平成14(ワ)10105 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成17年4月7日 東京地方裁判所
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判決文本文20,159 文字)

平成14年(ワ)第10105号損害賠償請求事件 主文 1 被告Y1は,原告に対し,金230万円及びこれに対する平成11年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告Y1に対するその余の請求及び被告大学に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告と被告大学との間では,原告の負担とし,原告と被告Y1との間では,これを3分し,その1を同被告の,その余を原告の各負担とする。 4 この判決第1項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,各自金1200万円及びこれに対する平成11年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告大学の大学院科目履修生で留学生の原告が,担当教授である被告Y1から,同被告と原告を含む学生との懇親会の後,二人でホテルのラウンジにおいて飲もうと誘われ,これに応じたところ,帰宅するまでの間に,卑猥な言葉をかけられたり,数回にわたり胸を触られるなどされ,さらに,その後,ゼミにおいても冷遇されるなどのセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」という。)を受けたなどとして,被告Y1については,当該セクハラ行為等を不法行為として,被告大学については,良好な研究・学習環境を提供すべき信義則上の義務の違反があるとして,それぞれ1200万円の損害賠償を求めている事案である。 第3 前提事実(当事者間に争いがないか,括弧内の証拠及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。) 1 当事者(1) 原告は,平成9年4月から平成11年3月まで,被告大学大学院人間文化研究科(以下「人文研究科」という。)に研究生として在籍し,同年4月から被告大学大学院の教育人間学特論,教育方法学 事者(1) 原告は,平成9年4月から平成11年3月まで,被告大学大学院人間文化研究科(以下「人文研究科」という。)に研究生として在籍し,同年4月から被告大学大学院の教育人間学特論,教育方法学特論及び教育社会学演習の科目等履修生となっていたものである。 (2) 被告大学は,お茶の水女子大学及び同大学院を運営する国立大学法人である。 (3) 被告Y1は,平成4年1月に被告大学の教授となり,平成10年4月に人文研究科の教授となったものである。 2 原告が被告Y1のゼミを受講するまでの経緯(1) 原告は,平成11年3月上旬,指導教官の第一希望を文教育学部長A(以下「A学部長」という。),第二希望を被告Y1として,被告大学の同年度博士課程を受験したが,不合格となった。 人文研究科における博士課程入試のうち,受験生の論文を読んだ上で行う口述試験の試験官には可能な限り受験生が希望する指導教官を配置することとされているところ,同年度の原告の口述試験の試験官はA学部長,被告Y1及び文教育学部教授B(以下「B教授」という。)であった。 (2) 原告は,平成11年3月中旬,翌平成12年度の博士課程入試の再受験のために必要な研究・指導を受ける目的で,被告Y1に科目等履修生としての受け入れを手紙で依頼し,同年4月から,被告Y1が担当する教育方法学特論(以下「本件ゼミ」という。)の科目等履修生になり,本件ゼミを受講するとともに,被告Y1担当の文教育学部授業科目教育方法学概論についても被告Y1の許可を得て聴講した。 また,原告は,A学部長の教育人間学特論及びB教授の教育社会学演習の科目についても科目等履修生として登録した。 3 原告が被告Y1の本件ゼミを受講していた際の経緯(原告は,この間にセクハラ行為があったと主張する。)(1) 平成1 学特論及びB教授の教育社会学演習の科目についても科目等履修生として登録した。 3 原告が被告Y1の本件ゼミを受講していた際の経緯(原告は,この間にセクハラ行為があったと主張する。)(1) 平成11年5月18日,被告Y1は,本件ゼミ終了後,原告と博士課程の大学院生Cを誘って,午後5時30分ころから,被告大学近くの寿司屋ともえ及びスナック京で飲食し,午後9時ころ店を出た。 その後,被告Y1と原告は,茗荷谷駅でCと別れ,営団地下鉄丸ノ内線の東京方面行きの電車に乗車していたところ,被告Y1は,原告に対しさらに30分くらいつきあうように誘い,後楽園駅で原告が下車したのに伴い,被告Y1も下車し,同駅からタクシーに乗車して千代田区大手町所在のパレスホテルに向かった。 午後9時30分ころパレスホテルに到着すると,被告Y1及び原告はラウンジにおいて,酒を飲んだ。 その後,パレスホテルを出ると,被告Y1は,原告を連れて別のホテルに立ち寄り,空室の有無を確認したが,満室で部屋を取ることはできなかった。 そこで,被告Y1は,原告をタクシーで送るといい,原告のマンションがある北区王子まで同乗し,一緒に下車した後,原告と別れ,帰宅した。 (2) 原告は,その後,同月25日から同年9月21日までの間,被告Y1の本件ゼミに出席していたが,同月27日,被告Y1に今までの指導へのお礼等を書いた手紙を出し,被告Y1の本件ゼミの履修及び科目の聴講を中止した。 4 原告が被告Y1の本件ゼミの受講を中止した後の経緯原告は,被告Y1の本件ゼミの受講を中止した後も,A学部長及びB教授の科目の聴講を継続したものの,平成12年度の被告大学の博士課程の受験を断念し,平成11年10月から,東京大学大学院で聴講しながら同大学院の受験の準備を行い,平成12年12月,同大学院修士課程 教授の科目の聴講を継続したものの,平成12年度の被告大学の博士課程の受験を断念し,平成11年10月から,東京大学大学院で聴講しながら同大学院の受験の準備を行い,平成12年12月,同大学院修士課程を受験したが,合格しなかった。 