主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が原告に対し,平成10年10月30日付けでなした別紙許可証目録記載の風俗営業許可証返納の受理処分は無効であることを確認する。 第2 事案の概要本件は,平成10年10月30日,原告作成名義の委任状を持参した行政書士が原告の代理人として,被告に対し,原告が営業するパチンコ店の営業を廃止する旨の返納理由書を添付して原告名義の風俗営業許可証(以下「本件営業許可証」という。)を返納し,被告はこれを受理した(以下「本件受理」という。)ことに対し,原告が,本件受理は営業許可の失効という効果を伴う行政処分であるところ,本件営業許可証の返納は無権代理であり無効であるから,本件受理も無効であるとして,その確認を求めた事案である。 1 争いのない事実等身分関係原告は,1923年(大正12年)○月○日生まれの韓国籍の女性であり,平成10年9月14日当時75歳であった(甲3の1ないし3)。原告は,亡き夫であるP1ことP2との間に,長女P3,二女P4ことP5,長男P6ことP7及び二男P8ことP9をもうけた。P10ことP11は,亡P7の妻である。 亡P9は,昭和58年9月25日,亡P7は,平成9年11月2日,亡P2は,平成9年11月11日,それぞれ死亡した。 原告は,平成11年10月20日,大阪家庭裁判所において禁治産宣告を受けた(甲19ないし21)。 本件パチンコ店について原告は,被告から,昭和41年12月23日,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条1項7号の営業(ぱちんこ屋等)を営むことの許可(許可番号第5478号。以下「本件営業許可」という。)を受け,大阪市α7番5号においてパチンコ店(以下「 化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条1項7号の営業(ぱちんこ屋等)を営むことの許可(許可番号第5478号。以下「本件営業許可」という。)を受け,大阪市α7番5号においてパチンコ店(以下「本件パチンコ店」という。)を営んでいた。パチンコ店の屋号は,「P13」,「P14」,「P15」と変更されている。 本件営業許可証の返納(乙1,2,4)原告作成名義の委任状を持参した行政書士のP12は,被告に対し,平成10年10月30日,原告の代理人であるとして,本件パチンコ店の営業を廃止する旨の返納理由書を添付して営業許可証を返納し(以下「本件返納行為」という。),被告はこれを受理した(本件受理)。 返納理由書には,返納理由として,「営業不振につき廃業」「母国に永住帰国の予定」と記載されていた。 (4) 原告とP11との訴訟等(甲4,5,7ないし9,17の1ないし6)原告は,大阪地方裁判所に対し,P11及びP11が代表取締役を務めている有限会社未来(以下「会社未来」という。)を相手方として,平成9年12月16日,本件パチンコ店がある別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を仮に明渡す旨の仮処分の申立てをし(甲4平成9年(ヨ)第3265号以下「別件申立」という。),大阪地方裁判所は,平成10年1月19日,本件建物のうち1階部分及び3階部分を仮に明渡せとの決定をした(甲5以下「別件決定」という。)。 P11及び会社未来は,大阪地方裁判所に対し,平成10年1月21日,原告を相手方として,別件決定を取り消して,原告の別件申立を却下することを求める保全異議の申立てをした(甲7)。 大阪地方裁判所は,平成10年4月15日,別件決定を認可する旨の決定を行った(甲8)。 原告は,大阪地方裁判所に対し,平成10年3月24日,P11及び会社未来 る保全異議の申立てをした(甲7)。 大阪地方裁判所は,平成10年4月15日,別件決定を認可する旨の決定を行った(甲8)。 原告は,大阪地方裁判所に対し,平成10年3月24日,P11及び会社未来を被告として,本件建物のうちの本件パチンコ店の部分を明渡すこと及び本件パチンコ店の事務所内にあるコンピューター装置一式を引き渡すことを求める訴えを提起した(甲9大阪地裁平成10年(ワ)第2825号以下「別件訴え」という。)。 しかし,原告は,大阪地方裁判所に対し,平成10年10月17日,別件訴えの取下書を提出するとともに(甲17の1),平成10年10月19日,別件申立の取下書を提出した(甲17の2)。 