平成15(ワ)17487 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成18年12月11日 東京地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-80273.txt

判決文本文22,412 文字)

平成18年12月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(ワ)第17487号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年9月4日判決主文 被告A及び同Bは,各自,原告Cに対し金110万円,同D及び同Eに対し各金55万円並びにこれらに対する平成15年3月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らの被告A及び同Bに対するその余の請求並びに同Fに対する請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを20分し,その1を被告A及び同Bの連帯負担とし,その余は原告らの負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告らは,各自,原告Cに対し5621万8194円,同D及び同Eに対し各2810万9097円並びにこれらに対する平成15年3月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告Aの開設する病院において左総頸動脈の高度狭窄に対する治療として経皮的血管形成術(PTA・ステント留置術)を受けたところ,ステント留置後にインナーシャフトがステントに引っかかって抜けなくなるという異常事態が生じ,最終的には内膜剥離術を受けた患者が,術後7日目に,これらの手術による侵襲ないし負担に起因する多臓器不全で死亡したことについて, 患者の夫あるいは子である原告らが,担当医師であるその余の被告らに,①頸動脈の狭窄に対する治療法としての経皮的血管形成術が未承認,未確立であって生命に対する危険を伴うことなどを説明しなかった説明義務違反,②前拡張が不十分なままステントを留置したなどの手技上の過失があるなどと主張して,被告らに対し,不法行為(被告Aについては使用者責任)に基づいて,死亡による損害金及びこれに対する患者の死亡日 違反,②前拡張が不十分なままステントを留置したなどの手技上の過失があるなどと主張して,被告らに対し,不法行為(被告Aについては使用者責任)に基づいて,死亡による損害金及びこれに対する患者の死亡日からの民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 前提事実(証拠原因により認定した事実については,かっこ書で当該証拠原因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者等(,。)ア原告CはG昭和14年○○月○○日生平成15年3月18日死亡の夫であり,原告D及び同EはGと原告Cとの間の子である。 イ被告Aは,新潟県長岡市内において「H病院」という名称の病院(以下「被告病院」という)を開設している。 。 被告B及び被告Fは,いずれも平成15年3月当時に被告病院の脳神経外科に勤務していた医師である。 医師であるI(以下「I医師」という)は,平成15年3月当時,J。 大学脳研究所脳神経外科に勤務し,日本脳神経血管内治療学会が認定した認定指導医(脳血管内治療の専門家をめざす医師を指導する十分な実力があると同学会から認定された医師)であった。 (2)Gが被告病院において手術を受けるに至った経緯(乙A1,2,弁論の全趣旨)アGは,昭和54年3月ころから,被告病院内科を受診し,心肥大,高血圧症等の診断を受けて,利尿剤と降圧剤の投与を受けるなどしていた。 また,Gは,平成元年8月,頚部から後頭部にかけての痛みを訴えて被,,,告病院脳神経外科を受診し高血圧症後縦靱帯骨化症との診断を受けて 以後,外来通院で鎮痛剤投与等の治療と経過観察を受けており,平成8年11月には,MRA検査により左総頸動脈の高度狭窄を来していると診断されていた。 さらに,Gは,平成11年1月,被告病院において心エコー検査等を受 で鎮痛剤投与等の治療と経過観察を受けており,平成8年11月には,MRA検査により左総頸動脈の高度狭窄を来していると診断されていた。 さらに,Gは,平成11年1月,被告病院において心エコー検査等を受けて大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全と診断され,以後,循環器内科にも通院して治療と経過観察を受けていた。 そして,Gは,平成14年ころになると,後縦靱帯骨化症の影響で手のしびれ,両上肢の脱力及び両手指の筋肉の萎縮が認められるようになったため,被告病院医師から手術の必要性があると診断されていた。他方,Gは,同年12月11日,急性うっ血性心不全を発症して被告病院循環器内科に入院し,平成15年2月6日にいったん退院したが,既往の大動脈弁閉鎖不全が増悪していたことから,人工心肺を用いての弁置換術を要すると診断された。 被告病院脳神経外科におけるGの主治医は被告Bであった。 イ上記のとおり,Gについては,平成15年2月時点において,後縦靱帯骨化症,大動脈弁閉鎖不全の既往があり,そのいずれについても外科的手術を要する状態にあった上,高血圧症を合併しており,また,大動脈弁閉鎖不全の治療として弁置換術を実施するに際しては体外循環を併用した手,,術となることから各手術の周術期における脳梗塞の発症を予防するため左総頸動脈に認められていた高度狭窄(血管の約90パーセントに狭窄が生じており,同疾患だけでも重篤な状態にあった)についても併せて治。 療を行う必要が生じていた。 そのため,被告病院の内科,胸部外科,脳神経外科の各医師らにおいてGの治療方針を検討した結果,まず左総頸動脈の狭窄部について拡張術を行い,血管の拡張を得た後に大動脈弁閉鎖不全の治療として弁置換術を実施し,その術後経過を踏まえて後縦靱帯骨化症の治療として頚椎の後弓切 除術を実施するのが相当で 左総頸動脈の狭窄部について拡張術を行い,血管の拡張を得た後に大動脈弁閉鎖不全の治療として弁置換術を実施し,その術後経過を踏まえて後縦靱帯骨化症の治療として頚椎の後弓切 除術を実施するのが相当であるということになり,同年1月下旬ころ,Gに対して上記の旨が説明された。 