5 原告が被告Y1によるセクハラを訴えた端緒(1) 平成11年9月22日,原告は,D助教授に対し,被告Y1と同年5月18日パレスホテルに同行した際,セクハラを受けた旨を話した。 (2) 同年10月27日,原告はセクハラ相談員である人文研究科教授Eという。)及びD助教授に対して,被告Y1によるセクハラ被害の申出を行った。そこで,同年11月9日,E教授及びD助教授は,被告Y1から事情を聞いた上,これを被告大学におけるセクシュアル・ハラスメント防止対策委員会(以下「防止対策委員会」という。)に報告した。 6 被告大学におけるセクシュャル・ハラスメント防止に関する指針被告大学では,学生,教職員等の人権侵害の発生防止と発生した人権問題の解決に当たるため,被告大学人権憲章が平成11年2月23日に定められ,その施行機関として人権委員会が設置され,人権問題に対処するため指針を策定するなどの措置を講ずることとされている。そして,人権侵害のうち,被告大学におけるセクハラに関しては,被告大学セクシュアル・ハラスメント防止に関する指針(以下「セクハラ防止指針」という。)が,同日付けで,要旨,次のとおり定められている(乙1)。 すなわち,セクハラがあったときの救済措置として,相談窓口の設置及び相談員の配置,防止対策委員会を設置して自主的解決,苦情処理のための支援を行うこと(4条),セクハラ救済の申出があった場合には,学長は,防止対策委員会の下にセクシュアル・ハラスメント調査委員会(以下「調査委員会」という。)を設置し,防止対策委員会は 情処理のための支援を行うこと(4条),セクハラ救済の申出があった場合には,学長は,防止対策委員会の下にセクシュアル・ハラスメント調査委員会(以下「調査委員会」という。)を設置し,防止対策委員会は,調査委員会の調査結果を受けて,人権委員会に対して調査結果を報告するとともに,必要に応じて講ずべき措置を提言すること,学長はセクハラの事実が明らかになった場合には必要な措置を講ずること等が規定されている(5条,6条)。 7 被告Y1に対する懲戒処分の経緯(1) 平成11年11月12日,防止対策委員会は,E教授から原告によるセクハラ相談の概要報告を受け,調査が必要と判断し,同月22日,人権委員会にその旨を報告し,F学長は,人権委員会の報告を受けて防止対策委員会の下に調査委員会を設置することを決定した。調査委員会委員長には互選により生活科学部教授G(以下「G教授」という。)が選出された。 その後,調査委員会は,原告及び被告Y1のほか関係者の聴取を行った上,その調査結果を防止対策委員会に報告し,防止対策委員会は,これを受けて,原告の申出の被告Y1によるセクハラがあったと判断し,平成12年3月8日,人権委員会にその旨報告した。その後,人権委員会は,F学長に対して被告Y1を懲戒処分に付すべきである旨報告した。 (2) F学長は,人権委員会からの報告に基づき,同年5月24日,被告Y1を懲戒処分に付すことが適当か否かについて評議会に諮った。評議会は,教育公務員特例法に基づく学長の審査に付すことを決定し,事実関係の調査,審査説明書案の作成のため,評議会の下にF学長,G教授(調査委員会委員長)ら12人の委員で構成される評議会特別調査委員会(以下「特別委員会」という。)を設置した。 (3) 同日,評議会議長であるF学長は,被告Y1を懲戒減給(6か月間俸給の月額1 G教授(調査委員会委員長)ら12人の委員で構成される評議会特別調査委員会(以下「特別委員会」という。)を設置した。 (3) 同日,評議会議長であるF学長は,被告Y1を懲戒減給(6か月間俸給の月額10分の1)の処分に付すことが適当か否かの審査を行うため,被告Y1に対して審査説明書を交付した。 (4) その後,評議会における被告Y1の口頭陳述,電子メールを利用した原告からの事情聴取,パレスホテルから原告のマンションまでの実地調査等を経た上,平成13年2月8日,評議会は,被告Y1に対し,懲戒処分として停職3か月とすることを決定し,F学長は,被告Y1に対し,その旨の処分書及び処分説明書を交付した。 (5) 被告Y1は,これに対し,人事院に不服申立てを行ったが,人事院は,平成15年6月27日,上記懲戒処分を承認する旨の判定をした(丙88の2)ので,同処分の取消訴訟を提起した。 第4 争点及び当事者の主張争点は,①被告Y1が原告に対し,セクハラ行為等の不法行為をしたか,②被告Y1がセクハラ行為等の不法行為をしたとして,被告Y1の原告に対する民事上の損害賠償責任の有無,③被告Y1がセクハラ行為等の不法行為をしたとして,被告大学の信義則上の義務違反による損害賠償責任の有無,④被告らが負うべき損害賠償額である。 1 争点①(被告Y1のセクハラ行為等の有無)(1) 原告の主張ア原告は,平成12年度の被告大学博士課程の受験のため,平成11年4月から被告Y1の担当する本件ゼミを受講していたところ,被告Y1から本件ゼミ終了後の懇親会等で以下のとおりの行為を受けたものであり,これらの被告Y1の行為は原告に対するセクハラであって,原告の性的自由及び良好な環境の下で研究・学習する権利を侵害するものであり,不法行為に当たる。 (ア) 平成11年5月18日 を受けたものであり,これらの被告Y1の行為は原告に対するセクハラであって,原告の性的自由及び良好な環境の下で研究・学習する権利を侵害するものであり,不法行為に当たる。 (ア) 平成11年5月18日の件① 原告は,同日,本件ゼミ終了後,被告Y1とCとともに,午後5時30分ころから被告大学近くの寿司屋ともえで飲食したところ,被告Y1から,原告が平成11年度の博士課程入試で不合格になったことに触れ,自分が不合格としたこと等を言われた。 