昭和40(ネ)494 慰藉料請求事件

裁判年月日・裁判所
昭和42年4月12日 東京高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-20963.txt
🤖 AI生成要約2026/3/13

【DRY-RUN】主    文      原判決を次のとおり変更する。      被控訴人は控訴人に対し、六〇万円およびこれに対する昭和三八年七月 二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うべし。      

タグ

キーワード(AI生成)

判決文本文15,144 文字)

主文 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は控訴人に対し、六〇万円およびこれに対する昭和三八年七月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うべし。 控訴人のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その各一を控訴人および被控訴人の各負担とする。 事実 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、二〇〇万円およびこれに対する昭和三八年七月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。 当事者双方の主張および証拠の関係は、次に付加するもののほかは、原判決の事実の部に書いてあるとおりである。 第一、 主張一、 控訴代理人の陳述(一) 被控訴人は、昭和三〇年頃から妻Aと不和になり、昭和三三年頃からは、Aと同じ家に居住していたが肉体関係もなく、事実上の離婚状態にあつた。控訴人は、被控訴人からそのことを知らされ、しかも、新制高校を卒業して間もない時期で思慮が十分でないこともあつて、被控訴人が真実は控訴人を享楽の具とするつもりであることに気付かず、被控訴人の「妻と別れて控訴人と結婚する。」、「控訴人を愛している。」との詐言をそのことばどおりに信じ切つて、昭和三五年五月二一日頃、はじめて被控訴人と情交関係を結んだ。被控訴人は、控訴人が年少で思慮不十分であるのを奇貨とし、控訴人を欺岡して情交関係を結ばせ、これにより控訴人の自由、貞操、名誉を侵害したものである。そして、控訴人は、被控訴人の子Bを懐胎、分娩したが、被控訴人からは棄て去られ、自活の力もないうえ、子の養育という重荷を背負わされて悲歎の日々を送つている 訴人の自由、貞操、名誉を侵害したものである。そして、控訴人は、被控訴人の子Bを懐胎、分娩したが、被控訴人からは棄て去られ、自活の力もないうえ、子の養育という重荷を背負わされて悲歎の日々を送つている次第であり、控訴人が被控訴人の不法行為によつて被つた精神的苦痛は甚大である。 (二) 控訴人が被控訴人と情交関係を結んだ当時、被控訴人と妻Aとは事実上の離婚状態にあつたから、控訴人の行為は公序良俗に反するものとはいえない。したがつて、民法第七〇八条を類推適用して控訴人の慰籍料請求を排斥するのは不当である。仮に右主張が理由がないとしても、被控訴人が控訴人を欺岡して控訴人の貞操等を侵害した行為は、その動機ないし目的、行為の内容の諸点において許し難い不法性があること明らかであるのに対し、控訴人は、被控訴人に欺かれたまま、純粋の心情から被控訴人と情交関係に入つたものであつて、不法と非難されるべき事情はなく、不法はもつぱら被控訴人側にのみ存するから、控訴人の慰籍料請求については、民法第七〇八条但書の規定により同条本文の規定の類推適用は排除されると解するのが相当である。 (三) 慰籍料請求権の放棄に関する被控訴人の主張事実中被控訴人主張の日にその主張の調停事件について調停が成立した事実は認めるが、その余の事実は争う。右調停について当事者の合意を記載した調書に被控訴人が支払うべき金員が養育費と明記されているとおり、被控訴人が支払を約束したのはBの養育費である。 右調停が成立するに際して、右養育費の中に、控訴人が被控訴人に請求していた慰籍料をも含ませるという趣旨の話合いなどは全然されなかつた。要するに、右調停において合意されたところは慰籍料請求権にはなんらかかわりのないものなのである。 二、 被控訴代理人の陳述(一) 控訴人の前記一(一)の主張事実中控 合いなどは全然されなかつた。要するに、右調停において合意されたところは慰籍料請求権にはなんらかかわりのないものなのである。 