ウその後,被告病院脳神経外科とJ大学医学部付属病院の脳外科血管内外科グループ医師との間でGの左総頸動脈狭窄の拡張方法について検討がされ,その結果,左総頸動脈の狭窄部位にカテーテルを通しバルーンで狭窄部位を拡張した後にステントを留置するという経皮的血管形成術(PTA・ステント留置術「CAS」ともいう。以下「CAS」という)を。 。 選択することになり,CASに熟達していたI医師が執刀医として手術に参加することになった。 なお,CASの意義及び具体的手技の内容は,後記(6)のとおりである。 エそこで,Gは,平成15年3月10日(以下,同年の日付については年を省略する,CASを受けるために被告病院脳神経外科に入院し,同。)月11日,被告病院においてCASを受けた(以下,同日にGに対して行われたCASを「本件CAS」という。 。)(3)本件CASの概要及びGの死亡に至る経緯等(乙A1,2,証人I,被告F,弁論の全趣旨)ア3月11日の本件CAS午後1時55分に血管撮影室に入室し,全身麻酔の施行後,午後2時3(,「」。)0分からI医師及び被告F以下この両名を併せてI医師らというの執刀により本件CASが開始された。 I医師らは,全身麻酔下で,右大腿動脈を穿刺してガイディングシースカテーテルを挿入し,内頸動脈にバルーン付きガイドワイヤーを留置し,IVUS(血管内超音波撮影装置)で狭窄部位やその周辺の血管内径,血管壁の性状を観察しながら,バルーン(膨張時直径 イディングシースカテーテルを挿入し,内頸動脈にバルーン付きガイドワイヤーを留置し,IVUS(血管内超音波撮影装置)で狭窄部位やその周辺の血管内径,血管壁の性状を観察しながら,バルーン(膨張時直径3㎜,長さ40㎜)を用いて血管の前拡張を行った後,ステントを留置した。 そして,ステント留置後にステントデリバリーシステム(ステントを狭窄部位に運搬し留置するための器具のインナーシャフト以下単にイ)(,「ンナーシャフト」という)を抜去しようとしたところ,ステント部分に。 引っかかって抜けなくなるという事態が生じた。 そこで,インナーシャフトを抜去するために左大腿動脈を穿刺してPTA用バルーンカテーテルや冠動脈用バルーンカテーテルを挿入し,狭窄部の後拡張を試みたが,奏功しなかったため,頸動脈内膜剥離術に術式を変更することになり,午後7時25分ころ,手術場に移動した上,全身麻酔下で,左総頸動脈と左内頸動脈についてはテープにより,左外頸動脈にはクリップを掛けて血流を遮断した上で,左総頸動脈の狭窄部位を切開し,ステントとこれに引っかかっていたインナーシャフトを取り出すとともに,狭窄部の内膜を剥離して狭窄を解除し,同月12日午前零時ころに手術を終了して,そのままGはICUに搬送された(以下,同日にGに対して行われた内膜剥離術を「本件内膜剥離術」という。 。)イGは,3月12日,本件内膜剥離術の際に血流遮断のためにテープを掛けた位置にフラップ状の狭窄が認められ,その後,出血傾向が亢進し,同月13日には一時最高血圧が60㎜Hgに低下して,同月15日には急性腎不全,播種性血管内凝固症候群(DIC)を発症し,種々の治療が実施されたものの,そのまま多臓器不全の状態に陥って,同月18日午前7時35分に死亡が確認された。 (4)被告病院に 月15日には急性腎不全,播種性血管内凝固症候群(DIC)を発症し,種々の治療が実施されたものの,そのまま多臓器不全の状態に陥って,同月18日午前7時35分に死亡が確認された。 (4)被告病院におけるGの診療経過は,上記(2(3)のほか,別紙),「診療経過一覧表」記載のとおりである。 (5)Gの死亡原因Gの直接死因は多臓器不全であるが,これは,本件CAS及びこれに引き続く本件内膜剥離術による侵襲ないし負担によってもたらされたものである。 (6)CASの意義及びその手技等(甲B7,乙A6,B9,証人I,弁論の全趣旨)ア本件CASの術式であるPTA・ステント留置術は,狭窄した血管にバルーンの付いたカテーテルを挿入し,バルーンを膨らませて狭窄部を拡張(PTA術)した上で,再狭窄を防止するために金属製のステント(再狭窄が起こらないよう血管壁を内側から支える円筒形の網状構造物)を留置するというものであり,PTA・ステント留置術のうち頸動脈狭窄部の血管拡張を目的として実施される場合の術式については,特に「CAS(CarotidArterialStent 」と称されることがある。 )頸動脈の血管の狭窄を解除する術式としては,CASのほかに,外科的に血管を切開して狭窄部の内膜を剥離,除去して内腔を拡張する内膜剥離術(以下「CEA(CarotidEndarterectomy)ということがある)が」。 ある。CASは,カテーテル操作で経皮的に施行されることから,内膜剥離術に比して,低侵襲であり,また全身麻酔を要せず部分麻酔でも行えること等が利点であるとされている。 イCASは,平成15年当時はもとより,現時点においても,保険診療の対象となっていない,いわゆる未承認の術式であり,また,平成15年策定の「5学会合同脳卒中ガイドラ と等が利点であるとされている。 イCASは,平成15年当時はもとより,現時点においても,保険診療の対象となっていない,いわゆる未承認の術式であり,また,平成15年策定の「5学会合同脳卒中ガイドライン」においても,頸動脈高度狭窄に対する手術の方式としては,内膜剥離術が「行うことが推奨される(症候」性についてはグレードA,無症候性についてはグレードB)とされているのに対し,CASは「行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠はない(グレードC1」とされているなど,医療水準としても未確立の状)態にあった。 ウCASを実施する際の具体的手技としては,バルーンによる狭窄部位の拡張を前提とするところ,この拡張手技には,ステント留置前に行う拡張(以下「前拡張」という)と,ステントを留置してステントデリバリー。 システムのインナーシャフトを抜去した後に,ステントを血管壁に押しつけ,前拡張(及びステントの自己復元力を利用した拡張)で拡張が不十分な部位を正常血管径まで拡張するための拡張(以下「後拡張」という)。 がある。 前拡張については,①ステントデリバリーシステムが狭窄部位を通過できるようにするためであるとする考え方(以下「①の考え方」という)。 と,②これに加えて,後拡張を省いて時間を短縮し,またインナーシャフトの抜去時に先端がステントに引っかかる事故を防止するためでもあるとする考え方(以下「②の考え方」という)がある。前拡張について①の。 考え方を採る者はステントデリバリーシステムが狭窄部位を通過できるだけの拡張を得られればよいとし,②の考え方を採る者は正常血管径まで拡張を行うべきとする。 エ本件CASにおいて使用されたステントは,ジョンソン・エンド・ジョンソン社製のステント(商品名「スマーターフォーティ)であり,ナイ」チノ 考え方を採る者は正常血管径まで拡張を行うべきとする。 