その後,原告は,被告Y1及びCとスナック京で飲食した後,午後9時ころ店を出て,茗荷谷駅でCと別れ,被告Y1とともに地下鉄に乗車していたところ,その車内等で,被告Y1から30分くらいつきあうように誘われた。原告としては帰宅することを望んでいたが,被告Y1からの誘いを断り切れず,これに応じた。 ② 原告は,被告Y1に誘われて後楽園駅からタクシーに乗車してパレスホテルに向かい,午後9時30分ころ同ホテルに到着した。その際,原告は,被告Y1から,ラウンジまでの上りエスカレーター内で肩に手を置かれ,ラウンジにおいて,酒を飲みながら,「私は機能できないんだ,つまり男としての性機能が…。ただ,君の白い肌を見て,触りながら,一晩を君と過ごしたい,それだけ」などと,原告と性的関係を望んでいるような発言をされた。 さらに,ラウンジを離れた後は,下りエレベーター内で肩を触られた上,地下1階に降りた後,キスをされたり,胸を触られた。 ③ パレスホテルを出た後,原告は,帰宅を望み,被告Y1が原告の荷物を持っていたためこれを返してくれるよう求めたが,被告Y1は,これに応じず,原告を連れて別のホテルに立ち寄り,空室の有無を確認したが,満室で部屋を取ることはできなかった。 このため,被告Y1は,原告をタクシーで送るといい,自分と原 う求めたが,被告Y1は,これに応じず,原告を連れて別のホテルに立ち寄り,空室の有無を確認したが,満室で部屋を取ることはできなかった。 このため,被告Y1は,原告をタクシーで送るといい,自分と原告の荷物を持って先にタクシーに乗り込み,原告の荷物を自分の膝の上に置き,原告のマンションがある王子まで行った。 その際,被告Y1は,車中で左手で原告の体に触り,原告の指を自分の口に入れたりし,原告がやめるようにいうと,「しー」と自分の口に人指し指を当てた。 ④ 午後11時ころ,タクシーが原告のマンション近くに着くと,被告Y1は,自分と原告の荷物を持って降り,原告のマンションの入り口付近で原告に抱きつき,胸を触るなどし,さらに,逃げる原告を追いかけた上,セーターを脱がそうとするなどの行為をした。これに対し,原告が,いとこが原告のマンションに泊まっていると申し向けると,被告Y1は,持っていた原告の荷物を原告に渡して,帰っていった。 (イ) 平成11年5月18日以降の被告Y1の原告に対する言動原告は,同日以降の本件ゼミ,本件ゼミ後の懇親会等においても,同年6月8日には,被告Y1とCとの懇親会でY1に手を触られ,同月下旬には,研究室で被告Y1に相談するため待っていたところ,被告Y1から背後から触られるようなそぶりを受け,同年7月13日には,原告が本件ゼミで発表を行う予定であったところ,被告Y1が義兄の通夜のため参加しなかったので,被告Y1の指導を受けるため,日程の変更を希望したが,認められず,同年9月中旬には,被告Y1に呼ばれたため研究室を訪れたにもかかわらず,研究等に係る事項を伝えられるでもなく,顔を見つめられながら,研究室は暑いね,燃えちゃいそうだねなどとの発言を受け,他方で,他の韓国留学生が訪れると,被告Y1は,その研究の話をし続けるなど わらず,研究等に係る事項を伝えられるでもなく,顔を見つめられながら,研究室は暑いね,燃えちゃいそうだねなどとの発言を受け,他方で,他の韓国留学生が訪れると,被告Y1は,その研究の話をし続けるなど,原告を冷遇するような対応をした。 (ウ) 以上のような被告Y1の行為がもとで,原告は被告大学大学院を去らざるを得なくなり,このような被告Y1の行為はセクハラとして,不法行為に当たることは明らかである。 イまた,被告Y1は,代理人を通じて,本件とはかかわりのない原告の戸籍,住民登録,出入国記録等を無断で調査し,原告のプライバシーを侵害した上,原告に対し,名誉毀損罪で告訴するかのような手紙を送り,原告を威圧した。 このような被告Y1の行為もまた,前記のセクハラ行為と併せて,原告に対する不法行為に当たる。 (2) 被告Y1の主張ア被告Y1は,セクハラに当たるような行為はしていない。 (ア) 平成11年5月18日の件同日,まず,被告Y1が原告及びCとともに寿司屋ともえ及びスナック京で飲食し,その際,原告の平成11年度の博士課程入試に不合格となったことについて言及したことはあるが,これはあくまで翌年度は合格できるよう原告を励ましただけにすぎない。 また,その後,原告とともにパレスホテルに行き,ラウンジで酒を飲み,原告をそのマンションまで送ったことはあるが,これは懇親の一環として原告に夜景を見せるために行き,その後,原告を自宅まで送り届けただけにすぎない。原告が主張するように,被告Y1が原告に対し,性行為を望むことをほのめかすような発言や,キスをしたり,胸を触るなどしたことはない。 (イ) 平成11年5月18日以降についてそして,同日以降,被告Y1が原告に対し手をさわり,ゼミにおいて冷遇するといったセクハラ行為をしたこともない。かえ したり,胸を触るなどしたことはない。 (イ) 平成11年5月18日以降についてそして,同日以降,被告Y1が原告に対し手をさわり,ゼミにおいて冷遇するといったセクハラ行為をしたこともない。かえって,原告は,被告Y1からセクハラを受けたという同日以降も,被告Y1の本件ゼミに参加しており,その際において特段変わった様子を見せておらず,原告に茶器セットを送り,また,本件ゼミの聴講を中止する際にも被告Y1に対しお礼の手紙を書くなど,その対応に原告が被告Y1からセクハラ行為を受けたようなことをうかがわせる点はない。 (ウ) 被告Y1のセクハラ行為があったとする原告の供述(訴訟外における陳述等を含む。以下同じ。)は変遷しており,その他関係者の供述も含め,信用性がない。 原告が実際には存在しない被告Y1のセクハラ行為についてD助教授らに告げるに至ったのは,被告大学大学院における本件ゼミ等の聴講をやめ,東京大学大学院の講義等の聴講をしようとしたところ,その理由付けとして便宜上出されたものにすぎず,これが被告大学の事情聴取等によって,話がふくらまされ,存在しない被告Y1のセクハラ行為が取りざたされるに至ってしまったものにすぎない。 