平成13(ネ)1962 建物賃貸借契約存在確認請求控訴事件,同附帯控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年10月29日 東京高等裁判所
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判決文本文17,588 文字)

(原審・東京地方裁判所平成5年(ワ)第10972号建物賃貸借契約存在確認請求事件(原審言渡日平成13年3月6日)) 主文 原判決を取り消す。 本件訴えを却下する。 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人兼附帯控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判等 1 控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)の控訴の趣旨原判決を次のとおり変更する。 「被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)と控訴人との間の原判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)についての賃貸借契約における賃料は,平成4年6月1日以降1か月2063万円であることを確認する。」 2 被控訴人の附帯控訴の趣旨原判決を次のとおり変更する。 「被控訴人と控訴人との間の本件建物についての賃貸借契約における1か月当たりの賃料は,次のとおりであることを確認する。 (1) 平成4年6月1日から平成7年5月31日まで4652万2900円(2) 平成7年6月1日から平成10年5月31日まで5582万7500円(3) 平成10年6月1日以降 6699万3000円」 3 被控訴人の請求の趣旨上記2の「 」内と同じ 4 当審における審理,判断の範囲原判決は,上記3の被控訴人の請求について,本件建物の賃料が平成4年6月1日以降1か月2593万5000円であることを確認するとの限度で認容した。これに対し,上記のとおり本件控訴及び本件附帯控訴がされたのであるが,本件控訴の趣旨は,被控訴人の請求を棄却するとの判決を求めるものではなく,上記のように控訴の上限を画するものとなっている(控訴人は,原審において のとおり本件控訴及び本件附帯控訴がされたのであるが,本件控訴の趣旨は,被控訴人の請求を棄却するとの判決を求めるものではなく,上記のように控訴の上限を画するものとなっている(控訴人は,原審においては請求棄却の判決を求めていた。)。当審において本案判決をする場合には,上記の控訴の趣旨の金額より低額の賃料額を確認することは許されないことになる。 第2 本件事案の概要 1 原判決の記載の引用本件事案の概要と争点に関する当事者双方の主張は,3項以下に当事者双方の当審における主張を追加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第二事案の概要」の項の記載のとおりであるから,この記載を引用する。すなわち,その要点は,次のとおりである。 (1) 控訴人は,池袋ターミナルビル株式会社(ITB)と共に,池袋駅西口地区開発整備計画に基づき,大型駅ビルである本件ビル(メトロポリタンプラザビル,地下4階付21階建て)の建設事業(本件事業)を推進した。池袋駅西口に土地建物(Aビル)を所有してビル賃貸業を営んでいた被控訴人は,本件事業に参加し,所有地を提供して,平成4年6月に竣工した本件ビルのうち本件建物(3階部分3016.51㎡)の区分所有権を取得した。 (2) 本件事業の推進中,被控訴人,控訴人及びITBの3者は,本件事業に被控訴人の参加を得た上で,本件ビルに被控訴人の取得する区分所有建物について,被控訴人を賃貸人,控訴人を賃借人とする賃貸借契約を締結しようとして,賃料額等について折衝を重ねたが,賃料額について合意に至らなかった。そこで,被控訴人及びITBは,昭和63年8月1日,合意ができない部分については更に協議を重ねることとして,被控訴人が本件事業に参加して本件ビルに区分所有床を取得し,その商業部分を控訴人に一括して賃貸することなど,この時点 は,昭和63年8月1日,合意ができない部分については更に協議を重ねることとして,被控訴人が本件事業に参加して本件ビルに区分所有床を取得し,その商業部分を控訴人に一括して賃貸することなど,この時点での合意内容を書面とした本件合意書を取り交わした。控訴人は,本件合意書の合意事項を承認した。 (3) 本件合意書の4項には,賃料等の賃貸借条件について,「今後,被控訴人と控訴人とITBとは,それぞれ調査・研究することとし,各々信用ある第三者の専門家に他の類似の百貨店の賃貸条件の調査を依頼し,それを持ち寄り,これらを尊重し,誠意をもって協議し,公正な額で決定をする。」と定められている。 (4) 平成4年5月14日,控訴人は,月額賃料2063万円(保証金・敷金の額32億円の運用利率を年7%として計算した実質賃料3929万7000円)との提示をしたが,被控訴人はこれを拒否した。 (5) 本件ビルは,平成4年6月に竣工し,同月10日に,本件ビル部分を増床した東武百貨店池袋店が開店した。