囲と北方陸岸で囲まれる長方形の水域- 6 -をレジャー船釣り自粛協定水域と定め,更に航行船舶から防波堤などにより見通しが遮られる港口西導流堤南端付近,港口東導流堤と港口離岸導流堤間の切り通し付近水路側及び港口離岸導流堤南端付近の南北60m,東西100mの各範囲を釣り禁止区域と申し合わせていたが,遊漁中は旗竿をデッキ上1m以上の見やすいところに掲げること,監視船を配してβを出入りする漁船を認めた場合は速やかに安全水域に移動すること等の条件を付したうえで,D漁業協同組合が認めた遊漁船のみに遊漁を行わせていた。 一方,自粛協定水域存在の周知については,α港を通航する小型船舶所有者が,静岡県条例に基づき,2年に1回通航届の更新手続を財団法人G財団ほか所定の事務所などで行う際,同財団作成の自粛協定水域などの情報が記載されている「ルールとマナー」と題するパンフレットが配布されていたほか,H協会が発行する遊漁船業協定集中に同旨の記載があることにより行われている。 ( )本件事故に至る経過 アAは,原告ほか甲板員4人が乗り組み,α港港外でしらす漁を行う目的,,,で平成▲年▲月▲日午前5時20分同港内のθ漁港を僚船と共に発し港外に向かった(甲1,乙1。 )原告は,漁場に至って4回ほど操業した後,僚船を港外で魚群の探索に当たらせ,漁獲物の鮮度が落ちないよう一旦水揚げすることとし,午前9時30分 θ漁港を僚船と共に発し港外に向かった(甲1,乙1。 )原告は,漁場に至って4回ほど操業した後,僚船を港外で魚群の探索に当たらせ,漁獲物の鮮度が落ちないよう一旦水揚げすることとし,午前9時30分漁場を発進し,午前10時ころθ漁港に着き,漁獲物の水揚げを終えた後,午前10時20分船首0.3m船尾1.5mの喫水をもって再度漁場に向かった(甲1,乙1。 )原告は,発進後徐々に機関の回転を上げて12.0ノット(対水速力)とし,船首が浮上して船首方の視界が遮られた状態で,前部甲板上に3人の甲板員を,後部甲板上に1人の甲板員をそれぞれ漁具の整備に就かせて進行した(乙20,25。 )- 7 -その後,Aは,βに接近するにしたがって潮流の影響を受けるようになり,午前10時23分,α港口離岸導流堤灯台(港口灯台)から025度(真方位,以下同じ)950mの地点に達した(甲1。 。 )原告は,操舵室中央で手動操舵により立って1人で見張りに当たり,折からの潮流に抗して続航した。 ,,原告は午前10時24分港口灯台から007度760mの地点に達しβに沿って航行すべくゆっくりと左転中,225度に向首したとき,左舷船首25度380mのところに,港口西導流堤の南端付近に漂泊中のBを,,初めて認めそのころ沖で探索に当たっていた僚船から無線電話が掛かりその後同船と交信しながら左転を続けた(甲1。 )原告は,午前10時24分半,港口灯台から000度630mの地点に達したとき,針路を189度に定め,折からの潮流に抗して10.1ノットの速力(対地速力,左に4度圧流されて185度で進行した。 )定針したとき,原告は,僚船と無線電話交信している間にBが正船首200mのところに接近し,同船が船首死角に隠れて見えない状態となり,その後Bに向首して衝突のおそれがある態 て185度で進行した。 )定針したとき,原告は,僚船と無線電話交信している間にBが正船首200mのところに接近し,同船が船首死角に隠れて見えない状態となり,その後Bに向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,目を離している間にBは港口西導流堤の陰に移動したものと思い,船首死角を補うために船首を振って見張るなどの同船に対する動静監視を十分に行わず,Bが自船の船首死角に入ったことに気づかないまま,僚船との無線電話交信に専心して進行した(甲1。 )原告は,漂泊を続けるBを避けないまま続航中,念のために前方を確認するため右舵をとったところBを認め,急ぎ機関を中立としたが及ばず,午前▲時▲分,港口灯台から359度460mの地点において,Aは,船首が225度に向いたとき,その船首がBの左舷ほぼ中央部に前方から45度の角度をもって,原速力のまま衝突し,同部から右舷船尾にかけて乗り上げた(甲1,乙20。 )- 8 -イ本件衝突当時,βを通航する船は,Aのほかにおらず,釣船が10隻程,()。 度散在していたが両船の動静に影響を与えるものではなかった甲1当時,天候は曇りで風力2の西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,βでは2ノットの北北東流があり,視界は良好であった(乙20。 )ウBは,Cが1人で乗り組み,友人1人を乗せ,趣味の竿釣りを行う目的で,船首0.2m船尾0.6mの喫水をもって,同日午前6時30分,α港内の競艇場脇自船保管場所であるIを発し,α湖内で釣りを行っていたが,釣果が良くないためにβに向かった。 