平成24(ワ)4983 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成27年2月13日 大阪地方裁判所
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判決文本文43,015 文字)

- 1 - 主文 1 被告法人,被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eは,原告に対し,連帯して1904万0998円及びこれに対する平成21年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の上記被告らに対するその余の請求及び被告Fに対する請求を,いずれも棄却する。 3 訴訟費用については,原告と被告法人,被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eとの間で生じたものは,これを4分し,その1を同被告らの負担とし,その余を原告の負担とし,原告と被告Fとの間で生じたものは,原告の負担とする。 4 この判決の主文第1項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨被告らは,原告に対し,連帯して7363万0352円及びこれに対する平成21年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,障害福祉サービス事業を営む被告法人との間で,生活介護,就労継続支援,就労移行支援の利用契約を締結し,被告法人が設置,運営する施設に入所していたXが,被告法人理事長である被告Aの容認のもと,被告法人の職員である被告B,被告C,被告D,被告F及び被告E(被告E,被告B,被告C,被告D及び被告Fを併せて「被告行為者ら」という。)に身体を押さえつけられたことにより死亡したとして,Xの相続人である原告が,被告行為者ら及び被告Aに対し,共同不法行為に基づき,損害金7363万0352円及びこれに対するXが死亡した日である平成21年11月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告法人に- 2 -対し,不法行為(民法709条又は715条)又は債務不履行に基づき,上記 ある平成21年11月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告法人に- 2 -対し,不法行為(民法709条又は715条)又は債務不履行に基づき,上記同額の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者等ア原告等Xは,昭和62年10月24日生まれの男性であり,平成21年11月9日当時,22歳であった。Xは,幼少期より自閉症等に起因する知的障害を有していた。 原告は,Xの母親である。 イ被告ら(ア) 被告法人は,障害福祉サービス事業の経営等の社会福祉事業を行うことを目的とする社会福祉法人であり,自立ホーム「O」(以下「自立ホームO」という。)を含む24箇所の自立ホームにおいてグループホーム(共同生活介護,共同生活援護)事業を運営し,利用者が日中活動を行う生活介護事業所である「P」(以下「P作業所」という。)を含む4箇所の授産施設において,生活介護,短期入所,就労継続支援事業を運営し,その他,居宅介護,行動援護,移動支援,相談支援等の各事業を運営している。 (イ) 被告Aは,被告法人が設立された平成5年から被告法人の理事の地位にあり,平成17年からは被告法人の理事長の地位にある者である。 (ウ) 被告B,被告C,被告D,被告F及び被告Eは,平成21年11月当時,被告法人との雇用契約に基づき,被告法人において勤務しており,被告Bは被告法人におけるグループホーム事業を統括する管理責任者であり,被告Cは自立ホームOを含む4箇所の自立ホームのサービス管理責任者としてリーダーの地位にあった者であり,被告DはP作業所の生活支援員であり,被告F及び被告Eはそれぞれ被 を統括する管理責任者であり,被告Cは自立ホームOを含む4箇所の自立ホームのサービス管理責任者としてリーダーの地位にあった者であり,被告DはP作業所の生活支援員であり,被告F及び被告Eはそれぞれ被告法人が設置運営する- 3 -別の自立ホームの世話人を担当していた者である。 (2) 障害福祉サービス契約の締結原告は,Xの代理人として,被告法人との間で,平成20年4月30日,Xを利用者とした生活介護・就労継続支援(B型)・就労移行支援利用契約(以下「本件利用契約」という。)を締結した。Xは,同日より,被告法人が設置運営する自立ホームに入所して同所で生活するとともに,平日日中は,軽作業などを行うためP作業所に通っていた。 原告は,Xの代理人として,被告法人との間で,平成21年4月1日,サービス内容を一部変更した上,上記利用契約を再度締結した。 (3) Xの死亡に至る経緯被告行為者らは,平成21年11月8日午後0時35分頃から,XをP作業所の軽作業室に敷かれた布団の上にうつ伏せに倒した上,被告BがXの頭部を押さえ,被告CがXの左腕に跨り,両手でXの左腕を押さえ,被告Dが自己の背中をXの背中に付けた状態でXの右腕を自己の左脇下に抱え込みながら押さえ,被告Eが自己の両脚をXの左脚に絡めながら両手でXの左脚大腿部を押さえ,被告FがXの右脚に座ってこれを両手で押さえつけた。 さらに,同日午後0時45分頃から,休憩に入った被告Fに代わって被告BがXの右脚に座り,Xの臀部等を両手で押さえ,被告C,同D及び同Eが引き続きXを押さえつけた(以下,被告行為者らによる一連の押さえつけ行為を「本件押さえつけ行為」という。)。 Xは,本件押さえつけ行為の途中に,嘔吐し,心肺停止の状態に陥り,同日午後1時25分, きXを押さえつけた(以下,被告行為者らによる一連の押さえつけ行為を「本件押さえつけ行為」という。)。 Xは,本件押さえつけ行為の途中に,嘔吐し,心肺停止の状態に陥り,同日午後1時25分,Q病院に救急搬送された。 (4) Xの死亡Xは,平成21年11月9日午前5時,Q病院において死亡した。 Xの死因は,胃内容物が口腔内に逆流し,その吐物を吸引し窒息したことによる蘇生後びまん性肺胞障害及び肺炎であった。 - 4 - 3 争点(1) 本件押さえつけ行為の具体的態様(争点(1))(2) Xの死亡の原因及び本件押さえつけ行為との間の因果関係の有無(争点(2))(3) 本件押さえつけ行為の違法性(違法性阻却事由の有無)(争点(3))(4) 被告行為者らの故意又は過失の有無(争点(4))(5) 被告Aの故意又は過失の有無(争点(5))(6) 被告法人の責任原因(争点(6))(7) 損害(争点(7)) 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1) 本件押さえつけ行為の具体的態様(原告の主張)被告行為者らは,XをP作業所の軽作業室に敷かれた布団の上にうつ伏せに倒した上,いずれもXの表情等を注視しないまま,被告BがXの頭部を上から押さえつけ,被告CがXの左肩付近に座りこんで圧力をかけながらXの左手を背側に反らし,体重98キログラムもある被告DがXの右腕を自己の左脇下に抱え込みながら自己の背中をXの背中に乗せて体重をかけ,被告Eが自己の両脚をXの左脚に絡めながら,両手でXの左脚大腿部を押さえつけ,被告FがXの右脚に座ってこれを両手で押さえつけた。その後,被告Bが,休憩に入った被告Fに代わってXの右脚上に座り,Xの臀部等を両手で押さえつけ,被 に絡めながら,両手でXの左脚大腿部を押さえつけ,被告FがXの右脚に座ってこれを両手で押さえつけた。その後,被告Bが,休憩に入った被告Fに代わってXの右脚上に座り,Xの臀部等を両手で押さえつけ,被告C,同D及び同Eが上記と同様の姿勢で引き続きXを押さえつけ,共同してXの身体を背面から布団に押さえつけて,Xの胸腹部を圧迫した。 (被告らの主張)ア被告行為者らの押さえつけの態様は,以下のとおりであり,被告行為者らは,Xを押さえつけるにあたって,Xの身体に全体重を乗せていたわけ- 5 -ではなく,Xの胸腹部を圧迫もしておらず,Xが抵抗する力に応じて加える力を加減していたのであって,原告が主張するような態様での押さえつけはしていない。 イ(ア) 被告B被告Bは,Xを運ぶ際に,Xが職員を噛んでしまわないようにXの頭を押さえた。そして,Xを軽作業室へ移動し,布団の上にうつ伏せに寝させた段階で押さえる必要がなくなったため,手を離した。 その後,被告Bは被告Fと交代し,Xの右脚に跨り,両手でXの右脚を押さえた。 被告Bは,Xの動きに応じて力を入れたり緩めたりしていた。 (イ) 被告C被告Cは,Xに対して外を向く形で,Xの左腕に跨り,左腕を押さえた。被告Cの尻はXの左肩甲骨に乗るような形であったが,常時体重を乗せていたわけではなく,Xが暴れたりしたときに座ることがあった程度である。 (ウ) 被告D被告Dは,Xの右腕を自身の左脇に挟む形で押さえた。力の入れ具合は,Xが力を入れたときだけ力を入れるという具合であった。被告Dの背中はXに当たってはいたが,背中でXを押さえることはしていない。 (エ) 被告E被告Eは えた。力の入れ具合は,Xが力を入れたときだけ力を入れるという具合であった。被告Dの背中はXに当たってはいたが,背中でXを押さえることはしていない。 (エ) 被告E被告Eは,Xの左脚を跨ぐようにして押さえ,Xが力を入れた場合には力を入れ,Xが力を抜いたときは力を緩めていた。 (オ) 被告F被告Fは,Xに背中を向けて,Xの右脚に跨り,右脚を押さえた。Xの動く力が強いときには,自身の体重がXの太ももにかかったが,そうでないときには,体重をかけていない。 - 6 -なお,被告Fは,被告Bの指示により途中で交代した。 (2) 争点(2) Xの死亡の原因及び本件押さえつけ行為との間の因果関係の有無(原告の主張)ア Xは,本件押さえつけ行為によって,腹腔全体の内圧が高まり,胃全体の内圧が高まって胃内容物が逆流し,その吐物を吸引して窒息したことが原因で死亡した。 うつ伏せの状態は,人体の重要な臓器が密集する胸腹部を圧迫して負荷のかかりやすい体勢であり,被告行為者らは,そのような体勢におかれたXの胸腹部を押さえつけ,Xが脱出できないように力を入れていたのであるから,本件押さえつけ行為によって,Xの胸腹部が背後から強く圧迫された状態にあったことは客観的に明らかである。 また,Xには,疾患はなく健康であったにもかかわらず,本件押さえつけ行為の最中に,心肺が停止し,意識不明の状態に陥り,その後,死亡したのであるから,Xが死亡した原因は,本件押さえつけ行為以外には考えられない。 イ上記のとおり,本件押さえつけ行為とXの死亡結果との間の事実的因果関係は明白であり,胸腹部への強い圧迫により異物が気道に詰まるなどして気道が閉塞されて窒息し,死亡に至 は考えられない。 イ上記のとおり,本件押さえつけ行為とXの死亡結果との間の事実的因果関係は明白であり,胸腹部への強い圧迫により異物が気道に詰まるなどして気道が閉塞されて窒息し,死亡に至ることは,一般に生じうると認められるから,Xの死亡と本件押さえつけ行為との間には相当因果関係が認められる。 (被告らの主張)ア Xの嘔吐は,本件押さえつけ行為が原因ではない。 嘔吐は,嘔吐中枢が刺激されることによって噴門括約筋の弛緩と腹圧の上昇が起きて胃内容物が排出される仕組みになっているが,噴門括約筋は平滑筋であり,自分の意思で動かすことはできず,無意識による生体防御- 7 -反応により収縮弛緩するため,内臓が腫れるような圧力がかかれば別であろうが,胸腹部にある程度の圧力がかかっても簡単には嘔吐しない。 前述のとおり,被告行為者らは,Xに対して過度に体重をかけるようなことはしておらず,胸腹部の圧迫により嘔吐が起きたとは到底考えられない。 イ一方,Xの死亡時,胃の中には,Xが朝食をとってから約6時間経過しているのにもかかわらず,固形物が残存しており,消化の程度が軽度であったことが窺われることからすれば,Xの身体に何らかの変調が生じていた可能性が否定できない。 そうすると,胃内容物が逆流したのは,本件押さえつけ行為によるものではなく,Xに何らかの変調が存在し,そのことに心因性の要素が重なって嘔吐中枢が刺激されたことが原因であると推認できる。 (3) 争点(3) 本件押さえつけ行為の違法性(違法性阻却事由の有無)(被告らの主張)ア被告法人は,障害を持つ人が,地域において人間らしい生活を営むことができることを支援の目標としており,Xに対しても,同人が生き生きと地域生活を営 違法性阻却事由の有無)(被告らの主張)ア被告法人は,障害を持つ人が,地域において人間らしい生活を営むことができることを支援の目標としており,Xに対しても,同人が生き生きと地域生活を営むことができるように,専門家の助言を仰ぎつつ,試行錯誤を重ねながら支援の方針を決定してきた。 