この開店時までに本件建物の賃料について被控訴人・控訴人間の協議は調わなかったが,控訴人は,上記(4)の月額賃料2063万円を暫定的に被控訴人に支払い,本件建物の使用を開始した。本件建物は,控訴人から株式会社東武百貨店に転貸され,東武百貨店の店舗の一部として使用されて現在に至っている。 (6) 平成4年9月30日,被控訴人は,保証金・敷金46億5229万円,月額賃料4652万2900円との提示をしたが,控訴人はこれに応じなかった。 2 原審の判断の骨子原審は,大要次のように認定判断した。 (1) 被控訴人・控訴人間における本件建物の賃貸借契約は,賃料額について合意が成立するに至っていないので,賃貸借契約の成否からして問題があるということになりかねないが,賃 ように認定判断した。 (1) 被控訴人・控訴人間における本件建物の賃貸借契約は,賃料額について合意が成立するに至っていないので,賃貸借契約の成否からして問題があるということになりかねないが,賃料額を「公正な額」とする限りでは合意ができており,賃料の具体的な額について協議が調っていないだけと見ることが相当である(当事者が契約の成立自体を争わないのはその趣旨であろう。)。 (2) このような場合には,裁判所が,借地借家法における賃料増減請求における判断と同様の判断をした上で,具体的な「公正な(賃料)額」を定めることになるべきものというほかなく,本件合意書4項もこれを予定しているものと解される。 (3) 本件において,裁判所が具体的な賃料額を定めるためには,市場価格を基本としつつ,本件賃貸借契約に至る経緯,契約内容等について,主観的,客観的要素を総合考慮すべきものであり,いわば非訟事件と同様の手法を採ることが相当である。市場価格以外の要素をも考慮するということは,当事者間における賃料額決定の交渉において念頭に置かれる一定の幅のある賃料額の範囲から,裁判所が,合理的な裁量により相当賃料額を決定するということにほかならない。そして,市場価格については,専門的知見を有する鑑定人による鑑定の結果を吟味,検討し,その他の要素については別途検討を加えることが必要である。 (4) 鑑定人Bは,本件建物の相当賃料額を次のように鑑定した。その算定方法等は,合理的で信頼することができる。 ア第1価格時点(平成4年6月10日)の新規賃料実質賃料月額を,原価法による基礎価格に期待利回りを乗じて得た額に必要経費等を加算する積算法により4350万1000円と,類似の賃貸事例と比較して比準賃料を査定する賃貸事例比較法により3924万2000円と算定 ,原価法による基礎価格に期待利回りを乗じて得た額に必要経費等を加算する積算法により4350万1000円と,類似の賃貸事例と比較して比準賃料を査定する賃貸事例比較法により3924万2000円と算定した上,比準賃料を重視して4070万円と査定し,保証金・敷金32億円の運用利率を年6%として運用益を控除した支払賃料を月額2470万円とした。 イ第2価格時点(平成6年6月10日)の継続賃料差額配分法,利回り法,スライド法及び賃貸事例比較法により,月額2430万円(運用利率を年4.4%として実質賃料3600万円)ウ第3価格時点(平成8年6月10日)の継続賃料同様の方法により,月額2310万円(運用利率を年3%として実質賃料3110万円)エ第4価格時点(平成10年6月10日)の継続賃料同様の方法により,月額2120万円(運用利率を年2.4%として実質賃料2760万円)(5) 本件建物の賃貸借については,市場価格以外の考慮すべき要素として,①本件ビルの敷地を提供したことによる被控訴人の本件事業に対する貢献度,②本件ビルの別の区分所有床に関するITB・東武百貨店間の賃料には,東武百貨店の売上額が一定額を超えた場合の歩合賃料が含まれており,これが固定賃料の約4~18%であること,③本件建物と同じ本件ビルの3階部分で本件建物に隣接し東武美術館として使用されている国際観光興業株式会社の区分所有床については,国際観光と控訴人間の賃貸借契約に,賃料を3年ごとに2割増額する旨の合意があることが挙げられる。このうち①②の要素は賃料額算定に反映されるべきであり,上記第1価格時点の市場価格月額2470万円に5%を加算して,賃貸借契約開始時の賃料額を月額2593万5000円とすることが相当である。 (6) なお,上記鑑定に従って 算定に反映されるべきであり,上記第1価格時点の市場価格月額2470万円に5%を加算して,賃貸借契約開始時の賃料額を月額2593万5000円とすることが相当である。 (6) なお,上記鑑定に従って2年ごとに賃料額を減額すべきではないかとも考えられるが,①控訴人・東武百貨店間の本件建物の転貸借の賃料額が据え置かれているので,被控訴人・控訴人間の衡平の観点から適切ではないこと,②上記(5)の③の点によれば,これと逆に減額するのは著しく均衡を失すること,③本件建物の賃貸借開始後に控訴人から賃料減額請求がされたことはないことによれば,賃貸借開始後の事情の変化による賃料の改定は,本判決後の被控訴人・控訴人間の協議にゆだねるのが相当である。 (7) そうすると,本件建物の相当賃料額は,平成4年6月1日以降現在まで1か月2593万5000円と認めるのが相当である。 