二、 被控訴代理人の陳述(一) 控訴人の前記一(一)の主張事実中控訴人主張の時期に、被控訴人が、妻Aと同じ家に居住しながら不和の状態にあつたことは認めるが、その余の事実は争う。(イ)右時期において、被控訴人とAは、なお肉体関係をもち、共に三人のこどもの養育にあたつていたのであり、事実上の離婚状態などには立ちいたつていなかつた。したがつて、被控訴人が控訴人に対し、Aと事実上の離婚状態にあると告げたことはなく、むしろ、控訴人は、被控訴人とAとの婚姻生活は正常なものと考えていたのである。(ロ)被控訴人と控訴人との間柄は恋愛(結婚を予定しない)あるいは単なる遊びの間柄にすぎなかつたのであるから、仮に被控訴人が控訴人に対し、「妻と別れて控訴人と結婚する。」、「控訴人を愛している。」と述べたとしても、それは控訴人に対するいたわりのことばとして受け取られるべきものである。事実、控訴人は、被控訴人のことばを、そのようなものとして受け取つたのであり、控訴人が、そのことばによつて、被控訴人と結婚できるものと誤信したということはなかつたのである。(ハ)被控訴人は、できることならば不和のAと離婚して控訴人と結婚したいとおもつていたが、被控訴人からAを相手どつて離婚の裁判を申し立てる事由がなく、婚姻解消のためには、Aから被控訴人に対して離婚の裁判を申し立てるのをまつ以外には方法がなかつた。しかも、Aには、当時、離婚の裁判を申し立てる意思がなかつたのである。このような状況のもとにおいてほ、被控訴人が控訴人に対し、「妻と別れて控訴人と結婚する。」と述べたとしても、控訴人がそのことばをそのまま信じ切つたものと認めるのは相当でない。 (ニ) かつたのである。このような状況のもとにおいてほ、被控訴人が控訴人に対し、「妻と別れて控訴人と結婚する。」と述べたとしても、控訴人がそのことばをそのまま信じ切つたものと認めるのは相当でない。 (ニ)控訴人は、はじめて被控訴人と情交関係を結んだ当時、すでに一九才余に達し、結婚が女性の生涯を決定する重大な事柄であることは十分に判つていたのであるから、被控訴人が控訴人の思慮不十分を奇貨として、結婚に名を籍りて控訴人を弄んだというような事実があるはずがない。 (二) 控訴人が被控訴人と情交関係を結んだ当時、被控訴人には妻Aがあり、控訴人はこのことを知つていたのであるから、控訴人の行為は不倫の行為であつて、公序良俗に反するものというべきであり、したがつて、控訴人が右行為によつて損害を被つたとしても、民法第七〇八条本文の規定の類推適用により、右損害の賠償として慰籍料を請求することは許されない。控訴人は、被控訴人とAとは事実上の離婚状態にあつたのであるから、被控訴人と情交関係を結んだ控訴人の行為は公序良俗に反するものでないと主張するが、当時被控訴人とAとが事実上の離婚状態にまで立ちいたつていなかつたことは前記(一)(イ)のとおりであるから、控訴人の主張は失当である。のみならず、昭和三八年にいたり、Aが被控訴人を相手どり浦和地方裁判所に対し離婚の訴を提起し(同裁判所昭和三八年(タ)第一三号事件)、昭和三八年八月一六日にAと被控訴人とを離婚する旨の判決があり、その頃右判決は確定し、これにより被控訴人とAとの婚姻は解消したのであるが、右判決は、その理由中で被控訴人がFと情交関係を結んだほか、控訴人とも情交関係を結んだことを挙げ、これを離婚原因に当るものと判断しているのである。してみると、控訴人は被控訴人の家庭の破壊者の一人にほかならなかつたものというべく、 がFと情交関係を結んだほか、控訴人とも情交関係を結んだことを挙げ、これを離婚原因に当るものと判断しているのである。してみると、控訴人は被控訴人の家庭の破壊者の一人にほかならなかつたものというべく、このような者に対し、「夫婦が事実上の離婚状態にあつた場合には、妻以外の女性が夫と情交関係を結んでも、これを公序良俗に反する行為とすべきではない。」という解釈論によつて、法的保護を与えるのは不当である。また、控訴人は、本件においては、民法第七〇八条但書の規定により同条本文の規定の類推適用が排除されると主張するが、前述のとおり、控訴人ははじめて被控訴人と情交関係を結んだ当時、一九才余に達しており、妻のある男性と情交関係を結ぶことが社会倫理に背くのみならず違法な行為であることを十分認識していたのであるから、不法がもつぱら被控訴人の側にある旨の控訴人の主張は失当である。 (三) 東京家庭裁判所八王子支部昭和三七年(家イ)第一〇七号認知調停事件について昭和三八年三月八日に調停が成立した際に、控訴人が被控訴人に対する慰籍料請求権を放棄したことは、次の事実によつても明らかである。