平成23(行コ)399等 生活保護開始申請却下取消等請求控訴,同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成20年(行ウ)第415号)

裁判年月日・裁判所
平成24年7月18日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文8,048 文字)

主文 1 附帯控訴人が当審において拡張した訴えを却下する。 2 控訴人の控訴及び附帯控訴人のその余の附帯控訴をいずれも棄却する。 3 控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用(当審において拡張した訴えに関する部分も含む。)は附帯控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨及び附帯控訴の趣旨 1 控訴の趣旨(1) 原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。 (2) 上記取消しに係る部分につき,被控訴人の請求を棄却する。 2 附帯控訴の趣旨(当審において拡張した請求の趣旨を含む。)原判決主文第2項及び第3項を次のように変更する。 (1) 処分行政庁は,附帯控訴人に対し,附帯控訴人が平成20年6月2日付けでした生活保護の開始申請に対し,保護の種類及び方法を居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助とし,保護の程度を別表に記載のとおりとする生活保護を開始する旨の決定をせよ。 (2) 附帯被控訴人は,附帯控訴人に対し,37万1882円及びうち13万3590円に対する平成20年6月3日から,13万4310円に対する同年7月2日から,10万3982円に対する同年8月2日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要次のように補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,以下,略語は,控訴人兼附帯被控訴人を「控訴人」と,被控訴人兼附帯控訴人を「被控訴人」と,それぞれいうほかは,原判決の例に よる。 1 原判決2頁11行目から12行目にかけての「(保護の種類及び方法につき居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助とするもの)」を削る。 2 原判決3頁5行目の次に改行して次のように加える。 「原審は,被控訴人の前記①,②の請求を認容 けての「(保護の種類及び方法につき居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助とするもの)」を削る。 2 原判決3頁5行目の次に改行して次のように加える。 「原審は,被控訴人の前記①,②の請求を認容し,前記③の請求を棄却した。 これに対し,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴した。 なお,前記②の請求について補足すると,原審に提出された訴状や訴えの変更申立書の請求の趣旨の記載には前記②の請求に関する部分がないが,訴状の請求の原因の記載等に照らすと,被控訴人は,前記③の請求の前提として,前記②の請求もしていると解される。とはいえ,前記②の請求として,被控訴人がどのような処分その他の作為の義務付けを求めているのかは,上記の訴状や訴えの変更申立書には明記されていない。この点について,原審は,被控訴人は,保護の種類及び方法を居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助とする生活保護を開始する旨の決定の義務付けを求めているものと解し,そのとおりの義務付け判決をした上,仮に,被控訴人が具体的な扶助費の支給の義務付けも求めているとすれば,その訴えは却下すべきものであると判断した。これに対し,被控訴人は,当審において,保護の種類及び方法を上記のとおりとし,かつ,保護の程度を別表に記載のとおりとする生活保護を開始する旨の決定の義務付けを求めるとして,前記第1の2(1)のとおり,そのような義務付け判決への変更判決を求めている。 以上については,上記の訴状や訴えの変更申立書の記載,原審における審理経過等に照らすと,被控訴人は,原審においては,原判決のとおりの義務付け判決を求めていたものと解され,そうであれば,上記の変更判決の申立ては,原審における請求を当審において拡張したものと解される(なお,拡張請求において義務付けを求める処分行政庁の作為は,行政事件訴訟法3条2項 めていたものと解され,そうであれば,上記の変更判決の申立ては,原審における請求を当審において拡張したものと解される(なお,拡張請求において義務付けを求める処分行政庁の作為は,行政事件訴訟法3条2項にいう処分ではなく,事実行為である可能性もあり,この点は別途検討する。)。 また,被控訴人は,前記③の請求に関しては,原判決の一部につき附帯控訴した ものと解される。」 