主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1平成18年6月7日午前10時ころ,山梨県甲府市内のA(当時88歳)方において,同人所有の現金約4万円を窃取し,第2同月15日午前2時ころ,金品強取又は窃取の目的で,前記A方に1階物置部屋無施錠の腰高窓から侵入し,同人所有の現金約10万円及び預金通帳等2点を窃取し,第3強盗の目的で,同年7月12日午前零時ころ,同市内所在のB(当時80歳)方に,玄関の施錠を解錠して侵入し,同人方2階寝室において,同人に馬乗りになって,その顔面等を多数回殴打し,所携のクラフトテープで同人を緊縛しようとしたが,同人から抵抗されたため,殺意をもって,その頸部を両手で締め付け,よって,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫により窒息死させて殺害した上,同人所有にかかる現金約6000円を強取したものである。 (証拠)<省略>(法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法235条に,判示第2の所為のうち住居侵入の点は同法130条前段に,窃盗の点は同法235条に,判示第3の所為のうち住居侵入の点は同法130条前段に,強盗殺人の点は同法240条後段にそれぞれ該当するが,判示第2の住居侵入と窃盗との間及び判示第3の住居侵入と強盗殺人との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条によりいず れも1罪として,判示第2については重い窃盗罪の刑で,判示第3については重い強盗殺人罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中判示第1及び第2の罪については懲役刑を,判示第3の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第3の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑 及び第2の罪については懲役刑を,判示第3の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第3の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないこととして,被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 本件は,多額の借金を抱えていた被告人が,仕事で訪問した顧客の家で現金を盗んだ窃盗事件(判示第1),後日,強盗等の目的で同じ家に侵入して現金等を盗んだ住居侵入,窃盗事件(判示第2),さらに,強盗目的で独り暮らしの高齢者の家に侵入し,抵抗されたために被害者を扼殺した上,現金を奪った住居侵入,強盗殺人事件(判示第3)からなる事案である。 2(1)まず,最も刑責の重い判示第3の住居侵入,強盗殺人事件の犯情についてみる。被告人は,平成14年ころから,消費者金融業者から借金をするようになったが,平成18年6月ころには,複数の業者に多額の借金があり,その返済のため毎月七,八万円が必要であり,毎月の給料やコンビニエンスストアでのアルバイト代から月々の電話代,自動車の保険料等を払うと手元に残る金はせいぜい二,三万円という状態であった。被告人は,同年3月ころ知り合った女性と同年4月半ばころから交際を始め,同女から生活費が足りないなどと言われたことから,同女の歓心を買うため,消費者金融業者から借金をして合計六,七十万円を渡したりしていた。被告人は,同女の歓心を買うための金や,車の部品代,遊興費等に充てるための金を何としても欲しいなどといつも考えるようになっていたところ,仕事で訪問した独り暮らしの老人方で,被害者が被告人を残したまま家を空けたことから,その機会 の金や,車の部品代,遊興費等に充てるための金を何としても欲しいなどといつも考えるようになっていたところ,仕事で訪問した独り暮らしの老人方で,被害者が被告人を残したまま家を空けたことから,その機会を利用して財布の中にあった現金の一部を抜き取り,判示第1の窃盗行為に及んだ。被告人は,その際, 自己の犯行であることが発覚しないように,財布の中から金員の一部のみを抜き取ったのであるが,その後も被害者宅に残っている金のことが頭から離れなかった。一方で,アルバイト先のコンビニエンスストアにおける狂言強盗を思い立って計画したが,友人に断られたため,深夜,判示第1の被害者宅に侵入して金員を奪い取るなどしようと考え,判示第2の犯行に及んだ。被告人は,判示第1の窃盗により手に入れた金員を交際中の女性に渡すなどしたが,同年6月下旬ころには,同女が被告人に借金があることを知るや,将来に不安を感じ被告人と別れることとなった。被告人は,同女に対する未練が捨てられず,同女が離れていったのは,被告人に金がないからであり,金さえあれば,同女とのよりが戻せるなどとも考えていた。