平成11特(わ)4428 各商法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成14年8月30日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-5789.txt

判決文本文44,334 文字)

◆H14.8.30 東京地方裁判所平成11年特(わ)第4428号各商法違反被告事件 主文 被告人Aを懲役2年6月に,被告人Bを懲役2年に処する。 被告人Bに対し,この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは,東京都千代田区ab丁目c番d号に本店を置き銀行業を営む株式会社C銀行の代表取締役頭取として同銀行の業務全般を統括し,被告人Bは,同銀行の代表取締役副頭取として被告人Aを補佐して同銀行の融資業務等を統括し,いずれも銀行資金の貸付けを行うに当たっては,あらかじめ貸付先の営業状態,資産等を精査するとともに,確実にして十分な担保を徴するなどして貸付金の回収に万全の措置を構ずべき任務を有していたものであったが,被告人両名は,共謀の上,別紙一覧表記載のとおり,平成9年7月31日から平成10年6月1日までの間,前後20回にわたり,同銀行本店において,東京都三鷹市ef丁目g番h号に本店を置きカラオケ店舗の営業等を営むD株式会社及び被告人両名等の利益を図る目的をもって,被告人両名の右任務に背き,D株式会社には債務の返済能力がない上,同社に対する貸付金は保全不足の状態にあって,同社が他に特段の資産を有しないため十分な担保も徴求することができないことから,同社に引き続き貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴するなど,貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同社に対し合計90億5100万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えたものである。 なお しながら,十分な担保を徴するなど,貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,同社に対し合計90億5100万円を貸し付け,もって,同銀行に同額の財産上の損害を加えたものである。 なお,本件各貸付の実行に関しては,融資審議会においてその是非が検討され,その結果として融資可の意見が出されていたのであって,被告人両名以外にも,本件各貸付の決定,実行に関与した者の存在が窺われるが,当裁判所は,証拠に照らし,検察官主張の公訴事実の範囲内で,判示事実のとおり認定したものである。 (争点に対する判断)本件において,被告人両名の職務権限・任務,その決定・指示に基づき,株式会社C銀行からD株式会社に対して,判示のとおりの各貸付が行われたこと,各貸付時点でD株式会社に対する融資残高が大幅な保全不足の状態にあったことは関係証拠上明らかであるところ,各弁護人は,これら本件各貸付実行に関わる外形的事実については特に争わない。 その上で,各弁護人は,概ね次のような主張をして,被告人Aにつき本件起訴を公訴棄却すべきであり,あるいは被告人両名は無罪である旨それぞれ主張し,被告人両名もそれに沿う供述をする。 1 被告人Aについてまず,本件の捜査において,検察官は,被告人Aの弁護人との逮捕直後の初回の接見,弁護人選任を妨害し,理由がないにもかかわらず被告人Aを逮捕勾留した上,勾留期間中に,被告人Aの人格や名誉を侵害したり,その健康状態に配慮せず,威迫や欺罔行為を行って自白を強要したのであり,本件捜査は著しく違法で,本件起訴自体違法性の強いものであるから,公訴棄却されるべきである。 また,本件各貸付は担保不足ではあるが,新規融資とは異なる継続融資であり,被告人Aは,貸付を継続し,D株式会社の収支改善を図ることにより,その再建が可能で,かつ,未回収の 棄却されるべきである。 また,本件各貸付は担保不足ではあるが,新規融資とは異なる継続融資であり,被告人Aは,貸付を継続し,D株式会社の収支改善を図ることにより,その再建が可能で,かつ,未回収の過去の融資残高及び本件各貸付について全額の回収ができると判断し,同社から返済が受けられると考えて本件各貸付を実行したもので,被告人Aには任務違背の認識はなく,また,株式会社C銀行本来の利益を図ったものであるから,図利加害目的もない。さらに,本件各貸付の主たる目的については,被告人Bの認識との間に相違がある上,同被告人との間で,本件各貸付に関する具体的な話合いはなされておらず,個別的にも包括的にも背任の共謀はなかったのであり,被告人Aは無罪である。 2 被告人Bについて本件各貸付は,いわゆるバブル崩壊後の異常な経済状況下にあって,株式会社C銀行が,経営状況が悪化し,既に融資残高が同銀行及びその関連会社全体で約90億円に及んでいたD株式会社への融資を中止すれば,同社や関連会社であるE株式会社が倒産し,ひいては償却財源のなかった株式会社C銀行も破綻に追い込まれることになるため,それを防ぎ同銀行の存続を図るために,D株式会社等を存続させて償却可能な程度までに融資残高を減少させるためやむを得ず行った融資であり,金融機関として他に選択の余地がなかったものであるから,被告人Bには,任務違背行為も,図利加害目的もなく,無罪である。 以上に対し,当裁判所は,判示各事実を認定したので,以下これらの点について,まず本件に関係する各会社の概要,本件各貸付を含めた株式会社C銀行等からD株式会社等への融資状況,関係会社の経営状況等につき検討し,それらを前提に被告人両名の関与,認識等について,その他弁護人が種々主張する点も含めて,必要な限度で補足説明する。 第1 社C銀行等からD株式会社等への融資状況,関係会社の経営状況等につき検討し,それらを前提に被告人両名の関与,認識等について,その他弁護人が種々主張する点も含めて,必要な限度で補足説明する。 第1 関係会社等の概要関係証拠によれば,以下の事実を認定することができる。 1 株式会社C銀行株式会社C銀行は,昭和28年,株式会社F銀行として設立され,平成元年4月に普通銀行に転換して株式会社C銀行に商号変更され,預金又は定期積金の受入れ,資金の貸付等を目的とする銀行で,平成9年時においては,資本金124億7400万円であった。平成4年9月に決算承認金融機関の指定を受けていた。 被告人Aは,平成4年6月から平成11年4月までの間,同銀行の代表取締役頭取の地位に,被告人Bは,平成6年6月から同銀行の代表取締役副頭取の地位にあった。なお,同銀行は,平成11年4月,金融再生委員会から金融整理管財人による業務及び財産の管理を命じる処分を受けた。(以下,株式会社F銀行の時代を含めて「C銀行」ともいう。) 2 G株式会社G株式会社は,昭和63年に,C銀行が,抵当証券に関する業務等を扱う関連会社を必要としたことから,それを目的とし,原則としてC銀行の取引先を対象に融資又は保証を行う会社として設立され,C銀行及び同銀行の関連会社で過半数の株式を保有するC銀行の関連会社である。昭和63年10月から平成9年6月までは,Hが代表取締役の地位にあり,それ以降は,Iがその地位にあった。G株式会社の経営基本方針や経営計画等については,C銀行の事前承認を必要とし,C銀行の指導・監理の下に運営が行われていた。 3 J株式会社J株式会社は,昭和59年8月,総合リースや売掛債権,手形の買取等に関連する融資等を目的として設立され,C銀行及び同銀行 要とし,C銀行の指導・監理の下に運営が行われていた。 3 J株式会社J株式会社は,昭和59年8月,総合リースや売掛債権,手形の買取等に関連する融資等を目的として設立され,C銀行及び同銀行の関連会社で過半数の株式を保有するC銀行の関連会社である。J株式会社の経営基本方針や経営計画等についても,G株式会社同様,C銀行の事前承認を必要とし,C銀行の指導・監理の下に運営が行われていた。(以下,C銀行,G株式会社,J株式会社を総称して「C銀行グループ」ともいう。) 4 K株式会社K株式会社は,C銀行の筆頭株主である会社で,K株式会社の関連会社等の保有株式を合わせると,C銀行の9割弱の株式を保有するC銀行の親会社ともいえる会社である。K株式会社の株式はL一族が保有し,本件当時M(以下「L」ともいう。)が一族の中心として代表取締役社長を務め,同社の実権を掌握していた。 Lは,昭和61年11月から,C銀行の非常勤取締役会長にも就任していたが,C銀行に対してもその役員人事を左右するなど,実質的にオーナーとして実権を握っていた。 5 E株式会社及びD株式会社E株式会社は,昭和56年2月,N(以下「N」ともいう。)が冷凍水産物の通信販売等を行う会社として設立した会社で,代表取締役社長のNがオーナーとして,経営権等の実権を掌握していた。同社は,平成2年ころからは,カラオケ事業を営み,以後,カラオケ店舗の工事施工やカラオケ機器の販売等を主に業として行っていた。 D株式会社は,E株式会社の社長Nが,昭和62年4月,株式会社Oの商号で設立し,平成6年1月に,D株式会社に商号変更された会社である。設立当初から,E株式会社の関連事業を行っており,平成3年ころからは,E株式会社のカラオケ事業への進出に伴い,その一環として,カラオケ店舗の営 ,平成6年1月に,D株式会社に商号変更された会社である。設立当初から,E株式会社の関連事業を行っており,平成3年ころからは,E株式会社のカラオケ事業への進出に伴い,その一環として,カラオケ店舗の営業を業としていた。 同社もE株式会社同様,代表取締役社長のNがオーナーであり,同人がその経営権等の実権を掌握していた。両社は,後記のとおり,カラオケ店の設置工事からその営業にわたるカラオケ事業全般の運営について密接な関係を有し,資金的にも極めて緊密な関係にあり,本件当時は本店,事務所も同じ場所とするなどしていた。なお,D株式会社は,平成11年3月にC銀行から破産宣告が申し立てられ,同年10月に裁判所から破産宣告を受けた。(以下,商号変更前後を問わず「D」ともいう。)平成9年当時までのE株式会社,D株式会社両社のカラオケ事業に関する本来的な事業形態をみると,まず,E株式会社が,建物や土地を所有・賃借している者(以下「オーナー」ともいう。)からその建物をカラオケ店舗にするための内装工事やカラオケ設備の設置工事等を受注し,あるいは,店舗の建築工事を受注し,その際,その工事代金に金利を上乗せした金額の割賦払手形を工事代金として受け取った上で,オーナーから受け取った手形を担保にG株式会社やJ株式会社から融資を受けて工事を完成させる。工事完成後には,D株式会社が,オーナーからの委託を受け,オーナーがE株式会社に支払う前記の割賦払手形の決済資金にオーナーの利益分等の一定額を加算した金額を,家賃あるいは業務委託料(以下単に「家賃」ともいう。)などと称して,オーナーに対して支払うことを約してカラオケ店舗の経営を行う。そして,D株式会社の右家賃支払いについて,E株式会社が連帯保証するというものであった(以下,このような形態につき「高額家賃保証方式」ともい ーナーに対して支払うことを約してカラオケ店舗の経営を行う。そして,D株式会社の右家賃支払いについて,E株式会社が連帯保証するというものであった(以下,このような形態につき「高額家賃保証方式」ともいう。)。 第2 C銀行グループからE株式会社及びD株式会社への融資の状況等関係証拠によれば,C銀行グループからE株式会社及びD株式会社への融資概要については以下の事実が認められ,この点については,概ね争いがない。 1 C銀行とE株式会社との取引は,昭和57年にC銀行がE株式会社に9000万円の融資をしたことから開始され,平成元年10月期には,融資残高は約21億円となった。その後,E株式会社は,G株式会社,J株式会社からも融資を受けるようになったが,C銀行のE株式会社に対する融資は概ね順次増加していき,平成8年10月期には,融資残高が約46億6000万円を超えた。 また,D株式会社は,平成元年6月からC銀行と取引を開始し,その後平成7年までは取引はなかったが,同年3月ころから,再びC銀行から融資を受けるようになった。平成9年3月期には,融資残高が約14億9000万円を超えていた。 なお,平成9年1月末からは,C銀行はE株式会社を融資先とするのをやめ,以後は,Nからの融資申込に対し,D株式会社を融資先とすることにして貸付を実行しており,平成9年1月末から本件直前の同年7月10日までの間の融資総額は約26億7000万円強であり,同年2月末以降だけでも,総額21億8000万円余の融資が実行された。 