平成14(ワ)71 御園サービス定年制

裁判年月日・裁判所
平成15年8月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文9,662 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原告が被告の従業員たる地位にあることを確認する。 2 被告は原告に対し、45万1500円及び平成14年1月から毎月15日限り月額15万0500円の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、原告が下記1(1)②の雇用関係(以下本件雇用関係という)に基づいて、被告に従業員たる地位の確認と賃金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実(1) 当事者、関係者(ただし、下記②の基本給の支払時期につき争いがある)① 被告は、ビルのメンテナンス、駐車場の管理を主な目的とする会社である。 ② 原告(昭和16年9月1日生)は、平成5年7月22日、51歳で被告に雇用されて、マンション管理業務に従事していた者で、下記(2)当時、Aの管理人をして、毎月15万0500円の基本給を受給していた。 ③ 被告の労働組合には、B労働組合愛知地方本部あいち支部C分会(以下単に分会という)と、C株式会社従業員組合(以下単に従組という)とがある。 (2) 被告による定年退職の通知等被告は、平成13年8月2日、原告に対し、同年9月1日で満60歳となり、下記(3)の就業規則により、同月15日をもって定年退職になる旨の通知(以下本件通知という)をし、その後の原告の従業員としての地位を争っている。 (3) 被告の就業規則(ただし、その効力に争いがある)同規則(平成10年12月5日改定後のもの。以下本件規則といい、同改定を本件改定、改定前の同規則を本件旧規則という)には、要旨、次の内容の規定があるが、一方下記14条につき、本件旧規則は、「従業員の定年は、満60歳に達したとき。」と定めていた(乙4、5の1ないし3、弁論の全趣旨)。 「14条(定年)従業員 いう)には、要旨、次の内容の規定があるが、一方下記14条につき、本件旧規則は、「従業員の定年は、満60歳に達したとき。」と定めていた(乙4、5の1ないし3、弁論の全趣旨)。 「14条(定年)従業員の定年は、満60歳に達した直後の15日とする。 ただし、会社が必要と認めた者については、協議のうえ、1年毎に職員として更新雇用する。また、嘱託として期間を定めて再雇用することがある。嘱託就業規則による(このうち、本文を除く上記但書以降の部分を一括して、以下本件再雇用条項という)。 15条(退職)従業員が、次の各号の一つに該当するに至ったときは、その日をもって退職とする。 (2) 定年に達したとき。」 2 争点本件の主な争点は、(a)本件規則の効力、(b)原告主張の下記(1)④の労使慣行の成否及び効力であり、上記(a)の前提問題として、本件規則の周知性(下記(1)③、同(2)③)が争点となっている。 (1) 原告の主張① 原告は、前示1(1)②のとおり、期限の定めなく雇用されたものであって、被告に対し、従業員たる地位にあり、毎月15日限り月額15万0500円の基本給の支払請求権を有している。 ② よって、原告は被告に対し、(a)従業員たる地位の確認と、(b)平成13年9月16日から3か月分の基本給45万1500円及び、(c)平成14年1月以降、毎月15日限り、上記①の割合による基本給の支払を求める。 ③ 後示(2)②のうち、本件規則の効力は争い、その余の主張も争う。 就業規則に法的規範性が認められるためには、労基法106条1項所定の程度の方法で、事業場の労働者の大半がこれを知り、又はこれを知ることができる状態に置かれることによって、当該規則が周知性を獲得していることを要すると解すべきところ、本件規則について、かかる周知義務が尽くされたことはないから、 者の大半がこれを知り、又はこれを知ることができる状態に置かれることによって、当該規則が周知性を獲得していることを要すると解すべきところ、本件規則について、かかる周知義務が尽くされたことはないから、同規則は無効である。 ④ また、(a)被告では、マンション管理業務に従事する従業員(以下マンション管理員という)の場合、定年を迎えた者のうち、希望者のほぼ全員が嘱託として再雇用されているのであって、マンション管理員の希望者は、定年退職後も、特段の欠格事由がない限り再雇用する旨の労使慣行(以下本件労使慣行という)が確立していた。