3 控訴人の当審における追加主張控訴人の控訴の理由は,概要次のとおりである。 (1) 原判決が鑑定価格(市場価格)に5%の加算をしたことには合理的な理由がない。 すなわち,上記2(5)の①の被控訴人の貢献度を考慮すべきであるとの点は,既に本件事業における取得床面積や建設費負担額をめぐって別件訴訟の和解手続で解決済みであり,本件賃貸借契約の個別的な賃貸借条件についてこれを考慮しなければならないとの合理的理由はない。また,同じく②の歩合賃料の点は,原判決がこれを固定賃料の約4~18%であるとするのは,東武百貨店池袋店全体の売上額をそのまま用い,ITB・東武百貨店間の賃貸借による店舗面積が全体の16.57%であることを考慮しない誤った計算によるものであり,これを正しく計算すれば,固定賃料の0.7~3.1%であるにすぎない。 (2) B鑑定が保証金・敷金の運用利率を年6%としたのは事後的 16.57%であることを考慮しない誤った計算によるものであり,これを正しく計算すれば,固定賃料の0.7~3.1%であるにすぎない。 (2) B鑑定が保証金・敷金の運用利率を年6%としたのは事後的な判断であり,控訴人が交渉時にこれを7%としたことには合理的根拠があった。 (3) 原判決が賃貸借開始時の賃料額を判決言渡し時まで減額修正しなかったことは誤りである。すなわち,上記2(6)の①の転貸賃料の点は,原審が予想外に長期化したために改定の機会を失したのであり,それでも平成11年4月には大幅に減額修正した。いずれにせよ,相当賃料額を算定するに当たって転貸賃料を云々するのは本末転倒である。同じく②の国際観光の賃料の点は,年々賃料相場が低下している中でバブル期に取り交わされた合意を相当賃料額算定の一根拠とするのは,採証法則を誤るものである。また,同じく③の控訴人が減額請求をしなかったとの点は,本件においては弁論の全趣旨からして当事者がいずれも基本的に2年ごとの相当賃料確認を求めていることが明らかであり,控訴人はこの間常に鑑定額より低い金額が相当賃料額であると主張してきたのであるから,各時点において改めて減額請求をする必要はなかった。原審の長期化には別件訴訟の和解待ちという面もあったが,原判決は,訴訟の長期化による不利益を控訴人のみに一方的に強いるものである。 4 被控訴人の当審における追加主張被控訴人の附帯控訴の理由は,概要次のとおりである。 (1) 原判決は,まず鑑定によって得られた市場価格を中心に置き,賃貸借契約に至る経緯,契約内容等のうちから賃料額を左右する要素を抜き出し,最終的には裁判所の合理的な裁量を加えて賃料額を決定するという方法を採った。しかし,これは本件紛争の本質にそぐわないものであり,理論的誤りがある。本件は,いわ うちから賃料額を左右する要素を抜き出し,最終的には裁判所の合理的な裁量を加えて賃料額を決定するという方法を採った。しかし,これは本件紛争の本質にそぐわないものであり,理論的誤りがある。本件は,いわば賃貸借契約を成立させる裁判という性格を有しているのであるから,具体的賃料額の決定方法は,両当事者が実際に賃料額を合意してゆく過程にできるだけ沿ったものとすべきである。本件においては,貸主たる被控訴人にとって借主選択の自由はなく,借主たる控訴人にとって他の代替物件は存しないのであるから,本件建物に一般市場価格が成立する余地はない。 (2) 本件において正しく賃料額を決定するためには,裁判所は,①両当事者にそれぞれの主張額の理由,根拠を主張立証させ,証拠資料に照らし,また,当事者の訴訟態度等から,双方の主張額の適正さを検討・評価し,②次に,鑑定の証拠価値を確かめた上で,これを両当事者の主張する賃料額の適正さの判断資料とするという手順によるべきであり,これが本件合意書4項の趣旨に合致する。 (3) 上記(2)の①については,被控訴人の主張額は,不動産賃貸事例の調査については第一人者とされる株式会社生駒データサービスシステムの報告に基づくものであり,その後,高島屋新宿店の支払賃料が売上高の15%という簡単明瞭な方法で決められていることが明らかになり(これを本件建物に当てはめると月額7125万円となる。),また,本件ビル内の国際観光の賃貸においては3年ごとに20%増とされていることが明らかとなった。他方,控訴人は,ITB・東武百貨店間の賃貸借の賃料と同一水準であるとし,三井信託銀行作成の鑑定評価書を提出するほかは,被控訴人の度重なる要求にもかかわらず,その根拠を示す証拠資料を何ら提出しない。 (4) 上記(2)の②については,B鑑定は,積算賃料 準であるとし,三井信託銀行作成の鑑定評価書を提出するほかは,被控訴人の度重なる要求にもかかわらず,その根拠を示す証拠資料を何ら提出しない。 (4) 上記(2)の②については,B鑑定は,積算賃料より低額の比準賃料を重視して鑑定価格を算出しているが,本件建物は,借主たる控訴人にとって代替性はなく,是が非でも賃借しなければならないのであるから,本件賃料額を認定するのに比準賃料を考慮する必要はなく,積算賃料が最低賃料額となるべきである。そうすると,B鑑定によれば,積算賃料4350万1000円から運用益1600万円を控除した月額2750万1000円の限りにおいて,貸主たる被控訴人の提示額の適正さが証明されたことになる。