右調停事件について被控訴人の代理人となつた弁護士水本民雄(本件の被控訴代理人)は、後日、控訴人と被控訴人との間で金銭的な問題が生ずることを懸念して、調停申立人Bの法定代理人として調停手続に関与していた控訴人に対し、調停委員を通じて、金銭的要求の有無を確かめたところ、控訴人から、控訴人のための慰籍料三五〇万円、B本人の養育費一五〇万円の支払を求める旨の要求が出された。これに対し、被控訴人は、控訴人に対して慰籍料を支払う意思はなく、この点で双方の意見が合わなかつたのであるが、種々調整が試みられた結果、被控訴人は、控訴人に対する慰籍料をも兼ね合せるという含みで、Bに対し月額一万円の養育 、控訴人に対して慰籍料を支払う意思はなく、この点で双方の意見が合わなかつたのであるが、種々調整が試みられた結果、被控訴人は、控訴人に対する慰籍料をも兼ね合せるという含みで、Bに対し月額一万円の養育料を支払うこととする一方、控訴人は被控訴人に対する慰籍料請求権を放棄するということで解決をみた次第である。当時、被控訴人としては、七万円の月収で妻子合計四人を扶養するほか、Bの養育料として月額一万円を支出することは相当な経済的負担であつたが、控訴人が慰籍料を含めて金銭的な問題を全面的に解決するというので、あえて右金額の養育料の支払を応諾したのである。 第二 、証拠控訴代理人は、甲第三、第四号証を提出し、当審における証人Cの証言、控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人は、当審における証人水本民雄の証言、被控訴人本人尋問の結果を援用し、「甲第三、第四号証が真正にできたことは認める。」と述べた。 理由 一、 慰籍料請求権の成否について。 (一) 原審における証人D、当審における証人Cの各証言、原審および当審における控訴人および被控訴人各本人尋問の結果と、本件弁論の全趣旨とをあわせ考えると、次の事実を認めることができる。 控訴人は、昭和一五年一〇月一五日、父E、母Dの三女として出生し、城右高等学校卒業後、昭和三五年三月一日から、埼玉県所沢市にある在日米軍兵站司令部経理課に、事務員として勤務することとなつて、右経理課の上司で、米国籍を有する被控訴人と知り合つた。控訴人は、間もなく、通勤のため、被控訴人から自動車による送り迎えを受けるようになり、また、被控訴人に映画館、ナイトクラブ等に連れていつてもらうほどの仲となつた。その当時、被控訴人はAを妻とし、同女との間に三人のこどもまであつたが以前から、Aとの間がうまくいか えを受けるようになり、また、被控訴人に映画館、ナイトクラブ等に連れていつてもらうほどの仲となつた。その当時、被控訴人はAを妻とし、同女との間に三人のこどもまであつたが以前から、Aとの間がうまくいかず、Aと同居はしているものの寝室を共にしないという状態てあつたところ、前記のように控訴人と交際しているうち、性的享楽の対象を控訴人に求めるようになつた。そして、被控訴人は、昭和三五年五月頃、控訴人に対し、前記家庭の状態を告げるとともに、控訴人が一九才余で、思慮不十分であるのにつけこんて、真実は、Aと近い将来において離婚できる事情にはなく(この点は、証拠説明とともに、後記(二)(ハ)において詳述する。)、また、控訴人と結婚する意思がないのに、控訴人に対し、「妻と別れて控訴人と結婚する。」と述べ、控訴人をして、被控訴人とAとの間柄が被控訴人のいうようなものであれば、被控訴人はいずれは、Aと離婚して自分と結婚してくれるであろうと誤信させ、昭和三五年五月二一日頃、東京都港区aのホテルにおいて、控訴人に情交を求め、これを承諾させて、享楽の目的を遂げ、その後昭和三六年九月頃までの間、一〇数回にわたり、そのつど控訴人と結婚すると述べて控訴人を欺き、控訴人と情交関係を結んだ(控訴人と被控訴人とが、昭和三六年九月頃までの間、一〇数回にわたり情交関係を結んだ(最初の日がいつであるかを除く。)ことおよび当時被控訴人と妻Aとの間に三人のこどもがあつたことは、当事者間に争いのない事実である。)。ところが、被控訴人は、昭和三六年七月頃、控訴人から妊娠したことを知らされるや、同年九月頃から、控訴人と会うことを避けるようになり、控訴人が昭和三七年一月一日男子Bを分娩した際、その費用の相当部分を支払つたほか、まつたく控訴人との関係を絶つにいたつた。 このように認められる。真 九月頃から、控訴人と会うことを避けるようになり、控訴人が昭和三七年一月一日男子Bを分娩した際、その費用の相当部分を支払つたほか、まつたく控訴人との関係を絶つにいたつた。 このように認められる。真正にできたことについて争いのない乙第一号証の一ないし八(控訴人作成のメモ)中「貴方(被控訴人を指す。)