そして、(b)労使双方の当事者が明示的黙示的に上記雇用形態を排斥した事実はないうえ、(c)労働条件の決定権等を有する被告の幹部らも、マンション管理員に定年制がなく、60歳超過後も引き続き雇用されることを前提とする言動をしていたものであって、本件労使慣行に法的拘束力を肯定するだけの規範意識が存在していた。 したがって、本件労使慣行には法的拘束力があり、原告は、被告の従業員たる地位を失わない。なお、上記更新雇用が行為準則にまでなった背景には、マンション管理従業員の大半が嘱託・パート社員で、そのほとんどが65歳以上の者で占められているなどの、被告のシルバー企業としての実態がある。 ⑤ 更に、本件再雇用条項の存在・内容を考慮すれば、そもそも本件規則14条、15条は、満60歳に達したときに、なんらの意思表示もなく、当然に退職するものではなく、純粋な意味での定年制でもないというべきである。 ⑥ 後示(2)③アのうち、同(a)の事実は不知。同(b)の事実は否認し、同イの事実も否認する。そもそも本社の1階受付内側の引出しの中に入れただけでは、労基法106条1項所定の周知義務が果たされていないことは明白である。 ⑦ 後示(2)⑤の事実は否認す )の事実は否認し、同イの事実も否認する。そもそも本社の1階受付内側の引出しの中に入れただけでは、労基法106条1項所定の周知義務が果たされていないことは明白である。 ⑦ 後示(2)⑤の事実は否認する。原告の勤務態度に問題はなく、被告が、本件労使慣行を無視して、原告を定年退職に追い込んだ理由は、原告が分会の組合員であることしか考えられない。原告は、平成8年に分会に加入したが、分会は、労働条件の改善などを求めて、地労委、裁判所への救済申立や仮処分申請などをして、被告と厳しく対立しており、そのため分会員と判れば、事実上60歳での退職を余儀なくされているものである。 (2) 被告の主張① 前示(1)①のうち、本件雇用関係の期限は否認し、法的主張は、下記②のとおり争う。また、被告の給与支払日は、毎月末日であって15日ではない。 ② 前示1(3)のとおり、被告には、本件規則による60歳定年の定めがあり、原告は、満60歳到達直後の15日である平成13年9月15日をもって、被告を定年退職した。よって、原告の請求には理由がない。 ③ 前示(1)③の主張は争う。 ア被告では、昭和55年4月から就業規則を制定しているが、(a)前示1(3)のとおり、定年を、「満60歳に達したとき」から「満60歳に達した直後の15日」へと改めた際、平成10年12月15日、本件改定につき従組及び分会の意見聴取をして同意を得ており、(b)各組合から構成員に就業規則の内容が伝達されているし、(c)本件規則を本社1階受付に備え付けて、従業員が閲覧可能な状態にしているから、同規則には周知性がある。また、上記(a)の意見聴取を行なっている以上、そもそも労基法106条1項所定の周知方法を欠いたとしても、本件規則の無効原因となるものではない。 イ更に、原告自身にも、(a)入社当時、募集係が6 。また、上記(a)の意見聴取を行なっている以上、そもそも労基法106条1項所定の周知方法を欠いたとしても、本件規則の無効原因となるものではない。 イ更に、原告自身にも、(a)入社当時、募集係が60歳定年制を説明して、就業規則を遵守する旨の誓約書を徴求しており、(b)定年を迎える際にも、平成13年8月2日本件通知をし、原告の希望で、定年退職で管理人を辞めることをAの居住者に文書で告知し、退職金の支給等もしているのであって、原告が定年制を了知していたことは明らかである。 ④ 前示(1)④の主張は争う。 被告には、前示1(3)のとおり本件再雇用条項があるが、被告内部で協議のうえ、嘱託契約の継続、更新等の判断をしているのであって、必ず定年退職者を再雇用しなければならない性質のものではなく、現に、平成13年4月1日から翌年3月末日までの被告の退職者18名のうち、再雇用されたのは13名だけにすぎない。 また、被告は、採用面接時などに60歳定年制を説明しているし、上記③ア(a)の意見聴取でも、本件労使慣行を窺わせる意見等は提出されておらず、労使関係者に法的規範としての認識もなかったことが明らかである。 ⑤ 前示(1)⑤の主張も争う。 ⑥ なお、原告は、当初管理人をしていたDで清掃業務等をきちんとしなかったため、被告は、平成10年9月21日原告をとりあえずEへ、更に同年11月10日Aに異動させたが、そこでもたびたびクレームが発生し、清掃員と大喧嘩をしたりしたため、原告を再雇用しなかったものである。一方、被告には、原告が分会組合員であることの認識がなく、それを理由に差別する意思もなかった。 