イまた,被告Y1が,代理人を通じて原告の戸籍等を調査したことはあるが,これは原告が結婚しているかなど,その供述の信用性を調査するためのものであり,何ら不法行為に当たるものではない。 2 争点②(被告Y1の責任の有無)(1) 被告Y1の主張被告Y1は,原告の主張するようなセクハラ等を行ったことはないが,仮に被告Y1の行った行為が原告に対する不法行為となり得るとしても,これは公務員が公権力の行使としてその職務上行ったものであるから,国家賠償法により,被告Y1は原告に対して民事上の損害賠償責任を負わない。 ( 1の行った行為が原告に対する不法行為となり得るとしても,これは公務員が公権力の行使としてその職務上行ったものであるから,国家賠償法により,被告Y1は原告に対して民事上の損害賠償責任を負わない。 (2) 原告の主張被告Y1の行為は,セクハラ,プライバシー侵害等として不法行為に当たることは明らかであり,このような行為は公務員が公権力の行使としてその職務上行ったものとは到底評価され得ず,被告Y1が国家賠償法により責任を負わないとされることはない。 3 争点③(被告大学の責任の有無)(1) 原告の主張被告大学は,原告に対し,教育関係に基づき,信義則上,良好な学習,研究環境が害され,性的自由が害されることのないようにする義務を負うところ,当該義務を懈怠したものである。 具体的には,被告大学は,一般的にセクハラ被害防止のための啓発及び研修体制が不十分であり,また,被告Y1がセクハラを繰り返していたことを認識していたか,認識し得たにもかかわらず,被告Y1に対するセクハラ防止の措置をとらなかったものであり,このため,被告Y1の原告に対するセクハラが発生した。したがって,被告大学は,被告Y1のセクハラの発生を防止する義務があるにもかかわらず,これに違反したものである。 また,原告が被告Y1からセクハラを受けた後については,被告大学は,セクハラ被害が発生した場合に速やかな被害回復措置をとる義務があるにもかかわらず,原告に対し,十分な支援,相談体制を提供せず,代替の教員の指導を提供することもなくこれを怠り,また,被害救済手続において適切かつ十分な説明を行った上で同意(インフォームド・コンセント)を得る義務及び被害救済手続による二次的被害を防止すべき義務があるにもかかわらず,被告Y1の懲戒処分手続につき,事前の説明もなく,長期間にわたり事情聴取等に った上で同意(インフォームド・コンセント)を得る義務及び被害救済手続による二次的被害を防止すべき義務があるにもかかわらず,被告Y1の懲戒処分手続につき,事前の説明もなく,長期間にわたり事情聴取等につき原告を拘束したものであって,当該義務にも違反し,さらに,セクハラを行った加害者である被告Y1からの報復を防止する義務があるにもかかわらず,被告Y1の原告に対する戸籍等の調査によるプライバシー侵害,原告への手紙による威圧等を防止しなかったものである。 したがって,被告大学は,以上の信義則上の義務違反により,原告に対して損害賠償責任を負う。 (2) 被告大学の主張被告大学においては,一般的にセクハラ被害に関してセクハラ防止指針を定めた上,相談員の配置等その防止措置をとっており,また,被告Y1が従前からセクハラを繰り返していたことを被告大学において認識していないし,認識し得る状態にもなく,被告大学において,被告Y1の原告に対するセクハラを予見し,これを防止することができる状況にはなかったものであり,この点について被告大学に原告に対する信義則上の義務違反を観念することはできない。 また,被告大学においては,被告Y1からセクハラを受けた原告に対し,セクハラ防止指針に基づき,その心情に配慮し,手続の経過として予測できる限りで説明をした上,相談員による相談,調査委員会による調査等の適切な措置を講じたものである。そして,被告大学においては,セクハラ被害に係る相談員,保健管理センターの医師及び看護士,学生相談室のカウンセラー等が存在し,原告においてその利用が可能であり,また,代替の教員については,原告から特に申し出がなかったことからその提供について検討する状況になかった。さらに,被告Y1の代理人を通じての調査については,被告大学において防止すべきもの 可能であり,また,代替の教員については,原告から特に申し出がなかったことからその提供について検討する状況になかった。さらに,被告Y1の代理人を通じての調査については,被告大学において防止すべきものとまではいえず,また,被告Y1から原告への手紙については,これを被告大学において予測し,防止し得る状況にはなかった。 したがって,被告大学において,原告が主張するような義務違反をしたことはなく,損害賠償責任を負うものではない。 4 争点④(損害賠償額)(1) 原告の主張原告が,被告Y1のセクハラ行為等及び被告大学の前記義務違反によって被った損害は,以下のとおりであり,合計1200万円を請求する。 ア経済的損害次のとおり合計550万円を下らないものであり,本件ではその内金500万円を請求する。 (ア) 被告Y1のセクハラ行為により従前の住居からの一時避難や転居を余儀なくされたことによる転居費用,家賃,ホテル利用料等300万円(イ) 被告Y1のセクハラ行為等によって外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)に罹患したことから発生した精神的及び身体的症状に対する治療費250万円イ慰謝料少なくとも1000万円を下らず,本件では,その内金500万円を請求する。 ウ弁護士費用 200万円(2) 被告Y1の主張争う。殊に,原告の主張のうち,被告Y1のセクハラ行為等により従前の住居からの一時避難や転居にかかったという費用については立証がなく,また,原告がPTSDに罹患したという点についても立証がない。 第5 当裁判所の判断 1 争点①(被告Y1のセクハラ行為等の有無)(1)ア前提事実に,証拠(甲2ないし 用については立証がなく,また,原告がPTSDに罹患したという点についても立証がない。 