平成17年1月28日宣告平成16年(わ)第402号判決要旨被告人甲被告人乙被告人丙 主文 被告人甲を禁錮1年6月に,被告人乙を禁錮1年6月に,被告人丙を禁錮1年8月にそれぞれ処する。 理由 (罪となるべき事実) 1 被告人らの業務者たる地位被告人甲は,A株式会社本店建築部工事課主任であり,同社が平成14年10月22日にB地区優良建築物建設組合から請け負った静岡県富士市a丁目b番cほか所在のB地区優良建築物等整備事業既存建築物除却工事を施工するに当たり,同社の現場代理人兼作業所長として,下請業者を指揮し,労働者及び一般人に対する危害の防止を含む同工事の実施を監督すべき業務に従事していたもの,被告人乙は,A株式会社から同工事を下請けした株式会社C支店工務部技術課員であり,平成15年2月26日から同社の現場代理人兼主任技術者として,下請業者を指揮し,労働者及び一般人に対する危害の防止を含む同工事の実施を監督すべき業務に従事していたもの,被告人丙は,株式会社Cから同工事を下請けした有限会社Dの取締役であり,同月10日から同社の主任技術者として,同社作業員及び下請業者を指揮し,労働者及び一般人に対する危害の防止を含む同工事の実施を監督するとともに,自ら重機オペレーターとして同工事を行う業務に従事していたものである。 2 注意義務の前提事実被告人らが同年3月13日に解体作業に当たっていた前記建築物5階部分の南西側の柱より外に張り出した部分(以下,単に「南西側外壁等部分」という。)は,2本の鉄骨柱によって鉄骨梁,コンクリートの6階床面及び外壁部分が支えられている,いわゆる片持ち梁構造である上,前記建築物はもともと4階部分までの鉄筋コンクリート造の建物の上に鉄骨造の5階部分以上を増築したものであり,上記2本の鉄 クリートの6階床面及び外壁部分が支えられている,いわゆる片持ち梁構造である上,前記建築物はもともと4階部分までの鉄筋コンクリート造の建物の上に鉄骨造の5階部分以上を増築したものであり,上記2本の鉄骨柱は,5階の床面において,鉄筋コンクリート造部分の柱頭にベースプレートを介してアンカーボルトで固定されているにすぎないものであったから,解体作業の進行により,南西側外壁等部分とその左右の構造部分との連結が断たれた上,その外壁の下部が鉄筋を含めて水平に切断された状態に至り,上記2本の鉄骨柱のアンカーボルトが,鉄骨梁,コンクリートの6階床面及び外壁部分等の荷重による引抜力に耐えられなくなって,2本の鉄骨柱もろとも同建築物の外側に向けて転倒崩落する危険性を有するに至っていたものである。 3 注意義務及び同違反(過失行為)したがって,被告人甲は,同乙及び同丙らに指示して,また,同乙は,同丙らに指示して,それぞれ南西側外壁等部分の転倒防止措置を講じさせるべき業務上の注意義務があったものであり,被告人丙は,同転倒防止措置を講じるべき業務上の注意義務があったものである。 しかるに,被告人甲及び同乙は,いずれもこれを怠り,上記措置を講じさせないまま被告人丙らに前記建築物の他の部分の解体作業を継続させ,被告人丙は,これを怠り,上記措置を講じないまま前記建築物の他の部分の解体作業に従事した。 4 因果関係及び結果被告人らの上記各過失の競合により,同日午後3時30分ころ,南西側外壁等部分を支える2本の鉄骨柱に鉄骨梁,コンクリートの6階床面及び外壁部分等の荷重による過大な引抜力が作用したことによって,約37トンの南西側外壁等部分(2本の鉄骨柱を含む)を前記建築物南側歩車道上に転倒崩落させ,同車道上で信号待ちのために停車していたア(当時40歳)運転の普通 よる過大な引抜力が作用したことによって,約37トンの南西側外壁等部分(2本の鉄骨柱を含む)を前記建築物南側歩車道上に転倒崩落させ,同車道上で信号待ちのために停車していたア(当時40歳)運転の普通乗用自動車及びイ運転の普通乗用自動車上に落下させるとともに,南西側外壁等部分付近で作業中の有限会社Dの作業者ウ及び同エを前記建築物南側歩車道上に墜落させ,よって,前記ア,同イ,同ウ及び同エを,別紙一覧表記載のとおり,胸部内臓破裂脱出等の傷害によりそれぞれ死亡させるとともに,前記ア運転車両の同乗者オ(当時43歳)に対し,入院を含む加療期間約204日間を要する左腓骨骨幹部骨折等の傷害を,前記イ運転車両の同乗者カに対し,入院加療約8日間を要する気道熱傷等の傷害をそれぞれ負わせた。 (法令の適用)被告人3名とも,以下の法令を適用罰条被害者6名に対する関係でそれぞれ刑法211条1項前段科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(犯情の最も重いイに対する業務上過失致死罪の刑で処断)刑種の選択禁錮刑を選択(量刑の理由)本件は,富士市のビルの解体工事作業中に,過って同ビル5階の南西側外壁等部分(2本の鉄骨柱を含む)を歩車道上に転倒崩落させ,死者4名及び負傷者2名を発生させた崩落事故である。 転倒崩落した上記ビル5階の南西側外壁等部分は,いわゆる片持ち梁構造で,もともと重心が柱の外側にあるものであったところ,周囲の建築物部分が先に解体除去されてこれらとの連結もなく独立して残存していた上,外壁部分下部のコンクリートと鉄筋が鉄筋3本だけを残して水平に切断されて,かなり不安定な状態にあり,また,柱の外側に張り出した梁上には6階床のコンクリートなども載っており,かなりの重量を有していた。しかも,上記ビルは,鉄筋コンクリート造の4階 けを残して水平に切断されて,かなり不安定な状態にあり,また,柱の外側に張り出した梁上には6階床のコンクリートなども載っており,かなりの重量を有していた。しかも,上記ビルは,鉄筋コンクリート造の4階建ての建築物の上に鉄骨造の5階以上を増築したものであって,南西側外壁等部分を支える鉄骨柱は,鉄筋コンクリート造部分の柱頭に5階床面の位置で,アンカーボルトによって継ぎ足されているだけのものであったのであり,そもそもその引抜力に対して極めて弱い構造であった。 しかして,本件解体工事の元請会社の現場代理人兼作業所長である被告人甲,第1次下請会社の現場代理人兼主任技術者である被告人乙,第1次下請会社から本件工事を請け負って実際に工事に当たっていた会社の主任技術者兼重機オペレーターであり,作業員を直接指揮して本件工事を遂行していた被告人丙においては,南西側外壁等部分を上記のような状態で放置するときは,これが建物の外側(歩車道側)に向かって転倒崩落することは容易に予見できたものである。そして,転倒崩落を防ぐことは,上記の鉄骨柱にロープの端を取り付け,そのロープのもう一方の端を重機や柱などに固定するとか,上部の梁をサポート材で支える等の方法をとることなどによって,極めて容易にできたことも明らかである。 しかるに,被告人甲及び同乙は,いずれも,上記のとおり重い責任を負った立場にありながら,しかも,上記のような危険性及び転倒防止措置の必要性を容易に認識し得たものであるのに,下請業者にこれを指示せず,また,被告人丙も,上記のような危険性及び転倒防止措置の必要性を容易に認識し得たものであるのに,転倒防止措置を講じないまま反対側の外壁部分の解体作業に従事するに至ったのであり,本件における被告人らの過失は,いずれも極めて重大である。 なお,本件解体工事は,契約当初 認識し得たものであるのに,転倒防止措置を講じないまま反対側の外壁部分の解体作業に従事するに至ったのであり,本件における被告人らの過失は,いずれも極めて重大である。 なお,本件解体工事は,契約当初から工期的にかなり厳しいものであったため,被告人らの関心が主として,いかに効率よく工事を進め工期を短縮するかの方に向かいがちになるような状況にあったことが認められ,そして,このこと自体は被告人らのみを責めることができない事情であるが,前記のとおり,5階南西側外壁等部分の転倒崩落の危険性は極めて容易に予見できるものであったこと,しかも,これが転倒崩落した場合には,本件のような極めて悲惨な結果になることもこれまた容易に予見できたこと,そして,いずれすぐに鉄骨柱にロープを繋いで引き倒すことになるのであるから,同外壁等部分が全く独立の状態で取り残される状態になる前,あるいは同外壁の鉄筋等を水平に切断する前の段階で,鉄骨柱と他の固定物とをロープで繋いで支えておくことは,作業の段取りから見ても決して困難ではないし,また,作業の進行を著しく阻害するようなものでないことにも照らすと,被告人らの過失に対する非難可能性の程度を判断するに当たっては,工期の点を多大に考慮することはできないというほかない。