第3 当裁判所の判断1本件規則の周知性(前示第2の2(1)③、同(2)③の主張)について(1) まず、定年に関する被告の就業規則をみるに、前示第2の1(3)の事実によれ に差別する意思もなかった。 第3 当裁判所の判断1本件規則の周知性(前示第2の2(1)③、同(2)③の主張)について(1) まず、定年に関する被告の就業規則をみるに、前示第2の1(3)の事実によれば、本件改定が行なわれた平成10年12月5日以後の被告従業員の定年については、本件規則がこれを定めているものというべきである。 そして、乙4、前示第2の1(3)の事実によれば、(a)同規則は、その対象となる従業員につき、要旨、「本件規則第2章の規定により採用され、ビル管理業務に従事する清掃職員、技術職員、管理職員(マンション管理員)をいう。」旨、定めているところ(同4条)、(b)これら従業員の定年について、本件規則15条は、従業員が定年に達したときは、なんらの意思表示を要することなくして当然退職となる、いわゆる定年退職制度を定めていると認めることができ、本件再雇用条項の存在等を考慮しても、解雇の意思表示を受けて退職となる、いわゆる定年解雇制度を採用しているとは解せられないから、この点に関する原告の前示第2の2(1)⑤の主張は直ちに採用することができない。 (2) 次に、本件規則の周知性と就業規則としての効力との関係について検討する。 ① 就業規則は、(a)そのうち労働条件を定めた部分については、労基法上当然に片面的な強行直律的効力を有し(同法93条)、(b)それ以外の部分についても、当該部分に法的規範性を肯定するだけの合理性が認められる場合は、当該事業場の労働者の知不知や同意の有無にかかわらず、同事業場での雇用関係に適用になるのであって、これに法的拘束力があるというべきである。また、就業規則は、(c)上記(a)(b)の領域のいかんを問わず、労働者にとって不利益に変更されたときにも、当該変更により労働者が被る不利益を考慮しても、同変更にこれを肯定す があるというべきである。また、就業規則は、(c)上記(a)(b)の領域のいかんを問わず、労働者にとって不利益に変更されたときにも、当該変更により労働者が被る不利益を考慮しても、同変更にこれを肯定するに足りるだけの合理性が認められる場合には、労働者の既得の権利の剥奪に当たるなど特段の事情がない限り、個々の労働者の同意の有無にかかわらず、これと使用者との雇用関係に適用されるものと解することができる。 ② 一方、就業規則は、相手方のない意思表示としての法的性質を有するものであるから、(ア)これが就業規則として作成され、外部的に表白されることによって、意思表示として有効に成立し、上記①(a)の片面的な強行直律的効力を生じ、また、(イ)これに内容的な合理性が認められる場合には、上記①(b)(c)の法的拘束力も肯定されるというのが相当である。 ③ したがって、(a)就業規則の効力を主張する者は、上記②(ア)の意思表示としての成立要件、及び必要に応じて、同(イ)の内容的合理性を主張立証することによって、その規定を有利に援用することができるというべきである。 他方で、(b)これを争う者は、前示外部的表白にもかかわらず、使用者が、労働者や労働組合等を一体としてみた場合の当該企業の労働側関係者に対し、就業規則の内容を知り得る余地をまったく与えないままに、これに不利益な就業規則を適用しようとしたなどの事情が存するため、使用者による労働者に不利益な就業規則の援用が、労基法89条、15条1項の潜脱に当たり、その結果、権利濫用ないし信義則違反となるべき特段の事情を主張立証して、上記援用の効果を争うことができるというのが相当であるが(上記労働側に一切告知等することなく、労働基準監督署への届出だけで、内容的に労働者に不利益な就業規則を実施しようとする場合などはこれに して、上記援用の効果を争うことができるというのが相当であるが(上記労働側に一切告知等することなく、労働基準監督署への届出だけで、内容的に労働者に不利益な就業規則を実施しようとする場合などはこれに当たる)、(c)これには該当しないような単なる労基法106条1項所定の周知義務の違反や、個々の労働者の就業規則又はその内容の不知は、当該就業規則の効力を左右するものではないと解するのが相当である。 ④ そして、これを本件についてみるに、前示第2の1(3)の事実、乙4、5の1ないし3、6、18、証人F・Gの各証言によれば、(a)被告では、平成10年12月5日、本件改定を実施して、従業員の定年につき、「満60歳に達したとき。」