令和7年6月24日宣告令和6年(わ)第254号 被告人に対する強盗致傷被告事件について、当裁判所は、検察官林正章及び同松本滋陽並びに国選弁護人小野裕貴(主任)及び同宮本聖也各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中340日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、通行人から金品を強奪しようと考え、令和6年2月12日午後6時47分頃から同日午後6時52分頃までの間、札幌市(住所省略)路上において、甲(当時23歳)に対し、その背後からその口を右手で塞ぎ、その首元付近に左手に持った包丁(刃体の長さ約19センチメートル)を突き付け、「大人しくして。」「いや、ちょっとお金がなくて。」などと言うなどの暴行脅迫を加え、その反抗を抑圧し、同人所有又は管理の現金約9150円在中の財布等17点(時価合計約1万2800円相当)を奪い、その際、前記暴行により、同人に全治約1週間を要する右手擦過傷の傷害を負わせた。 (事実認定の補足説明)第1 本件の争点被害者の甲が、判示の日時場所において、判示被害に遭ったことに争いはなく、争点は犯人と被告人の同一性である。当裁判所は、被告人が犯人であると認められ、判示事実は認定できると判断したので、以下、その理由を補足して説明する(なお、以下、年月日については、特段の記載がない限り令和6年2月12日を指す。)。 第2 争点に対する判断 1 関係証拠によれば、以下の事実が認められる(なお、本件犯行現場付近の位置関係は別紙1(添付省略)の図面のとおりであり、同図面中ⒶないしⓂと記した各地点(以下、それぞれ「Ⓐ地点」ないし「Ⓜ地点」という。)の所在地は、別紙2(添付省略)記載のとおりであ 犯行現場付近の位置関係は別紙1(添付省略)の図面のとおりであり、同図面中ⒶないしⓂと記した各地点(以下、それぞれ「Ⓐ地点」ないし「Ⓜ地点」という。)の所在地は、別紙2(添付省略)記載のとおりである。)。 ⑴ 防犯カメラ映像から認定できる被害者、犯人及び被告人の行動経路等ア被害者の行動経路被害者は、午後6時27分頃から午後6時43分10秒頃にかけて、別紙1(添付省略)記載の青色実線又は点線矢印(以下、「矢印」に言及するときは別紙1(添付省略)記載の矢印を指す。)のとおり、a店から出て、Ⓐ地点ないしⒹ地点を順に通過した後、更に東に直進した。被害者は、午後6時47分頃、Ⓔ地点であるb小学校北西側交差点(Ⓓ地点の青色実線矢印先端(以下「Ⓓ´地点」という。)から東に約260メートルの地点)を通過し、同小学校北側の道路を東に進んでいたところ、その付近で判示被害に遭った。 イ犯人の行動経路犯人は、午後6時47分9秒頃から、Ⓔ地点付近で被害者の後方近くを歩行し、被害者に接近した後、本件犯行に及んだ。その後、犯人は、午後6時52分頃から午後6時58分10秒頃にかけて、ピンク色矢印のとおり、Ⓕ地点、Ⓗ地点ないしⓁ地点を順に通過した。 なお、犯人は、Ⓙ地点において、頭を下の方に傾け、腕を手前に曲げた状態で、数秒間歩行し、防犯カメラの撮影範囲外に出た一方、被告人は、その約3秒後の午後6時56分2秒頃、スマートフォンで母親に電話をかけた。 ウ被告人の行動経路被告人は、午後6時31分頃から午後6時44分2秒頃にかけて、赤色矢印のとおり、a店から出て、Ⓐ地点ないしⒹ地点を順に通過した後、東に進み、Ⓔ地点の方へ向かった。 その後、被告人は、午後7時0分39秒頃、Ⓛ地点のピンク色矢印先端から東に 約210メートルの距離にあるⓂ地点 ら出て、Ⓐ地点ないしⒹ地点を順に通過した後、東に進み、Ⓔ地点の方へ向かった。 その後、被告人は、午後7時0分39秒頃、Ⓛ地点のピンク色矢印先端から東に 約210メートルの距離にあるⓂ地点から、別紙1(添付省略)記載のc店に入店し、午後7時25分頃、退店した。同店の防犯カメラ映像には、被告人が退店の際に同店出入口前の雪山の横を通過した直後に、雪山に何らかの光る物が現れ、滑り落ちる様子が映っている。 エ Ⓓ地点付近における被害者と被告人の位置関係被害者が午後6時42分18秒頃から午後6時43分10秒頃にかけて、Ⓓ地点の青色実線矢印を進行した後、被告人は午後6時43分21秒頃から午後6時44分2秒頃にかけて、Ⓓ地点の赤色矢印を進行した。この間、Ⓓ地点及び両矢印付近を映した防犯カメラ映像によれば、被害者の後方を歩行する人物や、被告人の前方及び後方を歩行する人物の存在は認められない。 ⑵ 防犯カメラ映像等から認定できる犯人及び被告人の容姿・着衣等ア Ⓛ地点付近を映した防犯カメラで撮影された犯人は、茶髪で、灰色コート(フード様のものあり)、黒色ズボン、長靴を着用していたほか、首から胸元にかけて黒色の衣料を着用しており、灰色コートは前面開口部上部のみを閉じた状態であった。 イ被告人は、身長168センチメートル、当時20歳の男性であり、a店及びc店において、前面開口部上部ボタンのみを留めた状態の灰色フード付きコート、黒色フードウォーマー、黒色ズボン、長靴を着用し、眼鏡やマスクは着けていなかった。 ⑶ 被害品の発見状況本件犯行当日、犯人が本件犯行後に通過したⒾ地点及びⒿ地点付近から、ポーチ、財布等の被害品の一部が発見されたほか、その2日後の令和6年2月14日、c店が入居するビルの敷地内及び同敷地付近の路上で、被害品の一部 日、犯人が本件犯行後に通過したⒾ地点及びⒿ地点付近から、ポーチ、財布等の被害品の一部が発見されたほか、その2日後の令和6年2月14日、c店が入居するビルの敷地内及び同敷地付近の路上で、被害品の一部である個人番号カード及び健康保険被保険者証が発見された。 ⑷ 足跡痕の対照・鑑定結果について本件犯行当日にⒺ地点付近から採取された足跡痕は、被告人が履いていた長靴と模様形状及び配列が同種であった一方、双方に共通する傷や摩耗等の固有性は見当 たらなかった。また、同日、被害品の財布が落ちていたⒿ地点付近から採取された足跡痕は、被告人が履いていた長靴との比較対照はできなかったが、同種の長靴によるものと認められた。 2 被害者証言について⑴ 被害者証言の要旨被害者は、犯人の特徴等について、20代前後の男性で、身長170センチメートル台、茶髪で、おそらく帽子はかぶっていなかった、暗い色のコートを着用し、眼鏡やマスクは着けていなかった、令和6年3月14日に警察官から男性16名の顔写真の写真帳を見せられた際には、顔が縦長のだ円で、目が一重で小さく、顔全体のパーツが若干中心に寄っているといった点で犯人に似ていると思った写真1枚(被告人のもの)を選んだ旨証言している。 ⑵ 信用性の検討ア被害者は、被害に遭った際、2回にわたって、各1分程度、1メートル程の至近距離で犯人と対面する機会があり、その後の捜査で必要になると考え、犯人の顔を意識的に観察していたというのであり、被害者の視力(左0.8、右0.1)は悪いとはいえないことや、その当時、周囲は薄暗かったものの、街灯等の明かりがあったこと(甲100)にも照らすと、観察条件に問題はないといえる。また、被害者は、警察官から写真帳(一重で小さい目をした人物を複数含むと認められる。) 時、周囲は薄暗かったものの、街灯等の明かりがあったこと(甲100)にも照らすと、観察条件に問題はないといえる。また、被害者は、警察官から写真帳(一重で小さい目をした人物を複数含むと認められる。)を示され、必ずしも写真帳の中に犯人がいるわけではない旨の説明を受けた上で、写真選別を行っており、選別手続に問題は見当たらない上、被害者は、具体的な根拠を示して犯人の写真を選別していることからすれば、被害者証言(前記選別結果を含む。以下同じ。)は、十分信用することができる。 イこれに対し、弁護人は、被害者は、事件直後には、犯人は20歳から30歳代で、身長175センチメートル程度、白色ニット帽をかぶっていた旨供述していたのであり、供述が変遷している旨指摘する。しかし、年齢や身長については、おおむね同旨の供述をしているといえるし、被害者は、犯人の顔や目を意識して観察 していたというのであるから、それ以外の犯人の着衣等について正確に記憶等していなかったとしても、被害者証言の核心部分の信用性に疑問が生ずるとはいえない。 3 認定事実に基づく検討⑴ 犯人と被告人の容姿・着衣等について信用できる被害者証言等によれば、犯人と被告人の顔貌はよく似ており、両者は年齢、身長及び着衣の点でも矛盾点がないと認められる。また、Ⓛ地点付近の防犯カメラ映像に映った犯人と、a店やc店の防犯カメラ映像に映った被告人の容姿・着衣等(前記1⑵)を比較すると、犯人の顔は鮮明ではないものの、いずれも茶髪で、フード様のものが付いた灰色のコートを、厳寒期にもかかわらず前面開口部上部のみを閉じた状態という特徴的な着方で着用している上、首から胸元にかけて黒い衣料を身に付け、黒いズボン、長靴を着用している点でも合致している一方、矛盾点はなく、両者の容姿・着衣等は全体的によく 上部のみを閉じた状態という特徴的な着方で着用している上、首から胸元にかけて黒い衣料を身に付け、黒いズボン、長靴を着用している点でも合致している一方、矛盾点はなく、両者の容姿・着衣等は全体的によく似ているといえる。 ⑵ 本件犯行前後の犯人と被告人の行動等についてアまず、本件犯行前の両者の行動についてみると、被害者がⒹ´地点を通過した約52秒後に、被告人が同地点を通過しているところ(前記1⑴エ)、防犯カメラ映像上、被害者と被告人の間に同地点を通過した人物の存在は認められない(被害者が同地点を通過した後、被告人が映り始めるまでの約10秒間、同映像は途切れているものの、被告人が映り始めた際にその前方を歩いている人物は存在しない。)。 その後、Ⓓ´地点から東にわずか約260メートルのⒺ地点において、犯人は被害者のすぐ後方を歩行していたところ、Ⓓ地点ないしⒻ地点を映した各防犯カメラ映像や、Ⓖ地点に停車していたタクシーのドライブレコーダー映像等から認められるように、本件犯行当時、本件犯行現場付近の人通りは非常に少なかったことに照らすと、被害者がⒺ地点にたどり着くまでの間に、被告人と顔貌がよく似ていて、容姿や着衣も共通する第三者が被害者の後方に偶然現れた可能性は低く、Ⓔ地点で被害者の後方を歩いていた犯人は、被告人である可能性が高いと考えられる。 イ次に、本件犯行後の両者の行動をみると、犯人は、ピンク色矢印のとおり進 行しており、前記1⑴イで認定した犯人の動きからすれば、その間、Ⓙ地点においてスマートフォンを見るような仕草をしていたといえるところ、被告人は、本件犯行現場から遠くない場所からc店に向かう途中、犯人が前記仕草をしたのとほぼ同じタイミングで電話をかけ、犯人がⓁ地点のピンク色矢印先端から東方に進んだ約2分後には、同先端から約2 ろ、被告人は、本件犯行現場から遠くない場所からc店に向かう途中、犯人が前記仕草をしたのとほぼ同じタイミングで電話をかけ、犯人がⓁ地点のピンク色矢印先端から東方に進んだ約2分後には、同先端から約210メートル先のⓂ地点からc店に入店しているのであり(前記1⑴ウ)、犯行後の行動もよく整合している。 ウまた、犯人は、本件犯行当日に、Ⓘ地点ないしⓁ地点をピンク色矢印のとおり進みながら被害品の一部を投棄し、c店付近で被害品の個人番号カード及び健康保険被保険者証を投棄したと推認できるところ、被告人は、同日、c店に立ち寄った上、退店時に付近の雪山に何かを捨てたとみるのが自然な動作をしていること(前記1⑴ウ)や、被害品の一部が発見されたⒿ地点付近から採取された足跡痕は被告人が履いていた長靴と同種のものであったことも、被告人が犯人であるとの推認を裏付ける事情ということができる。 ⑶ 以上のように、犯人と被告人の間には複数の合致点が認められ、とりわけ両者の容姿・着衣等や犯行前後の行動経路等は非常によく整合している上、これらの多種多様な合致点が偶然重なることは考え難いから、被告人が犯人であると極めて強く推認することができる。他方、被告人が犯人でないとしたならば、犯人は、顔貌や着衣だけでなくその着方まで被告人と類似した特徴を備えた上、被害者がⒹ´地点からⒺ地点を歩行中という極めて限定された機会に本件犯行現場に現れ、付近に被告人がいるのも意に介さず、被告人に気付かれることもなく、本件犯行に及び、その後、被告人とほとんど同じ機会にc店付近にも現れるなどしたということになるが、常識的にみて、このような事態はあり得ないというべきである。 4 弁護人の主張の検討⑴ 防犯カメラ映像に関する主張について弁護人は、被告人はⒹ´地点を通過後、午後6時45分46秒 になるが、常識的にみて、このような事態はあり得ないというべきである。 4 弁護人の主張の検討⑴ 防犯カメラ映像に関する主張について弁護人は、被告人はⒹ´地点を通過後、午後6時45分46秒頃まで母親と電話をしていたところ、被告人が犯人だとすると、その約1分21秒後にⒺ地点にたど り着き、先を歩いていた被害者に追いつく必要があるが、現実的には困難である旨主張する。しかし、被告人がⒹ´地点を通過してからⒺ地点で犯人が被害者に接近するまで約3分の間隔があり、両地点間の距離は約260メートルにとどまることからすれば、被告人がⒺ地点で被害者に追いつくことは十分可能であったといえる。 また、弁護人は、Ⓔ地点及びⒻ地点を映す各防犯カメラはセンサー式であるから、被告人は、両地点を各防犯カメラに録画されていない時間帯に通過し、その後北上又は東進してc店に向かったと考えられる旨主張する。