また,本件解体工事は,作業計画や作業手順に関する書面も形だけのものしか作成されず,実際の作業の基準となっていないこと,被告人丙については,本件解体工事の途中である平成15年2月10日から,被告人乙については,同月26日からそれぞれ前記の職務に従事したものであることなどの事情もあるけれども,一定の知識,経験を有する者が本件の現場を見れば,本件崩落部分の有する危険性を認識することは極めて容易であったところ,被告人丙は,建物解体の経験年数を20余年有するとともに,コンクリー あるけれども,一定の知識,経験を有する者が本件の現場を見れば,本件崩落部分の有する危険性を認識することは極めて容易であったところ,被告人丙は,建物解体の経験年数を20余年有するとともに,コンクリート造の工作物の解体等作業主任者等の資格を有している者であること,被告人乙も,10年以上前から建設会社等に勤務し,長年建築物解体工事の現場責任者を勤めてきた経験があり,その中には5階建てくらいのビルの解体工事も含まれていたものであって,しかも,同被告人は1級土木施工管理技士,コンクリート造の工作物の解体等作業主任者及び2級建築施工管理技士等の資格を有している者であることなどに照らせば,上記の点もそれ程斟酌すべき事情とはいえない。なお,被告人甲についても,前記のとおり,本件の現場代理人兼作業所長に任じられているものであることに加え,同被告人は,建築工学の専門学校を卒業して前記建設会社に勤務し,建築工事の施工管理業務に従事して約10年になるのであり,その間1級建築士及び1級建築施工管理技士の受験資格を得て合格に向けて勉強もしていること,さらに,本件工事の契約当初から関与しているものであることなどに徴すれば,本件崩落部分の有する危険性を容易に認識できたことが明らかである。 被告人らの過失により,4名もの尊い生命が失われたほか,2名が傷害(うち1名は重傷)を負ったもので,結果も非常に重大である。亡くなった被害者らの,突如として生命を奪われた無念さは計り知れないし,また,それぞれの遺族に及ぼした影響も相当深刻である。幸いにして一命を取り留めた2名の被害者の受けた肉体的,精神的苦痛も甚大である。特に,本件が,商店街の一角で発生し,本件解体工事と何の関わりもない,たまたま付近道路を通行していただけの者2名を死亡させ,2名に傷害を負わせている点は,社会に与え 肉体的,精神的苦痛も甚大である。特に,本件が,商店街の一角で発生し,本件解体工事と何の関わりもない,たまたま付近道路を通行していただけの者2名を死亡させ,2名に傷害を負わせている点は,社会に与えた衝撃が大きく,量刑上も重く見ざるを得ない。 以上によると,被告人らの刑事責任にはかなり重いものがある。 そうすると,前記のとおり,本件解体工事においては,当初から工期が十分に確保されているとはいえない状況にあり,そのため,準備不足の面もあったこと,作業計画や作業手順に関する書面も実際に工事において使用されるものは作成されていないこと,そのような中で,被告人らにおいて,安全確保よりも作業の効率性を重視しなければならないかのような雰囲気になってしまったという事情があったこと,被告人らは,いずれも自らの落ち度を認めて反省の情を示していること,被告人らの勤務する各会社において,全ての被害者との関係で示談を成立させていること,被告人らの上司や妻が被告人らのために証言していること,被告人らには,交通関係は不明であるが,その他の一般の前科前歴はないことなど,その有利に酌むべき事情を最大限に考慮しても,被告人らのいずれについても,刑の執行を猶予するのを相当と認めることはできないので,その刑責に応じて(被告人丙は,現場で作業員に対し具体的作業手順を指揮していたものであることから,他の被告人らよりやや刑責が重いといわざるを得ない。),主文掲記の各禁錮刑の実刑に処することとする。 (求刑被告人3名につきいずれも禁錮2年6月)平成17年1月28日静岡地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官竹花俊德 裁判官植村幹男裁判官多田尚史別紙一覧表氏名死因死亡日時及び場 所刑事第1部 裁判長裁判官竹花俊德 裁判官植村幹男裁判官多田尚史 別紙一覧表 氏名死因死亡日時及び場所 ア胸部内臓破裂脱出平成15年3月13日午後3時30分ころ,本件ビル南側歩車道上において死亡 イ頭蓋内出血同上 ウ胸腹部内臓破裂脱出同上 エ骨盤骨折等に伴う出血性ショックによる多臓器不全同月15日午前6時20分ころ,静岡県富士市d町e番地所在のE病院において死亡
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