第5 当裁判所の判断 1 争点①(被告Y1のセクハラ行為等の有無)(1)ア前提事実に,証拠(甲2ないし7,9,11,12の1・2,13,17,18の3,20,29,35ないし37,38の1ないし3,乙8,9の1・2,10,11,丙3,16ないし20,21の1・2,22の1ないし4,23の1・2,24,25,35,38,39,42の1ないし3,48,50ないし54,62ないし64,67,68,原告,被告Y1,証人E)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認定することができる。 (ア) 原告は,平成11年3月上旬,被告大学の博士課程を受験し,不合格となった後,翌平成12年度の博士課程入試の再受験のために必要な研究指導を受ける目的で,平成11年4月から,被告Y1が担当する本件ゼミの科目等履修生となった。 (イ) 平成11年5月18日,被告Y1は,本件ゼミ終了後,原告とCを誘って,午後5時30分ころから被告大学近くの寿司屋ともえで飲食した。その際,被告Y1は,原告が前年度末の博士課程入試で不合格になったことに触れ,自分が不合格としたこと,不合格とした理由等を述べ,来年はなるべく入れたいねと話した。 (ウ) 原告,被告Y1及びCは,さらにスナック京で飲食し,午後9時ころ店を出て,被告Y1と原告は,茗荷谷駅で行き先の違うCと別れ,営団地下鉄丸ノ内線の東京方面行きの電車に乗り,その車内で,被告Y1が原告に対し30分くらいつきあうように誘い,原告が当初から乗換え予定の後楽園駅で下車したのに伴い,被告Y1も下車し,原告が被告Y1の誘いに応じることになった。その際,原告は被告Y1の誘いに対し,積極的に応じたものではなく,被告Y1が繰り返し原告を誘い,これに 予定の後楽園駅で下車したのに伴い,被告Y1も下車し,原告が被告Y1の誘いに応じることになった。その際,原告は被告Y1の誘いに対し,積極的に応じたものではなく,被告Y1が繰り返し原告を誘い,これに原告はやむを得ず応じたものである。 (エ) 被告Y1は,原告と同駅からタクシーに乗車し,従前からよく利用していた千代田区大手町所在のパレスホテルに行くように運転手に指示し,原告に対して,自分がたびたび使っているパレスホテルのラウンジで話をしようと告げた。 (オ) 被告Y1は,パレスホテルに到着すると,原告を伴い,ラウンジのある10階に向かった。その際,被告Y1は,上りエスカレーター内で原告の肩に手を置いた。また,被告Y1は,ラウンジにおいて,酒を飲みながら,原告と性的関係を望んでいるような発言をした。 (カ) ラウンジで酒を飲んだ後,被告Y1は,原告とともに自分の鞄と原告の荷物を持ってエレベーターに乗り,下りエレベーター内で原告の肩に触り,地下1階で降りて,原告にキスをしたり,胸を触ったりした後,原告とパレスホテルを出た。 (キ) 被告Y1は,原告から荷物を返してくれるよういわれたが,これに応じず,原告を連れて別のホテルに立ち寄り,空室の有無を確認したが,満室で部屋を取ることはできなかった。 (ク) 被告Y1は,原告をタクシーで送るといい,自分と原告の荷物を持って先にタクシーに乗り込み,その荷物を自分の膝の上に置き,原告のマンションがある北区王子まで同乗した。被告Y1は,車中で左手で原告の体に触り,原告の指を自分の口に入れたりした。 (ケ) タクシーが原告のマンション近くに着いた後,被告Y1は,原告とともに下車し,原告のマンションの入り口付近で原告に抱きつき,胸を触るなどし,原告が,原告のマンションにいとこが泊まっているのに,こんなことをしていい 告のマンション近くに着いた後,被告Y1は,原告とともに下車し,原告のマンションの入り口付近で原告に抱きつき,胸を触るなどし,原告が,原告のマンションにいとこが泊まっているのに,こんなことをしていいのかというと,被告Y1は,持っていた原告の荷物を原告に渡して,千葉市の自宅に再びタクシーに乗って帰っていった。 (コ) 原告は,平成11年9月27日,被告Y1に今までの指導へのお礼等を書いた手紙を出し,被告Y1の本件ゼミの履修及び科目の聴講を中止し,また,平成12年度の被告大学の博士課程の受験を断念した。 イ(ア) 以上に対して,被告Y1は,平成11年5月18日における原告の主張する被告Y1の行為はいずれも存在せず,この点についての原告の供述は変遷しており,その他関係者の供述も含め,信用性がなく,また,原告が被告Y1からセクハラを受けたと主張する同日以降の原告の対応において,被告Y1からセクハラ行為を受けたようなことをうかがわせる点はないなどと主張する。 (イ) この点につき,確かに,原告は,平成11年5月18日における被告Y1の原告に対する行為について,①当初,同年10月27日にE教授及びD助教授に相談した際には,パレスホテルに誘われ,帰宅しようとしても被告Y1が原告の荷物を離さず,別のホテルに連れられ,また,タクシー内で体を触られたことを供述するにとどまっていたところ,②その後,同年12月10日の調査委員会の事情聴取時には,被告Y1からパレスホテルのラウンジで原告との性行為を望んでいるような話が出たこと等の話が追加され,③平成12年2月21日の調査委員会の事情聴取時には,パレスホテルのエレベーター内で手を肩に置かれたこと等の話が追加され,④さらに,同年6月15日及び16日のG教授からの報告依頼に応じたメールにおいて,パレスホテルの地下1 査委員会の事情聴取時には,パレスホテルのエレベーター内で手を肩に置かれたこと等の話が追加され,④さらに,同年6月15日及び16日のG教授からの報告依頼に応じたメールにおいて,パレスホテルの地下1階で被告Y1からキスをされたり,胸を触られ,また,原告のマンション付近で,キスをされたり,胸を触られ,洋服をおろされそうになり,さらに,原告が逃れようとしたところ,原告のマンション近くの楽器店の前でキスされ,下腹部の方に手を入れられるなどのわいせつ行為を繰り返し受けたこと等の話を追加するに至っている(甲3ないし5,乙6,丙42の1ないし3)。