Xについては,地域社会で生活していくためには,パニックを起こさずに日常生活のルールを守って生活することが必要であることを理解してもらう必要があり,そのために,「パニックを起こさない」,「人を噛まない」などといった約束を職員と交わし,これに違反した場合には自立ホームOに住めないのでP作業所へ行くというルールを設定し,これを実践することで,Xの地域移行がスムーズに進むように粘り強い支援を継続してきた。また,パニックを起こした時にP作業所に行くことは,Xを落ち着かせ,興奮を静めるための「タイムアウト」の趣旨も含まれていた。 - 8 -イ本件押さえつけ行為も,以下のとおり,Xが地域生活を営むことを可能にし,同人の生命身体を保護するという正当な目的のために行われた支援の一環であり,違法性はない。 (ア) 被告行為者らは,平成21年11月8日午前9時頃,Xが,自立ホームOにおいて被告Cを噛もうとしたことから,Xが不穏な状態にあり,パニックを起こす可能性があると判断し,Xを落ち着かせるためにP作業所へ連れて行くことに決め,P作業所に到着後,興奮状態にあったXを軽作業室において押さえつけた。被告行為者らは,Xの暴力が止んだことから,押さえつけを止めた。 (イ) Xは,見たいテレビ番組があるから午後1時には自立ホームOに帰りたいと訴えたが,被告Cは,Xがまだ不穏な状態であったために,午後4時まで帰れないと拒んだ。Xは,自立ホームOに帰 。 (イ) Xは,見たいテレビ番組があるから午後1時には自立ホームOに帰りたいと訴えたが,被告Cは,Xがまだ不穏な状態であったために,午後4時まで帰れないと拒んだ。Xは,自立ホームOに帰ることにこだわり始め,被告Cとの間で押し問答になったため,被告Cは,被告Bに話をしてもらおうと考え,軽作業室を出て,P作業所の2階に待機していた被告Bを呼びに向かったところ,Xが被告Cを追いかけて廊下に飛び出した。Xは,一気に興奮状態に陥り,被告行為者らに暴力を振るったり,P作業所の外へ飛び出す危険が生じたため,被告行為者らは,Xを止め,Xを軽作業室に連れ戻し,布団の上に寝かせて押さえつけた。 (ウ) 本件押さえつけ行為の具体的態様は前記(1)被告らの主張のとおりであり,適切な態様であった。 (エ) 以上のとおり,被告行為者らは,Xの自傷他害を防止するため,制止する必要があったのであり,押さえつけの態様も必要最小限に留まっていることからすれば,本件押さえつけ行為に違法性はない。 ウ原告は,「身体拘束ゼロへの手引き」における要件が本件にも適用される旨主張するが,同手引きは,高齢者介護のマニュアルであり,高齢者と障害者は,相対的にみて,身体的能力,精神的能力,特性において違いが- 9 -あり,両者を同列に論ずることはできない。 また,同手引きや障害者に対するガイドラインは,施設等で身体拘束等が例外的に許容される基準を標準化して示すための機能しか有していないものであり,本件押さえつけ行為の違法性を決定する唯一の基準ではない。 (原告の主張)ア本件押さえつけ行為の背景等被告法人においては,Xの障害特性を無視した不合理な約束事や施設側の都合による一方的な約束事を設定し,Xがこれを守ることができなけ はない。 (原告の主張)ア本件押さえつけ行為の背景等被告法人においては,Xの障害特性を無視した不合理な約束事や施設側の都合による一方的な約束事を設定し,Xがこれを守ることができなければ,罰則ないしペナルティとしてP作業所へ行くよう強要し,無理やり車に乗せてP作業所へ連行し,いやがるXを長いときで2時間もの間押さえつけるという行為が常態化していたのであり,そのような押さえつけは,本件押さえつけ行為までに少なくとも10回以上に及んでいた。本件押さえつけ行為も,このような被告法人において繰り返されていた危険な押さえつけ行為の一環として行われたもので,単なる偶発的な事故ではないから,その違法性を判断するに当たっても,このような一連の経緯を全体として捉えるべきである。 イ身体拘束が許容される基準本件押さえつけ行為は,身体拘束に該当するところ,身体拘束は,原則として禁止される行為であり,例外的に「緊急やむを得ない場合」に限って,必要かつ正当な業務行為として許容される(障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員,設備及び運営に関する基準73条1項,93条,154条,184条,213条)。 そして,厚生労働省は,「緊急やむを得ない場合」に該当するか否かの判断基準として,同省作成の「身体拘束ゼロへの手引き」において,①切迫性(利用者本人又は他の利用者の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと),②非代替性(身体拘束その他の行動制限を行う以- 10 -外に代替する介護方法がないこと),③一時性(身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること)の3つの要件(以下「3要件」という。)を全て満たす状態にあることが必要であると指導しており,これは障害者施設についても同様に いこと),③一時性(身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること)の3つの要件(以下「3要件」という。)を全て満たす状態にあることが必要であると指導しており,これは障害者施設についても同様に適用されるものである。 ウ本件押さえつけ行為は3要件が欠如していること以下のとおり,本件押さえつけ行為は,3要件を満たしていないため,「緊急やむを得ない場合」として許容される余地はない。 (ア) 切迫性の欠如Xが,被告Cを追いかけて軽作業室からP作業所の廊下に出た時点では,XとP作業所の玄関との間には被告B及び被告Cがいたことから,Xが玄関扉からP作業所の外へ飛び出すというおそれは現実化しておらず,他害行為に及ぶおそれも現実化していなかった。 したがって,被告行為者らの押さえつけは,いずれも利用者本人や他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされている具体的状況が認められない中で行われたものであり,「切迫性」の要件を満たさない。 (イ) 非代替性の欠如被告行為者らによる身体拘束が開始した時点で,Xはパニックには陥っておらず,自傷他害の行為にも及んでいなかった。 そのようなXを落ち着かせるには,不安の原因を取り除き,予測可能で理解しやすい状況に置き,落ち着いた空間で安心して過ごせるように支援することが重要であり,本件押さえつけ行為より,制約の少ない支援方法は複数取り得たはずである。また,Xが不安定な状態に陥ったのは,被告行為者らが,Xに対するお仕置きのため,無理やり同人をP作業所に連行したからであり,そのような方法を採らずとも,Xを落ち着かせる支援の方法はいくらでもあった。 しかし,被告行為者らは,そのような代替手段を検討もせず,Xに対- やり同人をP作業所に連行したからであり,そのような方法を採らずとも,Xを落ち着かせる支援の方法はいくらでもあった。 しかし,被告行為者らは,そのような代替手段を検討もせず,Xに対- 11 -する押さえつけ行為を繰り返していたのであり,「非代替性」の要件を満たさない。 (ウ) 一時性の欠如被告行為者らは,本件の前日から断続的にXに対する押さえつけを行っており,本件当時も午前中に約1時間もの長時間にわたって押さえつけを行っていた上,本件押さえつけ行為に関しても,Xがおとなしくなるまで続けることが予定されていたものであるから,明らかに一時性の要件が欠如している。 (エ) 手続的要件の欠如身体拘束が「緊急やむを得ない場合」として許容されるためには,上記3要件を満たすだけではなく,手続的要件として,その態様及び時間,その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項の記録が義務づけられている(障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員,設備及び運営に関する基準73条2項,93条,154条,184条,213条)。 また,「緊急やむを得ない場合」に該当するか否かの判断は,担当スタッフ個人で行わず,福祉サービス事業所全体としての判断が行われるように,あらかじめ「身体拘束規定」等によって,ルールや手続きを決めておくべきであり,利用者本人や家族に対して,身体拘束の内容,目的,拘束の時間,時間帯,期間等を出来る限り詳細に説明し,十分な理解を得られるように努めなければならないとされている。 しかし,被告法人では,被告行為者らを含む被告法人職員らによって,本件の前日及び当日以外にも,Xが入所していた約1年7ヶ月の間に合計10回以上に うに努めなければならないとされている。 しかし,被告法人では,被告行為者らを含む被告法人職員らによって,本件の前日及び当日以外にも,Xが入所していた約1年7ヶ月の間に合計10回以上にわたり,Xに対する押さえつけ行為がなされていたにもかかわらず,本件当日の状況を含め,押さえつけの態様,時間,利用者の心身の状況,緊急やむを得なかった理由についての記録が一切作成さ- 12 -れていない。 また,被告法人は,Xに対する押さえつけ行為が繰り返しなされていたことを,その母親である原告に一度も報告をしなかった。 以上のとおり,本件押さえつけ行為は,「緊急やむを得ない場合」として許されるための手続的要件すら満たしていなかった。 (オ) まとめ以上より,本件押さえつけ行為は,身体拘束が例外的に許容される「緊急やむを得ない場合」に該当しない。 (4) 争点(4) 被告行為者らの故意又は過失の有無(原告の主張)ア故意本件押さえつけ行為は,客観的に見てXの生命身体を侵害する危険の高い違法行為であることは明白である上,被告行為者らは,自ら手を下してこのような行為を行っているのであり,同押さえつけ行為が職務上許されない違法行為であることを認識,認容していたはずである。 そうすると,本件押さえつけ行為は故意による加害行為に該当することは明らかである。 イ過失(ア) 一般人,通常人を基準にした場合,人をうつ伏せの状態において,その上から4〜5人で本件のような押さえつけ行為に及べば,重要な臓器が集中する胸腹部が圧迫されることにより,窒息や嘔吐等により死に至る危険があることは当然に予見可能である。 したがって,本件押さえ 〜5人で本件のような押さえつけ行為に及べば,重要な臓器が集中する胸腹部が圧迫されることにより,窒息や嘔吐等により死に至る危険があることは当然に予見可能である。 したがって,本件押さえつけ行為によりXが死に至る結果が予見可能であったことは明らかである。 (イ) 被告行為者らが,安全な押さえ方の知識・経験を有する者をもって制止行為にあたらせ,かつ,Xの表情や顔色等を注視し,身体上の異変- 13 -に留意する役割を担った者を配置するなどしていれば,Xの死の結果は回避できたにもかかわらず,被告行為者らは,本件押さえつけ行為以外の代替手段を検討せず,押さえつけの方法についても,何ら安全性に配慮せず,誰1人としてXの表情や顔色等を確認したり,行き過ぎた押さえつけがなされないように全体を見ることもなく,各自が自己流の方法で漫然と力を加え続けて押さえつけを継続していた。 (ウ) したがって,被告行為者らには,Xに対する本件押さえつけ行為に及んだことについて,少なくとも利用者であるXへの違法な身体拘束を防止し,Xの生命身体の安全を確保し,Xの死亡という結果を回避すべき注意義務に違反した重大な過失が認められる。 (被告らの主張)ア故意本件押さえつけ行為は,Xに対する支援の過程での必要最小限の有形力の行使であるから,暴行などの故意は観念し得ない。 イ過失(ア) 被告行為者らは,Xが死亡する結果を予見できなかった。 被告行為者らは,Xを押さえつけるに当たって,前述のとおり,全体重を乗せておらず,Xが抵抗する力に応じて加える力を加減していた。 また,Xは,被告行為者らが異変に気がつく直前まで,声を出し身体に力が入っていたのであって,被告行為者らにとって,Xの生命身 り,全体重を乗せておらず,Xが抵抗する力に応じて加える力を加減していた。 また,Xは,被告行為者らが異変に気がつく直前まで,声を出し身体に力が入っていたのであって,被告行為者らにとって,Xの生命身体に関する異常が感じられることはなかった。 このような具体的状況を踏まえると,被告行為者らにおいて,Xが嘔吐や窒息などにより死に至ることは予見できなかったというべきである。 