判決平成14年3月19日神戸地方裁判所平成12年(ワ)第2532号損害賠償請求事件 主文 1 被告は, 原告に対し, 645万4200円及びこれに対する平成12年12月16日から支払済みまで年5分の割合よる金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は, これを10分し, その7を被告の, その余を原告の負担とする。 4 この判決は, 1項に限り, 仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告は, 原告に対し, 932万1000円及びこれに対する平成12年12月16日から支払済みまで年5分の割合よる金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) この判決は, (1)につき, 仮に執行することができる。 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 被告は, 「A」の名称で音楽塾を経営する者であるところ, 原告の入会に際し, 被告が「ピアノは一人でアレンジができ, 歌は初見で歌えるまでにし, 生徒の教授法を伝授して, 約1年で一人前の音楽講師としての資格が取得できる。」と説明したので, 原告は, 平成10年9月6日, 被告との間に被告が経営する「A」インストラクター科に入会する旨の契約(以下「本件入会契約」という。)を締結した。 (2) 原告は, 被告に対し, 月謝, カリキュラム代等として, 別紙1記載のとおり合計632万1000円を支払った。 (3) しかし, 被告は, ピアノのレッスンは, 最初の数回, (2) 原告は, 被告に対し, 月謝, カリキュラム代等として, 別紙1記載のとおり合計632万1000円を支払った。 (3) しかし, 被告は, ピアノのレッスンは, 最初の数回, ポイントトレーニングを行っただけで, 原告の自宅での自主練習がほとんどであり, 歌のレッスンは,原告にアカペラで曲を歌わせて, 簡単なポイントを指導するのみで本格的な歌唱方法の授業はなく, 教授法の指導は, 喫茶店で雑談のかたわら説明があるにすぎなかった。また, 被告は, 原告に対し, 音大プラスαの授業を行うとか特別のカリキュラムを組むなどして特別の授業を行うと説明してカリキュラム代等を納めさせたが,特別の授業はなかった。 (4) 被告は, 平成12年4月24日, 原告に対し, 徹底的に技量をたたきこむので, カリキュラム代900万円をさらに支払うよう要求したので, 原告は拒否して退会する旨を告げ, 翌25日に, 被告が風俗で働いてカリキュラム代を作るよう述べたので, 原告は「A」をやめると断言し, 本件入会契約を解約した。 (5) 原告が月謝・維持費名目で支払った107万1000円については, いずれかの理由により, 被告は原告に支払義務を負う。 ア債務不履行原告は, 被告が説明どおりの授業を行わなかった債務不履行により,07万1000円損害を被った。 イ錯誤原告は, 被告の説明どおりのレッスンが受けられるものと誤信して, 本件入会契約締結の意思表示をした。原告の同意思表示には要素の錯誤があり, 本件入会契約は無効であるから, 107万1000円は被告の不当利得となる。 ウ詐欺被告は, レッスン内容を偽って説明して原告を欺き 同意思表示には要素の錯誤があり, 本件入会契約は無効であるから, 107万1000円は被告の不当利得となる。 ウ詐欺被告は, レッスン内容を偽って説明して原告を欺き, その旨誤信させて本件入会契約を成立させた。 原告は, 平成13年1月17日の本件口頭弁論期日において, 本件入会契約締結の意思表示を取り消す旨の意思表示をした。 したがって, 107万1000円は被告の不当利得となる。 (6) 原告がカリキュラム代の名目で支払った525万円については, (3)項の後半記載の被告の行為は不法行為にあたり, 原告は同不法行為により, 525万円の損害を被ったのであるから, 被告はこれを賠償すべき義務がある。 (7) 原告は, 被告の債務不履行及び不法行為により, 著しい精神的苦痛を被ったものであって, 慰謝料は300万円を下らない。 (8) よって, 原告は被告に対し, 合計932万1000円(107万1000円+525万円+300万円)及びこれに対する平成12年12月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否(1) 請求原因(1)のうち, 被告が「A」の名称で音楽塾を経営する者であること, 原被告間に本件入会契約が締結されたことは認めるが, その余は否認する。被告は, 原告に対し, 相当厳しい練習をしなければ音楽講師の資格を取得することは不可能であると説明し, 原告もこれを了解して本件入会契約を締結した。 (2) 同(2)は認める(ただし, 名目については争う。)。 (3) 同(3)は否認する。被告は, 豊富な経験に基づき, 誠心誠意をもって, 告もこれを了解して本件入会契約を締結した。 (2) 同(2)は認める(ただし, 名目については争う。)。 (3) 同(3)は否認する。被告は, 豊富な経験に基づき, 誠心誠意をもって, 週5日, 1日平均6時間マンツーマンレッスンを行い, その外にも随時指導を行ってきた。 (4) 同(4)は否認する。 原告は被告に対し, 平成11年4月ころ, 約1年間でインストラクター科を卒業できるよう指導してほしいと懇願し, 被告は授業料として約600万円が必要であることを説明し, 原告はこれを了解した。原告は毎月可能な金額を支払い,平成12年1月ころに自ら支払額を増やした。そして, 同年5月ころには原告は被告から他の生徒の実習指導を委されるまでになったが, 突然来なくなり, 同年6月末に退会した。 (5) 同(5)(6)は争う。 理由 1 請求原因(1)(2)のうち, 被告が「A」の名称で音楽塾を経営する者であること, 平成10年9月6日に原被告間本件入会契約が締結されたこと, 原告が被告に対し合計632万1000円を支払ったことは当事者間に争いがない。 2 争いのない事実, 証拠(甲1~5, 原告本人, 被告本人)及び弁論の全趣旨によれば, 次の事実が認められる。 (1) 被告は18才までピアノや歌を習い, B音楽学園で1年間授業を受けた後, 同学園その他で音楽指導に携わってきたが, 平成7年秋ころ, 神戸市中央区○○通の阪急△△高架下に20畳ほどの部屋を借り受け, 電子ピアノとオーディオ設備を入れて音楽塾「A」を始めた。他方, 原告は, 保険医学研究所(医療関係の検査会社)に勤務していたが, 子供のころソナチネやチェルニー30番程度が弾けるまでピアノ け, 電子ピアノとオーディオ設備を入れて音楽塾「A」を始めた。他方, 原告は, 保険医学研究所(医療関係の検査会社)に勤務していたが, 子供のころソナチネやチェルニー30番程度が弾けるまでピアノを習ったことがあり, 音楽講師になりたいと思って貯金していた。 (2) 原告は, スクール情報マガジン「ケイコとマナブ」に掲載された「A」の広告を見て, 平成10年9月1日に「A」を訪れた。被告は, インストラクター科が音楽の基礎ができている人に対し生徒の指導法を教える科であることから, 原告の技量の低さでは1年でインストラクターとなることは難しいとは思ったが, 原告の熱心さを買って, 1年間では難しいだろうが, 何とかインストラクターとなれるよう指導すると述べ, 入会金5万円, 1か月の教室設備費(維持費)1000円,授業料(月謝)30分4000円であることを説明した。そこで, 原告は「A」インストラクター科に入会することとし, 勤務先を退職した。 なお, 「A」でインストラクター科に入会したのは原告のみであり, 被告は, これまでに音楽講師を育て上げたことはない。 (3) 原告は, 別紙2記載のとおり, 1年8か月にわたり被告のレッスンを受けた。ボイストレーニング, 腹式呼吸が中心に2か月ほどレッスンを受け, 次の3か月間に主に喫茶店で、生徒への指導方法を教わってから, 平成11年3月ころから自分が受けたとおりの内容をそのままオウム返しにして, 「A」の生徒を指導したことがあった。歌については, 原告が選択して持参した楽譜コピーの曲(ポップやロック等の合計約100曲)をアカペラで歌うのに対し, 被告がコメントする方法で指導を受けた。また, 原告が伴奏部分を作曲した約8曲につきみてもらったこともあった。ピアノについ コピーの曲(ポップやロック等の合計約100曲)をアカペラで歌うのに対し, 被告がコメントする方法で指導を受けた。また, 原告が伴奏部分を作曲した約8曲につきみてもらったこともあった。ピアノについては,進行コードを教わった程度であり, 自主練習に委せられた。レッスン内容は, 原告がカリキュラム代等の特別な費用を支払うようになってからも変化はなかった。 (4) 原告は, 被告に対し, 別紙1記載のとおり合計632万1000円を支払った。原告は, このうち約230万円を実母から借金し, その余は原告の貯金すべてをあてて支払った。 ア別紙1のH10.9.6の63,000円は, 入会金50,000円, 教室設備費1000円,月謝12,000円(4,000円×3か月)として支払ったものである。また, 月謝・維持費欄のその余の支払は, レッスン時間に応じて, 月謝として支払ったものである。 イ別紙1のカリキュラム代等欄のH10.10.12及び11.3.2の各30,000円は,同年10月2日に被告からカリキュラム代手数料60,000円(月額5000円×12か月)を請求されて支払ったものである。 ウ H10.11.9 10.12.7 11.1.4. 11.4.5の各90,000円は, 平成10年11月2日, 被告から同年11月から1年間のカリキュラム代として支払うよう請求されて支払ったものである。 エ別紙1のH11.4.19の30,000円は, 平成11年4月5日ころに被告からカリキュラム代(資料・ビデオ代等)が必要と言われて支払ったものである。 