平成19(ワ)699 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年12月11日 大阪地方裁判所
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判決文本文48,079 文字)

- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求の趣旨 被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成18年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 仮執行宣言第2事案の概要 要約( )原告の請求及び請求原因の要旨 本件は,大阪市浪速区にあるa公園内にビニールシートのテントを設置して野宿生活をしていた原告が,平成18年5月2日,公園を管理する被告(大阪市)のゆとりとみどり振興局天王寺動植物公園事務所(以下「公園事務所」という。)の職員の職務行為により,公園に設置していたテント等を撤去され,その際別紙1物件目録記載の物品を撤去されて廃棄処分され,物品価額8万2630円相当の財産的損害を被った上に,生活の基盤をなす重要な物品を失ってその日の生活にも窮するとともに唯一の住居であるテントを突然破壊されて精神的苦痛を被ったと主張して,不法行為(国家賠償法1条1項,民法709条)に基づく損害賠償請求権に基づき,損害賠償110万円(8万2630円相当の財産的損害を含む包括的慰謝料100万円と弁護士費用10万円)及びこれに対する不法行為の日である平成18年5月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 ( )請求原因に対する認否及び被告の主張の要旨 被告の公園事務所の職員が,平成18年5月2日,a公園で野宿生活をしていた- 2 -原告が公園に設置していたテント等を撤去し(以下「本件撤去」という。),撤去した物品を廃棄処分したことは認める。廃棄した物品が,別紙1物件目録記載の物品であるか否かは知らない。 本件撤去は,原告の承諾に基づき,都市公園法にのっとり適正に公園管理を行った 」という。),撤去した物品を廃棄処分したことは認める。廃棄した物品が,別紙1物件目録記載の物品であるか否かは知らない。 本件撤去は,原告の承諾に基づき,都市公園法にのっとり適正に公園管理を行った行為であり,違法性がない。すなわち,原告は,都市公園であるa公園の区域内に公園管理者である被告から都市公園法6条1項の許可を受けることなくテントを設置し,また,大阪市公園条例3条1項3号の規定に違反し物件を堆積していた。 原告は,法令上その設置が認められていないテント等を設置し,これを起居の場所として日常生活を営むことによりその敷地を占用していたのであって,その態様等からして,公衆の利用に著しい支障を及ぼしていた。被告としては,適正な公園管理の観点からこのような不法占拠を認められず,公園事務所職員より原告に対し不法占拠物件の撤去指導(行政指導)を始めた。被告は,原告と交渉を重ねた結果,平成18年4月30日を撤去期限としてa公園から退去すること,その後に公園に残された原告の所有物については被告が処分しても異議がないことを主な内容とする承諾書(別紙2)を平成18年3月16日に原告から徴した。そして,承諾書に記載された期限を過ぎた平成18年5月2日,被告職員がa公園に赴き,原告の承諾のもと,原告所有物を処分したものである。 ( )争いのない事実(本件撤去及び承諾書の作成) 被告の職員が,その職務として,平成18年5月2日,本件撤去を行い,原告は,それ以前の平成18年3月16日,承諾書(別紙2)に署名したことは,当事者間に争いがない。 ( )主な争点(本件撤去の違法性) 主な争点は,本件撤去の違法性であり,原告が承諾書に署名したことをもって本件撤去に同意したものとして,本件撤去が適法と評価されるか否かである。 原告は,承諾書への署名の事実は認めた 撤去の違法性) 主な争点は,本件撤去の違法性であり,原告が承諾書に署名したことをもって本件撤去に同意したものとして,本件撤去が適法と評価されるか否かである。 原告は,承諾書への署名の事実は認めた上で,①真意に基づく承諾の不存在,②公序良俗違反による承諾の無効,③承諾の範囲を逸脱したことによる本件撤去の違- 3 -法,④承諾の撤回,⑤自力救済の禁止違反による本件撤去の違法などの主張に基づき,有効な承諾はなかったなどとして本件撤去の違法性を主張する。 ( )本件撤去の違法性に関する原告の主張の要旨 承諾書の内容は,いずれも原告においておよそ了解するはずのないことが明らかなものや,実現が不可能なものばかりであって,承諾書に署名したことが原告の真意に基づくものでないことは明らかであるから,本件撤去について原告の承諾は存在しないといわざるを得ない。なお,原告は,本件撤去時にも承諾をしていない。 仮に承諾が存在するとしても,かかる承諾は,憲法13条,憲法29条1項,憲法25条1項及び生活保護法1条,民事執行法131条及び168条の2,ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(以下「自立支援法」という。)1条,3条及び11条の趣旨に反し,公序良俗に反し民法90条により無効である。 仮に承諾が有効であるとしても,撤去しうる物件及び撤去作業に着手することができる時期の2点において,被告は,承諾書での承諾の範囲を逸脱する態様で本件撤去作業を行っているから,本件撤去は違法である。 また,原告は,本件撤去までに承諾を撤回しているから,被告が撤去作業を行うことは許されない。原告の所有物件を撤去及び処分することを承諾する意思表示は,法律上,委任をしたものとみることができるので,かかる意思表示は,いつでも撤回することができる(民法651条)。 仮に承諾が本件撤 されない。原告の所有物件を撤去及び処分することを承諾する意思表示は,法律上,委任をしたものとみることができるので,かかる意思表示は,いつでも撤回することができる(民法651条)。 仮に承諾が本件撤去時においても有効であったとしても,原告が承諾書の内容を任意に履行しない場合には,行政手続法13条1項の聴聞又は弁明の機会の付与の手続を経た上で,都市公園法27条1項に基づく除却命令を発し,行政代執行法3条に基づく戒告,代執行令書の交付等の手続を経て同法2条による行政代執行がされなければならない。この手続を経ないで承諾書のみに基づいてされた本件撤去は,自力救済の禁止に違反し違法である。 前提事実等以下の事実は,当事者間に争いのない事実又は後記証拠によって認められる。 - 4 -( )承諾書への署名及び本件撤去の経緯 大阪市浪速区にあるa公園(乙5,6)は,被告が設置・管理する都市公園(都市公園法2条)であり,被告のゆとりとみどり振興局天王寺動植物公園事務所(公園事務所)がa公園の管理に関する事務を分掌し,施設管理担当課長であるAをはじめとする公園事務所の職員らがその事務を担当している(乙7)。 原告は,平成14年1月頃から,a公園内にビニールシートのテントを設置して野宿生活をしていた(甲14の1,甲18の写真⑦~⑨,乙5)。原告のテントの位置は,別紙3a公園平面図の原告テント位置のとおりであり,テントその他の物件を公園に置いていた状況は,別紙4写真⑦,⑧,⑨のとおりである。 都市公園法6条1項は,「都市公園に公園施設以外の工作物その他の物件又は施設を設けて都市公園を占用しようとするときは,公園管理者の許可を受けなければならない。」と規定しているが,原告は,この法律の規定に違反し,公園管理者の許可を受けないで,a公園にテントを設け,公園を 設を設けて都市公園を占用しようとするときは,公園管理者の許可を受けなければならない。」と規定しているが,原告は,この法律の規定に違反し,公園管理者の許可を受けないで,a公園にテントを設け,公園を占用していた。また,都市公園法18条に基づき定められた大阪市公園条例(昭和52年大阪市条例29号)3条1項3号は,都市公園においては,何人も,みだりに土石,竹木等の物件を堆積することをしてはならない旨を定めているが,原告は,この条例の規定に違反し,別紙4の写真のとおり,プラスチック衣装ケース等の物件を公園に堆積していた。 公園事務所の職員は,平成18年3月3日,勧告書(甲14の2,別紙5)を原告に手渡した(甲14の1)。勧告書の記載は,次のとおりである。 「公園内にテント・小屋掛け等を設置することは,公園を利用される皆様の支障となるばかりでなく,関係法令により禁止されています。 所有者は平成18年3月31日までに撤去するように通告します。 また,自立に向けた生活相談や自立支援センター入所,福祉措置の支援を希望される場合は,ご連絡ください。 平成18年3月3日天王寺動植物公園事務所- 5 -電話6771-2740」原告は,平成18年3月16日,被告(大阪市長)宛の承諾書(甲2,別紙2)に署名して公園事務所の職員に渡した(甲14の1)。承諾書の記載は,次のとおりである。 「私所有の次の物件については,所有権を一切放棄しますので,退去後は大阪市において処分されても異議ありません。 今後は公園内に物件の設置は行わないことを誓約します。 なお,撤去期限は,平成18年4月30日までとする。 記1.物件所在地大阪市浪速区ab丁目a公園内2.物件の種類,数量等小屋及び物品等一切」公園事務所の職員は,承諾書に記載された撤去期限が過ぎた平成18年5月2日,午 年4月30日までとする。 記1.物件所在地大阪市浪速区ab丁目a公園内2.物件の種類,数量等小屋及び物品等一切」公園事務所の職員は,承諾書に記載された撤去期限が過ぎた平成18年5月2日,午前9時過ぎ頃から,a公園に設置された野宿生活者のテント等の撤去を始め,午前10時半過ぎころから原告のテント等を撤去し,原告が搬出した物品を除き,原告が公園内に置いていたテント等の物品を撤去し,平成18年5月8日までに撤去した物品をすべて廃棄処分した(甲14の3,甲16~18,甲23~26,乙7,証人E,同A,原告本人)。 ( )自立支援法及びこれに基づく対策マニュアルの策定 ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(自立支援法)は,都市公園等の施設を故なく起居の場所とし,日常生活を営んでいる者を「ホームレス」と定義した上で(したがって,原告は,同法にいうホームレスに当たる。2条),1条において「この法律は,自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在し,健康で文化的な生活を送ることができないでいるとともに,地域社会とのあつれきが生じつつある現状にかんがみ,ホームレスの自立の支援,ホ- 6 -ームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関し,国等の果たすべき責務を明らかにするとともに,ホームレスの人権に配慮し,かつ,地域社会の理解と協力を得つつ,必要な施策を講ずることにより,ホームレスに関する問題の解決に資することを目的とする。」と定め,11条において「都市公園その他の公共の用に供する施設を管理する者は,当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは,ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ,法令の規定に基づき,当該施設の適正な利用を確保するために必要な ホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは,ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ,法令の規定に基づき,当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする。」と定めている。 被告は,自立支援法9条2項の規定に基づく計画である「大阪市野宿生活者(ホームレス)の自立の支援等に関する実施計画(平成16年度~平成20年度)」に基づき,野宿生活者の自立の支援に向けた施策として,野宿生活者巡回相談事業,自立支援センター(甲19の1~3,乙2の1~5)の設置・運営,仮設一時避難所(甲19の4,乙3)の設置・運営,就労支援対策及び保健医療対策等を行っている。また,被告設置の都市公園を管理するゆとりとみどり振興局は,同計画に基づき,別紙6のとおり「大阪市野宿生活者の自立の支援等に関する実施計画に基づく公園の野宿生活者対策マニュアル」(以下「対策マニュアル」という。甲13の1~9,乙4)を作成している。 当事者の主張の詳細別紙7のとおり第3裁判所の判断 判断の大要当裁判所は,原告が,撤去当日,公園事務所のA課長に対して,「ええことないっすよ。」,「しゃあないんでしょう。」と述べているその言葉どおり理解するのが相当であると考える。すなわち,承諾書に署名し,a公園から退去し,被告にテント等の撤去をされることは,野宿生活という厳しい生活をしている原告の立場から,これからの見通しもつかないつらいことであって,決して良い事ではなく,嫌- 7 -な事であるが,そうであるからといって承諾書に署名しないで撤去を拒否したところで,明らかに違法に公園を占拠している原告にとって将来強制撤去を求められるおそれもあって,別の道筋が開かれるわけでもない。その意味で,承諾書に署名し,被告(大阪市)によるテント 撤去を拒否したところで,明らかに違法に公園を占拠している原告にとって将来強制撤去を求められるおそれもあって,別の道筋が開かれるわけでもない。その意味で,承諾書に署名し,被告(大阪市)によるテントの撤去を甘受することは,原告にとって本当に「しゃあない」ことであったという理解を如実に示しているものと認める。まさに原告の言葉通り理解すべきものであって,それは真意(原告の言葉によれば本意)でないということを意味するのではなく,嫌だけれどもしゃあない(仕方ない)ことであったということを意味するにすぎないものと解される。 