その他にも,原告と訴外P11との間には,平成10年(ヨ)第155号動産引渡断行等仮処分命令申立事件,平成10年(ヨ)第159号動産引渡断行仮処分命令申立事件,平成10年(ヨ)第254号建物明渡断行動産引渡断行仮処分命令申立事件,平成10年(ヨ)第412号建物占有・使用妨害禁止等仮処分命令申立事件が係属していたが,それぞれ平成10年10月19日に取り下げの申し出がなされ,終了した(甲17の3ないし6)。 2 争点(1) 風俗営業許可証の返納を受理する行為が行政処分に該当するか。 (2) 風俗営業許可証の返納が無権代理行為によって行われた場合,受理行為が無効となるか。 (3) 本件返納行為は無権代理行為であるか。 3 当事者の主張(1) 風俗営業許可証の返納を受理する行為が行政処分か。 (原告の主張)被告が,本件営業許可証の返納を受理すれば,風営法10条2項により、原告が被告から与えられた,本件パチンコ店の営業についての許可が失効する。したがって,風俗営業許可証の返納を受理することは,特定人の具体的権利・利益に変動を生ぜしめるものであり,行政 条2項により、原告が被告から与えられた,本件パチンコ店の営業についての許可が失効する。したがって,風俗営業許可証の返納を受理することは,特定人の具体的権利・利益に変動を生ぜしめるものであり,行政処分に当たる(被告の主張)風俗営業許可証返納の受理行為は,意思や判断が介在する余地のない単なる事実行為であり,抗告訴訟の対象たる行政処分に当たらないものとみるべきであるから,本件訴えは却下されるべきである。 (2) 風俗営業許可証の返納が無権代理行為によって行われた場合,受理行為が無効となるか。 (原告の主張)一般に,重大かつ明白な瑕疵が存在する場合に行政処分は無効となるとされているが,取消訴訟の排他的管轄を認める根拠は,行政上の法律関係を早期に安定させるとともに行政処分の適法有効性に対する利害関係者の信頼を保護することにある。瑕疵が明白であれば,係争処分を無効としても行政活動の円滑や利害関係人の信頼を不当に害することにはならないのは確かであるが,瑕疵が明白であるとはいえない場合でも,利害関係人に不測の損害を与えることがなければ,重大な瑕疵が存在することを理由に行政行為を無効とするべきである。 風俗営業許可証返納受理処分は,営業許可を失効させるものであるが,営業許可が失効していることを信頼して原告や原告関係者と何らかの取引を行うことは考えられないし,受理処分の無効を認めて元の営業許可を復活させたとしても,円滑な行政活動を妨げるとは考えられない。したがって,本件では,瑕疵が明白でなくとも瑕疵が重大であれば無効とすべきである。 本件受理は,有効な返納行為があることを必須の前提とするところ,本件営業許可証の返納は,原告の意思に基づいて行われたものではなく重大な瑕疵が存在するから,本件受理処分は無効である。 (被告の主張)P12行政書士は 返納行為があることを必須の前提とするところ,本件営業許可証の返納は,原告の意思に基づいて行われたものではなく重大な瑕疵が存在するから,本件受理処分は無効である。 (被告の主張)P12行政書士は,平成10年10月30日,本件パチンコ店の所轄署である福島警察署を訪れ,対応した同署の担当者に対して,原告名義の返納理由書,原告の営業許可証,原告がP12行政書士に対し本件営業許可証を返納することを委任した旨の委任状を提出して返納を申し出たので,書類に不備がないことを確認したうえで,これを受理したものである。 行政処分が無効とされるには,当該行政行為に重大な瑕疵があり,かつ,瑕疵の存在を容易に確定し得るべき外観上明白な瑕疵であるべきところ,本件においては,行政書士が委任状を添えて所定の書類を所轄署に提出して受理されたものであるから,明白な瑕疵があったとはいえない。したがって,本件は無効要件に欠ける。 (3) 本件申請行為は無権代理行為であるか。 (原告の主張)ア委任契約の不存在原告は,P12行政書士に対し,本件営業許可証の返納を委任していない。仮に,原告がP12行政書士に対し,本件営業許可証の返納を委任したとしても(以下「本件委任」という。),原告は,平成10年9月から同年10月末までの間,「痴呆症」ないし「仮性痴呆症」と診断されるような状態であり,本件パチンコ店を廃業すること,ないし営業許可証の法的意味を了知したうえでその是非を判断できるような正常な判断能力を有していなかったから,委任は無効であり,返納行為は無権代理行為である。 イ本件返納行為が無権代理であることを基礎付ける事実本件営業許可証の返納が,無権代理行為であることは以下の事実から明らかである。 (ア) 風俗営業許可証の返納は,風俗営業者の廃業意思を確認するため,実務上 行為が無権代理であることを基礎付ける事実本件営業許可証の返納が,無権代理行為であることは以下の事実から明らかである。 (ア) 風俗営業許可証の返納は,風俗営業者の廃業意思を確認するため,実務上,営業許可名義人が直接管轄の警察署に赴いて営業許可証を返納する方法で行われるのが原則であるが,本件では,原告は,本件パチンコ店を管轄する福島警察署に赴いておらず,自ら返納手続を行っていない。また,原告が本件営業許可証の返納に関して自署した書面もない。以上のことから,原告が,本件営業許可証を返納したP12行政書士に対し,本件営業許可証の返納を委任していないことは明らかである。 (イ) 原告の当時の状況及び検査の結果原告は,平成10年の春ころより,時々自分の家やトイレを探すことができないという症状を呈するようになり,老人性痴呆症が始まったのではないかという疑いが生じ始め,同年夏以降には症状が次第に悪化し,神経困難症状を呈するようになった。9月中旬ころには,C型肝炎検査の数値も高くなり,食事もできずに極度に衰弱した状態にあった(甲10)。 原告は,平成10年9月28日から同月30日まで韓国のP16病院に入院していた。原告の担当医は,原告に対し,平成10年9月30日,「痴呆症」ないし「仮性痴呆症」の診断を下していた。 また,原告は,平成11年1月27日から同月29日まで,韓国のP17病院に入院していたが,同病院の医師は,原告には少なくとも平成10年9月28日から平成10年10月30日ごろには意識混沌とともに,判断障害,対人関係困難,意志疎通障害があったと診断している。 P18医師作成の平成12年10月2日付鑑定書(甲59以下「別件鑑定書」という。)も,本件事件当時,原告が,不十分ながら保たれていた精神能力を適切に行使できる状況におかれていなかっ 診断している。 P18医師作成の平成12年10月2日付鑑定書(甲59以下「別件鑑定書」という。)も,本件事件当時,原告が,不十分ながら保たれていた精神能力を適切に行使できる状況におかれていなかったために,精神能力を欠いた状態であったと結論付けている。 (ウ) 原告の意思に基づいてなされたとされる行為が不自然であること原告は,P11との間で,平成10年10月14日,確認書(甲16以下「本件確認書」という。)を作成しているが,その内容は,原告が本件パチンコ店の営業権を有しないこと,信用組合関西興銀西支店にある原告名義の約1億3000万円の定期預金及び三和銀行新大阪支店にある原告名義の約5000万円の定期預金の実質上の権利者が亡P7であること,約2億円の現金及び預金について原告が何らの権利も有しないこと,原告が上記の財産を保全するために行ってきた従前の訴訟及び仮処分を全て取り下げることを確認するというものであった。 そして,この確認書のとおり,平成10年10月30日,公安委員会宛に原告名義になっていた本件パチンコ店にかかる本件営業許可証が返納され,原告のP11らに対する全ての訴訟及び仮処分が取り下げられた。 しかし,本件確認書は,原告が一方的に自己の財産ないし権利を全て放棄することを内容とするものであり,この確認内容によれば,原告自身の今後の生活さえ保障されないことになり,極めて不合理なものである。正常な判断ができる状態で,原告は自分の所有する財産ないし権利を全て放棄してP11に与えるということは考えられない。 (エ) 営業許可証に添付された返納理由書の返納理由の記載が事実と全く異なること営業許可証に添付された返納理由書には,返納理由として営業不振及び母国への永住予定と記載されているが,原告には母国である韓国に永住する予定は全くなか 納理由書の返納理由の記載が事実と全く異なること営業許可証に添付された返納理由書には,返納理由として営業不振及び母国への永住予定と記載されているが,原告には母国である韓国に永住する予定は全くなかったし,本件パチンコ店が営業不振であったという事実もない。 ウ結論以上のとおり,原告自身が本件営業許可証を返納しておらず,原告が自署した本件営業許可証の返納手続に関する文書が存在しないこと,本件返納が行われた当時,原告は正常な判断能力を欠いていたか,著しく減退していたこと,原告の意思に基づいてなされたとされる行為が極めて不自然であること,営業許可証に添付された返納理由書の返納理由の記載が事実と全く異なること等の事実に照らせば,原告は,P12行政書士に対し,本件営業許可証を返納することを委任していないし,仮に委任していたとしても,原告は,本件委任当時,正常な判断能力を欠き,あるいは,著しく判断能力が減退していたことが明らかであるから,本件委任は無効であり,本件返納は無権代理行為である。 (被告の主張)ア原告は,P12行政書士に対し本件営業許可証を返納する手続をとることを委任し,委任状,返納理由書を作成したうえ本件営業許可証とともに同人に交付しているのであるから,許可証返納の意思があったことは明らかであり,本件返納に何らの瑕疵はない。 イ別件鑑定書は,本件返納行為が行われた当時,原告には「自己の行為の結果を判断する能力は不十分ながら保たれていた。」としており,原告に判断能力が備わっていたことを認めているのである。 別件鑑定書は,これに加えて,原告には精神能力の適切な行使をできるような状態ではなかったとしているが,唐突であり意図的にこじつけたものとしか考えられないし,「精神能力の適切な行使」という概念も曖昧である。 また,別件鑑定書は 原告には精神能力の適切な行使をできるような状態ではなかったとしているが,唐突であり意図的にこじつけたものとしか考えられないし,「精神能力の適切な行使」という概念も曖昧である。 また,別件鑑定書は,乙7号証の1の録音テープに基づき,「平成10年10月14日の時点では原告にはせん妄は加わっておらず意識は清明であった」「テープを聴く範囲内では10月14日のこの時点では原告には特記すべき痴呆の辺縁症状はなく,意識は清明で,時・所・人に対する見当識も保たれている」等と記載したうえで,「しかし,この時点のような精神状態が本件事件の他の期間中も持続していたかどうかは疑問である。」としているのであるから,少なくとも10月14日の時点では精神状態に問題がなかったことを認めている。 第3 争点に対する判断 1 風俗営業許可証の返納を受理する行為が行政処分か。 抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されるところ,被告は,風俗営業許可証返納の受理は,意思や判断が介在する余地のない単なる事実行為であり,抗告訴訟の対象となるべき行政処分に当たらないと主張する。 しかし,許可証の返納に際して添付を要求される返納理由書(風営法施行規則20条2項)には,返納者の氏名の記載及び押印が求められ,さらに返納理由の記載も求められていることに照らすならば,営業許可証返納の申し出があった場合,公安委員会は,かかる返納の申し出が本人の意思に基づくものかどうかを判断したうえでこれを受理するものにほかならないから,風俗営業許可証返納の受理は,当該返納の申し出が本人の意思に基づく有効な行為として受領 会は,かかる返納の申し出が本人の意思に基づくものかどうかを判断したうえでこれを受理するものにほかならないから,風俗営業許可証返納の受理は,当該返納の申し出が本人の意思に基づく有効な行為として受領する受動的な意思行為であるということができ,しかも,営業許可証返納の受理によって営業許可が失効するという権利義務関係の変更が生じるものとされている(風営法10条2項)。したがって,営業許可証返納の受理は,単なる事実行為ということはできず,それによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するということが法律上認められているものということができ,抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当すると解すべきである。 2 風俗営業許可証の返納が無権代理行為によって行われた場合,受理行為が無効となるか。 アまず,第1に,いかなる場合に許可証返納受理が無効となるか,その判断基準が問題となる。 この点につき被告は,当該行政処分に重大な瑕疵があり,かつ,瑕疵の存在を容易に確定し得るべき外観上明白な瑕疵であるかどうかで判断すべきであると主張する。 しかし,一般に無効原因として瑕疵の明白性が要求されるのは,主として処分の存在を信頼する第三者を保護するためであるから,かかる第三者の保護を図る必要がない場合には,外観上明白な瑕疵であるかどうかにかかわらず当該行政処分は無効となる場合があるものと解すべきである(最高裁昭和48年4月26日第1小法廷判決・民集27巻3号629頁参照)。 