2 平成9年7月10日の時点におけるC銀行のD株式会社に対する融資残高は約28億1000万円余,E株式会社に対する融資残高は同年6月末の時点で約53億3000万円余であり,C銀行の内規により担保として認められていない入居保証金の担保手形を D株式会社に対する融資残高は約28億1000万円余,E株式会社に対する融資残高は同年6月末の時点で約53億3000万円余であり,C銀行の内規により担保として認められていない入居保証金の担保手形を担保に含めても,そのうちD株式会社においては約26億円余,E株式会社においては約44億円余が保全不足債権であり,大幅な保全不足の状態となっていた。 また,C銀行グループ全体でのE株式会社及びD株式会社に対する融資残高は約91億7000万円余であった。 3 本件各貸付は,平成9年7月31日以降平成10年6月1日の間に行われたものであるが,その間の平成9年12月30日には,それまでのE株式会社への融資残高を減らすことを目的として,D株式会社へ30億円の貸付が実行された。この貸付金が,D株式会社から同額をE株式会社へ貸し付けた上で,E株式会社からC銀行に対する債務の返済に充てられ,その結果,C銀行のE株式会社への債権が実質的にD株式会社へ付け替えられた。 4 そして,本件各貸付後の平成10年6月1日の時点においては,C銀行のE株式会社及びD株式会社に対する融資残高の合計は約96億8000万円,C銀行グループ全体での融資残高は約104億2000万円であった。 その後,D株式会社に対する融資のうち約87億5000万円,E株式会社については約7億3000万円が回収不能状態になっている。 第3 平成9年7月以降におけるE株式会社及びD株式会社の返済能力等 1 前記のとおり,E株式会社及びD株式会社は経営者を同じにし,その事業内容,経営形態においても極めて緊密な関係にあった上,証拠によれば,被告人らを始めとするC銀行側関係者においても,両社を実質的に一体のものとして考え,そのように取り扱っていたことが認められる。 そして,E株式会社の債 極めて緊密な関係にあった上,証拠によれば,被告人らを始めとするC銀行側関係者においても,両社を実質的に一体のものとして考え,そのように取り扱っていたことが認められる。 そして,E株式会社の債務をD株式会社に付け替えしていることなどの事情もあるので,本件各貸付は,D株式会社に対する融資ではあるが,以下においては,E株式会社及びD株式会社全体について,本件各貸付が行われた平成9年7月以降における返済能力及びその可能性を検討することとする。 2 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) E株式会社及びD株式会社の事業形態は,前記のとおりであり,E株式会社は,営業実績や利益をあげるために,オーナーとなる者を探してはカラオケ関連工事の発注を受け続けたものの,D株式会社においては,高額家賃保証方式の下で各カラオケ店舗の営業収益にかかわらず,定期的に一定の家賃を払わなければならなかったところ,E株式会社において受注件数をあげるため新たなオーナーを確保するにあたって,立地条件等カラオケ店舗経営に際しての採算性を十分考慮せず,さらには営業担当者が多くの歩合給を得ようとして実態に見合わない高額でのカラオケ店舗工事等を受注するなどしたことから,多くの店舗において,そのオーナーに対して実際の売上に相応しない高額の家賃支払いを余儀なくされていたこと,さらにカラオケ業界が過当競争状態となるに伴い,D株式会社の営業業績自体も悪化する傾向にあったことなどから,D株式会社の経常収支は恒常的に赤字となる状況にあった。そして,E株式会社も,D株式会社の家賃支払いについて連帯保証をしていたことから,その資金の手当てをする必要があり,結局,E株式会社の経営も圧迫されることになった。 平成4年ころから,Nは,E株式会社及びD株式会社において,いず 払いについて連帯保証をしていたことから,その資金の手当てをする必要があり,結局,E株式会社の経営も圧迫されることになった。 平成4年ころから,Nは,E株式会社及びD株式会社において,いずれも実際には概ね当期損失を出していたにもかかわらず,決算において,売上高の架空,あるいは前倒計上,経費の過少計上等の手段により当期利益を計上する粉飾決算を行い,公表決算上は,E株式会社は平成8年まで,D株式会社は平成10年まで,当期利益を計上していた。 しかし,実際には,平成4年以降において,両社ともに経営状態は概ね悪化の一途をたどり,営業権譲渡による売上高を計上することにより,それを除けば赤字決算となるところを当期利益を計上し得た特別な1年度を除いて,ほぼ例年当期損益は赤字であった。両社の財務諸表を実態に即して修正し,その財政状態や損益状況等の実情をみたところによれば,E株式会社の平成8年10月期決算においては,当期損益は約24億3000万円余の損失,純資産額は約34億3000万円余の債務超過,D株式会社の同年3月期決算においては,純資産額は約3億5000万円の債務超過であり,当期損益については,営業権譲渡益を計上したことから約15億7000万円余の利益があったものの,E株式会社の平成9年10月期決算においては,当期損益は約13億1000万円余の損失,純資産額は約47億5000万円の債務超過,D株式会社の同年3月期決算においては,当期損益は約14億7000万円余の損失,純資産額は約18億2000万円の債務超過であり,また,E株式会社の平成10年10月期決算においても,当期損益は約2億700万円余の損失,純資産額は約49億5000万円余の債務超過,D株式会社の同年3月期決算においても,当期損益は約1億4000万円余の損失,純資産額 成10年10月期決算においても,当期損益は約2億700万円余の損失,純資産額は約49億5000万円余の債務超過,D株式会社の同年3月期決算においても,当期損益は約1億4000万円余の損失,純資産額は約19億6000万円余の債務超過となっている(甲34,35等)。このようにE株式会社及びD株式会社両社は恒常的に損失を重ねて資金繰りにも窮し,日常的にC銀行からの融資を受けることにより,それを支払資金に充て,かろうじて経営を維持する状態となっていた。 (2) C銀行本店営業部の融資案件審査担当審査役であったP(以下「P」ともいう。)は,平成8年11月ころから,C銀行に設けられたD株式会社等に対する融資問題検討のプロジェクトチームの中心となって,E株式会社及びD株式会社の経営実態,その経営再建策等について検討を重ね,自ら作成し,平成9年1月22日ころにC銀行の役員らに配付された「E・D・レポート」と題する書面中において,平成9年2月から5月までの4か月間の資金繰り予想として,E株式会社については約10億5000万円余,D株式会社においては約5億4000万円余の資金不足が予想され,E株式会社及びD株式会社等の再建策として,高額家賃保証方式によらなければ契約を受注できず,D株式会社の経営悪化を招くE株式会社のカラオケ店舗工事事業を中止させ,経営をD株式会社のカラオケ店経営に絞ったとしても,売上不足等から毎月の収支が赤字となることなどから,結局のところE株式会社及びD株式会社の再建はもはや不可能である旨を報告したが,関係証拠に照らし,その報告内容は客観性を有し,概ね正鵠を射たものと評価される(この点については,弁護人の主張に鑑み,後に改めて検討する。)。 また,平成9年2月10日に開催されたE株式会社対策プロジェクトチームのメンバ 客観性を有し,概ね正鵠を射たものと評価される(この点については,弁護人の主張に鑑み,後に改めて検討する。)。 また,平成9年2月10日に開催されたE株式会社対策プロジェクトチームのメンバーを交えた融資審議会の席上において,担当者からE株式会社及びD株式会社の現況について,平成8年12月から平成9年5月までの間に,E株式会社の資金不足額が約19億7000万円余,D株式会社のそれが約11億円弱に上ること,今後も赤字体質から脱却の見込みがないことなどが報告され,同月13日に被告人両名出席の上で開催された検討会においても,同日現在のE株式会社に対する貸出残高が約55億4000万円,D株式会社に対するそれが6億2000万円余で,両社合計で約53億5000万円余の保全不足に陥っていること,さらに,平成9年5月末までに両社で合計約18億円余の資金不足が見込まれ,このまま融資を継続すると5月末には保全不足額が約71億6000万円まで膨らむ見込みであること,D株式会社の赤字幅が増大していることなど,それまでと同じ趣旨の内容が報告され,融資の事務手続に当たる本店営業部やこれを検討する立場の審査部関係者からは,一様にD株式会社に対する融資実行について反対の意見が示されていた。 (3) 審査部主任調査役に異動しE株式会社及びD株式会社の実態調査に従事していたPは,平成9年4月2日に行われたE株式会社及びD株式会社の実態調査に関する報告会において,E株式会社については,平成8年10月期決算において,Q株式会社の債務免除益を計上していたが,実際には株式会社R(以下「R」という。)への債権譲渡であり,債務免除益はなく,約23億円の期間赤字であること,平成8年11月から平成9年2月までの期間においても約14億2000万円余の赤字があり,平成9年10月 R(以下「R」という。)への債権譲渡であり,債務免除益はなく,約23億円の期間赤字であること,平成8年11月から平成9年2月までの期間においても約14億2000万円余の赤字があり,平成9年10月期の決算においても多額の赤字が見込まれること,今後平成9年4月からの6か月間において約12億5000万円余の資金不足が見込まれること,また,D株式会社については,カラオケ店舗の営業権譲渡による売却益を除いたカラオケ店舗の営業損益は,平成7年3月期では約18億円,平成8年3月期では約25億円の経常赤字であること,平成8年4月から平成9年1月までの試算によっても,約6億9000万円余の経常赤字になっていること,営業権譲渡先との間でそれぞれ問題を抱えていること,今後の平成9年4月からの6か月間において約10億1000万円余の資金不足が見込まれることなどをあげ,E株式会社及びD株式会社の赤字減少は可能であっても,黒字への転換は困難あるいは時間を要する旨を報告し,平成9年4月25日,同年5月6日のプロジェクトチームの検討会でも,同様の内容の報告を報告している。これらの報告内容も,関係証拠に照らし,客観性を有する概ね正確なものと評価される。 (4) さらに,平成9年7月上旬ころに,Nは,C銀行本店営業部のS次長宛ての文書をもって,平成9年3月期のD株式会社の決算内容について,D株式会社において架空の売上を計上するなどして当期経常収支が黒字であるかのように修正を行っていた旨をC銀行に申告し,その内容はそのころ被告人B,被告人Aに順次報告された。 (5) そして,平成9年2月28日から同年7月10日までの間に,C銀行は,D株式会社に対して概ね定期的に月2回,前後12回にわたり,総額約21億円の融資を実行し,平成9年7月時点におけるC銀行のD株式会 そして,平成9年2月28日から同年7月10日までの間に,C銀行は,D株式会社に対して概ね定期的に月2回,前後12回にわたり,総額約21億円の融資を実行し,平成9年7月時点におけるC銀行のD株式会社に対する貸付残高は約28億1000万円余,同時期のE株式会社に対する貸付残高は約53億3000万円余となっていた。 3 以上の状況をみると,E株式会社及びD株式会社は,少なくとも平成7年以降,営業収益の赤字状態を継続していたこと,既に大幅な債務超過の状態にあって,恒常的に資金不足を招いており,企業存続のため最低限必要な支払資金捻出のためにも,継続的,日常的な資金援助を必要としていたこと,現実に本件各貸付の開始直前までの間にもC銀行等から恒常的に資金援助を受けていたことなどの事情が認められる。 そうすると,本件最初の貸付が実行される時点においては,既に,E株式会社及びD株式会社の債務残高は合計約80億円を超え,その大半が担保不足で新たに担保として提供できるようなみるべき資産もない上,経常収支が赤字を続ける本件各貸付以前の収益状況では既存の債務の返済どころか,年間数億円に及ぶその利息支払いすら困難な状態にあり,その後も収益改善の見込みはなく,赤字体質が継続して恒常的な資金不足が見込まれていたのであるから,特段の事情がない限り,残債務を完済することはおよそ不可能であり,ましてや,その後の新規貸付分の債務を完済することは到底不可能であったといわざるを得ない。 この点については,被告人Bも,本件各貸付時点において,それぞれの貸付金が返済されないであろう旨の認識を有していた旨公判廷でも述べているところである。 また,平成7年6月には,Q株式会社が,E株式会社は実質破綻状態にあり回収の見込みがないものと判断して,E株式会社に対する債権を あろう旨の認識を有していた旨公判廷でも述べているところである。 