そのほかの点でも原告の主張は,いずれも採用できず,本件撤去は,承諾書によってされた原告の承諾に基づいて行われたものであって,不法行為としての違法性は認められないものと判断する。 認定事実前記前提事実等並びに証拠(後記証拠のほか証人E,証人A及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ( )原告がa公園で野宿生活を始めてから承諾書の作成に至る経緯 原告(昭和39年9月24日生,本件撤去時41歳)は,平成14年1月頃から,a公園で野宿生活を始めるようになり,別紙3,4の図面及び写真のとおり,公園内の大阪市立a小学校及び同附属幼稚園に隣接するフェンスの近くの植込み部分にプラスチック衣装ケース等を積み上げ,その上にビニールシートを張った縦2m×横3m×高さ1mほどの大きさのテントを設置してその中で起居するとともに,テントの周りにも生活用品や露天で販売する商品などを積み置いていた(甲14の1,甲18の写真⑦~⑨,甲26,乙5~7)。原告がこのような状態でa公園で野宿生活を続けていたことは,都市公園法6条1項に違反して,公園管理者の許可なく都市公園であるa公園を占用し,同法に基づく大阪市公園条例3条1項3号に違 6,乙5~7)。原告がこのような状態でa公園で野宿生活を続けていたことは,都市公園法6条1項に違反して,公園管理者の許可なく都市公園であるa公園を占用し,同法に基づく大阪市公園条例3条1項3号に違反して公園において物件を堆積している状態であった。 公園事務所職員は,平成14年2月,公園内で野宿生活を始めた原告と初回の面- 8 -談を行い,以後,1週間に1,2度程度,公園内の野宿生活者の状況を確認するためにa公園を訪れていた。平成16年7月29日,公園事務所職員が原告から聞き取り調査を行い,同日付で聞き取り調査票(甲14の1)を作成した。その聞き取り調査において,原告は,現在の収入源は,アルミ缶回収・電化製品回収・特別清掃・白手帳(日雇労働求職者給付金を指す。)・日雇い・露天商であり,月の収入額は,3万5000円と述べている。また,原告は,聞き取り調査で,巡回相談は希望するが,入院・施設入所・生活保護は希望しないと述べている。公園事務所職員は,平成17年3月31日にも聞き取り調査を行ったが,聞き取り内容に変更はなかった。原告は聞き取り調査票の記録の信用性を争うが,原告が事実と違うと指摘する点のうち,原告の年齢(41歳)は,最新の訪問記録の時点である平成18年5月2日での年齢を記載したものと認められ,猫を飼っていたことの記載がないことは,物件調書の記載であり外観から判断した結果と考えられるから,収入源等その他の記載については,記載が具体的であり,原告の供述とも一致することから,実際に原告から聞き取り調査した結果を記載した信用性のある記載と認められる。 平成18年2月9日,公園利用相談員2名が,通常の巡回監視業務の一環として原告のテントを訪問した際,「近くここを撤去する話がある。」と告げ,改めて生活実態,健康状態,自立の意思等を聴取し,自立 る。 平成18年2月9日,公園利用相談員2名が,通常の巡回監視業務の一環として原告のテントを訪問した際,「近くここを撤去する話がある。」と告げ,改めて生活実態,健康状態,自立の意思等を聴取し,自立支援施策として被告が設置している自立支援センターの説明を行った。これに対し,原告は,露天商の収入で生活をしていること,自立支援センターのことは大体知っているが,きちんと正規に仕事に就きたいとも思わないし,長続きしないと思う,これといった目標もないので自立支援センターの見学は希望しないと答えた。自立支援センター(乙2の1~5)においては,原則として入所後3か月間,入所者に対し宿所と食事が無料で提供され,日用品の支給や就労などの支援を受けることができる。 平成18年3月2日,公園事務所の施設管理担当課長Aは,担当職員らとともに,a公園の野宿生活者に対し,一斉にテント等の撤去指導を行い,原告に対しても,3月末までに野宿生活者によるa公園の不法占拠を解消したいので,公園から原告- 9 -のテント等を撤去するよう求めた。しかし,原告には撤去の意思がなかったので,自分で撤去できないのであれば,必要な物を持ってテントから退去した後に被告で撤去するので,承諾書を提出してほしいと述べて,別紙2の書式で記載された承諾書の用紙に署名を求めたが,原告は,退去及び承諾書への署名のいずれも断った。 この日も被告職員は,自立支援センターの説明を行っている。 A課長ら公園事務所の職員は,翌3月3日,再び原告の下を訪れ,前日と同様にテント等の撤去を求めたが,原告には撤去の意思がなかったため,公園事務所職員は,別紙5のとおりの勧告書を読み上げ,これを原告に手渡した。その際,公園事務所職員は,原告が勧告書を受け取るところを写真撮影した。 A課長と公園利用相談員2名は,3月15日,再び め,公園事務所職員は,別紙5のとおりの勧告書を読み上げ,これを原告に手渡した。その際,公園事務所職員は,原告が勧告書を受け取るところを写真撮影した。 A課長と公園利用相談員2名は,3月15日,再び原告の下を訪れ,原告に対し,承諾書への署名を求めたが,この日も,原告は承諾書の提出に応じなかった。しかし,原告は,職員の帰り際に,公園利用相談員に対し,「明日,公園利用相談員だけで原告を訪問してくれ。」という旨の発言をして,翌日,A課長が来なければ承諾書に署名する意思表示をした。 翌3月16日,公園利用相談員2名が原告のテントを訪れ,原告は,承諾書(別紙2)に署名した。 ( )承諾書に署名した後の状況 生活保護や入院の手続を取るなど野宿生活者を支援する団体である野宿者ネットワークのメンバーであるE(甲16)は,a公園の野宿生活者であったB兄弟から同公園内の野宿生活者で承諾書に署名した者が何人かいるということを把握し,弁護士と相談してこのような承諾書は無効であるという話を聞いた。そこで,Eは,平成18年3月下旬,原告らa公園の野宿生活者を訪問し,原告を含むa公園の野宿生活者らが承諾書に署名したことを知った。そこで,Eは,弁護士に依頼し,Eの依頼を受けた木原万樹子弁護士は,平成18年3月27日,弁護士,司法書士ら46名の賛同者名簿を付して,被告のゆとりとみどり振興局と公園事務所に宛てて,申入書(甲3の1・2)を送付した。申入書には,賛同者一同の名義で,次のとお- 10 -りの申入れが記載されている。被告は,この申入書に対し,何らの応答もしなかった。 「我々は,路上での法律相談等を通じ,ホームレス問題に取り組んでいる法律家一同です。今般,大阪市内のc公園,a公園,d公園等において,同公園事務所職員が,ホームレスの人たちのテントを個別に訪れ,「 「我々は,路上での法律相談等を通じ,ホームレス問題に取り組んでいる法律家一同です。今般,大阪市内のc公園,a公園,d公園等において,同公園事務所職員が,ホームレスの人たちのテントを個別に訪れ,「e公園もテントはなくなった」などとして,大阪市内の公園にはテント撤去が強制されているかのような言い回しを行って,「テント撤去の誓約書」を取った上,誓約書記載の期日にテントを撤去しているとの情報を得ましたので,本申入れに至った次第です。(中略)また,上述した誓約は,「告」と題した「所有者は平成18年3月31日までに撤去するよう通告します」との内容の文章を差し置いた上で,公園事務所職員が多人数訪れている状況下で行われているとのことですし,上記誓約ないし同意の結果,ホームレスの人たちは,厳寒の中,テントのない状態で,別の場所に追いやられることになるのですから,このような同意をもって,テント撤去の真摯な同意があったとすることは,極めて疑わしいと言わざるを得ません。また,仮に上記誓約書が有効であったとしても,ホームレスの人たちのテントを撤去することは,違法である疑いが極めて濃厚です(大阪弁護士会1月25日付会長声明参照)。(中略)誓約書回収によるテント撤去が行われているのだとすれば,国連社会権規約委員会の一般的意見第4及び第7等に反するものであって,自立支援法11条及び社会権規約11条等に違反する可能性が極めて高いことなりますから,直ちに止めて頂きます様,貴局及び貴所において周知徹底して下さいます様,申し入れます。」( )本件撤去の経緯 A課長が一斉に撤去指導を始めた平成18年3月2日当時,a公園では,7件(8名)の野宿生活者がいたが,原告が承諾書に署名した3月16日までには,そのうち1名を除き,3月末又は4月末を撤去期限とする同様の承諾書に署名 去指導を始めた平成18年3月2日当時,a公園では,7件(8名)の野宿生活者がいたが,原告が承諾書に署名した3月16日までには,そのうち1名を除き,3月末又は4月末を撤去期限とする同様の承諾書に署名した。 公園事務所職員は,4月12日及び13日,自立支援センターに入所した1名のテント等を撤去した。その際,面談できた者に対し,撤去期限の4月末が近づいて- 11 -いるので,あらかじめ廃材等の不用品があれば処分する旨を伝え,不用品を処分した。 公園事務所職員は,平成18年4月26日から28日にかけても,撤去期日が迫ってきているので準備を進めるようa公園の野宿生活者一人ひとりに告げて回り,その間に,原告に対しても同趣旨が伝えられた。 原告は,平成18年4月30日,大阪弁護士会に対し,公園事務所が原告らのテントを撤去しようとしていることは,違法な強制退去であり,看過しがたい人権侵害行為であるとして,人権救済の申立てをした。同日における原告らa公園の野宿生活者の写真を撮影した状況は,別紙4のとおりであり,原告のテントは,東西1. 95m×南北3.95m程度の大きさで,公園を占有していた。 Aを初めとする20名余りの公園事務所職員は,平成18年5月2日午前9時過ぎ頃,軽トラックでa公園を訪れ,当時,a公園で野宿生活をしていた6件(7名)のうち,承諾書を提出していた5件(6名)のテントの撤去に着手した(証人A)。そのうち4件(5名)のテントは,a公園の西端のa小学校と隣接するあたりに,北から,B兄弟,C(甲25),D,原告(甲26)の順に並んでおり(甲18),職員らは,この順序で,北端に位置するB兄弟のテントから撤去作業を開始した(甲23,24)。その際,B兄弟,C,D,原告はテントの使用を続けている状態であり,Dは不在であったが,B兄弟,C,原告はテン 員らは,この順序で,北端に位置するB兄弟のテントから撤去作業を開始した(甲23,24)。その際,B兄弟,C,D,原告はテントの使用を続けている状態であり,Dは不在であったが,B兄弟,C,原告はテントの中に居た。他の1名は既に自立支援センターに入所してテント等を放置していた。B兄弟は,公園事務所職員らに対し,「昼からにしてくれ。」,「支援者が来てからにしてくれ。」といったが,A課長は,「手伝うから,直ちに必要な物を持ち出すように。」と告げ,職員らは,必要な物と不必要な物との仕分けをし,必要な物を運び出すのを手伝いながら,テントの解体に着手し,解体したテントの資材などをトラックの荷台に積み込んでいった。 E(甲16)は,午前9時20分頃,Cから電話で,撤去作業が開始されたとの連絡を受けたことから,ビデオを持って,a公園に向かった。午前10時頃,公園- 12 -に到着したEは,職員らに対し,違法な撤去を止めるよう抗議し,野宿生活者らが人権救済申立てをしていることを伝え,原告も「サインしたのは本意じゃないのは分かってるんでしょう。」とA課長に言ったが,A課長は,不法占拠物件を承諾書をとった上で撤去するだけだと答え,職員らは,そのまま作業を継続した。 B兄弟のテント等が撤去されたのに続いて,午前10時頃,Cのテント等の解体が始まった。Cは,自身のテントから荷物を運び出していたが,職員らの作業は中止されることなく継続され,午前10時08分頃,Cのテントの撤去が完了した。 続いて,Dのテントの解体作業が始まった。野宿者ネットワークの増村満男(甲17)は,Dが不在であったことから,職員らに対し,Dが戻ってくるまで待つよう申し入れたが,職員らの作業が中断されることはなかった。原告は,この間,自身のテントから自分の荷物を取り出し,テントから,8m離れた,公 不在であったことから,職員らに対し,Dが戻ってくるまで待つよう申し入れたが,職員らの作業が中断されることはなかった。原告は,この間,自身のテントから自分の荷物を取り出し,テントから,8m離れた,公園の中央部より少し北側のあたりに積み上げていった。Eら現場に来ていた支援者3名もこの作業を手伝った。Dのテントの撤去作業は,午前10時35分頃に完了し,その後,原告のテント等の解体が始まった。 原告は,職員らが自身のテント等を解体し,トラックに積み込んでいる間も,引き続き,プラスチック衣装ケース等の荷物を運び出していたが,残っているケースの中から必要なものを探している途中に,A課長から,「もうええんか。」と声をかけられたのに対し,「ええことないっすよ。」,「しゃあないでしょう。」と答えた。 ( ) 撤去後の経緯 野宿者ネットワークは,Cから,従前より生活保護の申請について相談を受けていたところ,5月2日,a公園のテント等が撤去されたことを受けて,Cについては,生活保護を申請することについて改めて相談をし,その後,Cは生活保護を受けるようになった。また,同日,テントが撤去された者のうち1名は,自立支援センターに入所した。 原告は,支援者らの協力を得て,同日から,西成公園の空いていたテントで野宿- 13 -生活を始め,現在まで西成公園内のテントで野宿生活を続けている。 本件撤去の翌日からの連休が終わった5月8日(月曜日),原告は,a公園においてテント等を撤去された他の野宿生活者や支援者ら合計50名から60名と共に,公園事務所に赴き,撤去されたテント等の返還を求めたが,公園事務所は,既に撤去されたテント等を廃棄していた。 承諾の不存在の主張について原告は,承諾書への署名は,原告の真意によるものではなく,被告の職員もこれを熟知していたと主張す 返還を求めたが,公園事務所は,既に撤去されたテント等を廃棄していた。 