また,原告のマンション付近での被告Y1の行動については,原告が被害を受けた場所等について供述に変遷がみられる(丙50ないし54)。 (ウ) しかしながら,原告において,被告Y1からのセクハラ被害について供述するに当たり,羞恥心や,あるいは,本件ゼミでの研究等を継続し,平成12年度における博士課程の受験を念頭に置いたときに,本件ゼミの担当教授である被告Y1との関係の決定的な悪化をおそれ,当初は被告Y1の行為の一部のみを供述したが,その後,被告大学における事情聴取の進行に従い,被告Y1の行為の詳細について供述していくようになったとみることができ,当初言及のなかった被告Y1の行為が追加されていったことについて,原告の供述に信用性がないということはできない。特に,平成12年6月15日及び16日に原告がメールで被告Y1の行為について詳細を明らかにするに至っているのは,同年6月14日に,特別委員会委員のG教授から,原告に対して電話で被告Y1が原告の申し出たセクハラをほとんど否定していることを告げられ,改めて電子メールで事実関係を述べるように求められたこと等に起因するもので,このような説得を受けて,原告が詳細を明らかに て電話で被告Y1が原告の申し出たセクハラをほとんど否定していることを告げられ,改めて電子メールで事実関係を述べるように求められたこと等に起因するもので,このような説得を受けて,原告が詳細を明らかにしたものとみることができる(前提事実,丙42の1ないし3,原告)。 (エ) また,原告は,E教授,D助教授らのセクハラ相談員や調査委員会等の事情聴取のほか,友人であるHや知人である他の大学の教授に被告Y1から受けた行為について相談をしていることが認められ(甲11,20,乙11,丙22の1ないし4,原告),このような相談をしていることは,原告が真に被告Y1から前記認定のような行為を受けたことをうかがわせるものである。 (オ) さらに,被告Y1の供述(丙20,67,68,被告Y1)と比較してしてみるに,被告Y1においては,平成11年5月18日に,原告の主張するようなセクハラ行為をしたことはないと供述するものの,他方で,被告Y1自身,①原告が積極的でないにもかかわらず,被告Y1が繰り返し誘うことによってパレスホテルに行くことになったこと,②原告を誘ったことについて,「私と学生,教師と学生というよりは,私が男であり,原告が女である…男と女の関係といわれれば,それはそうでしょうね」などと,原告を学生として親睦を深めるつもりで誘ったというより,原告を女性としてつきあわせるつもりで誘ったことを認める供述をし,原告において被告Y1の誘いを必ずしも歓迎していたものではなく,また,被告Y1において,学生との親睦を深める目的で原告を誘ったのではないことをうかがわせ,この点について原告の供述に沿うものとなっている。 また,被告Y1は,③下りエレベーターで原告に支えられただけとするものの,原告との身体的接触を認めていること,④タクシーから降りた後,原告のマンション近く ついて原告の供述に沿うものとなっている。 また,被告Y1は,③下りエレベーターで原告に支えられただけとするものの,原告との身体的接触を認めていること,④タクシーから降りた後,原告のマンション近くで,原告に励ましのつもりで軽く体を抱きしめただけとするものの,原告との身体的接触を認めており(丙20,被告Y1),程度の差等はあるものの,原告の供述する場所において身体的接触があったことを認めるものであり,ことに,原告のマンション近くで原告を抱きしめたとする供述については,程度として軽くとしているものの,およそ,それまでに原告が被告Y1の誘いに積極的に応じたことをうかがわせない状況からして,抱きつくこと自体が通常あり得ないことというべきであり,被告Y1の供述をもってしても,少なくとも,原告の望まない身体的接触のあったことが認められるものである。 そして,被告Y1は,⑤酒の影響や入れ歯の痛みから,パレスホテルのラウンジでは意識がもうろうとし,結局ほとんど眠ってしまっており,会話をしたことはないかのように供述するが,酒の影響や入れ歯の痛みで意識がもうろうとしている中で,原告をわざわざ誘うということ,しかも,自分から誘っておきながら眠ってしまったというのであって,極めて不自然であり,また,仮に眠ってしまったとして,目覚めてから原告に対し具体的にどのように謝罪したか,尋問において問われても返答に窮しており,この点からも不自然であって,これらのことからすれば,かえって,原告の主張する性的行為に係る言動をしたにもかかわらず,これをいえないでいることをうかがわせる。 さらに,被告Y1は,⑥パレスホテルの地下1階で原告にキス等したことはないと供述するが,本来パレスホテルを出るだけならば,よく利用しているホテルから出るために,その地下1階にいく必要がな せる。 さらに,被告Y1は,⑥パレスホテルの地下1階で原告にキス等したことはないと供述するが,本来パレスホテルを出るだけならば,よく利用しているホテルから出るために,その地下1階にいく必要がないことを十分に承知していたと推認されるところ,そこにわざわざ行っていることを認め,また,間違えて地下1階までいってしまったとも供述するが,そもそも被告Y1において出口を間違えるようなホテルではない上,ラウンジを出てからパレスホテルを出るまでに15分ほどの時間が経過しており,単に道を間違えたというには時間が経過し過ぎているし,また,その迷っていたという状況についても,すぐに1階に向かう階段が見つかってしかるべきところ(甲36,38の1ないし3),不自然にも階段を探して回ったかのように供述しており,このような供述からすれば,かえって,パレスホテルの地下1階で原告の主張するようなキスをしたり,胸を触るなどの行為をしたにもかかわらず,これをいえないでいることをうかがわせる。 