そして,B鑑定には,百貨店賃料の特殊性の評価が欠落している。上記高島屋の例により売上高の15%を賃料とすれば,本件建物については,上記の月額7125万円から運用益を控除しても月額5525万円となる。よって,これらによれば,被控訴人の主張する月額4652万2900円の適正さが証明される。 (5) 国際観光・控訴人間の賃貸借において3年ごとに2割増の約定があることを被控訴人は別件訴訟において知り得たが,控訴人はその履行状況を明らかにしようとしない。このような不当な行為を是認しないためにも,本件賃料についても3年ごとに2割増を認めるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 問題の所在と当事者双方の主張(1) 問題の所在本件は,区分所有建物の賃貸借について,賃貸人となるべき者と賃借人となるべき者との間において,賃貸借を行うことの基本的合意は成立しているものの,具体的な賃料額について合意に達せず,「公正な額で決定をする」との抽象的な合意がされるにとどまった場合において,賃貸人が賃料額の確認を求めて出訴したという事件である。すなわ 合意は成立しているものの,具体的な賃料額について合意に達せず,「公正な額で決定をする」との抽象的な合意がされるにとどまった場合において,賃貸人が賃料額の確認を求めて出訴したという事件である。すなわち,被控訴人の本訴請求は,賃貸借の新規賃料の額について当事者の合意が成立していない場合に,裁判所が司法判断によってこれを決定することができるという見解に立脚しているということができる。 しかし,賃貸借の新規賃料について合意が成立しない場合に,賃貸借の当事者に賃料額についての形成権を付与するような実定法上の規定は見当たらないのであって,このような場合に,裁判所が賃料額を認定し確認することがそもそも可能なのか,という疑問を生ずるところである。 この点について,当事者双方は,裁判長の釈明に答え,これが可能であるとして,概要次のように主張した。 (2) 控訴人の主張裁判を受ける権利が保障されていること(憲法32条)からすれば,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるかどうかは,形式的・画一的に解釈するのではなく,裁判所の紛争解決機能を十全に発揮し得るように柔軟に解釈すべきである。本件においては,賃貸借契約が成立していることは当事者間に争いがなく,賃料額についても「公正な額」に従うとの基本的合意が成立している。そして,具体的な額について争いがあるのであって,これを裁判所が確定し得る旨の直接的規定はないが,何らかの規定を類推適用してでも当該「法律上の争訟」を解決することが裁判所に要請されている。 この場合,借地借家法11条等の類推適用も考えられないわけではないが,最も近似する民法388条ただし書を類推適用すべきである。判例も,任意の賃貸借契約において賃料額が確定していない場合について,この規定を類推適用することを認めている(最高裁判所第二 わけではないが,最も近似する民法388条ただし書を類推適用すべきである。判例も,任意の賃貸借契約において賃料額が確定していない場合について,この規定を類推適用することを認めている(最高裁判所第二小法廷昭和36年9月29日判決・民集15巻8号2228頁)。 (3) 被控訴人の主張原判決は,借地借家法における賃料増減額請求の規定を類推適用したものである。この類推適用は,以下の理由により可能である。 ア本件賃貸借は,賃料額こそ合意されていないが,建物建設の前から継続的な賃貸借が合意され,本件建物が使用に供されてから10年近くが経過している。裁判所において本件賃貸借の賃料額を決定することは,既存の賃貸借関係を保護するという賃料増減額請求制度の目的と完全に重なり合う(事実関係の相似性)。 イ仮に本件において賃料額を決めることができなければ,本件賃貸借をめぐる紛争は,賃貸借契約の存否,立ち退き,当事者間でやり取りされた金銭の処理などについて泥沼の状況を呈することは目に見えている。本件賃料額を判定して賃貸借契約の安定的存続を図ることが,紛争解決という社会的な役割・課題に答える司法の務めであるから,類推適用の必要性(類推適用されない場合の弊害)がある。 ウ不動産の適正な賃料額を定めるについて,裁判所は豊富な経験を有しているから,類推適用の可能性(能力)がある。 エ賃料増減額請求ではなく当初賃料であっても,裁判所がこれを決定することを禁ずる規定は借地借家法には含まれておらず,これを類推適用することに法的相当性がある。 2 合意のない新規賃料額の確認を訴求することの可否(1) 賃貸借契約の成否について賃料額の合意は賃貸借契約を構成する本質的な要素であるから,その合意が未成立である場合には賃貸借契約もまた未成立であ のない新規賃料額の確認を訴求することの可否(1) 賃貸借契約の成否について賃料額の合意は賃貸借契約を構成する本質的な要素であるから,その合意が未成立である場合には賃貸借契約もまた未成立であるとするのが,理論上の原則である。しかし,賃料の具体的金額の合意には至っていなくても,甲が乙に目的物の使用収益をさせることを約し,乙がこれに賃料を支払うことを約したのであれば,具体的な賃料額の確定が可能である限りは,乙に目的物を使用収益する権原がある(不法占有ではない)と解して差し支えないと思われる。 