承諾の不存在の主張について原告は,承諾書への署名は,原告の真意によるものではなく,被告の職員もこれを熟知していたと主張する。しかし,以下に説明するとおり,原告としては,承諾書に署名することにより,公園から任意に所有物を持ち出して退去しなければ,撤去期限である平成18年4月30日限り,テント等の小屋及び物品等一切の所有権を失い,以後,公園管理者である被告がその管理権に基づき,原告の意思如何にかかわらずこれを撤去することができるようになるという承諾書の法的効果,すなわち承諾書に署名することが自分にどのような結果をもたらすのかを十分に認識しながら,これを受け入れる意思,すなわち真意に基づき承諾書に署名したものと認めるのが相当である。原告の主張は,結局のところ,承諾書への署名が原告の真意(原告本人の言葉をかりれば本意)でないことをいっているのではなく,野宿生活者である原告の置かれた立場から,署名することは嫌でありa公園を出た後の生活の見通しもないけれど,署名を拒否したからといって別の道筋が開かれる見通しもないという意味で,まさに原告本人がA課長に述べたとおり,しゃあない(仕方ない)ということで署名を受け入れたものであって,これは,承諾書が真意でないということを意味するのではない。 前記認定の承諾書署名の経緯によれば,原告は,平成18年3月2日,3日と連日公園事務所職員の訪問を受けて,承諾書への署名を求められた上に,これを拒否すると3月3日に3月末での退去を求める勧告書を渡され,3月15日にも公園事務所職員から再び承諾書への署名を求められた結果,翌日A課長が来ないで公園利用相談員だけで訪問すれば承諾書に署名する旨告げた上で,翌16日,原告のテン- 14 -トを訪問した 3月15日にも公園事務所職員から再び承諾書への署名を求められた結果,翌日A課長が来ないで公園利用相談員だけで訪問すれば承諾書に署名する旨告げた上で,翌16日,原告のテン- 14 -トを訪問した公園利用相談員の求めに応じて承諾書に署名したものである。承諾書の内容は,「私所有のa公園内の小屋及び物品等一切について所有権を一切放棄しますので,退去後は大阪市(被告)において処分されても異議ありません。今後は公園内に物件の設置は行わないことを誓約します。なお,撤去期限は,平成18年4月30日までとする。」という記載がされている。 原告は,3月末の期限を定めて退去を求める勧告書を受け取った上で,承諾書という書面に署名して明確な意思表示をしているのである。しかも,その際には,原告の方から承諾書への署名を前提として公園利用相談員の訪問を求めた経過がある。 このような事情からすれば,原告としては,承諾書に署名すれば,4月30日が経過した後はa公園を退去せざるを得ず,そこでの野宿生活は続けられないこと,その際,持参できない物は所有権を放棄せざるを得ないことを理解して署名したことは明らかと認められる。 承諾書の内容についても,たしかに,承諾書の記載を表面的に解すれば,野宿生活者である原告にとって,衣食住や職業生活の基礎となるすべての物を含むa公園内の小屋及び物品等一切の所有権を放棄することとされており,過酷な内容にも見える。しかし,承諾書の内容を合理的に解釈すれば,公園内で野宿生活するためのビニールシートのテントのような物はともかく,その他の動産類で生活上必要な物品については,自ら持参して公園から持ち出すことが当然認められると解される。 現に,本件撤去に当たっても,不在であったDを除けば,原告は,それが必要な物のすべてであったか否かは争いがあるもののテントか 品については,自ら持参して公園から持ち出すことが当然認められると解される。 現に,本件撤去に当たっても,不在であったDを除けば,原告は,それが必要な物のすべてであったか否かは争いがあるもののテントから所有物の搬出をしているし,被告職員は,撤去開始時にまだテントの中にいたB兄弟に対しても必要な物を取り分ける手伝いをしている。 原告は,4年間にわたりa公園を生活の本拠とし,経済的に困窮状態にあることから,a公園を退去しても他に移転先を確保することが不可能であったと主張する。 しかし,4年間にわたり生活の本拠としたといっても,都市公園であるa公園での野宿生活が明らかな違法行為であり,いずれ退去しなければならないことは原告も- 15 -十分に承知していたはずである。別紙3,4の図面及び写真から明らかなとおり,小学校・幼稚園やマンションのすぐ近くの公園内に相当程度の大きさのテントで不法占拠し寝泊りしていることが,都市公園の適正な利用が著しく損なわれており放置できない状況であることも明らかである。経済的に困窮状態にあり他の移転先を確保することが困難であったとしても,被告の職員から自立支援センターへの入所を勧められ,現に同じ公園から他の野宿生活者が自立支援センターに入所したり,生活保護を受けたりしていることからすれば,希望すれば原告も自立支援センターに一時的に入所して3か月の入所期間内に就労支援等を受けて将来の生活設計を試みることも可能であったと認められるのに,原告は,そのような自立支援センターへの入所を通じて将来の生活設計を試みる意思がなく,これを断ったのである。原告は,自立支援センターへの入所が確実であるという段階に至らなければ任意の承諾が存在したと判断するに足る代替措置が採られたとはいえないと主張するが,原告が自ら希望しなかったことを省みない主 ある。原告は,自立支援センターへの入所が確実であるという段階に至らなければ任意の承諾が存在したと判断するに足る代替措置が採られたとはいえないと主張するが,原告が自ら希望しなかったことを省みない主張であり採用できない。他に移転先を確保することが不可能であるというのは,被告の自立支援施策の当否の問題ではなく,原告が自らの選択により作り出した状況であるともいえるのである。したがって,原告がa公園を退去することを前提とする承諾書の内容が,社会通念からみて客観的に実現不可能な内容を条件とするものとはいえない。 原告は,保護開始決定がなされて新たな住居を確保するまでに至らなければ,代替住居は確保されたとはいえず,かかる状況下での任意の承諾はあり得ないとも主張するが,前記のとおり,希望すれば自立支援センターにより一定期間の住居が提供されたはずであるから,生活保護による住居の確保がされなければ任意の承諾に当たらないというものでもない。 更に,原告は,対策マニュアルに反する手続で本件撤去が行われたことは,承諾書があっても原告の真意に基づく承諾が存在しなかったことを推認させるとも主張する。しかし,真意に基づく承諾を否定するような対策マニュアルの違反は,本件全証拠及び経緯によっても認めるに足りない。すなわち,対策マニュアル様式2の- 16 -勧告文が手交されなかったとは認められないし,仮にこれが手交されていないとしても,その目的は,テント等が違法物件であることを認知させることに止まると解され,この目的は,本件で手交された勧告書(別紙5)によって達することができ,二重の勧告がされなかったことを原告の真意を否定するほどの重大な違反と評価するのは相当でない。野宿生活者ケース会議を開催しなかったことも,マニュアル(4項)上,この会議が必ず置かなければならないもの 二重の勧告がされなかったことを原告の真意を否定するほどの重大な違反と評価するのは相当でない。野宿生活者ケース会議を開催しなかったことも,マニュアル(4項)上,この会議が必ず置かなければならないものではないから,マニュアル違反とはいえない。自立支援センターへの入所も希望しない原告に対し,実効的な自立支援プログラムを作成していないからといって,それがマニュアル違反になるとも解されない。勧告書の退去期限がマニュアル(5項④)が基本と定める1か月間より少ない28日間であったことも,その差はわずかであり,また,後に原告が署名した承諾書では,撤去期限は4月30日と定められているのであって,最終的には1か月半の猶予期間が置かれたことになるから,承諾の任意性を失わせるようなマニュアル違反とはいえない。原告は,マニュアルの承諾書は,本来,撤去を了解した者が必要とする物件を持ち出した後に,残った不用品に限り,大阪市が処分してもよいことを承諾する目的で作成されるものであり,本件の承諾書において,当初から大阪市の自由な処分に委ねる「物件の種類,数量等」として不動文字で「小屋及び物品等一切」と記載して撤去期限を定め,撤去を完遂するために所有するすべての動産を撤去する意図でこのような承諾を求めた点もマニュアルに違反すると主張する。しかし,マニュアルの「6.除却(原則として勧告期限経過後)」の「①本人が物件の撤去を了解した場合」の記載は,本人が必要とする物件は,期限までの公園外に持ち出すよう指導するとともに,不用品は本人の承諾書(様式4)を取りごみとして処理することを定めているのであって,野宿生活者が自主的に退去した後に承諾書を取ることは,行方も分からなくなる可能性もあり実際上困難であるから,この記載は,当然,予め物件の撤去期限を定めて承諾書を取り,撤去期限まで ているのであって,野宿生活者が自主的に退去した後に承諾書を取ることは,行方も分からなくなる可能性もあり実際上困難であるから,この記載は,当然,予め物件の撤去期限を定めて承諾書を取り,撤去期限までに本人が必要とする物件を公園外に持ち出すように指導することを予定したものと解するのが自然である。 - 17 -原告は,支援者らとともに本件撤去の途中及び直後に強い抗議の意思を示したことをもって,承諾書の内容が原告の真意でなかったことの表れとみるべきであると主張する。しかし,原告が支援者とともに抗議した趣旨は,承諾書に基づきテントを撤去することが違法であることを主張し,被告に再考を促すことが目的であると解するのが相当であり,そのような抗議をしたからといって,承諾書が真意でなかったことが裏付けられるものではない。 原告が,撤去当日,A課長に対して,「ええことないっすよ。」,「しゃあないんでしょう。」と述べていることは,まさにその言葉どおり,公園からの退去や被告によるテント等の撤去は,野宿生活という厳しい生活をしている原告の立場から,これからの見通しもつかないつらいことであって,決して良い事ではなく,嫌な事であるが,そうであるからといって撤去を拒否したところで,明らかに違法に公園を占拠している原告にとって強制撤去を求められるおそれもあって,別の道筋が開かれるわけでもないという意味で本当に「しゃあない」ことであったという理解を如実に示しているのである。当裁判所も,まさに原告の言葉通り理解するのが相当であると考えるのであって,それは真意(原告の言葉によれば本意)でないということではなく,嫌だけれどもしゃあない(仕方ない)ことであったということを意味するにすぎないものと解される。 承諾の無効(公序良俗違反)の主張について前記認定(前提事実等を含む。) でないということではなく,嫌だけれどもしゃあない(仕方ない)ことであったということを意味するにすぎないものと解される。 承諾の無効(公序良俗違反)の主張について前記認定(前提事実等を含む。)のとおり,原告は,明らかな違法行為により公園を占拠し,都市公園の適正な利用が著しく損なわれており放置できない状況であったと認められるから,被告が原告に公園からの立ち退きを求める正当化理由があったといえる。更に,被告は,平成18年2月9日から公園からの退去を示唆して原告に自立支援センターへの入所を勧めており,3月3日の勧告書手交,3月16日の承諾書署名,4月26日から28日にかけての退去の予告を経て,5月2日に本件撤去に至ったのであるから真正な協議も行われており,原告には,所有物を持参して公園から立ち退く権利と機会が与えられていた。更に,被告は自立支援セン- 18 -ターへの入所も勧めており,これを希望しなかった原告に対し,それ以上の自立支援策を具体的に示さなかったからといって,それが自立支援法1条,3条,11条の趣旨に反するとはいえない。 以上のとおり,本件撤去が強制立ち退きに当たるかどうかはさておき,いずれにしても,本件撤去が社会権規約の一般的意見に違反しないことは明らかである。 そして,上記認定の事実によれば,承諾書が,自立支援法のみならず,憲法13条,29条1項,25条1項,生活保護法1条,民事執行法131条,168条の2の趣旨にも違反しないことは明らかであり,承諾書が公序良俗に反し,民法90条により無効であるとの原告の主張は,採用できない。 承諾書の内容,範囲の逸脱の違法の主張について原告は,被告が承諾書に基づき原告の所有物件を撤去し廃棄することができる物は,①原告がa公園から退去を任意に行った後に,②原告がa公園に放置したものの 承諾書の内容,範囲の逸脱の違法の主張について原告は,被告が承諾書に基づき原告の所有物件を撤去し廃棄することができる物は,①原告がa公園から退去を任意に行った後に,②原告がa公園に放置したもののうち,③客観的にみて原告の生活に必要不可欠とは認められないものに限定されると主張する。 たしかに,「退去後は大阪市において処分されても異議ありません」という承諾書の文言は,それだけでは任意に退去をした後を予定しているようにも見えるが,一方で撤去期限を定めていることからすれば,期限を過ぎて公園内に残っていれば,承諾書の約束を守って退去するように求められることは,その記載内容から当然予想されることである。前記認定のとおり,本件撤去は,20名を超える被告職員が,テントの中に原告ら野宿生活者がまだいる状態で公園を訪れ,テントの解体・撤去・廃棄処分を始めたのであるから,一見すると強制的に行われたかのようにも見える。しかし,前記認定によれば,被告は,本件撤去時においても原告が必要な物をテントから運び出すことは認めていたのであるから,それは,あくまで原告に対し,任意に必要な荷物を運び出して承諾書の約束の趣旨に従った行動を求めたと理解できる。したがって,承諾書の内容は,約束通り退去することを求めながら,それと併行して所有物件を撤去することも認めた内容と解するのが相当であり,原告の主- 19 -張するような限定解釈をすべき根拠は認められない。したがって,本件撤去は,このような承諾書の内容,範囲を逸脱するものではない。 