Cは,港口西導流堤先端南方付近に至り,午前10時21分少し前,港口灯台から330度250mの地点で機関を中立とし,自らは船尾右舷側の物入れの上に腰掛け,同乗者は船首部に立ち,折からの潮流に流されて道糸が南に張るので 端南方付近に至り,午前10時21分少し前,港口灯台から330度250mの地点で機関を中立とし,自らは船尾右舷側の物入れの上に腰掛け,同乗者は船首部に立ち,折からの潮流に流されて道糸が南に張るので,右舷側に竿を出した姿勢で漂泊を開始した。 Cは「ルールとマナー」にβが自粛協定水域と記載されていることを,承知していたが,多くの遊漁船やプレジャーボートが釣りを行っていること,自ら釣りをしていても注意を受けたことがなかったことから,同水域が実際に釣りを制限されているかどうかについて分からないまま,また,この水域が狭く多くの漁船などが通航するところであり,自船が竿釣りをしているときに人を含めた水面からの高さが約2mと低く,他船から見落とされるおそれがあったものの,旗竿を表示するなどの措置を何ら講じないまま釣りを行っていた。 Cは,機関を時折使用して自船の態勢を調整しながら,ほぼ090度に向首して対水速力をもたず,潮流のみの影響で026度の方向に2.0ノットで漂流中,午前10時24分,港口灯台から355度400mの地点に達したとき,左舷船首70度380mのところにβに沿って南下すべく左転中のAを初めて認めた。 Cは,午前10時24分半,港口灯台から357度430mのところま- 9 -で圧流されたとき,Aがα大橋下を通過して左舷船首81度200mに接近し,その後,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,Aが,漂泊して釣りをしている自船を東側に避けると思い,Aに対する動静監視を十分に行っていなかったので,この状況に気づかず,警告信号を行うべき状況で有効な音響信号手段を装備せず,これを行えない状態で,また,港口西導流堤寄りに移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま釣りに専念して漂泊を続けた。 Cは,午前▲時▲分わず 号を行うべき状況で有効な音響信号手段を装備せず,これを行えない状態で,また,港口西導流堤寄りに移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま釣りに専念して漂泊を続けた。 Cは,午前▲時▲分わずか前,左舷方を見ると至近距離にAを認め,大声を上げてとっさに機関を全速力後進にかけたが,同船が右転したように見えたことから,瞬時に全速力前進に切り換えたものの及ばず,ほぼ同じ態勢のまま前示のとおり衝突した。 衝突後,AはBから離れ,付近の遊漁船や護岸上で釣りをしていた人たちの協力を得るなどしてBから海中に転落した2人の救助に当たり,Bがα大橋橋脚付近東側護岸に漂着したのち,負傷したCが救急車で病院に搬送された。 衝突の結果,Aは船首に擦過傷を生じ,Bは左舷中央部から右舷船尾部,。 にかけて圧壊し乗り上げたAの船体に挟撃されてCが○及び○を負った 争点 ( )航法の適用について ( )原告に過失はあったか。 争点に対する当事者の主張( )航法の適用について ア原告βは,α港の港域内にあり,港内でも特に船舶交通が輻輳する場所である。βには,港則法が適用され,同所は,同法35条の「船舶交通の妨となる虞のある港内の場所」であるから「みだりに漁ろうをすることがで,- 10 -きない」場所ということができ,同所での釣りは禁じられていた。 Bは,港則法35条によって,釣りが禁じられているβに,立ち入ってはならない不作為義務があるし,立ち入ったとしても直ちに立ち去るために移動する作為義務がある。港則法35条は,広義の航法を定めた規定であるから,Bに第一次的な避航義務がある。 イ被告①α港は,海上衝突予防法の特別法である港則法の適用があるものの,港則法所定の航法規定には,AとBとの間におけるような進行中の船舶と漂泊中の船舶 あるから,Bに第一次的な避航義務がある。 イ被告①α港は,海上衝突予防法の特別法である港則法の適用があるものの,港則法所定の航法規定には,AとBとの間におけるような進行中の船舶と漂泊中の船舶との間の衝突を避けるための規定はないから,一般法たる海上衝突予防法が適用されることになる。 海上衝突予防法には,AとBとの間におけるような進行中の船舶と漂泊中の船舶との間の衝突を避けるための具体的規定がないことから,同法38条及び同法39条により「船員の常務(海事関係者の常識,,」すなわち,通常の船員ならば当然知っているはずの知識,経験,慣行)に従うことになる。 