の本心はどうか解りませんが」との記載部分は、それ自体では意味が明瞭でなく、仮にそれが自分と結婚してくれるという被控訴人のことばに対する控訴人の疑いの表現であるとしても、結婚前の交際関係(すくなくとも控訴人は被控訴人との関係をそのように考えていた。)にある女性に一時的に起りがちな心理を表明した以上のものではないと認められるから、右記載部分は前記認定の妨げにはならない。前記認定に反する原審における控訴人本人の供述部分、原審および当審における被控訴人本人の供述部分は、前記認定に照応する原審および当審における控訴人本人の供述に照らして信用することができず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。 (二) 右の(一)の認定に関連する被控訴人の主張を検討する。 (イ) 被控訴人は、控訴人は被控訴人と妻Aとの婚姻生活を正常なものと考えていた、と主張するが、控訴人が、被控訴人から、妻Aとの間がうまくいかず、Aと同居しながら寝室を共にしていないと告げられたこと前認定のとおりであるから、控訴人が被控訴人とAとの婚姻生活を正常なものと考えていたと認めることはできない。 (ロ)被控訴人は、被控訴人と控訴人との間柄は、恋愛(結婚を予定しない)あるいは単なる遊びの間柄にすぎなかつたから、控訴人が、「控訴人と結婚する。」という被控訴人のことばをそのまま信用したことはない、と主張する。 しかし、被控訴人と控訴人との間柄を恋愛(結婚を予定しない)あるいは単なる遊びの間柄にす かつたから、控訴人が、「控訴人と結婚する。」という被控訴人のことばをそのまま信用したことはない、と主張する。 しかし、被控訴人と控訴人との間柄を恋愛(結婚を予定しない)あるいは単なる遊びの間柄にすぎないというのは、はなはだ一方的な見方である。被控訴人が控訴人を性的享楽の対象としてしか考えていなかつたとしても、控訴人は、被控訴人のことばを真に受けて被控訴人に結婚の意思があるものと信じ、結婚を前提として被控訴人と情交関係を結んだものであることは、前認定事実により明らかである。前認定を覆えして被控訴人の右主張を肯認するに足りる証拠はない(控訴人も、被控訴人との間柄を被控訴人の主張するようなものと考えていたとする当審における被控訴人本人の供述は、原審および当審における控訴人本人の供述に照らしてそのまま信用することができない。)。(ハ)被控訴人は、被控訴人が控訴人と情交関係を結んだ当時、被控訴人は妻Aと離婚できる状況にはなかつたから、控訴人が「妻と別れて控訴人と結婚する。」という被控訴人のことばを信じ切つたものと認めるのは相当でない、と主張する。控訴人が被控訴人と情交関係を結んだ昭和三五年五月から昭和三六年九月頃にいたる時期に、被控訴人とAとが不和であつたことは前認定のとおりであるが、当審における被控訴人本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせ考えると、当時、被控訴人の側から積極的に、Aを相手として訴を提起し、離婚判決を得るに必要な離婚事由(民法第七七〇条第一項第一号ないし第五号)は存在しなかつたことが認められる。また、Aが昭和三八年にいたり被控訴人の不貞行為を理由に離婚の訴を提起し、離婚判決を得たことは後記二、(ニ)のとおりであるが、当審における被控訴人本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせ考えると、昭和三五年五月から昭和三六年九月頃にいた 貞行為を理由に離婚の訴を提起し、離婚判決を得たことは後記二、(ニ)のとおりであるが、当審における被控訴人本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせ考えると、昭和三五年五月から昭和三六年九月頃にいたる時期には、まだAには離婚の意思がなかつたことが窺われる(控訴人は、当審において、Aが当時離婚の意思をもつており、控訴人にその旨を告げた、と供述するが、前掲各証拠に照らすと、右供述はそのまま信用することができず、他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。)。そうであるとすると、右認定の時期において、被控訴人が近い将来にAと離婚できる状況にはなかつたとみるべきである。 しかし、原審および当審における控訴人本人尋問の結果によると控訴人自身は、被控訴人から右の状況を告げられたことはなく、かえつて、いずれ遠くない時期に被控訴人がAと離婚できるであろうといわれ、右の状況には気付かないでいたことが窺われるのである(控訴人は、当審において、被控訴人から、Aとの離婚について、「どうしても出来ない。」