また,平成7年6月には,Q株式会社が,E株式会社は実質破綻状態にあり回収の見込みがないものと判断して,E株式会社に対する債権を株式会社T銀行を経由してRに譲渡し,平成9年9月にはU銀行株式会社が,D株式会社に対する債権を,同様に実質破綻状態にあるものと判断して,Rに譲渡していること,平成8年4月から5月にかけて行われた大蔵省関東財務局の検査官であったVが,Q株式会社による債権譲渡等の正確な資料が開示され,E株式会社及びD株式会社の関係等の説明がなされていれば,E株式会社及びD株式会社に対する債権については,債権回収又は価値について重大な懸念が存し,損失発生の可能性が高いⅢ分類ないし債権回収不可能又は無価値と判定されるⅣ分類と判断するのが相当であった旨供述していることが認められ,これらのことも右結論を裏付けるものである。 4 そして,C銀行の頭取あるいは副頭取として職務を遂行していた被告人両名は,本件各貸付時点においてD株式会社には債務の返済能力がないことなどを承知しながら,十分な担保も取らずに本件各貸付を実行したものである。関係者が一様に供述するように,前記各種の審議会,検討会等において,被告人両名が周囲の反対意見に対して,「今,E株式会社やD株式会社を倒産させることはできない。大きな不良債権を表面化させることはできない。」旨述べて,融資継続を指示したことなどに端的に現れている被告人両名の言動や本件各貸付及びそれに至る経緯の中で作成された各書面等の客観的証拠から,このことは十分認められる。さらに,前示のとおり,返済能力も担保余力もなく通常の金融機関からは到底多額の融資を受けることができず,支払資金にも窮する状況にあったD株式会社が,本件融資のような多額の貸付を定 は十分認められる。さらに,前示のとおり,返済能力も担保余力もなく通常の金融機関からは到底多額の融資を受けることができず,支払資金にも窮する状況にあったD株式会社が,本件融資のような多額の貸付を定期的に多数回にわたって受けられたこと自体,同社の利益というべきところ,その貸付金の使途をみても,C銀行に対する従来の債務返済や利息支払いに充てられた分もあるとはいえ,主としてその時々の(E株式会社を含む)D株式会社の必要性に応じた支払等に充てられており,結局本件各貸付はD株式会社に対する資金援助というべきもので,その利益となることは明らかである。これに対し,C銀行からは総額で90億円を超える資金が流出し,現に従前の融資分を含めて相当部分が回収不能となるなど,その回収が極めて困難となる結果を招いているのである。 以上によれば,被告人両名は,本来返済能力がない相手方であるD株式会社に貸付を行えば,貸付金の回収が不可能あるいは困難となり,銀行に損害を与えることなど,その状況を十分に認識しながら,十分な担保を徴するなど万全の措置もとらずに,判示の各貸付を行ったのであって,かかる状況に鑑みれば,本来貸付金の回収が不可能あるいは困難で融資を受けることができないD株式会社に対して融資をしていること自体から,本件各融資がD株式会社の利益を図り,C銀行の利益を害することになるのであって,被告人両名には図利加害目的があったものと推認されるから,被告人両名の行為は,特段の事情がない限り,背任罪を構成するものというべきである。 第4 E株式会社及びD株式会社の再建可能性等これに対し,各弁護人は,以上の客観的な数値自体は特段争わないものの,E株式会社及びD株式会社においては,C銀行が,人材を逐次派遣,出向させるなどして,その経営改善に尽力しており,これらによ 等これに対し,各弁護人は,以上の客観的な数値自体は特段争わないものの,E株式会社及びD株式会社においては,C銀行が,人材を逐次派遣,出向させるなどして,その経営改善に尽力しており,これらにより収支が改善される可能性があったことから,特段の事情があったもので,なお,前記の数値等を前提としても,その実質をみれば,返済の可能性があった旨主張するので,所論に鑑み,以下,E株式会社及びD株式会社の経営改善の可能性について検討する。 1 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 平成4年ころから,E株式会社の経営状況が悪化し,C銀行グループからE株式会社に対する貸付残高は約83億円に上っていた。 平成4年11月ころ,C銀行常務取締役兼審査部長であったWが融資審議会の席上において,被告人Aらに対し,E株式会社に粉飾決算の疑いがある旨報告したことから,これを受けて,被告人Aの指示により,E株式会社の経営実態の調査が行われることとなった。そして,同月末から平成5年2月までの間,C銀行本店営業部次長であったS及びG株式会社代表取締役社長であったHがE株式会社に派遣され,同社の経営実態が調査された。 その結果,平成4年12月29日に開催された報告会において,平成4年10月期の決算において粉飾決算がなされていることが判明したが,調査不十分であり,その額は確定できない旨,さらに,平成5年2月の報告会においても,E株式会社の経営状態は悪化しており,平成4年10月期において,粉飾決算が行われていることは確実であり,少なくとも14億円以上の債務超過になっている旨が報告された。 (2) そして,C銀行は,平成5年3月から,C銀行本店営業部融資課長X及び支店部推進役Y(以下「Y」ともいう。)をE株式会社に出向させた。 上の債務超過になっている旨が報告された。 (2) そして,C銀行は,平成5年3月から,C銀行本店営業部融資課長X及び支店部推進役Y(以下「Y」ともいう。)をE株式会社に出向させた。 その結果,平成5年4月及び5月には,調査結果の報告会において,D株式会社は,E株式会社が受注工事をしたカラオケ店舗の営業委託契約において,高額の家賃を支払わねばならない構造となっていて,それが,D株式会社の各店舗の収益を圧迫している上,D株式会社の売上高も減少傾向にあり,E株式会社及びD株式会社は経常的な赤字体質の会社で,N社長の経営者としての資質にも問題があることなどから,E株式会社等の再建見通しは困難で今後も資金不足の状態が続くと見込まれることが報告された。 (3) これらを受けて,被告人Aの指示により,E株式会社の再建策の検討が行われた。平成5年6月には,Yらから,同月18日付けの「E株式会社再建案」と題する詳細な書面が提出され,そこではE株式会社及びD株式会社におけるNの経営者としての経営方針や資質,営業形態などの問題点があげられ,経営再建案として,C銀行及び他行からの借入金の返済猶予,金利の引下げ,役員を含めた人員の削減,人件費及び諸経費の圧縮,安定した収入の確保,カラオケ店舗の改善,人材派遣などが報告された。そして,同年9月には,C銀行からNに対して,E株式会社の役員等の削減,資産処分,他行に対する借入金の元利金返済の減免交渉,D株式会社が支払う家賃の引下げ交渉等の経営改善策を指示した。 (4) これにより,E株式会社では,Nの親族を役員として報酬を支払っていたことなどから,その役員を解任するなどの措置がとられた。 しかし,E株式会社及びD株式会社の経営状況は改善されず,C銀行は,平成5年10月ころからZ(後に 親族を役員として報酬を支払っていたことなどから,その役員を解任するなどの措置がとられた。 しかし,E株式会社及びD株式会社の経営状況は改善されず,C銀行は,平成5年10月ころからZ(後にC銀行を定年退職してE株式会社の役員となる),平成6年11月にはこくぎんビジネス株式会社に出向中であったC’,平成7年3月からはD’,E’,F’をE株式会社に派遣し,同人らが,前記の経営改善策の実施状況やその可能性を調査するも,経営改善の効果が望めない旨が報告されていた。 (5) 平成7年になると,E株式会社への貸付残高が増加して銀行法13条等に所定の信用供与限度に迫ってきたことなどから,被告人Aは,G’営業部長(以下「G’」ともいう。)に対し,その減少策を考えるように指示した。そこで,G’は,D株式会社が有するカラオケ店舗の営業権を第三者に売却し,その売買代金によりE株式会社のC銀行に対する借入金を返済させるという方法を考案した(以下「営業権譲渡方式」ともいう。)。すなわち,営業権譲渡方式は,まず,D株式会社は,オーナーからカラオケ店舗の営業の委託を受け,自らカラオケ店舗そのものの権利を有しない店舗が大半であるところ,これらにつきD株式会社が有するカラオケ店舗の営業権を第三者に売却する。D株式会社が受け取る譲渡代金は,D株式会社のE株式会社に対する借入金返済等の名目で,D株式会社からE株式会社に支払われ,E株式会社はこれを原資としてC銀行に対して債務を返済する。他方,営業権の譲受人に対しては,譲渡される営業権を担保として,C銀行が営業権譲渡代金相当額を融資する。そして,D株式会社は,営業権の譲受人から業務委託を受け,引き続きカラオケ店舗の営業を担当し,譲受人に対して,同人が毎月C銀行に対して支払うべき融資返済金額に利益相当分を上乗せ 金相当額を融資する。そして,D株式会社は,営業権の譲受人から業務委託を受け,引き続きカラオケ店舗の営業を担当し,譲受人に対して,同人が毎月C銀行に対して支払うべき融資返済金額に利益相当分を上乗せした額に相当する金額を業務委託料として支払うというものであった。 そして,D株式会社は,平成7年4月に,営業権譲渡方式により,株式会社H’(以下「H’」という。)にそのカラオケ店舗15店の営業権を譲渡したのを始めとして,I’株式会社,株式会社J’,株式会社K’等に対し,平成7年8月ころまでに約27店舗のカラオケ店舗の営業権譲渡を行い,それに伴い,C銀行は,株式会社H’に35億円の融資をするなど譲受人に融資を行った。さらに,平成8年及び本件各貸付が実行されていた平成9年11月にも,L’販売株式会社等へ営業権譲渡方式による営業権譲渡が行われた。営業権譲渡方式により,C銀行は,譲受人に対して合計約143億円を融資し,他方,E株式会社への貸付残高を約37億円,C銀行グループのそれでは約51億円を減少させた。 (6) D株式会社は,平成7年に営業権を譲渡したことにより一時的に当期利益を計上し,C銀行からの債務残高を減少させたものの,その後は,再び債務残高を増加させ始めたことなどから,平成8年11月ころ,Pの進言等を受けてC銀行内に被告人Bを統括者としてE株式会社及びD株式会社の問題を検討するプロジェクトチームが設置され,審査部担当常務のM’,審査部長N’,審査部審査役のP,取締役兼本店監理部長(前営業部長)のG’,取締役兼本店営業部長のO’,本店営業部次長のSらがそのメンバーとなった。同年11月に行われた第1回打合せにおいては,E株式会社の資金繰りや未払金についての調査の必要があること,C銀行を主導とした対処が必要であること,D株式会社の 営業部次長のSらがそのメンバーとなった。同年11月に行われた第1回打合せにおいては,E株式会社の資金繰りや未払金についての調査の必要があること,C銀行を主導とした対処が必要であること,D株式会社の各カラオケ店舗の採算性の実態調査が必要であることなどが検討され,工事量が少ない上,高額家賃保証方式でなければ受注できず,結局はD株式会社やひいてはE株式会社自身の経営を圧迫することになるE株式会社のカラオケ店舗等工事受注を停止すること,E株式会社の人員整理を徹底すること,家賃引下げや店舗売却によりカラオケ店舗営業の収益改善を図ること,Nから経営権を取り上げることなどがプロジェクトチームの意見としてまとめられ,以後,E株式会社及びD株式会社の経営改善に向けた検討が重ねられた。 (7) 平成9年1月には,Pが「E・D・レポート」と題する書面において,改善策試算試案としてE株式会社及びD株式会社の改善策を2通りに分けて検討するも,実際上改善策の対応処置は見出せず,D株式会社等の再建は不可能であり,K株式会社のLに報告した上で指示,判断を仰ぐのが最善であるとの意見を述べた。 また,平成9年2月13日の検討会においては,担当者から,E株式会社の工事受注を停止し,当面の資金援助を行って実質的に休眠会社とし,E株式会社への貸付金についてはD株式会社にシフトするなどの対応をとっても,銀行法13条の制限を超えることや,E株式会社及びD株式会社の損益分岐点を上回る収益を達成することは不可能であるとして,結局のところ,Nが「自己破産」を口にするなど経営者としての資質に問題があること,E株式会社及びD株式会社の資金の流れ等不透明な点が多く,多額の粉飾が見られ,過去の債務過多であること,両社の赤字体質は脱却できず,赤字幅が拡大傾向にあること,営業権譲渡方 ての資質に問題があること,E株式会社及びD株式会社の資金の流れ等不透明な点が多く,多額の粉飾が見られ,過去の債務過多であること,両社の赤字体質は脱却できず,赤字幅が拡大傾向にあること,営業権譲渡方式にも問題があること,平成5年6月の再建策検討時の問題点等に何ら変化がないことなどを理由として,再建策無しとの意見が示された。 その後も,E株式会社及びD株式会社の経営改善策等が検討され,この間に,E株式会社は工事の新規受注を停止するなどの策が実施された。しかし,同年4月,5月,6月に行われた検討会では,D株式会社の売上が増加に転じているものの,相変わらず高額な家賃のために赤字体質であることなどから,対処策としては,なお,人員整理,売上増進を図りつつ,新たな店舗売却により増額融資を回避し,貸出残高の圧縮を図る以外に方策はない旨が報告された。 (8) また,本件融資の期間中である平成9年9月の検討会でも,D株式会社の売上が,平成9年1月から前年比でようやく増加基調にあるが,赤字体質は変わらず,以後平成10年3月までの間には約27億円の資金不足が見込まれると報告された。そして,平成10年3月には,常務取締役のP’(以下「P’」ともいう。)が経営実態調査のために派遣されて,更なる調査が行われ,同人らは,同年5月13日付けの報告書において,E株式会社及びD株式会社について粉飾決算が行われていることを報告した。 なお,再三にわたり検討,提示された再建策の中には,E株式会社及びD株式会社の借入金に対する元利金の免除や貸付利率の引下げが必要である旨の報告がなされていたものの,C銀行においては,それにもかかわらず,それらの策は実行されておらず,むしろ,本件期間中には貸付利率の引上げが行われている。 2 そこで,E株式会社及びD株式会 である旨の報告がなされていたものの,C銀行においては,それにもかかわらず,それらの策は実行されておらず,むしろ,本件期間中には貸付利率の引上げが行われている。 2 そこで,E株式会社及びD株式会社の再建可能性を検討する。 (1) 以上の事実関係に照らすと,C銀行が,平成4年以降に,同行から人材を派遣あるいは出向させるなどして,E株式会社及びD株式会社の実態把握及び経営改善にあたっていた事実が認められ,その経営改善策の内容は,概ね人員整理,家賃の引下げを含めた経費削減,カラオケ店舗の売上増進という収支改善及び平成7年から行われた営業権譲渡・売却,赤字店舗の廃店による貸付残高の圧縮という方法で,これらの改善策に基本的な変更はなかった。 その結果,確かに,役員の削減等については現に行われ,また,相応の客観性を有すると認められる検討会の報告内容等をみても,カラオケ店舗の売上増進については,各店舗において,かなりの努力が払われ,実際に平成9年1月以降は各店舗の売上が前年比で増加基調にあったこと,家賃の引下げ交渉も一部の店舗において実行され,平成7年4月から平成9年5月までには既に29店舗で合計約7800万円の引下げの実績を上げていたことなどが認められる。 他方,E株式会社及びD株式会社の経営改善の問題点として指摘され続けてきた最大の点は,平成5年以降,E株式会社及びD株式会社の赤字体質に一貫して変化がないことであり,この点は,プロジェクトチームの調査,報告内容からも明らかである。そして,その主要な原因としては,これまた前記報告等に再三指摘されているように,Nの経営者としての資質や経営方針,高額な家賃の支払い,さらに平成7年以降は営業権譲渡を巡る問題等が根本的に解決されないことがあった。 そうすると,D株 告等に再三指摘されているように,Nの経営者としての資質や経営方針,高額な家賃の支払い,さらに平成7年以降は営業権譲渡を巡る問題等が根本的に解決されないことがあった。 そうすると,D株式会社の人件費が経費の約24パーセントを占め,業界平均の約20パーセントを上回り,なお,改善の余地があることなどの平成9年4月のPによる報告等を前提にしても,E株式会社及びD株式会社の営業収支が赤字から黒字に転換し,さらに,過去の多額に及ぶ貸付残高及び今後の貸付金を返済するに足るだけの経営改善の実現のためには,単なる収支の黒字への転換に止まらず,その融資金返済に足りる多額の収益が計上できるような大幅な経営改善が必要とされるから,そのためには,E株式会社及びD株式会社の赤字体質の根本的な改善あるいは収支の黒字転換と同時に貸付残高を減少させる方策,すなわち,平成9年4月ころにも経費支出の約48パーセントを占めていた高額な家賃の支払いや営業権譲渡を巡る問題の解決が不可欠といわざるを得ない。 (2) そこで,E株式会社及びD株式会社の前記改善策に照らし,まず,家賃の引下げ交渉についてみる。 まず,D株式会社の家賃は,前記のとおり,E株式会社がカラオケ店舗の工事受注をする際にオーナーが工事代金等として毎月支払う割賦払手形の決済金額相当分にオーナーの利益(さらに,オーナーが店舗等を賃借している場合には,その家賃,地代相当額)を加えた金額を基本として算出されたものである。そうすると,オーナーとしては,工事代金等の手形決済資金をD株式会社から支払われる家賃に頼っているのが通常である上,そもそもがE株式会社及びD株式会社による高額家賃保証方式による高利回りや収益を目的としてオーナーとなっているのであるから,少なくとも工事代金等の支払いが終了 れる家賃に頼っているのが通常である上,そもそもがE株式会社及びD株式会社による高額家賃保証方式による高利回りや収益を目的としてオーナーとなっているのであるから,少なくとも工事代金等の支払いが終了していない限り,オーナーの利益を度外視するという非現実的な想定によったとしても,その決済に必要な金額以下に家賃を減額できる可能性はほとんどない。しかも,平成7年以降,既に家賃の引下げが行われていたところ,契約の古い店舗など家賃引下げの交渉が容易なところから引下げが行われており,今後の引下げにおいては,残された引下げ交渉が容易ではない店舗との交渉が必要な状況にあった。 また,PやNらの公判供述等によれば,E株式会社及びD株式会社の社員は資質,能力に問題のある者が多く,C銀行からの出向者らについても,家賃の引下げ交渉にC銀行関係者が直接出向き,前面に立つことは好ましくないとの考えが存在し,そもそも銀行員にとっては本来の業務とは異なり不得手な面が窺え,家賃設定の構造以外にも,引下げ交渉を強力に推進できない要素が存在する実情にあったものとみられる。 これらの点に鑑みると,平成9年以降において,更なる家賃の引下げ交渉は容易ではなく,少なくとも収益改善の実を相当あげる程度に実現可能であったとは到底認められない。 (3) 次に,営業権譲渡についてみる。 確かに,営業権譲渡によって,平成7年度のD株式会社の収益が一時的に黒字に転じている。 しかしながら,営業権譲渡方式は,営業権の譲受人が自己の資金によらず,C銀行からの貸付金により譲渡代金を支払い,その貸付金の返済をD株式会社が毎月支払う業務委託料で賄っていたものであるところ,同方式によりD株式会社から営業権を譲り受けた各社は,多額の当期損失を計上していた からの貸付金により譲渡代金を支払い,その貸付金の返済をD株式会社が毎月支払う業務委託料で賄っていたものであるところ,同方式によりD株式会社から営業権を譲り受けた各社は,多額の当期損失を計上していた債務超過の会社であったり,巨額の借入金を抱える会社,あるいは事実上の休眠会社であるなど,いずれも独自の返済能力を全く有しないか,極めて乏しい会社であったことが証拠上明らかであり,業務委託料は,譲受人がC銀行に毎月支払う返済金に,譲受人の利益が考慮されたものであるから,その構造をみれば,D株式会社としては,一時的に譲渡代金を受け取ることができるものの,長期的には,受け取った譲渡代金に貸付金の利息及び譲受人の利益を加算した金額の支払いを負担することになるのであって,その間に,カラオケ店舗の営業利益が貸付金の利息及び譲受人に支払う利益以上に増加することがなければ,結局は,D株式会社の収益改善は一時的なものに過ぎず,一層の負担を招くことになるものである。しかも,業務委託料の算定にあたっては,将来の設備投資費,家賃の更新料等に配慮していない上,家賃の引下げを見越すなどした経費の過少見積もりがなされていたのであるから,D株式会社の将来の負担増は明らかであり,D株式会社の構造的な赤字体質を抜本的に改善するものではなかった。 現に,平成7年8月における出向者による報告会において,営業権譲渡を行ったカラオケ店舗合計で月平均約4200万円の経常損失,D株式会社全体では同約1億7000万円の経常損失が生じていることが報告されている(甲274,276等)。そのため,その後はC銀行においても,それまでの営業権譲渡方式ではなく,営業権を譲渡後にD株式会社が営業委託を受けずに,譲受人がD株式会社から独立して自らカラオケ店舗の営業を行う方法(以下,便 等)。そのため,その後はC銀行においても,それまでの営業権譲渡方式ではなく,営業権を譲渡後にD株式会社が営業委託を受けずに,譲受人がD株式会社から独立して自らカラオケ店舗の営業を行う方法(以下,便宜上「営業権完全売却方式」という。)やカラオケ店舗自体の売却を検討しているのである。 そこで,さらに営業権完全売却方式についてみる。 営業権完全売却方式は,譲受人に対してC銀行が融資した資金を譲受人が独自に返済するものである上,D株式会社がその後に負担する業務委託料は存在しないことから,営業権譲渡方式の場合のような構造的な負担の増加はなく,資産売却の場合と同様になり,その資金をE株式会社ないしD株式会社のC銀行に対する借入金返済資金に充てることになれば,E株式会社ないしD株式会社に対する貸付残高の圧縮につながる有効な方法といえる。 しかし,営業権の譲受人がオーナーに支払うべき家賃は,譲受人が他に資力を有していない限りは,結局のところカラオケ店舗の営業利益に依存することになるのであるから,カラオケ店舗の営業利益が上がらなければ,譲受人のC銀行に対する借入金返済が滞ることに帰着する。そうすると,営業権売却の対象となるカラオケ店舗について,営業成績の評価,家賃の算定等が正当になされた上での営業権譲渡代金を設定しない限り,譲受人に過剰な負担が生ずることになる。この点,D株式会社経営にかかるカラオケ店舗はその立地条件,設備施設等から営業収支が赤字基調のものが多かった上,E株式会社及びD株式会社のカラオケ店舗の営業成績の評価,家賃の算定等に問題があったことは前記のとおりであり,結局この方法によっても,オーナーと譲受人との間での紛争が生じるなどの問題点が内在していて,現実にも自ら経営に当たることとした譲受人との間における問 の算定等に問題があったことは前記のとおりであり,結局この方法によっても,オーナーと譲受人との間での紛争が生じるなどの問題点が内在していて,現実にも自ら経営に当たることとした譲受人との間における問題が生じるなどしており,営業権完全売却方式が,順調に推進できる状況にあったとは到底いえない。そして,実際にも,営業権の完全売却先を模索していた状況はあるものの,その売却先は当然のことながら容易に見つからず,同方法によるD株式会社の再建は見込まれない状況であった。 また,カラオケ店舗の売却についても,オーナー,E株式会社側,売却先等の条件の調整が困難であることが報告されており,現実化の見通しは立っていない状況であったことが認められる。 (4) 以上によれば,平成9年当時において客観的にみる限り,貸付残高及び今後の貸付金を返済するに足るようなD株式会社の経営再建の現実的な可能性はなかったものとみるのが合理的である。 3 これに対し,被告人Aは,公判廷供述において,E株式会社及びD株式会社の再建は可能であり,貸付金全額の返済が可能であったとし,その理由として,C銀行からの出向者らが経営改善に尽力していたこと,営業権譲渡等の方式による改善が可能であったこと,カラオケ業界が有望な業界であったこと,景気の回復が望めたことをあげている。 しかし,何よりも前示のような平成4年以降の経過や客観的状況,すなわちE株式会社及びD株式会社の経営実態について調査,検討を重ね,その経営改善策を検討して,実行方を指示し,事態の改善に努めてきたにもかかわらず,現実にはE株式会社及びD株式会社の経営は概ね悪化の一途をたどり,業績が改善する兆しは見られないまま,資金繰りにも窮する状況となって,その支払資金を専らC銀行からの融資に頼り,そのためC銀行から ,現実にはE株式会社及びD株式会社の経営は概ね悪化の一途をたどり,業績が改善する兆しは見られないまま,資金繰りにも窮する状況となって,その支払資金を専らC銀行からの融資に頼り,そのためC銀行からの貸付残高も概ね増加していき,大幅な保全不足の状態が続いていたこと,とりわけ,この間に示されたE株式会社及びD株式会社の経営改善策がほとんど同趣旨の内容のもので,容易にその実効性が上がっていなかったこと,さらに,事態を打開するだけの有効な具体的方策が新規に示されてはいないことなどからすると,客観的に被告人Aの主張するような状況にはなかったことは明らかであり,かつ,同被告人としても,この間のC銀行内部での検討の推移や各種検討会資料,貸付に際しての稟議書等の内容から,その状況を承知していたものとみるのが相当である。 さらに,これを個別にみるに,C銀行からの人材派遣については,C銀行は,平成4年当時からE株式会社にC銀行の人材出向あるいは派遣を重ねていたところであるが,それにもかかわらず平成5年から平成9年の本件各貸付に至るまでの間において,D株式会社のカラオケ店舗の営業売上が一時増加傾向に転じ,平成9年時点でもそのような状況がみられるという程度の効果はあったものの,なお収支自体としては赤字基調に止まっており,支払資金不足の状況も一向に改善されてはおらず,それ以上に根本的な経営改善,すなわちE株式会社及びD株式会社の赤字体質を改善することはできず,結局,貸付残高を増加させてきたのであって,平成9年以降において,C銀行からの更なる人材派遣,出向により,それまでと異なる改善が可能であったといえる根拠は見当たらない。