- 1 -主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 浅草税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした平成16年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額2億4673万3649円及び納付すべき税額549万9600円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。 2 浅草税務署長が原告に対して平成20年3月14日付けでした平成17年分の所得税に係る更正処分(同年12月24日付け減額更正処分により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額マイナス7億7028万2066円を超える部分及び還付金の額に相当する税額6508万7940円を下回る部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(同年12月24日付け変更決定処分により一部取り消された後のもの)を取り消す。 3 浅草税務署長が原告に対して平成21年2月27日付けでした平成19年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額0円を超える部分及び還付金の額に相当する税額4616万7528円を下回る部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。 4 国税不服審判所長が原告に対して平成21年8月28日付けでした前3項の各処分に係る審査請求に対する裁決を取り消す。 第2 事案の概要- 2 - 1 本件は,自らの経営する病院において不正又は不当な診療報酬請求をしてこれを受領したとして,その返還債務を負うとともに,健康保険法等に基づき,不正請求に係る加算金を課された原告が,平成16年分,同17年分及び同19年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の申告において,上記返還債務及び上記加算金の額を,事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入するなどしたのに対し,浅草税務署長が,上 年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の申告において,上記返還債務及び上記加算金の額を,事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入するなどしたのに対し,浅草税務署長が,上記返還債務のうち現実に履行していない部分の金額及び上記加算金の金額を総収入金額から控除し,又は必要経費に算入することはできないなどとして,本件各年分につきそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたことから,原告が,上記各処分の取消しを求め,さらに,上記各処分に係る審査請求に対して国税不服審判所長がした裁決には手続上の瑕疵があるなどと主張して,同裁決の取消しを求める事案である。 2 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠により容易に認めることができる事実等は,その旨付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない。 (1) 不正又は不当な診療報酬請求による返還債務の存在ア原告は,北海道帯広市において,A病院(以下「本件病院」という。)を経営していたところ,北海道社会保険事務局及び北海道保健福祉部国民健康保険課は,平成17年3月23日及び同月24日,健康保険法78条,国民健康保険法45条の2等に基づく監査を行い,その結果,本件病院において,不正又は不当な診療報酬請求(以下,それぞれ「不正請求」又は- 3 -「不当請求」といい,これらを併せて「不正請求等」という。)が行われていたものと判断した。(甲3)イ北海道社会保険事務局は,平成17年6月30日付けで,本件病院に対し,「診療報酬の返還について」と題する文書を送付し,不正請求等に係る診療報酬の返還(以下,当該診療報酬に係る返還債務を「本件返還債務」という。)と返還書類の作成を指示した。上記文書には,本件返還債務について,①不正請求分の返還対象期間 書を送付し,不正請求等に係る診療報酬の返還(以下,当該診療報酬に係る返還債務を「本件返還債務」という。)と返還書類の作成を指示した。上記文書には,本件返還債務について,①不正請求分の返還対象期間は同13年2月から同17年2月までの間であること,②不当請求分の返還対象期間は同12年3月から同17年2月までの間であること,③返還同意書については,不正請求分と不当請求分とを区別してそれぞれ作成すること,④返還金額は各保険者から直接通知されること,⑤不正請求分には40%の加算金が賦課されることなどが記載されていた。(甲3)ウ(ア) 原告は,前記イの指示に従い,平成17年10月7日付けで,北海道社会保険事務局長及び北海道知事に対し,不正請求分について,返還の対象となる同13年2月診療分から同17年2月診療分までの診療報酬の金額を該当する保険者へ直接返還することに同意する旨の返還同意書を提出した。なお,不正請求分に係る返還すべき金額の合計額については,複数回の訂正を経て,同18年11月半ばの時点では9億8555万3733円であるとされ,同月17日,原告名で同17年10月7日付けの北海道社会保険事務局長及び北海道知事宛ての返還同意書が郵送された。(甲4,乙2)(イ) また,原告は,前記イの指示に従い,平成17年12月15日付け- 4 -で,北海道社会保険事務局長及び北海道知事に対し,不当請求分について,返還の対象となる同12年3月診療分から同17年2月診療分までの診療報酬の金額を該当する保険者へ直接返還することに同意する旨の返還同意書(以下,前記(ア)の各返還同意書と併せて「本件各返還同意書」という。)を提出した。なお,不当請求分に係る返還すべき金額の合計額は,2319万2138円であるとされた。(甲5,乙3)エ原告は,本件返還 前記(ア)の各返還同意書と併せて「本件各返還同意書」という。)