といわれたことはなく、ただ、「今は出来ない。」といわれた、と供述する。右後段の供述部分は、右前段の供述部分と対比すると、今直ちに離婚はできないといわれたとの趣旨に理解するのが自然であるから、右後段の供述部分は前記認定を左右する証拠とすることはできない。他に前記認定を左右する証拠は見出せない。)。したがつて、被控訴人が近い将来に、Aと離婚できる状況になかつたからといつて、そのことは、控訴人が、被控訴人がいずれはAと離婚して自分と結婚してくれるであろうと誤信したと認定することの妨げとはならないとすべきである。(二)被控訴人は、被控訴人が控訴人の思慮不十分を奇貨として結婚に名を籍りて控訴人を弄んだ事実はないと主張するが、前認定を覆して被控訴人の右主張事実を肯認するに との妨げとはならないとすべきである。(二)被控訴人は、被控訴人が控訴人の思慮不十分を奇貨として結婚に名を籍りて控訴人を弄んだ事実はないと主張するが、前認定を覆して被控訴人の右主張事実を肯認するに足りる証拠はない。 (三) 前記(一)の認定事実によると、被控訴人は控訴人と結婚する意思がないのに右意思があるように装つて控訴人を欺き、控訴人の誤信に乗じて情交関係を結ばせ、控訴人の意思決定の自由、貞操、名誉を侵害したものとすべきであり、また前記(一)の事実関係によると控訴人が被控訴人の右加害行為により精神的苦痛を被つたものと認めるのが相当である。そして、法例第一一条によると、不法行為によつて生ずる債権の成立および効力は、その原因たる事実の発生した地の法律によるべきものであり、本件について日本民法が法例第一一条の指定する準拠法となることは前記(一)の事実関係から明らかであるところ、被控訴人の行為は日本民法第七〇九条、第七一〇条所定の不法行為の構成要件を充足するから、被控訴人は控訴人に対し、控訴人が被つた精神的損害の賠償として相当額の慰籍料を支払うべき義務があるものといわなければならない。 二、 慰籍料請求の許否について。 被控訴人は、「控訴人は、被控訴人に妻があることを知りながら被控訴人と情交関係を結んだものであるから、控訴人の行為は公序良俗に反するものであり、控訴人がこれにより精神的損害を被つたとしても、民法第七〇八条本文の規定の類推適用により、右損害の賠償として慰籍料を請求することは許されない。」と主張し、これに対し、控訴人は、「被控訴人と妻Aとは、当時、事実上の離婚状態にあつたものであるから、控訴人の行為は公序良俗に反しない。したがつて、控訴人の慰籍料請求に対して民法第七〇八条の類推適用はない。 仮に右主張が理由がないとしても、被控 とは、当時、事実上の離婚状態にあつたものであるから、控訴人の行為は公序良俗に反しない。したがつて、控訴人の慰籍料請求に対して民法第七〇八条の類推適用はない。 仮に右主張が理由がないとしても、被控訴人が控訴人と情交関係を結んだ動機ないし目的、行為の内容の諸点からみると、被控訴人の行為には許し難い不法性があり、一方、控訴人は、被控訴人から欺かれて被控訴人と情交関係に入つたものであり、不法はもつぱら被控訴人の側にあるから、民法第七〇八条但書の規定により同条本文の規定の類推適用は排除される。」と主張するので、以下この点について判断する。 (一) おもうに、女性が男性に妻のあることを知りながら、男性と、長期間にわたり継統的に、情交関係を結ぶ行為は、一般的にいえば、男性の、妻に対する貞操義務違反に加担する違法な行為であるのみならず、男性と共同して、夫婦共同生活を支配する貞潔の倫理にもとる行為に出たことにもなつて、民法第九〇条にいう公序良俗に反するものとの非難を免れず、女性がこれにより貞操等を侵害され、精神的苦痛を被ることがあつてもその損害の賠償を請求することは、結局自己に存する不法の原因により損害の賠償を請求するものであり、このような請求に対しては、民法第七〇八条本文の規定の類推適用により、法的保護を拒むべきである。この限りにおいて、被控訴人の主張は正当なものを含むものといわざるをえない。しかしながら、夫婦が離婚の合意をして、別居し、または、夫婦間にこれに類似する事情が生じ、夫婦共同生活の実体がまつたく存在しなくなり、婚姻解消の法律的手続を履むことだけが残されているという状態、すなわち事実上の離婚状態が生じている場合には、夫と性的関係をもつた妻以外の女性が、これにより貞操等を侵害され、精神的苦痛を被つたとして、その損害の賠償を請求するのに対し けが残されているという状態、すなわち事実上の離婚状態が生じている場合には、夫と性的関係をもつた妻以外の女性が、これにより貞操等を侵害され、精神的苦痛を被つたとして、その損害の賠償を請求するのに対し、民法第七〇八条本文の規定を類推適用して法的保護を拒否すること<要旨>が必ずしも適当でないことがあるであろう。