承諾の撤回の主張について原告は,承諾書は,委任契約であるから撤回は自由であると主張する。しかしながら,承諾書は,一方で公園管理者である被告が原告に対し撤去期限を猶予し,その間強制手段を講じないことを約束するとともに,他方で原告は撤去期限経過後 契約であるから撤回は自由であると主張する。しかしながら,承諾書は,一方で公園管理者である被告が原告に対し撤去期限を猶予し,その間強制手段を講じないことを約束するとともに,他方で原告は撤去期限経過後は公園内の小屋その他物件一切の所有権を放棄することを約束し,被告が管理権に基づき原告の意思にかかわらず処分することを認めているのである。このような契約の性質は,委任契約ではなく,当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約する内容の和解契約に類する性質を有すると解するのが相当である。 したがって,承諾書による意思表示を一方的に撤回し得るという原告の主張は,採用できない。このことは,承諾書が原告に対して渡されていなかったということによって左右されない。なぜなら,承諾書自体は,平成18年4月30日を撤去期限として,小屋及び物品等一切の所有権を放棄するというものであって内容は単純であり,また,公園には,被告職員が度々訪れているから必要があれば原告がその内容を確認することができたはずであるからである。 自力救済禁止の違反の主張について原告は,任意に承諾書の内容を履行しない原告に対し,被告が都市公園法に定める法的手続を採らずに実力を行使して,原告のテントや物品を撤去し,処分したとして,自力救済の禁止による違法を主張する。 しかし,前記認定のとおり,公園管理者の許可を得ることなく公園内にテント等を設置することが,都市公園法等の規定に反することは明らかであり,原告自身,そのことは十分に認識していたと考えられる。原告は,近鉄所有地から退去を求められたときは,これに応じている(甲26)。 更に,被告は,2月9日の公園利用相談員の訪問に始まり,勧告書の手交,承諾書の署名,退去期限直前の再度の勧告など,度々,任意の退去を求めており,撤去- 20 - ときは,これに応じている(甲26)。 更に,被告は,2月9日の公園利用相談員の訪問に始まり,勧告書の手交,承諾書の署名,退去期限直前の再度の勧告など,度々,任意の退去を求めており,撤去- 20 -期限が来れば,テントの中で生活を続けていても,承諾書に従って物件の所有権を放棄したものとして,テントの撤去及び公園からの退去を求められることになることは,原告も当然理解できたはずである。そうであるからこそ,退去期限当日,原告は,人権救済申立てをしたと解されるのである。もちろん,原告や支援者は,退去当日も,承諾書が真意によるものではないとして承諾書に基づくテントの撤去の違法性を主張しているが,それは,あくまで行政に対し,そのような行政の進め方が違法であることを主張して再考を求めているにすぎないと考えられる。それにもかかわらず,行政(被告)が,これを承諾書の効力に基づき適法であると判断して撤去するのであれば,それは,既にした承諾書の約束に従うまでのことであり,原告にとっては,嫌ではあるが「しゃあない」ことだったと考えられるのである。その意味で,原告が必要な物を運び出しながら,被告職員によるテント等の撤去・処分を甘受したことは,原告が「しゃあない」こととして,承諾書の約束の趣旨に従った任意の義務の履行をしたと考えるのが相当であって,これをもって被告が実力を行使したものと評価するのは相当でない。 現に,前記5のとおり,本件撤去は,一見すると強制的に撤去したかのようにも見えるが,原告に必要な物を選び出す機会を与えながら行われており,原告は,撤去が始まった9時過ぎ頃から原告のテントの撤去が始まった10時半過ぎ頃までの間に,10時頃に到着した支援者の協力を得て荷物を運び出すことができたのである。また,目の前で撤去作業が行われて廃材等が軽トラックに積み込まれ ぎ頃から原告のテントの撤去が始まった10時半過ぎ頃までの間に,10時頃に到着した支援者の協力を得て荷物を運び出すことができたのである。また,目の前で撤去作業が行われて廃材等が軽トラックに積み込まれているのであるから,本当に必要なものがあり,公園から持ち帰りたいのであれば,原告は,被告職員に対し,その場で返してもらうように求めることもできたはずである。ここでも原告は,やはり「しゃあない」という判断をしたと考えられるのであって,撤去期限が過ぎるまで行き先を見つけないままa公園に居たために,いざ撤去し公園から退去するとしても,公園から持ち運ぶ物の行き先がなく,持って行っても「しゃあない」状態になったと考えられるのである。このように解すれば,原告が5月8日に支援者とともに公園事務所に荷物の取り戻しに行ったことも,西成公園- 21 -で野宿生活ができるようになって気持ちに余裕ができたからに過ぎないと解することもできるのであって,前記のとおり原告が「しゃあない」と判断したという認定を左右するものではない。 結論 以上によれば,本件撤去及びこれにより撤去した物品の廃棄処分は,承諾書によってされた原告の承諾に基づいて行われたものであって,不法行為としての違法性は認められない。 よって,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第13民事部裁判長裁判官小林久起裁判官府内覚裁判官脇田未菜子(別紙7)争点に関する当事者の主張第1原告の主張 承諾の不存在( )要約 原告の承諾書への署名は,以下のとおり,公園事務所職員らが原告のテントを再三にわたって訪問し,執拗に面談を求めた上,長時間に及んで一方的な主張を繰り返した結果なされたものである。公園事務所職員は,原告から承諾書への署名を明確に拒絶す ,公園事務所職員らが原告のテントを再三にわたって訪問し,執拗に面談を求めた上,長時間に及んで一方的な主張を繰り返した結果なされたものである。公園事務所職員は,原告から承諾書への署名を明確に拒絶する回答があったにもかかわらず,これを無視し,なおも強硬な態度で承- 22 -諾書への署名を要求したため,原告は,かかる公園事務所職員の態度に疲弊し切った結果,不本意ながら承諾書への署名を余儀なくされたのである。このような経緯からすれば,原告は承諾書には署名したものの,それが原告の真意に基づくものでないことは明らかである。被告の職員は,かかる経緯を熟知していたのであるから,承諾は不存在と評価せざるを得ない(民法93条ただし書参照)。また,本件撤去は,原告の代替住居が具体的に確保されないまま,まさに強行されたのであり,かかる代替住居不存在の状況下で真に任意の承諾がなされたとは考えられないし,被告は,かかる原告の状況について熟知していた。したがって,本件撤去についての原告の承諾は,一切存在しない。 また,本件で被告は,対策マニュアルに違反する態様で原告所有動産の撤去を敢行している。被告は,対策マニュアルにすら従わず,原告に対して十分に検討された自立支援策を示すこともなく,承諾書は,対策マニュアルが指定した様式を勝手に修正した結果,原告は,所定の期限の経過により所有動産のすべて撤去しなければならないよう半ば強制された。これらの経緯を見ても,承諾書の記載が原告の意思によらないことは明白である。 更に,原告は,本件撤去の途中及びその直後に強い抗議の意思を示していることは,承諾書の内容が原告の真意でなかったことの現われと見るべきであって,かかる経緯に鑑みても,承諾が存在しなかったと言わざるを得ない。 ( )承諾書への署名の経緯 平成18年2月末頃,公園 ことは,承諾書の内容が原告の真意でなかったことの現われと見るべきであって,かかる経緯に鑑みても,承諾が存在しなかったと言わざるを得ない。 ( )承諾書への署名の経緯 平成18年2月末頃,公園事務所の職員が,2名ほどで原告の下を訪れ,「近くここを撤去する話がある」などと,原告の撤去に対する気持ちや今後の生活など一切考慮しないまま,暗に立退きをほのめかすかのような発言を行った。 原告は,平成18年3月2日頃,Aら公園事務所職員の4,5名の訪問を受け,Aから「ここ(にあるテント)は不法占拠である。」,「何回も来ますから。」などとテントを撤去するよう申し向けられた。Aら公園事務所職員は,「承諾書」を突然提示し,承諾書への署名を求めたが,原告は,同日は,「行き場所がないので,- 23 -(承諾書には)書きません。」と職員らに対応して断った。 数日後,Aら公園事務所の職員が原告を訪れ,再度承諾書への署名を求めたが,原告は,「行くとこありません。」と答えた。承諾書記載を断る原告に対し,Aを含む職員らは,「何回でも来ます。」などと執拗に承諾書への署名を求めた上,「勧告書を受け取るか,承諾書にサインするか。」と二者択一を迫った。それまでの経過から,断り続ければ,上記職員らにいつまでも帰ってもらえず,勧告書を受け取るほかには,承諾書への署名を断り切れないと感じた原告は,やむなく勧告書を受け取ることとした。 Aを含む公園事務所職員は,上記2度目の訪問からまた数日後,3度目に原告を訪問し,30~40分にわたってテントの自主的撤去を求めた上,原告が,テント内に入ろうとすると,「人が話しているのに,なんだ!」「話を聞け!」などと執拗に承諾書への署名を迫った。原告としては,厳寒の中での3回にもわたる訪問を受け,かかる執拗な訪問に疲弊し切っていた。そして,原告は うとすると,「人が話しているのに,なんだ!」「話を聞け!」などと執拗に承諾書への署名を迫った。原告としては,厳寒の中での3回にもわたる訪問を受け,かかる執拗な訪問に疲弊し切っていた。そして,原告は,2度目の訪問の際,勧告書を受け取らざるを得ないところまで追いつめられ,承諾書に署名しなければ,公園事務所職員による執拗な訪問を止めることはできないと考えるに至っていた。 その結果,原告は,4回目の訪問を受けた平成18年3月16日,不本意ながら承諾書に署名した。公園事務所職員らは,上記経緯に照らし,原告が行き場所のないこと,承諾書の署名は本意でないことを当然のことながら承知していた。 なお,公園事務所職員は,原告に対し,自立支援センター入所という手段については,抽象的に伝えたものの,入所方法や入所する自立支援センターの場所などといった具体的なセンター入所のために必要な説明は,一切行わなかった。自立支援センターへの入所手続が一定程度行われ,入所が確実であるとの段階に至らなければ,原告の任意の承諾が存在したと判断するに足る代替措置が採られたとは,到底言えない。 また,原告は,露天商として働いていたものの,その収入では食べていくのが精一杯で,アパート等安定した住居を確保することは出来ない状態であったにもかか- 24 -わらず,公園事務所職員は,原告に対し,生活保護により居宅を確保する方法(居宅における生活保護の原則,生活保護法30条1項)についても,一切教示しなかった。被告からの適切な教示がなく,かつ,行政内での連携がないまま,生活保護申請をすることの実現可能性など皆無であり,原告に対し,保護開始決定がなされて新たな住居を確保するまで至らなければ,代替住居は確保されたとはいえず,かかる状況下での任意の承諾はあり得ない。 ( )対策マニュアル違反 能性など皆無であり,原告に対し,保護開始決定がなされて新たな住居を確保するまで至らなければ,代替住居は確保されたとはいえず,かかる状況下での任意の承諾はあり得ない。 ( )対策マニュアル違反 対策マニュアルは,人権侵害防止を担保するための最低限の手続基準を設けたものであるから,対策マニュアルにすら反する手続をもって本件撤去が行われたことは,承諾書があっても原告の真意に基づく承諾が存在しなかったことを強く推認させる。 対策マニュアルでは,まず,①テント・小屋掛けにより野宿生活をしている者に対して,個々に面談を行い,健康状態と自立意思を確認した上,都市公園法で認められない不法占用であることを認知させ,物件の自主撤去を促すとともに,不法占用に対する口頭勧告を行い,②そして,野宿生活者に対し,実態聞き取り調査を実施して状況把握に努め,野宿生活者ケース会議を設置した場合には,それぞれの野宿生活者の自立支援プログラム,具体的には自立支援センターへの入所誘導,入院などの福祉措置など,物件の自主撤去につながる対策を検討し,③その上で,自立に向けた支援策を示しても本人が自主撤去に応じない場合は,勧告文(様式2)を手交し,違法物件であることを認識させ,定期的な面談を継続し,本人の意向を再度確認し,④そして,野宿生活者ケース会議を開催し,当該野宿生活者への対応策を再度協議・検討した上,引き続き面談等を行うが,当該物件により公園の適正な利用が著しく損なわれており放置できないと判断したときは,勧告文(様式3)を手交し,自主撤去を促す,されている。 しかし,本件においては,①原告について,実効的な自立支援プログラムが作成された形跡はなく,自立支援施策担当職員との連携も取られておらず,原告に対し,- 25 -自立に向けた支援策が示されたことはない,②また,原 いては,①原告について,実効的な自立支援プログラムが作成された形跡はなく,自立支援施策担当職員との連携も取られておらず,原告に対し,- 25 -自立に向けた支援策が示されたことはない,②また,原告は,様式2の勧告文を手交されていない,③さらに,原告の自立支援策を検討するにあたって,「野宿生活者ケース会議」が開催された形跡はなく,原告に対しては,形式的に,自立支援センターの存在が教示されたにとどまる,④本件では,原告には,様式3と記載内容がおおむね一致する「告」と題する書面が交付されているが,原告のテント等は,公園の適正な利用を著しく損ない,放置できないと判断されるようなものではなかったし,手交された勧告書の退去期限は28日しかなく,マニュアルに定める勧告文の除却期限1か月に満たない。 また,対策マニュアルによる承諾書(様式4)は,本来,本人が物件の撤去を了解した場合,必要とする物件を持ち出した後に,残った不用品に限り,大阪市が処分してもよいことを承諾する目的で作成されるものであり,本件で作成された承諾書は,そのような目的で作成されたものではない。