仮に,原告が主張するような態様での押さえつけ行為が存在した場合であっても,前述のとおり,Xの死に至る因果関係は不明であり,Xに- 14 -何らかの変調があり心因的な要素も加わって嘔吐に至ったとの可能性が相当程度存在することに照らせば,そのような機序で嘔吐が起こることについて一般人は予見不可能である。 また,Xの死亡原因が,原告の主張するような胸腹部圧迫によって嘔吐し窒息したためであるとしても,通常人は,健康な状態の人に対して,複数の人が覆いかぶさるように乗った場合に,圧力のみによって嘔吐や窒息が生じ,死に至ることを予見できない。 (イ) Xは,嘔吐直後に吐物を吸引した可能性が高く,医療従事者でもない被告行為者らが,Xの嘔吐に気がついたとしても,Xが吐物を吸引することを防止することができたとはいえない。 したがって,被告行為者らがXの表情や顔色等を注視して身体上の異変に留意する役割を担った者を配置するなどしていたとしても,Xの死亡という結果を回避することはできなかったか,少なくとも回避は容易ではなかった。 (5) 争点(5) 被告Aの故意又は過失の有無(原告の主張)被告Aは,以下のとおり,故意又は過失により,被告行為者らと共同してXに対する押さえつけ行為に及んだ。 ア故意 5) 争点(5) 被告Aの故意又は過失の有無(原告の主張)被告Aは,以下のとおり,故意又は過失により,被告行為者らと共同してXに対する押さえつけ行為に及んだ。 ア故意被告Aは,本件当時,被告法人の理事長として,被告法人の運営する障害者施設を統括する立場にあったが,危険防止に関する勉強をしておらず,医学的な知識もないにも関わらず,被告行為者らを含む被告法人職員に対し,Xに対する押さえつけにあたり,具体的な制止の時間,押さえつけ部位,危険防止等に関して何ら指示を与えることもなく,単に職員5名程度で畳やソファーに押さえつけるように決め,これを被告法人の方針として承認していた。 - 15 -さらに,被告Aは,職員等から,XをP作業所へ連行したことや押さえつけて制止したことについて毎回報告を受け,これを容認していたのであり,その延長として行われた本件押さえつけ行為も容認していたといえる。 そうすると,被告Aは,本件押さえつけ行為そのものには加担していないとはいえ,被告法人職員らに対し,Xに約束違反があれば強制的にP作業所へ連行し,Xが落ち着かなければ本件押さえつけ行為と同様の押さえつけを行うように指示し,被告法人の方針として承認してきたのであるから,被告行為者らと意思を通じ,被告行為者らを介して,Xの生命身体への危険性を認識・認容して,本件押さえつけ行為に加担したといえ,被告Aにも,故意が認められる。 イ過失(ア) 被告Aは,Xに対する押さえつけが,本件押さえつけ行為のような態様で行われていたことを認識していた旨述べており,被告Aが,被告法人が運営する障害者施設を統括する理事長として,利用者であるXへの介護サービスの提供にあたり,Xの生命・身体・財産の安全 為のような態様で行われていたことを認識していた旨述べており,被告Aが,被告法人が運営する障害者施設を統括する理事長として,利用者であるXへの介護サービスの提供にあたり,Xの生命・身体・財産の安全に配慮すべき職務上の義務を負うとともに,各施設で業務に従事する職員等にもかかる義務の遵守を指導徹底すべき立場にあったことを踏まえれば,被告行為者らがこのような危険な押さえつけ行為を行うにあたり,Xが死亡に至る危険があったことを予見しえたといえる。 (イ) 被告Aは,前述のとおり,被告法人の理事長であり,大阪府身体拘束ゼロ推進標準マニュアルに従って,被告法人の運営する施設内で違法な身体拘束が行われないよう指導・監督すべき立場にあったのであるから,大阪府や東大阪市から指導事項がFAXで送られた際には,その内容を職員らに周知徹底し,違法な身体拘束によって利用者の生命身体に危害が加えられることのないように,利用者の安全を確保するための対応を職員らに指導しうる状況にあり,かつ,そのような指導を行うべき- 16 -立場にあった。 そして,被告Aは,Xの支援にあたる被告法人職員らが,Xの行動を制止すべき場合があると考えたのであれば,身体拘束の要件を周知し,その要件を満たさない場合には,身体拘束を行ってはならない旨の指導を徹底し,仮に身体拘束を行う場合でも,Xの生命身体に及ぼす危害を最小限にとどめるような安全な制止方法を職員らに指導し,かつ,身体拘束を行う場合には,Xの異変に留意する役割を担った者を配置するなどして,安全を確保するための措置を講じ,所定の手続を行うように指導徹底するなどして,被告法人の運営する施設内において,違法な身体拘束を行うことを防止し,Xの死亡という結果を回避すべき注意義務を負っていた。 そ 措置を講じ,所定の手続を行うように指導徹底するなどして,被告法人の運営する施設内において,違法な身体拘束を行うことを防止し,Xの死亡という結果を回避すべき注意義務を負っていた。 そうであるにも関わらず,被告Aは,自身も身体拘束についての正確な知識を持たず,職員等にも指導せず,職員らを身体拘束の研修に参加させたこともなく,マニュアルも作成せず,所定の手続について何ら指導していなかったため,被告行為者らは,Xに対する身体拘束が「緊急やむを得ない場合」に該当するか否かの検討を行うことなく,自己流の方法でXに対する押さえつけを継続し,その結果本件押さえつけ行為に及んでXを死亡させた。 したがって,被告Aには,被告法人の理事長として,被告行為者らによるXへの違法な身体拘束を防止し,その生命,身体の安全を確保すべき注意義務に違反した重大な過失がある。 (被告らの主張)ア被告Aは,被告法人職員らに対して,制止行為は必要最小限でなければならないことについて理解させた上で,個々の利用者の特性をも考慮して最善の支援方法について議論し,その結果に基づいて職員らを指導教育し,可能な限り制止行為を行わないように指導するとともに,利用者等の生命- 17 -身体の安全が脅かされる場合に限って制止行為を行うべきことを教示していた。 そうすると,被告Aは,Xに対する適切な支援体制と方法の構築を主導し,制止行為についても,従前から職員らに対し,安全を確保する指導を十分に行っていたものであり,本件押さえつけ行為について,殺人や傷害の故意はもちろん,注意義務違反も存在しない。 イまた,一般人にとって,身体を圧迫することによって嘔吐し,吐物が気管に詰まり窒息して死に至ることを予見することは不可能である。 て,殺人や傷害の故意はもちろん,注意義務違反も存在しない。 イまた,一般人にとって,身体を圧迫することによって嘔吐し,吐物が気管に詰まり窒息して死に至ることを予見することは不可能である。 ウしたがって,被告Aには注意義務違反は存在しない。 (6) 争点(6) 被告法人の責任原因の有無(原告の主張)ア不法行為責任(ア) 被告法人自体の注意義務違反被告法人は,大阪府や東大阪市からFAX等で送られてくる身体拘束の判断基準や他施設での拘束事案の発生状況等といった指導事項について法人内に周知徹底し,運営する全ての施設において,違法な身体拘束により利用者の生命身体に危害が加えられることのないよう,利用者の安全を確保する体制を構築する義務を負っていた。 しかし,被告法人では,違法な身体拘束について正確な知識を有していない被告Aを理事に置き,職員等にXへの押さえつけを指示していた被告Bを管理者兼サービス管理責任者とし,押さえつけ行為に加担していた被告Cをサービス管理責任者に置くなど,その人事体制自体が施設内での違法な身体拘束を自招するものとなっていた。 したがって,被告法人は,利用者に対する違法な身体拘束を防止し,利用者の生命身体の安全を確保する体制を構築する注意義務を負っていたにもかかわらず,かかる義務に違反し,このような体制を整備しなか- 18 -った過失により,被告行為者らの本件押さえつけ行為によってXを死亡させるに至ったものであり,被告法人自体も独立して不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 (イ) 使用者責任被告行為者らは,被告法人に雇用される被用者であり,被告法人の利用者であるXへの生活介護サービスの提供という職務の執 不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 (イ) 使用者責任被告行為者らは,被告法人に雇用される被用者であり,被告法人の利用者であるXへの生活介護サービスの提供という職務の執行について,Xを死亡させるという損害を与えたものであるから,被告法人は,被告行為者らの不法行為について,使用者責任としての損害賠償義務を負う。 (ウ) 代表者の行為についての損害賠償責任被告Aは,社会福祉法人である被告法人の理事として,同法人の代表者としての地位にあり,かつ被告Aは自らの不法行為によってXを死亡させるという損害を与えたものであるから,被告法人は代表者である被告Aの不法行為についても,社会福祉法人法29条,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき損害賠償責任を負う。 イ債務不履行責任被告法人は,平成20年4月1日付けで,原告を代理人とするXとの間で,利用者であるXが事業者である被告法人の提供する障害福祉サービスを受け,それに対する利用料金を支払うことを内容とする本件利用契約を締結しており,本件押さえつけ行為当時も,Xに対して,本件利用契約に基づいて,Xに対する障害福祉サービスを提供する契約上の義務を負っていた。 被告法人は,Xに対し,本件利用契約に基づき,安全配慮義務及び身体拘束禁止の義務を負っていたものである。 そうであるにも関わらず,被告法人は,Xに対するサービスの提供に当たり,職員である被告行為者らの本件押さえつけ行為により,Xを死亡させたのであるから,その責めに帰すべき事由により,安全配慮義務及び身- 19 -体拘束禁止義務の各契約上の義務に違反した。 よって,被告法人は,Xを相続した原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償 から,その責めに帰すべき事由により,安全配慮義務及び身- 19 -体拘束禁止義務の各契約上の義務に違反した。 よって,被告法人は,Xを相続した原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。 (被告らの主張)ア不法行為責任(ア) 被告法人固有の不法行為について被告B及び被告Cは,障害者福祉施設での勤務に十分な実績があり,被告Aも,被告法人理事長として,Xの対応について,専門家の意見も取り入れながら複数の会議で議論を積み重ね検討をしてきたのであって,利用者であるXと職員らの生命身体の安全を考え,職員らに対し,最善の対応方法について指示していた。 したがって,被告法人の人事体制に何ら注意義務違反は存在しない。 (イ) 使用者責任について被告行為者らが被告法人に雇用される被用者であること,本件が職務の執行について行われたことについては争わないが,主張については争う。被用者である被告行為者らについて不法行為が成立しないため,使用者責任も成立しない。 (ウ) 代表者の行為についての損害賠償責任代表者である被告Aに不法行為責任が生じないため,被告法人に損害賠償責任は生じない。 イ債務不履行について被告法人に安全配慮義務違反,身体拘束禁止義務違反はいずれも存在せず,債務不履行責任は生じない。 (7) 争点(7) 損害(原告の主張)ア Xの損害- 20 -被告らの違法行為により,Xには以下の損害が発生した。 (ア) 葬儀費用 102万0402円(イ) 年金の逸失利益 745万3425円Xは,国民年金の障害基礎年金を年額79万20 Xには以下の損害が発生した。 (ア) 葬儀費用 102万0402円(イ) 年金の逸失利益 745万3425円Xは,国民年金の障害基礎年金を年額79万2096円受給していたところ,Xの死亡時の年齢は22歳であり,平成21年簡易生命表によれば,22歳男性の平均余命は58.10年である。そこで,生活費控除率を50%とし,ライプニッツ係数18.8195を用いて計算すると,年金の逸失利益は745万3425円となる。 (計算式)79万2096×(1-0.5)×18.8195=745万3425. (ウ) 労働能力喪失による逸失利益 3525万1372円aXは,本件事件当時,P作業所での作業労働を行っていたため,就労の蓋然性があった。 したがって,平成21年の賃金センサスによる男性・中学卒業平均年収である396万6600円を基礎収入とし,生活費控除率を50%として,就労可能年数45年(67-22=45)に対応するライプニッツ係数17.7741を用いて計算すると,Xの労働能力喪失による逸失利益は3525万1372円を下らない。 (計算式)396万6600×(1-0.5)×17.7741=3525万1372.53b 仮に,Xについて,健常者と全く同程度の賃金を得ることが困難であったと考えても,少なくとも最低賃金に相当する額の収入を得ることができた蓋然性は認められるのであり,大阪府の平成21年度の最低賃金額762円を前提に,年収146万3040円を基礎収入とし,- 21 -就労可能年数45年(ライプニッツ係数17.7741),生活費控除率を50%として逸失利益を計算すると,その金額は1300 金額762円を前提に,年収146万3040円を基礎収入とし,- 21 -就労可能年数45年(ライプニッツ係数17.7741),生活費控除率を50%として逸失利益を計算すると,その金額は1300万2109円を下らない。したがって,少なくとも同額が労働能力喪失による逸失利益として認められるべきである。 (エ) Xの慰謝料 3000万円Xは,若干22歳という若さでその生命を奪われたものであり,その無念は察するに余りある。 Xは,その障害特性を理解しない被告らの稚拙な支援方法により,心身ともに不安定な状態に追い込まれ,そのような状態に陥ったことを約束違反であるとして強制的にP作業所に連れて行かれ,恐怖のあまりパニックになり抵抗したところ暴れたとみなされて,身体を押さえつけられるという繰り返しの末,死に至ったのであり,本件事件の経緯において,Xには何の落ち度もない。 Xは,意識を失うまで継続して押さえつけられ,恐怖を感じる中で意識を失い,家族である原告や妹と言葉を交わすこともできないまま若い生命を奪われたのであり,その身体的・精神的苦痛に対する慰謝料は3000万円を下ることはない。 (オ) 原告の相続分Xの上記損害額合計7372万5199円について,原告は,Xの被告らに対する損害賠償請求権を法定相続分2分の1の割合で相続したことにより,被告らに対し,3686万2599円の損害賠償請求権を有している。 イ原告固有の損害(ア) 交通費 2万6780円原告は,本件事件の発生後,Xが死亡するに至った経緯や原因等を究明するため,各関係先に調査に赴き,合計2万6780円の交通費を支- 22 -出した。 (イ) 謄写 80円原告は,本件事件の発生後,Xが死亡するに至った経緯や原因等を究明するため,各関係先に調査に赴き,合計2万6780円の交通費を支- 22 -出した。 (イ) 謄写費用 4万7305円原告は,本件事件について調査するために,Xのカルテや刑事記録を謄写請求し,その謄写費用として合計4万7305円を支出した。 (ウ) 原告固有の慰謝料 3000万円原告は,知的障害を有するXを施設へ預けることの心理的葛藤に苦悩し,施設への入所と退所を繰り返しながら必死の思いをしてきたものであり,母の介護や長女の入院及び原告自身の骨折という家庭の事情から,Xを自宅へ引き取るのことが不可能な事態に陥り,やむなく被告らにXを託した。 そうであるにも関わらず,被告らは,Xへの押さえつけを繰り返した結果,本件押さえつけ行為によってその生命までを奪うに至ったのであり,原告の精神的苦痛は筆舌に尽くしがたく極めて甚大である。 原告の精神的苦痛に対する慰謝料は3000万円を下らない。 (エ) 以上より,原告は,原告固有の損害3007万4085円について,被告らに対する損害賠償請求権を有している。 ウ弁護士費用上記のとおり,原告の損害は,Xの損害賠償請求権の相続による損害額合計3686万2599円及び原告固有の損害額合計3007万4085円の合計6693万6684円であるところ,本件訴訟は,多くの法律上の争点を有しており,原告自身の訴訟追行は不可能な事案であるため,原告の要した弁護士費用も損害に含まれ,その額は,請求額の1割に当たる669万3668円が相当である。 エ損害合計以上により,原告の損害は7363万0352円を 案であるため,原告の要した弁護士費用も損害に含まれ,その額は,請求額の1割に当たる669万3668円が相当である。 エ損害合計以上により,原告の損害は7363万0352円を下らない。 (被告らの主張)- 23 -ア葬儀費用タクシー代については否認し,その余は認める。 イ年金の逸失利益年金の逸失利益性については争わないが,生活費控除の割合については争う。 ウ労働能力喪失による逸失利益否認する。 Xには就業の経験はなく,就業の希望も有しておらず,被告法人においても就労を目指す支援を受けていたわけではないのであって,労働の蓋然性があったとは認め難い。 XはP作業所において被告法人職員らの支援を受けながら軽作業をしており,これに対し,一定の金額が支払われていたが,この支給金は,利用者の意欲を高める動機付けであり,たとえ作業をしなくとも出勤さえすれば支給される性質のものであって,厳密な意味での給料ではない。 仮に,逸失利益が認められるとしても,原告の主張するような賃金センサスを前提として算出される額は,Xの逸失利益の額としては著しく現実とかけ離れた不合理なものであり,基礎収入は,被告法人においてXに支給されていた作業工賃である月額5500円が限度である。 また,Xに労働能力喪失による逸失利益が認められるとしても,生活費控除の割合については争う。 エ慰謝料争う。 本件において,本人分及び近親者分を含んだ死亡慰謝料の総額として2200万円を超えることはない。 オ交通費争う。 - 24 -カ謄写費用争う。 キ おいて,本人分及び近親者分を含んだ死亡慰謝料の総額として2200万円を超えることはない。 オ交通費争う。 - 24 -カ謄写費用争う。 キ原告固有の慰謝料争う。 本件において,仮に,原告固有の慰謝料が認められる場合であっても,原告固有の慰謝料は,Xの慰謝料と重複して評価されるべきではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,証拠(甲1~6,10,12~17,19,24,25,30,35~39,乙1~35,37,原告本人,被告B本人,被告C本人,被告D本人,被告E本人,被告F本人,被告A本人。但し,書証は,枝番号が付されているものについては枝番号も含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告法人の概要等ア被告法人は,平成4年,障害福祉サービス事業の経営等の社会福祉事業を行うことを目的として設立された社会福祉法人である。 被告法人は,R厚生福祉センター(以下「Rセンター」という。)など大阪府立の障害者施設に入所している入所者の地域移行支援を行っていたところ,平成19年,大阪府から障害者の地域移行支援事業を受託し,地域移行支援センターを立ち上げた。 イ被告法人は,自立ホームOを含む24箇所の自立ホームにおいてグループホーム事業を運営し,P作業所を含む4箇所の授産施設において,生活介護,短期入所,就労継続支援事業を運営し,その他,居宅介護,行動援護,移動支援,相談支援等の各事業を運営している。 被告法人では,職員約60人のほか,非常勤職員及びパート職員約30人が勤務しており,理事長である被告Aの下に,各部門の管理責任者であ- 25 -るチーフが配置 各事業を運営している。 被告法人では,職員約60人のほか,非常勤職員及びパート職員約30人が勤務しており,理事長である被告Aの下に,各部門の管理責任者であ- 25 -るチーフが配置され,その下に複数のグループホームの管理責任者であるリーダーが配置され,その下に入居者の生活全般の支援を行う世話人及び生活支援員が配置されていた。 ウ被告法人では,グループホーム,授産施設,生活支援の各部門毎に代表者を集め「部門代表者会議」を開き,各現場担当者からの報告と各事業の運営や困難ケースの支援の方針の検討を行い,その中で特に支援に困難を伴う入居者については,当該入居者に関わる職員参加のもと「プロジェクト会議」を開き,当該入居者についての情報を共有した上で,支援方法などの検討を行っていた。 (2) Xについてア Xの障害特性(ア) Xは,幼少時から精神発達遅滞,自閉性障害と診断され,平成17年に実施された検査では,発達指数(DQ)35~49,知能指数(IQ)39,精神年齢6歳6ヶ月であり,中等度の精神発達遅滞と判定されている。Xは,平成18年時には療育手帳Aの判定を受けていた。 また,Xは,過去に,パニック障害や双極性感情障害の診断を受けている。 (イ) Xには,自閉性障害の特徴として,テレビやラジオに対する強いこだわりがあった。また,Xは,自分の要求が通らなかったり,周囲からの刺激をきっかけに精神的に不安定になり,パニックに陥ることが頻繁にあり,度々,人に噛みつく,物を投げる,机をひっくり返すなどの行動に及ぶことがあった。 イ被告法人施設入所までの生活状況(ア) Xは,平成14年8月19日からT学園に入所した。 Xは,同学園において る,机をひっくり返すなどの行動に及ぶことがあった。 イ被告法人施設入所までの生活状況(ア) Xは,平成14年8月19日からT学園に入所した。 Xは,同学園において,職員の注意する声,他児があげる奇声,他児のケンカなどに反応し,パニックをおこし,他児や職員の腕などに噛み- 26 -つく,眼鏡を壊すなどの行為に及び,職員の中にはXに指を噛みちぎられた者もいた。また,Xには,施設からの飛び出し行動なども見られた。 (イ) Xは,平成16年5月頃から他害行動が著しくなり,施設での生活が困難になって,同月26日から平成18年5月8日まで,Uセンターに医療保護入院となった。Xは,同センターにおいても,他患者とのトラブルを契機に興奮状態になり,噛みつき行為などに及ぶことが度々あり,保護室に誘導され四肢体幹拘束を受けるに至ることもあった。 もっとも,同センターにおいては,薬物療法,精神療法等を中心に情動の安定化がみられ,平成17年7月25日以後は,退院まで暴力行為はなかった。 (ウ) Xは,Uセンターを退院した後,平成18年からRセンターにおいて短期入所を繰り返していたが,同施設においても,臨時ニュースや,職員の注意する声などに反応し,不安定になり,職員に対して噛みついたり,物を投げたり,施設から飛び出そうとしたりするなどの行為が見られた。 ウ被告法人施設への入所経緯(ア) Xは,Rセンターの施設一部縮小に伴い,地域移行の対象者として,平成19年8月29日,Rセンターの職員と共に被告法人を見学に訪れた。 (イ) Xは,被告法人が運営する施設において4回の体験入居を行い,平成20年4月から被告法人が運営するサービスを利用して地域生活を開始することになっ 職員と共に被告法人を見学に訪れた。 (イ) Xは,被告法人が運営する施設において4回の体験入居を行い,平成20年4月から被告法人が運営するサービスを利用して地域生活を開始することになった。 (ウ) 被告法人では,Xに関する支援に困難を伴うことが予想されたため,平成20年4月8日の部門代表者会議において,Xに関するプロジェクト会議を立ち上げ,Xに対する支援の方針を検討していくことを決めた。 (3) 被告法人におけるXに対する支援の状況- 27 -ア Xの被告法人施設への入所(ア) 原告は,Xの代理人として,被告法人との間で,平成20年4月30日,Xを利用者とした生活介護・就労継続支援(B型)・就労移行支援利用契約を締結し,Xは,被告法人が設置運営するグループホーム「S」(以下「自立ホームS」という。)に居住し始め,平日の日中は,P作業所に通所した。 (イ) Xは,P作業所では,作業に加わらず寝て過ごしたり,テレビのある2階で過ごすことが多く,Xが外へ出て行こうとするのを止める職員に対し,噛みついたり,作業をせずにテレビを見ていることを注意した職員に対し,「テレビを見たい,仕事をしたくない。」と言い,テーブルをひっくり返したり,注意した職員の腕に噛みつくなどしたこともあった。 また,Xは,自立ホームSでも,他の利用者の戸の出入りを気にして,その利用者の部屋のテレビを投げるなどの行動が見られた。 (ウ) Xは,同年6月4日,居住するグループホームを自立ホームSから自立ホームOに移した。 イルールの設定(ア) 被告法人では,Xの障害特性から,専門家による助言が必要であると考え,知的障害者の支援に詳しい臨床心理士であるG(以下「G」という。) ホームOに移した。 イルールの設定(ア) 被告法人では,Xの障害特性から,専門家による助言が必要であると考え,知的障害者の支援に詳しい臨床心理士であるG(以下「G」という。)との間でコンサルタント契約を締結し,平成20年6月から,被告法人において,2週間に1回程度,コンサルテーションを開き,Gの指導,助言を受けながら,Xの支援に関する職員研修を行った。 (イ) Gは,被告法人におけるコンサルテーションにおいて,Xの支援については,Xとの間で,明確なルールを設定し,Xに定着させること,ルールを曖昧にしないこと,ルールが守られた場合の褒美やルールを破った場合のペナルティを明確にして,Xに上記ルールを身に付けさせる- 28 -ことが必要であると助言した。 