さらにまた、夫と妻とが事実上の離婚状態になつていなくても、</要旨>夫が妻以外の女性に対して欺岡手段を用いて情交関係を結び、女性の貞操等を侵害した場合において、(右情交関係が公序良俗に反することは否定することができないが)右関係を結ぶについての双方の動機ないし目的、欺岡手段の態容、男性に妻があることに対する女性の認識の有無等諸般の事情を斟酌して双方の不法性を衡量してみて、公序良俗違反の事態を現出させた主たる原因は男性に帰せしめられるべきであると認められるときは、民法第七〇八条但書により同条本文の適用は排除され、女性の精神的損害の賠償請求は許容されるべきものと解するのが相当である。 (二) これを本件についてみるに、昭和三五年五月当時、被控訴人と妻Aとの間がうまくいかず、被控訴人がAと同居はしているものの寝室を共にしないという状態であつたことは先に説明したとおりである。しかし、このことだけを根拠にして、被控訴人とAとが事実上の離婚状態にあつたということができないことはいうまてもなく、このほか、控訴人と被控訴人とが情交関係を継続していた間に被控訴人とAとが事実上の離婚状態にあつたことを肯認するに足りる証拠はない。また、真正にできたことについて争いのない甲第三、第四号証と原審および当審における被控訴人本人尋問の結果とをあわせ考えると、Aは、昭和三八年七月二六日、被控訴人を相手どり、浦和地方裁判所に対し離婚請求の訴を提起し(同裁料所昭和三八 いのない甲第三、第四号証と原審および当審における被控訴人本人尋問の結果とをあわせ考えると、Aは、昭和三八年七月二六日、被控訴人を相手どり、浦和地方裁判所に対し離婚請求の訴を提起し(同裁料所昭和三八年(タ)第一三号事件)、昭和三八年八月一六日、Aと被控訴人とを離婚する旨の判決の言渡があり、右判決はその頃確定した事実を認めることができるが(右認定を妨げる証拠はない。)、右事実は、被控訴人とAとが事実上の離婚状態にあつたとは認められないという前記判断を左右するに足りないとすべきである。そうすると、被控訴人とAとが事実上の離婚状態にあつたことを前提として、控訴人の慰籍料請求に対しては民法第七〇八条の類推適用はないとする控訴人の主張は採用することができない。 (三) しかし、(イ)被控訴人は、性的享楽の目的を遂げるために、控訴人が若年で思慮不十分であるのにつけこみ、真実は控訴人と結婚する意思がないのに、その意思があるように装い、妻と離婚して控訴人と結婚すると述べて、控訴人を欺岡し、控訴人をして、被控訴人が自分と結婚してくれるものと誤信させて、情交関係を結ばせ、爾後、同じ欺岡手段を用いて、一年有余にわたつて情交関係を継続させたものであり、一方、控訴人は、被控訴人のことばをそのまま信じ切つて、情交関係を結んだのである(前記一(一)参照)。(ロ)控訴人は、被控訴人に妻があることを知つてはいたが(その故にこそ、控訴人は、被控訴人との関係について、「道徳的に考えたらまちがつている」と苛責の念にかられたこともあつたことは、前記乙第一号証の一ないし八によりこれを窺うことができる)、被控訴人から妻Aとの不和の状態を知らされたこともあつて、妻と離婚するということばを真に受けていて、被控訴人と結婚することができるという期待をもつて、被控訴人に身を委せたのである うことができる)、被控訴人から妻Aとの不和の状態を知らされたこともあつて、妻と離婚するということばを真に受けていて、被控訴人と結婚することができるという期待をもつて、被控訴人に身を委せたのである(前記一(一)参照)。(ハ)また、前記甲第三号証に当審における証人Cの証言、被控訴人本人尋問をあわせ考えると、被控訴人は、Aと離婚する前である昭和三四年一一月から、Fと称する日本人女性と情交関係を結び、日ならずして、昭和三五年から昭和三六年にかけて、控訴人と情交関係を結んだほか、その後、Gとも情交関係をもつたことを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない(被控訴人とAを離婚する旨の前記判決は、被控訴人がFおよび控訴人と情交関係を結んだことを被控訴人の不貞行為であるとし、これを離婚原因に当るものと判断している。そして、被控訴人Gとの関係は、Aがこれを指摘したにかかわらず、前記判決においては、肯認されなかつたが、現在、被控訴人はGとの関係を自認している。)。