すなわち,様式4の承諾書では,大阪市の自由な処分に委ねる「物件の種類,数量等」の欄は空欄となっており,事案に応じて適宜書き込める体裁となっている。ところが,本件の承諾書を見ると,「物件の種類,数量等」の欄には「小屋及び物品等一切」なる不動文字が最初から記載されている。本件においては,被告は,行き場所のない原告が承諾していない(もっと言えば承諾出来ない)状況であることを熟知しながら,原告が必要とする物件であるか否かにかかわらず,撤去を完遂させるだけのために,所有する全ての動産を撤去する意図でかかる承諾書に原告の署名を求めたのである。 承諾書の記載内容を検討しても,原告が署名した承諾書の内容は,い 件であるか否かにかかわらず,撤去を完遂させるだけのために,所有する全ての動産を撤去する意図でかかる承諾書に原告の署名を求めたのである。 承諾書の記載内容を検討しても,原告が署名した承諾書の内容は,いずれも原告においておよそ了解するはずのないことが明らかなものや,実現が不可能なものばかりであって,原告がその内容を真摯に承諾するとは到底考え難い。 すなわち,承諾書は,①原告所有の「小屋及び物品等一切」の所有権を放棄すること,②退去後において,大阪市が同物件を処分しても異議がないこと,③今後公園内に物件を設置しないことを誓約すること,④撤去期限は平成18年4月30日までとすること,を主たる内容としている。 - 26 -しかし,まず,①についてみるに,原告は,経済的に困窮し,a公園での野宿生活を余儀なくされた者であり,原告にとって,上記「小屋及び物品等一切」は,その生活を維持する上で必要不可欠なものである。したがって,たとえ,公園事務所職員が,原告に対し,a公園からの退去を求めていたとしても,原告が,そのような生活の根幹を支える重要な動産の所有権を任意に放棄することはあり得ない。 次に,②についても前記のとおり,原告にとって,原告所有の物件は,いずれも極めて大切な動産であるから,原告が退去した後に残置されたものがあったとしても,客観的に廃棄物(ゴミ)と目されるものを除き,一度には搬出作業ができないなどの理由から,将来原告が再び取りに来るまでの間,暫定的に留め置かれたものに相違ない。したがって,原告が公園を退去した後に残置された動産の全てについて,被告が処分することを原告が事前に了解することは不合理である。 さらに,③について,仮に,原告が任意にa公園を退去することができた場合,その後に,再びa公園内に物件を設置しないという内容であれば,原告が了解す 分することを原告が事前に了解することは不合理である。 さらに,③について,仮に,原告が任意にa公園を退去することができた場合,その後に,再びa公園内に物件を設置しないという内容であれば,原告が了解することはありえないとはいえない。しかし,原告が承諾書に署名した時点で,原告にはa公園のほかに居住先を確保する可能性がなかったのであるから,③は「原告がa公園を退去する」という実現不可能な内容を条件としたものであって,無効というほかない(民法133条1項)。 最後に,④について,原告は,それまで約4年間にわたり,露天商を営みつつ,a公園内でテント生活を継続してきたものであり,a公園を生活の本拠としてきた。 いうまでもなく,原告は経済的に困窮状態にあるから,a公園を退去しても他に移転先を確保することが不可能であった。そのことは,公園事務所職員が原告のテントに来訪するたびに,原告が「他に行くところがありません。」と申し述べていたことからも明らかである。 ( )原告による抗議及び撤去時の承諾の不存在 原告は,支援者らと共に,本件撤去の際,撤去行為をやめるよう抗議した。さらに,原告は,連休明けの平成18年5月8日,支援者らと公園事務所を訪れ,改め- 27 -て本件撤去に強く抗議すると共に撤去された本件物件の返還を求めた。このように,原告が,本件撤去の途中及びその直後に強い抗議の意思を示したことは,承諾書の内容が原告の真意でなかったことの表れと見るべきである。 原告は,撤去当日,Aから,「もうええんか。」と声をかけられたため,「ええことないっすよ。」,「しゃあないんでしょう。」と言っているが,これは,公園事務所に自分の必要な荷物を撤去され処分されることについて最終的に同意する意味で言ったものではない。原告は,Aら公園事務所職員が,自分のテントや物品を ないんでしょう。」と言っているが,これは,公園事務所に自分の必要な荷物を撤去され処分されることについて最終的に同意する意味で言ったものではない。原告は,Aら公園事務所職員が,自分のテントや物品を撤去することは自分の意思に反して納得していないが,Aら公園事務所職員は,公務員であるから,都市公園法や憲法等の法律を遵守し,法律の手続に従って撤去作業をしているはずだから,何を言っても仕方がないという気持ちから「しゃあないんでしょう。」と言ったに過ぎず,撤去について同意したり所有権を放棄する意味で言ったものではない。このことは,原告が,撤去後の平成18年5月8日,支援者らと共に撤去された自分の荷物の取り戻しに行っていることからも明らかである。 承諾の無効(公序良俗違反)( )要約 仮に承諾が存在するとしても,かかる承諾は,憲法13条,憲法29条1項,憲法25条1項及び生活保護法1条,民事執行法131条及び168条の2,自立支援法1条及び11条の趣旨に反し,公序良俗に反し民法90条により無効である。 ( )憲法13条違反 憲法13条が保障する幸福追求権は,個別の基本権を包括する基本権で,個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利の総体をいうとされる。そして,憲法13条に基づく権利とするためには,裁判規範性を持ちうる程度に内容が具体的で明確である必要があるとされる。しかし,基本的人権とは,そもそも,人間が人間として生存するために不可欠な権利であり,人間の尊厳にとって基本的な価値・利益である。すなわち,人間として生きていくために衣食住が満たされていることが,その大前提として求められているのである。本件での原告の同意は,まさしく,原- 28 -告が人間として生存するために最低限度の必要不可欠な物品を,真意に基づくことなく放棄させるも れていることが,その大前提として求められているのである。本件での原告の同意は,まさしく,原- 28 -告が人間として生存するために最低限度の必要不可欠な物品を,真意に基づくことなく放棄させるものであった。すなわち,かかる同意は,被告による,原告の必要最低限度もおぼつかない衣類,定期的収入がない中で生命を維持するのもおぼつかない乏しい食糧及び雨露をしのぐに過ぎないテントを,強制的に撤去せしめるものだったのである。しかも,本件撤去後,被告は,原告の行き先が定まらない状況のまま,日々を生き延びる術として保持していた最低限度の所有物を全て廃棄し,文字通り,原告を着のみ着のままで路上に放り出した。そして,原告は,本件撤去の間,少しでも自分の荷物を確保しようと職員らに追い立てられながら夢中で荷物を運び出そうとした。本件承諾書上の同意は,原告の人間として生存するための必要最低限度の物品すら廃棄し,その強制的なやり方で原告の人権を貶め,原告らの尊厳をあますことなく踏みにじる結果を生じさせるものだったのであり,かかる結果を将来させるような同意は,明らかに原告の人間としての尊厳を破壊するものである。よって,本件承諾書における原告の承諾は,憲法13条の趣旨に反するというべきである。 ( )憲法29条1項違反 憲法29条1項は,自由権としての財産権を保障しており,これは,国民それぞれが現に持っている財産権について,国は,それを奪ったり,それに対して制限を加え,その行使を妨げてはならないというものである。すなわち,財産権は,人が人として生存するためには,その物質的基盤が必要不可欠であることから,最大限保障されるべきものであることを定めたものである。本件で,原告が放棄することに同意した財産権の内容は,食品や衣類など,生存に不可欠な最低限度の必需品であり 質的基盤が必要不可欠であることから,最大限保障されるべきものであることを定めたものである。本件で,原告が放棄することに同意した財産権の内容は,食品や衣類など,生存に不可欠な最低限度の必需品であり,これを放棄するならば,原告は,今後の生活の糧を得るための収入の途を閉ざされるどころか,雨露をしのぐことすら困難な状況に至ることは明らかである。 よって,原告の本件承諾書における承諾は,人が人として生存するために必要な最低限度の財産権を放棄することの同意であって,憲法29条1項の趣旨に反するというべきである。 - 29 -( )憲法25条1項及び生活保護法1条違反 憲法25条1項は,全ての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障しているが,野宿生活を強いられている原告から,食糧,寝具,仕事で使う物品などの生活必需品一切を奪う承諾書記載を強いることは,憲法25条1項の自由権的側面を侵害する行為である。憲法25条1項の権利の保障の趣旨は,個人として尊厳ある生活を営むには,最低限度,健康で文化的であることが必要であり,同保障によって,人としての尊厳(憲法13条)が保たれるものだからである。よって,憲法25条1項で保障される生存権は,一般的には社会権として観念されるが,「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を侵害されないという自由権的側面も有すると解すべきである。原告は,その所持する物品一切の放棄に同意させられている。しかし,原告は,野宿状態を強いられる者であり,これらの物品一切を放棄するならば,原告は,当時着用していた衣服以外は,全く何も所持しない状況に陥り,その最低限度の健康も,文化的な生活も維持し得なくなることは明らかであった。したがって,最低限度の健康で文化的な生活,すなわち,その尊厳を保ち得ないような結果を招来すること も所持しない状況に陥り,その最低限度の健康も,文化的な生活も維持し得なくなることは明らかであった。したがって,最低限度の健康で文化的な生活,すなわち,その尊厳を保ち得ないような結果を招来することが明らかな本件承諾は,憲法25条1項の趣旨に反する。 また,生活保護法1条は,憲法25条を受けて,「生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的」としている。被告は,原告に対し,生活保護制度を適切に教示しないまま,野宿生活を強いられている原告に「必要な保護」も行わず,あろうことか,生活必需品一切を奪う承諾書記載を迫ったというのだから,被告は,「自立の助長」どころか,「最低限度の生活」をさらに困難ならしめる行為を行ったといわざるを得ず,生活保護法1条の趣旨に反する。 ( )民事執行法131条及び168条の2違反 民事執行法131条は,強制執行においても,債務者の基本的な生活を保護し,もって人格の尊厳を保護する必要があるとの趣旨で,差押禁止動産を規定している。 - 30 -本件では,強制的な撤去であるという点で,民事執行に類似するといえるが,民事執行法が強制執行を禁止している「生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用具」(131条1号),「一月間の生活に必要な食料及び燃料」(同条2号),同条6号の「その業務に欠くことができない器具その他の物」(同条6号)を強制的に撤去しており,民事執行法131条の趣旨に反する。差押禁止動産は,仮に債務者の同意があっても,差押えが禁止されており,その趣旨にかんがみれば,この差押禁止動産についての本件承諾は,無効であるといわざるを得ない。 さらに,民事執行法168条の2は,執行を受ける者の利益を保護するため,強制 も,差押えが禁止されており,その趣旨にかんがみれば,この差押禁止動産についての本件承諾は,無効であるといわざるを得ない。 さらに,民事執行法168条の2は,執行を受ける者の利益を保護するため,強制執行の開始前に「期限を定めて,明渡しの催告」をすることができるとし,明渡しの期限も定めるが,本件においては,一切の事前の通告がなされないままに,対策マニュアルすら逸脱し,むしろ原告の予測可能性を奪う形で,強制撤去が行われており,同条の趣旨にも反する。 ( )自立支援法1条及び11条違反 自立支援法1条においては,「ホームレスの人権に配慮し,かつ,地域社会の理解と協力を得つつ,必要な措置を講ずることにより,ホームレスに関する問題の解決に資することを目的とする」と定められているが,本件では,ホームレス状態にある原告の人権に全く配慮しないまま,地域社会の理解と協力を得る努力を全くせず,強制撤去が行われており,自立支援法の趣旨にも著しく反する。 自立支援法は「安定した居住の場所の確保」と「生活保護法等によるホームレスに関する問題の解決を図ること」を目標としているところ(自立支援法3条),同法11条による「ホームレスの自立の支援等に関する施策」とは,生活保護法に準拠した者である必要があることは明らかである。この点,厚生労働省社会援護局が,「生活保護は,自立を助長することを目的とした制度であり,ホームレスに対する生活保護の適用に当たっては,居住地がないことや稼動能力があることのみをもって保護の要件に欠けるものではないことに留意し,生活保護を適正に実施する」と明言し(平成15年7月31日,社援保発第0731001号),判例上も,居宅- 31 -保護が原則であることが確認されている。このように居宅保護を実践することによってのみ強制立退きが正当化されること 言し(平成15年7月31日,社援保発第0731001号),判例上も,居宅- 31 -保護が原則であることが確認されている。このように居宅保護を実践することによってのみ強制立退きが正当化されることは,国際人権規約社会権規約委員会の一般的意見(以下「一般的意見」という。)7において,「各締約国は,自国におけるadequatealternat利用可能な手段を最大限に用いることにより,適切な代替住居()」の入手を(中略)するためにあらゆる措置をとらなければならなivehousingい」(一般的意見7第16項)とも述べている趣旨にも合致する。