を提出した。なお,不当請求分に係る返還すべき金額の合計額は,2319万2138円であるとされた。(甲5,乙3)エ原告は,本件返還債務について,平成17年10月以降,別紙1本件返還債務の返還表のとおり順次履行し,その履行した金額の同20年10月23日までの累計金額は,4165万6913円である。 (2) 本件病院の廃業及び営業譲渡原告は,平成17年9月20日をもって本件病院を廃業し,本件病院の勤務医であるBに対し,本件病院の営業譲渡を行い,その営業を引き継いだ。 (乙4,5)(3) 原告の本件各年分における本件返還債務の決算処理及び確定申告の状況原告は,本件各年分の所得税につき所得税法143条の青色申告の承認を受けていたところ,本件各年分について,以下のとおり,本件返還債務の決算処理及び確定申告を行った。 ア平成16年分(ア) 原告は,平成16年中における不正請求の金額を「社保返還金」8929万0480円及び「国保返還金」1億8330万3430円(合計2億7259万3910円)と計算し,当該金額を原告の同年分の総勘定元帳において,いずれも同年12月31日付けで収入金額勘定の借- 5 -方に記載することにより,同年分の収入金額から減算した。(乙7)(イ) 原告は,浅草税務署長に対し,平成16年分の所得税について,事業所得の金額を7679万9225円,総所得金額を2億4673万3649円,納付すべき税額を△5794万円(納付すべき税額の前の「△」は還付金の額に相当する税額を表す。以下同じ。)とする,同17年3月15日付け確定申告書(以下「平成16年分確定申告書」という。)を提出した。(甲2)イ平成17年分(ア) 原告は,平成17年中における不正 当する税額を表す。以下同じ。)とする,同17年3月15日付け確定申告書(以下「平成16年分確定申告書」という。)を提出した。(甲2)イ平成17年分(ア) 原告は,平成17年中における不正請求の金額を4315万5316円と計算するとともに,同16年分における不正請求の金額を553万0454円過大に計算したとして,同17年分の総勘定元帳において,いずれも同年12月31日付けで,①「平成17年分」4315万5316円を,収入金額勘定の借方に記載することにより,同17年分の収入金額から減算するとともに,②「平成16年分調整」553万0454円を,収入金額勘定の貸方に記載することにより,同17年分の収入金額に加算し,差引き3762万4862円を同年分の収入金額から減算した。(甲6,乙8)(イ) 原告は,①不正請求の金額を,平成13年中は1億2148万8356円,同14年中は2億6017万7620円,同15年中は2億9366万7928円とそれぞれ計算するとともに,②同13年分から同17年分の不正請求の金額に40%の割合で加算される加算金(以下「本件加算金」という。)の金額を3億9422万1070円と計算し,③- 6 -同13年分から同17年分の不当請求の金額については,2134万4935円と計算した。 原告は,平成17年分の総勘定元帳において,いずれも同年12月31日付けで,上記各金額(合計10億9089万9909円)を前期損益修正損勘定の借方に記載することにより,同年分の必要経費に加算した。(甲6,乙9)(ウ) 原告は,浅草税務署長に対し,平成17年分の所得税について,本件病院について9億7581万0100円の損失が生じ,不動産所得の金額6012万7994円,給与所得の金額1億1230万円,雑所得の金額123万1900 署長に対し,平成17年分の所得税について,本件病院について9億7581万0100円の損失が生じ,不動産所得の金額6012万7994円,給与所得の金額1億1230万円,雑所得の金額123万1900円及び総合課税の短期譲渡所得の金額1751万2801円と損益通算しても控除しきれない純損失の金額が7億8463万7405円生じたものとして当該金額を翌年以後に繰り越す旨の,平成18年3月15日付け確定申告書(以下「平成17年分確定申告書」という。)を提出した。(甲7)ウ平成19年分原告は,浅草税務署長に対し,平成19年分の所得税について,前記イ(ウ)の同17年分において生じた純損失の金額で同18年分までに引ききれなかった損失額6億5124万2495円のうち1億0884万4633円を同19年分において繰越控除することにより,同年分の課税総所得金額を0円とする旨の,同20年3月15日付け確定申告書(以下「平成19年分確定申告書」という。)を提出した。(乙10)(4) 更正処分等の経緯- 7 -原告の本件各年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分,原告による更正の請求とこれに基づく減額更正処分,原告の異議申立てとこれに対する浅草税務署長の決定並びに原告の審査請求とこれに対する国税不服審判所長の裁決等の経緯及びその内容は,別紙2のとおりである(以下,本件各年分の所得税に係る各更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ「平成16年分更正処分」,「平成16年分賦課決定処分」等という(ただし,平成17年分更正処分及び平成17年分賦課決定処分については,平成20年12月24日付け減額更正処分及び同日付け変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のものをいう。)。また,本件各年分の各更正処分を併せて「本件各 び平成17年分賦課決定処分については,平成20年12月24日付け減額更正処分及び同日付け変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のものをいう。)。また,本件各年分の各更正処分を併せて「本件各更正処分」と,本件各年分の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」とそれぞれいい,本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。さらに,本件各処分に係る原告の審査請求に対する国税不服審判所長の裁決を「本件裁決」という。)。(甲8から12まで,乙1)(5) 本件訴えの提起原告は,平成21年12月22日,本件各処分及び本件裁決の各取消しを求める本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実) 3 争点(1) 本件各処分の適法性についてア本件返還債務のうちいまだ現実に履行していない部分(以下「本件未履行債務」という。)