最高裁判所第一小法廷昭和37年3月15日判決(裁判集民事59号321頁)は,建物収去土地明渡請求の事案について,「本件土地を,建物所有の目的をもつて期間を定めず,賃料はいまだ具体的には協定しなかつたが,客観的に確定し得べき相当賃料額をもつて賃貸したものであること,このような場合,たとえ,賃料が具体的にきまらなくても,賃料額を客観的に確定し得べき基準につき合意があれば,賃貸借は有効に成立するものと解すべきである」とした原審の判断を是認した。また,最高裁判所第二小法廷昭和37年8月3日判決(裁判集民事62号55頁)も,家屋明渡請求の事案について,「賃料額の具体的約定はついになされなかつたのではあるが,当事者間に社会通念上相当とせられる対価を支払うべき合意があつたことを認定するに十分であるというのであり,……このような場合には,当事者間に賃貸借契約が有効に成立したものと解すべきである」とした。 したがって,判例は,賃料の具体的金額の合意には至っていなくても,そのことゆえに賃貸借契約の成立を否定するものではないということができるのであるが,この二つの判例は,いずれも目的物の明渡請求に対して乙の占有権原を認めたものであって,甲による賃料の支払請求あるいは のことゆえに賃貸借契約の成立を否定するものではないということができるのであるが,この二つの判例は,いずれも目的物の明渡請求に対して乙の占有権原を認めたものであって,甲による賃料の支払請求あるいは甲又は乙による賃料額の確認請求に関するものではないことに留意する必要がある。また,上記3月15日判決が「賃料額を客観的に確定し得べき基準につき合意があ」ることを要求していることにも留意する必要がある。この点,上記8月3日判決にはその旨の明示の限定がないが,3月15日判決と異なる趣旨をいうものではないと解される。 本件においては,賃料の具体的金額の合意には至っていないが,賃料額の決定については本件合意書4項の限度で合意が成立しており,被控訴人を賃貸人,控訴人を賃借人とする賃貸借契約が成立していること,したがって,平成4年6月以降の控訴人による本件建物の使用(東武百貨店への転貸)が不法占有ではないことを,ひとまずは肯定してよいと考えられる。ただし,この点については,後記3(2)で更に言及することとする。 (2) 「確認」の対象被控訴人の本訴請求は,賃料額の「確認」である。この「確認」とは何を意味するのか。 「確認」という以上は,既に客観的に存在している賃貸借契約関係の構成要素である賃料額について,裁判所がこれを証拠によって認定することを意味するはずである。ただし,「確認」という語を用いていても,既に客観的に存在している法律関係の確認を求めるのではなく,裁判所が実質上の非訟事件として新たに法律関係を形成することを求めているものと解する余地もある。 前者であるとすれば,契約当事者の合意によって定まるべき賃料額が,当事者の具体的な金額の合意がまだないにもかかわらず,証拠によって認定し得るものとして客観的に存在しているということができるのかが問題とな であるとすれば,契約当事者の合意によって定まるべき賃料額が,当事者の具体的な金額の合意がまだないにもかかわらず,証拠によって認定し得るものとして客観的に存在しているということができるのかが問題となる。また,後者であるとすれば,そのような実質上の非訟事件を規定する実定法上の根拠が存在するのか,あるいは,実定法上の根拠なくして裁判所がそのような裁判をすることが許されるのかが問題となる。 (3) 証拠によって認定し得るものとしての合意に基づく賃料額が存在するのかア賃貸借契約における賃料額の定めは,飽くまでも契約当事者の合意によるのであって,賃料を統制する法令があるような場合を除いては,賃貸人又は賃借人がその意に反して賃料額を強制されることはない。したがって,賃料額の確認を求める訴訟における判決によってであっても,合意に基づかない賃料額を契約当事者に強制することは許されない。 そこで,金〇〇円という具体的金額の合意がなくても,合意に基づくものとして賃料額を認定し得る場合があるかどうかが問題となるが,上記の最高裁昭和37年3月15日判決にいう「賃料額を客観的に確定し得べき基準につき合意があ」るのであれば,このような場合に当たるといえよう。例えば,前年の固定資産税額の何倍というように,客観的に得られる資料から具体的な金額が一義的に導かれるような場合である。そこまで一義的でなくても,ほぼ議論の余地なく具体的な金額が導かれる場合であれば,これも,合意に基づくものとして賃料額を認定し得る場合であるとすることが可能であろう。また,例えば,双方に異存のない不動産鑑定士の鑑定評価に従うという合意があるのであれば,賃料額の確認を求める訴訟において裁判所の選任する鑑定人の鑑定評価に従えば足りるという意味で,これも「賃料額を客観的に確定し得べき基準につき い不動産鑑定士の鑑定評価に従うという合意があるのであれば,賃料額の確認を求める訴訟において裁判所の選任する鑑定人の鑑定評価に従えば足りるという意味で,これも「賃料額を客観的に確定し得べき基準につき合意があ」る場合に当たるとする余地がないではなかろう(実定法に根拠のない実質上の非訟事件の創設であるという非難を避けられないであろうが)。 