【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人を懲役二年に処する。 原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理 由 本件検察官控訴の趣意は検察
主 文 原判決を破棄する。 被告人を懲役二年に処する。 原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理 由 本件検察官控訴の趣意は検察官渡辺衛名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は 弁護人飯山一司名義の意見書に、弁護人控訴の趣意は同弁護人名義の控訴趣意書に それぞれ記載されたとおりであるから、いずれもこれを引用する。 一、 弁護人の控訴趣意一、二、事実誤認の主張について 所論は原判示第二事実につき、被告人は原判示のとおり自己の運転する軽乗用自 動車を被害者に衝突させて重傷を負わせ、同人を自車に乗せて原判示場所に運び、 その場に降したまま放置して救護の措置をとらなかつたものではあるが、被害者は 放置されたことにより死亡する可能性はなかつたのであるから、被告人が、被害者 の死亡するかもしれないことを認識しつつこれを認容した趣旨の供述をしても、原 判決が未必的故意による殺人未遂の事実を認定したことは事実の誤認であると主張 する。 しかし記録を精査すれば原判決の挙示する証拠に基き十分原判示事実を認 定し得る。本件衝突事故による被害者の受傷程度は、受傷の二時間余り後に診断に 当つた医師をして加療一〇ケ月を予想させた左大腿骨複雑骨折、頭部外傷、右下腿 打撲傷等の重傷であり、被害者が放棄された日時は昭和四五年一月一一日午後一一 時三〇分頃の深夜で、当夜の気温は熊谷地方気象台の記録によれば、一二日午前〇 時に二・六度、同三時に〇・八度、同六時に〇・二度を示し、その場所は旧中仙道 より約一、〇〇〇メートル横道にそれた陸田の端で、少くも朝まで人の通行を期待 し得ない地点である。これらの厳しい条件下に放棄された被害者は衡突事故により 道路の側溝内に転倒したため、背広服上下着用の左半身が濡れていたうえ、意識を 失つて自ら救助を求 、少くも朝まで人の通行を期待 し得ない地点である。これらの厳しい条件下に放棄された被害者は衡突事故により 道路の側溝内に転倒したため、背広服上下着用の左半身が濡れていたうえ、意識を 失つて自ら救助を求める手段を断たれた状態にあつたことを思えば、衡突による身 体内部の傷害情況を詳細に知り得ない者にとつても、被害者死亡の懸念を懐くこと が常識であり、被告人が、被害者が死亡するかも知れないと認識したものと認めら れる。況や傷害の実情は、A医師の証言によれば、左大腿の複雑骨折に伴う広範に 亘る多量の内出血による全身衰弱、受傷によるシヨツクのため翌朝まで前示の如き 情況下に放置された場合、殆ど生存を期待し難い状態にあつたのである。被害者死 亡の可能性はなかつたという所論は根拠のない独自の見解で採るに足りない。 所論は、被告人の被害者に対する未必の殺意を否定する理由として、被害者の傷 害が当初全治一〇ケ月の見込が現実には入院加療六ケ月であつたこと、被害者が放 置された後二時間余で容易に発見されたこと、放置された場所から二、三十メート ルの近くに人家のあつたこと、被告人が翌朝八時過頃には警察署に犯行を報告した こと等を挙げ、これらを考え合せると被告人に被害者を「殺そうとした」意識があ つたものとすることはできないと論ずるのであるが、原判決は判文上明らかなとお り、被告人に被害者を「殺そうとした」意識があつたと認定しているのではない。 被害者が死んでしまうかも知れないと認識したが、衡突事故の発覚を免れるために は、それも已むを得ないと考えたと認定し、被告人がそのとおり自供していても、 その具体的情況を離れては、必ずしも殺人罪の構成要件の予想する違法類型に当る とはいい難いが、前示の如き本件の具体的情況下においては違法類型に当る未必の 故意に基く殺人未遂を認定し得るとしているのであつて、正 体的情況を離れては、必ずしも殺人罪の構成要件の予想する違法類型に当る とはいい難いが、前示の如き本件の具体的情況下においては違法類型に当る未必の 故意に基く殺人未遂を認定し得るとしているのであつて、正当である。所論の挙げ る諸点は、いずれも先に認定の被告人の未必の故意を否定する理由にはなり得な い。所論は理由がない。 三、 弁護人控訴趣意四、法令の解釈適用の誤りの主張について 所論は、原判決が原判示第二において認める道路交通法上の救護義務違反の所為 は、同時に認める不作為による殺人未遂の作為義務違反であるから、前者は後者に よつて成立する殺人未遂罪に吸収されて別罪を構成しないと解すべきであるのに、 両罪の成立を認めて一個の行為で二個の罪名に触れるものとした原判決は法令の解 釈適用を誤つたと主張する。 <要旨>原判決の認定するところは、被告人が自動車運転者として人身事故に遭遇 した場合に採るべき負傷者の救</要旨>護義務に違反してこれを怠つた事実及び被告 人がその過失により重傷を負わせた被害者を救護すべき義務に違反し、未必の殺意 をもつて救護しないという不作為による殺人未遂の事実である。両者は全く罪質を 異にし後者に対する法的評価が当然に前者に対する評価を包摂するものではないか ら、原判決が両者はそれぞれ別罪を構成し、一個の行為で二個の罪名に触れる場合 と判断したことは相当であつて、法令の解釈適用を誤つた違法はない。所論は採用 の限りでない。 (その余の判決理由は省略する。) (裁判長裁判官 関谷六郎 裁判官 寺内冬樹 裁判官 中島卓児)
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