また,Xの興奮が始まる前の対応策として興奮状態に入る手前や興奮度合いが小さいうちに,担当支援員がふらっと尋ねてきたように装い,Xと話をして落ち着かせるという「ふらっと訪問」という方法や,Xが興奮した際の対応として,利用者が自傷・他害に至る等パニック状態となり,自他共に心身の安全の確保が困難な状態になったとき,一時的に環境を変え,こだわりの対象や外部からの様々な刺激を遮断することで,冷静な心理状態に戻るための場所の提供を行う「タイムアウト」という方法をとることを提案した。 被告法人では,タイムアウトを実施する際に移動する場所として,周辺が工場であり,周辺住民の迷惑になりにくく,物が少ないためXが暴れても投げる物がないなどの理由から,P作業所の軽作業室を利用することにした。 また,被告法人では,上記Gの助言を受けて,Xとの間で,Xが,決められた仕事をしたり,日常生活に関するルールを守った場合,被告法人が作成した「頑張 所の軽作業室を利用することにした。 また,被告法人では,上記Gの助言を受けて,Xとの間で,Xが,決められた仕事をしたり,日常生活に関するルールを守った場合,被告法人が作成した「頑張った表」や「サプライズカレンダー」などにシールがたまるようにし,目標達成時には,アイスクリームやビールなどを購入できるといった約束をし,反対に,ルールを守れなかった場合には,タイムアウトの意味のほかに,問題行動の抑止,警告の意味でP作業所に行くという約束をして,Xにルールを定着させようとした。 (ウ) Xは,平成20年6月13日,テレビの地震特番により自分の見たかった番組が変更になったことで精神的に不安定になり,商店街で地震のニュースについてどう思うか尋ねまわったり,迎えに来た職員に噛みつこうとしたり,車を蹴ったりした。 また,同月21日には,電話の時間が決められているなどの自立ホームOの規則が嫌であるため,グループホームを辞めたいなどと訴え,夜- 29 -中に大声を出し,机をひっくり返そうとしたり,興奮して自立ホームOの外に飛び出し,商店街の花壇を壊すなどした。その後,Xは,自立ホームOに戻ったが,再度,外へ飛び出そうとし,職員がこれを止めようとしたところ,もみ合いになり,入口のガラス扉を壊した。 (エ) 上記のようなXの行動を受けて,平成20年6月23日頃,被告Bが,Xとの間で,自立ホームOに住むに当たり,パニックをおこさない,人を噛まない,物をひっくり返さない,大きな声を出したり,パニックになった場合にはP作業所に住むなどのルールを設定した。 (オ) Xは,同年12月までの間,パニックになっても人を噛んだり,物を投げたりといったことが減り,「頑張った表」をもとにして日課をこなせるようになって 業所に住むなどのルールを設定した。 (オ) Xは,同年12月までの間,パニックになっても人を噛んだり,物を投げたりといったことが減り,「頑張った表」をもとにして日課をこなせるようになっていた。 しかし,Xは,平成21年の年明けから調子を崩し,同年2月5日のコンサルテーションにおいては,職員の中からは,XにとってP作業所に泊まることが恐怖体験になっているとの指摘が出てきた。 そこで,同コンサルテーションにおいて,Xがルールを破った際に,P作業所に泊まるという約束を外すことが検討され,噛まない,パニックをおこさない,毎日P作業所へ行く,電話は一日5分を守るなどのルールに絞ることになった。 (カ) 被告法人では,Xとの間で設定したルールを紙に記載し,壁に貼るなどしていたが,Xは,度々,上記紙を捨てるなどし,また,職員に対し,上記紙について「いつなくなるのか。」,「いらない。」などと訴え,不穏な状態になることがあった。 ウ Xがパニックになった場合の被告法人の対応(ア) Xは,平成21年4月5日より,北朝鮮のミサイル発射のニュースで特番が組まれ,通常の番組がなくなったことをきっかけに,パニックをおこし,食器棚を倒す,人に噛みつくなどした。 - 30 -そこで,被告法人では,同月14日,プロジェクト会議を開き,Xとの間のルールを,暴力を振るわない,物を壊さない,被告BやP作業所の日中職員も自立ホームOに泊まるなどに絞り,同ルールを破った場合にはP作業所へ行く旨のルールを復活させた。また,被告法人職員らは,同会議において,Xが自立ホームOにおいてパニックを起こした場合に以下の対応をとることを定めた。 a パニック時に職員4人で対応できるよう体制を整える。 させた。また,被告法人職員らは,同会議において,Xが自立ホームOにおいてパニックを起こした場合に以下の対応をとることを定めた。 a パニック時に職員4人で対応できるよう体制を整える。 b 大声が出たり,物を壊したときはP作業所へ移動する。 c 移動の際には,約束を破ったことを伝え,自主的に車に乗るよう促すが,抵抗して暴力を振るうときは,手足を制止し乗車させる。 d 移動の連絡を受けたP作業所の責任者はP作業所の部屋を危険のないよう備品を片付け,ソファーや布団を用意する。 e 部屋に入ったらソファーに座ってもらい,約束を破ったので反省するよう促し,落ち着けば押さえつけたりしないことを伝える。落ち着いていれば,その日を振り返る会話を交わし,その際,部屋を飛び出したり,暴力を振るってきたときは,落ち着くまでソファーで手足を制止する。 f 上記の対応で落ち着けないときは,布団の上に寝てもらい,手足を制止して落ち着くまで待つ。 g これらの対応で落ち着いて話ができるようになれば,自分の布団で寝てもらい,朝7時にグループホームに帰り,いつもの生活に戻ってもらう。 (イ) 被告法人では,Xがパニックになった際に同人を押さえつける方法について,必要に応じて会議等で話し合い,Xを押さえつける際は,うつ伏せにすること,4人以上で関わること,手足を押さえること,リーダー以上の職員が1人責任者として応援に入りその場の全体を見るこ- 31 -と,Xの様子を見ながら「落ち着いて下さい。」,「落ち着いたら離します。」などの声かけをすることなどを定めていたが,具体的な押さえつけの方法,制止の時間,危険防止等に関してマニュアルは作成せず,これらについて職員らに対する具 着いて下さい。」,「落ち着いたら離します。」などの声かけをすることなどを定めていたが,具体的な押さえつけの方法,制止の時間,危険防止等に関してマニュアルは作成せず,これらについて職員らに対する具体的な指示や指導も行っていなかった。そのため,どのような態様でXを押さえつけるかについては,専ら各職員の裁量に委ねられていた。 (ウ) 被告Aは,プロジェクト会議,コンサルテーション等で決まったXに対する対応については,被告法人の方針として承認していた。 被告Aは,被告法人職員がXを押さえつけている様子を実際に見たことはないが,押さえつけが行われた都度,事後に,実施責任者から,社内メール,報告書等によって報告を受けていた。 (エ) 被告法人職員は,Xの希望でXと一緒に寝たり,Xが不穏な状態になった際に,じっくり話をしたり,話題を変えるなどして対応し,Xを落ち着かせるようにしていたが,Xがルールを破ったと判断した場合には,いやがるXをP作業所に連れて行き,同人が落ち着くまで,長いときは1時間から2時間程度同人を押さえつけることがあった。被告法人職員らが,XをP作業所において押さえつけた回数は,Xの入所期間中10回程度あった。 (4) 平成21年11月7日の出来事ア Xは,同日午後4時頃から自立ホームOにおいて,不穏な状態が続いており,「P作業所を辞めたい。」,「食事を早く作れ。」などと大声で叫んだり,無断で外へ出て隣のグループホームに入るなどした。そのため,被告Cは,約束違反があったとして,Xを車に乗せてP作業所へ連れて行くことに決めた。 被告Cは,Xに夕食を食べさせ,同日午後6時半頃,Xを車の助手席に乗せ,後部座席に被告法人職員3名を乗せてP作業所へ向かった。 Xは,- 32 - 作業所へ連れて行くことに決めた。 被告Cは,Xに夕食を食べさせ,同日午後6時半頃,Xを車の助手席に乗せ,後部座席に被告法人職員3名を乗せてP作業所へ向かった。 Xは,- 32 -P作業所へ向かう途中,助手席で暴れ始め,助手席の窓を開け,足でドアミラーを蹴りつけたり,助手席から降りようとしたり,運転していた職員を噛もうとした。 被告C及び被告法人職員らは,Xを後部座席に移動させた。 イ被告C及び他の職員らは,P作業所に到着後,Xを軽作業室に連れて行き,午後7時頃から約1時間程度,軽作業室の床の一画に畳と布団を敷き,その上でXを仰向けの状態にして押さえつけた。 被告Cは,Xが落ち着くと,押さえつけを止め,Xに不穏の原因を聞くなどしたが,Xが暴れ始めたため,再び布団の上でXを押さえつけるなどした。 Xは,徐々に落ち着きを取り戻し,午後8時半頃,落ち着いてソファで話せるようになり,その日は,軽作業室で就寝した。 被告Cは,数人の被告法人の職員を残して帰宅した。 (5) 平成21年11月8日の出来事ア Xは,同日午前7時頃,職員らに連れられてP作業所から自立ホームOに戻った。Xは,自立ホームOに戻った後,「約束は嫌や。」,「P作業所を辞めたい。」などと言っていた。 イ被告Cは,Xとの間で,朝食を食べた後に散歩に行くことを約束していたが,Xの状態を見て,Xに対し,散歩はしない旨伝えたところ,Xは,被告Cに噛みつこうとした。そのため,被告Cは,XをP作業所へ連れて行くことに決め,被告Bに連絡し,さらに被告F,同D及び同Eを呼び集めた。 被告法人職員が,Xに対し,自分で車に乗るか尋ねたところ,Xがこれを拒否したため,被告法人職員らは,Xの手足を持 行くことに決め,被告Bに連絡し,さらに被告F,同D及び同Eを呼び集めた。 被告法人職員が,Xに対し,自分で車に乗るか尋ねたところ,Xがこれを拒否したため,被告法人職員らは,Xの手足を持ち,後部座席にXを乗せた。 被告法人職員ら及びXは,被告Fが運転する車で,P作業所に移動して- 33 -いたところ,途中で,Xが暴れたため,被告法人職員らが,Xを押さえつけた。 ウ Xを乗せた車は,同日午前10時45分頃,P作業所に到着した。 Xは依然暴れていたため,被告法人職員らは,同日午前11時30分頃まで,軽作業室の床の一画に畳と布団を敷き,その上でXをうつ伏せにしたまま押さえつけた。Xは,「痛い。」,「謝れ。」などと叫び,激しく抵抗していた。 Xは,同時刻,のどの渇きを訴えた。被告法人職員が,水を飲むか尋ねたところ,Xはおとなしくなった。被告法人職員らは,一旦押さえつけを中断し,Xに水を飲ませた。 エ Xは,昼食時に職員が買ってきた弁当を真っ先に取ろうとしたところ,被告Cから,「誰が原因で皆が集まっているのだと思いますか。」とその行動をたしなめられ,「いりません」と言って昼食を摂らなかった。 オ Xは,同日午後1時前になり,午後1時から見たい番組があるため,自立ホームOに帰りたいと言い出した。 被告Cは,Xが未だに不穏な状態であると判断したため,Xに対し,同日午後4時まで帰れない旨伝えたところ,Xとの間で押し問答になった。 被告Cは,上司である被告Bに確認するという口実を作り,Xに自立ホームOに帰ることを諦めさせようと考え,P作業所の2階にいた被告Bの名前を呼びながら軽作業室を出たところ,Xは,「Bさんを呼ばないで下さい。」と懇願しながら被告Cを追いかけ う口実を作り,Xに自立ホームOに帰ることを諦めさせようと考え,P作業所の2階にいた被告Bの名前を呼びながら軽作業室を出たところ,Xは,「Bさんを呼ばないで下さい。」と懇願しながら被告Cを追いかけるようにして軽作業室から出た。 2階にいた被告Bは,被告Cの呼びかけに応え,1階に降りてきたところ,玄関から8,9メートル程度の階段下の廊下付近でX及び被告Cと向き合う状態になった。 Xは,興奮が増し,両手を振り回し,「帰りたいんですよ。」と言いながら,小走りで玄関の方へ向かおうとした。 - 34 -被告Dは,Xを止めようとして,後ろからXに抱きつき,横に倒れた。 カ被告Bは,Xの様子を見て,興奮度合いが高まっており,到底言葉で説明して落ち着かせることは不可能であると判断し,Xを押さえつけるため,軽作業室に移動させることとした。そこで,被告行為者らは,被告Bの指示に基づき,「離せ」等と叫んで手足をばたつかせるXの身体を持ち上げ,再び軽作業室の布団の上に移動し,Xをうつ伏せの状態にして押さえつけた。 被告Bは,Xを運ぶ際に,Xが職員に噛みつくのを防ぐため,Xの頭が動かないように両手で同人の後頭部を押さえ,うつ伏せで押さえつけてからは,声かけをしながらXの表情や動きに注意を払っていた。 被告Cは,Xの頭の方に背を向けた状態で左腕に跨り,右膝を立てた状態で,Xの左腕の肘と手首あたりを,両手で持ち,可動できないように背中側に反らせるように引っ張った。 被告Dは,Xの背中に自分の背中が接触するような状態で,Xの右腕を自分の左脇に挟んで押さえた。 被告Eは,Xの左脚を跨ぐようにして押さえた。 