平成16(ワ)203 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成18年11月22日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文41,988 文字)

平成18年11月22日判決言渡平成16年第203号損害賠償請求事件( )ワ判決主文 被告は、原告らに対し、それぞれ660万円及びこれに対する平成13年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は、原告らに対し、それぞれ金2266万1866円及びこれに対する平成13年12月19日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要と当事者の主張 事案の概要本件は、亡A(以下「亡A」という)が、被告の設置及び運営するB病院。 (以下「被告病院」という)において、大腸癌の切除手術を受けたところ、。 約7か月後に転院先の病院で死亡したことにつき、被告病院担当医師には、早期にカテーテル感染症を疑ってカテーテルを抜去すべき義務を怠った過失があるとして、亡Aの相続人である原告らが、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償の請求をした事案である。 争点 (1)IVHカテーテルを早期に抜去すべき義務の有無 (2)被告病院担当医師の義務違反と死亡結果との因果関係(3)損害額 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は、別紙当事者の主張のとおりである。 第3当裁判所の判断 事実関係証拠(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。直前に示した証拠のページ番号を〔〕内に示す。以下同じ)によれば、次の事実が認められる。 。 (1)当事者等ア亡Aは、昭和5年3月30日生まれの女性であり、茶道具及び美術品の販売を行う「ギャラリーC」を営むかたわら ジ番号を〔〕内に示す。以下同じ)によれば、次の事実が認められる。 。 (1)当事者等ア亡Aは、昭和5年3月30日生まれの女性であり、茶道具及び美術品の販売を行う「ギャラリーC」を営むかたわら、ボランティア活動等を行っていた。亡Aは、平成13年12月19日に死亡した(甲A3〔1、甲〕A4〔1、2、甲B1、27ないし30。 〕)イ原告D(以下「原告D」という)は、亡Aの夫であり、原告Eは、亡。 Aの長男である(甲B1、2。 )亡Aには、他に二男F及び長女Gがいるが、両者ともに亡Aの本件損害賠償請求権の相続を放棄したため、同請求権は原告らが各2分の1ずつ相続した(甲C1、2。 )ウ被告は、肩書地において、病床数24床の被告病院を設置及び運営する。 、医師である。H(以下「H医師」という)は、被告の子であるとともに被告病院に勤務する医師であり、被告病院における亡Aの診療を担当した(争いのない事実。 )(2)入院に至る経緯ア平成13年4月24日(以下、特に断りのない限り、月日のみの記載は平成13年を指す、亡Aは、同月8日より足元がふらつき、頭痛がある。)と訴えて、被告病院を受診した。亡Aが被告病院を選択したのは、亡Aと 被告の妻が、ボランティア活動を通じての知り合いであったとの理由による(甲A3〔1、乙A1〔4、8、D〔2、H〔18。 〕〕〕〕)イ亡Aは、同月25日、被告病院で脳CT検査を受診したところ、同検査の結果から、脳に腫瘍及び梗塞が認められ、同月26日、被告病院に入院した(乙A1〔4、5、8。 〕)(3)手術の実施までア入院後、被告病院において、超音波検査、腹部レントゲン検査、内視鏡検査及びMRI検査等を実施したところ、脳腫瘍の原発巣は大腸であり、脳腫瘍は大腸癌の転移であることが判明 (3)手術の実施までア入院後、被告病院において、超音波検査、腹部レントゲン検査、内視鏡検査及びMRI検査等を実施したところ、脳腫瘍の原発巣は大腸であり、脳腫瘍は大腸癌の転移であることが判明した(乙A1〔9、10、13、15、17、H〔19。 〕〕)イ内視鏡検査の際には、全周性の狭窄のため、内視鏡が大腸内を通過できず、腹部レントゲン検査の結果ガスの貯留が認められたため、診察にあたったH医師は、腸閉塞直前の状態と判断し、絶食を指示した上で、5月2日、右鎖骨下に高カロリー輸液等のための中心静脈カテーテル(以下「IVHカテーテル」という)を留置し、高カロリー輸液を行った(乙A1。 〔14、乙A2〔3、乙A8〔1、H〔5、20。 〕〕〕〕)ウ同月8日、亡Aは、I病院に転院し、サイバーナイフによる脳腫瘍の手術を受け、同月9日、被告病院に帰院した(乙A1〔16ないし18、20ないし23、H〔2。 〕〕)エ同月12日、H医師は、亡A及び原告Dに対し、術後1週間ないし10日間で、飲水及び食事の開始が可能となり、術後1ないし2か月で退院が可能となる予定である旨を説明した(乙A1〔65。 〕)(4)大腸癌切除手術の実施同月22日、被告病院において、大腸癌の摘出手術が行われた。執刀は、H医師が行い、J大学医学部附属病院(以下「J大学病院」という)から。 手術の応援に来たK医師(以下「K医師」という)及びL医師が手術の助。 手を担当した。術式は、低位前方切除術で行われ、特に問題なく終了した(乙A1〔33ないし36、H〔17、K〔20。 〕〕〕)(5)被告病院における術後の経過ア術後7日目に当たる同月29日ころまでは、特に異常な所見は見られず、亡Aは、夫である原告Dと、通常どおりの会話ができる状態であり、同 K〔20。 〕〕〕)(5)被告病院における術後の経過ア術後7日目に当たる同月29日ころまでは、特に異常な所見は見られず、亡Aは、夫である原告Dと、通常どおりの会話ができる状態であり、同日には飲水が許可されて飲水し、尿道のバルーンカテーテルも抜去され、介助されながらもベッドを降りて自ら用を足せるようになった(乙A2〔6、7、27ないし46。 〕)イ亡Aは、同月30日午前7時に左腹部が少し痛いと訴えたが、同日朝に流動食を開始し、同月1日に絶食して以降、同月10日から15日にエニマクリン食を摂取したことを除くと、ほぼ1か月ぶりに経口摂食したところ、午後4時ころに38度7分の熱を発し、脈拍は104となり「胸が、えらい」と訴えたが、腹痛はなかった。発熱に対しては、解熱剤であるメチロンが投与されたが、流動食は継続され、午後8時には体温37度、脈拍73となった(乙A1〔46ないし48、乙A2〔6、7、45、4〕 。 〕)H医師は、カテーテル感染症及び腎盂腎炎とともに、縫合不全を疑い、胸部及び腹部のレントゲン撮影をしたが、小腸ガス及び大腸ガスが認められた以外に異常を示す所見は認められなかった。また、ドレーンからの排出液にも異常は見られなかった。H医師は、抗生剤をより広域スペクトラムのものに変更することとし(具体的には、同日まで投与していたスルペラゾンに代えてドイルを投与し、さらに6月1日からはチェナムを投与した、発熱の原因を検索するために、採血及び採尿をすることの指示をし。)て、経過観察とした(乙A1〔46、47、乙A2〔7、46、47、〕〕乙A8〔1、H〔7。 〕〕)ウ5月31日朝、亡Aは、流動食を摂取したが、同日午前10時に38度 3分の発熱があり、心拍数は114であった。発熱に対しては、解熱剤であ 46、47、〕〕乙A8〔1、H〔7。 〕〕)ウ5月31日朝、亡Aは、流動食を摂取したが、同日午前10時に38度 3分の発熱があり、心拍数は114であった。発熱に対しては、解熱剤であるメチロンが投与された。その30分後である午前10時30分に、亡Aは、非常に強い腹痛を訴えたため、看護師は、被告を呼び出した。同医師が診察を行ったところ、腹部に強い疝痛が見られたが、ドレーンからの排出液はきれいなままであった。また、同日の血液検査の結果は、白血球、が4900であり、CRPが2.99mg/dlであった。同日の診療録には「やはりleak(縫合不全)でしょう」との記載がある(乙A1〔48、51、乙A2〔8、47、48、乙A8〔2、H〔7。 〕〕〕〕)同日午後4時においても、38度8分の発熱が見られたため、午後5時、解熱剤であるベギータが投与された。午後6時には尿道バルーンカテーテルが留置され、これ以後、翌日の6月1日午前7時までの尿量は600mlであった(乙A2〔8、48、49。 〕)5月31日午後7時ころ、IVHカテーテルの滴下不良が見られたため、IVHセットの交換が行われた(乙A2〔48。 〕)エ6月1日午後零時15分ころ、亡Aに38度7分の発熱が見られ、心拍数は110程度であった。また、同日、腹部CT検査を行ったところ、低吸収域が数カ所見られたものの、明らかな膿瘍は見られなかった。同日午後4時ころ、再度、IVHカテーテルからの滴下速度が遅くなったため、H医師は、看護師に指示の上、末梢静脈にも点滴ルートを確保し、点滴を開始した。また、尿量は、上記ウのとおり、前日午後6時から午前7時までが600mlであったのに対し、6月1日午後4時から午後8時すぎまでは約60mlと、尿量の低下が見られ、血圧も85/50に低下し 開始した。また、尿量は、上記ウのとおり、前日午後6時から午前7時までが600mlであったのに対し、6月1日午後4時から午後8時すぎまでは約60mlと、尿量の低下が見られ、血圧も85/50に低下し、末梢ルートから血管作動薬であるイノバンの投与が開始された(乙A1〔48、51ないし53、乙A2〔49、50。 〕〕)同日午後9時ころ、再度、IVHカテーテルの滴下不良が生じ、側管から生理食塩水などを一気に注入して管を通す処置(フラッシュ)を行った が、改善は見られなかった。そこで、H医師は、翌日にIVHカテーテルを入れ替えることを指示し、そのままカテーテルを留置した。この時点では、亡Aに発熱はなかったが、不整脈があり、苦しいとの訴えがあった。 以後も、呼吸促迫気味であり、深大性呼吸も見られた。午後11時過ぎには、末梢からの点滴がもう1本追加され、尿量は翌日午前零時まで200mlと増加した(乙A1〔53、乙A2〔50、51、H〔10、11、〕〕 。 〕)オ同月2日午前5時、再度、IVHカテーテルの側管からフラッシュするも、滴下不良は改善しなかったため、午後零時にIVHカテーテルルートの入替えの処置を行った。このときに抜去したカテーテルの先端について培養検査をした結果、カンジダ菌が検出されており、その報告は同月4日以降にあった(乙A1〔52、55、乙A2〔52、53。 〕〕)同月2日の尿量は、午前7時から午前10時まで100mlと減少し、午後3時までは400mlと増加したものの、午後8時前まで100mlと再び減少した(乙A2〔53、54。 〕)また、同日、直腸造影検査が行われ、同日の診療録には「ガストロ造、影ではmajorleak(大きな縫合不全)はみられない。minor(小さなもの)があるかもしれない」との記載 3、54。 〕)また、同日、直腸造影検査が行われ、同日の診療録には「ガストロ造、影ではmajorleak(大きな縫合不全)はみられない。minor(小さなもの)があるかもしれない」との記載がされた(乙A1〔53。 〕)同日午後3時ころ、不整脈と頻脈が生じ、同日午後11時の時点では、亡Aの呼吸は、深大性となっており、頻脈及び不整脈が見られ、脈拍の140台まで上昇したが、ドレーンからの排出液はきれいなままであった(乙A1〔53、乙A2〔54、55。 〕〕)H医師は、同日、原告D等に対し、発熱があるので感染症が疑われる、感染源はIVHか腹部であると思われる、腹部には造影で明らかなもれはなかった旨を説明した(乙A1〔53。 〕)カ6月3日、午前7時から午後零時30分までの尿量は200mlであった が、その後、午後2時過ぎまで無尿の状態であった。午後3時30分には、39度7分の発熱があり、深大性呼吸、不整脈及び頻脈等が続いていた。 尿量は著しく減少しており、導尿しているウロガード管内に膿のかたまり様のものが付着していたため、午後3時には膀胱洗浄が行われた(乙A2〔56、57、58、H〔11、12。 