平成11(行ウ)3 地公災基金奈良県支部長公務外認定処分取消

裁判年月日・裁判所
平成14年4月17日 奈良地方裁判所
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判決文本文13,154 文字)

平成14年4月17日判決言渡奈良地方裁判所平成11年(行ウ)第3号公務外認定処分取消請求事件判決 主文 1 被告が,原告の平成7年12月1日付被災職員Aにかかる公務災害認定請求に対し,平成8年10月15日付でした公務外災害認定処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者等ア原告は,A(昭和34年1月1日生,平成7年9月23日死亡,死亡当時36歳)の夫である。原告とA間には3人の子(Aの死亡当時子は2歳,4歳,6歳)があった。 Aは,昭和59年5月に看護婦資格を取得し(それ以前は准看護婦であった)た看護婦であり,同年4月から同60年3月までは奈良県立B病院,同年4月から死亡時まで奈良県下の町立C病院に勤務していた。 なお,これ以前には,昭和52年4月から同57年3月までの間に2つの病院での勤務経験があった。 イ被告は,地方公務員災害補償法に定める地方公務員災害補償基金(以下「基金」という。)の行う補償の請求について,補償の請求の原因である災害が公務又は通勤により生じたものであるかどうかを認定する行政庁である(同法24条,48条)。 (なお,本判決においては,従前どおり「看護婦」の語を用い,「看護師」は使用しない。)(2) Aの死亡Aは,平成7年9月22日午後3時45分ころからC病院の病棟2階で夜勤勤務につき,同月翌23日午前3時ころ(推定)看護婦控室において仮眠中に死亡した(以下「本件災害」という。)。 奈良県立医科大学法医学教室所属のD医師による死体検案によれば,直接死因はネフローゼ症候群,甲状腺機能 翌23日午前3時ころ(推定)看護婦控室において仮眠中に死亡した(以下「本件災害」という。)。 奈良県立医科大学法医学教室所属のD医師による死体検案によれば,直接死因はネフローゼ症候群,甲状腺機能亢進症などを背景とした心房細動(推定)であり,同医師の解剖所見は「甲状腺の腫大が著明であることと腎臓疾患が疑われ,これら臓器の機能異常が死因として最も考えられ,その死亡状況及び急死の所見から判断して特に甲状腺機能亢進症に基づく不整脈が最も考えられる」というものであった。 (3) Aの勤務状況等本件病院の日勤及び夜勤における業務内容及び業務手順は,別紙1(業務内容等概要=省略)記載のとおりであり,Aの本件災害直前の3か月間の勤務状況は別紙2(勤務状況一覧=省略)のとおりであった。 また,本件災害のころ,Aは,ファーストレベル研修とよばれる研修に参加していた。同研修は婦長補佐教育ともいわれ,人間関係,看護論,情報管理,継続教育などの科目につき,平成7年4月下旬から週に1日,研修会において講義の聴講,グループ研究を実施し,1か月に1回程度,400字詰め原稿用紙2から5枚程度のレポート作成,提出が要求された。 本件災害まで,Aは,すべての講義に出席しレポート提出を済ませていた。 (4) Aの既往症Aは,次の疾患を有し,治療を受けていた。 ア微小変化型ネフローゼ症候群Aが6歳のころ,ネフローゼ症候群で奈良県立医科大学付属病院(以下「県立医大病院」という。)小児科に入院し,完全寛解したが,昭和61年9月ころ,ネフローゼ症候群が再燃し,同年10月から同病院に入院し,ステロイド療法を受け,完全寛解した。 平成6年6月2日,県立医大病院からC病院に転院し,初診時よりステロイド療法で維持していた。 イバセドウ病,甲状腺機能亢進症また から同病院に入院し,ステロイド療法を受け,完全寛解した。 平成6年6月2日,県立医大病院からC病院に転院し,初診時よりステロイド療法で維持していた。 イバセドウ病,甲状腺機能亢進症また,Aは24歳の時にバセドウ病を発症し,メルカゾールの投与により改善したが,以下の投薬は不規則であった。上記の転院後,C病院において甲状腺機能亢進症の治療(投薬)を受けていた。 (5) 原告の公務災害認定請求及び行政不服審査法による不服申立て原告は,被告に対し,平成7年12月1日付で地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定請求をしたが,平成8年10月15日付で,被告は本件疾病を公務外の災害と認定し,これを原告に通知した。 