被告Fは,Xの右太もも部分に跨って腰を落とし,Xの上半 自分の背中が接触するような状態で,Xの右腕を自分の左脇に挟んで押さえた。 被告Eは,Xの左脚を跨ぐようにして押さえた。 被告Fは,Xの右太もも部分に跨って腰を落とし,Xの上半身に背を向ける形で押さえた。 被告行為者らが上記状態で押さえ続けてから10分ほど経過した後,被告Bは,押さえつけが長時間に及ぶと判断して,1人ずつ交代で休憩をとらせることにし,まず被告Fを休憩に行かせ,被告Fに代わって,自身がXの右脚膝裏及び足首を両腕で押さえた。 Xは,「バカヤロー,離せ。」などと叫びながら,身体を揺すっていた。 被告行為者らは,Xに対し「落ち着いてください。落ち着いたら離しますから。」などと声を掛けながら押さえていた。 途中,被告Eは,Xが暴れたことにより,Xの左脚を押さえきれず離し- 35 -てしまい,体勢を崩した。 被告Bが片手でXの左膝裏を押さえたが,Xが左脚を更にばたつかせたため,Xの身体は,大きく揺れた。 被告Cは,Xが大きく身体を動かしたことにより,体勢を崩したため,立たせていた右膝を布団についた状態にし,足の先をXの首の下に入れ,Xの左肩甲骨付近に尻が乗る状態にして押さえ直した。 被告Dは,Xが身体を大きく動かして起き上がろうとした際には,自身の背中でXの右肩付近に体重をかけ,Xを押さえた。 キ被告Fを除く被告行為者らは,15分間程,Xを押さえつけていたところ,Xの声が止み,急に動かなくなったため,Xの顔をのぞき込むと,Xは真っ青な顔色に変わっており,脈はあったが呼吸をしていない状態だった。 被告Cは119番通報をして救急車を呼び,被告Bは人工呼吸を行ったところ,Xの口から吐瀉物が溢れていた。被告Dは,タオルを わっており,脈はあったが呼吸をしていない状態だった。 被告Cは119番通報をして救急車を呼び,被告Bは人工呼吸を行ったところ,Xの口から吐瀉物が溢れていた。被告Dは,タオルを持ち,嘔吐物の拭き取りなどして,更にXの心臓マッサージをした。 救急隊員が,P作業所に到着した際,Xは仰向けに寝かされ,心肺停止の状態で脈がなく,口からは大量の水溶性の吐物が吸引しても出てくるような状態だった。また,Xの右眼瞼,顎,顔面,右前腕に打撲痕が認められた。 (6) Xの死亡ア Xは,平成21年11月8日午後1時25分頃,Q病院に救急搬送され,同病院において心肺蘇生法を受け,一度心拍が再開したが,翌同月9日午前5時頃,死亡した。 イ同病院では,Xが搬送された後,胸部のレントゲンを行い,Xの死亡後は,頭部から腹部にかけてのCT検査を行ったが,Xに内疾患は認められなかった。 - 36 -ウ平成22年6月14日付けV法医学教室医師H(以下「H医師」という。)作成に係る鑑定書によれば,Xの死因について,心肺停止の原因は,吐物の肺内吸引による窒息であり,胃酸を含む胃内容を吸引していたため,広範な肺胞障害が生じて肺出血を起こし,吸引異物刺激による肺炎も併発して死亡したものと判断されている。 H医師は,Xが嘔吐した原因について,Xがうつ伏せの状態で背面から圧迫されたという伝聞情報を前提に,胸腹部への強い圧迫により,前腹壁全体が圧迫され,腹腔内圧が上昇し,胃の内圧も上昇した結果,胃内容が食道へ逆流したためである旨推認している。 (7) 略式起訴区検察庁は,平成23年11月29日,本件に関し,被告B,被告C,被告D及び被告Eを業務上過失致死罪で略式起訴した。 簡易裁 したためである旨推認している。 (7) 略式起訴区検察庁は,平成23年11月29日,本件に関し,被告B,被告C,被告D及び被告Eを業務上過失致死罪で略式起訴した。 簡易裁判所は,同年12月5日,被告Bに対しては,罰金70万円,被告C,被告D及び被告Eに対しては,それぞれ罰金50万円の略式命令を発し,上記各命令は,いずれも確定した。 (8) 身体拘束に関する行政指針ア厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」は,平成13年3月,高齢者介護を念頭においた「身体拘束ゼロへの手引き~高齢者ケアにかかわるすべての人に~(案)」を作成し,その中で「緊急やむを得ない場合」として身体拘束が許容されるのは,あらゆる支援の工夫のみでは十分に対処できないような「一時的に発生する突発事態」のみに限定されるとし,安易に「緊急やむを得ない」ものとして身体拘束を行うことのないよう,切迫性(利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと)・非代替性(身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと)・一時性(身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること)の3要件を慎重に判断するようにすること,利用者本人やその家- 37 -族に対して身体拘束の内容,目的,理由,拘束の時間,時間帯,期間等をできるかぎり詳細に説明し,十分な理解を得るように努め,説明手続や説明者について事前に明文化しておくこと,緊急やむを得ず身体拘束等を行う場合には,その態様及び時間,その際の利用者の心身の状況,緊急やむを得なかった理由を記録することなど所定の手続をとることなどが必要である旨記載されている。 イ社会福祉法人全国社会福祉協議会「障害者の虐待防止に関する検討委員会」は,平成21年3月,「障 を得なかった理由を記録することなど所定の手続をとることなどが必要である旨記載されている。 イ社会福祉法人全国社会福祉協議会「障害者の虐待防止に関する検討委員会」は,平成21年3月,「障害者虐待防止の手引き」を作成したが,その中では,障害福祉サービス等を提供する施設・事業所は,サービス提供にあたって,「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員,設備及び運営に関する基準」に従い,利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除いては,身体的拘束やその他の利用者の行動を制限する行為を行ってはならず,その具体的な対応にあたっては,前記アの「身体拘束ゼロへの手引き」を参考にし,上記3要件を満たすことを求める旨記載されている。 ウ厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域移行・障害児支援室は,平成24年9月頃,「障害者福祉施設・事業所における障害者虐待の防止と対応の手引き」を作成した。その中では,緊急やむを得ない場合とは,支援の工夫のみでは十分に対応できないような,一時的な事態に限定され,具体的には,「身体拘束ゼロへの手引き」に基づく切迫性,非代替性,一時性の要件に沿って検討する方法などが考えられる旨記載されている。 エ大阪府は,厚生労働省令である「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員,設備及び運営に関する基準」第73条及び第154条の規定を基に,平成20年3月付けで大阪府健康福祉部高齢介護室が作成した「大阪府身体拘束ゼロ推進標準マニュアル」を用いて高齢者介- 38 -護,障害者介護,障害児介護に関して身体拘束に関する研修や現場指導を行っている。 同マニュアルには,「緊急やむを得ない場合」を除いて身体拘束が禁止されること,「 高齢者介- 38 -護,障害者介護,障害児介護に関して身体拘束に関する研修や現場指導を行っている。 同マニュアルには,「緊急やむを得ない場合」を除いて身体拘束が禁止されること,「緊急やむを得ない場合」というためには切迫性,非代替性,一時性の3要件を満たし,かつ,身体拘束に関する記録が義務づけられることが説明されている。 東大阪市も,年1回各施設の代表者を集め,従業員の法令への習熟度について説明会を行うなどの取り組みをしていた。 大阪府福祉部障がい福祉室において,平成22年9月付けで作成された「福祉サービス事業所における利用者支援のあり方に関するガイドライン」においても,「緊急やむを得ない場合」の要件・判断基準・手続及び記録に関する内容について,厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」を引用し,3要件を満たす状態であることを施設内で検討,確認を行い記録する必要がある旨記載されている。 2 争点(1) 本件押さえつけ行為の具体的態様(1) 被告らは,本件押さえつけ行為においてXの胸腹部を圧迫するようなことはしておらず,被告Cの尻はXの左肩甲骨に乗るような形であったが,常時体重を乗せていたわけではなく,Xが暴れたりしたときに座ることがあった程度であり,Xの左腕を背中側に反らせていたこともないし,被告Dは,背中がXに当たってはいたが,背中でXを押さえることはしていない旨主張し,被告C及び被告Dは,それぞれ本人尋問においてこれに沿う供述をしている。 4 しかしながら,被告Dは,本件に係る警察官面前調書及び検察官面前調書(甲3)において,一貫して,常に力いっぱい押さえていたわけではないが,Xが激しく抵抗した場合は力を入れたり背中の方へ軽く体重を掛けたりして加減しながら押さえていた旨供述してい 書及び検察官面前調書(甲3)において,一貫して,常に力いっぱい押さえていたわけではないが,Xが激しく抵抗した場合は力を入れたり背中の方へ軽く体重を掛けたりして加減しながら押さえていた旨供述している。また,証拠(甲3の101頁~,266頁~)によれば,被告Dは,実況見分において押さえつけの態様を再- 39 -現した際や,平成22年2月に原告に対し本件押さえつけ行為の態様を実演して見せた際にも,自己の背中でXの右肩付近を押さえつける態様で押さえつけを行っている。そして,前記認定事実のとおり,Xは身体を大きく揺らして抵抗しており,被告Eが体勢を崩し,Xの左脚の押さえが外れた後は,Xはより一層大きく動いたと考えられることからすれば,背中に体重を掛けるなどしてXを押さえていたという前記被告Dの供述内容は自然であって,特に不合理な点は見当たらない。 また,被告Cは,本件に係る警察官面前調書及び検察官面前調書(甲3)において,最初,Xの左腕に跨り,右膝を立てた状態で,Xの肘と手首あたりを押さえていたが,Xの身体が大きく動いたことにより体勢が崩れたため,立てていた右膝を布団に付け,足先をXの首の下に入れ,Xの左肩甲骨のあたりに尻を乗せて押さえつけた旨供述しており,実況見分の際や,平成22年2月に原告に対し本件押さえつけ行為の態様を実演して見せた際にも,このような態様による押さえつけを行っている。また,被告Cは,これら押さえつけの態様を再現する際,いずれもXの左腕を宙に浮かせる状態で押さえており,そのような状態で暴れるXの腕を動かないように押さえるには,Xの腕を可動できない方向へ反らせる必要があったと考えられる。 (3) そうすると,本件では,被告行為者らが,常時,Xの背面を押さえつけ胸腹部を圧迫していたことまでは認められないが,激し えるには,Xの腕を可動できない方向へ反らせる必要があったと考えられる。 (3) そうすると,本件では,被告行為者らが,常時,Xの背面を押さえつけ胸腹部を圧迫していたことまでは認められないが,激しく動くXを押さえつける中で,各被告行為者らが,体勢を崩したり,押さえつけが外されないよう押さえつけ直すなどした結果,Xの両肩甲骨付近に圧力がかかる状態になり,Xの胸腹部が圧迫されるに至ったと認めるのが相当である。 3 争点(2) Xの死亡の原因及び本件押さえつけ行為との間の因果関係の有無(1) 被告らは,Xが嘔吐したのは,本件押さえつけ行為が原因ではない旨主張する。 (2)ア前記認定事実のとおり,Xの司法解剖を行ったH医師は,平成22年6- 40 -月14日付けの鑑定書において,Xがうつ伏せの状態で背面から圧迫されたという伝聞情報を前提に,嘔吐の原因は胸腹部への強い圧迫により前腹壁全体が圧迫され,腹腔内圧が上昇し,胃の内圧も上昇した結果,胃内容が食道へ逆流したことにあると推認している。 前述のとおり,本件押さえつけ行為においては,少なくとも,被告Fが休憩に入った後,被告C及び被告Dにおいて,Xの両肩甲骨付近に圧力がかかる状態を生じさせたことが認められるところ,両肩甲骨付近が強く押さえられることにより,Xの身体は床に押さえつけられ,前腹壁全体が圧迫される状態になるのであるから,前記鑑定書が前提事実とした伝聞情報が誤っているということはできない。 その他に,前記鑑定書の推認に疑いを差し挟む事情はなく,加えて,本件押さえつけ行為の際,被告Cの右足先がXの首の下にあり,嘔吐を生じさせやすい状態であったと考えられることをも踏まえれば,Xの嘔吐は,被告Fが休憩に入った後の被告行為者らによるXの首の下に足が入った 件押さえつけ行為の際,被告Cの右足先がXの首の下にあり,嘔吐を生じさせやすい状態であったと考えられることをも踏まえれば,Xの嘔吐は,被告Fが休憩に入った後の被告行為者らによるXの首の下に足が入った状態での両肩甲骨付近の押さえつけが原因で生じたと認めるのが相当である。 