〕〕)同日午後、H医師が、K医師及びL医師に相談したところ、縫合不全はなさそうである、中心は心不全か心臓喘息である、腸管に水が貯まっていて腸の動きが悪い、このため麻痺性イレウスとなっている、発熱の原因はカテーテル熱であろう、心不全の加療を行うべきとの返答であった(乙A1〔55。 〕)キK医師及びL医師は、同日午後7時頃、被告病院に来院した。同日午後9時頃、H医師は、K医師及びL医師に相談の上、IVHカテーテルを抜去し、末梢からの点滴を行った。そのころには、無尿となっており、バルーンカテーテルに膿様のものの付着が認めら 院に来院した。同日午後9時頃、H医師は、K医師及びL医師に相談の上、IVHカテーテルを抜去し、末梢からの点滴を行った。そのころには、無尿となっており、バルーンカテーテルに膿様のものの付着が認められ、膀胱洗浄が行われた(乙A1〔55、乙A2〔58、H〔33、K〔51。 〕〕〕〕)H医師、K医師及びL医師は、同日午後11時10分頃、腎不全及び心不全と診断した。同医師らが被告病院での治療は不可能と判断したことから、亡Aは、J大学病院に救急車で転院した(乙A1〔58、59、乙〕A2〔59、K〔11、12。 〕〕)(6)J大学病院での経過ア同月3日深夜から翌4日にかけての転院時には、亡Aは、意識がない状態であり、白血球は10000、CRPは25.1mg/dlであり、J大学病院では、敗血症性ショックとこれによる急性腎不全及び心不全との診断の下、ICUにて治療が開始され、再度、IVHカテーテル及びスワンガンツカテーテルが挿入された。翌日の検査では、β-D-グルカンは52、20pg/mlであり、6月5日の血液検査の結果、カンジダ抗原が検出され そのころには、被告病院で使用されたカテーテル先端からもカンジダ抗原が検出されたことが明らかになったことから、カンジダを原因菌とするカテーテル感染症と診断され、同日より、抗真菌剤であるフロリードが投与された(甲A4〔4、乙A1〔55、乙A5〔19、40、80、98、〕〕99、K〔13、27、D〔7。 〕〕〕)また、同日のCT検査によると、術後の吻合部周囲に少量の腹水があったが、縫合不全はなく、腹腔内等には膿瘍は認められず、深在性の真菌症〕、の原因となるような大きな感染源は発見できなかった(乙A5〔104K〔32。 〕)イ6月22日より、亡Aには下血が認められ、7月3 不全はなく、腹腔内等には膿瘍は認められず、深在性の真菌症〕、の原因となるような大きな感染源は発見できなかった(乙A5〔104K〔32。 〕)イ6月22日より、亡Aには下血が認められ、7月3日まで下血が継続した。6月25日の血液検査の結果、サイトメガロウィルスによる出血性腸炎が判明したが、7月6日には陰性化した。亡Aは、同月10日、ICUから一般病棟に転出した(乙A5〔82、84、86、87、138ないし148。 〕)ウ一般病棟に転出後は、週に2ないし3回の頻度で、ICUにて透析が行われた。退院に至るまで、亡AのCRPは3.2ないし21.7mg/dlの間で推移しており、β-D-グルカンの値も高値を維持していた。亡Aには、時に「ありがとう「ごちそうさま」等の発語が見られ(乙A5〔2」、 、頷く等の動作をすることもあったが、積極的な意思表示はできず、〕)家族とも十分なコミュニケーションが取れない状態であった(乙A5〔148ないし220、D〔8、9、16、E〔9、10。 〕〕〕)エ全身状態が徐々に改善したため、10月12日から流動食を開始したが、腎不全は依然として継続していたことから、慢性腎不全に対する透析を継続するため、同月18日、亡Aは、被告病院からM病院(以下「M病院」という)に転院した。転院時の検査によれば、白血球は6000、CR。 Pは7.1mg/dl、β-D-グルカンは3083pg/mlであった(乙A4 〔5ないし7、41、42、乙A5〔215、220。 〕〕)(7)M病院での経過アM病院においても、亡Aの腎不全に対しては、週3回の頻度で、透析治療を続けた(乙A4〔96ないし106。 〕)亡Aは、M病院入院時には発熱もなく、一般状態は比較的良好であったが、10月20日に細菌検査を行 いても、亡Aの腎不全に対しては、週3回の頻度で、透析治療を続けた(乙A4〔96ないし106。 〕)亡Aは、M病院入院時には発熱もなく、一般状態は比較的良好であったが、10月20日に細菌検査を行った結果、緑膿菌及びMRSA感染が見られた。11月中旬の検査では、感染は見られなくなったが、その後は感染が継続した(乙A3〔17ないし32、乙A4〔96。 〕〕)M病院入院中におけるCRPの値は、2.4ないし9.5mg/dlの間で推移しており、正常値をとることはなかった(乙A3〔36ないし3 。 〕)イM病院入院時の亡Aの意識レベルは、JCSⅡレベル(刺激に応じて一時的に覚醒する)であった(乙A4〔76。 〕)入院期間中、亡Aは、食事は摂取していたが、発語等の意思表示はできない状態であった(乙A3〔62ないし112、D〔16、E〔2〕〕 。 〕)ウ11月17日夕方、亡Aに、痙攣発作が頻回に見られた。担当医師は、亡Aの家族に対し、この痙攣は脳転移の再発及び脳梗塞が原因と考えられ、一般状態も悪く、急変もあり得る旨を説明した。同月18日に頭部単純CT検査を行ったところ、明らかな腫瘍や出血などは認められなかったが、同月19日に、頭部造影CT検査を行ったところ、明らかな変化は見られなかったものの、脳腫瘍が疑われるため、1か月後の再検査が必要とされた(乙A3〔3、4、60、89、乙A4〔35、107ないし10〕 。 〕)エ11月21日、亡Aに下血が見られたため、同月22日にS状結腸カメラ検査を行ったところ、肛門からすぐの位置に約2㎝の腫瘍があり、そこ から出血していることが判明した。そこで、担当医師は、内視鏡的粘膜切除術を行い、腫瘍を切除したが、クリッピングはできなかった。生検の結果、癌細胞が認められ、断端が陽性であ ㎝の腫瘍があり、そこ から出血していることが判明した。そこで、担当医師は、内視鏡的粘膜切除術を行い、腫瘍を切除したが、クリッピングはできなかった。生検の結果、癌細胞が認められ、断端が陽性であると診断された。その後も下血が見られたが、12月7日頃から、下血が顕著となり、同月12日頃には、血小板の値は7000台程度に低下した。また、左肺に胸水が見られ、胸水穿刺が行われた(乙A3〔5、6、35、90、92、94、103、107、乙A4〔111ないし121。 〕〕)11月26日のβ-D-グルカン値は500pg/ml以上であった(乙A3〔14。 〕)(8)亡Aの死亡12月17日、血圧が低下し、39度台の発熱が見られ、同月18日には昏睡状態に近い状態となり、同月19日、亡Aは死亡した(乙A4〔1、122ないし124。 〕)(9)病理解剖の実施同日、M病院において、病理解剖が行われた。その結果、死亡に関係する原因としての主病診断として、直腸癌切除後再発とそのリンパ節転移、敗血症、肺動脈内、腸骨静脈内血栓塞栓症、萎縮腎、心不全が挙げられた(甲A1〔1。 〕)大腸癌再発の程度については「腫瘍組織は直腸周囲の結合織より右卵巣、に浸潤し、大動脈傍リンパ節、腸間膜リンパ節の多数に転移が見られた。肺や肝への遠隔転移は見られなかった」とされた(甲A1〔2。 。 〕)感染症に関する所見については「感染症のfocusを検索したところ、左右、の総腸骨静脈内に新旧混在し、一部器質化した血栓の形成が見られ、血管壁の一部はリンパ球や異物巨細胞を伴う炎症をみとめた。両側の肺動脈起始部から末梢にかけても器質化を伴う塞栓が見られた。これらの血栓は経過中に生じたものと考えられるが、その形成時期については不明である。また、左 右心室壁には敗血 う炎症をみとめた。両側の肺動脈起始部から末梢にかけても器質化を伴う塞栓が見られた。これらの血栓は経過中に生じたものと考えられるが、その形成時期については不明である。また、左 右心室壁には敗血症による変化と思われるリンパ球と異物巨細胞の小集ぞく巣が散在していた。また左腎には、巨細胞と小壊死巣、カンジダの感染を伴う腎盂腎炎が見られた。肺については肺胞壁の一部には軽度の器質化が見られたが、活動性のある炎症像は目立たず、その他の実質臓器も炎症所見は乏しかった」との記載がされた(甲A1〔2。 。 〕)その上で「直接死因としては、経過中のIVH感染による敗血症とそれ、に続発する腎不全、心不全が考えられる」との記載がされた(甲A1。 〔2。 〕) 医学的知見(1)カテーテル感染症についてアカテーテル感染症の発生機序IVHカテーテルの合併症として、カテーテルからの感染症がある(甲B3。これは、血管カテーテルは生体にとって異物であるため、その周)囲には血栓やフィブリンが付着することになり、これが細菌や真菌の培地になることによるものである(甲B7〔340。 〕)カテーテル感染症の発症には、留置カテーテルへの細菌の侵入ないし付着が重要であり、その感染経路としては、①カテーテル挿入部周囲の皮膚に存在する菌がカテーテルの外表面に沿って侵入する、②輸液中やドレーンバッグで増殖した菌や、三方活栓や接続部から侵入した菌が、カテーテル内側表面に沿って侵入する、③身体の他の部位の感染症により菌血症ないし敗血症が生じた場合に、血液中の細菌が直接カテーテルに付着する等が考えられている(甲B8〔170、171、甲B9〔317、乙B1〕〕〔170、171。 〕)イカテーテル感染症の診断カテーテル感染症の主症状は発熱であり、他の部位からの テルに付着する等が考えられている(甲B8〔170、171、甲B9〔317、乙B1〕〕〔170、171。 〕)イカテーテル感染症の診断カテーテル感染症の主症状は発熱であり、他の部位からの敗血症が原因となった場合以外は、突然の高熱で発症し、発熱以外の症状に乏しいのが 一般的である。1日の差が1度以上の熱型をとり、38度以上、時には39度を超える発熱を見る場合もある(甲B7〔340、341。 〕)カテーテル感染症の確定診断には、血液培養による検査が必要であるが、カテーテルを留置中に他に明らかな感染病巣がなく、悪寒や戦慄を伴う弛張熱を呈したり、突然に39度以上の高熱となった場合にはカテーテル感染症を疑うとされる(甲B8〔170、172、乙B1〔170、17〕 。 〕)ウカテーテル感染症に対する措置カテーテル感染症に対する措置は、まずカテーテルを抜去することであり、カテーテル感染症を疑った場合には、原則として、速やかにカテーテルを抜去するとされており、抜去のみで改善し治癒することが多い。抜去のみによって改善するのは、生体にとって異物であるカテーテルが抜去されることにより、感染のフォーカスがなくなることによるものとされる。 その後も発熱が持続する場合には、他の部位の感染を念頭に置いて全身を検索するとともに、カテーテル抜去時のカテ先やカテーテル血の培養が陽〕、性であった場合には、抗菌薬を投与するとされている(甲B7〔341甲B8〔172、甲B9〔449、甲B11〔920、甲B12〔1〕〕〕46、甲B13〔113、甲B15〔41、43、甲B22〔172〕〕〕3、1724、甲B23〔486、831、832、甲B24〔16〕〕3、甲B25〔2、乙B1〔172、乙B2〔17、25、N〔1〕〕〕〕 。 〔41、43、甲B22〔172〕〕〕3、1724、甲B23〔486、831、832、甲B24〔16〕〕3、甲B25〔2、乙B1〔172、乙B2〔17、25、N〔1〕〕〕〕 。 〕)カテーテル感染症に対する措置として、留置している静脈内カテーテルは抜去し、新しいカテーテルを他の部位に挿入する、とする文献もある(甲B23〔831、832。 〕)(2)縫合不全についてア縫合不全の原因、臨床所見について 大腸癌切除手術の術後合併症の一つとして、縫合不全がある。縫合不全の初期の病態は、消化管外に漏れた消化液による局所の炎症と膿瘍形成に由来する。膿瘍が形成されると、38度以上の弛張熱がみられ、理学的に圧痛が認められる。膿瘍周囲の腸管は多少なりとも麻痺状態をきたし、時に患者は自発痛、嘔気を訴えるとされる(乙B3〔882。 〕)イ縫合不全の診断について縫合不全は、術後3ないし10日に起きることが多い。縫合不全の症状・所見としては、①疼痛、圧痛、筋性防御等の腹膜刺激症状、②発熱、頻脈、呼吸逼迫、腸管麻痺、嘔気、③ドレーン浸出液の排液量の増加、汚色、腐敗臭等がある。