原告はこれを不服として,平成8年12月20日に地方公務員災害補償基金奈良県支部審査会に対し本件処分に対する審査請求をしたが,同審査会は平成9年9月9日付で同審査請求を棄却したため,更に平成9年9月30日付で地方公務員災害補償基金審査会に再審査請求をした。しかし,同審査会は,平成10年11月25日,同再審査請求を棄却した。 (6) 公務上外認定に関する通達等公務上外認定に関し,基金の理事長通知として「心・血管疾患及び脳血管疾患等業務関連疾患の公務上災害の認定について」(平成7年3月31日地基補第47号,以下「理事長通知」という。)及び補償課長通知として「心・血管疾患及び脳血管疾患等業務関連疾患の公務起因性判断のための調査事項について」(平成7年3月31日地基補第48号)の基準が存し,被告は右通知等に基づき,公務上外災害を判断している。 理事長通知によると,「発症前に,業務に関連してその発生状態を時間的,場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したことにより又は通常の日常の業務(被災職員が占めていた職に割り当てられた職務のう 。 理事長通知によると,「発症前に,業務に関連してその発生状態を時間的,場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したことにより又は通常の日常の業務(被災職員が占めていた職に割り当てられた職務のうち,正規の勤務時間内に行う日常の業務をいう。以下同じ。)に比較して特に質的に若しくは量的に過重な業務に従事したことにより医学経験則上,心・血管疾患及び脳血管疾患等の発症の基礎となる病態(血管病変等)を加齢,一般生活等によるいわゆる自然的経過を超えて急激に著しく増悪させ,当該疾患の発症原因とするに足る強度の精神的又は肉体的負荷(以下「過重負荷」という。)を受けていたことが必要である。」とし,ここにいう「異常な出来事」とは,「強度の精神的,肉体的負荷を起こす可能性のある突発的で異常な出来事をいい,例えば,発症前に突発事故,暴風雨,洪水,土砂崩れ,地震等特異な事象に業務に関連して遭遇し,強度の驚愕,恐怖等を起こしたことが経験則上明らかな場合」をいい,「通常の日常の業務に比較して特に質的に若しくは量的に過重な業務」とは,「通常に割り当てられた業務内容等に比較して特に過重な業務をいい,例えば,(ア)日常は肉体労働を行わない職員が,勤務場所又はその施設等の火災等特別な事態が発生したことにより,特に過重な勤務を命ぜられ,当該業務を遂行した場合,(イ)業務上の必要により発症前に正規の勤務時間を超えて週数十時間にまで及ぶ過重な長時間勤務を1か月以上にもわたって行っていた場合又は暴風雨,豪雪,猛暑等異常な気象条件下での業務を長時間にわたって行っていた場合等通常の日常の業務に比較して勤務時間及び業務量の面で,特に過重な業務の遂行を余儀なくされた場合がこれに該当する」ものとしている。 2 争点Aの死亡は公務に起因するものかどうか。 (1) 公務 務に比較して勤務時間及び業務量の面で,特に過重な業務の遂行を余儀なくされた場合がこれに該当する」ものとしている。 2 争点Aの死亡は公務に起因するものかどうか。 (1) 公務起因性の考え方(2) Aの業務が過重であったかどうか及び基礎疾患の影響 3 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)(公務起因性の考え方)について(原告の主張)ア前提事実記載の理事長通知等の基準は,下部行政機関に対する運用のための通達であって,行政の適正,迅速処理のための判定基準を示したに過ぎないものであるから,相当因果関係の判断を直接拘束するものではない。 イまた,被告の主張する基準は高血圧,動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤等の基礎的病態を視野においた基準であることはその記述内容から明らかであり,本件のような甲状腺機能亢進症に基づく不整脈による死亡といった病態はその射程外である。 また,直前の公務の過重性を過大にみることは,日常の公務が既に過重なときほど公務起因性が認められないこととなって不当である。 ウ基礎疾病の発症と病態の進行は,日常生活の中の種々の要因と絡み合って起こり,かつ労働生活の占める割合は極めて大きいと考えるのが常識というべきであり,公務と基礎疾患が競合して災害が発生した時点で,いずれが有力かを判断することは不可能である。 