の金額を,事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入することの可否- 8 -イ本件加算金の金額を,事業所得の金額の計算上,必要経費に算入することの可否(2) 本件裁決の適法性について本件裁決に理由不備の違法はあるか。また,本件裁決に先立つ審査請求手続(以下「本件審査請求手続」という。)に違法はあるか。 4 当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件各処分の適法性)について(被告の主張)ア本件未履行債務の金額を,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入することの可否について(ア) 所得税法は,法律上の根拠のない違法な所得であってもそれを課税の対象とすることを前提とした規定を設けており,そのような所得は,違法な行為により生じたものであることや法律上の根拠がないことを理由として課税の対象とならないものではない。 原告が各保険者に診療報酬の不正請求等をする 提とした規定を設けており,そのような所得は,違法な行為により生じたものであることや法律上の根拠がないことを理由として課税の対象とならないものではない。 原告が各保険者に診療報酬の不正請求等をすることによって得られた診療報酬は,法律上の根拠のない利得であり,いずれ各保険者に返還すべきものであるが,当該利得は,原告が請求した時点でこれに対応する金額がほぼ確実に支払われることが見込まれ,原告の管理支配下に入って原告自身がそれを享受していると認められる以上,当該所得を課税の対象とすべきことになる。よって,本件未履行債務について,収入金額から控除することはできない。 (イ) 本件返還債務は,原告が法律上の原因なく受け取った収入を返還す- 9 -べき債務であり,返還の対象となる収入は無効な行為によって生じた経済的成果であるから,当該経済的成果がその行為が無効であることに基因して失われた場合には,所得税法施行令141条3号の事由に該当し,所得税法51条2項に従って,その失われたことにより生じた損失の金額がその損失の生じた日の属する年分の必要経費に算入されることとなる。ここにいう損失とは,無効な行為によって生じた経済的成果が失われたことにより生じた損失であり,現実に経済的成果が失われたことを指していると解される。 すなわち,所得税法51条2項,同法施行令141条3号に規定する損失の必要経費算入時期は,無効な行為によって生じた経済的成果を現実に返還した時であり,原告が各保険者に対して現実に本件返還債務を履行した場合に,その返還金額がその返還した日の属する年分の必要経費に算入されることとなる。よって,本件未履行債務について,必要経費に算入することはできない。 (ウ) なお,原告が事業を廃止した後に現実に本件返還債務を履行した場合には,所得税 する年分の必要経費に算入されることとなる。よって,本件未履行債務について,必要経費に算入することはできない。 (ウ) なお,原告が事業を廃止した後に現実に本件返還債務を履行した場合には,所得税法63条,同法施行令179条に従い,当該履行が平成17年分の所得税の確定申告までに行われたのであれば同年分の必要経費に算入されるが,当該履行がそれ以降に行われたときや,返還金額を必要経費に算入しても同年分の総所得金額等から控除しきれないときには,その履行した日の翌日から2か月以内に同年分又は同16年分の所得税について更正の請求をすることができる。そして,原告は,これに従い,本件返還債務の履行状況に応じて,同17年分の所得税の更正の- 10 -請求を4回にわたって行い,減額更正処分を受けている。 (エ) 以上のとおり,本件返還債務について,原告がそれを各保険者に対して実際に返還した年分の必要経費に算入すべきであるとしてされた平成16年分更正処分及び平成17年分更正処分に違法はない。そして,平成19年分に繰り越される純損失は生じていないから,同年分の純損失の繰越控除を0円としてされた平成19年分更正処分にも違法はない。 イ本件加算金の金額を必要経費に算入することの可否について(ア) 健康保険法58条3項,国民健康保険法65条3項等の規定に基づく加算金(以下「加算金」という。)は,医療機関の保険診療請求の適正化を図るとともに,仮に医療機関が不正請求等を行った場合に生じる経済的損失に係る遅延利息等の損害の賠償を当該経済的損失に対して一定の割合で課すこととしたものであると解され,損害の賠償たる法的性質を有している。 本件加算金は,原告が偽りその他不正の行為により違法に受給した診療報酬を基礎として課された損害賠償金であるから,所得税法45条 すこととしたものであると解され,損害の賠償たる法的性質を有している。 本件加算金は,原告が偽りその他不正の行為により違法に受給した診療報酬を基礎として課された損害賠償金であるから,所得税法45条1項7号,同法施行令98条の2(平成21年政令第104号による改正前のもの。以下同じ。)にいう故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償金又はそれに類するものに該当し,事業所得の金額の計算上,必要経費に算入することはできない。 よって,本件加算金について必要経費に算入することができないことを理由としてされた平成17年分更正処分に違法はない。 - 11 -(イ) なお,浅草税務署長は,平成17年分更正処分において,本件加算金が過料に該当することを処分の理由としていたものであるが,処分の同一性は,処分によって確定された税額の同一性によってとらえられ(総額主義),処分理由は攻撃防御方法にすぎないから,被告(課税庁)は,処分時の処分理由と異なる処分理由を主張することも許される。 税務署長は,青色申告の承認を受けている居住者の総所得金額の更正をする場合には,その更正通知書に更正の理由を付記しなければならないが(所得税法155条2項),浅草税務署長は,平成17年分更正処分の更正通知書において,本件加算金につき,原告が作成した帳簿書類の記載内容自体を否定することを理由として必要経費に算入できないとしたものではなく,根拠規定は異なるものの,結局のところ本件加算金が必要経費に算入されないことを明確に記載しているから,本件訴訟において,被告が平成17年分更正処分における処分理由と異なる処分理由を主張することは,同項の趣旨を逸脱するものではない。 