この点,被告人A自身が,C銀行のE株式会社及びD株式会社に対する経営改善において,それまでの方針と異なる具体的な方策がなかったこと それまでと異なる改善が可能であったといえる根拠は見当たらない。この点,被告人A自身が,C銀行のE株式会社及びD株式会社に対する経営改善において,それまでの方針と異なる具体的な方策がなかったことを供述しているのである。 また,営業権譲渡方式等の方法については,それによるD株式会社の再建が現実には不可能であったことは前示のとおりである。 そして,カラオケ業界の動向についても,確かに,弁護人が主張するように,カラオケ店舗等の利用が一般国民に普及し,国民の娯楽として定着している傾向は認められるが,他方,カラオケボックス及びカラオケルームの利用人口が平成6年を頂点として減少に転じていること,それとともにカラオケ店舗のチェーン化による大型店舗の進出などにより,カラオケ店舗間の競争が激化してきたことなどの事実も認められる。そうすると,今後,景気の大幅な回復などの外部的要因がない限り,単にカラオケ業界が高い利益や成長の見込まれる有望な業界であったというだけでは,D株式会社の再建理由としては根拠に乏しいといわざるを得ない。 さらに,景気回復についても,景気の回復が見込まれる理由としては,被告人Aの経験判断である旨の根拠しかなく,具体的なものとは認めがたい上,いわゆるバブル崩壊後から本件各貸付時点までの間の景気の見通しが芳しい方向になかったことが一般的にも窺われるのであって,これまたD株式会社の再建理由としては具体的な根拠に乏しい。 結局,被告人Aの前記主張は,実際上その見通しも立っておらず,現実にどの程度の実現可能性があるかも定かではないもので,抽象的な一般論に止まり,希望的観測の域を出ないものというほかない。 ちなみに,被告人Aらにおいて,真実E株式会社及びD株式会社の経営再建を具体的に図り,長期返済による回収を考慮してい もので,抽象的な一般論に止まり,希望的観測の域を出ないものというほかない。 ちなみに,被告人Aらにおいて,真実E株式会社及びD株式会社の経営再建を具体的に図り,長期返済による回収を考慮していたとするのであれば,そのための現実的な方策の1つとして,E株式会社等の経費負担軽減のために既貸付金の金利減免措置等も検討されてしかるべきと思われるところ,現に担当者からは再建策の一環として貸付金利支払免除,減免等が提案されていたにもかかわらず,被告人Aらはそのような方策を具体的に検討,実践しなかったばかりか(この点,被告人Bにおいて,金利見直しの時期に,D株式会社については金利を引き上げるかどうか別個に検討したことがある旨公判廷で供述しているものの,引下げ等の措置に出なかったことは認めている(第33回公判,第34回公判)。),かえって本件各貸付の期間中に金利の引上げまで行っているのである。さらに,C銀行が平成10年6月の日銀考査後に行ったような他企業下でのD株式会社の系列会社化等へ向けた積極的取組みについて,それが効果的な方策であることは被告人Aも公判廷で認めているところ(第37回公判),この種の方策についても,それまで担当者から提案されていたにもかかわらず,何ら検討も行っていなかったのである。 また,弁護人も再建可能であった旨,具体的に意見を述べる。 しかし,弁護人が強調する再建のための個々のカラオケ店舗の人件費の削減等は,何がしかの赤字を解消するものであっても,それだけでは,到底D株式会社のC銀行に対する残債務を完全に返済するに足るだけの資金を捻出可能にするものではない。しかも,確かに,個々の店舗についての収益について詳細な検討がなされていなかった旨のPの公判供述は存在するが,個々の店舗における経費の削減については,既に平成5 の資金を捻出可能にするものではない。しかも,確かに,個々の店舗についての収益について詳細な検討がなされていなかった旨のPの公判供述は存在するが,個々の店舗における経費の削減については,既に平成5年当初から,C銀行がD株式会社の収支改善策として一貫して指摘し,実行を求めてきたはずのものであり,弁護人が主張するように,今後の改善が容易あるいは大幅に実現可能であったとはいえない。 その他,弁護人の主張を仔細に検討しても,それらが,被告人Aの主張するような貸付金の全額返済を可能とするだけの経営改善の可能性を窺わせるものとは認められない。なお,弁護人が主張する金融当局によるD株式会社に対する債権の分類については,金融当局に示された資料がD株式会社等による粉飾決算を前提とするものであり,既に他の金融機関においては実質破綻状態と判断していたこと,これらの事情を被告人らも承知していたことなどに照らし,右結論を揺るがすものではないことが明らかである。 4 したがって,以上を総合すれば,本件各貸付時点においては,D株式会社等の再建可能性はなかったものと認めるに十分である。 第5 被告人Aの任務違背及びその認識 1 前記のとおり,本件各貸付時点において,D株式会社は経常収支の損失を重ね資金不足を続けていた上,その経営状態や客観的情勢に照らして再建可能性はなく,かつ大幅な保全不足の状況にあったのであるから,本件各貸付を実行すれば,その回収が不可能ないし著しく困難となることは明らかであり,それにもかかわらず赤字補填のための融資を継続して本件各貸付を行うことは,いたずらにC銀行の不良債権を増加させることであるから,本件各貸付の実行決定は,任務違背行為に該当する。 2 しかるに,被告人Aは,平成10年6月の日銀考査等により,D株式会社の粉飾決算が明らかと たずらにC銀行の不良債権を増加させることであるから,本件各貸付の実行決定は,任務違背行為に該当する。 2 しかるに,被告人Aは,平成10年6月の日銀考査等により,D株式会社の粉飾決算が明らかとなった時点において,初めてD株式会社の再建可能性がないことを認識したのであって,それ以前においては,D株式会社が再建可能性を有しており,貸付残高及び本件各貸付金の全額の返済が可能であると判断していたのであるから,任務違背の認識はなかった旨主張する。 関係証拠上認められる前示のようなE株式会社及びD株式会社関係の融資残高及びその推移,融資申込状況,決算状況,再建策の検討,実践状況等に照らせば,被告人Aにおいて本件各貸付の実行をすることが任務違背となることを認識し得る状況にあったことは明らかというべきであるが,被告人Aの主張に鑑み,さらに補足する。 3(1) 関係証拠によれば,前記の事実関係に加え,以下の事実が認められる。 (一) 平成9年2月上旬,Nから,同月10日のD株式会社への2億7000万円の融資申込みがなされたが,C銀行本店営業部は融資を継続するべきではないと判断し,2月10日に開催された融資審議会において,N’審査部長(以下「N’」ともいう。)らから相次いで融資継続に対する反対意見が述べられた。その際,Pは,平成8年8月以降E株式会社及びD株式会社両社の赤字幅が拡大しており,再建試案によれば再建は望めず,抜本的処理方向が見出せないまま,融資を継続することは背信行為に当たる旨の説明を行い,このような回収不能になるだけの融資は明らかに背任行為に当たる旨の意見を述べ,N’も同様に,このような融資は刑事責任に問われる可能性があるとの意見を述べた。これに対して,被告人Bが融資継続の意見を述べ,時間が欲しい旨答えたことから,融資 かに背任行為に当たる旨の意見を述べ,N’も同様に,このような融資は刑事責任に問われる可能性があるとの意見を述べた。これに対して,被告人Bが融資継続の意見を述べ,時間が欲しい旨答えたことから,融資の可否について融資審議会の意見がまとまらずに終わった。 その後,被告人Bは,被告人Aに対して,融資審議会において,他の者が反対の意見を述べていることなどの状況を説明したが,被告人Aは融資の継続を指示した。それにより,被告人Bは,Pに対して,営業部にその結論を示し稟議書を作成させるよう指示した。 その結果,Pは,貸付実行のための内部決裁手続を行うに際し,融資継続は背任行為に当る旨記載された「融資審議会事案」(甲332の資料2の2,平成12年押第539号の3)と題する書面を融資稟議書と一緒に持参して,被告人B及び担当役員の決裁印を貰い,さらに,被告人Aに決裁を求めたところ,被告人Aは,背任行為に当たる旨の審査部意見が明示されていることに対して,「大蔵や日銀の考査に見つかったらどうするんだ。背任に当たるだの,背信だのと書いて大蔵や日銀に見られたら困るだろう。公の文書として残るんだぞ。」などと怒鳴り,Pが「本当のことを書いただけです。」と反論すると,被告人Aは,「そんなことは分かっている。そういう問題じゃないんだ。書き直せ。」などと言って,差替えを命じ,融資稟議書にのみ決裁印を押捺した。 (二) また,平成9年6月下旬ころ,被告人Bは,平成5年以来E株式会社及びD株式会社の顧問税理士の地位にあったQ’公認会計士(以下「Q’」ともいう。)から,D株式会社が平成9年3月期に20億2000万円の粉飾決算を行っており,経営状況が極めて悪化し,倒産寸前の状況にある旨の報告を受けたことから,被告人Aにその旨報告した。ま 「Q’」ともいう。)から,D株式会社が平成9年3月期に20億2000万円の粉飾決算を行っており,経営状況が極めて悪化し,倒産寸前の状況にある旨の報告を受けたことから,被告人Aにその旨報告した。また,翌7月上旬ころには,被告人AもQ’から同様の内容についての報告を受け,その際には,Q’の報告内容について,既に分かっている旨を返答した。 (2)(一) 被告人Aは,前記「融資審議会事案」と題する書面については,自己の了承印が押捺されておらず,その書面を見たかについては記憶がはっきりしない旨供述する。 しかし,Pは,同書面を持って被告人Aの決裁を受けに行った状況について,平成9年2月10日の融資の決定に関して,それまでなし崩し的に継続してきた融資に対し,融資継続に対する営業部,審査部の強い反対があり,その意見を残したいとして前記「融資審議会事案」を作成した経緯や当該融資審議会の状況等とともに,具体的かつ詳細に供述しているところ(甲291),そこには,敢えて背信行為であると明言した理由が記載されており,それらによれば,Pがこの際の事情を詳細に記憶していること,さらに「融資審議会事案」自体が廃棄などされずに保存されていた事情も十分に納得し得るものである。加えて,Pの供述内容は,N’(甲308)ら周囲の関係者の供述ともよく符合し,客観的証拠というべき当該「融資審議会事案」には,副頭取である被告人Bまでの担当者の承認印が押捺され,被告人Aの承認印欄のみが空白になっており,Pの供述内容を客観的に裏付けている。そして,そのような体裁のものであれば,被告人Bの承認印が押された後には,特段の事情がない限り,被告人Bの次に最終決裁者である被告人Aに当該書面が回覧されているはずであるが,そのような取扱いがされなかった特段の事情は何ら窺え のであれば,被告人Bの承認印が押された後には,特段の事情がない限り,被告人Bの次に最終決裁者である被告人Aに当該書面が回覧されているはずであるが,そのような取扱いがされなかった特段の事情は何ら窺えない上,C銀行にとって当時重要な案件のひとつであったD株式会社についての被告人Bまでの承認印のある書面が被告人Aにのみ回覧されていなかったというのは,現に当該書面に関わる貸付が実行されていることなどに照らしても,組織の在り方として極めて不合理である。Pの供述には信用性が認められ,被告人Aの記憶如何にかかわらず,同書面を被告人Aは見ており,かつ,その際のPとのやり取り等からして,D株式会社に対する貸付が公になった場合には,背任行為に当たるとの非難を受けるものであることを十分認識していたものとみるのが相当である。 (二) また,被告人Aは,Q’からの報告については,粉飾決算のおそれがある旨の報告を受けたもので,明確な報告を受けていない旨供述する。 しかし,Q’は,被告人Aに前記の報告をした旨を明確に供述しているところ,当時E株式会社及びD株式会社の顧問税理士の地位にあったこと,敢えて被告人両名に直接に報告していること,そのころに,Nからも粉飾決算を行った旨の報告がC銀行になされていること,被告人Bも公判廷において,自らがQ’から報告を受け,被告人Aに報告したほか,Q’が被告人Aにも直接報告する旨述べていたことを供述していることなどに照らせば,Q’の報告内容が粉飾決算のおそれにすぎなかったというのは不合理である。粉飾決算の報告をした旨のQ’の供述は当時の客観的状況によく整合し,被告人Bらの供述内容とも符合するもので,十分信用できる。 被告人Aのこの点の供述は信用できない。 (3) 以上からすれば,被告人Aは のQ’の供述は当時の客観的状況によく整合し,被告人Bらの供述内容とも符合するもので,十分信用できる。 被告人Aのこの点の供述は信用できない。 (3) 以上からすれば,被告人Aは,本件各貸付前の段階において,各種会議の席上や書面等を通じて,再三にわたり,C銀行関係者らからE株式会社及びD株式会社に対する融資の継続が背任行為に当たる旨の意見具申を受けていたばかりではなく,自らも融資の継続が背任行為に該当することを認識している旨の発言をしていることが認められる。これに,前記のようなE株式会社及びD株式会社の経営・決算状況,経営改善の進展状況,粉飾決算を行っていたことを認めたN自身の上申書の提出等の客観的状況からすれば,頭取の地位にある被告人Aにとって,客観的にも融資の継続が背任行為に該当することを認識し得るに十分足る状況であったことが認められ,ひとり被告人Aだけが,融資継続についての背信性を認識していなかったというのは極めて不自然である。被告人Aは,本件各貸付が任務違背に該当する旨の認識を有していたものと認められる。 4 これに対して,被告人Aは,前記のとおり,E株式会社及びD株式会社の粉飾決算を明確に認識したのは,平成10年6月の日銀考査による指摘やP’常務の報告により粉飾決算が判明したことによるもので,それまでは,E株式会社及びD株式会社の再建は可能であると考えていたのであるから,任務違背の認識はなかったと供述している。 しかし,既に平成4年11月ころの時点でE株式会社に粉飾決算の疑いが生じたことから,その経営状況,資金の流れの調査等を目的として,C銀行から人材を派遣し,平成4年10月期の決算において粉飾がなされていることが判明し,なお調査が必要であると報告され,その後,平成5年2月には,粉飾決算が行われて 資金の流れの調査等を目的として,C銀行から人材を派遣し,平成4年10月期の決算において粉飾がなされていることが判明し,なお調査が必要であると報告され,その後,平成5年2月には,粉飾決算が行われているのは確実である旨報告されて以来,約4年間にわたってC銀行がE株式会社及びD株式会社の経営実態を調査してきており,本件各貸付までの間,繰り返し粉飾決算の報告がなされていること,平成9年7月には,N自身から粉飾決算をしていた旨の書面がC銀行に出されていること,そのころには,前記のとおり被告人A自身がQ’から粉飾決算の報告を受けていること,U銀行株式会社では,平成9年2月にD株式会社の粉飾決算を疑い,その後1年も経ない同年9月には,平成9年3月期の粉飾決算を発見していること(甲45)などの関係証拠から認められる事実関係に鑑みれば,被告人Aの,平成10年6月の日銀考査による指摘やP’報告までの間には,E株式会社及びD株式会社において粉飾決算がなされているとの懸念はあったものの確実とはいえず,粉飾決算が行われていたと判断するには更なる調査を必要とした旨の供述は,およそ客観的証拠と整合しない上,被告人A以外のC銀行関係者が,皆一様に粉飾決算ありと判断していた状況ともそぐわず不自然不合理である。公表決算上は当期利益を計上し続けているE株式会社及びD株式会社がそれにもかかわらず支払資金に窮するのが常態であったこと及びその状況を被告人A自身よく承知していたはずであることからしても,同被告人の供述内容の不自然さは際立っている。加えて,被告人Aが粉飾決算の事実が判明した旨述べるP’報告は平成10年5月13日付けでされており,それにもかかわらず同年6月1日にも貸付が実行されているのは,同被告人の述べるところにそぐわない。同被告人は融資処理の期間とか流れの中での した旨述べるP’報告は平成10年5月13日付けでされており,それにもかかわらず同年6月1日にも貸付が実行されているのは,同被告人の述べるところにそぐわない。同被告人は融資処理の期間とか流れの中での取引であったと弁解しているが(第38回公判),その間には2週間以上の期間があり,当該貸付関係の融資申込みや書類作成時期等とP’報告の先後関係に照らしても,10億円を超える本件一連の貸付中で最大の貸付を行った理由としては,いかにも無理があり説得性に欠ける。しかも,被告人Aは,平成9年の段階で,努力はしていき,最後の段階には資産売却をして融資残高を減らして償却しうるところまでになればいいと,腹の中では考えていたとも公判廷で供述しており(第28回公判),これらに鑑みると,被告人Aのこの点の供述は到底信用できない。 第6 被告人Bの任務違背及びその認識 1 被告人Bは,平成4年ころから,E株式会社への融資を継続しなければ,同社が倒産することになり,そうなれば,G株式会社やJ株式会社もE株式会社に対する多額の債権を抱えていたことから,C銀行が母体行責任を追及されるなどし,C銀行も破綻に追い込まれる状況にあったところ,平成5年ころは,E株式会社及びD株式会社の再建がなお可能であると考えて融資を継続していたが,平成7年ころになると,E株式会社及びD株式会社の再建可能性に疑問が生じるようになったものの,その時点で融資を止めると,E株式会社及びD株式会社の倒産によりC銀行も破綻することは明らかであったことから融資を継続し,本件各貸付時点においては,E株式会社及びD株式会社に対する債権の償却財源がない以上,対処策は見当たらず,結局,C銀行の破綻を回避するためには,平成7年以降に行われた営業権譲渡による融資残高の圧縮の実績等に期待しつつ,E株式会社及びD株式 株式会社に対する債権の償却財源がない以上,対処策は見当たらず,結局,C銀行の破綻を回避するためには,平成7年以降に行われた営業権譲渡による融資残高の圧縮の実績等に期待しつつ,E株式会社及びD株式会社に対する融資を継続して,直ちに倒産させることなく償却が可能な範囲まで融資残高の圧縮を図るしか方策がなかったため,やむなく融資を継続したものであって,任務違背及びその認識はなかった旨主張する。 2 しかしながら,本件各貸付当時の実情をみるに,平成7年及び8年の営業権譲渡により一旦は貸付残高の圧縮がみられたものの,その後はE株式会社及びD株式会社への貸付残高は再び増加に転じていた上,営業権譲渡方式の問題が顕在化するなどしており,今後営業権譲渡の方法により,E株式会社及びD株式会社の融資残高がC銀行において独自に償却可能な程度にまで圧縮できる現実的な可能性がなかったことは,これまで示してきたところ及び後記3のとおり,関係証拠に照らし明らかであって,本件各貸付の実行が客観的に任務違背に該当することも,前示のとおりである。 なお,銀行内部の規約によれば,本件各貸付の最終決裁権者は頭取である被告人Aにあり,原則的には被告人Bにその権限はないが,副頭取である被告人Bは,頭取が代表権を行使できない場合には,その次順位として代表権限を有する地位にある上,その本来の職務は,頭取である被告人Aを補佐するものであったことに加え,特に被告人Bは本件各貸付当時において審査担当取締役として融資に関する業務の監督等をも中心職務としていたことが認められる。そして,同被告人は,実際にも頭取の諮問機関たる融資審議会やプロジェクトチームの検討会において中心的な役割を担い,これらを主導する立場にあって,被告人Aが欠席した際に,審査部,営業部の担当者が一様に融資継続に反対す ,実際にも頭取の諮問機関たる融資審議会やプロジェクトチームの検討会において中心的な役割を担い,これらを主導する立場にあって,被告人Aが欠席した際に,審査部,営業部の担当者が一様に融資継続に反対する意見を述べる中で,被告人Bひとりが融資に賛成して結論が保留され,その後融資が継続されるに至ったほか,貸付先のE株式会社からD株式会社への変更に主体的に関わるなど,本件各貸付を実行するにあたって,それ以前からの融資に反対する執拗な意見を抑えて,被告人Aと共に貸付を継続,実行してきたものと認められるのであるから,それ自体において,被告人Bには副頭取(兼審査担当取締役)としての自己の任務に対する違背があったということができる。 3 そして,被告人Bは,平成8年後半ころからE株式会社及びD株式会社に対する債権については償却を考え始めており,プロジェクトチームができたころからは,E株式会社等に対する貸付は償却時期を待つための融資という色彩が濃くなったと供述するものの,その一方で,償却の時期や方法等について具体的なことは考えていなかったとも供述しているとおり,融資審議会やプロジェクトチームによる検討会・報告会等においては,今直ちにE株式会社等を倒産させてもその償却財源がないということのみで,債権の償却方法や償却財源について現実的な検討がなされた形跡はない。本件各貸付が始まる直前の平成9年3月には,K株式会社の支援により,C銀行の不良債権の償却を図るべく169億円余の第三者割当増資が行われているが,その過程においても,E株式会社及びD株式会社に対する貸付債権の償却は考えられておらず,検討の俎上にもあがっていなかったのである。 しかも,被告人BがE株式会社及びD株式会社への貸付残高の圧縮を考え始め,さらに,圧縮の色彩が濃くなったと供述する時期以降 の償却は考えられておらず,検討の俎上にもあがっていなかったのである。 しかも,被告人BがE株式会社及びD株式会社への貸付残高の圧縮を考え始め,さらに,圧縮の色彩が濃くなったと供述する時期以降においても,結局のところ,E株式会社及びD株式会社の全体としてみれば,貸付残高が圧縮された結果となっていないばかりか,かえって貸付残高を増加させていたのである。 加えて,被告人Bは,公判廷において,大蔵省から償却必要と厳命された平成8年の検査結果である約255億円のいわゆるⅣ分類債権償却のために,平成9年3月にK株式会社の協力で169億円余の増資をして償却を図った以降の償却の見通しについて,今後は,業務純益の範囲内で収めたいという程度にしか考えておらず,それでやっていけると考えていたと供述する。しかし,平成8年の大蔵検査において,債権回収に重大な懸念があるとされるⅢ分類とされた債権が約378億円もあり,しかも,Ⅲ分類といえども重大な懸念の度合いが高いと指摘されており,その約7割について将来的には償却の必要性が既に見込まれていたこと,平成9年4月以降にも,新たに償却を要する倒産先が発生していたこと,現に同年9月期には25億円を償却し,平成10年3月期にも110億円を超える償却をしていること,その当時C銀行の業務純益が年間50億円まで達していなかったことが認められ,これらの事実に照らすと,E株式会社及びD株式会社の残債務がC銀行にとって償却可能な程度にまで圧縮される状況は現実にはなかったものと認められる。 そうすると,被告人Bは,その供述を前提としても,償却についての具体的方策の検討,あるいは,プロジェクトチームなどに対する検討の指示もせずに,融資の継続を主張していたのであり,本件各貸付当時において,C銀行が抱えていた要注意先に対する としても,償却についての具体的方策の検討,あるいは,プロジェクトチームなどに対する検討の指示もせずに,融資の継続を主張していたのであり,本件各貸付当時において,C銀行が抱えていた要注意先に対する債権額,その後に償却を必要とする可能性のある債権,C銀行の現実的な償却能力等の客観的状況を併せ考えると,被告人Bの述べるところは,実質的には,確たる見通しもないままにD株式会社等に対する債権が不良債権として表面化するのを避けるため回収の見込みのない融資を継続して,不良債権の貸付残高を増加させることにほかならないのであるから,任務違背及びその認識があったものと認めるのが相当である。 この点について,任務違背の認識を有していた旨を述べる被告人Bの捜査段階の供述は,本件に至る推移や当時の客観的情勢,さらには当時C銀行内部で作成された各書類の内容によく整合する信用できるものであり,これに反して任務違背の認識がなかった旨を抽象的に述べるに止まる同被告人の公判供述は信用できない。 第7 本件各貸付の正当性について 1 各被告人の弁護人も,本件各貸付は正当な融資であり,被告人らが各貸付を実行したことは任務違反行為に当たらないと主張するところ,その主張の要旨は,概ね次のようなものである。 (1) 被告人Aの弁護人は,銀行経営者にはその職務執行に当たって広い経営判断の裁量権が認められるべきところ,特に本件のように融資残高が多額となっており,追加融資を行わないと融資先企業が倒産し,融資残高の大半が回収不能となるような場合には,検察官主張のような担保至上主義を判断の基礎とすることはできず,追加融資を行わないことによる銀行の経営等への影響,当該企業の再建可能性等を総合的に判断して,なお再建と融資額全額回収への可能性が残っているときには,追加融資を行うこ 判断の基礎とすることはできず,追加融資を行わないことによる銀行の経営等への影響,当該企業の再建可能性等を総合的に判断して,なお再建と融資額全額回収への可能性が残っているときには,追加融資を行うことも合理的な経営判断の選択肢に入り,被告人Aはこのような観点でD株式会社について融資継続により収益からの全額回収が可能であると総合的に判断して,本件各貸付を実行したのであるから,任務違背もその認識もない旨主張する。 (2) 被告人Bの弁護人は,本件各貸付は,E株式会社等が倒産すれば,償却財源もなく,一挙に債務超過に陥って破綻してしまう状態にあったC銀行の存続を図るため,E株式会社等を存続させてその間に償却可能な程度まで融資残高を減少させるため行われたもので,いわゆるバブル崩壊後の異常な経済状況下における金融機関として他に選択の余地がなかった,やむを得ない融資であり,任務違反行為ではないとして,その正当性を主張する。 2 確かに,本件各貸付時点において,E株式会社あるいはD株式会社への融資を中止すれば,E株式会社及びD株式会社は倒産し,ひいては,C銀行も破綻に追い込まれることになったであろう状況は認められる。 しかしながら,そもそも各弁護人が主張するような裁量判断は,個々の融資に際して,その債権の保全,回収の確実性を判断する場合と異なり,当該貸付時点における客観的事情だけでなく,その時点では定かに判明していない将来の予測にかかる部分が大きいから,貸付金回収の面での安全性が損なわれる危険も自ずと大きいこととなる。したがって,C銀行が内部規程において融資案件の可否判断に当たって安全性の原則を最も重視していることからも窺われるように,その業務の性質上,およそ堅実を旨とし,できる限り危険を回避することが事務処理上求められている銀行業務の運 おいて融資案件の可否判断に当たって安全性の原則を最も重視していることからも窺われるように,その業務の性質上,およそ堅実を旨とし,できる限り危険を回避することが事務処理上求められている銀行業務の運営遂行という見地からも,たとえ所論のような裁量的判断を是認する余地を認めるとしても,その具体的な判断に当たっては,将来の変動可能性を踏まえてもなお融資によって得んとしたところが達成されるであろうことにつき,単なる予想の域を超えてかなり高い確実性が客観的に認められることが最低限要求されるものというべきである。このことは,銀行業務の性質上,通常の範囲内の事務処理として当然かつ本来的に要請されるところであるから,所論が強調するようないわゆるバブル経済崩壊後の情勢下にあっても,その在り方が変わるものではない。ことに本件における貸付額が多額にわたり,それだけ影響が大きいところからして,その裁量判断にあたっては,前提となる客観的事実認識について高い合理性,相当性を要するものといわなければならない。そして,このような観点からみるとき,所論が前提とするD株式会社等の再建可能性や少なくとも将来的にC銀行が償却可能な範囲までD株式会社等に対する貸付残高を圧縮,減少させうる可能性などがおよそ現実的なものではなかったことは,これまで認定,説示してきたとおりであり,現に本件各貸付開始後におけるD株式会社等の実際の状況や貸付残高の推移等,その後の事態の推移もこれを客観的に裏付けている。また,本件各貸付に至るE株式会社及びD株式会社の経営状態,その業績や貸付残高の推移等からして,このことは当時においても自明のことであったと認められる。そうすると,各貸付時点において当該貸付金が返済される可能性は,将来にわたっておよそ認められないか,極めて乏しかったものであるから,それに ,このことは当時においても自明のことであったと認められる。そうすると,各貸付時点において当該貸付金が返済される可能性は,将来にわたっておよそ認められないか,極めて乏しかったものであるから,それにもかかわらず十分な担保を取る等の措置を講ずることなく資金を貸し付けるということは,それ自体がC銀行の利益に反することになるのは当然であり,そのような時点においてC銀行の破綻を回避するために,再建可能性のない企業に貸付を継続することは,長期的にみてもC銀行の破綻を一時的,暫定的に先延ばしするだけの行為であり,結局は,C銀行の不良債権を増加させた上での破綻を招くことになるのである。同様に,一定期間E株式会社等を存続させることにより,C銀行が償却可能となるような客観的見通しがかなり高い確度で立っていたのであればまだしも,本件ではそのような事情も窺われないのであって,将来的な破綻の回避が見込まれないにもかかわらず,当該時点においてC銀行の破綻を回避するために返済が極めて危ぶまれる貸付を実行することが正当化されるものではない。 各弁護人の主張は,いずれも本件においては理由がなく,採用できない。 第8 被告人両名の図利加害目的について 1 被告人Aは,本件各貸付金及び既貸付残金の回収が可能であると考え融資を実行したものであり,また,被告人Bは,C銀行の破綻を避けその存続を図るために融資に賛成したものであって,いずれも図利加害目的はなかった旨主張する。 2 この点,検察官は,冒頭陳述の段階では,被告人らにおいて,融資を打ち切ってD株式会社等が倒産すれば,一挙に巨額の不良債権が顕在化するなどして,K株式会社のMらから厳しい経営責任追及を受け,辞任に追い込まれることが必至の情勢であったことから,D株式会社の利益を図り,ひいて自己の保身を図る目的で融資継続 巨額の不良債権が顕在化するなどして,K株式会社のMらから厳しい経営責任追及を受け,辞任に追い込まれることが必至の情勢であったことから,D株式会社の利益を図り,ひいて自己の保身を図る目的で融資継続を決意したと主張し(冒頭陳述書48頁以下),自己保身の内容として,「被告人らの経営責任の回避及び地位保全など」と釈明していたところ,論告においては,「被告人らが経営者の地位にある間は破綻を先送りすることにより経営責任追及を免れようとするなどの自己保身のためにその実行に及んだものであり,それに伴い,併せてD株式会社の利益をも図った」旨主張しているところであるが,被告人両名及びR’らの公判供述,平成10年段階ではあるが,被告人Aが自ら進退伺をL会長に提出したことがあったこと(被告人Aの第5回公判,第29回公判供述),平成5年以降には役員賞与も減額され,その後,役員の退職金も支給されなくなっていた状況などに照らすと,被告人両名が,専ら自己の頭取,副頭取の地位保全という図利目的を積極的に有していたとまでは認められない。 しかしながら,D株式会社は,前示のとおり,本件各貸付時点において,融資を受けた金員の返済能力がなかったことは明らかであり,また担保余力もなく通常の金融機関からは到底多額の融資を受けることができない状況にあったのであるから,そのような本来貸付金の回収可能性のない貸付先が融資を受けられること自体が,当該貸付先の経済的利益を図るものと評価される。貸付金の使途をみても,C銀行がNの要請に応じて,D株式会社等の資金繰りのため,本件各貸付を実行し,それによりE株式会社及びD株式会社が月々の運転資金を調達していたことは明らかであり,本件各貸付がE株式会社及びD株式会社の利益になっていたといえるのである。そして,関係証拠によれば,被告人両名はE それによりE株式会社及びD株式会社が月々の運転資金を調達していたことは明らかであり,本件各貸付がE株式会社及びD株式会社の利益になっていたといえるのである。そして,関係証拠によれば,被告人両名はE株式会社がK株式会社からの紹介による取引先であったことを認識していたこと,S’の公判供述等によれば,被告人両名においてMにE株式会社及びD株式会社の実情を報告していなかったことが認められ,それらの点にも鑑みると,被告人両名が,K株式会社の紹介先であるE株式会社及びD株式会社に対する融資を打ち切り,E株式会社及びD株式会社を破綻に追い込むことに躊躇し,その利益を図ろうとしていた意図も一面では窺われ,少なくとも本件各貸付がD株式会社等に対する資金援助の性格を有するもので,その利益になっていることは十分承知していたものと認められる。 加えて,被告人両名が,本件各貸付当時,その融資を実行しなければ,C銀行が破綻に追い込まれることを認識していたことは明らかであり,結局のところ,被告人両名が,本件各貸付時においてC銀行の破綻を避けようとしていたのは,自己が頭取,あるいは副頭取の地位にある時にC銀行の破綻を招くことによって,自らの経営責任が明らかになる事態を恐れ,K株式会社を始めとする関係各方面から破綻の責任の追及を受けることを免れようとしていた面があることは否定できない。このことは,被告人Bの供述調書からも十分窺われる。被告人Bの弁護人は,この点に関する同被告人の供述調書の信用性を論難するが,その供述内容は当時の客観的状況にもよく整合する自然かつ合理的なものであるのに対し,自らその旨供述したことを否定する同被告人の公判供述は,それにもかかわらず多数回にわたって調書に署名した合理的な理由を全く示し得ていないなど不合理なもので,にわかに信用することが のであるのに対し,自らその旨供述したことを否定する同被告人の公判供述は,それにもかかわらず多数回にわたって調書に署名した合理的な理由を全く示し得ていないなど不合理なもので,にわかに信用することができない。 その一方で,本件各貸付の実行により,C銀行からは総額で90億円を超える資金が流出し,現に従前の融資分を含めて87億円(D株式会社関係)を超える貸付金が回収不能となるなど,その回収が極めて困難となっている結果が生じているところ,関係証拠に照らすに,C銀行から新たな支払資金の融資を行わない限り,同様の事態を招くこととなる状況が従前から継続してきていて,その結果貸付残高が増加傾向にあったのである。これらが被告人両名にとって予想外の事態であったとは,到底認めることができない。 そうすると,被告人両名が,これまで認定,説示してきたような客観的状況,認識の下で,通常の金融機関からは到底多額の融資を受けることができない状態にあり,新たに貸付をすれば当該貸付金の回収が極めて危ぶまれるD株式会社に対して,あえて本件各貸付を行ったことからすると,その主たる目的はC銀行の利益を図ることではなく,被告人両名には,以上の意味において,D株式会社等の利益並びに自己保身を図る目的があったと認めるのが相当である。 第9 供述調書の信用性について 1 弁護人は,被告人両名の任務違背の認識,図利加害目的及び貸付状況等に関する被告人B及び他の関係者の捜査段階の供述調書について,いずれの供述調書も,みな画一的な内容で,取調官が筋書きを作った上でのいわゆるシナリオ調書になっており,紋切り型の表現が繰り返されるなど迫真性にも欠け,その内容には信用性がない旨主張する。 2 確かに,各供述調書の記載内容が日時や個別的な状況を異にする各貸付についていずれもほぼ同様の なっており,紋切り型の表現が繰り返されるなど迫真性にも欠け,その内容には信用性がない旨主張する。 2 確かに,各供述調書の記載内容が日時や個別的な状況を異にする各貸付についていずれもほぼ同様のものとなっており,同様の表現が繰り返されていることは,弁護人指摘のとおりである。 しかしながら,関係証拠上認められる本件各貸付の実態は,それに先立つ平成9年1月以降の各種会議における議論あるいは個別的な場面における被告人両名の指示等を踏まえて,ことに平成9年2月以降,既に被告人Aが,C銀行内部にあった融資に反対する意見を抑えて融資継続の意思を明らかにし,他の者が融資継続に反対する余地がなかった状況下において,被告人両名の指示に従い,毎月10日と月末にD株式会社の資金不足に伴う融資の申込みに対し,C銀行が決められた手続に従って日常の業務として当然に貸付を実行するという内容で,ほぼ定型的に融資が処理されて実施されていたものであって,実質的にはC銀行の業務において,決められた手続に従って日常的に処理されていたという実情にあり,このような既定の手続が行われるだけになっていた本件各貸付の経緯,状況に鑑みれば,被告人Bや各関係者にとっては,各貸付毎の具体的状況について鮮明な印象がなく,それらを詳細に記憶していることは困難であったとみるのがむしろ合理的である。弁護人が指摘するような供述調書が作成された背景には,このような事情が存するものと推測でき,その限りでは,各供述調書に現れた個別的な具体的状況について,その詳細にわたってすべてを直ちに信用することはできない。反面,各貸付が行われた状況の大枠,一連の貸付について被告人Bや各関係者が抱いていた思い,認識などの大筋については,各供述者の真意,記憶に基づく供述とみることができ,それらが概ね一致し,関係書 い。反面,各貸付が行われた状況の大枠,一連の貸付について被告人Bや各関係者が抱いていた思い,認識などの大筋については,各供述者の真意,記憶に基づく供述とみることができ,それらが概ね一致し,関係書類等の客観的証拠にも裏付けられているところからして,その限度では各供述調書の信用性を疑うべき事情は見当たらず十分に信用できる。 第10 被告人両名の共謀について 1 被告人Aの弁護人は,被告人両名が,本件各貸付において,その可否や方針を具体的に話し合ったり,意思を確認し合ったりしたことはなく,包括的にも個別的にも共謀はなかった旨主張する。 確かに,被告人両名の公判供述からは,被告人両名が,本件各貸付について具体的に意思や方針を相談し合うなどしていた状況は窺えない。 