したがって,基礎疾患についての医学的判断を得て,予測される自然的経過を把握した上で,基礎疾患に関連すると考えられる相当期間に担当した公務の内容と,これにより同人が受ける負荷の程度,他の要因による負荷の有無,程度を総合考量して決すべきであり,その負荷の程度を参酌するに際しては,個人の基礎疾患等の主観的事情を考慮することも許される。 (被告の主張)ア心・血管疾患及び脳血管 ,他の要因による負荷の有無,程度を総合考量して決すべきであり,その負荷の程度を参酌するに際しては,個人の基礎疾患等の主観的事情を考慮することも許される。 (被告の主張)ア心・血管疾患及び脳血管疾患等は,負傷に起因するものを除き,本来公務に従事することによって直接発症するものではない。すなわち,基礎となる動脈硬化等による血管病変等の基礎的病態が,加齢や日常生活等における諸種の要因によって増悪し,血管からの出血等や血管の閉塞した状態ないし心筋の壊死などが生じて発症に至るものがほとんどであり,国民の死亡原因に占める割合の高さから考えても,日常生活上頻発する「私病」というべきであって,職業病とは異なり,特定の公務が特定の心・血管疾患又は脳血管疾患等を発症させるという関係にはない。 例外的に,当該公務が精神的,肉体的に著しい過重負荷を生じるものであったために,これにより血圧変動や血管攣縮を引き起こし,その結果心・血管疾患又は脳血管疾患等が明らかにその自然的経過を超えて急激に著しく増悪して発症したと医学的に認められる場合にはじめて公務起因性が認められるものである。 上記のような考え方に基づき前提事実記載の理事長通知等が発せられているのであって,これは,公務起因性について医学的,専門的知見を集約した高度の経験則を示したものとして,極めて合理性がある。 イ甲状腺機能亢進症に基づく不整脈による死亡は,理事長通知にある心臓性突然死に該当する。 同基準は,狭心症,心筋梗塞,心停止,心臓突然死,肺塞栓症,高血圧性脳症の心・血管疾患及び脳血管疾患をその範囲としており,虚血性心疾患や脳出血による死亡のみを視野に入れた基準ではないし,不整脈による死は,心臓突然死の範疇に入るものである。 (2) 争点(2)(Aの業務が過重であったかどうか及び基礎疾患の影響 ており,虚血性心疾患や脳出血による死亡のみを視野に入れた基準ではないし,不整脈による死は,心臓突然死の範疇に入るものである。 (2) 争点(2)(Aの業務が過重であったかどうか及び基礎疾患の影響)について(原告の主張)ア Aの業務等Aは,本件災害当時,C病院の第2病棟の入院患者の看護を担当する班の1つに属し,そのチームリーダーとして勤務していた。この班の構成員は8名で,日勤3から4名,夜勤は1名の割合で輪番制をとっており,Aも1か月に4から5回の夜勤を担当していた。 イ C病院の業務の過密性については,次のような状況があった。 (ア) 本件災害当時Aが勤務していた第2病棟2階は,病休,育児休業のための長期欠勤者が4名あり,臨時職員によって補充されていたため,日常業務の負担と責任は,Aのような経験が長く地位の高い職員に集中していた。 (イ) また,限られた人員で輪番を組むため,日勤と夜勤の割り振りや休日の割り当てを規則的に維持することが困難であり,夜勤を連続して割り当てられたり,休日が長期間取れないといった不規則勤務が常態化していた。 この点に関しては,どの病院でもさほどの違いはない。しかし,人間の身体は朝から夕刻にかけて労働に適した状態となり,夜間は睡眠に適した状態になる生理機能を有しており,深夜労働によって昼夜の逆転した生活を送ることはその生理的機能に逆行し,人の心身に多大の疲労をもたらす。夜勤労働はこのように身体に対する負荷となり,まして日勤と夜勤が混在すれば,その程度は重くなり,日勤のみの者と同程度の休暇があるから勤務が過重とならないとはいえない。 (ウ) 上記のような状態であるから,職員は,代休の確保と消化に腐心するような状況であって,有給休暇の消化はほとんどできなかった。Aは被災時点で40日の未消化有給休暇があり,疲労回 いとはいえない。 (ウ) 上記のような状態であるから,職員は,代休の確保と消化に腐心するような状況であって,有給休暇の消化はほとんどできなかった。Aは被災時点で40日の未消化有給休暇があり,疲労回復がはかれない状態であった。 (エ) C病院では,職場内で週1回程度勤務時間外で研修が実施され,またファーストレベル研修という,看護婦の全国組織である看護協力が実施する研修に参加する必要があった。 