エ本件CASにおいて使用されたステントは,ジョンソン・エンド・ジョンソン社製のステント(商品名「スマーターフォーティ)であり,ナイ」チノール(ニッケルとチタンの形状記憶合金)製の自己拡張型ステントである。 原告らの主張(1)説明義務違反ア被告Bは,本件CASの実施に際し,CASが,未承認・未確立の術式であって,カテーテル操作等に伴い生命に危険が生ずる合併症をもたらす危険を有していたのであるから,G及びその家族である原告らに対し,以下の諸事項につき事前に説明をすべき注意義務があった。 ①左総頸動脈の狭窄に対する治療の必要性②CASが未承認・未確立の治療法であり,通常は内膜剥離術が推奨されていること③CASを選択した理由(特に,CASのメリットには内膜剥離術とは 異なり全身麻酔の必要がないことが挙げられるが,本件であえて全身麻酔下でのCASを選択した理由)④被告病院におけるCASの治療実績や合併症発症率⑤CASの具体的内容及び危険性,特に,場合によっては生命に危険を及ぼすこと及びインナーシャフトがステントに引っかかってとれなくなる危険があること⑥CAS以外に選択可能な他の治療法⑦手術を依頼する外部施設の医師の氏名・資格・実績イしかるに,被告Bは,本件CAS前に,G及び原告らに対し「検査の,延長ないし実験台のような簡単な手術で何の問題もない」といった説明をしただけで,上記①ないし⑦の事項の説明を全くしなかった。 (2)手技上の過失ア前拡張が不十分なままステントを留置した過失(ア)CASを実施するに際しては,ステントデリバリーシステムが狭窄部を通過するスペースを確保するとともに,ステントの自己復元力を用いた血管狭窄部の拡張効の確保,後拡張 ままステントを留置した過失(ア)CASを実施するに際しては,ステントデリバリーシステムが狭窄部を通過するスペースを確保するとともに,ステントの自己復元力を用いた血管狭窄部の拡張効の確保,後拡張,デブリ回収,プロテクトバルーンによる内頚動脈の遮断時間の短縮,インナーシャフトの安全な回収(ステントにインナーシャフトが引っかかるなどして抜去不能となることの防止)等を図るため,正常血管径と同じ大きさまで前拡張を行う必要がある(本件CAS当時においては,前記前提事実(6)ウにいう①の考え方ではなく,②の考え方を採用すべきであった。狭窄部位。)に屈曲病変がある場合には,なおさらである。 したがって,CASを実施する医師は,前拡張を行うに際して,十分な拡張効が得られているか否かを確認し,これが得られていない場合には,より内径の大きなバルーンに変更して拡張術を再施行するか,ステント留置を中止する注意義務がある。 (イ)しかるに,I医師らは,上記注意義務を怠り,Gには屈曲病変もあったにもかかわらず,血管造影ないしIVUS等の手段によって狭窄部位の前拡張の程度を正確に確認することなく,せいぜい約3㎜ないし正常血管内腔の約30パーセント程度以下しか前拡張を行わずに,無理矢理ステントを留置して,インナーシャフトをステントに引っかけて抜去不能の状態に陥らせた。 この点,被告らは,I医師らにおいてインナーシャフトが抜去不能となることにつき予見可能性はなかったと主張するが,I医師は,CASの専門医であり,本件と同様の事故報告等についても把握しておくべきであったから,インナーシャフトが抜去不能になることについて予見可能性がなかったとはいえない。なお,被告Fは,3月14日付けの病状説明書(甲A第1号証の9)に「ミス」という記載をするなど,上記の注意義 ったから,インナーシャフトが抜去不能になることについて予見可能性がなかったとはいえない。なお,被告Fは,3月14日付けの病状説明書(甲A第1号証の9)に「ミス」という記載をするなど,上記の注意義務違反があったことを自認した。 イ内膜剥離術実施の遅れI医師らは,本件CASの実施中にインナーシャフトがステントに引っかかって抜去不能となったのであるから,直ちに,CASの手技続行を中止して,ステント及びインナーシャフトを取り出すために内膜剥離術に移行すべき注意義務があった。 しかるに,I医師らは,上記注意義務を怠って,左大腿動脈からレスキューカテーテルを挿入して後拡張及びインナーシャフトの抜去を試みるなどCASの手技を続行し直ちに内膜剥離術に移行することをしなかっ,,た。 ウ内膜剥離術における血管縫合の不備I医師らは,本件内膜剥離術の実施に際して,適切に切開部位の縫合を行うべき注意義務があった。 しかるに,I医師らは,切開した血管を縫合するに際し,針と持針器と の角度を鋭角にするなど不合理な運針動作を行い,また,器械を用いた結紮の際にも左手側の糸を早く引っ張って縫合糸を持針器にからみつかせるなどして,血管縫合に長時間を要し,かつ,その縫合の不十分さにより出血を生じさせて,上記注意義務に違反した。 この点,被告らは,上記の血管縫合は困難で時間を要したところ,これは切開部位の血管壁が硬化している状態にあったためであると主張するが,血管縫合時点では内膜剥離術の実施により硬化した部分は除去されて,。 ,,,いるのであるから上記主張は失当であるなお被告Bは3月14日原告らに対し,血管壁の縫合手技に不手際があったことを自認した。 (3)因果関係ア上記(2)の手技上の過失とGの死亡との因果関係(ア)Gは,本件内膜剥離術 当であるなお被告Bは3月14日原告らに対し,血管壁の縫合手技に不手際があったことを自認した。 (3)因果関係ア上記(2)の手技上の過失とGの死亡との因果関係(ア)Gは,本件内膜剥離術における血管縫合が不全であったために,当該縫合部位からの出血が生じて,失血性ショックに陥り,これに基づく多臓器不全により死亡した。 したがって,上記縫合不全をもたらした上記(2)ウの過失と死亡との間には因果関係がある。 また,上記(2)アの過失がなければ,本件内膜剥離術を実施する必要はなく,これを実施しなければ上記のような縫合不全に起因する死亡はなかったといえるから,上記(2)アの過失と死亡との間には因果関係がある。 (),イ仮に多臓器不全が失血性ショックに基づくものではないとしても以下のとおりである。 Gは,本件CAS及びこれに引き続いて行われた本件内膜剥離術による過度の侵襲ないし負担(長時間の血流遮断等)により,多臓器不全を起こして,これにより死亡した。 上記(2)のアないしウの各過失がなければ,上記のような過度の侵 襲ないし負担による多臓器不全は生じず,これにより死亡することはなかった。 したがって,上記(2)のアないしウの各過失と死亡との間には因果関係がある。 イ上記(1)の説明義務違反とGの死亡との因果関係Gは,上記(1)アの各事項について適切な説明を受けていれば,本件CASを受けることはなかった。