判示第3の侵入強盗を計画したのは,同女の長女の誕生日が7月13日であったことから,それまでに本件被害者らから金を奪って,まとまった金を手に入れ,同女とよりを戻そうなどと考えてのことであり,強盗を行ってその金を手に入れようとした被告人の安易かつ短絡的で身勝手な動機に酌量の余地はない。また,被告人は,被害者が予想外に激しく抵抗し続けたことから,抵抗を止めさせるためには殺すしかないなどと考えて被害者の殺害に及び,さらに被害者の衣服から現金を奪うなどして当初の目的を達成したものである。被害者の抵抗に遭った段階で,その場から逃走するなど被害者の殺害以外の選択肢を選択することができたはずであったにもか に及び,さらに被害者の衣服から現金を奪うなどして当初の目的を達成したものである。被害者の抵抗に遭った段階で,その場から逃走するなど被害者の殺害以外の選択肢を選択することができたはずであったにもかかわらず,目先の金銭欲から,安易に被害者を殺害するという方法を選択したものであって,あまりにも短絡的であり,かつ,被告人の人命軽視の態度は甚だしく,強盗殺人に至った経緯にも酌むべき事情は認められない。 犯行態様をみると,被告人は,独り暮らしの高齢者を相手に強盗を行えば容易に金を奪うことができるなどと考え,かつて仕事で訪問し,相手の事情が分かっている客の中で,金を持っていそうな独り暮らしの高齢者の家に侵入して,クラフトテープで被害者の手足を縛るなどして抵抗できなくし,金のある場所を聞き出して奪おうと考え,本件被害者ともう1名老女をその対象に選んだ。 その後同年7月4日ころ,強盗に使用する合皮性の手袋を買い,侵入強盗のやり方をあらかじめ考えるなどして準備した。本件被害者については,かつて家電製品点検などの仕事で訪問した際に合い鍵の隠し場所を教えてもらっていたことから,深夜の時間帯にこの鍵を使って被害者宅に侵入し,被害者の手足をクラフトテープで縛って金の保管場所を聞いて奪おうなどと考えていた。被告人は,あらかじめ用意した防塵マスク,帽子などにより変装するとともに,被害者を縛るためのクラフトテープや指紋を残さないための手袋を準備した上で被害者宅に侵入しており,侵入強盗の点は,周到に準備された計画性が高い犯行であるし,独り暮らしの無防備な高齢者を狙い,その信頼を逆手に取った卑劣な犯行でもある。被害者を殺害するまでの過程をみても,被告人は,ベッドで寝ていた被害者に馬乗りになった上,手が痛くなるほど容赦なく何回も被害者の顔面を殴り付け,さらに,被害者の殺 を逆手に取った卑劣な犯行でもある。被害者を殺害するまでの過程をみても,被告人は,ベッドで寝ていた被害者に馬乗りになった上,手が痛くなるほど容赦なく何回も被害者の顔面を殴り付け,さらに,被害者の殺害を決意した後は,馬乗りのまま両手で被害者の首を思い切り締め付け,被害者が苦しそうにもがくのを見ても構わず首を締め続け,完全に殺害するため,腰を浮かせて両手に全体重をかけながら首を思い切り締めて被害者を窒息死させて殺害したのであり,非情というほかない。被告人は,被害者の体が動かなくなり,死んだと思ったが,それでも念のため,しばらく首を締め続け,完全に被害者の体が動かなくなるのを確認してから手を離したというのであるが,被害者の甲状軟骨や舌骨は完全に折られており,被告人の行為は,強固な殺意に基づく,まことに執拗かつ残忍で冷酷なものである。さらに,被告人は,被害者の殺害後,全くひるむこともなく,被害者のズボンのポケット内に手を入れて,現金を奪ったほか,部屋を手当たり次第に物色して金品を探すなどし,逃走の際には,犯行の発覚を遅らせるべく電話線や通報装置のコンセントを抜いたり,クラフトテープのカッターを落としたことに気づいて死体の周辺を捜したり,被害者宅の玄関の鍵を閉めて合い鍵を持ち去ったりもしている。犯した罪の重大さにもかかわらず,そのような行為に出ている被告人の冷静さからは後悔の気持ちも感じられない。 もとより金銭を強奪するのみならず被害者の尊い命までも奪ったという犯行の結果が重大であることは言うまでもない。被害者は,何らの落ち度もないにもかかわらず,寝ていたところを突然侵入してきた被告人に起こされ,必死に抵抗したものの,被告人の執拗かつ残忍な行為により命を奪われたものである。 その間の被害者の驚愕や恐怖,肉体的苦痛は筆舌に尽くしがたいものがある 寝ていたところを突然侵入してきた被告人に起こされ,必死に抵抗したものの,被告人の執拗かつ残忍な行為により命を奪われたものである。 その間の被害者の驚愕や恐怖,肉体的苦痛は筆舌に尽くしがたいものがあると思われる。身体的にハンディキャップを負っていた被害者は,それに負けることなく,人生を生き,50年以上にわたり,自宅で学習塾を経営しながら生活し,多くの人に慕われていた。被害に遭った当時被害者は80歳と高齢で,肺気腫という病気を患っていたにもかかわらず,1人でも通ってくる子供がいる限り塾を続けたいと考えて頑張って生きていたのであり,被害者にとって,このような形で命を落とすことになった無念さも察するに余りある。 