後者の研修は管理者の育成を目的とする研修であり,自主参加とはいいながら,主任,婦長になるためには研修の終了は一つのステップとなる。研修の内容は,看護婦としての一定の経験を前提に管理職を目指す者と対象とするため,程度は高く,記録提出,レポート提出はかなりの負担を伴うものであった。 正看護婦を一定の期間続けてきた者は,主任,婦長に昇進することを当然意識するものであり,Aもまさにこのような地位にあった。 Aは,責任感が強くまじめで積極的な勤務態度であったことから,受講が義務ではないとはいえ,ファーストレベル研修が事実上必須のものであった。 (オ) また,正規の勤務時間の前後には引継等によって事実上拘束されていたし,それ以外にも勤務時間内に業務が終わらずに,引き続き勤務し続けること(いわゆるサービス残業)もしばしばあった。 ウ Aの基礎疾患は,自然的経過の中で死亡に至る危険をはらんだものではなかった。既往症は前提事実のとおりであるが,死亡するまでの約16年間看護婦の仕事を続けており,平成3年から同6年の間の定期検診結果に特段異常は認められていない。 Aの投薬量と検診日の間隔は一致していないことはあったが,それは同人の死亡直前に限ったことではなく,24歳でバセドウ氏病を発症し,メルカゾールで改善したが以後の服薬は不規則であったし,昭和61年から平成6年5月 検診日の間隔は一致していないことはあったが,それは同人の死亡直前に限ったことではなく,24歳でバセドウ氏病を発症し,メルカゾールで改善したが以後の服薬は不規則であったし,昭和61年から平成6年5月まで通院した県立医大病院においてもメルカゾールの服薬は不規則であった。 更に平成6年6月から同7年8月までC病院に通院したが,この際も内服が不規則であるし,通院してもメルカゾール,プレドニンが処方されないときもあった。 しかし,Aは,このように死亡の10年以上前からの不規則な服薬状況においても,安定した状態を保っていたのであるから,服薬が不規則であったことは死亡の原因ではない。 エ以上のとおり,Aは,過重な公務により疲労が極度に蓄積し,基礎疾患である甲状腺機能亢進症が自然的経過を超えて増悪して死亡にいたったものである。 (被告の主張)ア本件災害の3か月以前において,AはC病院において通常と異なる特別の業務には就いていないし,本件災害前日及び当日の勤務状況は,9月22日午後3時40分ころ出勤し申し送りを受け,日常業務を行い,23日午後1時ころ看護婦控室で仮眠を取ったのであって,これも通常の業務に終始していた。これらの過程で上司に体調の不良を申し出たり,勤務形態又は内容の変更を申し出ることもなかった。 イまた,C病院の欠勤者は臨時職員で対処していたが,臨時職員といえども看護婦又は准看護婦の有資格者であり,それなりの経験をもっているのであって,これによってAの業務が過重になったことはない。 また,原告は,C病院において,不規則勤務が常態化していたとか,休日あるいは有給休暇がとれない状態であったというが,前提事実記載の勤務状況からすればこのような事情はなく,また有給休暇をどのように取得するかは就業者の意思にゆだねられ,当時有給休暇の取得が全く ,休日あるいは有給休暇がとれない状態であったというが,前提事実記載の勤務状況からすればこのような事情はなく,また有給休暇をどのように取得するかは就業者の意思にゆだねられ,当時有給休暇の取得が全くできなかったとの事情はない。就業規則で定められた時間の前後に若干の準備あるいは引継ぎの時間があったとしても,このために勤務が過重となるものとはいえない。看護職員数が少なかったとの事情もない。 したがって,Aが従事した業務がその職種としては特に過重なものであるとはいえず,一般的に見てそれがAの死に有力な原因となるものではない。 ウファーストレベル研修会は,任意参加の研修会である上,看護婦にとっては基礎的なもので特に難易度の高いものではないし,提出を求められるレポートも2から5枚程度のもので,普通に研修を受講していれば特に難しいものではなかった。 しかも,Aは,9月11日,12日に代休をとってこれを受講し,その直後の9月15日,17日,18日には休日をとっており病院勤務をしていない。 そうすると,このファーストレベル研修会は,格別勤務の加重をもたらすものではなかった。 