しかし,例えば「誠実に協議し,公正妥当な賃料額を定めるものとする」といった抽象的な合意しかないような場合には,「賃料額を客観的に確定し得べき基準につき合意があ」るとは到底いえないのであって,このような場合には,裁判所は,鑑定その他の証拠調べによって賃料として客観的に相当な額を認定判断することが可能であっても,これを契約当事者の合意に基づくものとしての賃料額と認定することはできないといわざるを得ないのである。 イこれを本件について見ると,本件建物の賃料の額について,賃貸人たるべき被控訴人と賃借人たるべき控訴人との間に成立した合意は,本件合意書4項に記載するところにとどまる。すなわち,「それぞれ調査・研究する」「信用ある第三者の専門家に調査を依頼し,それを持ち寄る」「これらを尊重し,誠意をもって協議する」「公正な額で決定をする」といった極めて抽象的な内容である。その中では「信用ある第三者の専門家に他の類似の百貨店の賃貸条件の調査を依頼する」という箇所が多少とも具体性を帯びているが,これも,第三者の専門家の調査による他の類似の百貨店の賃貸条件数例が証拠によって認定されたとしても,そのいずれかが本件における賃料額の合意となるわけのものではない。 本件において「賃料額を客観的に確定し得べき基準につき合意があ」るとはいえないことは,賃貸人である被控訴人の方では,そもそも本件において一般市場価格が成立する余地 合意となるわけのものではない。 本件において「賃料額を客観的に確定し得べき基準につき合意があ」るとはいえないことは,賃貸人である被控訴人の方では,そもそも本件において一般市場価格が成立する余地はないから,比準賃料を考慮する必要はなく,敷地提供についての被控訴人の貢献度を考慮すべきであり,また,歩合賃料についての高島屋新宿店の例や3年ごとに2割増額の国際観光の例にならうべきであるなどと主張し,他方,賃借人である控訴人の方では,比準賃料を重視して市場価格を算出したB鑑定の結果に,敷地提供についての被控訴人の貢献度を考慮して更に加算をするという合理的理由はなく,また,年々賃料相場が下落しているのだから,2年ごとに減額修正をするのが当然であるなどと主張していることからも明らかであろう。本件においては,賃料額について,具体的金額の合意には達していないもののこれに達すべき基準については合意が成立しているなどというものではなく,実は,ほとんど何の合意も成立していないといっても過言ではないのである。 したがって,本件合意書4項の合意だけでは,裁判所が,被控訴人と控訴人の合意に基づくものとして客観的に存在する具体的な賃料額を認定するということは不可能であるというほかはない(被控訴人は,附帯控訴理由書において,原判決の結論は貸主にとって誠に厳しいものであり,裁判所には「百貨店賃料」という特殊な形態の賃貸借契約は全く分かっていただけないとのあきらめに似た絶望感から控訴を断念したが,図らずも原審被告によって控訴がされたので附帯控訴を提起したなどと述べているが,実は,本件においては,合意に基づくものとして賃料額を認定するということ自体が不可能だったのである。)。 (4) 借地借家法32条の類推適用契約当事者による具体的金額の合意がなくても,実定法上の根拠 本件においては,合意に基づくものとして賃料額を認定するということ自体が不可能だったのである。)。 (4) 借地借家法32条の類推適用契約当事者による具体的金額の合意がなくても,実定法上の根拠があれば,例えば一方当事者の意思表示のみによって具体的な賃料額が定まり,裁判所が証拠によってこれを認定することが可能となる。被控訴人が類推適用を主張する借地借家法の規定がその例である。 借地借家法32条は,建物の賃貸借について,賃料が経済事情の変動等によって不相当となったときは,賃貸借契約の当事者は,将来に向かって賃料額の増減を請求することができ,当事者間に協議が調わないときは,裁判をもって増額・減額の当否を決するものとしている(借地についての同法11条も同様)。これは,既に成立していて相当期間を経過した賃貸借について,賃料額が客観的に不相当となっても,当事者の合意がない限りその額の増減がされないのでは,増減によって不利益を被る当事者が拒否すれば不相当な額のまま据え置かれることとなってしまうので,一方当事者に増減請求の形成権を付与し,形成権行使の結果としての賃料額を裁判所が契約当事者間の訴訟において認定し,確認又は給付の判決をすることとしたのである。この規定が継続賃料のみを対象としていることは,その文言から明らかであり,借地借家法が新規賃料については一方当事者にこのような形成権を付与しなかったことも明らかである。既に賃貸借契約関係に置かれている契約当事者については,賃料額の改定は合意に基づくことを要するという原則に修正を加えなければ,不相当となった賃料額を一方当事者に強制することとなってしまうが,新規賃料については,賃料額の合意が成立しなければ賃貸借契約関係を開始させなければいいだけのことだからである。 したがって,本件において借地借家法3 料額を一方当事者に強制することとなってしまうが,新規賃料については,賃料額の合意が成立しなければ賃貸借契約関係を開始させなければいいだけのことだからである。 