また、一般検査所見として、①白血球増多、CRP及び血沈の亢進、②腹胸部単純X線検査における交感性胸水貯留、異常なガス像等があるとされる(乙B2〔190、乙B3〔757、882、88〕3、乙B4〔118。 〕〕)ウ縫合不全の治療について縫合不全の保存的治療の原則は、①栄養管理、②腸管内容漏出の防止、③感染の除去であるとされる。そのため、まず絶食とし、栄養管理のため中心静脈栄養を行う。投与カロリーは、50kcal/kg/dayが必要であるとされる。漏出した腸内容や膿汁のドレナージ効果を高めるために、低圧持続吸引と十分な洗浄を行い、抗生剤は、感 栄養管理のため中心静脈栄養を行う。投与カロリーは、50kcal/kg/dayが必要であるとされる。漏出した腸内容や膿汁のドレナージ効果を高めるために、低圧持続吸引と十分な洗浄を行い、抗生剤は、感受性のあるものを投与するとされている(乙B2〔190ないし192、乙B3〔883、乙B4〔1〕〕18、乙B5〔119。 〕〕)縫合不全のうち、minorleakageであれば絶食、中心静脈栄養、抗生剤投与、適切なドレナージにより2ないし3週間で治癒するとされる(乙B5〔119。 〕)(3)尿路感染症について尿路感染症とは、宿主に常在している細菌が主として上行性に感染する内 因性感染である。術後の尿路感染症には、腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎、副睾丸炎などがある。腎盂腎炎の症状としては、発熱、腰痛(腎部痛、悪寒)戦慄などがある(乙B3〔938、939。 〕)(4)敗血症についてア敗血症敗血症は、体内の感染病巣から細菌などの微生物あるいはその代謝産物が血液内に流入することにより引き起こされる重篤な全身症状を呈する臨床症候群である。進行すると敗血症性ショックに至り、播種性血管内凝固症候群(DIC、成人呼吸促迫症候群(ARDS、多臓器機能低下症候))群(MODS)などを併発し予後不良となる。 近年は、種々の重篤な生体侵襲に対する全身炎症反応を伴う病態を全身性炎症反応症候群(SIRS)とし、敗血症は感染症が原因でSIRSを呈している状態と定義付けられ、血液中の細菌の証明は診断基準から除かれている(甲B22〔1720、甲B24〔1086、1087、甲B〕〕25、甲B26。 )イSIRS以下の2項目以上が該当するときにSIRSと診断される。 ①体温>38度または<36度②呼吸数>20回/分またはPaCO<32 1086、1087、甲B〕〕25、甲B26。 )イSIRS以下の2項目以上が該当するときにSIRSと診断される。 ①体温>38度または<36度②呼吸数>20回/分またはPaCO<32torr ③心拍数>90/分④白血球:12000/μl以上または4000/μl以下あるいは未熟顆粒球(桿状核球)>10%敗血症の臨床所見としては、全身症状、原発感染病巣による症状、転移性感染病巣による症状、合併症による症状が混在して認められる。全身症状としては、悪寒戦慄を伴う急激な高熱、頻脈、頻呼吸、意識障害、消化器症状などがあり、重篤感が伴う(甲B22〔1721、甲B24〔1〕 086、1087、甲B25、甲B26。 〕)ウ重症敗血症、敗血症性ショック重症敗血症とは、臓器機能障害、臓器循環低下あるいは血圧低下を伴う敗血症をいう。 敗血症性ショックとは、適切な輸液療法にもかかわらず血圧低下が持続する状態で、敗血症に合併するものをいい、血圧維持のため、血管作動薬を投与している患者を含み、血管作動薬により血圧が維持されている場合でも、臓器機能障害、臓器循環低下があれば敗血症性ショックとされる(甲B22〔1721、甲B24〔1086、1087、甲B25、甲〕〕B26。 )エ敗血症の予後敗血症から敗血症性ショックに移行すれば死亡の危険性は増大する。重症敗血症患者の約20~35%、敗血症性ショック患者の40~60%は30日以内に死亡し、他はその後6か月以内に死亡するとする文献もある。 晩期の死亡は、不十分な感染症の抑制、集中治療の合併症、多臓器不全、患者の基礎疾患などで生じるとされる(甲23〔828、832。 〕)(5)真菌症についてア真菌症真菌症(真菌感染症)は深在性真菌症と表在性真菌症に大別される。わが国で 合併症、多臓器不全、患者の基礎疾患などで生じるとされる(甲23〔828、832。 〕)(5)真菌症についてア真菌症真菌症(真菌感染症)は深在性真菌症と表在性真菌症に大別される。わが国で見られる深在性真菌症の原因真菌の大部分は、病原性は弱く、健常人に感染症を起こすことはまれであり、多くは日和見感染として発症する(甲B22〔1806。 〕)血管カテーテルは、深在性真菌感染症の最も大きな原因であるところ、血管カテーテルに関する感染症による死亡率が米国では入院患者の14~28%と報告されているのに対し、我が国の特に外科領域では、これによって死亡するに至っていないのは、米国では医療費の関係からむやみにカ テーテルを交換できないのに対し、わが国では単なる発熱だけでも比較的簡単・早期にカテーテルを抜去するというように、両国の対応が大きく異なっていることにあるとする文献もある(甲B9〔317。 〕)イβ-D-グルカン免疫血清学検査の項目であり、カンジダ等の深在性真菌感染症で高値を示す。基準値は、20.0pg/ml以下であるが(甲B6、乙B15〔23 、臨床的には10pg/ml以上を陽性とするとの指摘もある(乙B10〕)〔161。 〕)(6)大腸癌の進行度について大腸癌の進行度は以下のように分類される(甲B34〔4、乙B9。 〕)アデュークス分類についてデュークスA:癌が大腸壁内にとどまるものデュークスB:癌が大腸壁を貫くがリンパ節転移のないものデュークスC:リンパ節転移のあるものデュークスD:腹膜、肝、肺などへの遠隔転移のあるものイステージ分類について0期:癌が粘膜にとどまるものⅠ期:癌が大腸壁にとどまるものⅡ期:癌が大腸壁を越えているが、隣接臓器に及んでいないものⅢ期:リンパ節転移のあるものⅣ期 隔転移のあるものイステージ分類について0期:癌が粘膜にとどまるものⅠ期:癌が大腸壁にとどまるものⅡ期:癌が大腸壁を越えているが、隣接臓器に及んでいないものⅢ期:リンパ節転移のあるものⅣ期:腹膜、肝、肺などへの遠隔転移のあるもの 争点(1)(IVHカテーテルを早期に抜去すべき義務の有無)について(1)ア亡Aの5月30日午後4時の発熱以降の病態については、上記1で認定した事実の経過から事後的に判断すると、J大学病院が診断したとおり、カンジダによるカテーテル感染症を発症していたものと認めるのが相当であり、他方、同人には臨床的に問題にすべき縫合不全は生じていなかった と認めるのが相当である(K〔28、29。 〕)イこれに対し、H医師は、上記病態は、事後的に見ても縫合不全によるものであると証言しているが(H〔30、31、上記1(6)アのとおり、〕)J大学病院入院後の6月5日のCT検査によっても縫合不全が認められなかったことからすると、同日はもとより、それ以前においても、縫合不全はなかったと認めるべきであり(上記K証言、H医師の上記証言は採用)できない。 ウまた、被告は、本件ではカテーテルを抜去しても解熱していないことから、カテーテル感染症ではないと主張している。しかし、本件では、被告病院において、メチロン、ベギータ等の解熱剤が複数回投与されている。 これらの解熱剤は、他の解熱剤では効果が期待できないか、あるいは他の解熱剤の投与が不可能な場合の緊急解熱に用いるとされる解熱剤であり、このような強力な解熱剤を用いていることからすると、本来の熱型は修飾されているといえ、発熱の態様からは、患者の病態を判断することはできない。これらの薬剤の添付文書には、感染症を不顕在化するおそれがある旨が記載されている(甲B20、21。 ) ると、本来の熱型は修飾されているといえ、発熱の態様からは、患者の病態を判断することはできない。これらの薬剤の添付文書には、感染症を不顕在化するおそれがある旨が記載されている(甲B20、21。 )(2)ア上記の事後的な判断を前提として、原告らは、5月30日午後4時に亡Aが38度7分の高熱を発した時点、もしくは、遅くとも同月31日午後7時にIVHルートで滴下不良が生じた時点において、被告病院担当医師には、カテーテル感染症を疑ってIVHカテーテルを早期に抜去すべき義務があると主張するので、この点について検討する。 イ上記1(3)ないし(5)のとおり、5月2日にIVHカテーテルが挿入され、それ以後6月3日に抜去するまで、カテーテルが留置されていたところ、長期間に渡りIVHカテーテルを留置することにより感染の危険性が高まるとされているのであるから、この留置期間の面からして、留置中には常にIVHカテーテル感染を念頭に置き、疑うべき状況にあったといえる (N〔3。 〕)次に、亡Aは、臨床病期Ⅳ期の担癌患者であり、免疫抑制状態による易感染状態にあったことは当事者間に争いがないところ、このような状態の患者に対しては、感染症についての厳重な配慮が要請されているのであるから、カテーテル感染症を含む感染症一般について、その発症の有無をより慎重に観察すべきであったといえる。この点については、H医師も同旨の証言をしている(乙A7〔2、H〔29、30、N〔14。 〕〕〕)また、上記1(4)及び(5)のとおり、亡Aは、5月22日に直腸癌に対しての低位前方切除術を受け、その8日後の5月30日午後4時に38度7分の高熱を発したことが認められる。上記2(1)イのとおり、カテーテル感染症の症状として、発熱があることからすれば、この発熱は、カテーテル感 方切除術を受け、その8日後の5月30日午後4時に38度7分の高熱を発したことが認められる。上記2(1)イのとおり、カテーテル感染症の症状として、発熱があることからすれば、この発熱は、カテーテル感染症を疑わせる所見であると認められる。 さらに、上記1(5)ウのとおり、同月31日の午後7時にIVHルートで滴下不良が生じているところ、IVHルートの滴下不良は、カテーテル感染症の発症を疑わせる事実になるといえる。すなわち、点滴ルートの中で一番細い部分であるカテーテルの先端に異物が付着することを一つの原因として、滴下不良が起こることからすれば、点滴の滴下不良は、カテーテル先に血栓やフィブリンが付着したことを強く疑わせる所見であるといえ、上記2(1)アのとおり、カテーテル感染症は、カテーテル先に血栓やフィブリンが付着し、細菌・真菌等の培地となることにより、発生するのであるから、滴下不良は、カテーテル感染症を強く疑わせる所見であるといえる(N〔4、5。 〕)この点について、被告は、同日の滴下不良は、カテーテルのセット交換によって解消しているのであるから、滴下不良は、カテーテル感染を原因とするものではないと主張する。しかし、セット交換の際にも、フラッシュの作業をすることにより、カテーテル先のフィブリン等が取れ、滴下不 良の症状が改善することもあることからすれば(N〔38、この点を理〕)由に、滴下不良の原因がカテーテル感染であることを否定することはできない。 ウ以上の点から判断するに、まず、5月30日午後4時の時点では、発熱の症状があったものの、この症状は、カテーテル感染に特異的なものではなく、術後肺炎などの呼吸器感染症、腹腔内膿瘍や開腹創の化膿など縫合不全や術創の汚染による感染、重症膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症によっても生じるも 、この症状は、カテーテル感染に特異的なものではなく、術後肺炎などの呼吸器感染症、腹腔内膿瘍や開腹創の化膿など縫合不全や術創の汚染による感染、重症膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症によっても生じるものである(甲B17〔1。このうち、この時点で、呼〕)吸器感染症については同日の胸部X線検査で異常が認められないことからして否定されることについては、当事者間に争いはなく、腎盂腎炎についても、典型的な所見である腎部痛等がないことから否定される(甲B17〔1、H〔8。しかし、縫合不全については、ドレーンからの排液の〕〕)性状からは、これを積極的に疑える状況にはなかったことからすると、これよりもカテーテル感染症を強く疑うべき状況ではあったものの、縫合不全を否定できる積極的な根拠もないことから、なおしばらくの間はカテーテル感染症と並列的に縫合不全についても疑い得る状況にあったと認められる。