これを本件についてみると,営業許可証の返納受理によって生じるのは,許可が失効するという効果であるが,ある者の営業許可が失効した場合には取引関係が消滅するのみであって,新たな取引関係が形成されるということは通常想定し難いところであるし,ある者の営業許可 じるのは,許可が失効するという効果であるが,ある者の営業許可が失効した場合には取引関係が消滅するのみであって,新たな取引関係が形成されるということは通常想定し難いところであるし,ある者の営業許可が失効することによって他の者の許可が容易になるなどの関係もない。したがって,営業許可証返納の受理が有効であることを信頼する第三者の保護を考慮する必要のないことを勘案すれば,風俗営業許可証の返納受理が無効かどうかを判断するにあたっては,外観上明白な瑕疵であることまでは不要であると解すべきである。 イ第2に,原告は,本件受理は,その前提となる返納許可証の返納の申し出が無権代理行為によって行われたものであるから無効であると主張するところ,申請行為が無権代理行為によって行われたことをもって,許可証の返納を受理する行為についても無効を招来するものといえるかどうかが問題となる。 法令上行政処分が利害関係人の申請,同意,承諾等を前提としてなされるべきことが要求されている場合において,このような私人の行為の瑕疵がそれを前提としてなされる行政処分の効力にどのような影響を与えるかについては,当該私人の行為が行政行為の要件に占める意味によって異なり,これを一概に論ずることはできないというべきであり,これを当然無効とするためには,法の趣旨が,利害関係人の行為を当該処分の不可欠の前提要件あるいは処分の根幹的な要件であるとするものであること,さらには,これを当然無効とする場合には,行政の安定とその円滑な運営の要請を阻害するものであるから,無効の主張を許さないことが著しく不当と認められるような具体的事情があることが必要であるというべきである。 これを風俗営業許可証の返納の申し出についてみると,風営法10条2項が,許可証が返納された場合に許可が失効すると規定するのは,返納 認められるような具体的事情があることが必要であるというべきである。 これを風俗営業許可証の返納の申し出についてみると,風営法10条2項が,許可証が返納された場合に許可が失効すると規定するのは,返納の申し出があったとの事実から営業継続の意思がないことが明らかであるので,許可を存続させる必要性がないからであると解され,返納の申し出が単なる処分の端緒であるとみることはできない。そうであるとすれば,返納の申し出が本人の真正な意思に基づいて行われたということは,許可の失効と直接結びつく返納の受理処分の必要不可欠の前提要件であるというべきである。 そこで,まず,本件返納行為が無権代理行為によるものであるのか否かについて検討する。 3 本件返納行為は無権代理行為であるか。 (1) 代理権授与の有無証拠(乙1,2,7の1及び2,証人P11)によれば,原告は,平成10年10月14日,本件営業許可証を返納するのに必要な返納理由書及び返納申請をP12行政書士に委任する旨の委任状に,P11に代筆させて署名し,その後,自ら押印をしたことが認められる。 したがって,原告がP12行政書士に対し,本件返納申請につき代理権を授与したことが認められる。 (2) 意思能力の有無そこで,原告がP12行政書士に対し,本件返納申請について代理権を授与した当時,原告は意思能力を有していたか否かにつき判断する。 ア証拠(甲10ないし13,56の1,56の3,56の4,56の6,56の21,56の24)によれば以下の事実が認められる。 (3) P16病院入院時a 原告は,平成10年9月28日から同月30日まで,P16病院に入院していた(甲56の4)。 b 原告は,P16病院でMMSEテストを2回受けており,その結果は以下のとおりである(甲56の4,56の6)。 (a) 合計 9月28日から同月30日まで,P16病院に入院していた(甲56の4)。 b 原告は,P16病院でMMSEテストを2回受けており,その結果は以下のとおりである(甲56の4,56の6)。 (a) 合計30点満点中24点(見当識 10点満点中9点,記銘3点満点中3点,注意計算 5点満点中1点,記憶再生 3点満点中3点,言語9点満点中8点なお,乙56の4の翻訳では記銘に関する問題について10点満点中9点と記載されているが誤訳である。)。 (b) 合計29点満点中13点c 平成10年9月30日,原告に対し脳のMRI検査が行われた。その結果,側脳室の拡大を伴うびまん性の脳萎縮が認められ,また脳組織の全般にわたり,萎縮性の兆候が認められた。(甲56の21)。 