なお,我が国が社会権規約を批准している以上,同規約委員会が同規約の解釈の一般的指針として公表している一般的意見は,国内法である自立支援法の解釈指針としても尊重されなければならない。そこでさらに,一般的意見について検討するに,一般的意見4は,強制立退きの原則的違法を宣言し,「委員会は,強制立退きは(中略)もっとも例外的状況において,かつ関連する国際法の原則に従ってのみ,正当化されうると考える」(一般的意見4第18項)とする。また,一般的意見4は,「委員会は,占有の形態のいかんにかかわらず,全ての人は,強制立ち退き(),forcedeviction嫌がらせ,脅しなどに対し,法的に保護される一定の占有権の保障を持つべきことgeを要求している。政府はこれらの保護を現在欠いている人々,集団との真正な()話合いによって,占有の法的保障を与える緊急の措置をとらなければならnuineない。」(一般的意見4第8項)とし,一般的意見7においては,「委員会は,a強制立退きに関連して適用されるべき手続的保障には,以下のものが含まれるとみなしている。( ) 影響を受ける人々との真正な協議の機会,( ) 立ち退きの とし,一般的意見7においては,「委員会は,a強制立退きに関連して適用されるべき手続的保障には,以下のものが含まれるとみなしている。( ) 影響を受ける人々との真正な協議の機会,( ) 立ち退きの予定ab日に先立った,影響を受ける全ての人々に対する,適当で合理的な事前通告…」(一般的意見7第15項)とする。すなわち,人権規約上,強制立ち退きを受けない権利は,非公式の占有つまり国内法上占有の権原を有しない占有も含まれることが明らかにされ,影響を受ける人々との真正な話し合いが要求されているのである。 しかしながら,被告職員らは,①一方的に同意を迫るのみで,具体的な公園内工事の必要があるなどといった,撤去の正当性については一切言及せず,②厳寒の中,多人数の公園事務所職員にテント外で取り囲まれるようにして,30~40分間に- 32 -もわたって,同意するよう一方的な説得をされている状況下では,原告に真正な協議を行う余地がなかったことは明らかである。したがって,自立支援法11条にいう「ホームレスの自立の支援等に関する施策」とは,居宅保護の原則の適用を目標とし,他方,同条にいう「当該施設の適正な利用を確保するために必要な施策をとる」ことができるのは,上述の一般的意見が示す( ) 立ち退きの正当化理由,( )iii真正な協議,() 生活保護による代替住居の提供といった要件をみたす限りにおiiiいてのみであるというべきである。よって,かかる人権規約上要請される要件を満たさず,自立支援法3条が目標とする施策との連携を無視して,被告が原告から得た承諾は,自立支援法11条の趣旨に反するものである。 承諾の内容,範囲の逸脱の違法( )要約 仮に,承諾書が有効であることを前提としたとしても,被告は,撤去しうる物件の範囲及び撤去作業に着手す は,自立支援法11条の趣旨に反するものである。 承諾の内容,範囲の逸脱の違法( )要約 仮に,承諾書が有効であることを前提としたとしても,被告は,撤去しうる物件の範囲及び撤去作業に着手することができる時期の2点において,承諾書での承諾の範囲を逸脱する態様で本件撤去作業を行っている。すなわち,被告が承諾書に基づき原告の所有物件を撤去し廃棄することができる物は,①原告がa公園からの退去を任意に行った後に,②原告がa公園に放置したもののうち,③客観的に見て,原告の生活に必要不可欠とは認められないようなもの(例えば,一見してゴミと分かるようなもの)に限定されるというべきである。本件では,被告は,原告がいまだテント内で居住していたにもかかわらず,その物件が原告の生活に必要不可欠であることが明白であるのに,撤去し廃棄したものであるから,到底前記の要件を充足しない。したがって,被告による本件撤去及びその後の廃棄が適法となる余地はなく,これが違法であることは明白である。 ( )対象物件からの考察 対策マニュアルによると,1( )のとおり,被告において承諾書を得て撤去する ことが可能な物件は,原告にとって不用な物に限られるのであり,原告にとって必要な物は,撤去してはならないのである。原告は,a公園において野宿生活を余儀- 33 -なくされていたものであり,他に行く当てがない状態であったのから,「小屋及び物品等一切」の所有権を放棄するとすれば,文字どおり,身体ひとつだけの状態になってしまい,そのとたんに生活を送ることができなくなる。よって,原告にとって「小屋及び物品等一切」が不用なものであるはずがなく,被告においてもそのことは認識していたに相違ない。「小屋及び物品等一切」が不動文字で書かれていることからしても,原告が所有権を放棄する物件 とって「小屋及び物品等一切」が不用なものであるはずがなく,被告においてもそのことは認識していたに相違ない。「小屋及び物品等一切」が不動文字で書かれていることからしても,原告が所有権を放棄する物件を実質的に判断して記載したと解する余地はない。以上から,承諾書を前提にしても,原告が所有する「小屋及び物品等一切」を被告において自由に処分することは許されず,少なくとも,原告が任意にa公園から退去した後に,残置された動産のうち,客観的に見て原告の生活に必要不可欠とは認められない物を処分しうるに過ぎないものと考えるべきである。 本件で,被告は,平成18年5月2日,事前の通告なく,いまだ原告がそのテント内に居住している状態であったにもかかわらず,強制的に原告のテントやそのほかの物品を撤去し処分したものである。原告は多少の動産を持ち出すことができたものの,たくさんの衣類や家具,寝具,食器類など,野宿生活を送る原告にとって一見してその生活に不可欠な物が被告公園事務所職員によってトラックに運び込まれ,処分されてしまった。原告がこれらの物すべてについてその所有権を放棄することはおよそありえないのであって,承諾書で処分が許される物件の範囲を大きく逸脱して被告が本件撤去を敢行したことが明らかである。 ( )時期的制限からの考察 「退去後は大阪市において処分されても異議ありません。」という承諾書の記載内容によると,原告が所有権を放棄した物件を被告において自由に処分しうるのは,「退去後」であって,文理上,被告による撤去が許されるのは,原告が必要な物とともに任意にa公園を退去した時点以降に限られる。承諾書の記載からは,撤去期限とされる「平成18年4月30日」を経過すれば,直ちに被告による強制撤去が可能となる,という解釈は全く不可能である。本件撤去作業に着手した時 を退去した時点以降に限られる。承諾書の記載からは,撤去期限とされる「平成18年4月30日」を経過すれば,直ちに被告による強制撤去が可能となる,という解釈は全く不可能である。本件撤去作業に着手した時点で原告がテント内で従前どおり居住していたことからすると,原告が不用な物を残置した- 34 -というような状況にはなかった。よって,本件承諾書を前提としても,原告はいまだ「退去」には至っていない段階にあったのであるから,被告が撤去作業に取り掛かることは許されない。 撤回の有無( )要約 仮に,承諾書が一応有効であるとしても,以下のとおり,原告は,本件撤去までの間に,その承諾を撤回しているから,被告が承諾書に基づいて撤去作業を行うことは許されない。なお,原告の所有物件を撤去及び処分することを承諾する意思表示は,法律上,委任をしたものと見ることができるので,かかる意思表示は,いつでも撤回することができる(民法651条)。 ( )承諾後の対応 野宿生活者の支援活動などを行っている「野宿者ネットワーク」の代表者であるEは,原告らから,承諾書にサインしたとの話を聞き,弁護士に相談したところ,弁護士らは,平成18年3月27日,公園事務所等に申入書を送付し,原告らのテントを撤去しないよう要請した(甲3)。さらに,原告らは,平成18年4月30日,大阪弁護士会に対し,公園事務所が原告らのテントを撤去しようとしていることは,違法な強制退去であり看過しがたい人権侵害行為であるとして救済を申し立てた。本件撤去の当日においても,原告の支援者から「違法行為だ,止めろ」という声が上がっていた。さらに,原告自身も「(承諾書への署名について)サインしたのは本意じゃないのはわかっているんでしょう。」とAに話している。さらに,Aから「もうええんか。」と声をかけら めろ」という声が上がっていた。さらに,原告自身も「(承諾書への署名について)サインしたのは本意じゃないのはわかっているんでしょう。」とAに話している。さらに,Aから「もうええんか。」と声をかけられた際には,原告は「ええことないっすよ。」と抗議した。加えて,本件撤去後の平成18年5月8日,原告は,支援者とともに公園事務所を訪れ,改めて撤去に抗議し,物件の返還を求めている。 ( )評価 ( )の行為の一部は,原告から相談を受けた支援者や弁護士によるものであるが, 原告の意思に反するものでないことはもちろんのことであるし,原告自身の行為と- 35 -合わせると,原告は,いったんした承諾を撤回したものと解することができる。さらに,次項のとおり,原告は,撤去当日も,テント等の撤去・廃棄を承諾していない。 自力救済禁止の違反( )要約 原告が,承諾書を被告に提出していた場合であっても,原告が任意に承諾書の内容を履行しない場合には,被告が都市公園法に定める法的手続を採らずに実力を行使して,原告のテントや物品を撤去し,処分することは,自力救済の禁止により許されず,違法となるものである。 ( )都市公園法等の手続 原告が承諾書の内容を任意に履行しない場合に,被告が原告のテントや物品を撤去するために必要な法的手続としては,原告に対して行政手続法13条1項の聴聞もしくは弁明の機会の付与手続を経たうえで都市公園法27条1項1号に基づく除却命令を発しなければならない。そして,被告が原告に対する除却命令を執行するためには,行政代執行法3条の戒告,代執行令書の交付等の手続を経て,同法2条に基づく行政代執行をしなければならない。更に,被告がこれらの手続を経たからといって,原告に対するテントや物品の撤去が直ちに適法となるのではなく,前記2( 代執行令書の交付等の手続を経て,同法2条に基づく行政代執行をしなければならない。更に,被告がこれらの手続を経たからといって,原告に対するテントや物品の撤去が直ちに適法となるのではなく,前記2( )の社会権規約の一般的見解に基づき,①立退きの正当化事由,②真正な協議, ③生活保護による代替住居の提供という要件を満たさない限り適法とはならない。 また,民事執行法131条が衣料や寝具,食料,燃料,業務に欠くことができない器具その他の物を差押禁止動産としている趣旨からすれば,被告は除却命令の執行であっても原告のこれらの物品を撤去し処分することは許されない。 ( )自力救済禁止に違反する実力行使による撤去,処分 本件においては,原告は,撤去日に承諾書は真意に基づかないため撤回する意思を明確に表示したにもかかわらず,公園事務所職員は,原告の意思に反して実力行使をもって原告のテントや物品を撤去し処分したものである。 - 36 -自力救済禁止の法理について,最高裁昭和40年12月7日判決(民集19巻2101号)は「私力の行使は,原則として法の禁止するところであるが,法律の定める手続によったのでは,権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ,その必要の限度を超えない範囲内で例外的に許される」ものと解している。本件において,仮に被告の主張するような近隣住民からの苦情があったとしても,それはこの最高裁判決において自力救済が例外的に許される場合とは認められない。その他にも,本件においては,被告が原告のテント等を法律の定める手続によらずして撤去しなければならないような緊急やむを得ない特別の事情は存在しない。 よって,原告がAに対して「サインしたのは本意じゃない 他にも,本件においては,被告が原告のテント等を法律の定める手続によらずして撤去しなければならないような緊急やむを得ない特別の事情は存在しない。 よって,原告がAに対して「サインしたのは本意じゃないことは分かっているんでしょう」と言って承諾書が原告の真意に基づかないことを明示し,任意の履行を拒否しているにもかかわらず,Aら公園事務所職員が原告の意思に反して実力行使をもって原告のテントや物品を撤去し処分したことは,自力救済の禁止に違反する違法な行為というべきである。 損害( )要約 行為態様の悪質性及び権利侵害の重大性からすれば,本件撤去により原告が被った精神的苦痛は筆舌に尽くしがたく,原告の被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,別紙1物件目録記載の8万2630円相当の財産的損害を含む包括的慰謝料100万円を下ることはない。原告の損害として認められるべき相当な弁護士費用は,その10%である10万円を下らない。 被告が撤去し,廃棄処分した物件は,一般の市場価値からみれば低いものかもしれない。しかし,過酷な野宿生活を送っていた原告にとっては,テントや食料等は砂漠の中のコップ1杯の水のごとく,原告の生命を支える貴重な財産であり,その経済的価値は単なる市場価値を超えた計り知れない価値があった。かかる財産を,- 37 -被告らは,ゴミのように撤去し,処分したのである。もし,原告が野宿生活者でなかったら,被告はかような原告の人間としての尊厳や生きる権利すらも無視した暴挙を行っただろうか。被告の行為により,原告は血を吐くような悔しさと筆舌に尽くし難い精神的苦痛を味わった。原告は,被告が撤去処分したテントや食料等が生活に欠くことのできない原告の生存の基礎たる財産で,その市場価値を超えた価値を有していたものであるため,その価値を財産的損害と し難い精神的苦痛を味わった。原告は,被告が撤去処分したテントや食料等が生活に欠くことのできない原告の生存の基礎たる財産で,その市場価値を超えた価値を有していたものであるため,その価値を財産的損害として斟酌した包括慰謝料の請求をなすものである。 ( )行為態様の悪質性 ア「任意」と呼べない行為態様被告は,本件撤去に先立ち,その物品が原告の生活にとっていかなる意味を有する物であるかについて全く配慮することなく,事前の包括的な所有権放棄を内容とする承諾書に署名させた上で,テント内の全ての物を撤去した。すなわち,被告は,憲法・刑事訴訟法上,捜査機関にすら認められていないような手段を用いて,民事執行法上差押すら禁止されている,生活に必要不可欠な物品についても,全く区別することなく撤去したのである。法治国家においては,任意であれば何をさせてもよいわけではない。被告が,原告に包括的な所有権放棄をさせた上,原告所有のあらゆる物品を撤去したことは,「任意」の名の下であっても守られるべき一線を明らかに超えている。 イ本件撤去に至る経緯の悪質さまた,本件撤去に先立ち,被告は,原告が拒絶しているのにもかかわらず,原告のテントを立ち去らず,勧告書や告知書面を無理矢理原告に手渡し,結果的に,承諾書に意に反して署名させた。その際の被告の対応は,原告を対等な人間として扱うものではなく,原告の社会的弱者としての弱みにつけ込んだ高圧的で一方的なものであって,前述のとおり,真摯な同意は存在しないというべきである。また,前述のとおり,本件承諾書は種々の法令に違反し,無効なものであるにもかかわらず,「勧告書」を手渡してその場を写真撮影したり,承諾書に署名させたりする被告の- 38 -手法は,本件撤去が適法なものであるかのような外観を積極的に作出して原告を誤信させ ものであるにもかかわらず,「勧告書」を手渡してその場を写真撮影したり,承諾書に署名させたりする被告の- 38 -手法は,本件撤去が適法なものであるかのような外観を積極的に作出して原告を誤信させ,適時に適切な対応をとる機会を失わせた点で悪質であった。 ウ不意打ち的な強制撤去被告は,5月2日の午前9時過ぎ,原告がまだ眠っているうちに,突然20~30人もの大人数の職員を投与して,いきなり原告らのテントを破壊し,撤去し始めた。被告は,撤去を始める直前には,原告らに何ら説明も警告もせず,「これから撤去を始める」ということすら伝えずに,不意打ち的に撤去を始めた。被告が,原告らに自ら所有物を撤去する余裕すら与えず,原告らが眠っている間にいきなり撤去を開始したことは,被告の本件撤去が悪意に満ちたものであったことを如実に示している。しかも,被告は,原告の支援者らが「やめろ」と言っていたのを無視し,原告がテントから生活必需品などの必要最低限の物を持ち出す時間すら与えず,20~30人もの大人数で一気にテントの破壊・撤去を行い,原告は,生活に必要不可欠な物も運び出すことができずに撤去されたのである。本件撤去には,原告らの置かれていた厳しい状況に対する理解など微塵もない。 エ抗議を無視しての強制撤去本件撤去は,原告や支持者らの要望・抗議を全く無視して決行された。本件撤去は,原告らの意向を全く無視し,有無を言わせない,極めて強制的な撤去であったのである。 オ一方的な廃棄そして,被告は,撤去された物品の返還方法・連絡先等についても何ら説明をしないまま立ち去った。原告は,住居や日常生活に必要不可欠な物品を突然撤去され,当日は生活を立て直すので手一杯で,被告に撤去された物品の返還を請求する余裕が全くなかった。しかも,本件撤去は連休中に行われ,翌日から連休に入 原告は,住居や日常生活に必要不可欠な物品を突然撤去され,当日は生活を立て直すので手一杯で,被告に撤去された物品の返還を請求する余裕が全くなかった。しかも,本件撤去は連休中に行われ,翌日から連休に入ったため,その後原告は,被告に対して抗議することもできなかった。原告は,連休明けの最初の平日である平成18年5月8日になるのを待ち,即座に被告に対し抗議すると共に撤去された物品の返還を求めたが,被告は,原告らの荷物は既に廃棄した旨言- 39 -明し,原告らは返還を受けることができなかった。都市公園法による除却命令がなされた場合であっても,除却物は「保管」しておかなければならないのが原則である(都市公園法27条6・7項)。しかるに,被告は,本件撤去においては,承諾書の交付を受けるという形式を取ることによって,撤去された物品を即座に廃棄したのである。本件撤去は,原告らに撤去された物品の返還を請求させないように巧妙に計画されたものであった。 カ権利侵害を認識した上での強制撤去・処分本件撤去に際し,原告らは懸命に抗議活動を行っていたのであり,被告も当然にその内容を認識していたにもかかわらず,それを無視して破壊・撤去を行った。本件撤去は,名目としては,本人の承諾書を根拠にしているのであるから,本人の承諾の意思が存在しない,あるいは撤回されれば,撤去はできないはずである。しかし,被告は,原告が承諾の意思が本意ではないということを認識していた(あるいは少なくとも認識し得た)にもかかわらず,撤去を強行したのである。また,本件撤去の責任者であるAは,撤去した物品の中には,必要となる物も含まれていることを十分に認識していたが,たとえ必要な物であっても,残っている物は全て処分してもよいとの理解のもと,あえて本件撤去を行っているのである。生活必需品も含まれてい 中には,必要となる物も含まれていることを十分に認識していたが,たとえ必要な物であっても,残っている物は全て処分してもよいとの理解のもと,あえて本件撤去を行っているのである。生活必需品も含まれていることを知り,それによって原告が生活に困窮することを十分認識していながら,あえて撤去・処分したのである。 キ人権規約の要請の潜脱2( )のとおり,社会権規約の一般的意見に基づく強制立ち退きのための手続す ら取らず「承諾書」のみをとって撤去を行う行為は,国際法的要請を潜脱する悪質な行為である。 ク正当理由のない撤去本件において,被告は,原告らの住居等を撤去した後,この場所を市民のために有効に活用しているわけでもなく,この場所は未だに何ら活用されていないことからも,本件撤去によって原告らを立ち退かせなければならないような緊急の必要性- 40 -が全くなかったことは明らかであり,目的によって本件撤去を正当化することはできない。 ケ地方公共団体の責務に反する撤去自立支援法により,地方公共団体には,野宿生活を強いられている人々の自立を支援する施策を実施する責務が与えられている(同法1条,6条,3条3項)。しかし,被告は,原告に対し,これらの自立支援を行うことなく,むしろ,このような責務に反し,本件撤去によって逆に原告らの自立を困難にし,ひいては,「ホームレスに関する問題(自立支援法1条)」を解決せずむしろ拡大させた。このような行為は地方公共団体にあるまじき行為である。 ( )権利侵害の重大性 ア本件物件の名目的価値本件撤去により,原告は,少なくとも,別紙1物件目録記載の物品を廃棄され,8万2630円を下らない財産的損害を被った。 イ憲法上の人権侵害原告は,本件撤去により,不十分ながらも風雨をしのぎ,最低限の安全を確保することのでき くとも,別紙1物件目録記載の物品を廃棄され,8万2630円を下らない財産的損害を被った。 イ憲法上の人権侵害原告は,本件撤去により,不十分ながらも風雨をしのぎ,最低限の安全を確保することのできる場所すら失い,人間として最低限の生活環境すらない状態に放り出された。つまり,原告は,元々「健康で文化的な最低限度の生活」に満たない生活を余儀なくされていたのであるが,本件撤去により,そのささやかな「最低限度にも満たない生活」は徹底的に破壊され,蹂躙され,原告の生存権が著しく脅かされたのである。しかも,廃棄された物品の中には,食料・寝具・炊事用具など,日常生活に必要不可欠な生活必需品が多数含まれていた。そのため,原告は,その後,その日の生活にも窮するようになった。さらに,廃棄された物品の中には,原告の商売である露店の商品も多数含まれており,原告は,その後しばらくは商売に支障を来し,収入を得るのに困難を来した。元々収入が少なく,蓄えもない状態で,その日暮らしに近い生活をしていた原告にとっては,露店の売上は,その日の生活に即座に影響することであり,原告の被った影響は重大であった。しかも,原告は,- 41 -本件撤去により生活必需品を廃棄され,生活を立て直すために金が必要な立場に追いやられた。そして,そのため,原告は残った商品を生活のために無理にでも販売することを強いられることになった。そして,廃棄された物品は,原告が,長い年月をかけ,集めてきたものであった。原告が少しでも人間らしい生活ができるよう,長年かけて築き上げてきた苦労の成果を一瞬にして撤去され,廃棄されて失った原告の絶望は想像するに余りある。このように,本件撤去によって,原告は,「健康で文化的な生活」はおろか,安全もプライバシーもなく,安全に眠ることも食事を調理して食べることも生活の糧 廃棄されて失った原告の絶望は想像するに余りある。このように,本件撤去によって,原告は,「健康で文化的な生活」はおろか,安全もプライバシーもなく,安全に眠ることも食事を調理して食べることも生活の糧を稼ぐこともできない状態に追いやられた。原告は人間としての自らの存在を否定されたに等しい。原告は,生存権のみならず,個人の尊厳をも蹂躙されたのである。 ウ人権規約上の権利侵害原告は,本件撤去により,唯一の住居であるテントを突然破壊され,撤去された。 この点とは原告の居住の本拠となる場所であったのであるから,本件撤去は,原告の居住権(社会権規約11条)を侵害するものとして国際法上違法である。また,前記のとおり,国際法上は,非公式の占有,つまり国内法上占有の権原を有しない占有であっても,強制立ち退きを受けない権利が保障されることを明らかにしている(一般的意見4第8項)のであるから,本件撤去はこの権利をも侵害している。 a第2被告の主張 原告の承諾に基づく本件撤去の適法性( )要約 本件撤去は,原告の承諾に基づき,都市公園法にのっとり適正に公園管理を行った行為であり,違法性がない。すなわち,原告は,都市公園であるa公園の区域内に公園管理者である被告から都市公園法6条1項の許可を受けることなくテントを設置し,また,大阪市公園条例3条1項3号の規定に違反し物件を堆積していた。 原告は,法令上その設置が認められていないテント等を設置し,これを起居の場所として日常生活を営むことによりその敷地を占用していたのであって,その態様等- 42 -からして,公衆の利用に著しい支障を及ぼしていた。被告としては,適正な公園管理の観点からこのような不法占拠を認められず,公園事務所職員より原告に対し不法占拠物件の撤去指導(行政指導)を始めた。被告は,原告と交渉を の利用に著しい支障を及ぼしていた。被告としては,適正な公園管理の観点からこのような不法占拠を認められず,公園事務所職員より原告に対し不法占拠物件の撤去指導(行政指導)を始めた。被告は,原告と交渉を重ねた結果,平成18年4月30日を撤去期限としてa公園から退去すること,その後に公園に残された原告の所有物については被告が処分しても異議がないことを主な内容とする承諾書(別紙2)を平成18年3月16日に原告から徴した。そして,承諾書に記載された期限を過ぎた平成18年5月2日,被告職員がa公園に赴き,原告の承諾のもと,原告所有物を処分したものである。 ( )承諾書への署名に至る経緯について 公園事務所職員による原告に対する不法占拠物件の撤去指導は,国土交通省都市・地域整備局公園緑地課長の技術的助言(乙1)を参考にしながら,公園事務所施設管理担当課長,担当係長各1名,公園利用相談員(非常勤嘱託職員)4名の計6名を基本的な体制として行われた。平成18年3月の段階で,原告を含め8名がテント等を設置しa公園を不法に占拠していたが,同月から同年7月までの間に,前記指導により,原告を含め7名から任意にテント等の撤去に係る承諾書を受け取り,1名は口頭による同意を得,同年8月までに承諾書及び口頭同意に基づく被告職員による除却を行い,不法占拠を解消した。この間,公園事務所においては,不法占拠者に対し,被告の実施する自立支援施策の説明を行い,また,日常の相談に応じるなど公園利用相談員による訪問を重ねながら,適正な公園管理に必要な行政指導を行ってきた。 平成18年2月9日に公園利用相談員が,原告と面談を行った。このときに,野宿生活を行うようになった経過や健康状態についての話を聞くと共に,自立支援施策として被告が設置している自立支援センターの説明を行った。 同年3 日に公園利用相談員が,原告と面談を行った。このときに,野宿生活を行うようになった経過や健康状態についての話を聞くと共に,自立支援施策として被告が設置している自立支援センターの説明を行った。 同年3月2日には,被告のa公園の不法占拠について3月末までの撤去に同意する旨の承諾書の提出を求めたが,原告は応じなかった。この日も自立支援センター等の説明を行っている。 - 43 -同月3日にも承諾書の提出を求めたが,原告は応じなかった。そこで,原告の設置するテントは不法占拠物件であること及び公園事務所として3月31日までの撤去を求めることを通告するとともに自立支援センターへの入所希望等があれば連絡してほしいことを伝えた。 同月15日に原告を訪問し,承諾書の提出を求めたが,この日も原告は承諾書の提出に応じなかった。しかし,職員(A課長1名及び公園利用相談員2名)の帰り際に「明日,公園利用相談員だけで原告を訪問してくれ。」という旨の発言を公園利用相談員に対し行い,A課長が来なければ承諾書に署名する意思表示をした。 同月16日には前日の原告との約束から2名の公園利用相談員だけで原告を訪問し,撤去の期限を1か月延ばし4月末とすることで,原告は,承諾書の署名し同相談員に提出した。つまり,原告本人からの申し出により訪問を行い,原告は自発的に承諾書を提出したのである。 以上のとおり,原告と被告職員は,原告が承諾書に署名するより前に,少なくとも3回に渡ってa公園からの立退きについて交渉を経ているが,その交渉において,被告職員は,原告のテントは不法占拠であり立ち退いてもらわなければならないこと,原告の自立支援のために被告が実施する施策を利用できることを十分に説明している。