と定めていた本件旧規則を、「満60歳に達した直後の15日とする。」と改めたが、(b)この際、分会と従組に対し、新しく定める本件規則の内容を開示して、これに対する意見を聴取する労基法90条1項所定の手続を履践しているところ、(c)平成10年12月15日提出の両労働組合の意見においては、本件改定に格別の異論はなく、定年制度の撤廃や、希望者全員の再雇用を求める意見等が付記されることもなかった、そして、(d)両労働組合は、就業規則の変更について、それぞれ機会を捉えて組合員に告知していた、以上の事実が認められ、これによれば、本件では、容易に被告による労基法89条や同法15条1項の潜脱等があるとはいえず、上記③(b)掲記の特段の事情は認められないというのが相当であって、被告による本件規則の援用は有効であり、原告には、その知不知とは無関係に、同規則14条、15条による60歳定年制が適用されるというべきである。 ⑤ のみならず、甲10、乙7、8、18によれば、本件において、原告は、本件通知前の平成13年8月1日、被告の関係者に、「9月1日が 則14条、15条による60歳定年制が適用されるというべきである。 ⑤ のみならず、甲10、乙7、8、18によれば、本件において、原告は、本件通知前の平成13年8月1日、被告の関係者に、「9月1日が誕生日だから、定年で退職になるのか」などの旨の発言をしており、また、本件通知後、その希望により、就業規則による定年退職で管理人を辞めることを、自分が担当していたAの居住者に文書で告知してもらっている事実を認めることができるのであって、これによれば、実際には、原告は、少なくとも本件通知前から、本件規則による60歳定年制の内容を知悉していたと認めるのが相当であり、この面からも、本件規則の周知性に関する原告の主張は容易に採用することができず、甲10、13、原告本人の供述中の上記認定に反する部分は直ちに措信できない。 以上によれば、後示2で検討する本件労使慣行の法的効力が認められない限り、原告は、満60歳に到達した直後の15日である平成13年9月15日をもって、被告を定年退職したといわねばならない。 ⑥ 以上の認定に対し、原告は、労基法106条1項所定の程度の周知方法の実施及び継続が就業規則の有効要件となる旨の主張をしているが、(ア)労基法106条1項は、就業規則の作成義務、対象事項、作成手続、法的効力等を定めた同法9章にではなく、同法12章の雑則中に置かれているのであって、これを直ちに就業規則の効力要件に関する規定と解するのは相当でないし、(イ)前示②のように、いったん意思表示として有効に成立し、あるいは内容に合理性が認められて、就業規則に強行直律的効力ないし法的拘束力が発生した後になって、上記のような周知方法の一時的な欠落等の結果、その法的効力が否定されることになるのは、多数の雇用関係を統一的に規律すべき就業規則の法的安定性を著しく損なうものであっ し法的拘束力が発生した後になって、上記のような周知方法の一時的な欠落等の結果、その法的効力が否定されることになるのは、多数の雇用関係を統一的に規律すべき就業規則の法的安定性を著しく損なうものであって容易に認め難い。 そして、(ウ)前示①(a)(b)のとおり、本来的に就業規則の効力が個々の労働者の知不知や同意の有無とは無関係なことに鑑みれば、就業規則の周知手続に著しい瑕疵が存する結果、その効力の援用が、権利濫用ないし信義則違反等の法理によって排斥される場合があるとしても、当該権利濫用等の判断に当たっては、労働者及び労働組合など当該企業の労働側関係者を一体と捉えて検討するのが相当であり、前示③(b)のとおり、使用者が、これら労働側関係者全員に対し、内容を知る余地をまったく与えないまま、労働側に不利益な就業規則を適用しようとしたなど特段の事情がある場合に限られると解するのが妥当であって、原告の前示主張は直ちに採用することができない。 2 本件労使慣行の成否及び効力(前示第2の2(1)④の主張について)(1) 前示第2の1(3)のとおり、現在被告の定年制を定めた本件規則14条には、労使双方の合意に基づき、職員や嘱託としての更新雇用ないし再雇用を行なう場合がある旨を定めた本件再雇用条項が存在している。 