エ Aの基礎疾患Aは,当時ネフローゼ症候群,甲状腺機能亢進症の疾患を有していて,定期的に医師の診断を受け薬剤を受領していたのであるが,甲状腺機能亢進症の治療においては,規則正しい薬の服用と,投薬効果判定のための血液検査及びその結果による投薬量の決定が重要である。 しかし,C病院での投薬状況からすると,Aはメルカゾールの服用が不規則であり,薬の切れている状態が多くあった。とりわけ,従前の投薬間隔が40日程度までにとどまっているのに対し,平成7年2月6日以降は,メルカゾールの投薬を受けたのは同年4月15日,7月18日,8月10日であり,その間隔は,68日間,94日間,23日間と急 投薬間隔が40日程度までにとどまっているのに対し,平成7年2月6日以降は,メルカゾールの投薬を受けたのは同年4月15日,7月18日,8月10日であり,その間隔は,68日間,94日間,23日間と急激に間隔が開いており,Aは死亡前は甲状腺機能亢進症のコントロールがされていなかった。同状況においては,頻脈性心房細動が発生しやすくなる(現に県立医大病院に通院していたときに心房細動が認められていた)。 このことからすると,Aの死亡は,自然的経過のなかで,頻脈性心房細動を起こし,心拍出量の減少による循環不全を併発して心不全へと進行し死亡したと考えられる。 第3 当裁判所の判断 1 公務起因性の判断について公務に起因することが明らかな疾病(昭和48年11月26日付基金理事長通知の記の2(3)に分類されるもの)の公務起因性の考え方に関しては,地方公務員本人の先天的素因や基礎疾患,基礎疾病等と公務とが競合原因となって発症した場合は,公務が疾病に対し相対的に有力な原因であればこれを認め,公務がその疾病の単なる条件(機会)になった場合にはこれを否定するのが相当である。 そして,前提事実記載のとおり,心・血管疾患について上記の公務が相対的に有力な原因となった場合の具体例として,理事長通知及び補償課長通知が発せられているところである。 Aの死因となった甲状腺機能亢進症に基づく致死性不整脈が,直ちに同通知等の射程にあるかについてはこれを疑問なしとはしないけれども,同通知等の趣旨にてらせば,公務員本人に基礎疾患等が認められた場合には,業務の過重性の有無を中心に判断すべきことを定めていると解することができるので,本件災害における公務起因性の判断についても一定の指針を与えるものということができる。 しかし,証拠によれば,同通知に定める公務の過重性については 判断すべきことを定めていると解することができるので,本件災害における公務起因性の判断についても一定の指針を与えるものということができる。 しかし,証拠によれば,同通知に定める公務の過重性については,平成12年10月12日に(地方公務員災害補償制度と同様の制度である労働災害補償の認定基準についてではあるが,)見直しに向けた検討に入ったこと,この見直しにおいては,①業務の過重性の評価に当たり,精神的緊張を伴う業務,不規則な勤務,拘束時間が極めて長い業務,労働密度が低くはない業務,十分な休憩が取れない作業環境下における業務等の諸要因を評価要因として取り込むこと,②慢性の疲労や過度のストレスの持続という要因も付加的に検討すべきこと,このこととの関係で災害前1週間以前の勤務態様のとらえ方も考慮すべきこと等が検討されることとなったことが認められる(なお,平成13年12月12日,労働災害について,上記の趣旨を反映した新しい認定基準(同日付基発第1063号厚生労働省労働基準局長通知)が発せられ,従前の平成7年2月1日付基発38号及び平成8年1月22日付基発第30号の各通達が廃止されたことは,公知の事実に属する。)。 そして,上記見直しの方針は,公務災害の実態に即した判断を目指す方向にあって合理的といえ,本件災害においても,上記新認定基準にあらわれる業務起因性の考え方をふまえて検討が加えられるべきものである。 2 Aの勤務状況について証拠及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると,以下の事実を認めることができる。 (1) C病院の看護婦の組織は,婦長,主任以下,看護婦を2班に分け,各班のリーダーを中心に業務を行い,Aがリーダーをつとめていた班(B班)は,内科の28床を担当していた。 重症患者は原則として別の班に割り当てられていたが,B班にも重症患者をか 看護婦を2班に分け,各班のリーダーを中心に業務を行い,Aがリーダーをつとめていた班(B班)は,内科の28床を担当していた。 重症患者は原則として別の班に割り当てられていたが,B班にも重症患者をかかえることがあったし,ナースコールの頻度等においてはほぼ同様であった。