イ被告らは,内臓が腫れるような圧力がかからなければ,胸腹部にある程度の圧力がかかっても嘔吐はしない旨主張するが,H医師は,前屈位などで腹部が圧迫されることでも胃の内容物が逆流することがある旨供述しており(甲3の20頁~),同医師は内臓が腫れるような圧力がかからなくても嘔吐が生じることを前提としていること,その他,被告らの主張を裏付ける証拠はないことなどに照らせば,被告らの前記主張は採用できない。 ウまた,被告らは,Xが朝食をとってから約6時間経過しているのに,Xの胃内には固形物が残存し,消化の程度は軽度であったことから,Xの身体に何らかの変調が生じていた可能性があり,Xが嘔吐したのは,本件押さえつけ行為によるものではなく,Xに何らかの変調が存在し,そのこと- 41 -に心因性の要素が重なって嘔吐中枢が刺激されたためである旨主張する。 しかし,前記認定事実のとおり,死亡当時,Xに内疾患はなかったことが認められ,Xの胃内容物に固形物が残存していたことが直ちに身体の変調を伺わせる事情であるともいい難く,その他,Xの死亡当時身体の変調があったことを裏付ける証拠はないことなどからすれば,前記被告らの主張は採用できない。 (3) そして,胸腹部への強い圧迫は,人の生命,身体に危険を及ぼす蓋然性の高い行為であり,押さえつけられた人間が死亡することは一般に生じ得ることであるといえるため,Xの死亡と本件押さえつけ行為との間には相当因果関係が認められ 圧迫は,人の生命,身体に危険を及ぼす蓋然性の高い行為であり,押さえつけられた人間が死亡することは一般に生じ得ることであるといえるため,Xの死亡と本件押さえつけ行為との間には相当因果関係が認められると考えるのが相当である。 4 争点(3) 本件押さえつけ行為の違法性(違法性阻却事由の有無)(1) 違法性の判断基準身体の自由は基本的人権の一つであり,不必要に身体を拘束することは違法であって,これは,障害者福祉施設の利用者についても異なることはない。 もっとも,利用者本人又は他の利用者等の身体に対する危険が切迫しており,かつ,他にその危険を避ける方法がない場合に,その危険を避けるために必要最小限の手段によって利用者を拘束することは障害者福祉施設における正当業務行為として,例外的に違法性が阻却されると解するのが相当であって,厚生労働省に設置された身体拘束ゼロ作戦推進会議作成の「身体拘束ゼロへの手引き」,厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域移行・障害児支援室作成の「障害者福祉施設・事業所における障害者虐待の防止と対応の手引き」,大阪府健康福祉部高齢介護室作成の「大阪府身体拘束ゼロ推進標準マニュアル」,社会福祉法人全国社会福祉協議会作成の「障害者虐待防止の手引き」などが基準としてあげる3要件(切迫性,非代替性,一時性)も同様の趣旨に基づくものであると考えられる。 (2) 検討- 42 -ア原告は,本件押さえつけ行為は,Xが約束を守らなかった場合には,懲罰としてP作業所に連行し,いやがるXを無理やり押さえつけるという被告法人における不合理な支援方針に基づき,10回以上も繰り返されてきた押さえつけ行為の延長であり,そもそも正当業務行為として容認される余地がないと主張する。 確かに, 理やり押さえつけるという被告法人における不合理な支援方針に基づき,10回以上も繰り返されてきた押さえつけ行為の延長であり,そもそも正当業務行為として容認される余地がないと主張する。 確かに,前記認定事実によれば,被告法人においては,Xとの間でルールを設定し,これが守られなかった場合には,同人がいやがっても無理やりP作業所に連れて行くことが支援方針となっていたところ,ルールの設定がXに精神的な負担を与えていた可能性がある上,P作業所への移動がXにさらなるストレスを生じさせパニックを誘発し,その結果Xを押さえつけることが常態化していたことが窺われ,そのような支援方針が,Xの障害特性に照らし適切であったかどうかは疑問の余地がある。 しかしながら,被告法人における上記のような支援方針は,Xがグループホームにおいて安定した地域生活を営むことが可能になるように,日常生活のルールを定着させることを目標として行われていたものであり,ルールの内容やXへの説明方法,これが守られなかった場合の対応方法等については,臨床心理士であるGの指導の下で,職員研修等において検討を重ね,試行錯誤を繰り返しながら決定,実践されていたことが認められるのであって,結果的に当該支援方法が必ずしも適切ではなかったと評価されたからといって,被告法人が採用していた上記のような支援方法が,正当な業務行為としての評価を受ける余地のないものということはできない。 そこで,本件押さえつけ行為の違法性の有無を判断するに当たっては,本件押さえつけ行為自体について,これが緊急やむを得ない場合の身体拘束として許容されるものであるかどうかを,前記要件に照らして検討すべきである。 - 43 -イ(ア) 前記認定事実によれば,Xは,平成21年11月7日から心理的に不安定な を得ない場合の身体拘束として許容されるものであるかどうかを,前記要件に照らして検討すべきである。 - 43 -イ(ア) 前記認定事実によれば,Xは,平成21年11月7日から心理的に不安定な状態が続いており,同月8日の午前中も,P作業所において暴れて被告法人の職員に押さえつけられていたこと,その後,いったんは落ち着きを見せたものの,テレビ番組を見るために自立ホームOに帰りたいと要求し,これを認めない被告Cとの間で押し問答となって興奮が高まっていたこと,被告Cが被告Bを呼びながら軽作業室を出たところ,Xは,「Bさんを呼ばないで下さい。」と懇願しながら被告Cを追いかけるようにして軽作業室から出て行き,2階から降りてきた被告Bを見て興奮が増したこと,Xは両手を振り回し,「帰りたいんですよ。」と言いながら小走りで玄関の方へ向かおうとしたことなどが認められる。 加えて,Xは,不穏な状態になったり,パニックに陥った場合には,人に噛みついたり,物を投げたりするなどの行動をとることがある上に,被告法人においても,過去に興奮して自立ホームOの外へ飛び出し,商店街の花壇を壊すなどの行為に及んだり,Xが自立ホームOの外へ飛び出そうとするのを止めようとした職員ともみ合いになり,入口の扉が壊れるということがあったことなどに照らすと,被告行為者らが軽作業室から飛び出したXを制止した時点で,興奮したXが,P作業所の外へ飛び出したり,それを止めようとする被告行為者らともみ合いになるなどして,X又は職員らの生命又は身体に危険が生じる可能性が高かったものと認められる。 (イ) この点,原告は,被告DがXに抱きついたとき,Xは玄関扉まで8メートルから9メートル離れた位置におり,そこから玄関扉を出て外へ行こうとしても,その間には,被告B及び被 認められる。 (イ) この点,原告は,被告DがXに抱きついたとき,Xは玄関扉まで8メートルから9メートル離れた位置におり,そこから玄関扉を出て外へ行こうとしても,その間には,被告B及び被告Cがいたのであるから,時間的にも物理的にもXが外に飛び出して出ていくことは容易ではなく,身体拘束が必要な程度までXの生命又は身体が危険にさらされる可能性が高いということはできないのであるから,切迫性の要件を満たし- 44 -ていない旨主張する。 しかし,Xは,力が強く,過去にも手加減なく職員等に噛みつき怪我をさせることがあったこと,上述のとおり,自立ホームOの外へ飛び出そうとしてとして職員ともみ合いになり入口の扉を壊したことがあったことなどに照らすと,興奮状態のXを止めることは容易なことではなく,被告B及び被告CがXと玄関の間にいたからといって,X又は職員らの生命又は身体に対する危険性が高くないということはできない。 (ウ) したがって,被告行為者らがXの身体拘束を始めた時点において,切迫性は認められると解するのが相当であり,原告の上記主張は採用できない。 ウ(ア) 被告らは,本件押さえつけ行為は必要最小限に留まっており,適切な態様であったと主張する。 (イ) 前述のとおり,Xには,パニックになったり,興奮した際には,人に噛みついたり,物を投げるなどの行動や,興奮して自立ホームOから外に飛び出すなどの行動が見られたこと,Xは,1階に降りてきた被告Bと対面したことにより,興奮が高まり,「帰りたいんですよ。」などと言いながら,小走りで玄関に向かっていったことなどからすれば,興奮したXがP作業所の外へ出て行かないようにするためには,まず,その行動を制御するほかなく,声かけや落ち着くまで様子を見守るとい などと言いながら,小走りで玄関に向かっていったことなどからすれば,興奮したXがP作業所の外へ出て行かないようにするためには,まず,その行動を制御するほかなく,声かけや落ち着くまで様子を見守るといった方法で対応することは困難であったといえる。 そうすると,本件において,被告行為者らが,複数名で,Xの手足を押さえつける以外に,XがP作業所の外へ飛び出すなどの危険を回避する為に有効な代替手段はなかったといえる。 (ウ) もっとも,前述のとおり,被告行為者らは,Xの左腕を可動できない方向へ反らせたり,Xの首の下に足を入れるなど,Xに対し必要以上の苦痛を生じさせる態様で押さえつけを行っている上,結果的にXの胸- 45 -腹部を圧迫するような状態で押さえつけを行い,Xの死の結果を惹起させたのであるから,本件押さえつけ行為の態様が,当時のXの状態に照らし,Xの生命又は身体の危険を回避するために必要最小限の態様であったということができないことは明らかである。 エ以上によれば,本件押さえつけ行為は,XがP作業所の外へ飛び出し,又は,Xを止めようとする被告行為者らともみ合いになるなどして,X又は第三者の生命又は身体に危険が生じる可能性を回避するための手段であるとはいえるものの,Xの行動を制限するために必要最小限の方法であったとは認められず,身体拘束が緊急やむを得ない場合には該当しないといえる。よって,被告らの上記主張は採用できず,本件押さえつけ行為には違法性が認められる。 5 争点(4) 被告行為者らの故意又は過失の有無(1) 被告行為者らの故意ア原告は,本件押さえつけ行為は,客観的に見てXの生命身体を侵害する危険の高い違法行為であることは明白であり,被告行為者らは,本件押さえつけ行為が職務上 (1) 被告行為者らの故意ア原告は,本件押さえつけ行為は,客観的に見てXの生命身体を侵害する危険の高い違法行為であることは明白であり,被告行為者らは,本件押さえつけ行為が職務上許されない違法行為であることを認識,認容していたはずであるから,被告行為者らには故意の権利侵害が認められる旨主張する。 イしかし,前記認定事実によれば,被告行為者らは,Xの興奮度合いが高まっていると判断をしたため,被告法人の方針に従い,本件押さえつけ行為を開始していること,被告行為者らは,Xの四肢を中心に押さえつけており,本件押さえつけ行為が直ちにXに死亡の危険性を生じさせるような態様の行為であるとまでは認められないことに加え,被告行為者らが,Xの急変に気付いた後,すぐさま,人工呼吸や心臓マッサージなどの救命措置を行い,119番通報をし,Xの死の結果を回避する措置を講じていることなどを併せ考慮すると,被告行為者らにおいてXの死の結果を認識,- 46 -認容していたとはいうことはできない。 ウしたがって,前記原告の主張は採用できず,被告行為者らに,故意の権利侵害は認められない。 (2) 被告行為者らの過失ア被告らは,本件押さえつけ行為の態様やXが急変する直前まで身体に力が入っていたことなどを踏まえると,被告行為者らにおいてXが嘔吐し,窒息して死に至ることを予見できない上に,被告行為者らがXの表情を注視,確認していたとしても,Xの嘔吐とそれに続く嘔吐物の吸引,窒息を回避することはできなかったと主張する。 イ前記認定事実によれば,被告法人では,Xに対する押さえつけの方法について,具体的な制止の時間,押さえつけの方法,危険防止等に関してマニュアルは作成されておらず,職員らに対する具体的な指示や指導もさ 前記認定事実によれば,被告法人では,Xに対する押さえつけの方法について,具体的な制止の時間,押さえつけの方法,危険防止等に関してマニュアルは作成されておらず,職員らに対する具体的な指示や指導もされていなかったため,どのような態様でXを押さえつけるかは専ら各職員の裁量に委ねられていたところ,被告行為者らはXの四肢を中心に押さえつけていたが,常に同じ状態でXを押さえつけていたわけではなく,Xが激しく身体を動かしたために,体勢を崩したり,押さえつけが外れないように押さえつけ直すなどしていたことなどが認められ,Xをうつ伏せにして押さえつけが行われていたことに照らせば,被告行為者らの体勢が,本件押さえつけ行為を継続する中で,Xの胸腹部を圧迫し,同人の生命身体に危険が生じる状態になることも十分に予見できたといえる。 