したがって,本件において借地借家法32条を類推適用して賃料額の合意がなくても裁判所が賃料額を認定することができるとの被控訴人の主張は,到底これを採用することができない。 (5) 実質上の非訟事件として扱うことの可否ア実定法上の根拠規定の有無裁判所が、既に客観的に存在している法律関係を確認するのではなく,訴訟事件又は非訟事件として裁量により新たに法律関係を形成することは、そのような権限を裁判所に付与する実定法上の根拠があれば許される(裁判所法3条1項の「法律において特に定める権限」である。)。しかし、賃貸借契約における新規賃料の額については,契約当事者の合意又は一方当事者の形成権に基づかずに訴訟事件又は非訟事件としてこれを決定する権限を裁判所に付与するという実定法上の根拠規定は存在しない。 イ民法388条ただし書の類推適用この点について,控訴人は,民法388条ただし書の類推適用により,賃貸借契約における新規賃料の額を裁判所が定めることができると主張する。 民法388条ただし書は,法定地上権が成立する場合に,その地代は当事者の請求により裁判所がこれを定めるとするものである。これは,法定地上権が土地所有者と地上権者の契約に基づかずに成立するために,法定地上権の成立によって地代支払の権利義務が発生しても,その額が合意によって定められることは必ずしも期待し得ないことから,特に裁判所にこれを定める権限が付与されたものであり,この規定に基づく地代確定請求(地代を定める訴え)は,実質上の非訟事件であると解される。本件において,この規定を類推適用することが可能であろうか。 に裁判所にこれを定める権限が付与されたものであり,この規定に基づく地代確定請求(地代を定める訴え)は,実質上の非訟事件であると解される。本件において,この規定を類推適用することが可能であろうか。 控訴人が引用する最高裁判所第二小法廷昭和36年9月29日判決(民集15巻8号2228頁)は,賃貸借の目的たる家屋の一部が譲渡され,借家法1条1項により賃借人と譲受人間にその一部につき賃貸借の効力を生じたにもかかわらず,当事者の合意等により賃料が確定しない場合には,当事者の請求により裁判所がこれを定め得るものと解するのが相当であるとした。これは,民法388条ただし書を類推適用したものであると解される。 この場合には,新たに賃貸借関係が成立するのではなく,家屋の譲渡人の有していた賃貸人たる地位を借家法1条1項により譲受人が承継するのであるが,それが一部の承継であるためにその部分についての賃料額が未定・不明であり,賃借人と譲受人との契約によって成立した賃貸借関係ではないためにその一部についての賃料額がその両者の合意によって定められることは,やはり必ずしも期待し得ないのである。したがって,賃貸建物が一部譲渡された場合の賃料額については,民法388条ただし書を類推適用するための事実関係の相似性,類推適用の必要性と可能性等が十分に備わっており,これを類推適用することが相当であると考えられるのである。 しかし,本件は,賃貸人・賃借人(所有者・地上権者)の関係となるべき者の合意に基づかずに借地・借家関係が成立する場合ではなく,専ら被控訴人と控訴人の合意(賃貸借契約の締結)によって賃貸借関係が成立する場合であるから,賃料額の合意が成立しないのであれば,賃貸借契約を締結しなければよいだけのことなのである。 したがって,本件のような場合は,上記判例のケースと異なり 締結)によって賃貸借関係が成立する場合であるから,賃料額の合意が成立しないのであれば,賃貸借契約を締結しなければよいだけのことなのである。 したがって,本件のような場合は,上記判例のケースと異なり,民法388条ただし書の適用される場合とは事実関係が根本的に相違し,類推適用の基盤を欠くものといわざるを得ないのであって,これを類推適用すべきであるとの控訴人の主張は採用することができない。 3 まとめと関連問題(1) 本件訴えの適法性上記2において検討したところによれば,賃料額について本件合意書4項の程度の抽象的な合意しか成立していない本件においては,裁判所が合意に基づく賃料額を証拠によって認定することは不可能であり,また,一方当事者に賃料額を定める形成権が付与されていると解すべき実定法上の根拠は存在せず,実質上の非訟事件として裁量により賃料額を定める権限が裁判所に付与されていると解すべき実定法上の根拠もまた存在しないのである。 ところで,裁判所は,一切の法律上の争訟を裁判する権限を有する(裁判所法3条1項)のであるが,ここで「法律上の争訟」とは,法主体間の具体的権利義務に関する争いであって,法令の適用により終局的に解決し得べきものを意味すると解される(兼子一=竹下守夫・裁判法〔第四版〕66頁以下参照)。本件の紛争は,「法主体間の具体的権利義務に関する争い」ではあるが,賃料額について本件合意書4項の程度の抽象的な合意しか成立していないという被控訴人(原告)主張の事実関係の下においては,既に検討したように,現行の実定法のいずれを適用しても具体的な賃料額を確認するという結論を得られないのであるから,「法令の適用により終局的に解決し得べきもの」には当たらないというべきであろう。 