原告以外の野宿生活者についてみても,a公園で原告と同時期に野宿生活をしていた者3名が自立支援セン ければならないこと,原告の自立支援のために被告が実施する施策を利用できることを十分に説明している。原告以外の野宿生活者についてみても,a公園で原告と同時期に野宿生活をしていた者3名が自立支援センターに入居した事実があることから,被告が自立支援策を示していたことは明らかであり,被告職員は,原告に対し,自立支援センターの入所を提示し,原告が野宿生活から脱却できるよう真摯に相談,説得を続けてきた。しかしながら,原告は,施設見学を拒否し,自立支援センターへの入所にも全く応じなかったものである。被告職員による撤去指導は,執拗に立退きを要求して承諾書への署名を迫るものなどと評価することはできず,自立支援策を示して粘り強く行われていたものと評価するべきである。 ( )本件撤去について 平成18年4月13日に原告を含む不法占拠者6名(全員同日までに承諾書を提- 44 -出している。)のうち,面談できた者に対し,撤去期限の4月末が近づいていたので,あらかじめ廃材等の不用品があれば処分する旨を伝えると,同人らから軽四輪トラック4台分の不用品が出された。 平成18年4月26日から28日にかけても,撤去期日が迫ってきているので準備を進めるように野宿生活者一人ひとりに告げて回ったが,原告には,この3日間のうちいずれかの日に同趣旨のことが伝えられている。 平成18年5月2日,上記不法占拠者6名所有の物件について撤去を行った。a公園の北側から順に撤去を行ったので,南側にあった原告所有物件の撤去は最後に行われた。撤去を行う前に,撤去を行う職員から原告に対し,「いまここに残っている物品は処分してもよいものか」との確認を行っており,原告からそれに同意する旨の回答を得た後に撤去に着手している。 ホームレス自立支援施策について( )要約 被告は,平成16年3 残っている物品は処分してもよいものか」との確認を行っており,原告からそれに同意する旨の回答を得た後に撤去に着手している。 ホームレス自立支援施策について( )要約 被告は,平成16年3月,「大阪市野宿生活者(ホームレス)の自立支援等に関する実施計画」を策定し,同実施計画に基づき野宿生活者の自立の支援に向けた各種施策,具体的には,野宿生活者巡回相談事業,自立支援センターの設置・運営,仮設一時避難所の設置・運営,就労支援対策及び保健医療対策等を行っており,原告がa公園から退去することとなっても,自立支援センターへ入所するなど,大阪市の提供するホームレスの自立の支援等に関する各種施策に基づく措置を受けることは可能である。したがって,都市公園の適正な利用を確保するために必要な措置をとるための前提として,自立支援法11条の規定による「ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携」は十分に図られており,この点に置いても被告の公園管理が適正に行われていたことは明らかである。 ( )野宿生活者対策の具体的施策について 現在,被告は,野宿者対策として,主に以下の施策を実施している。 ア野宿生活者巡回相談事業- 45 -被告は,平成11年8月,野宿生活者に対する総合的な相談事業として,野宿生活者巡回事業を開始している。当該事業においては,相談員が市内を巡回し,野宿生活者の就労,健康,悩み等について相談を行い,帰郷を希望する人については,家族又は知人等への連絡及び仲介を行い,就労による自立の意欲がある人については,自立支援センターへの入所を促している。また,高齢者,障害者,病弱者等の福祉援護を必要とする人については,被告の各区役所保険福祉センター等と連携を図るなど,個々の状況に適した支援等を行っている。平成19年5月末までの相談実績は5 いる。また,高齢者,障害者,病弱者等の福祉援護を必要とする人については,被告の各区役所保険福祉センター等と連携を図るなど,個々の状況に適した支援等を行っている。平成19年5月末までの相談実績は5万9377件(うち新規面接1万2522件)に上る。 イ自立支援センターの設置・運営被告は,就労意欲のある野宿生活者等が一定期間入所することによって,就労による自立の促進を目的として,平成12年より自立支援センターの整備を進めてきており,現在は,市内5か所(自立支援センター大淀,西成,淀川,舞洲1,舞洲2)で運営している。自立支援センターでは,就労による自立を図るため,入所者の宿所及び食事を無料で提供するほか,日用品の支給,生活及び健康などの相談指導,必要な医療の提供,公共職業安定所との連携の下での就労に必要な職業相談及び職業紹介,就職面接のために必要な被服及び交通費の貸与,自立阻害要因の除去のための法律相談など,あらゆる面で総合的な支援を行っている。特に,就労支援については,公共職業安定所からの相談員による相談,就職斡旋を初めとして,自立支援センターの指導員による就労支援,キャリアカウンセラーによる個別指導など,総合的な支援を行っている。また,平成18年1月から,自立支援センターに入所することになった人は,まず最初に自立支援センター舞洲1に入所することとし,そこでは,各入所者との面談により,個々の職歴,生活歴,健康状態などについて多角的に把握し,自立に向けた適切なプログラムを設定することとしており,その後に他の各自立支援センターへ転所し,より細やかな自立支援を行うこととしている。 ウ仮設一時避難所の設置・運営- 46 -被告は,大規模かつ集団的なテント・小屋掛けのある大公園について,緊急的な取り組みとして,公園内に仮設一時避難所を設置し 自立支援を行うこととしている。 ウ仮設一時避難所の設置・運営- 46 -被告は,大規模かつ集団的なテント・小屋掛けのある大公園について,緊急的な取り組みとして,公園内に仮設一時避難所を設置し,公園で野宿生活をしている人たちの自立を支援してきており,現在,大阪城公園内(乙3)に設けられている。 エ就労支援対策自立支援センター及び仮設一時避難所の入所者等の就労自立を促進するために,国の委託を受け,大阪市と被告が中心となり平成17年8月に大阪ホームレス就業支援センターを設立して,民間事業者等から幅広く仕事を集め,多様な就労機会を確保し,又は提供することにより就労機会の拡大を図っている。また,自立支援センター及び仮設一時避難所の入所者の資格取得及び技術向上を図ることにより,就業機会を確保することを目的として,平成15年度から国から委託を受けた社会福祉法人が,ビルクリーニングや介護ヘルパーの業務の講習,原付免許取得講習会などの多様な講習を実施している。 オ保健医療対策被告は,自立支援センターや仮設一時避難所の入所者に対し,健康診断及び結核検診を入所時に実施し,必要に応じて,医療の確保に努めると共に,健康相談を実施している。また,巡回相談事業では,野宿生活者の健康面での助言,指導及び医療面での専門的知識による対応を行うため,平成12年7月から保健医療担当相談員(看護師)を配置し,さらに,平成15年度からは精神科医師による精神保健相談を,平成16年度からは内科医師による巡回健康相談をそれぞれ開始し,保健医療面での拡充を図っている。 ( )野宿生活者対策の効果について 自立支援センターでの就労支援により,平成19年5月末までに,1500余人が就労し退所している。職業紹介件数は決して少なくなく,求職者の希望と合致すれば就労退所の途が開か 活者対策の効果について 自立支援センターでの就労支援により,平成19年5月末までに,1500余人が就労し退所している。職業紹介件数は決して少なくなく,求職者の希望と合致すれば就労退所の途が開かれている。また,自立支援センターへの入所期間は3か月であるが,必要と認められたものについては6か月を限度として延長が認められている。 - 47 -仮設一時避難所については,公共職業安定所の職業相談員による求職活動支援なども行われており,平成19年5月末までに74名が就労退所している。 対策マニュアルの運用について( )要約 原告は,本件撤去が対策マニュアルの規定に違反したものであると主張するが,かように評価される事情は一切存在しない。本件撤去は,対策マニュアルに即し,被告の自立支援策と連携しながら行われた適正なものである。なおかつ,対策マニュアルの各様式についても,現場の実情に応じて必要な範囲で加筆しているものであって,何ら対策マニュアルから逸脱したものではない。 ( )原告に対する自立支援策について 前記のとおり,被告は,野宿生活者巡回相談事業の実施,自立支援センター等の施の整備及びそれによる就労支援対策や保健医療対策の実施といった,野宿生活者の自立支援に向けた支援策を展開している。公園管理を担当する被告職員は,個々人の事情に応じて,こうした被告の自立支援策を説明するとともに,公園利用の適正をを確保することが役目であり,そのために個々の野宿生活者と日々面談し,自立支援のために相談に応じているのである。このように,個々の野宿生活者にとって,最適な自立支援の方途への最初の道筋を示すのが「自立に向けた支援策を示す」ということであり,計画書等の書面を作成して提示することではない。 実際に,被告職員は,原告に対し,日常巡回を行った際,健康 て,最適な自立支援の方途への最初の道筋を示すのが「自立に向けた支援策を示す」ということであり,計画書等の書面を作成して提示することではない。 実際に,被告職員は,原告に対し,日常巡回を行った際,健康面や経済状況などを聞き取るとともに,野宿生活から脱し,社会での自立を促すよう指導したり,自立支援センターへの入所を勧めるなどに努めていたことは前記のとおりであり,「自立に向けた支援策」が示されていないという原告の主張は事実に反する。 ( )対策マニュアル様式2の勧告文の交付について 原告は,対策マニュアル様式2の勧告文が原告に手交されていないと主張する。 当該勧告文は,違法物件であることを認知させることが目的であって,撤去期限を定めたものではなく,同じ公園事務所の管轄内である限りは個々人によって記載内- 48 -容が変わるものではない。よって,原告をはじめ,個々人に手交した当該勧告文の写しは保存されていないが,それをもって当該勧告文を手交するという対策マニュアルに定める手続が行われていないということではない。 ( )野宿生活者ケース会議の開催について 原告は,原告の自立支援策を検討するにあたって,必置の会議である野宿生活者ケース会議が開催されていないと主張する。しかしながら,野宿生活者ケース会議は,野宿生活者が存在する区に対策が必要と判断した場合に設置するものであり,必ず設置されるものではない。本件に関していえば,そもそも必要がないと判断したため,野宿生活者ケース会議が設置されなかったものであり,開催されていないことは何ら対策マニュアルの定めに反するものではない。 ( )対策マニュアル様式3の勧告文の交付について 原告は,対策マニュアル様式3の勧告文を交付するのであれば,原告のテントにより,a公園の適正な利用が著しく損なわれており放 反するものではない。 ( )対策マニュアル様式3の勧告文の交付について 原告は,対策マニュアル様式3の勧告文を交付するのであれば,原告のテントにより,a公園の適正な利用が著しく損なわれており放置できないと判断される状況に達していなければならないところ,原告のテントはかかる状況になかったと主張する。しかし,原告のテントは,a公園の北西側の植栽部分に設置され,日常の樹木の維持管理作業に支障をきたすだけでなく,公園西側に隣接する大阪市立a小学校及び同附属幼稚園並びに公園北側にあるマンションの住民から何度も苦情が寄せられていた経過がある。そのような教育上の問題をも発生させるような都市公園の利用状態が,公共の施設である都市公園の「適正な利用が著しく損なわれており放置できない状況」と判断されない理由はおよそ見当たらない。 ( )除却期限について 原告は,対策マニュアル様式3の勧告文の除却期限は基本として1か月であり,緊急的,突発的な場合や物件が小規模な場合は2週間から1か月の間で臨機に取り扱うこととすることになっているが,原告のテントは相当規模であるから例外の要件には該当しないにかかわらず,4週間(28日間)しか猶予期間がなかったと主張する。しかしながら,被告職員が勧告文(別紙5)を手交してから,除却期限ま- 49 -での期間である4週間(28日間)が対策マニュアルで定めた「基本として1カ月」の範囲にあるといえるから,被告の取扱いが対策マニュアルに違反するとはいえない。 ( )承諾書の徴取について 原告は,対策マニュアル様式4の承諾書は,野宿生活者が任意に撤去に応じた場合に,必要とする物件を持ち出した後に残った不用品に関してのものであり,いまだ任意の撤去作業を終えていない者が作成する書類ではないと主張する。しかしながら,対策マニュ 宿生活者が任意に撤去に応じた場合に,必要とする物件を持ち出した後に残った不用品に関してのものであり,いまだ任意の撤去作業を終えていない者が作成する書類ではないと主張する。しかしながら,対策マニュアルは,野宿生活者本人が物件の撤去を了解した場合に,期限までの本人自ら撤去しなかった物件の全部又は一部を被告が撤去することについて,当該承諾書を徴することを定めただけである。この点,対策マニュアルでの該当箇所の見出しは「6除却(原則として勧告期限経過後)」とあるとおり,あきらかに被告が野宿生活者のテント等を撤去する場合を前提とした規定であることを示している。また,「本人が必要とする物件は,期限までに公園外に持ち出すよう指導する」とあるとおり,もはや完全な明渡しを求めておらず,すでに任意での撤去作業を期待できない状況にある場合についての規定であることは明白である。したがって,当該承諾書に係る定めは,野宿生活者が任意の撤去に応じた場合の定めではないことは明らかである。また,野宿生活者は,少なくとも期限まではその所有する物品等を公園外に持ち出せるのであるから,原告が署名した承諾書(別紙2)に「小屋及び物品等一切」と記載されている一事をもって,原告の意思に反して原告所有のすべての物品を撤去する意思があったという主張は根拠がない。

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