そうすると,被告行為者らには,Xの表情を注視するなどして,相互に,押さえつけの態様が過剰なものになっていないか,Xの胸腹部を圧迫するような危険な体勢になっていないかなどを確認し,Xの死の結果を回避すべき注意義務があったといえる。 ウ被告らは,被告行為者らがXの表情や顔色等を注視し,身体上の異変に留意する役割を担った者を配置するなどしていたとしても,Xの死亡とい- 47 -う結果を回避することはできなかったか,回避は容易ではなかった旨主張するが,当時,被告行為者らの中で,Xの表情等を注視し,全体を見て,各行為者の押さえつけの態様が過剰なものになっていないか確認する者がいれば,Xの胸腹部等が圧迫される状態を是正し,Xが嘔吐することも回避できたと考えられるから,前記被告らの主張は採用できない。 エもっとも,被告Fは,Xが急変した時点での本件押さえつけ行為に関与しておらず,被告FがXの死を回避すべき 嘔吐することも回避できたと考えられるから,前記被告らの主張は採用できない。 エもっとも,被告Fは,Xが急変した時点での本件押さえつけ行為に関与しておらず,被告FがXの死を回避すべき注意義務を負うかは,別途の検討を要する。 (ア) この点,原告は,本件押さえつけ行為は,中断することなく継続的に行われていたものであり,被告Fは,他の被告行為者らによる本件押さえつけ行為を止めようともせず,ただ一時的に休憩を取ったにすぎないため,被告Fは,交代後も不作為ながら共同して本件押さえつけ行為に加担していたということができるのであって,本件押さえつけ行為から離脱したとは認められない旨主張する。 (イ) しかし,本件押さえつけ行為は,興奮したXの自傷他害を回避するために開始されたもので,被告行為者らは,Xの四肢を中心に押さえつけを行い,当初は,被告BがXの表情を見ながら声かけを行っていたことが認められ,被告Fが休憩に入るまでの間に,被告行為者らが,Xの胸腹部を圧迫するような押さえつけをしたことを認めるに足りる証拠もないことに照らすと,被告Fが休憩に入る時点で,本件押さえつけ行為自体が,Xの生命身体に対し危害を及ぼす具体的危険性のある態様で行われていたとは認められない。 加えて,被告法人においては,押さえつけを行う場合,リーダー以上の職員が責任者として全体の状態を見て,押さえつけの態様等について指示を出すこととされていたところ,被告Fは,被告法人が運営する別の自立ホームの世話人であり,当日P作業所に応援に来ていた者にすぎ- 48 -ず,責任者である被告Bの指示に従って行動する立場にあったことをも踏まえると,被告Fにおいて,休憩に入る時点で本件押さえつけ行為を止めさせる義務があったとまでは認められず, 者にすぎ- 48 -ず,責任者である被告Bの指示に従って行動する立場にあったことをも踏まえると,被告Fにおいて,休憩に入る時点で本件押さえつけ行為を止めさせる義務があったとまでは認められず,また,休憩に入った後も本件押さえつけ行為について,Xの死の結果を回避すべき義務を負っていたとはいえない。 オそして,前記認定事実によれば,被告Fを除く被告行為者らは,お互いの押さえつけの態様を確認せず,Xの表情や顔色を確認することもなく本件押さえつけ行為を継続し,その結果,Xの胸腹部を圧迫するような態様で押さえつけを行い,同人を死亡させたのであるから,前記結果を回避する義務に違反しており,被告Fを除く被告行為者らには,過失が認められる。 6 争点(5) 被告Aの故意又は過失の有無(1) 被告Aの故意ア原告は,被告Aが被告行為者のXに対する押さえつけ行為を指示,承認し,被告行為者らと意思を通じ,被告行為者らを介して,Xの生命身体への危険性を認識,認容して本件押さえつけ行為に加担したといえるのであり,被告行為者らと共同して不法行為に基づく損害賠償責任を負う旨主張する。 イしかし,前記認定事実のとおり,被告Aは,被告法人の理事長として,Xに対する被告法人の支援方針について,職員らとともに検討を重ね,Xを制止する方法として,うつ伏せにすること,4人以上の職員で関わること,手足を押さえること,リーダー以上の職員が1人責任者として応援に入り,全体の押さえつけの態様について指示をすることなどを指導し,Xの生命又は身体に対する配慮をしていたこと,本件押さえつけ行為自体も,直ちにXに死亡の危険性を生じさせるような態様の行為であるとまでは認められないこと等に照らせば,被告Aにおいて,Xの死の結果を認識,認- 49 -容 慮をしていたこと,本件押さえつけ行為自体も,直ちにXに死亡の危険性を生じさせるような態様の行為であるとまでは認められないこと等に照らせば,被告Aにおいて,Xの死の結果を認識,認- 49 -容していたと認めることはできず,前記原告の主張は採用できない。よって,被告Aに,故意の権利侵害は認められない。 (2) 被告Aの過失ア被告らは,被告Aは,Xに対する適切な支援体制と方法の構築を主導し,Xに対する押さえつけについても,従前から職員らに対し,安全を確保する指導を十分に行っていたものであり,本件押さえつけ行為によりXが死亡したことについて,被告Aに過失は認められないと主張する。 イ前記認定事実によれば,被告Aは,Xがパニックになった場合には,うつ伏せに寝かせた上,4,5人で押さえつける方法によって同人の行動を制止することを認識していたのであるから,被告法人の理事長であり,被告法人職員らを指導,監督すべき立場にあった被告Aには,被告法人職員らに対し,Xの生命身体に危害が及ばないような押さえ方を指導したり,Xに何らかの異常が生じた場合にこれをいち早く察知し,素早い対応が取れるようにマニュアルを整備するなどして,押さえつけの安全性を確保すべき義務があったというべきである。 しかしながら,被告Aは,Xを制止する場合に,手足を押さえることや4人以上で押さえつけることなどを指導していたものの,具体的な押さえ方の指示や指導を行ったことはなく,制止の方法や危険防止等に関してのマニュアルも作成することなく,どのような態様でXを押さえつけるかは専ら各職員の裁量に委ねていたというのであるから,上記の注意義務を怠っていたといわざるを得ず,その結果,被告行為者らにおいて,Xの表情等に十分な注意を払うことなく,その胸腹部を圧 を押さえつけるかは専ら各職員の裁量に委ねていたというのであるから,上記の注意義務を怠っていたといわざるを得ず,その結果,被告行為者らにおいて,Xの表情等に十分な注意を払うことなく,その胸腹部を圧迫するような危険な態様による押さえつけを継続し,同人を死亡するに至らしめたというべきである。 ウ以上より,被告らの前記主張は採用できず,被告Aには,過失の権利侵害が認められる。 - 50 - 7 争点(6) 被告法人の責任原因前記4及び5のとおり,被告法人従業員である被告B,被告C,被告D及び被告Eについて不法行為責任が認められ,同被告らの本件押さえつけ行為は,被告法人の事業執行に関連して行われたものと認められる。 そうすると,被告法人は,原告に対し使用者責任を負うと認めるのが相当である。 8 争点(7) 損害(1) Xの損害ア葬儀費用証拠(甲7の1~5)及び弁論の全趣旨によれば,Xの葬儀関連費用として,合計102万0402円を要したことが認められる。 イ年金の逸失利益前記認定事実及び証拠(甲8)によれば,Xは,本件事件当時,国民年金の障害基礎年金として2ヶ月に1回偶数月に13万2016円の年金を受領していたこと,Xは死亡時22歳であったことが認められる。平成21年簡易生命表によれば,22歳の男性の平均余命は58.10年であり,Xが独身の成人男性であることからすれば,生活費控除率を50%とするのが相当である。 そうすると,Xの年金の逸失利益は,58年に対応するライプニッツ係数18.8195を用いて計算すると,745万3425円(79万2096×(1-0.5)×18.8195=745万3425.336)であると認められる。 ウ労働能 に対応するライプニッツ係数18.8195を用いて計算すると,745万3425円(79万2096×(1-0.5)×18.8195=745万3425.336)であると認められる。 ウ労働能力喪失による逸失利益前記認定事実によれば,Xは,死亡時まで就業経験がなく,被告法人に入所後は,被告法人の職員らによる支援を受けて軽作業に従事することもあったものの,就業の意欲には乏しく,軽作業に従事していた時間は多く- 51 -なかったことが認められる。そうすると,Xが,将来において就業し収入を得ることができた蓋然性を認めることは困難であるから,労働能力喪失による逸失利益を認めることはできない。 エ Xの慰謝料(ア) Xは,Xを支援する側である被告行為者らによって,押さえつけられ,胸腹部圧迫により嘔吐し,嘔吐物を吸引して窒息したものであって,意識を回復しないまま,22歳という若さで死に至ったものであり,被告行為者らの過失,死亡に至る経緯,Xの年齢等を考慮すると,その精神的,身体的苦痛に対する慰謝料は2000万円とするのが相当である。 (イ) 原告は,本件押さえつけ行為は,刑罰法規や取締法規に違反するような危険な態様であり,被告らが一方的に設定した約束事に従わなかった罰則ないしペナルティとしてP作業所に連行して押さえつけるという不適切な対応の延長であり,違法性が強く,慰謝料を増額すべき事由があるため,慰謝料は3000万円が相当である旨主張する。 確かに,Xに対するルールの設定が,Xに精神的な負担を与え,それ自体が不穏を生じさせるきっかけとなり,P作業所への移動などを繰り返す中で,Xがさらに不安を募らせるという悪循環を招いた可能性があることは前記のとおりであるが,被告法人では,強度の行動障 与え,それ自体が不穏を生じさせるきっかけとなり,P作業所への移動などを繰り返す中で,Xがさらに不安を募らせるという悪循環を招いた可能性があることは前記のとおりであるが,被告法人では,強度の行動障害を有するXの支援について,専門家であるGの助言を受けながら検討を重ねてその方針等を定め,実践していたものであり,上記のような支援方針自体が,強度の違法性を有するとまでは認められない。 (ウ) 以上より,Xの慰謝料は2000万円が相当である。 オ原告の相続分以上より,Xの損害額合計は2847万3827円であり,原告は法定相続分である2分の1の割合で相続したため,原告は,被告Fを除く被告行為者ら,被告A及び被告法人に対し,1423万6913円の損害賠償- 52 -請求権を有する。 (2) 原告固有の損害ア交通費弁論の全趣旨によれば,原告は,Xの死の原因を究明するため,Q病院や,自立ホームO,東大阪市役所,大阪地方検察庁等に赴いたことが認められるところ,その交通費として2万6780円を認めるのが相当である。 イ謄写費用証拠(甲9の1~3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件において,Xのカルテや刑事記録の謄写請求に関し,合計4万7305円を支出したことが認められる。 ウ原告固有の慰謝料Xと原告の関係,Xの成育歴,Xの死亡に至る経緯等を踏まえると,原告の精神的苦痛を慰謝するには300万円をもって相当とすべきである。 (3) 小括合計1731万0998円(4) 弁護士費用本件訴訟の難易度,審理に要した期間,認容額等を考慮すると,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は173万円と認めるのが相当である。 計1731万0998円(4) 弁護士費用本件訴訟の難易度,審理に要した期間,認容額等を考慮すると,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は173万円と認めるのが相当である。 (5) 損害合計以上より,損害合計は1904万0998円と認めるのが相当である。 9 結語以上の次第で,原告の請求は,被告B,被告C,被告D,被告E,被告A及び被告法人に対し,連帯して1904万0998円及びこれに対する平成21年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払う限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却すること- 53 -として,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第9民事部 裁判長裁判官谷口安史 裁判官小野寺優子 裁判官多田真央

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