そして,前記前提事実(5)によれば,本件CASを受けなければ死亡することはなかったことが明らかである。 少なくとも,上記(1)の説明義務違反によりGの自己決定権が侵害された。 (4)損害ア治療費12万5843円ただし,3月10日から同月18日までの治療費合計イ入院付添費5万8500円3月10日から同月18日まで 義務違反によりGの自己決定権が侵害された。 (4)損害ア治療費12万5843円ただし,3月10日から同月18日までの治療費合計イ入院付添費5万8500円3月10日から同月18日までの9日間,1日当たり6500円ウ入院雑費1万3500円3月10日から同月18日までの9日間,1日当たり1500円エ文書費1万0500円オ逸失利益(家事従事者としての逸失利益)2185万3815円Gは,死亡時63歳の女性であり,主婦として家事労働に従事していたことから,平均余命の2分の1である75歳まで就労可能であったとの前提で同人の逸失利益を算出すると,その計算は次のとおりとなる。 基礎年収352万2400円(平成15年賃金センサス・女子労働者全年齢平均賃金)×(1-生活費控除率0.3)×8.8632(就労可能年数12年に対応するライプニッツ係数)カ逸失利益(年金受給分の逸失利益)2893万9390円 Gは,年額299万6100円の年金を受給しており,平均余命である24年間,同年金受給が可能であったとの前提で同人の逸失利益を算出すると,その計算は次のとおりとなる。 299万6100円×1-生活費控除率0 ×137986平(. ). (均余命24年間に対応するライプニッツ係数)キ死亡慰謝料5000万円ク葬儀費用143万4840円ケ弁護士費用1000万円コ上記アないしケの合計額は1億1243万6388円であるが,Gの被,,告らに対する同額の損害賠償請求権についてGの死亡による相続により法定相続分に従って,原告Cが5621万8194円を,その余の原告らが各2810万9097円をそれぞれ取得した。 被告らの主張(1)説明義務違反についてア被告Bは,Gに対し,その病状や手術の内容に 分に従って,原告Cが5621万8194円を,その余の原告らが各2810万9097円をそれぞれ取得した。 被告らの主張(1)説明義務違反についてア被告Bは,Gに対し,その病状や手術の内容について必要な説明を随時行った。上記2(1)アの①ないし⑦については,以下のとおりである。 なお,同被告は,Gに対し「検査の延長ないし実験台のような簡単な手,術で何の問題もない」などという説明はしていない。 ①被告Bは,Gが大動脈弁閉鎖不全のため入院中の平成13年1月27日,弁置換術の際に頸動脈の狭窄のため脳梗塞を合併する危険があり,これらの手術の前に頸動脈狭窄に対する手術を行っておく必要があることを説明した。 ②CASが未承認・未確立の治療法であるとの点は説明していない。 しかし,CASは,本件当時,既に多くの症例を重ね,良好な成績が得られており,無作為対象抽出試験も実施されていて,その結果が待たれている段階にあったのであり,未承認の術式であったとはいっても, 当時確立していた内膜剥離術に匹敵する程度に確立した術式であった(いわば承認・確立の一歩手前であった。したがって,この点につ。)いて説明すべき義務はない。 ③被告Bは,1月27日,Gに対し,CASでは内膜剥離術と異なり頚部に傷が付かないことを説明した。これに対し,Gは,頚部に傷が付くのは嫌であるとして,むしろCASの施行を積極的に希望した。 ④被告病院におけるCASの治療実績や合併症発症率については説明していないが,このような事項については,本件CAS当時まだ世間の病院一般として説明するという機運ではなく,説明義務はない。 ⑤被告Bは,1月27日,Gに対し,本件CASの内容について,病状説明票を用い,図を交えて具体的に説明し,2月21日にも,病状説明書を用いて手術内容及び 明するという機運ではなく,説明義務はない。 ⑤被告Bは,1月27日,Gに対し,本件CASの内容について,病状説明票を用い,図を交えて具体的に説明し,2月21日にも,病状説明書を用いて手術内容及び危険性について説明した。 また,被告Bは,3月10日,原告Dに対しても,病状説明書を用いて,手術内容及び危険性について説明した。 なお,CASの具体的な合併症の危険性については,当時まだ世間の病院一般として説明するという機運ではなく,また,本件のようにインナーシャフトがステントに引っかかる危険性については,極めてまれであり,いずれも説明の対象にはならない。 ⑥上記⑤の時点での説明の際,総頸動脈の狭窄に対する手術方法としてCASのほかに内膜剥離術による方法もあることを説明した。 ⑦J大学医学部の血管グループの専門家医師が執刀医となることについてはGに説明していた。具体的な氏名については,Gや原告らからの求めがない以上は説明すべき義務がない。 (2)手技上の過失についてア前拡張の点についてCASにおける前拡張は,ステントデリバリーシステム(ステント留置 用機材)が狭窄部位を通過するスペースを確保するために行われるものであり,そのスペース(3㎜程度)が確保されていれば足りる。 本件CASにおいても,前拡張に使用したバルーンカテーテルの膨らみ具合により,少なくとも3㎜径までの拡張が得られたことは確認しているし,現にデリバリーシステムは狭窄部位を通過していたのであるから,前拡張の程度に不十分な点はない。なお,Gに屈曲病変はなかった。 ,,,この点原告らは拡張径を血管造影で確認すべきであると主張するが前拡張時にはバルーンカテーテルが遠位内頸動脈を閉塞しているため,これを解除しなければ造影剤は流れないのであって,そもそも血管造影はできない( 原告らは拡張径を血管造影で確認すべきであると主張するが前拡張時にはバルーンカテーテルが遠位内頸動脈を閉塞しているため,これを解除しなければ造影剤は流れないのであって,そもそも血管造影はできない(ただし,バルーンに薄い造影剤を入れて膨らませるので,透視下でバルーンの拡張は確認できる。また,IVUSについても,上記の。)とおりカテーテル操作の過程で遠位内頸動脈は閉塞していることから,短時間に手技を終了させる必要があるため,IVUSによる検索は通常行わない。もとより,前記のとおり前拡張が十分に実施されたことは確認されていたのであるから,原告ら主張のような方法での確認は必要がない。 本件CASでインナーシャフトがステントに引っかかって抜去不能となったことは事実であるが,これは,前拡張が不十分であったために生じたものではなく,Gが高安病に罹患しており,同疾患の影響で狭窄部の血管壁が予想を超えて硬く,ステントの自己復元力による拡張が十分にされなかったためであって,このような事態はI医師においても予見不可能であった。 