その場合、上記2(2)ウのとおり、縫合不全の場合には、その治療として高カロリー輸液が必要とされることからして、カテーテルの抜去の判断には慎重になる必要があるといえる。 したがって、5月30日午後4時の発熱時点では、担当医師であるH医師に、カテーテル感染症を疑って直ちにIVHカテーテルを抜去すべき義務があるとは認め難い。 エこれに対し、同月31日午後7時の時点までには、前日の胸腹部のレントゲン検査によっても異常所見が見当たらず、ドレーンからの排出液も引き続き異常が認められなかったことから、縫合不全については、前日よりもさらに否定的に考えるべき要素が加わっていたのに対し、カテーテル感 染症については、IVHルートの滴下不良というカテーテル感染症を強く疑わせる所見が生じていたのであるから、縫合不全についての疑いを理論的には否定はできないとしても、臨床的に 対し、カテーテル感 染症については、IVHルートの滴下不良というカテーテル感染症を強く疑わせる所見が生じていたのであるから、縫合不全についての疑いを理論的には否定はできないとしても、臨床的には、これを否定し、まず第一にカテーテル感染症を疑うべき状況にあったと認められる。そして、上記2(1)ウのとおり、カテーテル感染症に対する処置は、まずカテーテルを抜去すること以外になく、同症を疑った場合には、感染源となるカテーテルを抜去することとされているのであるから、縫合不全の危険性を念頭に置いて抜去の判断に慎重になるべきことを考慮しても、後記(3)で説示するとおり、この時点において、担当医師であるH医師には、IVHカテーテルを抜去すべき義務があったと認められる。 にもかかわらず、上記1(5)ウのとおり、この時点ではIVHカテーテルの抜去をせず、6月2日の午後零時に至ってようやくIVHルートの入替えを行ったにすぎず、その抜去は6月3日午後9時まで行われなかったものであるから、担当医師であるH医師には、IVHカテーテルを抜去すべき義務を怠った過失が認められる。 (3)アこれに対し、被告は、担当医師は縫合不全をまず第一に疑っており、縫合不全の治療としては高カロリー輸液が必要であることから、IVHカテーテルを抜去しなかったと主張し、H医師及びK医師もこれに沿う陳述及び供述をするので、この点について検討する。 イ被告は、担当医師が、縫合不全を疑った主な根拠として、5月31日午前10時の38度3分の発熱と、その30分後に腹部に疝痛があったことを挙げ、時間的近接性からして両者は関連づけて考えるべきであるから、縫合不全が疑われると主張し、H医師もこれに沿う陳述及び証言をする。 しかしながら、上記1(5)ア及びイのとおり、亡Aは、同月29日から飲水し、同 近接性からして両者は関連づけて考えるべきであるから、縫合不全が疑われると主張し、H医師もこれに沿う陳述及び証言をする。 しかしながら、上記1(5)ア及びイのとおり、亡Aは、同月29日から飲水し、同月30日朝から、術後初めての流動食を開始していることからすると、この点も、腹痛の原因として考えることができる。すなわち、長 期間絶食していたところに、飲水や流動食を開始すると、腸管の刺激が起こり、腸の蠕動が開始するが、そのことにより、術後に癒着した部分につき引っ張られる等の刺激が生じ、機能的に痛みが生じるとされる(N〔3 。この点について、H医師は、流動食の開始によって痛みが生じるこ〕)とはない旨証言するが、同人は、前日からの飲食にもかかわらず、前日には強い腹痛は生じていないことを指摘するのみであって、腸の蠕動による癒着の影響には何ら言及しておらず、上記の機序を否定するものではないのであるから(H〔28、流動食が腹痛の原因となり得る可能性は否定〕)できず、腹痛から直ちに縫合不全を疑うべきであるとまではいえない。 また、上記2(2)イのとおり、縫合不全が生じた場合には、ドレーンからの排液に汚色等が生じるとされるところ、本件では、上記1(5)ウのとおり、ドレーンからの排出液は、一貫してきれいなままであったものであり、この点は縫合不全とは直ちに結びつかない所見であるといえる。 この点について、H医師は、ドレーンの設置位置によってはドレーンから異常所見が見られないこともあり得る旨証言するが(H〔29、この〕)可能性があることにより縫合不全という判断の整合性について説明ができるとしても、ドレーンからの排出液がきれいであることは、本来的には、縫合不全と矛盾する所見といえ、この所見からは、縫合不全以外の原因をまずは疑うべきであるといえる。証 判断の整合性について説明ができるとしても、ドレーンからの排出液がきれいであることは、本来的には、縫合不全と矛盾する所見といえ、この所見からは、縫合不全以外の原因をまずは疑うべきであるといえる。証人Nも、腹膜刺激症状があって腹膜炎を起こしているような印象をもったことからすると、手術創の部位からして相当量の膿が腹腔内に貯留しており、ドレーンの留置位置がいかなるものであったとしても、排出液の状態が変化することを想定すべきであるのに、それとドレーンから汚染されたものが出ていないことは矛盾する所見であるから、ここで疑問が生ずるはずである旨のこれに沿う証言をしている(N〔28ないし30。 〕)以上のように、被告主張の上記の根拠から、縫合不全をまず第一に疑う べきということはできず、むしろ、IVH滴下不良というカテーテル感染症を窺わせる所見や、ドレーンからの排液がきれいなままであるという縫合不全に矛盾する所見も見られる以上、カテーテル感染症をより強く疑うべきであったというべきである。 ウなお、被告は、カテーテル感染症の定義を、中心静脈カテーテル留置例における発熱で、他に明らかな感染源がなく、カテーテル抜去により解熱し、その他の臨床症状が改善した場合とした上で、本件ではこれに当てはまらないために、カテーテル感染症は否定されたと主張し、H医師もこれに沿う陳述及び供述をする。しかしながら、この定義は、あくまでカテーテル感染症の確定診断のための定義であり、IVHカテーテルの抜去の判断に当たっては、カテーテル感染症の確定診断まで至らずとも、他に疑うべきものと比べてこれをより強く疑えば抜去すべきことになるのであるから、カテーテル感染症との確定診断が可能であったかとは問題が異なるものであり、この点についての被告の主張には理由がない。 エさらに、被 ものと比べてこれをより強く疑えば抜去すべきことになるのであるから、カテーテル感染症との確定診断が可能であったかとは問題が異なるものであり、この点についての被告の主張には理由がない。 エさらに、被告は、縫合不全が強く疑われることを前提に、縫合不全の場合には、治療として高カロリー輸液が必要であることから、カテーテル抜去の判断が困難であったと主張する。そして、末梢からの点滴ルートを確保することが、不可能若しくは著しく困難であったことを、その主張の前提としている。 しかし、上記のように、5月31日の午後7時の時点では、カテーテル感染症が強く疑われたのであるから、カテーテル感染症に対する措置を中心に考えるべきであった。K医師も、末梢からの安定した輸液管理が可能であれば、IVHカテーテルを抜く場合もある旨述べている(K〔4 。 〕)また、被告病院では、まず、末梢ルートを確保してみる等のカテーテル抜去に向けた何らかの方策を検討したとは認められず、安易にカテーテル の抜去が不可能であると判断したものであるとも見ることができる。実際に、被告病院においては、上記1(5)エのとおり、6月1日以降、末梢からの点滴ルートを確保してそこからの輸液も継続していることからすると、末梢からのルート管理が煩雑であるという事情があったとしても、不可能若しくは著しく困難であったとまではいえず、被告の主張はその前提を欠くものである。 以上より、この点についての被告の主張には理由がない。 争点(2)(被告病院担当医師の義務違反と死亡結果との因果関係)について(1)亡Aの死亡原因についてア原告らは、亡Aの死亡原因は、被告病院におけるIVHカテーテル感染を原因とする敗血症とそれに続発する腎不全及び心不全であると主張し、証人Nもこれに沿う陳述及び供述をする。 これ 死亡原因についてア原告らは、亡Aの死亡原因は、被告病院におけるIVHカテーテル感染を原因とする敗血症とそれに続発する腎不全及び心不全であると主張し、証人Nもこれに沿う陳述及び供述をする。 これに対し、被告は、亡Aの死亡原因は、癌の再発による悪疫質と癌性出血によるものであると主張し、H医師及びK医師もこれに沿う陳述及び証言をする。 イそこで、亡Aの死亡原因について検討するに、まず、上記1(3)アのとおり、亡Aの大腸癌は脳に転移していたところ、上記2(6)の基準からして、臨床病期はⅣ期、デュークス分類はデュークスDであり、相当程度進行した癌であったといえる。また、その予後について、大腸癌の転移例について検討した乙B16では、大腸癌で脳転移を来した3例については、それぞれ、退院から175日目、150日目、入院87日目に死亡したと報告されている。K医師は、大腸癌脳転移症例の確定診断時からの平均生存期間は、治療の有無を問わず約6か月であると陳述している(乙A9〔12。 〕)亡Aについては、上記1(7)ウのとおり、M病院入院中に、頻回の痙攣発作が見られ、CT検査の結果、脳腫瘍の可能性も否定できない旨が指摘 されており、また、上記1(7)エのとおり、肛門部付近に腫瘍からの出血が見られていることからすると、大腸癌の影響が強く疑われるところであり、証人Nも、亡Aの予後について、普通の家庭での生活ができるのは半年から1年程度であると証言している(N〔15。 〕)これに対し、上記1認定の事実経過のとおり、亡Aは、手術から約7か月生存しているところ、上記のように亡Aに予想された生命予後が極めて短いこと、解剖結果においても、上記1(9)のとおり、リンパ節等への転移が見られていることからすると、大腸癌が亡Aの死亡に有意に影響したものと認められ 、上記のように亡Aに予想された生命予後が極めて短いこと、解剖結果においても、上記1(9)のとおり、リンパ節等への転移が見られていることからすると、大腸癌が亡Aの死亡に有意に影響したものと認められるし、上記1(7)の経過に照らすと、より直接的には、11月に至って肛門付近に再発した腫瘍に対する切除術後に下血が継続したことが、亡Aの死亡に大きく寄与したものと認められる。 ウ(ア)他方、本件の経過を見るに、被告病院における5月30日午後4時以降の亡Aの諸症状は、上記3(1)のとおり、カテーテル感染症に起因するものであると認められる。そして、上記1(5)エのとおり、6月1日午後零時ころ、38度7分の発熱が見られ、心拍数が110程度に上昇しており、同日午後8時までには尿量の低下が見られ、血圧も85/50に低下し、午後9時には不整脈が生じ、深大呼吸等が見られており、上記2(4)ア及びイで述べたところからすると、同日には亡Aは敗血症、の兆候を示していたといえる。その後、上記1(5)エないしカのとおり同日午後8時以降にイノバンが投与され、尿量については改善が見られたが、6月3日午後2時には無尿状態となっており、上記2(4)ウで述べたところからすると、遅くとも同月2日午後から3日にかけての時期に、亡Aは敗血症性ショックないしプレショックの状態に至ったものと認められる(N〔11、12。 〕)(イ)そして、上記1(6)アのとおり、J大学病院入院時には、亡Aは、白血球は10000、CRPは25.1mg/dl、真菌の存在を示すβ- 、D-グルカンは5220pg/mlであり、敗血症性ショック、急性腎不全心不全との診断の下、ICUにて治療が開始されている。また、J大学病院退院時には、白血球は6000、CRPは7.1mg/dl、β-D-グルカンは3 20pg/mlであり、敗血症性ショック、急性腎不全心不全との診断の下、ICUにて治療が開始されている。また、J大学病院退院時には、白血球は6000、CRPは7.1mg/dl、β-D-グルカンは3083pg/mlであり、これらの値からすると、白血球の値は低下しているものの、いまだ亡Aは感染から脱却していないと評価できる。