また,C病院は,新しい制度の導入や業務の改善には比較的熱心であった。 (2) 平成7年3月当時,Aの所属するB班は8名の看護婦で構成されていたが,うち1名は育児休暇を取得し,同年7月14日には12年の経験を有する看護婦1名が病気により長期欠勤することとなった。 その結果,B班は以後6名の構成(なお,各看護婦の経験は,Aの16年5月が最長であり,約5年の者が2名,経験5か月の者が1名,経験約24年及び同約15年の准看護婦2名であった。)となり,臨時職員1名が配置されたもののそれも同年9月14日までであって,本件災害当時には再び6名の状態であった。 (3) C病院においては,平成7年度の看護婦の1人当たりの残業実績は年間を通じて大体5時間であるが,看護婦の患者を相手にするという業務の性質上,その枠に収まらない業務も多々あり,それらが残業として申告されないという実態があった。 業務手順(前提事実記載)にしても,正規の就業時間は午前8時30分であるが,午前8時20分から業務開始となる手順(日勤)や,午後4時30分が正規の就業時間であるが午後4時から業務開始となる手順(夜勤)が組まれており,そもそも時間を超過するものであったばかりか,手順どおりに勤務をこなしたとしても,その予定時間内に終了しないこともしばしばであった。そしてその超過業務は,職場環境等に由来する,一種の看護婦の自己犠牲ともいうべき無報酬の奉仕によって支えられていた。 また,一般的に看護婦業務が多忙となるかどうかは,そ ないこともしばしばであった。そしてその超過業務は,職場環境等に由来する,一種の看護婦の自己犠牲ともいうべき無報酬の奉仕によって支えられていた。 また,一般的に看護婦業務が多忙となるかどうかは,その当時重症患者がどの程度の数入院しているか,あるいは急変が発生したかどうかという要素も大きかった。 (4) 同病院の出勤時間,退勤時間はタイムカードによって記録されてはいなかったけれども,Aは,帰宅時間が勤務終了より相当遅かったこともしばしばあった。また,平成7年1月1日から本件災害までのAの年次有給休暇の取得はなく,上記の事情等から取得しにくい状況にあった。 (5) ファーストレベル研修は,その概要は前提事実記載のとおりであるが,本件災害の前ころには,Aは,代休(9月11日及び12日)に橿原市に出向いて「人間に関する発達的,教育的把握」というテーマの継続教育を内容とする研修を受け,更にこれに関して「あなたの病棟の教育計画の全容を示し,学習終了時の現在,改めて点検作業をしてください」などのテーマのレポートをA4横書き400字,原稿用紙3枚まで(資料添付)との条件で提出を求められ(締め切りは9月22日),休日及び指定休の2日(9月17日と翌18日)のうち合計約6時間30分をその作成に当てた。 この研修会は,費用は自己負担であるが,婦長などの幹部職員になるためには欠かせないものであり,したがって,公務とはいえないまでも,公務に近い性質を有するものであった。 (6) Aは,バセドウ病及び甲状腺機能亢進症の基礎疾患を有していたが,C病院では,個々の職員の疾患を前提とした健康診断等は実施されていなかったし,また同病院で職員が診察等を受けるにしても,職員自らが受診するときは白衣を着用せず,一般の患者と同様の手続をして受診せねばならず,待合い等で半日や1日 を前提とした健康診断等は実施されていなかったし,また同病院で職員が診察等を受けるにしても,職員自らが受診するときは白衣を着用せず,一般の患者と同様の手続をして受診せねばならず,待合い等で半日や1日も勤務ができない状態となってしまい,結果的に受診を控えざるをえなかった。 (7) 一般的に夜勤や不規則勤務が心・血管疾患等にどのような影響を与えるかについては,有意な影響はないとする立場もあるが,看護労働やタクシー運転手等を対象とした実証的研究等を通じてこれを肯定する研究もある。 (8) Aの治療状況等Aは,県立医大病院においては,初診が昭和61年10月であるが,平成4年6月ころからバセドウ病及び糸球体腎炎にて1か月1回ないし2回受診し(受診しない月もあった。),平成5年8月ころからは不整脈も出ていた。 一方,C病院においては,初診時に甲状腺腫大,発汗著明の甲状腺ホルモン異常症状を認めたが,不整脈やネフローゼによる浮腫は認められず,以後の経過中も同様であった。