3 原決定10頁20行目の「無差別平等の原則を定める生活保護法2条」の次に「ないし法の下の平等を定める憲法14条」を加える。 4 原判決10頁23行目から24行目にかけての「(争点1の3),」の次に「本件却下決定は憲法25条1項等に違反するか(争点1の4),」を加える。 5 原判決10頁24行目の「生活保護を開始する旨の決定」の次に「(当審における拡張後の義務付けの訴えに係るもの)」を加え,27行目の「とするもの」を「とし,保護の程度を別表に記載のとおりとするもの」に改める。 6 原判決11頁3行目の末尾の次に次のように加える。 「このほか,被控訴人が当審において拡張した訴えの適法性も問題となる。」 7 原判決14頁16行目を次のように改める。 「イ無差別平等の原則ないし法の下の平等違反(争点1の1)」 8 原判決23頁10行目の次に改行して次のように加える。 「オ憲法25条1項等違反(争点1の4)本件却下決定は,前記イのとおり憲法14条1項に違反するほかにも,次のとおり,憲法25条1項,13条,22条1項に違反する。なお,処分行政庁が憲法に違反する行政処分をすることは,憲法99条にも違反する。 (ア) 生活保護を受ける権利は,憲法25条1項に定める健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を生活保護法によって具体化したものであり,保護の補足性の要件を定めた同 とは,憲法99条にも違反する。 (ア) 生活保護を受ける権利は,憲法25条1項に定める健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を生活保護法によって具体化したものであり,保護の補足性の要件を定めた同法4条1項は,そのような憲法上の権利を制約するものに当たる。そこで,同項の制約については,正当な立法目的に基づくものであること,その目的を達成するために必要最小限度のものであること,より制限的でない手段が存在しないことが憲法上も必要となる。同項について被控訴人が前記ウのとおり主張する解釈は,以上の見地から,同項を憲法25条1項に適合させるための合憲的限定解釈をしたものである。 本件却下決定は,生活保護法4条1項について,上記のような合憲的限定 解釈と異なる解釈に従うものであるから,同項のみならず,憲法25条1項に違反する。 (イ) 本件却下決定は,アパート等における居宅保護を求める被控訴人の本件申請を却下したものであって,自己決定権を定めた憲法13条や,居住の自由を定めた憲法22条1項にも違反する。」 9 原判決28頁5行目を次のように改める。 「オ憲法25条等違反について争う。 (2) 生活保護を開始する旨の決定の義務付けの可否(争点2),扶助費の支払請求の可否(争点3)について」 10 原判決28頁20行目から29頁5行目までを次のように改める。 「ウ保護の程度被控訴人が本件申請をした日である平成20年6月2日から,前記第2の2(9)のとおり板橋福祉事務所長による生活保護開始決定を受けた日の前日である同年8月24日までの間の各月分として,被控訴人が受けるべき扶助費の額(1か月に満たない部分は日割計算)は,次のとおりである。」 11 原判決29頁12行目から30頁10行目までを次のように改める。 「 この額を前 間の各月分として,被控訴人が受けるべき扶助費の額(1か月に満たない部分は日割計算)は,次のとおりである。」 11 原判決29頁12行目から30頁10行目までを次のように改める。 「 この額を前提として,被控訴人が受けるべき各月分の生活扶助費の額を計算すると,別表の「生活扶助費」欄に記載のとおりとなる。 (イ) 住宅扶助費の額東京都の1級地の1人世帯の住宅扶助基準額は,5万3700円である。ただし,平成20年6月分については,特別区においては単身者についても1. 3倍額の特別基準を適用することが許されるから,上記基準額の1.3倍に相当する6万9810円を住宅扶助費の上限額とすべきである。 他方,被控訴人が支出した住宅費の実額(支出していないが,実際に宿泊施設 等に宿泊し,宿泊費等の請求を受けている額を含む。)は,別表の「住宅扶助費」欄に記載のとおりである(甲19ないし21)。 上記の実額は,上記の基準額ないし上限額を下回るから,被控訴人が受けるべき住宅扶助費の額は,上記の実額,すなわち,別表の「住宅扶助費」欄に記載のとおりとなる。 エ小括(ア) 争点2について以上によれば,処分行政庁が,本件申請に対し,処分の種類,方法及び程度を前記イ,ウで検討したとおりとする生活保護の開始をする旨の決定をすべきことが生活保護法の規定から明らかであるか,又は,処分行政庁がその決定をしないことが裁量権の範囲を超え,若しくは濫用となるというべきである。 (イ) 争点3について行政事件訴訟における義務付け判決については,通常の民事訴訟における意思表示を命ずる判決とは異なり,処分行政庁が判決に従った処分をしないときに判決の内容を具体的に実現する方法についての定めがない。そのような法の不備に伴う国民の不利益を回避するには,義務付け判決が 意思表示を命ずる判決とは異なり,処分行政庁が判決に従った処分をしないときに判決の内容を具体的に実現する方法についての定めがない。