イ内膜剥離術の実施の遅れについてインナーシャフトがステントに引っかかった場合であっても,後拡張を試みることで抜去できる可能性もあったから,その試みをせずにより強い身体的侵襲を伴う内膜剥離術に移行することは相当でない。I医師らは,上記のトラブルの復旧のため「短め太め」のバルーンで後拡張を行ったも のであって,結果的にインナーシャフトが抜去できずに内膜剥離術に移行せざるを得なくなったものの,上記の復旧操作を行ったこと自体が不適切であったということはできない。 ウ内膜剥離術における血管縫合についてGの血管は,高安病の影響で血管壁が硬くなっており,縫合針も刺さらないような状況であった。そのため,針に力が入るように持針器との角度 ったということはできない。 ウ内膜剥離術における血管縫合についてGの血管は,高安病の影響で血管壁が硬くなっており,縫合針も刺さらないような状況であった。そのため,針に力が入るように持針器との角度を鋭角にするなどし,また,縫合にも時間がかかったのであって,縫合手技自体に不備はなく,縫合不全により出血が生じたということもない。 なお,原告らは,内膜剥離術の施行によって血管の硬化した部分は縫合時には取り除かれていると主張するが,高安病に罹患している場合は,血管の外膜及び中膜が炎症性に硬化するので,内膜剥離術によっても血管縫合手技が容易になるものではない。 (3)因果関係についてアGは,本件の術後の貧血に,術前からの高度な心肥大を伴う大動脈弁閉鎖不全による左心予備能の低下が関与して3月13日の左心不全ショッ,(ク)を発症し,これによる臓器虚血が,更にその後の菌血症,膿瘍を伴う両肺気管支肺炎も関与して招来された両心不全が多臓器不全を助長して死亡するに至ったものである。 イ説明義務違反について前記のとおりCASは本件当時においてほぼ確立していた手技であったし,Gは,本件CAS後に予定されていた後縦靱帯骨化症の手術で首に長い傷跡がつくことが避けられず,それに加えて内膜剥離術によって首にもう一本の長い傷がつくことを嫌ってCASを選択したのであるし,また,I医師も数少ない血管内治療の認定指導医でありCASの専門家であったのであるから,仮に被告Bが原告ら主張の説明をしたとしても,GがCASを選択したであろうことに変わりはない。 よって被告Bにおいて上記1のとおり説明をしていない事項があっ,()たとしても,そのことから直ちにGの死亡結果が回避できたものではないし,Gの自己決定権を侵害したともいえない。 (4)損害についていずれ おいて上記1のとおり説明をしていない事項があっ,()たとしても,そのことから直ちにGの死亡結果が回避できたものではないし,Gの自己決定権を侵害したともいえない。 (4)損害についていずれも否認し,又は争う。 第3当裁判所の判断 Gの死因等について鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば,少なくとも事後的客観的に見ると,Gには大動脈及び左右総頸動脈,腕頭動脈にかけて高安病(高安動脈炎)による病変が分布していて,そのため当該血管の外膜には極めて高度な線維化があり,この線維化が中膜,特に外膜側中膜に不規則に及んでいたし,内膜は軽度ないし中程度の動脈硬化性変化を来していたことが認められる。 また,前記前提事実(2)ないし(5)に鑑定の結果を併せると,Gの死因は急性両心不全に続発した多臓器不全であること,その多臓器不全の発生は死亡5日前(3月13日)に発生した左心不全(ショック)による臓器虚血によるものであって,さらに,その後の菌血症,膿瘍を伴う両肺気管支肺炎も関与して招来された両心不全がこの多臓器不全を助長したこと,上記ショックの原因については,必ずしも明確ではないが,ショック発生時に認められていた貧血に高度な心肥大を伴う大動脈弁閉鎖不全による左心予備能の低下が関与した可能性があることが認められる。 「前拡張が不十分なままステントを留置した過失」について(1)CASにおける前拡張の目的及びその程度について,()CASにおける前拡張の目的及びその程度については前記前提事実6ウのとおり2通りの考え方(①の考え方と②の考え方)があるところ,原告らは,本件CAS実施の際には,①の考え方ではなく②の考え方に従って前拡張の段階で正常血管径まで拡張を行うべきであった旨主張し,原告らのい わゆる協力医であるK医師日本脳神経外科学会 ろ,原告らは,本件CAS実施の際には,①の考え方ではなく②の考え方に従って前拡張の段階で正常血管径まで拡張を行うべきであった旨主張し,原告らのい わゆる協力医であるK医師日本脳神経外科学会専門医もその意見書甲(),(B第7号証。以下「K意見書」という)において「ひかえめな前拡張か。 ,「らしっかりした前拡張へ」とスタンダードなCASが進化した」などと上記主張に沿う意見を述べている。 しかしながら,下記の諸点に照らすと,CASにおける前拡張につき,本件CASが行われた平成15年3月当時において,②の考え方に従って正常血管径まで拡張を行うべきとする知見が確立していたとは認められず,かえって,下記の諸点に証拠(下記の文献2,3,証人I)を併せると,上記当時においては,前拡張につき,②の考え方に従って正常血管径まで拡張を行うという手法を実践していた医師も少なからず存在したが,①の考え方と②の考え方を比べた場合のメリット,デメリットについての議論やエビデン,,スが十分でなく②の考え方の方が優れているとされていたわけでもなくて依然として①の考え方の方が標準的であったことが認められる。 ①K意見書が②の考え方を正当とする根拠として挙げる同意見書添付の文献3(以下,同意見書添付の文献については単に「文献1」などと表記するの頸部頸動脈狭窄症に対するステント留置術という章のうち留。)「」「置方法」の項(以下「本項」という)中には,確かに「前拡張からプ。 ,ロテクションを行い十分正常血管径まで拡張し,内腔の洗浄(従来のPTAによる方法と同じ)およびステント留置を行い,拡張が十分ならそれで手技を終了し,不十分な場合は再度プロテクション下に後拡張を行うという手技に変更した」などとする記述がある。 。 しかし,本項 PTAによる方法と同じ)およびステント留置を行い,拡張が十分ならそれで手技を終了し,不十分な場合は再度プロテクション下に後拡張を行うという手技に変更した」などとする記述がある。 。 しかし,本項は「1.標準的方法「2.以前の方法「3.内頸動,」,」,脈ステント(L大の手技:NaviBalloon® type-M「4.ECAとのdouble)」,」「. 