進行中の船舶と漂泊中の船舶との間についてみると,漂泊中の船舶が機関を操縦して進行中の船舶を避けるよりも,進行中の船舶が漂泊中の船舶を避ける方が簡易迅速であるから,進行中の船舶が漂泊中の船舶を避けるというのが「船員の常務」であると解するのが相当である。このことは,個々の事例が長い間に積み重なって確立された経験則を集大成した海上衝突予防法が,操縦性能の優れている船舶に操縦性能の劣っている船舶の進路を避けさせることを基本原則としていることとも適合する。 ②原告は,本件衝突において,第一次的にBがAを避ける義務を負い,第二次的にAがBを避ける義務を負うとして本件裁決の違法を主張するが,港則法35条は,これに違反する形態で漁ろうを行っていた行為自- 11 -体を取締りの対象にするものであって,これを越えて漁ろうをしている船舶と漁ろうをしていない船舶との間における衝突回避に当たっての航法についてまで及ぶとは解し得ない。この点は,あくまでも両船間の衝突回避の容易性等によって判断されるべき事柄であって,漁ろう行為の有無によって決せられるべき問題ではない。港則法35条の規定から当該場所に存 てまで及ぶとは解し得ない。この点は,あくまでも両船間の衝突回避の容易性等によって判断されるべき事柄であって,漁ろう行為の有無によって決せられるべき問題ではない。港則法35条の規定から当該場所に存在してはならないという規範が発生し,かつ,当該規範から,,進行中の船舶を避けるべき義務が発生するとは解されず原告の主張はその限りにおいて失当である。 ( )原告に過失はあったか ア原告Cは,βが自粛協定水域であり,この水域が狭く,多くの漁船などが通航するところで,自船の高さが人を含めても水面から2mと低く,他船から見落とされるおそれがあったのに,Bに旗竿を表示するなどの措置を何ら講じないまま釣りを行っていた。 さらに,Cは,漂泊中,衝突直前の午前10時24分,港口灯台から355度400mの地点に達したとき,左舷船首70度380mのところにβに沿って南下すべく左転中のAを視認し,AがBに衝突するおそれがある態勢で接近する状況となったのを認識していたにもかかわらず,Aが自船を避けるものと軽信し,動静監視不十分のためにこの状況に気づかず,警告信号を行うべき状況で有効な音響信号手段を装備せず,これを行えない状態で,また,漂泊を避けるための措置をとらないまま漫然と釣りに専心して漂泊を続けた。 以上の事実経過によると,Aを避けるべき義務を負っているB側に重大,。 な過失があったことは明らかであり原告に戒告されるような過失はないイ被告原告には,次のとおり過失が認められる。 - 12 -原告は,Aを操縦し,本件衝突直前,港口灯台から007度760mの地点に達し,βに沿って航行すべくゆっくりと左転しながら225度に向首した時,左舷船首25度380mのところに港口西導流堤の南端付近で漂泊しながらCらが釣りをしているBを認めていたにもかかわらず の地点に達し,βに沿って航行すべくゆっくりと左転しながら225度に向首した時,左舷船首25度380mのところに港口西導流堤の南端付近で漂泊しながらCらが釣りをしているBを認めていたにもかかわらず,その後,Bの動静を監視することなく,かつ,Bとの衝突を避けるための措置を執らずにAを続航した。本件衝突時に,Aのほかに航行船舶はなく,AがBを避けるための水域が残され,Aが船員の常務に従った行動をとるこ,,とに何ら妨げはなかったことからするとAを操縦していた原告としてはBの動静を監視し,Bとの衝突を避けるための措置を執ることが十分に可能であった。進行中の船舶であるAは,漂泊中の船舶であるBを避けなければならない義務を負っていた。周囲に釣り船が10隻程度存在していたとしても,これらはAとBの動静に影響を与えるものではない。 本件衝突について,原告に過失があることは明らかである。 第3当裁判所の判断 争点( )(航法の適用)について βがα港の港域内にあり,港則法が適用されることについては争いがない。 港則法35条は「船舶交通の妨となる虞のある港内の場所においては,み,だりに漁ろうをしてはならない」と定めている。 乙27によれば,本件衝突発生日である平成▲年▲月▲日のβ水路におけるシラス漁船,甘鯛漁船及び魚網漁船の延べ通航船舶隻数実績は277隻であって,θ漁港のシラス漁船の当該水路延べ実通航隻数は,出航117隻,入航116隻の233隻で,全船が午前5時20分に出漁して,午後1時に操業を終了し,午後2時20分のセリ終了以前にθ漁港に帰港した。 θ漁港の甘鯛漁及び魚網漁の当該水路延べ実通航隻数は,出航22隻,入航22隻の合計44隻で,このほか,通航隻数は不明であるが,遊漁船,θ漁港以外の漁船,プレジャーボート等が水路を通航していた。 - θ漁港の甘鯛漁及び魚網漁の当該水路延べ実通航隻数は,出航22隻,入航22隻の合計44隻で,このほか,通航隻数は不明であるが,遊漁船,θ漁港以外の漁船,プレジャーボート等が水路を通航していた。 - 13 -,。 年間を通じて外洋へのβ水路通航の対象となる船舶数は4689隻である上記認定のとおり,β水路は,α港内にある可航幅(船舶が航行可能な水路の幅)約150mの,α湖と外洋を接続する唯一の水路であり,上記認定の通航船舶数があるから,港則法35条が規定する「船舶交通の妨となる虞のある港内の場所」ということができる。 港則法第7章雑則中の35条は,港内における船舶交通の安全を確保するために,港内の船舶交通の輻輳する場所において交通の障害となるような方法等で漁ろうをすることを禁止する。その反面として,この漁ろうをする他の船舶の交通の障害とならないようにする義務を負うということはできる。しかし,この規定は「みだりに漁ろう」をすることを禁止するものであり,およそ漁ろ,,うを禁止するものでなければ漁ろう以外の目的での漂泊を禁止するものでも漂泊中の船舶と航行中の船舶との衝突回避のための航法(同法第3章航路及び航法(12条ないし19条)参照)を定めた規定でもない。 港則法及び海上衝突予防法に進行中の船舶と漂泊中の船舶との衝突を避けるための具体的規定はない。そして,海上衝突予防法38条,39条では,海上交通の特殊性から法規制の行われていない場面で運行上の危険や衝突の危険がある場合には,海事関係者の間で確立された良き慣行である船員の常務に委ねている(乙31。そうすると,本件衝突において,航行中の船舶と漂泊中の)船舶との航法を直接規制した定めはないから,上記船員の常務に基づき判断するのが相当である。 争点( )(原告に過失はあったか) ( ) そうすると,本件衝突において,航行中の船舶と漂泊中の)船舶との航法を直接規制した定めはないから,上記船員の常務に基づき判断するのが相当である。 争点( )(原告に過失はあったか) ( )上記認定のとおり,原告は,α港口西導流堤先端付近で漂泊していたB を視認しながら,僚船からの無線に気を取られてBの動静に注視を怠り,Aが中速で航行する際には船首部分に死角が生ずるのを知りながら,船首を振って見張りをするなどのことを怠ったために,潮流に流されてきたBがAの船首死角に入ったことに気付かずに本件衝突が発生した。そして,本件衝突- 14 -時に,原告がBを避けるための行動をとることを妨げるような事情は認められず,Bの動静を監視していれば,Bとの衝突を避けるための措置を執ることが十分に可能であった(衝突回避のための進路変更は航行中のAの方が容易であったと認められる。そうすると,本件衝突地点において魚釣りの。)ために漂泊していたBに港則法35条の違反があるとしても,BがAの死角に入った時点において,当然にBが安全水域に移動したものと信頼すべき状況にはなかったというべきであり,航路前方にBがいるのを認識し,船首に死角が出ることや潮流の方向を知りながら,船首方向の見張りを怠った原告には,船舶の航行に際してBの動静を注視し,進路前方の安全を確認すべき注意義務を怠った過失があるということができる。 前提事実で認定したとおり,Bは,港則法35条に違反して船舶交通の妨,,となる虞のある港内の場所において魚釣りをしていたのであるからCには漁ろうを続けるのであれば,他の船舶の交通の妨げとならないような水域へ移動すべき義務があり,この義務に違反したことが本件衝突の一因となったということはできるが,本件衝突の危険が生じた段階で,漂泊中の船舶との 続けるのであれば,他の船舶の交通の妨げとならないような水域へ移動すべき義務があり,この義務に違反したことが本件衝突の一因となったということはできるが,本件衝突の危険が生じた段階で,漂泊中の船舶との衝突を回避し得なかったことについて,原告には上記前方注視義務違反が認められるから,Bに上記義務違反があったからといって,原告の前方注視義務が軽減されることにはならない。 ( )上記認定の原告の所為について平成20年法律第26号改正前の海難審 判法4条2項の規定により,同法5条1項3号を適用して,原告を戒告とした本件裁決の判断は,その結論及び理由において相当と認められる。 本件裁決の判断につき裁量権の逸脱又は濫用の存在を認めることはできない。 本件裁決を取り消すべき事由は認められず,原告の本訴請求には理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第1特別部- 15 -裁判長裁判官富越和厚裁判官設樂隆一裁判官小野洋一

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