オ別紙1カリキュラム代等欄のH11.6.11以降の合計480,000円は, 平成11年度分の残りのカリキュラム代の支払と, 同支払が ・ビデオ代等)が必要と言われて支払ったものである。 オ別紙1カリキュラム代等欄のH11.6.11以降の合計480,000円は, 平成11年度分の残りのカリキュラム代の支払と, 同支払が終わった同12年1月初めに,被告から, 芸能人を目指す人を教える技能を教授する, 音大プラスαの技量を詰め込むので, さらにカリキュラム代470万円(平成12年1月分~同年5月分合計4,500,000円(月額900,000円×5か月)及び6月分20万円)が必要と言われて, うち5月分の900,000円を残す分を支払ったものである。 (5) 被告は, 原告に音大プラスαの授業を行うと説明したり, 音楽講師として「A」を委せると述べたりしていたところ, 平成12年4月の終わりころに「同年の5月から10月までは, 被告が東京に指導にゆくので原告に「A」を委せるが,11月から翌13年3月までは, 徹底的に指導するので, カリキュラム代900万円(平成12年6月分~同13年3月分月額900,000円×10か月)を支払ってほしい, いずれは「A」の経営を委せる。」と述べた。 これに対し, 原告は, 電話で支払延期を求めたところ, 被告は風俗営業で働くことを示唆したり, 金融業者で借金するよう述べた。そこで, 原告は, 「A」をやめることを被告に伝えた。被告は, 同12年7月10日付内容証明郵便で149万7000円の月謝未納分を支払うよう請求したりしたが, その後に「A」を引き払った。 3 カリキュラム代について前記認定事実によれば, 被告が原告のレッスン以前に音楽講師を育てあげたことはないこと, 原告は音楽の基礎能力不足のため, 短期間に音楽講師となることが不可能な状態であったこと, 被告が原告の指導のために特別のカ よれば, 被告が原告のレッスン以前に音楽講師を育てあげたことはないこと, 原告は音楽の基礎能力不足のため, 短期間に音楽講師となることが不可能な状態であったこと, 被告が原告の指導のために特別のカリキュラムを組んだり, カリキュラム代納入以後のレッスンが従前と異なる高度のものとなったり,特別の支出が必要であったようなことは全くなかったことが認められる。また, 被告は, 本人尋問において, 原告のために特別のカリキュラムを作成したが, 廃棄してしまった, カリキュラム代という形で請求したことはなく, トータル的な金額を請求した等と述べるが, 具体的なレッスン内容や特別な費用の使途等を何等具体的に説明できない。 以上によれば, 被告が原告に対し, 音大プラスαの授業を行うとか特別のカリキュラムを組むなどと説明してカリキュラム代等を納めさせたことは不法行為にあたるとうことができる。したがって, 被告は, 原告に対し, 損害賠償としてカリキュラム代として納入させた525万円を支払う義務がある。 4 月謝等について前記認定事実によれば, 被告が安請け合いした点は否めないとしても, 原告を約1年間で音楽講師とすると確約したとまでは認めることはできず, 完璧とはいえないまでも被告を指導してきたことが認められ, 同事実によれば, 被告に全面的に債務不履行があったとか, 原告に要素の錯誤があったとか, 被告の行為が詐欺となるとまで断定することは困難である。 しかしながら, 前記認定の被告自身の経験や技量及び実際のレッスン内容からすると, 原告の音楽の習熟度を考慮に入れたとしても, 原告が納入した月謝や維持費に比して, レッスン内容は不十分, 不完全なものと言わざるを得ない。 したがって, 原告が納入した月謝や維持費につ らすると, 原告の音楽の習熟度を考慮に入れたとしても, 原告が納入した月謝や維持費に比して, レッスン内容は不十分, 不完全なものと言わざるを得ない。 したがって, 原告が納入した月謝や維持費については, その2割を減ずるのが相当である。したがって, 被告は原告に対し, 20万4200円((1,071,000円-50,000円)×0.2)を不当利得として返還すべきである。 5 慰謝料について前記認定事実によれば, 原告は, 音楽講師になる夢をもって勤務先を退職して「A」に入会し, 貯金を使い果たし, 実母から借金してまでも被告に支払って努力をしてレッスンを続けたが, 結局, 音楽講師となることはできなかったことが認められ, その失意は大きく, 被告の行為により精神的苦痛を受けているものと認められ, 慰謝料として100万円を認めるのが相当である。 6 以上によれば, 原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認めることとし, その余の請求は理由がないから棄却し, 訴訟費用については民事訴訟法61条, 64条本文を, 仮執行宣言については同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部裁判官永田眞理・
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