」,protection(M大の手技)及び 器材という小項目から成るところ上記記述がされているのは「3.内頸動脈ステント(L大の手技:NaviBalloon® type-M 」の項であり「1.標準的方法」の項では,前拡張につ), きステントデリバリーに必要な最小限の開通を得ればよいとか拡,「,」「張はゆっくり・長く・控えめに行うのが原則」などとされているのであって,上記記述は,このような標準的方法を前提とした上でL大における新しい方法を述べるものであると解される。 しかも,文献3が発行されたのは,本件CAS実施から約1年半が経過した平成16年9月のことである。 ②本件CAS実施の約3か月前の平成14年12月にその第1版第1刷が発行された(第1版第2刷は本件CAS実施後の平成16年5月に発行された)文献2には,前拡張につき「stent留置用機材が通るスペー。 ,スを確保するため前拡張を行う「径は3㎜で十分」などとして,①の。」,考え方に沿う記述がされている。 ③なおK医師は日本脳神経外科学会専門医ではあるがK意見書最,,,(「新の手術手引書と目される文献3によると」とか「実際の手術でもこれくらいの鮮明度でモニターを見ながら進めるのかどうかわからないが」などの記載がある)自体から,自らは血管内治療,特にCASを行っ (「新の手術手引書と目される文献3によると」とか「実際の手術でもこれくらいの鮮明度でモニターを見ながら進めるのかどうかわからないが」などの記載がある)自体から,自らは血管内治療,特にCASを行っている。 わけではないことが窺われる。 (2)本件CASにおける前拡張についてア前記前提事実(3)アに証拠(証人I,被告F)を併せると,本件CASにおいては,前拡張が行われた後にステントが頸動脈狭窄部に到達したのであって,ステントデリバリーシステムは現に狭窄部を通過したことが認められる。 したがって,①の考え方に従う限り,本件CASにおける前拡張は,その目的を達したものということができるから,原則として,不十分であったということはできない。 イこの点,証拠(甲A4の6の1,証人I,被告F)によれば,本件CASにおいてステントを留置した際,ステントは完全には開ききらずに漏斗 状にくびれた形をしていたことが認められるが,①の考え方に従って,前拡張を行い,拡張が不十分な場合に後拡張を予定する以上,ステントが完全に開ききらないことはむしろ通常であると考えられるのであって,この点をもって前拡張が不十分であったということはできない。 また,本件CASにおいて,頸動脈の狭窄部位周辺が特別に屈曲するなど,特に通常より余裕を持った前拡張を行うべき事情があったと認めるに足りる的確な証拠はない(なお,I医師らにおいて,本件CAS前に,Gが高安病に罹患していることを知り得たとか,これを知るべきであったと認めるに足りるような事情ないし証拠は見当たらない。 。)さらに,証拠(甲B7,証人I)によれば,本件CAS当時,CASに関し,インナーシャフトがステントに引っかかることがあると報告されていたことは認められるが,それが抜けなくなることについて報告があった らに,証拠(甲B7,証人I)によれば,本件CAS当時,CASに関し,インナーシャフトがステントに引っかかることがあると報告されていたことは認められるが,それが抜けなくなることについて報告があったと認めるに足りる証拠はなく(文献3にはそのような記載があるが,前記のとおり文献3の発行時期は本件CASの後である,本件CAS実施。)に際し,I医師らにおいて,インナーシャフトがステントに引っかかって抜けなくなるという事態を予見し得たとか,予見すべきであったと認めるに足りる事情ないし証拠は見当たらない。 ウ以上のとおりであるところ,上記(1)によれば,本件CASにおいて①の考え方に従って前拡張を行うことが医療水準に適合しないとは認められないから,結局,本件CASにおいて行われた前拡張が不十分なものであったということはできない。 しかして「前拡張が不十分なままステントを留置した過失」をいう原,告らの主張は,いずれも前拡張が不十分であったことを前提とするものであるから,理由がない。 なお原告D本人は事後に被告Fがインナーシャフトがステントに引っ,,かかったことについて「ミス」と認めたと供述し,その裏付けとして,3 月14日の病状説明書(甲A第1号証の9(乙A第2号証の136丁))に「ミス」という記載があってこれが丸で囲まれていることを挙げる。しかし,上記病状説明書には「ミス」と並べて「合併症」という記載もあって,これが二重丸で囲まれているのであり,このことに照らして,上記供述は採用することができない。 「内膜剥離術実施の遅れ」について(1)前記前提事実(3)アのとおり,I医師らは,インナーシャフトがステントに引っかかって抜去不能となった後も,直ちに内膜剥離術に移行することなく,インナーシャフトを抜去すべく左大腿動脈からバルー (1)前記前提事実(3)アのとおり,I医師らは,インナーシャフトがステントに引っかかって抜去不能となった後も,直ちに内膜剥離術に移行することなく,インナーシャフトを抜去すべく左大腿動脈からバルーンカテーテルを挿入し後拡張を試みるなど血管内治療の試みを続けたが,インナーシャフトの抜去には至らなかった。 (2)この点について,原告らは,直ちに内膜剥離術に移行すべきであった旨主張する。 しかしながら,本件CAS当時において,本件のようにインナーシャフトの抜去不能という事態が生じたとき,後拡張等の血管内治療によって抜去をしようとするのではなく直ちに内膜剥離術に移行すべきとする知見が存在したと認めるに足りる証拠はなく,証拠(証人I,被告F)及び弁論の全趣旨によれば,本件において,I医師らは,後拡張を行って矢尻が取り出せる可能性があると考え,そうすれば内膜剥離術に移行するよりも侵襲が少ないからよいと考えたことが認められるところ,そのような考え方の下に直ちに内膜剥離術に移行しなかったことが不適切であるとする知見も見当たらない。 なお,K意見書には「血管内手術に拘泥しないで,もっと早く(ステン,トとインナーシャフトを取り出すための)CEAを行った方が良かったのでは」とか「左大腿動脈からのレスキューカテーテル挿入はかえって傷を深くしたのではないか」などという記述があるが,これは,結果論としては正しい側面があるとしても,本件CAS当時における知見に基づくものではない ことが明らかである。 したがって「内膜剥離術実施の遅れ(過失)をいう原告らの主張も理,」由がない。 「内膜剥離術における血管縫合の不備」について(1)証拠(甲A5,6の1の1ないし36,B7,証人I,被告F)によ,,,,ればI医師らは本件内膜剥離術において頸 」由がない。 