以上(イ)ないし(ハ)に掲記した諸般の事情をあわせ考えると、控訴人が被控訴人に妻のあることを知りながら被控訴人と情交関係を結んだ行為が公序良俗に反することは否定できないが、不法性は明らかに被控訴人の方が大きく、このような公序良俗違反の事態を現出させた主たる原因は被控訴人に帰せしめられるべきものとすべきである。してみると、本件においては、民法第七〇八条但書の規定により同条本文の規定の適用は排除され、控訴人の慰籍料請求は是認されるとするのが相当である。 三、 慰籍料額について。 よつて、慰籍料額について判断する。原審および当審における控訴人本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせ考えると、控訴人がはじめて被控訴人と情交関係を結んだのは一九才余の時期であり、それまでに異性に接した体験の 料額について判断する。原審および当審における控訴人本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせ考えると、控訴人がはじめて被控訴人と情交関係を結んだのは一九才余の時期であり、それまでに異性に接した体験のない控訴人は、前記のとおり被控訴人から欺かれて情交関係を結び、果ては、結婚への期待を裏切られ、被控訴人の子であるBの養育を一身に荷わなければならなくなつたもので、その精神的苦痛は多大なものがあることを認めることができる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。ただ、控訴人が被控訴人に結婚の意思があるものと誤信させられたとはいえ、結婚前の情交はこれを慎むのが良識ある女性のあり方であることをおもうと、控訴人がより慎重に身を処したならば、前記のような結果を回避し、精神的苦痛を幾分軽くすることができたのではないかと考えられるのである。そして、以上の事情に、(イ)本件不法行為の態容、(ロ)控訴人の財産状態(原審および当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、一時、バーのホステスとして働いていたこともあつたが、その後、美容学校の学生に転じ、定収入がないことが窺われる。)、(ハ)被控訴人の財産状態(原審における証人水本民雄の証言により真正にできたものと認められる乙第三号証に原審における証人水本民雄の証言、被控訴人本人尋問の結果をあわせ考えると、被控訴人は昭和三九年九月三日当時において月収手取り額二三四ドルの収入があつたことを認めることができ、その後右収入額が滅つたことを認めるに足りる証拠はない。)(ニ)Bに対しては、同人が成人する頃までの間、被控訴人から月額一万円の養育料が支払われることとなつていること(後記四参照)等の諸事情をあわせ考えると、被控訴人が控訴人に支払うべき慰籍料の額は六〇万円をもつて相当とすべきである。 四、 慰籍料請求権の放棄 月額一万円の養育料が支払われることとなつていること(後記四参照)等の諸事情をあわせ考えると、被控訴人が控訴人に支払うべき慰籍料の額は六〇万円をもつて相当とすべきである。 四、 慰籍料請求権の放棄の有無について。 Bを申立人(その法定代理人は控訴人)、被控訴人を相手方とする東京家庭裁判所八王子支部昭和三七年(家イ)第一〇七号認知調停事件について、昭和三八年三月八日に調停が成立したことは当事者間に争いがない。被控訴人は、右調停成立の際に控訴人は慰籍料請求権を放棄したと主張し、原審および当審における証人水本民雄および被控訴人本人の各供述中には、右主張に添うような供述部分があるが、右供述部分は原審における証人Dの証言、原審および当審における控訴人本人の供述に照らし、そのまま信用することはできず、他に被控訴人の右主張事実を肯認するに足りる証拠はない。 かえつて、前記乙第三号証、真正にできたことについて争いのない乙第二号証と原審における証人D、原審および当審における証人水本民雄の各証言、原審および当審における控訴人および被控訴人各本人尋問の結果とをあわせ考えると、次の事実を認めることができる。 (一) 控訴人は、Bを分娩した後、被控訴人に対し、Bの認知およびその養育費等の支払を請求したが、被控訴人が右請求に応じないので、昭和三七年中、Bの法定代理人の資格で、被控訴人を相手どり、東京家庭裁判所八王子支部に認知調停の申立をし(同裁判所昭和三七年(家イ)第一〇七号事件)、昭和三八年三月八日に調停が成立したが、調停調書記載の調停条項は、(1)被控訴人がBを認知すること、(2)被控訴人がBに対し、養育費として昭和三八年一月一日から昭和五七年一二月末日まで一カ月一万円の割合による金員を支払うこと(右期間内の養育費合計額と昭和三七年度分の養育費として支払 知すること、(2)被控訴人がBに対し、養育費として昭和三八年一月一日から昭和五七年一二月末日まで一カ月一万円の割合による金員を支払うこと(右期間内の養育費合計額と昭和三七年度分の養育費として支払の合意ができた三万円とを合わせると二四三万円となる。)