しかし,C銀行にとってD株式会社に対して融資を継続するか否かは,その経営の根幹をも揺るがしかねない極めて重要な事項であったにもかかわらず,被告人両名が,具体的かつ明示的に融資実行について両者間での話合いや相談をしなかったというのは,むしろ,被告人両名が,暗黙のうちにD株式会社への融資の継続を意図していたことを相互に認識し,共通の理解としていたからであるとみられる。 そして,平成9年2月10日のD株式会社への融資にあたって,融資継続に反対して融資稟議書の作成をしようとしなかった本店営業部に対して,結局は融資稟議書を作成させて,貸付を実行するに至った経緯において,被告人Bが,融資審議会の開催を指示し,被告人Aは出席していなかったところ,他の出席者が融資継続に反対であったにもかかわらず,被告人Bがひとり融資継続を主張し,融資審議会の結論を保留にしたこと,被告人Aは,被告人Bからその事情を報告されて,被告人Bに対して融資継続の意思を表明し,貸付実 継続に反対であったにもかかわらず,被告人Bがひとり融資継続を主張し,融資審議会の結論を保留にしたこと,被告人Aは,被告人Bからその事情を報告されて,被告人Bに対して融資継続の意思を表明し,貸付実行を指示したこと,被告人Bはその指示に従って,融資稟議書の作成を指示したこと,このようにして被告人両名からD株式会社に対する融資を継続する旨の経営判断が明確に示されたことから,それ以降は,被告人両名のその意思に従って,事務処理が進められるようになり,融資審議会においても,関係者らが一様に被告人Aらの意向を承知した結果,積極的な意見の開陳が行われなくなっていったことが認められる。 以上によれば,平成9年2月の時点において,被告人両名は,それ以外の者が融資継続に反対意見を有する中,それぞれ融資継続の意思を有していることを互いに認識するに至っており,その後特段の事情変更もなく,かえってD株式会社に対する貸付が毎月10日と月末に取り決められた手続に沿って定型的に繰り返されていたのであるから,本件各貸付において,その状況に変化がないことも相互に認識していたものと認められ,被告人両名には,証拠上具体的かつ明示の共謀までは認められないものの,少なくとも,本件各貸付当時において,その実行につき黙示の共謀があったと認めるのが相当である。 2 また,被告人Aの弁護人は,本件各貸付の実行において,被告人両名の融資を継続しようとした理由が異なることから,被告人両名に共謀が成立することはない旨主張する。 しかし,本件において被告人両名の共謀が成立するには,被告人両名がD株式会社の利益を図るなどの目的をもって,その任務に違反して貸付を実行する点についての共謀があれば足りるのであって,融資実行に至る動機,遠因が異なることをもって,共謀の成立を妨げる理由とはな 名がD株式会社の利益を図るなどの目的をもって,その任務に違反して貸付を実行する点についての共謀があれば足りるのであって,融資実行に至る動機,遠因が異なることをもって,共謀の成立を妨げる理由とはならないから,その点の弁護人の主張は失当である。 第11 公訴棄却の主張について 1 被告人Aの取調べにあたった検察官T’(以下「T’」という。)は,公判廷において,その取調べにおいて弁護人が主張するような違法はなかった旨供述する。 その供述は,T’が被告人Aの経歴や性格を推察するなどして,それに配慮して取調べを行った様子が具体的に語られているところ,自己に不都合な内容も述べられている上,被告人Aの検察官調書の内容,公判供述の態度,内容等に照らしても,特段不合理不自然な点は見当たらない。そして,被告人Aが捜査段階において,本件各貸付の状況について述べた検察官調書においては署名を拒否したことが窺え,署名がなされて公判廷で取り調べられた供述調書においては,同被告人が本件各犯行を否認する供述が貫ぬかれており,T’の供述内容は,これらの客観的状況ともよく整合する。また,身柄拘束中の被告人Aと弁護人との接見状況(甲479。被告人Aは平成11年11月30日に逮捕され,12月20日に勾留中のまま起訴されているところ,12月1日から同月18日まで14回接見指定があり,時間は初回の15分間を除けばいずれも30分間。)に照らせば,本件捜査全般としてみた場合に同被告人の弁護人依頼権が損なわれたという状況にはない。以上によれば,少なくとも公訴棄却を招来するような違法がなかったとするT’の供述には信用性が認められる。 加えて,被告人Aの公判廷に提出されている捜査段階の供述は,その公判供述と内容を同一にするものである。さらに,金融整理管財人の調査が本件犯罪の なかったとするT’の供述には信用性が認められる。 加えて,被告人Aの公判廷に提出されている捜査段階の供述は,その公判供述と内容を同一にするものである。さらに,金融整理管財人の調査が本件犯罪の訴訟条件とされているわけでもない。 2 そうすると,そのほか,弁護人の主張する点を検討し,被告人Aの健康状態,本件捜査,起訴に至る経緯等を斟酌しても,結局のところ,被告人Aの捜査において,本件公訴を棄却するような重大な違法はなかったと認められる。弁護人の主張は採用できない。 第12 結論以上のとおりであり,そのほか各弁護人が主張するところを仔細に検討しても,証拠に照らし理由がなく,関係証拠を総合すれば,被告人両名について,判示の事実を認定することができる。 (量刑理由) 1 本件は,C銀行の頭取の地位にあった被告人Aと副頭取の地位にあった被告人Bが,共謀の上,D株式会社の利益を図るなどの目的で,判示のとおり,平成9年7月から平成10年6月までの間,前後20回にわたり,それぞれの任務に背き,D株式会社に対し,合計90億5100万円を貸し付け,C銀行に同額の財産上の損害を与えたという,不正融資による特別背任の事案である。 2 本件における不正融資の額は,90億円を超える巨額に及ぶ上,約1年の間に前後20回にわたって,継続的かつ恒常的に繰り返されたものである。本件各貸付が,その結果として,C銀行の多額な不良債権を抱えての破綻の原因の1つとなったことは明らかであり,その点のみをみても,本件は重大な犯行といわざるを得ない。 被告人両名は,本件各貸付以前から,D株式会社やその関連会社であるE株式会社の経営悪化,粉飾決算等の状況を融資審議会や検討会の席上等で報告され,これに対して融資を実行すればその貸付金の回収が極めて困難となる状況を十分に認 以前から,D株式会社やその関連会社であるE株式会社の経営悪化,粉飾決算等の状況を融資審議会や検討会の席上等で報告され,これに対して融資を実行すればその貸付金の回収が極めて困難となる状況を十分に認識し,しかも,融資担当者やE株式会社へ出向等させた者らから,貸付金の回収の見通しがないとして,融資継続を問題視し,これに反対する意見が繰り返し示され,これ以上見通しのない融資を継続することは大株主に対する背信行為であり,背任に該当するとすら直言されていたにもかかわらず,経営の根幹にある地位をもってこれらの意見を封じ,稟議書を作成させるなどして融資を継続したのであって,その犯行態様は大規模かつ悪質である。 犯行に至る経緯をみても,被告人両名は,それぞれがその地位についた際に,既にE株式会社への融資残高が相当額に上っていたところ,融資を中止すればE株式会社等を破綻させることになり,ひいては,自らの在任中にC銀行の破綻をも招くこととなって,K株式会社やそのほか関係各方面から各種の厳しい経営責任追及を受けるであろうことを恐れるなどして,他の方策を十分に検討することも必要な担保を徴することもせずに,事態の先送りを専らとするかの如く,確たる改善の見込みもないままいたずらに本件各貸付まで融資を継続し,結果的に不良債権を増大させたもので,その経緯に酌むべき点は乏しい。 本件各貸付によりC銀行に与えた損害は極めて大きく,高い公共性を有する金融機関の責任者でありながら不正融資を繰り返したことなどにより,金融機関に対する国民の信頼の失墜を加速させ,金融業界や国民に不安と混乱をもたらすなど,社会に与えた影響も大きい。 3 そして,被告人Aは,C銀行の頭取という経営の最高責任者で,本件各貸付の最終決裁権者であったところ,かねてよりC銀行の大株主であるK株式会社のM と混乱をもたらすなど,社会に与えた影響も大きい。 3 そして,被告人Aは,C銀行の頭取という経営の最高責任者で,本件各貸付の最終決裁権者であったところ,かねてよりC銀行の大株主であるK株式会社のMから厚い信任を得ていたことなどを背景に,C銀行内部において権勢を振るい,本件融資においても,当初から融資の継続を前提とし,自己の立場や事実上のワンマン態勢にあった影響力を背景に,背任罪に問われる可能性があるなどとして融資の中止を求めるC銀行内部の意見を一顧だにせず,その任務に背き,事態の解決を専ら先延ばしにして,大株主の信頼を裏切って漫然と融資を継続していたのであって,本件各貸付の決定権限は名実ともにまさに被告人Aにあったといえることからみても,犯情はまことに悪い。しかも,被告人Aは,捜査段階及び公判廷において,自分には道義的責任があると述べてはいるものの,その供述内容をみると,結局のところ,E株式会社及びD株式会社に対して融資を継続し,本件各貸付を行わなければならなかった原因は以前の頭取や融資担当者等の行為にあり,自らが刑事責任を負わなければならない理由はない旨を縷々主張するものであって,そこには自らの責任と判断において本件各貸付を実行したことに対する真摯かつ率直な反省の態度は全く看て取れない。被告人Aには,C銀行の経営者及び本件各貸付に対する責任者としての自覚が欠如していたといわれてもやむを得ず,その責任はまことに重い。 また,被告人Bは,本件各貸付実行の最終決裁権限はないものの,C銀行の副頭取として頭取たる被告人Aを補佐し,かつ,審査担当取締役として本件各貸付の可否等を十分に検討すべき職務にありながら,貸付金の円滑な回収が不可能であって,いずれは不良債権として償却しなければならなくなることをよく承知していたにもかかわらず,自己の果 締役として本件各貸付の可否等を十分に検討すべき職務にありながら,貸付金の円滑な回収が不可能であって,いずれは不良債権として償却しなければならなくなることをよく承知していたにもかかわらず,自己の果たすべき職責に背いて,漫然と融資継続の意思を有する被告人Aに追従し,融資審議会や検討会においてE株式会社及びD株式会社への融資継続の意見を述べるなどして,結局,被告人Aをして本件融資継続の意向を再考させることなく,本件各貸付を実行させるに至らしめたのであり,その責任は,被告人Aと同視する程度とまではいえないものの,十分に重い。 4 他方,本件各貸付の合計額は90億5100万円と極めて巨額ではあるものの,C銀行グループからE株式会社及びD株式会社に対する融資残高全体をみると,本件各貸付実行後の融資残高は,本件前と比較して約13億円の増加に止まり,また本件各貸付期間中には貸付金を原資としてC銀行に対する利息も支払われていたこと,そのことをもって背任罪の成立が妨げられるものではないものの,被告人両名が長年勤務し,それぞれに思いのあるC銀行自体の破綻を免れたいと願望していた心情やその従業員,取引先等への影響の大きさを慮った事情は,それなりに理解できるところがあること,本件犯行に伴う当然の結果とはいえ,被告人両名ともに既にその地位を退き,また,本件やC銀行の破綻が大きく報道されたことなどにより,既に一定の社会的制裁を受けたものと評価しうること,長年にわたってC銀行に勤務し,それぞれにC銀行の業績に貢献してきた実績があること,被告人Aについては,前科前歴がなく,C銀行を破綻に招いたことについて申し訳ない旨を述べているほか,必ずしも体調が優れないこと,被告人Bについては,前科前歴がなく,捜査段階において本件各犯行を認める供述をし,公判廷においても,本件に関 C銀行を破綻に招いたことについて申し訳ない旨を述べているほか,必ずしも体調が優れないこと,被告人Bについては,前科前歴がなく,捜査段階において本件各犯行を認める供述をし,公判廷においても,本件に関する反省の弁を述べるとともに,その立場なりに概ね正直に供述していて,不合理な弁解を縷々弄しているとまでみることは些か酷であることなど,それぞれに酌むことができる事情もある。 5 そこで,以上諸般の事情を総合考慮し,特に,被告人Aについては,C銀行の経営陣の最高責任者の地位にあり,かつ,本件各貸付にあたって最終決裁を行うなどの職務権限を有していたこと,本件各貸付実行に至る間における実際の影響力や関与の内容,程度,さらには,その反省状況等に鑑み,それぞれ,主文のとおり判決するのが相当と判断した。 平成14年10月15日東京地方裁判所刑事第4部裁判長裁判官井上弘通裁判官野口佳子,同森喜史は,転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官井上弘通

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る