「内膜剥離術における血管縫合の不備」について(1)証拠(甲A5,6の1の1ないし36,B7,証人I,被告F)によ,,,,ればI医師らは本件内膜剥離術において頸動脈の切開や縫合に難渋し通常の場合に比して長時間を要したことが認められる。 しかし,上記1の事実によれば,Gの頸動脈は外膜及び中膜において高度な線維化を来していたというのであるから,上記のように縫合に難渋して長時間を要したとしても,このことをもってI医師らの血管(頸動脈)縫合の手技が医療水準に満たないものであったということはできず,他に,本件内膜剥離術における血管縫合の手技に当時の医療水準に満たない不適切な点があったと認めるに足りる事情ないし証拠は見当たらない(縫合が不十分であったために出血が生じたとも認めるに足りないことは,下記(2)のとおりである。 。)したがって「内膜剥離術における血管縫合の不備(過失)をいう原告,」らの主張も理由がない。 (2)また,Gにつき,本件内膜剥離術における血管縫合の縫合部位からの出血に起因して多臓器不全に至ったとの事実を認めるに足りる的確な証拠もない。 なお,鑑定人N(O大学大学院医学研究院病理病態学分野教授)作成の改訂鑑定報告書では,①本件CAS及び本件内膜剥離術が行われたGの総頸動脈分岐部について,周囲出血が認められたとするものの,縫合不全が認められたとはしていないし,②多臓器不全を助長したとされるショックに関与した病態として貧血を挙げており,この貧血の原因として,左大腿動脈穿刺部からの出血の可能性を挙げるが,内膜剥離術の血管縫合部の出血には全く言 及していないのであって,これらによれば,同報告書は当該部位の縫合不全について否定的であると考えられる。 また原告D本人は3月14日付の病状説 げるが,内膜剥離術の血管縫合部の出血には全く言 及していないのであって,これらによれば,同報告書は当該部位の縫合不全について否定的であると考えられる。 また原告D本人は3月14日付の病状説明書甲A第1号証の10乙,,((A第2号証の139丁表)の「血圧低下の原因はヘパリンを使っていて)首左股関節部ステントを入れる時のトラブル時バルーンを入れる為にもう一方をさし血管を縫合しておいた。そこからもれた(血がもれた」)との記載を指摘して,被告Bが本件内膜剥離術の際の血管縫合の不備による出血を認めた旨の供述をするが,当該記載は「左股関節部「バルーンを,」入れるためもう一方をさし」との記載から,予定外の後拡張のため左大腿動脈を穿刺した部位のことを述べていることは明らかであって(K意見書も,「左大腿動脈からのレスキューカテーテル挿入はかえって傷を深くしたのではないか」という意見を述べる際に上記記載を引用している,上記供述。)は採用することができない。 「説明義務違反」について(1)証拠(乙A1,2,原告D,被告B,同F)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 本件CASを実施するに当たり,Gに対する事前説明を担当したのは主治医の被告Bであった。 被告Bは,本件CASを実施するに当たり,事前にGに対して次の事項を説明した(②ないし④については,原告D立会の上で説明した。 。)①頸動脈狭窄に対する治療には,CASのほかに内膜剥離術という方法もあること②Gは,大動脈弁閉鎖不全のため心臓の手術を受ける必要があり,その際に体外循環を使用することから,これによる脳梗塞を防止するために頸動脈の狭窄部を拡張する手術を受ける必要があること③CASには,合併症として脳梗塞を起こす危険性があり,最悪の る必要があり,その際に体外循環を使用することから,これによる脳梗塞を防止するために頸動脈の狭窄部を拡張する手術を受ける必要があること③CASには,合併症として脳梗塞を起こす危険性があり,最悪の場合死 に至る危険があること④CASは部分麻酔で行われるのが通常であるが,Gの場合,2月4日に部分麻酔下で血管撮影を受けた際,不穏となり鎮静剤を投与されて撮影を完了したということがあったため,全身麻酔下で行うが,それゆえに全身麻酔に伴う危険があること(2)上記(1)の認定について上記(1)④について,原告D本人は,本件CASについては全身麻酔は危険だから部分麻酔で行う旨の説明を受けたと供述する。 しかし,3月10日付病状説明書(乙A第2号証131丁表)に「全麻,が危険である。100%OKの手技でない」との記載があって,その次の行に字下げして「循内,心臓外科~OK」との記載があることからすれば,全身麻酔を行うことについて循環器内科と心臓外科が了承した旨の説明が行われたと推認される(原告D本人は,後者の記載について,本件CASの後に心臓の手術を行うことについての了承である旨説明を受けたと供述するが,前者の記載の次の行に字下げしてそのような麻酔と関係の薄い事項の記載があるということは不合理であって,採用できない。 。)(3)他方,下記の事項について被告BがGに説明していないことについては,当事者間に争いがない。 ①CASは未承認・未確立の治療法であり,通常は内膜剥離術が推奨されていること②被告病院におけるCASの治療実績や合併症発症率③インナーシャフトがステントに引っかかって抜去できなくなる危険があること④手術を依頼する外部の医師の氏名・資格・実績(4)上記(3)のうち③及び④の事項に関する説明義務違反の主張は,以 率③インナーシャフトがステントに引っかかって抜去できなくなる危険があること④手術を依頼する外部の医師の氏名・資格・実績(4)上記(3)のうち③及び④の事項に関する説明義務違反の主張は,以下のとおり理由がない。 ア上記(3)のうち③について文献2には,CASの合併症として,血管壁の障害・血管の閉塞・出血等の指摘はあるが,インナーシャフトがステントに引っかかって抜けなくなるという合併症については記載がないこと,また,前記のとおり,この合併症について記載のある文献3は本件CAS後の発行であること,これらの事実に証拠(証人I,被告F)を併せると,本件CAS当時,CASの際にインナーシャフトがステントに引っかかるという事例については報告があったが,これが抜けなくなるという事例の報告はなかったことが認められるのであり,他に,本件CAS当時,I医師らにおいて,CASの際にインナーシャフトがステントに引っかかって抜けなくなるという事態を予見することができたと認めるに足りる事情ないし証拠は見当たらない。 したがって,上記③のような事項について説明すべき義務があったということはできない。 イ上記(3)のうち④について本件CASに関与した外部医師はI医師であるところ,I医師は,前記のとおり,日本脳神経血管内治療学会が認定した指導医であって,血管内治療の専門家である。