加えて,被告Y1は,⑦パレスホテルを出た後,別のホテルに自分だけが宿泊するというわけでもなく原告とともに一度立ち寄り,空室がないとわかって立ち去ったことや,タクシーで原告のマンションに向かった後,被告Y1において千葉市の自宅に帰宅するには,原告のマンション前から再び移動を要するので,タクシーを降りる必要は全くないにもかかわらず原告のマンション前で降りているなど,極めて不自然な行動を取っており,被告Y1において原告を性的対象として,原告の主張するようなセクハラ行為をしようとする意図があったことがうかがわれる。 このような被告Y1の供述と比較するに,原告の供述の信用性が,その細部に至るまですべて認められるかはともかく,その大筋については認められるというべきであり,被告Y1の供 あったことがうかがわれる。 このような被告Y1の供述と比較するに,原告の供述の信用性が,その細部に至るまですべて認められるかはともかく,その大筋については認められるというべきであり,被告Y1の供述は,かえって一部原告の供述する被告Y1の行為の裏付けとなっているものといえる。 (カ) そして,平成11年5月18日以降の原告の被告Y1への対応については,被告Y1に対し茶器セットを送り,また,本件ゼミの聴講を中止するに当たって,被告Y1に手紙を出しているが,その中に被告Y1のセクハラへの批判がないこと等(丙15),被告Y1のセクハラ行為を糾弾するものとはなっていないことがうかがわれるが,これは,原告において,被告Y1との関係が悪化して本件ゼミの聴講等への支障や,本件ゼミ聴講中止後の被告大学大学院の他の科目履修への支障が生じることをおそれたためのものであると了解することができ,これをもって,原告の供述の信用性が失われるとはいえない。 (キ) したがって,原告の供述のうち,原告のマンション前での被害状況につき,被害場所等について供述が変遷している点等を踏まえると,原告の供述の細部に至るまですべて認められるかについてはともかく,少なくとも前記認定の限りで,平成11年5月18日における被告Y1の行為を認定することができる。 ウ他方で,原告は,平成11年5月18日以降にも,被告Y1から,本件ゼミ後の懇親会等で原告の手を触られ,また,本件ゼミにおいて冷遇されたなどとしてセクハラ行為があったと主張するが,同日における被告Y1のセクハラ行為があったことからして,原告がその後の被告Y1の行為についてもセクハラであると感じたとしても無理からぬところがあるが,原告の供述をもって直ちに不法行為に当たるような被告Y1の行為があったとまでは認めることができ からして,原告がその後の被告Y1の行為についてもセクハラであると感じたとしても無理からぬところがあるが,原告の供述をもって直ちに不法行為に当たるような被告Y1の行為があったとまでは認めることができないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 (2) 以上によれば,被告Y1が,平成11年5月18日に原告に対し,前記(1)ア(オ)ないし(ケ)の一連のセクハラ行為(以下「本件セクハラ行為」という。)をしたものであり,これは原告の性的自由ないし人格権を侵害するものであるから,不法行為に当たることは明らかである。 (3) 次に,原告は,被告Y1が,代理人を通じて,原告の戸籍等を無断で調査したことにより原告のプライバシーが侵害され,また,原告に対し,名誉毀損罪で告訴するかのような手紙を送って,原告を威圧したとして,これらの行為も不法行為に当たると主張する。 しかしながら,原告が結婚していたかどうかなどにつき,被告Y1のセクハラ行為についての原告の供述の信用性について重要な事実であったとまでいえないものの,全く無関係なこととはいい難く,代理人の調査それ自体をもって不法行為に当たるとまでいうことはできない。 他方,被告Y1から原告への手紙(甲41の1)については,原告に対し名誉毀損罪で告訴するかのような文言があり,被告Y1のセクハラ被害の申出の撤回を迫るような内容となっているが,被告Y1においてセクハラの事実につき,係争中であったこと等を考慮すれば,これ自体をもって不法行為に当たるとまでいうことはできない。 2 争点②(被告Y1の責任の有無)被告Y1は,原告に対し,前記のとおり本件セクハラ行為をし,これが不法行為に当たるところ,本件セクハラ行為は,被告Y1が原告の担当教授としての教育活動ないしこれに直接関連する会合等で行われたもの 被告Y1は,原告に対し,前記のとおり本件セクハラ行為をし,これが不法行為に当たるところ,本件セクハラ行為は,被告Y1が原告の担当教授としての教育活動ないしこれに直接関連する会合等で行われたものではなく,全く私的な懇親会が場所を変えて行われた後に,それぞれが帰宅する途中で行われたものであり,その内容としてはもちろん,行為の外形上も到底公務員がその職務を行うについてされたものということはできないから,被告Y1の本件セクハラ行為について,国家賠償法により,被告大学が賠償責任を負うことはなく,被告Y1が原告に対して民事上の損害賠償責任を負わないということはできない。 したがって,被告Y1は,原告に対し,本件セクハラ行為について,民法709条に基づき不法行為責任を負うものである。 3 争点③(被告大学の責任の有無)(1) この点について,被告大学において,原告が主張するようなセクハラ被害の発生を防止する義務を負い,また,一般的にセクハラ被害が発生した場合に速やかな被害回復措置をとり,被害救済手続において,適切かつ十分な説明を行った上で同意を得るなどし,被害救済手続による二次的被害を防止し,セクハラ加害者からの報復から被害者をできる限り保護すべきであるということができるところ,これを本件において検討するに,まず,被告大学において被告Y1のセクハラ行為を防止する義務違反があったのかについては,原告は,被告大学におけるセクハラの実態についてのアンケート(甲1)や,被告Y1の従前のセクハラ行為について触れる関係者の言い分を示した書面(甲19,21の1・2,22ないし25)等を提出している。しかしながら,被告大学において仮に当該アンケートにあるようなセクハラがあったとしても,前提事実のとおり,被告大学では平成11年2月23日付けでセクハラ防止指 2,22ないし25)等を提出している。