さらに、上記1(6)ウのとおり、同院入院時の亡Aは、挨拶程度の発語はあったものの、十分にコミュニケーションが取れない状態であったことも認められ、上記1(5)アのとおり、感染症発症前には通常の会話が可能であったことにも鑑みると、このような意識レベルの状態であったことからしてもまた、カテーテル感染症の継続が推認される。 さらに、上記1(7)イのとおり、亡AのM病院入院時の意識レベルはJCSⅡであり、同院入院中も依然として十分な意思表示ができない状態であったこと、感染を示すCRPの値が継続して異常値を示していたことからすると、亡Aの感染症は、M病院入院中においても継続していたといえる。 以上の一連の経過からすると、亡Aは、死亡に至るまで、被告病院において罹患した感染症及びそれに続発した腎不全及び心不全の影響から脱却できていないことが認められる。この点については、K医師も、「敗血症による悪性SIRSから多臓器不全(MOF)への進展は、「将棋倒し」に例えられる。MOFに向けての炎症反応のスイッチがひとたび「ON」になれば、将棋倒しのように炎症反応のカスケードが駆動する。MOFに至る一連の連鎖反応を完全に制御し、抑制し得る治療法は未だ確立されていない」旨を陳述しており(乙A7〔9、上記の〕)亡Aの経過も、このような感染症に起因する一連の流れとして評価し得るものである。 (ウ)以上の経過に加えて、病理解剖においても、左右の総 立されていない」旨を陳述しており(乙A7〔9、上記の〕)亡Aの経過も、このような感染症に起因する一連の流れとして評価し得るものである。 (ウ)以上の経過に加えて、病理解剖においても、左右の総腸骨動脈に新 旧混在した感染巣が見られることからすれば、亡Aが感染症から脱却できずに、時期を異にして、何度も感染を繰り返したことが推認できる。 また、一部器質化した血栓の形成、血管壁の一部にリンパ球や異物巨細胞を伴う塞栓が見られ、左右心室細胞壁には敗血症による変化と思われるリンパ球と異物巨細胞の小集ぞく症が散在し、左腎には、カンジダの感染を伴う腎盂腎炎が見られていることからすれば、感染症が繰り返したことが、各臓器に大きな影響を与えたことが推認できる。これらの所見は、上記認定の経過に合致するものである。 さらに、上記1(9)のとおり、病理解剖報告書では「直接死因として、は、経過中のIVH感染による敗血症とそれに続発する腎不全及び心不全」としているが、これも、上記の所見からして、上記認定の経過と同様の判断をしたものと考えられる。 なお、この病理解剖を担当したO医師及びP医師は、IVH感染の時期は、被告病院、J大学病院及びM病院のいずれの入院時であるかを特定することは不可能であるとしており、その理由として、P医師は、感染の時期は、臨床経過から判断すべきであるとしている(書面尋問の結果)が、上記の解剖結果の評価と、臨床経過は矛盾しないものである。 (エ)以上からすると、亡Aは、死亡に至るまで、被告病院で発症したカテーテル感染を原因とする敗血症の影響から脱却できなかったものと認められるところ、これによって同人の全身状態が低下していたことは明らかであり、そのような状態の下で上記(1)イのとおり、再発腫瘍切除術後に下血が継続したことにより、亡Aは、 脱却できなかったものと認められるところ、これによって同人の全身状態が低下していたことは明らかであり、そのような状態の下で上記(1)イのとおり、再発腫瘍切除術後に下血が継続したことにより、亡Aは、術後に全身状態が急激に悪化して死亡するに至ったと認められる(N〔35。そうすると、上記〕)の腎不全等がなくても、下血の継続により亡Aは早晩死亡するに至ったとは認められるものの、前提としての全身状態の低下がない以上は、その経過はより緩慢なものとなり、死期もまたより遅くなったと認めるの が相当であり、そのように認められる以上、上記のカテーテル感染を原因とする敗血症に続発した腎不全及び心不全は、亡Aの死期を有意に早めたものと認められる。 エこれに対し、被告は、被告病院で見られた敗血症は、カテーテル感染に由来するものではなく、深在性真菌症がその原因であると主張し、その根、拠として、被告は、β-D-グルカンが2000pg/ml以上の高値の場合腸管等に由来する深在性真菌症であり、カテーテルに由来するものではないことを挙げる。K医師も、これに沿う陳述ないし証言をする。 しかし、β-D-グルカンが2000pg/ml以上の高値の場合、腸管等に由来する深在性真菌症であるといえる根拠について特に示されておらず、そのような知見があると評価するだけの証拠はない。 他方、入院患者で発熱した患者202例についてβ-D-グルカン値を測定した調査結果を示した甲B33によれば、深在性真菌症の症例全てに。 おいて、β-D-グルカン値は1000pg/ml以下であったとされているまた、β-D-グルカンが異常高値を示した症例についての報告である乙B10についても、単に深在性真菌症例においてβ-D-グルカン値が1000pg/ml以上を示した症例についての報告に過ぎず、深在性真 また、β-D-グルカンが異常高値を示した症例についての報告である乙B10についても、単に深在性真菌症例においてβ-D-グルカン値が1000pg/ml以上を示した症例についての報告に過ぎず、深在性真菌症とカテーテル感染症の区別について論じたものではない。 さらに、被告は、亡Aの症例について報告した論文であるとする乙B20をその根拠とするが、同論文は、β-D-グルカン高値が持続した原因について、諸臓器で真菌感染が持続した可能性について述べるものであり、感染の原因について述べるものではない。むしろ、同論文は、病歴上、消化管からの感染が最も疑われたが、数回にわたるCT撮影及び大腸内視鏡検査においても感染源を特定することができなかったとしており、β-D-グルカン値により感染源が特定できるという被告の主張に沿うものとはいえない。 したがって、上記の被告の主張には理由がないといわざるを得ない。 (2)ア亡Aの死亡原因と被告病院担当医師の義務違反との因果関係一般に、医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係については、経験則に照らして医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、医師の当該不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと、換言すると、医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。 イ上記の考え方と上記(1)で認定説示した亡Aの死亡原因を前提として本件について検討するに、上記2(1)ウのとおり、カテーテルの早期抜去により、多くの場合に症状が改善し治癒するとされていることからすると、本件においても、いまだ敗 説示した亡Aの死亡原因を前提として本件について検討するに、上記2(1)ウのとおり、カテーテルの早期抜去により、多くの場合に症状が改善し治癒するとされていることからすると、本件においても、いまだ敗血症性ショックに至っていない5月31日午後7時の時点でカテーテルを抜去していれば、感染症が治癒した可能性が高い上、仮に治癒に至らなかったとしても、感染のフォーカスが除去されることにより、その後の症状の進展はより緩徐なものとなったと推認される。 K医師も、軽症のカテーテル感染であればカテーテルを抜去することによって解熱する旨陳述している(乙A9〔9。 〕)また、上記1(6)アのとおり、J大学病院では、6月5日にカンジダを原因菌とするカテーテル感染症と診断し、同日から抗真菌剤であるフロリードを投与していることころ、5月31日午後7時の段階でカテーテルを抜去し、この段階でカテーテル先につき培養検査を行っていれば、より早く、カテーテル感染症との診断が可能となり、より早い時期に抗真菌剤の投与が開始されたものと考えられる。そうすると、上記のように、カテーテルの抜去により、仮に感染症が治癒しなかったとしても、症状の進展が より緩除になったところに、より早い時期に抗真菌剤が投与されることになるのであるから、両者を併せて考えると、本件でも、カテーテルの抜去により、敗血症性ショックに至らない初期の段階で、その後の症状の進展が抑制され、治癒に至ったと考えるのが合理的である。証人Nは、この時点でカテーテルを抜去していれば、敗血症性ショックを防止できたと、これに沿う証言をしている(N〔12。 〕)そして、敗血症性ショックに至らない初期の段階で敗血症の進展が阻止され、治癒に至っていれば、その後の腎不全及び心不全等の症状の遷延も起こらず、順調に回復したものと認 言をしている(N〔12。 〕)そして、敗血症性ショックに至らない初期の段階で敗血症の進展が阻止され、治癒に至っていれば、その後の腎不全及び心不全等の症状の遷延も起こらず、順調に回復したものと認めるのが相当である。 さらに、平成11年に帝京大学において中心静脈カテーテル(CVC)留置例2202例を対象に行われた調査では、CVC留置中に38度以上の発熱を認め、他に明らかな感染源がなく、CVC先端培養検査が陽性の場合、あるいはCVC抜去により72時間以内に解熱した場合をCVC感染陽性とし、そのうち血圧低下(収縮期血圧90mmHg以下)あるいは何らかの急性腎不全、心不全、呼吸不全、眼内症等の合併症を認めた症例を重症例であるとすると、発熱からCVC抜去までの時間が72時間以内の重症化率は10%前後であったが、72時間を超えた症例の重症化率は25. 9%と有意に高率になったと報告されており(甲B14、カテーテルの)抜去の時期により、予後が変わり得ることが示されている。 以上からすれば、5月31日午後7時の時点でカテーテルが抜去されていれば、亡Aは敗血症性ショックにまでは至らず、その後の経過は同人が現実に辿った経過よりも良好であったと認められる。 ウそして、上記(1)のとおり、亡Aの死亡には再発した大腸癌切除術後の下血が大きく寄与したことが認められるものの、被告病院におけるカテーテル感染症を原因とする敗血症に続発した腎不全及び心不全による全身状態の低下が死期を有意に早めたものと認められることからすると、カテー テル感染症が敗血症性ショックにまで至る以前に治癒していれば、その後の経過は亡Aが現実に辿った経過よりも良好であったと認められ、亡Aは現実の死亡時点である平成13年12月19日になお生存していた高度の蓋然性が認められる。 (3)以上 以前に治癒していれば、その後の経過は亡Aが現実に辿った経過よりも良好であったと認められ、亡Aは現実の死亡時点である平成13年12月19日になお生存していた高度の蓋然性が認められる。 (3)以上より、被告病院担当医師であるH医師の過失と亡Aの死亡には因果関係が認められる。 よって、被告は、H医師の使用者として不法行為責任を負う。 争点(3)(損害額)について(1)上記のとおり、被告病院担当医師であるH医師の過失がなければ、亡Aは現実の死亡時点以降もなお若干の期間は生存し得たと認められるし、上記1(3)エ及び(5)アで認定したとおりの本件手術前の予測及び本件手術自体が順調に終了して直後の経過も良好であったことからすると、亡Aは敗血症が治癒した後は順調に回復し、遅くとも7月中には退院し、11月ころまでは、自宅で通常の日常生活がおくれたものと認められるのに対し、担当医師であるH医師の過失により、同人はこの間意思表示も十分に行えない状態のまま、寝たきりの闘病生活を強いられたほか、その間一貫して看病に当たった夫である原告Dも、その疲れによって入院を余儀なくされ(甲A4〔6、D〕〔9、10、亡Aは人生の最期において自らのみならず、夫にも多大な負〕)担を強いられたのであるから、損害の算定に当たっては、これらの状況をどのように評価するかが問題となる。 (2)ア逸失利益について上記1(1)アのとおり、被告病院入院以前は、亡Aは「ギャラリーC」を営んでおり、報酬を得ていたことが認められる(D〔12。 〕)しかしながら、上記(1)のとおり、日常生活に復帰することは可能であったと認められるものの、さらに、稼働可能な状況になったか否かまでは明らかではないと言わざるを得ない。また、亡Aの収入については、原告 Dは、月15万円程度と供述する 活に復帰することは可能であったと認められるものの、さらに、稼働可能な状況になったか否かまでは明らかではないと言わざるを得ない。