そして,証拠(被告B,同F)によれば,被告病院には,I医師ほどに血管内治療の知識と経験がある医師はいなかったことが認められる。さらに,本件全証拠を検討してみても,Gにおいて被告病院の医師の執刀によるのでなければCASを受けないというような事情があったとは窺われない。 そうすると,この事項についてG及び原告らが説明を受けていたとしても,そのことによってGが本件CASを受け 院の医師の執刀によるのでなければCASを受けないというような事情があったとは窺われない。 そうすると,この事項についてG及び原告らが説明を受けていたとしても,そのことによってGが本件CASを受けなかったということはおよそ考え難く,この事項について説明すべき義務があったということはできない。 (5)上記(3)のうち①,②の事項に関する説明がなかったことについてア証拠(甲B7,証人I)及び弁論の全趣旨によれば,本件では,前記のとおり未承認・未確立のCASのみならず,承認され確立されていた内膜剥離術の適応もあったことが認められるから,Gには,CASと内膜剥離術のうちいずれの治療法(術式)を受けるかを自ら選択し決定することのできる権利ないし法的利益(いわゆる自己決定権)があったといえる。 したがって,本件でGに対する事前説明を担当した主治医の被告Bとしては,自らがより適切であると考えるCASを推奨することは当然としても,その際には,Gに対し,CASと内膜剥離術のいずれを選択するかにつき熟慮の上で判断することができるような仕方でそれぞれの治療法(術式)の違いや利害得失を分かりやすく説明すべき義務があったというべきである。 そして,ある治療法が未承認・未確立であるという点は,当該治療法に未だ知られていない危険性(合併症等)や改善の余地がある可能性があることを意味するのであって,このことは,患者が当該治療法と他の承認・確立の治療法のいずれを選択するかに際して重要な意義を有するから,本件においても,被告Bは,Gに対し,内膜剥離術が承認・確立の治療法であるのに対しCASは未承認・未確立の治療法であることをも説明すべき義務があったというべきである。 しかるに,本件において,被告Bが,Gに対し,内膜剥離術が承認・確立の治療法であるのに対してC 法であるのに対しCASは未承認・未確立の治療法であることをも説明すべき義務があったというべきである。 しかるに,本件において,被告Bが,Gに対し,内膜剥離術が承認・確立の治療法であるのに対してCASは未承認・未確立の治療法であることを説明しなかったことは,上記のとおりである。 したがって,本件において被告Bは上記説明義務に違反したものといわざるを得ない。 イこの点につき,被告らは,本件当時,CASは内膜剥離術に取って代わろうとする承認・確立一歩手前の状況であったなどとして,この点の説明 義務はなかったと主張する。 しかしながら,CASが現在なお未承認・未確立であること(弁論の全趣旨によって認める)はさて措き,承認・確立一歩手前であったという。 のであれば,被告Bとしては,むしろ,そのことを正確に説明してGが安心して治療を受けられるようにすべきであったのであり,これを説明しなくてよいとすることはできない。 なお,本件で起こったインナーシャフトがステントに引っかかって抜けないという合併症は,前記のとおり被告病院医師やI医師には予見できなかったものであるが,現在では文献3などに報告がある合併症であって,まさに未知の合併症の危険が現実化したものであるといえる。 ウ以上のとおりの説明義務違反があるが,前記前提事実に証拠(甲B7,乙A6,7,証人I)及び弁論の全趣旨を併せると,大動脈閉鎖不全等の合併症があり心予備能の低下が認められる本件においては,当時の医療水準からは,CASに比して内膜剥離術の方がより安全であり,又はより良好な結果を得られるというべき事情はなく,むしろ,CASの適応であったということが認められるから,Gにおいては,CASが未承認・未確立であるという説明を受けていたとしても,侵襲ないし負担が少なく,また頚部に傷がつかない うべき事情はなく,むしろ,CASの適応であったということが認められるから,Gにおいては,CASが未承認・未確立であるという説明を受けていたとしても,侵襲ないし負担が少なく,また頚部に傷がつかないという利点を有するCASを選択していた可能性は十分にあるというべきであって,少なくとも,Gにおいて上記説明を受けていればCASを選択しなかったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,上記説明義務違反と死亡との間に因果関係があると認めることはできない。 もっとも,上記説明義務違反によって上記アのようなGの自己決定権が侵害されたことは明らかであるから,被告B及びその使用者である被告Aは,不法行為に基づいて,上記自己決定権の侵害によりGに生じた損害を賠償すべき責任があるというべきである。他方,上記(1)の事実に証拠 (乙A1,2)及び弁論の全趣旨を併せると,本件においてGに対する事前説明を担当したのは被告Bであって,これに被告Fは関与していないと認められるから,被告Fは上記のような損害賠償責任を負わない。 しかして,Gが上記自己決定権の侵害により精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推認され,この苦痛に対する慰謝料は,本件に顕れた諸般の事情を総合考慮して,200万円をもって相当と認める。また,本件における弁護士費用損害金は20万円をもって相当と認める。 上記損害賠償請求権については,Gの死亡による相続により,法定相続分に従って,原告Cが110万円を,原告D及び原告Eが各55万円をそれぞれ取得したことになる。 以上の次第で,本訴請求については,被告A及び被告Bに対し,原告Cが110万円,原告D及び原告Eが各55万円並びにこれらに対する不法行為後の日である平成15年3月18日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金,。 の連帯支払を求める限 び被告Bに対し,原告Cが110万円,原告D及び原告Eが各55万円並びにこれらに対する不法行為後の日である平成15年3月18日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金,。 の連帯支払を求める限度で理由がありその余は理由がないというべきであるよって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部貝阿彌誠裁判長裁判官片野正樹裁判官西田祥平裁判官

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る