そのような法の不備に伴う国民の不利益を回避するには,義務付け判決が確定したときは,判決に従った処分がされたものと擬制すべきであり(民事執行法174条1項参照),その場合には,義務付け判決の確定を停止条件として,上記のとおり擬制される処分によって成立すべき具体的な給付請求権に基づく給付を求めることもできると解すべきである。 したがって,被控訴人は,控訴人に対し,前記(ア)のとおりの生活保護を開始する旨の決定を義務付ける判決の確定を停止条件として,その決定によって成立すべき具体的な扶助費の支払請求権に基づき,別表に記載のとおりの扶助費及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めることができる。」第3 当裁判所の判断 1 争点1について当裁判所も,本件却下決定は違法であり,取り消されるべきであると判断する。 その理由は,次のように補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決30頁19行目の「第20号証,」の次に「第22号証ないし第27号証,」を加える。 (2) 原判決38頁21行目の「○」から24行目の「診断がされた。」までを次のように改める。 「その検診書には,「主病名」欄に「○の疑い」との記載があり,「現在の病状,治療内容」欄に「意欲が低い。人間関係能力に問題がある。」との記載がある。また,今後の治療はいらない旨,日常生活上の留意点は特にない旨,病状から判断して精神的なことは特に注意する必要はない旨の記載もある。また,「就労の可能性及び程度」欄には,「普通に就労できる」,「軽い仕事ならできる」,「就労できる状態にない」ほかのうち,「軽い 病状から判断して精神的なことは特に注意する必要はない旨の記載もある。また,「就労の可能性及び程度」欄には,「普通に就労できる」,「軽い仕事ならできる」,「就労できる状態にない」ほかのうち,「軽い仕事ならできる」に当たる旨の記載があり,その中での細分類として「アルバイト等簡易な作業が8時間程度」に当たる旨の記載がある。」(3) 原判決40頁13行目の「稼働している。」を「稼働し,仕事のない日には野宿者の支援団体でボランティアとして手伝いをしている。」に改め,17行目の「117」の次に「,弁論の全趣旨」を加える。 (4) 原判決41頁25行目を次のように改める。 「 (2) 無差別平等の原則ないし法の下の平等違反(争点1の1)について」(5) 原判決53頁23行目から54頁2行目までを次のように改める。 「 そこで,本件について,上記のような特別の事情を認めることができるかどうかを検討する。 控訴人の主張するとおり,本件申請の当時,被控訴人の居住する東京都新宿区においては,ハローワーク等の公共職業紹介制度のほか,職業の相談及び指導を含む利用者の就労自立に向けた支援システム等が提供されていたところである。 しかしながら,例えば,被控訴人がA寮入寮中に実際に得ることができた就労の場をみると,被控訴人は,板金工,旋盤工のような業務に従事するために必要となる特殊な技能はなく,また,事務職,工場労働者のように実際には年齢制限が付されている業務に従事することができる年齢でもなかったことから,寮の掲示板に張り出されるハローワークによる求人によっては,警備員や清掃作業員のほかには就労の見込みがなかった。しかも,警備員としてBに就労する際には,身元保証人を用意することを求められ,長兄の同意を得ることなくその名義の身元保証書を作成し,こ よっては,警備員や清掃作業員のほかには就労の見込みがなかった。しかも,警備員としてBに就労する際には,身元保証人を用意することを求められ,長兄の同意を得ることなくその名義の身元保証書を作成し,これを提出して就労したものであって,本来であれば,身元保証人のなり手が見つからなかった被控訴人がBに就職することも困難であった。 また,被控訴人は,平成20年7月18日に実施された検診において,「普通に就労できる」ではなく,「軽い仕事ならできる」に該当すると判断されており,この状況は,上記検診に近接する同年6月13日の本件却下決定の時点でも変わらないと推測される。そして,被控訴人の稼働の状況をみると,Bに就労した際の工場の警備員としての業務は,被控訴人にとっては要求される能力の水準の高いものであり,そのために被控訴人は退職するに至っているし,Cに就労した際の店舗の警備員としての業務も,被控訴人にとっては強度の肉体的負荷を伴うものであって,体重が減少し,やがて体調を崩して退職するに至っている。これらの事情に照らすと,被控訴人がA寮入寮中に実際に得ることができた就労の場は,その稼働能力に即したものであったとはいい難い。 さらに,被控訴人は,上記検診において,主病名を「○の疑い」と,現在の病状を「意欲が低い。人間関係能力に問題がある。」とする判断を受けており,この状況も,本件却下決定の時点でも変わらないと推認される。そして,被控訴人の入寮,退寮等の経過をみると,被控訴人は,特定非営利活動法人Dの施設においては,他の入居者となじむことができず,そのために施設を出ている。 