しかしながら、被告人が各防犯カメラのいずれにも撮影されることなく両地点を通過した可能性は容易には想定できない上、両地点より更に東のⒼ地点付近に停車していたタクシーのドライブレコーダー映像や、ⒾないしⓁの各地点の防犯カメラ映像を見ても、犯人を除いて被告人の可能性がある人物の存在は見当たらないから、弁護人の主張は、抽象的な可能性を指摘するものといわざるを得ない。 ⑵ 犯行動機について弁護人は、被告人は有職者かつ実家暮らしで、令和6年2月9日には給料4万円を受け取っており、本件犯行当日も所持金があった上、同月15日以降も給料が振り込まれる予定であったことなどから、被告人は強盗をしてまでお金を得る必要が全くなかった旨主張する。しかし、被告人は、本件犯行前日、「パチンコで溶かしてしまったので今すぐ金欲しい」旨のメッセージを送って、いわゆる闇バイトの申込みを 、被告人は強盗をしてまでお金を得る必要が全くなかった旨主張する。しかし、被告人は、本件犯行前日、「パチンコで溶かしてしまったので今すぐ金欲しい」旨のメッセージを送って、いわゆる闇バイトの申込みを行っている上、当時の被告人の口座残高はわずかであったことなどに照らすと、被告人は、本件犯行当時、金銭的に余裕がなかったことは明らかで、本件犯行を思いとどまるような状況にあったとはいえない。 ⑶ その他弁護人が不自然と指摘する事実についてア弁護人は、被告人の母親によれば、本件犯行に使われた本件包丁は被告人の自宅にはなかった上、防犯カメラ映像でも被告人が包丁を所持している様子はなく、全長が約30センチメートルもある本件包丁を衣服内に隠しておくことは困難で、被告人が犯人であるならば、本件包丁をどこで準備したのか説明がつかない旨主張 する。しかし、被告人の母親の証言によっても、同人は被告人の部屋をくまなく見ていたわけではなかったし、前記1⑵イのような被告人の着衣に照らし、被告人が衣服の下に本件包丁を隠すことが不可能であったとはいえない。 イまた、弁護人は、被害者は、犯人は軍手をしていたと証言するところ、防犯カメラ映像からは被告人が軍手をしている様子は確認できないし、被告人の自宅等からも軍手は発見されていない旨指摘する。しかし、軍手は容易に入手し、他人の目に留まらない形で捨てることができる物品であるから、弁護人が指摘する事実は被告人が犯人であることと何ら矛盾するものではない。 ⑷ その他の弁護人の主張を検討しても、被告人が犯人であるとの前記推認に合理的な疑いを差し挟むものはない。 5 結論以上によれば、被告人が犯人であると認められる。 (法令の適用)罰条令和4年法律第68号441条1項により同年法律第6 推認に合理的な疑いを差し挟むものはない。 5 結論以上によれば、被告人が犯人であると認められる。 (法令の適用)罰条令和4年法律第68号441条1項により同年法律第67号2条による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)240条前段刑種の選択有期懲役刑を選択酌量減軽刑法66条、71条、旧刑法68条3号未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由)被告人は、人通りの少ない夜間に、1人歩きの女性である被害者を狙って、その背後から被害者の首元付近に波刃包丁を突き付けるなどの暴行脅迫を加えており、積極的な加害行為に及んでいないとはいえ、犯行態様は危険かつ悪質であるし、一度逃げた被害者を追いかけて、再び被害者の首元付近に包丁を突き付けるなど執拗さも見受けられる。被害者の傷害結果は幸い比較的軽微で、財産的被害も多額とは いえないものの、被害者が受けた恐怖感や精神的苦痛は大きかったといえる。被告人が本件犯行に及んだ動機や経緯にも酌むべき点は見当たらない。 以上の犯情に加え、刃物を用いた路上強盗1件という同種事案の量刑傾向も考慮すると、本件は相当期間の実刑を科すべき事案といえる。 その上で、被告人には反省の態度がみられないことなどを考慮すると、酌量減軽はするが、主文の刑はやむを得ないと判断した。 (求刑懲役7年)令和7年7月8日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官吉戒純一 裁判官藤井俊彦 裁判官木下颯 戒純一 裁判官 藤井俊彦 裁判官 木下颯
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