また、亡Aの収入については、原告 Dは、月15万円程度と供述するが(D〔12、決算書類とは整合せず〕)(甲C9、ある程度の収入はあったと認められるとしても、その内容は)明確にとらえ難く、しかも上記のような症状からすると、仮に仕事に復帰しても、確実に収入を上げられる程度の活動をし得たか否かは明らかではない。 したがって、逸失利益は認められない。 イ葬儀費用上記(1)のとおり、担当医師の過失行為がなかったとすると、同人はな、お若干の期間生存し得たものと認められるものの、上記4(1)イのとおりもともと亡Aの予後については、厳しいものと予想されており、そのような事実関係の下で、葬儀費用を担当医師であるH医師の過失と相当因果関係のある損害と評価することはできない。 ウ慰謝料上記ア及びイのとおり、亡Aの損害は経済的には評価が困難といわざるを得ないが、上記(1)の事情は、その精神的損害として十分に評価すべきものである。すなわち、上記1認定の経過のとおり、亡Aは敗血症性ショックに陥って以降、入院を継続しており、その間、意思表示ができず、家族とも十分にコミュニケーションがとれない状態であったことが認められる。いかに亡Aにつき厳しい予後が予想されていたとしても、人生の最期の時期を自宅に戻って親しい人間と交流をしつつ身辺整理をする等の期待を奪われたばかりか、夫にも入院を余儀なくさせ、顔を合わせることすらままならなくなったのであるから、この間、平穏な日常生活に復帰し得たこととの差異はあまりにも大きく、若干にせよ死期が早まったことを考え合わせると、亡Aの精神的損害は大きいといわざるを得ない。 以上に加え、本件に現れ たのであるから、この間、平穏な日常生活に復帰し得たこととの差異はあまりにも大きく、若干にせよ死期が早まったことを考え合わせると、亡Aの精神的損害は大きいといわざるを得ない。 以上に加え、本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、上記の精神的損害に対する慰謝料としては、1200万円が相当である。 エ原告らは、上記1(1)イのとおり、亡Aの慰謝料請求権につき、それぞれ2分の1の割合で相続した。 (3)弁護士費用また、本件事案の内容、訴訟経過、認容額等を考慮すると、担当医師であるH医師の過失と相当因果関係のある原告らの弁護士費用としては、それぞれ60万円と認めるのが相当である。 第4結語以上のとおりであるから、原告らの不法行為に基づく請求は、被告に対し、それぞれ660万円及びこれに対する平成13年12月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官藤山雅行裁判官大嶋洋志 裁判官岡田安世 (別紙)当事者の主張 IVHカテーテルを早期に抜去すべき義務の有無(原告らの主張)(1)被告病院において亡Aに生じた症状についてIVHカテーテルによるカンジダ菌の感染から敗血症となったものである。 亡Aは、5月2日からIVHカテーテルを留置したままとなっており感染が起きてもおかしくない状況であった。また、何よりも6月2日に抜去したIVHカテーテル先からカンジダ菌が検出されている。このことは、亡AがIVH感染していた明らかな証左である。 (2)(1)を前提とした、亡Aに対する診断についてアIVHカテーテル感染症であると診断すべき時期(ア)5月3 ダ菌が検出されている。このことは、亡AがIVH感染していた明らかな証左である。 (2)(1)を前提とした、亡Aに対する診断についてアIVHカテーテル感染症であると診断すべき時期(ア)5月30日午後4時ころまで亡Aは5月30日午後4時に突然38度7分という高熱を発した。これは、カテーテル感染の特徴である弛緩熱(SpikeFever)を疑うべき熱発である。また、亡Aには、この時点で、その他の発熱の原因となる呼吸器感染症、縫合不全、尿路感染症等を疑うべき所見はなく、合理的に考えて、カテーテル感染を最も疑う状況にあった。診断と治療のため、この時点でカテーテルを抜去すべきであった。 (イ)5月31日午後7時ころまで亡Aは解熱剤の投与でいったん解熱したものの翌31日午前10時に再、度38度3分の発熱をし、心拍数114、SaO96%となった。また 同日、午後7時にはIVHルートで滴下不良があり、カテーテルにフィブリンが付着していることが予想できたのであるから、どんなに遅くても、この時点までには、診断と治療のためにカテーテルを抜去すべきであった。 イ縫合不全(からの感染症)であるとは考えられないこと亡Aにおいては、当時、ドレーンの排出液の性状は混濁しておらず、腹部レントゲン、腹部CT検査、ガストロ造影のいずれの画像検査においても縫合不全を疑うべき所見はない。また、実際、その後に縫合不全に対する治療は行われていない。死後の解剖所見でも、縫合不全があったことを示す所見は得られていない。よって、本件では縫合不全がなかったことは明らかとなっている。 (3)(2)の場合には、速やかにIVHカテーテルを抜去する義務があることIVH感染の治療の基本は、感染を疑ったらカテーテルをただちに抜去することである。カテーテル感染の確定診断がなくて ている。 (3)(2)の場合には、速やかにIVHカテーテルを抜去する義務があることIVH感染の治療の基本は、感染を疑ったらカテーテルをただちに抜去することである。カテーテル感染の確定診断がなくても、疑った時点で抜去すべきである。抜去することによる不利益はほとんどなく、逆に抜去せずに経過を見た場合の重症化のおそれは大である。カテーテル抜去後、症状が改善することがIVH感染の診断の根拠とされており、診断のためにも抜去を躊躇すべきではない。 (被告の主張)(1)被告病院において亡Aに生じた症状について大腸癌取扱い規約によれば、大腸を原発として脳転移が見られる症例は臨床的病期ではTNM分類のなかのⅣ期となる。これはもっとも病期の進んだ進行癌であり、新外科学大系24Bによれば5年生存率は3%と非常に悪い。また他によく用いられるデュークス分類でも脳転移が見られる症例はデュークスCとなり最も病期の進んだ進行癌である。本件患者の大腸癌も内視鏡が通過できず腹部レントゲンでガスの貯留が認められ、腸閉塞直前の状態であった。この状態の患者にはIVH管理が治療上必要であった。術前に患者の不注意によりルートがはずれ感染の危険があった他はルートの取扱いに不備は見られない。 脳転移がある腸閉塞直前の進行癌患者は易感染状態、免疫不全状態であり、手術前より感染の危険にさらされていた。この状態の患者に対して、脳転移に対 してサイバーナイフ、大腸癌に対して手術を施行した。大腸癌の低位前方切除術術後で経口摂取開始直後に発熱、腹痛がみられた。その後胸苦、嘔気、不整脈が出現したが、発熱はいったん消退する。しかし突然に腹満、腸雑音低下、高熱、中心静脈圧上昇、呼吸浅迫、SaO低下、尿量の減少が見られた。周 術期管理において第一に考えられるのは縫合不全と易感染状態、免疫不全 が、発熱はいったん消退する。しかし突然に腹満、腸雑音低下、高熱、中心静脈圧上昇、呼吸浅迫、SaO低下、尿量の減少が見られた。周 術期管理において第一に考えられるのは縫合不全と易感染状態、免疫不全状態のため引き起こされた敗血症である。 (2)(1)を前提とした、亡Aに対する診断について、IVHカテーテル感染症ではないと判断すべきであることア5月30日午後4時ころの時点午前7時、左腹部に腹痛が見られた。朝より経口摂取を開始した。午後4時に38度7分の熱発が見られた。周術期の治療上致命的になるおそれのある呼吸器感染症は胸部レントゲン上、肺炎は見られなかったため否定的だった。腹部所見に異常は見られなかった。腹部レントゲン検査では小腸ガス、大腸ガスがあった。腸閉塞の所見はなかった。小腸ガスの存在は異常と考えられた。熱型は弛張熱ないし間歇熱が疑われた。診断と治療2003 VOL.91 NO6には、弛張熱とは「日内変動が1度以上で、一日に一回は体温が低下するが37度以下には下がらない熱型」で「多くのウイルス・細菌感染症、非感染性疾患がこの熱型をとるため原因疾患の推定には参考にならないことが多い」と記され、また、間歇熱とは「日内変動が1度以上で、その日の最低体温が37度以下になる熱型」で「膿瘍、粟粒結核、腎盂腎炎などでみられ、る」と記されている。亡Aの30日の最低体温は36度6分で37度以下であるので、どちらかと言えば間歇熱のほうがより疑わしかった。しかし現代の医療では解熱剤や治療の影響により本来の熱型は修飾をうけ、特に院内感染では熱型のみで原因疾患を推測するのは困難であるため、弛張熱を呈することが多いカテーテル感染や弛張熱を起こすことがある縫合不全だけでなく間歇熱を呈することの多い縫合不全等の膿瘍を形成する疾患や腎盂腎炎等の 疾患 疾患を推測するのは困難であるため、弛張熱を呈することが多いカテーテル感染や弛張熱を起こすことがある縫合不全だけでなく間歇熱を呈することの多い縫合不全等の膿瘍を形成する疾患や腎盂腎炎等の 疾患の可能性も充分あると考えられた。午前7時に左腹部の痛みがあったこと、本日より経口摂取を開始したこと、どちらかといえば間歇熱を疑うことから縫合不全の可能性がやや高いと考えたが診断を下すには情報が不十分なため抗生剤をより広域スペクトラムのものに変更し、経過観察とした。他のカテーテル感染、尿路感染も念頭に、翌日発熱の原因を検索するために採血、検尿の指示を行った。 イ5月31日午後7時ころの時点亡Aは朝食をとった後、午前10時に、38度3分の熱発があり、その約30分後である午前10時30分頃に腹痛の訴えがあった。亡Aの痛みが強かったため看護師が被告を呼び、同人により診察が行われた。腹部に疝痛があった。それ以外の所見に異常は見られなかった。31日の最低体温は37度5分であるので熱型は弛張熱であった。血液検査では白血球4900、CRP2.99mg/dlであった。検尿では糖(+)蛋白(-)潜血(++)で尿沈渣では白血球(+)赤血球(+)細菌(-)上皮(-)であった。術後いったん解熱した後、第8病日目に経口摂取後にふたたび腹痛を伴う発熱を生じ、38度以上の弛張熱、いわゆるabscessfeverが見られ、理学的に圧痛が認められ、亡Aは自発痛、嘔気を訴えた経過があり、腹膜刺激症状(疼痛、圧痛)をみたし、発熱、頻脈、腸管麻痺、嘔気といった症状所見をみたしている。一般検査でも、CRPをみたし、前日の腹部単純X線検査(異常なガス像)にあてはまった。 以上より、診断としては縫合不全が最も疑われた。縫合不全の程度は症状所見でドレーン浸出液の性状に異常ないこと、一般検 検査でも、CRPをみたし、前日の腹部単純X線検査(異常なガス像)にあてはまった。 以上より、診断としては縫合不全が最も疑われた。縫合不全の程度は症状所見でドレーン浸出液の性状に異常ないこと、一般検査で白血球は正常範囲内であることから軽度であると考えられ、小さい縫合不全が考えられた。 一方、一般尿検査(尿糖、尿路感染のチェック)において尿中に白血球が見られた。異常が見られたことより尿路感染症の存在も疑われた。腎盂腎炎であれば発熱、悪寒戦慄の症状は当てはまるが腰痛(臀部痛)の症状がみられず、腹痛の説明が困難であるため、尿路感染症は存在するものの、腎盂腎 炎の可能性は低いと考えられた。尿路感染症の治療は縫合不全と同様に抗生剤治療となるため、縫合不全の治療に並行して尿路感染症の治療を行った。 他にカテーテル感染の問題があるが、31日の時点での熱型は弛張熱であるところ、これはカテーテル感染のみに特徴的なものではなく、縫合不全においてもみられるため、熱型だけで診断することは出来ない。IVHカテーテル留置例における発熱であるが、他に縫合不全が疑われ、また尿路感染症は明らかに存在するため「中心静脈カテーテル留置例における発熱で、他、に明らかな感染源がなく、カテーテル抜去により解熱し、その他の臨床症状が改善した場合はカテーテル感染症と考えられる」との定義に沿わないと。 考えられた。また5月31日午前10時の38度3分熱発とその約30分後の腹痛には明らかに関連が考えられるが、午前10時の熱発をカテーテル感染による熱と考えるとカテーテル感染では腹痛を起こさないので、腹痛に関して合理的な説明ができない。したがってカテーテル感染症の可能性は低いと考えられた。 