その後,平成6年6月2日から翌7年8月10日まで14か月間,月1回から2回程度通院し,おおむねその都度14日分のプレドニン及びメルカゾールの投与を受けていたが,それらの薬が処方されないときもあった(じんましんや上気道炎で受診したこともあったが,同じ内科であって,カルテも同一であったから,医師にとって投薬の機会はあったと考えられる。)。 そして,右基礎疾患の他には,Aには不整脈に寄与する可能性のある飲酒喫煙等の生活習慣はなかった。 3 右認定に基づいて,AのC病院における勤務態様と公務起因性について検討する。 (1) 一般に,看護婦は,常に患者の動静に注意し,精神的な負担の大きいという性質があり,夜勤と日勤が頻繁に変わり一定の生体のリズムを維持するのが難しいという職業上の特質がある。加え て検討する。 (1) 一般に,看護婦は,常に患者の動静に注意し,精神的な負担の大きいという性質があり,夜勤と日勤が頻繁に変わり一定の生体のリズムを維持するのが難しいという職業上の特質がある。加えて,Aの地位と職責は,チームリーダーとして部下をまとめてゆく重要な立場にあって,かつ正規職員が休暇等にあるなかで,臨時職員では賄いきれない負担部分を引き受けていた。ことに,本件災害直前の9月14日以降,その臨時職員の配置もなくなったことで,Aにかかる負担は相当大きなものとなったと推察される。 また,本件においては,特にファーストレベル研修会のために代休日に橿原市に出向いて講義を受けたり,レポート作成のために休日の一定時間を費やすなどしていたものであり,その結果9月初めから本件災害(同月23日)までの間,実質的に完全な休暇は2日しかなかった。 そうすると,Aは,本件災害前には,相当の疲労が蓄積され,過重な状態となっていたとみるのが相当である。 (2) そして,Aの病態(ネフローゼ及び甲状腺機能亢進症)に関していえば,その病状は必ずしも良好に推移していたとはいえないまでも,月1回程度は定期的に医師の診察を受け,比較的安定した状態を保っていたと認められるのであって,上記公務の過重性を除外した場合に,Aの基礎疾患のみによって致死性不整脈が発生した蓋然性は低いと考えられる。 したがって,本件災害は,公務の過重な状態が継続し疲労が蓄積し致死性不整脈が誘発された可能性が高く,基礎疾患とともに,上記過重な公務が相対的に有力な原因となったものとして,公務起因性があるというべきである。 (1) 被告は,前記の公務の過重性を基礎づける事情につき反論する。確かに,前記認定にかかる過重な労働の原因は,単独でこれをみたときには,直ちに公務の過重性を基礎づけると あるというべきである。 (1) 被告は,前記の公務の過重性を基礎づける事情につき反論する。確かに,前記認定にかかる過重な労働の原因は,単独でこれをみたときには,直ちに公務の過重性を基礎づけるとまではいえないものもあるけれども,これらの要因が複数競合し,しかも一定の期間継続するような場合には,十分に公務の過重性を基礎づけるものというべきである。 (2) 被告の,Aの不規則な服薬によって甲状腺機能亢進症が増悪したとの主張についてみると,証拠及び弁論の全趣旨によれば,確かにAの服薬は不規則であり,その結果血液検査等からする適切な服用量等の算出も困難であったことが認められる。 しかし他方,前記認定によれば,原告主張のとおり,Aの服薬が不規則であったことは必ずしも本件災害の直前に限ったことではないし,本件災害以前にAの症状が悪化した事情の認められないことも,前記認定のとおりである。 そうすると,服薬の不規則が本件災害の一因となったとの推認はできたとしても,だからといって,前記認定のAの過重な勤務実態をさしおいて,これが主たる原因であると推認するに足る証拠もないというべきである。 さらに,投薬が不規則であったことも,前記のようなC病院における職員の医師への受診の状況は必ずしも職員にとって受診しやすいものではなかったことにてらすと,これを専らAのみの責に帰すこともできない。 したがって,被告の主張はいずれも採用しない。 5 結論以上によれば,本件災害は,公務上のものと認定されるべきところ,これと異なる被告の公務外災害認定処分は取り消されるべきものである。原告の請求には理由がある。 奈良地方裁判所第2民事部裁判長裁判官永井ユタカ裁判官島  川 ある。原告の請求には理由がある。 主文 奈良地方裁判所第2民事部裁判長裁判官永井ユタカ 裁判官島川勝 裁判官松阿弥隆

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