ウ本件各処分の適法性について(ア) 原告の本件各年分の納付すべき税額は,別紙3のと が平成17年分更正処分における処分理由と異なる処分理由を主張することは,同項の趣旨を逸脱するものではない。 ウ本件各処分の適法性について(ア) 原告の本件各年分の納付すべき税額は,別紙3のとおりであるところ,本件各更正処分における納付すべき税額は,いずれもこれと同額であるから,本件各更正処分はいずれも適法である。 (イ) また,本件各更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに,本件各更正処分より前における税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものはない。 - 12 -本件各年分において原告に課されるべき過少申告加算税の額は,別紙4のとおりであるところ,これらは,いずれも本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額(平成16年分につき1072万6000円,同17年分につき1705万2500円,同19年分につき600万9500円)と同額又はこれを上回るから,本件各賦課決定処分はいずれも適法である。 (原告の主張)ア本件未履行債務の金額を,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入することの可否について(ア) 所得税法37条1項は,その年分の事業所得の金額の計算上算入すべき必要経費の額は,その年において債務の確定した金額としており,債務確定主義を採っているところ,債務確定主義は,収入計算における権利確定主義あるいは発生主義に対応する税法上の重要な基本概念である。 所得税法51条2項は,その事業の遂行上生じた事由により生じた損失の金額(資産損失)についても必要経費に算入できることを定め,これを受けて,同法施行令141条は,資産損失として必要経費に算入する場合を定めているところ,これらが債務確定主義と対立する現金主義を定めたものとして取り扱われるためには,明文 入できることを定め,これを受けて,同法施行令141条は,資産損失として必要経費に算入する場合を定めているところ,これらが債務確定主義と対立する現金主義を定めたものとして取り扱われるためには,明文で債務確定主義を排除するなどの形式を採っているとともに,実質的にも,現金主義を特別に採用しなければならない合理的な説明が必要であるが,上記各規定が債務確定主義を排除して現金主義を採ったとは解されない。 - 13 -所得税法施行令141条3号にいう経済的成果が失われることとは,それまで正当な権利行使の結果として得ていたはずの経済的成果が無効の法理によって一転して不当利得であるとされ,不当利得返還義務が生じることをいうのであり,現実に返還したことを要しない。このことは,同号が,取消しについては「その事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消されたこと」と規定し,現実の返還がされることを要求していないことや,同号と共通する文言を使用した国税通則法71条1項2号等の諸規定がいずれも債務確定主義に則っていることからも明らかである。 (イ) 本件返還債務は,平成16年分については同年12月末日までに,同17年分については同年12月末日までに,それぞれ原告の債務として確定し,又はその原因となる事実が発生し,その返還金額についても合理的に算定されていた。よって,本件返還債務は,いまだ現実に履行されていない部分(本件未履行債務)も含めて,債務が確定した額について,事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入すべきものである。 なお,本件返還債務の確定時期が,原告が本件各返還同意書を提出した時,又は各保険者から返還請求がされた時とされるとしても,これらは,いずれも原告が事業を廃止した平成17年9月20日の後において必 なお,本件返還債務の確定時期が,原告が本件各返還同意書を提出した時,又は各保険者から返還請求がされた時とされるとしても,これらは,いずれも原告が事業を廃止した平成17年9月20日の後において必要経費に算入すべき金額が生じたこととなり,所得税法63条により,事業を廃止した平成17年分又はその前年である同16年分の必要経費に算入可能である。 - 14 -イ本件加算金の金額を必要経費に算入することの可否について(ア) 浅草税務署長は,本件加算金は所得税法45条1項6号の「過料」に該当するとして平成17年分更正処分をしたが,原告の異議申立てに対する決定においては,これが誤りであることを自認しているから,平成17年分更正処分は取り消されるべきである。 (イ) 被告が主張するように,加算金が損害賠償金に該当するのであれば,その金額は当該不正請求に伴う損害金を個々に算定し,同損害額を賠償するという手続になるはずであるが,加算金の割合は一律に40%とされており,しかも,この割合は,従前は10%とされていたところ,悪質な不正請求事件が起こったことを背景として,保険請求の一層の適正化を図るため,国税通則法の無申告加算税の割合等を勘案して,法改正により,それまでの4倍とされたものである。 すなわち,加算金は,診療報酬の不正請求を抑止するという行政目的で設けられた行政制裁にほかならず,他人に生じた損害を賠償するという損害賠償の法理に基づくものではない。 よって,本件加算金が「損害賠償金」に当たり必要経費に算入できないとすることは誤りである。 (2) 争点(2)(本件裁決の適法性)について(原告の主張)ア本件審査請求手続における原告の主張の1つは,所得税法51条2項及び同法施行令141条の各規定が,同法37条1項で定める債務確定主義 争点(2)(本件裁決の適法性)について(原告の主張)ア本件審査請求手続における原告の主張の1つは,所得税法51条2項及び同法施行令141条の各規定が,同法37条1項で定める債務確定主義に真正面から対立する現金主義を定めたものとして取り扱われるために- 15 -は,この損失の計上認識基準に関して別段の定めがあることが必要であり,その際,「別段の定めがある」というためには,債務確定主義が税法上の重要な基本原理である以上,明文でこれを排除し,又は規定上明らかに矛盾するような規定の仕方等の形式を採っているとともに,実質的にも,既に近世以降もはや採用されていない現金主義を特別に採用しなければならない合理的な説明が必要であると考えるというものである。 