以上の考えによって大腸癌の低位前方切除術術後で経口摂取開始直後の発熱であり、腹痛があり、周術期管 ので、腹痛に関して合理的な説明ができない。したがってカテーテル感染症の可能性は低いと考えられた。 以上の考えによって大腸癌の低位前方切除術術後で経口摂取開始直後の発熱であり、腹痛があり、周術期管理において第一に考えられるのは縫合不全で特に限局型のminorleakageを疑うのは臨床判断として不都合ではない。 最も疑わしい縫合不全に準じて治療を行った。治療は(1)絶食(2)輸液栄養管理高カロリー輸液(TPN)(3)抗生剤投与である。高カロリー輸液にはカテーテルが必須であるのでカテーテルは抜去しなかった。抗生剤は翌日から変更することにした。 午後7時になりIVHの滴下不良が認められた。ルートのためと思い、夜間であるのでセット交換を行い滴下改善が見られたのでセット内の異常と考えた。また5月31日当日には後日行ったCT、直腸造影検査、カテーテル培養、病理所見の結果は当然知り得ないので31日の診断材料にならないのは当然である。 その他6月1日のCT検査の結果における腹水と考えられる低吸収域からも、minorleakageを疑った。尿路感染もあったが同様の抗生剤治療を行った。滴下不良が認められたが解熱して高熱は出ていなかった。カテーテル感染症の可能性も考えて翌日に入替えを指示した。 ウその他(ア)6月2日強い腹痛なく検査に耐えられると考え、直腸造影を行った。minorleakageは否定できなかったので縫合不全の治療を継続した。同時に高熱はなかったが念のため透視下にカテーテルを抜去して入れ替えた。不整脈は上室性不整脈であり血圧の変動も伴わなかったので経過観察でよいと判断した。また転院後に判明するがカテーテルより培養されたカンジダ菌量は(+)とごく少量であり敗血症を引き起こす菌量としては非常に少ない。 (イ)6月3日とこ 動も伴わなかったので経過観察でよいと判断した。また転院後に判明するがカテーテルより培養されたカンジダ菌量は(+)とごく少量であり敗血症を引き起こす菌量としては非常に少ない。 (イ)6月3日ところが突然に腹満、高熱、中心静脈圧上昇、腸雑音低下、呼吸浅迫、SaO低下から、急速に腹膜炎と進行したと考えた。理由が不明であっ たのでJ大学病院医師に相談した。膿尿から無尿へと移行し急性腎不全が疑われたので被告病院での医療水準を超えると考え、日曜日の夜間にも関わらず高度医療機関であるJ大学病院のICUに搬送した。転送時点ではminorleakageが急激に腹膜炎に至り敗血症性ショックに陥ったと臨床的に判断した。カテーテル感染症の可能性も否定はできなかったが術後経過を考え上記のほうを優先した。 (3)(2)の場合に行うべき措置について(IVHカテーテルを抜去すべきではないこと)亡Aに発生している症状に対して、最も診断名として疑わしい縫合不全に準じて治療を行った。治療については「難治性術後合併症とその対策(中外医」学社)によると「(1)絶食(2)輸液栄養管理高カロリー輸液(TPN)、可能な 症例には経管栄養を行い、積極的に栄養管理に努めることが重要である。投与カロリーは50kcal/kg/dayが必要といわれる「(3)抗生剤投与「(4)ドレーン」」の管理「(5)体外的ドレナージ「(6)再手術「(7)その他」をあげている。ま」」」た「KNACK&PITFALLS大腸・肛門外科の要点と盲点」によると「まず絶食とし、栄養管理のため中心静脈栄養を行う。漏出した腸内容や膿汁のドレナージ効果を高めるため、低圧持続吸引と十分な洗浄を行う。また抗生剤は感受性のあるものを投与する」と記載されている「臨床外科VOL50. NO.11-1995 脈栄養を行う。漏出した腸内容や膿汁のドレナージ効果を高めるため、低圧持続吸引と十分な洗浄を行う。また抗生剤は感受性のあるものを投与する」と記載されている「臨床外科VOL50. NO.11-1995増刊号」。 。 によれば「縫合不全のうちminorleakageであれば絶食、中心静脈栄養、抗生、剤投与、吻合部付近に留置してあるドレーンを用いた適切なドレナージにより2~3週間程度で治癒する」と記載されている。 。 以上より(1)絶食、(2)輸液栄養管理、高カロリー輸液(TPN)、(3)抗生剤投与を行った。高カロリー輸液にはカテーテルが必須であるのでカテーテルは抜去しなかった。 被告病院担当医師の義務違反と死亡結果との因果関係(原告らの主張)(1)感染症の原因についてア亡Aが被告病院において、IVHカテーテルからの感染症に罹患していたこと6月2日抜去されたIVHカテーテルの先端よりカンジダ菌が検出されている。また、J大学病院転院時、カンジダを含む真菌感染のスクリーニング. 検査であるβ-D-グルカンの数値が5220pg/mlであった(正常値200pg/ml以下。 )イ縫合不全によって生じた膿瘍からの感染ではなかったこと縫合不全とは、消化管外に漏れた消化液による局所の炎症と膿瘍形成によるものであるが、亡Aは、結局、生前において縫合不全の治療は一切受けておらず、また、解剖所見においても縫合不全や膿瘍の存在を示す所見はない。 経過中においても、ドレーンの排出液の性状は混濁しておらず、腹部レントゲン、腹部CT検査、ガストロ造影のいずれの画像検査においても縫合不全の所見はない。 ウ左腎の腎盂腎炎からの感染ではなかった(先行したものではない)こと亡Aにおいては腎盂腎炎の典型症状である腰背部痛がなく、また、腎盂腎炎は殆どが膀胱 れの画像検査においても縫合不全の所見はない。 ウ左腎の腎盂腎炎からの感染ではなかった(先行したものではない)こと亡Aにおいては腎盂腎炎の典型症状である腰背部痛がなく、また、腎盂腎炎は殆どが膀胱炎からの上行感染であるところ、亡Aは尿量は術後も維持されていて膀胱炎の所見はないこと、術後の一般的な感染予防のために抗生物質が投与されていたこと等から腎盂腎炎は無かったものと言える。 (2)(1)に引き続いて敗血症(敗血症性ショック)に陥った経緯亡Aは、5月30日午後4時に38度7分の熱発で発症したが、その後、菌の培地であるカテーテルが抜去されなかったため、血液内の菌は増殖し続けた。 5月31日午前10時の発熱時には頻脈(心拍数114)となり、6月1日の午後零時15分にも頻脈(110ぐらい)となっている。午後8時25分には不整脈が生じはじめ、午後9時には発熱がないにもかかわらず呼吸速迫気味で、以後、不整脈と呼吸速迫気味、深大性呼吸が頻繁に見られている。これらは敗血症の徴候である。6月2日午後にはCVP(中心静脈圧)14mmH2O(正常値30~100mmH2O、低下はショック状態等を表す)となっている。6月3日午後3時には膿尿が認められ腎不全の徴候もあった。敗血症に伴う心不全、腎不全を合併した状態となり、J大学病院転院時には、炎症所見を表すCRPは32.0mg/dl(正常値0、意識レベルはⅢ-300(痛み刺激に反応しな)い)で、完全に敗血症によるショック状態、意識不明となっていた。 (3)亡Aの死因は、(2)の敗血症(敗血症性ショック)であることア敗血症(敗血症性ショック)から、腎不全、心不全及び12月19日の心停止に至った機序ないし経過について亡Aの敗血症および敗血症性ショックは非常に重症で、死亡に至るまで感染状態から脱却できず、そのた 敗血症(敗血症性ショック)から、腎不全、心不全及び12月19日の心停止に至った機序ないし経過について亡Aの敗血症および敗血症性ショックは非常に重症で、死亡に至るまで感染状態から脱却できず、そのための様々な合併症を生じて、最終的には、D IC、多臓器不全となったものである。感染状態から最後まで脱却できなかったことについては、J大学病院でのβ-D-グルカンおよびCRP値、M病院におけるCRP値が最後まで感染を示す異常値であったことから証明される。結局、敗血症性ショックから死亡に至るまでは一連の敗血症性ショックとそれに続く合併症の経過ということができる。 イJ大学病院ないしM病院において、亡Aは敗血症(敗血症性ショック)及びその後に続発した病変(腎不全、心不全)から脱却できなかったことJ大学病院におけるCRP、β-D-グルカンなどの検査数値から、亡Aは、M病院への転院時まで敗血症から脱却できていないことは明かである。 また、M病院においても、CRP値はずっと異常値を示しており、感染状態が改善し、感染症から脱却したこともない。亡Aは、当初の敗血症が大変重篤で、J大学病院の医師らの書面においても腎不全、呼吸不全β-D-グルカン2000以上は救命例がないとはっきり記載されている。なお、同書面には、亡Aが「感染をクリアーできていないこと「全身状態が改善しつつ」あるのに末期に近づきつつあること」が指摘されている。 ウ癌の再発が死因ではないこと亡Aは、敗血症性ショックに陥ったことで免疫不全状態が重篤化しており、このことは癌の再発に少なからず関係しているはずである。よって、最初の大腸癌手術後、健康に回復していたとすれば、そもそも癌の再発があったかどうかもわからないし、仮にあっても開腹して根治のための癌の摘出手術を行えるはずであった。これができ るはずである。よって、最初の大腸癌手術後、健康に回復していたとすれば、そもそも癌の再発があったかどうかもわからないし、仮にあっても開腹して根治のための癌の摘出手術を行えるはずであった。これができなかったのは、被告病院の過失により敗血症に陥っていたためである。 また、亡Aは、癌の再発に伴う出血が開始した11月17日より痙攣が起き始め、出血以前に全身状態が悪化していた。 さらに、11月22日にポリぺクトミーで大腸ポリープ(結局は癌であった)の切除が行われ、その後、12月4日まではポリペクトミー後の経過は 順調であった。しかし、11月28日以降は痙攣が頻繁となり、かつ、12月に入って血小板の値が急激に低下しており、DICとなり下血も止まらなくなった。ポリペクトミーの際に、出血部をクリッピングして止血することができず、この箇所が出血源になった可能性はあるが、出血自体はDICによるものである。 (4)本件事故がなかった場合の亡Aの生命予後と因果関係人の死亡は歴史的な1回限りの事実であり、本件でいえば、12月19日における亡Aの死亡と被告病院担当医師の過失行為との因果関係の有無が判定されなければならない。その点、前述のとおり、亡Aの死亡原因が癌死ではなく、敗血症とそれに続発した腎不全、心不全であるとするならば、当然、被告病院担当医師の過失行為と亡Aの死亡には因果関係があることになる。癌の再発はあったが、それは死亡に直結するような段階に至っていたものではなく、癌のみであれば、さらに延命が可能だったということができる。 よって、亡Aは、被告病院担当医師の過失行為がなければ、それなりのQOLを保ちつつ、しばらく生活することが可能であったはずである。その「しばらくの間」がどのくらいの期間であるのかについては、現実には不明としか言いようがないが、証 の過失行為がなければ、それなりのQOLを保ちつつ、しばらく生活することが可能であったはずである。その「しばらくの間」がどのくらいの期間であるのかについては、現実には不明としか言いようがないが、証人Nの臨床経験に基づく感触からするならば、半年から1年はQOLを保った生活をすることができるであろうとのことであり、その後、病床につく生活を余儀なくされたとしても少なくとも手術のあと1年以上の予後があることについては高度の蓋然性があるというべきである。 (被告の主張)(1)感染症の原因についてア被告病院において、IVHカテーテル感染症が生じていなかったとする積極的な根拠本件ではカテーテル感染症が生じていた可能性は低い。なぜなら、カテーテル感染症による敗血症ならばその感染源であるカテーテルを抜去をしない 限り発熱などの症状は改善しないはずである。しかし、実際には感染源であるカテーテルを抜去していないにもかかわらず6月1日午後零時以降6月2日午後零時にカテーテル交換を行うまで発熱などは見られていない。その後6月3日午後3時30分まで発熱はみられず、熱型は落ち着いていた。 さらに、カテーテル先から培養されたカンジダ菌は(+)と少量であり、これは通常のカテーテル培養でも見られる程度である。カテーテル感染症の発症には、留置カテーテルへの細菌の侵入、付着が重要であり、その経路として、身体の他の部位の感染症により敗血症が生じた場合、血液中の細菌が直接カテーテルに付着する場合がある。