その後,E寮を経てA寮に入寮したが,A寮においても,多人数が同じ部屋で 寝起きをするという集団生活の下では,プライバシーがない状態で他人に気兼ねしながら生活していたため,常に緊 を出ている。 その後,E寮を経てA寮に入寮したが,A寮においても,多人数が同じ部屋で 寝起きをするという集団生活の下では,プライバシーがない状態で他人に気兼ねしながら生活していたため,常に緊張し,心の休まる暇がなく,また,同室者の生活音等のためにゆっくりと眠ることができず,休養に十分に取ることができなかった。そして,Cにおける勤務上の事情もあって,一人でゆっくりと休みたかったことから,A寮から外泊許可を得てサウナに宿泊するなどした後,A寮を退寮している。これらの事情に照らすと,被控訴人には,自立支援システムの利用者に予定されている集団生活になじみ難い事情があったものと推認される。 以上の諸点を考慮すると,控訴人の主張するような公共職業紹介制度,自立支援システム等の存在を考慮したとしても,被控訴人について前記のような特別の事情があったとは認め難い。この判断を覆すべき事実を認めるに足りる証拠はない。」(6) 原判決55頁10行目の「生活保護法2条」の次に「ないし憲法14条」を,13行目の「(争点1の3)」の次に「,本件却下決定は憲法25条1項等に違反するか否か(争点1の4)」を,それぞれ加える。 2 争点2について(1) 前記第2の2のとおり補正して引用する原判決に記載のとおり,被控訴人は,原審においては,保護の種類及び方法を居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助とする生活保護を開始する旨の決定の義務付けを求めたと解されるのに対し,当審においては,その訴えを拡張して,保護の種類及び方法を上記のとおりとし,かつ,保護の程度を別表に記載のとおりとする生活保護を開始する旨の決定の義務付けを求めるに至っている。 (2) そして,当裁判所も,被控訴人の原審以来の請求に係る義務付けの請求は理由があると判断する。その理由は,原判決の 記載のとおりとする生活保護を開始する旨の決定の義務付けを求めるに至っている。 (2) そして,当裁判所も,被控訴人の原審以来の請求に係る義務付けの請求は理由があると判断する。その理由は,原判決の事実及び理由の第3の2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決58頁1行目の「こと,」の次に次のように加える。 「前記1(3)カのとおり,被控訴人については,前記検診結果や過去の入寮,退寮等の経過に照らし,集団生活になじみ難い事情があったものと推認されること,」(3) 被控訴人の当審における拡張請求に係る訴えについて上記の訴えの拡張の実質は,原審以来の訴え,すなわち,保護の種類及び方法を居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助とする生活保護を開始する旨の決定(処分)の義務付けの訴えに,当審において,別表に記載のとおりの扶助費の支給(事実行為)の義務付けの訴えを追加したものである。しかし,当裁判所は,この拡張(追加)に係る部分の訴えは,不適法であって,却下すべきものと判断する。その理由は,原判決の事実及び理由の第3の3(2)(原判決61頁8行目から62頁2行目までに限る。)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決61頁8行目の「なお」から14行目の「あるとしても,」を「被控訴人の上記拡張請求は,行政事件訴訟法3条6項1号所定の非申請型義務付けの訴えであると解されるが,」に改める。 4 争点3について当裁判所も,被控訴人の扶助費の支払請求は理由がないと判断する。その理由は,原判決の事実及び理由の第3の3(1)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決61頁7行目の末尾の次に次のように加える。 「以上と異なる前提に立つ被控訴人の主張は,採用することができない。」 5 まとめ以上 (1)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決61頁7行目の末尾の次に次のように加える。 「以上と異なる前提に立つ被控訴人の主張は,採用することができない。」 5 まとめ以上によれば,被控訴人が当審において拡張した訴えは却下すべきである。そして,被控訴人の原審以来の請求については,被控訴人の本件却下決定の取消請求及び生活保護を開始する旨の決定の義務付けの請求は認容すべきであり,被控訴人の扶助費の支払請求は棄却すべきであって,以上と同旨の原判決は相当であり,控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴(上記訴えの却下に係る部分を除く。)はいずれも理由がない。 東京高等裁判所第20民事部 裁判長裁判官春日通良 裁判官金子直史 裁判官佐藤美穂

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