d 原告の行動原告は,平成10年9月29日,看護婦から防護室がどこになるかを教えられたが,ずっと覚えられないでいた(甲56の24)。 原告は,平成10年9月30日,トイレに行ったあと自分の病室に帰れないことが2回あった(甲56の24)。 e 記憶・見当識について原告の担当医師は,平成10年9月29日,神経精神科の医師に対して,診療依頼記録を送付しているところ,同書面には,原告に記憶障害,言語障害,日時の見当識障害,計算能力障害が認められると記載されている(甲56の6)。 f 医師の診断P16病院の担当医師は,平成10年9月30日,原告の病状について,「痴呆症である。但し,仮性痴呆症は除外診断すべきである。その他の診断名及び主要合併病変としてHCV及び鬱病である。」と診断している(甲56の3)。 (イ)P17病院入院時(甲12,13)a 原告は,平成11年1月27日から同月29日まで,韓国のP17病院に入院した(甲12)。 b 検査の結果同病院の医師は,原告の脳組織についての検査の結果 (イ)P17病院入院時(甲12,13)a 原告は,平成11年1月27日から同月29日まで,韓国のP17病院に入院した(甲12)。 b 検査の結果同病院の医師は,原告の脳組織についての検査の結果,左右,前頭葉,側頭葉の重なった部位及び脳基底核部位に脳梗塞が存在すると診断している(甲13の1)。また,心理検査の結果,認知機能及び記憶力が減少しており,記憶力維持損傷が伺われるとしている(甲13の1)。 c 医師の診断患者の脳組織損傷部位が患者に情緒不安定やその他の精神症状を惹起させており,意識程度が明瞭ではなく,短期記憶力障害及び失語症が存在するとしたうえで,P17病院の医師は,はっきりとした痴呆ではないが,認知機能の損傷が見えるので,初期健忘症や中期混乱期に該当する痴呆症候群とみることができ,これからの痴呆症候群悪化の高危険群とみることができるとして,平成11年1月29目,最終的には,原告は混合型老人性(初期)痴呆であると診断している(甲12)。 イ以上の事実及び原告が当時高齢であったことを総合すると,原告はP16病院入院時及びP17病院入院時において,脳萎縮,記憶の障害,言語機能の悪化等が認められるから,いずれの時点においても萎縮性痴呆症に罹患していたことが認められる。 ウ一方,証拠(甲12,56の4,56の5,56の24)によれば以下の事実が認められる。 (ウ) 原告がP16病院を退院する時に作成された退院要約記録には,原告の記憶は,直近,最近,遠方いずれについても正常であると記載されて,見当識についても正常と記載されている(甲56の4)。 (イ) P16病院入院時に作成された経過記録にも,平成10年9月28日の時点では,直近及び遠方の記憶は正常であると記載されているが,最近の記憶については正常から障害に移行している旨が記 6の4)。 (イ) P16病院入院時に作成された経過記録にも,平成10年9月28日の時点では,直近及び遠方の記憶は正常であると記載されているが,最近の記憶については正常から障害に移行している旨が記載されている。見当識については良好であると記載されている(甲56の5)。 (ウ) 同病院入院時に作成された看護記録には,原告は,入院中,夜間はコミュニケーションができなかったが,平成10年9月30日の朝,内科回診時には,場所・時間,人に対して認識し,対話もよくできていたと記載されている(甲56の24)。 (エ) P17病院の診断書(甲12)には,本院に入院時,初期痴呆状態に見えたが,平成11年1月29月現在,意思疎通に特別な障害がなく,判断力でも,はっきりとした障害がない状態と考えられるとされている(甲12)。 (オ) P16病院入院時に2回行われたMMSE検査のうち,1回は30点満点中24点と高得点を挙げている(甲56の4)。 (カ) 原告は,平成10年9月28日,韓国において公正証書を作成している(乙6)。 エ以上の事実及び前記アの事実を総合勘案すると,原告は,萎縮性痴呆症に罹患しているといっても,その程度は軽度のものであり,その時々によって原告の意識状態には差があることが認められる。 別件鑑定書(甲59)も,平成10年10月から同月30日当時の原告の意思能力について,原告は萎縮性痴呆に罹患していたが,その痴呆は初期段階で,「軽度痴呆」の域にあったが,原告の精神状態は著しく不安定であったため原告の有する精神能力も動揺したと鑑定している。 