しかし,国税不服審判所長は,この問題に真正面から全く答えずに,原告の主張を「所得税法51条2項は同法37条1項にいう『別段の定め』に該当しない」との形に曲げて要約し,「所得税法51条2項は別段の定めに該当する」と述べるだけで,原告の主張に対し理由を付さずに審査請求を棄却する本件裁決をしたもので,理由不備の違法がある。 イまた,本件裁決は,本件審査請求手続において争点とされず,話題にさえされていなかった「担税力」を唯一の理由として,原告の審査請求を棄却したが,原告は,これについて的確な攻撃防御手段を講ずる機会を与えられることなく不意打ち的に本件裁決をされたのであり,これは,審査請求手続における手続保障原則に反し,違法である。 (被告の主張)ア裁決書に付記すべき理由の程度は,審査請求人の不服の事由に対応して,その結論に到達した過程が明らかとなっていれば足りると解されるところ,国税不服審判所長は,本件裁決において,審査請求人である原告の主張を整理するとともに,事業所得に対する課税 不服の事由に対応して,その結論に到達した過程が明らかとなっていれば足りると解されるところ,国税不服審判所長は,本件裁決において,審査請求人である原告の主張を整理するとともに,事業所得に対する課税は納税者の担税力に着目してされるものであるところ,担税力が失われるまでは損失が生じたという- 16 -ことはできないことから,所得税法51条2項は,同法37条1項の例外として定められたものであって,同項の「別段の定め」に該当し,また,同法施行令141条3号の規定する「経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ」たとは,それが現実に返還されたときと解するのが相当であるとの法令解釈を示して原告の主張を排斥した上で,上記法令解釈を前提として,関係資料等により認定した事実を当てはめて結論を示したものであり,本件裁決に理由不備の違法はない。 イ審査請求手続における審理不尽とは,民事訴訟における場合と同様,担当官が具体的事案の解決に必要な事実上又は法律上の争点につき当然にすべき調査又は審理を尽くさず,その結果,裁決の理由に不備又は食違いを来し,若しくはこのことが釈明義務違反と評価できることをいい,審査請求手続において,処分の要件事実に係る事実上又は法律上の争点について,調査及び審理が的確にされていれば,審理不尽の違法があるということにはならない。 国税不服審判所長は,本件裁決において,所得税法51条2項が同法37条1項に規定する「別段の定め」に該当するとの解釈が誤りであるとする原告の主張に関する判断をする際,同法51条及び同法施行令141条3号の法令解釈を行う中で「担税力」という言葉を用いたにすぎないから,審理不尽の違法はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件各処分の適法性)について(1) 争点(1)ア(本件未履行債 号の法令解釈を行う中で「担税力」という言葉を用いたにすぎないから,審理不尽の違法はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件各処分の適法性)について(1) 争点(1)ア(本件未履行債務の金額を,総収入金額から控除し,又は必要- 17 -経費に算入することの可否)についてア原告は,平成16年分及び同17年分の各所得税の申告において,同16年分並びに同17年1月分及び同年2月分の診療報酬のうち不正請求等に係る部分の金額を,事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除しているところ,本件訴訟においても,上記の額について総収入金額から控除することができる旨主張するものと解されるから,まずこれについて検討する。 (ア) 所得税法36条1項は,「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(括弧内省略)とする。」と規定しているところ,ここにいう「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」とは,その収入の基因となった行為が適法であるか否かを問わないものとして取り扱われている(所得税基本通達36-1)。この取扱いは,課税所得は専ら経済的に,又は実質的に把握すべきものであり,その原因となる行為が有効なものか無効なものか等には関係なく,現実にその利得を支配管理し,自己のためにそれを享受して,その担税力を増加させている以上は,担税力に即した公平な税負担の配分という見地から,課税の対象とすべきであるとの考え方によるものと解される。すなわち,税法の見地においては,課税の原因となった行為が,厳密な法令の解釈適用の見地から客観的評価において不適法又は無効とされるかどうかは問題ではなく,当該行為が関係当事者の間で有効なものとして扱 なわち,税法の見地においては,課税の原因となった行為が,厳密な法令の解釈適用の見地から客観的評価において不適法又は無効とされるかどうかは問題ではなく,当該行為が関係当事者の間で有効なものとして扱われ,これにより,現実に課税の要件事実が満- 18 -たされていると認められる場合である限り,当該行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何ら妨げられないものである(最高裁昭和33年(オ)第311号同38年10月29日第三小法廷判決・集民68号529頁参照)。 そして,所得税法51条2項,同法施行令141条3号は,事業所得等の金額のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたことにより生じた損失の金額は,その損失の生じた日の属する年分の事業所得等の金額の計算上,必要経費に算入する旨規定しているところ,これは,無効な行為により生じた経済的成果も課税の対象とされることを前提に,後日それが失われた場合には,必要経費への算入により,これに対応した税額の調整を行うこととしているものであるということができる。 (イ) 弁論の全趣旨によれば,原告は,遅くとも平成12年以降,不正請求等に係る部分とそれ以外の部分とを外形上区別することなく診療報酬を計上した上でこれを請求し,原告と各保険者との間では,これらはすべて有効なものとして扱われ,原告は,これに対応する金額を,不正請求等に係る部分も含めて,後日,定期的に受け取っており,同16年1月分から同17年2月分までの診療報酬として計上し請求したものについても,不正請求等に係る部分を含めて現に後日その支払を受けたことが認められ,これらは,北海道社会保険事務局等により不正請求等の指摘がされなければ,事実上返還を免れ得たものであったと考えられる。 いても,不正請求等に係る部分を含めて現に後日その支払を受けたことが認められ,これらは,北海道社会保険事務局等により不正請求等の指摘がされなければ,事実上返還を免れ得たものであったと考えられる。 したがって,原告が平成16年分並びに同17年1月分及び同年2月- 19 -分の診療報酬として請求した金額のうち不正請求等に係る部分であるとする金額についても,原告は,現実にその利得を支配管理し,自己のためにそれを享受して,その担税力を増加させたといえるから,原告の上記各年分の所得税における事業所得の計算上,総収入金額に計上すべきもので,これを控除することはできないというべきであり,ただ,後日これに係る経済的成果が失われた場合には,必要経費に算入することができることになるにとどまるものと解するのが相当である。 (ウ) よって,平成16年分及び同17年分の診療報酬として請求したもののうち不正請求等に係る部分の金額を,上記各年分の事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除できる旨の原告の主張は採用できない。 イ次に,本件返還債務の金額を,本件未履行債務の金額も含めて必要経費に算入することができるか,検討する。 (ア) 前記のとおり,所得税法51条2項,同法施行令141条3号は,事業所得等の金額のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたことにより生じた損失の金額は,その損失の生じた日の属する年分の事業所得等の金額の計算上,必要経費に算入する旨規定しているところ,原告は,上記各規定は債務確定主義を採っており,本件返還債務を現実に履行しなくても,これが債務として確定したことをもって,その経済的成果が失われたとしてこれを必要経費に算入できる旨主張し,その根拠として,同法37条1項が債務確定主 採っており,本件返還債務を現実に履行しなくても,これが債務として確定したことをもって,その経済的成果が失われたとしてこれを必要経費に算入できる旨主張し,その根拠として,同法37条1項が債務確定主義を採用していることや,債務確定主義が税法上重要な基本概念であることなどを挙げる。 - 20 -しかし,本件未履行債務の金額を必要経費に算入できるか否かは,無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたことにより損失が生じたといえるのはどの時点であるかという,専ら所得税法51条2項及び同法施行令141条3号の解釈の問題であるというべきところ,上記各規定は,同法37条1項にいう「別段の定め」であると解されるから,同法37条1項が債務確定主義を採っているとしても,そのことから当然に,同法51条2項及び同法施行令141条3号を債務確定主義の観点から解釈すべきことにはならないのであり,飽くまでも,上記各規定の文言等を基に,無効な行為があった場合の損失の発生時期をどのようにとらえることが相当であるかという観点から解釈すべきである。 (イ) 前記ア(ア)のとおり,無効な行為により生じた所得であっても,納税者が現実にその利得を支配管理し,自己のためにそれを享受して,その担税力を増加させている以上は,課税の対象とされるのであるが,本来,無効な行為は,当事者の意思表示等を必要とせず当然にその効力が当初から否定されるものであるから,取消しの場合等と異なり,その行為が無効であることによる利得の返還義務等の発生時期を観念することは困難であり,また,その行為が無効であることが当事者において認識されるに至る経緯や態様も種々あり得るところであって,これによる損失の発生時期を「債務の確定」という基準で律することは,適切でないものといわ あり,また,その行為が無効であることが当事者において認識されるに至る経緯や態様も種々あり得るところであって,これによる損失の発生時期を「債務の確定」という基準で律することは,適切でないものといわざるを得ない。そこで,所得税法施行令141条3号は,無効な行為があった場合において,その行為が無効であることに基因して- 21 -損失が生じると認められる明確なメルクマールの1つである,利得の返還義務等が現実に履行されたことをもって,必要経費に算入できる損失の発生の要件としたものと考えられるのであり,このことを,「無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ」たとの文言で表したものと解するのが相当である。 (ウ) 本件において,原告は本件各返還同意書を提出するなどしており,他方各保険者からは原告に対する返還請求が行われているのであるから,原告が本件返還債務を負っていることは,当事者間において既に確認されているものといえるのであるが,このことのみで,原告が診療報酬の不正請求等をしたことにより生じた経済的成果が失われたということはできないのであり,原告が本件返還債務を現実に履行した場合に初めて,その部分についてその経済的成果が失われたものとして,その履行した日の属する年分の事業所得等の金額の計算上,必要経費に算入することができるものというべきである。 (エ) よって,本件返還債務の金額を,本件未履行債務の金額も含めて必要経費に算入することができる旨の原告の主張は,採用できない。 (2) 争点(1)イ(本件加算金の金額を必要経費に算入することの可否)についてア処分理由の差替えの可否について(ア) 甲9によれば,浅草税務署長は,平成17年分更正処分に係る更正通知書において,本件加算金が所得税法45条1項6 必要経費に算入することの可否)についてア処分理由の差替えの可否について(ア) 甲9によれば,浅草税務署長は,平成17年分更正処分に係る更正通知書において,本件加算金が所得税法45条1項6号の過料に該当することから,必要経費に算入できない旨の記載をしていたことが認めら- 22 -れるところ,本件訴訟において,被告は,本件加算金が同項7号,同法施行令98条の2にいう故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償金又はそれに類するものに該当することを理由に,必要経費に算入できない旨主張している。 (イ) これについて,原告は,このような処分理由の差替えは許されない旨主張するものと解される。 しかし,課税処分の取消訴訟における実体上の審判の対象は,当該課税処分によって確定された税額の適否であり,課税処分における税務署長の法律上の根拠に関する判断等に誤りがあっても,これにより確定された税額が総額において租税法規により客観的に定まる税額を上回らなければ,当該課税処分は適法な処分というべきものである(最高裁平成2年(行ツ)第155号同4年2月18日第三小法廷判決・民集46巻2号77頁参照)。したがって,課税処分の取消訴訟における審判の対象は,原則として,課税処分において税務署長が示した処分理由により制約を受けることはないということができる。 そして,浅草税務署長が,平成17年分更正処分において,本件加算金は所得税法45条1項6号の過料に該当するとしていたものを,被告が,本件訴訟において,同項7号,同法施行令98条の2にいう故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償金又はそれに類するものに該当するものと主張することは,本件加算金が必要経費に算入できないことの法律上の根拠に関する処分理由を差し う故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償金又はそれに類するものに該当するものと主張することは,本件加算金が必要経費に算入できないことの法律上の根拠に関する処分理由を差し替えるものにすぎないところ,このような処分理由の差替えを許したとしても,- 23 -本件加算金は必要経費に算入することができると主張して平成17年分更正処分を争う原告に,格別の不利益を与えるものではなく,また,青色申告の承認を受けている居住者の総所得金額の更正をする場合にはその更正通知書に更正の理由を付記しなければならないとした所得税法155条2項の趣旨を没却することにもならないというべきである(最高裁昭和52年(行ツ)第62号同56年7月14日第三小法廷判決・民集35巻5号901頁参照)。 (ウ) よって,被告が,本件訴訟において,本件加算金は所得税法45条1項7号,同法施行令98条の2にいう故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償金又はそれに類するものに該当することを理由として,平成17年分更正処分が適法である旨主張することは許されるものと解するのが相当である。 イ本件加算金が損害賠償金に当たるか否かについて(ア) 原告は,加算金の額が不正請求に係る返還すべき金額の40%相当額と一律に定められており,また,この割合は,悪質な不正請求事件が起こったことを背景として,法改正によりそれまでの4倍とされたものであることなどからすれば,加算金は,診療報酬の不正請求を抑止するという行政目的で設けられた行政制裁にほかならない旨主張するところ,確かに,加算金が上記のような行政上の制裁としての性格を有していることは否定できない。 しかし,一方で,加算金は,悪意の受益者の受けた利益及びその法定利息の支払と損害賠償義務を 旨主張するところ,確かに,加算金が上記のような行政上の制裁としての性格を有していることは否定できない。 しかし,一方で,加算金は,悪意の受益者の受けた利益及びその法定利息の支払と損害賠償義務を定めた民法704条の特則としてその支払- 24 -が求められるものであると解されるのであり,その趣旨は,医療機関の保険診療請求の適正化を図るとともに,医療機関が不正請求等を行った場合に生じる経済的損失に係る遅延利息等の損害の賠償を当該経済的損失に対して一定の割合で課すこととしたものであると考えられるのであるから,加算金は,損害の賠償たる法的性質を有しているというべきであって,このことは,加算金が行政上の制裁としての性格を有していることと相容れないものではない。 (イ) そして,原告は,偽りその他不正の行為によって診療報酬の支払を受けたものとして,本件加算金を課されたのであるから,本件加算金は,所得税法45条1項7号,同法施行令98条の2にいう故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償金又はそれに類するものに該当するというべきである。 (ウ) よって,本件加算金の金額を必要経費に算入することはできず,これを理由としてされた平成17年分更正処分に違法はない。 (3) 以上のとおり,本件未履行債務の金額を,事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入することはできず,また,本件加算金の金額を必要経費に算入することもできないところ,原告の平成16年分及び同17年分の所得税に係る納付すべき税額に関する被告の主張(別紙3の(1)及び(2))のうち,上記以外の点については,原告もこれを争わず,また,上記主張に係る税額の計算の過程等にも特段不合理な点は見当たらないから,平成16年分更正処分及び平成17年分更正 別紙3の(1)及び(2))のうち,上記以外の点については,原告もこれを争わず,また,上記主張に係る税額の計算の過程等にも特段不合理な点は見当たらないから,平成16年分更正処分及び平成17年分更正処分はいずれも適法である。 - 25 -そして,これを前提とすれば,平成19年分に繰り越される純損失は生じないから,同年分の純損失の繰越控除は0円とすべきこととなるところ,原告の同年分の所得税に係る納付すべき税額に関する被告の主張(別紙3の(3))のうち,上記以外の点については,原告もこれを争わず,上記主張に係る税額の計算の過程等にも特段不合理な点は見当たらないから,平成19年分更正処分は適法である。 (4) さらに,原告が,本件未履行債務の金額又は本件加算金の金額を,事業所得の金額の計算上,総収入金額から控除し,又は必要経費に算入して平成16年分及び同17年分の所得税の申告をしたこと,並びに,これを前提に,純損失の繰越控除をして同19年分の所得税の申告をしたことにつき,国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められず,本件各年分において原告に課されるべき過少申告加算税の額は,別紙4のとおりであると認められるところ,これらは,いずれも本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額(平成16年分につき1072万6000円,同17年分につき1705万2500円,同19年分につき600万9500円)と同額又はこれを上回るから,本件各賦課決定処分はいずれも適法である。 (5) よって,本件各処分はいずれも適法である。 2 争点(2)(本件裁決の適法性)について(1) 甲12,乙1及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,本件審査請求手続において,本件返還債務については債務が確定した時点で必要経費として算入することが正しい考え方であり,浅草 適法性)について(1) 甲12,乙1及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,本件審査請求手続において,本件返還債務については債務が確定した時点で必要経費として算入することが正しい考え方であり,浅草税務署長が,異議決定において,所得税法51条2項は同法37条1項にいう「別段の定め」に該当するから債務- 26 -確定基準の規定は及ばないとし,また,同法施行令141条3号の規定により,その経済的成果が無効であることに基因して失われるのは現実に返還したときであるとしたことは,法的解釈を誤ったものである旨主張し,その根拠として,債務確定主義の意義やその税法上の重要性等について詳細に論じたこと,②これに対し,国税不服審判所長は,本件裁決において,同法51条2項及びこれを受けた同法施行令141条3号は,事業所得に対する課税は納税者の担税力に着目してされるものであるところ,当該所得が無効な行為により得られた利得であるときであっても,少なくともそれが現実に返還されるまでは担税力を有するものであり,その担税力が失われるまでは損失が生じたということはできないことから,同法37条1項の例外として定められたものであり,同項の「別段の定め」に該当し,そのような立法趣旨にかんがみれば,「経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われた」とは,それが現実に返還されたときと解するのが相当であり,この点に関する原告の主張は採用できないとの判断を示したことが認められる。 (2)ア裁決書に付記すべき理由は,審査請求人の不服の事由に対応して,その結論に到達した過程が明らかになるものでなければならず,また,その限度で足りるものと解するのが相当であり,その結論と直接の関係を有しない審査請求人の主張に対してまで,逐一その判断を明示的に記載しなければならないものではない になるものでなければならず,また,その限度で足りるものと解するのが相当であり,その結論と直接の関係を有しない審査請求人の主張に対してまで,逐一その判断を明示的に記載しなければならないものではないというべきである。 イ本件においては,前記(1)のとおり,国税不服審判所長は,本件裁決において,所得税法51条2項及び同法施行令141条3号の各規定の趣旨について説明するとともに,同号に規定する「経済的成果がその行為の無効- 27 -であることに基因して失われ」たとの文言の解釈を示した上で,本件返還債務については債務が確定した時点で必要経費として算入すべきであるとの原告の主張を排斥したものであり,その結論に到達した過程は明らかになっているということができる。 原告は,所得税法51条2項及び同法施行令141条3号の規定が現金主義を定めたものであるというためには,債務確定主義が税法上の重要な基本原理である以上,明文でこれを排除し,又は規定上明らかに矛盾するような規定の仕方等の形式を採っているとともに,実質的にも,既に近世以降もはや採用されていない現金主義を特別に採用しなければならない合理的な説明が必要であるとの本件審査請求手続における原告の主張について,国税不服審判所長がこれに対する明確な判断を示していないことをもって,本件裁決に理由不備の違法がある旨主張するものと解される。しかし,原告の本件審査請求手続における上記主張は,上記各規定の解釈の在り方に関する見解を述べたにすぎず,本件裁決の結論と直接の関係を有するものとはいえないから,国税不服審判所長が本件裁決においてこれに対する判断を明示的に記載しなかったとしても,理由不備の違法があるということはできない(なお,国税不服審判所長が原告の上記見解を採用しなかったことは,本件裁決の説示から明 長が本件裁決においてこれに対する判断を明示的に記載しなかったとしても,理由不備の違法があるということはできない(なお,国税不服審判所長が原告の上記見解を採用しなかったことは,本件裁決の説示から明らかである。)。 ウよって,本件裁決に理由不備の違法がある旨の原告の主張は採用できない。 (3) また,原告は,国税不服審判所長が原告の審査請求を棄却する理由として挙げた「担税力」に関して,本件審査請求手続において原告に的確な攻撃防- 28 -御手段を講ずる機会が与えられなかったことは,手続保障原則に反し,本件裁決は違法である旨主張するが,前記(1)のとおり,国税不服審判所長は,本件裁決において,所得税法51条2項及び同法施行令141条3号の解釈に関する説示の中で「担税力」との概念を用いたにすぎないのであり,これについて同所長が原告に対する釈明義務を負っていたものとも解されないから,原告の上記主張は採用できない。 (4) よって,本件裁決に原告が主張するような違法はなく,本件裁決は適法である。 3 以上のとおり,原告の請求にはいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官杉原則彦 裁判官波多江真史 裁判官財賀理行
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