そこで、これと本件労使慣行との関係について検討するに、前示第2の1(1)④の主張内容によれば、原告主張の同慣行は、上記のように労使双方が本件再雇用条項に基づき、更新雇用や再雇用について合意している場合のみならず、定年を迎えた労働者が希望さえすれば、被告に更新雇用等の意向がない場合であっても、本件労使慣行に法的に拘束され、被告は、これら更新雇用等の合意をしたのと同様の法的地位に置かれるべきことをいうものであって、要するに、この点において本件規則に反 新雇用等の意向がない場合であっても、本件労使慣行に法的に拘束され、被告は、これら更新雇用等の合意をしたのと同様の法的地位に置かれるべきことをいうものであって、要するに、この点において本件規則に反する内容ということができる。 (2) そこで、このような就業規則に反する労使慣行が成立し、これに法的拘束力が認められるというための一般的要件について検討する。 このような場合も、企業内の慣行に関する労使間のやり取り、交渉等の反復継続に基づき、就業規則とは異なる新しい法律関係が形成され得ることが承認される場合があるのであって、問題の労使慣行が就業規則に反するというだけで、その法的拘束力が否定されるというのは妥当でないが(たとえば、就業規則に反する労働条件の処理が当事者間で長く行なわれ、その結果、労働協約の締結や新たな就業規則の制定につながったような事案では、労働協約の締結前から、上記労働条件の処理に労使慣行としての法的拘束力が認められるべき場合が想定される)、他方、多数の雇用関係を統一的に規律する法的規範であって、前示①の効力が認められるという就業規則の特質を考慮した場合には、これに反する労使慣行の成立が認められ、その法的拘束力が肯定されるためには、当該労使慣行を主張する当事者において、(a)相当期間にわたって当事者間に、直接的に就業規則に反するといえる事態が反復継続されている事実を主張立証するとともに、(b)これが当事者双方によって明示的に排斥されておらず、(c)労使関係者、特に当該事項につき決定権限を有する使用者側の管理者が、当該事態が就業規則に反することを十分認識のうえ、規範意識を持ってこれに従ってきたことを主張立証しなければならないというのが相当であって、単なる就業規則の空白領域における労使慣行の成立等とは、その要件を異にすると考えるのが ることを十分認識のうえ、規範意識を持ってこれに従ってきたことを主張立証しなければならないというのが相当であって、単なる就業規則の空白領域における労使慣行の成立等とは、その要件を異にすると考えるのが相当である。 (3) そこで、これを本件についてみるに、原告は、乙12、13、19の記載内容から上記(2)(a)の事情を推認することができる旨主張し、証人Fの証言中にも、これに沿うかのような部分がある。 しかしながら、本件規則中には、前示第2の1(3)掲記の内容の本件再雇用条項が存在しているのであるから、上記(2)(a)のとおり本件規則に反する本件労使慣行に沿った事実が反復継続しているといえるためには、単に、定年退職後の再雇用等が通例化していたというだけでは足りず、端的に、退職者が希望すれば、被告の意思に反する場合であっても再雇用が行なわれるという事態が反復継続していたことを主張立証する責任があるというべきところ、上記乙各号証の記載内容は、直ちにこのような事態の反復継続を推認せしめるものではなく、本件全証拠を精査しても、他にこれを認めるに足りる客観的証拠は存在していないというのが相当である。 また、上記(2)(c)掲記の労使関係者の規範意識について検討するに、本件改定の際に分会と従組から寄せられた意見は、前示1(2)④(c)認定のとおりであって、定年制度の撤廃や、希望者全員の再雇用を求めるなどの意見が付記されることもなかったのであるから、労使の関係者が、就業規則に反する本件慣行に従うべき規範意識を有していたとも容易に認められない。 したがって、以上の事情を考慮すれば、本件労使慣行の成立及び効力に関する原告の主張は、容易に採用することができず、他に本件労使慣行の成立、効力を認めるに足る証拠はない。 (4) なお、そのほか、原告は、その更新雇用等が成 を考慮すれば、本件労使慣行の成立及び効力に関する原告の主張は、容易に採用することができず、他に本件労使慣行の成立、効力を認めるに足る証拠はない。 (4) なお、そのほか、原告は、その更新雇用等が成立しなかった理由を、分会組合員に対する差別に求める趣旨の主張もしているが、過去、更新雇用等されてこなかった定年退職者の全部又は大半が分会組合員であるなどの事実を証するに足りる証拠はなく、この点の原告主張も容易に採用できない。 3 結論以上の次第で、原告の請求は、すべて理由がない。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官夏目明徳

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