被害者の遺族も,「自分の借金の返済や遊ぶ金欲しさの身勝手な動機で,病気を患い体力もなく,抵抗すらままならないBを殺害し,私達からBを奪った犯人を許す事ができません。」(Cの警察官調書抄本。<証拠略>),「妹として法が許す限りの極刑を望みます。」(Dの警察官調書抄本。<証拠略>),「掛け替えのないお兄ちゃん(被害者)を,どうして私から奪わなければならなかったんでしょうか。残念です。本当に無念です。悔しくて堪りません。出来る事ならば,この手で犯人のEという男を殺したいくらい憎いです。」(Fの警察官調書抄本。<証拠略>),「80歳で病気に苦しみ,最後は顔見知りの人間に首を絞められて殺された,B兄さんを思うと無念でなりません。」(Gの警察官調書抄本。<証拠略>)などと,捜査機関に対してその怒りや悲痛な思いを述べ,いずれも被告人に対する極刑を望んでいるが,その心情は十分頷けるところである。本件犯行現場付近は,住宅密集地であり,周辺住民に与えた不安や動揺は大きく,独り暮らしの高齢者を狙った本件犯行が高齢者に与えた不安も大きなものがあったと推察され ,その心情は十分頷けるところである。本件犯行現場付近は,住宅密集地であり,周辺住民に与えた不安や動揺は大きく,独り暮らしの高齢者を狙った本件犯行が高齢者に与えた不安も大きなものがあったと推察され,社会的影響も重大である。 被告人は,犯行後に親しい友人に対して犯行を告白してはいるものの,捜査 機関から事情聴取を受けた際も自らが犯人であることを申告することはせず,犯行から約3か月弱の間,発覚を免れていたのであって,犯行後の情状も良くない。 (2)判示第1及び第2のA宅における窃盗等についてみても,その犯行動機は,強盗殺人等の事件と同様,当時交際していた女性に渡すなどする金が欲しかったなどといった安易かつ身勝手なものである。犯行態様も,特に判示第2の住居侵入,窃盗事件については,被害者がトイレに立ち,その隙に現金等を窃取することができたため,強盗行為には至らなかったが,判示第3の強盗殺人等の事件と同様,独り暮らしの高齢者である被害者を狙い,変装するとともに,抵抗された場合に被害者を縛るためのクラフトテープを準備するなどした上,深夜,被害者宅に忍び込むという計画的かつ卑劣な犯行であって,非常に悪質である。2回の窃盗によって合計約14万円の現金等を盗み出していることも踏まえると,これ自体としてもその刑責を軽視できない。 (3)加えて,被告人が約1か月強の間に判示第1から第3の犯行を重ね,しかも,その間自らの行為を後悔して反省することも,大きな抵抗感を感ずることもなく,アルバイト先のコンビニエンスストアに狂言強盗に入ることを重ねて友人に誘いかけることもしたりしながら,しだいに犯行をエスカレートさせて最終的に判示第3の強盗殺人行為にまで及んでいるのであり,被告人の規範に対する意識には重大な問題があると言わざるを得ない。 (4)以上からすれば,被告 したりしながら,しだいに犯行をエスカレートさせて最終的に判示第3の強盗殺人行為にまで及んでいるのであり,被告人の規範に対する意識には重大な問題があると言わざるを得ない。 (4)以上からすれば,被告人の刑事責任は非常に重い。 他方で,判示第3の強盗殺人事件が当初から被害者の殺害まで念頭に置いていた事案ではないことや,被告人は,逮捕されてからは各犯行を素直に認め,当公判廷においても「自分は死刑でも構わないと思っています。人として,してはいけないことをしたので当然のことだと思います。」などと述べて,判示第3の犯行の重大さを真摯に受け止め,強盗殺人事件の被害者遺族や窃盗事件の被害者に対して手紙で謝罪したり,少額ではあるものの贖罪寄付をするなどの方法で,深 い反省の態度を示していること,情状証人として出廷した被告人の父親が判示第1及び第2の窃盗被害の被害弁償をしているほか,強盗殺人事件の被害弁償についても協力する意思を示し,被告人が十分罪を償った上で更生することを望んでいること,被告人に対しては罪を償った上での社会復帰を望むと述べる友人や知人がいること,被告人には前科前歴がなく,いまだ若年であることなど,被告人にとって有利な事情も認められる。 しかしながら,このような被告人にとって有利な事情を最大限考慮しても,特に判示第3の住居侵入,強盗殺人事件については,金品を得たいがために確定的な殺意をもって被害者の尊い命を奪ったという罪質などからして,被告人の刑事責任は非常に重いといわざるを得ず,当裁判所は,被告人に対しては,生涯かけて罪を償わせるとともに更生の機会の余地を残すこととし,強盗殺人事件の遺族が求める極刑の選択はしないものの,酌量減軽をすることは適当でなく,無期懲役に処することはやむを得ないと判断した。 (求刑無期懲役)平成19年 に更生の機会の余地を残すこととし,強盗殺人事件の遺族が求める極刑の選択はしないものの,酌量減軽をすることは適当でなく,無期懲役に処することはやむを得ないと判断した。 (求刑無期懲役)平成19年4月4日甲府地方裁判所刑事部裁判長裁判官渡辺康裁判官矢野直邦裁判官福嶋一訓
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