そして,萎縮性痴呆症の進行は一般には緩徐であり(甲59,64),かつ,原告がP12行政書士に対し,本件委任をした時点と原告がP16病院及びP17病院に入院した時点とはそれ程時間的に離れていないことからする 萎縮性痴呆症の進行は一般には緩徐であり(甲59,64),かつ,原告がP12行政書士に対し,本件委任をした時点と原告がP16病院及びP17病院に入院した時点とはそれ程時間的に離れていないことからすると,原告は,本件委任をした時点においても同様に軽度の萎縮性痴呆症に罹患しており,かつ,意識状態も明瞭な時と不明瞭な時とがある不安定な状態であったことが推認される。 オ平成10年10月14日の原告の意思能力(ア) 以上を前提として,本件委任時の原告の意思能力について検討してみるに,証拠(乙1,乙6)によれば,平成10年10月14日,原告が本件返納申請をP12行政書士に委任した際,原告は,返納理由書に署名しようとして書き損じているなど身体の機能に障害のある状態であることが認められ,また,会話の受け答えもゆっくりとしているが,原告は,親族間の紛争及び自己の現在おかれている状況について把握していること,P12行政書士らの話を誤解したり,ちぐはぐな受け答えをすることもなく応答していること,本件パチンコ店の営業を止めるということについても理解して会話をしていること,別件鑑定書も,「平成10年10月14日の時点では,原告にはせん妄は加わっておらず意識は清明であった。」としていることからすると,本件委任時においては,原告の判断能力は比較的安定している状態であり,意思能力があったものと認められる。 (イ) もっとも,原告は,本件委任当時,原告は,日本と韓国の間を頻繁に行き来し,またP11らとの間に紛争があるなど過酷な状態にあったのであるから,原告は不十分ながらも存在していた精神能力を適切に行使し得る状態にはなかったと主張する。 確かに,一般論としては,本件委任当時,原告の置かれていた状況は原告の精神状態にとって良好な環境であったとは言い難く,適切に判断能力を ていた精神能力を適切に行使し得る状態にはなかったと主張する。 確かに,一般論としては,本件委任当時,原告の置かれていた状況は原告の精神状態にとって良好な環境であったとは言い難く,適切に判断能力を行使し得なくなる可能性はあったといい得るが,原告が当時置かれていた状況にあれば必ず精神能力を適切に行使し得なくなるというわけではなく,現に,乙7号証の1及び2によれば,原告の精神状態は適切な状態に保たれていたことが認められるから,原告の主張は採用することはできない。 また,原告は,原告がP11に対して提起していた多数の訴訟等を全て取り下げる等原告の意思に基づいてなされたとされる行為が極めて不自然であることから,本件委任当時,原告には意思能力がなかったことが認められると主張する。確かに,老齢の原告の今後の生活を考えると,損得勘定については適切な計算に基づく行動ができていたのかどうか疑問がないではないが,そのことから直ちに,訴訟を終了させるあるいは営業を廃止するという自己の行為の法的効果についてまで認識できなかったということにはならないし,乙7号証の1及び2において原告自身が述べているように,原告をとりまく親族間のもめ事に嫌気がさして訴訟等を取り下げるという行動に出たこともあながち不合理であるとはいえず,了解可能であるから,かかる事実から原告が本件委任当時意思能力を有していなかったことを推認することはできない。 また,原告は,営業許可証に添付された返納理由書の返納理由の記載が事実と全く異なることから,本件委任が原告の意思に基づくものではないと主張するが,本人自身が返納理由書を記載する場合でも事実と異なる返納理由を記載することは十分にあり得るのであるから,返納理由書に記載されている返納理由が事実と異なることから本件委任が原告の意思に基づかなかっ ,本人自身が返納理由書を記載する場合でも事実と異なる返納理由を記載することは十分にあり得るのであるから,返納理由書に記載されている返納理由が事実と異なることから本件委任が原告の意思に基づかなかったことを推認することもできない。 4 結論以上検討したとおり,本件委任当時原告には意思能力がなかったことが認められないから,その余の点について判断するまでもなく,本件受理は無効であるとの原告の主張は採用することはできない。よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第二民事部裁判長裁判官三浦潤裁判官林俊之裁判官中島崇
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