平成25年2月27日判決言渡平成24年(行ケ)第10144号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年1月28日判決原告燦坤日本電器株式会社訴訟代理人弁護士松田純一同丸山幸朗同大橋君平同近森章宏同森田岳人同菅原清暁同村上康聡同兼定尚幸同山口智寛同柴田陽介同篠森重樹同伊藤卓同岡本明子同佐藤康之同夏苅一同西村公芳同白井潤一同大坂憲正同奥津麻美子訴訟復代理人弁護士西脇怜史被告日亜化学工業株式会社 同奥津麻美子訴訟復代理人弁護士西脇怜史被告日亜化学工業株式会社 訴訟代理人弁護士古城春実同牧野知彦同高橋綾訴訟代理人弁理士鮫島睦同言上惠一同田村啓同玄番佐奈恵 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2011-800191号事件について平成24年3月16日にした審決を取り消す。 第2 前提となる事実 1 特許庁における手続の概要(1) 被告は,発明の名称を「発光ダイオード」(以下,発光ダイオードを「LED」ということがある。)とする特許第3995011号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。原告は,平成23年9月30日,特許庁に対し,本件特許を無効にすることを求めて審判(無効2011-800191号事件)を請求した。これに対し,特許庁は,平成24年3月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同月26日に原告に送達された。 (2) 本件特許に至る手続の経緯は次のとおりである。 平成 3年11月25日原出願(特願平3-336011号(以下「最初の原出願」という。))平成 同月26日に原告に送達された。 (2) 本件特許に至る手続の経緯は次のとおりである。 平成 3年11月25日原出願(特願平3-336011号(以下「最初の原出願」という。))平成 9年10月20日分割出願(第1世代)(特願平9-306393号(以 下「第1分割出願」という。))平成10年12月28日分割出願(第2世代)(特願平10-377128号)平成13年 9月 3日分割出願(第3世代)(特願2001-313286号)平成15年 2月 4日分割出願(第4世代)(特願2003-67318号)平成16年 9月27日分割出願(第5世代)(特願2004-280288号)平成17年 5月30日分割出願(第6世代)(特願2005-158166号)平成17年10月31日分割出願(第7世代)(特願2005-317711号(以下「本件出願」という。)平成19年 8月10日本件特許の設定登録(3) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と,電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,前記発光素子を包囲する樹脂と,前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする,前記樹脂中に含有されてなる蛍光染料又は蛍光顔料と,前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線と,を有する発光ダイオード。 2 審決の概要審決の理由は,別紙審決書写のとおりである。要するに,「第 極を付け,該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続させてなる金線と,を有する発光ダイオード。 2 審決の概要審決の理由は,別紙審決書写のとおりである。要するに,「第1分割出願が分割要件を満たさないから本件出願の出願日は最初の原出願の出願日に遡及しない,した がって,本件特許は新規性・進歩性を欠く」との原告(請求人)の主張は,採用できないとするものである。 第3 争点に関する当事者の主張 1 原告の主張審決は,最初の原出願の明細書(特許請求の範囲及び図面を含む意味に用いる。)【0005】,【0006】及び【0009】の記載を根拠に,最初の原出願には,窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料により前記発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,発光ダイオードの視感度を良くすることを内容とする発明が開示されているということができると判断している。 しかし,最初の原出願の明細書【0005】,【0006】及び【0009】には,従来の技術であるところの一般式GaXAl1-XN(ただしXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体,あるいは,発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体だけが記載されているもので,最初の原出願の明細書には,組成や発光波長について何らの限定もない「窒化ガリウム系化合物半導体」は記載されていないから,審決の上記判断は誤りである。 審決は,最初の原出願の明細書【請求項1】や【0008】に「一般式GaXAl1-XN(但し0≦X≦1)」で表される窒化ガリウム系化合物半導体(【請求項1】),あるいは,「G 記判断は誤りである。 審決は,最初の原出願の明細書【請求項1】や【0008】に「一般式GaXAl1-XN(但し0≦X≦1)」で表される窒化ガリウム系化合物半導体(【請求項1】),あるいは,「GaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子」(【0008】)等の記載があるとしても,「窒化ガリウム系化合物半導体」はこれらの組成に限定されないとしている。 しかし,このような審決の判断が成り立つためには,最初の原出願の明細書の【請求項1】や【0008】以外の箇所に,組成等につき何らの限定もない「窒化ガリウム系化合物半導体」が記載されていることが必要であるというべきであるが,最初の原出願の明細書には,【請求項1】や【0008】のみならず他の全ての部分に おいて,組成等につき何らの限定もない「窒化ガリウム系化合物半導体」は記載されていないから,審決の上記判断は,誤りである。 2 被告の反論本件出願時の技術常識に基づけば,最初の原出願の明細書には「GaxAl1-xN(但し0≦X≦1)」という特定の組成又は「発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある」という特定の発光波長に限定されない,青色の「窒化ガリウム系化合物半導体」の視感度を改善する発明が記載されていることが明らかであるから,審決の判断には誤りがない。 すなわち,最初の原出願の明細書【0005】,【0006】,【0009】で用いられている「窒化ガリウム系化合物半導体」という用語は,窒素(N)とガリウム(Ga)を必須の元素とする化合物半導体を意味する語である。GaN(窒化ガリウム)を基本組成として,化学周期表でIIIA 族元素であるGaの一部を同じIIIA族元素である元素(代表的には,AlやIn)で置換した半導体が「窒化ガリウム系化合物半導体」であり,そ N(窒化ガリウム)を基本組成として,化学周期表でIIIA 族元素であるGaの一部を同じIIIA族元素である元素(代表的には,AlやIn)で置換した半導体が「窒化ガリウム系化合物半導体」であり,その代表的な例が,GaAlN(窒化アルミニウムガリウム),InGaN(窒化インジウムガリウム),InAlGaN(窒化インジウムアルミニウムガリウム)であることは当業者の常識に属する。