すなわち縫合不全又は腎盂腎炎によって敗血症の状態に陥れば、カテーテルにカンジダが付着し、カテ培養でカンジダが認められることもありうる。 また、カテーテル感染症では発熱とほぼ同時に見られた強い腹痛やその後の麻痺性イレウスと思われる腹満、腸雑音低下などの説明がつかないのであ ジダが付着し、カテ培養でカンジダが認められることもありうる。 また、カテーテル感染症では発熱とほぼ同時に見られた強い腹痛やその後の麻痺性イレウスと思われる腹満、腸雑音低下などの説明がつかないのである。 さらに、中心静脈カテーテル留置例における発熱で、他に明らかな感染源がなく、カテーテル抜去により解熱し、その他の臨床症状が改善した場合はカテーテル感染症と考えられるが、本件は他に尿路感染という明らかな感染源があり、このことはカテーテル感染症の定義にそぐわない。 したがって、本件については、カテーテル感染症の可能性は低いと考えた。 イ縫合不全によって生じた膿瘍縫合不全の症状は「消化器外科VOL.17 NO.5 APRIL 1994」によると「消化管外に漏れた消化液による局所の炎症と膿瘍形成に由来する。膿瘍が形成されると、38度以上の弛張熱、いわゆるabscessfeverが見られ、理学的に圧痛が認められる。膿瘍周囲の腸管は多少なりとも麻痺状態をきたし、時に患者は自発痛、嘔気を訴える」とされる「KNACK&PITFALLS大腸・肛門。 。 外科の要点と盲点」によると「低位前方切除術では5~10%に合併し、注 意すべき合併症のひとつである。縫合不全が起きる時期は術後3~10日ほどであり、発熱、頻脈、腹部の圧痛、ドレーン排液の性状などに注意する「術後7日目以降の後期発生例では、漸減傾向にあった熱が38度台と。」、なり、排ガスの停止、排便異常(頻回の下痢や排便停止など、ドレーンか)らの膿の排出といった症状がみられる」とされる「臨床外科VOL50. NO.11。 。 -1995増刊号」によれば「縫合不全は第5~第10病日目に発症することが多い。この時期にいったん解熱したあと、ふたたび腹痛を伴う発熱を生じ、血液検査で白血球増多がみられれ 0. NO.11。 。 -1995増刊号」によれば「縫合不全は第5~第10病日目に発症することが多い。この時期にいったん解熱したあと、ふたたび腹痛を伴う発熱を生じ、血液検査で白血球増多がみられれば縫合不全が疑われる」と各医学文献に。 指摘されている。 診断は「難治性術後合併症とその対策」によると「1.症状所見(a)腹膜刺、激症状(疼痛、圧痛、筋性防御)(b)発熱、頻脈、呼吸逼迫、腸管麻痺、嘔気(c)ドレーン浸出液の性状(排液量の増加、汚色、腐敗臭)2.一般検査(a)白血球増多、CRP、血沈亢進(b)腹部単純X線検査(交感性胸水貯留、異常なガス像、鏡面形成、麻痺性イレウス像、EEA使用例ではstapleringの乱れ)(c)生化学(栄養評価、他疾患の除外)(d)凝固能(敗血症やDICのcare)(e)一般尿検査(尿糖、尿路感染のcheck)3.特殊検査」によるとされている。しかし「難治性術後合併症とその対策」によると、縫合不全には「画像診断上明らかに証明されたものから、客観的には証明されないが経口摂取時に異常発熱をみて、臨床的にマイナーリーク(小さい縫合不全、被告注)であろうと考えられたものまで種々」あり個別の症例によって症状は異なるとも指摘されている。 本件患者は、術後いったん解熱した後、第8病日目に経口摂取後にふたたび腹痛を伴う発熱を生じ、38度以上の弛張熱、いわゆるabscessfeverが見られ、理学的に圧痛が認められ、亡Aは自発痛、嘔気を訴えた経過があり、腹膜刺激症状(疼痛、圧痛)をみたし、発熱、頻脈、腸管麻痺、嘔気といった症状所見をみたしている。一般検査で、CRPをみたし、前日の腹部単純 X線検査(異常なガス像)に該当している。 以上より、本件患者に縫合不全が疑われたのであり、この疑いは臨床的にも十分な根拠に基づ 状所見をみたしている。一般検査で、CRPをみたし、前日の腹部単純 X線検査(異常なガス像)に該当している。 以上より、本件患者に縫合不全が疑われたのであり、この疑いは臨床的にも十分な根拠に基づいているというべきである。少なくとも法的には過失の評価には該当しない。縫合不全の程度は、症状所見でドレーン浸出液の性状に異常ないこと、一般検査で白血球は正常範囲内であることから、軽度であると考えられ、小さい縫合不全が考えられた。 「臨床外科VOL50. NO.11-1995増刊号」によれば「縫合不全のうちminorleakageであれば絶食、中心静脈栄養、抗生剤投与、吻合部付近に留置してあるドレーンを用いた適切なドレナージにより2~3週間程度で治癒する」。 と指摘されており、すでに治癒した可能性が高い7か月後の剖検所見で膿瘍は消退している可能性が高く、剖検所見とも矛盾しない。 ウ左腎の腎盂腎炎腎盂腎炎は腎盂、腎杯系および腎実質における感染症であり、組織学的には腎の尿細管、間質を中心とする間質性腎炎である。菌血症を併発することも多く、尿のみならず血液からも菌が検出されることがある。症状としては悪寒、戦慄を伴う38度以上の発熱、腰痛、側腹部痛などで発症する。発熱は高度で、40度を越えることもしばしばである。 本件患者の症例では発熱、腹痛がみられ、5月31日の検尿では糖(+)蛋白(-)潜血(++)で尿沈渣では白血球(+)赤血球(+)細菌(-)上皮(-)であった。 白血球が沈渣で認められており尿路感染が存在する。またその後膿尿がみられ、尿量減少から無尿へと移行していった経過から腎盂腎炎を伴っていたことが強く疑われる。また剖検所見からも左腎盂腎炎が認められている。 (2)被告病院から転院する際の亡Aの病状が敗血症(敗血症性ショック)には陥っていなかっ 行していった経過から腎盂腎炎を伴っていたことが強く疑われる。また剖検所見からも左腎盂腎炎が認められている。 (2)被告病院から転院する際の亡Aの病状が敗血症(敗血症性ショック)には陥っていなかったこと亡Aは被告病院からの転送時点で、敗血症性ショックに陥っていたがどうかは別にしても、敗血症には陥っていた。 敗血症の定義には種々あるが、そのうちの一つには①体温<36度または>38度②心拍数>90/分③呼吸数>20回/分またはPaCO<32torr ④白血球数>12.000/マイクロリットルまたは<4000マイクロリットルまたは桿状核>10%とするものがある。 この診断基準を基に論じると、J大学病院からM病院への転院当初は敗血症の定義を何一つ満たさないことから、M病院転院時には、亡Aは敗血症ではなかったことは明らかである。またM病院のカルテの記載にも敗血症を疑わせる所見はない。一般状態良好とまで書いてある。 つまり当然のことだが、敗血症が軽快したため高次医療機関であるJ大学病院から低次医療機関であるM病院に転院したわけである。また、臨床的にも7か月もの間同一の敗血症、しかも敗血症ショックが続くことはあり得ない。従って被告病院に起因する敗血症は治癒しており、敗血症が、亡Aの12月19日の心停止に関与していることはない。 (3)亡Aの死因について亡Aの死因は、癌の再発による悪疫質と癌性出血によるものである。 まず、本件患者の癌の進行度について述べる。 大腸癌取扱い規約によれば脳転移が見られる症例は臨床的病期ではTNM分類のなかのStageⅣとなる。これはもっとも病期の進んだ進行癌であり新外科学大系24Bによれば5年生存率は3%と非常に悪い。また他によく用いられるデュークス分類でも脳転移が見られる症例はA~Cのなかのデューク tageⅣとなる。これはもっとも病期の進んだ進行癌であり新外科学大系24Bによれば5年生存率は3%と非常に悪い。また他によく用いられるデュークス分類でも脳転移が見られる症例はA~CのなかのデュークスCとなり最も病期の進んだ進行癌である。 被告病院は、臨床的には余命6か月の本件患者に対して、かすかな望みをたくして手術を施行して肉眼的には癌腫をとりきったが、残念なことに転移再発 を来した。再発形式は、剖検所見によると、リンパ節転移で大動脈周囲のリンパ節まで転移していた。直腸癌では第四群と最も遠いリンパ節である。また骨盤にも浸潤が見られ直腸に隆起突出し、ここから出血がみられた。隆起部位ををポリペクトミーによって切除したがクリッピングできず断端陽性であった。 つまり癌は11月22日の後も、直腸内に癌は露出していた。癌は易出血性であり止血処置をしなければ出血が続くのは当然である。この後続く出血のため凝固線溶系が消費されDICに陥ってしまう。この前後に敗血症を疑わせる発熱などの症状は見られないし白血球の増多は見られず感染症が増悪した検査結果は見られない。つまり担癌状態のDICであり、敗血症によるDICではない。癌の末期状態でDICが見られることはよくあることである。 また、心不全の定義は心臓が生体の臓器器官の需要に応じた十分量の血液を拍出できない状態にあることをいうが、被告病院からの転院時点では、心不全の定義から心不全は認められない。すなわち、治療により心不全の改善が見られている。その後12月に入るまで心不全を疑わせる兆候は見られず、癌性出血、DICが重篤になってから心不全が見られている。すなわち、同月19日の心停止に関して被告病院で発症した心不全は関与していない。また腎不全は転院後も見られ持続しているが、透析治療により腎機能は保たれている。転 重篤になってから心不全が見られている。すなわち、同月19日の心停止に関して被告病院で発症した心不全は関与していない。また腎不全は転院後も見られ持続しているが、透析治療により腎機能は保たれている。転院後の腎機能検査は同月12日に至るまでBUN及びCrtnともに悪化は認められていない。したがって、被告病院で発生した腎不全は存在するものの、生命予後に影響を与え同月19日の死因となるたぐいのものではない。 被告病院初診時からの経過を見ると、本件患者の死因は癌病死以外の何物でもない。経過中のカテーテル感染は病気全体中一部を占めるに過ぎない。経過中の一部だけを取り上げ、それを死亡原因と断定することは、原因解明の本質を逸脱しているし、積極的誤謬である。その誤謬事実を前提に法的責任論を展開しても、本件に関する限り、実益はない。 (4)亡Aの生命予後について 生命予後に関して言えば、大腸癌の脳転移例は、その症例数が多くないことから、その転移形式による5年生存率の統計的データは作成されていない。しかしながら、数少ない報告例(臨床外科vol50朝倉書店)の中で確認してみると、手術適応があった事例でも、神経症状が得られ、退院可能となったものの生存日数は、150日から175日であり、全脳照射例では87日後に死亡している。同様の症例報告が希有であるからといって、本件のような脳転移例の生命予後が良好であることを意味していると解釈できないことは言うまでもない。 他方、亡Aが、被告病院で大腸癌の摘出手術を受けた後、J大学病院及びM病院を経て生存した期間は、約7か月である。 平成13年12月18日の時点で生存していた可能性は絶無ではないにしても、法的保護に値する程度の有意な生存可能性は発生しないと言わなければならない。 損害額(原告らの主張)(1)逸失利 。 平成13年12月18日の時点で生存していた可能性は絶無ではないにしても、法的保護に値する程度の有意な生存可能性は発生しないと言わなければならない。 損害額(原告らの主張)(1)逸失利益1482万3732円(2)慰謝料2500万円(3)葬儀費用150万円(4)弁護士費用400万円(5)合計4532万3732円(被告の主張) 争う。 原告らの責任論あるいは因果関係論の主張中には、亡Aの大腸癌の脳転移に対する分析、即ち大腸癌の病期分類Ⅳ期の評価が欠けている。 原告は訴状損害論のなかでも、亡Aの大腸癌の病期分類の検討を欠いたまま、亡Aの就労可能年数を71歳から7年間と主張している。すなわち生命予後を71歳女性の平均余命を前提としその2分の1を労働に従事できるという前提のもとに就労予後を7年と想定しているのである。大腸癌のⅣ期患者にとっては朗報であるものの、非現実的であることは癌の性質上、これを認めざるを得ないのである。 以上

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