すなわち,本件訴えは,「法律上の争訟」に当たらず,また, 体的な賃料額を確認するという結論を得られないのであるから,「法令の適用により終局的に解決し得べきもの」には当たらないというべきであろう。 すなわち,本件訴えは,「法律上の争訟」に当たらず,また,これについて裁判所が「その他法律において特に定める権限を有する」(裁判所法3条1項)わけでもないから,結局,裁判所は,現行法上,本件訴えについて実体裁判をする権限を有しないというほかないのである。 したがって,本件訴えは,裁判所の権限に属しない事項について裁判を求めるものとして不適法であり,却下を免れない。 (2) 関連問題の補足ア本判決の主文に至るためには以上の検討をもって足りるのであるが,裁判によっては本件建物の賃料額が決しないとすると,賃料額の合意が成立しない場合に被控訴人・控訴人間における本件建物の賃貸借関係がいかなることになるのかという当事者の最大関心事に言及しないのは,やや適切を欠くようにも思われる。そこで,以下において問題の所在を指摘することとするが,これは本判決においては傍論であるにすぎない。 本件建物の賃料額は,被控訴人と控訴人の合意によって定めるほかはない。裁判所に下駄を預けることはできないという前提の下に,経済人としての合理的な判断に基づいて交渉を重ねることになろう。それでも合意に達しない場合にはどうなるのか。 イ前記2(1)において,本件においては,賃料の具体的金額の合意には至っていないが,賃料額の決定については本件合意書4項の限度で合意が成立しており,被控訴人を賃貸人,控訴人を賃借人とする賃貸借契約が成立していること,したがって,平成4年6月以降の控訴人による本件建物の使用(東武百貨店への転貸)が不法占有ではないことを,ひとまずは肯定してよいと考えられると述べた。しかし,実は賃料額についてはほとんど ていること,したがって,平成4年6月以降の控訴人による本件建物の使用(東武百貨店への転貸)が不法占有ではないことを,ひとまずは肯定してよいと考えられると述べた。しかし,実は賃料額についてはほとんど何の合意も成立していないといっても過言ではないのであるから,賃貸借契約が成立しているという法的評価そのものにも疑問を差し挟む余地があろう。ただ,被控訴人と控訴人との間では本件建物の賃貸借関係を成立させようとすることは当然の前提となっており,具体的賃料額の合意に達しなかったために見切り発車の形にはなったが,控訴人が賃借人として本件建物を使用する(東武百貨店に転貸する)こと自体は,被控訴人も容認するところだったのであるから,少なくとも,控訴人に占有権原があり不法占有ではなかったことは肯定すべきであろう。 ウしかし,控訴人は自らが相当と考える額の賃料を暫定的に支払っているだけであり,裁判によって本件建物の賃料額を決することはできないのであるから,被控訴人・控訴人間で賃料額の合意に達しないにもかかわらず,控訴人にいつまでも本件建物の占有権原があるとすることは不合理である。そうすると,いったん賃貸借契約が成立していると解したとしても,相当期間内に賃料額の合意に達しなかった場合にはこれによって賃貸借契約が解除される,言い換えれば,相当期間内に賃料額の合意に達しないことを解除条件として賃貸借契約が成立していたものと構成することが考えられよう。あるいは,賃貸借契約は成立に至っていなかったが,賃料額の合意に達するまでの相当期間内の占有権原が暫定的に設定されたのであり,その相当期間の終了という不確定期限の到来によって占有権原が消滅すると構成することも考えられよう。 そして,どの程度の期間が相当期間であるかは,一般にはその事案における諸般の事情を勘案して決 あり,その相当期間の終了という不確定期限の到来によって占有権原が消滅すると構成することも考えられよう。 そして,どの程度の期間が相当期間であるかは,一般にはその事案における諸般の事情を勘案して決することになろう。本件においては,占有の開始から既に9年余りの年月が経過しているのであるが,本件訴訟の経緯や両当事者のこれまでの主張等にかんがみると,本判決が確定してから相当期間(例えば1年)の経過によって控訴人の占有権原が消滅するというのも一つの考え方であろう。 エ上記のようにして占有権原が消滅したときは,控訴人は,被控訴人に対し,本件建物の明渡義務を負い,その後の占有については賃料相当損害金の支払義務を負うことになる。この損害金の額は,本件建物賃料の市場価格によるべきものであろう。そして,占有権原消滅までの間の占有の対価である「賃料」についても,結局賃料額の合意に至らなかったのであるから,控訴人には上記の賃料相当損害金と同等の額の「賃料」の支払義務があるとするのが妥当ではなかろうか。これらの金額は,合意に基づくものではないから,裁判所が鑑定等によって市場価格を認定することによってこれを定め得ることはいうまでもない。 第4 結論以上によれば,本件訴えは不適法であるから,原判決を取り消して本件訴えを却下することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部裁判長裁判官近藤崇晴裁判官宇田川基裁判官加藤正男

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