を骨子とするものであつて、控訴人の被控訴人に対する慰籍料請求権についてはなんら触れていない。 (二) 右調停成立にいたる経緯は次のとおりである。右調停は、被控訴人にBを認知してもらいたいという申立にもとづいて始められたものであり、認知そのものは、当事者が合意に到達するのにさして難航しなかつた。ところで、右調停事件について被控訴人の代理人となつた弁護士水本民雄(本件の被控訴代理人)は、後日、Bあるいは控訴人と被控訴人との間におこるかもしれない金銭上の問題をも一挙に解決しておくことを至当と考え、調停委員を通じて控訴人に対し、金銭的要求の有無を質したところ、控訴人は、Bの養育費として一五〇万円の支払を求めるとともに、控訴人が被控訴人から欺かれて貞操等を侵害されたことによつて被つた精神的損害の賠償として三五〇万円の慰籍料の支払を求めると回答した。これに対し、被控訴人は、Bの養育費として月額一〇ドル(前記調停条項所定の昭和三八年一月一日から昭和五七年一二月末日までの期間を通じて月額一〇ドルの割合で支払われる金額の合計は八七万六〇〇〇円となる。)を支払うといい、次いで月額一五ドル(前同様の計算によると合計一三一万四〇〇〇円)を、さらに月額二〇ドル(前同様の計算によると合計一七五万二〇〇〇円)を支払うといつて、B次譲歩したが、こと慰籍料に関しては、終始、その支払請求に応じられないという態度を示した。控訴人は、養育費に限つてみると、当初の要求額を上廻る額を取得することができることとなるとはいえ、慰籍料の B次譲歩したが、こと慰籍料に関しては、終始、その支払請求に応じられないという態度を示した。控訴人は、養育費に限つてみると、当初の要求額を上廻る額を取得することができることとなるとはいえ、慰籍料の請求を全面的に拒まれては、総額五〇〇万円の線にはほど遠いこととなるので、養育費についても、被控訴人の申出額をそのまま応諾するにいたらなかつた。このような状況に逢着した調停委員は、控訴人に対し、控訴人に慰籍料請求権があるかどうか疑わしいとの理由を挙げ、その支払の調整に難色を示す一方、双方に対し、養育費の月額として二五ドル(前同様の計算によると合計二一九万円)を提案して、考慮を促した。そこで、控訴人は、慰籍料請求はしばらく保留することとし、とりあえず、養育費に関する調停委員案を容れることとした。被控訴人側では、水本弁護士が被控訴人に対し、慰籍料を兼ね合わせるということで右調停委員案を容れるよう説得に努めて、被控訴人の諒解を得たので、調停委員に対し、さきの提案を応諾すると回答し、昭和三八年三月八日の最終期日において、被控訴人がBに対し養育費として月額一万円を支払うという基本的な方向において双方の意見の一致をみ、前記のような調停条項ができあがつた。 (三) 右調停成立にあたつて、水本弁護士から家事審判官あるいは調停委員に対し、同弁護士の被控訴人に対する前記説得のいきさつが報告されたことはなく、また、家事審判官から双方に対し、養育費という名目の額の中に実質上慰籍料を含ませるというような説明がされたこともなかつた。さらに、控訴人から慰籍料を請求しないという言明がされたこともない。 このように認められる。そして、右(一)ないし(三)の認定事実をあわせ考えると、控訴人が右調停成立の際慰籍料請求権を放棄した事実はなかつたものと認めるのが相当である。 四、 されたこともない。 このように認められる。そして、右(一)ないし(三)の認定事実をあわせ考えると、控訴人が右調停成立の際慰籍料請求権を放棄した事実はなかつたものと認めるのが相当である。 四、 むすび以上説明したとおりであつて、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し六〇万円およびこれに対する昭和三八年七月二三日(この日が本件訴状送達の日の翌日であることは記録上明らかである。)から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余の請求は棄却すべきである。よつて、これと異なる範囲において原判決を主文第一項ないし第三項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官新村義広裁判官中田秀慧裁判官蕪山厳)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る