したがって,審決が正しく認定し,また,【0005】,【0006】,【0009】の記載から明らかなとおり,最初の原出願には,「GaxAl1-xN(0≦X≦1)」に限定されない「窒化ガリウム系化合物半導体」について,窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加することにより,当該蛍光染料又は蛍光顔料により前記発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くすることを内容とする発明が開示されている。 「視感度」の意義及び青色発光の視感度が悪いことは,技術常識として知られている。最初の原出願の【0009】には,「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波長よりも長波長光を発光する。」と記載され,続いて, 窒化ガリウム系化合物半導体の波長が短波長であることが記載され,さらに「青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる」と記載されている。当業者であれば,このような記載により,最初の原出願が,青色発光を励起源としてそれよりも長波長の光を発光する構成を開示していると理解する。このため審決は,最初の原出願に開示された「窒化ガリウム系化合物半導体」は,青色等の短波長の光を発光することに意義があ 発光を励起源としてそれよりも長波長の光を発光する構成を開示していると理解する。このため審決は,最初の原出願に開示された「窒化ガリウム系化合物半導体」は,青色等の短波長の光を発光することに意義があるものとして把握でき,それ以上にその組成がどのようなものであり,また,その発光波長が具体的にどのような範囲にあるのかということを問うものではないと判断したのであるから,その判断には誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 最初の原出願に係る当初明細書には,次の記載がある(甲2)。 「【0005】ところで,現在,LEDとして実用化されているのは,赤外,赤,黄色,緑色発光のLEDであり,青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。 青色,紫外発光の発光素子はII-VI族のZnSe,IV-IV族のSiC,III-V族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ,最近,その中でも一般式がGaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体が,常温で,比較的優れた発光を示すことが発表され注目されている。 また,窒化ガリウム系化合物半導体を用いて,初めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理,60巻,2号,p163~p166,1991)。それによるとpn接合の窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は,主として430nm付近にあり,さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし,そのLEDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いという欠点がある。 【0006】本発明はこのような事情を鑑みなされたもので,その目的とするところは,発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウム系 化合物 感度が悪いという欠点がある。 【0006】本発明はこのような事情を鑑みなされたもので,その目的とするところは,発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウム系 化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし,またその輝度を向上させることにある。」「【0009】【発明の効果】蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を発光する蛍光顔料もあるが,それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに,短波長の光を長波長に変え,エネルギー効率がよい為,添加する蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点からも非常に好都合である。」 2 取消事由についての判断最初の原出願の当初明細書には,前記1のとおりの記載がある。同記載によれば,最初の原出願に記載の発明の技術的課題及び解決方法は,窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くする点にあると合理的に理解できる 又は蛍光顔料を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くする点にあると合理的に理解できる。最初の原出願の当初明細書には,「一般式GaXAl1-XN(但し0≦X≦1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」(【請求項1】),あるいは,「発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLED」(【0006】),「GaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子」(【0008】)等の記載もある。 しかし,これらの記載があったとしても,最初の原出願の当初明細書に接した当業 者は,前記のとおりの最初の原出願に記載の発明の技術的課題及び解決方法の趣旨に照らすならば,「窒化ガリウム系化合物半導体」において青色等の短波長の光を発光する点が,発明の解決課題及び解決方法に関連する共通の性質であると解されるから,上記組成や発光ピークの「窒化ガリウム系化合物半導体」のみに限定して理解することはないというべきである。 そうすると,最初の原出願に開示された「窒化ガリウム系化合物半導体」は,青色等の短波長の光を発光することに技術的意義があるものであって,「窒化ガリウム系化合物半導体」について,特定の組成であること(例えば,「一般式GaXAl1-XN(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」であること。)や,特定の発光波長であること(例えば,「発光ピークが430nm付近,および370nm付近」であること。)は,何ら問うものではないことになる。 以上によれば,この点に関する審決の判断は相当であり,原告の主張は採用の限りではない。 3 結論以上よりすると,審決 び370nm付近」であること。)は,何ら問うものではないことになる。 以上によれば,この点に関する審決の判断は相当であり,原告の主張は採用の限りではない。 3 結論以上よりすると,審決は相当であり,取消事由はない。原告はその他縷々主張するがいずれも採用の限りではない。よって原告の請求を棄却することとして主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官小田真治
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