しかしながら,被告大学において仮に当該アンケートにあるようなセクハラがあったとしても,前提事実のとおり,被告大学では平成11年2月23日付けでセクハラ防止指針を定めた上,相談員の配置,防止対策委員会等の設置をするなどしており,当時において,セクハラ被害の発生の防止等の対応として,不適切,不十分であったものとはいえない。また,原告提出の証拠を検討しても,その被害者は匿名であること等からして,これが風聞の域を超え,事実として確定できるものとはいえず,少なくとも当該証拠をもって,被告大学において被告Y1がセクハラを繰り返していたことを認識していたか,認識し得たとは到底いえない。したがって,被告大学において,被告Y1のセクハラ行為を事前に防止するための対応をとることは困難であったといわざるを得ず,この点について被告大学に信義則上の義務違反を認めることはできない。 (2) 次に,被告Y1の本件セクハラ行為が生じた後の被告大学の対応について検討するに,確かに,原告において被告大学に被告Y1によるセクハラ被害を相談した後,長期にわたる事情聴取等による重い負担を被ったことがうかがえるものの(原告),被告Y1において原告に対するセクハラ行為を否認し続けていた状況等にかんがみると,被告大学としては,原告のセクハラ被害の申出を受けた上,その心情にもできるだけ配慮した上で被告Y1に対する懲戒手続を進めたものというべきであり,各証拠に照らしても,被告大学において,原告に対する被害救済手続についての説明及び二次的被害を防止すべき義務に違反したとして損害賠償責任を負うものというべき事由を認めることはできない。また,原告に対する被害回復措置についても,被告大学において相談員等の相談窓口や保健管理センターの医師等の施設の提供をし に違反したとして損害賠償責任を負うものというべき事由を認めることはできない。また,原告に対する被害回復措置についても,被告大学において相談員等の相談窓口や保健管理センターの医師等の施設の提供をしており(弁論の全趣旨),また,原告から代替の教員を設ける申出があったにもかかわらず,これに応じなかったなどということも認められないことからすると,原告において被告Y1のセクハラ行為が心情に影を落とし,さらにその後の被告Y1への懲戒手続について原告に負担がかかったことは理解できるものの,これをもって被告大学の義務違反があったものとして損害賠償責任を認めるまでには至らないといわざるを得ない。 (3) さらに,原告は,被告Y1の原告の戸籍等の調査及び原告への手紙の送付を被告大学において防止すべきであったと主張するが,前記のとおり,原告の戸籍等の調査がそれ自体をもって不法行為になるとはいえないことからして,被告大学においてその調査を防止しなかったことが損害賠償責任を生じさせるものではなく,そもそも被告大学において被告Y1の代理人のする調査を予め防止すべき立場にあったということもできないし,また,被告Y1から原告に対する手紙を,被告大学において予測した上,これを防止すべきであったともいい難く,これらの点についても被告大学の責任を認めることはできない。 (4) したがって,被告大学において,信義則上の義務違反があるとして,原告に対する損害賠償責任を認めることはできない。 4 争点④(損害賠償額)(1) 被告Y1において不法行為責任が認められるところ,その損害賠償額について検討するに,まず,原告は,経済的損害として,被告Y1のセクハラ行為により従前の住居からの一時避難や転居を余儀なくされたことによる転居費用,家賃,ホテル利用料等の300万円を主張するが 償額について検討するに,まず,原告は,経済的損害として,被告Y1のセクハラ行為により従前の住居からの一時避難や転居を余儀なくされたことによる転居費用,家賃,ホテル利用料等の300万円を主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,また,原告がPTSDに罹患したものであり,精神的及び身体的症状に対する治療費として250万円を要すると主張するところ,原告がPTSDとなったことをうかがわせる証拠として甲42号証の1・2があるものの,これは平成14年3月28日付けで作成された精神科医の書面であり,このほかには診断書等の証拠はなく,これに至る経過が不明瞭であり,また,原告は,当初PTSDに罹患したとは主張しておらず,しかも,その治療費を証する証拠もないから,原告の上記主張を認めることはできない。 (2) 次に,原告が,本件セクハラ行為によって被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金員は,被告Y1の本件セクハラ行為の態様・程度,これにより原告がPTSDに罹患したとまでは認められないものの,多大な精神的苦痛を被ったことが明らかであること,その他本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮すれば,200万円をもって相当と判断する。 (3) そして,本件における弁護士費用相当損害金としては,30万円が相当である。 5 よって,原告の請求は,被告Y1に対し,230万円及びこれに対する不法行為日である平成11年5月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,同被告に対するその余の請求及び被告大学に対する請求についてはいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第44部裁判長裁判官杉山正己裁判官大畠崇 由がないから,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第44部裁判長裁判官杉山正己裁判官大畠崇史裁判官脇由紀は,転補のため,署名捺印することができない。 裁判長裁判官杉山正己

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